説明

複合磁性体の製造方法及び複合磁性体製造用磁場配向装置

【課題】磁界による磁性体粒子の配向制御を容易に行うことができ、磁性体粒子の移動による変形や気孔の生成を緩和することのできる、複合磁性体の製造方法及びその製造方法に用いることができる複合磁性体製造用磁場配向装置を提供する。
【解決手段】本発明の複合磁性体の製造方法は、磁性体粒子と高分子材料を含むスラリー2を、筒状の回転体1の内壁10に、遠心力によって付着させる工程と、スラリー2に磁界を作用させて、スラリー2中の粒子を配向させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合磁性体の製造方法及びその製造装置に関する。詳しくは、高周波回路基板、高周波電子部品、磁性シート、電磁波遮蔽シート、樹脂結合磁石、磁気記録媒体などに用いられる磁性材料を作製する際に好適に用いられ、磁性体粒子を高分子材料中にて配向させる複合磁性体の製造方法及び、シート状の複合磁性体において、高い配向率を有し、しかも表面が平滑で内部の気孔が少なく、均一性に優れる複合磁性体を製造し得るようにした複合磁性体製造用磁場配向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、電磁波に対する特性や、生産性、使いやすさなどから、高分子材料のような絶縁材料に混合分散した複合磁性体として使用されることが知られている。
そして、磁性材料は、電子機器に搭載される電子部品や、磁性シート、電磁干渉抑制シートや、モーター、トランスなどの電気製品、ビデオテープやフロッピー(登録商標)ディスクなどの記録媒体に用いられている。
【0003】
情報通信機器の高速化、高密度化に伴い、電子機器に搭載される電子部品や回路基板の小型化及び低消費電力化が強く求められている。
一般に、物質内を伝播する電磁波の波長λは、真空中を伝播する電磁波の波長λと物質の比誘電率εr及び比透磁率μrを用いて、
λ=λ/(εr・μr)1/2・・・・・・(1)
と表すことができる。この式(1)によれば、比誘電率εr及び比透磁率μrが大きいほど波長λの短縮率は大きくなる。したがって、電子部品や回路基板を構成する磁性材料の比誘電率εr及び比透磁率μrを大きくすることで、波長λの短縮率を大きくし、電子部品や回路基板の小型化が可能になる。
【0004】
波長短縮率を大きくした材料としては、電子部品や回路基板を構成する絶縁材料に磁性体粒子を混合分散した複合磁性体が提案されている。この複合磁性体では、比透磁率を増加させることで、波長短縮率を大きくしている。(特許文献1参照)
【0005】
ところで、磁性体粒子として球状の磁性体粒子を用いた場合、磁性体粒子個々における反磁界係数が大きくなることから、外部磁場に対して発生する磁束の量、すなわち複合磁性体の比透磁率を大きくすることが難しい、という問題を生じることが一般に知られている。
そこで、このような用途に用いられる磁性体粒子として、厚み5μm以下の磁性体粒子が求められており、扁平状、鱗片状、フレーク状等、アスペクト比(長径/厚み)が大きい様々な形状の磁性体粒子が提案されている。(例えば、特許文献2,3等参照)
【0006】
このような磁性体粒子では、最も反磁界係数の低い平面方向、即ち長軸方向で有効磁場が大きくなり、高い比透磁率を得られる。
そこで、磁性体粒子を絶縁材料中に混合分散した複合磁性体を、電子部品や磁性シート等を構成する材料として利用する場合は、高い比透磁率を得るために、厚みが5μm以下でアスペクト比が大きい磁性体粒子を、絶縁材料中で配向させる必要がある。
また、記録媒体では、外部磁場により磁性体粒子を磁化することで記録されるため、反磁界係数を小さくし、外部磁場が有効に作用するように、上記磁性体粒子が絶縁材料中で配向している必要がある。
【0007】
磁性体粒子を配向させる方法としては、基体上の磁性微粒子を含んだ塗膜を磁石の磁極間に通過させる方法(特許文献4)や永久磁石を内蔵する成形金型を用いる方法(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−087627号公報
【特許文献2】特開昭63−35701号公報
【特許文献3】特開平1−188606号公報
【特許文献4】特開昭57−127931号公報
【特許文献5】特開2000−141392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献4では、基体上に磁性体粒子を塗膜として保持しているが、塗膜形成のためには、基体上で形状を維持するだけの粘度が必要である。そのため、磁界を塗膜に作用させても、塗膜の流動性が低いため、磁性体粒子の移動性は低下し、高い配向性は得られない。しかも、磁性体粒子が磁界によって配向することで、磁性体粒子の周辺のバインダーが移動して、塗膜の変形や気孔の生成などを生じるが、バインダーの粘度が高いために変形や気孔はそのまま残留して均一な複合磁性体にならず、比透磁率も低くなる。
特許文献4では、均一性を得るために磁場内で加熱乾燥による粘度の増加と磁場勾配を提案しているが、磁場内での短時間の加熱乾燥による粘度の増加は、塗膜の収縮による歪の発生原因となり、機械的強度が低下してしまう。
この傾向はアスペクト比の大きな磁性体粒子においては、特に顕著である。
【0010】
特許文献5では、金型内にスラリーが固定されるために、流動性がある状態で磁場を印加することは可能であるが、金型の大きさが磁石の大きさで制限されるため、磁石の大きさの複合磁性体しか製造できない。また、磁性体粒子の磁界による移動で生じる変形や気孔の生成などを緩和することもできない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、磁界による磁性体粒子の配向制御を容易に行うことができ、磁性体粒子の移動による変形や気孔の生成を緩和することができる複合磁性体の製造方法、及びその製造方法に用いることができる複合磁性体製造用磁場配向装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、磁性体粒子と高分子材料を含むスラリーを、筒状の回転体の内壁に、遠心力によって付着させる工程と、そのスラリーに磁界を作用させて、スラリー中の粒子を配向させる工程を有することを特徴とする複合磁性体の製造方法を提供する。
また、本発明は、複合磁性体製造用磁場配向装置において、スラリーを収容する筒状の回転体と、その回転体を駆動させる機構と、その回転体の内壁に付着させたスラリー中の磁場粒子を配向させる1組以上の磁石を備えたことを特徴とする複合磁性体製造用磁場配向装置を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、遠心力を用いてスラリーを一定形状に保持するので、低粘度のスラリーを用いることができる。これにより、磁性体粒子が高分子材料中において容易に配向することができ、かつ配向によって生じる高分子材料(または複合磁性体)の変形や気孔の生成を遠心力により緩和できるので、高い比透磁率で表面平滑性に優れた複合磁性体を容易に作製することができる。
また、筒状の回転体の径や回転軸方向の幅を変更することで、磁石の大きさに制限されることなく、大型の複合磁性体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】複合磁性体製造用磁場配向装置の概略図
【図2】図1をA方向から見た図
【図3】図1をB−B’面で切断して上方向から見た図
【図4】粘度に対する比透磁率を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施形態は、磁性体粒子と高分子材料を含むシート状の複合磁性体の製造方法であり、筒状の回転体の内壁に遠心力によって付着された磁性体粒子と高分子材料を含むスラリーに対して、回転軸方向と平行に磁界を加えることにより、磁性体粒子を回転軸に対して平行方向へ配向させる方法である。
【0016】
本実施形態の複合磁性体の製造方法について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本実施形態の複合磁性体製造用磁場配向装置の概略図である。図2は、図1のA方向矢視図である。図3は、図1のB−B’線に沿う位置における断面図である。
なお、この形態は発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
〔複合磁性体製造用磁場配向装置〕
上記方法を実施するための装置について説明する。本実施形態の複合磁性体製造用磁場配向装置は、図1及び図2に示すように、スラリー2を収容できる筒状の回転体1と、回転体1を回転駆動させる駆動機構6と、回転体1の内壁10に付着させたスラリー2中の磁性体粒子を配向させる1組の磁石3a、3bと、スラリー2を乾燥させる乾燥機構4を備えている。
【0018】
回転体1は、図3に示すように、回転体1の周壁部7bと、周壁部7bの開口端から径方向の内側に張り出すリング状の側壁部7a、7aとからなり、側壁部7a、7aと周壁部7bとによりスラリーを収容するくぼみ8が、回転体1の内周側に形成されている。くぼみの深さ9は、スラリー2を保持するために必要な深さに調整すればよい。
【0019】
回転体1の材質は、スラリー2に侵食されず、スラリー2が接着せず、非磁性体の材質であれば特に限定されないが、例えばアルミ、銅、非磁性ステンレス、樹脂等が挙げられる。
【0020】
回転体1の回転軸11の方向は特に限定されないが、重力の影響を考慮して、水平方向と略平行方向であることが好ましい。
【0021】
回転体1を回転駆動させる駆動機構6は、スラリー2を均一に付着させるのに十分な遠心力を発生させることができれば特に限定されず、例えば、モーターが挙げられる。
【0022】
磁石3a、3bの設置場所は、磁石3a、3bが互いに対向し、かつ側壁部7aにそれぞれ対向するように設置すれば、特に限定されない。磁石3a、3bを動作させると、磁力線は磁石3aから磁石3b、または磁石3bから磁石3aへと発生する。磁力線は、回転体1の内壁に保持されたスラリー2の層をその幅方向(略水平方向)に横切る。
磁石は電磁石や永久磁石が挙げられるが、磁束量や磁界の印加時間を容易に調整できることより、電磁石が好ましい。磁石の設置組数は特に限定されず、適宜調整すればよい。
【0023】
乾燥機構4は、スラリー2を固体状に成形することができれば特に限定されないが、例えば温風供給源に接続した温風吹き出しノズルにより、回転体1に収容したスラリー2に温風を吹きつける機構を用いることができる。
また、熱供給源と回転体1を接続し、回転体1を加熱することでスラリーを固体状に成形することもできる。この場合の乾燥機構4は、回転体1に接続された上記熱供給源である。
なお、高分子材料として紫外線硬化樹脂を用いる場合には、紫外線照射機構を備えて、スラリーを固体状に成形してもよい。この場合には、上記紫外線照射機構が乾燥機構4を構成する。
【0024】
次に製造方法の詳細について説明する。本実施形態の製造方法は、以下のスラリー作製工程と、シート状成形工程と、磁性体粒子配向工程と、乾燥・硬化工程とを有する。
【0025】
〔スラリー作製工程〕
磁性体粒子と、高分子材料と、必要に応じて、硬化剤と溶媒とを混合し、複合磁性体の製造に用いるスラリーを調製する。
【0026】
磁性体粒子は、厚みが0.1μm以上かつ5μm以下であり、かつアスペクト比(平均長径/平均厚み)は、2以上であることが好ましい。
磁性体粒子の厚みは0.1μm以上かつ1μm以下がより好ましく、100MHz以上の高周波で使用する磁性体粒子である場合には、0.1μm以上かつ0.5μm以下の厚みのものがさらに好ましい。厚みが0.1μm未満の磁性体粒子は、製造や取り扱いが難しく、5μmを超えると、得られた複合磁性体の比透磁率が低くなるため好ましくない。
アスペクト比は6以上がより好ましい。アスペクト比が2未満では、粒子形状により、反磁界係数を小さくする効果が発揮できなくなるため、複合磁性体が高い比透磁率を得ることができず、また、複合磁性体に印加される有効磁場が小さくなるため、好ましくない。一方、アスペクト比が大きくなると、高分子材料中で配向しにくくなったり、強度が低下したりするため、実用的には20程度が上限となる。
【0027】
磁性体粒子の長径は、0.2μm以上かつ100μm以下が好ましく、100MHz以上の高周波で使用する磁性体粒子は、0.2μm以上かつ5μm以下が好ましい。ここで長径が0.2μm未満の磁性体粒子は、製造や取り扱いが難しく、長径が100μmを超えると、スラリー中での分散安定性が悪くなるため、好ましくない。
【0028】
磁性体粒子の形状は、アスペクト比が上記範囲内であれば特に限定されないが、板状、平板状、棒状、扁平状、鱗片状、フレーク状などが挙げられる。高周波回路基板や高周波電子部品等に用いる場合には、平板状の磁性体粒子が好ましい。
【0029】
磁性体粒子としては、磁性を有する粒子であれば特に限定されることなく、例えば、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)のいずれか1種または2種以上、またはこれらの中から選択される2種以上の合金でもよい。
2種の合金としては、Fe−Ni合金、Fe−Si合金、Fe−Co合金、Fe−Cr合金などがあげられ、3種の合金としては、Fe−Si−Al合金、Fe−Cr−Si合金などがあげられる。
Fe−Ni合金の中でも、パーマロイは比較的安定性があり、かつ磁気異方性係数や磁歪係数が0であることから、交流磁場で使用するのに好ましい。また、Ni−Fe−Zn合金は、パーマロイへのZnの添加により、磁気異方性係数や磁歪係数は0でなくなるが、加工性が高くなり、大きなアスペクト比をもつ磁性体粒子が得られるために好ましい。
【0030】
高分子材料としては、磁性体粒子を混合した際に低粘度で流動性のあるスラリーが得られる材料であれば特に限定されることはなく、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリフェニレン樹脂、ポリベンゾシクロブテン樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリシクロヘキサン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シアネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等のアクリル系またはメタクリル系モノマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマーなどが挙げられる。
これらの中でも、多くの溶媒に溶解性を持ち、粘度調整をしやすい点で、エポキシ樹脂やポリシクロオレフィン樹脂が好ましい。
【0031】
硬化剤の種類や量などは、使用する樹脂の種類に対して、適宜選択すればよい。
【0032】
上記スラリーの粘度を調整するために、適宜溶媒を用いてもよい。溶媒としては、上記の高分子材料を溶解させることができるものであれば特に限定されないが、例えば、有機溶媒の群から選択される1種または2種以上が好適に用いられる。
【0033】
上記の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ―ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒は、1種のみ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
シクロヘキサノンやキシレンなどの沸点の高い溶媒は、スラリ−2が回転体1内で回転している際に、溶媒の揮発によるスラリー2の増粘をより抑制できるので好ましい。
【0034】
上記スラリー中の磁性体粒子の含有率は、スラリー中の揮発成分以外が硬化して固体状になった場合の体積に対して、10体積%以上かつ50体積%以下が好ましく、20体積%以上かつ40体積%以下がより好ましい。
ここで磁性体粒子の含有率が10体積%未満では、磁性体粒子が少なすぎて複合磁性体としての磁気特性が低下してしまうので好ましくなく、50体積%を超えると、磁性体粒子が多すぎて、スラリーの流動性が低下し、その結果、磁性体粒子の配向性が低下してしまうので好ましくない。
【0035】
上記スラリーの粘度は、100mPa・S以上かつ1000mPa・S以下であることが好ましく、さらには300mPa・S以上かつ600mPa・S以下であることが好ましい。
ここで、スラリーの粘度が100mPa・Sを下回ると、流動性が大きくなりすぎて、回転体1の内壁10に付着させてぬれ広がらせることが困難である。一方、1000mPa・Sを超えると、粘性が高すぎて磁性体粒子がスラリー2中で配向しにくくなり、その結果、得られる複合磁性体の磁気特性が低下してしまう。
【0036】
上記磁性体粒子と高分子材料等を混合してスラリーにする装置としては、遊星攪拌機、ロールミル、自公転式ミキサー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等が挙げられる。
【0037】
〔シート状成形工程〕
磁性体粒子、高分子材料等を含むスラリー2を回転体1内に供給し、駆動機構6を作動させて回転体1を回転させ、膜厚が均一になるように、ぬり広げて付着させる。あるいは、回転体1を回転させながらスラリー2を供給することで、内壁部10に均一にぬり広げてもよい。
このとき、乾燥機構4のノズルからスラリー2に対して送風することにより、スラリー2中の溶媒を部分的に揮発させることで、スラリー2が内壁10に均一に広がるように粘度を調整することも可能である。
【0038】
回転体1の回転速度は、回転体1の内径によるため、一概には決定できないが、回転体1の内壁10にかかる遠心加速度が2G以上かつ10G以下である回転速度とすることが好ましい。
遠心加速度と回転速度の関係は次の式で求められる。
α=4πω・R/(3600・g)
この式でα(G)は遠心加速度、ω(rpm)は回転速度、R(m)は回転体1の内径、g(m/s)は重力加速度である。遠心加速度が2G未満であると、スラリー2を回転体1の内壁10へ押し付ける力が不足するため、スラリー2が回転体1の内壁10に均一に広がらなくなる。一方、10Gを超えると遠心力により磁性体粒子と高分子材料が分離してしまい磁気特性に不均一が生じてしまうため、好ましくない。
【0039】
〔磁性体粒子配向工程〕
電磁石3a、3bを動作させて、スラリー2に磁場を加えて、スラリー2中の磁性体粒子を回転軸方向11と略平行方向に配向させる。
電磁石3a、3bが印加する磁界の大きさは100ガウス以上かつ1000ガウス以下であることが好ましい。スラリー2に印加する磁界の大きさが、100ガウス未満であると、印加する磁界が小さすぎるため、磁性体粒子を十分に配向させることができず、一方、スラリー2に印加する磁界が1000ガウスを超えると、印加する磁界が大きすぎて、磁性体粒子と高分子材料が分離してしまい、磁気特性に不均一が生じるため、好ましくない。磁界の印加を開始する時機は特に限定されないが、スラリー2が内壁10にある程度均一に広がってから印加することが、磁性体粒子を十分に配向させ、複合磁性体表面を平滑化するのに好ましい。
この磁界によって、磁性体粒子は回転軸11(磁力線)方向に配向するように移動するが、その移動により生じるスラリー2の表面の凹凸や内部の不均一は、上記遠心力によって平滑化されることで解消することができる。
【0040】
〔乾燥・硬化工程〕
回転体1の内壁10に付着したスラリー2を回転保持したまま、乾燥機構4により、スラリー2中の溶媒を乾燥、または高分子材料の半硬化により、固体状の成形体を形成する。乾燥機構4の動作条件(処理温度、処理時間等)は、使用する溶媒や高分子材料に応じて、適宜調整すればよい。
次いで、回転体1の回転を停止し、固体状の成形体を回転体1より回収する。その後、回収した成形体を加熱し、高分子材料を硬化させて複合磁性体を得る。硬化条件は、使用する高分子材料に応じて、適宜調整すればよい。
紫外線硬化樹脂を高分子材料として用いる場合は、加熱硬化の代わりに、紫外線を照射して高分子材料を硬化させて、複合磁性体を得ることができる。
100MHz以上の高周波で使用する複合磁性体を製造する場合には、比透磁率が6以上の複合磁性体を得ることが好ましい。
【0041】
本実施形態の複合磁性体の製造方法によれば、磁性体粒子と高分子材料を含有するスラリーを、筒形状の回転体の内壁に遠心力によって回転体の内壁に付着させてぬり広げて保持し、次いで、回転軸方向と平行に磁界を印加するので、低粘度で流動性のある状態で磁性体粒子を配向させることができ、さらに配向によって生じる変形や気孔は、遠心力により緩和できる。
したがって、磁性体粒子の高分子材料中における配向分散性に優れ、表面平滑性にも優れた複合磁性体を容易に作製することができる。また、筒状回転体の径や回転軸方向の幅を変えることで、磁石の大きさの制限なく、大型の複合磁性体を作製することができる。
【0042】
本発明により製造した複合磁性体は、磁性体粒子の配向性が高いことから、アンテナ基板、電子回路基板、インダクションコイル等の電子部品、磁性シート、電磁干渉抑制シート、樹脂コンパウンド磁石、磁気記録媒体に適用することができる。
さらに、得られた複合磁性体を高周波回路基板、高周波電子部品等の磁性材料に適用することにより、回路基板や電子部品等の小型化及び低消費電力化を実現することができる。
【実施例】
【0043】
以下実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例では、以下の方法で評価した。
(1) 粘度測定
BM型粘度計(東機産業社製)で、大気中室温において測定した。
(2) パラレルライン法による透磁率測定
透磁率測定装置(Agilent Technologies社製、ベクトルネットワークアナライザー 8791ES型)にて、大気中室温において、1GHzで測定した。
(3) インピーダンスアナライザーによる透磁率測定
透磁率測定装置(Agilent Technologies社製、RFインピーダンス/マテリアルアナライザーE4991A型)にて、大気中室温において、10MHzで測定した。
【0044】
[実施例1]
平均長径が2.5μm、平均厚みが0.3μmの磁性体粒子(Ni:75質量%−Fe:20質量%−Zn:5質量%合金)、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン系硬化剤及びシクロヘキサノンを、樹脂に対して磁性体粒子が30体積%になるように遊星撹拌機に投入し、5分間混合してスラリーを得た。このスラリーの粘度は400mPa・Sであった。
次にこのスラリーを、図1に示す装置に投入し、回転体を遠心加速度5Gで回転させながら、スラリーを回転体の内壁に均一に付着させた。
ついで、遠心加速度は5Gのまま回転させながら、900ガウスの磁界を6分間印加した後に、80℃の温風をあてて溶媒を除去した。次いで、回転体を停止させ、得られた成形体を120℃で2時間乾燥機で硬化反応させて、複合磁性体を得た。
この複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは8.3であった。
【0045】
[実施例2]
実施例1において、シクロヘキサノンの量を制御することでスラリーの粘度を200mPa・Sとした以外は、実施例1と同様の方法で複合磁性体を得た。この複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは7.0であった。
【0046】
[実施例3]
実施例1において、ビスフェノール型エポキシ樹脂のかわりにポリシクロオレフィン樹脂を、シクロヘキサノンのかわりにキシレンを用いた以外は同様にして、複合磁性体を得た。スラリーの粘度は550mPa・Sで、複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは10.5であった。
【0047】
[実施例4]
実施例1において、シクロヘキサノンの量を制御することでスラリーの粘度を800mPa・Sとした以外は、同様にして、複合磁性体を得た。この複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは9.5であった。
【0048】
[実施例5]
平均長径が60μm、平均厚みが3μmの磁性体粒子(Fe:85質量%−Si:9.5質量%−Al:5.5質量%合金)、ウレタン樹脂、アミン系硬化剤及びシクロヘキサノンを、樹脂に対して磁性体粒子が40体積%になるように遊星撹拌機に投入し、5分間混合してスラリーを得た。このスラリーの粘度は600mPa・Sであった。
次にこのスラリーを、図1に示す装置に投入し、遠心加速度5Gで回転させながら、スラリーを回転体の内壁に均一に付着させた。
ついで、遠心加速度は5Gのまま回転させながら、900ガウスの磁界を6分間印加した後に、80℃の温風をあてて溶媒を除去した。次いで、回転体を停止させ、得られた成形体を120℃で2時間乾燥機で硬化反応させて、複合磁性体を得た。
この複合磁性体の複素透磁率をインピーダンスアナライザーにより測定したところ、10MHzにおける比透磁率μrは32.5であった。
【0049】
[実施例6]
実施例1において、シクロヘキサノンの量を制御することでスラリーの粘度を1200mPa・Sとした以外は同様にして、複合磁性体を得た。この複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは4.5であった。
【0050】
[実施例7]
実施例1において、シクロヘキサノンの量を制御することでスラリーの粘度を50mPa・Sとしたところ、粘度が低すぎるために遠心加速度を10Gまで上げても、均一な形状が保持できなかった。それ以上に遠心加速度を上げると高分子材料と溶媒が分離した。
そこで、溶媒が分離しない遠心加速度(10G)を維持したまま、磁場配向装置に備えられた乾燥機構を動作させてスラリー中のシクロヘキサノンを部分的に除去し、スラリーの粘度を上昇させたところ、スラリーを均一に濡れ広がらせることができるようになり、先の実施例と同様に複合磁性体を製造することができた。均一に濡れ広がらせることができたときのスラリーの粘度は100mPa・sであった。
【0051】
[比較例1]
実施例1のスラリーをPETフィルム上にバーコーターにて0.1mmの厚さにシート成形を行った。シートは低粘度で流動性がある状態なので取り扱いが困難であり、磁石の大きさに対して、シートが大きいために、全体に磁場を印加することはできなかった。そこで、シートを取り扱いできる状態まで室温で乾燥させて、30×30×0.1mmに切り出して、シート面に対して平行方向に2キロガウスの磁場を6分間印加した後に、120℃で2時間硬化反応させて複合磁性体を得た。この複合磁性体の複素透磁率をパラレルライン法により測定したところ、1GHzにおける比透磁率μrは4.5と小さかった。
【0052】
まとめとして、実施例1〜4、6の粘度に対する比透磁率を図4に示す。本実施例の複合磁性体の製造方法によれば、スラリーの粘度が200mPa・S〜800mPa・Sの範囲で、7以上の高い比透磁率が得られた。
図4の傾向から、100〜1000mPa・Sの範囲であれば、6以上の比透磁率を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1 筒形状の回転体
2 スラリー
3a、3b 磁石
4 乾燥機構
5 回転方向
6 駆動機構
7a 側壁部
7b 周壁部
8 くぼみ
9 くぼみの深さ
10 内壁
11 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体粒子と高分子材料を含むスラリーを、筒状の回転体の内壁に、遠心力によって付着させる工程と、
前記スラリーに磁界を作用させて、前記スラリー中の粒子を配向させる工程とを有することを特徴とする複合磁性体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法において、スラリーの粘度が100mPa・S以上かつ1000mPa・S以下であることを特徴とする複合磁性体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の製造方法において、磁性体粒子のアスペクト比(平均長径/平均厚み)が2以上であることを特徴とする複合磁性体の製造方法。
【請求項4】
スラリー中の磁性体粒子を配向させる装置において、スラリーを収容する筒状の回転体と、該回転体を駆動させる機構と、回転体の内壁に付着させたスラリー中の磁場粒子を配向させる1組以上の磁石を備えたことを特徴とする複合磁性体製造用磁場配向装置。
【請求項5】
請求項4記載の複合磁性体製造用磁場配向装置において、前記1組以上の磁石が、前記回転体の回転軸方向の端面である側壁部に対向するように配置されていることを特徴とする複合磁性体製造用磁場配向装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の複合磁性体製造用磁場配向装置において、スラリーを乾燥する機構を備えたことを特徴とする複合磁性体製造用磁場配向装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−60071(P2012−60071A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204585(P2010−204585)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】