説明

複合核酸の増幅

分析されるべき複合テンプレート核酸を量的及び質的に分析するための方法が記載される。本発明の方法は、等温鎖置換反応によりコントロール核酸と複合テンプレート核酸とを共増幅することを含む。本発明の方法は、使用された複合テンプレート核酸の量及び/又は質の測定のための尺度として増幅したコントロール核酸の量を測定することをさらに含む。また、本発明は、本発明の方法を実施するためのキットに関する。さらに、全ゲノム、全トランスクリプトーム及び全ビスルフィトーム分析の標準化のための、本発明の方法又は本発明のキットの使用が記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学および化学の分野、特に分子生物学の分野に関する。具体的には、本発明は、全ゲノム、トランスクリプトームおよびビスルフィトーム(bisulfitome)等の複合核酸の増幅に関する。
【背景技術】
【0002】
複合テンプレート核酸の増幅は、多くの分子生物学的アプリケーションにおいて重要な役割を果たす。従って、いくつかのアプリケーションでは、全ゲノムを増幅すること(全ゲノム増幅;Whole Genome Amplification; WGA)、全トランスクリプトームを増幅すること(全トランスクリプトーム増幅;While Transcriptome Amplification;WTA)または全ビスルフィトーム(bisulfitome)を増幅すること(全ビスルフィトーム増幅;Whole Bisulfitomes Amplification;WBA)がそれぞれ必要である。
【0003】
このような複合核酸の増幅を達成するためには、種々のパラメーターが必須である:
【0004】
適切な反応条件は、必要な要件である。これらとしては、例えば、適切なpH値を有する適切なバッファー、並びに一価および二価の塩の適切な組成物が挙げられる。しかしながら、また、少なくとも1つの適切なポリメラーゼも挙げられ、増幅のための適切な反応温度は、増幅の成功に必須のファクターである。
【0005】
決定的なパラメーターは、使用する複合テンプレート核酸の量である。複合テンプレート核酸の量が少なすぎる場合、全ゲノムに対して充分ではない。例えば、6pgのヒトゲノムDNA量は、ハプロイドヒトゲノムにほぼ対応する。1回のWGA反応に6pg未満を使用した場合、全てのセグメントが出現していると言うわけではないので、WGAにおいてヒトゲノムを完全に増幅することは不可能である。同時に、100pg未満の量もまた、確率的影響から、特異的セグメントの出現がこのような量では不足または過剰になるため、少なすぎる可能性がある。
【0006】
複合テンプレート核酸の増幅のための、第三の決定的パラメーターは、そこに含有される試料または複合テンプレート核酸それぞれの質である。「質」という用語は、種々の要素を包含し得る。
【0007】
複合テンプレート核酸を含有する、増幅されるべき試料は、使用されるポリメラーゼを競合的またはアロステリックに阻害する阻害剤を有し得るか、或いはポリメラーゼの活性立体構造を破壊し得る。以下、この種類の物質をトランス阻害剤と言う。このようなトランス阻害剤としては、例えば、重金属イオン(例えば、Ni、Fe、Mn、Zn等)、負帯電ポリマー(例えば、ヘパリン、硫酸デキストラン等)または核酸調製に多用されるタンパク質変性物質(例えばSDS、フェノール等)が挙げられる。
【0008】
しかしながら、核酸に結合し、それにより、例えば核酸の変性を回避することによって、或いは核酸がポリメラーゼによって認識されるのを回避することによって増幅を阻害する物質も、試料は含有し得る。以下、この種類の物質をシス阻害剤という。このようなシス阻害剤は、タンパク質(例えばヒストン等)、正帯電物質(例えば正帯電ポリマー、正帯電アミノ酸等)であり得る。
【0009】
核酸は、様々な欠陥を呈し得るが、欠陥部位では、ポリメラーゼによる伸長反応はもはや可能ではない。これらの欠陥部位は、例えば、一本鎖若しくは二本鎖のニック(切れ目)、又は脱塩基部位、又は修飾された塩基(例えば、DNA中、オキソグアニンまたはウラシルへの変化)が存在する部位であり得る。
【0010】
現在のところ、複合テンプレート核酸の増幅反応の初期では、これらの定量的および定性的性質を充分に検出することはできない。増幅されるべき複合核酸の質および量が存在するのかしばしば不明である。従って、極少量の複合テンプレート核酸では、濃度の測定は、OD260測定で実施することはできない。DNAの損傷は、ゲル電気泳動が実施できるほどDNA量が豊富である場合にのみ、ゲル電気泳動で測定可能である。現在のところ、例えば脱塩基DNAセグメント等の、他の損傷を測定することは不可能である。
【0011】
複合テンプレート核酸のこれらの定性的パラメーターは、例えば定量的PCR等では満足にコントロールできないが、これは、テンプレート核酸の平均サイズが> 1 kbである場合に、定量的PCRでは部分的に分解したDNAのサイズの差を充分に検出できないためである。しかし、このようなサイズの差は、複合核酸の増幅には極めて重要であり得る。
【発明の概要】
【0012】
従って、本発明は、試料において増幅されるべき一以上の複合テンプレート核酸を量的及び質的に分析するための方法であって、以下の工程を含む、上記方法に関する:
以下を含む反応混合物を提供する工程
- 増幅されるべき複合テンプレート核酸、
- 所定量の少なくとも一つのコントロール核酸であって、該コントロール核酸は上記テンプレート核酸に対して50%未満の配列同一性を有し、かつ少なくとも一つの既知の配列セグメントを有する、上記コントロール核酸、
- 上記テンプレート核酸を増幅するためのプライマー、
- 上記コントロール核酸を増幅するためのプライマー、並びに
- 核酸の増幅に適した酵素及び試薬;
上記テンプレート核酸及び上記コントロール核酸を共増幅する工程であって、該共増幅は等温で実施され、該共増幅は鎖置換反応を含み、並びに上記テンプレート核酸及び上記コントロール核酸が本質的に該増幅によって完全に増幅される、上記工程;及び
上記共増幅が完了した後に、増幅されたコントロール核酸を定量する工程。
【0013】
従って、本発明では、1以上の外因性コントロール核酸を、1以上の複合テンプレート核酸を増幅するための反応混合物に添加する。複合テンプレート核酸及び/又はコントロール核酸の増幅に適したプライマー、試薬及び酵素を添加した後、複合テンプレート核酸とコントロール核酸との共増幅を実施する。このように、コントロール核酸は、複合テンプレート核酸と並行して増幅される。コントロール核酸の増幅の程度は、複合テンプレート核酸の存在、量及び質に依存する。よって、コントロール核酸とテンプレート核酸は、プライマー、dNTP、ポリメラーゼ等の増幅反応の供給源と競合するため、コントロール核酸は競合的対照である。共増幅の完了後、増幅されたコントロール核酸を定量する。このように決定された量から、複合テンプレート核酸の開始量または質のそれぞれについて結論に達し得る。増幅後のコントロール核酸が少量であることは、使用した複合テンプレート核酸の量および質が充分であることと相関がある。従って、増幅したコントロール核酸がより多量であることからは、使用した複合核酸の量および質が不足していることが推論される。
【0014】
さらに、増幅した核酸の混合物中のコントロール核酸の相対量を測定することにより、pH値、バッファー、塩濃度又はポリメラーゼ活性に関する反応条件を推測し得る。
【0015】
一の実施形態では、増幅した核酸の総量が、増幅したコントロール核酸の測定量に加えて、共増幅の完了後に測定される。このように測定した、増幅したコントロール核酸の相対量が大きい場合、本発明によれば、このことは、増幅に適切な反応条件と関連付けられる。増幅した核酸の総量が少なく、かつ増幅したコントロール核酸の質も低い場合、このことは、増幅反応条件が適切でないことの指標となる。
【0016】
また、本発明の方法は、反応条件および/またはポリメラーゼ活性を試験するために使用し得る。この事例は特に、テンプレート核酸を使用せず、コントロール核酸だけを使用する場合である。
【0017】
本発明で使用されるコントロール核酸は、少なくとも1つの配列特異的プローブおよび/または1以上のプライマーがハイブリダイズする、規定された配列の少なくとも1つのセグメントを有する。本発明では、コントロール核酸は、コントロール核酸の全長にわたり、複合テンプレート核酸に対して50%未満の配列同一性を有し、好ましくは65%未満、特に好ましくは80%未満の配列同一性を有する。本発明によれば、2つの配列の間での配列同一性は、カーリン(Karlin)およびアーチュル(Altschul)、(1983年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877頁の数学アルゴリズムを用いて決定される。
【0018】
さらに、本発明に関連して、線状のコントロール核酸は、少なくとも800ヌクレオチドの長さを含み、好ましくは1,000超かつ80,000未満の数のヌクレオチド、特に好ましくは5,000超かつ50,000未満の数のヌクレオチドを含む。コントロール核酸は、天然起源のものであってもよく、即ち、例えばファージ、ウイルス、細菌または真核生物等の生物から単離し得る。しかし、本発明では、コントロール核酸は、天然に発生しない配列も有し得る。当業者には、天然と非天然配列との組み合わせもまた、コントロール核酸として機能し得ることは明らかである。コントロール核酸は、DNAまたはRNAから成り得、一本鎖および二本鎖であり得る。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、コントロール核酸としてラムダファージゲノムを使用する。ラムダファージゲノムの1以上の断片を使用することが特に好ましい。断片は、例えば、ヌクレアーゼを用いた核酸の消化によって産生し得る。当業者には、このようなヌクレアーゼもまた配列特異的な制限エンドヌクレアーゼであり得ることが知られている。
【0020】
本発明の別の好ましい実施形態では、コントロール核酸は環状形態で存在する。当業者には、このような環状コントロール核酸は起源が異なっていてもよいことが知られている。従って、環状核酸は、ウイルス、ファージ、微生物(単細胞生物)由来であってもよく、また多細胞生物由来であってもよい。本発明の環状コントロール核酸は、800個未満のヌクレオチドを含み得る。しかし、本発明の好ましい実施形態では、環状コントロール核酸は、50個を超えるヌクレオチドを含み、特に好ましくは100個を超えるヌクレオチドを含む。
【0021】
本発明によれば、分析されるべき複合テンプレート核酸は、10,000個を超えるヌクレオチドを含み、好ましくは100,000個から1,000,000個のヌクレオチドを含み、特に好ましくは1,000,000個を超えるヌクレオチドを含む。
【0022】
複合テンプレート核酸は、好ましくはDNAまたはRNAである。複合テンプレート核酸は、例えば、cDNA(相補的DNA)、LNA(ロックト核酸;locked nucleic acid)、mRNA(メッセンジャーRNA)、mtRNA(ミトコンドリアRNA)、rRNA(リボゾームRNA)、tRNA(トランスファーRNA)、nRNA(核RNA)、dsRNA(二本鎖RNA)、リボザイム、リボスイッチ、ウイルスRNA、dsDNA(二本鎖DNA)、ssDNA(一本鎖DNA)、プラスミドDNA、コスミドDNA、染色体DNA、ウイルスDNA、mtDNA(ミトコンドリアDNA)、nDNA(核DNA)からなる群から選択される核酸であり得る。さらに、複合テンプレート核酸は、一群の核酸全体であってもよく、好ましくはmRNAまたはcDNAそれぞれの全体(トランスクリプトーム)、および/または1以上の生物のDNA(ゲノム)全体であってもよい。当業者には、RNA全体が生物のゲノムを表していることが知られており、このことは特にRNAウイルスに当てはまる。また、複合テンプレート核酸は、1以上の染色体からなり得る。複合テンプレート核酸は、断片化または非断片化形態で存在し得る。増幅の前に、酵素的、物理的または化学的方法によって、断片化することもできる。本発明のビスルフィトーム(bisulfitome)は複合DNAでであって、非メチル化シトシン塩基は、重亜硫酸塩処理を用いてウラシルに形質転換されているDNAである。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態では、分析されるべき複合テンプレート核酸は、WGAおよび/またはWTAおよび/またはWBAにおけるテンプレート核酸である。
【0024】
分析されるべき複合テンプレート核酸は、起源が異なっていてもよい。例えば、複合テンプレート核酸は、ウイルス、ファージ、細菌、真核生物、植物、菌類および動物からなる群から選択される、1以上の生物から単離されたものであり得る。さらに、分析されるべき複合テンプレート核酸は、試料の一部であってもよい。このような試料は、種々の起源のものでもよい。従って、本発明の方法は、環境試料に含有される複合テンプレート核酸の分析にも関する。
【0025】
また、本発明の方法は、増幅の前に、複合テンプレート核酸を含有する生物の溶解を要し得る。本発明の背景において、「溶解」という用語は、核酸および/またはタンパク質の、試料物質から環境中への放出を引き起こすプロセスを指す。このプロセスの間に、例えばサンプル物質のエンベロープが溶解され得るなど、サンプル物質の構造が破壊され得る。本発明の背景において「溶解」という用語は、複合テンプレート核酸が、試料物質の構造を破壊することなく、試料物質から、小さな開口部、例えば試料物質のエンベロープ/コートの細孔等を介して放出され得るという事実も指す。例えば、溶解試薬を用いて細孔を作ることが可能である。さらに、本発明の背景において「溶解」という用語は、構造が既に破壊されていると思われるか、或いは小さな開口部を有する試料物質の核酸および/またはタンパク質が、添加剤を用いて洗い流され得るという事実をも指す。溶解により、溶解物を得る。溶解物は、種々の生物または単一の生物由来の試料物質を含有し得る。
【0026】
本発明の背景において、増幅とは、1以上の核酸の2倍の増加であると理解される。この目的のため、核酸は、直線的または指数関数的に増加し得る。指数関数的な増幅方法によって、核酸は2倍より高い程度に増加する。他の酵素的方法も使用し得るが、これらは、「ローリングサークル増幅」(リウ(Liu)ら、「ローリングサークルDNA合成:DNAポリメラーゼの効率的なテンプレートとしての環状小オリゴヌクレオチド(Rolling circle DNA synthesis: Small circular oligonucleotides as efficient templates for DNA polymerases)」、 J. Am. Chem. Soc. 118巻:1587-1594頁(1996年)に記載)、「等温増幅」(ウォーカー(Walker)ら、「鎖置換増幅-等温インビトロDNA増幅技術(Strand displacement amplification--an isothermal, in vitro DNA amplification technique)」、Nucleic Acids Res. 20(7) 巻:1691-6頁(1992年)に記載)、「リガーゼ連鎖反応」(ランデグレン(Landegren)ら、「リガーゼ媒介遺伝子検出技術(A Ligase-Mediated Gene Detection Technique)」、Science 241巻:1077-1080頁、1988年、またはヴィードマン(Wiedmann)ら、「リガーゼ連鎖反応(LCR)- 概説および適用(Ligase Chain Reaction (LCR) - Overview and Applications)」に記載)、PCR法および適用(PCR Methods and Applications)(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor Laboratory, NY, (1994年) S. S51-S64)を含む群から選択してもよい。
【0027】
本発明では、上記増幅を様々な異なる方法および反応と組み合わせ得る。当業者には、例えば、逆転写、ライゲーション(連結反応)、核酸フィルイン反応、末端テンプレート非依存性付加、制限エンドヌクレアーゼによる消化および/またはいわゆるニッキング酵素による処理などの、関連する核酸修飾方法がよく知られている。さらに、ヘリカーゼおよび/または一本鎖結合タンパク質(例えば、SSB、T4gp32、rec A等)もまた使用し得る。
【0028】
線形増幅は、例えば、標的サークル上で唯一の特異的配列とハイブリダイズするプライマーの存在下での「ローリングサークル増幅」(RCA)によって達成される。指数関数的増幅は、例えば、プライマーを用いたRCAによって達成され、ここでプライマーは標的サークル上の少なくとも2つの結合部位とハイブリダイズするか、ターゲットサークル上の少なくとも1つの結合部位および相補鎖上の少なくとも1つの結合サイトとハイブリダイズする。当業者には、MDAまたはPCR等の、本発明に好適な、さらなる線形および指数関数的増幅方法が知られている。
【0029】
本発明の背景において使用される増幅反応は、好ましくは、複合テンプレート核酸およびコントロール核酸の共増幅のための等温鎖置換反応(ウォーカー(Walker)ら、「鎖置換増幅 - 等温インビトロDNA増幅技術(Strand displacement amplification - an isothermal, in vitro DNA amplification technique)」、Nucleic Acids Res. 20(7) 巻:1691-6頁(1992年) に記載)である。本明細書において鎖置換反応とは、鎖置換活性を有するポリメラーゼを使用するか、鎖置換を可能にする反応条件を使用する、あらゆる反応を指す。これらとしては、例えば、鎖置換増幅(SDA)、並びに、多置換増幅(MDA)またはローリングサークル増幅(RCA)およびこの反応の全てのサブタイプ、例えば制限酵素を用いたRCA(RCA-RCA)またはネストプライマーによるMDA、線形および指数関数的鎖置換反応、またはヘリカーゼ依存増幅等が挙げられる(欧州特許EP 20050112639号;欧州特許EP 20050074804号;欧州特許EP 20050069939号;欧州特許EP 20050069938号;ワン(Wang)G.ら(2004年)、試料分解耐性のDNA増幅方法(DNA amplification method tolerant to sample degradation)、Genome Res. Nov;14(11):2357-2366頁;ミラ(Mila)M.A.ら(1998年)、鎖置換増幅における制限酵素AvaIおよびexo-Bstポリメラーゼの使用(Use of the restriction enzyme AvaI and exo-Bst polymerase in strand displacement amplification);Biotechniques Mar;24(3):392-396頁;ナガミネ(Nagamine)Kら(2001年)、非変性テンプレートを用いるループ媒介等温増幅反応(Loop-mediated isothermal amplification reaction using a nondenatured template)、Clin. Chem. 47(9):1742-1743頁;ノトミ(Notomi)ら(2000年)、DNAのループ媒介等温増幅(Loop-mediated isothermal amplification of DNA)、Nucleic Acids Res. 28(12):E63;ラーゲ(Lage)J.M.ら(2003年)、超分岐鎖置換増幅およびアレイCGHを用いる小型DNA試料における遺伝子変化の全ゲノム分析(Whole genome analysis of genetic alterations in small DNA samples using hyperbranched strand displacement amplification and array-CGH)、Genome Res. 13(2):294-307頁;および、ビンセント(Vincent)M.、ス(Xu)Y.、コン(Kong)H.(2004年)、ヘリカーゼ依存性等温DNA増幅(Helicase-dependent isothermal DNA amplification)、EMBO Rep. 5(8):795-800頁)。
【0030】
本発明の等温反応は、1つの温度でのみ実施される反応であると理解される。反応の開始前(例えば氷上で)または反応完了後(例えば反応成分または酵素を不活化するため)に反応温度を変化させた場合は、反応自体が一定の温度で実施される限り、反応は等温と見なされる。温度の変動が+/-10℃を超えない場合、温度は一定であると判断される。
【0031】
本発明では、ポリメラーゼの鎖置換活性とは、使用される酵素が核酸の二本鎖を二つの一本鎖に開裂する能力があることを意味する。殆どの場合、RNAポリメラーゼは鎖置換活性を有する。既知の例は、T7 RNAポリメラーゼである。さらなる例が当業者に知られている。例えばRCAにおいて使用し得る、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、例えば、ウイルス、原核生物、真核生物または古細菌由来のホロ酵素またはレプリカーゼの一部であり、例えば、Phi-29様DNAポリメラーゼ、Bst exo-と表示されるバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来のDNAポリメラーゼ・クレノウ(Klenow)exo-である。「exo-」とは、関連する酵素が5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないことを意味する。代表的なPhi 29様DNAポリメラーゼとしては、バクテリオファージPhi 29由来のDNAポリメラーゼが知られている。他のPhi 29様DNAポリメラーゼは、例えば、ファージCp-1、PRD-1、Phi 15、Phi 21、PZE、PZA、Nf、M2Y、B103、SF5、GA-1、Cp-5、Cp-7、PR4、PR5、PR722およびL17中に生じる。当業者には、鎖置換活性を有する、さらに好適なDNAポリメラーゼが知られている。あるいは、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、関連するDNAポリメラーゼに加えて、DNA二本鎖の開裂またはDNA一本鎖の安定化を可能にする、例えばタンパク質またはリボザイム等の触媒(catalysator)を使用する場合は、鎖置換活性がないDNAポリメラーゼをも含むものと理解される。これらのタンパク質としては、例えば、ヘリカーゼ、SSBタンパク質、および、例えばレプリカーゼ等のより大きな酵素複合体の一部として含有され得る組み換えタンパク質が挙げられる。この場合、ポリメラーゼ以外の追加成分により、鎖置換活性を有するポリメラーゼが作られる。鎖置換活性を有するポリメラーゼは、非熱安定性または熱安定性であってもよい。
【0032】
好ましい実施形態では、共増幅に使用する鎖置換活性を有するポリメラーゼはPhi 29様ポリメラーゼであり、好ましくは、Phi 29、Cp-1、PRD-1、Phi 15、Phi 21、PZE、PZA、Nf、M2Y、B103、SF5、GA-1、Cp-5、Cp-7、PR4、PR5、PR722およびL17を含むファージの群から選択されるファージに由来するポリメラーゼである。ファージPhi 29に由来するポリメラーゼを使用することが特に好ましい。
【0033】
鎖置換活性を有する2以上のポリメラーゼの組み合わせを用いられ得ることは当業者に自明である。さらに、鎖置換活性を有する1以上のポリメラーゼを、鎖置換活性のない1以上のポリメラーゼと組み合わせることも可能である。
【0034】
本発明の方法の好ましい実施形態では、複合テンプレート核酸の増幅に使用するプライマーをコントロール核酸の増幅にも使用する。
【0035】
本発明の意義の範囲内のプライマーは、核酸ポリメラーゼ活性を有する酵素の開始部位として働く分子であると理解される。このプライマーは、タンパク質、核酸、または、当業者が適切なポリメラーゼ開始部位と考える別の分子であってもよい。この分子は、分子間相互作用に加えて、分子間に基づく開始部位として機能する。核酸プライマーは、必須ではないが、テンプレート核酸と全長にわたってハイブリダイズしてもよい。
【0036】
コントロール核酸および複合テンプレート核酸の共増幅には、ランダムプライマーの使用、即ち、ランダム配列を有する多数の異なるプライマーを含むプライマー混合物の使用が特に好ましい。
【0037】
テンプレート核酸またはコントロール核酸のそれぞれの増幅には、ランダムプライマーの他に、他のプライマーも使用し得る。従って、縮重(ディジェネレート)プライマーおよび/または配列特異的プライマーも、コントロール核酸および/またはテンプレート核酸の増幅に使用し得る。
【0038】
増幅に使用するプライマーは、4〜25個の塩基を含み、好ましくは5〜15個の塩基、特に好ましくは6〜10個の塩基を含む。
【0039】
本発明の方法では、増幅したコントロール核酸の定量は、少なくとも1つの既知の配列セグメントに対して実施する。定量的(リアルタイム)PCR(qRT-PCR)による定量では、少なくとも1つの既知の配列セグメントとハイブリダイズする配列特異的プライマーを用いてコントロール核酸の一部または全体を増幅する。
【0040】
好ましい実施形態では、ラムダファージDNAまたはその断片が、コントロール核酸として使用される。本発明の方法のこの実施形態では、コントロール核酸はqRT-PCRによって定量され、好ましくは配列特異的プライマーを用いるqRT-PCRによって定量される。特に好ましい実施形態では、プライマーはそれぞれ配列番号1または配列番号2の配列のプライマーである。
【0041】
定量的(リアルタイム)PCRの間に使用されるDNAポリメラーゼは、好ましくは、好熱性生物由来のポリメラーゼ、または熱安定性ポリメラーゼ、または、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus) (Tth) DNAポリメラーゼ、サーマス・アクアティカス(Thermus acquaticus) (Taq) DNAポリメラーゼ、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima) (Tma) DNAポリメラーゼ、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis) (Tli) DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus) (Pfu) DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・ウォエセイ(Pyrococcus woesei) (Pwo) DNAポリメラーゼ、パイロコッカス・コダカラエンシス(Pyrococcus kodakaraensis) KOD DNAポリメラーゼ、サーマス・フィリフォルミス(Thermus filiformis) (Tfi) DNAポリメラーゼ、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus) Dpo4 DNAポリメラーゼ、サーマス・パシフィカス(Thermus pacificus) (Tpac) DNAポリメラーゼ、サーマス・ エガートソニイ(Thermus eggertsonii) (Teg) DNAポリメラーゼ、サーマス・ブロッキアヌス(Thermus brockianus) (Tbr) およびサーマス・フラバス(Thermus flavus) (Tfl) DNAポリメラーゼからなる群から選択されるポリメラーゼである。
【0042】
RNA、例えばmRNAの場合、RNAは、DNAに逆転写されなければならない。これは逆転写酵素活性を有する酵素を用いて行われる。この種類の酵素は、例えば、ウイルス、細菌、古細菌および真核細胞由来、特に熱安定性生物由来の逆転写酵素であり得る。これらとしては、例えば、イントロン、レトロトランスポゾンまたはレトロウイルス由来の酵素も挙げられる。本発明の逆転写酵素活性を有する酵素は、適切なバッファー条件下で、相補的に、デスオキシリボヌクレオチドを、リボ核酸にハイブリダイズしたデスオキシオリゴヌクレオチドまたはリボオリゴヌクレオチドの3’-末端においてリボ核酸中に組み込む能力がある酵素である。これは、一方で、この自然の機能を有する酵素が挙げられ、他方では、例えば突然変異または適切なバッファー条件等、遺伝子配列を修飾された場合にのみ、この機能を得る酵素も挙げられる。
【0043】
逆転写酵素活性を有する酵素は、好ましくは、HIV逆転写酵素、M-MLV逆転写酵素、EAIV逆転写酵素、AMV逆転写酵素、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus) DNA ポリメラーゼI、M-MLV RNAse H、スーパースクリプト(Superscript)、スーパースクリプトII(SuperScript II)、スーパースクリプトIII(SuperScript III)、モンスタースクリプト(MonsterScript)(エピセンター(Epicentre))、オムニスクリプト(Omniscript)、センシスクリプト(SensiScript) 逆転写酵素(キアゲン(Qiagen))、サーモスクリプト(ThermoScript)及びサーモ-X(Thermo-X)(両者ともインビトロジェン(Invitrogen))を含む群から選択される酵素である。本発明では、遺伝子配列の修飾の後のみ、逆転写酵素を呈する酵素を使用することも可能である。また、エラー率に関して正確性が高い、逆転写酵素活性を使用することも可能である。アキュスクリプト(AccuScript)逆転写酵素(ストラタジーン(Stratagene))は、この種類の逆転写酵素の一例である。当業者には、逆転写酵素活性を有する2以上の酵素の混合物を使用され得ることは自明である。
【0044】
当業者には、逆転写酵素活性を有する殆どの酵素が二価イオンを必要とすることが知られている。従って、好ましい実施形態では、二価イオンを必要とするこれらの酵素は、二価イオンを含む。Mg2+、Mn2+が好ましい。
【0045】
酵素の好ましい組み合わせは、HIV逆転写酵素またはM-MLV逆転写酵素またはEAIV逆転写酵素またはAMV逆転写酵素またはサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus) DNAポリメラーゼIまたはM-MLV RNAse Hマイナス、スーパースクリプト(Superscript)、スーパースクリプトII(SuperScript II)、スーパースクリプトIII(SuperScript III)またはモンスタースクリプト(MonsterScript)(エピセンター(Epicentre))またはオムニスクリプト(Omniscript)逆転写酵素(キアゲン(Qiagen))またはセンシスクリプト(SensiScript)逆転写酵素(キアゲン)、サーモスクリプト(ThermoScript)、サーモ-X(Thermo-X)(両者ともインビトロゲン(Invitrogen))または逆転写酵素活性を有する2以上の酵素の混合物および大腸菌由来のポリ-(A)-ポリメラーゼである。加えて、HIV逆転写酵素またはM-MLV逆転写酵素またはEAIV逆転写酵素またはAMV逆転写酵素またはサーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus) DNAポリメラーゼIまたはM-MLV RNAse Hマイナス、スーパースクリプト(Superscript)、スーパースクリプトII(SuperScript II)、スーパースクリプトIII(SuperScript III)またはモンスタースクリプト(MonsterScript)(エピセンター)またはオムニスクリプト(Omniscript)逆転写酵素(キアゲン)またはセンシスクリプト(SensiScript)逆転写酵素(キアゲン)、サーモスクリプト(ThermoScript)、サーモ-X(Thermo-X)(両者ともインビトロゲン)または逆転写酵素活性を有する2以上の酵素の混合物および酵母由来のポリ-(A)-ポリメラーゼである。
【0046】
qRT-PCRにおいて、例えば、ライトサイクラー(LightCycler)プローブ(ロシュ)、タックマン(TaqMan)プローブ(ロシュ)、モレキュラービーコン、スコーピオン(Scorpion)プライマー、サンライズ(Sunrise)プライマー、ラックス(LUX)プライマーまたはアンプリフロー(Amplifluor)プライマー等の、蛍光標識したプライマーおよび/またはプローブを使用し得る。プローブおよび/またはプライマーは、例えば共有結合または非共有結合した蛍光色素を含有し得るが、蛍光色素の例としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、6-カルボキシフルオレセイン(FAM)、キサンテン、ローダミン、6-カルボキシ-2’,4’,7’,4,7-ヘキサクロロフルオレセイン(HEX)、6-カルボキシ-4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシフルオレセイン(JOE)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、5-カルボキシローダミン-6G(R6G5)、6-カルボキシローダミン-6G(RG6)、ローダミン110;ウンベリフェロン等のクマリン類、ヘキスト(Hoechst)33258等のベンズイミド類;テキサス・レッド(Texas Red)等のフェナントリジン類、臭化エチジウム類、アクリジン色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素、Cy3、Cy5、Cy7、サイバー・グリーン(SYBR Green)等のシアニン色素、ボディピィ(BODIPY)色素、キノリン色素およびアレクサ(Alexa)色素が挙げられる。
【0047】
当業者には、qRT-PCRにおいて、二本鎖特異的蛍光色素、例えば臭化エチジウム、サイバー・グリーン(SYBR Green)、ピコ・グリーン(PicoGreen)、リボ・グリーン(RiboGreen)等は、プライマーおよびプローブとは無関係に使用され得ることが知られている。
【0048】
当業者には、どのような条件が定量的PCRまたは定量的逆転写酵素PCRに適しているのか知られている。これは、例えば、プライマーデザイン、適切な処理温度(逆転写、変性、プライマーアニーリング、伸長)の選択、PCRサイクル数、バッファー条件、逆転写酵素および定量的(リアルタイム)PCRの評価に当てはまる。
【0049】
本発明では、qRT-PCRによって測定した、コントロール核酸の1以上のアンプリコンのCt(閾値サイクル)値が低いことは、複合テンプレート核酸が低品質および/または少量であることに関連付けられる。従って、Ct値が高いことは、複合テンプレート核酸が高品質および/または多量であることを示す。
【0050】
本発明の好ましい実施形態では、増幅されるべき複合テンプレート核酸の質および/または量は、ΔCt値によって測定される。前記のΔCt値は、複合テンプレート核酸との共増幅後のコントロール核酸について測定したCt値と、コントロール反応でのコントロール核酸のCt値との差に基づいて計算する。コントロール反応は、複合テンプレート核酸は添加されていないことを特徴とする。しかし、他の要素および反応条件は変更しない。複合核酸の増幅後にコントロール核酸のアンプリコンのΔCt値が高いほど、増幅に使用した複合核酸の品質がより高い。
【0051】
また、本発明は、上述の方法を実施するためのキットであって、以下を含むキットに関する:
- コントロール核酸および複合テンプレート核酸の増幅のためのランダムプライマーまたは配列特異的プライマー、
- 1以上のコントロール核酸であって、該コントロール核酸はそれぞれ少なくとも1つの既知の配列セグメントを有する、上記コントロール核酸、並びに
- 鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ。
【0052】
任意に、本発明のキットは、例えば以下の、さらなる成分を含有し得る:
- バッファー溶液またはバッファー・ストック溶液、
- dNPT(好ましくは、dCTP、cATP、dGTPおよびdTTPの混合物の溶液(例えば、それぞれ5mMの「dNTP混合物」)、
- 熱安定性ポリメラーゼ、
- 少なくとも1つの二本鎖特異的蛍光色素、
- 任意に、バッファー溶液またはバッファー・ストック溶液、
- qRT-PCRを実施するための酵素および試薬、および/または
- 1以上のプライマー対および/または配列特異的プローブであって、プライマーおよび/または配列特異的プローブは、コントロール核酸の既知の配列セグメント内でハイブリダイズすることが可能であり、かつコントロール核酸の定量に適したものである、上記プライマー対及び/又は配列特異的プローブ。
【0053】
本発明のキットは、上述の方法を実施するための説明書も含み得る。
【0054】
複合テンプレート核酸の量および/または質のほかに、コントロール核酸のアンプリコンのCt値のレベルは、使用するコントロール核酸の量および増幅反応条件に、決定的な程度に依存する。同時に実施されなかったWGA、WTAおよび/またはWBAを比較する可能性を担保するために、標準化された条件を提供することが望ましい。しかし、これは各要素において常に可能というわけではない。もしかすると異なる条件により、異なる時および/または異なる場所で実施された反応を比較するため、例えば、反応の内部標準が必要である。当業者には、本発明の方法および/またはキットが、WGAおよび/またはWTAおよび/またはWBAにおいて、この種の標準(スタンダード)としての使用に適していることは自明である。
【0055】
従って、本発明は、WGAおよび/またはWTAおよび/またはWBAの標準化のための、上述の本発明の方法またはキットの1つの使用にも関する。
【0056】
本発明では、WGAおよび/またはWTAおよび/またはWBAの標準化のために測定したΔCt値を使用することが特に好ましい。
【0057】
配列
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1−1】特許請求の範囲に記載の方法の略図。工程1において、コントロール核酸(A)、複合テンプレート核酸(B)およびプライマーが提供される。工程2において、コントロール核酸および複合テンプレート核酸の共増幅が起こる。共増幅の完了後、工程3において、既知の配列セグメント(点線)について増幅したコントロール核酸の量を測定する。
【図1−2】特許請求の範囲に記載の方法の略図。工程1において、コントロール核酸(A)、複合テンプレート核酸(B)およびプライマーが提供される。工程2において、コントロール核酸および複合テンプレート核酸の共増幅が起こる。共増幅の完了後、工程3において、既知の配列セグメント(点線)について増幅したコントロール核酸の量を測定する。
【図1−3】特許請求の範囲に記載の方法の略図。工程1において、コントロール核酸(A)、複合テンプレート核酸(B)およびプライマーが提供される。工程2において、コントロール核酸および複合テンプレート核酸の共増幅が起こる。共増幅の完了後、工程3において、既知の配列セグメント(点線)について増幅したコントロール核酸の量を測定する。
【図2】全ゲノム増幅の完了後の総DNA収率:WGAには、コントロールDNA(20 pg)と種々の量のテンプレート核酸(0-100ng)との混合物が使用されている。
【図3】10ngのWGA DNAにおける、テンプレート核酸マーカー699および1004の出現。Y軸には、リアルタイムPCR分析から得たCt値が示されている。WGA反応について、Ct値とテンプレート核酸の量との間に相関関係はなかった。
【図4】10ngのWGA DNAにおける、コントロール核酸マーカー標準1の出現。Y軸には、リアルタイムPCR分析から得たCt値が示されている。WGA反応について、Ct値とテンプレート核酸の量との間に、明確な相関関係があった。
【図5】10 ngのWGA DNAにおける、テンプレート核酸マーカー699および1004の出現。Y軸には、リアルタイムPCR分析から得たCt値が示されている。X軸には、テンプレート核酸のHaeIIIとのインキュベーション時間の増加による、テンプレート核酸の進行する分解が示されている。
【図6】10 ngのWGA DNAにおける、コントロール核酸マーカー標準1の出現。Y軸には、リアルタイムPCR分析から得たCt値が示されている。X軸には、テンプレート核酸のHaeIIIとのインキュベーション時間の増加による、テンプレート核酸の進行する分解が示されている。
【図7】反応器中に細胞(即ちテンプレート核酸)が含まれるかどうか分からない状態で、36のWGA反応を実施した。反応器中にテンプレート核酸が存在しない場合(マーカーHexAおよびHexGで、Ct値は〜40)、コントロール核酸マーカー標準1の出現は、リアルタイムPCRにおいて常に高かった(< 10の低Ct値)。しかし、HexAおよびHexGが検出された場合は(Ct値〜22から30)、マーカー標準1のCt値は > 10であった。従って、テンプレート核酸の存在は、コントロール核酸および後続のPCRによって検出され得る。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0059】
実施例1:
WGA反応においてコントロール核酸を用いた、WGAに用いられたテンプレート核酸の量の測定方法
【0060】
バックグラウンド:テンプレート核酸およびコントロール核酸の全ゲノム増幅の後の、WGA DNAにおけるコントロール核酸の出現は、当初使用したテンプレート核酸量の指標となり得る。
【0061】
種々の量のヒトゲノムDNA(0;1.5;3.125;6.25;12.5;25;50または100 ng)を、全ゲノム増幅(WGA)反応に使用した。WGA反応は、製造元の説明書(キアゲン(Qiagen))に従って、REPLI-g試薬を用いて実施した。20 pgのラムダDNAをコントロール核酸として、個々のWGA反応に添加したが、ここで、テンプレート核酸とは異なり、コントロール核酸は変性されなかった。WGA反応の後、総GNAの濃度および収量を、ピコ・グリーン(PicoGreen)試薬(REPLI-gマニュアル参照)を用いて測定した(図1)。
【0062】
コントロール核酸およびテンプレート核酸の出現を、定量的リアルタイムPCRによって分析した。この目的のため、得られた総DNAの10 ngを定量的リアルタイムPCRに使用した(クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCR サイバー・グリーン(SYBR Green);キアゲン(Qiagen))。この背景において、コントロール核酸のCt値(閾値サイクル)は、複合テンプレートDNAの代表的増幅の測定値として与えられる。Ct値は、基礎蛍光を超える蛍光が最初に検出され得るPCRサイクルを示す。マーカーの出現が低いと、Ctは高値となり、出現が高いとCtは低値となるであろう。種々の溶液を用いて、出現が同一のままである場合、Ct値の変化は観察されない。約40サイクルのCt値は、分析したマーカーが分析した溶液中に存在しないことを示す。
【0063】
WGA反応の完了後、複合テンプレート核酸の出現の分析のため、使用したテンプレートDNAに含有されるマーカー699およびマーカー1004を、定量的リアルタイムPCR反応において定量した。WGA後、コントロール核酸の出現の分析のため、そこに含まれるマーカー標準1を使用した。この背景においても、増幅した総DNAの10 ngを各回使用した。クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCRサイバー・グリーン(SYBR Green)試薬(キアゲン(QIAGEN))を、製造者の説明書に従って、リアルタイムPCR試薬として使用した。配列番号3および配列番号4のオリゴヌクレオチドをマーカー699のプライマーとして使用した。配列番号5および配列番号6のオリゴヌクレオチドをマーカー1004のプライマーとして使用した。配列番号1および配列番号2のオリゴヌクレオチドを、コントロール核酸のマーカー標準1のプライマーとして使用した。
【0064】
結果:全ゲノム増幅反応の完了後の総DNAの収量の測定により、増幅した総DNAは使用したテンプレート核酸の量(1.56 ng〜100 ng;図2)に依存して、わずかに減少したことのみが示された。
【0065】
増幅した総DNAにおけるテンプレート核酸マーカー699および1004の出現の分析のため、さまざまなWGA溶液それぞれについてのqRT-PCRに10ngを使用した。分析により、Ct値は、WGAに使用した複合テンプレート核酸出発物質の量と相関関係がないことが示された。テンプレート核酸の量を変えても、リアルタイムPCR分析の間、Ct値はWGAで一定であった(図3)。
【0066】
しかし、リアルタイムPCRにおいて、10ngのWGA総DNAをコントロール核酸の出現の分析に使用した場合、WGA反応について、Ct値の、テンプレート核酸の当初の開始量との強い相関関係が測定された:WGAのためのテンプレート核酸の開始量が少ないほど、コントロール核酸を表すマーカー標準1のCt値はより低い(図4)。
【0067】
実施例2:
コントロール核酸を使用した、WGAに使用した複合テンプレート核酸の質/完全性の測定方法
【0068】
バックグラウンド:複合テンプレート核酸およびコントロール核酸のWGAの後の、総DNAにおけるコントロール核酸の出現は、当初使用した複合テンプレート核酸の質/完全性を示し得る。
【0069】
実験:ゲノムDNAを、制限エンドヌクレアーゼHaeIIIでの部分的消化により損傷する。この目的のため、20μgのヒトゲノムDNAを200μlの溶液中、1.9UのHaeIIIと共に、37℃で0、5、10、20、40および80分間インキュベートする。HaeIIIによって生じるDNAの進行する開裂は、複合テンプレート核酸の種々の分解度を表し、従って、複合テンプレート核酸の種々の質/完全性レベルを表す。このように得られた種々の分解度を有する10ngのテンプレート核酸を、WGAにおいて20pgのコントロールDNAと組み合わせた。WGA反応を、REPLI-g製造元の説明書(キアゲン(Qiagen))に従って、REPLI-g試薬を用いて実施したが、ここで、テンプレート核酸と異なり、コントロール核酸は変性されなかった。WAGの完了後、DNAの濃度および収量を、ピコ・グリーン(PicoGreen)試薬(REPLI-gマニュアル参照)を用いて測定した。
【0070】
コントロールDNAおよび複合テンプレートDNAの出現を、qRT PCRにおいて分析した。この目的のため、WGAにおいて形成された総DNAの10 ngをリアルタイムPCRに使用した(クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCRサイバー・グリーン(SYBR Green)試薬;キアゲン(Qiagen))。WGAの完了後、複合テンプレート核酸の出現の分析のため、WGAで増幅したDNA中、マーカー699および1004をqRT PCRにおいて使用した。WGA完了後のコントロール核酸の出現の分析のため、マーカー標準1を使用した。この目的のために、また10 ngの増幅した総DNAを各回使用した。クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCRサイバー・グリーン(SYBR Green)試薬(キアゲン)をqRT-PCR試薬として使用した。配列番号2および配列番号3のオリゴヌクレオチドをマーカー699のプライマーとして使用した。配列番号4および配列番号5のオリゴヌクレオチドをマーカー1004のプライマーとして使用した。配列番号1および配列番号2のオリゴヌクレオチドを、コントロール核酸のマーカーで標準1のプライマーとして使用した。
【0071】
結果:テンプレート核酸の質の低下が進むにつれて、WGA終了後のテンプレート核酸の出現は弱くなることが知られている。このことは、この実験でも観察された:10ngのWGA DNAのリアルタイム分析において、テンプレート核酸とHaeIIIとのインキュベーション時間(分)の増加によって、テンプレート核酸の分解(断片化)が進み、Ct値が上昇することが示される(図5参照)。
【0072】
WGA完了後のコントロール核酸の出現には、当初使用した複合テンプレート核酸の断片化の進行と明らかな相関関係がある(図5参照)。マーカー標準1のCt値の減少によって示される、コントロール核酸の出現の増加は、断片化(HaeIIIインキュベーション時間の増加)およびテンプレート核酸マーカー(699および1004)の出現の減少と相関する(図4および6を比較)。
【0073】
実施例3:
WGA反応においてコントロール核酸を使用する、テンプレート核酸の存在の測定方法
【0074】
バックグラウンド:複合テンプレート核酸およびコントロール核酸のWGA完了後の、総DNAにおけるコントロール核酸の出現は、当初使用したテンプレート核酸の一般的存在の指標となり得る。
【0075】
実験:細胞培養物を希釈し、およそ各二つ目の反応器のみが細胞を含有するようにする。20pgのコントロール核酸(ラムダDNA)を各反応器に加える。WGAの前に、細胞の溶解を実施する。溶解は、REPLI-gマニュアルに従って実施する。その後、REPLI-gマニュアルに従って、REPLI-g試薬(キアゲン(QIAGEN))を用いて、全ゲノム増幅を実施する。WGA反応後、DNAの濃度および収量をピコ・グリーン(PicoGreen)試薬で測定する(REPLI-gマニュアル参照)。
【0076】
コントロールDNAおよび複合テンプレート核酸の出現を、qRT PCRにおいて分析した。この目的のため、WGAで形成された総DNAの10ngをqRT-PCRに使用する(クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCRサイバー・グリーン(SYBR Green)試薬、キアゲン(Qiagen))。WGA後の複合テンプレート核酸の出現の分析のため、2つのヘキソキナーゼ対立遺伝子HexAおよびHexGを、WGAで増幅したDNAにおいて、qRT PCR反応で分析した。WGA後のコントロール核酸の出現の分析のため、マーカー標準1を使用した。この場合も、各回10ngの増幅された総DNAを使用した。qRT PCR試薬として、クオンチテクト(QuantiTect)リアルタイムPCRサイバー・グリーン(SYBR Green)試薬(キアゲン)を使用した。
【0077】
結果:細胞、つまり複合テンプレート核酸が反応器中に存在する場合は常に、対立遺伝子HexAおよびHexGについて、40より明らかに小さいCt値が得られた。このような存在は、コントロール核酸の増幅を示すマーカー標準1についての>10のCt値と明らかに相関した。平均して、13.05(+/- 0.95)の値に達した。細胞が存在しない(即ち、テンプレート核酸がない)場合、マーカー標準1について、平均Ct値は7.5(+/- 0.95)であった。従って、>10のCt値(マーカー標準1)は、テンプレート核酸の存在の指標であり、一方<10のCt値は、テンプレート核酸が存在しないことを示す(図7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料において増幅されるべき一以上の複合テンプレート核酸を量的及び質的に分析するための方法であって、以下の工程a)からc)を含む、上記方法:
a)以下を含む反応混合物を提供する工程
- 増幅されるべきテンプレート核酸、
- 所定量の少なくとも一つのコントロール核酸であって、該コントロール核酸は上記テンプレート核酸に対して50%未満の配列同一性を有し、かつ少なくとも一つの既知の配列セグメントを有する、上記コントロール核酸、
- 上記テンプレート核酸を増幅するためのプライマー、
- 上記コントロール核酸を増幅するためのプライマー、並びに
- 核酸の増幅に適した酵素及び試薬;
b)上記テンプレート核酸及び上記コントロール核酸を共増幅する工程であって、該共増幅は等温で実施され、該共増幅は鎖置換反応を含み、並びに上記テンプレート核酸及び上記コントロール核酸が本質的に該増幅によって完全に増幅される、上記工程;及び
c)増幅されたコントロール核酸を定量する工程であって、該定量は工程b)の共増幅が完了した後に実施される、上記工程。
【請求項2】
上記共増幅が完了した後に、核酸の全量がさらに定量される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
増幅されたコントロール核酸の量、及び全核酸の量が、複合テンプレート核酸の完了した増幅と関連付けられる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記コントロール核酸が線状である、請求項4に記載の方法。
【請求項5】
上記線状のコントロール核酸が800超のヌクレオチドを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記コントロール核酸が環状である、請求項1から3に記載の方法。
【請求項7】
上記複合テンプレート核酸が、10000超のヌクレオチドを含む、請求項1から6に記載の方法。
【請求項8】
上記複合テンプレート核酸がDNA及びRNAからなる群から選択される、請求項1から7に記載の方法。
【請求項9】
上記複合テンプレート核酸が、一以上のゲノム、及び/又は一以上のトランスクリプトーム、及び/又は一以上のビスルフィトームを含む、請求項1から8に記載の方法。
【請求項10】
上記共増幅のために用いられるポリメラーゼが鎖置換活性を有する、請求項1から9に記載の方法。
【請求項11】
上記ポリメラーゼがファイ29様ポリメラーゼである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
複合テンプレート核酸及びコントロール核酸の共増幅に用いるためのプライマーが同一である、請求項1から11に記載の方法。
【請求項13】
ランダムプライマーが、共増幅のために用いられる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程c)における、増幅されたコントロール核酸の定量が、上記少なくとも一つの既知の配列セグメントに対して実施される、請求項1から13に記載の方法。
【請求項15】
上記増幅されたコントロール核酸の定量が、少なくとも一つの特異的プローブを利用して、及び/又は上記少なくとも一つの既知の配列セグメントを用いた、配列特異的プライマーを介した増幅を利用して実施される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15に記載の方法を実施するためのキットであって、以下を含む上記キット:
- ランダムプライマー;
- 一以上のコントロール核酸であって、該コントロール核酸は少なくとも一つの既知の配列セグメントを含む、上記コントロール核酸;及び
- 鎖置換活性を有するポリメラーゼ。
【請求項17】
全ゲノム増幅、及び/又は全トランスクリプトーム増幅、及び/又は全ビスルフィトーム増幅の標準化のための、請求項1から15に記載の方法又は請求項16に記載のキットの使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−528583(P2012−528583A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513630(P2012−513630)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057793
【国際公開番号】WO2010/139767
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(599072611)キアゲン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (83)
【Fターム(参考)】