複合微粒子
【課題】 金属酸化物微粒子をポリマー粒子に強固に固定化した複合微粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】 ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝が形成されているポリマー粒子を用いることによって、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に形成されている溝に入り込み、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化される。
【解決手段】 ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝が形成されているポリマー粒子を用いることによって、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に形成されている溝に入り込み、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリマー粒子は、液媒体中で凝集しやすく、機械的強度およびpH安定性なども高くないので、それらの改善するために種々の表面改質が行われてきた。ポリマー粒子を表面改質する方法としては、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を被覆する処理、たとえば、高速気流中衝撃法による表面改質などが挙げられる。
【0003】
高速気流中衝撃法による表面改質は、ハイブリダイゼーションシステムなどを用いることによって、液媒体を用いない乾式で、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を配列させたオーダードミクスチュア(ordered mixture)状態を形成させ、さらに、機械的に金属酸化物微粒子をポリマー粒子に固定化させる方法である(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平3−2009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリマー粒子は、表面に金属酸化物微粒子を固定化させることによって、安定性などを向上させることができるが、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が固定化された複合微粒子を使用すると、金属酸化物微粒子の脱離などが問題となる場合がある。たとえば、複合微粒子を研磨材として用いて、半導体基板などの被研磨物を研磨する場合、金属酸化物微粒子がポリマー粒子から脱離し、その脱離によって金属酸化物微粒子またはポリマー粒子が2次凝集体を形成してしまう。このような2次凝集体によって、スクラッチと言われる微小な傷が、被加工物に発生してしまい、製品の歩留まりを低下させてしまう。また、金属酸化物微粒子の脱離は、複合微粒子の分散性および長期安定性などにも大きな影響を与え、複合微粒子の本来の役目を果たさなくなってしまう。
【0006】
特許文献1に記載されている固体粒子の表面改質方法によると、乾式で表面改質することができるので、ポリマー粒子の凝集を発生させることなく、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が均一に固定化された安定した複合微粒子を効率よく製造することができる。しかしながら、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が強固に付着させて固定化する工夫については考慮されておらず、上記のような金属酸化物微粒子の脱離による問題が発生してしまう。
【0007】
本発明の目的は、金属酸化物微粒子をポリマー粒子に強固に固定化した複合微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、
前記ポリマー粒子は、前記金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有することを特徴とする複合微粒子である。
【0009】
また本発明は、前記ポリマー粒子は、表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、
前記ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
前記ポリマー粒子の平均粒径に対する前記金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることを特徴とする。
また本発明は、前記ポリマー粒子は、ポリイミドであることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記金属酸化物微粒子は、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、このポリマー粒子は、その表面に金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有し、ポリマー粒子の表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0013】
このような複合微粒子は、ポリマー粒子の表面に有する溝に、金属酸化物微粒子が捕捉され、この捕捉された金属酸化物微粒子はポリマー粒子表面に強く付着される。したがって、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が強固に固定化された複合微粒子が得られる。
【0014】
また本発明によれば、金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、さらに、ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下を満たすことが好ましい。
【0015】
このようなポリマー粒子および金属酸化物微粒子であると、ポリマー粒子の表面に有する溝に金属酸化物微粒子が効果的に付着され、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子がより強固に固定化された複合微粒子が得られる。
【0016】
また本発明によれば、ポリマー粒子は、ポリイミドであることが好ましく、金属酸化物微粒子は、シリカ、酸化アルミニウムおよび酸化セリウムから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子である。まず、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法について説明する。
【0018】
ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法としては、ポリマー粒子に、金属酸化物微粒子を固定化することができる方法であれば、公知の方法を用いることができ、特に制限されない。たとえば、ハイブリダーゼーションシステムを用いた高速気流中衝撃法などが挙げられる。ハイブリダーゼーションシステムを用いた高速気流中衝撃法は、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子とを混合してポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が配列されたオーダードミクスチュア状態にして、このオーダードミクスチュア状態のポリマー粒子を分散させながら、圧縮などの衝撃力を加えることによって、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法である。
【0019】
ポリマー粒子としては、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有するポリマー粒子であれば、公知のポリマー粒子を用いることができ、特に制限されない。また、ポリマー粒子の表面粗さは、平均粗さ(Ra)で0.8nm以上50nm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0nm以上10nm以下であり、さらに好ましくは、1.0nm以上5nm以下である。表面粗さRaが、0.8nm未満または50nmより大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。つまり、0.8nm未満であると、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を捕捉することができる溝を充分に有さず、50nmより大きいと、ポリマー粒子の表面に均一に金属酸化物微粒子が固定化されにくい場合が考えられる。
【0020】
また、ポリマー粒子は、軟化点およびガラス転移温度が高いほうが好ましい。ポリマー粒子の軟化点およびガラス転移温度が低いと、複合微粒子を使用する際に、軟化点およびガラス転移温度より高温になると、ポリマー粒子の表面に有する溝が維持されず、溝によってポリマー粒子と金属酸化物微粒子とが固着する効果であるアンカリング効果が充分に発揮されない。
【0021】
ポリマー粒子として、表面粗さRaが1.84nmであるポリイミド粒子を用いた場合と表面粗さRaが0.77nmであるポリメタクリル酸メチル粒子を用いた場合とについて説明する。
【0022】
図1は、ポリイミド粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、図2は、ポリメタクリル酸メチル粒子のSEM写真である。図1からわかるように、ポリイミド粒子は、その表面に溝を有し、図2からわかるように、ポリメタクリル酸メチル粒子は、その表面に溝がほとんどない。
【0023】
したがって、ポリマー粒子として、ポリイミド粒子を用いて複合微粒子を製造すると、ポリイミド粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化することができ、ポリメタクリル酸メチル粒子を用いて複合微粒子を製造すると、ポリメタクリル酸メチル粒子の表面に金属酸化物微粒子を付着させることができるが、表面に溝がほとんどなく、アンカリング効果が利用できないため、固定化の強さが脆弱であり、金属酸化物微粒子を強固に固定化することができない。
【0024】
金属酸化物微粒子としては、ポリマー粒子の表面に固定化してポリマー粒子の表面改質することができる金属酸化物微粒子であれば、公知の金属酸化物微粒子を用いることができ、特に制限されない。好ましい金属酸化物微粒子として、たとえば、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子などが挙げられる。
【0025】
また、ポリマー粒子および金属酸化物微粒子の平均粒径は、以下のような関係になっていることが好ましい。金属酸化物微粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、より好ましくは、10nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは、10nm以上50nm以下である。金属酸化物微粒子の平均粒径が、10nm未満または300nmより大きいと、金属酸化物微粒子は、ポリマー粒子に充分に固定化されない。つまり、10nm未満であると、つまり、10nm未満であると、金属酸化物微粒子自身の活性が強くなり、特に静電気の問題が発生する。つまり、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する際、ハイブリダイゼーションシステムなどの固定化する装置の金属部分に金属酸化物微粒子が静電付着を起こし、固定化が困難となる。300nmより大きいと、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしても、溶媒中での分散性である静置沈降性が向上しない場合が考えられる。
【0026】
ポリマー粒子の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは、5μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは、6μm以上8μm以下である。ポリマー粒子の平均粒径が、10nm未満または300nmより大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。1μm未満であると、容易に浮遊するので、金属酸化物微粒子を固定化させる際に加える衝撃力を充分に与えることができない。10μmより大きいと、ポリマー粒子が破壊されやすい。
【0027】
さらに、ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることが好ましく、より好ましくは、0.001以上0.01以下であり、さらに好ましくは、0.001以上0.005以下である。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001未満または0.03より大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。さらに、0.001未満であると、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしてもポリマー粒子のみの物性しか反映されなく、0.03より大きいと、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしても金属酸化物微粒子のみの物性しか反映されない。
【0028】
なお、ポリマー粒子および金属酸化物微粒子の形状は、球形であってもよいし、無定形であってもよく、形状に制限されない。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
実施例1〜3および比較例1
ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子を高速気流中衝撃法によって調製した。
【0030】
(原材料)
ポリマー粒子として、ポリイミド粒子(UIP−S、宇部興産株式会社製)を用いた。このポリイミド粒子の平均粒径は、7.4μmであり、形状は、球状である。また、このポリイミド粒子の表面粗さは、平均粗さ(Ra)で9.6nmである。
【0031】
金属酸化物微粒子として、実施例1〜3および比較例1は、それぞれ順にシリカ粒子(Aerosil 90、日本アエロジル株式会社製)、酸化アルミニウム粒子(素材研究用、関東化学株式会社製)、酸化セリウム粒子(素材研究用、関東化学株式会社製)、シリカ粒子(SP−0.3B、扶桑化学工業株式会社製)を用いた。これらの金属酸化物微粒子の平均粒径および形状は、それぞれ表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(固定化処理)
ハイブリダイゼーションシステム(奈良ハイブリダイゼーションシステム NHS−1、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する固定化処理を行った。
【0034】
ハイブリダイゼーションシステムは、計量器、ハイブリダイザ、捕集器およびコントローラなどから構成されている。
【0035】
まず、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子との混合重量比がポリマー粒子の形状が真球状で、表面が平滑であると仮定した場合に、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が一層覆うような混合重量比である90:0.9(100:1)となるように、ポリマー粒子90gおよび表1に示す金属酸化物微粒子0.9gを混合して、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が付着したオーダードミクスチュア状態の混合物を形成させた。
【0036】
このオーダードミクスチュア状態の混合物を計量器でハイブリダイザに適量投入し、ハイブリダイザ内の温度をポリマー粒子の軟化点以上にして、回転数8000rpmで5分間処理することによって、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子を調製した。調製した複合微粒子は、捕集器に集められ、捕集器から回収される。
【0037】
(実施例1)
実施例1は、ポリマー粒子として、平均粒径が7.4μmのポリイミド粒子を用い、金属酸化物微粒子として、表1に示したシリカ粒子(平均粒径30nm)を用いて、上記の固定化処理によって調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0040である。
【0038】
(実施例2)
実施例2は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示した酸化アルミニウム粒子(平均粒径33nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0044である。
【0039】
(実施例3)
実施例3は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示した酸化セリウム粒子(平均粒径11nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0014である。
【0040】
(比較例1)
実施例3は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示したシリカ粒子(平均粒径300nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.040である。
【0041】
実施例1〜3および比較例1について、以下のようにして、付着性(SEM観察およびEDS測定)評価、TEM(透過型電子顕微鏡)観察評価、分散性評価、溶解試験評価、強度評価およびAFM(原子間力顕微鏡)観察評価を行った。
【0042】
(付着性評価)
実施例1および比較例1の複合微粒子1gを、水50ccに添加して、超音波ホモジナイザを用いて、出力600Vで3分間、超音波を照射した。超音波を照射する前の複合微粒子と照射した後の複合微粒子との表面状態を、それぞれSEM観察した。SEM観察は、電界放射型走査透過電子顕微鏡(STEM)(HD−2000、日立製作所製)を用い、加速電圧200kVで行った。さらに複合微粒子表面の元素分析およびシリカ粒子の濃度を測定した。元素分析および濃度測定は、EDS(UTW型エネルギー分散型X線装置、NORAN製)を用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして測定した。
【0043】
図3は、実施例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真であり、図4は、実施例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。実施例1における複合微粒子は、図3からわかるように、シリカ粒子が付着されており、図4からわかるように、超音波が照射されても、付着されたシリカ粒子が脱離されなかった。したがって、実施例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されている。
【0044】
図5は、比較例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真であり、図6は、比較例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。比較例1における複合微粒子は、図5からわかるように、シリカ粒子が付着されていたが、図6からわかるように、超音波が照射されると、付着されたシリカ粒子は、ほとんど脱離された。したがって、比較例1における複合微粒子は、ポリイミド粒子にシリカ粒子が付着しているが、強固には固定化されていない。
【0045】
さらに、実施例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されているが、比較例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されていないことをEDSの結果を用いて説明する。
【0046】
図7は、実施例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図8は、実施例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。グラフの横軸は、エネルギー[keV]を示し、縦軸は、カウント数[−]を示す。
【0047】
図7からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が付着されていることを示している。図8からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、超音波が照射されても、ポリイミド粒子の表面に付着されたシリカ粒子がポリイミド粒子から脱離しなかったことを示している。
【0048】
図9は、比較例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図10は、比較例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【0049】
図9からわかるように炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が付着されていることを示している。図10からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認されたが、ケイ素Siを示すピーク3は、超音波照射前より明らかに小さくなっていることが確認された。これは、超音波が照射されると、ポリイミド粒子の表面からシリカ粒子が脱離されていることを示している。
【0050】
【表2】
【0051】
表2は、EDSによって、ポリイミド粒子表面のシリカの濃度を測定した結果である。シリカの濃度は、超音波照射前の濃度を100としたときの相対値で示す。表2に示すように、実施例1における複合微粒子は、超音波照射後のシリカの濃度が100のままであり、ポリイミド粒子表面のシリカの濃度は、超音波を照射しても、全く変化しなかったのに対して、比較例1における複合微粒子は、超音波照射後のシリカの濃度が約16まで減少した。ポリイミド粒子表面のシリカの濃度は、ポリイミド粒子の単位面積に対するシリカの占める面積の百分率(%)で示され、比較例1における複合微粒子は、超音波の照射によって、濃度が8.59ポイント(%)減少した。
【0052】
したがって、実施例1における複合微粒子は、超音波を照射しても、シリカ粒子が全く脱離しなかったのに対して、比較例1における複合微粒子は、超音波を照射すると、多くのシリカ粒子が脱離した。
【0053】
以上のことから、表面に複数の溝を有するポリマー粒子に、その溝に捕捉されるような粒子径である金属酸化物微粒子を固定化させると、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が強固に固定化されることがわかる。したがって、ポリマー粒子に有する溝に金属酸化物微粒子が入り込むことによって、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化されたと考えられる。
【0054】
(TEM(透過型電子顕微鏡)観察評価)
実施例3における複合微粒子を、エポキシ樹脂で包埋させてミクロトーム(ULTRACUT UCT、LEICA製)で切片化して、切片化した試料をTEM観察した。TEM観察は、TEM(JEM−200CX、日本電子製)を用い、加速電圧100kVで、複合微粒子の断面を観察した。
【0055】
図11は、実施例3における複合微粒子の断面のTEM写真である。図11は、黒色で示される部分が酸化セリウム粒子であり、黒色で示される部分より左上の部分は、ポリイミド粒子である。図11からわかるように、実施例3における複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に付着されている酸化セリウム粒子の層の厚みが、酸化セリウム粒子の平均粒径より大きい。これは、ポリイミド粒子の表面に酸化セリウム粒子が多層で付着されていることを示す。
【0056】
さらに、実施例3における複合微粒子の各スポット4〜7について、それぞれEDSによる元素分析を行った。各スポットの範囲は、直径が1μmの円状の範囲であり、スポット4〜6は、酸化セリウム粒子が存在する部分であり、スポット7は、ポリイミド粒子の内部である。
【0057】
図12は、実施例3における複合微粒子のスポット4のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図13は、実施例3における複合微粒子のスポット5のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図14は、実施例3における複合微粒子のスポット6のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。図12〜14に示すように、スポット4〜6には、セリウムCeを示すピーク8が複数確認されたのに対して、スポット7をEDSによって元素分析すると、セリウムを検出されなかった。これは、ポリイミド粒子の表面部分(スポット4〜6)では、酸化セリウム粒子が付着されていることを支持している。
【0058】
上記の複合微粒子の断面のTEM写真から、複合微粒子は、ポリマー粒子の表面に、金属酸化物微粒子の平均粒径以上の厚みで金属酸化物微粒子が付着しており、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層で固定化されていることがわかる。複合微粒子は、ポリマー粒子の軟化点以上にして柔らかくなった膨潤状態のポリマー粒子に対して金属酸化物微粒子を打ちつけることによって製造されるので、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に埋設され、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層に付着したと考えられる。その後、金属酸化物微粒子が多層に付着されたポリマー粒子が軟化点以下にすると、ポリマー粒子が硬くなり、溝が金属酸化物微粒子を強固に捕捉することによって、埋設された金属酸化物微粒子はポリマー粒子に強固に固定化するので、複合微粒子は、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層に固定化されたと考えられる。
【0059】
(分散性評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子50gを0.01MのKCl溶液200mlに分散させ、さらに超音波洗浄器で超音波を照射しながら、ディスポピペットを用いて強く吸引および噴射させて1分間分散させる。その後、マグネティックスターラを用いて10分間攪拌した後、ゼータ電位測定装置(Model502、日本ルフト社製)を用いてゼータ電位を測定した。さらに、0.01N、0.1Nおよび1NのHClおよび0.01N、0.1N、1NのKOHで所定のpHに調整して10分後にゼータ電位を測定した。
【0060】
図15は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は、pHを示し、縦軸はゼータ電位[mV]を示す。折れ線9は、実施例1における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線10は、実施例2における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線11は、実施例3における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線12は、ポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。
【0061】
図15からわかるように、折れ線9〜11は、折れ線12よりゼータ電位が明らかにマイナス側にシフトしている。これは、実施例1〜3における複合微粒子とポリイミド粒子とでは、表面の状態が異なり、さらに、電気二重層の厚みが増し、分散性が向上していることを示唆している。つまり、本発明の複合微粒子粒子は、分散性が優れていると言える。
【0062】
(溶解性評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子0.01gを溶媒100mlに分散させて48時間放置した後、遠心分離器で固液分離を行い、上澄み液の有機体炭素濃度である全有機炭素(TOC)を、全有機炭素計(TOC−5000、島津製作所製)を用いて測定した。溶媒としては、所定のpHのHCl溶液またはKOH溶液を用いた。ポリマー粒子であるポリイミド粒子が溶媒に溶解されると、上澄み液のTOCが高くなるので、上澄み液のTOCを測定することによって、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶解された量を見積もることができる。TOCが低いと、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶媒に溶けにくく、溶媒に対して安定であり、TOCが高いと、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶媒に溶けやすく、溶媒に対して不安定であることがわかる。
【0063】
図16は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は、pHを示し、縦軸はTOC(mg/l)を示す。折れ線13は、実施例1における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線14は、実施例2における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線15は、実施例3における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線16は、ポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。図16からわかるように、折れ線13〜15は、折れ線16よりTOC、特にpH12付近のTOCが低い。これは、実施例1〜3における複合微粒子は、ポリイミド粒子より溶媒に溶けにくいことを示し、特にpHが高い溶媒の場合、実施例1〜3における複合微粒子がポリイミド粒子より溶媒に溶けにくいという傾向が顕著であることを示している。つまり、実施例1〜3における複合微粒子粒子は、ポリイミド粒子より、溶媒、特にpHが高い溶媒に対して安定であると言える。
【0064】
(強度評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子の強度を小圧縮試験器(微小圧縮試験機MCTM−500、島津製作所製)を用いて測定した。図17は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は、かけた荷重(Nm)を示し、横軸は圧縮変位量(μm)を示す。折れ線17は、実施例1における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線18は、実施例2における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線19は、実施例3における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線20は、ポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。
【0065】
図17からわかるように、かけた荷重に対しての圧縮変位量は、折れ線18、17、19、20の順で大きくなる。これは、実施例1〜3における複合微粒子がポリイミド粒子より硬いことを示している。さらに、酸化アルミニウム粒子を固定化させた複合微粒子が最も硬く、次にシリカ粒子を固定化させた複合微粒子が硬く、酸化セリウム粒子を固定化させた複合微粒子が複合微粒子の中では軟らかいことを示している。金属酸化物微粒子は、酸化アルミニウム粒子、シリカ粒子、酸化セリウム粒子の順で硬いので、固定化させる金属酸化物微粒子によって、複合微粒子の硬さを調整することができる。
【0066】
(AFM観察評価)
実施例1、比較例1における複合微粒子およびポリイミド粒子の表面状態を、それぞれAFM観察した。AFM観察は、D3100型走査型プローブ顕微鏡(SPM)(デジタル・インスツルメンツ(ビーコ社)製)を用いて行った。その際、コントロールステーションは、Nanoscope IIIa型(デジタル・インスツルメンツ(ビーコ社)製)を用いた。測定条件は、タッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)とし、スキャンサイズは、2.0μm×2.0μmとした。画像処理としては、3次Flatten(平面化)処理を施した。
【0067】
図18は、ポリイミド粒子のAFM写真であり、図19は、実施例1における複合微粒子のAFM写真であり、図20は、比較例1における複合微粒子のAFM写真である。
【0068】
図18からわかるように、ポリイミド粒子の表面には、凹凸が見られる。また、AFM観察から、表面粗さRaが9.6nmであった。これらのことから、ポリイミド粒子には、金属酸化物微粒子を捕捉できる溝が形成されていることがわかる。
【0069】
図19からわかるように、実施例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子より、その表面に存在する凹凸が小さくなった。また、AFM観察から、実施例1の複合微粒子の表面粗さRaが8.0nmであった。したがって、実施例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に形成されている溝に、シリカ粒子が捕捉されて付着されているので、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が強固に固定化されていることがわかる。
【0070】
図20からわかるように、比較例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子より、その表面に存在する凹凸が大きくなった。また、AFM観察から、実施例1の複合微粒子の表面粗さRaが49.1nmであった。したがって、比較例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に、シリカ粒子が付着されているが、ポリイミド粒子の表面に形成されている溝に捕捉されて付着されているのではないので、ポリイミド粒子に付着しているシリカ粒子は脱離されやすいことがわかる。
【0071】
以上より、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝が形成されているポリマー粒子に、その溝に捕捉されるような金属酸化物微粒子を固定化させた複合微粒子は、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に形成されている溝に入り込むので、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化された複合微粒子となる。この金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化された複合微粒子は、分散性、溶媒安定性が優れており、付着させる金属酸化物によって、硬さを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ポリイミド粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図2】ポリメタクリル酸メチル粒子のSEM写真である。
【図3】実施例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真である。
【図4】実施例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。
【図5】比較例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真である。
【図6】比較例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。
【図7】実施例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図8】実施例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図9】比較例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図10】比較例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図11】実施例3における複合微粒子の断面のTEM写真である。
【図12】実施例3における複合微粒子のスポット4のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図13】実施例3における複合微粒子のスポット5のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図14】実施例3における複合微粒子のスポット6のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図15】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。
【図16】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。
【図17】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。
【図18】ポリイミド粒子のAFM写真である。
【図19】実施例1における複合微粒子のAFM写真である。
【図20】比較例1における複合微粒子のAFM写真である。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3,8 EDS分析におけるピーク
4,5,6,7 スポット
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリマー粒子は、液媒体中で凝集しやすく、機械的強度およびpH安定性なども高くないので、それらの改善するために種々の表面改質が行われてきた。ポリマー粒子を表面改質する方法としては、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を被覆する処理、たとえば、高速気流中衝撃法による表面改質などが挙げられる。
【0003】
高速気流中衝撃法による表面改質は、ハイブリダイゼーションシステムなどを用いることによって、液媒体を用いない乾式で、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を配列させたオーダードミクスチュア(ordered mixture)状態を形成させ、さらに、機械的に金属酸化物微粒子をポリマー粒子に固定化させる方法である(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特公平3−2009号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリマー粒子は、表面に金属酸化物微粒子を固定化させることによって、安定性などを向上させることができるが、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が固定化された複合微粒子を使用すると、金属酸化物微粒子の脱離などが問題となる場合がある。たとえば、複合微粒子を研磨材として用いて、半導体基板などの被研磨物を研磨する場合、金属酸化物微粒子がポリマー粒子から脱離し、その脱離によって金属酸化物微粒子またはポリマー粒子が2次凝集体を形成してしまう。このような2次凝集体によって、スクラッチと言われる微小な傷が、被加工物に発生してしまい、製品の歩留まりを低下させてしまう。また、金属酸化物微粒子の脱離は、複合微粒子の分散性および長期安定性などにも大きな影響を与え、複合微粒子の本来の役目を果たさなくなってしまう。
【0006】
特許文献1に記載されている固体粒子の表面改質方法によると、乾式で表面改質することができるので、ポリマー粒子の凝集を発生させることなく、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が均一に固定化された安定した複合微粒子を効率よく製造することができる。しかしながら、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が強固に付着させて固定化する工夫については考慮されておらず、上記のような金属酸化物微粒子の脱離による問題が発生してしまう。
【0007】
本発明の目的は、金属酸化物微粒子をポリマー粒子に強固に固定化した複合微粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、
前記ポリマー粒子は、前記金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有することを特徴とする複合微粒子である。
【0009】
また本発明は、前記ポリマー粒子は、表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、
前記ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
前記ポリマー粒子の平均粒径に対する前記金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることを特徴とする。
また本発明は、前記ポリマー粒子は、ポリイミドであることを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記金属酸化物微粒子は、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、このポリマー粒子は、その表面に金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有し、ポリマー粒子の表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることが好ましい。
【0013】
このような複合微粒子は、ポリマー粒子の表面に有する溝に、金属酸化物微粒子が捕捉され、この捕捉された金属酸化物微粒子はポリマー粒子表面に強く付着される。したがって、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が強固に固定化された複合微粒子が得られる。
【0014】
また本発明によれば、金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、さらに、ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下を満たすことが好ましい。
【0015】
このようなポリマー粒子および金属酸化物微粒子であると、ポリマー粒子の表面に有する溝に金属酸化物微粒子が効果的に付着され、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子がより強固に固定化された複合微粒子が得られる。
【0016】
また本発明によれば、ポリマー粒子は、ポリイミドであることが好ましく、金属酸化物微粒子は、シリカ、酸化アルミニウムおよび酸化セリウムから選ばれる1種または2種以上であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子である。まず、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法について説明する。
【0018】
ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法としては、ポリマー粒子に、金属酸化物微粒子を固定化することができる方法であれば、公知の方法を用いることができ、特に制限されない。たとえば、ハイブリダーゼーションシステムを用いた高速気流中衝撃法などが挙げられる。ハイブリダーゼーションシステムを用いた高速気流中衝撃法は、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子とを混合してポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が配列されたオーダードミクスチュア状態にして、このオーダードミクスチュア状態のポリマー粒子を分散させながら、圧縮などの衝撃力を加えることによって、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する方法である。
【0019】
ポリマー粒子としては、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有するポリマー粒子であれば、公知のポリマー粒子を用いることができ、特に制限されない。また、ポリマー粒子の表面粗さは、平均粗さ(Ra)で0.8nm以上50nm以下であることが好ましく、より好ましくは、1.0nm以上10nm以下であり、さらに好ましくは、1.0nm以上5nm以下である。表面粗さRaが、0.8nm未満または50nmより大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。つまり、0.8nm未満であると、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を捕捉することができる溝を充分に有さず、50nmより大きいと、ポリマー粒子の表面に均一に金属酸化物微粒子が固定化されにくい場合が考えられる。
【0020】
また、ポリマー粒子は、軟化点およびガラス転移温度が高いほうが好ましい。ポリマー粒子の軟化点およびガラス転移温度が低いと、複合微粒子を使用する際に、軟化点およびガラス転移温度より高温になると、ポリマー粒子の表面に有する溝が維持されず、溝によってポリマー粒子と金属酸化物微粒子とが固着する効果であるアンカリング効果が充分に発揮されない。
【0021】
ポリマー粒子として、表面粗さRaが1.84nmであるポリイミド粒子を用いた場合と表面粗さRaが0.77nmであるポリメタクリル酸メチル粒子を用いた場合とについて説明する。
【0022】
図1は、ポリイミド粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、図2は、ポリメタクリル酸メチル粒子のSEM写真である。図1からわかるように、ポリイミド粒子は、その表面に溝を有し、図2からわかるように、ポリメタクリル酸メチル粒子は、その表面に溝がほとんどない。
【0023】
したがって、ポリマー粒子として、ポリイミド粒子を用いて複合微粒子を製造すると、ポリイミド粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化することができ、ポリメタクリル酸メチル粒子を用いて複合微粒子を製造すると、ポリメタクリル酸メチル粒子の表面に金属酸化物微粒子を付着させることができるが、表面に溝がほとんどなく、アンカリング効果が利用できないため、固定化の強さが脆弱であり、金属酸化物微粒子を強固に固定化することができない。
【0024】
金属酸化物微粒子としては、ポリマー粒子の表面に固定化してポリマー粒子の表面改質することができる金属酸化物微粒子であれば、公知の金属酸化物微粒子を用いることができ、特に制限されない。好ましい金属酸化物微粒子として、たとえば、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子などが挙げられる。
【0025】
また、ポリマー粒子および金属酸化物微粒子の平均粒径は、以下のような関係になっていることが好ましい。金属酸化物微粒子の平均粒径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、より好ましくは、10nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは、10nm以上50nm以下である。金属酸化物微粒子の平均粒径が、10nm未満または300nmより大きいと、金属酸化物微粒子は、ポリマー粒子に充分に固定化されない。つまり、10nm未満であると、つまり、10nm未満であると、金属酸化物微粒子自身の活性が強くなり、特に静電気の問題が発生する。つまり、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する際、ハイブリダイゼーションシステムなどの固定化する装置の金属部分に金属酸化物微粒子が静電付着を起こし、固定化が困難となる。300nmより大きいと、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしても、溶媒中での分散性である静置沈降性が向上しない場合が考えられる。
【0026】
ポリマー粒子の平均粒径は、1μm以上10μm以下であることが好ましく、より好ましくは、5μm以上10μm以下であり、さらに好ましくは、6μm以上8μm以下である。ポリマー粒子の平均粒径が、10nm未満または300nmより大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。1μm未満であると、容易に浮遊するので、金属酸化物微粒子を固定化させる際に加える衝撃力を充分に与えることができない。10μmより大きいと、ポリマー粒子が破壊されやすい。
【0027】
さらに、ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることが好ましく、より好ましくは、0.001以上0.01以下であり、さらに好ましくは、0.001以上0.005以下である。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001未満または0.03より大きいと、ポリマー粒子が金属酸化物微粒子を充分に固定化することができない。さらに、0.001未満であると、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしてもポリマー粒子のみの物性しか反映されなく、0.03より大きいと、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が固定化されたとしても金属酸化物微粒子のみの物性しか反映されない。
【0028】
なお、ポリマー粒子および金属酸化物微粒子の形状は、球形であってもよいし、無定形であってもよく、形状に制限されない。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
実施例1〜3および比較例1
ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子を高速気流中衝撃法によって調製した。
【0030】
(原材料)
ポリマー粒子として、ポリイミド粒子(UIP−S、宇部興産株式会社製)を用いた。このポリイミド粒子の平均粒径は、7.4μmであり、形状は、球状である。また、このポリイミド粒子の表面粗さは、平均粗さ(Ra)で9.6nmである。
【0031】
金属酸化物微粒子として、実施例1〜3および比較例1は、それぞれ順にシリカ粒子(Aerosil 90、日本アエロジル株式会社製)、酸化アルミニウム粒子(素材研究用、関東化学株式会社製)、酸化セリウム粒子(素材研究用、関東化学株式会社製)、シリカ粒子(SP−0.3B、扶桑化学工業株式会社製)を用いた。これらの金属酸化物微粒子の平均粒径および形状は、それぞれ表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
(固定化処理)
ハイブリダイゼーションシステム(奈良ハイブリダイゼーションシステム NHS−1、株式会社奈良機械製作所製)を用いて、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化する固定化処理を行った。
【0034】
ハイブリダイゼーションシステムは、計量器、ハイブリダイザ、捕集器およびコントローラなどから構成されている。
【0035】
まず、ポリマー粒子と金属酸化物微粒子との混合重量比がポリマー粒子の形状が真球状で、表面が平滑であると仮定した場合に、ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子が一層覆うような混合重量比である90:0.9(100:1)となるように、ポリマー粒子90gおよび表1に示す金属酸化物微粒子0.9gを混合して、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が付着したオーダードミクスチュア状態の混合物を形成させた。
【0036】
このオーダードミクスチュア状態の混合物を計量器でハイブリダイザに適量投入し、ハイブリダイザ内の温度をポリマー粒子の軟化点以上にして、回転数8000rpmで5分間処理することによって、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子を調製した。調製した複合微粒子は、捕集器に集められ、捕集器から回収される。
【0037】
(実施例1)
実施例1は、ポリマー粒子として、平均粒径が7.4μmのポリイミド粒子を用い、金属酸化物微粒子として、表1に示したシリカ粒子(平均粒径30nm)を用いて、上記の固定化処理によって調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0040である。
【0038】
(実施例2)
実施例2は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示した酸化アルミニウム粒子(平均粒径33nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0044である。
【0039】
(実施例3)
実施例3は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示した酸化セリウム粒子(平均粒径11nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.0014である。
【0040】
(比較例1)
実施例3は、金属酸化物微粒子として、シリカ粒子(平均粒径30nm)を用いる代わりに、表1に示したシリカ粒子(平均粒径300nm)を用いる以外、実施例1と同様にして調製した。ポリマー粒子の平均粒径に対する金属酸化物微粒子の平均粒径の比は、約0.040である。
【0041】
実施例1〜3および比較例1について、以下のようにして、付着性(SEM観察およびEDS測定)評価、TEM(透過型電子顕微鏡)観察評価、分散性評価、溶解試験評価、強度評価およびAFM(原子間力顕微鏡)観察評価を行った。
【0042】
(付着性評価)
実施例1および比較例1の複合微粒子1gを、水50ccに添加して、超音波ホモジナイザを用いて、出力600Vで3分間、超音波を照射した。超音波を照射する前の複合微粒子と照射した後の複合微粒子との表面状態を、それぞれSEM観察した。SEM観察は、電界放射型走査透過電子顕微鏡(STEM)(HD−2000、日立製作所製)を用い、加速電圧200kVで行った。さらに複合微粒子表面の元素分析およびシリカ粒子の濃度を測定した。元素分析および濃度測定は、EDS(UTW型エネルギー分散型X線装置、NORAN製)を用いて、Si(Li)半導体検出器を検出器として、ビーム径を1nmとして測定した。
【0043】
図3は、実施例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真であり、図4は、実施例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。実施例1における複合微粒子は、図3からわかるように、シリカ粒子が付着されており、図4からわかるように、超音波が照射されても、付着されたシリカ粒子が脱離されなかった。したがって、実施例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されている。
【0044】
図5は、比較例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真であり、図6は、比較例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。比較例1における複合微粒子は、図5からわかるように、シリカ粒子が付着されていたが、図6からわかるように、超音波が照射されると、付着されたシリカ粒子は、ほとんど脱離された。したがって、比較例1における複合微粒子は、ポリイミド粒子にシリカ粒子が付着しているが、強固には固定化されていない。
【0045】
さらに、実施例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されているが、比較例1における複合微粒子は、シリカ粒子がポリイミド粒子に強固に固定化されていないことをEDSの結果を用いて説明する。
【0046】
図7は、実施例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図8は、実施例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。グラフの横軸は、エネルギー[keV]を示し、縦軸は、カウント数[−]を示す。
【0047】
図7からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が付着されていることを示している。図8からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、超音波が照射されても、ポリイミド粒子の表面に付着されたシリカ粒子がポリイミド粒子から脱離しなかったことを示している。
【0048】
図9は、比較例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図10は、比較例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【0049】
図9からわかるように炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認された。これは、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が付着されていることを示している。図10からわかるように、炭素Cを示すピーク1、酸素Oを示すピーク2およびケイ素Siを示すピーク3が確認されたが、ケイ素Siを示すピーク3は、超音波照射前より明らかに小さくなっていることが確認された。これは、超音波が照射されると、ポリイミド粒子の表面からシリカ粒子が脱離されていることを示している。
【0050】
【表2】
【0051】
表2は、EDSによって、ポリイミド粒子表面のシリカの濃度を測定した結果である。シリカの濃度は、超音波照射前の濃度を100としたときの相対値で示す。表2に示すように、実施例1における複合微粒子は、超音波照射後のシリカの濃度が100のままであり、ポリイミド粒子表面のシリカの濃度は、超音波を照射しても、全く変化しなかったのに対して、比較例1における複合微粒子は、超音波照射後のシリカの濃度が約16まで減少した。ポリイミド粒子表面のシリカの濃度は、ポリイミド粒子の単位面積に対するシリカの占める面積の百分率(%)で示され、比較例1における複合微粒子は、超音波の照射によって、濃度が8.59ポイント(%)減少した。
【0052】
したがって、実施例1における複合微粒子は、超音波を照射しても、シリカ粒子が全く脱離しなかったのに対して、比較例1における複合微粒子は、超音波を照射すると、多くのシリカ粒子が脱離した。
【0053】
以上のことから、表面に複数の溝を有するポリマー粒子に、その溝に捕捉されるような粒子径である金属酸化物微粒子を固定化させると、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が強固に固定化されることがわかる。したがって、ポリマー粒子に有する溝に金属酸化物微粒子が入り込むことによって、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化されたと考えられる。
【0054】
(TEM(透過型電子顕微鏡)観察評価)
実施例3における複合微粒子を、エポキシ樹脂で包埋させてミクロトーム(ULTRACUT UCT、LEICA製)で切片化して、切片化した試料をTEM観察した。TEM観察は、TEM(JEM−200CX、日本電子製)を用い、加速電圧100kVで、複合微粒子の断面を観察した。
【0055】
図11は、実施例3における複合微粒子の断面のTEM写真である。図11は、黒色で示される部分が酸化セリウム粒子であり、黒色で示される部分より左上の部分は、ポリイミド粒子である。図11からわかるように、実施例3における複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に付着されている酸化セリウム粒子の層の厚みが、酸化セリウム粒子の平均粒径より大きい。これは、ポリイミド粒子の表面に酸化セリウム粒子が多層で付着されていることを示す。
【0056】
さらに、実施例3における複合微粒子の各スポット4〜7について、それぞれEDSによる元素分析を行った。各スポットの範囲は、直径が1μmの円状の範囲であり、スポット4〜6は、酸化セリウム粒子が存在する部分であり、スポット7は、ポリイミド粒子の内部である。
【0057】
図12は、実施例3における複合微粒子のスポット4のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図13は、実施例3における複合微粒子のスポット5のEDSによる元素分析結果を示すグラフであり、図14は、実施例3における複合微粒子のスポット6のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。図12〜14に示すように、スポット4〜6には、セリウムCeを示すピーク8が複数確認されたのに対して、スポット7をEDSによって元素分析すると、セリウムを検出されなかった。これは、ポリイミド粒子の表面部分(スポット4〜6)では、酸化セリウム粒子が付着されていることを支持している。
【0058】
上記の複合微粒子の断面のTEM写真から、複合微粒子は、ポリマー粒子の表面に、金属酸化物微粒子の平均粒径以上の厚みで金属酸化物微粒子が付着しており、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層で固定化されていることがわかる。複合微粒子は、ポリマー粒子の軟化点以上にして柔らかくなった膨潤状態のポリマー粒子に対して金属酸化物微粒子を打ちつけることによって製造されるので、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に埋設され、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層に付着したと考えられる。その後、金属酸化物微粒子が多層に付着されたポリマー粒子が軟化点以下にすると、ポリマー粒子が硬くなり、溝が金属酸化物微粒子を強固に捕捉することによって、埋設された金属酸化物微粒子はポリマー粒子に強固に固定化するので、複合微粒子は、ポリマー粒子に金属酸化物微粒子が多層に固定化されたと考えられる。
【0059】
(分散性評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子50gを0.01MのKCl溶液200mlに分散させ、さらに超音波洗浄器で超音波を照射しながら、ディスポピペットを用いて強く吸引および噴射させて1分間分散させる。その後、マグネティックスターラを用いて10分間攪拌した後、ゼータ電位測定装置(Model502、日本ルフト社製)を用いてゼータ電位を測定した。さらに、0.01N、0.1Nおよび1NのHClおよび0.01N、0.1N、1NのKOHで所定のpHに調整して10分後にゼータ電位を測定した。
【0060】
図15は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は、pHを示し、縦軸はゼータ電位[mV]を示す。折れ線9は、実施例1における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線10は、実施例2における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線11は、実施例3における複合微粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフであり、折れ線12は、ポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。
【0061】
図15からわかるように、折れ線9〜11は、折れ線12よりゼータ電位が明らかにマイナス側にシフトしている。これは、実施例1〜3における複合微粒子とポリイミド粒子とでは、表面の状態が異なり、さらに、電気二重層の厚みが増し、分散性が向上していることを示唆している。つまり、本発明の複合微粒子粒子は、分散性が優れていると言える。
【0062】
(溶解性評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子0.01gを溶媒100mlに分散させて48時間放置した後、遠心分離器で固液分離を行い、上澄み液の有機体炭素濃度である全有機炭素(TOC)を、全有機炭素計(TOC−5000、島津製作所製)を用いて測定した。溶媒としては、所定のpHのHCl溶液またはKOH溶液を用いた。ポリマー粒子であるポリイミド粒子が溶媒に溶解されると、上澄み液のTOCが高くなるので、上澄み液のTOCを測定することによって、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶解された量を見積もることができる。TOCが低いと、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶媒に溶けにくく、溶媒に対して安定であり、TOCが高いと、複合微粒子およびポリイミド粒子が溶媒に溶けやすく、溶媒に対して不安定であることがわかる。
【0063】
図16は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。グラフの横軸は、pHを示し、縦軸はTOC(mg/l)を示す。折れ線13は、実施例1における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線14は、実施例2における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線15は、実施例3における複合微粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフであり、折れ線16は、ポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。図16からわかるように、折れ線13〜15は、折れ線16よりTOC、特にpH12付近のTOCが低い。これは、実施例1〜3における複合微粒子は、ポリイミド粒子より溶媒に溶けにくいことを示し、特にpHが高い溶媒の場合、実施例1〜3における複合微粒子がポリイミド粒子より溶媒に溶けにくいという傾向が顕著であることを示している。つまり、実施例1〜3における複合微粒子粒子は、ポリイミド粒子より、溶媒、特にpHが高い溶媒に対して安定であると言える。
【0064】
(強度評価)
実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子の強度を小圧縮試験器(微小圧縮試験機MCTM−500、島津製作所製)を用いて測定した。図17は、実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。グラフの縦軸は、かけた荷重(Nm)を示し、横軸は圧縮変位量(μm)を示す。折れ線17は、実施例1における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線18は、実施例2における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線19は、実施例3における複合微粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフであり、折れ線20は、ポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。
【0065】
図17からわかるように、かけた荷重に対しての圧縮変位量は、折れ線18、17、19、20の順で大きくなる。これは、実施例1〜3における複合微粒子がポリイミド粒子より硬いことを示している。さらに、酸化アルミニウム粒子を固定化させた複合微粒子が最も硬く、次にシリカ粒子を固定化させた複合微粒子が硬く、酸化セリウム粒子を固定化させた複合微粒子が複合微粒子の中では軟らかいことを示している。金属酸化物微粒子は、酸化アルミニウム粒子、シリカ粒子、酸化セリウム粒子の順で硬いので、固定化させる金属酸化物微粒子によって、複合微粒子の硬さを調整することができる。
【0066】
(AFM観察評価)
実施例1、比較例1における複合微粒子およびポリイミド粒子の表面状態を、それぞれAFM観察した。AFM観察は、D3100型走査型プローブ顕微鏡(SPM)(デジタル・インスツルメンツ(ビーコ社)製)を用いて行った。その際、コントロールステーションは、Nanoscope IIIa型(デジタル・インスツルメンツ(ビーコ社)製)を用いた。測定条件は、タッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)とし、スキャンサイズは、2.0μm×2.0μmとした。画像処理としては、3次Flatten(平面化)処理を施した。
【0067】
図18は、ポリイミド粒子のAFM写真であり、図19は、実施例1における複合微粒子のAFM写真であり、図20は、比較例1における複合微粒子のAFM写真である。
【0068】
図18からわかるように、ポリイミド粒子の表面には、凹凸が見られる。また、AFM観察から、表面粗さRaが9.6nmであった。これらのことから、ポリイミド粒子には、金属酸化物微粒子を捕捉できる溝が形成されていることがわかる。
【0069】
図19からわかるように、実施例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子より、その表面に存在する凹凸が小さくなった。また、AFM観察から、実施例1の複合微粒子の表面粗さRaが8.0nmであった。したがって、実施例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に形成されている溝に、シリカ粒子が捕捉されて付着されているので、ポリイミド粒子の表面にシリカ粒子が強固に固定化されていることがわかる。
【0070】
図20からわかるように、比較例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子より、その表面に存在する凹凸が大きくなった。また、AFM観察から、実施例1の複合微粒子の表面粗さRaが49.1nmであった。したがって、比較例1の複合微粒子は、ポリイミド粒子の表面に、シリカ粒子が付着されているが、ポリイミド粒子の表面に形成されている溝に捕捉されて付着されているのではないので、ポリイミド粒子に付着しているシリカ粒子は脱離されやすいことがわかる。
【0071】
以上より、金属酸化物微粒子を捕捉するような溝が形成されているポリマー粒子に、その溝に捕捉されるような金属酸化物微粒子を固定化させた複合微粒子は、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に形成されている溝に入り込むので、金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化された複合微粒子となる。この金属酸化物微粒子がポリマー粒子に強固に固定化された複合微粒子は、分散性、溶媒安定性が優れており、付着させる金属酸化物によって、硬さを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】ポリイミド粒子のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【図2】ポリメタクリル酸メチル粒子のSEM写真である。
【図3】実施例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真である。
【図4】実施例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。
【図5】比較例1における超音波照射前の複合微粒子のSEM写真である。
【図6】比較例1における超音波照射後の複合微粒子のSEM写真である。
【図7】実施例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図8】実施例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図9】比較例1における超音波照射前の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図10】比較例1における超音波照射後の複合微粒子のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図11】実施例3における複合微粒子の断面のTEM写真である。
【図12】実施例3における複合微粒子のスポット4のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図13】実施例3における複合微粒子のスポット5のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図14】実施例3における複合微粒子のスポット6のEDSによる元素分析結果を示すグラフである。
【図15】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のゼータ電位とpHとの関係を示すグラフである。
【図16】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子のTOCとpHとの関係を示すグラフである。
【図17】実施例1〜3における複合微粒子およびポリイミド粒子にかけた荷重と圧縮変位量との関係を示すグラフである。
【図18】ポリイミド粒子のAFM写真である。
【図19】実施例1における複合微粒子のAFM写真である。
【図20】比較例1における複合微粒子のAFM写真である。
【符号の説明】
【0073】
1,2,3,8 EDS分析におけるピーク
4,5,6,7 スポット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、
前記ポリマー粒子は、前記金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有することを特徴とする複合微粒子。
【請求項2】
前記ポリマー粒子は、表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1記載の複合微粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、
前記ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
前記ポリマー粒子の平均粒径に対する前記金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることを特徴とする請求項1または2記載の複合微粒子。
【請求項4】
前記ポリマー粒子は、ポリイミド粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子は、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の複合微粒子。
【請求項1】
ポリマー粒子の表面に金属酸化物微粒子を固定化した複合微粒子であって、
前記ポリマー粒子は、前記金属酸化物微粒子を捕捉するような溝を有することを特徴とする複合微粒子。
【請求項2】
前記ポリマー粒子は、表面粗さRaが0.8nm以上50nm以下であることを特徴とする請求項1記載の複合微粒子。
【請求項3】
前記金属酸化物微粒子は、平均粒径が10nm以上300nm以下であり、
前記ポリマー粒子は、平均粒径が1μm以上10μm以下であり、
前記ポリマー粒子の平均粒径に対する前記金属酸化物微粒子の平均粒径の比が、0.001以上0.03以下であることを特徴とする請求項1または2記載の複合微粒子。
【請求項4】
前記ポリマー粒子は、ポリイミド粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の複合微粒子。
【請求項5】
前記金属酸化物微粒子は、シリカ粒子、酸化アルミニウム粒子および酸化セリウム粒子から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の複合微粒子。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図18】
【図19】
【図20】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2006−282981(P2006−282981A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190216(P2005−190216)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000116127)ニッタ・ハース株式会社 (150)
【Fターム(参考)】
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