説明

複合半透膜の製造方法

【課題】 高い溶質除去性と高い水透過性を有し、かつ高い耐久性を有する複合半透膜を製造する。同時に、高い生産性を簡便かつ安全な方法によって実現しうる複合半透膜を製造する。
【解決手段】 微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、50℃以上の洗浄水で洗浄処理し、次いで、pH7以下の中性もしくは酸性条件下でペルオキソ硫酸化合物で処理を行うことにより、膜性能を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物から溶質成分を選択分離するために使用される高性能な複合半透膜を製造する方法に関する。特に、かん水や海水の脱塩処理に有用な高脱塩性と高透水性に加え、高耐久性をあわせ有する複合半透膜を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液状混合物の分離処理に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、溶媒の相変化を伴わないことや分離の駆動力となる加圧技術の進歩により、省エネルギー・省資源のためのプロセスとして膜分離法が広く利用されている。膜分離法に使用されている分離膜には、精密ろ過(MF)膜、限外ろ過(UF)膜、逆浸透(RO)膜などがある。さらに近年は、分離性能としては逆浸透(RO)膜と限外ろ過(UF)膜の境界に位置する、ルースRO膜やNF(Nano-Filtration)膜が開発され、例えば海水処理、カン水処理、有害物を含んだ水から飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、廃水処理、有価物の回収などに用いられてきた。
【0003】
現在市販されている逆浸透膜、ルースRO膜、NF膜の多くは複合半透膜である。中でも、多官能アミンと多官能酸誘導体との重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる分離機能層を微多孔性支持膜上に被覆して得られる複合半透膜は、透過性や選択分離性の高い逆浸透膜として広く用いられている。
【0004】
この架橋ポリアミドを多官能芳香族アミンと多官能酸誘導体(例えば塩化物)との界面重縮合反応によって微多孔性支持膜上に形成した、超薄膜層を持つ複合半透膜は透過性や選択分離性の高い逆浸透膜として注目されている(特許文献1参照)。
【0005】
この架橋ポリアミド機能層をもつ複合半透膜において、高透水性を発現するために、微多孔性支持膜上で行う界面重縮合反応を行う際の溶液中に添加剤を含有させて逆浸透膜を製造する方法も開発されている。該添加剤としては、例えば、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル等の特定の極性化合物などが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
また、複合半透膜の脱塩性能、透水性能を向上させるために、ポリアミド分離機能層を各種試薬で処理する方法が提案されている。例えば、アンモニアやアルキルアミン、アルコール類、塩酸、有機酸、または、無機塩による接触処理または浸漬処理が提案されている(特許文献3〜7参照)。加えて、カチオン性を有しアミノ基を含む芳香族系モノマーを機能膜形成後に洗浄除去することで透水性能の高い流体分離膜の製造が可能であることが提案されている(特許文献8参照)。これら方法によって処理することによって複合分離膜の性能を向上させることができるが、膜性能向上効果や、処理方法の作業性や安全性等において問題があり、より簡便で安全な処理方法でもって効率よく膜性能を向上させる技術が望まれている。
【0007】
さらにまた、界面重縮合によって形成された架橋芳香族ポリアミドの超薄層を過硫酸化合物水溶液で処理し、膜の耐酸化剤性を向上させる、複合半透膜の製造方法が提案されている(特許文献9参照)。しかし、この製造方法で膜を改質しても透水性能を十分に向上させることは困難であり、なお透水性能が低いという問題があった。
【0008】
このように、従来の複合半透膜は、依然として問題があり、各種水処理においてより安定した運転性や簡易な操作性があり、さらに膜交換頻度の低減などによる低コスト追求や耐久性を備えることが求められている。
【特許文献1】特開平5−76740号公報
【特許文献2】特開2001−079372号公報
【特許文献3】特表2000−504270号公報
【特許文献4】特開平6−327953号公報
【特許文献5】特開2000−237559号公報
【特許文献6】特開2003−117360号公報
【特許文献7】特開2003−117361号公報
【特許文献8】特開2000−93771号公報
【特許文献9】特開平5−96140号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い溶質除去性と高い水透過性を有し、かつ高い耐久性を有する複合半透膜を製造でき、同時に、高い生産性を簡便かつ安全な方法によって実現しうる複合半透膜を製造できる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、微多孔性支持膜上での重縮合により架橋ポリアミド機能層を形成させた複合半透膜を、ペルオキソ二硫酸化合物と接触処理することによってポリアミド分離機能層を改質し、膜性能の向上を図るものであり、以下のとおり特定される。
(1) 微多孔性支持膜上に、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、50℃以上の洗浄水で洗浄処理し、次いで、pH7以下の中性もしくは酸性条件下でペルオキソ二硫酸化合物で処理することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
(2) ペルオキソ二硫酸化合物で処理する前の複合半透膜が、25℃、pH6.5、濃度0.2重量%の塩化ナトリウム水溶液を0.5MPaの操作圧力で透過させたときの塩化ナトリウム除去率が90%以上である複合半透膜である、上記(1)に記載の複合半透膜の製造方法。
(3) ペルオキソ二硫酸化合物が、ペルオキソ二硫酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)または上記(2)に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、複合半透膜の改質による膜性能の向上、とりわけ透水性能の向上を、より簡便に安全な方法によって達成することができ、特に逆浸透膜による河川水からの浄水製造において好適な性能を有する複合半透膜を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における複合半透膜は、実質的に分離性能を有する分離機能層が、実質的に分離性能を有さない微多孔性支持膜上に被覆されてなり、該分離機能層は多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応によって得られる架橋ポリアミドからなるものである。ここで多官能アミンとしては、脂肪族多官能アミンと芳香族多官能アミンとがあり、これらに含まれる少なくとも1つのアミン成分を用いる。
【0013】
脂肪族多官能アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族アミンであり、好ましくはピペラジン系アミンおよびその誘導体である。例えば、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、2−メチルピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,3,5−トリメチルピペラジン、2,5−ジエチルピペラジン、2,3,5−トリエチルピペラジン、2−n−プロピルピペラジン、2,5−ジ−n−ブチルピペラジンなどが例示され、性能発現の安定性から、特に、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジンが好ましい。
【0014】
また、芳香族多官能アミンとは、一分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族アミンであり、特に限定されるものではないが、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンなどがあり、そのN−アルキル化物としてN,N−ジメチルメタフェニレンジアミン、N,N−ジエチルメタフェニレンジアミン、N,N−ジメチルパラフェニレンジアミン、N,N−ジエチルパラフェニレンジアミンなどが例示され、性能発現の安定性から、特にメタフェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好ましい。
【0015】
多官能酸ハロゲン化物とは、一分子中に2個以上のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物であり、上記多官能アミンとの反応によりポリアミドを与えるものであれば特に限定されない。多官能酸ハロゲン化物としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3−ベンゼンジカルボン酸、1,4−ベンゼンジカルボン酸の酸ハロゲン化物を用いることができる。酸ハロゲン化物の中でも、酸塩化物が好ましく、特に経済性、入手の容易さ、取り扱い易さ、反応性の容易さ等の点から、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸の酸ハロゲン化物であるトリメシン酸クロライドが好ましい。上記多官能酸ハロゲン化物は単独で用いることもできるが、混合物として用いてもよい。
【0016】
次に、微多孔性支持膜上での重縮合により架橋ポリアミド機能層を形成させて複合半透膜を製造するための好ましい方法について説明する。複合半透膜中の実質的に分離性能を有する分離機能層は、例えば、前述の多官能アミンを含有する水溶液と、前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する、水とは非混和性の有機溶媒溶液を用い、後述の微多孔性支持膜上で反応させることにより形成される。ここで、多官能アミンを含有する水溶液の濃度は、0.1〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜15重量%である。
【0017】
多官能酸ハロゲン化物を溶解する有機溶媒としては、水と非混和性であり、かつ微多孔性支持膜を破壊しない有機溶媒を用いることが好ましく、架橋ポリアミドの生成反応を阻害しないものであればいずれであっても良い。その代表例としては、液状の炭化水素、トリクロロトリフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素が挙げられるが、オゾン層を破壊しない物質であることや入手のしやすさ、取り扱いの容易さ、取り扱い上の安全性を考慮すると、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン、シクロオクタン、エチルシクロヘキサン、1−オクテン、1−デセンなどの単体あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0018】
多官能アミンを含有する水溶液や多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液には、両成分間の反応を阻害しないものであれば、必要に応じて、アシル化触媒や極性溶媒、酸捕捉剤、界面活性剤、酸化防止剤等の化合物が含まれていてもよい。
【0019】
本発明において、微多孔性支持膜は、架橋ポリアミドからなる分離機能層を支持するために使用される。微多孔性支持膜の構成は特に限定されないが、好ましい微多孔性支持膜としては、布帛により強化されたポリスルホン支持膜などを例示することができる。微多孔性支持膜の孔径や孔数は特に限定されないが、均一で微細な孔あるいは片面からもう一方の面まで徐々に大きな微細な孔を有していて、その微細孔の大きさは、その片面の表面が100nm以下であるような構造であることが好ましい。
【0020】
本発明に使用する微多孔性支持膜としては、ミリポア社製”ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製”ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造したものを使用することができる。
【0021】
微多孔性支持膜に使用する素材は特に限定されず、例えば、ポリスルホン、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル等のホモポリマーあるいはブレンドポリマー等が使用できるが、化学的、機械的、熱的に安定性の高い、ポリスルホンを使用するのが好ましい。具体的製法を次に例示する。ポリスルホンのジメチルホルムアミド(以降、DMFと略す)溶液を、密に織ったポリエステル織物あるいは不織布の上に略一定の厚さに塗布し、ドデシル硫酸ソーダ0.5重量%とDMF2重量%とを含む水溶液中で湿式凝固させることによって、表面の大部分に直径数10nm以下の微細な孔が形成された微多孔性支持膜を製造することができる。
【0022】
微多孔性支持膜の表面に、多官能アミンを含有する水溶液を被覆させる際には、該水溶液が表面に均一にかつ連続的に被覆されるように、公知の塗布方法により、例えば、該水溶液を微多孔性支持膜表面にコーティングする方法や、微多孔性支持膜を該水溶液に浸漬する方法等で行えばよい。次いで、過剰に塗布された該水溶液を液切り工程により除去する。液切りの方法としては、例えば、膜面を垂直方向に保持して自然流下させる方法等がある。液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の全部あるいは一部を除去してもよい。その後、多官能アミンを含有する水溶液で被覆された微多孔性支持膜の上に、前述の多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液を塗布し、両成分の反応により架橋ポリアミドの分離機能層を形成させる。
【0023】
塗布する有機溶媒溶液中における多官能酸ハロゲン化物の濃度は特に限定されないが、小さすぎると活性層である分離機能層の形成が不十分となり欠点になる可能性があり、大き過ぎるとコスト面から不利になるため、有機溶媒溶液中で0.01〜1.0重量%程度が好ましい。反応後の有機溶媒の除去は、通常の方法、例えば空気吹きつけによる乾燥等で行うことができる。
【0024】
そして、本発明では、上述の方法により製造された複合半透膜を、ペルオキソ二硫酸化合物で処理することにより改質半透膜を得る。
【0025】
本発明の製造方法では、過硫酸化合物のうち、ペルオキソ二硫酸化合物による処理を、温度50℃以上の洗浄水で洗浄処理した後に行うこと、かつ、pH7以下の中性もしくは酸性条件で行うことが必要であり、特にpH3.5以下の酸性条件下で行うことが好ましい。この条件下で行うことにより、短時間で透水性能を大幅に向上できるという著しい効果を奏することができる。
【0026】
一般に、ペルオキソ酸は高い酸化力を持ち他の化合物を酸化する。その反応性は条件によって異なるが、酸性条件下では酸素−酸素結合が不安定になることから、pHを低くするほど透過水量の向上効果が高まるという効果を奏することができる。即ち、ペルオキソ二硫酸化合物の水溶液を調製し、そのpHを下げて処理を行うと、処理して得られる改質半透膜の透水性能は、pH7以下の酸性条件下、特にpH2〜3.5の酸性条件下で大きく向上する。
【0027】
本発明に係るペルオキソ二硫酸化合物とは、過硫酸化合物の一般名で知られる化合物群から選ばれる少なくとも1つの化合物であり、ペルオキソ二硫酸、およびそのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩を例示することができる。具体的には、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(過硫酸アンモニウム)、ペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)、ペルオキソ二硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0028】
複合半透膜のポリアミド分離機能層をペルオキソ二硫酸化合物で処理する方法は特に限定されず、複合半透膜全体をペルオキソ二硫酸化合物の水溶液中に浸漬しても良いし、その水溶液を複合半透膜の少なくとも一部に塗布しても良く、ポリアミド分離機能層とペルオキソ二硫酸化合物が接触する方法であればよい。
【0029】
本発明において、ペルオキソ二硫酸化合物による処理は、pH7以下の中性もしくは酸性条件で実施することが必須である。「pH7以下の中性もしくは酸性条件」は、処理溶液中に実質的に含まれる水の解離平衡反応において、水素イオンの数が水酸化物イオンの数にくらべて同等以上であることを指す。水の解離平衡反応はアルコール、エステルなど中性分子の影響を受けるため、水に溶解する中性分子の濃度が100ppmを超えない範囲ではpH7以下と合理的に考えられる。また、ペルオキソ二硫酸化合物水溶液のpH測定は電極の種類によっては測定が困難であるので、水溶液により処理する場合には、簡便には酸塩基指示薬であるフェノールフタレインの呈色が見られないpH領域として差し支えない。さらに、pHを低くするほど透水性能向上効果は高まるが、強酸性条件では加水分解による膜性能への悪影響が大きくなるため、pHは低くてもpH2以上であることが好ましい。
【0030】
また、本発明においては、ペルオキソ二硫酸化合物による処理の前に、膜改質への効果を高めるために複合半透膜を、50℃以上の洗浄水で洗浄することが必要であり、この洗浄処理により余分な未反応物(例えば芳香族系モノマー)や夾雑物を除去することができる。この洗浄処理に用いる洗浄水としては、未反応物の抽出のために、水とアルコールの少なくとも一方を含むものであればよいが、非引火性という観点から水を含む洗浄液、即ち洗浄水を用いる。この洗浄水には、水の他に、アルコール等が含有されていてもよい。
【0031】
また、洗浄水は、その粘性を下げ膜中の未反応物の抽出効果を高めるために、温度を50℃以上にすることが必要であり、好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上である。膜の種類にもよるが、洗浄水の温度を常温(25℃)で膜中の未反応物を抽出するには、通常約1日かかるので、洗浄時間短縮という観点からも洗浄水の温度を50℃以上に上げることが必要である。
【0032】
この洗浄処理によって、膜中に含まれる未反応物を多くとも0.2g/mに低減させる。より好ましくは0.1g/m以下、さらに好ましくは0.07g/m以下、特に好ましくは0.05g/m以下に低減させる。
【0033】
ここで、膜中に含まれる未反応物の中で、ペルオキソ二硫酸化合物との反応性がより高い化合物は多官能アミンと考えられる。そこで、ペルオキソ二硫酸化合物による処理を施す前に、洗浄処理によって複合半透膜中に含まれる多官能アミン量を多くとも0.1g/m以下に低減させる。より好ましくは0.05g/m以下、さらに好ましくは0.035g/m以下、特に好ましくは0.025g/m以下に低減させる。膜中アミン量の測定は、複合半透膜を100cmの大きさに切り出したものをエタノール50gに8時間浸漬し、エタノールに抽出された成分のクロマトグラフィーおよび質量分析によって求めることができる。
【0034】
上記洗浄処理によって、例えば1%ペルオキソ二硫酸化合物水溶液による処理時間を大幅に低減し、かつ性能向上の効果が大きくなる。反応時間は複合半透膜の生産性の観点から、1秒間以上、24時間以下であることが好ましいので、適宜濃度を調整する。
【0035】
また、ペルオキソ二硫酸化合物処理を施す複合半透膜が湿潤状態にないときは、処理前に水と必要な時間接触し十分な湿潤状態とすることが好ましい。ここで湿潤状態とは、被処理膜中に水を含有することであり、含水率(=膜中の水分量/膜の全重量)でもって定量的に表すことができる。ペルオキソ二硫酸化合物溶液による処理を施す際の複合半透膜の含水率は、5%以上が好ましく、さらに25%以上が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法におけるペルオキソ二硫酸化合物処理は、25℃、pH=6.5、濃度0.2重量%の塩化ナトリウム水溶液を0.5MPaの操作圧力で透過させたときの塩除去率が90%以上という性能を示す複合半透膜に対し、特に効果的であり、大幅な透水性能向上効果が得られる。この結果、優れた塩除去率とともに、透過水量が0.8m/m・日以上という優れた透水性能の複合半透膜とすることができる。
【0037】
本発明で特定した処理を行って得られる複合半透膜は、溶媒と溶質とを分離するための逆浸透膜として用いられる。例えば、操作圧力0.1〜3.0MPaで逆浸透膜として用いることにより、原水中に含まれる無機物や有機物などの有害物質およびその前駆物質の除去を行うことができる。
【0038】
このように逆浸透膜処理する時には、操作圧力を低くすると使用するポンプの容量が少なくなり電力費が低下する反面、膜が目詰まりしやすくなり透過水量が経時的に少なくなる傾向がある。逆に、操作圧力を高くすると前記の理由で電力費が増加し、透過水量が多くなる傾向がある。また、透過水量が高すぎると膜面のファウリングによる目詰まりを起こす可能性があり、低いとコスト高となる。したがって、運転コストを抑えて安定運転を行うためには、操作圧力を0.1〜3.0MPaの範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜2.0MPa、さらに好ましくは0.1〜1.0MPaの範囲内である。また、同様の理由から、透過水量の範囲を、0.5〜5.0m/m・dの範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.6〜3.0m/m・d、さらに好ましくは0.8〜2.0m/m・dの範囲内である。
【0039】
また、効率的に供給水を処理して造水コストを下げるためには、原水供給量に対する透過水量の割合、すなわち回収率は80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上、さらには90%以上が良い。ただし99.5%を超えると膜面のファウリングによる目詰まりを起こす可能性が高くなるので、99.5%を超えないことが好ましい。
【0040】
なお、本発明において、複合半透膜の形態は限定されるものではなく、中空糸膜でも平膜でもよい。また、本発明により改質処理して得られる改質半透膜は液体分離に用いる場合、通常の方法でエレメントやモジュールを形成させて用いられるが、その形態もモジュール型、スパイラル型など特に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下の実施例において、塩除去率は、供給液中の塩濃度、透過液中の塩濃度を測定し、次式により求めた。
塩除去率(%)={1−(透過液中の塩濃度)/(供給液中の塩濃度)}×100
また、透水量は、単位時間(日)に単位面積(m)当たりの膜を透過する透過水量(m/m・d)で表示した。さらに、膜中アミン量の測定は、複合半透膜を100cmの大きさに切り出したものをエタノール50gに8時間浸漬し、エタノールに抽出された成分のクロマトグラフィーおよび質量分析によって求めた。
【0042】
<参考例1>
微多孔性支持膜としては、次の手法により製造した布帛補強ポリスルホン支持膜(限外濾過膜)を用いた。すなわち、単糸繊度0.5dtexのポリエステル繊維と1.5dtexのポリエステル繊維との混繊からなり、通気度0.7cm/cm・秒、平均孔径7μm以下の、縦30cm、横20cmの大きさの湿式不織布をガラス板上に固定し、その上に、ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒でポリスルホン濃度15重量%の溶液(2.5ポアズ:20℃)を、総厚み200μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積してポリスルホンの微多孔性支持膜を作製した。
【0043】
次に、この微多孔性支持膜を、m−フェニレンジアミン2.0重量%およびε―カプロラクタム2.0重量%を含む水溶液中に2分間浸漬した後、その表面に、デカンにトリメシン酸クロライドを0.1重量%になるように溶解した溶液を160cm/mの割合になるように塗布し、さらに過剰の溶液を除去し、表面上での重縮合によりポリアミド分離機能層を形成させて複合半透膜を製造した。膜中アミン量は0.560g/mであった。
【0044】
このようにして得られた複合半透膜を、90℃の精製水中に2分間浸漬して洗浄を行った。
【0045】
得られた洗浄後の複合半透膜を、pH6.5に調整した0.2重量%の塩化ナトリウム水溶液を原水とし、0.5MPa、25℃の条件下で逆浸透テストを行った。その結果、透水量は0.55m/m・d、塩化ナトリウムの除去率は97.0%であった。この膜の膜中アミン量は0.020g/mであった。
【0046】
<実施例1>
参考例で得られた洗浄後の複合半透膜を、硫酸酸性(pH2)の1重量%ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液で室温中2分間処理した。次いで膜を水溶液から取り除いた後、直ちに水で洗い、室温にて保管した。処理して得られた複合半透膜を、参考例と同条件で性能試験したところ、この膜の透水量は0.82m/m・d、塩化ナトリウムの除去率は98.0%であった。
【0047】
<実施例2〜7、比較例1〜3>
参考例で得られた洗浄後の複合半透膜を、化合物、pH、および濃度を変えてペルオキソ二硫酸処理を行った。処理条件は表1に従った。pHの調整は硫酸又は水酸化ナトリウムを使用し、表1記載以外の条件は実施例1の条件と同一とした。
【0048】
ペルオキソ二硫酸処理して得られた複合半透膜の性能を表1に示す。実施例1〜7および比較例1〜3の結果から、本発明のペルオキソ二硫酸化合物処理を行うことにより膜透水量を大幅に向上させることができることが明らかである。
【0049】
【表1】

【0050】
<比較例4>
参考例の場合と同じ方法にて微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成させた複合半透膜を製造した後、水洗浄を行わずに、実施例1と同様にしてペルオキソ二硫酸ナトリウムの処理を行った。処理して得られた複合半透膜の性能は、透水量0.51m/m・d、塩排除率97.4%であった。このように水洗浄を行わずにペルオキソ二硫酸化合物処理を行った場合には、透水性能を十分に向上させることができなかった。
【0051】
<参考例2>
実施例1で得られた複合半透膜と比較例2で得られた複合半透膜を、pH7の700ppm次亜塩素酸ナトリウム水溶液で8時間浸漬した。次いで、膜を水で洗浄した後、参考例1と同条件で性能試験した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
この結果より、酸化剤(次亜塩素酸)に対する耐久性は、初期値比で安定性の高い実施例1の膜の方が優れることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の製造方法により得られる複合半透膜は、溶媒と溶質とを分離するための逆浸透膜として用いられる。例えば、原水中に含まれる無機物や有機物などの有害物質やその前駆物質を除去する膜分離法において用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔性支持膜上に多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とを重縮合させてなるポリアミド分離機能層を形成させることにより複合半透膜を製造した後、50℃以上の洗浄水で洗浄処理し、次いで、pH7以下の中性もしくは酸性条件下でペルオキソ二硫酸化合物で処理することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【請求項2】
ペルオキソ二硫酸化合物で処理する前の複合半透膜が、25℃、pH6.5、濃度0.2重量%の塩化ナトリウム水溶液を0.5MPaの操作圧力で透過させたときの塩化ナトリウム除去率が90%以上である複合半透膜である請求項1記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項3】
ペルオキソ二硫酸化合物が、ペルオキソ二硫酸およびその塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の複合半透膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−34669(P2009−34669A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175570(P2008−175570)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】