説明

複合撚糸

【課題】 糸強力が高く、製編織性に優れ、伸縮性に富み、軽量性、柔軟性、風合、外観などに優れる織編物を作製することのできる、ゴム弾性糸を用いない複合糸の提供。
【解決手段】 紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸及び水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆で、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍で、且つ複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が15〜70質量%の範囲内、非ゴム弾性フィラメント糸フィラメント糸の割合が10〜60質量%の範囲内及び水溶性糸の割合が5〜75質量%の範囲内にある複合撚糸、並びに該複合撚糸より作製した織編物から水溶性糸を水で溶解除去した織編物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合撚糸および該複合撚糸を用いて作製した織編物に関する。より詳細には、本発明は、紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸を撚り合わせた複合撚糸および該複合撚糸から形成した織編物に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績糸とフィラメント糸を複合させた複合糸は、従来から織編物などに広く利用されている。紡績糸とフィラメント糸の複合糸の製造に当っては、意匠効果や形態安定性の向上などのために交撚、エア加工による方法が一般に広く採用されている。
しかしながら、紡績糸とフィラメント糸よりなる従来の複合糸を用いて得られた生地は、硬く、ふっくらとしておらず、風合に劣り、しかも伸縮性の乏しいものであった。
【0003】
また、紡績糸を用いた織編物では、織編物に伸縮性を付与するために、紡績糸とポリウレタン弾性糸を組み合わせた複合糸が広く用いられている。紡績糸とポリウレタン弾性糸を用いた複合糸の代表例としては、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸の周りを紡績用綿で被覆して撚を与えたコアスパンヤーン、ポリウレタン弾性糸からなる芯糸の周りに紡績糸を単層または複層に巻き付けたシングルカバードヤーンやダブルカバードヤーン、2本以上の紡績糸とポリウレタン弾性糸を撚り合わせたプライヤーンなどが挙げられる(特許文献1などを参照)。
しかしながら、紡績糸とポリウレタン弾性糸を用いた上記従来の複合糸は、伸縮性の大きなポリウレタン弾性糸を用いているため、製編織時などにテンション(張力)の変動が大きく、取り扱い性や製編織性に劣り、糸の取り扱い時や製編織時に特殊な装置および高い技術を必要とし、しかも糸強力が十分でないことが多い。また、ポリウレタン弾性糸は熱や光などによって経時劣化を引き起こし易いため、ポリウレタン弾性糸を用いた複合糸やそれからなる織編物は伸縮性が徐々に失われ易い。さらに、ポリウレタン複合糸を用いて作製した織編物は、柔軟性、ふっくらとした風合、軽量性などが不足することが多い。
【0004】
また、フィラメント糸を用いて伸縮性の織編物を製造することも従来から行われており、そのような従来技術としては、ポリエステルやポリアミドなどの熱可塑性重合体から製造したフィラメント糸に仮撚加工などを施して捲縮性を付与し、その糸から織編物を作製した後に熱処理して捲縮を発現させて伸縮性の織編物を製造する方法、熱収縮率の異なる複数の熱可塑性重合体を用いてサイドバイサイド型の複合フィラメント糸を製造し、該複合フィラメント糸から織編物を作製した後に熱処理を施してコイル状の捲縮を発現させて伸縮性の織編物を製造する方法などが挙げられる。
しかし、これらの従来技術は、フィラメント糸を構成する重合体がポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性の重合体に限られ、例えば、レーヨン、アセテートなどのような熱可塑性を示されないフィラメント糸に対しては利用することができず、更には綿や羊毛などの繊維長の短い天然繊維にも適用できない。
【0005】
さらに、ポリウレタン弾性糸を用いずに伸縮性の羊毛織編物を製造する方法が提案されている(特許文献2を参照)。この方法では、羊毛繊維と水溶性ポリビニルアルコール繊維よりなる混用紡績糸から織編物を形成し、その織編物を水中に浸漬し撹拌下に昇温して水溶性ポリビニルアルコール繊維を収縮させた後に水溶性ポリビニルアルコール繊維を溶解除去して羊毛繊維のみの織編物とし、その織編物をセット処理して、伸縮性の羊毛織編物を製造している。しかしながら、この方法で用いている羊毛繊維と水溶性ポリビニルアルコール繊維よりなる混用紡績糸は、糸強力が十分ではなく、高速の織機や編機を使用して製編織した際に糸切れなどのトラブルが発生し易い。また、該混用紡績糸から形成した織編物から水溶性ポリビニルアルコール繊維を除去して得られる伸縮性の羊毛織編物は、伸縮性が未だ十分ではなく、しかも強度などが不足している。しかも、羊毛の代わりに例えば木綿や合成繊維などの他の繊維を用いてこの方法を実施した場合には、伸縮性の織編物が得られにくい。
【0006】
【特許文献1】特開2001−131838号公報
【特許文献2】特開平11−241269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリウレタン弾性糸を使用せずに、しかもポリエステルやポリアミドなどのような熱可塑性の重合体からなるフィラメント糸だけでなく、レーヨンやアセテートなどのような熱可塑性を示さない重合体からなるフィラメント糸をも用いることができ、更には木綿や羊毛などの繊維長の短い天然繊維をも原料繊維として有効に用いた複合糸であって、伸縮性に富み、軽量性、柔軟性、風合、外観などに優れる織編物を作製することのできる複合糸を提供することである。
さらに、本発明の目的は、糸強力に優れていて、高速の織機や編機を使用した際にも糸切れなどのトラブルの発生がなくて製編織性に優れ、天然繊維製の紡績糸、合成繊維製の紡績糸、半合成繊維製の紡績糸などの種々の紡績糸を使用でき、小ロット多品種に高い生産性で対応でき、しかも細番手から太番手まで任意の太さの複合糸を得ることができる、伸縮性の織編物の製造に有用な、ポリウレタン弾性糸不使用の複合糸を提供することである。
そして、本発明の目的は、製編織時などにテンション(張力)の変動がなくて、取り扱い性、製編織性に優れていて、特別な製編織装置や高い技術を要することなく、斑のない均一な仕上がりと、良好な風合、手触り、外観などを有する、伸縮性に富む織編物を確実に簡単に製造することのできる複合糸を提供することである。
さらに、本発明の目的は、前記した複合糸から形成した、高い伸縮性を有し、軽量性、風合、柔軟性、外観などに優れ、しかも織編物を構成している紡績糸からの繊維の素抜けや繊維の切断、糸の目寄りなどがなく、強力に優れる、通常の衣類をはじめとして種々の用途に有効に使用することのできるポリウレタン弾性糸不使用の織編物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。そして、紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸を特定の割合で用いて、紡績糸の撚り方向とは逆の撚り方向に特定の撚数で撚り合わせることによって複合撚糸を製造した。その結果、この複合撚糸は、糸強力が高く、しかもゴム弾性を有するポリウレタン弾性糸を用いていないために、取り扱い性や製編織性に優れることを見出した。
さらに、本発明者らは、この複合撚糸では、複合撚糸の製造時に紡績糸の撚り方向とは逆に撚りをかけたことによって紡績糸が解撚されて長くなり、その長くなった紡績糸がフィラメント糸および水溶性糸を覆うかたちで撚糸が行われているために、この複合撚糸を用いて織編物を作製し、その織編物から複合撚糸を構成している水溶性糸を水に溶解して除去すると、水溶性糸が除去されたところに隙間が生じ、それに応じて紡績糸とフィラメント糸の拘束も幾分解かれるようになって、ポリウレタン弾性糸を使用していないにも拘わらず、伸縮性に富む織編物が得られること、しかも水溶性糸を溶解除去した後の織編物は、ふっくらとしていて良好な感触および風合を有し、軽量性、通気性、外観などにも優れることを見出した。
また、本発明者らは、かかる複合撚糸の製造に際して、ゴム弾性を持たないフィラメント糸として、特定以上の捲縮伸長率を有するフィラメント糸を用いると、該複合撚糸から織編物を作製し、その織編物から水溶性糸を水で溶解除去したときに、伸縮性のより高い織編物が得られることを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
(1) 紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆であり、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍であり、且つ複合撚糸の質量に基づいて紡績糸の割合が15〜70質量%の範囲内、ゴム弾性を持たないフィラメント糸の割合が10〜60質量%の範囲内および水溶性糸の割合が5〜75質量%の範囲内であることを特徴とする複合撚糸である。
【0010】
そして、本発明は、
(2) ゴム弾性を持たないフィラメント糸として、下記の数式(1)で表される捲縮伸長率(E)の値が5%以上のゴム弾性を持たないフィラメント糸を用いた前記(1)の複合撚糸である。

捲縮伸長率(E)(%)={(L2−L1)/L2}×100 (1)

[式中、L1は、ゴム弾性を持たないフィラメント糸を用いて検尺機で0.044cNの張力下に11110デシテックスのカセ(カセの全長50cm)をつくり、カセに金棒を通して金棒を水平にした状態でカセの下端に10gの初荷重をかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した後、金棒を水平に通した状態で90℃の恒温水槽に浸漬して30分間加熱し、次いで恒温水槽から取り出して10gの荷重のみを取り外して、紙で糸に付着した水分を吸収し、室温(25℃)で4時間乾燥した後、再度10gの荷重をカセの下端にかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した時のカセの全長(cm)を示す。また、L2は、L1の測定後にカセから前記10gの荷重を取り外して代わりに1000gの荷重をカセの下端にかけて、空気中(25℃、65%RH)で5分間放置したときのカセの全長(cm)を示す。]
【0011】
さらに、本発明は、
(3) 前記(1)または(2)の複合撚糸を用いて作製した織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とする織編物;および、
(4) 前記(1)または(2)の複合撚糸を10質量%以上の割合で含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去してなる前記(3)の織編物;
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合撚糸は、糸強力が高く、しかもゴム弾性を有するポリウレタン弾性糸を用いていないために、取り扱い性や製編織性に優れている。
本発明の複合撚糸では、複合撚糸の製造時に紡績糸の撚り方向とは逆に撚りをかけたことによって紡績糸が解撚されて長くなり、その長くなった紡績糸がフィラメント糸および水溶性糸を覆うかたちで撚糸が行われている。そのため、本発明の複合撚糸を用いて織編物を作製し、その織編物から複合撚糸を構成している水溶性糸を水に溶解除去すると、水溶性糸が除去されたところに隙間が生じ、それに応じて紡績糸とフィラメント糸の拘束も幾分解かれるようになって、ポリウレタン弾性糸を使用していないにも拘わらず、高い伸縮性を有する織編物が得られる。しかも、それにより得られる水溶性糸を溶解除去した後の織編物は、ふっくらとしていて、良好な感触および風合を有し、軽量性、通気性、外観にも優れている。
【0013】
本発明の複合撚糸において、ゴム弾性を持たないフィラメント糸として、捲縮伸長率(E)が5%以上のものを用いた場合には、水溶性糸を水で溶解除去したときに、一層高い伸縮性を示す織編物が得られる。
本発明の複合撚糸では、紡績糸を構成する原綿の選別が不要であり、木綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維からなる紡績糸、合成繊維からなる紡績糸、半合成繊維からなる紡績糸、天然繊維と合成繊維との混紡紡績糸などの種々の紡績糸を使用でき、細番手から太番手まで所望の太さで得ることができ、更にゴム弾性を持たないフィラメント糸としても合成繊維、半合成繊維、絹などの天然繊維のいずれもが使用でき、使用する紡績糸およびフィラメント糸の種類などに応じて、種々の複合撚糸を製造することができる。
本発明の複合撚糸は、前記の優れた特性を活かして、衣類用途、医療用途、工業資材などの広範な分野に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の複合撚糸は、紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸から形成されていることが必要である。
本発明の複合撚糸を構成する紡績糸は、水(熱水、温水、冷水)に溶解しない繊維から形成された紡績糸であればいずれでもよく、例えば、木綿、麻、絹、ウールなどの天然繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、水(熱水)不溶性のポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維などの合成繊維、アセテートなどの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維などから選ばれる1種の繊維からなる単独紡績糸、前記した繊維の2種以上からなる混紡紡績糸のいずれであってもよい。複合撚糸およびそれを用いて製造する織編物の用途などに応じて、適当な紡績糸を選択して使用すればよい。
【0015】
紡績糸は、単糸、双糸または3本以上の合撚糸のいずれであってもよい。
ここで、本発明でいう「紡績糸の撚数」とは、紡績糸を製造するに当たって最後にかけられた撚りの撚数をいう。例えば、紡績糸が単糸である場合は単糸を製造するために紡績時にかけられた撚数をいい、双糸の場合は双糸を製造するために2本の糸を撚り合わせたときの撚数をいい、3本以上の合撚糸の場合は合撚糸を製造するために3本以上の糸を撚り合わせたときの撚数をいう。
紡績糸の撚数は特に制限されないが、紡績糸の撚数をT(単位:回/2.54cm)、綿番手をS(単位:番手)とすると、K=T/√Sで表される撚係数Kが2〜4の紡績糸が、紡績糸の品質安定性、複合撚糸製造時の取り扱い性や生産性、紡績糸の入手容易性などの点から好ましく用いられる。
【0016】
紡績糸が双糸または3本以上の合撚糸である場合は、それらの紡績糸を製造した際の最後の撚りの撚方向が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚方向と逆方向になっていること、また該最後の撚りの撚数(本発明でいう紡績糸の撚数;双糸または合撚糸を製造した際の撚数)が、双糸または合撚糸の製造に用いた単糸の撚数の0.3〜0.9倍であることが、複合撚糸製造時の生産性、ハンドリング性、風合、紡績糸の入手容易性などの点から好ましい。
また、紡績糸の番手としては、綿番手で5番〜140番のものが、複合撚糸を製造する際の工程性、生産性、紡績糸の入手の容易性、市場の要求などの点から好ましく用いられる。
【0017】
本発明では、複合繊維を構成するフィラメント糸が、ゴム弾性を持たないフィラメント糸(ゴム弾性を持たない長繊維からなる糸)であることが必要である。
本発明の複合撚糸を構成するゴム弾性を持たないフィラメント糸(以下「非ゴム弾性フィラメント糸」という)としては、水(熱水)に溶解せず且つゴム弾性を持たないフィラメント(長繊維)からなる糸であればいずれでもよく、例えば、ポリエステルフィラメント、ポリアミドフィラメント、ポリプロピレンフィラメント、アクリルフィラメント、水(熱水)不溶性のポリビニルアルコール系フィラメント、ポリ塩化ビニリデンフィラメントなどの合成繊維フィラメント、アセテートなどの半合成繊維フィラメント、レーヨン、キュプラなどの再生繊維フィラメント、絹などの天然繊維フィラメントから選ばれる1種または2種以上のフィラメント(長繊維)からなっていればよい。非ゴム弾性フィラメント糸は、1種類のフィラメントからなる単独フィラメント糸であってもよいし、前記したフィラメントの2種以上からなる混合フィラメント糸であってもよい。複合撚糸の用途およびそれを用いて製造する織編物の用途などに応じて適当な非ゴム弾性フィラメント糸を選択して使用すればよい。
【0018】
非ゴム弾性フィラメント糸は、捲縮を有していてもまたは非捲縮であってもいずれでもよい。そのうちでも、捲縮を既に発現している非ゴム弾性フィラメント糸または潜在捲縮性の非ゴム弾性フィラメント糸を用いることが、複合撚糸を製編織して得た織編物を熱水などで処理して織編物中の水溶性糸を溶解除去したときに、複合撚糸中の非ゴム弾性フィラメント糸が捲縮して、織編物により高い伸縮性が付与されることから好ましい。
その際に、捲縮を既に発現している非ゴム弾性フィラメント糸としては、従来から知られている、捲縮非ゴム弾性フィラメント糸のいずれもが使用でき、代表例としては、仮撚加工、加熱したギヤの間を通して型押しする方法などによって捲縮させた非ゴム弾性フィラメント糸などを挙げることができる。
また、潜在捲縮性非ゴム弾性フィラメント糸としては、従来から知られている加熱によって捲縮を発現する非ゴム弾性フィラメント糸のいずれもが使用でき、代表例としては融点の異なる2種類以上の熱可塑性重合体をサイドバイサイド型で複合させた複合繊維、紡糸条件を選ぶことによって繊維の断面に斑を生じさせた繊維などを挙げることができる。
特に、製編織する前の糸(複合撚糸)の段階では、捲縮していないか又は捲縮していてもその程度が小さく、複合撚糸から織編物を作製し、その織編物を熱水で処理して織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去した特に捲縮を発現する潜在捲縮性の非ゴム弾性フィラメント糸を用いることが好ましく、それによって複合撚糸を製造するための合撚時の取り扱い性、工程性が良好になる。
【0019】
特に、本発明の複合撚糸では、非ゴム弾性フィラメント糸として、下記の数式(1)で表される捲縮伸長率(E)が5%以上の非ゴム弾性フィラメント糸を用いた場合には、複合撚糸から織編物を作製して複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したときに、伸縮性のより大きな織編物を得ることができるので、好ましい。

捲縮伸長率(E)(%)={(L2−L1)/L2}×100 (1)

[式中、L1は、ゴム弾性を持たないフィラメント糸を用いて検尺機で0.044cNの張力下に11110デシテックスのカセ(カセの全長50cm)をつくり、カセに金棒を通して金棒を水平にした状態でカセの下端に10gの初荷重をかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した後、金棒を水平に通した状態で90℃の恒温水槽に浸漬して30分間加熱し、次いで恒温水槽から取り出して10gの荷重のみを取り外して、紙で糸に付着した水分を吸収し、室温(25℃)で4時間乾燥した後、再度10gの荷重をカセの下端にかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した時のカセの全長(cm)を示す。また、L2は、L1の測定後にカセから前記10gの荷重を取り外して代わりに1000gの荷重をカセの下端にかけて、空気中(25℃、65%RH)で5分間放置したときのカセの全長(cm)を示す。]
【0020】
本発明の複合繊維では、水溶性糸を水で溶解除去した後に伸縮性の一層大きな織編物が得られる点から、非ゴム弾性フィラメント糸として、上記の数式(1)で表される捲縮伸長率(E)が10%以上のものを用いることがより好ましく、20%以上のものを用いることが更に好ましい。捲縮伸長率(E)の上限値は特に制限されないが、捲縮伸長率(E)が高くなり過ぎると、撚糸の工程通過性が低下し、もし、それを補おうとすると送り出し装置などが必要になるため、一般的には捲縮伸長率(E)は80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0021】
非ゴム弾性フィラメント糸の全体の太さ(総繊度)は特に制限されないが、紡績糸および水溶性糸との複合のし易さ、複合撚糸の取り扱い性、複合撚糸の強度、複合撚糸を用いて作製する織編物の品質などの点から、非ゴム弾性フィラメント糸の総繊度は一般には30〜600デシテックスであることが好ましく、56〜330デシテックスであることがより好ましい。
非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの太さ(単繊維繊度)は特に制限されないが、製編織時などにおける複合撚糸の取り扱い性、複合撚糸の強度、複合撚糸を用いて得られる織編物の品質などの点から、非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの単繊維繊度は、0.3〜11デシテックスであることが好ましく、0.5〜3.3デシテックスであることがより好ましい。非ゴム弾性フィラメント糸を構成する各フィラメントの単繊維繊度が小さい場合は、一般に柔軟性や繊細な風合を有する織編物を得ることができ、一方各フィラメントの単繊維繊度が大きい場合は、一般に張り腰感、ドライ感などを有する織編物を得ることができる。
【0022】
非ゴム弾性フィラメント糸は、1本の非ゴム弾性フィラメントからなる非ゴム弾性モノフィラメント糸であってもよいし、または複数の非ゴム弾性フィラメントからなる非ゴム弾性マルチフィラメント糸であってもよい。そのうちでも、本発明の複合撚糸を用いて得られる編織物の品質、製編織時などにおける取り扱い性、複合撚糸の強力、撚糸の工程通過性、入手のしやすさなどの点から、非ゴム弾性フィラメント糸は1〜300本、特に6〜150本のフィラメントが集合した非ゴム弾性マルチフィラメント糸であることが好ましい。
【0023】
本発明の複合撚糸を構成する水溶性糸としては、大気圧下で、水の沸騰温度(約100℃)までの温度で水(熱水)に溶解する糸が、本発明の複合撚糸から製造した織編物から水溶性糸を水で溶解除去する際の除去の容易性、取扱性などの点から好ましく用いられる。特に、水溶性糸としては、水溶性糸自体を単独で温度80℃以上の熱水に浸漬して30分放置したときに、浸漬前の水溶性糸の質量に対して、85質量%以上、特に95質量%以上が前記熱水に溶解する水溶性糸(水不溶性の残渣が15質量%未満、特に5質量%未満である水溶性糸)がより好ましく用いられる。水溶性糸の水溶解性が低いと、複合撚糸を用いて製造した織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去する際に、水溶性糸の除去が不十分となり、織編物に充分な伸縮性、軽量性、通気性などを付与しにくくなる。
【0024】
水溶性糸を構成する繊維としては、前記した水溶解性を水溶性糸に与える繊維であればいずれも使用でき、例えば、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維、水可溶性ポリアミド繊維などを挙げることができる。そのうちでも、水可溶性ポリビニルアルコール系繊維、水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維が、繊維強力、水(熱水)への高い溶解性、生分解性、入手容易性などの点から好ましく用いられる。水可溶性ポリビニルアルコール系繊維は、従来から広く知られており、例えば、水溶性ビニロンなどとして販売されている。
【0025】
水溶性糸は、水溶性である限りは、紡績糸であってもまたはフィラメント糸であってもいずれでもよい。水溶性糸の混率の低い複合撚糸をつくる場合は、フィラメント糸を用いることが好ましく、それにより、複合撚糸から製造した織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去する際に、水溶性糸の除去が速やかに且つ良好に行われる。
水溶性糸の太さ(総繊維繊度)は、15〜200デシテックス、特に25〜100デシテックスであることが、紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸との撚り合わせの容易性、複合撚糸の強力、紡績毛羽の低減、複合撚糸から形成した織編物からの水溶性糸の溶解除去の容易性、水溶性糸を溶解した後の生地への伸縮性の付与、入手のしやすさなどの点から好ましい。
【0026】
本発明において、本発明の複合撚糸を得るために、アルカリや酸に溶解する糸ではなくて水に溶解する糸(水溶性糸)を使用した理由としては、織編物を形成している複合撚糸の一部をアルカリや酸で除去した場合は、複合撚糸を構成している紡績糸およびフィラメント糸の変質や分解を生ずる恐れがあるのに対して、水で処理した場合には、紡績糸およびフィラメント糸の変質や分解を生ずる恐れがないことが挙げられる。その上、水溶性糸として水可溶性ポリビニルアルコール系繊維または水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維からなる糸を用いた場合には、水溶性ポリビニルアルコールまたは水可溶性エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維は生分解性を有するため、溶解後の廃液を微生物などにより分解除去できることが理由として挙げられる。
【0027】
本発明の複合撚糸では、複合撚糸の質量に基づいて、紡績糸の割合が15〜70質量%、非ゴム弾性フィラメント糸の割合が10〜60質量%および水溶性糸の割合が5〜75質量%であることが必要である。複合撚糸を構成する3種類の糸の割合が前記範囲であることにより、糸強力に優れ、製編織時の取り扱い性に優れる複合撚糸が得られ、しかも該複合撚糸を製編織して作製した織編物から水溶性糸を溶解除去したときに、目寄れなどが生じず、編織組織の形態安定性に優れ、しかも伸縮性、ふっくら感、風合、軽量性、通気性、外観などに優れる織編物を得ることができる。
【0028】
複合撚糸において、水溶性糸の割合が多くなり過ぎて、紡績糸および非ゴム弾性フィラメント糸の割合が少なくなり過ぎると、複合撚糸から織編物を作製し、その織編物から水溶性糸を水で溶解除去したときに、生地の安定性がなくなり、目寄れが生じ易くなる。
また、複合撚糸において、水溶性糸の割合が少な過ぎると、複合撚糸から織編物を作製し、その織編物から水溶性糸を水で溶解除去して得られる生地の伸縮性、ふっくら感、風合、軽量性、通気性などが低いものになり易い。
さらに、複合撚糸における水溶性糸の割合が適当な範囲であっても、紡績糸の割合が多すぎ、その一方で非ゴム弾性フィラメント糸の割合が少なすぎると、複合撚糸の糸強力が小さくなり、しかも紡績糸の素抜けなどが生じ易くなる。
また、複合撚糸における水溶性糸の割合が適当な範囲であっても、非ゴム弾性フィラメント糸の割合が多すぎ、その一方で紡績糸の割合が少なすぎると、水溶性糸を溶解除去して得られる生地の風合が劣ったものになり易い。
【0029】
複合撚糸を構成する紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸の本数(糸本数)としては、撚糸機のクリル本数の制限、品質管理の点から、紡績糸が1〜3本、非ゴム弾性フィラメント糸が1〜3本、水溶性糸が1〜3本であることが好ましく、紡績糸が1〜2本、非ゴム弾性フィラメント糸が1〜2本、水溶性糸が1〜2本であることがより好ましく、紡績糸1本、非ゴム弾性フィラメント糸1本および水溶性糸1本を撚り合わせて複合撚糸を形成することが更に好ましい。
【0030】
本発明の複合撚糸では、複合撚糸の撚り方向(紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸の3種類を撚り合わせた際の撚り方向)(以下複合撚糸の撚りを「上撚」ということがある)が、複合撚糸を構成する紡績糸の撚り方向(以下紡績糸の撚りを「下撚」ということがある)と逆になっていることが必要である。上撚の撚り方向と下撚の撚り方向とを逆にすることは、撚糸のトルクの低減、風合の良化の面で一般的に行われることであるが、上撚の撚り方向が下撚の撚り方向と逆になっていることにより、複合撚糸を製造するために上撚を行った際に、上撚が紡績糸の撚り(下撚)を多少解撚する方向に働き、前記解撚により紡績糸の糸長が多少長くなり、糸長が長くなった紡績糸が非ゴム弾性フィラメント糸や水溶性糸を覆った状態で撚糸が行われる。
【0031】
本発明の複合撚糸では、複合撚糸の撚数(上撚の数)が紡績糸の撚数(下撚の撚数)の0.3〜2倍であることが必要であり、0.4〜1.8倍であることが好ましく、0.5〜1.75倍であることがより好ましい。
上撚の撚数が下撚の撚数の0.3倍未満であると、撚の安定性が乏しくなり、得られる複合撚糸に斑が発生して、強力などのバラツキ、毛羽抑え不足、紡績糸による非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸への覆い不足などにより製編織性が劣るものとなり易く、しかも複合撚糸を製造するための撚糸工程時に紡績糸の撚(下撚)の解撚が不十分になり、それに伴って、織編物を作製して水溶性糸を溶解して得られる生地の伸縮性、ふっくら感、風合、軽量性などが低下したものになり易い。
一方、上撚の撚数が下撚の2倍を超えると、複合撚糸を製造する際の撚糸工程で糸切れなどのトラブルを生じて、複合撚糸が得られなくなったり、複合撚糸の生産性の低下、得られる複合撚糸の強度低下、複合撚糸を用いての織編時の工程不良などを生じ、さらに撚りによる複合撚糸のトルクが強くなり過ぎて、織編時の工程不良、それに伴う織編物の生産性の低下などが生じ易くなる。
なお、本明細書でいう「複合撚糸の撚数」(上撚の撚数)とは、紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせて複合撚糸を製造する際の撚糸工程時の設定撚数をいう。
【0032】
本発明の複合撚糸の製造に当って、非ゴム弾性フィラメント糸として、既に捲縮を発現しているフィラメント糸を用いる場合には、フィラメント糸を緊張させて捲縮を伸ばした状態で紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせることが、複合撚糸から作製した織編物から水溶性糸を水で溶解除去したときに、伸縮性により優れる織編物が得られる点から好ましい。
【0033】
紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸およびフィラメント糸の3種類の糸を撚り合わせるための撚糸機の種類は特に制限されず、例えば、ダブルツイスター、リングツイスター、アップツイスターなどの従来汎用の撚糸機を使用することができる。
【0034】
上記により得られる本発明の複合撚糸は、一般にトルクを有している。トルクを有していても製編織工程に支障を及ぼさない場合は、トルクを減ずることなくそのまま織編物の製造に使用することができる。一方、トルクを有していることにより製編織工程に支障を及ぼす場合は、熱処理を施してトルクを減じることが好ましい。その際の熱処理温度は、複合撚糸を構成する紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸、水溶性糸の種類、複合撚糸のトルクの強さになどによって決める必要がある。
【0035】
上記のようにして得られる本発明の複合撚糸は、解撚されて長くなった紡績糸が複合撚糸の外側に配されると共に、非ゴム弾性フィラメント糸および水溶性糸により拘束されたままの状態で織機や編機で扱うことができるので製編織性に優れている。しかも、そのような本発明の複合撚糸で作製した織編物は、紡績糸が外側に配されているため、感触が良好でふくらみのあるものとなり、更に自由度の高い非ゴム弾性フィラメント糸が内側に配されているために、伸縮性に優れる織編物となる。
【0036】
本発明の複合撚糸を用いて作製される織編物の種類や組織の内容などは特に制限されない。
織編物の製造に当っては、織編物の種類、用途、織編物に要求される伸縮の程度などに応じて、本発明の複合撚糸の使用割合を調節することができる。高い伸縮性を有する織編物を得るためには、織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を水に溶解して除去する処理を行う前の織編物において、本発明の複合撚糸の使用割合を該織編物の質量に対して10質量%以上、特に25質量%以上にすることが好ましく、それによって該織編物を水(熱水)で処理して織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去した後に、高い伸縮性を有する織編物を得ることができる。
【0037】
本発明の複合撚糸を用いて製造した織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、織編物を染色する工程の前および織編物に樹脂を付着する工程の前に行うようにするのがよい。染色工程や樹脂付着工程中またはこれらの工程の後に複合撚糸を構成している水溶性糸の水溶解処理を行うと、染色工程や樹脂付着工程に支障を与えることは勿論のこと、水溶性糸の溶解除去が充分に行われなくなる。織編物を形成する複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する処理は、通常、最初の段階で行うことが、次に続く生産工程の円滑性、織編物の品質の点から好ましい。
織編物を形成している複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去する際の水の温度は、水溶性糸を構成する水溶性繊維の種類や水に対する溶解度、糸の形態や太さなどに応じて調節でき、水溶性糸が水溶性ポリビニルアルコール系繊維から形成されている場合は、通常、温度70〜100℃の温水または熱水を用いて処理を行うと、水溶性糸を短い時間で速やかに織編物から溶解除去することができる。
【実施例】
【0038】
以下に、実施例などにより本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、複合撚糸の製造に用いたポリエステルマルチフィラメント糸(非ゴム弾性フィラメント糸)の捲縮伸長率(E)は、上記の数式(1)により求めた。
また、複合撚糸を用いて作製した織物(平織生地)(水溶性糸を水で溶解除去した後の生地)の伸長率は次のようにして測定した。
【0039】
[平織生地の伸長率]
(1) 以下の例で製造した平織生地から、生地の経方向の寸法が15cm(長さ)で緯方向の寸法が2.5cm(幅)である試験片(a)と、生地の経方向の寸法が2.5cm(幅)で緯方向の寸法が15cm(長さ)である試験片(b)をそれぞれ切り取った。
(2) 上記(1)で切り取った試験片(a)の長さ方向の一方の端部の中央(幅方向の中央)に1gの重りを取り付けて、重りを付けた端部を下にして試験片を垂直に吊してその状態で1分間放置し、その時の試験片(a)の長さ(La1)を測定した。
次いで、前記1gの重りを試験片(a)の端部から取り去り、代わりに300gの重りを同じ箇所に取り付けて垂直に吊してその状態で3分間放置し、その時の試験片(a)の長さ(La2)(cm)を測定して、下記の数式(2a)から平織生地の経方向の伸長率(%)を求めた。

経方向の伸長率(%)={(La2−La1)/La1}×100 (2a)

(3) 上記(1)で切り取った試験片(b)の長さ方向の一方の端部の中央(幅方向の中央)に1gの重りを取り付けて、重りを付けた端部を下にして試験片を垂直に吊してその状態で1分間放置し、その時の試験片(b)の長さ(Lb1)を測定した。
次いで、前記1gの重りを試験片(b)の端部から取り去り、代わりに300gの重り取りを同じ箇所に取り付けて垂直に吊してその状態で3分間放置し、その時の試験片(b)の長さ(Lb2)(cm)を測定して、下記の数式(2b)から平織生地の緯方向の伸長率(%)を求めた。

緯方向の伸長率(%)={(Lb2−Lb1)/Lb1}×100 (2b)
【0040】
以下の実施例および比較例において、複合撚糸の製造に用いた紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸(非ゴム弾性フィラメント糸)および水溶性糸の種類および内容は次のとおりである。
【0041】
《紡績糸》
(1)紡績糸(I)
撚数=600回/m(Z撚)(単糸)(木綿100%の20番手紡績糸)(都築紡績社製「TS20単糸」)[2.54cm当りの撚数T=15.24回で、番手S=20であり、式:K=(T/√S)から求められる撚り係数K=15.24/√20=15.24/4.47=3.24]
(2)紡績糸(II):
撚数=600回/m(S撚)(双糸)[撚数=800回/m(Z撚)の木綿100%の40番手紡績糸(都築紡績社製「TS40単糸」)の2本をS600回/mとなるように撚糸して得た双糸]
(3)紡績糸(III)
撚数=700回/m(Z撚)(単糸)(木綿100%の30番手紡績糸)(都築紡績社製「TS30単糸」)
(4)紡績糸(IV):
撚数=300回/m(S撚)(双糸)[撚数=450回/m(Z撚)の木綿100%の14番手紡績糸(都築紡績社製「TS14単糸」)の2本をS300回/mとなるように撚糸して得た双糸]
(5)紡績糸(V)
撚数=1500回/m(Z撚)(単糸)(木綿100%の120番手紡績糸)(シキボウ社製「シキボウ120単糸」)
【0042】
《非ゴム弾性フィラメント糸(ポリエステルマルチフィラメント糸)》
(1)ポリエステルマルチフィラメント糸(A)
株式会社クラレ製「クラベラ」(84dtex/36フィラメント、捲縮伸長率(E)=25%)
(2)ポリエステルマルチフィラメント糸(B)
株式会社クラレ製「クラベラ」(84dtex/36フィラメント、捲縮伸長率(E)=5%)
(3)ポリエステルマルチフィラメント糸(C)
株式会社クラレ製「クラベラ」(167dtex/48フィラメント、捲縮伸長率(E)=21%)
(4)ポリエステルマルチフィラメント糸(D)
株式会社クラレ製「クラベラ」(333dtex/96フィラメント、捲縮伸長率(E)=22%)
(5)ポリエステルマルチフィラメント糸(E)
株式会社クラレ製「クラベラ」(33dtex/6フィラメント、捲縮伸長率(E)=6%)
(6)ポリエステルマルチフィラメント糸(F)
株式会社クラレ製「クラベラ」(33dtex/12フィラメント、捲縮伸長率(E)=4%)
【0043】
《水溶性糸》
水溶性糸(a)
ポリビニルアルコールマルチフィラメント糸(PVAマルチフィラメント糸)(56dtex/12フィラメント)(株式会社クラレ製「水溶性ビニロン」)(80℃の熱水に完全に溶解)
【0044】
《実施例1》
(1) 紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(A)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が300回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は68/19/13(質量比)であった。
(3) 木綿30番双糸(都築紡績社製「TS30単糸」の双糸)を経糸として使用し、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、80℃の熱水中に15分間浸漬して(浴比=1:10)、生地を形成している複合撚糸中の水溶性糸を溶解除去し、次いで生地を水から取り出して120℃で乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ23%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0045】
《実施例2》
(1) 紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(A)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は68/19/13(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ26%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0046】
《実施例3》
(1) 紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(B)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は68/19/13(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ19%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0047】
《実施例4》
(1) 紡績糸(II)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(A)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が1000回/m(Z撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は68/19/13(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ25%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0048】
《実施例5》
(1) 紡績糸(III)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(C)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は47/40/13(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ26%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0049】
《実施例6》
(1) 紡績糸(III)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(D)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が1000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は34/57/9(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯14本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ20%であり、高い伸縮性を有し、しかも水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、ポリエステル繊維の風合のやや強いものであった。
【0050】
《比較例1》
(1) 紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(A)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が150回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は68/19/13(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ13%で、伸縮性が低く、しかも紡績糸が生地の表面を占めていないために綿風合に劣り、ふっくら感の低いものであった。
【0051】
《比較例2》
紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(A)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数1800回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて複合撚糸を製造しようとしたが、糸切れが多く、撚糸が困難であった。
【0052】
《比較例3》
(1) 紡績糸(IV)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(D)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が400回/m(Z撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は69/27/4(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯11本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率50%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ13%であり、伸縮性が低く、ふっくら感の低いものであった。
【0053】
《比較例4》
(1) 紡績糸(V)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(E)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)7本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が2000回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は10/7/83(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯17本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地は、目寄れが生じ易くて形態安定性がなく、商品価値のないものであった。
【0054】
《比較例5》
(1) 紡績糸(I)1本、ポリエステルマルチフィラメント糸(F)1本および水溶性糸(PVAマルチフィラメント糸)1本を、ダブルツイスター(村田機械社製「36M」)を使用して、複合撚糸における撚数が800回/m(S撚)となるようにして撚り合わせて(上撚をかけて)、複合撚糸を製造した。
(2) 上記(1)で得られた複合撚糸から所定長(1m)の糸を切り取って、試料糸とし、その試料糸の上撚を解除して、紡績糸、ポリエステルマルチフィラメント糸および水溶性糸の3種類の糸に分離し、分離したそれぞれの糸の質量を測定し、その測定結果から複合撚糸におけるそれぞれの糸の割合を求めたところ、複合撚糸における紡績糸/ポリエステルマルチフィラメント糸/水溶性糸の比率は65/8/27(質量比)であった。
(3) 実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を経糸として用い、上記(1)で得られた複合撚糸を緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率40%)(織速度0.1m/分)。
(4) 上記(3)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地は、生地中のポリエステルマルチフィラメントが切れ易く、しかも紡績糸の素抜けて切れてしまい、商品価値のないものであった。
【0055】
上記した実施例1〜6および比較例1〜5を表にまとめると、以下の表1および表2のとおりである。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
上記の表1および表2の結果にみるように、実施例1〜6では、紡績糸、非ゴム弾性フィラメント糸(ポリエステルマルチフィラメント糸)および水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆で、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍の範囲にあり、且つ複合撚糸における紡績糸/非ゴム弾性フィラメント糸/水溶性糸の比率が15〜70/10〜60/5〜75(質量比)の範囲になっていることにより、伸縮性が大きく、ふっくらとしていて、軽量性に優れる高品質の織編物が得られている。
特に、非ゴム弾性フィラメント糸として捲縮伸長率(E)が5%以上のものを用いた実施例1、2および4〜6では、水溶性糸を溶解除去した後に伸縮率の一層大きな生地が得られている。
【0059】
それに対して、比較例1では、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3倍未満であるために、また比較例3では複合撚糸における水溶性糸の比率が5質量%未満であるために、該複合撚糸を用いて作製した布帛から水溶性糸を除去して得られた生地の伸縮性が小さく、ふっくら感に欠けている。
また、比較例2では、複合撚糸の撚数を紡績糸の撚数の2倍を超える撚数になるようにして複合撚糸の製造を行ったために、糸切れが多発して複合撚糸を製造することができない。
比較例4および比較例5では、複合撚糸における非ゴム弾性フィラメント糸(ポリエステルフィラメント糸)の比率が10質量%未満であるために、複合撚糸から作製した織編物から水溶性糸を溶解除去して得られた生地は、目寄れが生じて形態安定性に劣り、またはポリエステルフィラメントの切断や紡績糸の素抜けが生じ、商品価値のある生地が得られない。
【0060】
《実施例7》
(1) 実施例1の(1)で得られた複合撚糸を経糸および緯糸として使用し、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率100%)。その際に、経糸および緯糸にサイジング処理を施すことなく前記製織工程を実施したが、糸切れなどのトラブルを全く生ずることなく、平織生地を高速で織ることができ、製織量産性において何ら問題がなかった(織速度0.1m/分)。
(2) 上記(1)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の経方向および緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ、経方向の伸長率は23%および緯方向の伸長率は25%であり、極めて高い伸縮性を有していた。しかも、水溶性糸の水による溶解除去によって、ふっくらとしており、紡績糸が生地の表面を占めているため、綿風合の良いものであった。
【0061】
《参考例1》
(1) 経糸として実施例1の(3)で用いたのと同じ木綿30番双糸を用い、緯糸として実施例1の(1)で得られた複合撚糸と木綿30番双糸を1:4(緯糸本数比)で使用して、経23本/cm、緯18本/cmの平織生地を製織した(平織生地における複合撚糸の混率8%)(織速度0.1m/分)。
(2) 上記(1)で得られた平織生地を、実施例1の(4)と同様に処理して、平織生地中の水溶性糸を溶解除去し、次いで乾燥した。これにより得られた生地の緯方向の伸長率を上記した方法で測定したところ10%であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の複合撚糸は、製編織性に優れ、織物や編物を作製する際に糸切れなどのトラブルが生じず、しかも本発明の複合撚糸から織編物を作製し、その織編物中の水溶性糸を水に溶解して除去することにより、ポリウレタン弾性糸を用いていないにも拘わらず、高い伸縮性を有し、ふっくらとしていて良好な感触および風合を有し、軽量性、通気性などの特性に優れ、更には織編物を形成する紡績糸からの繊維の素抜けが生じず、強力に優れる織編物を得ることができる。そのため、本発明の複合撚糸は、前記した高伸縮性織編物の製造に有効に用いることができる。
本発明の複合撚糸を含む織編物を水で処理して複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去して得られる本発明の織編物は、その高い伸縮性、優れた風合、感触、軽量性、通気性などの特性を活かして、通常の衣料用、スポーツ衣料、肌着、ファンデーション、弾性包帯などの医療用途、車輛内装材、ベルトコンベア用生地、その他の工業資材などの広範な分野に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡績糸、ゴム弾性を持たないフィラメント糸および水溶性糸を撚り合わせた複合撚糸であって、複合撚糸の撚り方向が紡績糸の撚り方向と逆であり、複合撚糸の撚数が紡績糸の撚数の0.3〜2倍であり、且つ複合撚糸の質量に基づいて紡績糸の割合が15〜70質量%の範囲内、ゴム弾性を持たないフィラメント糸の割合が10〜60質量%の範囲内および水溶性糸の割合が5〜75質量%の範囲内であることを特徴とする複合撚糸。
【請求項2】
ゴム弾性を持たないフィラメント糸として、下記の数式(1)で表される捲縮伸長率(E)の値が5%以上のゴム弾性を持たないフィラメント糸を用いた請求項1に記載の複合撚糸。

捲縮伸長率(E)(%)={(L2−L1)/L2}×100 (1)

[式中、L1は、ゴム弾性を持たないフィラメント糸を用いて検尺機で0.044cNの張力下に11110デシテックスのカセ(カセの全長50cm)をつくり、カセに金棒を通して金棒を水平にした状態でカセの下端に10gの初荷重をかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した後、金棒を水平に通した状態で90℃の恒温水槽に浸漬して30分間加熱し、次いで恒温水槽から取り出して10gの荷重のみを取り外して、紙で糸に付着した水分を吸収し、室温(25℃)で4時間乾燥した後、再度10gの荷重をカセの下端にかけて空気中(25℃、65%RH)で5分間放置した時のカセの全長(cm)を示す。また、L2は、L1の測定後にカセから前記10gの荷重を取り外して代わりに1000gの荷重をカセの下端にかけて、空気中(25℃、65%RH)で5分間放置したときのカセの全長(cm)を示す。]
【請求項3】
請求項1または2に記載の複合撚糸を用いて作製した織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去したことを特徴とする織編物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の複合撚糸を10質量%以上の割合で含む織編物から、複合撚糸中の水溶性糸を水で溶解除去してなる請求項3に記載の織編物。

【公開番号】特開2007−154339(P2007−154339A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348938(P2005−348938)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(591121513)クラレトレーディング株式会社 (30)
【出願人】(504101005)浅野撚糸株式会社 (10)
【Fターム(参考)】