説明

複合化PTC素子

大きい電力が流れる配線においても、PTC素子として確実に機能できる新たなPTC素子を提供する。 ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素(12,12’)およびその片側に離間して配置された対の電極(14:16,14’:16’)をそれぞれ有して成る2つのPTC素子を有して成る複合化PTC素子(10,10’)において、一方のPTC素子の対の電極(14,16)は、他方のPTC素子の対の電極(14’,16’)に相互に対向し、これらの電極の間に端子(20,21)が配置され、対向する電極およびその間の端子が電気的に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
関連出願の相互参照
本願は、日本国特許出願第2003−190280号(出願日:2003年7月2日、発明の名称:複合化PTC素子)に基づくパリ条約上の優先権を主張し、ここでこの特許出願を参照することによって、この特許出願に開示された事項は、全て本明細書に組み込まれ、その一部分を構成する。[技術分野]
本発明は、複数、例えば2つのPTC素子を組み合わせた複合化PTC素子および自動車用保護素子としてのそのような複合化PTC素子に関する。
尚、「PTC素子」とは、電気・電子回路技術の分野において知られているように、正の温度係数(Positive Temperature Coefficient)を有するサーミスタをいう。PTC素子は、比較的低い温度条件下(例えば常温時)ではその電気抵抗(又はインピーダンス)は小さいが、ある温度(以下、トリップ温度という)を超えると電気抵抗が急激に増加する性質を有する素子を意味する。本明細書において、PTC素子の前者の状態をロー状態と、また、後者の状態をハイ状態というものとする。
【背景技術】
現在、通常のエンジンを動力源としている自動車において、自動車中に配置されている例えばラジオの操作指令、ワイパーの操作指令、窓の開閉指令、方向指示器指令、照明点灯指令といった信号伝達用の信号線には、万が一の安全のために、各々の信号線の回路内に必ずヒューズ状の安全保護素子が直列に装着されていることは良く知られている。
同様に、モーターとエンジンを動力源として併用している自動車においても安全の観点から同様の安全保護素子が装着されていてしかるべきである。しかも、モーターとエンジンを動力源として併用している自動車においては、駆動源たるべきモーターを駆動するための大電力を伝送するための配線系も装着されている。このような大電力を送る配線系においては、時折漏れ電流等が発生し、それが近接している他の配線系統へ混入することが発生する場合がある。
【発明の開示】
しかしながら、現在ではこのようなモーターとエンジンを動力源として併用している自動車において、駆動源たるべきモーターを駆動するための大電力伝送配線系において時折漏れ電流等が発生し、それが近接している他配線系統へ混入することが発生する場合があるため、通常のエンジンを動力源としている自動車において使用されている信号回路への安全保護素子と同等の素子を使用することができず、現実には信号回路への安全保護素子が装着されていない。従って、大きい電力(または電流)が流れる配線においても、PTC素子として確実に機能できる新たなPTC素子を提供することが望まれている。
本発明は、ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る複数のPTC素子を有して成る複合化PTC素子を提供し、この素子では、
それぞれのPTC素子の対の一方の電極は電気的に一体に接続されると共に端子に接続され、他方、それぞれのPTC素子の対の他方の電極は電気的に一体に接続されると共に別の端子に接続されている。その結果、該端子を経て外部から複合化PTC素子に入る電流が、該他方の端子を経て複合化PTC素子から出るに際して、該電流は、各層状PTC要素を流れるようになっている。
特に好ましい態様において、本発明の複合化PTC素子は、ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る2つのPTC素子(10,10’)を有して成り、一方のPTC素子(10)の対の電極(14,16)は、他方のPTC素子(10’)の対の電極(14’,16’)に相互に対向し、これらの対向する電極に端子が(即ち、電極14と電極14’に端子20が、また、電極16と電極16’に端子21が)それぞれ接続されている。好ましくはこれらの対向する電極の間に端子が(即ち、電極14と電極14’との間に端子20が、また、電極16と電極16’との間に端子21が)配置され、対向する電極およびその間の端子が電気的に接続されていることを特徴とする。
尚、本明細書において、「複合化」なる用語は、本発明のPTC素子が、既知のPTC素子を複数上述のように電気的に接続して形成されることを明確化する意味で使用している。
このように複数のPTC素子の対の電極の一方同士を一体に接続すると共に端子(またはリード)に接続し、同様に、対の電極の他方同士を一体に接続すると共に別の端子(またはリード)に接続することによって、PTC要素を通過する複数の電流パスを並列接続で確保でき、その結果、大きい電力(または電流)を伝送する回路においても、大きい電力(または電流)を各電流パスに確実に分割することができ、その結果、複合PTC素子全体としては、これまでより大きい電力(または電流)が伝送される回路に使用できる。例えば、本発明の複合化PTC素子は、直流240V以上(例えば600V)での使用に耐えうる自動車用保護素子として使用できる。従って、本発明は、上述の複合化PTC素子を有して成る自動車用保護素子をも提供する。
本発明の複合化PTC素子を構成するPTC素子は、周知であり、通常、ポリマーPTC要素(カーボンブラックのような導電性フィラーが分散しているポリマー、例えばポリエチレンから形成された要素)、好ましくは層またはシート状の要素およびその片側に離間して配置された対の電極、好ましくは電極箔を有して成る。PTC要素は、トリップ時の熱膨張による体積増加を少なくとも部分的に吸収して生じる応力を緩和するために空隙部を有するのが好ましい。この空隙部は、表面に電極が配置される、ポリマーPTC要素の領域、およびそれに隣接する領域(本明細書においてこれらの領域を電極周縁領域と呼ぶ)から選択される少なくとも1つの箇所に存在するのが好ましい。
この空隙部は、ポリマーPTC要素の厚さ方向に延在するのが好ましく、特に好ましいのはポリマーPTC要素を厚さ方向に貫通するものである。特に、電極周縁領域、とりわけ電極が配置される、ポリマーPTC要素の領域の厚さ方向に1またはそれ以上の空隙が延在する、例えば貫通して延在するのが好ましい。貫通する場合には、空隙部の端面は、電極周縁領域内に位置する。
本発明は、ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る複数のPTC素子を有して成る複合化PTC素子の製造方法をも提供し、
それぞれのPTC素子の対の電極の一方同士を電気的に一体に接続すると共に端子に電気的に接続し、他方、それぞれのPTC素子の対の電極の他方同士を電気的に一体に接続すると共に別の端子に電気的に接続することを特徴とする。このように接続することにより、該端子を経て外部から複合化PTC素子に入る電流が、該他方の端子を経て複合化PTC素子から出るに際して、該電流は、各層状PTC要素を流れるようになる。
特に好ましい態様では、本発明の複合化PTC素子の製造方法では、ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る2つのPTC素子(10、10’)を準備し、一方のPTC素子の対の電極のそれぞれ(14,16)と、他方のPTC素子の対の電極のそれぞれ(14’,16’)との間に各端子を配置し、対向する電極およびその間の端子を電気的に接続することを特徴とする。
本発明の複合化PTC素子は、直流240V以上、例えば直流600Vという高電圧通電環境下における使用にも耐える。また、各PTC素子において、電極がPTC要素の片側に配置されているので、たとえ、高電流、高電圧印加時に素子が破壊に至ったとしても、短絡が生じる危険性が小さく、安全を確保し易い素子である。
また、ポリマーPTC要素に空隙部を設ける場合、繰り返しのトリップによる熱膨張を経験するとしても、それによって素子が破壊に到るまでのトリップ回数(即ち、ロー状態からハイ状態に移る回数)が大きくなる。即ち、素子の高電圧に対する耐久性が向上し、素子抵抗値を低抵抗に維持することが可能である。また、万が一、複合化PTC素子を構成するPTC素子の1つが破壊に至ったとしても、複合化PTC素子内で並列回路が構成されているため、他のPTC素子にて動作状態を維持することができるため、本発明の複合化PTC素子は信頼度が高い自動車用保護素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の複合化PTC素子の製造方法を示し、図1(a)は、模式的側面図であり、図1(b)はその模式的平面図である。
図2は、本発明の複合化PTC素子を示し、図2(a)は、本発明の複合化PTC素子の模式的断面図であり、図2(b)はその模式的平面図である。
尚、図面において、参照番号は以下の要素を示す:
10,10’…PTC素子、12,12’…PTC要素、14,14’…電極、
16,16’…電極、18,18’…空隙部、20,21…端子、
22…ハンダ接続部。
発明を実施するための形態
以下、本発明の実施の形態の一例について説明する。
図1に、本発明の複合化PTC素子の製造方法を示す。図1(a)は、PTC素子の側面図であり、図1(b)は、PTC素子の平面図である。尚、上側の側面図と平面図が対応関係にあり、下側の側面図と平面図が対応関係にある。
シート状PTC要素12の片側に離隔して配置された2つの電極14および16を有するPTC素子10を準備する。同様のPTC素子10’も準備する。このようなPTC素子自体は既知である。
PTC素子10および10’は、PTC要素12および12’内部に空隙部、好ましくはPTC素子の厚さ方向に貫通する空隙18および18’を有する。PTC素子がトリップする時にPTC要素が熱膨張するが、その時の膨張の少なくとも一部分を空隙が吸収でき、その結果、熱応力を緩和できる。尚、空隙の数および形状は特に限定されるものではなく、熱膨張の少なくとも一部分を吸収できるものであればよく、空隙は、図示するように、電極を貫通していてもよい。
このようなPTC素子10および10’を、図1(a)に示すように、それぞれの電極が対向するように(電極14と電極14’が対向するように、また、電極16と電極16’とが対向するように)配置し、電極の間に、端子(またはリード)20および21が位置するようにして、これらを電気的に接続して図2に示す複合化PTC素子を得る。この接続は、いずれの適当な方法で実施してよい。図示した態様では、PTC素子の電極を配した面同士を向かい合わせにし、その向かい合わせになった電極の間に端子を挟む状態で端子と電極とをハンダ付けにて電気的に接合している。
このように2つのPTC素子を複合化して1つのPTC素子とすることによって、PTC素子を並列に接続することができ、その結果、複合PTC素子の全体としての抵抗値を小さくすることができる。また、万が一、片方のPTC素子が破壊に至ったとしても、他片のPTC素子にて導通状態を維持することができるため、信頼度が高い素子を構成することができる。
具体的には、図示した態様では、縦×横×厚さが8mm×11mm×1mmのPTC要素の片側両端部に各々3mmずつにわたって電極箔を配する。電極箔およびPTC要素を貫通する直径1mmのスルーホールを複数(図示した態様では各電極箔側に1つ)形成する。このPTC素子(10および10’)を2つ用意し、鉛フリーハンダにより幅2.7mm×長さ15mm×厚さ0.8mmの端子(20,21)を電極箔(14と14’、16と16’)の間に取り付ける。
端子の材料は、銅、鉄、ニッケル、真鍮等の電気伝導が可能なものなら材質は問わない。また、そのような端子は、スズ、ニッケルによる表面処理(例えばメッキ)が施されているのが好ましい場合がある。
完成した本発明の複合化PTC素子を図2に示す。尚、図2(a)は、複合化PTC素子の断面図(図2(b)の線A−A’に沿った断面)であり、図2(b)は平面図である。理解し易いように、図2(a)において、ハンダ接続部22が電極箔と端子との間に位置する様子を、誇張して示している。
このような本発明の複合PTC素子の外形は、例えば、通常のエンジンを動力源としている自動車において、自動車中に配置されている例えばラジオの操作指令、ワイパーの操作指令、窓の開閉指令、方向指示器指令、照明点灯指令といった信号伝達用の信号回路に設けられている安全のためのヒューズ状の安全保護素子の外形寸法と同等のものであり、安全保護素子の端子と同じものを端子20および21として使用するのが好ましい。その場合、現在使用されているヒューズに代えて複合PTC素子を使用できる。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る複数のPTC素子を有して成る複合化PTC素子であって、
それぞれのPTC素子の対の一方の電極は電気的に一体に接続されると共に端子に接続され、他方、それぞれのPTC素子の対の他方の電極は電気的に一体に接続されると共に別の端子に接続されている複合化PTC素子。
【請求項2】
ポリマーPTC材料からなる層状PTC要素およびその片側に離間して配置された対の電極をそれぞれ有して成る2つのPTC素子を有して成る、請求の範囲1に記載の複合化PTC素子であって、
一方のPTC素子の対の電極は、他方のPTC素子の対の電極に相互に対向し、これらの電極の間に端子が配置され、対向する電極およびその間の端子が電気的に接続されていることを特徴とする複合化PTC素子。
【請求項3】
層状PTC要素は、その厚さ方向に貫通する空隙部を有して成る、請求の範囲1または2に記載の複合化PTC素子。
【請求項4】
空隙部の端面は、電極周縁領域内に位置する請求の範囲3に記載の複合化PTC素子。
【請求項5】
直流240V以上の使用に耐え得る自動車の安全保護素子として使用できる請求の範囲1〜4のいずれかに記載の複合化PTC素子。
【請求項6】
直流600Vでの使用に耐えうる請求の範囲5に記載の複合化PTC素子。
【請求項7】
通常の使用状態において直流12Vあるいは24Vで500mAまでの電流が流れる請求の範囲1〜6のいずれかに記載の複合化PTC素子。
【請求項8】
該端子を経て外部から複合化PTC素子に入る電流が、該他方の端子を経て複合化PTC素子から出るに際して、該電流は、各層状PTC要素を流れるようになっている請求の範囲1〜7のいずれかに記載の複合化PTC素子。

【国際公開番号】WO2005/004173
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【発行日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511399(P2005−511399)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009669
【国際出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(592142669)タイコ エレクトロニクス レイケム株式会社 (14)
【Fターム(参考)】