説明

複合紡績糸及びそれからなる織編物

【課題】金属フィラメントが短繊維または短繊維とフィラメント糸で安定して被覆され、且つ、耐摩耗性に優れ、更には、制電性・電磁波シールドの性能にも優れ、これらの性能を同時に満足する複合紡績糸及びその製品を提供する。
【解決手段】金属フィラメントと短繊維からなる複合紡績糸であり、金属フィラメントが芯に短繊維が鞘に配置された芯鞘構造の繊維束(C)と短繊維のみからなる繊維束(D)とが、(C)、(D)それぞれ自身の撚り方向と同方向に施撚され、繊維束(C)と繊維束(D)の構成比(C/D)が重量比で0.4〜2.3の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属フィラメントと短繊維からなる複合紡績糸に関するものであり、殊に、制電性、電磁波シールド性に優れた複合紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、制電性及び電磁波シールド性の性能をもつ複合糸に関しては、種々の開発が行われ、得られる複合糸の形態も多様のものがある。制電性を付与する技術としてカーボンブラックなどの導電性微粒子を紡糸原液に混入して紡糸した繊維を用いる方法などがあるが黒色あるいは、これに近い欠色のものとなるため、たとえば白を基調とする衣料製品を得ることができず、用途が制約されていた。
【0003】
次に電磁波シールド性を付与する技術として繊維表面を金属でメッキまたはコーティングする方法、さらには金属フィラメントを用いる方法などがあるが、制電性を付与する技術としてカーボンブラックなどの導電性微粒子を紡糸原液に混入して紡糸した繊維を用いる方法と同様に黒あるいは金属特有の色のものとなるため、用途が制約されていた。
【0004】
そこで上記欠点を解決するために金属フィラメントあるいはカーボン粒子や金属化合物を混入した導電性繊維等が芯部に配置されている芯鞘構造糸のコアヤーン複合糸などが試みられているが、芯部が完全に被覆されないため、耐摩耗性において、耐摩耗性において、かなり劣り、このような複合糸が製編または製織された場合には、芯部の繊維がところどころに露出し、表面形態が見苦しく、染色性などの加工性も著しく低下する。又、露出した芯部の繊維の切断により、制電性、電磁波シールド効果も著しく低下するという問題を有しており、実用性及び商品価値も大きく損われるという欠点も有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来の導電性複合糸の欠点を解消し、金属フィラメントが短繊維または短繊維とフィラメント糸で安定して被覆され、且つ、耐摩耗性に優れ、更には、制電性・電磁波シールドの性能にも優れ、これらの性能を同時に満足する複合紡績糸及びその製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段、即ち本発明の第1は、金属フィラメントと短繊維からなる複合紡績糸であり、金属フィラメントが芯に短繊維が鞘に配置された芯鞘構造の繊維束(C)と短繊維のみからなる繊維束(D)とが、(C)、(D)それぞれ自身の撚り方向と同方向に施撚され、繊維束(C)と繊維束(D)の構成比(C/D)が重量比で0.4〜2.3の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸であり、第2は、金属フィラメントの直径が0.015〜0.06mmである請求項1に記載の複合紡績糸であり、第3は、金属フィラメントの強度が1〜5g/d、伸度が20〜40%である請求項1に記載の複合紡績糸であり、第4は、金属フィラメントがステンレスフィラメントである請求項1に記載の複合紡績糸であり、第5は、請求項1に記載の複合紡績糸を少なくとも一部に用いた織物及び編物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、金属フィラメントが安定して被覆され、且つ、耐摩耗性にも優れ、毛羽が少なく、更に、被覆性、均斉度などの布帛特性に優れ、また更には、制電性、電磁波シールド性にも優れ、これらの性能を同時に満足する複合紡績糸及びその製品を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の複合紡績糸とは、金属フィラメントが短繊維または、短繊維とフィラメント糸で安定して、被覆され、且つ耐摩耗性に優れ、更には制電性・電磁波シールド性の性能にも優れ、これらの性能を同時に満足する複合紡績糸である。
であり、以下の構造をとる複合紡績糸である。
【0009】
第1の構造として、金属フィラメントが芯に短繊維が鞘に配置された芯鞘構造の繊維束(A)とフィラメント糸のみからなる繊維束(B)とが互いに巻き付くように実撚がかけられている構造をとるのは、金属フィラメントを短繊維とフィラメント糸で安定して被覆し、且つ耐摩耗性をより一層向上させるためである。更には、前記繊維束(A)と前記繊維束(B)との構成比A/Bが重量比で0.5〜26の範囲にあることが必要である。0.5未満になると短繊維と金属フィラメントの絡合が悪く、金属フィラメントと短繊維とが分離するいわゆるシース抜けが起こり易くなり好ましくない。他方26を超えるとフィラメント糸が細くなるため、操作性の低下、更には耐摩耗性の低下が生ずるので好ましくない。また金属フィラメントの繊維束Aにおける割合は50重量%以下が好ましい。50重量%を超えると短繊維との絡合が悪くシース抜けが起こり易く、また耐摩耗性の低下を生ずるので好ましくない。
【0010】
更に、第2の構造として、金属フィラメントが芯に存在し、短繊維とフィラメント糸とが混合して、鞘に存在する複合構造をとるのは糸均斉度に優れ金属フィラメントを短繊維と混合しているフィラメント糸で安定して被覆し、且つ耐摩耗性をより一層向上させるためである。更に短繊維が、前記複合紡績糸において、30〜90重量%の範囲である必要がある。30%未満になると、短繊維が少なくなりすぎ、金属フィラメント及びフィラメント糸と短繊維の絡合が悪く、金属フィラメント及びフィラメント糸と短繊維とが分離するいわゆるシース抜けが起こり易くなり、好ましくない。他方、90重量%を超えると短繊維に混合して、鞘に存在するフィラメント糸が、細くなり、耐摩耗性の低下が生じ、更には、操作性の低下となって好ましくない。更にフィラメント糸には、マルチフィラメント糸を使用することが必要である。該フィラメント糸の単繊維繊度が2d以下のフィラメント糸が好ましい。該複合紡績糸の均斉度を良好なものとするために必要であり、更に好ましくは0.2〜2dの範囲であることが好ましい。また、フィラメントの本数は、5本以上であることが好ましく、5本未満であると、糸均斉度が低下し、更に毛羽の多い条件になるので好ましくない。
【0011】
更に、第3の構造として、金属フィラメントが芯に短繊維が鞘に配置させた繊維束(C)と短繊維のみからなる繊維束(D)とが前記繊維束(C)、(D)の撚方向と同方向に施撚させている複合構造をとるのは、糸均斉度に優れ、金属フィラメントを該繊維束(C)の短繊維と該繊維束(D)の短繊維で安定して被覆し、且つ耐摩耗性をより一層向上させるためである。更に、該繊維束(C)、(D)の構成比C/Dが重量比で0.4〜2.3の範囲であることが好ましい。0.4未満では短繊維で安定して金属フィラメントを被覆することは困難となり好ましくない。他方2.3を超えると、操業性が著しく低下するとともに、耐摩耗性に対して、短繊維の絡合が悪く、相互補完の効果が発揮されなくなる。なお、この意味からC/D(重量比)が0.5〜2.0がより好ましい。また、繊維束(C)と繊維束(D)における短繊維は、同じである方が好ましいが、異なっていてもさしつかえない。
【0012】
本発明に用いられる短繊維としては、綿繊維、麻繊維などの天然繊維、ポリノジック繊維などの再生繊維、半合成繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などの合成繊維等通常の紡績工程に供されるものであれば、特に限定されるものではない。もちろん混紡素材であっても、差しつかえない。更に本発明に用いられるフィラメント糸としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなどの合成繊維のほかにプロミックスなどの半合成繊維がフィラメント糸素材として対象になりうる。
【0013】
なお、該複合紡績糸にかけられる実撚は、撚係数(インチ方式)で2.0〜6.0さらに好ましくは3.0〜5.0の範囲にするのが好ましい。撚係数KはK=T/Ne1/2で示される。Tは撚数(t/インチ)、Neは英式綿番手である。
【0014】
次に、本発明において用いる金属フィラメントについて説明する。
本発明において用いる金属フィラメントの直径は0.015mm〜0.06mmの範囲であることが特に好ましい。0.06mmを超えると金属フィラメントの該複合紡績糸において占める割合が多くなり、短繊維との絡合が悪く、耐摩耗性の低下を生じ、更には、操作性の低下となって好ましくない。他方0.015mm未満では、金属フィラメントの製造において技術的に難しく、製造コストのアップとなり好ましくない。
【0015】
更に、本発明において用いる金属フィラメントの強度が1.0〜5.0g/dの範囲であることが特に好ましい。1.0g/d未満となると、金属フィラメント切れ等操作性の低下となって好ましくない。他方5.0g/dを超えると金属フィラメントの製造において、技術的に難しく、製造コストのアップとなり好ましくない。また伸度は20%〜40%の範囲であることが特に好ましい。20%未満となると金属フィラメント切れ等操作性の低下となって好ましくない。他方40%を超えると、伸度の値が安定して得られず、強度の低下となって好ましくない。なお強度は、強力g、デニールdとすると強度=g/dで表される。
【0016】
また、更には、本発明において用いる金属フィラメントは電気比抵抗値が10−3Ω・cm、好ましくは10−5Ω・cm以下の良導体領域にある金属であれば銀、銅、その他合金いかなるものでもよいが、好ましくはステンレスフィラメント、特にオーステナイト系SUS30418−8ステンレス線であることが特に好ましい。該ステンレスフィラメントは、大気中及び淡水中あるいは中性塩や有機酸、酸化力の強い硝酸中およびアルカリ中などの環境下で優れた耐久性を示し、更には、高温での耐酸化性にも優れ、極めて広範囲の環境下で使用できる汎用耐食材料として知られており、該ステンレス線を用いることにより衣料用としての用途展開が可能となる。
【0017】
更に、本発明複合紡績糸は使用目的に応じて、織物または編物とすることが出来、また織物または編物の形態は、限定されるものではなく、目的・用途により適宜選択すれば良い。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。なお本発明における性能の測定と評価は次の方法で行なった。
(1)強力・伸度
JIS L−1095−1979(一般紡績試験法)の定速伸長型引張試験機(ツェルヴューガーウスタ社製のテンソラピッド)にて、つかみ間隔50cm引張速度30cm/分で測定した。
(2)毛羽
敷島紡績株式会社製のF−インデックステスターで1mm以上の毛羽(コ/10cm)を測定した。
(3)耐摩耗性
経糸抱合力試験機(蛭田理研製)により測定した。この経糸抱合力試験機は直径20cmのチタン表面の円型ドラムを80回/分で回転させ、糸の一端を固定し、他端に70gの荷重がかけてこのドラムに接触させ、フィラメント糸及び金属フィラメントと短繊維束が分離するいわゆるシース抜けまでの回転数で耐摩耗性の程度を表わした。
(4)布帛の均斉度、被覆性
当該糸を26″−22Gの編機にて天竺に編立を行ない次いで短繊維及びフィラメント糸の染色仕立した布帛での官能評価によるものであり、非常に良好◎、良好○、普通△、悪い×の4段階を7人で評価し、最も多く評価された段階値で示した。
(5)制電性
制電性測定対象布をJIS L−0217−103に基づき洗濯処理5日した後JIS L−1094−1988−C法摩擦帯電電荷量測定法にて、制電性を評価した。
(6)電磁波シールド性
電磁波シールド性(電界)を周波数1.0Mz〜1.0GHzの範囲でKEC法にて測定し、評価した。
【0019】
また、実施例に用いた金属フィラメントは、オーステナイト系SUS18−8ステンレスを用い、該金属フィラメントの性能は直径0.030mm、強度1.51g/d、伸度29%及び直径0.019mm、強度1.38g/d、伸度30%であった。
【0020】
参考例1
芯鞘構造の繊維束(A)の金属フィラメントに直径0.030mmのステンレス線を用い、短繊維としては、米綿を主体とする綿繊維を用い、繊維束(B)のフィラメント糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸30d−18fを用いて、複合紡績糸20´s(英式綿番手)撚係数k=4.0を得た。このとき繊維束(A)と繊維束(B)との重量比A/Bは7.86である。得られた複合紡績糸は芯鞘構造の繊維束(A)とフィラメント糸のみからなる繊維束(B)とが互いに巻き付くように実撚がかけられてなる複合紡績糸であった。
【0021】
参考例2
芯に存在する金属フィラメントに直径0.030mmのステンレス線を用い、短繊維に米綿を主体とする綿繊維を用い短繊維に混合して、鞘に存在するフィラメント糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸30d−18fを用いて、複合紡績糸20´s(英式綿番手)撚係数k=4.0を得た。このとき、短繊維が、複合紡績糸において、69.73重量%であった。得られた複合紡績糸は、金属フィラメントが芯に存在し、短繊維に、フィラメント糸が混合して、鞘に存在する複合紡績糸であった。
【0022】
実施例1
芯鞘構造の繊維束(C)の金属フィラメントに直径0.019mmのステンレス線を用い短繊維としては、米綿を主体とする綿繊維を用い、繊維束(D)を構成する短繊維として米綿を主体とする綿繊維を用いて、複合紡績糸20´s(英式綿番手)撚係数k=4.0を得た。このとき、繊維束(C)と繊維束(D)との重量比C/Dは1.47である。得られた複合紡績糸は芯鞘構造を有する繊維束(C)と短繊維のみからなる繊維束(D)とが前記、繊維束(C)、繊維束(D)の撚り方向と同方向に施撚されてなる複合紡績糸であった。
【0023】
さらに参考例3として金属フィラメントの性能が直径0.030mm、強度4.09、伸度2%の金属フィラメントを用い、参考例1と同一構造の複合紡績糸を得た。又、参考例4として、短繊維に混合して、鞘に存在するフィラメント糸として、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸25d−48fを用いた参考例2と同一構造の複合紡績糸を得た。さらに比較例1として、金属フィラメントのかわりに、ナイロンポリマーにカーボン層を複合させた導電性フィラメント18d−1fを用いた実施例1と同一構造の複合紡績糸を20´s(英式綿番手)撚係数k=4.0で製造し、製編加工を行ない、その特性を示した。
【0024】
なお、本発明の実施例と比較するために従来例として、金属フィラメントに直径0.030mmのステンレス線を用い、短繊維としては、米綿を主体とする綿繊維を用いて、金属フィラメントを芯に、短繊維を鞘に配置した芯鞘構造のコアヤーン複合糸20´s(英式綿番手)撚係数k=4.0を製造し、製編加工を行ない、その特性を比較した。
【0025】
また、本発明の複合紡績糸を用いた場合の制電効果及び電磁波シールド効果を確認するために、実施例で得られた複合紡績糸を用い、当該糸を織規格55本/インチ×50本/インチ平織で製織した布帛で、制電性効果及び電磁波シールド性効果を評価した。評価の結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1から次のことが確認された。表1に示す通り、本発明による複合紡績糸は、耐摩耗性に優れ、毛羽の少ない性能であった。また布帛特性として、均斉度及び被覆性更には制電性、電磁波シールド性においても優れていた。参考例3は、参考例1と同様に優れた糸特性及び布帛特性を示すものの、ステンレス切れ等操作性の低下が生じた。従来例は、糸構造による影響を受けて、耐摩耗性において不十分であり、布帛特性においても、不満足なものであった。比較例1は、実施例1と同様に優れた糸特性及び布帛特性さらには、布帛での帯電電荷密度が2.4μC/mを有し、JIS−T8118の7μC/m以下の規定を満たしているが、電磁波シールド性は15.88dB〜17.50dBと最小限度のシールド効果にとどまっている。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の複合紡績糸は、耐摩耗性に優れ、更には、制電性・電磁波シールドの性能にも優れているため、この複合紡績糸を少なくとも一部に用いることにより、制電性と電磁波シールド性に優れる織物及び編物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フィラメントと短繊維からなる複合紡績糸であり、金属フィラメントが芯に短繊維が鞘に配置された芯鞘構造の繊維束(C)と短繊維のみからなる繊維束(D)とが、(C)、(D)それぞれ自身の撚り方向と同方向に施撚され、繊維束(C)と繊維束(D)の構成比(C/D)が重量比で0.4〜2.3の範囲にあることを特徴とする複合紡績糸。
【請求項2】
金属フィラメントの直径が0.015〜0.06mmである請求項1に記載の複合紡績糸。
【請求項3】
金属フィラメントの強度が1〜5g/d、伸度が20〜40%である請求項1に記載の複合紡績糸。
【請求項4】
金属フィラメントがステンレスフィラメントである請求項1に記載の複合紡績糸。
【請求項5】
請求項1に記載の複合紡績糸を少なくとも一部に用いた織物及び編物。

【公開番号】特開2008−190115(P2008−190115A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122173(P2008−122173)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【分割の表示】特願平10−113698の分割
【原出願日】平成10年4月23日(1998.4.23)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】