説明

複合積層状生地

【課題】表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する層状ベーカリー製品を、簡単な方法で安定して得ることができる積層状生地、及び、該特徴を有する層状ベーカリー製品の製造方法を提供すること。
【解決手段】餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地としたこと特徴とする複合積層状生地、及び該複合積層状生地を加熱することを特徴とする層状ベーカリー製品の製造方法。上記餅様生地は、穀類、水分及び糖類からなる求肥生地であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地とした複合積層状生地、及び該複合積層状生地を加熱してなる層状ベーカリー製品に関する。
【背景技術】
【0002】
パイやデニッシュ等の層状ベーカリー製品を製造する際に、マルトース粉末やブドウ糖粉末などの粉末状の糖類を生地表面に付着させてから焼成する方法がしばしば行われる。これは、層状ベーカリー製品、とくにパイのように水分含量が少なく、多数の薄い層状の生地から構成されたベーカリー製品の場合は、焼成時の生地の上面の水分蒸散が早いため、これらの粉末状の糖類が焼成時に溶融し、カラメル化することで、ごく薄いカラメル化層が層状ベーカリー製品の表面に生成するためである。このカラメル化層は、表面が平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するため、この粉末状の糖類を付着させる方法は、パイやデニッシュなどの商品価値を高めるために、簡便且つ極めて有効な方法であり、広く実施されている。
しかし、この方法では、成型後の生地に粉末状の糖類を振りかけるために展板を汚してしまう問題や、焼成温度が低い場合や付着量が少ない場合には、連続したカラメル化層が生成せず、白色のまま残存してしまったり、ザラメ状の斑点を形成してしまうなどの問題があった。また、粉末状の糖類は生地への付着性が低いため、焼成時の生地の膨張によって剥がれ落ちたりする問題もあった。そのため、表面に水を塗ってから粉末の糖をふりかけたり、粉末を振りかけたのちに水をスプレーしたりするが、粉末状の糖類はダマになりやすく、その場合カラメル化層は不均一になり、表面が粗面で艶のないものになってしまう。また、そのような場合、層状ベーカリー製品の浮き自体も不均一になってしまうことさえあった。
【0003】
そこで、例えば、比較的低温度の焼成温度で溶融する糖類を使用する方法(例えば特許文献1参照)や、プルランやキサンタンガム等の増粘多糖類を含有する水溶液を塗布してから焼成する方法(例えば特許文献2参照)、あるいは表面をアルカリ処理してから焼成する方法(例えば特許文献3参照)等が提案されている。
しかし、特許文献1に記載の方法は、平滑な表面となるが、食感がやや粘ついた食感となり、カリカリした良好な食感にはならないという問題に加え、着色がやや淡く艶のない表面になりやすいという問題もあった。また、特許文献2に記載の方法は、平滑な表面となるが、焼成後に得られるのが多糖類によるごく薄いフィルムであるため、カリカリした食感が得られないという問題があった。更に特許文献3に記載の方法は、表面を強制的にアルカリで糊化することで、プレッツエル状の焼き色とするものであるが、層状ベーカリー製品の表面は基本的に薄い層状であるため、硬い食感にはならず、カリカリした良好な食感は得られないという問題に加え、その着色の色質がカラメルとは大きく異なり艶も透明感もないという問題もあった。
【0004】
一方、ベーカリー製品において目新しい外観や食感を求め、餅生地を洋菓子に導入することがおこなわれている。例えば、大福餅をパイ生地で被覆して焼成した菓子(例えば特許文献3参照)や、ホイップクリームやカスタードクリームを求肥で包餡した菓子(例えば特許文献5参照)や、シュー生地の上面に薄板状の餅生地を積載して焼成したシューケース(例えば特許文献6参照)などが提案されている。
しかし、特許文献4に記載の菓子はその表面自体には何ら特徴のあるものでなく、単に内生地の大福餅によりパイ層の剥離が抑制されているだけであり、特許文献5に記載の菓子は、焼成する工程を含まないため、単に求肥の食感を楽しむだけであり、特許文献6に記載のシューケースは、シュー生地と餅様生地という2種の糊化生地が焼成時に一体化するため、滑らかな表面のシューケースが得られるというものであり、焼き色を始め、その表面は一般のシューケース類似の表面であり、艶や透明感のある表面を有するものではなかった。
【0005】
このように、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する、パイやデニッシュ等の層状ベーカリー製品を、簡単な方法で安定して製造することのできる製造方法は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平03−042867号公報
【特許文献2】特開平04−287635号公報
【特許文献3】特公昭58−032947号公報
【特許文献4】特開2005−312349号公報
【特許文献5】特公平07−089872号公報
【特許文献6】特開2010−154761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する層状ベーカリー製品を、簡単な方法で安定して得ることができる積層状生地、該特徴を有する層状ベーカリー製品、及び該特徴を有する層状ベーカリー製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、積層状生地表面に、粉末や、流動状の水分の多いバッター状の生地ではなく、水分が少ない餅様生地、とくに求肥生地を上掛けして焼成すると、粉末状の糖類を付着して焼成した場合に比べてはるかに均質で良好な焼き色の表面が、簡単に安定して得られることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地としたこと特徴とする複合積層状生地を提供するものである。
また、本発明は、上記複合積層状生地を加熱してなる層状ベーカリー製品を提供するものである。
また、本発明は、上記層状ベーカリー製品の好ましい製造方法として、餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地とした複合積層状生地を、加熱することを特徴とする層状ベーカリー製品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合積層状生地を使用すれば、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する層状ベーカリー製品を、簡単な方法で安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の複合積層状生地について好ましい実施形態に基づき詳述する。
本発明の複合積層状生地は、上掛け生地としての餅様生地と内生地としての積層状生地からなるものである。
【0011】
先ず、本発明で使用する餅様生地について述べる。
本発明でいう餅様生地とは、餅や求肥に代表される、穀類と水分を必須成分として用いて得られた粘弾性に富む生地を広く指す。
上記穀類としては、米、小麦、とうもろこし、大麦、粟、タピオカ、じゃがいも、甘藷、サゴ、大豆等が挙げられ、これらの穀類そのものをはじめ、該穀類から得られる穀粉や、該穀類から得られる澱粉や化工澱粉を使用することができる。これらの穀類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0012】
本発明では、上記穀類としてアミロペクチン含量の高いものを穀類中の50質量%以上、特に70〜100質量%となるように使用することが、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する層状ベーカリー製品が得られやすい点で好ましい。このような穀類としては、餅米、ワキシーコーン、餅大麦、タピオカ等が挙げられ、これらの穀類そのものをはじめ、該穀類から得られる穀粉や、該穀類から得られる澱粉や化工澱粉を使用することができる。これらの穀類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
また、本発明では、上記穀類として、米、米粉、米澱粉のうちの1種又は2種以上を穀類の50質量%以上、特に70〜100質量%となるように使用することが、とりわけ滑らかな表面を呈する層状ベーカリー製品が得られる点で好ましい。米粉にはその原料とする米の種類や製粉方法により様々な名称のものがあるが、餅米粉としてはもち粉や白玉粉等、うるち米粉としては上新粉や上用粉等が、粒度が細かく餅様生地の製造が容易である点で好ましく使用される。
【0014】
上記餅様生地に使用される上記水分としては、水を使用することができるほか、後述のその他の原材料として挙げるもののうち、例えば、牛乳、クリーム、果汁等の水分を多く含有する原材料を使用することもできる。これらの水分は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。上記水分の使用量は、最終的に粘弾性に富む餅様生地を得ることができる量であれば特に制限されるものではないが、上記穀類100質量部に対して70〜300質量部が好ましい。
【0015】
上記餅様生地は糖類を含有すること、すなわち求肥生地であることが、複合積層状生地製造時にソフトであり扱いやすいこと、加熱時の伸展性が良好であるため層状ベーカリー製品の表面に滑らかで均質な厚さの層を形成できること、さらには良好な焼き色と、積層状生地部分と一体化したカリカリした食感が得られることから好ましい。
【0016】
上記糖類としては、例えば上白糖、グラニュー糖、粉糖、液糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、酸糖化水飴、水あめ、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖等が挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
上記糖類の添加量は、穀類100質量部に対し、固形分として好ましくは30〜500質量部、より好ましくは70〜300質量部、さらに好ましくは100〜300質量部である。
【0017】
このように、本発明では上記餅様生地として、穀類としてアミロペクチン含量の高い穀類であって米由来の穀類を多く使用し、且つ、糖類を添加した餅様生地、すなわち求肥生地を使用することが好ましい。中でも、糖類を添加してから更に加熱して練り上げ、水分をとばした求肥生地を使用することがさらに好ましい。
【0018】
また、本発明では上記餅様生地として、市販の餅生地や求肥生地を使用することもできる。このような市販の餅様生地としては、例えば、ぎゅうひクレープ(株式会社タヌマ製)や、生八ツ橋(株式会社おたべ製)等を挙げることができる。
【0019】
上記餅様生地には、上記穀類、水分、糖類以外にも、通常餅や求肥に使用することができるその他の原材料を使用することができる。該その他の原材料としては、例えば、グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・アラビアガム・アルギン酸類・ペクチン・キサンタンガム・プルラン・タマリンドシードガム・サイリウムシードガム・結晶セルロース・CMC・メチルセルロース・寒天・グルコマンナン・ゼラチン等の増粘安定剤、生乳・牛乳・特別牛乳・生山羊乳・殺菌山羊乳・生めん羊乳・部分脱脂乳・脱脂乳・加工乳・クリーム・チーズ・濃縮ホエイ・濃縮乳・脱脂濃縮乳・無糖練乳・無糖脱脂練乳・加糖練乳・加糖脱脂練乳・全粉乳・脱脂粉乳・クリームパウダー・ホエイパウダー・蛋白質濃縮ホエイパウダー・バターミルクパウダー・加糖粉乳・調製粉乳・発酵乳・乳酸菌飲料・乳飲料等の乳や乳製品、カゼインカルシウム・カゼインナトリウム・ホエープロテインコンセートレート等の乳蛋白、卵及び各種卵加工品、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、アミラーゼ・ヘミセルラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・カタラーゼ・リポキシゲナーゼ・アスコルビン酸オキシダーゼ・スルフィドリルオキシダーゼ・ヘキソースオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料類、酢酸・乳酸・グルコン酸等の酸味料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、シナモン等の香辛料、カカオマス、ココアパウダー、野菜類・肉類・魚介類等の食品素材、着香料等が挙げられる。上記その他の原材料を使用する場合、その使用量は合計で、上記穀類100質量部に対し100質量部以下とすることが好ましい。
【0020】
上記餅様生地の製造方法について以下に述べる。
上記餅様生地の製造方法は、通常の餅や求肥の製造方法と同一でよく、例えば、穀類に水分を添加してなる混合物を加熱して糊化させた後、練り合わせることによって得ることができる。ここでいう加熱としては、炊く、蒸す、茹でる等の餅や求肥の製造方法で一般的に用いられる加熱方法と同一の方法を採ることができる。なお、穀類として糊化済みの穀粉や澱粉を使用した場合は特に加熱する必要はない。
【0021】
上記餅様生地が糖類を含有する場合、すなわち求肥生地である場合は、糊化させた後に糖類を添加する方法であっても、糊化前の混合物に糖類を添加する方法であってもよい。
また、糖類を添加してから更に加熱して練り上げ、水分をとばした求肥生地を製造する場合は、混合物に糖類を添加して加熱しながら練り上げる方法であっても、糊化させた後に糖類を添加して更に加熱して練り上げる方法であってもよい。すなわち、水練り法、茹で練り法、蒸し練り法のいずれの方法であってもよい。
なお、本発明では、上記餅様生地製造のために、上述の原材料を適宜配合済みのミックス粉を使用することももちろん可能である。
【0022】
次に本発明で使用する積層状生地について述べる。
本発明で使用する積層状生地とは、小麦粉主体のドウに対し、可塑性油脂組成物をロールインすることによって得られるものである。
【0023】
上記小麦粉主体のドウとは、小麦粉に、水と、必要に応じて小麦粉以外の穀粉、油脂、卵、粉乳、食塩、糖類、呈味剤、イースト菌、膨張剤等を加えて練り上げたものであり、例えば、パイ生地、デニッシュ生地、クロワッサン生地、ドーナツ生地、イーストドーナツ生地、タルト生地等が挙げられる。本発明では、良好な層状構造を得ることができる点でイーストを含まないパイ生地であることが好ましい。なお上記生地名称はここでは可塑性油脂組成物をロールインする前の生地をさす。
なお、上記小麦粉主体のドウの水分含量は、小麦粉100質量部に対し、好ましくは、水分が40〜60質量部、より好ましくは45〜55質量部とする。これは、この水分含量とすることで、表面のカリカリ感と焼き色の優れた層状ベーカリー製品が得られるためである。なお、上記水分には、小麦粉以外のその他の原材料に含まれる水分含量も併せて算出するものとする。
【0024】
本発明で使用する可塑性油脂組成物は、一般のパイやデニッシュ・ペストリー等の積層状生地の製造で使用するバターや水中油型マーガリン、油中水型マーガリン、ショートニング等であり、ロールイン作業に適したシート状、ブロック状、あるいは小片状の一般的なロールイン用の可塑性油脂組成物を使用することができる。
上記可塑性油脂組成物に使用する原料の油脂としては、特に限定されないが、例えばパーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。
本発明においてはこれらの油脂を単独で用いることもでき、また2種以上を組み合わせて用いることもできる。さらに、本発明で使用する可塑性油脂組成物は、上記の原料油脂の他に、必要により、副原料として、水、糖類、糖アルコール類、乳化剤、食塩、香料、着色料、酸化防止剤、各種呈味材料等を使用することができる。そして、原料油脂やその他の副原料を用いて常法に従い、ショートニングタイプやマーガリンタイプのシート状、ブロック状、あるいは小片状の可塑性油脂組成物とする。
【0025】
本発明で使用する積層状生地とは、上記小麦粉主体のドウに対し、上記可塑性油脂組成物をロールインすることによって得られるものであるが、ここで可塑性油脂組成物のロールイン量は、上記の小麦粉主体のドウ100質量部に対して、好ましくは5〜100質量部、より好ましくは15〜70質量部、さらに好ましくは30〜60質量部である。可塑性油脂組成物のロールイン量が5質量部よりも少ないと、得られる層状ベーカリー製品が層状構造を有さないものになるおそれがあるため好ましくなく、また可塑性油脂組成物のロールイン量が100質量部よりも多いと、得られる層状ベーカリー製品の層状構造部分が脆く、損壊しやすくなってしまうおそれがあり、また、油っぽい食感となってしまう上に焼成時に油脂漏れが発生するおそれもある。
また、積層状生地の好ましい層数は3〜512層、より好ましくは16〜256層である。層数が3層よりも少ないと、得られる層状ベーカリー製品の層状構造部分が脆く、損壊しやすくなってしまうおそれがあり、また、油っぽい食感となってしまう上に焼成時に油脂漏れが発生するおそれもある。また層数が512層よりも多いと、得られる層状ベーカリー製品が層状構造を有さないものになるおそれがある。
【0026】
上記ロールインの方法としては、シート状の可塑性油脂組成物を使用した折パイ方式であっても、小片状の可塑性油脂組成物を使用した練りパイ方式であってもよいが、より良好な食感と均質な層状構造を有する層状ベーカリー製品が得られる点で、シート状の可塑性油脂組成物を使用した折パイ方式で得られたものであることが好ましい。ここで使用するシート状の可塑性油脂組成物とは厚さ2〜30mmのもので、成形済みのものでもよいし、ブロック状の可塑性油脂組成物をバターポンプ等で送りだし、連続的に生地上にシート状に合わせていく方法によるものでもよい。
【0027】
本発明の複合積層状生地は、上記餅様生地を上掛け生地とし、上記積層状生地を内生地としたものである。なお、内生地として積層状生地でないベーカリー生地、たとえば食パン生地、菓子パン生地、クッキー生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地等の均質なベーカリー生地を使用すると、加熱焼成時に、水分や油分が該ベーカリー生地から時に連続的に移行してくるため、表面にカラメル層が形成されなかったり、焦げを生じてしまったりするため、本発明の効果は得られない。
【0028】
ここで、上掛け生地と内生地を複合積層状生地とする方法は、特に限定されるものではなく、例えば、上記積層状生地を成型後、その上面に板状に成形した餅様生地を積置する方法、あるいは、最終圧延前の上記積層状生地の上面に板状に成形した餅様生地を積置し、最終圧延を行ったのち成型を行う方法、また、手成形又は自動包餡機により、餅様生地を外包材、積層状生地を内包材として包餡する方法等が挙げられる。なお、積置する場合は、複合させる際に、積層状生地及び/又は餅様生地は冷凍されたものであってもよい。
【0029】
本発明の複合積層状生地の成型方法は、通常の層状ベーカリー製品の成型法と同一の方法を採ることができるが、最終圧延前の上記積層状生地の上面に板状に成形した餅様生地を積置し、最終圧延を行ったのち成型を行う方法の場合は、餅様生地が積層状生地の内部に入ってしまうような成型は、内部に入ってしまった餅様生地部分は本発明における餅様生地の効果、すなわち、カリカリした食感が得られなくなることから、餅様生地部分がすべて外面に出ているような成型を行うことが好ましい。
最終圧延前の上記積層状生地の上面に板状に成形した餅様生地を積置し、最終圧延を行った後に成型を行う方法の場合は、好ましい成型方法としては、リーフパイ、パフパイなどが挙げられる。
【0030】
積層状生地を成型後、その上面に板状に成形した餅様生地を積置する方法の場合、積層状生地の層の断面は縦方向(すなわち、展板に対して垂直方向)であっても、横方向(すなわち、展板に対して平行方向)であっても、ある程度の斜度を持っていたり、ひねり成型等の断面と表面が混合された状態であってもいいが、通常の層状ベーカリー製品と同様の浮きを示し、且つ、製造条件を変更することなく得られるため製造が容易な点で、横方向であることが好ましい。
【0031】
積層状生地を成型後、その上面に板状に成形した餅様生地を積置する方法の場合、上掛け生地の大きさは、上方から見た場合に、上掛け生地が積層状生地を完全に掩蔽する大きさであることが好ましく、より好ましくは、上掛け生地が積層状生地の上面と略同一の形状であり、略同一の面積であることが好ましい。こうすることにより、層状ベーカリー製品の上面すべてがカリカリした食感となり、且つ、浮きが阻害されることがなく、良好な外観とすることができる。また、餅様生地は積層状生地との結着性が極めて高いため、上方から見た場合に上掛け生地に掩蔽されていない積層状生地部分があると上面周辺部のみが、食感や焼き色の異なる層状ベーカリー製品となってしまう。
【0032】
上掛け生地を積置する場合、上掛け生地の厚さは好ましくは1mm〜7mm、より好ましくは1〜5mm、さらに好ましくは1〜3mmである。1mm未満であると、割れ目がほとんど見られない滑らかな均質な表面が得られにくく、7mmを超えると膨張が阻害されて体積の小さな層状ベーカリー製品となってしまったり、つぶれた形状の層状ベーカリー製品になってしまう等、保型性が悪化するおそれがある。
【0033】
また、包餡する場合は、包餡方法は特に限定されず、手包み成形や、各種の自動包餡機を使用した方法等を適宜選択使用することができる。なお、自動包餡機としては、例えばレオン自動機製のCN200、CN208、CN500等が挙げられる。
ここで包餡する場合の上掛け生地(外包材)と内生地(内包材)との生地質量比は、前者:後者が好ましくは10:90〜70:30、より好ましくは15:85〜60:40、さらに好ましくは20:80〜50:50である。上掛け生地が10質量部未満であると、内生地を被う際に上掛け生地部分が薄くなりすぎ、加熱時に層状ベーカリー製品の表面を覆う層が薄くなりすぎるため、本発明の効果が得られにくい。また、70質量部を超えると、上掛け生地部分が厚くなりすぎ、その重量によって層状ベーカリー製品の体積が抑えられてしまうおそれがある。
【0034】
包餡する場合においても、上掛け生地の厚さは好ましくは1mm〜7mm、より好ましくは1〜5mm、さらに好ましくは1〜3mmである。1mm未満であると、滑らかで均質な表面になりにくく、7mmを超えると膨張が阻害されたり、つぶれた形状の層状ベーカリー製品になってしまうおそれがある。
【0035】
本発明の複合積層状生地は、必要に応じ、解凍、ホイロ、レスト等をとった後、加熱する。加熱方法としては焼成するのが一般的であるが、フライでもよく、また、フライと焼成を組み合わせてもよい。
焼成する際は、通常、展板上あるいはコンベア上に積置するが、焼型に入れて焼成してもよい。焼成する際の温度は、通常の層状ベーカリー製品同様、好ましくは160℃〜250℃、より好ましくは170℃〜220℃である。160℃未満であると火どおりが悪く、焼成時間が延びてしまうことに加え、窯落ちが発生するおそれがある。また250℃を超えると、焦げを生じ、食味が悪く、また体積も劣ったものとなってしまうおそれがある。
【0036】
以上のようにして得られた本発明の層状ベーカリー製品は、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈する。
【実施例】
【0037】
以下に本発明の実施例等を挙げるが、本発明は以下の実施例等によって限定されるものではない。
【0038】
<餅様生地の製造>
〔製造例1〕
白玉粉120質量部に上白糖100質量部及び水100質量部を添加し、蒸練機を用いて90℃にて混練した。更に、上白糖40質量部及び水40質量部を加えて、粘弾性を呈するまで混練し、30℃に冷却して、求肥生地である餅様生地Aを得た。
【0039】
〔製造例2〕
上記餅様生地Aを、厚さ2mmとなるように圧延し、直径60mmの円形にうちぬき成形を行い、求肥生地である餅様生地Bを得た。
【0040】
〔製造例3〕
「冷凍ぎゅうひクレープ(白)12cm角」(株式会社タヌマ製)(35g/1枚・厚さ実測値=1.5mm)を60mm角に4等分し、常温(20℃)で2時間解凍し、餅様生地Cとした。
【0041】
〔製造例4〕
「生八つ橋にっき」(株式会社おたべ製)(厚さ2mm、幅30mm、長さ80mm)をそのまま、餅様生地Dとした。
【0042】
〔製造例5〕
ミキサーボウルに白玉粉100質量部を入れ、水300質量部のうちの一部を少しずつ加えてよく混合し、ダマがなくなったところで、残りの水全量を添加してよく混合した。ここへ、さらに上白糖400質量部と上用粉200質量部を加えてよく混合した。この混合物を蒸し器で15分間蒸したのち、練りを加え、滑らかな生地を作った。バットにシナモン400質量部を敷き詰め、その上に該生地を載せ、麺棒で伸ばしながら混ぜ込み均一な生地とした。この生地を厚さ2mmに圧延し、60mm角に切り出し、求肥生地である餅様生地Eを得た。
【0043】
<包餡機用生地の製造>
〔製造例6〕
強力粉60質量部、薄力粉40質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳3質量部、練り込み油脂(マーガリン)5質量部、水54質量部をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングし、小麦粉100質量部に対する水分含量が55質量部である、小麦粉を主体とする生地を得た。この生地を5℃の冷蔵庫内で12時間リタードした。再び生地をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーで低速3分、中速8分ミキシングし、ここに小片状ロールイン用油脂(マーガリン)80質量部を投入し、軽く混合し、包餡機用練パイ生地を得た。
【0044】
<積層状生地の製造>
〔製造例7〕
強力粉70質量部、薄力粉30質量部、食塩1.5質量部、脱脂粉乳3質量部、練り込み油脂(マーガリン)5質量部、水54質量部をミキサーボウルに投入し、たて型ミキサーにて低速3分、中速3分ミキシングし、小麦粉100質量部に対する水分含量が55質量部である、小麦粉を主体とする生地を得た。この生地を5℃の冷蔵庫内で4時間リタードした。この生地にシート状のロールイン用油脂(マーガリン)80質量部を積置し、リバースシーターを用いて常法によりロールイン(4つ折り4回)し、縦300mm、横300mm、厚さ35mmに成形し、小麦粉を主体とするドウ100質量部に対し可塑性油脂組成物を48質量部含み、層数が256層である積層状生地Aを得た。
【0045】
<複合積層状生地及び層状ベーカリー製品の製造>
〔実施例1〕
上記餅様生地Aを外包材、5℃の冷蔵庫で一晩冷却した上記包餡機用練パイ生地を内包材とし、自動包餡機(レオン自動機製CN500)を用いて、外生地:内生地=30:70、合計質量が40gの包餡生地とし、本発明の複合積層状生地Aを得た。厚さ20mmまで押しつぶした後、210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Aを得た。
得られた層状ベーカリー製品Aは、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0046】
〔実施例2〕
上記積層状生地Aを厚さ2mmまで圧延し、直径60mmの円状に打ち抜いた。その表面に、上記餅様生地Bを積置し、ピケ穴をあけ、本発明の複合積層状生地Bを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Bを得た。
得られた層状ベーカリー製品Bは、表面が平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0047】
〔実施例3〕
上記積層状生地Aを厚さ2mmまで圧延し、60mm角の正方形に打ち抜いた。その表面に、上記餅様生地Cを積置し、ピケ穴をあけ、本発明の複合積層状生地Cを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Cを得た。
得られた層状ベーカリー製品Cは、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0048】
〔実施例4〕
上記積層状生地Aを厚さ2mmまで圧延し、幅30mm、長さ80mmの長方形に打ち抜いた。その表面に、上記餅様生地Dを積置し、ピケ穴をあけ、本発明の複合積層状生地Dを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Dを得た。
得られた層状ベーカリー製品Dは、表面が均質且つ平滑で艶があり、シナモンの良好な風味を有し、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0049】
〔実施例5〕
上記積層状生地Aを厚さ2mmまで圧延し、60mm角の正方形に打ち抜いた。その表面に、上記餅様生地Eを積置し、ピケ穴をあけ、本発明の複合積層状生地Eを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Eを得た。
得られた層状ベーカリー製品Eは、表面が均質且つ平滑で艶があり、シナモンの良好な風味を有し、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0050】
〔実施例6〕
上記積層状生地Aを厚さ10mmまで圧延した。一方、上記餅様生地Aを5mmまで圧延した。そして、この2つの生地を重ね合わせ、さらに厚さ5mmまで圧延し、幅30mm、長さ80mmの長方形に打ち抜き、ピケ穴をあけ、本発明の複合積層状生地Fを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Fを得た。
得られた層状ベーカリー製品Fは、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0051】
〔実施例7〕
上記積層状生地Aをさらに3つ折り2回実施した。なお3つ折り時に、各回、グラニュー糖を対生地4質量%散布した。このグラニュー糖折込生地を厚さ9mmまで圧延し、幅9mmにカット(長さ70mm)し、断面を上面にして展板に積置、さらに、この上に、上記餅様生地Aを厚さ2mmに圧延し、幅9mm×長さ70mmに切り出した生地を積置し、本発明の複合積層状生地Gを得た。210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、パルミエの形状である層状ベーカリー製品Gを得た。
得られた層状ベーカリー製品Gは、表面が均質且つ平滑で艶があり、透明感が優れた外観であることに加え、カリカリした良好な食感を呈するものであった。
【0052】
〔比較例1〕
上記積層状生地Aを厚さ2mmまで圧延し、直径60mmの円状に打ち抜いた。その表面に、ピケ穴をあけ、その上面に粉末マルトースを散布し、210℃に設定した固定オーブンで25分(13分経過後は上火カット)焼成し、層状ベーカリー製品Hを得た。
得られた層状ベーカリー製品Hは、大部分は艶があり、透明感が優れた表面であるが、ところどころ焦げた部分と、白色の粉末が残存した部分があるなど、平滑であるが不均一な表面であった。なお、食感はおおむねカリカリした良好な食感であるが、不均質な表面部分は、硬い石状の食感や粉っぽい食感を呈しているなど、不均質な食感であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地としたことを特徴とする複合積層状生地。
【請求項2】
上記餅様生地が求肥生地である請求項1に記載の複合積層状生地。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合積層状生地を加熱してなる層状ベーカリー製品。
【請求項4】
餅様生地を上掛け生地、積層状生地を内生地とした複合積層状生地を、加熱することを特徴とする層状ベーカリー製品の製造方法。