説明

複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法

【課題】複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法の提供。
【解決手段】本発明に係る予測方法は、第1材料と第2材料とを含む2種以上の材料が用いられた複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法である。この方法は、既知の材料の減衰比ζ1を用いて、少なくとも第1材料における一般化マックスウェルモデルM1の係数Pxを推定するステップと、上記一般化マックスウェルモデルM1を用いて、ヘッドの計算モデルを得るステップと、上記計算モデルを用いたヘッドの解析に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む。好ましくは、更に第2材料についても、マックスウェルモデルが用いられる。好ましくは、上記方法は、既知の材料の減衰比ζ2を用いて、上記第2材料における一般化マックスウェルモデルM2の係数Pyを推定するステップを更に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の素材を用いたヘッドとして、複合ヘッドが知られている。ヘッドの複合化は、設計自由度を高めるという利点を有する。特に大型の中空ヘッドにおいては、肉厚分布の自由度が少なく、例えば、低重心化が困難である。複合ヘッドは、この問題を解決しうる。複合ヘッドは、例えば、大型の中空ヘッドにおける低重心化に有効である。
【0003】
複合化の典型例は、チタン合金と、このチタン合金よりも比重の軽い素材との併用である。チタン合金よりも比重の軽い素材として、CFRP及びマグネシウム合金が例示される。CFRPとは、炭素繊維強化プラスチックを意味する。
【0004】
比重の軽い素材の使用は、余剰重量を創出しうる。この余剰重量は、所望の位置に配置されうる。この余剰重量は、重心位置の設計に活用されうる。更に、比重の軽い素材をどこに配置するかによって、重心位置が移動されうる。低重心化に有効な構成の一例は、クラウンの材質がCFRPであり、ソール及びフェースの材質がチタン合金であるヘッドである。
【0005】
一方、複合ヘッドでは、打球音が短い場合がある。例えばCFRPは、振動エネルギーの損失が大きい。よって、CFRPが用いられた複合ヘッドでは、打球音が短い。短い打球音は、ゴルファーに好まれない傾向にある。複合ヘッドにおいて、打球音を改善することは、難しい。
【0006】
最近販売されている大型の中空ヘッドでは、打球音が大きい。このため、打球音は、ゴルフクラブの評価項目の一つとして、ゴルファーに認知されている。心地よい打球音は、ゴルファーにとって重要である。
【0007】
打球音を改善する方法の一つは、試作及び評価を繰り返すことである。しかし、シミュレーションによって打球音が予測できれば、試作が不要となり、効率的である。
【0008】
特開2006−23955号公報は、打球音予測方法を開示する。この予測方法では、固有値解析により算出されたモーダルパラメータが用いられている。この公報では、モード減衰値として、実験モーダル解析で得られた減衰値が用いられている。この場合、実物ヘッドが存在しない限り、減衰値を求めることが出来ない。そこで、計算モデルとおおよそ同じ体積の実物ヘッドを用いて実験モーダル解析が実施され、10kHzまでの各共振周波数における減衰値の平均値が取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−23955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
複合ヘッドでは、打球音の予測が難しい。その一因は、複合ヘッドのモード減衰比の予測が困難なことにある。モード減衰比が精度良く予測できれば、打球音の長さが精度良く予測されうる。本発明は、モード減衰比を予測する新たな方法である。
【0011】
本発明の目的は、複合ヘッドのモード減衰比を予測する新たな方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る予測方法は、第1材料と第2材料とを含む2種以上の材料が用いられた複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法である。この方法は、既知の材料の減衰比ζ1を用いて、少なくとも第1材料における一般化マックスウェルモデルM1の係数Pxを推定するステップと、上記一般化マックスウェルモデルM1を用いて、ヘッドの計算モデルを得るステップと、上記計算モデルを用いたヘッドの解析に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む。
【0013】
好ましくは、上記方法は、既知の材料の減衰比ζ1を用いて、上記第1材料における一般化マックスウェルモデルM1の係数Pxを推定するステップと、既知の材料の減衰比ζ2を用いて、上記第2材料における一般化マックスウェルモデルM2の係数Pyを推定するステップと、上記一般化マックスウェルモデルM1及び上記一般化マックスウェルモデルM2を用いて、ヘッドの計算モデルを得るステップと、上記計算モデルを用いたヘッドの解析に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む。
【0014】
好ましくは、上記ヘッドの解析が、衝撃応答解析を行うステップと、上記衝撃応答解析の結果に基づいて、周波数応答関数を算出するステップと、上記周波数応答関数に基づいてヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む。
【0015】
好ましくは、上記第1材料がCFRPであり、上記第2材料がチタン合金である。
【0016】
好ましくは、上記材料の減衰比ζ1として、周波数依存性の無い1つの代表値D1が用いられる。好ましくは、上記材料の減衰比ζ2として、周波数依存性の無い1つの代表値D2が用いられる。
【0017】
好ましくは、上記一般化マックスウェルモデルM1において、マックスウェルモデルの並列数が2以上である。好ましくは、上記一般化マックスウェルモデルM2において、マックスウェルモデルの並列数が2以上である。
【0018】
ヘッドの設計方法に係る本発明は、上記いずれかに記載された方法を用いてヘッドの解析及びモード減衰比の算出を行うステップと、それぞれのモードにおけるモード減衰比と固有モード形との関係を考慮して、打球音が長くなるように、材料の配置を決定するステップとを含む。
【0019】
好ましくは、上記材料の配置を決定するステップが、モード減衰比が比較的大きい固有モード形Lmを特定するステップと、上記固有モード形Lmにおいて振動している部位の少なくとも一部を、材料の減衰比が比較的小さい材料で置換するステップとを含む。
【0020】
好ましくは、上記材料の配置を決定するステップが、モード減衰比が比較的小さい固有モード形Lsを特定するステップと、上記固有モード形Lsにおいて振動していない部位の少なくとも一部を、材料の減衰比ζが比較的大きい材料で置換するステップとを含む。
【0021】
本発明に係る打球音シミュレーション方法では、上記いずれかの予測方法が用いられる。
【発明の効果】
【0022】
複合ヘッドのモード減衰比が精度良く予測されうる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、一般化マックスウェルモデルに係る定式化を説明するための図である。
【図2】図2は、一般化マックスウェルモデルに係る定式化を説明するための図である。
【図3】図3は、一般化マックスウェルモデルに係る定式化を説明するための図である。
【図4】図4は、一般化マックスウェルモデルに係る定式化を説明するための図である。
【図5】図5は、本発明の一実施形態に係るモード減衰比の予測方法を示すフローチャートである。
【図6】図6は、表計算ソフト(マイクロソフト社の商品名「エクセル」)において、各セルに入力された関数を表示した画面である。
【図7】図7は、実施例に係るヘッドの平面図である。この図7では、CAD画面が用いられている。
【図8】図8は、実施例に係るヘッドの正面図である。この図8では、CAD画面が用いられている。
【図9】図9は、図7と同じ平面図である。図9と図7との併用により、各領域の区別が明確とされている。この図9では、CAD画面が用いられている。
【図10】図10は、実施例に係るヘッドの底面図である。この図10では、CAD画面が用いられている。
【図11】図11は、実施例1の周波数応答関数等を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例2の周波数応答関数等を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例1及び実施例2のモード減衰比が示されたグラフである。
【図14】図14は、参考例1及び参考例2のモード減衰比が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0025】
シミュレーションによって打球音を解析する場合、ボールが衝突した際のヘッドの表面振動速度(又は加速度)を境界条件として、音−振動の連成問題を解く。ヘッドの表面振動速度は、時間の経過とともに減衰する。減衰比は、この減衰の度合いを示す指標である。以下では、ヘッドの表面振動速度が、単に表面振動速度とも称される。
【0026】
ヘッド表面の自由振動は、複数の固有モードを重ね合わせることによって表現されうる。それぞれの固有モードは、固有振動数及び振動の形を有している。振動の形は、固有モード形とも称される。ある一つのモードにおいて、表面振動速度を決定する要素は、固有モード形、振幅、固有振動数及びモード減衰比である。表面振動速度は、全てのモードの表面振動速度を重ね合わせることによって表現される。
【0027】
打球音の長さは、ヘッド表面の振動の継続時間によって決定される。打球音の長さを予測するためには、各モードにおける減衰比(即ち、モード減衰比)を予測する必要がある。
【0028】
固有モード形及び固有振動数は、固有値解析(モード解析)によって計算されうる。しかし、モード減衰比を求めるには、通常、実験が必要である。
【0029】
シミュレーションの意義は、試作及び実験を省略できることにある。実験を伴わずにモード減衰比が予測できるのが好ましい。
【0030】
本発明では、モード減衰比の予測に、一般化マックスウェルモデルが用いられる。一般化マックスウェルモデル自体は公知であるが、本発明では、一般化マックスウェルモデルの利用方法が新規である。
【0031】
一般化マックスウェルモデルは、粘弾性材料の定義に用いられる。一般化マックスウェルモデルでは、複数のモデルが並列している。この並列によって、粘弾性材料の物性を精度よく表現することができる。
【0032】
例えば、金属部分と樹脂部分とを有する複合ヘッドを考える。特に、樹脂部分は、一般化マックスウェルモデルとして好適に扱うことができる。そこで、次のような方法が考えられる。先ず、樹脂の特性を動的粘弾性計測によって実測し、この実測データに基づき、一般化マックスウェルモデルの係数を決定する。次に、計算モデルが作製される。この計算モデルは、複合ヘッドの三次元データをメッシュ分割することによって得られる。この計算モデルにおいて、上記樹脂部分には、係数が決定された上記一般化マックスウェルモデルを与える。この計算モデルを用いて、周波数応答解析がなされる。これらのプロセスの結果、損失係数が求められる。
【0033】
しかし、このような方法には、問題がある。材料によっては、動的粘弾性を精度良く実測することは困難な場合がある。ゴム等では、動的粘弾性の実測が比較的容易であるが、CFRP及び金属のような、ヤング率が大きく粘性の小さな材料では、動的粘弾性を精度良く測定することが困難である。ゴルフクラブヘッドの構造体に用いられる材料のヤング率は大きいため、動的粘弾性の測定は難しい。
【0034】
これに対して、本発明では、動的粘弾性の実測は不要である。本発明でも、一般化マックスウェルモデルが用いられる。しかし、一般化マックスウェルモデルの利用方法は、上記プロセスとは相違する。本発明では、材料の減衰比ζを用いて、一般化マックスウェルモデルの係数が決定される。材料の減衰比ζは、例えば、文献に記載されている。なお、実際に使用される材料の減衰比が不明である場合、近似した材料の減衰比が用いられうる。
【0035】
好ましくは、材料の減衰比ζとして、JIS G0602:1993(制振鋼板の振動減衰特性試験方法)で測定された値が用いられる。より好ましくは、このJIS G0602における「中央支持定常加振法」で測定された値が用いられる。この「中央支持定常加振法」によって材料単体の損失係数ηを求め、その損失係数ηの2分の1の値が、材料の減衰比ζとして好適に用いられ得る。
【0036】
一般化マックスウェルモデルの係数は、定式化によって推定されうる。この定式化について以下に説明する。
【0037】
[定式化による係数の推定]
一般化マックスウェルモデルの係数は、以下の定式化によって推定される。この定式化は、既知の材料の減衰比を用いることを前提としている。
【0038】
図1を参照して、質量がmとされ、バネ定数がkとされ、ダッシュポットの粘性係数がcとされるとき、1自由度系の運動方程式は、次の式(1)である。
【0039】
【数1】

【0040】
また、1自由度減衰系の運動について、一般に次の式(2)及び式(3)が知られている。Cは臨界減衰定数であり、ζは減衰比である。Ωは固有角振動数である。
【0041】
【数2】


【0042】
【数3】


【0043】
一方、図2を参照して、マックスウェル要素は、次の式(4)及び式(5)で表される。
σ=Gγ=ηγ ・・・(4)
γ=γ+γ ・・・(5)
ただし、Gはバネのせん断弾性率であり、γはバネのせん断ひずみであり、ηはダッシュポットの損失係数であり、γはマックスウェル要素全体のせん断ひずみである。
【0044】
このマックスウェル要素に、ひずみ振幅γ及び角振動数ωで時刻tについて正弦的に振動するひずみγ=γ−iωtを与える。このとき、応力とひずみとの比として定義される弾性率G(ω)は、複素数となることが知られており、次の式(6)で表される。この弾性率G(ω)は、複素弾性率と呼ばれている。
(ω)=G’(ω)+iG”(ω) ・・・(6)
【0045】
実部であるG’(ω)は動的弾性率と呼ばれる。虚部であるG”(ω)は損失弾性率と呼ばれる。これらの定常解は次の関係式(7)及び(8)であることが知られている。
【0046】
【数4】



【数5】


【0047】
ここで、τ(=η/G)は緩和時間と呼ばれる値である。
【0048】
[三要素モデルの定式化]
次に、三要素モデルの定式化がなされる。ここでは、バネとマックスウェルモデルとの並列モデルを考える。固有角振動数Ωは緩和時間τを周期とするものとし、その固有角振動数Ωにおける材料の減衰比ζが既知であるとする。更に、減衰を考慮しない線形弾性体の3つの物性値(ヤング率E、ポアソン比ν及び密度ρ)は、いずれも既知であるとする。マックスウェルモデルが固有角振動数Ωで共振しているとき、図3(a)のマックスウェルモデルの弾性率G(ω)は、次の式(9)で表される。
(ω)=(Gt/2)+(iGt/2) ・・・(9)
【0049】
従って、図3(a)のマックスウェルモデルは、図3(b)に示された、弾性率G’のバネと弾性率G”のダッシュポットを有するモデルとみなすことができる。したがって、一自由度減衰系が適用でき、次の式(10)が成り立つ。
【0050】
【数6】


【0051】
よって、マックスウェル三要素モデルについて、次の式(11)、式(12)及び式(13)が成立する。ただし、βは緩和時間の逆数であり、Gは初期せん断弾性率であり、Gは長期せん断弾性率であり、f(=Ω/2π)は固有振動数であり、ζは固有角振動数Ωにおける減衰比であり、Eはヤング率であり、νはポアソン比である。
【0052】
【数7】

【0053】
以上より、ひとつのマックスウェル三要素モデルを定義するデータとして、緩和時間β、初期せん断弾性率G及び長期せん断弾性率Gが求められる。
【0054】
[モデルの一般化]
次に、一般化マックスウェルモデルを考える。好ましい一般化マックスウェルモデルでは、三要素モデルに、他のマックスウェルモデルが並列に結合される。好ましい一般化マックスウェルモデルでは、単独のスプリング要素と、複数のマックスウェルモデルとが、並列している。
【0055】
先ず、図4を参照して、三要素モデルに一つのマックスウェルモデルが並列に結合される場合を考える。追加されたマックスウェルモデルは、弾性率Gt2のバネと損失係数ηのダッシュポットとから構成されているものとし、且つ、固有角振動数Ωにおいて減衰比がζであるとする。またここでは、既に存在するマックスウェルモデルについては添え字1を付けて説明する。一般に、マックスウェルモデルの減衰特性には周波数依存性があり、ΩがΩに近い場合、角振動数Ωにおける一般化マックスウェルモデルの減衰特性において、損失係数ηの影響は無視できないと考えられる。しかし、ΩとΩとを十分に離して適切に定義することにより、角振動数Ωにおいては、追加されたマックスウェルモデルが独立していると見なすことができる。よって、前述した三要素モデルと同様に、次の式(14)及び式(15)が成立する。ただし、Gi+1は追加されたマックスウェルモデルにおけるバネの弾性率であり、βi+1は追加されたマックスウェルモデルにおけるダッシュポットの、緩和時間の逆数である。fi+1は追加されたマックスウェルモデルの固有振動数であり、ζi+1は固有振動数fi+1における減衰比である。
【0056】
【数8】

【0057】
【数9】


【0058】
この式(15)を繰り返して用いることで、マックスウェルモデルを更に追加することができる。この場合、新たに追加されるマックスウェルモデルの固有角振動数Ωi+1は、既設のマックスウェルモデルの固有角振動数の最大値Ωよりも大きくされる。なお、固有角振動数Ωi+1は、固有角振動数Ωから適切に離れた値とする。これにより、新たに追加されるマックスウェルモデルが、既設のマックスウェルモデルに対して独立して作用するとみなされうる。設定された並列数に対応して、上記式(15)が繰り返し用いられる。
【0059】
また、計算の簡略化の観点から、上記式(15)に代えて、上記式(16)を用いてもよい。αの値を変えて試行錯誤したところ、αが、2・21/2以上2e以下(eは自然底数)の場合に、比較的良好な結果が得られることがわかった。
i+1=(αζi+1+1)G ・・・(16)
【0060】
このように、並列したマックスウェルモデルのそれぞれに対応する固有振動数と、それら固有振動数のそれぞれにおける減衰比とを、既知のデータとして用いることで、一般化マックスウェルモデルにおける諸係数が算出されうる。
【0061】
以下に、本発明の一実施形態が詳細に説明される。図5は、本発明に係るモード減衰比の予測方法の一実施形態を示すフローチャートである。本実施形態では、2種の材料(第1材料及び第2材料)が用いられた場合について、説明がなされる。第1材料及び第2材料に加えて、第3材料が用いられても良い。更に、4種以上の材料が用いられてもよい。後述されるヘッドの実施形態では、3種の材料が用いられている。
【0062】
なお、本発明では、複数の材料のうち、少なくとも1の材料が、一般化マックスウェルモデルで定義される。例えば、チタン合金の部分とCFRPの部分とを含むヘッドにおいて、CFRPの部分は一般化マックスウェルモデルとされ、チタン合金部分には一般化マックスウェルモデルが適用されなくてもよい。この場合、チタン合金部分は、弾性体として扱われうる。より好ましくは、全ての材料が、それぞれ、一般化マックスウェルモデルで定義される。
【0063】
好ましくは、複数の材料のうち、少なくとも2以上の材料が、一般化マックスウェルモデルで定義される。複数の材料のうち、少なくとも3以上の材料が、一般化マックスウェルモデルで定義されてもよい。複数の材料のうち、少なくとも4以上の材料が、一般化マックスウェルモデルで定義されてもよい。
【0064】
好ましくは、複数の材料の全てが、一般化マックスウェルモデルで定義される。
【0065】
この予測方法では、材料の減衰比ζが指定される(ステップSt1)。具体的には、第1材料の材料の減衰比ζ1と、第2材料の材料の減衰比ζ2とが、指定される。材料の減衰比ζ1及び材料の減衰比ζ2は、既知の値である。材料の減衰比ζ1及び材料の減衰比ζ2は、例えば、文献に記載されている値である。第1材料に近似した材料の減衰比が、材料の減衰比ζ1として用いられてもよい。第2材料に近似した材料の減衰比が、材料の減衰比ζ2として用いられてもよい。
【0066】
好ましくは、上記材料の減衰比ζ1として、周波数依存性の無い1つの代表値D1が用いられる。減衰比に周波数依存性が無い材料、或いは、減衰比の周波数依存性が無視されうる材料では、代表値D1を用いることが好ましい。代表値D1の使用により、計算が簡略化され、モード減衰比の予測が容易とされる。同様の理由で、好ましくは、上記材料の減衰比ζ2として、周波数依存性の無い1つの代表値D2が用いられる。同様に、更に第3材料が存在する場合、材料の減衰比ζ3(代表値D3)が用いられ得る。
【0067】
ヘッドの打球音を評価する場合、2000Hz以上10000Hz以下の周波数範囲を考えておけば凡そ十分である。この周波数範囲であれば、材料の減衰比ζの周波数依存性が無視されうる。よって、上記代表値Dの利用は、有効である。材料の具体例として、純チタン、チタン合金、ステンレス鋼、CFRP、マグネシウム合金等が挙げられる。
【0068】
次に、材料係数が決定される(ステップSt2)。上記第1材料に係る係数Pxと、上記第二材料に係る係数Pyとが決定される。具体的には、上記材料の減衰比ζ1を用いて、上記第1材料の一般化マックスウェルモデルM1に係る係数Pxが決定される。また、上記材料の減衰比ζ2を用いて、上記第2材料の一般化マックスウェルモデルM2に係る係数Pyが決定される。
【0069】
上記ステップSt2は、既知のデータとしての材料係数を用意するステップSt21を含む。材料係数として、材料の減衰比ζ、密度ρ、ヤング率(縦弾性率)E、ポアソン比ν、せん断弾性率G及び体積弾性率Kが挙げられる。なお、材料が等方性材料とみなされうる場合、等方性材料に適用される公知の公式が用いられ得る。よって例えば、ヤング率Eとポアソン比νとから、せん断弾性率Gが求められうる。また、ヤング率Eとせん断弾性率Gとから、体積弾性率Kが求められうる。
【0070】
これらの既知のデータとして、文献値が採用されうる。また、特に材料の減衰比ζについては、実験モーダル解析によって求めることもできる。
【0071】
また、上記ステップSt2は、マックスウェルモデルの並列数に対応した周波数を決定するステップSt22を含む。例えば、マックスウェルモデルの並列数がNであるとき、N種の周波数(以下、割り当て周波数ともいう)が決定される。ただし、Nは1以上の整数であり、好ましくは2以上の整数である。この割り当て周波数は、前述した固有角振動数Ωに相当する。この割り当て周波数は、並列するマックスウェルモデルのそれぞれに対して決定される。ゴルフヘッドの打球音解析において特に重要な周波数帯域は、2000Hz以上10000Hz以下である。よって、2000Hz以上10000Hz以下の帯域に含まれるN種の割り当て周波数が決定されるのが好ましい。
【0072】
打球音のシミュレーション精度の観点から、上記整数Nは、3以上が好ましく、4以上がより好ましい。計算の簡略化の観点から、上記整数Nは、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下がより好ましい。
【0073】
打球音のシミュレーション精度の観点から、上記N種の周波数は、重要な周波数帯域において均等に分散しているのが好ましい。これらN種の周波数が、小さい順に、f、f、・・・、fとされるとき、隣り合った周波数間の差(fm+1−f)が考慮される。各マックスウェルモデルの独立性を高める観点から、差(fm+1−f)の最小値は、500Hz以上が好ましく、1000Hz以上がより好ましく、1500Hz以上が更に好ましい。一方、差(fm+1−f)が過大である場合、打球音のシミュレーション精度が低下することがある。この観点から、差(fm+1−f)の最大値は、3000Hz以下が好ましく、2500Hz以下がより好ましい。
【0074】
一般化マックスウェルモデルにおいて、マックスウェルモデルの並列数は、限定されない。打球音のシミュレーションの精度の観点から、マックスウェルモデルの並列数は、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上が更に好ましい。計算の簡略化の観点から、マックスウェルモデルの並列数は、10以下が好ましく、9以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。なお、単独バネ要素は、マックスウェルモデルの並列数には含まれない。従って、後述される実施例の一般化マックスウェルモデルでは、マックスウェルモデルの並列数は、5である。
【0075】
更に、上記ステップSt2は、上記材料係数に基づいて、マックスウェルモデルの係数(Px、Py)を算出するステップSt23を含む。このステップSt23では、並列されたマックスウェルモデルのそれぞれについて、係数が算出される。
【0076】
より詳細には、このステップSt23は、単独バネ要素の係数P1を決定するステップSt231と、この係数P1に基づいて、割り当て周波数が最も低いマックスウェルモデルの係数P2を算出するステップSt232と、この係数P2に基づいて、割り当て周波数の低い順に、マックスウェルモデルの係数Pnを順次算出するステップSt23nとを含む。例えば、一般化マックスウェルモデルが6並列モデルである場合、このステップSt23は、上記係数P1を決定するステップSt231と、この係数P1に基づいて上記係数P2を算出するステップSt232と、この係数P2に基づいて上記係数P3を算出するステップSt233と、この係数P3に基づいて上記係数P4を算出するステップSt234と、この係数P4に基づいて上記係数P5を算出するステップSt235と、この係数P5に基づいて上記係数P6を算出するステップSt236とを含む。この6並列モデルは、1つの単独バネ要素と、5つのマックスウェルモデルとが並列したモデルである。よって、この6並列モデルにおいて、マックスウェルモデルの並列数は、5である。なお、単独バネ要素が存在しない一般化マックスウェルモデルが用いられても良い。即ち、並列する要素の全てがマックスウェルモデルであってもよい。
【0077】
単独バネ要素の係数P1は、上記材料係数と同じである。単独バネ要素の周波数は、ゼロとされる。そして、この係数P1に基づいて、マックスウェルモデルの係数Pnが、割り当て周波数の低いものから順に算出される。この算出には、上記式(15)が用いられる。この算出には、市販の表計算ソフトを用いることができ、例えば、マイクロソフト社の商品名「エクセル」)が用いられ得る。
【0078】
係数P1、P2、・・・Pnの集合が、第1材料に係る上記係数Pxである。同様にして、第二材料に係る上記係数Pyも求められる。これらの計算の具体例は、後述される図6(エクセルシートにおける関数式)で示されている。
【0079】
次に、得られた計算モデルを用いて、ヘッドの解析がなされる。このヘッドの解析は、単位衝撃応答解析を行うステップと、周波数応答関数を算出するステップと、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む。
【0080】
上記計算モデルは、ヘッドの三次元データである。この計算モデルは、複合ヘッドである。好ましくは、この計算モデルは、中空ヘッドである。打球音の大きさの観点から、好ましくは、この計算モデルのヘッド体積は、400cc以上、より好ましくは420cc以上である。ゴルフルールへの適合の観点から、この計算モデルのヘッド体積は、470cc以下が好ましい。
【0081】
この計算モデルは、第1材料によって構成された部分と、第2材料によって構成された部分とを有する。この計算モデルは、少なくとも2種の材料によって構成されている。この計算モデルは、3種以上の材料によって構成されていてもよい。
【0082】
単位衝撃応答解析の好ましい方法は、有限要素法である。好ましくは、この計算モデルは、市販のプリプロセッサ(HyperMesh等)によってメッシュ分割される。有限の要素にメッシュ分割された計算モデルが用いられる。
【0083】
通常のシミュレーションの場合、材料の物性値として、縦弾性率、密度及びポアソン比が用いられる。しかし本発明では、一般化マックスウェルモデルでモデル化された材料が用いられる。即ち、上記係数Px及びPyで定義された一般化マックスウェルモデルが用いられる。
【0084】
単位衝撃応答解析では、上記計算モデルに衝撃力が加えられる。単位衝撃応答と周波数応答関数とはフーリエ変換対であるので、単位衝撃応答をフーリエ変換するだけで、周蓮応答関数が得られる。よって、好ましい衝撃力は、単位衝撃力である。好ましくは、比較的短時間の衝撃力が与えられる。ただし、時間領域で計算する場合、タイムステップよりも短い時間での変化は考慮されない。ヘッドとボールとのタイムステップを考慮すると、衝撃力の時間は、好ましくは、5μs以上0.5ms以下である。衝撃力の波形は限定されない。例えば、衝撃力の波形は、サインカーブとされてもよい。衝撃力が一定の力であってもよい。
【0085】
衝撃力が付与される位置は限定されない。好ましくは、衝撃力は、フェース面に付与される。より好ましくは、衝撃力は、フェース面の中心付近に付与される。フェース面の中心付近とは、例えば、フェース面の図心から5mm以内の範囲である。
【0086】
単位衝撃応答解析には、CAEソフトウェアが用いられる。このCAEソフトウェアとして、リバモアソフトウェアテクノロジー社(Livermore Software Technology Corporation)製の商品名「LS−DYNA」が例示される。好ましくは、CAEソフトウェアにより、有限要素法の解析が実行される。
【0087】
単位衝撃応答解析における拘束条件(境界条件)は限定されない。打球音はヘッドの自由振動によって発生していることから、拘束条件は自由(フリー)が好ましい。
【0088】
単位衝撃応答解析の結果、ヘッド表面の振動に係る値V1が、時刻歴で得られる。この値V1として、加速度、速度及び変位が例示される。ヘッド表面の各地点における値V1が、時刻歴で得られうる。いずれかの地点S1における値V1が採用される。この地点S1の領域及び点数は限定されない。モード減衰比の算出精度の観点から、地点S1は、フェース、クラウン及びソールの各数点とされるのが好ましく、ヘッドの全体とされるのが更に好ましい。
【0089】
次に、周波数応答関数が算出される(ステップSt4)。一般に、入力と出力との比は、伝達関数と称される。周波数が独立変数とされて定義された伝達関数は、周波数応答関数と称される。周波数応答関数として、イナータンス、モビリティ及びコンプライアンスが例示される。イナータンスは、出力された加速度と入力された力との比である。モビリティは、出力された速度と入力された力との比である。コンプライアンスは、出力された変位と入力された力との比である。入力された力の典型例は、上記衝撃力である。
【0090】
周波数応答関数の算出では、フーリエ変換(FFT)が用いられる。フーリエ変換により、時間領域の値が周波数領域の値に変換され、フーリエスペクトルが得られる。ここでは、時刻歴で得られた上記値V1がフーリエ変換され、時刻歴の力もフーリエ変換される。得られた2つのパワースペクトルを除算することで、周波数応答関数が得られる。この方法は公知である。
【0091】
好ましくは、周波数応答関数の算出に、数値解析ソフトウェアが用いられる。この数値解析ソフトウェアとして、Math Works社製の商品名「マトラボ(MATLAB)」が例示される。
【0092】
次に、モード減衰比が算出される(ステップSt5)。モード減衰比は、周波数応答関数に基づいて算出される。モード減衰比の算出では、好ましくは、カーブフィット(曲線適合)が用いられる。カーブフィットでは、通常、最小二乗法が用いられる。カーブフィットの方法として、SDOF法(1自由度法:Single Degree Of Freedom method)、MDOF法(多自由度法:Multiple Degrees Of Freedom method)及びMMDOF法(多点参照多自由度法:Multiple Functions Multiple Degrees Of Freedom method)が知られている。カーブフィットの方法は限定されず、公知の方法が採用されうる。
【0093】
周波数応答関数におけるピークのそれぞれにおいて、モード減衰比が算出される。ピーク形状に基づき、モード減衰比が算出される。好ましくは、カーブフィット後のピーク形状に基づき、モード減衰比が算出される。
【0094】
好ましくは、モード減衰比の算出には、モーダル解析ソフトウェアが用いられる。このモーダル解析ソフトウェアとして、例えば、バイブラントテクノロジー(Vibrant Technology)社製の商品名「ME’scopeVES」が挙げられる。
【0095】
このように算出されたモード減衰比により、複合ヘッドの打球音の予測精度が向上する。特に、複合ヘッドの打球音の長さが精度良く予測されうる。また、このモード減衰比は、複合ヘッドの打球音の改善に役立ちうる。
【0096】
本発明の他の態様は、ヘッドの設計方法である。この方法では、前述されたヘッドの解析の結果において、それぞれのモードにおけるモード減衰比と固有モード形との関係が考慮される。そして、打球音が長くなるように、材料の配置が決定される。
【0097】
打球音が長くなるように材料の配置を決定するステップは、次のステップa1及びステップa2を含むのが好ましい。
(ステップa1):モード減衰比が比較的大きい固有モード形Lmを特定するステップ。
(ステップa2):上記固有モード形Lmにおいて振動している部位の少なくとも一部を、材料の減衰比ζが比較的小さい材料で置換するステップ。
【0098】
打球音が長くなるように材料の配置を決定するステップは、次のステップa1及びステップa3を含んでいてもよい。
(ステップa1):モード減衰比が比較的大きい固有モード形Lmを特定するステップ。
(ステップa3):上記固有モード形Lmにおいて振動している部位の少なくとも一部に、寸法変更及び/又は形状変更を行うステップ。
【0099】
打球音が長くなるように材料の配置を決定するステップは、上記ステップa1、ステップa2及びステップa3を含んでいてもよい。
【0100】
ステップa2における「比較的小さい材料」とは、好ましくは、複合ヘッドに用いられている材料のうち、材料の減衰比ζが最も小さい材料である。
【0101】
このステップa2の一例は、上記固有モード形Lmにおいて振動している部位の少なくとも一部を、CFRPからチタン合金に置換するステップである。この置換により、打球音が長くされうる。
【0102】
打球音の観点からは、ステップa1では、モード減衰比が最も大きい固有モード形Lmが特定されるのがよい。但し、打球音のスペクトルにおける寄与を考慮すると、モード減衰比が最も大きい固有モード形Lmが特定されるのがよいとは限らない。好ましくは、ステップa1では、モード減衰比の大きさ及び/又はフェース加振時の応答の大きさを考慮して、固有モード形Lmが特定される。
【0103】
また、ヘッド重量及びヘッド重心位置の変動を抑制する観点から、打球音が長くなるように材料の配置を決定するステップは、次のステップb1及びステップb2を含んでいてもよい。これらのステップにより、例えば、CFRPの使用量を減らすことなく、打球音が長くされうる。
(ステップb1):モード減衰比が比較的小さい固有モード形Lsを特定するステップ。
(ステップb2):上記固有モード形Lsにおいて振動していない部位の少なくとも一部を、材料の減衰比ζが比較的大きい材料で置換するステップ。
【0104】
打球音の観点からは、ステップb1では、モード減衰比が最も小さい固有モード形Lsが特定されるのがよい。但し、打球音のスペクトルにおける寄与を考慮すると、モード減衰比が最も小さい固有モード形Lsが特定されるのがよいとは限らない。好ましくは、ステップb1では、モード減衰比の大きさ及び/又はフェース加振時の応答の大きさを考慮して、固有モード形Lsが特定される。
【0105】
このように、本発明は、複合ヘッドの打球音を長くするための有効な設計方法を提供しうる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0107】
なお、本願の表において、10の累乗が、文字Eを用いて表記されている。例えば、「×10」は、「E+05」と表記されている。また、「×10−5」は、「E−05」と表記されている。よって例えば、「3.00E−01」は、「3.00×10−1」を意味する。
【0108】
[材料の準備]
次の6種類の材料AからFを想定した。但し、ρは密度(t/mm)であり、Eはヤング率(MPa)であり、νはポアソン比であり、ζは材料の減衰比(%)である。また、材料の減衰比ζは、周波数依存性の無い1つの代表値として設定された。
(1)材料A:ρ=1.40×10−9
E=4.91×10
ν=3.00×10−1
ζ=0.3
(2)材料B:ρ=4.72×10−9
E=9.50×10
ν=3.50×10−1
ζ=0.3
(3)材料C:ρ=4.42×10−9
E=1.13×10
ν=3.00×10−1
ζ=0.3
(4)材料D:ρ=1.40×10−9
E=4.91×10
ν=3.00×10−1
ζ=1.5
(5)材料E:ρ=4.72×10−9
E=7.70×10
ν=3.55×10−1
ζ=0.3
(6)材料F:ρ=4.72×10−9
E=7.70×10
ν=3.55×10−1
ζ=1.5
【0109】
上記材料A及びDでは、CFRPが想定されている。上記材料B、C、E及びFでは、チタン合金が想定されている。
【0110】
[一般化マックスウェルモデルの係数の算出]
一般化マックスウェルモデルの係数P1からP6を算出するための関数(計算式)が用意された。これらの関数は、表計算ソフト(マイクロソフト社の商品名「エクセル」)に入力された。図6は、表計算ソフトに入力された関数の式を示す。図6は、エクセルのシートに入力された関数を示す。図6では、行番号及び列記号が示されている。よって図6により、各セルに出力される具体的な計算式が理解されうる。これらの計算式の意味は、前述した通りである。
【0111】
図6の計算例は、5つのマックスウェルモデルと1つの単独バネ要素とが並列した一般化マックスウェルモデルである。このモデルでは、マックスウェルモデルの並列数が5である。
【0112】
このシートによる計算では、先ず、既知の材料係数として、密度ρ、ヤング率E、ポアソン比ν及び材料の減衰比ζが入力される。また、最大割り当て周波数として、「10000Hz」が入力されている。これらの既知の値に基づき、表計算ソフトが計算し、各セルに計算結果が示される。
【0113】
図6のシートにおいて、既知の値を入力するセルは、太線で囲まれている。図6のシートでは、これらのセルに、上記材料Aの材料係数が入力されている。
【0114】
なお、図6のシートにおいて、割り当て周波数は、所定の周波数範囲において周波数が均等に分散するように設定されている。図6のシートでは、最大割り当て周波数として、10000Hzが入力されている。この最大の割り当て周波数をマックスウェルモデルの並列数で割った値(2000Hz)おきに、割り当て周波数が均等間隔で設定されている。
【0115】
下記の表1は、上記材料Aについて一般化マックスウェルモデルの係数を算出した結果を示す。この表1が示すように、材料係数及び割り当て周波数を入力することで、一般化マックスウェルモデル(6並列モデル)の係数の全てが算出された。
【0116】
【表1】

【0117】
この材料Aと同様にして、材料BからFについて、一般化マックスウェルモデルの係数を算出した。材料Bの結果が下記の表2で示される。材料Cの結果が下記の表3で示される。材料Dの結果が下記の表4で示される。材料Eの結果が下記の表5で示される。材料Fの結果が下記の表6で示される。
【0118】
【表2】


【0119】
【表3】


【0120】
【表4】


【0121】
【表5】


【0122】
【表6】


【0123】
[実施例1]
複合ヘッドの材料として、上記材料B、C及びDが採用された。それぞれの材料について、前述した図6のシートを用いて、一般化マックスウェルモデルの係数を得た。最大割り当て周波数は10000Hzとされた。材料B、C及びDのそれぞれにおいて、材料の減衰比ζは、周波数依存性の無い1つの代表値とされた。
【0124】
計算モデルとして、ウッド型ゴルフクラブヘッドH1の三次元データが作成された。このヘッドH1は、3種の材料(上記材料B、C及びD)が用いられた複合ヘッドとされた。ヘッドH1は中空である。 ヘッドH1のヘッド体積は435ccに設定された。
【0125】
図7は、ヘッドH1の平面図である。図8は、ヘッドH1の正面図である。図7及び図8は、CAD画面である。図7及び図8が示すように、ヘッドH1は、第1領域R1、第2領域R2及び第3領域R3を有する。図7及び図8では、これら3つの領域が、濃淡によって区分けされている。最も薄く示された部分が、第1領域R1である。第1領域R1は、フェースのほとんどを占める。第1領域R1は、フェースの中央部分を占める。最も濃く示された部分が、第2領域R2である。ソール及びホーゼルは、第2領域R2に属している。第3領域R3は、第1領域R1及び第2領域R2を除く部分である。クラウンのほとんどが、第3領域R3に属している。図9及び図10も、ヘッドH1を示す。図9はヘッドH1の平面図であり、図10はヘッドH1の底面図である。図9及び図10では、第2領域R2と第3領域R3との区別を明確とする目的で、第3領域R3が濃く塗られている。図9では、第1領域R1も濃く塗られている。
【0126】
この実施例1では、上記第1領域R1が上記材料Bとされ、上記第2領域R2が上記材料Cとされ、上記第3領域R3が上記材料Dとされた。計算モデルのメッシュ分割線は、図7から10で示される通りとされた。
【0127】
得られたヘッドの計算モデルを用いて、FEMを用いて単位衝撃応答解析がなされた。単位衝撃力は、フェースの中心に与えられた。単位衝撃力は、サインカーブ状に変化する力とされた。単位衝撃力の付与時間は、0.3msecとされた。拘束条件は自由(フリー)とされた。この単位応答解析には、前述した「LS−DYNA」が用いられた。
【0128】
この単位衝撃応答解析により時刻歴の加速度データが得られた。この加速度データがフーリエ変換され、上記単位衝撃力もフーリエ変換された。前者を後者で除することにより、周波数応答関数(イナータンス)を得た。周波数応答関数の算出には、前述した「マトラボ(MATLAB)」が用いられた。
【0129】
次に、上記周波数応答関数を用いて、モード減衰比の算出がなされた。このモード減衰比の算出では、前述した「ME’scopeVES」が用いられた。曲線適合(カーブフィット)によって、モード特性が同定された。曲線適合の方法として、直交多項式法が採用された。
【0130】
図11は、モード減衰比に係る出力画面を示す。図11の上側グラフは、上記周波数応答関数を示す。この上側のグラフには、各ピークごとに、モード減衰比の算出のために参照された範囲を示す線が付記されている。また、図11の下側のグラフは、ピークの検出位置を示している。図11は、上記「ME’scopeVES」での出力画面である。算出されたモード減衰比が、下記の表7に示される。
【0131】
【表7】

【0132】
[実施例2]
複合ヘッドの材料として、上記材料A、上記材料B及び上記材料Cが採用された。それぞれの材料について、前述した図6のシートを用いて、一般化マックスウェルモデルの係数を得た。最大割り当て周波数は10000Hzとされた。材料A、B及びCのそれぞれにおいて、材料の減衰比ζは、周波数依存性の無い1つの代表値とされた。
【0133】
実施例1と同じく、ヘッドH1の三次元データが用いられた。この実施例2では、上記第1領域R1が上記材料Bとされ、上記第2領域R2が上記材料Cとされ、上記第3領域R3が上記材料Aとされた。
【0134】
得られたヘッドの計算モデルを用いて、単位衝撃応答解析がなされた。実施例1と同様にして、周波数応答関数(イナータンス)及びモード減衰比を得た。
【0135】
図12は、モード減衰比に係る出力画面を示す。この図12は、実施例1における図11に相当する。算出されたモード減衰比が、下記の表8に示される。
【0136】
【表8】

【0137】
前述したように、実施例1及び2における材料は次の通りである。
【0138】
[実施例1]
・第1領域R1(ほぼフェース)=材料B(チタン合金を想定;ζ=0.3)
・第2領域R2(ほぼソール)=材料C(チタン合金を想定;ζ=0.3)
・第3領域R3(ほぼクラウン)=材料D(CFRPを想定;ζ=1.5)
[実施例2]
・第1領域R1(ほぼフェース)=材料B(チタン合金を想定;ζ=0.3)
・第2領域R2(ほぼソール)=材料C(チタン合金を想定;ζ=0.3)
・第3領域R3(ほぼクラウン)=材料A(CFRPを想定;ζ=0.3)
【0139】
実施例2では、ヘッドの領域(領域R1、R2及びR3)の全てにおいて、材料の減衰比ζが0.3%である。よって実施例2は、単一材料のヘッドに近似している。一方、実施例1では、第3領域R3(クラウン部のほとんど)の材料の減衰比ζが1.5%とされ、残りの領域R1及びR2における材料の減衰比ζが0.3%とされている。よって実施例1は、金属とCFRPとの複合ヘッドに近似している。
【0140】
図13は、実施例1及び実施例2のモード減衰比が示されたグラフである。太線が、実施例1のモード減衰比である。細線が、実施例2のモード減衰比である。このグラフが示すように、実施例1と実施例2とが近いモード(振動数)が存在する一方で、両者が離れたモード(振動数)も存在する。
【0141】
実施例1と実施例2とが近いモードにおける固有モード形では、上記領域R1及びR2(フェース及びソール)での振動が大きいと考えられる。一方、両者が離れたモードにおける固有モード形では、上記領域R3(クラウン)での振動が大きいと考えられる。実施例1では、第3領域R3の材料の減衰比ζが1.5であるのに対して、実施例2では、第3領域R3の材料の減衰比ζが0.3である。この第3領域R3の振動が大きな固有モード形において、モード減衰比の差が大きくなった。例えば、実施例1と実施例2との差に基づいて、前述した固有モード形Lmを特定することができる。本実施形態の場合、実施例1と実施例2tの差が大きいモードにおける固有モード形が、固有モード形Lmとされうる。打球音を長くするためには、例えば、この固有モード形Lmに注目することができる。即ち、この固有モード形Lmにおいて振動が大きい部分に、材料の減衰比ζが小さな材料を選択的に配置することができる。このように、固有モード形を考慮して、打球音が長くなるように材料を配置することが可能である。
【0142】
[参考例1]
単一の材料からなる平板形状の計算モデルを用いて、算出されるモード減衰比の妥当性について検討した。平板の形状は長方形とされた。平板のサイズは、縦が201mm、横が110mm、厚みが2.48mmに設定された。上記材料Fのみからなる平板が、計算モデルとされた。材料Fの減衰比ζは1.5%であり、この材料の減衰比ζは、周波数依存性の無い1つの代表値として用いられた。
【0143】
実施例1と同様にして、この計算モデルのモード減衰比を算出した。なお、拘束条件は自由(フリー)とされた。また、単位衝撃力の作用点は、長方形の中心とされた。得られたモード減衰比が、図14のグラフで示されている。参考例1の計算結果は、図14の上側の折れ線グラフである。
【0144】
[参考例2]
材料が上記材料Fから上記材料Eに変更された他は参考例1と同様にして、参考例2のモード減衰比が算出された。上記材料Eの減衰比ζは0.3%であり、この材料の減衰比ζは、周波数依存性の無い1つの代表値として用いられた。このモード減衰比が、図14のグラフで示されている。参考例2の計算結果は、図14の下側の折れ線グラフである。
【0145】
図14のグラフが示すように、材料の減衰比ζが1.5%である参考例1は、材料の減衰比ζが0.3%である参考例2に対して、モード減衰比が有意に大きい。よって、上記実施例で用いられた一般化マックスウェルモデルが、0.3%と1.5%との相違を有意に反映しうる粘弾性モデルであることが示された。この一般化マックスウェルモデルは、例えば、CFRPと金属(チタン合金等)とを含む複合ヘッドの設計において、有効に用いられうる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
以上説明された方法は、打球音のシミュレーション、ゴルフクラブヘッドの設計等に適用されうる。
【符号の説明】
【0147】
H1・・・ヘッド(計算モデル)
R1・・・第1領域
R2・・・第2領域
R3・・・第3領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1材料と第2材料とを含む2種以上の材料が用いられた複合ヘッドのモード減衰比を予測する方法であって、
既知の材料の減衰比ζ1を用いて、少なくとも第1材料における一般化マックスウェルモデルM1の係数Pxを推定するステップと、
上記一般化マックスウェルモデルM1を用いて、ヘッドの計算モデルを得るステップと、
上記計算モデルを用いたヘッドの解析に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む予測方法。
【請求項2】
既知の材料の減衰比ζ1を用いて、上記第1材料における一般化マックスウェルモデルM1の係数Pxを推定するステップと、
既知の材料の減衰比ζ2を用いて、上記第2材料における一般化マックスウェルモデルM2の係数Pyを推定するステップと、
上記一般化マックスウェルモデルM1及び上記一般化マックスウェルモデルM2を用いて、ヘッドの計算モデルを得るステップと、
上記計算モデルを用いたヘッドの解析に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
上記ヘッドの解析が、
衝撃応答解析を行うステップと、
上記衝撃応答解析の結果に基づいて、周波数応答関数を算出するステップと、
上記周波数応答関数に基づいて、ヘッドのモード減衰比を算出するステップとを含む請求項1又は2に記載の予測方法。
【請求項4】
上記第1材料がCFRPであり、上記第2材料がチタン合金である請求項2又は3に記載の予測方法。
【請求項5】
上記材料の減衰比ζ1として、周波数依存性の無い1つの代表値D1が用いられ、
上記材料の減衰比ζ2として、周波数依存性の無い1つの代表値D2が用いられる請求項2から4のいずれかに記載の予測方法。
【請求項6】
上記一般化マックスウェルモデルM1において、マックスウェルモデルの並列数が2以上であり、
上記一般化マックスウェルモデルM2において、マックスウェルモデルの並列数が2以上である請求項2から5のいずれかに記載の予測方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載された方法を用いて上記ヘッドの解析及び上記モード減衰比の算出を行うステップと、
それぞれのモードにおけるモード減衰比と固有モード形との関係を考慮して、打球音が長くなるように、材料の配置を決定するステップとを含むゴルフクラブヘッドの設計方法。
【請求項8】
上記材料の配置を決定するステップが、
モード減衰比が比較的大きい固有モード形Lmを特定するステップと、
上記固有モード形Lmにおいて振動している部位の少なくとも一部を、材料の減衰比が比較的小さい材料で置換するステップとを含む請求項7に記載の設計方法。
【請求項9】
上記材料の配置を決定するステップが、
モード減衰比が比較的小さい固有モード形Lsを特定するステップと、
上記固有モード形Lsにおいて振動していない部位の少なくとも一部を、材料の減衰比ζが比較的大きい材料で置換するステップとを含む請求項7又は8に記載の設計方法。
【請求項10】
請求項1から6のいずれかに記載の予測方法を用いた、打球音シミュレーション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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