説明

製麺用粉及び製麺方法

【課題】小麦粉を一切使用せず、米粉を基材としながら腰の強い細長で美味な麺を得ることのできる製麺用粉及び製麺方法の提供。
【解決手段】米粉とアルギン酸エステルからなる製麺用粉であって、アルギン酸エステルが米粉に対して0.1〜5重量%混合される。特に、米粉としては、粳種に属する玄米粉又は同種の精白米粉が用いられる。そして、その製麺用粉に対し、35〜80重量%の水又は湯を加えて混練することにより麺生地とし、その麺生地を麺線状に成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰が強く細長で美味な麺類を得るための技術に係わり、特に米粉を基材とする製麺用粉と、これを用いた製麺方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米はイネ科・イネ亜科・イネ属に属する一年生草本の穀類であり、形態などによって日本型米とインド型米に大別される。その多くは玄米を搗精して精白米とし、米飯用として供されている。
【0003】
玄米は穀粒から籾殻を取り去ったもので、その組織は外側から果皮、種皮、糊粉層、でん粉貯蔵層(胚乳)、及び腹部下端にある胚芽からなっており、果皮から糊粉層までは糠層と呼ばれ、搗精により取り除かれる糠層及び胚芽が糠と呼ばれる。糠層は玄米全重量の5〜6%、胚芽は2〜3%で、全体の91〜92%は胚乳である。
【0004】
又、玄米の成分は、固形分中約90%が胚乳に含まれる米でん粉であり、そのほか7〜8%のタンパク質、1.5〜2.5%の脂質、ビタミン、無機質としてリン、カリウム、マグネシウムなどを含む。タンパク質の主体はオリゼニンと称するグルテリンで、そのほかアルブミン、グロブリンを少量含む。ビタミンでは、B群が比較的多く、ビタミンEも含まれる。
【0005】
以上のような成分は、でん粉を除いて糠(糠層及び胚芽)に多く含まれるので、糠を取り除いた精白米では、玄米に比べてでん粉以外の含量は低い。尚、米はでん粉の性質により粳(うるち)種と糯(もち)種に分類されるが、粳米でん粉はアミロースとアミロペクチンから構成され、その比率が約2:8であるのに対し、糯米でん粉はアミロペクチンのみからなる。
【0006】
ここに、米の用途は上記の如く米飯用が大部分であるが、食品工業用として、酒類、味噌、米酢、和菓子、煎餅などの製造にも利用されている。特に、近年では米粒を粉砕した米粉を利用して麺類を製造することも行われている。しかし、米粉の主成分は米でん粉であり、米粉中のタンパク質も上記のようにオリゼニンが主体であるから、その種のタンパク質と米でん粉から構成される米粉に水を加えて捏ねても小麦粉のように弾力性、伸展性、靭性を有する生地を得られず、その生地を圧延したり、エクストルーダから麺線状に押し出したりしたとき、これが小片状に分裂してしまう。要するに、米粉のみを水で捏ねた生地からでは腰の強い細長の麺は作れないので、製麺に米粉を利用する場合には、米粉のみならず、小麦粉と混合物して用いることが一般的である。
【0007】
例えば、小麦粉と発芽玄米粉末との混合粉末に食塩水を加えて混練し、これにより得られる麺生地を用いて製麺するようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−301708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1のように、麺類の製造に小麦粉を主原料として用いるものによれば、小麦タンパク質の主体がグルテニンとグリアジンであり、水を加えて捏ねるとグルテニンとグリアジンが水和し、その両タンパク質が相互作用して三次元網状構造のグルテンを形成し、粘弾性、伸展性に富む強靭な生地が得られるので、その生地を用いて腰の強い麺を容易に製することができる。
【0010】
しかし、特許文献1に開示される麺類(うどん)は、玄米粉を使用するものの主原料は小麦粉であるから、小麦アレルギー疾患者は食することができない。
【0011】
本発明は以上のような事情に鑑みて成されたものであり、その目的は小麦粉を一切使用せず、米粉を基材としながら腰の強い細長で美味な麺を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、米粉とアルギン酸エステルからなる製麺用粉であって、前記アルギン酸エステルが米粉に対して0.1〜5重量%混合されていることを特徴とする製麺用粉を提供するものである。尚、米粉は粳種に属する玄米粉又は同種の精白米粉であることが好ましい。
【0013】
又、本発明は、米粉に対して0.1〜5重量%のアルギン酸エステルが混合されている製麺用粉に対し、35〜80重量%の水又は湯を加えて混練することにより麺生地とし、その麺生地を麺線状に成形することを特徴とする製麺方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る製麺用粉によれば、米粉に対して0.1〜5重量%のアルギン酸エステルを混合していることから、小麦粉を含まず、米粉を基材とする粉でありながら、その加水物を混練して成形、製麺が容易な伸展性に富む粘稠の麺生地を得ることができる。
【0015】
又、米粉として、粳種に属する玄米粉又は同種の精白米粉を用いることにより、麺生地や麺の餅状化を抑制し、食感のよい麺を得ることができる。
【0016】
更に、本発明に係る製麺方法によれば、成形、製麺が容易な伸展性に富む粘稠の麺生地を調製しながら、細長にして切れず食感が良好な腰の強い麺を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る製麺方法のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る製麺用粉及び製麺方法について詳しく説明する。先ず、製麺用粉について言及すると、係る製麺用粉は、米粉とアルギン酸エステルとの混合粉からなる。ここで、一般に単に「米粉」といえば精白米を粉砕した精白米粉を指し、玄米を粉砕した玄米粉とは区別されるが、本発明では精白米粉と玄米粉を総称して米粉という。
【0019】
米粉の主成分は米でん粉であり、その他成分として、タンパク質、脂肪、無機質(ミネラル)、ビタミン類(特にビタミンB)を含んでいるが、それらの多くは米糠に含まれているところ、係る米粉として玄米粉を用いれば栄養価の高い麺類を製することができる。尚、米粉の原料米は、日本型米でもインド型米でもよく、その中間型といわれるジャワ型米でもよい。又、それら原料米を製粉した米粉としては、粳種と糯種のいずれを用いることもできるが、食感上の観点から本発明では粳種が好適に用いられる。したがって、米粉中の米でん粉はアミロースとアミロペクチンから構成され、その含有比率が約2:8となっている。
【0020】
一方、アルギン酸エステルは、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のように、アルギン酸のエステル化によりアルギン酸を構成するカルボキシル基の少なくとも一部分がエステルに変換された構造の化合物であり、これはつなぎとして米粉に少量だけ混ぜ込まれる。
【0021】
尚、アルギン酸は、褐藻類に特有の多糖類で、その細胞壁にカルシウムやマグネシウム塩として存在しているところ、褐藻類を希硫酸などで洗浄した後に炭酸ナトリウム溶液などで抽出することにより得ることができ、これを常法によりエステル化反応させれば、アルギン酸エステルとなる。
【0022】
ここに、本発明で使用するアルギン酸エステルは、1%溶液の粘度が100〜2000mPa・s/25℃であることが好ましいが、そのエステル化度に関しては特に制限はない。但し、米粉に対するアルギン酸エステルの添加量は0.1〜5重量%に制限される。
【0023】
米粉に対するアルギン酸エステルの添加量が0.1重量%未満では、粘弾性を有する麺生地を得ることも、圧延して麺帯とすることもできず、エクストルーダによる押し出しでは麺線状に成形することはできても、得られた麺には腰がなく、茹でると煮溶けして茹湯が白濁し、これを食しても食感に乏しく美味しくない。又、アルギン酸エステルを5重量%以上加えると、粘弾性が増して作業性、成形性が向上するものの、茹で上げたものには麺特有の弾力が無く、ただ単に硬いだけのブツブツとした食感で、でん粉を固めたような麺になり美味しくない。従って、米粉に対するアルギン酸エステルの添加量は0.1〜5重量%、好ましくは1〜3重量%とされる。
【0024】
次に、上記のような製麺用粉を用いて麺類を製造する製麺方法について説明すれば、係る製麺方法は、図1に示すように麺生地を調製する第1工程と、その第1工程により得た麺生地を麺線状に成形する第2工程に大別される。
【0025】
第1工程では、上述の製麺用粉に対して35〜80重量%の水又は湯を加えて混練するのであり、これにより粘弾性、伸展性に富む粘稠の麺生地(ドウ、捏ね生地)が得られる。加水量が35重量%未満では麺生地がまとまり難く成形、製麺が困難となり、製麺できた場合でも茹でると切れ易く、食しても硬くて美味しくない。又、加水量が80重量%を超えると、ペースト(糊状生地)ないしはバッター(流動生地)となり、腰のある麺が得られず、ぐちゃぐちゃした食感で麺としての美味しさを欠くことになる。因みに、機械による混練では、上記製麺用粉に水(10℃以上の常温水)を加えても、湯(50℃以上の熱湯)を加えてもよいが、手打ちの場合は50℃以上の湯を用い、これを上記の製麺用粉に対して60〜80重量%加えることが好ましい。
【0026】
特に、米粉でん粉のα化開始温度が54〜60℃であるところ、製麺用粉には60℃以上の湯を加えることが好ましい。これによれば、製麺用粉の基材である米粉に含まれる米でん粉を部分的にα化し、そのα化度を20〜30%にしてアルギン酸エステルとの相乗作用により、成形、製麺化に最適な粘弾性、伸展性に富む麺生地を得ることができる。
【0027】
一方、第2工程では、第1工程により得た麺生地を麺線状に成形して麺(生麺)とするが、その成形にはエクストルーダを用いて麺生地を麺線状に押し出す方法と、麺生地を圧延して麺線状に切り分ける方法と、エクストルーダから押し出した数条の麺生地を束ねて圧延し、圧延による麺帯を麺線状に切り分ける方法との3方式がある。尚、α化した米でん粉は、水分を含んだ状態の下で放置、徐冷すると、でん粉分子が老化して再びβ化してしまうが、製麺後直ちに冷凍すればβ化を遅延させることができ、急速乾燥して含水率を15%以下に維持すればβ化を抑えることができる。よって、製麺用粉に60℃以上の湯を加えて米でん粉を部分的にα化した場合、得られた麺を市販品として冷凍もしくは急速乾燥することが好ましいが、冷凍や急速乾燥を行わずとも食べる直前に加熱処理することで米でん粉をすぐさまα化することができる。
【実施例1】
【0028】
日本型米うるち種の米粉(精白米粉)100kgに対し、アルギン酸エステル100gを加えて混合した。その混合粉(製麺用粉)に対し、80重量%の湯(約80℃)を加えて混練することにより、粘弾性、伸展性を有する塊状の麺生地(ドウ)を得た。次に、得られた生地をエクストルーダに投入し、そのノズル部から連続的に押し出して麺線状に成形し、これを約30cmに切断して直径約2mmの半生麺とした。その半生麺を茹で上げ、これにトマトベースのソースを絡めてパスタ風にして食したところ、適度の腰があり、食感、味ともに上々であった。因みに、茹で時間は3分としたが、麺は調理中にも煮溶けせず、多少の膨潤が認められた程度で原形を維持した。
【実施例2】
【0029】
日本型米うるち種の米粉(精白米粉)100kgに対し、アルギン酸エステル3kgを加えて混合した。その混合粉(製麺用粉)に対し、60重量%の湯(約60℃)を加えて混練することにより、粘弾性、伸展性を有する塊状の麺生地(ドウ)を得た。次に、得られた生地をエクストルーダに投入し、そのノズル部から連続的に押し出して麺線状に成形し、これを約30cmに切断して直径約2mmの半生麺とした。そして、実施例1と同様にしてパスタ風麺料理を作った。その麺は実施例1と同様の腰を有し、食感、味ともに実施例1と遜色なく上々であった。
【実施例3】
【0030】
日本型米うるち種の米粉(玄米粉)100kgに対し、アルギン酸エステル5kgを加えて混合した。その混合粉(製麺用粉)に対し、40重量%の水(約20℃)を加えて混練することにより、粘弾性、伸展性を有する塊状の麺生地(ドウ)を得た。次に、得られた生地をエクストルーダに投入し、そのノズル部から連続的に押し出して麺線状に成形し、これを約30cmに切断して直径約4mmの生麺とした。この生麺をそのまま茹で上げ、これを別に作成したスープに入れ、ウドン風麺料理にして食したところ、適度の腰があり、食感、味ともに上々であった。因みに、本例においても茹で時間は3分としたが、麺は調理中にも煮溶けせず、多少の膨潤が認められた程度で原形を維持した。
【0031】
以上、本発明について説明したが、係る麺は油で揚げて油揚げ麺としたり、凍結乾燥などの乾燥処理を施して乾麺としたりすることもできる。又、本発明に係る製麺用粉は、米粉とアルギン酸エステルのみならず、コーンスターチその他のでん粉を適量加えてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米粉とアルギン酸エステルからなる製麺用粉であって、前記アルギン酸エステルが米粉に対して0.1〜5重量%混合されていることを特徴とする製麺用粉。
【請求項2】
米粉が粳種に属する玄米粉又は同種の精白米粉であることを特徴とする請求項1記載の製麺用粉。
【請求項3】
米粉に対して0.1〜5重量%のアルギン酸エステルが混合されている製麺用粉に対し、35〜80重量%の水又は湯を加えて混練することにより麺生地とし、その麺生地を麺線状に成形することを特徴とする製麺方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−187548(P2010−187548A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32602(P2009−32602)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(591169766)群馬製粉株式会社 (9)
【Fターム(参考)】