説明

複合フィルムとその製造方法

【課題】ポリアニリン中に窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散された複合フィルムとその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化マグネシウム、酸化鉄(II)及びホウ素を1100〜1700℃に加熱して、酸化ホウ素の蒸気を発生させ、この蒸気とアンモニアガスを反応させて窒化ホウ素ナノチューブを製造する。その後、この窒化ホウ素ナノチューブとエメラルディン形ポリアニリンを有機溶媒中で超音波処理して静置することにより、窒化ホウ素ナノチューブが分散されたポリアニリンフィルムを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニリンフィルム中に窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されてなる複合フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる2種類以上の物質を組み合わせて構成された複合材料は、セラミックス、プラスチック、金属材料などの材料のマトリックス相(連続相とも呼ばれている。)が持つ弱点を補うために、不連続な強化材を分散させて作られた材料である。
ナノチューブを高分子複合材料(ポリマーコンポジット)の強化材に最初に使用した例として、カーボンナノチューブを無溶剤形の液状エポキシ樹脂に添加して硬化させた複合材料が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
ナノチューブをコンポジット化することによって、新規な電気的性質、光学的性質を発現させたり、機械的強度や熱伝導性を向上させたりすることが期待されている(たとえば、非特許文献2参照)。
一方、代表的な導電性ポリマーであるポリアニリンフィルムをマトリックスとし、カーボンナノチューブを強化材としたコンポジットも知られている。このカーボンナノチューブ/ポリアニリンのコンボジットの大部分は、カーボンナノチューブを溶媒に分散させた分散液中でポリアニリンの重合を行ういわゆるin-situ 重合により製造されている(たとえば、非特許文献3〜7参照)。
【0003】
【非特許文献1】P.M.Ajayan他、Science 265 巻、1212頁、1994年
【非特許文献2】P.J.F.Harris、International Materials Reviews 49巻、31頁、2004年
【非特許文献3】R.Sainz 他、Adv.Mater.17巻、278 頁、2005年
【非特許文献4】Murielle Cochet 他、Chem.Commun. 2001年、1450頁
【非特許文献5】H.Zengin他、Adv.Mater.14巻、1480頁、2002年
【非特許文献6】H.J.Choi他、Diam.Relat.Mater. 14巻、766 頁、2005年
【非特許文献7】X.Zhang 他、Appl.Phys.A 80 巻、1813頁、2005年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、カーボンナノチューブと構造が類似している窒化ホウ素ナノチューブを強化材とし、ポリマーをマトリックスとした複合フィルムは、いまだ知られていない。
【0005】
本発明は、上記の現状に鑑み、窒化ホウ素ナノチューブを強化材として、ポリアニリンをマトリックスとする新規な複合フィルムとその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の複合フィルムは、窒化ホウ素ナノチューブを強化材とし、ポリアニリンをマトリックスとして、窒化ホウ素ナノチューブが分散されていることを特徴とする。
上記構成において、窒化ホウ素ナノチューブとポリアニリンとの重量比は、好ましくは、窒化ホウ素ナノチューブ1重量部に対してポリアニリンが0.5〜100重量部の範囲である。上記ポリアニリンは、好ましくは、エメラルディン形である。
この構成によれば、窒化ホウ素ナノチューブを強化材とし、ポリアニリンをマトリックスとし、窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されたポリアニリンフィルムからなる、複合フィルムを提供することができる。
【0007】
本発明の複合フィルムの製造方法は、窒化ホウ素ナノチューブおよびエメラルディン形ポリアニリンを有機溶媒に添加し、超音波処理を施す工程を含むことにより、窒化ホウ素ナノチューブが分散されたポリアニリンフィルムを形成することを特徴とする。
上記構成において、窒化ホウ素ナノチューブは、好ましくは、酸化マグネシウム、酸化鉄(II)およびホウ素を1100〜1700℃に加熱した状態で、アンモニアガスを作用させて得る。
この構成によれば、窒化ホウ素ナノチューブおよびエメラルディン形ポリアニリンを容器内のN,N−ジメチルホルムアミドなどの有機溶媒に分散させて混合液とし、この混合液を超音波処理した後、静置することにより、容器の底に窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されたポリアニリンフィルムが形成される。その際、窒化ホウ素ナノチューブとして純度の高いものを用いることが好ましく、酸化マグネシウム、酸化鉄(II)およびホウ素を1100〜1700℃に加熱して、酸化ホウ素の蒸気を発生させ、ここで発生した蒸気にアンモニアガスを作用させることにより得ることができる。一方、ポリアニリンは有機溶媒に可溶タイプのエメラルディン形を使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、窒化ホウ素ナノチューブを含有した複合フィルムを提供することができる。よって、弾性率、熱伝導性、耐熱性、寸法安定性等の物性の向上が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
先ず、本発明の複合フィルムについて説明する。
本発明の複合フィルムは、窒化ホウ素ナノチューブを強化材としポリアニリンをマトリックスとして構成され、窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されたポリアニリンフィルムからなる。ここで、窒化ホウ素ナノチューブとポリアニリンとの重量比は、窒化ホウ素ナノチューブ1重量部に対し、ポリアニリンは0. 5〜100重量部を含有していることが好ましい。ポリアニリンの重量部が100重量部よりも多い場合には、窒化ホウ素ナノチューブの量が少なすぎて、複合フィルムにおける強化材としての作用が十分に発揮されない。逆に、ポリアニリンの重量部が0. 5重量部よりも少ないと、生成した複合フィルムの強度が脆く、自己支持性に乏しく、実用的な複合フィルムが得られないので好ましくない。
【0010】
次に、この複合フィルムの製造方法について説明する。
複合フィルムは、窒化ホウ素ナノチューブとエメラルディン形ポリアニリンと、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒とからなる混合物を容器に入れ超音波処理を行う。その後、静置することにより、容器の底に窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されたフィルムが形成される。
ここで、窒化ホウ素ナノチューブとして、種々の製法により作製されたものを用いることができるが、酸化マグネシウム、酸化鉄(II)およびホウ素を1100〜1700℃に加熱して酸化ホウ素の蒸気を発生させ、この発生した蒸気にアンモニアガスを作用させて得たものを用いるのが、収量および高純度の点から好ましい。この際、1900℃以上の加熱温度では、収量は増加するが純度は低下するので、好ましくない。
一方、ポリアニリンとして、有機溶媒に可溶な非導電性のエメラルディンタイプを用いるのが好ましい。その際、市販品を使用すれば、わざわざ製造する手間を省くことが出来て都合がよい。
【実施例】
【0011】
次に、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。
先ず、窒化ホウ素ナノチューブを以下の手順に従って製造した。
ホウ素粉末2g、酸化鉄(II)(FeO)粉末1g及び酸化マグネシウム(MgO)粉末1gの混合物を窒化ホウ素製るつぼに入れ、このるつぼを縦型高周波誘導加熱炉の中に配置した。加熱炉中の混合物を1400℃に加熱し、酸化ホウ素の蒸気を生成した。この生成した蒸気に反応させるようにアンモニアガスを流しながら、1400℃に2時間加熱を継続することにより、加熱炉中の反応管の管壁近傍に窒化ホウ素ナノチューブを生成した。
この生成した窒化ホウ素ナノチューブは、直径20〜50nm、チューブ壁の厚さ6〜18nm、長さはおよそ10μmであった。
【0012】
次に、上記のようにして製造した窒化ホウ素ナノチューブ0.2gとエメラルディンベースのポリアニリン(アルドリッチ社製)0.2gとをN,N−ジメチルホルムアミド10cm3 中に添加し、室温で1.5時間超音波処理した。
その後、この混合液を12時間静置することにより、ガラス瓶の底にフィルムが形成された。
【0013】
図1は、実施例で形成した複合フィルムの走査型電子顕微鏡像を示す図である。図1から、実施例で形成した複合フィルムは、窒化ホウ素ナノチューブがポリアニリンのマトリックスに分散されて埋め込まれている複合フィルムであることが分かる。ここで、マトリックスから窒化ホウ素ナノチューブの一部が出現しているが、これは、複合フィルムをシリコンウエハに搭載する際に複合フィルムが損傷したためである。
【0014】
走査型電子顕微鏡の中で、実施例で形成した複合フィルムに電子ビームを照射した。図2は、実施例で形成した複合フィルムに電子ビームを照射した後の生成物の像を示す図である。図2から、電子ビームを照射したことにより、ポリアニリンが分解して消失し、窒化ホウ素ナノチューブが出現したことを確認することができる。複合フィルム中の窒化ホウ素ナノチューブのモルフォロジーは、純粋な窒化ホウ素ナノチューブと同様であった。
【0015】
図3は上記実施例で形成した複合フィルムの高分解能透過型電子顕微鏡像を示す図である。図3から、窒化ホウ素ナノチューブがポリアニリンで覆われていることが分かった。さらに、窒化ホウ素は完全に結晶構造を維持していることが分かった。
【0016】
図4は、上記実施例で形成した複合フィルム(EB/BNNT)、窒化ホウ素ナノチューブ単独(BNNT)およびエメラルディンベースポリアニリン単独(EB)の各X線回折のパターンを示す図である。図の縦軸はX線回折強度(任意目盛)、横軸は角度(°)、すなわちX線の原子面への入射角θの2倍に相当する角度(°)である。
図4から分かるように、窒化ホウ素ナノチューブ単独(BNNT)のX線回折パターンは、2θ=26°、41°、43°及び54°にピークを有する。エメラルディンベースポリアニリン単独(EB)のX線回折パターンは、2θ=19°を中心とするブロードなピークを有する。それに対し、実施例で形成した複合フィルム(EB/BNNT)のX線回折パターンでは、エメラルディンベースポリアニリンおよび窒化ホウ素ナノチューブのそれぞれ単独の材料に由来するピークを有している。エメラルディンベースポリアニリンに関連するピークの半値幅が10°から3°まで減少してシャープとなった。
以上のことから、ポリアニリン中に窒化ホウ素ナノチューブが分散されてなる複合フィルムが形成できていることが裏付けられる。
【0017】
(比較例)
次に比較例を示す。
強化材として窒化ホウ素ナノチューブの代わりにカーボンナノチューブを用い、実施例と同様、カーボンナノチューブとエメラルディンベースのポリアニリンとをN,N−ジメチルホルムアミド中に添加し超音波処理を行った。
その結果、ガラス瓶の底にはフィルムは形成されなかった。
【0018】
ここで、窒化ホウ素ナノチューブの代わりにカーボンナノチューブを用いて、同様な操作を施しても、フィルムは形成されなかったという事実は、注目すべきことである。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、窒化ホウ素ナノチューブが均一に分散されたポリアニリン複合フィルムを提供することが可能となったので、高強度、高弾性率、高熱伝導性等が要求される製品への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例で形成した複合フィルムの走査型電子顕微鏡像を示す図である。
【図2】実施例で形成した複合フィルムに電子ビームを照射した後の生成物の像を示す図である。
【図3】実施例で形成した複合フィルムの高分解能透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図4】実施例で形成した複合フィルム、窒化ホウ素ナノチューブ単独およびエメラルディンベースポリアニリン単独の各X線回折のパターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素ナノチューブを強化材とし、ポリアニリンをマトリックスとして、窒化ホウ素ナノチューブが分散されていることを特徴とする、複合フィルム。
【請求項2】
前記窒化ホウ素ナノチューブと前記ポリアニリンとの重量比が、窒化ホウ素ナノチューブ1重量部に対してポリアニリンが0.5〜100重量部の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項3】
前記ポリアニリンがエメラルディン形であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の複合フィルム。
【請求項4】
窒化ホウ素ナノチューブおよびエメラルディン形ポリアニリンを有機溶媒に添加し、超音波処理を施す工程を含むことにより、窒化ホウ素ナノチューブが分散されたポリアニリンフィルムを形成することを特徴とする、複合フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記窒化ホウ素ナノチューブは、酸化マグネシウム、酸化鉄(II)およびホウ素を1100〜1700℃で加熱した状態で、アンモニアガスを作用させて得ることを特徴とする、請求項4に記載の複合フィルムの製造方法。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−231031(P2007−231031A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50543(P2006−50543)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年11月15日 インターネットアドレス「http://www3.interscience.wiley.com」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】