複合体およびその用途
【課題】還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との複合体とその用途を提供する。
【解決手段】本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。この複合体が、溶液中に存在するイオン性を有する物質を、迅速かつ効率よく吸着する吸着剤であることおよび特定の貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元する還元剤として機能する。
【解決手段】本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。この複合体が、溶液中に存在するイオン性を有する物質を、迅速かつ効率よく吸着する吸着剤であることおよび特定の貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元する還元剤として機能する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との複合体とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染の問題から、排水などに含まれる重金属などを除去する環境浄化材が注目されている。環境浄化材として、例えば、鉄塩などを用いる凝集沈殿法が知られている。しかし、凝集沈殿法では、金属の価数により十分に重金属などを除去できないなどという問題があった。
【0003】
このため、グリーンラストと共に、鉄フェライトおよび還元性鉄水酸化物の少なくともいずれかを含む還元性水質浄化材が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この還元性水質浄化材を用いると、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。
【0004】
しかし、この還元性水質浄化材は、中性からアルカリ性条件下でのみ金属回収機能を発揮する。一方、酸性の排水などは、直接処理できず、アルカリ処理などの前処理が必要である。このため、アルカリ処理のための処理設備や薬液が必要となるという問題がある。
【0005】
この還元性水質浄化材は、製造過程で、酸化を防止する必要がある。このため、密閉容器内で、脱酸素処理をし、複雑なpH処理(アルカリ処理)を繰り返す。したがって、製造が煩雑であるという問題がある。
【0006】
また、近年、半導体材料やハンダペースト、液晶ディスプレイなどの電子機器に、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどが用いられている。これらの金属は、含有量が少ない鉱物であったり、固有の含有鉱物がなく、他の鉱物中に含まれる微量成分であったりするものが多い。このため、これらの金属を効率よく回収する方法が望まれる。
【0007】
金、白金などの貴金属、白金族金属を回収するためには、イオン交換樹脂、キレート樹脂など合成樹脂製吸着剤を用いる方法などが知られている。しかし、イオン交換樹脂など合成樹脂製吸着剤は、高価であり、再生などの処理を要求する。したがって、処理が簡単で貴金属を還元して回収できる吸着剤が望まれる。
【0008】
一方、本発明者らは、鉄還元細菌を用い、貴金属または白金族金属のイオンから貴金属または白金族金属を還元して金属を回収する方法を開発している(例えば、特許文献2参照)。また、本発明者らは、鉄還元細菌を用い、インジウム、ガリウムまたはスズを含む金属含有物からインジウム、ガリウムまたはスズを回収する、金属の回収方法を提案している(例えば、特許文献3参照)。しかし、鉄還元細菌を用いる場合、培養条件などに影響される。このため、保存性を有し、安定して供給する金属回収材があればさらに好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−289338号公報
【特許文献2】特開2007−113116号公報
【特許文献3】特開2011−26701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との複合体とその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、還元細菌の培養過程で、金属還元物質と培地成分との化合物である複合体が得られることを見出した。また、この複合体が、溶液中に存在するイオン性を有する物質を、迅速かつ効率よく吸着する吸着剤および特定の貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元する還元剤として機能することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、還元細菌の培養過程で得られる、金属還元物質を利用した複合体およびその新たな機能を見出したものである。
【0012】
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。上記還元細菌は、少なくとも1種類の生物鉱物化機能を有する細菌である。
【0013】
上記培地成分は、電子供与体と電子受容体を含むとよい。
【0014】
上記還元細菌は、鉄還元細菌である。また、上記鉄還元菌は、シワネラ属である。
【0015】
上記複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含むものである。上記複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。
【0016】
上記複合体は、吸着性および/または還元性を有する。
【0017】
上記複合体は、還元細菌をこの還元細菌が還元できる酸化物を含む培地中で培養する工程と、上記還元細菌による還元物と培地中の成分とが結合する工程と、上記結合体が成長する工程とを、含み、製造することができる。
【0018】
上記複合体を用い、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。このイオン性を有する物質は、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属、レアアースからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属であるとよい。また、上記複合体を用い、貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産され、金属還元物質と培地成分との化合物である。このため、細菌に栄養源(鉄培地)を与えるだけで、金属還元物質を生産する。この金属還元物質と培地中のリンを含む培地成分とで化合物を形成することができる。また、この複合体は、湿潤状態であれば、常温で、比較的長期間安定して保存することができる。
【0020】
また、鉄還元細菌を用いて、得られた複合体は、少なくとも鉄とリンとを含む。従来の鉄を含む吸着分子とは異なる機能を有する。
【0021】
このように、本発明の複合体は、吸着性や還元性を有する。このため、本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を迅速に収率良く吸着することが、または貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の複合体のDy吸着率を示すグラフである。
【図2】図2は、pHを変えた場合の本発明の複合体のNd吸着率を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の複合体の各金属イオンの吸着率を示すグラフである。
【図4】図4は、Dyの脱離量とpHの関係について評価したグラフである。
【図5】図5は、混合溶液からのレアアース選択性を評価するグラフである。
【図6】図6は、本発明の複合体のAu吸着率を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の複合体のPt吸着率を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の複合体のRh吸着率を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の複合体のCo吸着率を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の複合体をTEMで撮影した写真である。
【図11】図11は、本発明の複合体において、カリウム量を変えた培地を用いて作製した複合体のPt吸着率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[複合体]
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。
【0024】
(還元細菌)
本発明の複合体の生産に用いる還元細菌は、生物鉱物化機能を有する細菌であればよい。生物鉱物化機能とは、生物が無機鉱物をつくる機能をいう。生物鉱物化機能を有する還元細菌としては、鉄還元細菌、セレン還元細菌など公知の金属イオン還元菌が挙げられる。本発明の複合体は、還元細菌が作り出した金属還元物質と培地成分との化合物であると考えられる。したがって、金属還元物質を作り出せる還元細菌であれば、使用することができる。これらの還元細菌のうち、好ましい還元細菌は鉄還元細菌である。使用することができる鉄還元細菌としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。還元細菌は、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。均一な金属還元物質を作るには、還元細菌を単独で用いるのが好ましい。
【0025】
(鉄還元細菌)
本発明で用いる鉄還元細菌は、電子供与体から電子の供給を受けて、鉄を還元する細菌である。このような鉄還元菌としては、例えば、ゲオバクター属(代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス:ATCC(American Type Culture Collection)53774株)、デスルフォモナス属(代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株)、デスルフォムサ属(代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株)、ペロバクター属(代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株)、シワネラ属(Shewanella algae:シワネラ アルゲ(以下、「S.algae」という):ATCC51181株、Shewanella oneidensis:シワネラ オネイデンシス(以下、「S.oneidensis」という):ATCC700550株、シワネラ プトレファシエンス(以下、「S.putrefacience」という):ATCC BAA−453株)、フェリモナス属(Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株)、エアロモナス属(Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株)、スルフロスピリルム属(代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株)、ウォリネラ属(代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株)、デスルフォビブリオ属(代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株)、ゲオトリクス属(代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株)、デフェリバクター属(代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株)、ゲオビブリオ属(代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株)、ピロバクルム属(代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株)、テルモトガ属(代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株)、アルカエグロブス属(代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株)、ピロコックス属(代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株)、ピロディクティウム属(代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株)などが例示できる。これらの鉄還元細菌は、嫌気性細菌である。
【0026】
本発明で用いる鉄還元細菌は、当該細菌に適した培地を用いて、増殖・維持を行えばよい。例えばS.algaeは、例えば、pHが7.0で、電子供与体として乳酸ナトリウム(32mol/m3)が、電子受容体としてFe(III)イオン(56mol/m3)が含まれている、クエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて、回分培養して増殖させ、維持する。鉄イオンの塩は、この例では、クエン酸塩であるが、使用する培地、使用する鉄還元細菌の種類により、適宜選択すればよい。例えば、電子供与体として、ギ酸塩、水素ガス、乳酸塩、ピルビン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、エタノール、エチレングリコール、フルクトース、フマル酸塩、グルコース、グリセロール、リンゴ酸塩、フェノール、コハク酸塩、酒石酸塩などが挙げられる。電子受容体としては、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(III)、Cr(VI)、U(VI)などが挙げられる。
【0027】
本発明で用いる鉄還元細菌のうち、好ましいのはシワネラ属の鉄還元細菌である。また、シワネラ アルゲ、シワネラ オネイデンシス、シワネラ プトレファシエンスがさらに好ましい。
【0028】
(複合体の製造方法)
本発明では、使用する還元細菌が金属還元反応を起こす培地で培養することにより、本発明の複合体を構成する金属還元物質が得られる。金属還元物質は、例えば以下のようにして生産する。以下の例では、鉄還元菌を用いて、複合体を製造する場合について説明する。他の還元細菌を用いる場合であっても、同様である。
【0029】
鉄還元細菌が金属還元反応を起こす培地で、通常の温度、環境で細菌培養・増殖を行う。この培地には、通常電子受容体としてFe(III)イオンが含まれている。鉄還元細菌は、培地に含まれる乳酸やクエン酸などを酸化して電子を取り出し、細胞増殖する。取り出した電子は、Fe(III)イオンを還元して、Fe(II)イオンにする。この結果、培養後24〜36時間経過し、増殖末期になると、前記鉄培地中の培地が黒色から褐色に変色する。その後さらに1週間程度そのまま培養を続けると細菌によるFe(III)イオン還元量が増大する。培地には、リン酸塩が含まれる。還元反応により得られたFe(II)イオンとリン酸のリンとが化合物を形成する。また、培地中に微量成分が含まれる。この微量成分を複合体に取り込むこととしてもよい。例えば、培地中に、マンガン、カリウムなど他の成分を加えておく、あるいは培地の添加成分量を増やすことで、鉄とリン以外の成分が含まれる複合体を得ることができる。複合体は、培地の底層に沈殿する。この結果、前記培地が褐色から肌色へ変色する。
【0030】
本発明の複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含む。鉄とリンを主成分とする複合物の場合は、鉄とリンの含有量は、質量比で略3:1である。複合体がカリウム、マンガンなどの他の成分をさらに含む場合は、鉄の含有率が低下する。培地に含ませる他の成分の含有量や種類を変えることで、吸着剤や還元剤の機能を変えることができる。吸着剤や還元剤の機能とは、例えば吸着されるあるいは還元される物の種類や量である。また、培地に含ませる他の成分の含有量や種類を変えることで、吸着や還元以外の新たな機能を得ることができる。培地に含ませる他の成分には、上記する電子受容体やカリウムなど複合体に取り込まれる成分を用いることができる。カリウムは、塩化カリウムなどのようにpHに影響を与えないもの、あるいは水酸化カリウム、炭酸カリウムのようにpH調整剤として加えるものであってもよい。
【0031】
本発明の複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。実施例で説明するように、金属還元物質と培地中のリンや他の成分との化合物は、初期には繊維状である。培養を続けると複合体は、繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体となる。本発明の複合体は、繊維状物質であっても、この繊維状物質の略球形集合体であっても、同様の機能を有する。したがって、使用する目的に応じて、形状を選択して使用すればよい。また、本発明の複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体であることから、反応表面積が非常に広い。この結果、吸着剤や還元剤として用いる場合に、処理効率に優れる。
【0032】
本発明の複合体は、培養した培地を遠心分離などの公知の分離方法を用いて、固液分離することで得られる。分離した固体分は、イオン交換水、蒸留水などを加えて攪拌、混合して洗浄し、再度遠心分離などで、固体分を回収し、状態保持のために少量のイオン交換水や蒸留水などを注入し、静置しておく。
【0033】
上記固体分は、複合体と細菌との混合物である。少量のイオン交換水や蒸留水などを注入した状態で、室温で、数日間放置すると、上記固体分は、細菌層(上澄)と複合体層(下層)に分離する。上澄みの細菌層を廃棄することで、複合体を得ることができる。これらの処理は、使用する鉄還元細菌が、嫌気性細菌であっても、好気性条件下で行うことができる。また、得られた複合体は、水分の蒸発を防ぐ状態(例えば、蓋付ビンに入れるなど)におけば、室温で保管することができる。また、この状態で、数週間おいても、吸着能力や還元能力を維持することができる。
【0034】
得られる複合体は、使用する還元細菌の種類により、異なる。ただし、例えば鉄のように還元細菌が還元する対象が共通し、還元状態(還元された価数が同じなど)が共通し、近似した培地を用いた場合は、近似した複合体が得られる。例えば、S.algae、S.oneidensis、S.putrefacienceを用いた場合、同様の繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体を得ることができる。また、複合体の組成が、鉄とリンを含むことも、共通する。本明細書中で、略球形集合体とは、球形であってもよく、球形の一部に欠損があってもよいということを意味する。シワネラ族の鉄還元細菌を用いる場合、複合体は繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。略球状集合体の多くは、液中で粒径100nm〜1μmであり、粒径2μm程度の物も存在し、平均粒径は、サブミクロン程度である。また、この複合体の外周部は、内部よりもリンが比較的多く存在し、吸着機能を有する。
【0035】
(複合体の吸着機能)
本発明の複合体は、吸着性である。本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。溶液中に存在するイオン性を有する物質は、有機物、無機物いずれであってもよい。イオン性を有する物質は、金属であれば、好ましい。吸着される金属としては、例えば、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属、レアアースなどが挙げられる。レアメタルと白金族金属には、一部共通する元素も含まれる。また、吸着処理をするイオン性を有する物質は、一種類であってもよく、複数種であってもよい。なお、複合体の構成成分として、鉄とリン以外の成分を含ませることにより、吸着する物質と吸着量を適宜変更することができる。
【0036】
レアメタルとしては、例えばリチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、タリウム、ビスマスが挙げられる。
【0037】
貴金属としては、例えば金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムが挙げられる。
【0038】
白金族金属としては、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられる。
【0039】
重金属としては、例えば銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、ウラン、プルトニウムなどが挙げられる。
【0040】
レアアースとは、希土類元素で、例えばスカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。
【0041】
本発明の複合体は、酸性〜アルカリ性溶液の広いpHの範囲で、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。例えば、pH1.0〜10.0程度の範囲である。このように、本発明の複合体は、弱アルカリ性条件〜中性条件〜強酸性条件下までの広範なpH領域で溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。また、イオン性を有する物質を吸着した後の吸着剤を上記吸着pH以下の強酸性条件下にすることで、吸着したイオン性を有する物質の脱離が可能である。
【0042】
本発明の複合体を用いると、金属の価数や処理液のpHに関係なく、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。また、本発明の複合体は、電子材料、電子機器、鉱物中に含まれるレアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを、溶液状態にすることで、容易に吸着する。このため、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを容易に回収することができる。さらに、本発明の複合体は、金属などを容易に吸着する。したがって、例えば、イオン性を有する物質吸着させた複合体を電池の活物質などに直接使用することができる。
【0043】
本発明の複合体は、イオン交換反応で、イオン性を有する物質を吸着する。したがって、吸着したイオン性を有する物質の脱離した後に、複合体の再生をすることができる。また、本発明の複合体は、イオン性を有する物質により、吸着性が異なる。したがって、複数のイオン性を有する物質が存在しても、選択して吸着することができる。このように、本発明の複合体は、異なる機能を有する。この結果、吸着条件、脱離条件を選択することで、複数のイオン性を有する物質から、個々の物質を純度良く分離することができる。
【0044】
(複合体の還元機能)
本発明の複合体は、還元性を有する。本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を還元することができる。鉄とリンとを主成分とする複合体は、例えば、金、白金、パラジウムなどの貴金属、白金族金属を還元する。なお、複合体の構成成分として、鉄とリン以外の成分を含ませることにより、還元する物質と還元量を適宜変更することができ。
【0045】
本発明の複合体は、湿潤状態であれば、室温で数週間以上吸着能・還元能などの機能を維持することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(複合体の作製)
鉄還元細菌S.algae(ATCC 51181株)をクエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて細菌培養・増殖を行った。この培地には電子受容体としてFe(III)イオンが56mol/m3含まれている。細菌は、増殖末期になると、前記鉄培地中のFe(III)イオンが細菌により還元され培地が黒色から褐色に変色した。
【0048】
その後1週間程度そのまま培養を続けると細菌によるFe(III)イオン還元量が増大し、前記培地が褐色から肌色へ変色した。還元された物質は、培地の低層に沈殿した。培養した培地を遠心分離(8000rpm)で固液分離し、沈殿物を回収した。沈殿物に、洗浄のためイオン交換水を注入・攪拌し、遠心分離で沈殿物を回収した。この沈殿物に、少量のイオン交換水を注入した。
【0049】
上記得られた沈殿物を、室温下で、数日放置した。沈殿物は、細菌層(上澄)と還元物層(下層)に分離された。上澄みの細菌層を廃棄して、複合体を得た。
【0050】
(実施例2)
(レアアース(Dy)回収性能)
上記の製造方法で作製した複合体を用いて、希土類元素の回収性能について評価した。
検体として、濃度調整した塩化ジスプロシウム溶液(DyCL3)を使用した。塩化ジスプロシウム溶液1.4mLに対し、上記の複合体を5倍希釈したものを5ml注入した。処理液は、総量6.4ml、ジスプロシウム(III)の最終濃度が40mol/m3になるように調整した。この液を攪拌しながら、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した溶液のDy濃度をICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図1に示す。図1は、本発明の複合体のDy吸着率を示すグラフである。図1において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているジスプロシウム(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0051】
図1から、本実施例の複合体を用いると、反応開始後15分で溶液中にDyが存在していないことがわかる。このことから、本実施例の複合体を用いると、反応開始後15分以内に、40mol/m3のジスプロシウム(III)を100%吸着することができることがわかる。すなわち、本実施例の複合体は、吸着剤として機能することがわかった。また、ジスプロシウム(Dy)に対する複合体の飽和吸着量は0.3〜0.48g/gであった。
【0052】
(実施例3)
(酸性条件下での吸着評価)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、酸性条件下での吸着を評価した。
検体として、濃度調整した塩化ネオジウム溶液(NdCl3)を使用した。実施例1の複合体を5倍希釈したものを2mL注入した。処理液は、総量7mL、最終濃度44mM(Nd)になるように調整した。上記の濃度条件で、pHをpH1.19(複合体添加後pH2.17)、pH6.41(複合体添加後pH4.18)の2検体についてpHの影響による回収率を評価した。反応は、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離後の溶液のNd濃度を、ICP発光分析装置を用いて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図2に示す。図2は、pHを変えた場合の本発明の複合体のNd吸着率を示すグラフである。図2において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているNd(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、×はpH1.19で複合体を添加したものを、△はpH6.41で複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0053】
図2から、本実施例の複合体を用いると、pHをpH1.19(複合体添加後pH2.17)、pH6.41(複合体添加後pH4.18)のいずれにしたものであっても、Ndの吸着率に有意な差がないことがわかる。このことから、本実施例の複合体を用いると、酸性条件下であっても、吸着ができることがわかる。本実施例の複合体は、吸着剤として機能することがわかった。
【0054】
また、実施例2で用いたジスプロシウム(III)のみでなく、ネオジウムを吸着することができることから、多種のレアアースを吸着することができることがわかる。また、ネオジウム(Nd)に対する複合体の飽和吸着量は0.25〜0.35g/gであった。
【0055】
(実施例4)
(多種金属元素への適応と選択性の評価)
上記の製造方法で作製した複合体を用いて、Pd(PdCl3)、In(InCl3)、Ga(GaCl3)の吸着性、選択性を評価した。
検体として、濃度調整したPd(PdCl3 金属濃度:11.7mM、反応総量:5mL)、In(InCl3 金属濃度:11.8mM、反応総量:5mL)、Ga(GaCl3 金属濃度:17.8mM、反応総量:5mL)溶液を作製した。実施例1で得られた本実施例の複合体を5倍希釈し2mL注入し、金属イオン回収率を求めた。反応は、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した。得られた溶液の各金属イオン濃度をICP発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図3に示す。図3は、本発明の複合体の各金属イオンの吸着率を示すグラフである。図3(a)は、Pdの吸着率を、図3(b)は、Inの吸着率を、図3(c)は、Gaの吸着率を、示す。図3において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているPd(III)濃度、In(III)濃度、Ga(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、△はPd、In、Gaを、それぞれ示す。
【0056】
図3から、本実施例の複合体は、Pd,In,Gaの3元素を回収することができることがわかる。また、いずれの回収試験も同一濃度の複合体を使用している。ほぼ同一濃度・同一容量のPdとInを比較すると、Inイオンは、Pdイオンより高い吸着性を示しており、本複合体は吸着に選択性を有していることがわかる。また、Pdイオン回収反応においては金属還元を示す変色および微粒子を形成していた。このことから、この複合体が還元機能を有していることがわかった。また、パラジウム(Pd)に対する複合体の飽和吸着量は0.12〜0.18g/gであった。
【0057】
また、本実施例のパラジウムの吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、瞬時に還元反応を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Pd(II)からPd(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Pdを吸着する機能だけでなく、Pdを還元する機能を有していることがわかった。
【0058】
(実施例5)
(吸着イオンの脱離・収集の評価)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、塩化ジスプロシウム(DyCl3)溶液からDyを回収し、回収後の還元物質からの金属イオンの脱離収集ついて評価した。
検体として、濃度調整したDy(DyCl3 金属濃度:34.4mM、反応総量:7.5mL)溶液を作製した。この溶液に、実施例1の複合体を5倍希釈し1.5mL注入し、2時間反応によりDy(DyCl3)を全量回収(ICP発光分析装置で確認)した。この液を、1mLずつ分取し、各pH濃度に調整したHCl溶液を160μLずつ添加した。HCL溶液添加後の液のpHは、それぞれ2.84、2.05、1.45、0.98とした。それぞれの液を30分攪拌を行った。その後、遠心処理にて複合体を分離した溶液の金属濃度をICP発光分析装置にて測定した。これから、Dyの脱離量とpHの関係について評価した。結果を図4に示す。図4は、Dyの脱離量とpHの関係について評価したグラフである。図4において、横軸は、HCl溶液を添加後の液のpHを、縦軸は、液相中のDy(III)濃度とDy脱離量をそれぞれ示す。
【0059】
図4から、pH条件を酸性側にすることで、脱離するDy量が増加していくことがわかる。脱離量はpH1.45で80%以上、pH0.98で95%超に達する。このことから、この複合体が回収した金属をpH調整することで再度、脱離・収集できることがわかる。
【0060】
(実施例6)
(混合溶液からのレアアース選択性)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、Fe(FeCl3)、Nd(NdCl3)混合溶液からのレアアース(Nd)回収への適応について評価した。
ネオジウム磁石を想定した元素混合比率(Nd30%,Fe68%)になるように濃度調整(Fe:2500ppm、Nd:1100ppm)した検体を作製した。本実施例1の複合体、イオン交換水を加えて総量5mLで回収反応を行った。複合体投入量は、1mL,2mLの2水準注入し、複合体の金属イオン回収挙動に及ぼす影響についても調査した。反応は、経過時間ごとに、上記液を500μL採取した。この液を遠心処理にて複合体を分離し、溶液の各金属イオン濃度をICP発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図5に示す。図5は、混合溶液からのレアアース選択性を評価するグラフである。
【0061】
図5から、複合体投入量(1mL,2mL)に比例してNd元素の回収量が増加していることがわかる。一方、Fe濃度は、1mLでは、ほぼ変わらず、2mLでは増加している。本発明の複合体の回収反応がイオン交換反応を利用していることから、Nd元素の吸着に伴い、複合体中Feを放出していることが推測される。いずれにしても、混合溶液下であっても、この複合体はNdへの選択性が高いことがわかる。
【0062】
(実施例7)
(Auに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Au(III)に対する回収性能について実験的調査した。
検体として、濃度調整した塩化金溶液(AuCl3)を使用した。2.6mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量(「複合体溶液中に含まれる複合体の量」をいう、以下、同じ) 0.075g)を添加し、総量3.1mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Au)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図6に示す。図6は、本発明の複合体のAu吸着率を示すグラフである。図6において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解している金(III)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0063】
図6から、初期Au濃度7800ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Au濃度は1700ppmに濃度低下していることがわかる。これから、本発明の複合体は、Auに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.21g/gDryであった。
【0064】
また、本実施例の吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、瞬時に還元反応を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Au(III)からAu(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Auを吸着する機能だけでなく、Auを還元する機能を有していることがわかった。
【0065】
(実施例8)
(Ptに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Pt(IV)に対する回収性能について実験的調査した。
【0066】
検体として、濃度調整したヘキサクロロ白金(IV)酸溶液(H2PtCl6)を使用した。2.8mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量 0.089g)を添加し、総量3.3mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Pt)濃度をICP(発酵分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図7に示す。図7は、本発明の複合体のPt吸着率を示すグラフである。図7において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解している白金(IV)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0067】
図7から、初期Pt濃度2200ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応30分後に採取した検体では、Pt濃度は550ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Ptに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.08g/gDryであった。
【0068】
また、本実施例の吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、還元状態を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Pt(IV)からPt(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Ptを吸着する機能だけでなく、Ptを還元する機能を有していることがわかった。
【0069】
(実施例9)
(Rhに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Rh(III)に対する回収性能について実験的調査した。
【0070】
検体として、濃度調整した塩化ロジウム(III)溶液(RhCl3)を使用した。3mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量0.106g)を添加し、総量3.5mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Rh)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図8に示す。図8は、本発明の複合体のRh吸着率を示すグラフである。図8において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているロジウム(III)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0071】
図8から、初期Rh濃度2060ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Rh濃度は630ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Rhに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.05g/gDryであった。
【0072】
(実施例10)
(Coに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Co(III)に対する回収性能について実験的調査した。
【0073】
検体として、濃度調整した塩化コバルト溶液(CoCl2)を使用した。2mLの検体に対し、複合体溶液1.0mL(複合体質量0.22g)を添加し、総量3.0mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Co)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図9に示す。図9は、本発明の複合体のCo吸着率を示すグラフである。図9において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているコバルト(II)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0074】
図9から、初期Co濃度1860ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Co濃度が700ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Coに対し吸着反応することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.02g/gDryであった。
【0075】
(実施例11)
(複合体の構造解析)
本発明の複合体の微細内部構造を透過電子顕微鏡(TEM JEM−2100F、日本電子(株)製)で詳細解析した。
複合体は、培養初期に作られた球形になっていないものと、培養が進み略球形になったものとを用いた。水溶液状の複合体をアセトン置換し、エポキシ樹脂で置換・固定した上で、ミクロトームにより70nmの切片を作製、透過電子顕微鏡で吸着剤内部構造を観察した。結果を図10に示す。図10は、本発明の複合体をTEMで撮影した写真である。図10(a)は培養初期に作られた球形になっていない複合体を、図10(b)は培養が進み略球形になった複合体を示す。
【0076】
図10から、本発明の複合体は繊維状であり、培養が進むにつれて繊維状の複合体が略球状に集合した構造になることがわかる。また、本発明の複合体が、繊維状の複合体の集合物であることから、反応表面積が広いことがわかる。
【0077】
また、培養初期の繊維状の複合体を用いても、レアアースなどに対する吸着能があることを確認した。
【0078】
(実施例12)
(還元細菌種による複合体作製能力の検討)
S.algae、S.oneidensis、S.putrefaciensの3種の細菌を用いて、実施例1と同一の鉄培地にて培養し、複合体の作製可否の検討および金属イオンに対する吸着能についての実験的検討を実施した。
【0079】
同一培地条件で培養した3種の細菌から同様の複合体が作製できることがわかった。それぞれの複合体は、各種金属イオン(Nd,Dy,Au,Pt,Pd,Rh)に対して有意差なく吸着反応することを確認した。表1は、各元素に対する各複合体の飽和吸着量を示す表である。
【0080】
【表1】
【0081】
表1から、これらの各細菌由来の複合体は、異なる金属に対しても、同様の金属吸着性を有することがわかる。また、Au、Pd、Ptに対しても、還元性を有していた。このことから、鉄還元機能を有する金属還元菌を用いれば、同様の複合体が得られることがわかった。
【0082】
(実施例13)
(培地組成改変による吸着剤組成の変化の検討)
実施例1で得られた複合体を2M−HClで溶解し、ICP(発光分析装置)にて元素分析した。複合体中には、Fe、Pの主成分の他に、微量な元素が複数含まれていることがわかった。これらの元素は、培地中に微量に含まれる成分由来であると推測された。微量成分の一つにマンガン(Mn)が含まれることがわかった。このマンガンは、培地に1mg/L含まれる硫酸マンガン(MnSO4)由来であると推測された。
【0083】
培地中の硫酸マンガン量を100倍、1000倍、2000倍にした培地を作製して、S.algaeを用いて、培養し、複合体を作製した。それぞれの複合体をHClで溶解し、ICP(発光分析装置)にて元素分析した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2から、培地中に添加したMnSO4が増量するのに比例して複合体中のMn比率が増加していることがわかる。また、Fe比率は低下している。一方、いずれの複合体もPの比率に大きな変化がなく、約1/4含まれていることがわかった。これらの結果から、培地の成分を改変することで、リンを約1/4含み、他の組成が異なる複合体が得られることがわかる。
【0086】
(実施例14)
(培地組成改変により作製した複合体の金属吸着効果)
通常、培地中に0.1g/L含まれる塩化カリウム(KCl)量を30倍(3g/L)添加し、S.algaeを培養し、複合体を作製した。この複合体と通常作製した複合体についてPtの回収性能について比較した。
【0087】
検体として、濃度調整したヘキサクロロ白金(IV)酸溶液(H2PtCl6)を使用した。(1)2.0mLの検体に対し、通常の培地で作製した複合体溶液0.5mL(吸着剤容量0.14g)を添加しイオン交換水0.5mLを加え総量3.0mLにしたもの、(2)KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体0.5mL(吸着剤容量0.14g)を添加しイオン交換水0.5mLを加え総量3.0mLにしたもの、(3)通常の培地で作製した複合体を2倍(1.0mL、複合体容量0.28g)添加し、イオン交換水を加えず総量3.0mLにしたものの、3検体で反応性を比較した。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液をそれぞれ500μL採取し、遠心処理にて吸着剤を分離した。分離した溶液の金属(Pt)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図11に示す。図11は、本発明の複合体において、カリウム量を変えた培地を用いて作製した複合体のPt吸着率を示すグラフである。図11において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているPt(IV)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は通常の培地を用いて作製した複合体を添加したものを、●はKClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体を添加したものを、◆は通常の培地を用いて作製した複合体を2倍添加したものを、それぞれ示す。
【0088】
図11から、初期Pt濃度4200ppmの溶液に対し、通常の培地を用いて作製した複合体を混合した検体は、初期金属濃度が高濃度であったため、ほとんど反応が見られなかった。KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体では15〜45分にかけて反応を示し、60分後に飽和状態に達した。両反応は、同一量の複合体を添加しており、KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体の方が反応性に優れていることがわかる。また、通常の複合体を2倍量添加した検体との比較では、反応開始時間に明らかな違いがあり、KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体が迅速性でも優れていることがわかる。
【0089】
このように、本発明の複合体は、培地組成を改変することで複合体組成が変わり、その改変により金属イオン吸着反応に影響することがわかる。したがって、目的金属イオンに合わせた組成改変をすることで特徴の違う複合体を作製することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の複合体を用いると、金属の価数や処理液のpHに関係なく、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。また、本発明の複合体は、電子材料、電子機器、鉱物中に含まれるレアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを、溶液状態にすることで、容易に吸着する。このため、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを容易に回収することができる。さらに、本発明の複合体は、金属などを容易に吸着する。したがって、例えば、イオン性を有する物質吸着させた複合体を電池の活物質などに直接使用することができる。
また、本発明の複合体は、特定の貴金属、白金族金属を還元することもできるので、新たな還元剤として使用することもできる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との複合体とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染の問題から、排水などに含まれる重金属などを除去する環境浄化材が注目されている。環境浄化材として、例えば、鉄塩などを用いる凝集沈殿法が知られている。しかし、凝集沈殿法では、金属の価数により十分に重金属などを除去できないなどという問題があった。
【0003】
このため、グリーンラストと共に、鉄フェライトおよび還元性鉄水酸化物の少なくともいずれかを含む還元性水質浄化材が開発されている(例えば、特許文献1参照)。この還元性水質浄化材を用いると、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。
【0004】
しかし、この還元性水質浄化材は、中性からアルカリ性条件下でのみ金属回収機能を発揮する。一方、酸性の排水などは、直接処理できず、アルカリ処理などの前処理が必要である。このため、アルカリ処理のための処理設備や薬液が必要となるという問題がある。
【0005】
この還元性水質浄化材は、製造過程で、酸化を防止する必要がある。このため、密閉容器内で、脱酸素処理をし、複雑なpH処理(アルカリ処理)を繰り返す。したがって、製造が煩雑であるという問題がある。
【0006】
また、近年、半導体材料やハンダペースト、液晶ディスプレイなどの電子機器に、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどが用いられている。これらの金属は、含有量が少ない鉱物であったり、固有の含有鉱物がなく、他の鉱物中に含まれる微量成分であったりするものが多い。このため、これらの金属を効率よく回収する方法が望まれる。
【0007】
金、白金などの貴金属、白金族金属を回収するためには、イオン交換樹脂、キレート樹脂など合成樹脂製吸着剤を用いる方法などが知られている。しかし、イオン交換樹脂など合成樹脂製吸着剤は、高価であり、再生などの処理を要求する。したがって、処理が簡単で貴金属を還元して回収できる吸着剤が望まれる。
【0008】
一方、本発明者らは、鉄還元細菌を用い、貴金属または白金族金属のイオンから貴金属または白金族金属を還元して金属を回収する方法を開発している(例えば、特許文献2参照)。また、本発明者らは、鉄還元細菌を用い、インジウム、ガリウムまたはスズを含む金属含有物からインジウム、ガリウムまたはスズを回収する、金属の回収方法を提案している(例えば、特許文献3参照)。しかし、鉄還元細菌を用いる場合、培養条件などに影響される。このため、保存性を有し、安定して供給する金属回収材があればさらに好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−289338号公報
【特許文献2】特開2007−113116号公報
【特許文献3】特開2011−26701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との複合体とその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、還元細菌の培養過程で、金属還元物質と培地成分との化合物である複合体が得られることを見出した。また、この複合体が、溶液中に存在するイオン性を有する物質を、迅速かつ効率よく吸着する吸着剤および特定の貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元する還元剤として機能することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、還元細菌の培養過程で得られる、金属還元物質を利用した複合体およびその新たな機能を見出したものである。
【0012】
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。上記還元細菌は、少なくとも1種類の生物鉱物化機能を有する細菌である。
【0013】
上記培地成分は、電子供与体と電子受容体を含むとよい。
【0014】
上記還元細菌は、鉄還元細菌である。また、上記鉄還元菌は、シワネラ属である。
【0015】
上記複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含むものである。上記複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。
【0016】
上記複合体は、吸着性および/または還元性を有する。
【0017】
上記複合体は、還元細菌をこの還元細菌が還元できる酸化物を含む培地中で培養する工程と、上記還元細菌による還元物と培地中の成分とが結合する工程と、上記結合体が成長する工程とを、含み、製造することができる。
【0018】
上記複合体を用い、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。このイオン性を有する物質は、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属、レアアースからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属であるとよい。また、上記複合体を用い、貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産され、金属還元物質と培地成分との化合物である。このため、細菌に栄養源(鉄培地)を与えるだけで、金属還元物質を生産する。この金属還元物質と培地中のリンを含む培地成分とで化合物を形成することができる。また、この複合体は、湿潤状態であれば、常温で、比較的長期間安定して保存することができる。
【0020】
また、鉄還元細菌を用いて、得られた複合体は、少なくとも鉄とリンとを含む。従来の鉄を含む吸着分子とは異なる機能を有する。
【0021】
このように、本発明の複合体は、吸着性や還元性を有する。このため、本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を迅速に収率良く吸着することが、または貴金属イオンまたは白金族金属イオンを還元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の複合体のDy吸着率を示すグラフである。
【図2】図2は、pHを変えた場合の本発明の複合体のNd吸着率を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の複合体の各金属イオンの吸着率を示すグラフである。
【図4】図4は、Dyの脱離量とpHの関係について評価したグラフである。
【図5】図5は、混合溶液からのレアアース選択性を評価するグラフである。
【図6】図6は、本発明の複合体のAu吸着率を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の複合体のPt吸着率を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明の複合体のRh吸着率を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明の複合体のCo吸着率を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明の複合体をTEMで撮影した写真である。
【図11】図11は、本発明の複合体において、カリウム量を変えた培地を用いて作製した複合体のPt吸着率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明を詳細に説明する。
[複合体]
本発明の複合体は、還元細菌の培養過程で生産される複合体であって、金属還元物質と培地成分との化合物である。
【0024】
(還元細菌)
本発明の複合体の生産に用いる還元細菌は、生物鉱物化機能を有する細菌であればよい。生物鉱物化機能とは、生物が無機鉱物をつくる機能をいう。生物鉱物化機能を有する還元細菌としては、鉄還元細菌、セレン還元細菌など公知の金属イオン還元菌が挙げられる。本発明の複合体は、還元細菌が作り出した金属還元物質と培地成分との化合物であると考えられる。したがって、金属還元物質を作り出せる還元細菌であれば、使用することができる。これらの還元細菌のうち、好ましい還元細菌は鉄還元細菌である。使用することができる鉄還元細菌としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。還元細菌は、単独で用いてもよく、2種類以上併用してもよい。均一な金属還元物質を作るには、還元細菌を単独で用いるのが好ましい。
【0025】
(鉄還元細菌)
本発明で用いる鉄還元細菌は、電子供与体から電子の供給を受けて、鉄を還元する細菌である。このような鉄還元菌としては、例えば、ゲオバクター属(代表種:Geobacter metallireducens:ゲオバクター メタリレデューセンス:ATCC(American Type Culture Collection)53774株)、デスルフォモナス属(代表種:Desulfuromonas palmitatis:デスルフォモナス パルミタティス:ATCC51701株)、デスルフォムサ属(代表種:Desulfuromusa kysingii:デスルフォムサ キシンリDSM(Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen)7343株)、ペロバクター属(代表種:Pelobacter venetianus:ペロバクター ベネティアヌス:ATCC2394株)、シワネラ属(Shewanella algae:シワネラ アルゲ(以下、「S.algae」という):ATCC51181株、Shewanella oneidensis:シワネラ オネイデンシス(以下、「S.oneidensis」という):ATCC700550株、シワネラ プトレファシエンス(以下、「S.putrefacience」という):ATCC BAA−453株)、フェリモナス属(Ferrimonas balearica:フェリモナス バレアリカ:DSM9799株)、エアロモナス属(Aeromonas hydrophila:エアロモナス ヒドロフィラ:ATCC15467株)、スルフロスピリルム属(代表種:Sulfurospirillum barnesii:スルフロスピリルム バーネシイ:ATCC700032株)、ウォリネラ属(代表種:ウォリネラ スシノゲネス:Wolinella succinogenes:ATCC29543株)、デスルフォビブリオ属(代表種:Desulfovibrio desulfuricans:デスルフォビブリオ デスルフリカンス:ATCC29577株)、ゲオトリクス属(代表種:Geothrix fermentans:ゲオトリクス フェルメンタンス:ATCC700665株)、デフェリバクター属(代表種:Deferribacter thermophilus:デフェリバクター テルモフィルス:DSM14813株)、ゲオビブリオ属(代表種:Geovibrio ferrireducens:ゲオビブリオ フェリレデューセンス:ATCC51996株)、ピロバクルム属(代表種:Pyrobaculum islandicum:テルモプロテウス アイランディカム:DSM4184株)、テルモトガ属(代表種:Thermotoga maritima:テルモトガ マリティマ:DSM3109株)、アルカエグロブス属(代表種:Archaeoglobus fulgidus:アルカエグロブス フルギダス:ATCC49558株)、ピロコックス属(代表種:Pyrococcus furiosus:ピロコックス フリオサス:ATCC43587株)、ピロディクティウム属(代表種:Pyrodictium abyssi:ピロディクティウム アビーシイ:DSM6158株)などが例示できる。これらの鉄還元細菌は、嫌気性細菌である。
【0026】
本発明で用いる鉄還元細菌は、当該細菌に適した培地を用いて、増殖・維持を行えばよい。例えばS.algaeは、例えば、pHが7.0で、電子供与体として乳酸ナトリウム(32mol/m3)が、電子受容体としてFe(III)イオン(56mol/m3)が含まれている、クエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて、回分培養して増殖させ、維持する。鉄イオンの塩は、この例では、クエン酸塩であるが、使用する培地、使用する鉄還元細菌の種類により、適宜選択すればよい。例えば、電子供与体として、ギ酸塩、水素ガス、乳酸塩、ピルビン酸塩、酢酸塩、安息香酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、エタノール、エチレングリコール、フルクトース、フマル酸塩、グルコース、グリセロール、リンゴ酸塩、フェノール、コハク酸塩、酒石酸塩などが挙げられる。電子受容体としては、Mn(III)、Mn(IV)、Fe(III)、Cr(VI)、U(VI)などが挙げられる。
【0027】
本発明で用いる鉄還元細菌のうち、好ましいのはシワネラ属の鉄還元細菌である。また、シワネラ アルゲ、シワネラ オネイデンシス、シワネラ プトレファシエンスがさらに好ましい。
【0028】
(複合体の製造方法)
本発明では、使用する還元細菌が金属還元反応を起こす培地で培養することにより、本発明の複合体を構成する金属還元物質が得られる。金属還元物質は、例えば以下のようにして生産する。以下の例では、鉄還元菌を用いて、複合体を製造する場合について説明する。他の還元細菌を用いる場合であっても、同様である。
【0029】
鉄還元細菌が金属還元反応を起こす培地で、通常の温度、環境で細菌培養・増殖を行う。この培地には、通常電子受容体としてFe(III)イオンが含まれている。鉄還元細菌は、培地に含まれる乳酸やクエン酸などを酸化して電子を取り出し、細胞増殖する。取り出した電子は、Fe(III)イオンを還元して、Fe(II)イオンにする。この結果、培養後24〜36時間経過し、増殖末期になると、前記鉄培地中の培地が黒色から褐色に変色する。その後さらに1週間程度そのまま培養を続けると細菌によるFe(III)イオン還元量が増大する。培地には、リン酸塩が含まれる。還元反応により得られたFe(II)イオンとリン酸のリンとが化合物を形成する。また、培地中に微量成分が含まれる。この微量成分を複合体に取り込むこととしてもよい。例えば、培地中に、マンガン、カリウムなど他の成分を加えておく、あるいは培地の添加成分量を増やすことで、鉄とリン以外の成分が含まれる複合体を得ることができる。複合体は、培地の底層に沈殿する。この結果、前記培地が褐色から肌色へ変色する。
【0030】
本発明の複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含む。鉄とリンを主成分とする複合物の場合は、鉄とリンの含有量は、質量比で略3:1である。複合体がカリウム、マンガンなどの他の成分をさらに含む場合は、鉄の含有率が低下する。培地に含ませる他の成分の含有量や種類を変えることで、吸着剤や還元剤の機能を変えることができる。吸着剤や還元剤の機能とは、例えば吸着されるあるいは還元される物の種類や量である。また、培地に含ませる他の成分の含有量や種類を変えることで、吸着や還元以外の新たな機能を得ることができる。培地に含ませる他の成分には、上記する電子受容体やカリウムなど複合体に取り込まれる成分を用いることができる。カリウムは、塩化カリウムなどのようにpHに影響を与えないもの、あるいは水酸化カリウム、炭酸カリウムのようにpH調整剤として加えるものであってもよい。
【0031】
本発明の複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。実施例で説明するように、金属還元物質と培地中のリンや他の成分との化合物は、初期には繊維状である。培養を続けると複合体は、繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体となる。本発明の複合体は、繊維状物質であっても、この繊維状物質の略球形集合体であっても、同様の機能を有する。したがって、使用する目的に応じて、形状を選択して使用すればよい。また、本発明の複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体であることから、反応表面積が非常に広い。この結果、吸着剤や還元剤として用いる場合に、処理効率に優れる。
【0032】
本発明の複合体は、培養した培地を遠心分離などの公知の分離方法を用いて、固液分離することで得られる。分離した固体分は、イオン交換水、蒸留水などを加えて攪拌、混合して洗浄し、再度遠心分離などで、固体分を回収し、状態保持のために少量のイオン交換水や蒸留水などを注入し、静置しておく。
【0033】
上記固体分は、複合体と細菌との混合物である。少量のイオン交換水や蒸留水などを注入した状態で、室温で、数日間放置すると、上記固体分は、細菌層(上澄)と複合体層(下層)に分離する。上澄みの細菌層を廃棄することで、複合体を得ることができる。これらの処理は、使用する鉄還元細菌が、嫌気性細菌であっても、好気性条件下で行うことができる。また、得られた複合体は、水分の蒸発を防ぐ状態(例えば、蓋付ビンに入れるなど)におけば、室温で保管することができる。また、この状態で、数週間おいても、吸着能力や還元能力を維持することができる。
【0034】
得られる複合体は、使用する還元細菌の種類により、異なる。ただし、例えば鉄のように還元細菌が還元する対象が共通し、還元状態(還元された価数が同じなど)が共通し、近似した培地を用いた場合は、近似した複合体が得られる。例えば、S.algae、S.oneidensis、S.putrefacienceを用いた場合、同様の繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体を得ることができる。また、複合体の組成が、鉄とリンを含むことも、共通する。本明細書中で、略球形集合体とは、球形であってもよく、球形の一部に欠損があってもよいということを意味する。シワネラ族の鉄還元細菌を用いる場合、複合体は繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である。略球状集合体の多くは、液中で粒径100nm〜1μmであり、粒径2μm程度の物も存在し、平均粒径は、サブミクロン程度である。また、この複合体の外周部は、内部よりもリンが比較的多く存在し、吸着機能を有する。
【0035】
(複合体の吸着機能)
本発明の複合体は、吸着性である。本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。溶液中に存在するイオン性を有する物質は、有機物、無機物いずれであってもよい。イオン性を有する物質は、金属であれば、好ましい。吸着される金属としては、例えば、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属、レアアースなどが挙げられる。レアメタルと白金族金属には、一部共通する元素も含まれる。また、吸着処理をするイオン性を有する物質は、一種類であってもよく、複数種であってもよい。なお、複合体の構成成分として、鉄とリン以外の成分を含ませることにより、吸着する物質と吸着量を適宜変更することができる。
【0036】
レアメタルとしては、例えばリチウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、パラジウム、インジウム、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、白金、タリウム、ビスマスが挙げられる。
【0037】
貴金属としては、例えば金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムが挙げられる。
【0038】
白金族金属としては、例えばルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金が挙げられる。
【0039】
重金属としては、例えば銅、クロム、カドミウム、水銀、亜鉛、ヒ素、マンガン、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、錫、ビスマス、ウラン、プルトニウムなどが挙げられる。
【0040】
レアアースとは、希土類元素で、例えばスカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。
【0041】
本発明の複合体は、酸性〜アルカリ性溶液の広いpHの範囲で、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。例えば、pH1.0〜10.0程度の範囲である。このように、本発明の複合体は、弱アルカリ性条件〜中性条件〜強酸性条件下までの広範なpH領域で溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着することができる。また、イオン性を有する物質を吸着した後の吸着剤を上記吸着pH以下の強酸性条件下にすることで、吸着したイオン性を有する物質の脱離が可能である。
【0042】
本発明の複合体を用いると、金属の価数や処理液のpHに関係なく、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。また、本発明の複合体は、電子材料、電子機器、鉱物中に含まれるレアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを、溶液状態にすることで、容易に吸着する。このため、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを容易に回収することができる。さらに、本発明の複合体は、金属などを容易に吸着する。したがって、例えば、イオン性を有する物質吸着させた複合体を電池の活物質などに直接使用することができる。
【0043】
本発明の複合体は、イオン交換反応で、イオン性を有する物質を吸着する。したがって、吸着したイオン性を有する物質の脱離した後に、複合体の再生をすることができる。また、本発明の複合体は、イオン性を有する物質により、吸着性が異なる。したがって、複数のイオン性を有する物質が存在しても、選択して吸着することができる。このように、本発明の複合体は、異なる機能を有する。この結果、吸着条件、脱離条件を選択することで、複数のイオン性を有する物質から、個々の物質を純度良く分離することができる。
【0044】
(複合体の還元機能)
本発明の複合体は、還元性を有する。本発明の複合体は、溶液中に存在するイオン性を有する物質を還元することができる。鉄とリンとを主成分とする複合体は、例えば、金、白金、パラジウムなどの貴金属、白金族金属を還元する。なお、複合体の構成成分として、鉄とリン以外の成分を含ませることにより、還元する物質と還元量を適宜変更することができ。
【0045】
本発明の複合体は、湿潤状態であれば、室温で数週間以上吸着能・還元能などの機能を維持することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
(複合体の作製)
鉄還元細菌S.algae(ATCC 51181株)をクエン酸第二鉄培地(ATCC No.1931)を用いて細菌培養・増殖を行った。この培地には電子受容体としてFe(III)イオンが56mol/m3含まれている。細菌は、増殖末期になると、前記鉄培地中のFe(III)イオンが細菌により還元され培地が黒色から褐色に変色した。
【0048】
その後1週間程度そのまま培養を続けると細菌によるFe(III)イオン還元量が増大し、前記培地が褐色から肌色へ変色した。還元された物質は、培地の低層に沈殿した。培養した培地を遠心分離(8000rpm)で固液分離し、沈殿物を回収した。沈殿物に、洗浄のためイオン交換水を注入・攪拌し、遠心分離で沈殿物を回収した。この沈殿物に、少量のイオン交換水を注入した。
【0049】
上記得られた沈殿物を、室温下で、数日放置した。沈殿物は、細菌層(上澄)と還元物層(下層)に分離された。上澄みの細菌層を廃棄して、複合体を得た。
【0050】
(実施例2)
(レアアース(Dy)回収性能)
上記の製造方法で作製した複合体を用いて、希土類元素の回収性能について評価した。
検体として、濃度調整した塩化ジスプロシウム溶液(DyCL3)を使用した。塩化ジスプロシウム溶液1.4mLに対し、上記の複合体を5倍希釈したものを5ml注入した。処理液は、総量6.4ml、ジスプロシウム(III)の最終濃度が40mol/m3になるように調整した。この液を攪拌しながら、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した溶液のDy濃度をICP(誘導結合プラズマ)発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図1に示す。図1は、本発明の複合体のDy吸着率を示すグラフである。図1において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているジスプロシウム(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0051】
図1から、本実施例の複合体を用いると、反応開始後15分で溶液中にDyが存在していないことがわかる。このことから、本実施例の複合体を用いると、反応開始後15分以内に、40mol/m3のジスプロシウム(III)を100%吸着することができることがわかる。すなわち、本実施例の複合体は、吸着剤として機能することがわかった。また、ジスプロシウム(Dy)に対する複合体の飽和吸着量は0.3〜0.48g/gであった。
【0052】
(実施例3)
(酸性条件下での吸着評価)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、酸性条件下での吸着を評価した。
検体として、濃度調整した塩化ネオジウム溶液(NdCl3)を使用した。実施例1の複合体を5倍希釈したものを2mL注入した。処理液は、総量7mL、最終濃度44mM(Nd)になるように調整した。上記の濃度条件で、pHをpH1.19(複合体添加後pH2.17)、pH6.41(複合体添加後pH4.18)の2検体についてpHの影響による回収率を評価した。反応は、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離後の溶液のNd濃度を、ICP発光分析装置を用いて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図2に示す。図2は、pHを変えた場合の本発明の複合体のNd吸着率を示すグラフである。図2において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているNd(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、×はpH1.19で複合体を添加したものを、△はpH6.41で複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0053】
図2から、本実施例の複合体を用いると、pHをpH1.19(複合体添加後pH2.17)、pH6.41(複合体添加後pH4.18)のいずれにしたものであっても、Ndの吸着率に有意な差がないことがわかる。このことから、本実施例の複合体を用いると、酸性条件下であっても、吸着ができることがわかる。本実施例の複合体は、吸着剤として機能することがわかった。
【0054】
また、実施例2で用いたジスプロシウム(III)のみでなく、ネオジウムを吸着することができることから、多種のレアアースを吸着することができることがわかる。また、ネオジウム(Nd)に対する複合体の飽和吸着量は0.25〜0.35g/gであった。
【0055】
(実施例4)
(多種金属元素への適応と選択性の評価)
上記の製造方法で作製した複合体を用いて、Pd(PdCl3)、In(InCl3)、Ga(GaCl3)の吸着性、選択性を評価した。
検体として、濃度調整したPd(PdCl3 金属濃度:11.7mM、反応総量:5mL)、In(InCl3 金属濃度:11.8mM、反応総量:5mL)、Ga(GaCl3 金属濃度:17.8mM、反応総量:5mL)溶液を作製した。実施例1で得られた本実施例の複合体を5倍希釈し2mL注入し、金属イオン回収率を求めた。反応は、経過時間ごとに、500μL採取し、遠心処理にて複合体を分離した。得られた溶液の各金属イオン濃度をICP発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図3に示す。図3は、本発明の複合体の各金属イオンの吸着率を示すグラフである。図3(a)は、Pdの吸着率を、図3(b)は、Inの吸着率を、図3(c)は、Gaの吸着率を、示す。図3において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているPd(III)濃度、In(III)濃度、Ga(III)濃度(mol/m3)を示す。また、■は複合体未添加、△はPd、In、Gaを、それぞれ示す。
【0056】
図3から、本実施例の複合体は、Pd,In,Gaの3元素を回収することができることがわかる。また、いずれの回収試験も同一濃度の複合体を使用している。ほぼ同一濃度・同一容量のPdとInを比較すると、Inイオンは、Pdイオンより高い吸着性を示しており、本複合体は吸着に選択性を有していることがわかる。また、Pdイオン回収反応においては金属還元を示す変色および微粒子を形成していた。このことから、この複合体が還元機能を有していることがわかった。また、パラジウム(Pd)に対する複合体の飽和吸着量は0.12〜0.18g/gであった。
【0057】
また、本実施例のパラジウムの吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、瞬時に還元反応を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Pd(II)からPd(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Pdを吸着する機能だけでなく、Pdを還元する機能を有していることがわかった。
【0058】
(実施例5)
(吸着イオンの脱離・収集の評価)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、塩化ジスプロシウム(DyCl3)溶液からDyを回収し、回収後の還元物質からの金属イオンの脱離収集ついて評価した。
検体として、濃度調整したDy(DyCl3 金属濃度:34.4mM、反応総量:7.5mL)溶液を作製した。この溶液に、実施例1の複合体を5倍希釈し1.5mL注入し、2時間反応によりDy(DyCl3)を全量回収(ICP発光分析装置で確認)した。この液を、1mLずつ分取し、各pH濃度に調整したHCl溶液を160μLずつ添加した。HCL溶液添加後の液のpHは、それぞれ2.84、2.05、1.45、0.98とした。それぞれの液を30分攪拌を行った。その後、遠心処理にて複合体を分離した溶液の金属濃度をICP発光分析装置にて測定した。これから、Dyの脱離量とpHの関係について評価した。結果を図4に示す。図4は、Dyの脱離量とpHの関係について評価したグラフである。図4において、横軸は、HCl溶液を添加後の液のpHを、縦軸は、液相中のDy(III)濃度とDy脱離量をそれぞれ示す。
【0059】
図4から、pH条件を酸性側にすることで、脱離するDy量が増加していくことがわかる。脱離量はpH1.45で80%以上、pH0.98で95%超に達する。このことから、この複合体が回収した金属をpH調整することで再度、脱離・収集できることがわかる。
【0060】
(実施例6)
(混合溶液からのレアアース選択性)
上記の製造方法(実施例1)で作製した複合体を用いて、Fe(FeCl3)、Nd(NdCl3)混合溶液からのレアアース(Nd)回収への適応について評価した。
ネオジウム磁石を想定した元素混合比率(Nd30%,Fe68%)になるように濃度調整(Fe:2500ppm、Nd:1100ppm)した検体を作製した。本実施例1の複合体、イオン交換水を加えて総量5mLで回収反応を行った。複合体投入量は、1mL,2mLの2水準注入し、複合体の金属イオン回収挙動に及ぼす影響についても調査した。反応は、経過時間ごとに、上記液を500μL採取した。この液を遠心処理にて複合体を分離し、溶液の各金属イオン濃度をICP発光分析装置にて測定した。また、複合体を添加していない同濃度の溶液も同様の方法で採取し、コントロールとして濃度測定した。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図5に示す。図5は、混合溶液からのレアアース選択性を評価するグラフである。
【0061】
図5から、複合体投入量(1mL,2mL)に比例してNd元素の回収量が増加していることがわかる。一方、Fe濃度は、1mLでは、ほぼ変わらず、2mLでは増加している。本発明の複合体の回収反応がイオン交換反応を利用していることから、Nd元素の吸着に伴い、複合体中Feを放出していることが推測される。いずれにしても、混合溶液下であっても、この複合体はNdへの選択性が高いことがわかる。
【0062】
(実施例7)
(Auに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Au(III)に対する回収性能について実験的調査した。
検体として、濃度調整した塩化金溶液(AuCl3)を使用した。2.6mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量(「複合体溶液中に含まれる複合体の量」をいう、以下、同じ) 0.075g)を添加し、総量3.1mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Au)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図6に示す。図6は、本発明の複合体のAu吸着率を示すグラフである。図6において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解している金(III)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0063】
図6から、初期Au濃度7800ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Au濃度は1700ppmに濃度低下していることがわかる。これから、本発明の複合体は、Auに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.21g/gDryであった。
【0064】
また、本実施例の吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、瞬時に還元反応を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Au(III)からAu(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Auを吸着する機能だけでなく、Auを還元する機能を有していることがわかった。
【0065】
(実施例8)
(Ptに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Pt(IV)に対する回収性能について実験的調査した。
【0066】
検体として、濃度調整したヘキサクロロ白金(IV)酸溶液(H2PtCl6)を使用した。2.8mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量 0.089g)を添加し、総量3.3mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Pt)濃度をICP(発酵分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図7に示す。図7は、本発明の複合体のPt吸着率を示すグラフである。図7において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解している白金(IV)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0067】
図7から、初期Pt濃度2200ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応30分後に採取した検体では、Pt濃度は550ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Ptに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.08g/gDryであった。
【0068】
また、本実施例の吸着反応では、金属溶液と複合体混合後、還元状態を示す変色が見られた。大型放射光施設(トヨタビームラインBL33XU)で、反応後の溶液をX線吸収微細構造解析(XAFS)した結果、Pt(IV)からPt(0)に還元されていることが判明した。したがって、この複合体は、Ptを吸着する機能だけでなく、Ptを還元する機能を有していることがわかった。
【0069】
(実施例9)
(Rhに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Rh(III)に対する回収性能について実験的調査した。
【0070】
検体として、濃度調整した塩化ロジウム(III)溶液(RhCl3)を使用した。3mLの検体に対し、複合体溶液0.5mL(複合体質量0.106g)を添加し、総量3.5mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Rh)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図8に示す。図8は、本発明の複合体のRh吸着率を示すグラフである。図8において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているロジウム(III)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0071】
図8から、初期Rh濃度2060ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Rh濃度は630ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Rhに対し吸着性を有することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.05g/gDryであった。
【0072】
(実施例10)
(Coに対する回収性能の評価)
上記(実施例1)の製造方法で作製した複合体を用いて、Co(III)に対する回収性能について実験的調査した。
【0073】
検体として、濃度調整した塩化コバルト溶液(CoCl2)を使用した。2mLの検体に対し、複合体溶液1.0mL(複合体質量0.22g)を添加し、総量3.0mLで反応させた。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液を500μLずつ採取し、遠心処理にて複合体を分離した。分離した溶液の金属(Co)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図9に示す。図9は、本発明の複合体のCo吸着率を示すグラフである。図9において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているコバルト(II)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は複合体を添加したものを、それぞれ示す。
【0074】
図9から、初期Co濃度1860ppmの溶液に対し、複合体を混合し、反応15分後に採取した検体では、Co濃度が700ppmに濃度低下していることがわかる。このことから、この複合体は、Coに対し吸着反応することがわかった。また、金属濃度と複合体量から算出した飽和吸着量は0.02g/gDryであった。
【0075】
(実施例11)
(複合体の構造解析)
本発明の複合体の微細内部構造を透過電子顕微鏡(TEM JEM−2100F、日本電子(株)製)で詳細解析した。
複合体は、培養初期に作られた球形になっていないものと、培養が進み略球形になったものとを用いた。水溶液状の複合体をアセトン置換し、エポキシ樹脂で置換・固定した上で、ミクロトームにより70nmの切片を作製、透過電子顕微鏡で吸着剤内部構造を観察した。結果を図10に示す。図10は、本発明の複合体をTEMで撮影した写真である。図10(a)は培養初期に作られた球形になっていない複合体を、図10(b)は培養が進み略球形になった複合体を示す。
【0076】
図10から、本発明の複合体は繊維状であり、培養が進むにつれて繊維状の複合体が略球状に集合した構造になることがわかる。また、本発明の複合体が、繊維状の複合体の集合物であることから、反応表面積が広いことがわかる。
【0077】
また、培養初期の繊維状の複合体を用いても、レアアースなどに対する吸着能があることを確認した。
【0078】
(実施例12)
(還元細菌種による複合体作製能力の検討)
S.algae、S.oneidensis、S.putrefaciensの3種の細菌を用いて、実施例1と同一の鉄培地にて培養し、複合体の作製可否の検討および金属イオンに対する吸着能についての実験的検討を実施した。
【0079】
同一培地条件で培養した3種の細菌から同様の複合体が作製できることがわかった。それぞれの複合体は、各種金属イオン(Nd,Dy,Au,Pt,Pd,Rh)に対して有意差なく吸着反応することを確認した。表1は、各元素に対する各複合体の飽和吸着量を示す表である。
【0080】
【表1】
【0081】
表1から、これらの各細菌由来の複合体は、異なる金属に対しても、同様の金属吸着性を有することがわかる。また、Au、Pd、Ptに対しても、還元性を有していた。このことから、鉄還元機能を有する金属還元菌を用いれば、同様の複合体が得られることがわかった。
【0082】
(実施例13)
(培地組成改変による吸着剤組成の変化の検討)
実施例1で得られた複合体を2M−HClで溶解し、ICP(発光分析装置)にて元素分析した。複合体中には、Fe、Pの主成分の他に、微量な元素が複数含まれていることがわかった。これらの元素は、培地中に微量に含まれる成分由来であると推測された。微量成分の一つにマンガン(Mn)が含まれることがわかった。このマンガンは、培地に1mg/L含まれる硫酸マンガン(MnSO4)由来であると推測された。
【0083】
培地中の硫酸マンガン量を100倍、1000倍、2000倍にした培地を作製して、S.algaeを用いて、培養し、複合体を作製した。それぞれの複合体をHClで溶解し、ICP(発光分析装置)にて元素分析した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2から、培地中に添加したMnSO4が増量するのに比例して複合体中のMn比率が増加していることがわかる。また、Fe比率は低下している。一方、いずれの複合体もPの比率に大きな変化がなく、約1/4含まれていることがわかった。これらの結果から、培地の成分を改変することで、リンを約1/4含み、他の組成が異なる複合体が得られることがわかる。
【0086】
(実施例14)
(培地組成改変により作製した複合体の金属吸着効果)
通常、培地中に0.1g/L含まれる塩化カリウム(KCl)量を30倍(3g/L)添加し、S.algaeを培養し、複合体を作製した。この複合体と通常作製した複合体についてPtの回収性能について比較した。
【0087】
検体として、濃度調整したヘキサクロロ白金(IV)酸溶液(H2PtCl6)を使用した。(1)2.0mLの検体に対し、通常の培地で作製した複合体溶液0.5mL(吸着剤容量0.14g)を添加しイオン交換水0.5mLを加え総量3.0mLにしたもの、(2)KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体0.5mL(吸着剤容量0.14g)を添加しイオン交換水0.5mLを加え総量3.0mLにしたもの、(3)通常の培地で作製した複合体を2倍(1.0mL、複合体容量0.28g)添加し、イオン交換水を加えず総量3.0mLにしたものの、3検体で反応性を比較した。反応中は、回転子により攪拌した。経過時間ごとに、反応液をそれぞれ500μL採取し、遠心処理にて吸着剤を分離した。分離した溶液の金属(Pt)濃度をICP(発光分析装置)にて測定した。また、複合体の代わりにイオン交換水を添加した同濃度の溶液も同様の方法で採取・測定し、初期濃度のコントロールとした。全ての作業は室温条件下、好気条件で行った。結果を図11に示す。図11は、本発明の複合体において、カリウム量を変えた培地を用いて作製した複合体のPt吸着率を示すグラフである。図11において、横軸は、処理時間(分(図中「min」))、縦軸は処理液に溶解しているPt(IV)濃度(ppm)を示す。また、■は複合体未添加、△は通常の培地を用いて作製した複合体を添加したものを、●はKClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体を添加したものを、◆は通常の培地を用いて作製した複合体を2倍添加したものを、それぞれ示す。
【0088】
図11から、初期Pt濃度4200ppmの溶液に対し、通常の培地を用いて作製した複合体を混合した検体は、初期金属濃度が高濃度であったため、ほとんど反応が見られなかった。KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体では15〜45分にかけて反応を示し、60分後に飽和状態に達した。両反応は、同一量の複合体を添加しており、KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体の方が反応性に優れていることがわかる。また、通常の複合体を2倍量添加した検体との比較では、反応開始時間に明らかな違いがあり、KClを通常の培地に30倍添加した培地にて作製した複合体が迅速性でも優れていることがわかる。
【0089】
このように、本発明の複合体は、培地組成を改変することで複合体組成が変わり、その改変により金属イオン吸着反応に影響することがわかる。したがって、目的金属イオンに合わせた組成改変をすることで特徴の違う複合体を作製することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の複合体を用いると、金属の価数や処理液のpHに関係なく、排水に含まれる重金属を効果的に除去することができる。また、本発明の複合体は、電子材料、電子機器、鉱物中に含まれるレアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを、溶液状態にすることで、容易に吸着する。このため、レアメタル、貴金属、白金族金属、レアアースなどを容易に回収することができる。さらに、本発明の複合体は、金属などを容易に吸着する。したがって、例えば、イオン性を有する物質吸着させた複合体を電池の活物質などに直接使用することができる。
また、本発明の複合体は、特定の貴金属、白金族金属を還元することもできるので、新たな還元剤として使用することもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との化合物である複合体。
【請求項2】
前記還元細菌は、少なくとも1種類の生物鉱物化機能を有する細菌である請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記培地成分は、電子供与体と電子受容体を含む請求項1または2記載の複合体。
【請求項4】
前記還元細菌は、鉄還元細菌である請求項1〜3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記鉄還元菌は、シワネラ族である請求項4記載の複合体。
【請求項6】
前記複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
前記複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である請求項1〜6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体は、吸着性および/または還元性を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の複合体。
【請求項9】
前記還元細菌を還元できる酸化物を含む培地中で前記還元細菌培養する工程と、
前記還元細菌による還元物と前記培地成分とが結合して結合体を生成する工程と、
前記結合体が成長する工程とを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体を用い、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着する吸着方法。
【請求項11】
前記イオン性を有する物質が、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属およびレアアースからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属である請求項10に記載の吸着方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合体を用いて、貴金属イオンおよび白金族金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属イオンを還元する還元方法。
【請求項1】
還元細菌の培養過程で生産される金属還元物質と培地成分との化合物である複合体。
【請求項2】
前記還元細菌は、少なくとも1種類の生物鉱物化機能を有する細菌である請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記培地成分は、電子供与体と電子受容体を含む請求項1または2記載の複合体。
【請求項4】
前記還元細菌は、鉄還元細菌である請求項1〜3のいずれかに記載の複合体。
【請求項5】
前記鉄還元菌は、シワネラ族である請求項4記載の複合体。
【請求項6】
前記複合体は、リンを質量比で全体の約1/4を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の複合体。
【請求項7】
前記複合体は、繊維状物質またはこの繊維状物質のサブミクロン径の略球形集合体である請求項1〜6のいずれかに記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体は、吸着性および/または還元性を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の複合体。
【請求項9】
前記還元細菌を還元できる酸化物を含む培地中で前記還元細菌培養する工程と、
前記還元細菌による還元物と前記培地成分とが結合して結合体を生成する工程と、
前記結合体が成長する工程とを含む請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合体を用い、溶液中に存在するイオン性を有する物質を吸着する吸着方法。
【請求項11】
前記イオン性を有する物質が、レアメタル、貴金属、白金族金属、重金属およびレアアースからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属である請求項10に記載の吸着方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の複合体を用いて、貴金属イオンおよび白金族金属イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属イオンを還元する還元方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図10】
【公開番号】特開2013−5794(P2013−5794A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−102888(P2012−102888)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】
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