複合体および生産方法
分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミン(例:ヒトαー−ラクトアルブミン)の配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、オレイン酸と接触させることからなる生物学的に活性な複合体を調製する方法と、かかる生物学的に活性な複合体を調製するためのプロセスとを説明し、権利請求する。かかる組換えタンパク質では、天然タンパク質に見出されるシステインが、アラニン等の他のアミノ酸に変化されている。組換え発現、プロセス合理化、および生物学的に活性な複合体の収率の改善と、得られた複合体についても説明し、権利請求する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用のタンパク質複合体の調製方法および該方法に使用される装置および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えα−ラクトアルブミンの変異型が当該技術分野で周知である。フォールドされかつ溶融された球状型に見出される特性の多くは、天然タンパク質に類似することが判明しているが、変異型では安定性が一般に低下することが一般に認められている。α−ラクトアルブミンはそれ自体、部分的に展開されるか溶融された球状の状態で、生物学的に活性な複合体を形成するために以前は使用されていた(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Svensson et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97(8) 4221-4226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出願人は、特定のタイプの組換えタンパク質が、核磁気共鳴によって実証されるような、固有の組成の特徴および構造を備えた治療上活性な複合体を生産するために使用可能であることを見出した。複合体は、かかる特徴および構造の違いにもかかわらず有用な生物活性を有し、更に、効率的に調製することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明によれば、生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、分子内ジスルフィド結合または架橋を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、オレイン酸と接触させること、および前記複合体を分離すること、からなる方法が提供される。
【0006】
組換えタンパク質が分子内ジスルフィド架橋を欠くことを確実にすることにより、該タンパク質分子は、三次元的に非天然型となり、元の内因性生物活性の点で完全に不活性となる。これは例えば、天然α−ラクトアルブミン中のシステイン残基を他の残基(特にはアラニン残基)に変化させることにより達成されるが、他の手段、例えばチオ−ル化合物の添加またはタンパク質のpHの変更も考慮され得る。好ましくは、すべてのシステイン残基がアラニン残基等の他の残基に変化される。
【0007】
本明細書に使用する場合、「生物学的に活性」という語句は、複合体が(特にはアポトーシスにより)腫瘍細胞死を引き起こすか、天然モノマ−のα−ラクトアルブミン型では見られない殺菌効果を奏するかの少なくともいずれかが可能であることを意味する。
【0008】
用語「そのフラグメント(α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質のフラグメント)」は、完全なα−ラクトアルブミンのアミノ酸配列を含む複合体と同様な活性を有する複合体を形成する、所与のアミノ酸配列の任意の部分を指す。フラグメントは、ともに連結された、完全長タンパク質の2つ以上の部分を含んでもよい。部分は、適切には、基本配列からの少なくとも5個、好ましくは10個の連続するアミノ酸を含むだろう。
【0009】
適切なフラグメントは、長さが少なくとも20個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸を含む欠失変異体である。これらはタンパク質からの複数の小領域または該領域の組み合わせを含む。
【0010】
適切なフラグメントは、αドメインとβドメイン間の接点(インタ−フェイス)を形成する部位を含む。かかる部位は、ヒトα−ラクトアルブミンでは、構造中の34−38位および82−86位のアミノ酸により定義される。したがって、適切なフラグメントはかかる部位、好ましくは天然タンパク質の34−86位のアミノ酸の全部位を含む。しかしながら、他の活性フラグメントが見出されてもよい。
【0011】
特には、組換えタンパク質は、ヒトα−ラクトアルブミンの配列に基づくが、ウシまたはヒツジのα−ラクトアルブミンを含む他の供給源由来のα−ラクトアルブミンを組換えタンパク質を得るために使用されてもよい。
【0012】
組換えタンパク質とオレイン酸を、生物学的に活性な複合体に変換するために使用可能な方法は、例えばWO99/26979およびWO2008/138348で説明されているものと類似している。両文献の内容は引用により本明細書に組み込む。しかしながら、本発明の方法によれば、明確な生物学的に活性な生成物が、良好な収率でより容易に入手可能である。
【0013】
詳細には、本発明の方法を使用する場合、高収率の生物学的に活性な複合体が、特に、カラムから溶出する単一分画から、好都合に得られ、長期間のフォールディング(折り畳み)プロセスは必要ない。
【0014】
上記に定義される組換えタンパク質は、イオン交換カラム、特にはDEAE−Trisacryl Mカラム(BioSepraより入手可能、フランス国Ville−neuf所在)等の陰イオン交換カラムでイオン交換が起こる条件下で、オレイン酸と適切に接触させられる。組換えタンパク質がカラムにかけられる前に、カラムはオレイン酸で適切に「事前調整(precondition)される。かかる事前調整は、まずオレイン酸でカラムを溶出するかまたは調整することにより達成され得る。適切には、オレイン酸は、DEAE Trisacryl等の新品の未使用のイオン交換材料を含むカラムを通して溶出される。適切な溶出緩衝液は、8.5pHのTris−HClを含む。このようにカラムに適用されるオレイン酸組成の量は、カラムのサイズや、生物学的に活性な複合体に変換されるのに必要な組換えタンパク質の量等の要因に基づいて、少なくすることが可能である。例えば、14cm×1.6cmのカラムを調整するためには、たった10mgのオレイン酸を使用すればよい。
【0015】
組換えタンパク質をカラムに適用した後(例えば適切な緩衝液の溶液に溶かして)、これを直線の塩勾配で溶出し、高い塩(1M NaClまたは等価物)で溶出した分画を分離する。本発明の方法を使用すると、実質的にすべての生成物がこの1つのピ−クから取得可能である。一方、以前は、2つのピ−クが分離されることが常に要求された。
【0016】
発現されたタンパク質を天然状態に折り畳む必要がなく、かつ複数の分画を得てプールする必要がないので、これは、生産効率および生成物の純度の重要な改善を提供する。
したがって、特定の実施形態では、本発明は、生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、
分子内ジスルフィド結合(架橋)を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、陰イオン交換カラムで、オレイン酸と接触させること、
塩勾配でカラムを溶出すること、および
高塩濃度で溶出する単一分画から、複合体を分離すること、
からなる方法を提供する。
【0017】
「高塩濃度」という語句は、0.5Mを超える濃度、例えば0.75Mを超える濃度、特には約1Mの濃度の、ハロゲン化物(特には塩化物)等の陽イオンとの塩の濃度を指す。要求される濃度は使用される塩によって変わるが、特定の実施形態では塩はNaClであり、適切には1M NaClである。
【0018】
本発明によれば、「α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質」は、天然の成熟α−ラクトアルブミンの配列を有するが、成熟ヒトα−ラクトアルブミンの完全長配列のうちのシステインに6、28、61、73、77、91、111、および120位に見られるシステインがすべてアラニン等の他のアミノ酸に変異され、それでいてジスルフィド架橋を生じない、タンパク質を包含する。したがって、本発明に従って利用可能な特定のタンパク質は、配列番号1のタンパク質を含む。
【0019】
【表1】
【0020】
式中、太字は天然ヒトα−ラクトアルブミンにおけるシステインの変異位置を示す。
出願人は、例えば発現の目的で便利な場合に、いくつかのアミノ酸残基(例えば20以下のアミノ酸)がタンパク質の末端に取り付けられてもよいことを見出した。従って、配列番号1で示される組換えタンパク質であってN末端に追加のメチオニンを備えたもの(以下に示される配列番号2)が、本発明の方法に使用された。この配列を使用して得られた複合体をCys567OAと名付けた。核磁気共鳴法で検査すると、この複合体は固有の特性を示すため、かかる複合体は本発明の特定の態様を形成する。
【0021】
本方法に使用される組換えタンパク質は、従来の組換え発現方法を使用して、純粋な型で適切に生産される。詳細には、必要な組換えα−ラクトアルブミンをコードするDNAを、プラスミド等の適切な発現ベクターへ挿入し、次にこれを用いて宿主細胞(例えば大腸菌等の原核細胞または特定の昆虫細胞等の真核細胞)を形質転換することが可能である。
【0022】
上述の組換えタンパク質の使用により、カルシウムを除去したりおよび溶融した球状物質の存在量を増加したりするために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のカルシウムキレート剤で処理し、該物質を低pHまたは高温に供するといった前処理工程は不要となる。そのような工程は、生物学的に活性な複合体を生成するために天然ヒトαまたはいくつかのシステイン残基が残っている変異型を使用する場合に一般に好まれる。
【0023】
適切には、プロセスに使用されるオレイン酸は純粋型であるが、人乳のカゼインを含む画分が、上記物質の便利な供給源を提供することができ、以前に実証されたようにプロセスに使用されてもよい。
【0024】
前処理されたカラムを、上述したように、α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの多くの分画を生物学的に活性な複合体へ変換するために、繰り返し使用することが可能である。一旦カラムが消耗されるか、変換率が許容できないレベルに低下したら、複合体の生産活性を回復するために前処理ステップを繰り返
すことが可能である。
【0025】
本発明のプロセスを使用して得られた生成物は新規であり、したがって、本発明のさらなる態様を形成する。
したがって、本発明はさらに、上述したような、α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントと、オレイン酸とを含む生物学的に活性な複合体を提供する。詳細には、本発明は、配列番号2の組換えタンパク質とオレイン酸を含む、Cys567OAと称される生物学的に活性な複合体を提供する。
【0026】
【表2】
【0027】
この複合体は、例えばアポト−シスにより腫瘍細胞死を引き起こす活性を有するか、またはHAMLET等の他の生物学的に活性な複合体で得られるのと少なくとも等しい殺菌効果を有するかの少なくともいずれかであるという点で、生物学的に活性であることが分かった。
【0028】
したがって、複合体は、従来の方法で薬学的に許容される担体と複合体とを組み合わせることにより、有用な医薬組成物へ製剤化されてもよい。そのような組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0029】
本発明のこの態様に従う組成物は、適切には、例えばクリ−ム、軟膏、ゲル剤、または水性もしくは油性溶液もしくは懸濁液としてば局所的使用に適した剤形の医薬組成物である。これらは薬学的に許容される公知の担体、充填剤、および/または手段を含んでもよい。
【0030】
局所用の溶液またはクリ−ムは、適切には、希釈剤またはクリ−ム基剤と共に、タンパク質複合体用の乳化剤を含む。
複合体の日用量は変化し、通常の臨床実務に従って、患者や治療される症状の性質等によって左右される。一般的なきまりとして、2〜200mg/用量の生物学的に活性な複合体が、各回投与に使用される。
【0031】
本発明のさらなる態様では、癌の治療が必要な患者に上述の生物学的に活性な複合体を投与することを含む、癌を治療する方法が提供される。
詳細には、複合体はヒト皮膚乳頭腫、ヒト膀胱癌、および膠芽腫等の癌を治療するために使用されてよい。膠芽腫の場合、当該技術分野において周知のように、投与は注入によってもよい。
【0032】
本発明はさらに、治療、特には癌の治療に使用される上記に定義した生物学的に活性な複合体を提供する。
システイン残基の除去により生物学的に活性な複合体の収率が増大することは、予期しなかったことである。
【0033】
したがって、本発明のさらなる態様は、α−ラクトアルブミンまたはそのフラグメントをイオン交換条件下でオレイン酸を接触させることを含むプロセスにより取得可能な生物学的に活性な複合体の収率を増加させる方法であって、少なくともいくつかの分子内ジス
ルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、前記プロセスにおいて使用することからなる方法を提供する。
【0034】
上述したように、ジスルフィド架橋は、システイン残基を他のアミノ酸に変化させることにより適切に除去される。詳細には、例えばすべてのシステイン残基を異なるアミノ酸(例えばアラニン)に変化させることにより、すべてのジスルフィド架橋が除去される。
【0035】
さらに、本発明は、生物学的に活性な複合体の製造における、分子内ジスルフィド結合または架橋を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの使用方法を提供する。詳細には、該組換えタンパク質は、システイン残基、特にはすべてのシステイン残基が異なるアミノ酸に変化されているヒトα−ラクトアルブミンの配列またはそのフラグメントを有する。
【0036】
本発明の上記態様で使用される組換えタンパク質は、上述の追加のアミノ酸を含んでいてもよい。
ここで、本発明を、添付の図面を参照しながら例示により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】α−ラクトアルブミンの構造と、上述の組換えタンパク質および天然α−ラクトアルブミンの、オレイン酸で調整されたマトリックス上での生物学的に活性な複合体への変換とに関する。(A)は、タンパク質全体に配置された4つのジスルフィド結合を形成する8つのシステインを含むα−ラクトアルブミンの構造を示す。ジスルフィド結合を黒で示し、関連するシステインの残基の番号を印す。カルシウムイオンを黒で示す。リボン構造は、PDB受入番号1HML(10)から取得し、MOLMOLにより修飾した(Anderson et al, Biochemistry 1997 36 (39) 11648-11654)。(B)低塩(分画1)および高塩(分画2)での経時的な複合体の溶出を示すグラフ。複合体を形成するために、配列番号2の組換えタンパク質をオレイン酸で調整したイオン交換カラムにかけ、複合体をNaCl勾配で溶出した(伝導度トレース、明灰色)。ヒトα−ラクトアルブミンを、EDTA有りまたはEDTA無しで、対照として使用した。(C)これは、0−110分(分画1)および110−140分(分画2)の(B)の濃度曲線下面積として決定された変換率を示す表である。
【図2】α−ラクトアルブミンおよび種々の複合体の円偏光二色性分光法の結果を示す。(A)すべてのシステインがアラニンに変換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質(黒色の実線)および該組換えタンパク質から生物学的に活性な複合体(Cys567OAと称する)(黒色の点線)の三次構造を、近紫外線CD分光法により調べた。スペクトルは5mM Tris、pH8.5中で70μMの天然α−ラクトアルブミン(灰色の実線)、アポα−ラクトアルブミン(灰色の交差線)、および対照としてのHAMLET(灰色の点線)にて、記録した。ヒトα−ラクトアルブミン、α−ラクトアルブミンAll-AlaおよびHAMLETのスペクトルは以前に記載されたものである。(B)HAMLET(灰色の点線)およびCys567OA(黒色の点線)の二次構造を遠紫外線CD分光学法で調べた。対照、α−ラクトアルブミン(灰色の実線)およびα−ラクトアルブミンAll-Ala(黒色の実線)の記録されたスペクトルは、以前の報告と一致していた。スペクトルは5mM Tris、pH8.5中で28μMにて記録した。
【図3】腫瘍細胞の殺滅におけるHAMLETおよび本発明の生物学的複合体の効果を比較する。(A)L1210細胞、(B)Jurkat細胞、(C)HeLa細胞および(D)A549細胞を、HAMLETまたはCys567OAに6時間曝露した。リンパ腫細胞(L210細胞およびJurkat細胞)は14、28および42μMのHAMLETで処理し、癌細胞(A549細胞およびHeLa細胞)は7、14および21μMのHAMLETで処理した。細胞死を未処理細胞に対するパーセント(%)で、トリパンブルー排除により決定し、左側のパネルに示した。HAMLET(黒色三角)およびCys567OA(黒色丸)によるATPレベルの減少を、中間対照に対するパーセント(%)で右側のパネルに示す。2〜5回の実験の平均をエラーバーとして標準偏差で示す。α−ラクトアルブミン(灰色三角)およびα−ラクトアルブミンAll-Ala(灰色丸)タンパク質を対照として使用した。Cys567OAは、HAMLETと同程度に生物学的に活性であり、特にHeLa細胞株とA549細胞株でより活性であることが示された。
【図4】Alexaで標識した複合体の細胞内在化を示す。A549細胞による本発明の生物学的複合体(Cys567OA)の内在化を、Alexa-Fluorで標識した複合体を使用して、共焦顕微鏡検査法により調べた。α−ラクトアルブミン、すべてのシステインがアラニンで置換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質、およびHAMLETを対照として使用した。細胞は35μMで15分および3時間処理した。(A)HAMLETは15分後に腫瘍細胞により急速に内在化され、3時間後には更なる内在化が生じた。(B)Cys567OAはHAMLETよりは遅く内在化されたが、3時間後には類似量が細胞中に存在した。(C)α−ラクトアルブミンまたは(D)α−ラクトアルブミンAll-Alaは細胞により内在化されなかった。
【図5】本発明の複合体を含む生物学的に活性な複合体で処理されたヒト肺癌細胞のTUNEL染色の結果を示す。HAMLETおよびCys567OAへの曝露後の(A)L1210細胞、(B)Jurkat細胞、(C)HeLa細胞および(D)A549細胞におけるDNA損傷の証拠をTUNEL染色を使用して調べた。HAMLETおよびCys567OA(リンパ腫細胞では14μM、癌細胞では28μM)は、4つの細胞株で核DNA損傷を引き起こし、これが陽性TUNEL染色によって示された。α−ラクトアルブミンおよびα−ラクトアルブミンAll-Ala(リンパ腫細胞で21μM、癌細胞で42μM)はDNA損傷を引き起こさなかった。
【図6】ヒトα−ラクトアルブミン(HLA)、以下に説明する組換えヒトα−ラクトアルブミン(rHLAall-Ala)、およびタンパク質−オレイン酸複合体のNMR分光法の結果を示す。
【図7】ヒトα−ラクトアルブミン(HLA)、以下に説明する組換えヒトα−ラクトアルブミン(rHLAall-Ala)、およびタンパク質−オレイン酸複合体のNMR分光法の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施例1
タンパク質発現および精製
野生型α−ラクトアルブミンは、4つのジスルフィド結合を形成する6、28、61、73、77、91、111および120位の8つのシステインを含み、かかるジスルフィド結合は天然状態(図1A)を安定させる。2つのジスルフィド結合がα−ドメインに存在し[6−120および28−111]、1つのジスルフィド結合がβ−ドメインに存在し[61−77]、1つのジスルフィド結合が2つのドメインの接点に存在する[73−91]。かかるタンパク質は、カルシウムイオンによっても安定化され、もしカルシウムイオンが除去されると、α−ラクトアルブミンはその明確な三次構造を失い、溶融された球形の状態をとる。
【0039】
野生型ベクターpALAの、T7−ポリメラ−ゼに基づく発現ベクターpAED4(FuFF M.E. Curr Opin. Struct. Biol. (2003 13(6), 674-682)でクローニングしたα−ラクトアルブミンに点突然変異を組み込むことにより得ることができる、すべてのシステインがアラニンに変化されたヒトα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質をコードするベクターpALAALAを使用した。ベクターは大腸菌BL−21*で形質変換
し、組換えタンパク質を、若干改変したが以前に記載されているように発現および精製した(Peng Z.Y. et al, Biochemistry (1995) 34(104),3241-3252; Schulman B.et al., J.
MoI. Biol. 253, 651-657)。封入体を尿素緩衝液(10mM Tris、8M 尿素、
5mM 還元グルタチオン、pH8.0)で可溶化し、20mM Tris、pH 8.
0で平衡化したDEAEセルロ−ス(Whatman、英国Brentford所在)カラムに載せた。カラムを25mM Tris、10mM 還元グルタチオン、0.25M NaCl、pH
8.0で洗浄し、タンパク質を25mM Tris、7M 尿素、0.5M KCl、pH8.0で溶出した。分画をプールし、静止した水道水で24時間透析し、次に流した水道水で少なくとも48時間透析した(Spectra/Pore、カリフォルニア州Laguna Hills所在、分子量カットオフ値3.5kDa)。透析中に沈澱がある場合、沈殿を5M 尿素に溶解し、次に流した水道水で透析し、凍結乾燥した。透析したサンプルを、25mM Tris、0.2mM CaCl2、pH 7.8で平衡化したDEAE−Sephac
el(Amersham Biosciences、スウェーデン国Uppsala所在)カラムに載せ、その後、直
線の塩勾配(25mM Tris、0.2mM CaCl2、0−0.4M NaCl、pH 7.8)で溶出した。分画をプールし、pH7の蒸留水に対して透析し(分子量カットオフ値3.5kDa)、凍結乾燥した。精製された変異タンパク質は、ヒトα−ラクトアルブミンの配列であるが、N末端に余分なメチオニン残基(これは除去されなかった)を含む配列番号2を有する。
【0040】
組換えタンパク質は比較的高収率(100mg/Lの培養)で大腸菌BL21*で発現
され、均一になるよう精製された。組換えタンパク質ではすべてのシステインがアラニンに置換されているので、ジスルフィド結合を含まない。しかしながら、天然に類似のトポロジ−が保存されていることが分っている。近紫外線CD分光法およびNMRにより示されるように、変異型は溶融された球状のコンホメーションをとり、遠紫外線CD分光学によって示されるように、二次構造が保持されていた。このタンパク質をrHLAall-Ala
と名付けた。
実施例2
イオン交換クロマトグラフィによるオレイン酸との複合体の形成
カラム(14cm×1.6cm)に10mlのDEAE−Trisacryl M (BioSepra、フランス国Ville-neuf)を充填し、オレイン酸(C18:1:9シス)で調整した。これは以前に記載された通りである(Svensson et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97(8) 4221-4226 and Pettersson J. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2006) 345(1) 260-270)。本質的に、10ミリグラムのオレイン酸を超音波処理により500μlの99.5%エタノールに溶解させた。10mM Tris−HCl pH8.5(10ml)を加えた後、溶液をカラムにかけた。5ミリグラムのタンパク質(実施例1で説明したように得られた組換えタンパク質rHLAall-Ala)または天然α−ラ
クトアルブミンを含む対照もしくはまたは過剰のEDTAで予めインキュベートした天然α−ラクトアルブミンを含む対照を緩衝液(50mM Tris/HCl pH 8.5、0.1M NaCl)に溶解し、カラムに個別に加えた。
【0041】
NaCl勾配を適用した後、分画を集めた。
カラムをNaCl勾配(10mM Tris HCl(pH8.5)を含む緩衝液A、次に1M NaClを含む緩衝液Aである緩衝液B)で溶出し、高い塩の前(分画1(t=0−110分)または後(分画2(t=110−130分)で溶出する分画を調べた(図1B)。実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaを使用して得られた複合体(C
ys567OA)は、HAMLETと同じ位置で鋭いピークとして溶出された。対照的に、野性型α−ラクトアルブミンは、高い塩を適用した後で溶出する有意な複合体を生産しない(図1Bおよび1C)。実際、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは、E
DTAで処理したα−ラクトアルブミンよりもより効率的に生物学的に活性な複合体に変換されることが分かり、適用されたタンパク質の回収率は71%(範囲67−94%、標準偏差11.3、n=5)に比較して99%(範囲87−99%、標準偏差、n=4.5)であった(図1C)。これは、変異型タンパク質のコンホメーションの構造的均一性がより大きいことを反映している可能性がある。つまり、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaの割合が大きいほど、脂肪酸が結合された複合体へクロマトグラフィで変換
される条件下で、溶融された球状状態をとるのがより容易になる。
【0042】
塩を、蒸留水に対する透析で除去し(Spectra/Pore、膜カットオフ値3.5kDa)、その後凍結乾燥させた。
実施例3
α−ラクトアルブミンの円偏光二色性分光測定
遠紫外線および近紫外線CDスペクトルをα−ラクトアルブミン、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Ala、HAMLET、および実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaを使用して得られたCys567OAに25℃で集束させた。凍結乾燥させた材料を、近赤外線および遠紫外線CDスペクトル用にそれぞれ70および28μMの濃度となるように、5mM Tris、pH 8.5に溶解した。近紫外線スペクトルは、240nmおよび320nmの間、遠紫外線スペクトルは190〜250nmの間で得た。波長のステップは1nmとし、応答時間は8秒、走査速度は10nm/分とした。6回の走査の平均を示し、平均残基楕円率θm(deg・cm・dmol-を以前に記載されたように計算した(Svensson M. et al., J. Biol. Chem. (1999) 274 (10), 6388-6396)。
【0043】
実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaにおける三次的な相互作用の本質的な弱
まりが近紫外線CD分光法(図2A)により検出され、これはα−ラクトアルブミンの溶融された球状の場合に合致した。実際、室温では、アポ−α−ラクトアルブミンは完全に溶融した球状というわけではなく(図2A)、代わりに、かなりのタンパク質分子の集団が天然状態および溶融された球状状態に区画され、これが平衡に共存し、スペクトルが平均化している。したがって、同一条件下では、実施例1の分子の組換えタンパク質rHLAall-Alaの割合がより大きいと、本物の溶融された球状状態となり、これは上述のオレ
イン酸による実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaの変換率の観察される増大に
寄与し得る。生物学的に活性な複合体への変換後、複合体の近紫外線スペクトルは、変異型タンパク質のみのスペクトルとほぼ同一であったが、これはオレイン酸の結合が検出可能な三次構造の量を増加させなかったことを示している(図2A)。
【0044】
二次構造に関し、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよび該組換えタンパ
ク質から得られた生物学的に活性な複合体(Cys567OA)は、いずれも、遠紫外線CD分光法(図2B)で示される野性型タンパク質の二次構造に質的に類似の内容を保持しており、これも従来の研究とよく相関していた。
実施例4
細胞死分析
マウスリンパ腫細胞(L1210、ATCC、CCL−219)、ヒトリンパ腫細胞(Jurkat、ATCC、TIB−152)、ヒト肺癌細胞(A549、ATCC、CCL−185)およびヒト子宮頚癌細胞(HeLa、ATCC、CCL−2)を、Cys567OAの殺腫瘍活性の検査に使用した。細胞を採集し、洗浄し、ウシ胎仔血清を含まないRPMI 1640培地(PAA Laboratories GmbH、オーストリア国Pasching)に再懸
濁した。接着細胞に関しては、剥離のためにヴェルセン液(Versene)(140mM N
aCl、2.4mM KCl、8mM Na2HPO4、1.6mM KH2PO4、0.5mM EDTA、pH7.2)を使用した。細胞を1×106細胞/ウェルの濃度で24
ウェルプレ−ト(TPP、スイス国Trasadingen)へ接種した。凍結乾燥した材料を、0.7mM(分子量14,200g/mol)でリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、7〜42μMの間の最終濃度でウェルに添加した。HAMLETおよびCys567CAの記載された濃度は、タンパク質部分のモル濃度を指す。細胞を5%CO2雰囲気で37℃にてイン
キュベートし、1時間後に5%の最終濃度となるようウシ胎児血清を各ウェルに加えた。細胞生存率を、干渉コントラスト顕微鏡(Laborlux 12, ドイツ国Leitz Wetzlar)でトリパンブルー排除を使用して6時間後に決定した。ATPレベルをATP Lite(発光ATP検知アッセイシステム、PerkinElmer社、マサチューセッツ州Boston)を使用して決定し、
発光を照度計(LUMIstar、BMG Labtech社、ドイツ国Offenburg)を使用して検知した。
【0045】
6時間後の生存率の損失を、ATPレベルの減少およびトリパンブルー染色の増加として定量した(図3)。Cys567OAは用量依存的に腫瘍細胞を殺すこと示された。全細胞のうちの80%超が、試験された最も高い濃度(リンパ腫細胞で21μMおよび癌細胞で42μM)への曝露の6時間後に同様な結果がHAMLETでも得られ、60%超の細胞が、最も高い濃度への6時間の曝露後に死滅した。2つの複合体の間には殺腫瘍活性の統計的有意差はなかった(p>0.05、one-way ANOVA)。結果は、Cys567O
AがHAMLETと同程度に活性であることを示している。
【0046】
さらに、天然タンパク質のみの対照と同様に、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは単独で細胞生存率を現象させなかった(図3)。上述のように得られた複合体で
処理した細胞の生存率と、脂肪酸を含まない組換えタンパク質rHLAall-Alaで処理し
た細胞の生存率との間には統計学的有意差が観察された(p<0.005、one-way ANOVA)。多くの研究が示唆するのは、タンパク質の部分的展開とそれに続くオリゴマー化と
集合が、細胞毒性特性を有するアミロイド構造を生じさせるというものである。α−ラクトアルブミンの酸性の溶融された球状型(「A状態」)の場合には、アミロイド原繊維が実際に高い塩濃度の存在下で生ずることが知られている。しかしながら、そのような溶液条件は、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaに関してはここでは使用しなかっ
たため、溶融された球状型への部分的展開がタンパク質を細胞毒性にしていないことを示している。
【0047】
細胞生存率に対する効果の差を、一元配置分散分析(one-way analysis of variance ,ANOVA)と、それに続くBonferroni多重比較検定を用いて比較した。分析はGraphPad InStat3(Macintoshバ−ジョン3.0b)を使用して行なった。
実施例5
腫瘍細胞におけるCys567OAの取り込み
組換えタンパク質および該組換えタンパク質から得られたCys567OAの細胞内取り込みを、AlexaFluor 568で標識したタンパク質(Molecular Probes, Invitrogen社、カリフォルニア州Carlsbad)を使用して調べた。ヒト肺癌細胞(A549)を8ウェルチャンバスライド(Nunc社、ニューヨーク州Rochester)に50,000個以下の細胞/ウェ
ルの密度で蒔種し、37℃、5%CO2中で一晩インキュベートした。ALEXA標識タンパク質と非標識タンパク質を1:10の比になるよう混合し、ウシ胎児血清がない状態で35μMの最終濃度になるよう細胞を加えた。細胞を37℃、5%CO2中でインキュベート
し、15分後に3.7%のホルムアルデヒド中で固定した。3時間のインキュベート後、1時間後に5%の最終濃度になるようウシ胎仔血清を加えた。細胞取り込みを共焦顕微鏡検査法(LSM510 META共焦システム、Carl Zeiss、ドイツ国Jena)を用いて分析した。結
果を図4に示す。上記の実施例2に記載された天然α−ラクトアルブミンを用いて得られたHAMLETを対照として使用した。
【0048】
予想通りに、15分間の暴露後に示されるように(図4A)、HAMLETは腫瘍細胞により急速に内在化された。3時間後、さらなる増加が生じた。Cys567OAは、急速に内在化され、その後核へ移動するという類似のパタ−ンを示した(図4B)。HAMLETと比較して15分後の取り込みは弱かったが、3時間後には同様な数の細胞がCys567OAを取り込んだ。この取り込み動力学にわずかな差がある理由は直接明確ではなかったが、Cys567OA複合体内の組換えタンパク質の比較的大きな可撓性が最初の取り込みの遅延のある程度の原因となっている可能性があると考えられる。
【0049】
オレイン酸のない変異型タンパク質の内在化も、Cys567OAと比較した(実施例1の35μMのCys567OAまたは組換えタンパク質rHLAall-Ala)(図4Cお
よびD)。変異型タンパク質は細胞表面に結合したが、腫瘍細胞により内在化されなかった。組換えタンパク質のより大きな凝集体が形成され、15分目および3時間目には細胞表面に付着しているままだった(図4D)。
【0050】
上記結果は、腫瘍細胞への内在化がHAMLETとCys567OAの一般的な特徴であることを示しており、これは脂肪酸という補因子が腫瘍細胞への取り込みおよび殺腫瘍活性に必要とされることを示唆している。さらに、組換えタンパク質がそれ自体内在化可能であるという証拠はなかった。
実施例6
TUNEL染色
HAMLETは、TUNEL分析法を使用して、腫瘍細胞株、およびインビボのヒト腫瘍においてDNA損傷を引き起こすことが示されている(Mossberg et al. Int. J. Cancer (2007)121(6)1352-1359)。Cys567OAに応じたDNA損傷の程度を調べるために、実施例4で使用した4つの腫瘍細胞株を複合体に6時間暴露した(リンパ腫細胞で14μM、癌細胞で28μM)。
【0051】
HAMLET、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよびα−ラクトアルブ
ミンを、対照として使用した。
細胞を遠心分離により採集し、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒド中で固定した。細胞を、L−リジンコーティングした顕微鏡スライド上で遠心分離し(25×g、5分、Cytospin 3、Shandon社、英国Cheshire)、−20℃で保存した。核DNA損害を有
する細胞をTUNEL分析法(Roche、スイス国Basel)により識別した。簡単に説明すると、スライドを室温で解凍し、PBSで2回洗浄し、0.1% クエン酸ナトリウム、0.1% Triton X-100で透過性にした。TUNEL反応混合物を適用し、スライドを5%
CO2中で37℃にて1時間インキュベートした。スライドをPBSで3回線上し、カ
バーガラスおよび封入剤(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州St Louise)を載せ、共焦顕微鏡検査法で調べた。
【0052】
Cys567OAは、すべての細胞の種類でTUNEL染色により検出されるDNA損傷を引き起こした(図5)。TUNEL陽性の細胞の数はHAMLETで処理した細胞における数に類似していた。対照的に、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよび
α−ラクトアルブミンはTUNEL染色に影響を及ぼさなかった。結果は、オレイン酸および溶融された球状複合体の両方の細胞傷害効果が核DNAの損傷を含むことを示している。
【0053】
要約すると、8つのシステイン残基がすべてアラニンに置換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは、すべての条件下で、
オレイン酸の存在下で生物学的に活性な複合体に容易に変換される。実際、生産プロセスは驚くほど良好で、単一ピークの増大された収率を与えた。これは、製造の観点で特に有利である。さらに、得られた複合体は、リンパ腫と癌細胞の細胞系列に対して強い殺腫瘍活性を示した。共焦顕微鏡検査法により、腫瘍細胞の核内に複合体が蓄積することが示され、それにより同一の殺腫瘍活性を有するHAMLETの細胞往来パターンが再現された。したがって、Cys567OAは特に好ましい薬の候補を代表する。
【0054】
実施例7
Cys567OAの構造の研究
(実験手順)
1H NMR分光分析−実施例1で説明した組換えヒトα−ラクトアルブミンrHLAall-Ala、HAMLETおよびCys567OAを、2.0ml Zebaスピン脱塩カラム(Thermo Scientific)を用いてリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、2.0M尿素)に
溶媒交換した。結合Ca2+イオンを含むヒトHLAを、2.0M尿素を含む蒸留水に溶媒交換し、pHを7に調節した。すべての場合で、溶媒は10%のD2Oを含んでいた。4
つのサンプルの一次元1H NMR分光測定値を、間接検出クリオプローブ(Bruker BioSpin)を備えた600MHz Ultrashield分光計で得た。20℃、30℃、40℃、50
℃および550℃の温度を、可変温度ユニットで維持した。
【0055】
HLAとは別に、α−ラクトアルブミンの溶融された球状種に見出されるように、rHLAall-Ala、HAMLETおよびCys567OAの一次元1H NMRスペクトルは、解像能が悪く、大きく広がった(図6A−D)。α−ラクトアルブミンの天然または天然に類似の三次元構造の重要なスペクトルの特徴1つは、Ile95のδCH3プロトン(
30℃で−0.7ppm)およびVal92のγCH3プロトン(30℃で−0.5pp
m)に対応する強い上部領域にシフトしたメチル共鳴である(図6Bおよび7A)。この基準を使用すれば、HAMLETは、一般にスペクトル全体にわたりピークが広いにもかかわらず、折り畳まれたHLAよりはるかに低い集団でも、かなりの天然に類似の構造をまだ有することが直ちに明らかとなった(図7A)。これは、HAMLETの楕円率振幅がapo−HLAとrHLAall-Ala/Cys567OAとの中間である近紫外線CDス
ペクトルと一致していた。サンプルをさらに区別する手段として、各タンパク質またはタンパク質−脂肪酸複合体を、2.0M尿素の存在下で徐々に高い温度に暴露させた。尿素を加える理由は2つあり、1つ目はタンパク質(特にrHLAall-Ala)の溶解度を援助
するためであり、2つ目は、分子の動的性質を微妙に増大させて、より速い時間目盛り(折りたたまれていない高度に動的な分子で観察されるもの)からのマイクロ秒からミリ秒までの時間目盛でのコンホメーションの変動(溶融された球体で観察されるもの)を区別するためである。2M尿素を加えてもタンパク質からオレイン酸が剥離されず、2M尿素の存在は、HAMLETおよびCys567OAの細胞毒性活性に否定的影響を与えなかった(2M尿素およびリン酸緩衝液と30分間インキュベート、データは非図示)。
【0056】
HLAの場合、完全に折り畳まれた天然構造の結果としての化学シフトの広い分散と明確なピークから始まって(20℃および30℃)、ピークは徐々に広がり、化学シフト分散は範囲が狭くなるように見えた(40℃から55℃)(図6B)。高温でも上部領域にシフトしたメチル共鳴の特性がまだ存在したが、ピークの高さはピークが広がるにつれてますます小さくなった(図7A,B)。これは2.0M尿素の存在下の55℃ではかなりの数の溶融された球状分子が存在していることを示唆している。比較のため、α−ラクトアルブミンが古典的な高温の溶融された球状状態になる条件は約90℃である(pH7、化学変性剤はなし)。対照的に、rHLAall-Alaのスペクトルは、小さい化学シフト分
散と広いピーク(20℃および30℃)から始まったが、高温でも、また化学シフトがさらに狭くなった場合でも、ピークは徐々に鋭くなる(40℃から55℃)(図6A)。これは、溶融された球状状態からますます緩まった展開状態までタンパク質が変化を受けていることを示す。重要な1つの態様は、この変異型ではどの温度でも上部領域にシフトするメチル共鳴が全く存在しないことである(図7A,B)。これは、近紫外線CDスペクトル(非図示)に見出される特徴によっても示唆されるように、rHLAall-Alaがすべ
ての温度で強い残基間の側鎖相互作用を欠くことを示唆している。
【0057】
上述したように、HAMLETのスペクトル(20℃および30℃;図7)は、Ile95のδCH3プロトン(30℃で−0.7ppm)およびVal92(30℃で−0.
5ppm)のγCH3プロトンを示し、HLAよりも少ない数でも天然に類似の三次元構
造の存在を示している。温度が増大すると、ピークの多くが鋭利になり(図6D)、これらの上部領域共鳴が消える(図7B)ため、低温では部分的に天然に類似しているが、HAMLETの全体的な挙動が天然HLAのそれとは著しく異なることを示唆している。実際、HAMLETの高磁場領域のNMRスペクトルは55℃でCys567OAのそれと同一であることが分かり(図7B)、0.05ppmにおける非常に小さなピ−クを除い
て高磁場領域共鳴はない。驚くべきことに、Cys567OAの場合、温度が増加するにつれ、溶融球体は予測通りにピークが鋭くなり(図6C)、高磁場領域に変化はない(図7A、B)。
【0058】
この一連の実験では、温度を変化させた1H NMR分光を使用して、(i)スペクト
ルがよく分散された狭いピークを示す天然状態、(ii)スペクトルがあまり分散せず広いピークを示す溶融された球状状態、および(iii)スペクトルがあまり分散せず狭い小球ピ−クを示すrHLAall-Ala、HLA、HAMLETおよびCys567OAの展
開状態を区別した。α−ラクトアルブミンとその様々な溶融された球状状態、ならびにアポミオグロビン等の他の原型タンパク質について、バックボーン動力学の重要な研究がかなり詳細に行われた。かかる研究の主体は、異なる実験条件下での異なる構造部位の、バックボーン動力学の複雑さと微妙さとを示している。この研究から到達した重要な結論の1つは先ず、Cys567OAが生理的条件下ではHAMLETとは明らかに構造が異なるということである。さらに、HAMLETは天然類似の分子集団を含んでいるが、Cys567OAには天然類似の側鎖パッキングが完全に欠けており、にもかかわらずHAMLETと等価な細胞毒性活性を示す。したがって、アミロイド原繊維の例と異なり、慎重に人為設計された非天然の部分的に展開された構造の集団は、その環境に従って、細胞への独立した効果を与えることが可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療用のタンパク質複合体の調製方法および該方法に使用される装置および試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えα−ラクトアルブミンの変異型が当該技術分野で周知である。フォールドされかつ溶融された球状型に見出される特性の多くは、天然タンパク質に類似することが判明しているが、変異型では安定性が一般に低下することが一般に認められている。α−ラクトアルブミンはそれ自体、部分的に展開されるか溶融された球状の状態で、生物学的に活性な複合体を形成するために以前は使用されていた(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Svensson et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97(8) 4221-4226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出願人は、特定のタイプの組換えタンパク質が、核磁気共鳴によって実証されるような、固有の組成の特徴および構造を備えた治療上活性な複合体を生産するために使用可能であることを見出した。複合体は、かかる特徴および構造の違いにもかかわらず有用な生物活性を有し、更に、効率的に調製することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
したがって、本発明によれば、生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、分子内ジスルフィド結合または架橋を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、オレイン酸と接触させること、および前記複合体を分離すること、からなる方法が提供される。
【0006】
組換えタンパク質が分子内ジスルフィド架橋を欠くことを確実にすることにより、該タンパク質分子は、三次元的に非天然型となり、元の内因性生物活性の点で完全に不活性となる。これは例えば、天然α−ラクトアルブミン中のシステイン残基を他の残基(特にはアラニン残基)に変化させることにより達成されるが、他の手段、例えばチオ−ル化合物の添加またはタンパク質のpHの変更も考慮され得る。好ましくは、すべてのシステイン残基がアラニン残基等の他の残基に変化される。
【0007】
本明細書に使用する場合、「生物学的に活性」という語句は、複合体が(特にはアポトーシスにより)腫瘍細胞死を引き起こすか、天然モノマ−のα−ラクトアルブミン型では見られない殺菌効果を奏するかの少なくともいずれかが可能であることを意味する。
【0008】
用語「そのフラグメント(α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質のフラグメント)」は、完全なα−ラクトアルブミンのアミノ酸配列を含む複合体と同様な活性を有する複合体を形成する、所与のアミノ酸配列の任意の部分を指す。フラグメントは、ともに連結された、完全長タンパク質の2つ以上の部分を含んでもよい。部分は、適切には、基本配列からの少なくとも5個、好ましくは10個の連続するアミノ酸を含むだろう。
【0009】
適切なフラグメントは、長さが少なくとも20個のアミノ酸、好ましくは少なくとも100個のアミノ酸を含む欠失変異体である。これらはタンパク質からの複数の小領域または該領域の組み合わせを含む。
【0010】
適切なフラグメントは、αドメインとβドメイン間の接点(インタ−フェイス)を形成する部位を含む。かかる部位は、ヒトα−ラクトアルブミンでは、構造中の34−38位および82−86位のアミノ酸により定義される。したがって、適切なフラグメントはかかる部位、好ましくは天然タンパク質の34−86位のアミノ酸の全部位を含む。しかしながら、他の活性フラグメントが見出されてもよい。
【0011】
特には、組換えタンパク質は、ヒトα−ラクトアルブミンの配列に基づくが、ウシまたはヒツジのα−ラクトアルブミンを含む他の供給源由来のα−ラクトアルブミンを組換えタンパク質を得るために使用されてもよい。
【0012】
組換えタンパク質とオレイン酸を、生物学的に活性な複合体に変換するために使用可能な方法は、例えばWO99/26979およびWO2008/138348で説明されているものと類似している。両文献の内容は引用により本明細書に組み込む。しかしながら、本発明の方法によれば、明確な生物学的に活性な生成物が、良好な収率でより容易に入手可能である。
【0013】
詳細には、本発明の方法を使用する場合、高収率の生物学的に活性な複合体が、特に、カラムから溶出する単一分画から、好都合に得られ、長期間のフォールディング(折り畳み)プロセスは必要ない。
【0014】
上記に定義される組換えタンパク質は、イオン交換カラム、特にはDEAE−Trisacryl Mカラム(BioSepraより入手可能、フランス国Ville−neuf所在)等の陰イオン交換カラムでイオン交換が起こる条件下で、オレイン酸と適切に接触させられる。組換えタンパク質がカラムにかけられる前に、カラムはオレイン酸で適切に「事前調整(precondition)される。かかる事前調整は、まずオレイン酸でカラムを溶出するかまたは調整することにより達成され得る。適切には、オレイン酸は、DEAE Trisacryl等の新品の未使用のイオン交換材料を含むカラムを通して溶出される。適切な溶出緩衝液は、8.5pHのTris−HClを含む。このようにカラムに適用されるオレイン酸組成の量は、カラムのサイズや、生物学的に活性な複合体に変換されるのに必要な組換えタンパク質の量等の要因に基づいて、少なくすることが可能である。例えば、14cm×1.6cmのカラムを調整するためには、たった10mgのオレイン酸を使用すればよい。
【0015】
組換えタンパク質をカラムに適用した後(例えば適切な緩衝液の溶液に溶かして)、これを直線の塩勾配で溶出し、高い塩(1M NaClまたは等価物)で溶出した分画を分離する。本発明の方法を使用すると、実質的にすべての生成物がこの1つのピ−クから取得可能である。一方、以前は、2つのピ−クが分離されることが常に要求された。
【0016】
発現されたタンパク質を天然状態に折り畳む必要がなく、かつ複数の分画を得てプールする必要がないので、これは、生産効率および生成物の純度の重要な改善を提供する。
したがって、特定の実施形態では、本発明は、生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、
分子内ジスルフィド結合(架橋)を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、陰イオン交換カラムで、オレイン酸と接触させること、
塩勾配でカラムを溶出すること、および
高塩濃度で溶出する単一分画から、複合体を分離すること、
からなる方法を提供する。
【0017】
「高塩濃度」という語句は、0.5Mを超える濃度、例えば0.75Mを超える濃度、特には約1Mの濃度の、ハロゲン化物(特には塩化物)等の陽イオンとの塩の濃度を指す。要求される濃度は使用される塩によって変わるが、特定の実施形態では塩はNaClであり、適切には1M NaClである。
【0018】
本発明によれば、「α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質」は、天然の成熟α−ラクトアルブミンの配列を有するが、成熟ヒトα−ラクトアルブミンの完全長配列のうちのシステインに6、28、61、73、77、91、111、および120位に見られるシステインがすべてアラニン等の他のアミノ酸に変異され、それでいてジスルフィド架橋を生じない、タンパク質を包含する。したがって、本発明に従って利用可能な特定のタンパク質は、配列番号1のタンパク質を含む。
【0019】
【表1】
【0020】
式中、太字は天然ヒトα−ラクトアルブミンにおけるシステインの変異位置を示す。
出願人は、例えば発現の目的で便利な場合に、いくつかのアミノ酸残基(例えば20以下のアミノ酸)がタンパク質の末端に取り付けられてもよいことを見出した。従って、配列番号1で示される組換えタンパク質であってN末端に追加のメチオニンを備えたもの(以下に示される配列番号2)が、本発明の方法に使用された。この配列を使用して得られた複合体をCys567OAと名付けた。核磁気共鳴法で検査すると、この複合体は固有の特性を示すため、かかる複合体は本発明の特定の態様を形成する。
【0021】
本方法に使用される組換えタンパク質は、従来の組換え発現方法を使用して、純粋な型で適切に生産される。詳細には、必要な組換えα−ラクトアルブミンをコードするDNAを、プラスミド等の適切な発現ベクターへ挿入し、次にこれを用いて宿主細胞(例えば大腸菌等の原核細胞または特定の昆虫細胞等の真核細胞)を形質転換することが可能である。
【0022】
上述の組換えタンパク質の使用により、カルシウムを除去したりおよび溶融した球状物質の存在量を増加したりするために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等のカルシウムキレート剤で処理し、該物質を低pHまたは高温に供するといった前処理工程は不要となる。そのような工程は、生物学的に活性な複合体を生成するために天然ヒトαまたはいくつかのシステイン残基が残っている変異型を使用する場合に一般に好まれる。
【0023】
適切には、プロセスに使用されるオレイン酸は純粋型であるが、人乳のカゼインを含む画分が、上記物質の便利な供給源を提供することができ、以前に実証されたようにプロセスに使用されてもよい。
【0024】
前処理されたカラムを、上述したように、α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの多くの分画を生物学的に活性な複合体へ変換するために、繰り返し使用することが可能である。一旦カラムが消耗されるか、変換率が許容できないレベルに低下したら、複合体の生産活性を回復するために前処理ステップを繰り返
すことが可能である。
【0025】
本発明のプロセスを使用して得られた生成物は新規であり、したがって、本発明のさらなる態様を形成する。
したがって、本発明はさらに、上述したような、α−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントと、オレイン酸とを含む生物学的に活性な複合体を提供する。詳細には、本発明は、配列番号2の組換えタンパク質とオレイン酸を含む、Cys567OAと称される生物学的に活性な複合体を提供する。
【0026】
【表2】
【0027】
この複合体は、例えばアポト−シスにより腫瘍細胞死を引き起こす活性を有するか、またはHAMLET等の他の生物学的に活性な複合体で得られるのと少なくとも等しい殺菌効果を有するかの少なくともいずれかであるという点で、生物学的に活性であることが分かった。
【0028】
したがって、複合体は、従来の方法で薬学的に許容される担体と複合体とを組み合わせることにより、有用な医薬組成物へ製剤化されてもよい。そのような組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0029】
本発明のこの態様に従う組成物は、適切には、例えばクリ−ム、軟膏、ゲル剤、または水性もしくは油性溶液もしくは懸濁液としてば局所的使用に適した剤形の医薬組成物である。これらは薬学的に許容される公知の担体、充填剤、および/または手段を含んでもよい。
【0030】
局所用の溶液またはクリ−ムは、適切には、希釈剤またはクリ−ム基剤と共に、タンパク質複合体用の乳化剤を含む。
複合体の日用量は変化し、通常の臨床実務に従って、患者や治療される症状の性質等によって左右される。一般的なきまりとして、2〜200mg/用量の生物学的に活性な複合体が、各回投与に使用される。
【0031】
本発明のさらなる態様では、癌の治療が必要な患者に上述の生物学的に活性な複合体を投与することを含む、癌を治療する方法が提供される。
詳細には、複合体はヒト皮膚乳頭腫、ヒト膀胱癌、および膠芽腫等の癌を治療するために使用されてよい。膠芽腫の場合、当該技術分野において周知のように、投与は注入によってもよい。
【0032】
本発明はさらに、治療、特には癌の治療に使用される上記に定義した生物学的に活性な複合体を提供する。
システイン残基の除去により生物学的に活性な複合体の収率が増大することは、予期しなかったことである。
【0033】
したがって、本発明のさらなる態様は、α−ラクトアルブミンまたはそのフラグメントをイオン交換条件下でオレイン酸を接触させることを含むプロセスにより取得可能な生物学的に活性な複合体の収率を増加させる方法であって、少なくともいくつかの分子内ジス
ルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、前記プロセスにおいて使用することからなる方法を提供する。
【0034】
上述したように、ジスルフィド架橋は、システイン残基を他のアミノ酸に変化させることにより適切に除去される。詳細には、例えばすべてのシステイン残基を異なるアミノ酸(例えばアラニン)に変化させることにより、すべてのジスルフィド架橋が除去される。
【0035】
さらに、本発明は、生物学的に活性な複合体の製造における、分子内ジスルフィド結合または架橋を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの使用方法を提供する。詳細には、該組換えタンパク質は、システイン残基、特にはすべてのシステイン残基が異なるアミノ酸に変化されているヒトα−ラクトアルブミンの配列またはそのフラグメントを有する。
【0036】
本発明の上記態様で使用される組換えタンパク質は、上述の追加のアミノ酸を含んでいてもよい。
ここで、本発明を、添付の図面を参照しながら例示により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】α−ラクトアルブミンの構造と、上述の組換えタンパク質および天然α−ラクトアルブミンの、オレイン酸で調整されたマトリックス上での生物学的に活性な複合体への変換とに関する。(A)は、タンパク質全体に配置された4つのジスルフィド結合を形成する8つのシステインを含むα−ラクトアルブミンの構造を示す。ジスルフィド結合を黒で示し、関連するシステインの残基の番号を印す。カルシウムイオンを黒で示す。リボン構造は、PDB受入番号1HML(10)から取得し、MOLMOLにより修飾した(Anderson et al, Biochemistry 1997 36 (39) 11648-11654)。(B)低塩(分画1)および高塩(分画2)での経時的な複合体の溶出を示すグラフ。複合体を形成するために、配列番号2の組換えタンパク質をオレイン酸で調整したイオン交換カラムにかけ、複合体をNaCl勾配で溶出した(伝導度トレース、明灰色)。ヒトα−ラクトアルブミンを、EDTA有りまたはEDTA無しで、対照として使用した。(C)これは、0−110分(分画1)および110−140分(分画2)の(B)の濃度曲線下面積として決定された変換率を示す表である。
【図2】α−ラクトアルブミンおよび種々の複合体の円偏光二色性分光法の結果を示す。(A)すべてのシステインがアラニンに変換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質(黒色の実線)および該組換えタンパク質から生物学的に活性な複合体(Cys567OAと称する)(黒色の点線)の三次構造を、近紫外線CD分光法により調べた。スペクトルは5mM Tris、pH8.5中で70μMの天然α−ラクトアルブミン(灰色の実線)、アポα−ラクトアルブミン(灰色の交差線)、および対照としてのHAMLET(灰色の点線)にて、記録した。ヒトα−ラクトアルブミン、α−ラクトアルブミンAll-AlaおよびHAMLETのスペクトルは以前に記載されたものである。(B)HAMLET(灰色の点線)およびCys567OA(黒色の点線)の二次構造を遠紫外線CD分光学法で調べた。対照、α−ラクトアルブミン(灰色の実線)およびα−ラクトアルブミンAll-Ala(黒色の実線)の記録されたスペクトルは、以前の報告と一致していた。スペクトルは5mM Tris、pH8.5中で28μMにて記録した。
【図3】腫瘍細胞の殺滅におけるHAMLETおよび本発明の生物学的複合体の効果を比較する。(A)L1210細胞、(B)Jurkat細胞、(C)HeLa細胞および(D)A549細胞を、HAMLETまたはCys567OAに6時間曝露した。リンパ腫細胞(L210細胞およびJurkat細胞)は14、28および42μMのHAMLETで処理し、癌細胞(A549細胞およびHeLa細胞)は7、14および21μMのHAMLETで処理した。細胞死を未処理細胞に対するパーセント(%)で、トリパンブルー排除により決定し、左側のパネルに示した。HAMLET(黒色三角)およびCys567OA(黒色丸)によるATPレベルの減少を、中間対照に対するパーセント(%)で右側のパネルに示す。2〜5回の実験の平均をエラーバーとして標準偏差で示す。α−ラクトアルブミン(灰色三角)およびα−ラクトアルブミンAll-Ala(灰色丸)タンパク質を対照として使用した。Cys567OAは、HAMLETと同程度に生物学的に活性であり、特にHeLa細胞株とA549細胞株でより活性であることが示された。
【図4】Alexaで標識した複合体の細胞内在化を示す。A549細胞による本発明の生物学的複合体(Cys567OA)の内在化を、Alexa-Fluorで標識した複合体を使用して、共焦顕微鏡検査法により調べた。α−ラクトアルブミン、すべてのシステインがアラニンで置換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質、およびHAMLETを対照として使用した。細胞は35μMで15分および3時間処理した。(A)HAMLETは15分後に腫瘍細胞により急速に内在化され、3時間後には更なる内在化が生じた。(B)Cys567OAはHAMLETよりは遅く内在化されたが、3時間後には類似量が細胞中に存在した。(C)α−ラクトアルブミンまたは(D)α−ラクトアルブミンAll-Alaは細胞により内在化されなかった。
【図5】本発明の複合体を含む生物学的に活性な複合体で処理されたヒト肺癌細胞のTUNEL染色の結果を示す。HAMLETおよびCys567OAへの曝露後の(A)L1210細胞、(B)Jurkat細胞、(C)HeLa細胞および(D)A549細胞におけるDNA損傷の証拠をTUNEL染色を使用して調べた。HAMLETおよびCys567OA(リンパ腫細胞では14μM、癌細胞では28μM)は、4つの細胞株で核DNA損傷を引き起こし、これが陽性TUNEL染色によって示された。α−ラクトアルブミンおよびα−ラクトアルブミンAll-Ala(リンパ腫細胞で21μM、癌細胞で42μM)はDNA損傷を引き起こさなかった。
【図6】ヒトα−ラクトアルブミン(HLA)、以下に説明する組換えヒトα−ラクトアルブミン(rHLAall-Ala)、およびタンパク質−オレイン酸複合体のNMR分光法の結果を示す。
【図7】ヒトα−ラクトアルブミン(HLA)、以下に説明する組換えヒトα−ラクトアルブミン(rHLAall-Ala)、およびタンパク質−オレイン酸複合体のNMR分光法の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0038】
実施例1
タンパク質発現および精製
野生型α−ラクトアルブミンは、4つのジスルフィド結合を形成する6、28、61、73、77、91、111および120位の8つのシステインを含み、かかるジスルフィド結合は天然状態(図1A)を安定させる。2つのジスルフィド結合がα−ドメインに存在し[6−120および28−111]、1つのジスルフィド結合がβ−ドメインに存在し[61−77]、1つのジスルフィド結合が2つのドメインの接点に存在する[73−91]。かかるタンパク質は、カルシウムイオンによっても安定化され、もしカルシウムイオンが除去されると、α−ラクトアルブミンはその明確な三次構造を失い、溶融された球形の状態をとる。
【0039】
野生型ベクターpALAの、T7−ポリメラ−ゼに基づく発現ベクターpAED4(FuFF M.E. Curr Opin. Struct. Biol. (2003 13(6), 674-682)でクローニングしたα−ラクトアルブミンに点突然変異を組み込むことにより得ることができる、すべてのシステインがアラニンに変化されたヒトα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質をコードするベクターpALAALAを使用した。ベクターは大腸菌BL−21*で形質変換
し、組換えタンパク質を、若干改変したが以前に記載されているように発現および精製した(Peng Z.Y. et al, Biochemistry (1995) 34(104),3241-3252; Schulman B.et al., J.
MoI. Biol. 253, 651-657)。封入体を尿素緩衝液(10mM Tris、8M 尿素、
5mM 還元グルタチオン、pH8.0)で可溶化し、20mM Tris、pH 8.
0で平衡化したDEAEセルロ−ス(Whatman、英国Brentford所在)カラムに載せた。カラムを25mM Tris、10mM 還元グルタチオン、0.25M NaCl、pH
8.0で洗浄し、タンパク質を25mM Tris、7M 尿素、0.5M KCl、pH8.0で溶出した。分画をプールし、静止した水道水で24時間透析し、次に流した水道水で少なくとも48時間透析した(Spectra/Pore、カリフォルニア州Laguna Hills所在、分子量カットオフ値3.5kDa)。透析中に沈澱がある場合、沈殿を5M 尿素に溶解し、次に流した水道水で透析し、凍結乾燥した。透析したサンプルを、25mM Tris、0.2mM CaCl2、pH 7.8で平衡化したDEAE−Sephac
el(Amersham Biosciences、スウェーデン国Uppsala所在)カラムに載せ、その後、直
線の塩勾配(25mM Tris、0.2mM CaCl2、0−0.4M NaCl、pH 7.8)で溶出した。分画をプールし、pH7の蒸留水に対して透析し(分子量カットオフ値3.5kDa)、凍結乾燥した。精製された変異タンパク質は、ヒトα−ラクトアルブミンの配列であるが、N末端に余分なメチオニン残基(これは除去されなかった)を含む配列番号2を有する。
【0040】
組換えタンパク質は比較的高収率(100mg/Lの培養)で大腸菌BL21*で発現
され、均一になるよう精製された。組換えタンパク質ではすべてのシステインがアラニンに置換されているので、ジスルフィド結合を含まない。しかしながら、天然に類似のトポロジ−が保存されていることが分っている。近紫外線CD分光法およびNMRにより示されるように、変異型は溶融された球状のコンホメーションをとり、遠紫外線CD分光学によって示されるように、二次構造が保持されていた。このタンパク質をrHLAall-Ala
と名付けた。
実施例2
イオン交換クロマトグラフィによるオレイン酸との複合体の形成
カラム(14cm×1.6cm)に10mlのDEAE−Trisacryl M (BioSepra、フランス国Ville-neuf)を充填し、オレイン酸(C18:1:9シス)で調整した。これは以前に記載された通りである(Svensson et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2000) 97(8) 4221-4226 and Pettersson J. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. (2006) 345(1) 260-270)。本質的に、10ミリグラムのオレイン酸を超音波処理により500μlの99.5%エタノールに溶解させた。10mM Tris−HCl pH8.5(10ml)を加えた後、溶液をカラムにかけた。5ミリグラムのタンパク質(実施例1で説明したように得られた組換えタンパク質rHLAall-Ala)または天然α−ラ
クトアルブミンを含む対照もしくはまたは過剰のEDTAで予めインキュベートした天然α−ラクトアルブミンを含む対照を緩衝液(50mM Tris/HCl pH 8.5、0.1M NaCl)に溶解し、カラムに個別に加えた。
【0041】
NaCl勾配を適用した後、分画を集めた。
カラムをNaCl勾配(10mM Tris HCl(pH8.5)を含む緩衝液A、次に1M NaClを含む緩衝液Aである緩衝液B)で溶出し、高い塩の前(分画1(t=0−110分)または後(分画2(t=110−130分)で溶出する分画を調べた(図1B)。実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaを使用して得られた複合体(C
ys567OA)は、HAMLETと同じ位置で鋭いピークとして溶出された。対照的に、野性型α−ラクトアルブミンは、高い塩を適用した後で溶出する有意な複合体を生産しない(図1Bおよび1C)。実際、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは、E
DTAで処理したα−ラクトアルブミンよりもより効率的に生物学的に活性な複合体に変換されることが分かり、適用されたタンパク質の回収率は71%(範囲67−94%、標準偏差11.3、n=5)に比較して99%(範囲87−99%、標準偏差、n=4.5)であった(図1C)。これは、変異型タンパク質のコンホメーションの構造的均一性がより大きいことを反映している可能性がある。つまり、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaの割合が大きいほど、脂肪酸が結合された複合体へクロマトグラフィで変換
される条件下で、溶融された球状状態をとるのがより容易になる。
【0042】
塩を、蒸留水に対する透析で除去し(Spectra/Pore、膜カットオフ値3.5kDa)、その後凍結乾燥させた。
実施例3
α−ラクトアルブミンの円偏光二色性分光測定
遠紫外線および近紫外線CDスペクトルをα−ラクトアルブミン、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Ala、HAMLET、および実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaを使用して得られたCys567OAに25℃で集束させた。凍結乾燥させた材料を、近赤外線および遠紫外線CDスペクトル用にそれぞれ70および28μMの濃度となるように、5mM Tris、pH 8.5に溶解した。近紫外線スペクトルは、240nmおよび320nmの間、遠紫外線スペクトルは190〜250nmの間で得た。波長のステップは1nmとし、応答時間は8秒、走査速度は10nm/分とした。6回の走査の平均を示し、平均残基楕円率θm(deg・cm・dmol-を以前に記載されたように計算した(Svensson M. et al., J. Biol. Chem. (1999) 274 (10), 6388-6396)。
【0043】
実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaにおける三次的な相互作用の本質的な弱
まりが近紫外線CD分光法(図2A)により検出され、これはα−ラクトアルブミンの溶融された球状の場合に合致した。実際、室温では、アポ−α−ラクトアルブミンは完全に溶融した球状というわけではなく(図2A)、代わりに、かなりのタンパク質分子の集団が天然状態および溶融された球状状態に区画され、これが平衡に共存し、スペクトルが平均化している。したがって、同一条件下では、実施例1の分子の組換えタンパク質rHLAall-Alaの割合がより大きいと、本物の溶融された球状状態となり、これは上述のオレ
イン酸による実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaの変換率の観察される増大に
寄与し得る。生物学的に活性な複合体への変換後、複合体の近紫外線スペクトルは、変異型タンパク質のみのスペクトルとほぼ同一であったが、これはオレイン酸の結合が検出可能な三次構造の量を増加させなかったことを示している(図2A)。
【0044】
二次構造に関し、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよび該組換えタンパ
ク質から得られた生物学的に活性な複合体(Cys567OA)は、いずれも、遠紫外線CD分光法(図2B)で示される野性型タンパク質の二次構造に質的に類似の内容を保持しており、これも従来の研究とよく相関していた。
実施例4
細胞死分析
マウスリンパ腫細胞(L1210、ATCC、CCL−219)、ヒトリンパ腫細胞(Jurkat、ATCC、TIB−152)、ヒト肺癌細胞(A549、ATCC、CCL−185)およびヒト子宮頚癌細胞(HeLa、ATCC、CCL−2)を、Cys567OAの殺腫瘍活性の検査に使用した。細胞を採集し、洗浄し、ウシ胎仔血清を含まないRPMI 1640培地(PAA Laboratories GmbH、オーストリア国Pasching)に再懸
濁した。接着細胞に関しては、剥離のためにヴェルセン液(Versene)(140mM N
aCl、2.4mM KCl、8mM Na2HPO4、1.6mM KH2PO4、0.5mM EDTA、pH7.2)を使用した。細胞を1×106細胞/ウェルの濃度で24
ウェルプレ−ト(TPP、スイス国Trasadingen)へ接種した。凍結乾燥した材料を、0.7mM(分子量14,200g/mol)でリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、7〜42μMの間の最終濃度でウェルに添加した。HAMLETおよびCys567CAの記載された濃度は、タンパク質部分のモル濃度を指す。細胞を5%CO2雰囲気で37℃にてイン
キュベートし、1時間後に5%の最終濃度となるようウシ胎児血清を各ウェルに加えた。細胞生存率を、干渉コントラスト顕微鏡(Laborlux 12, ドイツ国Leitz Wetzlar)でトリパンブルー排除を使用して6時間後に決定した。ATPレベルをATP Lite(発光ATP検知アッセイシステム、PerkinElmer社、マサチューセッツ州Boston)を使用して決定し、
発光を照度計(LUMIstar、BMG Labtech社、ドイツ国Offenburg)を使用して検知した。
【0045】
6時間後の生存率の損失を、ATPレベルの減少およびトリパンブルー染色の増加として定量した(図3)。Cys567OAは用量依存的に腫瘍細胞を殺すこと示された。全細胞のうちの80%超が、試験された最も高い濃度(リンパ腫細胞で21μMおよび癌細胞で42μM)への曝露の6時間後に同様な結果がHAMLETでも得られ、60%超の細胞が、最も高い濃度への6時間の曝露後に死滅した。2つの複合体の間には殺腫瘍活性の統計的有意差はなかった(p>0.05、one-way ANOVA)。結果は、Cys567O
AがHAMLETと同程度に活性であることを示している。
【0046】
さらに、天然タンパク質のみの対照と同様に、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは単独で細胞生存率を現象させなかった(図3)。上述のように得られた複合体で
処理した細胞の生存率と、脂肪酸を含まない組換えタンパク質rHLAall-Alaで処理し
た細胞の生存率との間には統計学的有意差が観察された(p<0.005、one-way ANOVA)。多くの研究が示唆するのは、タンパク質の部分的展開とそれに続くオリゴマー化と
集合が、細胞毒性特性を有するアミロイド構造を生じさせるというものである。α−ラクトアルブミンの酸性の溶融された球状型(「A状態」)の場合には、アミロイド原繊維が実際に高い塩濃度の存在下で生ずることが知られている。しかしながら、そのような溶液条件は、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaに関してはここでは使用しなかっ
たため、溶融された球状型への部分的展開がタンパク質を細胞毒性にしていないことを示している。
【0047】
細胞生存率に対する効果の差を、一元配置分散分析(one-way analysis of variance ,ANOVA)と、それに続くBonferroni多重比較検定を用いて比較した。分析はGraphPad InStat3(Macintoshバ−ジョン3.0b)を使用して行なった。
実施例5
腫瘍細胞におけるCys567OAの取り込み
組換えタンパク質および該組換えタンパク質から得られたCys567OAの細胞内取り込みを、AlexaFluor 568で標識したタンパク質(Molecular Probes, Invitrogen社、カリフォルニア州Carlsbad)を使用して調べた。ヒト肺癌細胞(A549)を8ウェルチャンバスライド(Nunc社、ニューヨーク州Rochester)に50,000個以下の細胞/ウェ
ルの密度で蒔種し、37℃、5%CO2中で一晩インキュベートした。ALEXA標識タンパク質と非標識タンパク質を1:10の比になるよう混合し、ウシ胎児血清がない状態で35μMの最終濃度になるよう細胞を加えた。細胞を37℃、5%CO2中でインキュベート
し、15分後に3.7%のホルムアルデヒド中で固定した。3時間のインキュベート後、1時間後に5%の最終濃度になるようウシ胎仔血清を加えた。細胞取り込みを共焦顕微鏡検査法(LSM510 META共焦システム、Carl Zeiss、ドイツ国Jena)を用いて分析した。結
果を図4に示す。上記の実施例2に記載された天然α−ラクトアルブミンを用いて得られたHAMLETを対照として使用した。
【0048】
予想通りに、15分間の暴露後に示されるように(図4A)、HAMLETは腫瘍細胞により急速に内在化された。3時間後、さらなる増加が生じた。Cys567OAは、急速に内在化され、その後核へ移動するという類似のパタ−ンを示した(図4B)。HAMLETと比較して15分後の取り込みは弱かったが、3時間後には同様な数の細胞がCys567OAを取り込んだ。この取り込み動力学にわずかな差がある理由は直接明確ではなかったが、Cys567OA複合体内の組換えタンパク質の比較的大きな可撓性が最初の取り込みの遅延のある程度の原因となっている可能性があると考えられる。
【0049】
オレイン酸のない変異型タンパク質の内在化も、Cys567OAと比較した(実施例1の35μMのCys567OAまたは組換えタンパク質rHLAall-Ala)(図4Cお
よびD)。変異型タンパク質は細胞表面に結合したが、腫瘍細胞により内在化されなかった。組換えタンパク質のより大きな凝集体が形成され、15分目および3時間目には細胞表面に付着しているままだった(図4D)。
【0050】
上記結果は、腫瘍細胞への内在化がHAMLETとCys567OAの一般的な特徴であることを示しており、これは脂肪酸という補因子が腫瘍細胞への取り込みおよび殺腫瘍活性に必要とされることを示唆している。さらに、組換えタンパク質がそれ自体内在化可能であるという証拠はなかった。
実施例6
TUNEL染色
HAMLETは、TUNEL分析法を使用して、腫瘍細胞株、およびインビボのヒト腫瘍においてDNA損傷を引き起こすことが示されている(Mossberg et al. Int. J. Cancer (2007)121(6)1352-1359)。Cys567OAに応じたDNA損傷の程度を調べるために、実施例4で使用した4つの腫瘍細胞株を複合体に6時間暴露した(リンパ腫細胞で14μM、癌細胞で28μM)。
【0051】
HAMLET、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよびα−ラクトアルブ
ミンを、対照として使用した。
細胞を遠心分離により採集し、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒド中で固定した。細胞を、L−リジンコーティングした顕微鏡スライド上で遠心分離し(25×g、5分、Cytospin 3、Shandon社、英国Cheshire)、−20℃で保存した。核DNA損害を有
する細胞をTUNEL分析法(Roche、スイス国Basel)により識別した。簡単に説明すると、スライドを室温で解凍し、PBSで2回洗浄し、0.1% クエン酸ナトリウム、0.1% Triton X-100で透過性にした。TUNEL反応混合物を適用し、スライドを5%
CO2中で37℃にて1時間インキュベートした。スライドをPBSで3回線上し、カ
バーガラスおよび封入剤(Sigma-Aldrich、アメリカ合衆国ミズーリ州St Louise)を載せ、共焦顕微鏡検査法で調べた。
【0052】
Cys567OAは、すべての細胞の種類でTUNEL染色により検出されるDNA損傷を引き起こした(図5)。TUNEL陽性の細胞の数はHAMLETで処理した細胞における数に類似していた。対照的に、実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaおよび
α−ラクトアルブミンはTUNEL染色に影響を及ぼさなかった。結果は、オレイン酸および溶融された球状複合体の両方の細胞傷害効果が核DNAの損傷を含むことを示している。
【0053】
要約すると、8つのシステイン残基がすべてアラニンに置換されたα−ラクトアルブミンの配列を有する実施例1の組換えタンパク質rHLAall-Alaは、すべての条件下で、
オレイン酸の存在下で生物学的に活性な複合体に容易に変換される。実際、生産プロセスは驚くほど良好で、単一ピークの増大された収率を与えた。これは、製造の観点で特に有利である。さらに、得られた複合体は、リンパ腫と癌細胞の細胞系列に対して強い殺腫瘍活性を示した。共焦顕微鏡検査法により、腫瘍細胞の核内に複合体が蓄積することが示され、それにより同一の殺腫瘍活性を有するHAMLETの細胞往来パターンが再現された。したがって、Cys567OAは特に好ましい薬の候補を代表する。
【0054】
実施例7
Cys567OAの構造の研究
(実験手順)
1H NMR分光分析−実施例1で説明した組換えヒトα−ラクトアルブミンrHLAall-Ala、HAMLETおよびCys567OAを、2.0ml Zebaスピン脱塩カラム(Thermo Scientific)を用いてリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0、2.0M尿素)に
溶媒交換した。結合Ca2+イオンを含むヒトHLAを、2.0M尿素を含む蒸留水に溶媒交換し、pHを7に調節した。すべての場合で、溶媒は10%のD2Oを含んでいた。4
つのサンプルの一次元1H NMR分光測定値を、間接検出クリオプローブ(Bruker BioSpin)を備えた600MHz Ultrashield分光計で得た。20℃、30℃、40℃、50
℃および550℃の温度を、可変温度ユニットで維持した。
【0055】
HLAとは別に、α−ラクトアルブミンの溶融された球状種に見出されるように、rHLAall-Ala、HAMLETおよびCys567OAの一次元1H NMRスペクトルは、解像能が悪く、大きく広がった(図6A−D)。α−ラクトアルブミンの天然または天然に類似の三次元構造の重要なスペクトルの特徴1つは、Ile95のδCH3プロトン(
30℃で−0.7ppm)およびVal92のγCH3プロトン(30℃で−0.5pp
m)に対応する強い上部領域にシフトしたメチル共鳴である(図6Bおよび7A)。この基準を使用すれば、HAMLETは、一般にスペクトル全体にわたりピークが広いにもかかわらず、折り畳まれたHLAよりはるかに低い集団でも、かなりの天然に類似の構造をまだ有することが直ちに明らかとなった(図7A)。これは、HAMLETの楕円率振幅がapo−HLAとrHLAall-Ala/Cys567OAとの中間である近紫外線CDス
ペクトルと一致していた。サンプルをさらに区別する手段として、各タンパク質またはタンパク質−脂肪酸複合体を、2.0M尿素の存在下で徐々に高い温度に暴露させた。尿素を加える理由は2つあり、1つ目はタンパク質(特にrHLAall-Ala)の溶解度を援助
するためであり、2つ目は、分子の動的性質を微妙に増大させて、より速い時間目盛り(折りたたまれていない高度に動的な分子で観察されるもの)からのマイクロ秒からミリ秒までの時間目盛でのコンホメーションの変動(溶融された球体で観察されるもの)を区別するためである。2M尿素を加えてもタンパク質からオレイン酸が剥離されず、2M尿素の存在は、HAMLETおよびCys567OAの細胞毒性活性に否定的影響を与えなかった(2M尿素およびリン酸緩衝液と30分間インキュベート、データは非図示)。
【0056】
HLAの場合、完全に折り畳まれた天然構造の結果としての化学シフトの広い分散と明確なピークから始まって(20℃および30℃)、ピークは徐々に広がり、化学シフト分散は範囲が狭くなるように見えた(40℃から55℃)(図6B)。高温でも上部領域にシフトしたメチル共鳴の特性がまだ存在したが、ピークの高さはピークが広がるにつれてますます小さくなった(図7A,B)。これは2.0M尿素の存在下の55℃ではかなりの数の溶融された球状分子が存在していることを示唆している。比較のため、α−ラクトアルブミンが古典的な高温の溶融された球状状態になる条件は約90℃である(pH7、化学変性剤はなし)。対照的に、rHLAall-Alaのスペクトルは、小さい化学シフト分
散と広いピーク(20℃および30℃)から始まったが、高温でも、また化学シフトがさらに狭くなった場合でも、ピークは徐々に鋭くなる(40℃から55℃)(図6A)。これは、溶融された球状状態からますます緩まった展開状態までタンパク質が変化を受けていることを示す。重要な1つの態様は、この変異型ではどの温度でも上部領域にシフトするメチル共鳴が全く存在しないことである(図7A,B)。これは、近紫外線CDスペクトル(非図示)に見出される特徴によっても示唆されるように、rHLAall-Alaがすべ
ての温度で強い残基間の側鎖相互作用を欠くことを示唆している。
【0057】
上述したように、HAMLETのスペクトル(20℃および30℃;図7)は、Ile95のδCH3プロトン(30℃で−0.7ppm)およびVal92(30℃で−0.
5ppm)のγCH3プロトンを示し、HLAよりも少ない数でも天然に類似の三次元構
造の存在を示している。温度が増大すると、ピークの多くが鋭利になり(図6D)、これらの上部領域共鳴が消える(図7B)ため、低温では部分的に天然に類似しているが、HAMLETの全体的な挙動が天然HLAのそれとは著しく異なることを示唆している。実際、HAMLETの高磁場領域のNMRスペクトルは55℃でCys567OAのそれと同一であることが分かり(図7B)、0.05ppmにおける非常に小さなピ−クを除い
て高磁場領域共鳴はない。驚くべきことに、Cys567OAの場合、温度が増加するにつれ、溶融球体は予測通りにピークが鋭くなり(図6C)、高磁場領域に変化はない(図7A、B)。
【0058】
この一連の実験では、温度を変化させた1H NMR分光を使用して、(i)スペクト
ルがよく分散された狭いピークを示す天然状態、(ii)スペクトルがあまり分散せず広いピークを示す溶融された球状状態、および(iii)スペクトルがあまり分散せず狭い小球ピ−クを示すrHLAall-Ala、HLA、HAMLETおよびCys567OAの展
開状態を区別した。α−ラクトアルブミンとその様々な溶融された球状状態、ならびにアポミオグロビン等の他の原型タンパク質について、バックボーン動力学の重要な研究がかなり詳細に行われた。かかる研究の主体は、異なる実験条件下での異なる構造部位の、バックボーン動力学の複雑さと微妙さとを示している。この研究から到達した重要な結論の1つは先ず、Cys567OAが生理的条件下ではHAMLETとは明らかに構造が異なるということである。さらに、HAMLETは天然類似の分子集団を含んでいるが、Cys567OAには天然類似の側鎖パッキングが完全に欠けており、にもかかわらずHAMLETと等価な細胞毒性活性を示す。したがって、アミロイド原繊維の例と異なり、慎重に人為設計された非天然の部分的に展開された構造の集団は、その環境に従って、細胞への独立した効果を与えることが可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、
分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、オレイン酸と接触させること、および
前記複合体を分離すること、
からなる方法。
【請求項2】
前記組換えタンパク質は、すべてのシステイン残基が別のアミノ酸に変化されたα−ラクトアルブミンからなる請求項1に記載に記載の方法。
【請求項3】
α−ラクトアルブミン中のシステイン残基がアラニン残基に変化されている請求項2に記載の方法。
【請求項4】
α−ラクトアルブミンはヒトα−ラクトアルブミンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載のα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、イオン交換カラム、特には陰イオン交換カラムでオレイン酸と接触させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カラムは直線の塩勾配で溶出され、前記生物学的に活性な複合体は高塩濃度で溶出する単一の分画から分離される請求項5に記載に記載の方法。
【請求項7】
高塩濃度は1M NaClまたはその等価物である請求項6に記載に記載の方法。
【請求項8】
組換えタンパク質が、配列番号1:
【表1】
と、
該配列番号1のタンパク質の末端に取り付けられた任意選択の20以下のアミノ酸と、を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
組換えタンパク質が、配列番号2:
【表2】
を有する請求項8に記載に記載の方法。
【請求項10】
分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントと、オレイン酸とを含む生物学的に活性な複合体。
【請求項11】
前記組換えタンパク質は配列番号1または配列番号2を有する請求項10の生物学的に活性な複合体。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の複合体と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項13】
治療に使用される請求項10または請求項11に記載の生物学的に活性な複合体。
【請求項14】
癌の治療に使用される請求項13に記載の生物学的に活性な複合体。
【請求項15】
α−ラクトアルブミンまたはそのフラグメントをイオン交換条件下でオレイン酸を接触させることを含むプロセスにより取得可能な生物学的に活性な複合体の収率を増加させる方法であって、
少なくともいくつかの分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、前記プロセスにおいて使用することからなる方法。
【請求項16】
少なくともいくつかのシステイン残基が別のアミノ酸に変化される請求項16に記載に記載の方法。
【請求項17】
生物学的に活性な複合体の製造における、分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの使用方法であって、該組換えタンパク質またはそのフラグメントにおいて、例えばシステイン残基、詳細にはすべてのシステイン残基が別のアミノ酸に変化されている、使用方法。
【請求項1】
生物学的に活性な複合体を生産する方法であって、
分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、生物学的に活性な複合体が形成される条件下で、オレイン酸と接触させること、および
前記複合体を分離すること、
からなる方法。
【請求項2】
前記組換えタンパク質は、すべてのシステイン残基が別のアミノ酸に変化されたα−ラクトアルブミンからなる請求項1に記載に記載の方法。
【請求項3】
α−ラクトアルブミン中のシステイン残基がアラニン残基に変化されている請求項2に記載の方法。
【請求項4】
α−ラクトアルブミンはヒトα−ラクトアルブミンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載のα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、イオン交換カラム、特には陰イオン交換カラムでオレイン酸と接触させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記カラムは直線の塩勾配で溶出され、前記生物学的に活性な複合体は高塩濃度で溶出する単一の分画から分離される請求項5に記載に記載の方法。
【請求項7】
高塩濃度は1M NaClまたはその等価物である請求項6に記載に記載の方法。
【請求項8】
組換えタンパク質が、配列番号1:
【表1】
と、
該配列番号1のタンパク質の末端に取り付けられた任意選択の20以下のアミノ酸と、を有する請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
組換えタンパク質が、配列番号2:
【表2】
を有する請求項8に記載に記載の方法。
【請求項10】
分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントと、オレイン酸とを含む生物学的に活性な複合体。
【請求項11】
前記組換えタンパク質は配列番号1または配列番号2を有する請求項10の生物学的に活性な複合体。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載の複合体と、薬学的に許容される担体とを組み合わせて含む医薬組成物。
【請求項13】
治療に使用される請求項10または請求項11に記載の生物学的に活性な複合体。
【請求項14】
癌の治療に使用される請求項13に記載の生物学的に活性な複合体。
【請求項15】
α−ラクトアルブミンまたはそのフラグメントをイオン交換条件下でオレイン酸を接触させることを含むプロセスにより取得可能な生物学的に活性な複合体の収率を増加させる方法であって、
少なくともいくつかの分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントを、前記プロセスにおいて使用することからなる方法。
【請求項16】
少なくともいくつかのシステイン残基が別のアミノ酸に変化される請求項16に記載に記載の方法。
【請求項17】
生物学的に活性な複合体の製造における、分子内ジスルフィド結合を欠くα−ラクトアルブミンの配列を有する組換えタンパク質またはそのフラグメントの使用方法であって、該組換えタンパク質またはそのフラグメントにおいて、例えばシステイン残基、詳細にはすべてのシステイン残基が別のアミノ酸に変化されている、使用方法。
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図1】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図1】
【図3】
【公表番号】特表2012−514466(P2012−514466A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544926(P2011−544926)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050024
【国際公開番号】WO2010/079362
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(506291863)ハムレット・ファルマ・アーベー (3)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国際出願番号】PCT/GB2010/050024
【国際公開番号】WO2010/079362
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(506291863)ハムレット・ファルマ・アーベー (3)
【Fターム(参考)】
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