説明

複合仮ヨリ糸

【課題】高次加工して、衣服などに使用する際、スパンライクな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることが可能な複合仮ヨリ糸を提供する。
【解決手段】高伸度の鞘糸が低伸度の芯糸の周りを交互ヨリ状に捲回・反転した芯鞘構造を形成しており、前記芯糸および前記鞘糸は、共に、一方の構成成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とし、他方の構成成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であるポリエステル複合繊維からなり、以下の(1)から(3)を満足することを特徴とする複合仮ヨリ糸。
(1)前記芯糸と前記鞘糸の伸度差が30%以上100%未満
(2)前記芯糸と前記鞘糸の糸長差が15%以上60%以下
(3)交絡数が30個/m以上100個/m以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣服などに使用することにより、スパンライクな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを有し、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得るのに好適な複合仮ヨリ糸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ストレッチ素材として、ポリウレタン弾性繊維とポリアミド繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などを混繊仮撚加工した複合加工糸が提案されており、ストッキング、ソックス、インナー、アウターなど一般衣料用途に使用されてきた(特許文献1参照)。このように、芯糸としてポリウレタン弾性繊維を用いた加工糸で編物・織物を形成する場合、フィット性、伸縮性に優れたものを得ることができるが、肉厚で風合いが硬くなるという欠点を有している。
【0003】
また、ポリエステル複合繊維で高いストレッチ性を得る技術も提案されているが(特許文献2参照)、布帛を形成したときに布帛表面にシボが発生し、ある程度のストレッチ性は得られるもののフラットな表面感は得ることが出来なかった。
【0004】
一方、ハリコシ感、反発感を狙った芯鞘ポリエステル複合加工糸も提案されている(特許文献3、4参照)。このような提案であると芯糸および鞘糸どちらも伸長性に欠けるため、結果所望とする布帛のストレッチを得ることができない。
【特許文献1】特開2001−288632号公報
【特許文献2】特開2001−288621号公報
【特許文献3】特開2000−303281号公報
【特許文献4】特開平10−237733号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高次加工して、衣服などに使用する際、従来の技術では得られなかったスパンライクな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることが可能な複合仮ヨリ糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の複合仮ヨリ糸は、前記課題を解決するため、以下のいずれかの構成を有する。すなわち、高伸度の鞘糸が低伸度の芯糸の周りを交互ヨリ状に捲回・反転した芯鞘構造を形成しており、前記芯糸および前記鞘糸は、共に、一方の構成成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とし、他方の構成成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であるポリエステル複合繊維からなり、以下の(1)から(3)を満足することを特徴とする複合仮ヨリ糸である。
(1)前記芯糸と前記鞘糸の伸度差が30%以上100%未満
(2)前記芯糸と前記鞘糸の糸長差が15%以上60%以下
(3)交絡数が30個/m以上100個/m以下
そして、かかる複合仮ヨリ糸は伸縮伸長率が65%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スパンライクな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることが可能な梳毛調の複合仮ヨリ糸を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の複合仮ヨリ糸をモデル的に示したものである。本発明にかかる複合仮ヨリ糸(ハ)は、芯糸(イ)と鞘糸(ロ)からなり、鞘糸(ロ)が芯糸(イ)の周りを交互ヨリ状に捲回・反転した芯鞘構造を形成することで、交絡部(ニ)と開繊部(ホ)とが交互に存在し、また、それぞれが仮ヨリ捲縮を有する形態となっている。そのため、複合仮ヨリ糸として高い伸縮性を具備するものとなる。
【0009】
本発明の複合仮ヨリ糸の芯糸と鞘糸は、伸度差が30%以上100%未満である。伸度差が30%未満であると後述の芯糸と鞘糸の糸長差を十分に得ることができず、結果スパンライクな風合いを得ることができない。一方、伸度差が100%以上であると糸長差が大きくなり、鞘糸が芯糸から浮いたスラブ状の形態となり製品の外観品位を悪化させるほか、糸割れを生じ、製織時の糸切れ等の高次通過性を悪化させる原因になる。芯糸と鞘糸の伸度差を30%以上100%未満とするためには、相対的に低伸度の糸を芯糸に、高伸度の糸を鞘糸に用いる必要があり、芯糸に延伸糸、鞘糸に未延伸糸を用いることが好ましい。ここでいう、未延伸糸とは応力−伸長曲線において、伸長しても応力がほとんど増加しない、いわゆる自然延伸倍率(Natural Draw Ratio)を有する糸のことを言う。
【0010】
本発明の複合仮ヨリ糸は、芯糸と鞘糸の糸長差が15%以上、60%以下である。糸長差が15%未満であれば、布帛を形成したとき、十分な嵩高性、梳毛感、ハリコシ感を得ることができない。一方、60%を超えると鞘糸が完全に浮いた構造となるため糸割れ、スラブ、糸切れなどの高次通過性の悪化、製品での外観悪化になりやすい。
【0011】
また、本発明の複合仮ヨリ糸には交絡が付与されており、その交絡数は、30個/m以上100個/m以下である。交絡数が30個/m未満では芯糸と鞘糸との交絡による拘束力が不十分であり、糸割れ、粗大ループ、タルミなどを発生することによる加工糸からの解舒性不良や糸割れを生じたり、製品の外観品位にも悪影響を及ぼす。一方、交絡数 が100個/mより大きいと交絡による拘束力が強すぎ、適度な嵩高性を得ることができず、伸縮性を低減させることにもなる。好ましい交絡数の下限は40個/m以上、より好ましくは50個/m以上である。また、好ましい交絡数の上限は90個/m以下、より好ましくは80個/m以下である。
【0012】
交絡の方法としては、いわゆる通常のエアー混繊を挙げることができ、市販の交絡ノズルまたは流体乱流ノズルのいずれであっても良いが、本発明の複合仮ヨリ糸のストレッチ性を軽減させない観点から、適度に開繊部を有する交絡タイプのものが好ましい。
【0013】
そして、適度なキックバック性、ストレッチ性を備えた布帛を提供し得る複合仮ヨリ糸とするためには、当該複合仮ヨリ糸を構成する芯糸と鞘糸それぞれが、一方の構成成分がポリエチレンテレフタレートを主成分(すなわち最大重量成分)とし、他方の構成成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であるポリエステル複合繊維であることが必要である。
【0014】
芯糸と鞘糸のそれぞれがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型のポリエステル複合繊維であることで、当該糸条に熱が付与された際に、コイル状のヘリカルクリンプを発現し、糸条により高い伸縮性を付与することができる。すなわち、本発明の複合仮ヨリ糸は、上述したように仮ヨリ捲縮を有しているので、ヘリカルクリンプと仮ヨリ捲縮の相乗効果でより優れた伸縮伸長性を得ることが出来るのである。
【0015】
なお、図2に、本発明の複合仮ヨリ糸を、98℃で30分間、無荷重状態で沸騰水処理した後の複合仮ヨリ糸(チ)の概略側面図を示す。沸騰水処理されることにより、芯糸および鞘糸の両者にヘリカルクリンプ(ヘ)が発現し、仮ヨリ捲縮(ト)およびヘリカルクリンプ(ヘ)の相乗効果により、梳毛調の本発明の複合仮ヨリ糸を使用した布帛は所望のストレッチ性を得ることができるのである。
【0016】
そして、当該ポリエステル複合繊維におけるポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの重量比率は、製糸性および繊維長さ方向のコイルの寸法均質性の観点から30/70以上70/30以下の範囲である。好ましくは35/65以上65/35以下、より好ましくは40/60以上60/40以下の範囲である。
【0017】
また、当該ポリエステル複合繊維においては、低粘度側のポリエステルの極限粘度[ηb]と高粘度側のポリエステル極限粘度[ηa]の極限粘度比([ηb]/[ηa])が0.3〜0.8であることが好ましい。
【0018】
このように極限粘度の異なる二つの重合体が貼り合わされることによって、紡糸・延伸時に高粘度側に応力が集中し、二成分間で内部歪みが異なることになる。そのため、延伸後の弾性回復率差により高粘度側が大きく収縮し、単繊維内で歪みが生じて3次元コイル状のヘリカルクリンプが発現する。このヘリカルクリンプの径および各ポリエステル系複合繊維の捲縮数は、高収縮成分と低収縮成分との収縮差(弾性回復率差を含む)によって決まるといってもよく、収縮差が大きいほどヘリカルクリンプの径が小さく、各ポリエステル系複合繊維の捲縮数が多くなる。
【0019】
本発明の複合仮ヨリ糸をストレッチ素材の布帛へ適用する場合、コイル捲縮は、ヘリカルクリンプの径が小さいこと、各ポリエステル系複合繊維の捲縮数が多いこと(すなわち、伸長特性に優れ、見映えがよいこと)、ヘリカルクリンプの耐へたり性がよいこと(伸縮回数に応じたヘリカルクリンプのへたり量が小さく、ストレッチ保持性に優れること)が好ましい。さらに、ヘリカルクリンプの伸縮特性は、低収縮成分を支点とした高収縮成分の伸縮特性が支配的となるため、高収縮成分に用いる重合体には高い伸長性と回復性を有するものが好ましい。したがって、本発明においては、低収縮成分としてポリエチレンテレフタレート、高収縮成分としてポリトリメチレンテレフタレートを配すると良い。
【0020】
ポリエステル複合繊維に用いられるポリエチレンテレフタレートとしては、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体成分からなるものである。すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコ−ル成分として得られるポリエステルが好ましい。他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で含まれていてもよく、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる。共重合可能な化合物としては、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ハイドロキノン、ビスフェノールAなどのジオール類を用いることができる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0021】
ポリエステル複合繊維に用いられるポリトリメチレンテレフタレートとしては、トリメチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とする重合体成分からなるものである。すなわち、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコ−ル成分として得られるポリエステルが好ましい。他のエステル結合を形成可能な共重合成分が20モル%以下の割合で含まれていてもよく、好ましくは10モル%以下の割合で含まれる。共重合可能な化合物として、イソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を用いることができる。また、必要に応じて、艶消し剤となる二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0022】
ポリトリメチレンテレフタレートは、代表的なポリエステル長繊維であるポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートと同等の力学的特性や化学的特性を有しつつ、伸長回復性がきわめて優れている。これは、ポリトリメチレンテレフタレートの結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシュ−ゴーシュ構造(分子鎖が90度に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するためと考えている。
【0023】
本発明において、コイル状捲縮を発現させ、編織物を形成した際に所望の伸縮性を得る観点から、ポリトリメチレンテレフタレートの極限粘度は1.0以上であるのが好ましく、1.2以上であるのがより好ましい。
【0024】
そして、本発明の複合仮ヨリ糸は、上記のような構成により伸縮伸長率65%以上を達成することも可能である。複合仮ヨリ糸の伸縮伸長率が65%以上であることによって布帛に十分なストレッチ性を付与することができる。なお、伸縮伸長率の上限は特に制限されるものではないが、一般的には160%程度となる。
【0025】
上記本発明の複合仮ヨリ糸は、例えば、次のように製造することができる。
【0026】
すなわち、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルと、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとを、個別に溶融した後、口金の吐出孔上流側で合流させ、サイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型の吐出孔から紡糸する。その後、ポリマーを冷却固化させ、未延伸糸として巻き取る。
【0027】
一方、同様にしてポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルと、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルとを、個別に溶融した後、口金の吐出孔上流側で合流させ、サイドバイサイド型もしくは偏心芯鞘型の吐出孔から紡糸する。その後、ポリマーを冷却固化させ、延伸し、延伸糸として巻き取る。
【0028】
次いで、得られた未延伸糸と延伸糸を図3に示す工程に通し、本発明の複合仮ヨリ糸を得る。図3に示す工程では、まず、未延伸糸1と延伸糸2をフィードローラー3上で引き揃え、フィードローラー5との間で、交絡ノズル4により混繊・交絡する。次いで、フィードローラー5とデリベリーローラー8との間で、糸を熱板6で加熱しながらツイスター7に通し、仮ヨリを施す。このとき、伸度の大きい鞘糸側が積極的に捻られながら延伸され、震度の低い芯糸の周りを交互ヨリ状に、捲回・反転するため、本発明の複合仮ヨリ糸が芯鞘構造を有するのである。仮ヨリを施された糸はワインダー9によりパッケージ10として巻き取る。
【0029】
なお、熱板6の表面温度は十分な仮ヨリ捲縮を得るという観点から150℃以上195℃未満であることが好ましい。150℃未満であると捲縮発現が抑えられ、195℃以上であるとポリトリメチレンテレフタレート繊維の脆化により、糸切れ等の問題が発生しやすくなる。
【0030】
ツイスター7については、ピンタイプ、フリクションタイプ、ベルトニップタイプいずれの物を使用しても良い
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明がこれら実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の極限粘度[η]、糸長差(%)、交絡数(個/m)、伸縮伸長率(%)等は次の方法で求めた。
【0032】
<極限粘度[η]>
オルソクロロフェノール10mlに対し試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
【0033】
<伸度差(%)>
適当な長さの糸を取り出し、繊維自体が伸びないように注意深く鞘糸と芯糸に分解する。
得られた鞘糸および芯糸それぞれについて、それぞれJIS−L−1013(1999)「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5.1 標準時試験」に記載の試験方法で伸び率を求め、この測定を10回繰り返し、それらの平均値の差を伸度差とした。
【0034】
<自然延伸倍率[NDR](%)>
JIS−L−1013(1999)「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5.1 標準時試験」に記載の試験方法に準じて、荷重−伸長曲線をとる。このとき、未延伸糸では、伸長量に荷重が正比例して上昇する領域(I)が見られ、次いで荷重が極大に達した後、急激に低下する降伏点(II)が現れる。さらに伸長を行うと、しばらくの間は荷重が一定の領域(III)が続き、その後再び荷重が上昇する領域(IV)が見られ、逐には切断点に達する。ここでいう、NDRとは(III)の領域と(IV)の領域の境界にあたる伸びの値を言い、10回の測定の平均値を本発明におけるNDRとした。
【0035】
<破断伸度(%)>
JIS−L−1013(1999)「化学繊維フィラメント糸試験方法」の「8.5.1 標準時試験」に記載の試験方法で伸び率を求め、この測定を10回繰り返し、その平均値を破断伸度とした。
【0036】
<糸長差(%)>
適当な長さの糸を取り出し、繊維自体が伸びないように注意深く単糸1本1本に分解する。グリセリンを塗布したスケール板上に分解した単糸を乗せて、長さの短い単糸群と長い単糸群に分類し、短い単糸群の平均長をL1、長い単糸群の平均長をL2として、次式により糸長差を算出する。測定回数5回の平均値をもってその測定とする。
糸長差(%)={(L2−L1)/L1}×100
<交絡数(個/m)>
東レ(株)製のエンタングルメントテスター(タイプET−500)を使用して、開繊長(mm)を測定した。試験回数は50回とし、その平均値を求めた。この開繊長より下記式により算出した。
交絡数(個/m)=1000/開繊長(mm)
<伸縮伸長率(%)>
1.8×10-3cN/デシテックス荷重下で周長1mの手回し検尺器にて10回巻のカセを作り、これに1.8×10-3cN/デシテックスの荷重をかけた状態で90℃、20分間の熱水処理をする。次いで、荷重を外し、1昼夜風乾する。その後、再度1.8×10-3cN/デシテックス荷重を加え、その状態で試料の長さを測定する(L0)。続いて、荷重を88.3×10-3cN/デシテックスに変更し、2分後に試料の長さを測定する(L1)。そして下記式にて伸縮伸長率を算出する。なお、試験回数は20回とし、その平均値を本発明における伸縮伸長率として求めた。
伸縮伸長率(%)=[(L1−L0)/L0]×100
[実施例1]
極限粘度が1.31のポリトリメチレンテレフタレートと極限粘度が0.52のポリエチレンテレフタレートをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で34孔の複合紡糸口金よりポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレートの重量比率が40/60となるように吐出し、紡糸速度2200m/分で引き取り、115デシテックス34フィラメントのサイドバイサイド型未延伸糸を得た。得られた未延伸糸のNDRは31%、破断伸度は110%であった。
【0037】
一方、極限粘度が1.31のポリトリメチレンテレフタレート と極限粘度が0.52のポリエチレンテレフタレートをそれぞれ別々に溶融し、紡糸温度260℃で36孔の複合紡糸口金よりポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート の重量比率が50/50となるように吐出し、紡糸速度1400m/分で引き取り、250dtex36フィラメントの未延伸糸を得た。さらに、ホットロール−熱板系延伸機を用い、ホットロール温度70℃、熱板温度145℃、延伸倍率3.0で延伸して、84dtex36フィラメントのサイドバイサイド型ポリエステル複合長繊維(延伸糸)を得た。
【0038】
この得られた未延伸糸と延伸糸を用いて、図3に示した工程のようにTFT−6Mピン型仮ヨリ機(東レエンジニアリング社製)を使用して、以下の条件で混繊交絡処理、仮ヨリ加工を順に施し、複合仮ヨリ糸を得た。
〈混繊処理〉
交絡圧 :0.25MPa
交絡フィード率:+2.0%
ノズル :インターレースノズル
〈仮ヨリ加工条件〉
スピンドル回転数:200,000rpm
延伸倍率 :1.03
仮ヨリ数 :2280T/m
仮ヨリ加工温度:180℃
得られた仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0039】
また、永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、スパンライクな表面感、ハリコシ感を有し、ストレッチ性に優れたものであった。
【0040】
[実施例2]
実施例1で得られた複合仮ヨリ糸に仮ヨリ方向と同方向に400T/mの追撚を施した。追撚前の複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、および追撚後の複合仮ヨリ糸の伸縮伸長率を表1に示す。
【0041】
また、永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、サマーウール調の風合いで、実施例1のものよりもハリコシ感を有し、ストレッチ性に優れたものであった。
【0042】
[実施例3]
実施例1で得られた未延伸糸および延伸糸を用い、図4に示した工程のように未延伸糸および延伸糸を別々のフィード率でノズルに供給し、下記条件にて混繊交絡処理を施した後、実施例1と同条件にて仮ヨリ加工を施し複合仮ヨリ糸を得た。
〈混繊処理〉
交絡圧 :0.35MPa
芯糸の交絡フィード率:+2.0%
鞘糸の交絡フィード率:+12.0%
ノズル :流体乱流ノズル
得られた複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0043】
また、永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、ふくらみ感、スパンライクな表面感、ハリコシ感を有し、ストレッチ性に優れたものであった。
【0044】
[実施例4]
実施例1で得られた未延伸糸および延伸糸を用い、図5に示した工程のように未延伸糸を80℃の熱ピンに1回転巻き付けて1.2倍にアウトドローし、延伸糸と引き揃えた後、実施例1と同条件にて混繊処理および仮ヨリ加工を施し、複合仮ヨリ糸を得た。得られた複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0045】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、スパンライクな表面感、ハリコシ感を有し、ストレッチ性に優れたものであった。
【0046】
[実施例5]
図3に示した工程で混繊処理を下記条件に変更した以外は実施例1と全く同条件にて仮ヨリ加工を施し、複合仮ヨリ糸を得た。
〈混繊処理〉
交絡圧 :0.35MPa
交絡フィード率:+3.0%
ノズル :流体乱流ノズル
得られた複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0047】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、スパンライクな表面感、ハリコシ感を有するが、ストレッチ性が実施例1に比べるとやや劣るものとなった。
【0048】
[比較例1]
極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレートを溶融し、紡糸温度260℃で34孔の複合紡糸口金より吐出し、紡糸速度2200m/分で引き取り、140デシテックス34フィラメントの未延伸糸を得た。得られた未延伸糸のNDRは56%、破断伸度は154%であった。鞘糸に得られた未延伸糸を用いる以外は全く実施例1と同条件にて仮ヨリ加工を実施し、複合仮ヨリ糸を得た。得られた複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。鞘糸がヘリカルクリンプを有さず、十分な伸び代が得られないため、伸縮伸長率が低くなった。
【0049】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、スパンライクな風合いを有するが、ストレッチ性が十分なものではなかった。
【0050】
[比較例2]
実施例1で得られた未延伸糸および延伸糸を用い、図5に示した工程のように未延伸糸を80℃の熱ピンに1回転巻き付けて1.4倍にアウトドローし、延伸糸と引き揃えた後、実施例1と同条件にて混繊処理および仮ヨリ加工を施し、複合仮ヨリ糸を得た。得られた複合仮ヨリ糸は芯鞘構造を有さず、引き揃え加工糸の形態であった。複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。鞘糸が仮ヨリ前に予め1.4倍でアウトドローされているため、伸度差、糸長差が極めて小さく、伸縮伸長率が低い糸となった。
【0051】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、フラットな表面でスパンライクなソフトな風合いが再現できなかった。
【0052】
[比較例3]
実施例1で得られた未延伸糸および延伸糸を用い、図6に示した工程のように交絡を施さず、単なる引き揃えの状態で、実施例1と同様の仮ヨリ加工を施し、複合仮ヨリ糸をえた。得られた複合仮ヨリ糸は、毛羽が多発し、糸形態も鞘糸が芯糸から浮き、スラブ調の糸となった。複合仮ヨリ糸の複合仮ヨリ糸の伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0053】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、外観品位が著しく悪く商品価値のないものとなった。
【0054】
[比較例4]
図3に示した工程で混繊処理を下記条件に変更した以外は実施例1と全く同条件にて仮ヨリ加工を施し、複合仮ヨリ糸を得た。
〈混繊処理〉
交絡圧 :0.60MPa
交絡フィード率:+4.0%
ノズル :流体乱流ノズル
得られた複合仮ヨリ糸は、交絡数が多すぎで伸縮伸長率が悪いものであった。なお伸度差、糸長差、交絡数、伸縮伸長率を表1に示す。
【0055】
永田精機製の4口靴下編み機KT−C4で、この仮ヨリ糸をS仮ヨリ、Z仮ヨリそれぞれ2本ずつ用いて、レッグ部、パンツ部に配置し、タイツを製編した。得られた生地を常法通りポリエステル用分散染料にて130℃で60分、染色し、仕上げ、型板セットを実施してタイツを得た。得られたタイツは、スパンライクな表面感、ハリコシ感を有するが、ストレッチ性が著しく低いものとなった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の複合仮ヨリ糸は、衣服などに使用する際、スパンライクな表面感、ハリコシ感とソフトな風合いを併せもち、さらにはストレッチ性に優れた布帛を得ることができる。衣料用として、特に、アウター織物、ストッキングなどのストレッチ素材を提供することができるが、その応用範囲はこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の複合仮ヨリ糸の一実施形態を示す模式図である。
【図2】沸騰水処理後の本発明の複合仮ヨリ糸の一実施形態を示す模式図である
【図3】本発明の複合仮ヨリ糸の製造工程の一例を示す概略模式図である。
【図4】本発明の複合仮ヨリ糸の製造工程の一例を示す概略模式図である。
【図5】本発明の複合仮ヨリ糸の製造工程の一例を示す概略模式図である。
【図6】比較例3で実施した工程の概略模式図である。
【符号の説明】
【0059】
(イ)芯糸
(ロ)鞘糸
(ハ)本発明の複合仮ヨリ糸
(ニ)交絡部
(ホ)開繊部
(ヘ)ヘリカルクリンプ
(ト)仮ヨリ捲縮
(チ)沸騰水処理後の本発明の複合仮ヨリ糸
1 未延伸糸
2 延伸糸
3 フィードローラー
3a フィードローラー
3b フィードローラー
4 ノズル
5 フィードローラー
6 熱板
7 ツイスター
8 デリベリーローラー
9 ワインダー
10 パッケージ
11 フィードローラー
12 熱ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高伸度の鞘糸が低伸度の芯糸の周りを交互ヨリ状に捲回・反転した芯鞘構造を形成しており、前記芯糸および前記鞘糸は、共に、一方の構成成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とし、他方の構成成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするサイドバイサイド型または偏心芯鞘型であるポリエステル複合繊維からなり、以下の(1)から(3)を満足することを特徴とする複合仮ヨリ糸。
(1)前記芯糸と前記鞘糸の伸度差が30%以上100%未満
(2)前記芯糸と前記鞘糸の糸長差が15%以上60%以下
(3)交絡数が30個/m以上100個/m以下
【請求項2】
伸縮伸長率が65%以上である、請求項1に記載の複合仮ヨリ糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−299234(P2009−299234A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156273(P2008−156273)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(502179282)東レ・オペロンテックス株式会社 (100)
【Fターム(参考)】