説明

複合環境ストレス耐性イネ

【課題】複合環境ストレス条件下でも栽培可能な植物の提供。
【解決手段】以下の(a)〜(d)の少なくとも1つの遺伝子が導入された、複合環境ストレス耐性を有するトランスジェニックイネ科植物。 (a) 特定な配列の塩基配列からなるDNAからなる遺伝子; (b) 特定な配列の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子; (c) 特定な配列のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;及び (d) 特定な配列のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境ストレス耐性植物及び植物の環境ストレス耐性の強化法に関する。
【背景技術】
【0002】
イネの早期栽培及び直播栽培では、イネの生育初期において低温に遭遇しやすいため、しばしば著しい低温障害が発生する。また、アジア諸国では塩ストレスや乾燥ストレスによる被害も大きい。これらの被害を軽減するためには、環境ストレス耐性が複合的に強化された品種を栽培することが望ましい。
【0003】
しかしながら、既存の遺伝資源を材料にした育種法では、環境ストレス耐性の大幅な向上を望むには限界があり、ましてや複数の環境ストレス耐性を同時に強化することは不可能に近い。そこで、複合的な環境ストレス耐性の強化法が必要とされている。
【0004】
従前のイネの環境ストレス耐性強化法としては、環境ストレス耐性に優れた品種又は系統のイネを交配親に用いて交雑を行い、その交雑後代から環境ストレス耐性がより優れたイネ個体やイネ系統を選抜する方法がある。
【0005】
近年では、活性酸素除去系酵素遺伝子を植物に導入して、植物の環境ストレス耐性を向上させる研究がなされている(特許文献1及び非特許文献1及び2)。しかしながら、活性酸素除去酵素の遺伝子の導入によって植物中で該酵素の発現量を増大させても、必ずしもストレス耐性が強化されないことも報告されている(非特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−9692公報
【非特許文献1】McKersie BD. et al., Plant Physiol., (1996) 111(4): p.1177-1181
【非特許文献2】Shikanai T. et al., FEBS Letters, (1998) 428(1-2): p.47-51
【非特許文献3】Tepperman JM and Dunsmuir P., Plant Mol. Biol., (1990) 14(4): p.501-511
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、複合的な環境ストレスに耐性を有する植物及び植物における複合的な環境ストレス耐性の強化法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、sHSP17.7遺伝子を過剰発現させたトランスジェニックイネが複合環境ストレスに対して耐性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] 以下の(a)〜(d)の少なくとも1つの遺伝子が導入された、複合環境ストレス耐性を有するトランスジェニックイネ科植物。
【0010】
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子;
(b) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子;
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;及び
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
この複合環境ストレス耐性は、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性からなる群より選択される少なくとも2つを含むことが好ましい。
[2] 乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件からなる群より選択される少なくとも1つを含む条件下での栽培用の、上記[1]に記載のトランスジェニックイネ科植物。
[3] 以下の(a)〜(d)の少なくとも1つの遺伝子をイネ科植物中で過剰発現させることを特徴とする、イネ科植物に複合環境ストレス耐性を付与する方法。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子;
(b) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNA;
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;及び
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
[4] 複合環境ストレス耐性が、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性からなる群より選択される少なくとも2つを含む、上記[3]に記載の方法。
[5] 上記[1]又は[2]に記載のトランスジェニックイネ科植物を使用することを特徴とする、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件からなる群より選択される少なくとも1つを含む条件を含む環境ストレス条件下でのイネ科植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の形質転換イネ科植物は、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件などを含む各種の環境ストレス条件下に対して高い耐性を示す。従って本発明の形質転換イネ科植物を用いれば、複合的な環境ストレスが存在する条件であっても、環境ストレスによる枯死などの被害を軽減し、不適地でも十分な収量を得られる栽培が可能になる。本発明のイネ科植物における複合ストレス耐性の強化法を用いることにより、既存のイネ科植物に複合ストレス耐性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明は、イネ科植物から単離した熱ショックタンパク質sHSP17.7遺伝子をイネ科植物細胞中に導入し、恒常的に発現させて得られるトランスジェニックイネ科植物に関する。
【0014】
本発明はまた、通常は高温でのみ誘導され、タンパク質の変性を防ぐ活性(分子シャペロン機能)をもつ熱ショックタンパク質sHSP17.7の遺伝子を、イネ科植物に導入し、恒常的に高発現させることによって、イネ科植物の環境ストレス耐性を複合的に強化する方法にも関する。
【0015】
1. sHSP17.7遺伝子断片の調製
本発明に係るsHSP17.7遺伝子は、イネ科植物において高温条件で発現が誘導され、かつ高温耐性を付与する熱ショックタンパク質をコードする遺伝子である。
【0016】
本発明に係るsHSP17.7遺伝子は、具体的には、以下の(a)〜(d)の遺伝子である。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子。
(b) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子。
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子。
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子。
【0017】
本発明のsHSP17.7遺伝子にコードされるタンパク質は、分子シャペロン機能を有すると考えられる。このHSP17.7タンパク質の高温耐性付与活性は、例えば次のようにして確認することができる。まず、そのsHSP17.7遺伝子を含む組換え発現ベクターを用いて大腸菌を形質転換し、得られた形質転換体においてその組換えベクターからのタンパク質の発現を誘導した後、それに60℃で45分間の熱ショックを与える。熱ショック後、形質転換体を培養し、その細胞生存率を算出する。細胞生存率は、熱ショックを加えなかった形質転換体(対照サンプル)のコロニー形成数に対する、熱ショックを加えた形質転換体のコロニー形成数の比率として算出する。本発明においては、細胞生存率が34%以上、好ましくは34%〜76%である場合、そのsHSP17.7遺伝子にコードされるタンパク質は高温耐性付与活性を有するものとする。
【0018】
また本発明のsHSP17.7遺伝子にコードされるタンパク質(sHSP17.7タンパク質)の高温耐性付与活性は、sHSP17.7タンパク質とカタラーゼとを共存させて高温条件(例えば55℃)に曝露した場合に、カタラーゼの熱変性が抑制されることによっても確認できる。例えば、sHSP17.7タンパク質を、カタラーゼを含む50 mM Na2HPO4/NaH2PO4バッファー(pH 8.0)に加えた後、そのサンプルを55℃に加熱しながら、360nmでの吸光度を経時的に測定する。この360nmでの吸光度は、凝集したカタラーゼの相対量を示しており、この吸光度の値が高いほど、カタラーゼが熱変性した量が多いことを意味する。sHSP17.7タンパク質は、カタラーゼの1.5倍量加えることで変性抑制効果が認められるが、ほぼ完全に抑制するためには、3倍以上の量で加えることが好ましい。本発明では、sHSP17.7タンパク質をカタラーゼの3倍以上の量で加えた場合、添加から20分後の360nmでの吸光度の増加が有意に抑制される場合に、そのsHSP17.7タンパク質が高温耐性付与活性を有すると判断することもできる。
【0019】
一実施形態としては、本発明に係るsHSP17.7遺伝子は、高温処理(例えば播種後10日後のイネ幼苗について50℃で2.5時間の処理)したイネ科植物由来の組織から常法により調製した全mRNAを鋳型として、sHSP17.7遺伝子の全長を増幅可能なように設計したプライマーを用いたPCR増幅によって完全長cDNAとして取得することができる。
【0020】
さらに別の実施形態としては、本発明に係るsHSP17.7遺伝子は、イネ科植物由来のcDNAライブラリーを鋳型として、sHSP17.7遺伝子の全長を増幅可能なように設計したプライマーを用いたPCR増幅によって取得することができる。
【0021】
sHSP17.7遺伝子の全長を増幅可能なように設計したプライマー対としては、例えば以下のものが挙げられる。プライマーPri-1(5'-ATGTCGCTGATCCGCCGCGG-3'[配列番号9])及びプライマーPri-2(5'-GCCGGAGATCTGGATGGACT-3'[配列番号10])。
【0022】
sHSP17.7遺伝子の全長を増幅するためのPCR反応液(20μl)組成としては、例えば、以下の組成を用いることができる。
【0023】
DNA 100ng
Pri-1 0.5μM
Pri-2 0.5μM
dNTPs 0.2mM
MgCl2 1.5mM
TaqDNAポリメラーゼ(GIBCO BRL社製)1U
総量 20μl
【0024】
また、反応条件としては、94℃で1分、60℃で1分、72℃で1分のサイクルを1サイクルとしてこれを30サイクル行う方法を用いることができる。
【0025】
得られたsHSP17.7遺伝子を含むDNA断片については、塩基配列決定により塩基配列を確認することが好ましい。塩基配列決定はマキサム-ギルバートの化学修飾法、ジデオキシヌクレオチド鎖終結法等の公知手法により行うことができるが、通常は自動塩基配列決定装置(例えばAloka社製DNAシークエンサーLIC-4200LS-2等)を用いて行えばよい。
【0026】
さらに、得られたsHSP17.7遺伝子を含むDNA断片について、部位特定変異誘発等によって塩基配列を改変することもできる。DNAに変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutan-K(TAKARA社製)やMutan-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異の導入が行われる。
【0027】
sHSP17.7遺伝子をイネ科植物に導入するためには、得られたsHSP17.7遺伝子を含むDNA断片を用いて組換え発現ベクターを構築することが好ましい。導入したイネ科植物中でsHSP17.7遺伝子を恒常的に発現させるためには、sHSP17.7遺伝子を含むDNA断片を、過剰発現プロモーターの下流に連結した状態でベクターに組み込むことが好ましい。使用可能な過剰発現プロモーターの例としては、CaMV35Sプロモーター、イネアクチンプロモーターが挙げられる。特に好適な過剰発現プロモーターを含む組換え発現ベクターの例としては、pMLH7133(Mitsuhara et al., Plant Cell Rhysiology 37:49-59, 1996)中のGUS遺伝子を、本発明のsHSP17.7遺伝子で置換したものが挙げられる。
【0028】
ベクターにsHSP17.7遺伝子を組み込むには、例えば、sHSP17.7遺伝子を含むDNA断片を適当な制限酵素で切断し、ベクター中の過剰発現プロモーター下流の適当な制限酵素部位にイン・フレームとなるように挿入すればよい。
【0029】
組換え発現ベクターには、さらに、エンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などが含まれていてもよい。なお、選択マーカーとしては、例えばジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。
【0030】
2. イネ科植物へのsHSP17.7遺伝子の導入
上記の通り作製したsHSP17.7遺伝子を含む組換えベクターをイネ科植物に導入することにより、イネ科植物の形質転換体を作製することができる。
【0031】
本発明において遺伝子を導入するイネ科植物は、イネ科に属する植物であれば特に限定されないが、イネ(Oryza sativa)、トウモロコシ(Zea mays)、コムギ(Triticum aestivum L.)、オオムギ(Hordeum vulgare L.)、ライ麦(Secale cereale)等が好ましい。好ましいイネ品種の例としては、「ほしのゆめ(Hoshinoyume)」、「きらら397(Kirara397)」,「ゆきひかり(Yukihikari)」、「ゆきまる(Yukimaru)」、「ほのか224(Honoka224)」,「どんとこい(Dontokoi)」、「コシヒカリ(Koshihikari)」、「ササニシキ(Sasanishiki)」、「ヒトメボレ(Hitomebore)」、「あきたこまち(Akitakomachi)」、「はえぬき(Haenuki)」、「キヌヒカリ(Kinuhikari)」、「むつほまれ(Mutsuhomare)」、「ヒノヒカリ(Hinohikari)」、「津軽おとめ(Tsugaruotome)」、「つがるロマン(Tsugaruroman)」、「ゆめあかり(Yumeakari)」、「ハナエチゼン(Hanaechizen)」、「夢つくし(Yumetsukushi)」、「ハツシモ(Hatsushimo)」、「どまんなか(Domannaka)」、「かけはし(Kakehashi)」、「いわてっこ(Iwatekko)」、「まなむすめ(Manamusume)」、「めんこいな(Menkoina)」、「チヨニシキ(Chiyonishiki)」、「ふくみらい(Fukumirai)」等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
sHSP17.7遺伝子の導入に使用できる植物試料としては、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織等)、植物培養細胞(例えばカルス)等が挙げられる。
【0033】
sHSP17.7遺伝子を含む上記組換えベクターは、植物の形質転換に用いられる方法、例えばアグロバクテリウム法、パーティクルガン法、PEG法、エレクトロポレーション法等によって植物細胞中に導入することができる。例えばアグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム、例えばアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入し、この菌株をイネのカルスに接種して感染させ、トランスジェニック植物細胞を得ることができる。また、パーティクルガン法を用いる場合には、遺伝子導入装置(例えばPDS-1000(BIO-RAD社)等)を製造業者の説明書に従って使用して、植物試料に、sHSP17.7遺伝子を含む組換えベクターをまぶした金属粒子を打ち込むことができる。遺伝子導入装置による操作条件は植物又は試料により異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。植物試料としては、植物体、植物器官、又は植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。
【0034】
形質転換した腫瘍組織やシュート、毛状根等は、例えば従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライド等)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0035】
sHSP17.7遺伝子が目的のトランスジェニックイネ科植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、ウェスタンブロット法等を利用して行うことができる。例えば、トランスジェニック植物から全RNAを調製し、sHSP17.7遺伝子特異的プライマーを設計してPCR増幅を行う。増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動又はキャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光又は酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0036】
sHSP17.7遺伝子が導入されたトランスジェニックイネ科植物については、sHSP17.7タンパク質が通常条件下でも発現されていることを確認することが好ましい。例えば、通常条件下で播種後10日間生育させた当該トランスジェニックイネ科植物について、その組織を切り取り、その試料から常法によって抽出したmRNAについて、sHSP17.7遺伝子に対する特異的プローブを用いたノーザンブロッティング解析を行い、sHSP17.7遺伝子からの発現を確認すればよい。sHSP17.7遺伝子に対する特異的プローブの設計は、導入するsHSP17.7遺伝子の塩基配列に基づいて、常法によって行うことができる。あるいはまた、通常条件下で播種後10日間生育させた当該トランスジェニックイネ科植物について、その組織を切り取り、その試料から常法によって抽出した全タンパク質を含む試料について、sHSP17.7タンパク質に対する特異的抗体を用いたウェスタンブロッティング解析を行い、sHSP17.7タンパク質の発現を確認してもよい。sHSP17.7タンパク質に対する特異的抗体としては、通常の組換え法によって作製したsHSP17.7タンパク質を、例えばマウスの腹腔内に注射して腹水を採取するか、又は皮下に注射して抗sHSP17.7血清を採取して、それを用いればよい。
【0037】
本明細書において、「通常条件」とは、高温条件、紫外線照射条件、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件、及び凍結温度条件のいずれにも当てはまらない環境条件を意味する。典型的には、この通常条件は、15〜35℃、0〜1,000mJ cm-1の紫外線(UV-B)照射量、-1〜0 MPaの土壌の水ポテンシャル、0〜50 mMである培地中塩濃度の範囲内である。
【0038】
以上のようにして作製される本発明のsHSP17.7遺伝子が導入されたトランスジェニックイネ科植物は、植物細胞内でsHSP17.7タンパク質を恒常的に生産し、高温耐性を有する。
【0039】
3. sHSP17.7遺伝子を導入したトランスジェニックイネ科植物の複合環境ストレス耐性
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、下記のような各種の環境ストレスに耐性を示す。本発明のトランスジェニックイネ科植物は、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性のうちの少なくとも2種の環境ストレス耐性、好ましくは高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性の6種の環境ストレス耐性を含む、複合環境ストレス耐性を有する。本明細書において「複合環境ストレス耐性」とは、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐低性及び耐凍性、並びに一般に植物の生育を阻害するとされる他の任意の環境条件(例えば、強光、化学物質、農薬など)に対する耐性のうち、2種以上の異なる耐性を有することを言う。
【0040】
(1) 高温耐性
本発明において「高温耐性」とは、限定するものではないが、例えば42℃以上の温度、好ましくは45℃〜50℃の高温条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における高温耐性は、標準的な高温耐性試験によって評価することができる。
【0041】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗を50℃で2.5時間処理し、その7日後の生存率を調べた場合に、その生存率が10%〜100%、特に40%〜100%であることが好ましい。
【0042】
なお本発明において「生存率」は、高温処理後、25℃で1週間栽培した後の新葉展開(生育再開)個体を生存と判断し、新葉を転換せず生育を再開しない個体を枯死と判断し、生存率は、新葉展開個体数÷全個体数×100として算出する。
【0043】
また、そのようにして算出した生存率が、sHSP17.7遺伝子を導入していない同品種のイネ科植物における生存率よりも高い場合、そのトランスジェニック植物において高温耐性が増強されたと判断することができる。
【0044】
本明細書は「高温条件」とは、気温が36℃以上、好ましくは40℃〜50℃、特に45℃〜50℃であることを言う。本発明における「気温」とは、最低気温もしくは最高気温を意味してもよく、最低気温から最高気温までの温度範囲を意味してもよく、平均気温を意味してもよい。本発明における高温条件の例としては、45℃〜50℃(例えば50℃)の気温に少なくとも2時間、好ましくは2.5時間以上曝露されることが挙げられる。
【0045】
(2) 紫外線耐性
本発明において「紫外線耐性」とは、限定するものではないが、例えばUV-A及び/又はUV-Bの照射量が1,500 mJ cm-1以上、好ましくは2,000 mJ cm-1〜 3,000 mJ cm-1の高線量紫外線照射条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における紫外線耐性は、標準的な紫外線ストレス耐性試験によって評価することができる。
【0046】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗にUV-B(302 nm)を3000 mJ cm-1照射し、その7日後の電解質漏出率(EC%)を測定した場合に、EC%が0%〜30%、特に0%〜20%であることが好ましい。
【0047】
電解質漏出率(EC%)は、UV-B照射前の導電率に対するUV-B照射の7日後の導電率の比率として算出する。それぞれの導電率は、イネ幼苗から葉の一部を切り取り、それを1mlの蒸留水中に入れて23℃で一晩放置し、次いで蒸留水中の導電率を、例えば導電率計(堀場製作所)を用いて測定することによって得られる。
【0048】
このようにして算出されるEC%がより低ければ、そのトランスジェニック植物は紫外線による膜ダメージをより受けにくく、すなわちより高い紫外線耐性を有すると判断される。
【0049】
本明細書で「高線量紫外線照射条件」とは、UV-A及び/又はUV-Bの照射量が1,500 mJ cm-1以上、好ましくは2,000 mJ cm-1〜 3,000 mJ cm-1であることを意味する。
【0050】
(3) 乾燥耐性
本発明において「乾燥耐性」とは、限定するものではないが、例えば6日間給水を停止し、土壌の水ポテンシャルが-15〜-19MPaの乾燥条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における乾燥耐性は、標準的な乾燥耐性試験によって評価することができる。
【0051】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗を、6日間給水せずに乾燥状態で放置し、その後給水を再開してから7日目の生存率を調べた場合に、その生存率が70%〜100%、特に90%〜100%であることが好ましい。生存率の算出法は、高温耐性の場合と同じである。
【0052】
また、そのようにして算出した生存率が、sHSP17.7遺伝子を導入していない同品種のイネ科植物における生存率よりも高い場合、そのトランスジェニック植物において乾燥耐性が増強されたと判断することができる。
【0053】
本明細書で「乾燥条件」とは、土壌の水ポテンシャルが-3〜-20MPa、例えば-15〜-19MPa下の状態であることを言う。
【0054】
(4) 耐塩性
本発明において「耐塩性」とは、限定するものではないが、例えば0.2 M以上の塩濃度、好ましくは0.3 〜 0.45 Mの高塩濃度条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における耐塩性は、標準的な塩ストレス耐性試験によって評価することができる。
【0055】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗を0.45 MのNaCl溶液中に3日間浸漬した後、真水に戻して7日後の生存率を調べた場合に、その生存率が40%〜100%、特に70%〜100%であることが好ましい。生存率の算出法は、高温耐性の場合と同じである。
【0056】
また、そのようにして算出した生存率が、sHSP17.7遺伝子を導入していない同品種のイネ科植物における生存率よりも高い場合、そのトランスジェニック植物において耐塩性が増強されたと判断することができる。
【0057】
本明細書で「高塩濃度条件」とは、塩濃度が0.2 M以上、例えば0.3 〜 0.45 Mであることを意味する。
【0058】
(5) 耐冷性
本発明において「耐冷性」とは、限定するものではないが、例えば0℃〜12℃、好ましくは0℃〜5℃の低温条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における耐冷性は、標準的な耐冷性試験によって評価することができる。
【0059】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗を5℃で13日間処理した後、25℃に戻して7日後の生存率を調べた場合に、その生存率が20%〜100%、特に30%〜100%であることが好ましい。生存率の算出法は、高温耐性の場合と同じである。
【0060】
また、そのようにして算出した生存率が、sHSP17.7遺伝子を導入していない同品種のイネ科植物における生存率よりも高い場合、そのトランスジェニック植物において耐冷性が増強されたと判断することができる。
【0061】
本明細書で「低温条件」とは、気温がO℃を超えて14℃以下、例えば0℃〜12℃であることを意味する。
【0062】
(6) 耐凍性
本発明において「耐凍性」とは、限定するものではないが、例えば0℃以下、好ましくは−6℃〜0℃の凍結温度条件下でも植物が生育可能であることを意味する。本発明における耐凍性は、標準的な耐凍性試験によって評価することができる。
【0063】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、典型的には、播種後10日目の幼苗を−6℃で1時間処理した後、25℃に戻して7日後の生存率を調べた場合に、その生存率が5%〜100%、特に15%〜100%であることが好ましい。生存率の算出法は、高温耐性の場合と同じである。
【0064】
また、そのようにして算出した生存率が、sHSP17.7遺伝子を導入していない同品種のイネ科植物における生存率よりも高い場合、そのトランスジェニック植物において耐凍性が増強されたと判断することができる。
【0065】
本明細書で「凍結温度条件」とは、気温がO℃以下、例えば-10℃〜0℃、特に-6℃〜0℃であることを意味する。
【0066】
4. 環境ストレス条件下でのトランスジェニックイネ科植物の栽培
本発明の熱ショックタンパク質sHSP17.7遺伝子を恒常的に発現させたトランスジェニックイネ科植物では、上記3に記載したような高温条件、高線量の紫外線照射条件、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件、及び凍結温度条件における環境ストレス耐性が複合的に強化され、それらの条件下での生存率が顕著に向上する。従ってこのトランスジェニックイネ科植物は、高温条件、高線量紫外線照射条件、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件、及び凍結温度条件のうちの少なくとも1つ、あるいはそれらの複合的なストレス条件下での栽培に適したイネ科植物として非常に有用である。このトランスジェニックイネ科植物は、特に乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件、及び凍結温度条件における栽培用に好適である。本発明のトランスジェニックイネ科植物はまた、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件、及び凍結温度条件のうちの少なくとも1つ(例えば、このうちの2つ以上、あるいは3つ以上)の条件を含む複合環境ストレス条件下、例えば、乾燥条件+低温条件、高塩濃度条件+低温条件、乾燥条件+凍結温度条件、高塩濃度条件+凍結温度条件、乾燥条件+高塩濃度条件、凍結温度〜低温の温度条件などの複合環境ストレス条件下での栽培に適している。複合環境ストレス条件とは、これらの複数のストレス条件が同時期に存在するものであってもよいし、栽培期間中の別々の時期に存在するものであってもよい。
【0067】
本発明のトランスジェニックイネ科植物は、これらの環境ストレス条件においてもより高い生存率を維持することができ、すなわちそれらの環境ストレス条件下において栽培することが可能である。本発明のトランスジェニックイネ科植物は、これらの環境ストレス条件下で栽培した場合に、既存のイネ科植物と比較して収量を大幅に増大させることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び図面を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例1: 高温耐性付与遺伝子の単離
(1) イネのストレス処理
イネ品種「ほしのゆめ」(Oryza sativa L., cv Hoshinoyume)の種子を27℃で2日間水中に浸漬し、それを、直径9cmのプラスチック製ペトリ皿中に敷き詰めた湿ったバーミキュライト上に播種した。続いてペトリ皿を、25℃、80%相対湿度の育成チャンバー内に入れ、明所に16時間/暗所に8時間のサイクルに置いて発芽させた。
【0070】
播種後10日目まで生育させたイネ幼苗を、暗所、100%相対湿度、42℃にて、1、3、9及び24時間にわたって高温処理した。
【0071】
続いて、UV-B耐性を調べるため、イネ幼苗にUV-B照射(302 nm; 3000 mJ cm-1)を施した。一方、対照用のイネ幼苗には、25℃にて同様のUV-B照射処理を施した。UV-B照射を行った後、それらのイネ幼苗を育成チャンバーに移し、さらに25℃で7日間生長させた。
【0072】
イネ幼苗のUV-B耐性は、導電率計(堀場製作所)を用いて電解質漏出を測定することにより評価した。UV-B照射前、及びUV-B照射の7日後のイネ幼苗の外植片から葉のサンプルを切り取り、それぞれについて、1mlの蒸留水中に入れて23℃で一晩放置し、蒸留水中の導電率を測定した。次いでUV-B照射前の導電率とUV-B照射の7日後の導電率から、電解質漏出率(EC%)を算出した。
【0073】
その結果、UV-Bを照射した対照イネ幼苗は、EC%の値は36.1であり、重大なUVダメージを示した。しかしながら、UV-B照射前の24時間にわたって42℃で高温処理したイネ幼苗においては、EC%の値が13.6であり、そのようなUVダメージは認められなかった。また3、6、9時間にわたり高温処理したイネ幼苗のEC%は、それぞれ43.1、32.4、28.4であった。このように、高温処理したイネ幼苗では、高温処理時間が長くなるにつれてUV-B耐性が増強された。特に42℃の温度に24時間曝露したイネ幼苗では、UVダメージへの耐性が劇的に増加することが示された。
【0074】
(2) 高温耐性付与遺伝子の同定
播種後25℃で10日間生育させたイネ幼苗を、42℃で2時間、又は24時間にわたって高温処理し、さらに25℃で7日間生育させた。このイネ幼苗からシュートを切り取り、それぞれのサンプルから、Sato et al., J Exp Bot. 52: 145-51 (2001)に記載の方法に従って全RNAを抽出した。常磁性ビーズに結合したポリd[T]25Vオリゴヌクレオチドを用いて、100μgの全RNAからポリ(A)+RNAを抽出した。cDNA Synthesis Module RPN1256 (Amersham)を用いて、ポリ(A)+RNAから二本鎖cDNAを合成し、それをフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコールによって抽出し、エタノール沈殿し、再懸濁した。得られた二本鎖cDNAを制限酵素AseI及びTaqIを用いて処理し、AseI-TaqI断片を調製した。このAseI-TaqI断片を鋳型として用いて、Vos et al. Nucleic Acids Res. 23: 4407-14 (1995)に記載の方法に従い、非放射性の予備増幅反応、及び放射標識したAseIプライマーを用いる選択的AFLP(Amplified fragment length polymorphism)増幅反応を行った。この選択的増幅には16組のプライマーを用いた。得られた増幅断片を電気泳動し、X線フィルムに曝露してオートラジオグラフを作製し、そこから高温処理時間が2時間のサンプルと24時間のサンプルとで示差的に現れたバンドを選び出し、そのバンドを含むゲル断片を切り出した。DNA断片をゲルから抽出し、プライマーPri-3(5'-GACGATGAGTCCTGACCGA-3'[配列番号15])及びプライマーPri-4(5'-CTCGTAGACTGCGTACCTAAT-3'[配列番号16])を用いて、以下の反応溶液中で、94℃で30秒、52℃で30秒、72℃で1分のサイクルを1サイクルとしてこれを15サイクル行うことで、目的のDNAを増幅した。
【0075】
DNA 100ng
Pri-3 0.5μM
Pri-4 0.5μM
dNTPs 0.25mM
MgCl2 1.5mM
TaqDNAポリメラーゼ(GIBCO BRL社製)1U
総量 20μl
【0076】
得られた未精製PCR産物を用いて、ベクターpCR 2.1(Invitrogen)中へクローニングした。得られたクローンについては、Taq DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を使用して自動シークエンサー(Applied Biosystems)によりDNA塩基配列決定を行った。この塩基配列決定は、20個の増幅断片について行った。決定されたそれぞれの配列については、BLASTプログラム(Altschul et al. 1997)を用いてGenBankデータベース中の配列との比較を行った。得られた増幅断片のうちの1つが、159アミノ酸をコードすることが推定されるイネ由来のクラスI細胞質性sHSP17.7(OsHSP17.7; Genbankアクセッション番号 U83671; Guan et al. (1998))として同定された。
【0077】
実施例2: sHSP17.7の導入によるイネの形質転換
以下のようにして、完全長sHSP17.7 cDNAを、Ti系ベクターであるPMLH7133(Mitsuhara et al., Plant Cell Physiol.37: 49-59(1996))中のCaMV 35Sプロモーターの下流に、センス鎖方向で導入した(図1)。
【0078】
完全sHSP17.7 cDNAを、実施例1に従って調製したcDNAから、プライマー5'-TCTAGACCATGTCGCTGATCCGCCGCG-3'(下線部はXbaI部位;配列番号3)及びプライマー5'-GAGCTCTAGCCGGAGATCTGGATGGAC-3'(下線部はSacI部位;配列番号4)を用いて増幅した。この増幅断片をXbaI及びSacIで処理し、XbaI-SacI断片を調製した。このsHSP17.7 cDNAを含むXbaI-SacI断片と、PMLH7133ベクターをXbaI及びSacIを用いて切断して得た断片とをライゲーションした。得られた構築物を、既報のプロトコール(Hiei et al., Plant J. 6: 271-282 (1994))に従ってアグロバクテリウム法により、イネ(Oryza sativa L. cv, Hoshinoyume)のカルス中に導入した。形質転換されたカルスをMSRE培地に移植してハイグロマイシン耐性について選択し、さらにそれを再分化培地(N6SE)に移植し、明所で再分化させた。次に、再分化個体を検定培地(MSHF)に置床し、ハイグロマイシン耐性を検定した。同培地上で発根し、正常に生育した個体を馴化させ、ポットに移植することにより、トランスジェニック植物へと再生させた。再生されたトランスジェニック植物は、自家受粉によってT2世代までの交配を行った。使用した培地の組成は以下の通りである。
【0079】
MSRE培地(pH5.8
MS無機塩
MSビタミン
30g/l ショ糖
30g/l ソルビトール
2mg/l カザミノ酸
1mg/l NAA
2mg/l BAP
250mg/l カルベニシリン
50mg/l ハイグロマイシン
4g/l ゲルライト
【0080】
N6SE培地(pH5.8)
N6無機塩
N6ビタミン
30g/l ショ糖
2mg/l 2,4-D
2g/l ゲルライト
500mg/l カルベニシリン
50mg/l ハイグロマイシン
【0081】
MSHF培地(pH5.8)
MS無機塩
MSビタミン
30g/l ショ糖
50mg/l ハイグロマイシン
8g 寒天
【0082】
それらのトランスジェニック植物からシュートを切り取り、常法によりDNAを抽出し、それを鋳型としてCaMV 35Sプロモーターに特異的なプライマー(5'-ATGACGCACAATCCCACTATC-3'; 配列番号5)、及びHSP17.7 cDNAに特異的なプライマー(5'-CTAGCCGGAGATCTGGATGG-3'; 配列番号6)を用いて、T0世代、T1世代及びT2世代植物のPCRスクリーニングを行い、ホモ接合系統を選抜した。
【0083】
実施例3: sHSP17.7を導入したトランスジェニックイネの発現解析
実施例2においてアグロバクテリウム法での形質転換により得られたHSP17.7ホモ接合性のトランスジェニック系統のイネ品種「ほしのゆめ」(T2世代、30系統)について、以下の通り、CaMV 35Sプロモーターの制御下でsHSP17.7を過剰発現させた際のsHSP17.7発現の解析を行った。
【0084】
(1) 組換えsHSP17.7タンパク質の作製とそれに対する抗体の作製
イネ幼苗由来の成熟sHSP17.7をコードするcDNA(OsHSP17.7; Genbankアクセッション番号 U83671, Guan et al., 1998)を、実施例1に従って調製したcDNAを鋳型として、プライマー 5'-GAATTCATGTCGCTGCTGATCCGCCGCGGCAAC-3'(下線部はEcoRI部位; 配列番号7)及び5'-GTCGACGCCGGAGATCTGGATGGACTTGAC-3'(下線部はSalI部位; 配列番号8)を用いたPCRにより増幅した。PCR産物をEcoRI及びSalIで処理し、その切断断片を精製して、発現ベクターpASK-IBA6(SIGMA)中のstrept-tag IIのN末端側にイン・フレームとなるようにライゲーションした。得られたベクターを大腸菌株DH5α中に導入した。この大腸菌株を、IPTGを添加した培地で37℃で一晩培養し、発現ベクターから融合タンパク質を発現させた。培養物から、StrepTactin Sepharose Column(SIGMA)を用いて融合タンパク質を精製した。精製した融合タンパク質のサイズは、SDS-PAGEにより、23kDaであることを確認した。このサイズは融合タンパク質の推定サイズと一致した。
【0085】
得られた組換えsHSP17.7を含む融合タンパク質を、マウスに腹腔内注射し、腹水中にsHSP17.7タンパク質に対する抗体を生成させた。腹水を採取し、それを後の実験でsHSP17.7に対する抗体として使用した。
【0086】
(2) SDS-PAGE及びウェスタンブロット解析
実施例2で作製したT2世代のホモ接合系統のトランスジェニック植物を、発芽後25℃で10日間生長させた後、シュートを切り取った。このシュート組織を抽出バッファー(50 mM Tris-HCl, pH8.0, 1 mM EDTA)中で粉砕し、これを1.5 mLのチューブに入れて、予冷した机上微量遠心分離機で10,000gにて10分間にわたる遠心分離を2回行って細胞破片を除去した。上清を別のチューブに移し、これをタンパク質サンプルとした。このサンプルについては、Bio-Radタンパク質アッセイキット(Bio-Rad Laboratories)を用いて、BSAを標準物質としてタンパク質濃度を測定した。
【0087】
このタンパク質サンプル30μgを、Bio-Radミニゲルシステムを使用して15%(w/v)ポリアクリルアミドSDS-PAGEゲル上で分離し、次いで分離したタンパク質を、Bio-Rad TranBlotを使用し、100Vで1時間かけて、トランスファーバッファー(3.03g/L Tris塩基、14.4g/L Gly、100 mL/L 100% [v/v]メタノール)中でPVDFメンブレン(Amersham Pharmacia Biotech)に転写した。このメンブレンを0.1%(v/v)Tween 20(TBST)及び5%(w/v)脱脂粉乳を含むTBS中で1時間かけてブロッキングした。TBST中のメンブレンに一次抗体(sHSP17.7抗体の10,000希釈物)を添加し、室温で1時間インキュベートした。TBST中、5分間の洗浄を3回行った後、ロバ抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ結合二次抗体(Amersham Pharmacia Biotech)を、TBST中、1:20,000の希釈物としてメンブレンに添加し、インキュベートした。TBST中、5分間の洗浄を3回行った後、ケミルミネッセンス(ECL)しKステム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いてシグナルを検出した。
【0088】
その結果、約50%のトランスジェニック植物においてsHSP17.7タンパク質レベルの顕著な増加が示された。6つのトランスジェニック系統を以後の解析のために選択した。これらのトランスジェニック系統におけるsHSP17.7タンパク質の発現レベルを、図2に示した。トランスジェニック系統47-2及び21-3は、sHSP17.7タンパク質を高レベルで発現した。53-4系統及び13-5系統は、47-2系統及び21-3系統と比較するとより低いレベルでsHSP17.7タンパク質を発現した。40-2系統におけるsHSP17.7タンパク質の発現レベルは53-4系統及び13-5系統よりも低かった。52-3系統ではsHSP17.7タンパク質を全く発現していなかった(図2)。なお、原品種のほしのゆめにおいては、sHSP17.7タンパク質は全く発現されなかった。
【0089】
(3) ノーザンブロット解析
これらの6つのトランスジェニック系統についてノーザンブロット解析を行った。
sHSP17.7 mRNAを検出するためのプローブ(完全長プローブ及び3'非翻訳領域(UTR)プローブ)は、実施例1において調製した24時間の高温処理を行ったイネ幼苗の葉に由来するcDNAから、Taq DNAポリメラーゼ(GIBCO BRL)を用いたPCR増幅によって作製した。完全長プローブについては、プライマー5'-ATGTCGCTGATCCGCCGCGG-3'(配列番号9)及び5'-GCCGGAGATCTGGATGGACT-3'(配列番号10)を用いて増幅した。3'非翻訳領域(UTR)プローブについては、5'-AGAGCCCCGTTTGTTTATTC-3'(配列番号11)及び5'-TTTATTTCCCGTACATAAAC-3'(配列番号12)を用いて増幅した。各増幅断片については配列決定してsHSP17.7遺伝子の配列と一致することを確認した。これらの増幅断片は、ゲル精製した後、それぞれランダムヘキサマープライミング法(Amersham Phaemacia Biotech)を用いて32P-dCTP標識したものを、以下でプローブとして用いた。
【0090】
実施例1で調製した全RNAを、1.2%アガロースゲルで電気泳動し、ニトロセルロースゲルフィルターに転写した。このフィルターをRapid-Hybバッファー(Amersham Pharmacia Biotech)中で1時間かけてプレハイブリダイゼーションに供し、次いで上記で作製したプローブのいずれかを添加して65℃で16時間かけてハイブリダイズさせた。このフィルターについて、2×SSC、0.1% SDS中、15分間、室温での洗浄を2回行い、さらに0.2×SSC、0.1% SDS中、65℃で30分間の洗浄を1回行った。フィルターのオートラジオグラフは、Imaging Plate Scanner BAS1000(Fuji Film)を使用して可視化した。
【0091】
以上のノーザンブロット解析の結果、sHSP17.7タンパク質のレベルに差が見られた上記6つのトランスジェニック植物においては、sHSP17.7 mRNAの発現レベルがsHSP17.7タンパク質のレベルに正比例していることが示された(図2)。
【0092】
実施例4: トランスジェニックイネの高温耐性
標準的な高温耐性アッセイを用いて、6つのトランスジェニック系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び野生型の原品種「ほしのゆめ」の高温耐性を評価した。
【0093】
播種後10日目の6つの系統及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)を、それぞれ50℃で2.5時間処理し、7日後の生存率を調べた(図3)。
【0094】
高温処理後、原品種「ほしのゆめ」は7日以内に死滅した。またsHSP17.7タンパク質の発現がほとんど認められない52-3系統は、原品種「ほしのゆめ」と同様に全ての個体が7日以内に枯死した。一方、52-3系統を除く他の5つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3及び40-2)では、それぞれ45.0%、40.0%、100%、95.0%、10.0%の生存率を示した通り、有意に高温耐性が高かった。特に、sHSP17.7の発現量の多い47-2系統と21-3系統では、90%以上が生存しており、高温耐性が顕著に高かった。
【0095】
実施例5: トランスジェニックイネの紫外線ストレス耐性
播種後10日目の6つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)にUV-B(302nm、3000mJcm-1)を照射し、7日後の電解質漏出率(EC%)を測定することによりUV-B耐性を調べた(図4)。
【0096】
52-3系統及び原品種「ほしのゆめ」は、それぞれ40.5%、40.0%のEC%を示した。このように、sHSP17.7を構成的に発現していない52-3系統は、UVストレスに対する耐性を示さなかった。一方、52-3系統を除く5つの系統で示されたEC%の値は、53-4系統が10.4%、13-5系統が10.1%、47-2系統が19.0%、21-3系統が10.4%、40-2系統が25.0%であり、原品種と比較して紫外線に対する耐性が有意に高かった。
【0097】
実施例6: トランスジェニックイネの乾燥耐性
播種後10日目の6つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)を6日間乾燥処理した後、復水し、7日目の生存率を調べた(図5)。
【0098】
52-3系統及び原品種「ほしのゆめ」の生存率は、それぞれ60.0%、61.4%であった。一方、52-3系統を除く5つのトランスジェニック系統の生存率は、53-4系統が100%、13-5系統が100%、47-2系統が94.7%、21-3系統が100%、40-2系統が100%であり、原品種と比較して乾燥耐性が有意に高かった。
【0099】
実施例7: トランスジェニックイネの塩ストレス耐性
播種後10日目の6つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)を0.45MのNaCl溶液中に3日間浸漬した後、真水に戻して、7日後の生存率を調べた(図6)。
【0100】
52-3系統及び原品種「ほしのゆめ」の生存率は、それぞれ31.8%、25.8%であった。一方、52-3系統を除く5つのトランスジェニック系統の生存率は、53-4系統が100%、13-5系統が97.8%、47-2系統が50.0%、21-3系統が86.4%、40-2系統が77.3%であった。53-4系統、13-5系統、21-3系統、及び40-2系統では原品種と比較して乾燥耐性が有意に高く、47-2系統でも原品種と比較して乾燥耐性が高い傾向が認められた。
【0101】
実施例8: トランスジェニック植物の耐冷性
播種後10日目の6つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)を5℃で13日間処理し、その後25℃に戻して7日後の生存率を調べた(図7)。
【0102】
それぞれの生存率は、53-4系統が15.0%、13-5系統が25.0%、47-2系統が30.0%、21-3系統が20.0%、40-2系統が50.0%、52-3系統が5.0%であった。原品種「ほしのゆめ」の生存率は17.5%であった。40-2系統では耐冷性が有意に高かった。また13-5系統、47-2系統でも原品種と比較して耐冷性が高い傾向が認められた。
【0103】
実施例9: トランスジェニック植物の耐凍性
播種後10日目の6つの系統(53-4、13-5、47-2、21-3、40-2及び52-3)及び原品種「ほしのゆめ」のイネ幼苗(各20個体ずつ2反復を実験に用いた)を−6℃で1時間処理し、その後25℃に戻して7日後の生存率を調べた(図8)。
【0104】
それぞれの生存率は、53-4系統が6.8%、13-5系統が36.4%、47-2系統が7.7%、21-3系統が15.3%、40-2系統が0%、52-3系統が2.3%であった。原品種「ほしのゆめ」の生存率は2.4%であった。13-5系統では耐凍性が有意に高かった。また53-4系統、47-2系統及び21-3系統でも原品種と比較して耐凍性が高い傾向が認められた。
【0105】
実施例10: 組換えsHSP17.7タンパク質の高温耐性付与活性
(1) 組換えsHSP17.7タンパク質の作製
イネ幼苗由来の、成熟sHSP17.7タンパク質をコードするcDNA(OsHSP17.7; Genbankアクセッション番号 U83671, Guan et al., 1998)を、実施例1に従って調製したcDNAを鋳型として、プライマー 5'-CATATGTCGCTGATCCGCCGC-3'(下線部はNdeI部位; 配列番号13)及び5'-CTCGAGGCCGGAGATCTGGAT-3'(下線部はXhoI部位; 配列番号8)を用いたPCRにより増幅した。このPCR産物を、pCR 2.1ベクター(Invitrogen)中にライゲーションした。次いで得られたプラスミドをNdeI及びXhoIで処理し、その切断断片をアガロースゲル電気泳動により精製し、精製断片を発現ベクターpET-42b(+)(Novagen)中のNdeI-XhoI部位に挿入した。得られたベクターを大腸菌株BL21(DE3)pLysS中に導入し、プラスミドクローンpET-HSPを得た。pET-42b(+)ベクターのインサート領域の配列は塩基配列決定により確認した。このpET-HSPを有する大腸菌株を、カナマイシンを添加したLB培地に接種し、37℃で一晩培養した。続いてこの培養物を1Lの新鮮なLB/カナマイシン培地で1/10に希釈し、さらに2時間培養してから、IPTGを終濃度1mMにて添加した。IPTGを添加した後、さらに4時間の培養を行って発現ベクターからHSP17.7タンパク質を発現させてから、その培養物を10,000gで15分間遠心分離した。得られた細胞ペレットを10 mlのPBSバッファー中に再懸濁し、次いで超音波破砕した。この試料を遠心分離して採取した上清を、HisTrapカラム(Amersham Pharmacia Biotech)を用いて精製した。得られたsHSP17.7タンパク質の純度は、SDS-PAGE及びウェスタンブロット解析によって確認した。
【0106】
(2) 組換えsHSP17.7タンパク質との共存によるカタラーゼの熱変性の抑制
上記のようにして得られた組換え精製sHSP17.7タンパク質を、カタラーゼ(ウシ肝臓由来;ナカライテスク社)を添加した50 mM Na2HPO4/NaH2PO4バッファー(pH 8.0)に加えた。このサンプルを55℃に加熱し、その後、360nmでの吸光度を経時的に測定することにより、カタラーゼの凝集量を求めた。吸光度測定にはUV-2100S Shimadzu spectrophotometerを使用した。
【0107】
この結果を図9に示す。図中、Aはカタラーゼ110μg/mlに対してsHSP17.7タンパク質無添加で55℃20分間処理、Bは150μg/ml添加で55℃20分間処理、Cは300μg/ml添加で55℃20分間処理、Dは無添加で25℃で20分間処理したものである。
【0108】
sHSP17.7タンパク質を加えなかったカタラーゼでは、55℃での加熱を開始してから3分後には凝集が始まったが、sHSP17.7タンパク質を150μg/mlあるいは300μg/ml加えたカタラーゼでは凝集が認められなかった(図9のA)。55℃での加熱20分後では、sHSP17.7タンパク質150μg/mlをカタラーゼに加えたサンプルでは、カタラーゼの凝集は半分以下に抑制され、300μg/mlを加えたサンプルでは、凝集がほとんど起こらなかった(図9のB,C)。なお、sHSP17.7タンパク質の代わりにBSAを添加した場合には、カタラーゼの凝集は抑制されなかった。
【0109】
このように、sHSP17.7タンパク質は基質タンパク質の熱変性を有効に抑制することから、高温耐性付与活性を有することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の形質転換イネ科植物は、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件などを含む複合的な環境ストレスが存在する条件下にある不適地での栽培用に用いることができる。また本発明のイネ科植物における複合ストレス耐性の強化法は、既存のイネ科植物について複合的な環境ストレス条件下での栽培を可能にする目的で、その既存のイネ科植物に複合ストレス耐性を付与するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】形質転換に用いた導入遺伝子PMLH7133-HSP17.7の構造を示した図である。
【図2】形質転換系統におけるsHSP17.7の発現量を示した図である。データは示していないが、原品種「ほしのゆめ」ではsHSP17.7はmRNAもタンパク質も全く発現していない。
【図3】sHSP17.7を過剰発現させたイネのUV-B耐性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗にUV-B(302 nm, 3000 mJ cm-1)を照射し、7日後のEC%を測定した。
【図4】sHSP17.7を過剰発現させたイネの高温耐性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗を50℃で2.5時間処理し、7日後の生存率を調べた。
【図5】sHSP17.7を過剰発現させたイネの乾燥耐性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗を6日間乾燥処理し、復水後7日目の生存率を調べた。
【図6】sHSP17.7を過剰発現させたイネの塩ストレス耐性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗を0.45MのNaCl溶液中で3日間処理し、真水に戻して7日後の生存率を調べた。
【図7】sHSP17.7を過剰発現させたイネの耐冷性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗を5℃で13日間処理し、25℃に戻して7日目の生存率を調べた。
【図8】sHSP17.7を過剰発現させたイネの耐凍性を示した図である。播種後10日目のイネ幼苗を−6℃で1時間処理し、25℃に戻して2日目の生存率を調べた。
【図9】sHSP17.7タンパク質との共存下でのカタラーゼの高温耐性を示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0112】
配列番号3〜16の配列は、プライマーである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)の少なくとも1つの遺伝子が導入された、複合環境ストレス耐性を有するトランスジェニックイネ科植物。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子;
(b) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子;
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;及び
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項2】
複合環境ストレス耐性が、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性からなる群より選択される少なくとも2つを含む、請求項1に記載のトランスジェニックイネ科植物。
【請求項3】
乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件からなる群より選択される少なくとも1つを含む条件下での栽培用の、請求項1に記載のトランスジェニックイネ科植物。
【請求項4】
以下の(a)〜(d)の少なくとも1つの遺伝子をイネ科植物中で過剰発現させることを特徴とする、イネ科植物に複合環境ストレス耐性を付与する方法。
(a) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAからなる遺伝子;
(b) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードするDNAからなる遺伝子;
(c) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子;及び
(d) 配列番号2に示されるアミノ酸配列において1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ高温耐性付与活性を有するタンパク質をコードする遺伝子
【請求項5】
複合環境ストレス耐性が、高温耐性、紫外線耐性、乾燥耐性、耐塩性、耐冷性及び耐凍性からなる群より選択される少なくとも2つを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のトランスジェニックイネ科植物を使用することを特徴とする、乾燥条件、高塩濃度条件、低温条件及び凍結温度条件からなる群より選択される少なくとも1つを含む条件下でのイネ科植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−34252(P2006−34252A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222758(P2004−222758)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り Molecular Breeding Volume13,No.2にて発表 発行日:2004年2月 該当頁:165−175
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構 (827)
【出願人】(592113500)株式会社北海道グリーンバイオ研究所 (3)
【Fターム(参考)】