説明

複合化高分子電解質膜

【課題】90℃を越える高温でかつ相対湿度50%以下の低加湿条件下で、高いレベルのプロトン伝導性と耐久性の両立を図るため、高いプロトン伝導性と、耐久性に関わる、電解質膜の乾湿寸法変化を抑制および湿潤時の機械的強度向上を両立した電解質膜を提供する。
【解決手段】本発明の複合化高分子電解質膜は、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層を有する複合化高分子電解質膜であって、該複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、下記要件を満たすことを特徴とする。
(1)厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有する。
(2)高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結している。
(3)厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合化高分子電解質膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素、メタノールなどの燃料を電気化学的に酸化することによって、電気エネルギーを取り出す一種の発電装置であり、近年、クリーンなエネルギー供給源として注目されている。なかでも高分子電解質型燃料電池は、標準的な作動温度が100℃前後と低く、かつ、エネルギー密度が高いことから、比較的小規模の分散型発電施設、自動車や船舶など移動体の発電装置として幅広い応用が期待されている。また、小型移動機器、携帯機器の電源としても注目されており、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池などの二次電池に替わり、携帯電話やパソコンなどへの搭載が期待されている。
【0003】
高分子電解質材料としては、耐熱性、化学的安定性の点から芳香族ポリエーテルエーテルケトンや芳香族ポリエーテルケトンおよび芳香族ポリエーテルスルホンについて特に活発に検討がなされてきた。
【0004】
芳香族ポリエーテルケトン(以降、PEKと略称することがある。)(ビクトレックス PEEK−HT(ビクトレックス製)等が挙げられる)のスルホン化物(例えば、特許文献1および2)においては、プロトン伝導性を高めるためにスルホン酸基密度を増加させると、ポリマーは結晶性でなくなることにより水中で著しく膨潤する問題があった。
【0005】
また、スルホン酸基量が制御されたスルホン化芳香族ポリエーテルスルホンの報告がなされている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、ここにおいても高温高湿下で高分子電解質膜が膨潤する問題は改善されず、特にメタノールなどの燃料水溶液中や、スルホン酸基密度が高くなる組成においてはその傾向が顕著であった。
【0006】
ここで、燃料電池の発電時は、生成する水により高分子電解質膜が吸水(湿潤)状態となり、燃料電池の停止時は、逆に乾燥状態になるため、吸水寸法変化が大きいと耐久性が低下すると考えられる。また、吸水(湿潤)時の機械的強度の低下も耐久性低下の原因となる。
【0007】
このように、従来技術による高分子電解質材料は高いプロトン伝導性と、耐久性に関わる、電解質膜の乾湿寸法変化の抑制、および湿潤時の機械強度向上を両立する手段としては不十分であり、産業上有用な燃料電池用高分子電解質材料とはなり得ていなかった。
【0008】
そして、特許文献4には特定の多孔質材料とイオン性基密度が2mmol/g以上の電解質ポリマーを複合化することで高温低加湿雰囲気での発電性能と耐久性が両立できる複合化高分子電解質膜の記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−93114号公報
【特許文献2】特表2004−528683号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【特許文献4】国際公開第2010/082623号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、自動車用の燃料電池システムに適用する場合、その要求特性は年々厳しくなり、90℃を越える高温でかつ相対湿度50%以下の低加湿条件下で、高いレベルのプロトン伝導性と耐久性の両立を図れる電解質膜が望まれている。
【0011】
そのためには、高いプロトン伝導性と、耐久性に関わる、電解質膜の乾湿寸法変化の抑制および湿潤時の機械的強度向上の両立が必要となる。特許文献4に記載の電解質膜は発電性能と耐久性の両立ができる技術ではあるが、より高温および低湿度下での作動を要求される場合はさらなる工夫が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで本発明者らは、複合化高分子電解質膜の内部の構造に着目し、高分子電解質材料と非電解質材料の構造を制御することで、90℃を越える高温でかつ相対湿度50%以下の低加湿条件下でも、優れた発電性能と耐久性の実現に成功した。
【0013】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の複合化高分子電解質膜は、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層を有する複合化高分子電解質膜であって、該複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、下記要件を満たすことを特徴とする。
(1)厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有する。
(2)高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結している。
(3)厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合化高分子電解質膜はプロトン伝導性が優れ、かつ乾湿時の寸法変化が小さく、高温・低加湿発電性能が優れ、かつ耐久性の優れた燃料電池が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】複合化高分子電解質膜製造用の連続流延塗布装置の概略構成図
【図2】複合化高分子電解質膜製造用の連続流延塗布装置の概略構成図
【図3】複合化高分子電解質膜の断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。
本発明の複合化高分子電解質膜は、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層を有することが必要であり、該複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、下記要件を満たすことを特徴とする。
(1)厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有する。
(2)高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結している。
(3)厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島を有する。
まず、「(1)厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有する。」について説明する。
【0017】
高分子電解質材料の島とは複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、高分子電解質材料として観察される非電解質材料と異なる部分であり、高分子電解質材料と非電解質材料とのコントラストの違いで確認できる。例えば図3において例を挙げると、濃灰色から黒い同写真内の相対的にハイコントラスト部分Cが高分子電解質材料の島、白から淡灰色のい部分が同写真内の相対的にローコントラスト部分Dが非電解質材料の島である。より高分子電解質材料の島を明確にするために、高分子電解質材料が有するイオン性基を利用して電子顕微鏡での観察用の試験片をPb、RuOなどで染めることも可能である。電子顕微鏡での観察用の試験片の作製は特に制限はないが、複合化高分子電解質膜を電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で断面試験片を作製する方法が挙げられる。
【0018】
高分子電解質材料の島の形状は厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上であることが必要である。
厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上であることでプロトン伝導性が良好となり、電解質膜の断面の長手方向に伸びた筋状の島が好ましい。島単位で考えると厚さ0.5μm以下のであれば島を伝導するプロトンの抵抗が下がり、長さ2μm以上であれば、別の高分子電解質材料の島との連結できる部分が増し、複合化高分子電解質膜としてのプロトン伝導性が良好となる。
【0019】
次に「(2)高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結している。」について説明する。本発明における連結とは複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に高分子電解質材料の島が非電解質材料の島を貫いて接触していることを表現したものであり(図3中のE)、高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結していることで複合化高分子電解質膜としてのプロトン伝導性が良好となり、連結部分は1箇所でも複数箇所でもよい。プロトン伝導性の観点からは高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と複数箇所で連結している方が好ましい。
【0020】
次に「(3)厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島を有する。」について説明する。非電解質材料の島とは、複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、非電解質材料として観察される高分子電解質材料と異なる部分であり、高分子電解質材料と非電解質材料とのコントラストの違いで確認でき、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下であることが必要である。非電解質材料の厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の島を有することで、高分子電解質材料が吸水して面積方向に複合化高分子電解質膜が伸びることを低減できる。湿潤、乾燥による複合化高分子電解質膜の寸法変化を低減することによって、燃料電池の実運転における湿度変化でも複合化高分子電解質膜の寸法を安定に保つことができ、耐久性が向上する。
【0021】
また、複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に非電解質材料が連結しているように見えなくても、非電解質材料は3次元網目状に一体化していることが、耐久性向上の観点から好ましい。一体化しているかどうかは、高分子電解質材料が可溶で非電解質材料が不溶な溶媒に複合化高分子電解質膜を浸漬し、高分子電解質材料を溶解させることによって容易に試験することができ、非電解質材料がフィルム状で取り出すことができれば、複合化高分子電解質膜内で3次元網目状に一体化していたと判断できる。
【0022】
本発明の多孔質性の非電解質材料とは表裏に連結した空間が存在する材料であり、前記要件を満たすことができれば、その形態は多孔質フィルム、不織布、織物、抄紙など特に形状に限定されない。
【0023】
本発明の複合化高分子電解質膜に用いる多孔質性の非電解質材料中の空間を定量的に表す指標である空隙率は後述のとおり適宜実験的に求められる。多孔質性の非電解質材料の空隙率は、製膜工程の塗工速度、張力、製膜機の搬送方式のスペックにより適宜実験的に決めることができるが、複合化高分子電解質膜のプロトン伝導性や、高分子電解質溶液の充填の容易さの観点から空隙率は50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。空隙率が50%以上であれば、多孔質性の非電解質材料の内部まで高分子電解質溶液の充填が容易となり、プロトン伝導パスが複合化高分子電解質膜の厚み方向に連続的に形成されやすい。また空隙率は95%以下が好ましく、90%以下がより好ましい。95%以下であれば製膜工程での作業性が良好となり、複合化高分子電解質膜の乾湿寸法変化や吸水時の機械的強度の低下を抑制しやすい。張力による伸びや縦じわの発生および破断を防止する観点からも95%以下が好ましい。
【0024】
多孔質性の非電解質材料の空隙率は多孔質性の非電解質材料を正方形に切り取り、一辺の長さL(cm)、重量W(g)、厚みD(cm)、を測定して、以下の式より求めることができる。
空隙率=100−100(W/ρ)/(L2 ×D)
上記式中のρは、延伸前のフィルム密度を示す。ρはJIS K7112(1980)のD法の密度勾配菅法にて求めた値を用いる。この時の密度勾配菅用液は、エタノールと水を用いる。
【0025】
複合化高分子電解質膜に用いる多孔質性の非電解質材料の厚みは、目的とする複合化高分子電解質膜の膜厚により適宜決定できるが、1〜100μmであることが実用上好ましい。フィルム厚みが1μm未満では、製膜工程及び二次加工工程における張力によってフィルムが伸び、縦じわの発生や、破断する場合がある。また、100μmを越えると、高分子電解質材料の充填が不十分となりプロトン伝導性が低下する。
【0026】
本発明の複合化高分子電解質膜に用いる多孔質性の非電解質材料のガーレ透気度は、充填する高分子電解質溶液の粘度や固形分、製膜速度などによって適宜実験的に決めることができるが、実用的な製膜速度およびや複合化高分子電解質膜のプロトン伝導性の観点から300sec/100cc以下である。200sec/100cc以下がより好ましく、100sec/100cc以下がさらに好ましい。
【0027】
ガーレ透気度が300sec/100ccを越えると多孔質性の非電解質材料の貫通孔性が低いことを示し、プロトン伝導性パスの形成が不十分となり複合化高分子電解質膜用として使用することが困難である。また、ガーレ透気度の下限は特に製膜工程で問題がなければ特に限定されないが、製膜工程の塗工速度、張力、製膜機の搬送方式のスペックにより適宜実験的に決めることができる。
【0028】
ガーレ透気度はJIS−P8117(1998年)に規定された方法に従って測定できる。多孔質性の非電解質材料を直径28.6cm、面積645mmの円孔に締め付け、内筒により(内筒重量567g)、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させ、空気100ccが通過する時間を測定する。測定装置として、B型ガーレデンソメーター(安田精機製作所製)を使用し、23℃、65%RHにて測定できる。同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたガーレ透気度の平均値を当該サンプルのガーレ透気度とする。
【0029】
多孔質性の非電解質材料の材質としてはプロトン伝導を遮断や妨害しないもので前記要件を満足すれば特に限定されない。耐熱性の観点や、物理的強度の補強効果を鑑みれば、脂肪族系高分子、芳香族系高分子または含フッ素高分子が好ましく使用される。脂肪族系高分子としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
なおここで言うポリエチレンとはポリエチレンの結晶構造を有するエチレン系のポリマーの総称であり、例えば直鎖状高密度ポリエチレン(HDPE)や低密度ポリエチレン(LDPE)の他に、エチレンと他のモノマーとの共重合体をも含み、具体的には直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と称されるエチレン、α−オレフィンとの共重合体や超高分子量ポリエチレンなどを含む。またここでいうポリプロピレンはポリプロピレンの結晶構造を有するプロピレン系のポリマーの総称であり、一般に使用されているプロピレン系ブロック共重合体、ランダム共重合体など(これらはエチレンや1−ブテンなどとの共重合体である)を含むものである。
【0031】
芳香族系高分子としては、例えばポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルスルホン、ポリスルフィドスルホン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンオキシド、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。さらに、セルロースやポリ乳酸も使用できる。
【0032】
また、含フッ素高分子としては、分子内に炭素−フッ素結合を少なくとも1個有する熱可塑性樹脂が使用されるが、脂肪族系高分子の水素原子のすべてまたは大部分がフッ素原子によって置換された構造のものが好適に使用される。
【0033】
その具体例としては、例えばポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリ(テトラフルオロエチレン−ペルフルオロアルキルエーテル)、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。なかでもポリテトラフルオロエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)が好ましく、特にポリテトラフルオロエチレンが好ましい。また、シリカや酸化チタン、アルミナなどの無機酸化物材料、各種金属材料を使用してもよい。
これらの多孔質性の非電解質材料は、単独で用いても、他の素材と組み合わせて用いてもよい。
【0034】
多孔質性の非電解質材料として多孔質フィルムを選択する場合、電気化学的な安定性、コストの観点からポリエチレンやポリプロピレンに代表される脂肪族ポリオレフィンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。脂肪族ポリオレフィンフィルムの場合、高分子電解質溶液との浸透性および製膜工程や発電時の加熱に対する耐熱性の観点から二軸配向多孔質ポリプロピレンフィルムが好ましい。
【0035】
本発明の複合化高分子電解質膜には、多孔質性の非電解質材料の複合前の空間の形状を、該空間に電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)を充填し硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で断面試験片を作製して電子顕微鏡で観察した時、以下に示す形状のものが特に好ましい。
【0036】
つまり、長手方向に扁平な形状の空間があり、その空間が膜厚方向に並んだ多孔質性の非電解質材料が、本発明の複合化高分子電解質膜を実現するために特に好ましい。定量的には、長手方向の空間の平均長さをY、厚み方向の空間の平均長さをZとしたときにY/Z≧3であり、例えば任意の断面観察像の10μm×10μmの範囲内に観察される該形状の空間が全空間の個数の50%以上が好ましい。該空間の長さの測定は電子顕微鏡の写真から目視により空間を楕円または長方形に近似して測定する。Y/Z≧3であれば、例えば高分子電解質材料の溶液を該空間に充填し、溶媒を蒸発させた際に、該空間が変形し、該複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有し、高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結した形状が形成しやすい。
【0037】
また、多孔質性の非電解質材料の強度を高めるため、空間の壁にあたる非電解質材料の一部は膜厚方向に長さ1μm以上、長手方向に0.5μm以上の柱状になっていることが好ましい。この柱状の非電解質材料がある多孔質性の非電解質材料を使用すると、本発明の複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島が形成されやすい傾向にあり好ましい。例えば図3における符号Fが該柱状の非電解質材料由来のローコントラスト部分であり、複合化高分子電解質膜の断面像においては、後述する高分子電解質材料の溶液の溶媒蒸発による厚み方向の収縮や製膜時の張力の影響により長手方向に伸びた島として観察される場合が多い。
【0038】
次に、高分子電解質材料説明する。本発明の高分子電解質材料はイオン性基を有し、イオン性基とは負電荷を有する原子団であれば特に限定されるものではないが、プロトン交換能を有するものが好ましい。このような官能基としては、スルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基、ホスホン酸基、リン酸基、カルボン酸基が好ましく用いられる。かかるイオン性基は塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4+(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。
【0039】
好ましい金属イオンの具体例を挙げるとすれば、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Al、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、W、Pt、Rh、Ru、Ir、Pd等が挙げられる。これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、中でも、安価で、溶解性に悪影響を与えず、容易にプロトン置換可能なNa、Kがより好ましく使用される。また、イオン性基は金属塩以外にエステルなどに置換されていてもよい。
【0040】
これらのイオン性基は前記高分子電解質材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせることにより好ましくなる場合がある。組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、耐加水分解性の点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。本発明の高分子電解質材料のイオン性基密度は2mmol/g以上であれば多孔質性の非電解質材料と複合しても低加湿発電特性が良好になり、イオン性基密度が2.5mmol/g以上がより好ましい。
【0041】
また、複合化高分子電解質膜としてのイオン性基密度は1.5mmol/g以上とすることが好ましく、通常の発電に十分なプロトン伝導性が得られる。また、低加湿条件での発電特性向上の観点からは、複合化高分子電解質膜としてのイオン性基密度は2mmol/g以上が好ましい。 ここで、イオン性基密度とは、乾燥した高分子電解質材料1グラムあたりに導入されたイオン性基のモル数であり、値が大きいほどイオン性基の量が多いことを示す。例えばスルホン酸基とした場合、スルホン酸基密度(mmol/g)の値として示すことができる。イオン性基密度は、キャピラリー電気泳動、元素分析、中和滴定により求めることが可能である。これらの中でも測定の容易さから、キャピラリー電気泳動法や元素分析法を用いてS/C比から算出することが好ましいが、中和滴定法によりイオン交換容量を求めることもできる。
【0042】
本発明に使用できる高分子電解質材料の例としてイオン性基含有ポリフェニレンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルケトン、イオン性基含有ポリエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルエーテルスルホン、イオン性基含有ポリエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリエーテルエーテルホスフィンオキシド、イオン性基含有ポリフェニレンスルフィド、イオン性基含有ポリアミド、イオン性基含有ポリイミド、イオン性基含有ポリエーテルイミド、イオン性基含有ポリイミダゾール、イオン性基含有ポリオキサゾール、イオン性基含有ポリフェニレンなどの、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーが挙げられる。これらは単独でも複数の混合でもよい。また、ランダム共重合体でもよいし、イオン性基を有するユニットと有さないユニットのそれぞれのユニット長を制御したブロック共重合体でもよい。イオン伝導性の観点からブロック共重合体が好ましい。
【0043】
また、高分子電解質材料としてフッ素系電解質膜材料の使用も可能であり、従来から公知の重合体を採用することができ、一般式CF2 =CF−(OCF2 CFX)m −Oq−(CF2 )n −A(式中m=0〜3、n=0〜12、q=0又は1、X=F又はCF3、A=スルホン酸型官能基)で表されるフロロビニル化合物とテトラフロロエチレン,ヘキサフロロプロピレン,クロロトリフロロエチレン又はパーフロロアルコキシビニルエーテルの如きパーフロロオレフィンとの共重合体が挙げられる。フッ素系電解質膜材料を使用する場合、イオン性基を有する芳香族炭化水素系ポリマーと比べポリマーの比重が大きいため、前述のイオン性基密度は1mmol/g以上であれば多孔質性の非電解質材料と複合しても低加湿発電特性が良好になり、イオン性基密度が1.2mmol/g以上がより好ましい。
【0044】
また、複合化高分子電解質膜としてのイオン性基密度は0.8mmol/g以上とすることが好ましく、通常の発電に十分なプロトン伝導性が得られる。また、低加湿条件での発電特性向上の観点からは、複合化高分子電解質膜としてのイオン性基密度は1.2mmol/g以上が好ましい。
【0045】
本発明の複合化高分子電解質膜は、前述した多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層を有することが必要であるが、次に充填する方法について説明する。
【0046】
多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填する方法は特に制限はないが、高分子電解質材料を溶媒に溶解または分散し多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料の溶液または分散液として含浸し溶媒を除去してする方法が作業性や品質安定性の点から好ましい。
【0047】
多孔質性の非電解質材料に高分子電解質の溶液を含浸させる方法は特に限定されず、該多孔質性の非電解質材料と高分子電解質の塗液が接触するような態様をとればよく、該塗液を溜めた塗液槽に該多孔質性の非電解質材料を浸漬して引き上げる工程が挙げられる。この含浸工程は連続的に行ってもよいし、枚葉で実施してもよい。
【0048】
また、皺を低減し高品位な複合化高分子電解質膜を得る目的で、該塗液を多孔質性の非電解質材料に流延塗布して含浸させる工程や該塗液を基材上に流延塗布し、その後に該多孔質性の非電解質材料を貼り合わせて含浸させる工程も好ましく、該塗液を該多孔質性の非電解質材料に流延塗布して多孔質性の非電解質材料に含浸させ、その後にさらに基材を貼り合わせる工程を有することも好ましい。基材に塗液が含浸した状態の多孔質性の非電解質材料を貼り付けて乾燥させることにより、多孔質性の非電解質材料の収縮や塗液の流延ムラの発生を防止でき、皺の少ない複合化高分子電解質膜が得られる。また、連続製膜の場合、高価な搬送装置を導入する必要がなく通常のロールサポート方式で搬送が可能となり、搬送張力の制御も容易となり安定した複合化高分子電解質膜の製造が可能となり、10μm以下の多孔質性の非電解質材料の使用が可能となる。
【0049】
本発明の基材と該多孔質性の非電解質材料を貼り合わせる工程では、基材と多孔質性の非電解質材料の間に流延した塗液を挟むように貼り合わせることが好ましく、塗液が含浸することによって押し出された多孔質性の非電解質材料中のガスが基材と面してない方向に抜け、基材と多孔質性の非電解質材料に蓄積し複合化高分子電解質膜の表面欠陥やムラが発生することを防止できる。
【0050】
前記高分子電解質の塗液を流延塗布に使用する基材としては通常公知の材料が使用でき、基材は、ステンレス、ハステロイなどの金属からなるエンドレスベルトやドラム、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレンなどのポリマーからなるフィルム、硝子、剥離紙などが挙げられ、製造装置や加熱温度などで適宜選択可能である。前述の基材から剥離せずに後工程で加工する場合はポリマーからなるフィルムが、連続化しやすいことから好ましく、コストと耐熱性、耐薬品性の観点からポリエチレンフタレートが好ましい。
【0051】
金属などは表面に鏡面処理を施したり、ポリマーフィルムなどは塗工面にコロナ処理を施したり、剥離処理をしたり、ロール状に連続塗工する場合は塗工面の裏に剥離処理を施し、巻き取った後に電解質膜と塗工基材の裏側が接着したりするのを防止することもできる。フィルム基材の場合、厚みは特に限定がないが、30μm〜200μmがハンドリングの観点から好ましい。
【0052】
流延塗工方法としては、ナイフコート、ダイレクトロールコート、グラビアコート、スプレーコート、刷毛塗り、ディップコート、ダイコート、バキュームダイコート、カーテンコート、フローコート、スピンコート、リバースコート、スクリーン印刷などの手法が適用できる。
【0053】
本発明の複合化高分子電解質膜は少なくとも一方の最外層が高分子電解質材料の層であることが好ましい。例えば、高分子電解質材料の層/多孔質性の非電解質材料と高分子電解質材料の複合化層/高分子電解質材料の層で構成される複合化高分子電解質膜は、燃料電池用の膜電極複合体としたときの電極と複合化高分子電解質膜の界面抵抗が低減できるので好ましい。つまり高分子電解質材料の層に触媒粒子がくい込みやすく触媒と高分子電解質材料との接触面積が大きくなることにより、界面抵抗が低減し発電性能が向上する。
【0054】
このような構成の複合化高分子電解質膜を製造は、前述の該塗液を基材上に流延塗布し、その後に該多孔質性の非電解質材料を貼り合わせて含浸させる工程、または該塗液を該多孔質性の非電解質材料上に流延塗布して含浸させ、その後に基材を貼り合わせる工程を有する場合、多孔質性の非電解質材料に含浸させる工程より後で、さらに該多孔質性の非電解質材料上に該塗液を再度流延塗布する工程を有することが好ましい。
【0055】
このときの最外層が高分子電解質材料の層に用いる高分子電解質材料と多孔質性の非電解質材料と高分子電解質の複合化層に用いる高分子電解質材料は同じであっても異種の組み合わせでもよい。また、イオン性気密度や含水率、表裏の高分子電解質材料の層の厚みも同じでも異なっていてもよい。
【0056】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造は、基材と多孔質性の非電解質材料の間に流延した塗液を挟むように貼り合わせた場合、毛細管現象によって、含浸した塗液が多孔質性の非電解質材料の反対面まで浸み上がり、高分子電解質のみの被膜が多孔質性の非電解質材料上に形成される。該多孔質性の非電解質材料に含浸させる工程より後で、さらに該多孔質性の非電解質材料上に該塗液を流延塗布する工程を有することにより、該多孔質性の非電解質材料への塗液の含浸を多孔質性の非電解質材料の両面から行うことができ、前述の高分子電解質材料の層/多孔質性の非電解質材料と高分子電解質材料の複合化層/高分子電解質材料の層が形成されやすくなる。
【0057】
該多孔質性の非電解質材料上に該塗液を流延塗布する工程は、該塗液を含浸した多孔質性の非電解質材料中の溶媒の一部を乾燥などにより除去した後でもよいし、溶媒の一部を除去する前でもよい。
【0058】
また、流延塗布工程時にダイコーターを使用する場合、多孔質性の非電解質材料内部に主に充填される高分子電解質と表層になる高分子電解質のイオン性基密度が異なるように、二層口金で塗工することも好ましい例である。この場合、多孔質性の非電解質材料内に主に充填される高分子電解質のイオン性基密度の方が大きいほうが、プロトン伝導性の観点から好ましい。
【0059】
また、複合化高分子電解質膜の製造において、プレス工程、加熱プレス工程等で電解質が充填されていない空隙部分をつぶしても差し支えない。さらには塗液を多孔質性の非電解質材料に含浸する工程において、減圧や加圧することにより塗液の含浸を補助し多孔質性の非電解質材料の内部の未充填箇所を減少させることも好ましい。
【0060】
本発明で高分子電解質材料の溶液に使用できる溶媒としては、高分子電解質材料によって適宜選択できるが、一般的な溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられ、単独でも二種以上の混合物でもよい。
【0061】
また、電解質溶液の粘度調整にメタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル等のエステル系溶媒、ヘキサン、シクロヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ジクロロメタン、パークロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化炭化水素系溶媒、水などの各種低沸点溶剤も混合して使用できる。
【0062】
使用する高分子電解質材料の溶媒への溶解性が不十分な場合は、必要により適当な加水分解性可溶性付与基を導入して重合後、加水分解により加水分解性可溶性付与基を除去すればよい。
【0063】
本発明の加水分解性可溶性付与基とは、加水分解性可溶性付与基が導入されていない場合に溶媒に溶解困難なポリマーに導入し、後の工程で加水分解によって除去することを前提に、溶液製膜や濾過が容易に実施できるように一時的に導入される置換基である。加水分解性可溶性付与基は反応性や収率、加水分解性可溶性付与基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において加水分解性可溶性付与基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
【0064】
加水分解性可溶性付与基の具体例を挙げるとすれば、最終的にはケトンとなる部位をアセタールまたはケタール部位に変形し加水分解性可溶性付与基とし、溶液製膜後にこの部位を加水分解しケトン部位に変化させる。また、ケトン部位をアセタールまたはケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオアセタールやチオケタールとする方法が挙げられる。また、スルホン酸を可溶性エステル誘導体とする方法、芳香環に可溶性基としてt−ブチル基を導入し、酸で脱t−ブチル化する方法等が挙げられる。
【0065】
加水分解性可溶性付与基は、一般的な溶剤に対する溶解性を向上させ、結晶性を低減する観点から、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が好ましく用いられる。
【0066】
加水分解性可溶性付与基を導入する官能基の位置としては、ポリマーの主鎖であることがより好ましい。主鎖に導入すること加水分解性可溶性付与基導入時と加水分解後に安定な基に変化させた後の状態の差が大きく、ポリマー鎖のパッキングが強くなり、溶媒可溶性から不溶性に変化し、機械的強度が強くなる傾向にある。ここで、ポリマーの主鎖に存在する官能基とは、その官能基を削除した場合にポリマー鎖が切れてしまう官能基と定義する。例えば、芳香族ポリエーテルケトンのケトン基を削除するとベンゼン環とベンゼン環が切れてしまうことを意味するものである。
【0067】
この、加水分解性可溶性付与基の導入は特に結晶化可能な性質(結晶能)を有するポリマーへの適用が効果的である。これらポリマーの結晶性の有無、結晶と非晶の状態については、広角X線回折(XRD)における結晶由来のピークや示差走査熱量分析法(DSC)における結晶化ピーク等によって評価することができる。結晶能を有することにより、高温水中、高温メタノール中での寸法変化(膨潤)が小さい、すなわち耐熱水性、耐熱メタノール性に優れた電解質膜が得られる。この寸法変化が小さい場合には、電解質膜として使用している途中に膜が破損しにくく、また、膨潤で電極触媒層と剥離しにくいため発電性能や耐久性、ガスバリア性などが良好となる。
【0068】
加水分解性可溶性基は重合溶媒への溶解性向上を目的とするため、塗液化し該塗液を基材上に流延塗布する工程以降で、加水分解して除去する事が好ましい。溶媒を乾燥する際の加熱でも一部の加水分解性可溶性基は除去可能であるが、本発明では、該基材上の膜状物を水および/または酸性水溶液と接触させ重縮合時に生成した塩分を除去する工程が必須のため、この工程で同時に加水分解し除去することが生産性の観点から好ましい。
【0069】
本発明の電解質膜の製造方法で使用する高分子電解質材料としては、最終的な複合化高分子電解質膜の性能を鑑みた場合、上記の理由から加水分解性可溶性付与基を含有する芳香族炭化水素系電解質を使用することが好ましく、芳香族ポリエーテルケトン系が特に好ましい。芳香族ポリエーテルケトン系は芳香環のパッキングがよく構造規則性が高いことから、イオン性基密度が2mmol/g以上でも耐水性の優れた電解質膜が得られる。構造規則性の観点から得られた電解質膜中の加水分解性可溶性付与基の残存率はポリマーユニットの繰り返し単位に対して20モル%以下が好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0070】
本発明に使用する高分子電解質材料のスルホン酸基は作業性や製膜装置の材質により金属塩の状態で製膜される場合が多いが、酸性水溶液と接触させ、金属塩をプロトン交換する工程を有することが好ましい。また、複合化電解質膜を水や酸性水溶液に接触させることにより、精製工程で残存した副生塩も同時に除去することができる。また、膜中の水溶性の不純物、残存モノマー、溶媒なども除去可能であり、さらに前述の加水分解性可溶性基を含む場合はこの加水分解も同じ工程で達成できる。水、酸性水溶液は反応促進のために加熱してもよい。酸性水溶液は硫酸、塩酸、硝酸、酢酸など特に限定されず、温度、濃度等は適宜実験的に選択可能である。生産性の観点から80℃以下の30重量%以下の硫酸水溶液を使用することが好ましい。
る。
【0071】
また、本発明の高分子電解質材料塗液中には電解質膜の機械的強度の向上およびイオン性基の熱安定性向上、耐水性向上、耐溶剤性向上、耐ラジカル性向上、塗液の塗工性の向上、保存安定性向上などの目的のために、保存安定剤、ポリマーや金属酸化物からなるネットワーク形成剤を添加したり、架橋剤を添加したりしても差し支えない。また、通常の高分子化合物に使用される 結晶化核剤、可塑剤、安定剤あるいは離型剤、酸化防止剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
【0072】
本発明で得られる複合化電解質膜の膜厚としては特に制限がなく、使用する多孔質性の非電解質材料により決定することができるが、通常3〜500μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには3μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能の向上のためには500μmより薄い方が好ましい。膜厚のより好ましい範囲は5〜200μm、さらに好ましい範囲は8〜200μmである。この膜厚は、高分子電解質溶液の塗工方法により種々の方法で制御できる。例えば、コンマコーターやダイレクトコーターで塗工する場合は、溶液濃度 あるいは基板上への塗布厚により制御することができ、スリットダイコートでは吐出圧や口金のクリアランス、口金と基材のギャップなどで制御することができる。
【0073】
本発明の複合化高分子電解質膜の製造方法において、高分子電解質塗液を多孔質性の非電解質材料に含浸した後は、該塗液の溶剤を乾燥するが、乾燥時間や温度は適宜実験的に決めることができる。少なくとも基材から剥離しても自立膜になる程度に乾燥することが好ましい。その際、 多孔質性の非電解質材料の耐熱性を考慮し分解温度以下で乾燥することが好ましい。使用する材料と得られる複合化高分子電解質膜の性能とのバランスで加熱温度は実験的に決定することが好ましく、場合によっては多孔質性の非電解質材料のガラス転位点や融点以下の温度で乾燥することも、多孔質性の非電解質材料の強度を維持する目的から好ましい。乾燥の方法は基材の加熱、熱風、赤外線ヒーター等の公知の方法が選択できる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。
【0075】
(1)複合化高分子電解質膜または多孔質性の非電解質材料の断面観察
60℃で24時間減圧乾燥した複合化高分子電解質膜または多孔質性の非電解質材料をカッターで切り出し、電顕用エポキシ樹脂(日新EM社製Quetol812)で包埋し、60℃のオーブン中で48時間かけて該エポキシ樹脂を硬化させた後、ウルトラミクロトーム(ライカ社製Ultracut S)で厚さ約100nmの超薄切片を作製した。超薄切片はRuOで染色した。
【0076】
作製した超薄切片を応研商事社製100メッシュのCuグリッドに搭載して、日立製透過型電子顕微鏡H−7100FAを使用し加速電圧100kVでTEM観察を行い、複合化高分子電解質膜また多孔質性の非電解質材料の断面を観察した。複合化高分子電解質膜においてはコントラストが高い部分が高分子電解質材料の島として目視解析した。多孔質性の非電解質材料においてはコントラストが高い部分が非電解質材料からなる壁として空間の形状を解析した。
【0077】
(2)粘度測定
回転型粘度計(レオテック社製レオメータRC20型)を用いて剪断速度100(s−1)の条件で温度25℃の粘度を測定した。ジオメトリーは(試料を充填するアタッチメント)コーン&プレートを使用して、RHEO2000ソフトウェアで得られた値を採用した。コーンはC25−1(2.5cmφ)を使用し、測定困難な場合は(10poise未満)C50−1(5.0cmφ)に変更した。
【0078】
(3)スルホン酸基密度
検体となる膜の試料を2 5 ℃ の純水に2 4 時間浸漬し、4 0 ℃ で2 4 時間真空乾燥した後、元素分析により測定した。炭素、水素、窒素の分析は全自動元素分析装置v a r i oE L 、硫黄の分析はフラスコ燃焼法・酢酸バリウム滴定、フッ素の分析はフラスコ燃焼・イオンクロマトグラフ法で実施した。ポリマーの組成比から単位グラムあたりのスルホン酸基密度( m m o l / g ) を算出した。
【0079】
(4)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー製TSK gel SuperHM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、流量0.2mL/minで測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
【0080】
(5)膜厚
ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットしたミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。
【0081】
(6)寸法変化率(面方向)
電解質膜を6cm×1cmの短冊状に切り出し、長尺側の両端から約5mmのところに標線を記入した(標線間距離5cm)。前記サンプルを温度23℃、湿度45%の恒温槽に2h放置後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L)をノギスで測定した。さらに、同サンプルを80℃の熱水に2h浸漬後、素早く2枚のスライドガラスに挟み込み標線間距離(L)をノギスで測定し下記式に従い寸法変化率を算出した。
【0082】
寸法変化率(%)=(L−L)/L×100
(7)発電評価
A.水素透過電流の測定
市販の電極、BASF社製燃料電池用ガス拡散電極“ELAT(登録商標)LT120ENSI”5g/mPtを5cm角にカットしたものを1対準備し、燃料極、酸化極として電解質膜を挟むように対向して重ね合わせ、150℃、5MPaで3分間加熱プレスを行い、評価用膜電極複合化体を得た。
【0083】
この膜電極複合化体を英和(株)製 JARI標準セル“Ex−1”(電極面積25cm)にセットし、セル温度:80℃、一方の電極に燃料ガスとして水素、もう一方の電極に窒素ガスを供給し、加湿条件:水素ガス90%RH、窒素ガス:90%RHで試験を行った。OCVで0.2V以下になるまで保持し、0.2〜0.7Vまで1mV/secで電圧を掃引し電流値の変化を調べた。本実施例においては下記の起動停止試験の前後で測定し0.6V時の値を調べた。膜が破損した場合、水素透過量が多くなり透過電流が大きくなる。また、この評価はSolartron製電気化学測定システム(Solartron 1480 Electrochemical InterfaceおよびSolartron 1255B Frequency ResponseAnalyzer)を使用して実施した。
【0084】
B.耐久性試験
上記セルを使用し、セル温度:90℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件:水素ガス30%RH、空気:30%RHの条件で試験を行った。条件としては、OCVで1分間保持し、1A/cmの電流密度で2分間発電し、最後に水素ガスおよび空気の供給を停止して2分間発電を停止し、これを1サイクルとして繰り返す耐久性試験を実施した。耐久性試験前と3000サイクル後に上記水素透過電流の測定を実施しその差を調べた。また、この試験の負荷変動は菊水電子工業社製の電子負荷装置“PLZ664WA”を使用して行った。
【0085】
C.低加湿下での発電評価
上記燃料電池セルをセル温度90℃、燃料ガス:水素、酸化ガス:空気、ガス利用率:水素70%/酸素40%、加湿条件;アノード側30%RH/カソード30%RH、背圧0.1MPa(両極)において電流−電圧(I−V)測定した。1A/cm時の電圧を読み取り評価した。
【0086】
(合成例1;イオン性基を有するモノマー)
ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(G2)の合成
【0087】
【化1】

【0088】
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO3)150mL(和光純薬試薬)中、100℃で10h反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶し、ジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。
【0089】
(合成例2;加水分解性可溶性付与基を有するモノマー)
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(G1)の合成
【0090】
【化2】

【0091】
モンモリロナイトクレイK10(150g)、ジヒドロキシベンゾフェノン99gをエチレングリコール242mL/オルトギ酸トリメチル99mL中、生成する副生成物を蒸留させながら110℃で反応させた。18h後、オルトギ酸トリメチルを66g追加し、合成48h反応させた。反応溶液に酢酸エチル300mLを追加し、濾過後、2%炭酸水素ナトリウム水溶液で4回抽出を行った。さらに、濃縮後、ジクロロエタンで再結晶する事により目的の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランを得た。
【0092】
(参考例1;高分子電解質材料の塗液Aの製造例)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた4Lの反応容器に、炭酸カリウム158g(アルドリッチ試薬、1.14mol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン26g(アルドリッチ試薬0.12mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン124g(0.48mol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン40g(アルドリッチ試薬0.18mol)、およびイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン186g(0.44mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1360g、トルエン221gを加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーのイオン性基密度の量論値は2.78mmol/gで、重量平均分子量は29万であった。
【0093】
次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液Aの直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収し、10μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過しながらセパラブルフラスコに移した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、上澄み液の粘度が2Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して塗液Aを得た。
【0094】
(参考例2;高分子電解質材料の塗液Bの製造例)
撹拌機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた4Lの反応容器に、炭酸カリウム177g(アルドリッチ試薬、1.28mol)、4,4’−ビフェノール56g(アルドリッチ試薬0.3mol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン77g(0.3mol)、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン13g(アルドリッチ試薬0.06mol)、およびイオン性基を含有するモノマーであるジソジウム 3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン239g(0.57mol)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)1750g、トルエン197gを加え、環流しながら160℃で脱水後、昇温してトルエン除去し、200℃で1時間脱塩重縮合を行った。得られたポリマーのイオン性基密度の量論値は3.45mmol/gで、重量平均分子量は35万であった。
【0095】
次に重合原液の粘度が0.5Pa・sになるようにNMPを添加し、久保田製作所製インバーター・コンパクト高速冷却遠心機(型番6930にアングルローターRA−800をセット、25℃、30分間、遠心力20000G)で重合原液の直接遠心分離を行った。沈降固形物(ケーキ)と上澄み液(塗液)がきれいに分離できたので上澄み液を回収し、10μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過しながらセパラブルフラスコに移した。次に、撹拌しながら80℃で減圧蒸留し、上澄み液の粘度が2Pa・sになるまでNMPを除去し、さらに5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターで加圧濾過して塗液Bを得た。
【0096】
(参考例3;高分子電解質材料の塗液Cの製造例)
ガラス容器に、ジクロロメタン8 5 6 g 、クロロスルホン酸4 . 3 g を秤量し、0 . 5重量% のクロロスルホン酸溶液を調製した。ポリフェニレンスルフィドフィルム(東レ株式会社製“トレリナ(登録商標)”を2 . 0 g 秤量し、上記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、2 5 ℃ で2 0 時間、放置した( クロロスルホン酸添加量は、ポリフェニレンスルフィドフィルムの重量に対して2 . 1 倍量)。 上記放置の後、上記スルホン酸化ポリフェニレンスルフィドフィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。
【0097】
上記洗浄後のスルホン酸化ポリフェニレンスルフィドフィルムを80 ℃で60分間放置して乾燥した後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解し粘度が2Pa・sの高分子電解質材料の塗液Cを得た。
【0098】
(実施例1)
多孔質性の非電解質材料Aとして厚み25μmの二軸延伸ポリプロピレン多孔質材料を準備した。多孔質性の非電解質材料の空間を膜厚方向の断面から観察したところ、長手方向の空間の平均長さYは5μm、厚み方向の空間の平均長さZは1μmであり、断面観察像の10μm×10μmの範囲内に観察されるY/Z≧3の空間が全空間の個数の90%であった。また、空間の壁にあたる非電解質材料の一部は膜厚方向に長さ2μm、長手方向に1μmの柱状物が10個観察された。
【0099】
塗液Aと多孔質性の非電解質材料Aを使用し、図1の概略構成図に示す複化高分子電解質膜製造用の連続流延塗布装置で膜状物を作製した。基材として125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)を用いた。
【0100】
流延塗布部分3Aおよび3Bはスリットダイ方式を採用し、加熱ロール11の温度は80℃に設定し、塗布速度は溶媒蒸発工程温度(乾燥部分4)100℃で15分間乾燥できる速度とし、溶媒蒸発後の膜状物の厚みが25μmとなるように塗工条件を調整しロール状に巻き取った。ロールの一部を切り出し、基材より膜状物を剥離させた。この時、剥離性に問題なく、カールや皺、表面欠陥などは発生しなかった。次に、膜状物をPETから剥離せず、40℃の10重量%の硫酸に30分間浸漬し、加水分解性可溶性基の加水分解とイオン性基のプロトン交換を実施した。
【0101】
次に、この膜状物を洗浄液が中性になるまで純水で洗浄し、60℃で30分間乾燥し膜厚20μmの複合化高分子電解質膜Aを得た。この複合化高分子電解質膜Aのイオン性基密度は2.0mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Aを使用し寸法変化率を測定したところ1.0%であった。また、複合化高分子電解質膜Aの断面形状を観察すると、高分子電解質材料の層が両面の最外層にそれぞれ2μmの厚みで形成されており、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質が充填された層には厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料からなる島が長手方向に複数本筋状に観察され、かつ、高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結していることが確認できた。また、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島の存在も観察された。図3に多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層の断面の拡大図を示す。
【0102】
この、複合化高分子電解質膜Aを使用した燃料電池の低加湿下での電圧は0.59Vであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.30mA/cmで評価後は0.41mA/cmであり耐久性が良好であった。
【0103】
また、複合化高分子電解質膜Aの一部を切り取り60℃のNMPに24時間浸漬して高分子電解質材料のみを溶解した。多孔質性の非電解質材料がフィルムとして回収でき、多孔質性の非電解質材料が連結していることが確認できた。
【0104】
(実施例2)
多孔質性の非電解質材料Bとして厚み15μmの延伸ポリテトラフルオロエチレン多孔質材料を準備した。多孔質性の非電解質材料この空間を厚み方向の断面から観察したところ、長手方向の空間の平均長さYは2.5μm、厚み方向の空間の平均長さZは0.5μmであり、断面観察像の10μm×10μmの範囲内に観察されるY/Z≧3の空間が全空間の個数の82%であった。また、空間の壁にあたる非電解質材料の一部は膜厚方向に長さ1.5μm、長手方向に0.5μmの柱状物が6個観察された。
【0105】
塗液Bと多孔質性の非電解質材料Bを使用し、図2の概略構成図に示す複化高分子電解質膜製造用の連続流延塗布装置で膜状物を作製した。基材として125μmのPETフィルム(東レ製“ルミラー(登録商標)”)を用いた。
【0106】
多孔質性の非電解質材料Bの巻だしから貼り合わせまでのパスはパスAを通し、流延塗布部分3Aはマイクログラビア方式を採用し、3Bはスリットダイ方式を採用し、塗布速度は溶媒蒸発工程温度100℃で15分間乾燥できる速度とし、溶媒蒸発後の膜状物の厚みが25μmとなるように塗工条件を調整しロール状に巻き取った。ロールの一部を切り出し、基材より膜状物を剥離させた。この時、剥離性に問題なく、カールや皺、表面欠陥などは発生しなかった。次に、膜状物をPETから剥離せず、40℃の10重量%の硫酸に30分間浸漬し、加水分解性可溶性基の加水分解とイオン性基のプロトン交換を実施した。
【0107】
次に、この膜状物を洗浄液が中性になるまで純水で洗浄し、60℃で30分間乾燥し膜厚20μmの複合化高分子電解質膜Bを得た。この複合化高分子電解質膜Aのイオン性基密度は2.5mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Bを使用し寸法変化率を測定したところ1.5%であった。また、複合化高分子電解質膜Bの断面形状を観察すると、高分子電解質材料の層が両面の最外層にそれぞれ2μmの厚みで形成されており、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質が充填された層には厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料からなる島が長手方向に複数本筋状に観察され、かつ、高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結していることが確認できた。また、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島の存在も観察された。
【0108】
この、複合化高分子電解質膜Bを使用した燃料電池の低加湿下での電圧は0.6Vであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.40mA/cmで評価後は0.45mA/cmであり耐久性が良好であった。
【0109】
また、複合化高分子電解質膜Bの一部を切り取り60℃のNMPに24時間浸漬して高分子電解質材料のみを溶解した。多孔質性の非電解質材料がフィルムとして回収でき、多孔質性の非電解質材料が連結していることが確認できた。
【0110】
(実施例3)
実施例1の塗液Aを塗液Cに変更した以外は実施例1と同様に実施し、膜厚20μmの複合化高分子電解質膜Cを得た。この複合化高分子電解質膜Cのイオン性基密度は2.3mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Cを使用し寸法変化率を測定したところ1.4%であった。また、複合化高分子電解質膜Cの断面形状を観察すると、高分子電解質材料の層が両面の最外層にそれぞれ2μmの厚みで形成されており、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質が充填された層には厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料からなる島が長手方向に複数本筋状に観察され、かつ、高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結していることが確認できた。また、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島の存在も観察された。
【0111】
この、複合化高分子電解質膜Cを使用した燃料電池の低加湿下での電圧は0.60Vであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.5mA/cmで評価後は0.59mA/cmであり耐久性が良好であった。
【0112】
また、複合化高分子電解質膜Cの一部を切り取り60℃のNMPに24時間浸漬して高分子電解質材料のみを溶解した。多孔質性の非電解質材料がフィルムとして回収でき、多孔質性の非電解質材料が連結していることが確認できた。
【0113】
(比較例1)
多孔質性の非電解質材料Cとして厚み25μmの湿式方で得られたポリプロピレン多孔質材料を準備した。多孔質性の非電解質材料の空間を膜厚方向の断面から観察したところ、長手方向の空間の平均長さYは0.5μm、厚み方向の空間の平均長さZは0.5μmであり、断面観察像の10μm×10μmの範囲内に観察されるY/Z≧3の空間が全空間の個数の10%であった。また、空間の壁にあたる非電解質材料の膜厚方向に長さ1μm以上、長手方向に0.5μm以上の柱状物は見当たらなかった。
【0114】
塗液Aと多孔質性の非電解質材料Cを使用し、実施例1塗同様に膜厚20μmの複合化高分子電解質膜Dを得た。この複合化高分子電解質膜Dのイオン性基密度は2.0mmol/gであった。この複合化高分子電解質膜Dを使用し寸法変化率を測定したところ2.0%であった。また、複合化高分子電解質膜Dの断面形状を観察すると、高分子電解質材料の層が両面の最外層にそれぞれ2μmの厚みで形成されており、多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質が充填された層には厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料からなる島は観察されず、また、厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島の存在も観察されなかった。高分子電解質材料からなる島同士の連結は観察された。
【0115】
この、複合化高分子電解質膜Dを使用した燃料電池の低加湿下での電圧は0.40Vであり、発電耐久性評価試験前後の水素透過電流を測定したところ、評価前が0.30mA/cmで評価後は0.60mA/cmであり、実施例1と比較して性能が低かった。
【0116】
(実施例4〜6、比較例2〜5)
実施例1の多孔質性の非電解質材料Aの代わりに空間の断面形状が異なる多孔質性の非電解質材料を使用した以外は、実施例1と同様に実施した。それぞれの複合化高分子電解質膜の断面形状観察結果と低加湿発電性能および耐久性の実験結果を表1に示した。
【0117】
【表1】

【0118】
表1より本発明の特定の断面形状を有する複合化高分子電解質膜は低加湿下での発電性能および耐久性が特定の断面形状を有さない複合化高分子電解質膜より優れていることがわかる。
【0119】
(参考例4;ダイレクトメタノール形燃料電池(DMFC)への適用例)
(1)アノードとカソードの作製
炭素繊維の織物からなる米国イーテック(E−TEK)社製カーボンクロスに、20%PTFE処理を行った。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと略す)を20重量%含む水分散液にカーボンクロスを浸漬、引き上げ後、乾燥、焼成した。その片面にPTFEを20重量%含むカーボンブラック分散液を塗工し、焼成して電極基材を作製した。この電極基材上に、ジョンソンマッセイ(Johson&Matthey)社製Pt−Ru担持カーボン触媒”HiSPEC”(登録商標)7000と”HiSPEC(登録商標)”6000、デュポン(DuPont)社製20%”ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)溶液とn−プロパノールからなるアノード触媒塗液を塗工し、乾燥してアノード触媒層を作製した。アノード触媒塗液の塗工はカーボンブラック分散液を塗工した面に行った。また、同様に、上記の電極基材上に、田中貴金属工業社製Pt担持カーボン触媒TEC10V50Eと”ナフィオン(登録商標)”(”Nafion(登録商標)”)溶液からなるカソード触媒塗液を塗工し、乾燥してカソード触媒層を作製した。
【0120】
(2)膜電極複合体(MEA)の作製および評価
実施例1の複合化高分子電解質膜Aを電解質膜として、それを前記工程(1)で作製したアノードとカソードで夾持し、100℃の温度で30分間加熱プレスして、電極面積が5cmとなる膜電極複合体(MEA)を作製した。このMEAを、セパレーターに挟み、アノード側に3%メタノール(MeOH)水溶液を0.2ml/minで供給し、カソード側に空気を50ml/minで流して、発電評価を実施した。その結果130mW/cmの最大出力が得られ、DMFC用途としても高い性能を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の製造方法で得られた電解質膜および複合化高分子電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、燃料電池用に好適であり、特に水素やメタノール水溶液を燃料とする燃料電池に好適であり、携帯電話、パソコン、PDA、ビデオカメラ(カムコーダー)、デジタルカメラ、ハンディターミナル、RFIDリーダー、デジタルオーディオプレーヤー、各種ディスプレー類などの携帯機器、電動シェーバー、掃除機等の家電、電動工具、家庭用電力供給機、乗用車、バスおよびトラックなどの自動車、二輪車、フォークリフト、電動アシスト付自転車、電動カート、電動車椅子や船舶および鉄道などの移動体、各種ロボット、サイボーグなどの電力供給源として好ましく用いられる。特に携帯用機器では、電力供給源だけではなく、携帯機器に搭載した二次電池の充電用にも使用され、さらには二次電池やキャパシタ、太陽電池と併用するハイブリッド型電力供給源としても好適に利用でき、高分子アクチュエーターなどの用途にも展開可能である。
【符号の説明】
【0122】
1:基材捲き出し部分
2:多孔質性の非電解質材料捲き出し部分
3A:第1の流延塗布部分
3B:第2の流延塗布部分
4:乾燥部分
4A:第1の乾燥部分
4B:第2の乾燥部分
5:複合化高分子電解質膜巻き取り部分
6:貼り合わせ部分
7:加熱ロール部分
8:パスA
9:パスB
I:複合化高分子電解質膜膜厚方向の断面全体図
II:I中の白点線四角部分の拡大図
A:多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層
B1:高分電解質材料の層
B2:高分電解質材料の層
C:高分子電解質材料の島
D:非電解質材料の島
E:高分子電解質材料の島同士の連結部分
F:非電解質材料の柱状部分由来の島

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質性の非電解質材料の空間に高分子電解質材料が充填されてなる層を有する複合化高分子電解質膜であって、該複合化高分子電解質膜の膜厚方向断面を電子顕微鏡で観察した際に、下記要件を満たすことを特徴とする複合化高分子電解質膜。
(1)厚さ0.5μm以下、長さ2μm以上の高分子電解質材料の島を有する。
(2)高分子電解質材料の島が別の高分子電解質材料の島と連結している。
(3)厚さ0.1μm以上2μm以下、長さ2μm以上10μm以下の非電解質材料の島を有する。
【請求項2】
少なくとも一方の最外層が高分子電解質材料の層である請求項1記載の複合化高分子電解質膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−45502(P2013−45502A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180126(P2011−180126)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 新エネルギー部 共同研究「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発 次世代技術開発 自動車用高温低加湿対応新規炭化水素系電解質膜」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】