説明

複合フィルム及び電子部品の製造方法

【課題】ガラス表面のキズや汚染を防ぎ、ガラス面に電子部品を容易にかつ高精度に形成することができる複合フィルム及びそれを用いた電子部品の製造方法を提供する。
【解決手段】複合フィルム100は、ガラスフィルム10と、ガラスフィルムの一方の面に設けられ、該ガラスフィルムを保護する水溶性ポリマー層20と、ガラスフィルムの他方の面に設けられ、該ガラスフィルムを支持する非水溶性ポリマー層30と、を有する。電子部品を形成する際、水溶性ポリマー層を水等で除去して露出したガラス面にTFT等の電子部品を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルム及び電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機電界発光表示装置、液晶表示装置、X線撮像装置等の電子デバイスを製造する場合、支持基板上に電極や機能層等の電子部品を順次形成して製造される。支持基板としては、耐熱性、平坦性、光透過性、絶縁性、ガスバリア性などの観点から、一般的にガラス基板が使用されている。しかし、ガラス基板は耐衝撃性や可撓性が乏しく割れやすい。また、ガラス基板は樹脂フィルムに比べて重いため、装置の軽量化には不利である。
【0003】
一方、樹脂フィルムは、可撓性、軽量化の点でガラス基板よりも有利であるが、ガラス基板に比べて耐熱性が著しく低く、熱や液体による寸法変化が大きいため製造工程が大きく制限される。また、樹脂フィルムは酸素や水分を透過し易いため、樹脂フィルムの表面にガスバリア層としてSiO等の無機絶縁膜を形成しておく必要がある。
【0004】
このようなガラス基板と樹脂フィルムとの利点を生かすべく、厚みの薄いガラスフィルムと樹脂層を積層したガラス/ポリマー複合フィルムが提案されている(例えば特許文献1〜4参照)。このような複合フィルムを製造する方法として、例えば、連続シート状のガラスフィルムの表面に、ポリマーを塗布してUV露光によって硬化させた後、乾燥させ、中間フィルムを挟み込みながらロール状に巻き取る方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
このようなガラス/ポリマー複合フィルムは、可撓性やバリア性を有し、軽量であり、厚みも薄いため、ロール状、スタック状での輸送や保管が可能となり、輸送や保管コストの低減、また、電子部品の製造における基板のハンドリングに関わる機器のエネルギーコストの低減に繋がるという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−534305号公報
【特許文献2】特表2002−521234号公報
【特許文献3】特開平4−235527号公報
【特許文献4】特開2004−172375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ガラス/ポリマー複合フィルムの上に、高い精度が要求される電子部品、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)を、厚いガラス基板上のTFTと同程度の信頼性で製造するためには、TFTが形成されるガラス表面のキズ、汚染を極力防止する必要がある。
ガラス/ポリマー複合フィルムの利点として、ロール状やスタック状にすることできることが挙げられるが、ロール状やスタック状にすると、互いのフィルムの表面が密着するため、キズや汚染が生じ易い。
【0008】
本発明は、ガラス表面のキズや汚染を防ぎ、ガラス面に電子部品を容易にかつ高精度に形成することができる複合フィルム及びそれを用いた電子部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、以下の本発明が提供される。
<1> ガラスフィルムと、
前記ガラスフィルムの一方の面に設けられ、該ガラスフィルムを保護する水溶性ポリマー層と、
前記ガラスフィルムの他方の面に設けられ、該ガラスフィルムを支持する非水溶性ポリマー層と、
を有する複合フィルム。
<2> 前記ガラスフィルムの厚みが、50〜200μmである<1>に記載の複合フィルム。
<3> 前記水溶性ポリマー層が、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、これらのいずれかとシリカとの複合膜から構成されている<1>又は<2>に記載の複合フィルム。
<4> 前記水溶性ポリマー層のアルカリイオン含有量が150ppm以下である<1>〜<3>のいずれかに記載の複合フィルム。
<5> 前記非水溶性ポリマー層の水接触角が70度以上である<1>〜<4>のいずれかに記載の複合フィルム。
<6> 連続した帯状のガラスフィルムを準備する工程と、
前記ガラスフィルムの一方の面に、該ガラスフィルムを保護する水溶性ポリマー層を形成する工程と、
前記ガラスフィルムの他方の面に、該ガラスフィルムを支持する非水溶性ポリマー層を形成する工程と、
前記水溶性ポリマー層及び前記非水溶性ポリマー層が形成された前記帯状のガラスフィルムを切断して複合フィルムを作製する工程と、
前記水溶性ポリマー層を水又は水溶液で溶かして前記複合フィルムから除去する工程と、
前記複合フィルムから前記水溶性ポリマー層を除去して露出した前記ガラスフィルムの表面上に電子部品を形成する工程と、
を有する電子部品の製造方法。
<7> 前記水溶性ポリマー層を、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、これらのいずれかとシリカとの複合膜により形成する<6>に記載の電子部品の製造方法。
<8> 前記複合フィルムを作製する工程と、前記電子部品を形成する工程との間に、
前記水溶性ポリマー層及び前記非水溶性ポリマー層が形成された前記帯状のガラスフィルムを切断して作製した複数の複合フィルムを、前記水溶性ポリマー層と前記非水溶性ポリマー層とが対面するように順次重ねる工程と、
前記重ねた複数の複合フィルムをそれぞれ分離する工程と、
を有する<6>又は<7>に記載の電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガラス表面のキズや汚染を防ぎ、ガラス面に電子部品を容易にかつ高精度に形成することができる複合フィルム及びそれを用いた電子部品の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る複合フィルムの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る複合フィルムの製造方法の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る複合フィルムの積層の仕方の一例を示す概略図である。
【図4】積層した複合フィルムの湾曲を除去する方法の一例を示す概略図である。
【図5】本発明に係る複合フィルムから水溶性ポリマー層を除去した状態を示す概略図である。
【図6】本発明に係る複合フィルムのガラス面に薄膜トランジスタ及び蓄積容量を製造した一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明について具体的に説明する。
【0013】
<複合フィルム>
図1は本発明に係る実施形態の一例を概略的に示している。本実施形態に係る複合フィルム100は、ガラスフィルム10と、ガラスフィルム10の一方の面に設けられ、該ガラスフィルム10を保護する水溶性ポリマー層20と、ガラスフィルム10の他方の面に設けられ、該ガラスフィルム10を支持する非水溶性ポリマー層30と、を有する。このような構成であれば、ガラスフィルム10の両面がポリマー層20,30によってそれぞれ保護されるため、ロール状又はスタック状にして互いに密着してもガラスフィルム10の表面にキズが付いたり、汚染されたりすることを効果的に防ぐことができる。
【0014】
そして、TFTなどの電子部品を製造する際は、複合フィルム100を水等で洗浄することで水溶性ポリマー層20のみを除去することができるため、特に複雑な工程を必要とせずに、露出したガラス面に電子部品を製造することができる。これにより、ガスバリア性、平坦性、耐熱性、可撓性等を有し、キズや汚染の無いガラス面上に、電子部品を高い位置精度で形成することができ、可撓性を有する電子デバイスを製造することができる。
以下、各構成について具体的に説明する。
【0015】
‐ガラスフィルム‐
複合フィルム100を構成するガラスフィルム10は、非水溶性ポリマー層30によって支持されるため、ガラス単体を支持基板とする場合に比べ、厚みが薄いガラスフィルムを採用することができる。
ガラスフィルム10の種類は特に限定されず、石英ガラス、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダライムガラス等を使用することができる。なお、ガラスからの溶出イオンを少なくするため、無アルカリガラスを用いることが好ましい。また、ソーダライムガラスを用いる場合には、シリカなどのバリアコートを施したものを使用することが好ましい。
【0016】
ガラスフィルム10の厚みは、電子部品の製造工程等において破損することを防ぐこと、可撓性を有することなど観点から、50〜200μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。
なお、ガラスフィルム10を製造する方法は特に限定されないが、厚みの薄いガラスフィルムを製造する方法として、例えば、フュージョン法、ダウンロード法等が挙げられ、これらの方法により製造されたガラスフィルムを好適に用いることができる。
【0017】
‐水溶性ポリマー層‐
水溶性ポリマー層20はガラスフィルム10の電子部品を形成する側の面に設けれ、輸送、保管中にガラス面(電子部品を形成する側の面)を保護する。
水溶性ポリマー層20は、好ましくは常温(15℃)から45℃の水によって容易に溶解する樹脂により形成される。水溶性ポリマー層20を構成する材料は、水等の溶媒に溶かした溶液をガラスフィルム10の表面に付与して乾燥させることで固化し、水又はアルカリ性水溶液などの洗浄液に溶解して除去することができる樹脂であれば特に限定されない。
【0018】
水溶性ポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)およびその変成物、ポリアクリル酸アミドおよびその誘導体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、イソブチレン/無水マレイン酸共重合体、ポリビニルピロリドン、エチレン/アクリル酸共重合体、酢酸ビニル/アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウムが挙げられる。これらの水溶性ポリマーは、1種類のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
なお、本発明で用いる水溶性ポリマーは、JIS K5400−1990 8.4に規定される鉛筆引っかき値測定法(手かき法)に従って試験を行い、塗膜表面に鉛筆で引っかいて、5回の試験で塗膜のすり傷が2回以上になる鉛筆の芯濃度から、本発明の塗膜(水溶性ポリマー層)の強度はB以上が好ましい。
成膜性、溶解性などの観点から、特にポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、これらのいずれかとシリカとの複合膜などが好ましい。
【0019】
水溶性ポリマー層20の厚みは、ガラスフィルム10の表面を保護すること、複合フィルム100全体として可撓性を有することなどの観点から、0.1〜10μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。
【0020】
複合フィルム100を支持基板として電子部品を形成する際、水溶性ポリマー層20は常温から45℃の水又は水溶液で溶かして除去されるが、水溶性ポリマー層20に含まれていた成分が水等の洗浄液中に溶解し、露出したガラス面に微量ながら付着する場合がある。例えば、水溶性ポリマー層20に含まれていたアルカリイオンがガラス面に付着して残留すると、ガラス面上にTFTを形成した場合に閾値シフトが生じやすくなるなどの悪影響を及ぼすおそれがある。そのため、水溶性ポリマー層20に含まれるアルカリイオンの含有量はできるだけ少ないことが好ましく、特に150ppm以下であることが好ましい。
【0021】
‐非水溶性ポリマー層‐
非水溶性ポリマー層30はガラスフィルム10の電子部品を形成する反対側の面に設けられ、ガラスフィルム10を支持する。
非水溶性ポリマー層30は、水溶性ポリマー層20を溶解するために使用する水等の洗浄液によって溶解せず、水溶性ポリマー層20を溶解して除去した後、さらに、露出したガラス面に電子部品を形成した後もガラスフィルム10を支持することができる樹脂により形成される。
【0022】
非水溶性ポリマー層30を構成する好ましい材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料が挙げられる。これらの非水溶性ポリマーは、1種類のみを使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
非水溶性ポリマー層30の厚みは、複合フィルム100全体として可撓性を有すること、ガラス面に電子部品を形成した後もガラスフィルム10を支持することなどの観点から、10〜200μmが好ましく、100〜150μmがより好ましい。
なお、非水溶性ポリマー層30は、ガラスフィルム10の片面に直接形成してもよいし、接着層(図示せず)を介してPET、PENなどの非水溶性の樹脂フィルムを貼り合わせてもよい。
【0024】
また、複数の複合フィルム100を保管及び輸送する際、複合フィルムの水溶性ポリマー層20同士が接触するように重ねるよりも、水溶性ポリマー層20と非水溶性ポリマー層30とが接するように重ねることで複合フィルム100同士の接着を防ぐことができる。この場合、複合フィルム間に密着防止用の中間シートを挟む必要がなく、コストダウンできる。特に、非水溶性ポリマー層の水接触角が70度以上となる材料を選択することで複合フィルム100同士の接着を効果的に防ぐことができる。
【0025】
<複合フィルムの製造方法>
次に、本発明に係る複合フィルム100の製造方法について説明する。
図2は本発明に係る複合フィルムの製造方法の一例を概略的に示している。まず、連続した帯状のガラスフィルム10が巻かれたガラスフィルムロール10Aを準備する。
【0026】
‐水溶性ポリマー層の形成‐
このロール10Aからガラスフィルム10を巻き出し、ガラスフィルム10の一方の面(電子部品を製造する側の面)に、ガラスフィルム10を保護する水溶性ポリマー層20を形成する。水溶性ポリマー層20を形成する方法は特に限定されず、スプレーコート法、キャステング法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、インクジェット法、ブレードコート法、スクリーンコート法、印刷法、転写法等を用いることができる。
例えば、図2に示すように、矢印Aの方向に一定の速度で移動するガラスフィルム10の片面全体にインクジェットノズル22によりPVA溶液を付与してPVA塗膜20Aを形成する。続いてヒーターなどの乾燥手段24によって、例えば80〜150℃程度で加熱乾燥させて溶媒を蒸発させることで固化したPVA層20を形成することができる。
【0027】
‐非水溶性ポリマー層の形成‐
PVA層20を形成した後、ガラスフィルム10の反対側の面に非水溶性ポリマー層30を形成する。非水溶性ポリマー層30を形成する方法も特に限定されず、水溶性ポリマー層20の形成方法で挙げた各種方法のほか、接着剤を付与して非水溶性ポリマー層30となるフィルムを連続的に貼り合わせてもよい。
【0028】
例えば、図2に示されるようにPVA層20が形成されたガラスフィルム10を、搬送ローラー40A,40Bを経て表裏を反転させる。矢印Bの方向に移動するガラスフィルム10の水溶性ポリマー層20を形成した面とは反対側の面に、インクジェットノズル32によりアクリル樹脂溶液を付与してアクリル樹脂塗膜30Aを形成する。続いて、ヒーターなどの乾燥手段34によって、例えば220℃程度で加熱乾燥させて溶媒を蒸発させることで固化したアクリル樹脂層30を形成することができる。
【0029】
ガラスフィルム10の各面にPVA層20とアクリル樹脂層30が形成された複合フィルム100はロール状に巻き取られて回収される。このとき、巻き取られた複合フィルムロール50は、内側の複合フィルムのアクリル樹脂層30と、外側の複合フィルムのPVA層20とが接するため、複合フィルム同士が接着することが抑制される。
なお、上記の方法では水溶性ポリマー層20を形成した後、非水溶性ポリマー層30を形成したが、これらのポリマー層を形成する順序はこれに限定されず、非水溶性ポリマー層30を形成した後、水溶性ポリマー層20を形成してもよい。
【0030】
‐切断工程‐
連続した帯状の複合フィルム(ロール50)は、電子部品を製造する前に、カッターなどの切断手段により目的に応じて所定のサイズに切断する。
切断して作製した複合フィルムは順次重ねていけばよいが、この場合も図3に示すように下側となる複合フィルム100Bの水溶性ポリマー層20と、上側となる複合フィルム100Cの非水溶性ポリマー層30とが対面するように順次重ねることで、保管時等に複合フィルム同士が接着することを抑制することができる。
【0031】
このようにスタックされた複合フィルム100A,100B,100Cは、ロール状に巻き取ったものを切断したため、湾曲している場合がある。そのため、電子部品を形成する前に湾曲を除去することが好ましい。例えば、図4に示すように、積層した複合フィルム100A,100B,100Cを加熱プレス機50A,50Bによって加熱プレスすることで湾曲を効率的に除去することができる。複合フィルム100A,100B,100Cは、水溶性ポリマー層20と非水溶性ポリマー層30とが対面して積層されているため、加熱プレスの際も複合フィルム100同士が接着することが効果的に抑制される。
【0032】
<電子部品の製造>
複合フィルム100を支持基板として電子部品を製造する場合、積層されている複合フィルムから1枚ずつ分離し、各複合フィルム100から水溶性ポリマー層20を常温から45℃の水又は水溶液で溶かして除去する。図5に示すように、水(好ましくは純水)等の流水で洗浄することで表面に付着している汚れごと水溶性ポリマー層20を容易に除去することができる。
洗浄により水溶性ポリマー層20が除去して露出したガラス面に、製造すべき最終製品に応じて電子部品を形成する。例えば、以下のような工程により薄膜トランジスタ及び蓄積容量を形成してTFT基板を製造することができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
‐ゲート電極及び蓄積容量の下部電極‐
図6に示すように、複合フィルム100から水溶性ポリマー層20を除去して露出したガラス面に、Mo等からなる導電層をスパッタリング法によって形成した後、フォトリソグラフィ法及びエッチングによってTFTのゲート電極60及び蓄積容量(キャパシタ)の下部電極70をそれぞれパターニングする。
これらの電極60,70を構成する材料としては、Moのほか、例えば、Al、Cr、Ta、Ti、Au、Ag等の金属、Al−Nd、APC等の合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロ−ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0034】
ゲート電極60及び下部電極70の形成方法としては、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から使用する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って成膜した後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によってパターニングを行う。あるいは、リフトオフ法、シャドウマスクを用いた方法等により各電極60,70を形成してもよい。
【0035】
ゲート電極60及び下部電極70の厚さは、その構成材料にもよるが、例えば、ゲート配線の抵抗を下げ、TFTの制御信号の遅延を防ぐ観点から、10nm以上とし、ゲート電極60の上に形成される各層の段差を小さくして破断を防止する観点から、1000nm以下とする。
【0036】
‐絶縁層‐
次いで、TFTのゲート絶縁膜とキャパシタの誘電体層を兼ねた絶縁層62を形成する。
絶縁層62は例えばSiO、SiN、SiON、Al、Y、Ta、HfO等の絶縁体から構成され、それらの化合物を2種以上含む絶縁層としてもよい。また、ポリイミドのような高分子絶縁体を用いてもよい。
【0037】
絶縁層62は、例えば、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から使用する材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って成膜する。必要に応じ、フォトリソグラフィ法、シャドウマスクを用いた方法等によって所定の形状にパターニングすればよい。
【0038】
絶縁層62の厚さは、リーク電流の抑制及び電圧耐性の向上のための厚さを有する必要がある一方、絶縁層62の厚さが大き過ぎると駆動電圧の上昇を招くことになる。絶縁層62の材質にもよるが、成膜に要する時間と電圧耐性の観点から、絶縁層62の厚さは、例えば、無機絶縁体であれば50nm以上1000nm以下とし、高分子絶縁体であれば0.5μm以上5μm以下とする。
【0039】
‐活性層‐
次に、活性層(チャネル層)64を形成する。活性層64は、アモルファスシリコン、多結晶シリコン、酸化物半導体等から選択された材料により構成される。本実施形態に係る支持基板は、ガラスフィルム10と非水溶性ポリマー層30から構成されているため、樹脂フィルムのみからなる支持基板よりも耐熱性に優れるが、アモルファスシリコン、多結晶シリコンの成膜には高温過程を要し、高温に加熱されると非水溶性ポリマー層30が変形するおそれがある。そのため、スパッタリングによって低温成膜が可能な非晶質酸化物半導体により活性層64を形成することが好ましい。
【0040】
具体的には、In、Ga及びZnのうちの少なくとも1つを含む酸化物(例えばIn−O系)が好ましく、In、Ga及びZnのうちの少なくとも2つを含む酸化物(例えばIn−Zn−O系、In−Ga系、Ga−Zn−O系)がより好ましく、In、Ga及びZnを含む酸化物が特に好ましい。In−Ga−Zn−O系非晶質酸化物としては、結晶状態における組成がInGaO(ZnO)(mは6未満の自然数)で表される非晶質酸化物が好ましく、特に、InGaZnOがより好ましい。この組成の非晶質酸化物半導体は、電気伝導度が増加するにつれ電子移動度が増加する傾向を示す。電気伝導度は、例えば、成膜中の酸素分圧により制御が可能である。
【0041】
IGZO系の酸化物半導体層は、キャリアが電子のn型半導体であるが、ZnO・Rh、CuGaO、SrCuのようなp型酸化物半導体を活性層64に用いてもよいし、特開2006−165529号公報に開示されている酸化物半導体を用いてもよい。
【0042】
活性層64の厚さは、ドレイン電流が十分に流れる観点と、成膜に要する時間が長くなり過ぎないようにする観点から、例えば、5nm以上150nm以下とする。
また、活性層64の電気伝導度は、チャネル層として機能させるため、10−4Scm−1以上10Scm−1未満であることが好ましく、10−1Scm−1以上10Scm−1未満であることがより好ましい。
【0043】
活性層64として例えば非晶質IGZO層を形成する場合は、In、Ga、及びZnを目標の組成で含む酸化物半導体の多結晶焼結体をターゲットとして気相成膜法を用いて成膜する。気相成膜法の中でも、スパッタリング法及びパルスレーザー蒸着法(PLD法)がより好ましく、量産性の観点から、スパッタリング法が特に好ましい。
成膜後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によってパターニングを行う。あるいは、リフトオフ法、シャドウマスクを用いた方法等により活性層64を形成してもよい。
【0044】
なお、形成した膜は、X線回折法により非晶質膜であることが確認できる。また、膜厚は、触針式表面形状測定により求めることができる。組成比は、蛍光X線分析で求めることができる。また、光学バンドギャップは、分光光度計を用いて求めることができる。さらに、電気伝導度は、抵抗率計を用いて求めることができる。
【0045】
‐ソース電極・ドレイン電極、及び蓄積容量の上部電極‐
ソース電極66A及びドレイン電極66Bはそれぞれ活性層64と接触するとともに、ソース・ドレイン電極同士は離間するように形成する。ゲート電極60への電圧の印加により活性層64を介してソース・ドレイン電極66A,66B間に流れる電流が制御される。また、ソース・ドレイン電極66A,66Bとともに、ドレイン電極66Bと接続するキャパシタの上部電極72を形成する。
【0046】
ソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72を構成する材料としては、例えば、Al、Mo、Cr、Ta、Ti、Au、Ag等の金属、Al−Nd、Mo−Nb、APC等の合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
ソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72の形成方法は特に限定されず、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式などの中から材料との適性を考慮して選択した方法に従って成膜した後、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によってパターニングを行う。あるいは、リフトオフ法、シャドウマスクを用いた方法等によりソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72を形成してもよい。
【0048】
例えば、ソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72の材料としてITOを選択する場合には、直流あるいは高周波スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って成膜することができ、有機導電性化合物を選択する場合には湿式成膜法に従って行うことができる。
【0049】
ソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72の厚さは、その構成材料などにもよるが、成膜性、導電性(低抵抗化)などの観点から、例えば10nm以上1000nm以下とする。
ソース・ドレイン電極66A,66B及び上部電極72を形成することによりTFT及びキャパシタが作製される。
【0050】
このようにして複合フィルムのガラス面上にTFT及びキャパシタを作製することでTFT基板が製造される。このようにして製造されたTFT基板は、軽量かつ堅牢であり、輸送、保管コストを低く抑えることができる。一方で、TFTの作製直前まで汚れやキズが防止されたガラスフィルム上にTFTが形成されているため、信頼性が高いものとなる。
また、一般的に、TFTの作製前には基板の洗浄が行われるが、本発明に係る複合フィルムを用いる場合、水溶性ポリマー層は水等による洗浄によって容易に除去することができるため、剥離工程などの新たな工程を必要とせず、生産性の低下や製造コストの上昇も抑制することができる。
【0051】
本発明により製造されたTFT基板は、最終製品に応じて、例えば層間絶縁膜68、有機EL素子等を順次形成して有機EL表示装置を製造してもよいし、あるいは、電荷収集電極、光電変換層(電荷発生層、電荷輸送層)、バイアス電極、蛍光体層などが積層された放射線撮像装置を製造してもよい。
【0052】
なお、上記実施形態では、ガラス面上にゲート電極60を形成したボトムゲート型のTFTを製造する場合について説明したが、これに限定されず、例えば、ガラス面上に活性層、ソース・ドレイン電極、絶縁層、及びゲート電極の順序で形成したトップゲート型のTFTを作製してもよい。
また、TFTは、一般的に、活性層とソース・ドレイン電極との形成順序でボトムコンタクト型とトップコンタクト型とに分けられるが、いずれの構成としてもよい。すなわち、ソース・ドレイン電極を活性層よりも先に形成して活性層の下面がソース・ドレイン電極に接触する形態(ボトムコンタクト型)としてもよいし、活性層をソース・ドレイン電極よりも先に形成して活性層の上面がソース・ドレイン電極に接触する形態(トップコンタクト型)としてもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
‐複合フィルムの作製工程‐
厚み50μm、幅200mmの薄ガラスフィルム(日本電気ガラス社製)のロールを用意した。
上記ガラスロールからガラスフィルムを引き出し、PVA205C(クラレ社製)100質量部を溶媒(HO/エタノール=1:1)15質量部に溶解させた溶液を、インクジェット法によってガラスフィルムの片面(TFTを形成する側の面)全体に塗布した。次いで、120℃で30分間乾燥した。これによりガラスフィルムの片面に水溶性ポリマー層を形成した。
【0054】
次いで、ガラスフィルムの反対側の面に、非水溶性ポリマー層として、アクリル系接着剤を介してPENフィルム(厚さ100μm)をヒートロール(温度:100℃)により貼り合せた。これによりPVA/ガラスフィルム/PENの構成を有する複合フィルムを作製した。
上記のようにして得た複合フィルムをロール状態に巻き取った。この時、水溶性であるPVA膜と非水溶性であるPEN表面とが直接接触した。
【0055】
上記複合フィルムロールから複合フィルムを巻き出して50mm×50mmのサイズに順次カットした。
【0056】
‐電子部品の作製‐
得られた複合フィルムを純水(流水)で洗浄し、PVA膜を除去した。
PVA膜を除去して露出させたガラス面にMo(厚さ40nm)をスパッタ成膜した後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングでパターニングして、ゲート電極及び蓄積容量の下部電極を形成した。
SiO(厚さ200nm)をスパッタ成膜し、ゲート絶縁層および蓄積容量の誘電層とした。
【0057】
IZO(厚さ200nm)を酸素導入せずにスパッタ成膜した後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターンニングして、ソース・ドレイン電極および蓄積容量の上部電極を形成した。
【0058】
IGZO(厚さ10nm)をスパッタ成膜した後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターンニングして活性層を形成した。
アモルファスGa(厚さ10nm)をスパッタ成膜し、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングにより活性層を覆う領域のみ残して活性層の保護層とした。
【0059】
アクリル樹脂を塗布して層間絶縁膜を形成し、蓄積容量の上部電極の上にコンタクトホールを形成した。
IZO(厚さ200nm)を成膜した後、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングによりパターンニングして電荷収集電極(画素電極)を形成した。これによりTFT基板を得た。
【0060】
アルコール可溶性の共重合ナイロン樹脂を、TFT基板の表面に膜厚が0.1μmになるように塗布し、下引き層を形成した。
電荷発生層用塗布液としてジブロモアントアントロン顔料とポリビニルブチラール樹脂をシクロヘキサノンに添加して分散させたものを用い、スピンコーティングにより塗布及び乾燥して、厚みが0.1μmの電荷発生層を形成した。
電荷輸送材料として下記構造式(I)で表されるN,N′−ジフェニル−N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1′−ビフェニル]−4,4′−ジアミンを用い、該電荷輸送材料5gとポリカーボネート(分子量:約35000〜40000)5gをメチレンクロリド35gに溶解して、電荷発生層の上にディップコートによって塗布及び乾燥して、電荷輸送層を形成した。100℃で1時間乾燥後、電荷輸送層の厚さを測定すると2μmであった。
【0061】
【化1】



【0062】
上部バイアス電極として、Au電極(厚さ0.05nm)を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0063】
PETフィルム(厚さ200μm)にGaS:Tbシンチレータ(厚さ230μm、化成オプトニクス社製)を設けた基板を用意し、上部バイアス電極とシンチレータ層とが対面するように両面粘着テープを介して貼り付けた。
これにより放射線撮像装置(カセッテDR)の内蔵線量モニターを作製した。この放射線撮像装置は、ピンホールによる暗電流が少なく、良好な光電変換特性を示した。
【0064】
以上、本発明について説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されない。例えば、本発明に係る複合フィルムの用途は有機EL表示装置や放射線撮像装置の製造に限定されず、液晶表示装置、プラズマ表示装置などの他の電子デバイスの製造に適用してもよいし、有機EL表示装置の製造においても、TFTを形成するアクティブマトリクスタイプに限らず、パッシブマトリクスタイプの有機EL表示装置や、照明装置として有機EL発光装置の製造に適用してもよい。
また、放射線撮像装置を製造する場合でも、蛍光体層と有機光電変換層を備えた間接型に限らず、蛍光体層を備えた直接変換型の製造に適用してもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 ガラスフィルム
10A ガラスフィルムロール
20 水溶性ポリマー層
24 乾燥手段
30 非水溶性ポリマー層
34 乾燥手段
40A,40B 搬送ローラー
50 複合フィルムロール
60 ゲート電極
62 絶縁層
64 活性層
66A ソース電極
66B ドレイン電極
68 層間絶縁膜
70 下部電極
72 上部電極
100 複合フィルム
100A,100B,100C 複合フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフィルムと、
前記ガラスフィルムの一方の面に設けられ、該ガラスフィルムを保護する水溶性ポリマー層と、
前記ガラスフィルムの他方の面に設けられ、該ガラスフィルムを支持する非水溶性ポリマー層と、
を有する複合フィルム。
【請求項2】
前記ガラスフィルムの厚みが、50〜200μmである請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項3】
前記水溶性ポリマー層が、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、これらのいずれかとシリカとの複合膜から構成されている請求項1又は請求項2に記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記水溶性ポリマー層のアルカリイオン含有量が150ppm以下である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の複合フィルム。
【請求項5】
前記非水溶性ポリマー層の水接触角が70度以上である請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の複合フィルム。
【請求項6】
連続した帯状のガラスフィルムを準備する工程と、
前記ガラスフィルムの一方の面に、該ガラスフィルムを保護する水溶性ポリマー層を形成する工程と、
前記ガラスフィルムの他方の面に、該ガラスフィルムを支持する非水溶性ポリマー層を形成する工程と、
前記水溶性ポリマー層及び前記非水溶性ポリマー層が形成された前記帯状のガラスフィルムを切断して複合フィルムを作製する工程と、
前記水溶性ポリマー層を水又は水溶液で溶かして前記複合フィルムから除去する工程と、
前記複合フィルムから前記水溶性ポリマー層を除去して露出した前記ガラスフィルムの表面上に電子部品を形成する工程と、
を有する電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記水溶性ポリマー層を、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、または、これらのいずれかとシリカとの複合膜により形成する請求項6に記載の電子部品の製造方法。
【請求項8】
前記複合フィルムを作製する工程と、前記電子部品を形成する工程との間に、
前記水溶性ポリマー層及び前記非水溶性ポリマー層が形成された前記帯状のガラスフィルムを切断して作製した複数の複合フィルムを、前記水溶性ポリマー層と前記非水溶性ポリマー層とが対面するように順次重ねる工程と、
前記重ねた複数の複合フィルムをそれぞれ分離する工程と、
を有する請求項6又は請求項7に記載の電子部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−88355(P2011−88355A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243691(P2009−243691)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】