説明

複合繊維の製造方法

【課題】微細炭素繊維を製造するのに好適な複合繊維を効率的に生産する方法を提供する。
【解決手段】溶融賦形性を有する炭素原料樹脂を島成分、熱分解性樹脂を海成分とした海島複合繊維を、繊維全体に占める島成分樹脂の比率が10〜50重量%で、かつ島成分の直径が1〜10μmとなるように溶融紡糸で作製し、さらに得られた繊維を超延伸する。島成分が溶融賦形可能なアクリルニトリル系樹脂、海成分が脂肪族ポリエステルであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細炭素繊維を製造する際に有用な複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維の強度に代表される特性値は繊維中の欠陥の数に大きく左右され、その欠陥の数は繊維の太さに従い多くなるため、炭素繊維を細くして欠陥の個数を減らすことにより炭素繊維の性能を大きく向上することが可能である。また、炭素繊維は樹脂等に含浸して補強剤として使用されることが多いが、その場合は炭素繊維自身の強度に加えて、樹脂との接着性が複合材料の性能に大きな影響を与える。ここでも炭素繊維を細くすると、単位重量あたりの表面積が増加することから、接着性を改善することが可能であり、複合材料の性能を大きく改善することが可能となる。
【0003】
近年話題となっているカーボンナノチューブは、ほぼ完全な黒鉛シートから形成された理想の炭素繊維とよべる材料であり、その物性値は通常の炭素繊維を大きく上回る物である。特に、単層ナノチューブは直径が10nm以下と非常に細く、樹脂等への添加剤として大きな期待を受けている。しかし、カーボンナノチューブは炭素原子を1個ずつ積み上げるボトムアップ的手法で製造されるため、生産性が非常に低く価格が高くなってしまう。このため、優れた性能を有するにも関わらず、広く利用されるに至っていない。そこで、生産性の高い通常の炭素繊維の製造方法を改良して、できるだけ細い炭素繊維すなわちカーボンナノファイバーを作成し、カーボンナノチューブに近い性能を得る試みが多く行われている。
【0004】
近年、焼成することで炭素繊維を形成する樹脂(以下、炭素原料樹脂と記す)と、焼成時に熱分解して焼失する樹脂(以下、熱分解性樹脂と記す)を混合してブレンド繊維を作成し、それを焼成して微細な炭素繊維を得る方法が開発されている。例えば、特開2001−73226号公報および特開2003−20517号公報には炭素原料樹脂としてフェノール樹脂をもちい、熱分解性樹脂であるポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)とブレンド紡糸を行うことで微細な炭素繊維を得る方法が記載されている。
【0005】
このようなブレンド紡糸を利用する方法を用いれば、比較的容易に熱分解性樹脂中に炭素原料樹脂が分散した形態を得ることが可能であり、これを焼成することで微細な炭素繊維を得ることも可能である。しかし、ブレンド紡糸を利用した場合、島成分のサイズは樹脂同士の相溶性と混練状態により決定されるため、ばらつきが大きく任意のサイズに制御することが難しいことが問題であった。加えて、混練時に球状になった島成分を紡糸時に繊維軸方向に引き延ばすことで繊維化していることから、得られる炭素繊維は連続した繊維ではなく、ある長さをもった短繊維の集合体であり、航空機等の構造材として多く使用されている長繊維強化材料の強化材としては使用できないという問題があった。
【0006】
その一方で、極細の合成繊維を製造する際に使用されている海島型複合繊維の技術をもちいて微細な炭素原料樹脂繊維を作製する試みも行われている。たとえば、特許文献1には溶融賦形可能なアクリロニトリル系ポリマーを炭素前駆体とし、酸変性PEやメタクリル酸メチル(PMMA)を海部として紡糸口金装置をもちいて溶融紡糸する複合繊維の製造方法が記載されている。しかし、この方法で作成できる複合繊維では、島成分の直径は5〜10μm程度が一般的であり、島成分の直径が1μm以下の繊維を作製することは非常に難しく、十分に細い炭素繊維を作製することはできなかった。
【0007】
また、特許文献2では長さの長いカーボンナノファイバーを作製するために、海島型複合繊維を焼成してカーボンナノファイバーを作成する方法が開示されており、その海島型複合繊維を得るための方法として炭素原料樹脂からなる繊維と熱分解性樹脂からなる繊維を束にしたのちに細孔から押し出して超延伸する方法が記載されている。しかし、異種類の繊維を均一に混繊することは難しく、非常に手間が必要となるため生産性に乏しいものであった。さらに、海島複合繊維を超延伸するためには複合繊維を高温で加熱して流動性を向上させる必要があるが、加熱時の両性分の流動特性の違いから海島構造に乱れが発生しやすく、島成分同士の合一や島成分の断裂等が発生し、均一な微細炭素繊維を得ることは難しかった。特に島成分をナノレベルまで微細化すると、少しの流れの乱れによっても海島構造が破壊されてしまうため、ナノレベルの細さをもつ炭素繊維を得ることは非常に困難であった。
【0008】
このように、微細で連続した炭素繊維が求められているにもかかわらず、その原料となる炭素原料樹脂と熱分解性樹脂からなる複合繊維を安定して作成する方法は存在しなかった。
【特許文献1】特開2004−43994号公報
【特許文献2】特開2003−301335号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は微細炭素繊維を製造するのに好適な複合繊維を効率的に生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、溶融賦形性を有する炭素原料樹脂を島成分、熱分解性樹脂を海成分とした海島複合繊維を、島成分の直径が1〜10μmとなるように溶融紡糸にて作製し、さらに得られた繊維を超延伸することを特徴とする複合繊維の製造方法によって達成できる。
【発明の効果】
【0011】
熱分解性樹脂中に炭素原料樹脂を含有した炭素繊維原料繊維の生産において、生産性に優れた溶融紡糸により島成分の形状が制御された海島繊維を作成し、これを超延伸して島成分を微細化することで、炭素原料樹脂による連続した島成分を有する複合繊維を安定して生産することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複合繊維の製造方法においては、まず溶融賦形性を有する炭素原料樹脂を島成分、熱分解性樹脂を海成分とする海島型複合繊維を作成することが重要である。一般に、炭素原料樹脂は製糸性に乏しく、単体で紡糸を行う場合には安定性の面から、直径20μm(約5dtex)以下の繊維を得ることは困難である。しかし、製糸性に優れた熱分解性の樹脂との複合繊維とすることにより、製糸性を改善し繊維を微細化することが可能となる。さらに、1本の繊維中に複数の島成分を有する海島型複合繊維とすることにより、複合繊維の太さに対する島成分の太さを格段に小さくすることが可能となり、直径10μm(約1dtex)以下の島成分を有する複合繊維を安定して製造することが可能である。微細な炭素繊維を得るためには、溶融紡糸時に複合繊維中の島成分を微細化しておくことが望ましく、島成分の直径が5μm以下であるとより好ましい。ただし、溶融紡糸時に島成分を微細化しすぎると島1個に対する樹脂の供給量が非常に少なくなるため、島成分間で繊度のばらつきが大きくなり、後の延伸工程で部分的な島成分の断裂を引き起こす原因となることから、溶融紡糸時における複合繊維中の島成分の直径は1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。このような海島複合繊維は、例えば特公昭47−26723号公報に記載されているような紡糸口金を用いて溶融紡糸を行うことで作成することが可能である。
本発明における炭素原料樹脂とは、適切な前処理を行った後に焼成処理を行うことによって炭素繊維となる能力を持った樹脂のことを指し、具体的には所定の前処理を行った後、熱重量分析装置を用いて窒素雰囲気下で室温から600℃まで10℃/分で加熱し、その後1時間保持した後の熱減量率が80%以下のものを示す。このような樹脂の代表的なものとしてはフェノール樹脂、ピッチ、ポリアクリロニトリル、セルロース等が挙げられるが、本発明では紡糸方法として溶融紡糸を用いることから熱可塑性を有することが必要であり、ノボラック型のフェノール樹脂やブタジエンやアクリル酸メチル等を共重合して溶融賦形性を付与したポリアクリロニトリル樹脂(以下、熱可塑性ポリアクリロニトリル樹脂と記す)が好まい。
また、熱分解性樹脂とは高温で熱処理を行うことにより完全に熱分解する樹脂のことを指し、具体的には熱重量分析装置を用いて樹脂を窒素下で室温から600℃まで10℃/分で昇温したときに、重量減少率が95%を越えるものを指す。このような樹脂の例としてはポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン6,6などの脂肪族ポリアミド、ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステルが挙げられる。
【0013】
本発明の複合繊維の製造方法においては、溶融紡糸にて得られた海島型複合繊維を超延伸することで複合繊維中の島成分を微細化することが重要である。超延伸により島成分を微細化することにより、該複合繊維を焼成した後に得られる炭素繊維の直径が微細になり、特性の優れた炭素繊維を得ることが可能となる。ここで、単成分繊維を超延伸する方法では元の繊維が太いことから非常に高い倍率の超延伸が必要であるため生産性が低くなる。一方で、延伸前の島成分の直径が小さいブレンド繊維を用いれば延伸倍率は低く抑えることが可能となるが、カーボンファイバーの直径のばらつきが大きくなる上、連続したカーボンファイバーを得ることができない。本発明のように、均一で微細な海島構造が作成可能である海島型複合繊維を出発点として超延伸を行うことで延伸倍率を低く抑え、効率的に連続したカーボンナノファイバーを作製することが可能となるのである。
【0014】
通常、繊維の延伸は加熱ロールを用いて繊維を変形温度より少し高い温度に加熱し、より高速に設定した巻取ロールで巻き上げることで繊維を細くする。この時、繊維は延伸されて細くなると同時に分子配向が進み強伸度特性が改善される。しかし、分子配向の進展とともに延伸張力が増大し、繊維の破断に繋がるため、一定以上の延伸倍率で延伸することは不可能である。一般にポリエステルやポリアミドでは5〜7倍が限度であり、延伸倍率の上げやすいポリエチレンやポリプロピレンにおいても15〜20倍が限界である。一方で超延伸とは、通常の延伸よりも繊維を融点近くの高温にまで加熱することで分子配向が十分に進まない状態で延伸を行い、延伸張力の増加を抑えて通常の延伸よりも高い倍率で行われる延伸のことを言い、本発明においては延伸倍率20倍以上の延伸のことを指す。
【0015】
超延伸においては繊維の加熱方法が重要となるが、繊維を半溶融状態まで加熱するため、レーザー光線やスチーム等の非接触の加熱方法が好ましい。なかでも、レーザー光線であれば、繊維を狭い範囲で急速に加熱できるため、超延伸が安定しやすく好ましい。また、接触式のヒーターを用いる場合においても、図1に示すような繊維入口2がテーパー状として繊維出口3に通じたテーパー状のダイ1をもちいて加熱と同時に延伸を行うなど、繊維の形状が崩れない工夫を行うことで安定した延伸が可能となる。この時、延伸倍率が高いと延伸後の繊維が極端に細くなり延伸糸が破断しやすくなるため、予め繊維を複数本束ねて太くすると延伸後の繊維も太くなり延伸が安定するため好ましい。
【0016】
このように海島複合紡糸と超延伸を組み合わせて微細な島成分を持つ複合繊維を作製するためには、紡糸・延伸による微細化中に起こる島成分の断裂や、島成分同士の合一を防ぐ必要がある。このため、本発明の複合繊維においては複合繊維全体の質量に対する島成分の比率が10〜50重量%であることが重要である。このような分率とすることで、紡糸・延伸工程における島成分同士の合一を防止し、島成分を効率的に微細化することが可能である。特に、海島複合繊維においては外周部において海成分樹脂が少なくなる傾向が見られるため、島成分比率を多くすると島成分が繊維表面に露出し、複数本束ねて超延伸を行う際に島成分同士が合一してしまう可能性がある。このような島成分同士の合一を防ぐためには、島成分の重量分率が45%以下であることが好ましく、40%以下であるとさらに好ましい。また、焼成後の炭素繊維の収率を高めるためには島成分の重量分率が15%以上であることが好ましく、25%以上であるとより好ましい。
【0017】
さらに、海成分樹脂と島成分樹脂の流動特性が異なると、紡糸口金内部での圧力バランスの偏りにより、島成分同士が合一したり島成分の太さが不均一になったりする。加えて、流動特性が大きく異なると、超延伸の際に流動が乱れて島成分の断裂や合一の原因となる。このため、超延伸時の海成分樹脂と島成分樹脂の流動特性が似ていることが好ましく、特に海成分樹脂と島成分樹脂の粘度比が一定の範囲内に入っていることが好ましい。この粘度比を式で表すと下記のようになる。
【0018】
【数1】

【0019】
ηs:海成分(熱分解性樹脂)の粘度
ηi:島成分(炭素原料樹脂)の粘度
ここで、各樹脂成分の粘度は、両方の樹脂が成形可能となるように、融点の高い方の樹脂の融点より50℃高い温度で測定した物である。ここで、本発明における融点とは示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)で行う示差熱量測定において、測定する樹脂を室温から16℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度を指す。ここで、結晶性を示さず示差走査熱量計による測定において明確な吸熱ピークを示さない樹脂については軟化点を融点の代わりに用いる。また、溶融粘度はキャピラリーレオメーター(東洋精機製作所(株)キャピログラフ1B型)により測定される値である。
【0020】
このようにして得られた複合繊維をもちいて、複合繊維中の炭素原料樹脂に熱安定性を付与する工程と、複合繊維を焼成して炭素繊維を製造する工程を行うことにより、微細な炭素繊維を製造することができる。
【0021】
ここで、複合繊維を焼成した後に得られる炭素繊維がカーボンナノファイバーとして十分な性能を発揮するためには、繊維軸に垂直な横断面内において炭素前駆体により形成される島成分の平均直径が500nm以下になるまで微細化することが好ましい。本発明で示される横断面内の島成分の直径は繊維軸に垂直方向に切り出した薄片サンプルを必要により染色して透過型電子顕微鏡(TEM)により観察することによって測定することが可能であり、繊維断面の1/10以上の面積が入ったTEM写真において画像処理を行い、個々の島成分の直径を算出し、得られた島成分の直径から平均直径を得ることができる。また、カーボンナノファイバーは細いほどその性能が向上するため、島成分の平均直径は200nm以下であればより好ましく、100nm以下であればさらに好ましい。ただし、細くなりすぎるとグラファイトシートの形成性に悪影響がでることが予測されるため、直径は1nm以上であることが好ましい。
【0022】
上記のようにして得られた複合繊維に熱安定性を付与し、焼成することで微細な炭素繊維を得ることができる。複合繊維中の炭素原料樹脂に熱安定性を付与する工程は、紡糸時には溶融賦形性を有していた炭素原料樹脂を、焼成時に形態が変化しないように熱安定性を付与する工程である。熱安定性の付与は炭素原料樹脂にあった方法で行えばよく、例えばフェノール樹脂においては架橋触媒の存在下、アルデヒド類でフェノール樹脂を硬化することで行うことができる。また、ポリアクリロニトリル樹脂においては長時間の加熱や薬品処理によりアクリロニトリル基を環化する事で熱安定性を付与することが可能である。
【0023】
複合繊維を焼成して炭素繊維を得る工程では、炭素化樹脂内部の炭素以外の元素を除去し、純粋な炭素からなる繊維を作成する。ここで、炭素原料樹脂が炭素化するとともに、熱分解性樹脂が完全に除去されるため、島成分の炭素原料樹脂に由来する極細炭素繊維を得ることができる。焼成は公知な方法に従って良く、窒素やアルゴン等の不活性ガス下において600〜1200℃の熱処理を行うのが好ましい。
【0024】
このようにして得られる炭素繊維は、本発明の複合繊維中の炭素化樹脂の形状を反映して極めて細いことが特徴であり、大きな表面積を活用して高性能な電極や吸着材に使用できるほか、優れた力学特性から樹脂の添加剤としても有用なものである。特に、本発明の複合繊維より得られる炭素繊維は、従来の気相法やブレンド繊維から得られる極細炭素繊維と異なり完全に連続した形態で得られるため、長繊維強化複合材料の強化材として特に有用である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、各実施例中における各種測定値は下記手法により測定された値である。
A.未延伸糸の総繊度、単糸繊度
巻取ドラムより検尺機を用いて100mの長さの繊維を採取し、測定した重量を100倍する事で未延伸糸の総繊度を求めた。また、総繊度をフィラメント数で割ることで単糸繊度を求めた。
B.未延伸糸中の島成分の直径
繊維を銅板に通し剃刀で切断することで、繊維軸に垂直な方向で厚さ0.5mmの試料を作製し、光学顕微鏡(オリンパス株式会社 BX60)を用いて断面観察を行い、観察像から島成分の直径を求めた。
C.延伸繊維中の島成分の円形度、平均直径
まず、延伸繊維をエポキシ樹脂に含浸した上で、RuOによる染色を行った後にミクロトームをもちいて繊維軸に垂直な面の超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡((株)日立製作所、H−7100FA)により繊維中央部を4万倍の倍率で観察を行った。次に、得られた画像を画像処理ソフト(三谷商事(株)製、Winroof)で画像処理を行い、各島成分の面積と円形度を求めた。さらに、得られた各島成分の面積から円換算径を計算し、下記式より平均直径を計算した。
【0026】
【数2】

【0027】
D.融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC)をもちいて室温から16℃/分の昇温条件で測定し、観測される吸熱ピーク温度を融点とした。
E.溶融粘度
キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所(株)製キャピログラフ1B型)をもちいて、孔径1mmφ、L/D=10のダイスを用い、剪断速度1216sec−1で測定した。
【0028】
実施例1
以下の条件で海島型複合繊維を作製した。
島成分:熱可塑性ポリアクリロニトリル樹脂(三井化学(株)製、バレックス(登録商標)#3000)
海成分:ポリラクチド(Cargill Dow Polymer LLC製、6200D、融点170℃、220℃における溶融粘度155Pa・sec)
紡糸口金:36島×16フィラメント
海島比:島/海=30/70(重量割合)
総吐出量:25g/min
紡糸温度:220℃
巻取速度:1300m/min
紡糸時の紡糸性は良好であり、得られた未延伸糸の総繊度は192dTexで単糸繊度は12dTexであった。また、未延伸糸の断面観察を行ったところ、繊維内部に均一に島成分が観測され、その直径は3.3μmであった。この繊維を550本引き揃えて熱収縮チューブに充填し、真空乾燥機内部で120℃、3時間処理して繊維同士を融着させた後、整形して直径10mmのロッドを作製した。得られたロッドを210℃に加熱された入口側の直径が10mm、出口側の直径が1mmのテーパー状ダイに押し込み、吐出された繊維を引き取ることで直径0.73mmのモノフィラメントを得た。延伸前後の直径から算出される理論延伸倍率は193倍である。
【0029】
得られたモノフィラメントの断面観察を行った結果、内部に熱可塑性ポリアクリロニトリルからなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維で、島成分同士はほぼ完全に独立していた。ここで、島成分の平均直径は234nmであっり、円形度が0.9以上の島成分の割合は96.3%であった。
【0030】
この海島型複合繊維を窒素雰囲気下において、240℃、45分の熱処理を行い不融化処理し、その後窒素雰囲気下、600℃、1時間の熱処理を行い焼成することで炭素繊維を作製した。作製した炭素繊維を電子顕微鏡で観察したところ、直径180nmの連続した炭素繊維の束が観測された。
【0031】
実施例2
以下の条件で海島型複合繊維を作製した。
島成分:熱可塑性ポリアクリロニトリル樹脂(三井化学(株)製、バレックス(登録商標)#3000)
海成分:ポリラクチド(Cargill Dow Polymer LLC製、6400D、融点170℃、220℃における溶融粘度265Pa・sec)
紡糸口金:36島×16フィラメント
海島比:島/海=40/60(重量割合)
総吐出量:25g/min
紡糸温度:220℃
巻取速度:1300m/min
紡糸時の紡糸性は良好であり、得られた未延伸糸の総繊度は192dTexで単糸繊度は12dTexであった。また、未延伸糸の断面観察を行ったところ、繊維内部に均一に島成分が観測され、その直径は3.8μmであった。この繊維を実施例1と同様に超延伸し、直径0.73mmのモノフィラメントを作製した。
【0032】
得られたモノフィラメントの断面観察を行った結果、内部に熱可塑性ポリアクリロニトリルからなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維で、島成分のほとんどは独立しているが、島成分同士の距離が近いため一部の島成分は融着しているのが観測された。ここで、島成分の平均直径は284nmであり、円形度が0.9以上の島の割合は84.5%であった。
【0033】
実施例3
以下の条件で海島型複合繊維を作製した。
島成分:熱可塑性ポリアクリロニトリル樹脂(三井化学(株)製、バレックス(登録商標)#3000)
海成分:ポリラクチド(Cargill Dow Polymer LLC製、6250D、融点170℃、220℃における溶融粘度83Pa・sec)
紡糸口金:36島×16フィラメント
海島比:島/海=20/80(重量割合)
総吐出量:25g/min
紡糸温度:220℃
巻取速度:1300m/min
紡糸時の紡糸性は良好であり、得られた未延伸糸の総繊度は192dTexで単糸繊度は12dTexであった。また、未延伸糸の断面観察を行ったところ、繊維内部に均一に島成分が観測され、その直径は2.7μmであった。この繊維を3500本引き揃えて熱収縮チューブに充填し、真空乾燥機内部で120℃、3時間処理して繊維同士を融着させた後、整形して直径25mmのロッドを作製した。得られたロッドを210℃に加熱された入口側の直径が25mm、出口側の直径が1mmのテーパー状ダイに押し込み、吐出された繊維を引き取ることで直径0.82mmのモノフィラメントを得た。延伸前後の直径から算出される理論延伸倍率は930倍である。
【0034】
得られたモノフィラメントの断面観察を行った結果、内部に熱可塑性ポリアクリロニトリルからなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維で、島成分はほぼ完全に独立していた。ここで、島成分の平均直径は87nmであり、円形度が0.9以上の島の割合は97.5%であった。
【0035】
実施例4
以下の条件で海島型複合繊維を作製した。
島成分:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト(株) 軟化点95℃)
海成分:低密度ポリエチレン(三井化学(株) ミラソン(登録商標)FL60 MFR=70 融点102℃)
紡糸口金:36島×16フィラメント
海島比:島/海=20/80(重量割合)
総吐出量:12g/min
紡糸温度:200℃
巻取速度:200m/min
紡糸時は高速で巻取を試みると繊維が破断するため、巻取速度を下げて紡糸を行う必要があったが、糸切れは観測されなかった。得られた未延伸糸の総繊度は600dTexであった。ここで、未延伸糸の断面観察を行ったところ、繊維内部の島成分の大きさはかなりばらついており、島成分のほとんど入っていない繊維も観測された。そこで16本の繊維に対して島成分の直径を測定し平均したところ、島成分の平均直径は4.2μmとなった。この繊維を240本引き揃えて熱収縮チューブに充填し、真空乾燥機内で170℃、3時間処理して繊維同士を融着させた後、整形して直径10mmのロッドを作製した。得られたロッドを340℃に加熱された入口側の直径が10mm、出口側の直径が1mmのテーパー状ダイに押し込み、吐出された繊維を引き取ることで直径0.92mmのモノフィラメントを得た。延伸前後の直径から算出される理論延伸倍率は121倍である。
【0036】
得られたモノフィラメントの断面観察を行った結果、内部にフェノール樹脂からなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維であったが、島成分の大きさはかなりばらついていた。ここで、島成分の平均直径は463nmであり、円形度が0.9以上の島の割合は97.8%であった。
【0037】
比較例1
以下の条件で海島型複合繊維を作製した。
島成分:メソフェーズピッチ(三菱ガス化学 ARレジン 軟化点270℃、キノリン不融分21%)
海成分:ポリエチレンテレフタレート([η]=0.63、融点260℃、310℃における溶融粘度92Pa・sec)
紡糸口金:36島×16フィラメント
海島比:島/海=20/80(重量割合)
総吐出量:12g/min
紡糸温度:310℃
巻取速度:100m/min
紡糸時は押出繊維の粘度が非常に高く、高速で巻取を試みると繊維が破断するため、巻取速度を極端に下げて紡糸を行う必要があった。また、ピッチから発生するガスの影響で実験中に頻繁に糸切れを起こした。得られた未延伸糸の総繊度は1200dTexで単糸繊度は76dTexであった。また、未延伸糸の断面観察を行ったところ、繊維内部に均一に島成分が観測され、その直径は5.8μmであった。この繊維を120本引き揃えて熱収縮チューブに充填し、真空乾燥機内部で120℃、3時間処理して繊維同士を融着させた後、整形して直径10mmのロッドを作製した。得られたロッドを340℃に加熱された入口側の直径が10mm、出口側の直径が1mmのテーパー状ダイに押し込み、吐出された繊維を引き取ることで直径0.86mmのモノフィラメントを得た。延伸前後の直径から算出される理論延伸倍率は164倍である。
【0038】
得られたモノフィラメントの断面観察を行った結果、内部にメソフェーズピッチからなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維であったが、島成分の形状は不定形であり、円形からは大きく外れていた。画像処理により算出された島成分の平均直径は529nmであるが、円形度が0.9以上の島の割合は3.3%であった。
【0039】
この海島型ブレンド繊維を空気雰囲気下において、1.5℃/分で室温から250℃まで昇温し、そのまま2時間保持して不融化を行った。その後、窒素雰囲気下において、600℃、1時間の熱処理を行い炭素繊維を作製した。作製した炭素繊維を電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維同士が互いに融着した炭素の塊が観測され、炭素繊維を分離することはできなかった。
【0040】
比較例2
まず、以下の条件で島成分樹脂と海成分樹脂を混合し、ブレンド樹脂を作製した。
島成分:熱可塑性ポリアクリロニトリル樹脂(三井化学(株)製、バレックス(登録商標)#3000)
海成分:ポリラクチド(Cargill Dow Polymer LLC製、6250D、融点170℃、220℃における溶融粘度83Pa・sec)
海島比:島/海=20/80(重量割合)
混練温度:190℃
スクリュー回転数:250rpm
処理速度:4kg/hour
次に、得られたブレンド樹脂を以下の条件で溶融紡糸を行い、海島型ブレンド繊維を作製した。
【0041】
紡糸口金:6フィラメント
総吐出量:7.2g/min
紡糸温度:195℃
巻取速度:1200m/min
得られた未延伸糸の総繊度は60dTexで単糸繊度は10dTexであった。この繊維をローラー型延伸機を用いて2.6倍の延伸を行った。
【0042】
得られた繊維の断面観察を行ったところ、内部に熱可塑性ポリアクリロニトリルからなる島成分を無数に含んだ海島型複合繊維で、島成分のほとんどは独立しているが、一部の島成分は融着しているのが観測された。ここで、島成分の平均直径は140nmであり、円形度が0.9以上の島の割合は87.2%であった。
【0043】
この海島型ブレンド繊維を実施例1と同様に焼成し炭素繊維を作製した。作製した炭素繊維を電子顕微鏡で観察したところ、直径80〜150nmの炭素繊維が観測されたが、数μmの長さの短繊維が凝集した紡績糸状であり、連続した極細炭素繊維は得られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】繊維の超延伸に使用できるテーパー状のダイの模式図である。
【符号の説明】
【0045】
1:ダイ本体
2:繊維入口
3:繊維出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融賦形性を有する炭素原料樹脂を島成分、熱分解性樹脂を海成分とした海島複合繊維を、繊維全体に占める島成分樹脂の比率が10〜50重量%で、かつ島成分の直径が1〜10μmとなるように溶融紡糸で作製し、さらに得られた繊維を超延伸することを特徴とする複合繊維の製造方法。
【請求項2】
島成分樹脂と海成分樹脂が、それぞれの樹脂の高い方の融点より50℃高い温度で、かつ剪断速度1216sec―1において測定した樹脂の粘度が下記式を満たすことを特徴とする請求項1記載の複合繊維の製造方法。
【数1】

ηs:海成分(熱分解性樹脂)の粘度
ηi:島成分(炭素原料樹脂)の粘度
【請求項3】
島成分樹脂が溶融賦形可能なアクリロニトリル系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項4】
海成分樹脂が脂肪族ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。
【請求項5】
複合繊維を複数本束ねた後、加熱したテーパー状のダイを通過させることにより超延伸することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合繊維の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265788(P2006−265788A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87902(P2005−87902)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】