説明

製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法

【課題】高亜鉛の粉粒状鉄系ダストおよびスラッジを還元焙焼処理後、これを塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】平均組成で亜鉛成分を1.0〜10質量%含有する粉粒状の鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理して還元鉄を製造し、得られた粉粒状の還元鉄を冷却した後、ブリケット成型機により塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法である。前記の製造方法において、冷却後の還元鉄を篩処理により分級し、篩下物をブリケット成型機により塊成化するとともに、塊成化後の還元鉄を、上記篩処理の前に循環させて、篩下物を再度ブリケット成型機に供給することが好ましい。また、還元焙焼処理の装置としてロータリーキルンを用い、ブリケット成型機としてダブルロール圧縮成型機を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一貫製鉄所において発生する亜鉛成分含有率の高い鉄系ダストおよびスラッジから製鋼用の還元鉄塊成鉱を製造する方法に関し、さらに詳しくは、亜鉛成分含有率の高い粉粒状の鉄系ダストおよびスラッジに炭材を配合後、還元焙焼して還元鉄を製造し、これを塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一貫製鉄所では、各製造工程において粉粒状の鉄分を含有する種々のダストおよびスラッジ(以下、「ダスト類」と称する)が副生する。資源の有効活用のため、ダスト類は、高炉用原料を製造する焼結プロセスの原料として利用されている。しかし、亜鉛(Zn)成分が0.1質量%以上のダスト類を焼結原料として用いると、成品となる焼結鉱にも亜鉛成分が含有され、高炉内での炉壁付着物の形成や炉壁耐火物の損傷など、高炉操業に悪影響が発生する。
【0003】
そこで、高炉操業における問題の発生を回避するために、亜鉛成分を含有するダスト類については、例えば、非特許文献1に開示されるように、還元焙焼による脱亜鉛処理が施されている。還元焙焼処理は、ダスト類と炭材とを1000℃以上の高温炉に装入し、炉の一方の端から炉内に空気を送風して炭材を燃焼させるとともに、炉の他方の端から燃焼排ガスとZnOを含有する極微粉を排出する方法により実施される。焙焼処理には、非特許文献1に開示されたとおり、円筒ドラム状の炉体が回転するロータリーキルンを用いる方法が、一般的であるが、円板状の炉床が水平面内で回転するロータリーハース炉なども用いられている。
【0004】
ダスト類の処理方法について、代表的なロータリーキルンを用いる場合を例として、下記に説明する。
【0005】
図1は、従来のダスト類の処理方法のプロセスフローを示す図である。同図に示されるように、粉粒状のダスト類1と炭材であるコークスまたは無煙炭2は、ベルトコンベヤー3により搬送され、混合機4により混合される。そして、混合された原料は、回転運動を行うロータリーキルン5の一方の端6から炉内に装入される。一方、炉の他方の端7からはキルン内供給ガス(主として空気)15が供給され、炉内原料から発生するCOガスを燃焼させて、炉内温度を上昇させる。
【0006】
このロータリーキルンにおいては、原料30は、わずかに傾斜勾配を有する回転円筒炉内で転動運動を行いながら、炉の一方の端6から他方の端7まで移動し、他方の端7から還元鉄31として排出される。一方、キルン炉内ガス151は、他方の端7から一方の端6に向かって、原料とは逆方向に流れ、一方の端6からキルン排ガス16として排出される。ここで、明示されていないが、他方の端7からは、キルン内供給ガス15として空気のみでなく、熱的補償などのために、例えば、コークス炉ガスなどの若干の燃料ガスが適宜供給されることもある。この間、ロータリーキルン炉内は、炭材の燃焼により発生するCO、CO2などにより還元雰囲気に保たれ、炉内温度は最高1250℃程度に達している。
【0007】
このような高温かつ還元雰囲気下においては、亜鉛成分はZnO(固相)としてよりも、Zn(気相)の方が熱力学的に安定となるので、ダスト類中の亜鉛の揮発による脱亜鉛処理が可能となる。また、Fe成分は、Fe23(固相)、Fe34(固相)、FeO(固相)としてよりも、Fe(固相)の方が安定となるので、原料は、酸化鉄から金属鉄を含有する還元鉄へと還元される。すなわち、ロータリーキルン炉内では還元焙焼処理が進行し、ダスト類から亜鉛成分が揮発除去されるとともに、金属鉄を40質量%以上含有する還元鉄が製造される。上記のようにして製造された還元鉄は、冷却装置8により冷却された後、振動篩装置9により分級され、篩上産物10は、他の高炉用装入物である焼結鉱13とともに高炉14に装入される。一方、篩下産物11は、他の鉄鉱石原料とともに焼結機12に送られ、焼結原料として活用される。
【0008】
しかし、金属鉄を多く含有する還元鉄を、金属鉄を製造するための還元および溶融を目的とする高炉や、高炉に装入使用するための原料塊成化を目的とする焼結機の原料として使用することは、その処理に要する熱エネルギーの面で極めて無駄が多い。上記のプロセスに対して、金属鉄を含有する還元鉄を、金属鉄から鋼を製造する製鋼炉、すなわち転炉または電気炉の原料として使用するプロセスが可能となれば、熱エネルギーの面で多大なメリットが期待できる。本出願人は、特許文献1において、鉄分を含有するダストを炭素含有物質とともに加熱還元して得られた還元鉄を溶銑脱燐炉に装入することにより溶銑中に溶鉄として回収する製鋼方法を提案した。
【0009】
このように還元鉄を製鋼工程において利用するには、製鋼炉、特に転炉または電気炉において好ましくない原料中の水分、粉、亜鉛成分などを十分に除去しておくことが極めて重要であり、それを実現する効率的なシステムの構築が必要である。
【0010】
製鋼炉の操業においては、亜鉛成分は全量が気体の亜鉛として揮発散逸するので、製鋼用原料として用いる還元鉄の亜鉛成分は1.0質量%以下に制限される。
【0011】
一方、前記の特許文献1において例示したように、従来のダスト類の還元焙焼処理においては、成品として得られる還元鉄を塊状化するために、原料ダスト類の段階において皿型造粒機により球状のグリーンボールとするか、または圧縮成型装置によりブリケット化され、その後還元焙焼処理が行われてきた。しかし、この方法を、亜鉛成分含有率の高いダスト類(以下、「高亜鉛ダスト類」とも記す)を原料として脱亜鉛を行うプロセスに適用すると、還元焙焼処理の前段階において塊成化されていることから、還元焙焼炉内において還元ガスと固体との接触が不十分となる。還元ガスと固体との接触が不十分であっても、金属鉄の生成の面では障害とはならないが、亜鉛の還元揮発による脱亜鉛の能率が低下し、還元鉄中の亜鉛成分含有率が高くなるという問題が発生する。
【0012】
このため、亜鉛が還元揮発処理された還元鉄の塊成化が必要な場合には、還元焙焼処理の前段階では塊成化せずに、還元鉄とした後に塊成化処理を行う方法が好ましい。すなわち、粉粒状のダスト類を粉粒状のままで還元焙焼して還元鉄を生成させ、その後、得られた粉粒状の還元鉄を塊成化処理することが効果的である。
【0013】
一般に、粉粒状還元鉄の塊成化処理としては、ダブルロール型圧縮成型機を用いた熱間ブリケット化が採用されている。熱間ブリケット化は、成型処理自体に制約は少ないものの、成型設備と冷却設備との組み合わせが必要となり、膨大な設備設置スペースを必要とすることや設備コストも著しく増大するなどの欠点を有する。一方、還元鉄を冷却後に成型するシステムでは、原料に微粉が多すぎると、ブリケットが良好に成型できず、逆に、粗粒が存在すると、ブリケット化自体が不可能になるといった問題がある。
【0014】
特許文献2には、還元鉄を冷却後、破砕面が酸化されないように不活性ガスを吹き込み、非酸化性雰囲気内で破砕および成型を行うことにより、粘結剤を使用することなく、金属融着作用を利用して、非発火性ブリケットを得る方法が開示されている。しかし、ここに開示された技術は、本発明が対象とするよりも粒径の大きい粒状還元鉄(25mm以下)や還元ペレット(16mm以下)のような塊状原料を全量破砕してブリケット化する方法であり、成型時の原料の粒度構成については何ら示されていない。
【0015】
【特許文献1】特開2007−302960号公報(特許請求の範囲および段落[0015]〜[0022])
【特許文献2】特公平1−22321号公報(特許請求の範囲、第1欄10〜20行および第2欄3行〜第3欄1行)
【非特許文献1】東風平玄俊、網永洋一、川口善澄、鎗山昌倫、宮本清治:CAMP−ISIJ、Vol.10(1997)36〜39頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
冷却後の粉粒状還元鉄のブリケット化においては、還元鉄の性状や粒度構成がブリケット成型の可否を決定する重要な要素である。従来の塊成化技術では、亜鉛含有率の高いダスト類から製造した粉粒状還元鉄を塊成化するための適正条件は明確ではなく、製鋼用還元鉄塊成鉱の製造は困難とされてきた。
【0017】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、高亜鉛の粉粒状鉄系ダストおよびスラッジを還元焙焼処理することにより還元鉄を製造し、これを塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上述の課題を解決するために、従来の問題点を踏まえて、高亜鉛の粉粒状鉄系ダスト類を還元焙焼処理することにより還元鉄とした後、塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法について検討し、下記の(a)〜(d)の知見を得て本発明を完成させた。
【0019】
(a)製鋼炉に装入する還元鉄塊成鉱(還元鉄ブリケット)中の亜鉛成分含有率が1.0質量%を超えて高くなると、製鋼炉において操業上の問題が発生することから、還元鉄塊成鉱の原料となるダスト類の平均亜鉛成分含有率は10質量%以下である必要がある。また、平均亜鉛成分含有率が1.0質量%未満の原料については脱亜鉛処理を行う必要がない。
【0020】
(b)ダスト類中亜鉛の脱亜鉛反応は、主として下記(1)式による反応であり、反応促進のためにはCO(気体)とZnO(固体)との十分な接触面積の確保が必要である。
【0021】
ZnO(固体)+CO(気体)→ Zn(気体)+CO2(気体)・・・(1)
上記の理由から、原料が塊成物である場合には、その内部に存在する亜鉛は揮発除去されにくい。したがって、還元焙焼には、CO(気体)との接触面積を大きく確保することのできる粉粒状のダスト類を使用し、得られた還元鉄をブリケット成型機により塊成化する方法が適切である。
【0022】
(c)上記(b)の還元焙焼処理においては、脱亜鉛反応が起こる1000℃以上の炉内位置において塊成化せずに細粒化された状態であればよい。この観点から、炉床上に原料を静置するロータリーハース炉よりも円筒状の炉を回転させて原料を攪拌するロータリーキルンを用いるのが好ましい。
【0023】
(d)ブリケット化された還元鉄塊成鉱は、粉粒状の還元鉄を成型したものであるから、例えば、板状に成型後、破砕処理して塊成鉱とする場合のように、成型後に破砕処理するシステムを採用すると、破砕粉が新たに発生する。したがって、ブリケット化には、ロールの外周面にポケット(穴)を有するダブルロール型のブリケット成型機を使用し、圧縮成型することが好ましい。
【0024】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記の(1)〜(5)に示す製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法にある。
【0025】
(1)平均組成で亜鉛成分を1.0〜10質量%含有する粉粒状の鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理を行って還元鉄を製造し、該粉粒状の還元鉄を冷却した後、ブリケット成型機により塊成化することを特徴とする製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【0026】
(2)前記冷却後の還元鉄を篩処理により分級し、篩下物をブリケット成型機により塊成化することを特徴とする前記(1)に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【0027】
(3)前記ブリケット成型機により塊成化した後の還元鉄を、篩処理の前に循環させて、篩上産物を還元鉄塊成鉱成品とするとともに、篩下物を再度ブリケット成型機に供給することを特徴とする前記(2)に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【0028】
(4)前記還元焙焼処理の装置としてロータリーキルンを用いることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【0029】
(5)前記ブリケット成型機としてダブルロール型圧縮成型機を用いることを特徴とする前記(1)〜(4)に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【0030】
本発明において、「亜鉛成分」とは、ダスト類中に金属または化合物の形態で含有される亜鉛を意味する。
【0031】
「粉粒状」とは、粒径が5mm以下の粉体、粒体またはそれらの混合状態を意味する。
【0032】
「鉄系ダスト」とは、金属鉄、酸化鉄などの鉄分含有率が20質量%以上のダストを意味する。
【0033】
「還元焙焼処理」とは、鉱石、ダストなどの被処理物を融点以下の温度に加熱して、被処理物と還元性ガス、炭素などを相互に作用させて還元反応を起こさせ、被処理物を還元する処理を意味する。
【0034】
「塊成化」とは、粒度調整や品質改善を目的として、粉鉱石、ダストなどを塊状にすることを意味する。
【0035】
また、以下の記述において、亜鉛成分含有率などを表す「質量%」を、単に「%」とも記す。
【発明の効果】
【0036】
本発明の方法によれば、高亜鉛の粉粒状鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理を行って還元鉄を製造し、これを冷却後、ブリケット成型機により塊成化するので、良質の製鋼用還元鉄塊成鉱を製造することができる。したがって、本発明の方法は、転炉および電気炉といった製鋼炉に供給される鉄源原料中の成分として好ましくない亜鉛成分が十分に除去された製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法として、利材および製鋼分野において大きく貢献できる技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の方法は、前記のとおり、平均組成で亜鉛成分を1.0〜10質量%含有する粉粒状の鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理を行って還元鉄を製造し、該粉粒状の還元鉄を冷却した後、ブリケット成型機により塊成化する製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法である。以下に、本発明の方法を前記のように規定した理由および好ましい態様などを含めて、さらに詳細に説明する。
【0038】
1.本発明の基本構成
図2に、本発明に係る製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法のプロセスフローを示す。同図に示されるように、粉粒状のダスト類1と炭材2は、ベルトコンベヤー3により搬送され、混合機4により混合された後、回転運動を行うロータリーキルン5の一方の端6から炉内に装入される。炉の他方の端7からはキルン内供給ガス15が供給され、炉内原料から発生するCOガスを燃焼させて、炉内温度を上昇させる。
【0039】
上記のロータリーキルンにおいては、原料30は、わずかに傾斜勾配を有する回転円筒炉内で転動運動を行いながら、炉の一方の端6から他方の端7まで移動し、他方の端7から還元鉄31として排出される。一方、キルン炉内ガス151は、他方の端7から一方の端6に向かって、原料とは逆方向に流れ、一方の端6からキルン排ガス16として排出される。この間、ロータリーキルン炉内は、炭材の燃焼により発生するCO、CO2などにより還元雰囲気に保たれ、原料の還元焙焼反応が進行する。このようにして製造された還元鉄は、冷却装置8により冷却された後、ブリケット成型機17により圧縮成型されて還元鉄ブリケット19となり、製鋼炉20に装入使用される。
【0040】
製鋼炉20においては、上部が開放された反応容器(反応炉)内で原料を高温状態に加熱し、鉄を溶融状態にして精錬操業が行われる。したがって、炉上部の開口部から多量のダストが揮発および散逸し、この量が過度に多くなると精錬操業を行うことができなくなる。そこで、製鋼原料には、揮発散逸性が低いという特性が求められる。第1に、製鋼炉内は高温状態にあり、使用原料中に存在する粉は、溶鋼中に溶けることなく揮発散逸しやすい。このため、製鋼炉内に粉状の原料を持ち込むことはできない。また、第2に、原料中に水分が存在すると水蒸気爆裂により粉が発生し、上記と同様に、揮発散逸することになる。したがって、原料中の水分は4質量%以下とすることが好ましい。そして第3に、溶鋼が存在する高温状態においては、亜鉛成分は還元揮発し、精錬操業のトラブルを招くことから、原料中の亜鉛成分の炉内への持ち込み量は制限される。
【0041】
2.ダスト類中の亜鉛含有率
本発明の方法は、高純度の鉄鉱石を原料とするのではなく、製鉄所において発生する高亜鉛ダスト類を原料として還元鉄塊成鉱を製造する方法である。したがって、原料中の亜鉛成分含有率の管理は、成品還元鉄の成分を規定する上で、極めて重要である。製鋼炉では、還元鉄ブリケット中の亜鉛成分含有率が1.0質量%を超えて高くなると、精錬操業上の問題が発生することが多い。還元焙焼における脱亜鉛率は、少なくとも90%以上を確保することができるから、還元鉄成品の亜鉛成分含有率を1.0質量%以下にするためには、還元焙焼の原料となるダスト類の平均亜鉛成分含有率は10質量%以下であれば十分である。
【0042】
一方、亜鉛成分含有率が1.0質量%以下の原料については、脱亜鉛処理を行う必要がない。還元焙焼の原料は混合して処理されるので、個々の銘柄の亜鉛成分含有率は特に規定しないが、装入原料の平均組成として、亜鉛成分含有率は1.0〜10質量%の範囲内である必要がある。
【0043】
3.脱亜鉛に適切な原料形態および焙焼炉
還元焙焼処理による脱亜鉛に及ぼす原料形態、つまり粉粒状態または塊成化状態の影響について説明する。本発明の方法は、高純度鉄鉱石を原料として還元鉄を製造する従来の直接製鉄法とは異なり、原料に事前に特別な塊成化処理を施さずに、粉粒状態のまま、還元焙焼処理することが重要である。その理由について下記に説明する。
【0044】
図3は、還元焙焼試験における供給原料の粒子径と脱亜鉛率との関係を示す図である。同図の結果は、実験室的に皿型造粒機を用いて原料をグリーンボール化し、得られたグリーンボールを用いて1200℃において空気流通下で還元焙焼処理を行い、グリーンボール化した原料と粉粒状の原料とで、脱亜鉛率に及ぼす影響の差異を比較調査したものである。グリーンボールへの石炭の配合率は20%とした。
【0045】
同図中の破線は、粉粒状の原料を用いた場合の脱亜鉛率を示し、実線は、グリーンボール化した原料を用いた場合の脱亜鉛率を示す。同図の結果から、粉粒状の原料を使用した場合には、98%の高い脱亜鉛率が得られるのに対して、グリーンボール化した原料を用いた場合には、脱亜鉛率が低く、しかも、グリーンボールの粒子径の増加にともなって脱亜鉛率は低下することが判明した。
【0046】
上記のように、原料のダスト類の形態によってダスト類亜鉛の脱亜鉛率の挙動に差異が生じる理由は、下記のとおりである。すなわち、ダスト類中亜鉛の脱亜鉛反応は、主として下記(1)式により表される。
【0047】
ZnO(固体)+CO(気体)→ Zn(気体)+CO2(気体)・・・(1)
【0048】
上記(1)式の反応を促進させるためには、CO(気体)とZnO(固体)との十分な接触面積の確保、すなわち反応界面積の確保が必要である。したがって、原料のダスト類が塊成物である場合には、反応界面積が少なく、粒子表面に存在する亜鉛成分は容易に還元揮発するものの、粒子内部に存在する亜鉛成分は、揮発除去されにくい。その結果、塊成物の場合には、脱亜鉛率が低下する。ここで、塊成物とは強固に塊成化されたものを意味し、還元焙焼処理過程において崩壊するような擬似的塊成化物を意味するものではない。還元焙焼反応を促進させるためには、1000℃以上の温度で還元焙焼による脱亜鉛反応が生じる場所において、塊成化されずに細粒化された状態にあることが重要である。
【0049】
このような理由から、還元焙焼には、COガスとの接触面積を大きく確保することのできる粉粒状のダスト類を使用し、得られた還元鉄をブリケット成型機により塊成化する方法が適切である。
【0050】
また、上記の観点から、還元焙焼炉としてはロータリーキルンを用いることが好ましい。その理由は、円筒を回転させながら原料のダスト類を攪拌する構造のロータリーキルンの方が、炉床上に原料を静置する構造のロータリーハース炉よりも、原料の擬似粒子化を緩和することができるからである。さらに加えて、原料を攪拌することができることから、ガスと原料粒子との良好な接触状況を確保し、脱亜鉛反応の効率をより一層向上させることができるからである(請求項4に係る発明)。
【0051】
4.還元鉄の冷却
還元焙焼処理された還元鉄は、赤熱状態において粉粒状の形態で排出されるが、空気雰囲気中で冷却されると、還元鉄中のFeがFeOに再酸化される可能性がある。そこで、この再酸化を防止するため、水冷により急速冷却を行うか、間接水冷(装置外部を水により冷却)と直接空冷との組み合わせか、または、窒素ガス雰囲気中で冷却する。
【0052】
製鉄所内で発生する高亜鉛ダスト類は、高純度の鉄鉱石とは相違し、鉄および亜鉛成分以外にもスラグ成分(SiO2、Al23、CaOなど)を含有していることから、赤熱状態の還元鉄を水冷した場合には、水分を多量に含有することとなる。その結果、水冷処理を行った後の還元鉄を篩分級処理すると、還元鉄の粒子表面が乾燥するまでに長時間を要し、この間に含有水分の酸化触媒作用により還元鉄が再酸化されるという問題が発生する。したがって、還元鉄の冷却は、間接水冷(装置外部を水により冷却)と直接空冷との組み合わせか、または窒素ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0053】
5.還元鉄の塊成化および篩処理
このようにして冷却された粉粒状の還元鉄は、ブリケット成型法により塊成化される。粉粒状の材料を圧縮成型する場合に、通常は粘結剤が添加されることが多いが、金属鉄は延性が高く、金属鉄含有率(質量%)/全鉄分含有率(質量%)×100(%)により表される金属化率が40%以上であれば、ブリケット化は可能である。しかし、ブリケット化された還元鉄塊成鉱は、粉粒状の還元鉄を成型したものであるから、例えば、板状に成型後、破砕処理して塊成鉱とする場合のように、板状の成型物を破砕処理するシステムを採用すると、破砕粉が新たに発生する。このような理由から、ブリケット成型には、成型ロールの外周面にポケット(穴)を有するダブルロール型のブリケット成型機を使用し、圧縮成型することが好ましい(請求項5に係る発明)。
【0054】
ダブルロール型ブリケット成型機によりブリケットを製造する場合には、ダブルロールの圧縮接点となる部位に、原料をいかに良好に供給できるかが、成型性の可否を決定する。粉粒状の原料は、重力の作用により連続流体のように供給されるが、粒子径が5mm以上の粗粒が存在する場合や、粒子径が1mm以下の粉のみから構成される場合には、粉粒状の原料が連続流体のように円滑に流動しなくなり、安定してブリケットを製造することができなくなる。
【0055】
本発明の方法による還元焙焼処理後の還元鉄には、粒径が1mm以下の粒子が24質量%程度存在しており、粒径が5mm以上の粗粒も31質量%程度存在する。粒径が5mm以上の粗粒が存在するとブリケット成型に悪影響を及ぼすので、このような粗粒は、事前に篩処理により除去しておくことが好ましい。
【0056】
図4は、本発明に係る製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法において、塊成化処理を行う前に還元鉄の篩処理を行うプロセスフローを示す図である。
【0057】
冷却装置8により冷却された還元鉄31は、振動篩装置9により篩処理(分級処理)を受け、篩下物はブリケット成型機17により圧縮成型されて塊成化され、成型物18となる。この成型物18は、同図中の符号Aにより示されるルートを経て還元鉄ブリケット19として製鋼炉20に装入される(請求項2に係る発明)。
【0058】
上記のブリケット化された成型物18には、ブリケットとは別にバリ(ブリケット粒子間の繋ぎ破片)などの粉が生成し、混入する。そこで、この粉を除去するため、再度、振動篩装置にて分級し、篩下物の還元鉄粉と篩上物の還元鉄ブリケット(還元鉄塊成鉱)19とを分離することが好ましい。この場合、ブリケット成型機17の前および後で、振動篩装置が2基必要となるが、ブリケット成型機17から排出される還元鉄ブリケットとバリなどによる混入粉との混合物を、同図中の符号Bにより示されるルートを経て振動篩装置9の前に循環させることによって、振動篩装置を1基省略することができ、よりコンパクトな塊成化設備とすることができる(請求項3に係る発明)。
【実施例】
【0059】
本発明に係る還元鉄塊成鉱の製造方法の効果を確認するため、下記に示す試験を行い、その結果を評価した。
【0060】
1.実施例1
図2に示す製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法のプロセスフロー、および図4に示すとおりの塊成化処理前に還元鉄の篩処理を行う別のプロセスフローに基づいて、還元鉄塊成鉱の製造試験を行った。
【0061】
1−1.還元鉄の製造試験
表1に、原料としてのダスト類および炭材の性状ならびに配合率を示した。
【0062】
【表1】

【0063】
ダスト類には、亜鉛成分含有率が10質量%を超えるものなど多くの種類のものが含まれ、それらが別個に供給されるが、混合機により混合された後の配合状態では、亜鉛成分含有率は6質量%程度であった。ここで、原料中には多種かつ少量のスラッジ類が存在するが、これらは、一般に詳細には集計されない原料であることから、焼却鉄ダストとして記載している。炭材としては粉コークスを用い、配合状態におけるC成分含有率は18質量%程度であった。
【0064】
上記の原料の配合状態における乾燥処理後の粒度分布を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
配合状態における原料の水分含有率は19質量%程度あり、見掛け上は擬似粒子化しているが、乾燥処理により擬似粒子は簡単に崩壊するので、ほとんどが5mm以下の粒度である。配合後の原料の還元焙焼処理にはロータリーキルンを用いた。表3にロータリーキルンの主な設備仕様と操業条件を示す。
【0067】
【表3】

【0068】
同表において、燃料バーナー(図2には図示せず)のガス使用量とは、ロータリーキルン炉内の熱的補償量を制御するために、ロータリーキルンの空気投入口(他方の端)7から、燃料ガスとして供給したコークス炉ガスの供給量を示す。原料供給量は25dry−t/h、また、排出される還元鉄量は17.5dry−t/hであり、原料中の鉄酸化物としての酸素、C成分、亜鉛成分など30質量%程度が除去されている。還元焙焼の成績は、脱亜鉛率が98.8質量%であり、還元鉄の金属化率は73.6質量%であった。
【0069】
表4に、ロータリーキルンから排出された還元鉄の成分組成を示す。
【0070】
【表4】

【0071】
還元鉄中の亜鉛成分は0.1質量%であり、前記の高い金属化率も考慮すると、製鋼原料として十分に満足できる成分組成のものが得られている。
【0072】
1−2.還元鉄の塊成化試験
次に、ロータリーキルンにより還元焙焼された還元鉄を採取して冷却後、ダブルロール型ブリケット成型機を用いて還元鉄ブリケットを製造する試験を行い、得られた還元鉄塊成物の収率と還元鉄塊成物の強度を比較評価した。
【0073】
図5に、使用したダブルロール型ブリケット成型機を模式的に示す。ダブルロール型ブリケット成型機は、2つの円筒型の成型ロール171が水平に隣接して配設された構造を有する。成型ロール171のうち、同図中の左側の成型ロールは時計方向に、また、右側の成型ロールは反時計方向に回転し、双方のロール外周表面にはポケット172と称する穴が多数存在する。このポケット172は、双方のロール間において周面上で同期するように配置されている。双方の成型ロール171が隣接する部位の上方には原料供給ホッパーが設置されており、そのホッパーからブリケット原料である還元鉄31が供給される。還元鉄31は、成型ロール171の隣接部位において、成型ロールの回転により、上方から下方へと噛み込まれて、ポケット172内で圧縮成型され、成型ロール171の隣接部位から下方に向かって、還元鉄成型物18として送り出される。
【0074】
上記成型機の双方の成型ロール171の外周面は、厳密には接触しておらず、2mm程度の間隙が存在する。原料の還元鉄は、この間隙とポケット172とに入り込み、双方の成型ロール171から圧縮力を受け、ポケットと間隙とを合わせた形状のブリケットが製造される。表5に、ダブルロール型ブリケット成型試験機の仕様および試験条件をまとめて示した。
【0075】
【表5】

【0076】
試験においては、原料である還元鉄の供給量、ロール間隙距離およびロール回転数を変更した。図6に、ダブルロール型ブリケット成型機によるブリケット成型試験におけるロール圧縮圧力に及ぼすロール間隙距離およびロール回転数の影響を示す。同図の関係は、還元鉄の供給量が0.6〜1.4t/hの場合の試験結果である。ここで、ロール圧縮圧力としては、ロールによる圧縮力をロール幅により除した数値を採用した。
【0077】
各操作量は相互に密接に関連しており、ロール回転数が増加するとともに、また、ロール間隙が増大するとともに、ロール圧縮圧力は低下する傾向が認められる。ダスト類を原料として還元鉄ブリケットを製造する場合は、1.96×106〜5.88×106N/m(2〜6tf/cm)程度の圧縮圧力で成型することにより還元鉄ブリケットを製造できることが判明した。表6に、ロール回転数が7rpm、ロール間隙距離が2.6mmの条件における塊成化試験の結果を示す。
【0078】
【表6】

【0079】
同表において、塊成物収率は、還元鉄をブリケット成型したものを5mmの篩により分級処理し、下記(2)式により求めた。
【0080】
塊成物収率=(篩上産物量(kg)/篩への供給量(kg))×100(%)・・・(2)
【0081】
同表の上段に示されたとおり、還元鉄の塊成物収率は、80質量%を超える高い収率を有することが確認された。
【0082】
さらに、還元鉄をブリケット成型したものを5mm篩により篩分級処理し、篩上産物について搬送強度を調査した。還元鉄塊成物の搬送強度としては、高炉用原料である鉄鉱石類の評価に用いられているJIS M8711(2000年)に規定された落下強度試験方法に準拠した試験を行い、粒径5mm以上の粒子の質量割合を表す指数(+5mm%)を用いた。表6に、落下強度指数も併せて示す。落下強度指数は、70%に近い数値を示しており、十分に高い強度を有することが確認できた。
【0083】
2.実施例2
さらに、水冷した後の還元鉄の5mm篩下物(水冷後に乾燥)と還元鉄ブリケット(成型物)18の5mm篩下物とが混合された場合の成型試験を実施した。この試験は、前記の図4において、還元鉄ブリケット(成型物)18を符号Bにより示されるルートを経て振動篩装置9の前にリターンさせるプロセスにおける成型性の評価を行う試験である。
【0084】
試験は、前記の表2に記載された還元鉄の5mm篩下物80質量%と、ブリケット成型試験により得られた還元鉄ブリケットを5mm篩により分級した篩下物20質量%との混合物を使用して行った。この試験結果を表6の下段に併せ示した。塊成物収率および落下強度ともに、還元鉄ブリケットの5mm篩下物を混合することによって、向上する傾向が確認された。これは、還元鉄ブリケットの篩下物には粒子径が1mm以下の粉が少ないことによると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の方法によれば、高亜鉛の粉粒状鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理して還元鉄を製造し、これを冷却後、ブリケット成型機により塊成化するので、良質の製鋼用還元鉄塊成鉱を製造することができる。したがって、本発明の方法は、転炉、電気炉などの製鋼炉に供給される鉄源原料中の成分として好ましくない亜鉛成分が十分に除去された製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法として、利材および製鋼の両分野において広範に適用できる実用的価値の高い技術である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】従来のダスト類の処理方法のプロセスフローを示す図である。
【図2】本発明に係る製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法のプロセスフローを示す図である。
【図3】還元焙焼試験における供給原料粒子径と脱亜鉛率との関係を示す図である。
【図4】本発明に係る製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法の別のプロセスフローを示す図である。
【図5】ダブルロール型ブリケット成型機を模式的に示す図である。
【図6】ダブルロール型ブリケット成型機によるブリケット成型におけるロール圧縮圧力に及ぼすロール間隙距離およびロール回転数の影響を示す図である。
【符号の説明】
【0087】
1:ダスト類、 2:コークスまたは無煙炭(炭材)、 3:ベルトコンベヤー、
4:混合機、 5:ロータリーキルン、 6:ロータリーキルンの一方の端、
7:ロータリーキルンの他方の端、 8:冷却装置、 9:振動篩装置、
10:篩上産物(篩上還元鉄)、 11:篩下物(篩下還元鉄)、 12:焼結機、
13:焼結鉱、 14:高炉、 15:キルン内供給ガス、 151:キルン炉内ガス、 16:キルン排ガス、 17:ブリケット成型機、 171:成型ロール、
172:ポケット(穴)、 18:成型物、19:還元鉄ブリケット(還元鉄塊成鉱)、 20:製鋼炉、 30:原料、 31:還元鉄

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成で亜鉛成分を1.0〜10質量%含有する粉粒状の鉄系ダストおよびスラッジに炭材を混合後、還元焙焼処理を行って還元鉄を製造し、該粉粒状の還元鉄を冷却した後、ブリケット成型機により塊成化することを特徴とする製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【請求項2】
前記冷却後の還元鉄を篩処理により分級し、篩下物をブリケット成型機により塊成化することを特徴とする請求項1に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【請求項3】
前記ブリケット成型機により塊成化した後の還元鉄を、篩処理の前に循環させて、篩上産物を還元鉄塊成鉱成品とするとともに、篩下物を再度ブリケット成型機に供給することを特徴とする請求項2に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【請求項4】
前記還元焙焼処理の装置としてロータリーキルンを用いることを特徴とする請求項1〜3に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。
【請求項5】
前記ブリケット成型機としてダブルロール型圧縮成型機を用いることを特徴とする請求項1〜4に記載の製鋼用還元鉄塊成鉱の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−7163(P2010−7163A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170937(P2008−170937)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(591059825)鹿島選鉱株式会社 (8)
【Fターム(参考)】