説明

複合繊維

【課題】芯鞘複合糸において、芯部を後溶出加工することで高中空率および中空形態の優れた中空繊維を得ることができ、ソフトで軽量性、保温性の優れたスポーツ用途などに有用な繊維を提供する。
【解決手段】芯部を形成するポリマーがポリ乳酸であり、鞘部を形成するポリマーがポリトリメチレンテレフタレートである芯部と鞘部を有する複合繊維であって、芯部の繊維全体に対する重量比率が30〜70wt%であることを特徴とする複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸とポリトリメチレンテレフタレートからなる芯部と鞘部を有する複合繊維に関するものであり、更に詳しくは、芯成分を溶出した後に高中空ポリトリメチレンテレフタレート繊維となり、ソフト感、易染性、軽量性、保温性に優れた高品位の中空繊維を製造することができる複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的性質、化学的性質、イージーケア性などの優れた特性から一般衣料用として広く利用されている。特に最近では、高機能化が求められており、スポーツ衣料などでは、運動のしやすさの点から軽量化の要望が強く、冬物用では保温性といった機能が求められている。衣料の軽量化をはかる手立てとしては、織編物の組織を工夫したり、嵩高性を付与するために仮撚加工を施したりと、ある程度の軽量化は可能である。しかし、さらに軽量化をはかる手段としては繊維自体を軽量化する必要があり、そのため従来より中空繊維が用いられている。
【0003】
また、ポリトリメチレンテレフタレート繊維は、ヤング率が低く、伸長弾性回復率が優れていることから、ソフトで高ストレッチといった特徴を有し、スポーツ衣料などでその特性が非常に有利に働く。例えば、従来、ポリトリメチレンテレフタレートを用いた中空繊維が提案されているが(例えば、特許文献1参照)、中空口金を用いて紡糸するため、製糸安定性が悪く、中空部の変形、潰れが生じやすく、実質的には十分な機能(軽量性・保温性)を付与するまでの中空繊維を得ることが困難であった。
【特許文献1】特開平11−189920号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、ポリトリメチレンテレフタレートを用いソフトで軽量性、保温性の優れた中空繊維を、芯部の後溶出加工により安定に製造することができる芯部と鞘部を有する複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は下記の構成を採用するものである。すなわち、
(1)芯部を形成するポリマーがポリ乳酸であり、鞘部を形成するポリマーがポリトリメチレンテレフタレートである芯部と鞘部を有する複合繊維であって、芯部の繊維全体に対する重量比率が30〜70wt%であることを特徴とする複合繊維。
【0006】
(2)芯部が溶出されて中空部が形成されていることを特徴とする前記(1)に記載の複合繊維。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、芯鞘複合糸の芯部を後溶出加工することで高中空率および中空形態の優れた中空繊維を得ることができ、ソフトで軽量性、保温性の優れたスポーツ用途などに有用な繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0009】
本発明の芯鞘型複合繊維は、芯部を形成するポリマーがポリ乳酸であり、鞘部を形成するポリマーがポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと略す)で構成されている。芯部を形成するポリマーとしてポリ乳酸を用いることが肝要である。ポリ乳酸はPTTやポリエチレンテレフタレートよりも溶融温度が低いため、溶融温度がPTTよりも高い有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートを芯成分として用いた場合に比べ、紡糸温度を低く押さえることができ、原糸、高次を含めた操業の安定化やPTTの熱劣化による風合い低下の防止が可能となる。また、ポリ乳酸は一般的に有機金属塩を共重合したポリエステルよりもアルカリ溶出速度が速いが、さらにPTTとの芯鞘型複合繊維とすることでポリ乳酸の配向が抑制され溶出速度がより速くなり、形状の安定した高中空繊維を得ることが容易となる。また、ポリ乳酸は有機金属塩を共重合したポリエチレンテレフタレートなどと異なり、溶出に酸処理を必要としないため、酸性溶媒の排出がなく、環境負荷を小さくでき、また、溶出工程の短縮化が図れ、非常に好ましい。
【0010】
ここで本発明で用いるポリ乳酸とは、-(O-CHCH-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるポリ乳酸がある。ポリ乳酸中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度は、低くなるとともに、結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は97%以上である。なお、光学純度は前記したように、融点と強い相関が認められ、光学純度90%程度で融点が約150℃、光学純度93%で融点が約160℃、光学純度97%で融点が約170℃となる。
【0011】
また、上記のように2種類の光学異性体が単純に混合している系とは別に、前記2種類の光学異性体をブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができ、より好ましい。
【0012】
鞘部を形成するポリマーとしてPTTを用いることが肝要である。PPTは、結晶構造においてアルキレングリコール部のメチレン鎖がゴーシューゴーシュの構造(分子鎖が90°に屈曲)であること、さらにはベンゼン環同士の相互作用(スタッキング、並列)による拘束点密度が低く、フレキシビリティーが高いことから、メチレン基の回転により分子鎖が容易に伸長・回復するという特有のストレッチバック性を有しており、非常にソフトな風合いを与えることができる。また、PTTは熱による劣化の進行が非常に速く、PTTよりも低融点であるポリ乳酸を芯成分として用いているため、PTTの劣化が抑制され、優れた力学特性が維持される。
【0013】
ここで本発明で用いるPTTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、20モル%以下、好ましくは10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、たとえばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸などのジカルボン酸類、一方、グリコール成分として、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。また、艶消剤として、二酸化チタン、滑剤としてのシリカやアルミナの微粒子、抗酸化剤として、ヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを必要に応じて添加することができる。
【0014】
なお、本発明の芯鞘型複合繊維は、芯部の重量比率が30〜70wt%であり、鞘部の重量比率が70〜30wt%であるものである。芯部はポリ乳酸により構成され、後溶出加工により中空繊維となすため、芯部の比率とは言い換えれば、中空繊維の中空率ということができる。芯部比率を30〜70wt%にすることにより、本発明の目的とする軽量性、保温性を発揮することができる。芯部の比率が30wt%未満では、芯部溶出後の中空率が低く、本発明で目的とする軽量性、保温性を得ることができない。芯部の比率が70wt%を超える場合、芯部溶出後のポリマー部分の厚みが薄くなり、本発明の目的とする優れた中空形態を維持することができず、またソフト性も不十分なものとなる。
【0015】
また、本発明では、芯鞘型複合繊維を弱アルカリ水溶液で処理することにより、芯成分を除去し、中空繊維を得ることができるため、前記特許文献1で示されているような中空型口金を用いて製造した中空繊維に比べ中空繊維のつぶれなどが発生しにくいという効果を有する。芯成分の溶出は、芯鞘型複合繊維を紡糸、延伸し、糸の段階で行ってもよいが、一般には芯鞘型複合繊維を主として用いて織編物を形成した後に、芯成分を溶出するのが高次加工性の点からも好ましい。織物や編物を作る方法は、従来のいかなる方法によってもよい。織物の場合、平織、斜文織、朱子織、これらの二重織あるいは変化組織のもの等すべての織りが含まれる。また、編物であるならば、ヨコ編み、タテ編み等すべての編みが含まれる。
【0016】
芯成分を溶出するには、アルカリ水溶液を用いることが好ましく、特に弱アルカリ水溶液を用いることが好ましい。弱アルカリ水溶液の濃度としては0.5〜5%の範囲、特に0.7〜4%の範囲内が好ましい。処理温度としては、60〜130℃、特に80〜100℃の範囲が好ましい。処理時間は、アルカリ水溶液の濃度および処理温度によっても変わり一概に限定されるものではないが、本発明者らの知見によれば、逆に、処理時間が15〜60分間程度の範囲内で十分に溶出ができるように、濃度、温度を設定するのが好ましい。
【0017】
本発明の芯鞘型複合繊維の繊維横断面形状は、芯部と鞘部の中心の位置は同一でも位置ズレ(偏心)していてもよい。また、芯部の後溶出を容易にするため、芯部の中心と鞘部の中心を大きくずらし芯部が露出した形状であってもよい。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を詳述するが、これら実施例のみに本発明の範囲が限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は次の方法により求めた。
(1)固有粘度[IV]
オルソクロロフェノール(以下OCPと略す)10ml中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃にてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを次式により算出した値(IV)である。
【0019】
ηr=η/η=(t×q)/(t×q
IV=0.0242ηr+0.2634
但し、η:ポリマー溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、q:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、q:OCPの密度(g/cm)。
(2)中空率
得られた繊維を経糸、緯糸の双方に用いて、経糸密度162本/2.54cm、緯糸95本/2.54cmの2/2ツイル織物を製織し、アルカリ溶出処理を行った。このようにして経糸密度を178本/2.54cm、緯糸密度103本/2.54cmの織物を得た。得られた織物から取り出した繊維の断面写真から次式により算出した。
【0020】
中空率(%)=(中空部の断面積/繊維全体の断面積)×100
(3)軽量性
(2)と同様にして得た織物について、この試料の厚み(mm)と1平方メートルあたりの重量(目付 g/m)を測定し、平方メートルあたりの重量を厚み(mm)で除した値で評価した。数値が小さいほど軽量であることを示し、300g/m・mm以下のものを本発明で目標とする軽量性があると判断とした。
(4)風合い
(2)と同様にして得た織物について、ハンドリングによる官能試験によりソフト感、保温性のそれぞれを10人のパネラーに10点満点で採点してもらい、下記の通り3段階で評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0021】
◎ :10人のパネラーの平均点が9点以上
○ :10人のパネラーの平均点が6点以上9点未満
× :10人のパネラーの平均点が6点未満
(5)製糸性
紡糸時間24時間における糸切れ回数から製糸性を3段階評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0022】
◎ :糸切れ無し
○ :糸切れ1〜3回
× :糸切れ4回以上
(6)延伸性
2kg巻きパーンを100本作製する際の延伸糸切れ回数から延伸性を3段階評価した。◎、○が本発明の目標レベルである。
【0023】
◎ :糸切れ率2%未満
○ :糸切れ率2%以上10%未満
× :糸切れ率10%以上
実施例1
固有粘度[IV]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に用い、芯部として光学純度98.0%のポリ−L−乳酸を用い、芯部の繊維全体に対する重量比率が50wt%にて、芯鞘型複合紡糸口金を用いて複合紡糸機にて紡糸温度250℃、引き取り速度3000m/minで巻き取った。続いて、該未延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃で延伸し、44デシテックス、12フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維を経糸、緯糸の双方に用いて、経糸密度162本/2.54cm、緯糸95本/2.54cmの2/2ツイル織物を製織し、アルカリ溶出処理を施し中空繊維織物を得た。表1に評価結果を示す。
【0024】
実施例2、3および比較例1、2
芯部の繊維全体に対する重量比率を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様の方法で、44デシテックス、12フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維を実施例1と同様の方法で製織し、アルカリ溶出処理を施し中空繊維織物を得た。表1に評価結果を示す。
【0025】
比較例3
固有粘度[IV]が1.40のポリトリメチレンテレフタレートを鞘部に用い、芯部として5−ナトリウムスルホイソフタル酸4.5モル%共重合した固有粘度[IV]が0.56のポリエチレンテレフタレートを用い、芯部の繊維全体に対する重量比率が50wt%にて、芯鞘型複合紡糸口金を用いて複合紡糸機にて紡糸温度280℃、引き取り速度3000m/minで巻き取った。続いて、該未延伸糸を通常のホットロール−ホットロール系延伸機を用いて延伸温度90℃、熱セット温度130℃で延伸し、44デシテックス、12フィラメントの延伸糸を得た。得られた繊維を経糸、緯糸の双方に用いて、経糸密度162本/2.54cm、緯糸95本/2.54cmの2/2ツイル織物を製織し、酸およびアルカリ溶出処理を施し中空繊維織物を得た。表1に評価結果を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例1〜3は、軽量性、風合い、製糸性、延伸性ともに良好であった。
【0028】
これに対し、比較例1は芯部の比率が小さく、中空率が低く、織物にしたときの軽量性、保温性が悪い結果となった。比較例2は芯部の比率が大きく、芯部の溶出後の中空率が高すぎ、繊維断面が潰れてしまう結果となった。比較例3は芯部に5−ナトリウムスルホイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートを用いており、紡糸温度を高めで製糸することとなり、製糸性、延伸性が悪い結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部を形成するポリマーがポリ乳酸であり、鞘部を形成するポリマーがポリトリメチレンテレフタレートである芯部と鞘部を有する複合繊維であって、芯部の繊維全体に対する重量比率が30〜70wt%であることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
芯部が溶出されて中空部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の複合繊維。

【公開番号】特開2006−97178(P2006−97178A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283766(P2004−283766)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】