説明

複合材料の力学的材料定数の算出方法、複合材料中の材料の体積分率の算出方法及び記録メディア

【課題】従来の有限要素モデルを用いた計算方法に比べて効率よく短時間に計算できる複合材料の材料定数の算出方法及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法を提供する。
【解決手段】複合材料の材料定数の算出方法では、母相中に、第1の材料が内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周りに、第2の材料が被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を定め、この仮想複合材料の有効材料定数を未知数とする非線形方程式を用意する。次に、方程式を解いて、仮想複合材料の有効材料定数を求める。方程式は、外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効の材料定数として定める。この方程式を用いて複合材料中の材料の体積分率を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的有効材料定数を算出する方法と、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料における前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を算出する方法と、これらの方法をコンピュータに実行させるプログラムを記録した記録メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、所定の材料が母相中に含まれた複合材料の力学特性を精度よく推定することが盛んに試みられている。これは、複合材料が所望の特性になるように、どのような力学特性を持つ材料を、どの程度の体積分率で含めればよいか、実験上で探索する替わりに、コンピュータ上で効率よく探索するためである。この探索の結果、所望の材料に関する早期の配合設計が可能となる。
【0003】
このような状況下、下記特許文献1には、複数の微小要素からなり3次元的に不均質な変形特性を有するミクロ構造が1方向にのみ周期的に配置されるマクロ構造体の構造解析方法が記載されている。当該文献では、マクロ構造体における周期性の単位であるユニットセルを特定し、ユニットセルの均質な材料特性を有するものとして均質化弾性係数を求める。この後、マクロ構造体を均質化弾性特性を有するものとしてモデル化し、周期性配置の1方向に沿った任意の位置における変形を求めるマクロスケール解析を行う。得られた周期性配置の1方向に沿った任意の位置における変形を、その位置におけるユニットセルを構成する各微小要素のそれぞれに与えてそれらの局所的応答を得るローカル解析を行う。
この構造解析方法により、断面内で不均質なマクロ構造の構造計算時間を短縮することができるとされている。
【0004】
しかし、上記構造解析方法は、微小要素を用いて構成した有限要素モデルを用いる方法である。このため、上記方法は、モデルの作成及び計算に多くの時間を要し、迅速な初期設計及び初期開発において、有効な手段となりにくい、といった問題があった。
【0005】
一方、複合材料の力学特性を求めるために、従来より、バネ及びダッシュポットを用いた古典的解析モデルも用いられる。このモデルは、計算時間が短く効率的であるが、複合材料のミクロ状態を考慮したモデルでないため、得られる結果の情報が少なく、精度も低い、といった問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−122242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、従来の有限要素モデルを用いた計算方法に比べて効率よく短時間に計算できる複合材料の材料定数の算出方法及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法を提供するとともに、上記方法をコンピュータで実行するプログラムを記録した記録メディアを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的有効材料定数をコンピュータが算出する、以下の方法で達成することができる。
すなわち、方法は、
(A)前記母相中に、前記第1の材料が既知の体積分率で内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、この仮想複合材料の有効材料定数を未知数とする非線形方程式を用意するステップと、
(B)前記用意した非線形方程式を解いて、前記仮想複合材料の有効材料定数を、前記複合材料の有効材料定数として求めるステップと、を有する。
(C)その際、前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である。
【0009】
上記方法において、前記仮想複合材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、変位及び表面張力が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、変位及び表面張力が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意されることが好ましい。
【0010】
また、前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表されことが好ましい。
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C
【0011】
さらに、上記目的は、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率をコンピュータが算出する、以下の方法で達成することができる。
(D)前記複合材料の有効材料定数を実験結果から特定するステップと、
(E)前記母相中に、前記第1の材料が内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を未知数とする非線形方程式を用意するステップと、
(F)前記用意した非線形方程式を解いて、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を求めるステップと、を有する。
(G)その際、前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である。
【0012】
上記方法において、前記仮想材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、表面張力及び変位が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、表面張力及び変位が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意されることが好ましい。
【0013】
また、前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表されることが好ましい。
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C
【0014】
さらに、上記目的は、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的の有効材料定数を、上述の算出方法を用いて算出する、コンピュータに実行させるプログラムを記録した記録メディアによって、達成することができる。
同様に、力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を、上述の算出方法により算出する、コンピュータに実行させるプログラムを記録した記録メディアによって、達成することができる。
【0015】
上述の算出方法に共通する再帰型非線型方程式は、後述する式(6)で表される方程式に基づく。具体的には、再帰型非線形方程式に用いる式(6)中の比例定数Aは、仮想複合材料のひずみ場をナビエの方程式を利用して求めることにより定まる。そのとき、仮想複合材料中の球状粒子を囲む周囲の材料定数を、仮想複合材料の有効材料定数として定める。すなわち、セルフコンシステント近似を用いる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、母相中に所定の材料が球状粒子として分散した仮想複合材料を、複合材料として定め、さらに、用いる非線形方程式は、仮想複合材料中の外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる、解析的な再帰型非線型方程式である。このため、複合材料の有効材料定数の算出及び複合材料中の材料の体積分率の算出を効率よく短時間に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の複合材料の材料定数の算出方法及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法を実施する計算装置の一例の概略の構成を示す図である。
【図2】(a)〜(c)は、複合材料の応力ひずみを説明する図である。
【図3】本発明の複合材料の材料定数の算出方法及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法に用いる仮想複合材料を説明する図である。
【図4】本発明の複合材料の材料定数の算出方法の一例のフローを示す図である。
【図5】本発明の複合材料中の材料の体積分率の算出方法の一例のフローを示す図である。
【図6】複合材料の有限要素モデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の複合材料の材料定数の算出方法、及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法を、下記図面に示す実施形態に基いて詳細に説明する。
図1は、複合材料の材料定数の算出方法、及び複合材料中の材料の体積分率の算出方法を実施する計算装置10を示す。
【0019】
計算装置10は、CPU12、ROM14、RAM16及び入出力ポート18を備えるコンピュータにより構成されている。計算装置10は、ROM14に記録されたプログラムを起動することにより、条件設定モジュール20と、非線形方程式設定モジュール22と、方程式解法モジュール24と、収束解判定モジュール26と、結果処理モジュール28と、を形成する。すなわち、上記モジュールは、ソフトウェアを起動することによって構成される各部分である。計算装置10のモジュールは、例えば、数式処理ソフトウェアを用いて形成される。
計算装置10は、入出力ポート18を介して、記憶装置30、マウスやキーボード等の入力装置32、及び、プリンタやモニタ等の出力装置34に接続されている。
【0020】
計算装置10は、
(1)力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的有効材料定数を算出する第1の処理と、
(2)力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を算出する第2の処理と、を選択的に実行する。ここで、複合材料の力学的有効材料定数とは、複合材料全体の力学的材料定数である。複合材料全体の力学材料定数とは、複合材料を均質な材料としてみた時の力学材料定数をいう。以降、力学的材料定数を材料定数という。
【0021】
条件設定モジュール20は、第1の処理及び第2の処理のどちらの処理を行うかを設定するとともに、第1の処理あるいは第2の処理に必要な情報を揃えて値を設定する部分である。
このモジュール20は、第1の処理では、母相の材料定数と、各材料の材料定数、及び各材料の体積分率の各数値を設定する。材料定数は、例えば、ラメ定数λ,μの組、あるいは、ラメ定数λ,μの一方と体積弾性率Kの組を含む。体積弾性率Kは、ラメ定数λ,μとの間で、K=λ+2/3・μにより関係付けられるので、例えば、体積弾性率Kとラメ定数μを用いて材料定数を表すことができる。
また、このモジュール20は、第2の処理では、実験により取得した複合材の有効材料定数、各材料の材料定数、及び前記材料のうちのいくつかの体積分率の数値を設定する。
これらの数値は、入力装置32を介したオペレータの指示入力により、あるいは記憶装置30に予め記憶された情報を呼び出すことにより、設定される。
【0022】
非線形方程式設定モジュール22は、条件設定モジュール20で設定された材料定数及び体積分率の値を用いて、第1の処理あるいは第2の処理に応じて、非線形方程式を用意する部分である。このモジュールは、第1の処理及び第2の処理のいずれの場合も、複数の材料を母相中に含む複合材料を想定したとき、この複合材料の有効材料定数を算出するための再帰型非線形方程式、すなわち、後述する式(6)を呼び出し、この方程式の各係数に、材料定数及び体積分率に基づいた値を与える。これにより、解くべき未知数からなる方程式が用意される。
【0023】
方程式解法モジュール24は、第1の処理の場合、算出すべき複合材料の有効材料定数に値を付与したとき、この値の付与により、用意された再帰型非線形方程式を用いたニュートン・ラフソン法の漸化式に従って、収束解に近い複合材料の材料定数の値を再帰的に算出する部分である。すなわち、方程式解法モジュール24は、最初に複合材料の有効材料定数の値として初期値(n=1)を設定し、この値を用いて、漸化式にしたがって、収束解に近い複合材料の有効材料定数の値(n=2)を再帰的に求める。この値は、後述する収束解判定モジュール26に送られ、判定の対象となる。判定の結果、解が収束しない場合、算出された材料定数の値を用いて、上記漸化式に従って、さらに収束解に近い複合材料の有効材料定数の値(n=3)を再帰的に求める。このようにして、方程式解法モジュール24は、収束解判定モジュール26において、収束解が見出されるまで、複合材料の有効材料定数の値を再帰的に求める処理を繰り返す。
【0024】
また、第2の処理の場合、方程式解法モジュール24は、下記に示す関数f(x)(xは求めようとする所定の材料の体積分率)を定め、この関数f(x)の上限値x=x1における値f(x1)と下限値x=x2における値f(x2)との間で積f(x1)・f(x2)を算出し、この結果を収束判解判定モジュール28に送る。
【0025】
関数f(x)=(実験により取得した複合材料の有効材料定数)−(再帰型非線形方程式(6)で求める体積分率xにおける複合材料の有効材料定数)
【0026】
このような積f(x1)・f(x2)の算出は、収束解が見出されるまで、上限値x=x1と下限値x=x2における値を変更しながら繰り返し求められる。
【0027】
収束解判定モジュール26は、方程式解法モジュール24の算出結果に基づいて収束解か否かを判定する部分である。
第1の処理の場合、繰返回数(n+1)で求めた複合材料の有効材料定数の値と、繰返回数nでもとめた複合材料の有効材料定数の値との差分の絶対値が予め設定された閾値を下回る場合、繰返回数(n+1)における複合材料の有効材料定数の値が収束解であるとされる。それ以外は、収束解は見出されないとして、繰返回数(n+1)で求めた値を用いて方程式解法モジュール24で計算が行われるように、指示される。上述したように、再帰型非線型方程式は、係数等に具体的な数値が付与された方程式なので、この非線形方程式の微分した関数も既知である。したがって、収束解判定モジュール26は、公知のニュートン・ラフソン法を用いて収束解を見出すことができる。
第2の処理の場合、f(x1)・f(x2)の値が、負か否かが調べられ、後述するように、2分法を用いて、上限値及び下限値の値が再設定される。
【0028】
結果処理モジュール28は、収束解判定モジュール26で得られた収束解を用いて、複合材料の有効ヤング率やせん断剛性を算出し、あるいは、求めようとする材料の体積分率を取得する部分である。
【0029】
出力装置34は、結果処理モジュール28で得られた各情報をプリント出力し、あるいは画面表示を行う部分である。
記憶装置30には、予め設定された複合材料や複合材料に含まれる材料の材料定数等が記録保持されているデータベースを備えている。
【0030】
このような処理は、複合材料の有効材料定数の算出を、以下に示す再帰型非線形方程式を用いて解析的に行うことにより実現される。以下、この再帰型非線形方程式について詳細に説明する。
【0031】
図2(a)〜(c)は、複合材料を説明する図である。
以下で説明する応力、ひずみ及び材料定数は、それぞれ2階テンソル、2階テンソル、及び4階テンソルであるが、わかり易く説明するためにスカラーとして説明する。
複合材料は、図2(a)に示すように、母相であるエポキシ樹脂(以降、エポキシという)PにフィラーF及びウレタン材料Uが含まれて構成されている。その際、フィラーFの周りを一定の厚さで被覆するようにウレタンUが覆われている。ここで、vP,vF,vUは、エポキシP、フィラーF及びウレタンUの体積分率であり、vP+vF+vU=1である。
【0032】
この複合材料では、図2(a)に示すように、フィラーF及びウレタンUに作用する応力σF,σUとエポキシPに作用する応力σPとが体積分率を重み付け係数として重み付け加算されて、複合材料全体の平均応力σTとなる。これに対応して、図2(b)に示すように、フィラーF及びウレタンUに発生するひずみεF,εUとエポキシPに発生するひずみεPとが体積分率を重み付け係数として重み付け加算されて、複合材料全体の平均ひずみεTとなる。平均応力σT及び平均ひずみεTは、下記式(1)、(2)で表される。
【0033】
【数1】


【数2】

【0034】
一方、複合材料全体における平均応力σTとひずみεTとの関係を規定する材料定数Cは、図2(c)に示すように、下記式(3)で表される。すなわち、材料定数Cを持つ均一な材質の仮想複合材料が想定される。
【数3】

【0035】
ここで、ひずみに注目し、ウレタンUに発生するひずみεUと複合材料全体に発生するひずみεTとの間の関係、及びフィラーFに発生するひずみεFと複合材料全体に発生するひずみεTとの間の関係を、下記式(4),(5)で表す。
【0036】
【数4】


【数5】

【0037】
式(4)は、ウレタンU内の平均ひずみであるεUがεTの関数として表され、εUが比例定数AUによりεTと関係付けられることを表している。式(5)は、フィラーF内の平均ひずみであるεFがεTの関数として表され、εFが比例定数AFによりεTと関係付けられることを表している。
このような比例定数AF,AUは、エポキシP中に、フィラーFが既知の体積分率で内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲にウレタンUを被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を複合材料として定め、さらに、外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき仮想複合材料の有効材料定数Cとして定めることにより求めることができる。すなわち、比例定数AU,AFを、ウレタンUの材料定数と、フィラーFの材料定数と、均一な材質の仮想複合材料の有効材料定数Cとを用いて表すことができる。ウレタンUの材料定数をCUとすると、AU=AU(CU,CF,C)と表され、AF=AF(CU,CF,C)と表される。AU=AU(CU,CF,C)及びAF=AF(CU,CF,C)の求め方は後述する。AU=AU(CU,CF,C)及びAF=AF(CU,CF,C)は、CU,CF,Cの複雑な式で表された非線形な式となっている。ここで、CU,CF,Cは、例えば、ウレタンU及びフィラーFの体積弾性率KUとラメ定数μU、 体積弾性率KFとラメ定数μF、及び仮想複合材料の体積弾性率K及びラメ定数μを表す。このような比例定数を用いて、式(1)〜(4)を整理すると、下記式(6)が導かれる。ここにCPは、エポキシPの材料定数である。
【0038】
【数6】

【0039】
式(6)は、左辺の材料定数Cを求める式であり、右辺にあるAU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)は、CU,CF,Cに関して非線形な式となっている。このため、式(6)は、材料定数Cに関して、再帰型非線形方程式となっている。
【0040】
このような比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)は、図3に示すように、以下の構成の外側殻状層が配置されたモデルを仮想し、この外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき仮想複合材料の有効材料定数Cとして定めることにより得られる。外側殻状層は、材料定数Cを持つ均一な材質の仮想複合材料中にあるフィラーFの内側球状粒子の周りに、一定の厚さで被覆層としてウレタンUが覆うように構成されている。
すなわち、AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)は、体積力が作用せず、無限遠で印加されるひずみεij(i,jは、1〜3の自然数)が存在する条件下、公知のナビエの方程式を解くことにより得られる。なお、無限遠で印加されるひずみεijは下記式(7)のように、第1項の静水圧成分と第2項のせん断成分とに分解できる。このため、AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)についても静水圧成分と第2項のせん断成分に分けて算出することができる。
【0041】
【数7】

【0042】
以下、AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)の第1項の静水圧成分と第2項のせん断成分の算出について説明する。
【0043】
(静水圧成分に基づくAU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)の算出)
まず、一般に原点で対称な単一球状粒子が母相にある場合を考える。このとき、式(7)中の第1項の静水圧成分に関するナビエの方程式を満足する変位ui(iは1〜3の自然数)は、下記式(8)のように表される。これは、式中の左辺と右辺のテンソルの階数を一致させる必要性から一意的に定まる。
ここで、球状粒子における原点の変位uiが有限の値を持ち、ひずみ成分が無限遠で式(7)中の第1項のひずみになる条件と、球体粒子の表面における変位uiの連続性及び表面張力の連続性の条件とを与えることにより、球体粒子内部の変位uiと球体粒子外部の被覆層での変位uiを求めることができる。具体的には、球体粒子内部(フィラーF)の変位uiは下記式(9)で、球体粒子外部(ウレタンU)の被覆層での変位uiは下記式(10)で表される。ここで、uiFは、球状粒子内部であるフィラーF内の変位であり、uiUは、球状粒子外部であるウレタンU内の変位である。a,bは、フィラーF及びウレタンUの半径を表す。
【0044】
【数8】

【数9】


【数10】

【0045】
すなわち、母相に1つの球状粒子がある空間内の各方向の変位uiは、球状粒子の内部(フィラーF)において、球状粒子の中心を基準として定められる位置xi(i=1、2または3)に比例し、球状粒子の外部(ウレタンU)の被覆層において、球状粒子の中心を基準として定められる位置xi(i=1、2または3)に比例する項と、球状粒子の中心からの距離の3乗に反比例し、位置xiに比例する項とを有するように定められる。
そのとき、上記式(9)、(10)で表される球状粒子内部及び被覆層における変位から、ひずみを求めることにより、比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)の静水圧成分を求めることができる。下記式(11)は、体積弾性率Kに関する比例定数AF(CU,CF,C)の静水圧成分の式を例示している。同様に、下記式(12)は、体積弾性率Kに関する比例定数AU(CU,CF,C)の静水圧成分の式を例示している。ここで、tはウレタンとフィラーの半径の比、すなわちt=b/aを表し、KU,KF,K*は、ウレタンUの体積弾性率,フィラーFの体積弾性率及び算出すべき体積弾性率を表し、μU,μF,μ*は、ウレタンUのラメの定数,フィラーFのラメの定数及び算出すべきラメの定数を表す。
【0046】
【数11】

【数12】

【0047】
(せん断成分に基づくA(CB,C)の算出)
式(7)中の第2項のせん断成分に関するナビエの方程式を満足する変位ui(iは1〜3の自然数)は、母相に1つの球状粒子がある空間上の変位を用いて定めることができる。具体的には、母相に1つの球状粒子がある空間上の変位は、この球状粒子の内部及び外部を問わず、球状粒子の中心からの距離の0乗、距離の2乗、距離の−3乗及び距離の5乗のそれぞれに比例する項の加算式で定められる。具体的には、変位uiを、下記式(13)のように、式中の無限遠ひずみ成分に比例するように定める。この式は、テンソルの階数をナビエの方程式上で対応させる必要性から一意的に定められたものである。ここで、x,xkは、3次元座標におけるxiと異なる座標成分を表す。また、f(r)、g(r)は球状粒子の中心からの距離rのみによる関数を表す。
【0048】
【数13】

【0049】
このとき、ナビエの方程式を満足するf(r)、g(r)をf(r)∝r、g(r)∝r(lは整数)としてrの次数lを次元解析により求めることにより、rの次数lは0,2,−3,5となる。したがって、ナビエの方程式を満足する変位uiは、球状粒子の内部及び外部を問わず、球状粒子の中心からの距離の0乗、距離の2乗、距離の−3乗及び距離の5乗のそれぞれに比例する項の加算式により表される。例えば、次数l=2のときの式は、下記式(14)に示すように表される。勿論、式(14)中のλ、μは、球状粒子の内部では、球状粒子の内部の材料定数が、球状粒子の外部では、球状粒子の外部の材料定数が用いられる。
【0050】
【数14】

【0051】
すなわち、変位uiは、球状粒子の内部及び外部において、球状粒子の中心からの距離の0乗、距離の2乗、距離の−3乗及び距離の5乗のそれぞれに比例する項の加算式として表すことができる。静水圧成分の導出と同様に、母相中に1つの球状粒子がある空間内の変位uiについて、フィラーFで形成される内側球状粒子と、この内側球状粒子の周囲にウレタンUを被覆層として所定の厚さtで被覆して構成された外側殻状層とにそれぞれ適用して、内側球状粒子と、内側球状粒子と同心球殻を成す外側殻状層とで作られる各位置での応力場、ひずみ場及び変位uiを求めることができる。具体的には、図3に示すフィラーFで形成される内側球状粒子の境界上での変位及び表面張力の連続性の条件と、外側殻状層(ウレタンUの被覆層)の境界上での変位及び表面張力の連続性の条件と、を用いて、変位uiを一意的に求めることができる。さらに、この変位uiからひずみを求めることにより、比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)のせん断成分を求めることができる。求めた比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)のせん断成分の式は、極めて複雑であるため省略するが、少なくともCU,CF,Cに関して非線形となっている。
【0052】
以上より、比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)が定められ、この比例定数AU(CU,CF,C),AF(CU,CF,C)が、材料定数Cを求める式(6)に代入されて、再帰型非線形方程式が導かれる。この再帰型非線形方程式は、母相中に、フィラーFが既知の体積分率で内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲にウレタンUが被覆層として所定の厚さ(b−a)で被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を定め、さらに、仮想複合材料中の外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより、実現したものである。
この仮想複合材料を利用した本発明の算出方法による複合材料の有効材料定数の計算結果は、後述するように、従来の長時間の計算を要する有限要素モデルを用いた場合に近く、精度が高いものとなっている。
【0053】
このような再帰型非線形方程式を用いて複合材料の有効材料定数Cを算出する方法について説明する。
【0054】
図4は、上記材料定数Cを算出するフローを説明する図である。
まず、条件設定モジュール20にて、複合材料の有効材料定数Cを算出する第1の処理が設定される。この設定は、入力装置32を介してオペレータから指示入力されて行われる。ここで、材料定数Cは、算出すべき未知数である体積弾性率Kefとラメ定数μefを代表して表している。以降、KP,KU,KFは、それぞれエポキシP、ウレタンU、フィラーFの体積弾性率であり、μP,μU,μFは、それぞれエポキシP、ウレタンU、フィラーFのラメ定数であり、vU,vFは、それぞれウレタンU、フィラーFの体積分率である、とする。
【0055】
まず、エポキシP,ウレタンU及びフィラーFの材料定数CP,CU,CFと、ウレタンU及びフィラーFの体積分率vu,vF,の値が、記憶装置30中のデータベースから呼び出されて取得される(ステップS10)。材料定数と体積分率の値は、非線形方程式設定モジュール22に送られて、上述の式(6)の各係数の値が定められ、材料定数Cのみの再帰型非線形方程式に修正される。すなわち、方程式が用意される。
【0056】
次に、方程式解法モジュール24にて、材料定数Cの未知数であるKefefの初期値が設定される(ステップS20)。初期値を設定する理由は、式(6)が非線形であるため、解が収束するまで繰り返すためである。初期値はどのような値であってもよいが、例えば、母相であるエポキシPの材料定数CPとウレタンUの材料定数CUとフィラーFの材料定数CFの、体積分率による加重平均値を選択するとよい。この初期値を、Kef,=K1,μef=μ1と定める。さらに、この初期値をそれぞれ、Kn,μn(n=1)と表す。
次に、方程式解法モジュール24にて、上述の式(6)を修正した下記式(15)を定義する。具体的には、式(6)の左辺を右辺に移動し、その時の右辺をF(C)として定義する。
【0057】
【数15】

【0058】
さらに、下記式(16)にしたがって、F(C)を用いてC(n+1)が定義される。ここで、式(16)は、F(C)=0となる収束解を求めるためにニュートン・ラフソン法を適用した式である。ここで、C(n),C(n+1)は体積弾性率Kn,Kn+1及びラメの定数μn,μn+1を代表して表す符号である。式(16)のC(n)に、体積弾性率Kn,ラメの定数μnが与えられ、式(16)に従って体積弾性率Kn+1及びラメの定数μn+1が算出され取得される(ステップS30)。ここで、式(16)中のF´(C(n))はヤコビのテンソルであり、F´(C(n)-1はF´(C(n))の逆テンソルを表す。すなわち、F´(C(n)-1・F´(C(n))=I(Iは単位テンソル)である。
【0059】
【数16】

【0060】
算出されたKn+1,μn+1と、この算出に用いられたKn,μnが収束解判定モジュール26に送られて、それぞれの差分Kn+1−Kn,μn+1−μnの絶対値が求められる。この絶対値が予め設定された閾値ε1,ε2と比較される(ステップS40)。比較の結果、差分Kn+1−Kn,μn+1−μnの絶対値がいずれも閾値ε1,ε2より小さい条件を満たす場合(Yesの場合)、求めるべき仮想複合材料の有効材料定数CであるKefefは、それぞれKn+1,μn+1に決定される(ステップS50)。
一方、比較の結果、上記条件を満たさない場合(Noの場合)、n+1をnとし(ステップS60)、さらに、式(16)を用いてKn+1,μn+1を算出するためにステップS30に戻る。こうして、ステップS40における条件を満足するまで、ステップS30,S40,S60が繰り返される。
【0061】
ステップS50において求められた仮想複合材料の有効材料定数Cは、エポキシPに、フィラーFとウレタンUを含む複合材料の有効材料定数Cとして定められる。
【0062】
次に、このように定められた複合材料の有効材料定数C、具体的には体積弾性率K*及びラメの定数μを用いてヤング率E*が算出される。ヤング率E*は、下記式(17)に従って算出され、プリンタやディスプレイ等の出力装置34に出力される。
【0063】
【数17】

【0064】
算出されたヤング率E*は、後述するように、有限要素モデルを用いて数値計算をおこなって得られるヤング率Eとよく対応した値となっている。このため、本発明の複合材料の材料定数の算出方法は有効であることがわかる。また、本発明の複合材料の材料定数の算出方法は、式(6)に示される式を用いて解析的に算出できるので、有限要素モデルを用いた計算に比べて短時間に算出結果を得ることができ、効率的である。
【0065】
本発明の複合材料の材料定数の算出方法で用いる式(6)は、解析式であるので、例えば、所定の材料の体積分率を解くべき未知数とすることもできる。このとき、複合材料の有効材料定数は、予め実験等により求めておく必要がある。このような材料の体積分率の算出は、上述した第2の処理に対応する。この第2の処理の具体的な方法を以下説明する。
【0066】
図5は、第2の処理のフローを示す図である。エポキシPに、フィラーFとウレタンUを含む複合材料において、フィラーFの体積分率vFを算出する場合を想定する。
【0067】
まず、条件設定モジュール20において、エポキシP、ウレタンU、フィラーFの材料定数、具体的には、KP,μP,KU,μU,KF,μF及びウレタンUの体積分率vUが取得される(ステップS100)。これらの材料定数等は、記憶装置30中のデータベースから呼び出されて取得される。あるいは、入力装置32から入力される。
次に、複合材料の力学的実験による計測結果より、複合材料全体の材料定数である有効材料定数、具体的にはK,μが特定され取得される(ステップS110)。計測結果は、予め記憶装置30に記憶されており、条件設定モジュール20に計測結果が呼び出されて、複合材料の有効材料定数が特定される。さらに、非線形方程式設定モジュール22では、取得された材料定数や体積分率の各値が式(6)の各係数に代入されて、未知数が体積分率vFの方程式が用意される。この場合、関数f(x)における体積分率xは、フィラーFの体積分率であり、f(x)で用いる式(6)は、エポキシPにフィラーFが分散し、このフィラーFの周りに一定の厚さでウレタンUが被覆された構成の仮想複合材料の有効材料定数を求める式である。
【0068】
この後、フィラーFの体積分率vFの上限値x1及び下限値x2が設定される(ステップS120)。上限値及び下限値は、後述する体積分率vFの算出を、2分法を用いて行うために設定される。この設定は、入力装置32を通して、オペレータの指示入力に基づいて設定されてもよいし、予め設定されたデフォルト値を用いてもよい。
【0069】
次に、方程式解法モジュール24において、上限値x1及び下限値x2が用いられて、f(x1)・f(x2)の値が負か否かが判定される(ステップS130)。f(x1)・f(x2)の値が正の場合、上限値x1及び下限値x2が変更される(ステップS140)。変更の方法は、特に制限されないが、x1及びx2は体積分率であるので、上限値x1はより大きく、下限値x2はより小さくなるように設定されるとよい。
【0070】
ステップS130における判定で肯定される場合(Yesの場合)、公知の2分法に基づいて、以下の処理が行われる。
すなわち、まず、x3=(x1+x2)/2が求められ(ステップS150)、さらに、f(x1)・f(x3)の値が負か否かが判定される(ステップS160)。判定の結果、f(x1)・f(x3)が負である場合(Yesの場合)、下限値x2がx3に変更され(ステップS170)、f(x1)・f(x3)が負でない場合(Noの場合)、上限値x1がx3に変更される(ステップS180)。
この後、上限値x1と下限値x2との差分の絶対値が予め設定された閾値ε5より小さいか否かが判定される(ステップS190)。絶対値が閾値ε5より小さい場合(Yesの場合)、上限値x1または下限値x2が算出すべき体積分率vFとして定める(ステップS200)。ステップS190において、絶対値が閾値ε5より小さくない場合(Noの場合)、ステップS150に戻る。こうして、ステップS190の判定で、絶対値が閾値ε5より小さくなるまで、ステップS150、S160、S170、S180を繰り返す。
【0071】
以上の方法により、フィラーFの体積分率vFは算出される。算出したフィラーFの体積分率vFは、出力装置34に出力される。
なお、算出すべき体積分率は、フィラーFを対象とする他、ウレタンUを対象とすることもできる。また、算出すべき体積分率は、複数の種類の材料を対象としてもよい。
複合材料の材料定数の算出方法及び体積分率の算出方法では、母相に2つの異なる材料を含む複合材料を用いて説明したが、母相に含まれる材料は3つ以上であってもよい。母相は、エポキシに限られず、金属やセラミック等の無機材料であってもよい。また、母相に含まれる材料は、母相を強化する強化材料に限られず、上述したようにウレタン等の軟質材料であってもよい。
また、複合材料の母相に含まれる材料は、必ずしも粒子として分散しているものである必要は無く、母相に相溶するものを仮想複合材料として定めてもよい。
【0072】
また、複合材料の材料定数の算出方法及び体積分率の算出方法は、コンピュータ上でプログラムを実行することにより実現することもできる。このプログラムはコンピュータで読み取り可能な記録メディアに記録されたものである。この記録メディアは、通信回線を利用してダウンロードされたプログラムを記録したものも含まれる。
【0073】
次に、上述の複合材料の有効材料定数の算出方法の有効性を説明する。
上記実施形態では、エポキシP、フィラーF及びウレタンUからなる複合材料を用いて説明したが、以下の例ではゴムR、シリカS、及びバウンドラバーBからなるゴム材料を用いた。
(1)ゴム:100g
SBR(スチレン−ブタジエンゴム): 75g
BR(ブタジエンゴム): 25g
(2)シリカ:30g
(3)その他:
カップリング剤 2.4g
アロマオイル: 34.12g
亜鉛: 2.5g
ステアリン酸: 1.5g
硫黄: 1.47g
加硫促進剤: 3.7g
パラフィンワックス: 1g
その他薬品: 4g

作製した上記ゴム材料では、シリカ粒子の周囲を取り巻くようにバウンドラバー層が形成されている。したがって、ゴム材料は、ゴムを母相とし、この母相中にシリカが球状粒子として分散し、このシリカの周りを被覆層としてバウンドラバー層が覆う構成となっている。
【0074】
上記ゴム材料におけるヤング率及びポアソン比と、体積分率(%)は以下の通りである。なお、ヤング率及びポアソン比から、公知の式により、ラメ定数及び体積弾性率に変換し、変換したラメ定数及び体積弾性率を用いた。
【表1】

【0075】
本発明の複合材料の材料定数の算出方法を用いたゴム材料全体の算出結果のヤング率は1.463(GPa)であった。一方、有限要素モデルを用いた複合材料全体の解析により得られたヤング率は1.431(GPa)であった。
これより、本発明の方法により得られるヤング率は、有限要素モデルを用いて得られるヤング率と極めて近い値を示し、本発明の方法が有効であることがわかる。
なお、有限要素モデルを用いた材料定数の算出は、図6に示すような、ゴムRを母相とし、このゴムR中に球状のシリカSが体積分率8.86%含まれ、バウンドラバーBがシリカSの周りに体積分率8.86%含まれて構成される複合材料を想定した有限要素モデルを作成して、複合材料の有効材料定数を算出した。図中下端部を拘束し上端部に引っ張り変位を与えて応力−ひずみの初期傾きを調べてヤング率とした。なお、作成した有限要素モデルは、要素数25600個、節点数25761個の2次元平面応力要素モデルである。解析は、非線形有限要素法ソフトウェアABAQUS(商品名)を用いた。
【0076】
以上、本発明の複合材料の材料定数の算出方法、複合材料中の材料の体積分率の算出方法及び記録メディアについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0077】
10 計算装置
12 CPU
14 ROM
16 RAM
18 入出力ポート
20 条件設定モジュール
22 非線形方程式設定モジュール
24 方程式解法モジュール
26 収束解判定モジュール
28 結果処理モジュール
30 記憶装置
32 入力装置
34 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的有効材料定数をコンピュータが算出する方法であって、
前記母相中に、前記第1の材料が既知の体積分率で内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、この仮想複合材料の有効材料定数を未知数とする非線形方程式を用意するステップと、
前記用意した非線形方程式を解いて、前記仮想複合材料の有効材料定数を、前記複合材料の有効材料定数として求めるステップと、を有し、
前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である、算出方法。
【請求項2】
前記仮想複合材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、表面張力及び変位が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、表面張力及び変位が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項1に記載の算出方法。
【請求項3】
前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表され、
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である、請求項1または2に記載の算出方法。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C
【請求項4】
応力及びひずみをせん断成分と静水圧成分に分解し、前記静水圧成分に対応する前記仮想複合材料中の変位をui(i=1、2または3)としたとき、
前記変位uiは、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の内部において、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の中心を基準とする位置xi(i=1、2または3)に比例し、
前記変位uiは、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の外部において、前記中心を基準とする位置xi(i=1、2または3)に比例する項と、前記中心からの距離の3乗に反比例し、前記位置xi(i=1、2または3)に比例する項を有するように定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項5】
応力及びひずみを、せん断成分と静水圧成分に分解し、前記せん断成分に対応する前記仮想複合材料中の変位をui(i=1、2または3)としたとき、
前記変位uiを、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の内部及び外部において、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の中心からの距離の0乗、距離の2乗、距離の−3乗及び距離の5乗のそれぞれに比例する項の加算式で定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項6】
前記非線形方程式は、ニュートン・ラフソン法を用いて、解が収束するように解かれる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の算出方法。
【請求項7】
力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率をコンピュータが算出する方法であって、
前記複合材料の有効材料定数を実験結果から特定するステップと、
前記母相中に、前記第1の材料が内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を未知数とする非線形方程式を用意するステップと、
前記用意した非線形方程式を解いて、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を求めるステップと、を有し、
前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である、算出方法。
【請求項8】
前記仮想材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、表面張力及び変位が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、表面張力及び変位が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項7に記載の算出方法。
【請求項9】
前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表され、
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である、請求項7または8に記載の算出方法。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C
【請求項10】
応力及びひずみを、せん断成分と静水圧成分に分解し、前記静水圧成分に対応する前記仮想材料中の変位をui(i=1、2または3)としたとき、
前記変位uiは、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の内部において、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の中心を基準とする位置xi(i=1、2または3)に比例し、
前記変位uiは、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の外部において、前記中心を基準とする位置xi(i=1、2または3)に比例する項と、前記中心からの距離の3乗に反比例し、前記位置xi(i=1、2または3)に比例する項を有するように定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項7または8に記載の算出方法。
【請求項11】
応力及びひずみを、せん断成分と静水圧成分に分解し、前記せん断成分に対応する前記仮想複合材料の変位をui(i=1、2または3)としたとき、
前記変位uiを、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の内部及び外部において、前記内側球状粒子及び前記外側殻状層の中心からの距離の0乗、距離の2乗、距離の−3乗及び距離の5乗のそれぞれに比例する項の加算式で定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項7または8に記載の算出方法。
【請求項12】
前記非線形方程式は、2分法を用いて解かれる請求項7〜12のいずれか1項に記載の体積分率の算出方法。
【請求項13】
力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、複合材料の力学的有効材料定数を算出する、コンピュータの実行可能なプログラムを記録した記録メディアであって、
前記プログラムは、
前記母相中に、前記第1の材料が既知の体積分率で内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、この仮想複合材料の有効材料定数を未知数とする非線形方程式を用意する手順と、
前記用意した非線形方程式を解いて、前記仮想複合材料の有効材料定数を、前記複合材料の有効材料定数として求める手順と、をコンピュータに実行させ、
前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である、記録メディア。
【請求項14】
前記仮想複合材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、変位及び表面張力が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、変位及び表面張力が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項13に記載の記録メディア。
【請求項15】
前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表され、
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である、請求項13または14に記載の記録メディア。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C
【請求項16】
力学的材料定数が既知の母相中に、力学的材料定数が既知の第1の材料及び第2の材料を含む複合材料に関して、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を算出する、コンピュータの実行可能なプログラムを記録した記録メディアであって、
前記プログラムは、
前記複合材料の有効材料定数を実験結果から特定する手順と、
前記母相中に、前記第1の材料が内側球状粒子として分散し、この内側球状粒子の周囲に前記第2の材料を被覆層として所定の厚さで被覆して構成された外側殻状層を有する仮想複合材料を、前記複合材料として定めることにより、前記第1の材料または前記第2の材料の体積分率を未知数とする非線形方程式を用意する手順と、
前記用意した非線形方程式を解いて、前記第1の材料の体積分率を求める手順と、コンピュータに実行させ、
前記非線形方程式は、前記仮想複合材料中の前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、求めるべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られる再帰型非線型方程式である、記録メディア。
【請求項17】
前記仮想複合材料中の変位は、前記内側球状粒子と前記被覆層との境界で、変位及び表面張力が連続し、前記外側殻状層と前記母相との境界で、変位及び表面張力が連続するように、定めることにより、前記非線形方程式が用意される、請求項16に記載の記録メディア。
【請求項18】
前記母相の材料定数をCAと表し、前記第1の材料の材料定数をCBと表し、前記第2の材料の材料定数をCCと表し、前記第1の材料の体積分率をvBと表し、前記第2の材料の体積分率をvCと表し、前記仮想複合材料の有効材料定数をC*と表したとき、
前記非線形方程式は下記式で表され、
下記式中のAB(CB,CC,C)及びAC(CB,CC,C)はそれぞれ、前記仮想複合材料中の前記内側球状粒子を囲む周囲の材料定数を、前記第2の材料の材料定数CCとし、前記外側殻状層を囲む周囲の材料定数を、算出すべき前記仮想複合材料の有効材料定数として定めることにより得られ、前記材料定数Cに関して非線形な式で定まる比例定数である、請求項16または17に記載の記録メディア。
* = CA+vB・(CB−CA)・AB(CB,CC,C
+vC・(CC−CA)・AC(CB,CC,C

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−250796(P2010−250796A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220375(P2009−220375)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】