説明

複合分離膜およびその製造方法

【課題】
逆浸透膜などの造水用途の分離膜では、現在さらなる透過性能の向上および除去性能等の膜分離性能の向上が求められている。本発明は、従来同等の除去性能を維持しながら、従来よりも更に高い透過性能を有する複合分離膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明は、多孔性支持膜上にポリアミドを含む分離機能層を有する複合分離膜において、前記分離機能層がさらに金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離機能層とこれを支持する多孔性支持膜とからなる複合分離膜及びその製造方法に関する。かかる複合分離膜は、主に逆浸透膜(RO膜)やナノフィルトレーション膜(NF膜)として用いられ、超純水の製造、かん水または海水の脱塩や、排水処理などに好適に用いられる。さらには、染色排水、電着塗料排水や下水などから有害成分を分離し、除去・回収することができる。また、食品用途における有効成分の濃縮などの高度処理に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
複合分離膜は、多孔性支持膜上に所望の分離能を有する分離機能層を積層している。分離機能層としては、その用途に応じてポリアミド、ポリスルホン、酢酸セルロースなどからなるものが知られているが、例えば逆浸透膜分野では、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハライドとの界面重合によって得られるポリアミドからなるものがよく知られている。また多孔性支持膜としては、例えば、不織布等の多孔性支持材料上にポリスルホン等の微多孔層を設け、その上にポリアミド系スキン層を形成したものが知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら現在では、さらなる逆浸透膜としての透過性能や除去性能等の膜分離性能の向上が求められているが、前記の既存の技術では不十分であり、さらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−085068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来同等の除去性能を維持しながら、従来よりも更に高い透過性能を有する複合分離膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、多孔性支持膜上にポリアミドを含む分離機能層を有する複合分離膜において、前記分離機能層がさらに金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とするものであり、前記分離機能層に含まれる金属アルコキシドはチタニウテトライソプロポキシドであることが好ましく、アルコキシシリル含有化合物としては、ビス−トリエトキシシリルエタンまたは、フェニルトリエトキシシランであることが好ましい。
【0007】
また本発明は、多孔性支持膜上に多官能アミン成分を含む水溶液被覆層を形成し、そこに多官能酸ハライド成分を含む溶液を接触させて重合することで多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成する複合分離膜の製造方法であって、前記多官能酸ハライド成分を含む溶液が、さらに金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とする複合分離膜の製造方法である。このとき、多官能酸ハライド成分を含む溶液は、さらにエーテル類、ケトン類または、エステル類のいずれかからなる添加剤を含むことが好ましく、多官能酸ハライド成分を含む溶液を調製して、多官能アミン成分を含む水溶液被覆層に接触させる前には、多官能酸ハライド成分を含む溶液に超音波処理を施すことが好ましい。
【0008】
さらに本発明は、前記製造方法により得られた複合分離膜と、前記複合分離膜を用いた分離膜エレメントに関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の分離機能層における実施例2の平面SEM写真(反射電子像)(1万倍)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における複合分離膜は、多孔性支持膜上にポリアミドを含む分離機能層を有する複合分離膜において、前記分離機能層がさらに金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とする。
【0011】
分離機能層中での金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物の存在状態は、図1に示したように、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて同膜表面の反射電子像を撮影することで確認できる。これによると、アルコキシ基存在部位の反射率が高いため、白っぽく見ることができる。
【0012】
前記金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物としては、金属原子やケイ素原子にアルコキシ基が結合し、これらが分離機能層と有機的に結合または混合されているものであれば、特に限定されるものではないが、安定性、反応性および汎用性の点からはアルコキシシラン等のアルコキシシリル含有化合物が好ましく用いられる。前記金属原子としては特に限定されるものではなく、マグネシウム、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、鉄などの化合物を用いることができるが、安定性や反応性の面から、チタンの化合物を用いることが好ましい。アルコキシ基としては特に限定されるものではないが、十分な除去性能を維持する観点からは、炭素数が1〜10程度の
【0013】
これらの金属アルコキシドやアルコキシシリル含有化合物は、分離機能層中でIPN(interpenetrating polymer network(相互侵入高分子網目))構造や、Mixture Matrix構造をとることで分離機能層のポリマーと有機的に結合または混合されていると考えられる。そのため、その目的の分離膜に応じた構造形態をとる化合物を適宜用いることが好ましい。
【0014】
前記アルコキシシリル含有化合物としては、例えば、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、オルガノアルコキシシラン、ジオルガノジアルコキシシラン、ビスシリルアルカン、ビスシリルベンゼンまたは、ジアルキルテトラアルコキシジシラン等のシリコンアルコキシドが挙げられる。前記金属アルコキシドとしては、例えば、チタニウムテトラアルコキシド等のチタニウムアルコキシドや、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシドが挙げられる。
【0015】
前記テトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン等が挙げられる。
【0016】
前記トリアルコキシシランの具体例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、フルオロトリメトキシシラン、フルオロトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリ−n−プロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリ−n−ブトキシシラン、メチルトリイソブトキシシラン、メチルトリ−tert−ブトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリ−n−プロポキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリ−n−ブトキシシラン、エチルトリイソブトキシシラン、エチルトリ−tert−ブトキシシラン、エチルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリ−n−プロポキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリ−n−ブトキシシラン、n−プロピルトリイソブトキシシラン、n−プロピルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、n−ブチルトリイソプロポキシシラン、n−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、n−ブチルトリイソブトキシシラン、n−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、n−ブチルトリフェノキシシラン、sec−ブチルトリメトキシシラン、sec−ブチルトリエトキシシラン、sec−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、sec−ブチルトリイソプロポキシシラン、sec−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、sec−ブチルトリイソブトキシシラン、sec−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、sec−ブチルトリフェノキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリ−n−プロポキシシラン、t−ブチルトリイソプロポキシシラン、t−ブチルトリ−n−ブトキシシラン、t−ブチルトリイソブトキシシラン、t−ブチルトリ−tert−ブトキシシラン、t−ブチルトリフェノキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリ−n−プロポキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリ−n−ブトキシシラン、フェニルトリイソブトキシシラン、フェニルトリ−tert−ブトキシシラン、フェニルトリフェノキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、ペンタフルオロエチルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0017】
ビスシリルアルカンまたはビスシリルベンゼンの具体例としては、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリ−n−プロポキシシリル)メタン、ビス(トリイソプロポキシシリル)メタン、ビス(トリメトキシシリル)エタン、ビス(トリエトキシシリル)エタン、ビス(トリ−n−プロポキシシリル)エタン、ビス(トリイソプロポキシシリル)エタン、ビス(トリメトキシシリル)プロパン、ビス(トリエトキシシリル)プロパン、ビス(トリ−n−プロポキシシリル)プロパン、ビス(トリイソプロポキシシリル)プロパン、ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、ビス(トリ−n−プロポキシシリル)ベンゼン、ビス(トリイソプロポキシシリル)ベンゼン等が挙げられる。
【0018】
前記チタニウムテトラアルコキシドの具体例としては、チタニウムテトライソプロポキシドやチタニウムテトラ(n−ブトキシド)等が挙げられる。
【0019】
これらの金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物は、1種のみを使用しても良いが、2種以上併用してもよい。また、市販品を用いてもよいが、公知の方法により合成してもよい。なかでも、安定性と汎用性を考慮すると、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ビスシリルアルカン、チタニウムテトラアルコキシドを用いることが好ましく、特に、チタニウムテトライソプロポキシド、ビストリエトキシシリルエタン、フェニルトリエトキシシラン、テトラエトキシシランまたは、テトラメトキシシランのいずれかを用いることが好ましい。これらの物質を用いることで特に、複合逆浸透膜としての高い除去性能を維持しつつ、透過性能を大幅に向上させることができる。
【0020】
前記多孔性支持膜としては、分離機能層を形成しうるものであれば特に限定されず、通常平均孔径10〜500Å程度の微多孔層を、不織布上に形成した限外濾過膜が好ましく用いられる。前記微多孔層の形成材料は、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンなど種々のものをあげることができるが、特に化学的、機械的、熱的に安定である点からポリスルホン、ポリアリールエーテルスルホンを用いた多孔性支持膜が好ましい。また、前記平均孔径を有するエポキシなどの熱硬化性樹脂からなる自立型の多孔性支持膜を用いることができる。かかる多孔性支持膜は、通常約25〜125μm、好ましくは約40〜75μmの厚みを有するが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0021】
前記複合分離膜の製造方法は、前記多孔性支持膜上に多官能アミン成分を含む水溶液被覆層を形成し、そこに多官能酸ハライド成分を含む溶液を接触させることで前記ポリアミド系分離機能層を形成する。本発明では金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物の添加方法については、特に限A定されるものではなく、分離膜としての使用に耐えうる程度の、分離機能層との結合又は混合状態にあることが望まれる。例えば、前記多官能ハライド成分を含む溶液中に金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を添加することで分離機能層との結合または混合状態が良好となることがわかっている。一方で、金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を、多官能アミン成分を含む水溶液中に添加することは、自身の縮合物による塊状物を形成する場合があり、さらに、分離機能層形成後に金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物の含有溶液を接触させても、十分な結合または混合状態とはなりにくいため、このような場合には分離機能層との結合または混合状態が不十分として、使用時に脱離しやすくなる。
【0022】
前記多官能アミン成分は、多官能アミンであれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能アミンがあげられる。前記多官能アミン成分は単独で用いてもよく、混合物としてもよい。
【0023】
前記芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1、3、5‐トリアミノベンゼン、1、2、4‐トリアミノベンゼン、3、5‐ジアミノ安息香酸、2、4‐ジアミノトルエン、2、6‐ジアミノトルエン、2、4‐ジアミノアニソール、アミドール、キシリレンジアミンなどがあげられる。
【0024】
前記脂肪族多官能アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリス(2‐アミノエチル)アミンなどがあげられる。
【0025】
前記脂環式多官能アミンとしては、例えば、1、3‐ジアミノシクロヘキサン、1、2‐ジアミノシクロへキサン、1、4‐ジアミノシクロへキサン、ピペラジン、2、5‐ジメチルピペラジン、4‐アミノメチルピペラジンなどがあげられる。
【0026】
前記多官能アミン成分を含有する水溶液は、製膜を容易にし、あるいは得られる複合半透膜の性能を向上させるために、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸などの重合体や、ソルビトール、グリセリンなどのような多価アルコールを水などに含有させることもできる。
【0027】
また、特開平2−187135号に記載のテトラアルキルアンモニウムハライドやトリアルキルアンモニウムと有機酸とによる塩なども、製膜を容易にするため、アミン水溶液の微多孔性支持膜への吸収性をよくするため、縮合反応を促進するため等の点で好適に用いられる。
【0028】
また、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)などの界面活性剤を水溶液に含有させることもできる。これらの界面活性剤は、アミン水溶液の微多孔性支持膜への濡れ性を改善するのに効果がある。
【0029】
さらに、界面での縮重合反応を促進させるために、界面反応にて生成するハロゲン化水素を除去し得る水酸化ナトリウムやリン酸三ナトリウムを用い、あるいは触媒として、アシル化触媒などを水溶液に含有させることも有益である。
【0030】
前記多官能酸ハライド成分は、特に限定されず、芳香族、脂肪族、または脂環式の多官能酸ハロゲン化物を用いることができる。これらの多官能酸ハライド成分は単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0031】
前記芳香族多官能酸ハロゲン化物としては、例えばトリメシン酸クロライド、テレフタル酸クロライド、イソフタル酸クロライド、ビフェニルジカルボン酸クロライド、ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、ベンゼントリスルホン酸クロライド、ベンゼンジスルホン酸クロライド、クロロスルホニルベンゼンジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0032】
前記脂肪族多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、プロパントリカルボン酸クロライド、ブタントリカルボン酸クロライド、ペンタントリカルボン酸クロライド、グルタリルハライド、アジポイルハライドなどがあげられる。
【0033】
前記脂環式多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、シクロプロパントリカルボン酸クロライド、シクロブタンテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタントリカルボン酸クロライド、シクロペンタンテトラカルボン酸クロライド、シクロヘキサントリカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランテトラカルボン酸クロライド、シクロペンタンジカルボン酸クロライド、シクロブタンジカルボン酸クロライド、シクロヘキサンジカルボン酸クロライド、テトラハイドロフランジカルボン酸クロライドなどがあげられる。
【0034】
前記多官能酸ハライド成分を含む溶液および前記多官能アミン成分を含む水溶液にそれぞれ含まれる多官能酸ハライド成分および多官能アミン成分の濃度は、特に限定されるものではないが、多官能酸ハライド成分は、通常0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%であり、多官能アミン成分は、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%である。
【0035】
前記複合膜分離膜の製造の際には、多官能酸ハライド成分を含む溶液中に添加剤を添加する方法が好ましく用いられる。
【0036】
前記添加剤としては、酸ハライド成分を含む溶液に溶解せずに多官能アミン成分を含む水溶液との相溶性を高める物質や、当該溶液に含有する金属アルコキシドまたはアルコキシシリル化合物の反応を促進する触媒を添加することができる。例えば、前記の相溶性を高める物質としては、エーテル類、ケトン類、エステル類、ニトロ化合物、ハロゲン化アルケン類、ハロゲン化芳香族化合物、芳香族炭化水素、非芳香族不飽和炭化水素、複素芳香族が例示できる。金属アルコキシドまたはアルコキシシリル化合物の反応を促進する触媒としては、公知の無機酸や無機塩基、有機酸化合物や有機塩基化合物を限定することなく用いることができる。
【0037】
前記のエーテル類としては、例えばジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。ケトン類としては、例えばアセトン、メチルイソブチルケトン、2−ブタノンなどが挙げられる。エステル類としては、例えば酢酸メチル、蟻酸エチル、酢酸エチルなどが挙げられる。ニトロ化合物としては、例えばニトロエタン、ニトロメタンなどが挙げられる。ハロゲン化アルケン類としては、例えば、トリクロロエタン、ジクロロメタン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレンなどが挙げられる。ハロゲン化芳香族化合物としては、例えばクロロベンゼン、フルオロベンゼンなどが挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン、フルオロベンゼン、クロロベンゼンなどが挙げられる。非芳香族不飽和炭化水素としては、例えばシクロヘキセン、ヘプテンなどが挙げられる。複素芳香族としては、例えばフランなどが挙げられる。中でもアルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類のいずれかであることが好ましく、特に、アセトンやジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチルが好ましい。
【0038】
酸ハライド成分を含む溶液に溶解せずに多官能アミン成分を含む水溶液との相溶性を高めるための添加剤は、多官能酸ハライド成分を含む溶液中に添加されることで、反応性酸ハライドと添加剤とのナノレベルの混和が起こり、混和相が形成されると考えられる。この混和相に多官能アミノ基を有する化合物が拡散し反応することで、多孔性支持膜上にナノレベルで架橋されるとともに、さらに表面積が拡大されたポリアミド系分離機能層が形成されているものと考えられる。
【0039】
この相溶性を高める添加剤の溶解度パラメータとしては、12以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましい。また、6以上であることが好ましい。溶解度パラメータが高すぎても、低すぎても、溶液に対して相溶しにくくなる。
【0040】
この相溶性を高める添加剤の濃度は0.5重量%以上、10重量%以下であることが好ましく、1重量%以上、8重量%以下であることが好ましい。添加剤の濃度が高すぎると、混和相が界面近傍だけでなく、多官能酸ハライド成分を含む溶液側にも形成され、これにより形成される分離活性層が多孔性支持膜と離れたところで形成されるため、分離性能の劣化につながる場合がある。
【0041】
多官能酸ハライド成分を含む溶液は、多官能アミン成分を含む水溶液被覆層に接触させる前に、さらに超音波処理を施しておくことが好ましい。この超音波処理は、多官能酸ハライド成分溶液中の金属化合物などの成分が、よりナノレベルでの混合されるものと考えられる。
【0042】
前記超音波処理におけるの超音波出力は50W〜240W程度であり、出力が高すぎると溶液が加熱され、溶液の状態に悪影響を与える場合がある。出力が低すぎるとこの処理の効果が得られにくい。前記超音波の振動数は30Hz〜400kHz程度である。処理時間は10分〜30分程度であり、好ましくは15〜20分程度である。処理時間が30分を超えると、過剰加熱が起こるため好ましくなく、処理時間が短すぎると溶液中の混和が不十分となる。なお、本処理により加熱が生じる場合には、氷浴を用いて温度を下げるなど適切な方法を用いても良い。
【0043】
分離機能層の形成については、前記多孔性支持膜上に、前記多官能アミン成分を含む水溶液を被覆した後、余分な水溶液を除去して水溶液被覆層を形成する。次いで、前記多官能酸ハライド成分を含有する溶液を前記被覆層と接触させる。接触時間としては、通常10秒〜5分、好ましくは30秒〜1分である。余分な溶液を除去した後、接触により生じた界面で縮重合させる。さらに、空気中(20℃〜30℃)で約1〜10分間、好ましくは約2〜8分間乾燥させて、架橋ポリアミドからなるポリアミド系分離機能層を多孔性支持膜上に形成させる。乾燥後、脱イオン水で膜面を洗浄する。
【0044】
また本発明の複合分離膜は、一般に分離膜エレメントの形態に加工され、圧力容器に装填されて使用される。例えば、スパイラル型の膜エレメントは、複合分離膜と供給側流路材と透過側流路材とが積層された状態で中心管(集水管)の周囲にスパイラル状に巻回され、端部材と外装材で固定される。
【0045】
以下に、本発明について実施例及び比較例を用いて詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0046】
実施例1
m−フェニレンジアミン2.0重量%、ラウリル硫酸ナトリウム0.15重量%を含有した水溶液Aを、不織布上に積層した多孔性ポリスルホン支持膜上に数秒間接触塗布させた後、余分の水溶液を除去して前記支持膜上に前記水溶液Aからなる水溶液被覆層を形成した。次に、トリメシン酸クロライド0.10重量%と、金属アルコキシドとしてのチタニウムテトライソプロポキシド(TITP:ALDRICH社製 純度97%)0.95重量%をヘキサン溶媒中で調製した溶液Bに40kHzの超音波照射を15分間施した後、水溶液被覆層上に溶液Bを接触させた。その後空気中で5分間保持し、支持膜上に分離機能層を形成させて複合分離膜とした。得られた複合分離膜の性能を下記評価試験で評価したところ、NaClの阻止率は97.4%、透過流束0.28m3/(m2・日)であった。
【0047】
〔評価方法〕
NaCl阻止率の測定方法は、複合分離膜に濃度0.20重量%のNaCl水溶液(温度25℃、pH6.5)を操作圧力1.5MPaで30分間透過させた後、電導度測定装置(京都電子社製 CM−117)を用いて電導度測定を行った結果から検量線(濃度-電導度)を用いて、下記式から算出した。
阻止率(%)
=(1−(膜透過液中のNaCl(IPA)濃度/供給液中のNaCl(IPA)濃度))×100
透過流速(m3/m2/d)=(透過液量/膜面積/サンプリング時間)
【0048】
実施例2
実施例1において、溶液Bの金属アルコキシドをフェニルトリエトキシシラン(phTES:Gelst社製)5重量%に変更したこと以外は実施例1と同様にして複合分離膜を得た。このときの平面SEM像を図1,2に示す。得られた複合分離膜の性能を評価したところ、NaClの阻止率は93.9%、透過流束0.43m3/(m2・日)であった。
【0049】
比較例1
実施例1において、溶液Bに金属アルコキシドを添加していないこと以外は実施例1と同様にして複合分離膜を得た。得られた複合分離膜を評価したところ、NaClの阻止率は97.3%、透過流束0.17m3/(m2・日)であった。
【0050】
比較例2
実施例1において、溶液Bに金属アルコキシドを添加せず、溶液Aに金属アルコキシドとしてフェニルトリエトキシシラン(phTES:Gelst社製)5重量%を添加したこと以外は実施例1と同様にして複合分離膜を得た。得られた複合分離膜を評価したところ、NaClの阻止率は93.7%、透過流束0.18m3/(m2・日)であった。
【0051】
上記より、本発明の複合膜によって透過性能が大幅に向上することがわかる。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持膜上にポリアミドを含む分離機能層を有する複合分離膜において、前記分離機能層が金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とする複合分離膜。
【請求項2】
金属アルコキシドが、チタニウムテトライソプロポキシドである請求項1記載の複合分離膜。
【請求項3】
アルコキシシリル含有化合物が、ビス−トリエトキシシリルエタンまたは、フェニルトリエトキシシランである請求項1記載の複合分離膜。
【請求項4】
多孔性支持膜上に多官能アミン成分を含む水溶液被覆層を形成し、そこに多官能酸ハライド成分を含む溶液を接触させて重合することで多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成する複合分離膜の製造方法であって、前記多官能酸ハライド成分を含む溶液が、さらに金属アルコキシドまたはアルコキシシリル含有化合物を含むことを特徴とする複合分離膜の製造方法。
【請求項5】
多官能酸ハライド成分を含む溶液が、さらにエーテル類、ケトン類または、エステル類のいずれかからなる添加剤を含む請求項4記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項6】
多官能酸ハライド成分を含む溶液を調製して、多官能アミン成分を含む水溶液被覆層に接触させる前に、多官能酸ハライド成分を含む溶液に超音波処理を施す請求項4または5に記載の複合分離膜の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法により得られた複合分離膜。
【請求項8】
請求項1〜3または7記載の複合分離膜を用いた分離膜エレメント。




【図1】
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【公開番号】特開2011−245419(P2011−245419A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121026(P2010−121026)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構 省水型・環境調和型水循環プロジェクト研究開発項目1 水循環要素技術開発 1)革新的膜分離技術の開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】