説明

複合繊維を含む吸着担体

【課題】血液中に存在する細胞、特に顆粒球や単球などの活性化した白血球、ガン細胞などを除き、さらに好ましくは過剰に存在するサイトカインをも除去でき、さらにそのサイトカイン吸着能を従来技術に比べ著しく増大させることが可能である吸着担体を提供することを課題とする。
【解決手段】 直径0.5μm以上8μm以下の繊維Aと直径8μm以上50μm以下の繊維Bを含み、繊維Aの直径より繊維Bの直径が大きく、前記繊維Bが芯鞘型または海島型複合繊維であることを特徴とする吸着担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な吸着担体、特に血液成分を通過させて使用する血液処理カラムに適した吸着担体に関するものである。さらに本発明の吸着担体を組み込んだ、血中に存在する細胞や液性因子を吸着、除去するのに適した吸着体モジュールとしての血液処理カラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な血液処理カラムが研究され、例えば、白血球除去や、顆粒球除去を目的としたカラム(特許文献1,2)、毒素やサイトカイン吸着を目的としたカラム(特許文献3,4)、白血球と毒素を同時に吸着することを目的としたカラム(特許文献5)等がそれぞれ開発されてきた。これらは、通常、カラム内部にそれぞれ目的とする物質を除去・吸着するための濾過材または吸着担体を有している。これら濾過材または吸着担体としては様々な物質、形状のものが用いられているが、それぞれ一長一短がある。例えば、ポリエステル不織布からなる白血球除去担体(特許文献1)では、3μm以下の繊維径を有する繊維からなる不織布を作製し、白血球除去フィルターを実現している。しかし、嵩密度の設定が高い領域にあり、処理する血液の目詰まりを伴うものであった。
【0003】
また、直径2−3mm程度の酢酸セルロースビーズからなる吸着担体(特許文献2)においては、圧力損失の懸念はあまりないものの、吸着表面積を大きくすることに不向きであり、吸着担体としては非効率的である。かといって、吸着表面積を大きくするために粒子径を小さくすることは、処理する血液の圧力損失増加につながるため、採用し難い。
【0004】
また、特許文献3、4においては、用いる繊維の直径は30μm程度のものである。ここでは、毒素やサイトカインの吸着については提案されているものの、細胞の吸着のための機能付与がされていない。
【0005】
一方、吸着担体の嵩密度は、大きすぎると処理する血液が目づまりしやすく、逆に小さすぎると吸着担体の形態保持性が悪くなるので、0.05〜0.15g/cmであることが重要であり、好ましくは0.10〜0.15g/cmであるものが使用されることが開示されている(特許文献6)が、0.05〜0.10g/cmの範囲で形態安定性が悪く、0.10〜0.15g/cmの範囲ではなお実用的なものは開発されていない。また10μm以下の繊維径を有する、芯鞘型または海島型複合繊維である繊維と、10μm以上の繊維径を有する、通常の繊維からなる細胞吸着材が開示されており、前者によって細胞を吸着しているが、繊維径が小さいため、吸着された細胞により吸着機能を有する部分がマスクされ、吸着機能が短時間で低下する点が問題である。
【特許文献1】特開昭60−193468号公報
【特許文献2】特開平5−168706号公報
【特許文献3】特開平10−225515号公報
【特許文献4】特開平12−237585号公報
【特許文献5】特開平14−113097号公報
【特許文献6】特開平14−172163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、血液中に存在する細胞、特に顆粒球や単球などの活性化した白血球、ガン細胞などを除くための吸着担体であって、圧力損失が少なく、かつ担体自体の形状安定性を付与した吸着担体を提供することを課題とする。さらに過剰に存在するサイトカインや毒素などの液性因子の除去容量を改善し単位体積あたりの吸着除去能力が優れた吸着担体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1. 直径0.5μm以上8μm以下の繊維Aと直径8μm以上50μm以下の繊維Bを含み、繊維Aの直径より繊維Bの直径が大きく、前記繊維Bが芯鞘型または海島型複合繊維であることを特徴とする吸着担体。
2. 前記繊維Aおよび前記繊維Bの両方が芯鞘型または海島型複合繊維であることを特徴とする前記1記載の吸着担体。
3. 前記繊維Aおよび/または前記繊維Bが少なくとも表面にアミノ基を有することを特徴とする前記1または2に記載の吸着担体。
4. 前記アミノ基が4級アンモニウム基であることを特徴とする前記3記載の吸着担体。
5. 前記4級アンモニウム基のカウンターイオンが、実質上塩素であることを特徴とする前記4記載の吸着担体。
6. 被吸着物質が生体由来物質であることを特徴とする前記1ないし5のいずれかに記載の吸着担体。
7. 被吸着物質として直径1μm以上の物質が含まれている液体および/または気体を流す用途に用いることを特徴とする前記1ないし6のいずれかに記載の吸着担体。
8. 前記繊維Aおよび前記繊維Bを含むシート状物の層と任意の100mm中に10mm以上の空隙を有するネットの層との少なくとも2層構造からなることを特徴とする前記1ないし7のいずれかに記載の吸着担体。
9. 前記繊維Aおよび/または前記繊維Bが架橋構造を少なくとも表面に含むことを特徴とする前記1ないし8のいずれかに記載の吸着担体。
10. 嵩密度が0.02〜0.5g/cmであることを特徴とする前記1ないし9のいずれかに記載の吸着担体。
11. 前記シート状物の形態が織物、編み物、不織布、多孔質体から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする前記1ないし10のいずれかに記載の吸着担体。
12. 前記1ないし11のいずれかに記載の吸着担体を充填してなる吸着体モジュール。
13. 前記10または11に記載の吸着担体が筒状に巻かれて、両端部に血液入口と血液出口とを有する円筒状容器に納められていることを特徴とする吸着体モジュール。
【発明の効果】
【0008】
本発明の吸着担体は、血液成分を通過させて使用する際の圧力損失が少なく、かつ形状安定性に優れることから、各種血液処理カラムに好適に使用することができる。芯鞘型または海島型複合繊維である直径8μm以上50μm以下の繊維B表面に吸着官能基の導入を行うため、官能基導入量を格段に増やすことができる。従来技術ではこの繊維上に吸着官能基を導入した直径0.5以上8μm以下の細胞が付着しやすい繊維Aでは細胞が付着したときに官能基を液体成分との接触から物理的に遮断するため、毒素やサイトカインなどの吸着特性が不足しがちであったが、機能分担を変えることで、過剰に存在する人体に不要な白血球やガン細胞などと、サイトカインなどの生体由来物質を同時に除去する性能を従来技術に比べ向上させることができため、自己免疫疾患、がん、アレルギーなどの血液処理や治療に有用である。またコンパクトな吸着器の設計が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題、つまり血液中に過剰に存在する白血球やガン細胞などの細胞とサイトカインなどの生体由来物質との両方を高い効率で選択的に吸着除去して、かつ、安全に体外循環できる吸着担体について、鋭意検討し、従来技術の吸着担体の問題について、嵩密度が大きすぎるために目詰まりを生じやすいことと、単に嵩密度の小さい不織布を得たとしても、形態保持性を伴わなければ、結局は血液等が目詰まり等を生じてしまうことについて、改善を検討した結果、成し遂げたものである。また、繊維によって形成された空隙を変化させることなく、細胞やサイトカインなどの生体由来物質を吸着しうる特異的官能基を大量に吸着担体に導入することを可能にしたものである。すなわち、従来技術に比べてより嵩密度を小さくし、かつ形態保持性を付与することに成功したものである。
【0010】
生体由来物質としては、上述のサイトカイン以外にも、走化因子、抗体、補体、リンフォカインなど、生物由来の蛋白質や脂質、糖質、ホルモン類などが含まれ、特に、構造解析や、パターン解析などのため除去作業を行う対象や、治療目的等のターゲットとして選定された物質は対象となる。その他にも、生体にとって悪影響を及ぼす、細菌、細菌毒素、ウイルスなども生体由来物質として取り扱う。細胞については、主に、血球細胞、癌化細胞などであり、血液やリンパ液、腹水、胸水などの滲出液中に出てくる物質を対象とする。研究における培養細胞、酵母、細菌類も対象となる。
【0011】
本発明の吸着担体は、繊維直径が0.5以上8μm以下の繊維Aおよび繊維直径が8μm以上50μm以下の繊維Bの2種の繊維を少なくとも含むものである。繊維Aと繊維Bとはシート状物を形成させて使用すること等が好ましい。繊維Aは、かかる繊維直径を有することにより、白血球やガン細胞等の細胞を吸着除去することに効果を発揮する。より具体的な直径は、目的とする吸着性能を考慮した上で決められるべきものである。たとえば、顆粒球の除去のためには0.5μm以上であることが好ましく、より好ましくは1μm〜8μmのものが使用される。0.5〜4μmの繊維を用いればリンパ球の除去にも好適に使える。一方で、4〜8μmの繊維、更に好ましくは、4.5〜8μmの繊維を用いることで、顆粒球をリンパ球に対し選択的に除去する機能を付与することができる。なお、0.5μm未満の繊維をさらに混合して用いれば、嵩密度を大きく変化させることなく生体由来物質の除去効率を上げることが可能となる。血球数の定量、ヘマトクリット値の測定は、シスメックス社XT−1800iV等を用いて行うことが可能である。ここで、顆粒球数は、好中球数を以て計算するものとする。
【0012】
しかしながら、繊維Aのみを用いてシート状物を作製して吸着担体とした場合、繊維直径が小さいために、形態保持性を保持することが困難である。そこで、より繊維径の大きい繊維Bと混合した繊維をシート状物等として用いることで、かかる問題を解決可能である。形態保持性が十分でない部分が一部でも存在すると、血液等を流したときの目詰まりの原因となることがあるため、繊維Aと繊維Bとは、ブレンダー等を用いて、十分に混合分散させることが好ましい。なお、ここでいう繊維の直径は、吸着担体からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で1000〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値について、10μm以上の場合は小数点以下第一位を四捨五入し、10μm未満の場合は小数点以下第二位を四捨五入して算出するものとする。なお、繊維Aと繊維Bとの直径の差が小さく、かつ広い分布を有し、さらには構造的な相違がない場合は、繊維AとBとの区別が困難になるが、下記の考え方で直径を求め、繊維Aおよび繊維Bを区別する。すなわち、繊維Aおよび繊維Bの直径の分布が2群を形成する場合、その各分布に属する繊維の平均値を求め、小さい方を繊維Aの直径、繊維Bの直径とする。また、繊維Aと繊維Bのそれぞれが異なる直径の分布を示す繊維の混合体である場合等は、各分布に属する繊維の平均値が0.5〜8μmの場合は繊維Aとし、8〜50μmの場合は繊維Bとする。なお、異なる繊維の分布同士が一部重なる場合は、公知のピーク分割手段を用いる。
【0013】
なお、本発明における直径は、円柱状のもののみ適用されるものではなく、たとえば断面が楕円や矩形、多角形の形状のものにも適用される。それらの場合、最外層を結んでできた図形の面積を求め、その面積に相当する円の直径を求めて繊維の直径とする。ただし、例えば5つの突起部分が存在する星形の場合は、その5つの頂点を結ぶ図形を考え、その面積を算出し、対応する円の直径を本発明で言う直径とする。
【0014】
また、繊維Bは芯鞘型または海島型の複合繊維である。ここで、海島型の複合繊維は、海島型の繊維における島構造が芯鞘型繊維であってもよい。このような繊維は、芯・鞘・海がそれぞれ異なる3種以上のポリマー組成からなる複合繊維として、それぞれのポリマーの特徴を発揮できるため、効果的である。この場合、使用するポリマーの組み合わせにより、導入し得る特異官能基を個別に選定できるため、2種類以上の官能基をポリマー別に導入することも可能となる。例えば、鞘成分に用いたポリマーと海成分に用いたポリマーとに対し、それぞれ別の官能基を導入することが可能である。
【0015】
上記した芯鞘型または海島型の複合繊維は、通常単独でも官能基導入が容易だが、脆いために使用が困難であるポリマー、たとえばポリスチレンなどを用いた場合でも、繊維状に加工することができるため、血液等からサイトカイン等を吸着除去する機能を有する官能基の付与が容易である。従って、芯鞘型または海島型の複合繊維であり、繊維直径が8μm以上50μm以下である繊維Bに適切な官能基を付与すると、吸着担体によるサイトカイン等の吸着除去のために大きな効果を発揮する。繊維Bの直径は、吸着単体の嵩高さを保持させるために、12μm以上50μm以下であることがさらに望ましい。繊維Bについて、繊維直径が100μm程度に大きいものは嵩密度を小さく保ち、形態保持性を高くするためには好都合ではあるが、大きすぎることで繊維Aとの混合性が良好でないために繊維Aの分散が悪くなり、担体としての均一性を損なうことにつながる。また、サイトカイン等を吸着する担体としての表面積を効率的に大きくできなくなるため、50μm以下がよい。一方、繊維径が小さくなれば、担体としての比表面積を増大できるため、吸着担体として高都合ではあるが、繊維Aと繊維Bとを混合したシート状物の嵩密度を小さく保つことは不可能になるため、8μm以上が好ましい。これらの観点から、15μm以上40μm以下であることが好ましく、使用のし易さからは17μm以上30μm以下であることがさらに好ましい。ただし、繊維Bは繊維Aより大きな直径を有するものであることが好ましい。一方で、繊維Aは、白血球やガン細胞等の細胞を吸着除去することに効果を発揮する。すなわち、本発明においては、繊維Aと繊維Bとが機能を効率的に分担して血液から有害成分を吸着除去する吸着担体を得ることができる。これに対し、繊維Aのみが芯鞘型または海島型の複合繊維である場合、繊維Aが白血球等とサイトカインの両方の吸着除去のための効果を発揮するための主要部分となるが、繊維径が小さいため、主に吸着された細胞により吸着機能を有する部分が容易にマスクされ、サイトカインの吸着機能が短時間で低下するという問題がある。
【0016】
さらには、繊維Aと繊維Bの両方が芯鞘型または海島型の繊維であることは、官能基を付与することが可能な部分が増加し、血液等からのサイトカインの吸着容量が増加するため、より好ましい。同様に細胞の吸着容量についても増加が期待できる。繊維Aと繊維Bの混合比率については、以下の指針に倣い実施すると良い。繊維Aの直径が5μm以下の場合、繊維Aの混合比率は80wt%以下が好ましく、さらに70wt%以下が好ましい。この場合、繊維Bの持つ嵩高さ保持機能が特に必要なためである。繊維Bの直径が15μm以下の場合は繊維Aの比率はさらに低く、60wt%以下がさらに好ましい。一方、繊維Aの比率が高すぎると血液等の目詰まりの危険が生じるので注意を要するが、40wt%以上が好ましい。繊維Aが5μmを超える場合において繊維Bの直径が15μm以下の場合は繊維Aの比率はさらに低く20wt%程度まで低くしてもよい。繊維Bの直径が15μmを超える場合は、繊維Aの比率は25から80wt%程度の範囲で調節可能である。AおよびBの繊維径が近い場合は繊維Aの比率は1から99wt%の範囲で簡便に使用できる。実際は上記範囲にとらわれるものではなく求める性能を考慮し、上記指針によって最適値を決めればよい。
【0017】
本発明の吸着担体は、特に好ましくは芯がポリプロピレン(以下、PP)、鞘がポリスチレン(以下、PS)、海がポリエチレンテレフタレートなどの多芯海島型複合繊維や、島がPPであり海がポリスチレンなどの海島型繊維などからつくられる。素材の組み合わせは、製糸性が良好であれば、いかなる組み合わせも実現できるが、特に鞘としてポリスチレンを用いると鞘構造に官能基導入を行いやすくなるため、特に好ましい。この場合、アミドメチル化法を適用することで、上記アミノ基を有する官能基を簡便に導入できる。従来から、環状ペプチド(ポリミキシンB、ポリミキシンS)、ポリエチレンイミン、4級アンモニウム塩などの導入が行われている。
【0018】
PSなどのように芳香環を有するポリマーでは芳香環の反応性を簡便に利用できる為、特異官能基を導入しやすい。しかし、逆に脆さを有していたり、場合によっては耐熱性に問題があったり、製造プロセスにおける洗浄用の有機溶媒の種類に制限がある等、取り扱いにくい性質も有している。この場合、ホルムアルデヒドやパラホルムアルデヒドなどにより表面に架橋構造を導入することで脆さや耐熱性などの上記の問題を解決することができる。ここで、架橋構造を導入するとは、吸着担体の素材自体を架橋させて導入することでもよく、また、他のポリマー等を皮膜させることによって形成させてもよい。
【0019】
前述の通り、本発明においては、主に繊維Aと繊維Bとからなる部分によって白血球やガン細胞などを吸着または濾過によって除去することができる。さらに、繊維の素材や繊維径を適宜選択することにより、これら白血球やガン細胞などと共にサイトカインなどの生体由来物質をも吸着・除去することが可能である。白血球やガン細胞などと共にサイトカインなどの生体由来物質をも効率よく吸着・除去するには、当該吸着担体に特定の官能基を導入、固定化することが好ましい。吸着担体、特に不織布等を構成する繊維の部分を構成する素材を適宜選択することにより、特定の官能基を導入せずともサイトカインなどの生体由来物質の吸着・除去能を付与することはできるが、特定の官能基の導入によって生体由来物質をより効率的に吸着することができるようになる。
【0020】
かかる官能基としてはアミノ基を有するものが好ましく、従って、繊維Aおよび繊維Bは、その少なくとも表面にアミノ基を有することが好ましい。表面にアミノ基が固定化された繊維は、血液等からサイトカインを効率的に吸着することが可能である。
【0021】
かかるアミノ基としては、その具体例として、アミノ基を有する環状ペプチド残基、ポリアルキレンイミン残基、ベンジルアミノ基、1級、2級、3級のアルキルアミノ基を使用することができる。そのなかでも、好ましくはアミノ基を有する環状ペプチド残基、ポリアルキレンイミン残基、さらに好ましくはアミノ基を有する環状ペプチド残基が、生体由来物質に対する吸着性能が高いため、好ましい。
【0022】
より具体的には、アミノ基を有する環状ペプチドは、2個以上、より好ましくは4個以上、かつ50個以下、より好ましくは16個以下のアミノ酸からなる環状ペプチドであって、その側鎖に1個以上のアミノ基を有するものであればよく、特に制限はない。その具体例としては、ポリミキシンB、ポリミキシンE、コリスチン、グラミシジンSあるいはこれらのアルキルあるいはアシル誘導体などを使用することができる。
【0023】
また、本発明で言うポリアルキレンイミン残基とは、ポリエチレンイミン、ポリヘキサメチレンイミンおよびポリ(エチレンイミン・デカメチレンイミン)共重合体で代表されるポリアルキレンイミンまたはその窒素原子の一部を、n−ヘキシルブロマイド、n−デカニルブロマイド、n−ステアリルブロマイドなどで代表されるハロゲン化炭化水素の単独または混合物でアルキル化したもの、または、酪酸、バレイン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、レノレイン酸、ステアリル酸などの脂肪酸でアシル化したものを意味する。
【0024】
また、導入すべきアミノ基としては4級化された4級アンモニウム基であることが好ましい。固定化される官能基である4級アンモニウム塩および/または直鎖状アミノ基として、アンモニア、また1〜3級アミノ基がポリマーに化学的に結合した状態のものが好適に用いられる。かかる1〜3級アミノ基としては、炭素原子数で言うと、窒素原子1個当たり炭素原子数18以下であるものが反応率向上のために好ましい。さらに、1〜3級アミノ基の中でも、窒素原子1個当たり炭素数3以上、好ましくは4以下、かつ18以下、好ましくは14以下のアルキル基を持つ3級アミノ基から得られる4級アンモニウム基を結合したものがサイトカイン吸着性の観点で優れている。そのような第3級アミノ基の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N,N−ジメチルラウリルアミン、N−メチル−N−エチル−ヘキシルアミンなどがあげられる。本発明における4級アンモニウム塩および直鎖状アミノ基の結合の密度は、水不溶性担体の化学構造および用途により異なるが、少なすぎるとその機能が発現しない傾向にあり、一方、多すぎると、固定化後の担体の物理的強度が悪くなり、吸着材としての機能も下がる傾向にあるので、該密度は水不溶性担体の繰り返し単位あたり0.01モル以上が好ましく、0.1モル以上がより好ましく、2.0モル以下が好ましく、1.0モル以下がより好ましい。
【0025】
アミノ基の4級化は、アミノ基導入反応時にヨウ化カリウムのようなヨウ素を含む化合物を触媒的に用いることで達成されるが、その他の公知技術も好適に使用できる。ただし、サイトカインの吸着性に関しては、作用機序は不明確ではあるが、残存するヨウ素濃度が高いと性能発現が抑制されることがあるので、4級アンモニウム基のカウンターイオンとしては製造プロセス上の簡便さの観点からも塩素が好ましい。残存ヨウ素濃度を減少させるもっとも簡便な方法として、生理食塩水や各種濃度の食塩水などで洗浄し塩素に置き換えておくことが好ましい。すなわち、水との親和性を考慮すると、このような塩素化合物(塩化物)を含む処理液によって処理する方法が最も好ましい。
【0026】
上記のとおり、残存するヨウ素の濃度は低いことが好ましいが、吸着担体に残存するヨウ素量を1.4wt%以下とすることでインターロイキン−6(以下、IL−6)などのサイトカインの吸着性能を向上かつ安定させることに成功している。ここで言うヨウ素の残存形態としては、ヨウ素、ヨウ素イオンの両方が含まれるものであり、ヨウ素、ヨウ化物イオン、三ヨウ化物イオン等があげられる。吸着担体にカチオンが含まれる場合、そのカウンターイオンとしてヨウ化物イオン、あるいは、三ヨウ化物イオンとして存在することがある。また、それらが酸化された場合、表面にヨウ素として析出したものでもかまわない。また、ここで言うヨウ素残存量の測定にはいかなる測定法をも用いることができ、たとえば、元素分析、蛍光X線分析、滴定などを用いることができる。ただし、ヨウ素がイオンでなくヨウ素分子として残存し、吸着担体を使用するまでに乾燥工程が含まれない場合、測定試料調製時にのみ真空乾燥などの工程が含まれると、ヨウ素が昇華する可能性があり、吸着担体使用時の正確なヨウ素残存量を測定することができない。そのため、このような吸着担体については、その製造プロセスにおけるヨウ素残存量測定試料調製時に乾燥工程があってはならない。このようにカウンターイオンとして塩素以外のイオンの濃度がヨウ素の場合は特に1.4wt%以下、すなわち、98.6wt%以上が塩素に置き換わった状態、その他のハロゲン系イオンでは5wt%以下、すなわち、95wt%以上が塩素に変わった状態をカウンターイオンが実質上塩素である状態という。
【0027】
上述の繊維Aおよび繊維Bを含むシート状物の形態としては、織物、編み物、不織布、多孔質体の形態があげられる。これらの内、少なくとも1種を含むものであればよい。繊維集合体から形成される繊維間の空隙は,形態によりそれぞれ制御可能な範囲の大きさが異なるが、不織布の形態とすると繊維間空隙の大きさを変化させ得る範囲が大きい為、実用上好ましい。
【0028】
本発明における繊維の素材としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン、PPなどの公知のポリマーを使用することができる。糸の種類については、繊維A、繊維Bについては上記のとおりであるが、その他の繊維が含まれる場合、その種類については、これらのポリマーの単独糸であっても、芯鞘型、海島型またはサイドバイサイド型の複合繊維であってもかまわない。なお、繊維の断面形状は円形断面であっても、それ以外の異形断面であってもかまわない。吸着担体は、通常、上記した形態のシート状物を形成し、所定の官能基を導入することによって作製されるが、シート状物の製造方法は公知技術を使えばよく、例えば不織布の製造方法としては、公知の不織布の製造方法、例えば湿式法、カーディング法、エアレイ法、スパンボンド法、メルトブロー法等を用いることができる。
【0029】
このようなシート状物について、特に不織布とした場合、その形態保持性の向上のためには、ネットとの2層以上の構造とすることが好ましい。かかる2層以上の構造とは、主に積層構造を指す。不織布とネットの2層構造でもよく、不織布の間にネットを挟み込んだ形状、すなわち不織布−ネット−不織布のサンドイッチ構造をとることがより好ましい。もちろん、後述する吸着担体の嵩密度を考慮し、被処理媒体を通過させたときの吸着担体前後での圧力損失に影響のない範囲でさらに多層構造とすることも可能である。
【0030】
本発明におけるネットの素材としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル系ポリマー、ポリエチレン、PPなどの公知のポリマーを使用することができる。後述するように、不織布と一体化した後に官能基導入のための有機合成反応に供する場合は、用いる溶媒の種類や、反応温度に応じて適宜素材を選択すればよい。特に、生体適合性の面や、耐蒸気滅菌性の面からは、PPが特に好ましい。放射線滅菌を行う場合にはポリエステルやポリエチレンが好ましい。
【0031】
複数の繊維が合糸された糸や紡績糸によってネット構造が形成されていると、合糸された糸状間等を血液などの被処理媒体が通過することによる圧力損失上昇の懸念があるため、ネットはモノフィラメントで形成されていることが好ましい。またモノフィラメントであれば、1本あたりの機械的な強力も保持しやすい。
【0032】
モノフィラメントの直径は好ましくは50μm以上1mm以下であり、同様にネットの厚みは好ましくは50μm以上1.2mm以下である。これ以上大きな範囲でも可能であるが、単位体積あたりの吸着担体そのものの分量を減らすことになり、好ましくはない。
【0033】
ネットの構成としては、特に限定されず、結節網、無結節網、ラッシェル網等を用いることができる。網み目の形状も特に限定されず、長方形、菱形、亀甲形等を用いることができる。さらに、ネットの構成材のシート状物に対する位置的な関係を、例えばネットの空隙形状が四角形の場合、シート状物の長軸または短軸方向に対し角度90度±10度の方向をなすようにすることにより、シート状物を積層したときの強度や、ハンドリング性能がより向上する。
【0034】
ネットを用いることで、不織布により形態保持性を付与することができ、嵩密度が小さくても形態の安定した吸着担体とすることができる。なお、ネット自体が被処理媒体の圧力損失に影響を与えるので、ネットとしてはなるべく開孔部が大きい方が望ましい。このためには任意の100mm中に、10mm以上の空隙を有するものであることが望ましく、特に好ましくは、3mm角程度の開孔部を有するものであると、形態保持性も良好となり、好適に使用できる。
【0035】
吸着担体の1枚当たりの厚みについては、特に限定するものではないが、シート状物とした場合は0.1mm以上10cm以下のものが取り扱い上、好ましい。例えば、東レ社製のトレミキシン(登録商標)のようなラジアルフロータイプのモジュールに組み込む場合は、シート状の吸着担体を中心パイプに巻き付けるため、巻きはじめと巻き終わり部分に段差を生じやすい。そのため厚みは1cm以下であることが好ましい。単純に吸着担体を積層してカラムに充填する場合、厚みはカラムの大きさに従って自由に決めることができる。吸着担体全体の厚みについては、2mm以上であることが好ましく、性能ばらつきを抑えるためには積層して用いることが簡便に用いられる。この場合の厚みとして3cm程度が扱いやすいが、10cm程度までは問題なく取り扱える。
【0036】
本発明における吸着担体の嵩密度は、0.02g/cm以上であることが好ましく、0.05g/cm以上であることがより好ましく、また、0.5以下であることが好ましく、0.15g/cm以下であることがより好ましい。ここで言う嵩密度とは、フエルト状に加工したシートであり、所望の官能基導入反応等を実施した後の最終段階におけるシート状物の嵩密度を指す。嵩密度を大きくすると白血球や細胞などの大きな物質を濾過する能力が向上するが、大きすぎると血液循環時に目詰まりしやすくなるため、前記の範囲が好ましい。ただし、0.15g/cmを超えるものはあえて本発明の構成、すなわちネットと不織布の積層構造を取らずとも、不織布のみで十分に形態安定性が保たれるというメリットがある。嵩密度の測定は、吸着担体を3cm角の正方形の小片に切断後、5cm角で1mm厚のPP製の板を厚み方向に重ねるように上から載せた状態で吸着担体の厚みを測定し、板を外して再度載せてから吸着担体の厚みを測定することを5回繰り返し、その平均値を厚みとする。この小片の重さを、体積で割ることで嵩密度を求め、これを5サンプルで実施し、平均値を嵩密度とする。ネットを有する場合は上記の方法で測定した後、ネットのみを除き、小片の重さからネット重量を差し引いて同様に計算で求める。
【0037】
本発明の吸着担体の製造方法について、担体の形態として不織布を例に取り説明する。繊維Aおよび繊維Bを目的の混合比率になるよう計量し、混合した状態でカードを通過させ相互に十分分散させ綿状にする。この綿状物を目標の目付になるよう秤量後クロスラッパーに通しニードルパンチして不織布を作成する。この不織布と、別途作製したネットを、サーマルボンド法、カレンダー法、ニードルパンチ法等の公知のウエブ接着方法で積層構造とする。また、積層構造にするためのより好ましい方法は、あらかじめ、プレパンチングを施した綿状物を作成し、その間にネットを挟み込んでパンチングして不織布−ネット−不織布の層構造を有する吸着担体を作製する方法であり、簡便であるため、連続生産に適している。なお、プレパンチングした綿状物の片面にネット1枚を載せた2層構造のものを積層して多層構造の吸着担体を製造することも可能である。
【0038】
本発明の吸着体モジュールは、上記吸着担体を容器、特に好ましくは円筒状容器に充填することによって製造することができる。
【0039】
かかる吸着体モジュールとしては、吸着担体をシート状に形成してこれを複数層も重ねてカラムに充填してなるものがあげられる。また、吸着担体を芯材に、もしくは芯材なしで円筒形状に巻いて構成した円筒状フィルターが両端部に血液入口と血液出口とを有する円筒状容器に納められているカラムもあげられる。さらに、吸着担体が円筒状に巻かれてなる中空円筒状フィルターがその両端部を封止された状態で血液入口と血液出口とを有する円筒状容器に納められており、容器の血液出口が中空円筒状フィルターの外周部に通じる部位(すなわち、血液は中空円筒状フィルターの内側から外側に向けて流れる。)または中空円筒状フィルターの内周部に通じる部位(すなわち、血液は中空円筒状フィルターの外側から内側に向けて流れる。)のいずれかに設けられているカラム等があげられる。そのなかでも、中空円筒状フィルターを用いたカラムは、容器の血液出口が中空円筒状フィルターの内周部に通じる部位に設けられていると、血液中の炎症性白血球の大部分が円筒形状フィルターの外周部の大きな面積の不織布で迅速かつ十分に除去され、除去されずに残ったわずかな炎症性白血球は、円筒形状フィルターの内周部に到って、その小さな面積の不織布により除去されることから、効率的な炎症性白血球除去が可能であるので、最も好ましい。
【0040】
本発明の吸着担体は、被吸着物質として直径1μm以上の物質が含まれている液体および/または気体を流す用途に用いることが可能である。直径1μm以上の物質とは、たとえば血球、血漿等があげられる。すなわち、本発明の吸着担体は、医療用途に好適に用いることができる。したがって、本発明に係る吸着体モジュールは、治療を目的とした体外循環用カラムや研究目的に用いる灌流用カラムなどとして使用することができる。
【実施例】
【0041】
[測定方法]
(繊維直径)
作製例にて作製した吸着担体からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡等で1000〜3000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の直径を測定し、それらの平均値について、10μm以上の場合は小数点以下第一位を四捨五入し、10μm未満の場合は小数点以下第二位を四捨五入して算出した。
【0042】
なお、断面が楕円や矩形、多角形の形状のものの場合、最外層を結んでできた図形の面積を求め、その面積に相当する円の直径を求めて繊維の直径とした。ただし、例えば5つの突起部分が存在する星形の場合は、その5つの頂点を結ぶ図形を考え、その面積を算出し、対応する円の直径を本発明で言う直径とした。
(嵩密度)
作製例にて作製した吸着担体を任意の3cm角の正方形の小片に切断後、5cm角で1mm厚のPP製の板を厚み方向に重ねるように上から載せた状態で吸着担体の厚みを測定し、板を外して再度載せてから吸着担体の厚みを測定することを5回繰り返し、その平均値を厚みとした。この小片の重さを、体積で割ることで嵩密度を求め、これを5サンプルで実施し、平均値を嵩密度とした。ネットを有する場合は上記の方法で測定した後、ネットのみを除き、小片の重さからネット重量を差し引いて同様に計算で求めた。
(血球数の測定)
血液中の血球数の定量、ヘマトクリット値の測定は、シスメックス社XT−1800iVを用いて行った。ここで、顆粒球数は、好中球数を以て計算した。
(サイトカイン吸着評価)
サイトカイン吸着評価は、EIA 法を用い、市販のキットIL−6:鎌倉テクノサイエンス製)を用いて行った。
【0043】
サイトカイン吸着率(%)=[(振盪前の血清中のサイトカイン濃度)−(振盪後の血清中のサイトカイン濃度)]/(振盪前の血清中のサイトカイン濃度)×100
[作製例1]
(吸着担体1)
32島の海島複合繊維(繊維A1)および16島の海島複合繊維(繊維B1)を、次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
(繊維A1)
島成分;PP
海成分;「エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、共重合成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸3重量%含む共重合ポリエステル」(PETIFA)
複合比率(重量比率);島:海=80:20
(繊維B1)
島成分;PP
海成分;PS90wt%、PP10wt%を混合したもの
複合比率(重量比率);島:海=20:80
この繊維A1:65wt%と繊維B1:35wt%とをタフトブレンダーを用い十分に混合分散し、カードを通過させシート状物を作製した後、クロスラッパーに通して目標の目付になるよう秤量後、ニードルパンチすることによって不織布形態の吸着担体を得た。次に、この不織布を90℃の水酸化ナトリウム水溶液(3wt%)で処理して海成分を溶解することによって不織布を作製した(吸着担体1)。
(中間体1)
次に、ニトロベンゼン600mLと硫酸390mLの混合液にパラホルムアルデヒド3gを20℃で溶解した後、0℃に冷却し、75.9gのN−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えて、5℃以下で溶解させた。これに5gの上記吸着担体1を浸し、室温で2時間静置した。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで十分に洗った後、水洗し、乾燥して、6.5gのα−クロルアセトアミドメチル化PS繊維(中間体1)を得た。
(官能基を導入した吸着担体1)
N,N−ジメチルオクチルアミン50gとヨウ化カリウム8gを400mLのジメチルホルムアミド(DMF)に溶かした溶液に5gの上記中間体1を浸し、85℃のバス中で3時間加熱した。加熱後の繊維を取り出してメタノールで洗浄した後、1mol/L濃度の食塩水に浸漬した。浸漬後の繊維を水洗し、真空乾燥して、6.8gのジメチルオクチルアンモニウム化繊維(官能基を導入した吸着担体1:AC−1(adsorption carrier−1))を得た。この担体1の厚みは1.8mmであった。
[作製例2]
(吸着担体2)
36島の海島複合繊維であって、島成分が更に芯鞘複合繊維であるもの(繊維A2)および海島複合繊維でも芯鞘複合繊維でもない繊維(繊維B2)を、次の成分を用いて、作製例1と同一の製糸条件で得た。
(繊維A2)
島の芯成分;PP
島の鞘成分;PS90wt%、PP10wt%を混合したもの
海成分;PETIFA
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=40:40:20
(繊維B2)
成分;PP
繊維直径:25μm
この繊維A2:65wt%と、繊維B2:35wt%を用いて、作製例1と同一の条件により不織布を作製した(吸着担体2)。
(中間体2)
次に、上記吸着担体2を用いて、作製例1と同一の条件により、6.6gのα−クロルアセトアミドメチル化PS繊維(中間体2)を得た。
(官能基を導入した吸着担体2)
上記中間体2を用いて、作製例1と同一の条件により、6.9gの官能基を導入した吸着担体2(AC−2)を得た。官能基を導入した吸着担体2の厚みは1.9mmであった。
[実施例1]
健常者ボランティアの血液50ml(ヘマトクリット値:43%)をヘパリン採血(ヘパリン濃度10U/ml)し、その中へ、鎌倉テクノサイエンス社製ヒト天然型IL−6をその濃度が500pg/mlになるように溶解した。
【0044】
140mgのAC−1を内容積が2ml、軸方向と垂直の方向の断面の直径が1cmである円筒形状のカラムに、その軸方向に積層して充填し、37℃で1時間、流速2.0ml/minで上記血液25mlを循環した後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−6量を定量した。以降の定量には、東レ鎌倉テクノサイエンス社製IL−6定量キットを用いた。その結果、循環前の血液に比べ、循環後の血液中のリンパ球数、顆粒球数、単球数、IL−6の減少率(除去率)は表1に示す通りであった。また、循環の際、血液のカラム圧力損失(血液の有する圧力のカラム通過前からカラム通過後までの損失、1時間内に100mmHg以上となった場合、不適とした。)の上昇は過大になることはなく、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の58mmHgであった。
[比較例1]
作製例2で作成したAC−2を、実施例1と同様に同量カラムに充填し、実施例1で採取した血液の残りの25mlの血液を用いて、実施例1と同条件にてカラムを循環させた後、血球の組成を自動血液分析器で調べ、また、IL−6量をEIA法にて定量した。その結果、各物質の除去率は表1の通りであり、IL−6は43%しか減少していなかった。また、循環の際、カラムの圧損上昇は過大になることはなく、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の76mmHgであった。しかし、カラム構成はほぼ同じにもかかわらず、サイトカイン吸着性が低く、同じ吸着担体量ではより少量の除去しかできなかった。
[実施例2]
190mgのAC−1および実施例1と同じカラムを用いて実施例1と同様に担体が充填されたカラムを作成し、実施例1と同一の条件にて実験を行った。その結果、各物質の除去率は表1の通りであった。また、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の68mmHgであった。
[比較例2]
作製例2で作成したAC−2を、実施例2と同様に190mgカラムに充填し、実施例2で調製した血液の残りの25mlを用いて実施例2と同一の条件にて検討を行った。各物質の除去率は表1の通りであった。このとき、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の126mmHgであり、基準としている100mmHgを上回り、カラムとしては不適であった。また、白血球除去性はほぼ実施例2と同じであったが、サイトカイン吸着性が低く、同じ吸着担体量でより少量の除去しかできなかった。
[作製例3]
(吸着担体3)
32島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合繊維であるもの(繊維A3)および16島の海島複合繊維(繊維B3)を次の成分を用いて、作製例1と同一の製糸条件で得た。
(繊維A3)
島の芯成分;PP
島の鞘成分;PS90wt%、PP10wt%を混合したもの
海成分;PETIFA
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=42:43:15
(繊維B3)
島成分;PP
海成分;PS90wt%、PP10wt%
複合比率(重量比率);島:海=20:80
この繊維A3:65wt%と、繊維B3:35wt%をタフトブレンダーを用い十分に混合分散して、カードを通過させシート状物を作製した後、開孔部が2mm角のポリエステル製ネット(厚み0.4mm、モノフィラメントの径0.3mm、目付75g/m)をシート状物の両端軸に対しネットの繊維方向が5度を為すようシート状物の間に挟み、クロスラッパーに通して目標の目付になるよう秤量後、ニードルパンチすることによって三層構造の吸着担体を得た。次に、この不織布を90℃の水酸化ナトリウム水溶液(3wt%)で処理して海成分を溶解することによって不織布を作製した(吸着担体3)。
(中間体3)
次に、上記吸着担体3を用いて、作製例1と同一の条件により、6.8gのα−クロルアセトアミドメチル化PS繊維(中間体3)を得た。
(架橋繊維)
吸着担体3について、N−メチロール−α−クロルアセトアミドを加えないこと以外は上記(中間体3)と同一の方法にて処理して、同様に室温で2時間静置し反応させた。その後、繊維を取り出し、大過剰の冷メタノール中に入れ、洗浄した。繊維をメタノールで十分に洗った後、水洗し、乾燥して、5.5gのPS架橋繊維(架橋繊維)を得た。
(官能基を導入した吸着担体3)
上記中間体3を用いて、作製例1と同一の条件により、7.2gの官能基を導入した吸着担体3(AC−3)を得た。残存ヨウ素は蛍光X線分析の結果、塩素イオンに対し0.9wt%であった。
【0045】
得られたAC−3は、ネットを含むため、変形せず、良好な形状を保った。
(作製例4)
(吸着担体4)
作製例1における16島の海島複合繊維(繊維B1)の代わりに、直径19μmのPP繊維(繊維B4)を用い、繊維A1とともに、作製例3と同様の手法にて三層構造の吸着担体を得た。次に、この不織布を90℃の水酸化ナトリウム水溶液(3wt%)で処理して海成分を溶解することによって不織布を作製した(吸着担体4)。
【0046】
得られた吸着担体は、ネットを含むため、変形せず、良好な形状を保った。
[実施例3]
150mgのAC−3を、実施例1と同じ円筒形カラムに、実施例1と同様にして充填し、実施例1と同一の条件にて実験を行った。その結果、各物質の除去率は表1の通りであった。このとき、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の52mmHgであり、問題はなかった。
[比較例3]
作製例4で作成した「吸着担体4」を、実施例1と同じ円筒形カラムに、実施例1と同様にして充填し、実施例3で調製した血液の残りの25mlを用いて、実施例1と同様の方法にて検討を行った。
【0047】
その結果、各物質の除去率は表1の通りであった。このときカラム圧力損失の上昇は過大になることはなかった。白血球除去性はほぼ実施例2と同じであったが、サイトカイン吸着性が低く、同じ吸着担体量でより少量の除去しかできなかった。また、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の45mmHgであった。
[実施例4]
「架橋繊維」を1g採り、生理食塩水の中に浸漬し、121℃で40分間高圧蒸気滅菌を施した。この吸着担体表面にはPSが使われているにもかかわらず、走査型電子顕微鏡でその表面を観察したところ熱によって溶融などの形跡が認められず、吸着担体が高い耐熱性を有することが認められた。これはPS表面が架橋されているためである。
[作製例5]
(吸着担体5)
32島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合繊維であるもの(繊維A5)および16島の海島複合繊維(繊維B5)を次の成分を用いて、紡糸速度800m/分、延伸倍率3倍の製糸条件で得た。
(繊維A5)
島の芯成分;PP
島の鞘成分;PS90wt%、PP10wt%を混合したもの
海成分;PETIFA
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=42:40:18
(繊維B5)
島成分;PP
海成分;PS90wt%、PP10wt%
複合比率(重量比率);島:海=20:80
この繊維A5:62wt%と、繊維B5:38wt%を用いて、作製例3と同一の条件により不織布を作製した(吸着担体5)。
(中間体5)
次に、上記吸着担体3を用いて、作製例1と同一の条件により、6.8gのα−クロルアセトアミドメチル化PS繊維(中間体5)を得た。
(官能基を導入した吸着担体5)
上記中間体5を用いて、作製例1と同一の条件により、7.2gの官能基を導入した吸着担体5(AC−5)を得た。残存ヨウ素は蛍光X線分析の結果、塩素イオンに対し0.8wt%であった。
【0048】
得られたAC−5は、ネットを含むため、変形せず、良好な形状を保った。
[実施例5]
健常者ボランティアの血液50ml(ヘマトクリット41%)をヘパリン採血(ヘパリン濃度10U/ml)し、その中へ、500pg/mlになるようにヒト天然型IL−6を溶解した。
【0049】
160mgの「官能基を導入した吸着担体5」を、実施例1と同じ円筒形カラムに、実施例1と同様にして充填し、実施例1と同一の条件にて実験を行った。その結果、各物質の除去率は表1の通りであった。このとき、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の81mmHgであり、問題はなかった。
[作製例6]
(吸着担体6)
32島の海島複合繊維であって、島が更に芯鞘複合繊維であるもの(繊維A6)および16島の海島複合繊維(繊維B6)を次の成分を用いて、作製例1と同一の製糸条件で得た。
(繊維A6)
島の芯成分;PP
島の鞘成分;PS90wt%、PP10wt%を混合したもの
海成分;PETIFA
複合比率(重量比率);芯:鞘:海=42:40:18
芯鞘繊維直径:7.8μm
(繊維B6)
島成分;PP
海成分;PS90wt%、PP10wt%
複合比率(重量比率);島:海=20:80
この繊維A6:30wt%と、繊維B6:70wt%を用いて、作製例3と同一の条件により、芯鞘繊維の直径が7.9μmの不織布を作製した(吸着担体6)。
(中間体6)
次に、上記吸着担体3を用いて、作製例1と同一の条件により、6.8gのα−クロルアセトアミドメチル化PS繊維(中間体6)を得た。
(官能基を導入した吸着担体6)
上記中間体5を用いて、作製例1と同一の条件により、7.2gの官能基を導入した吸着担体6(AC−6)を得た。残存ヨウ素は蛍光X線分析の結果、塩素イオンに対し0.8wt%であった。
【0050】
得られた官能基を導入した吸着担体6は、ネットを含むため、変形せず、良好な形状を保った。
[実施例6]
実施例5の残りの血液(25ml)を用い以下の検討を行った。
【0051】
160mgのAC−6を、実施例1と同じ円筒形カラムに、実施例1と同様にして充填し、実施例1と同一の条件にて実験を行った。その結果、各物質の除去率は表1の通りであった。このとき、1時間循環した時点でのカラム圧力損失の最大値は終了時点の48mmHgであり、問題はなかった。
【0052】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径0.5μm以上8μm以下の繊維Aと直径8μm以上50μm以下の繊維Bを含み、繊維Aの直径より繊維Bの直径が大きく、前記繊維Bが芯鞘型または海島型複合繊維であることを特徴とする吸着担体。
【請求項2】
前記繊維Aおよび前記繊維Bの両方が芯鞘型または海島型複合繊維であることを特徴とする請求項1記載の吸着担体。
【請求項3】
前記繊維Aおよび/または前記繊維Bが少なくとも表面にアミノ基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の吸着担体。
【請求項4】
前記アミノ基が4級アンモニウム基であることを特徴とする請求項3記載の吸着担体。
【請求項5】
前記4級アンモニウム基のカウンターイオンが、実質上塩素であることを特徴とする請求項4記載の吸着担体。
【請求項6】
被吸着物質が生体由来物質であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項7】
被吸着物質として直径1μm以上の物質が含まれている液体および/または気体を流す用途に用いることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項8】
前記繊維Aおよび前記繊維Bを含むシート状物の層と任意の100mm中に10mm以上の空隙を有するネットの層との少なくとも2層構造からなることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項9】
前記繊維Aおよび/または前記繊維Bが架橋構造を少なくとも表面に含むことを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項10】
嵩密度が0.02〜0.5g/cmであることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項11】
前記シート状物の形態が織物、編み物、不織布、多孔質体から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の吸着担体。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれかに記載の吸着担体を充填してなる吸着体モジュール。
【請求項13】
請求項10または11に記載の吸着担体が筒状に巻かれて、両端部に血液入口と血液出口とを有する円筒状容器に納められていることを特徴とする吸着体モジュール。

【公開番号】特開2008−80114(P2008−80114A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223677(P2007−223677)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】