説明

複合超電導線材の製造方法、複合超電導線材および金属被覆超電導テープ線材

【課題】金属被覆超電導テープ線材の表面上に付着されているセラミックスを除去することによって、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性を良くし、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成することが可能な複合超電導線材の製造方法、複合超電導線材、および複合超電導線材を構成する金属被覆超電導テープ線材を提供する。
【解決手段】第一の金属被覆超電導テープ線材13と、第二の金属被覆超電導テープ線材13及び/または補強テープ材11を準備し、前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材を超音波洗浄する。さらに、前記第一の金属被覆超電導テープ線材13と、第二の金属被覆超電導テープ線材13及び/または補強テープ材11とを半田で接合することにより、複合超電導線材15を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイルや超電導ケーブルなどの超電導応用機器に用いられる複合超電導線材の製造方法、複合超電導線材、および複合超電導線材を構成する金属被覆超電導テープ線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえばBi2223相などを有する酸化物超電導体を銀などのシース部で被覆した多芯線からなるテープ状の金属被覆超電導テープ線材は、液体窒素温度での使用が可能であり比較的高い臨界電流密度が得られること、長尺化が比較的容易であることなどから、超電導コイルや超電導ケーブルなどへの応用が期待されている。
【0003】
このような長尺形状を有する金属被覆超電導テープ線材は、たとえばパウダーインチューブ法を用いて形成する。具体的には、たとえばBi2223などの原料粉末を、銀で形成された長尺形状のチューブ(金属管)の内部に充填する。充填したチューブを複数本束ねたものを、長尺形状の別のチューブの内部に挿入する。そして当該チューブに対して伸線加工や圧延加工、さらに熱処理を施すことにより、目的の金属被覆超電導テープ線材を形成する。
【0004】
しかしながら、このような銀のチューブの内部に酸化物超電導体が配置された構成を有する金属被覆超電導テープ線材には、より高い機械的強度、特により小さい径に線材を曲げることができる機械的強度を実現する課題が残されている。このため、たとえば非特許文献1には、金属被覆超電導テープ線材に対して、補強テープ材を接合することが示されている。補強テープ材としては、たとえばステンレステープ、銅合金テープを使用する。金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材とを溶融半田で満たされた半田槽の中で集合させた状態で、ダイスの内部に両者を貫通させる。このようにすれば、溶融半田により金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材とが接合され、両者を一体化することができる。補強テープ材は金属被覆超電導テープ線材よりも機械的強度が高いため、補強テープ材が接合された金属被覆超電導テープ線材(複合超電導線材)は機械的強度が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2007−289527号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】菊地昌志、他10名、「新製品DI−BSCCOの開発」、SEIテクニカルレビュー、2008年1月、第172号、p71−77
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した非特許文献1に開示されている金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材との接合方法を用いた場合、金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材との密着性が劣ることがある。
【0008】
発明者らは、金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材との密着性が劣る原因について調査した。その結果、溶融半田に金属被覆超電導テープ線材を浸漬したときの、金属被覆超電導テープ線材表面に対する半田の濡れ性が悪いことが、金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材との密着性を悪くする原因になっているとの知見を得た。さらには、金属被覆超電導テープ線材表面に対する半田の濡れ性が悪くなる原因についても知見を得た。以下に、金属被覆超電導テープ線材表面に対する半田の濡れ性が悪くなり、しいては金属被覆超電導テープ線材と補強テープ材との密着性が悪くなる原因について説明する。
【0009】
上述したように、金属被覆超電導テープ線材は、原料粉末が充填された銀のチューブを伸線加工や圧延加工を施した後、熱処理して焼結することによって形成される。この焼結の際に、1本の長尺形状の当該テープ線同士が密着する現象を抑制するため、当該テープ線と、長尺状のセパレータとを束ねたものをパンケーキ巻きする。ここで長尺状のセパレータとして、たとえばセラミックスが塗布された繊維(紙)を使用する。このようにすれば、パンケーキ巻きにより重なって隣り合う金属被覆超電導テープ線材の間に上記長尺状のセパレータが挟まれることになり、重なって隣り合う金属被覆超電導テープ線材の表面同士が熱処理中に接触したり接着したりする現象を抑制することができる。
【0010】
このような長尺状のセラミックスを含むセパレータが配置された状態で金属被覆超電導テープ線材を焼結すると、金属被覆超電導テープ線材を構成する銀の表面上にはセラミックスが付着した状態となる。セラミックは金属である銀と比較して半田の濡れ性に劣るため、セラミックスが表面に付着した金属被覆超電導テープ線材に、半田を用いて補強テープ材を接合すると、密着性が悪くなることがある。
【0011】
表面上にセラミックスが部分的に付着した金属被覆超電導テープ線材に対しても、半田の濡れ性を良くするために、溶融半田の温度を上げたり、溶融半田に金属被覆超電導テープ線材を浸漬する時間を長くしたりするなどの方法を用いる場合がある。ところが、溶融半田の温度を上げ過ぎると、金属被覆超電導テープ線材の外枠を構成する銀が溶解してしまう可能性がある。また例えば金属被覆超電導テープ線材を長さ方向に進行させる速度(線速)を遅くすることにより、当該テープ線の各領域が溶融半田に浸漬する時間を長くすれば、生産工程が長くなり、コスト高や生産効率の低下を招くことになる。また当該浸漬時間を長くし過ぎても、金属被覆超電導テープ線材の外枠を構成する銀が溶解してしまう可能性がある。
【0012】
本発明は以上の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属被覆超電導テープ線材の表面上に付着されているセラミックスを除去することによって、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性を良くし、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成することが可能な複合超電導線材の製造方法、複合超電導線材、および複合超電導線材を構成する金属被覆超電導テープ線材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る複合超電導線材の製造方法は、第一の金属被覆超電導テープ線材と、第二の金属被覆超電導テープ線材及び/または補強テープ材を準備する工程と、前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材を超音波洗浄する洗浄工程と、前記第一の金属被覆超電導テープ線材と、第二の金属被覆超電導テープ線材及び/または補強テープ材とを半田で接合する接合工程とを含む。(請求項1)。
【0014】
このようにすれば、金属被覆超電導テープ線材の表面上に付着していたセラミックスが、超音波洗浄により除去され、当該テープ線材の表面に半田を付着する濡れ性を向上させることができる。このため、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成させることができる。
【0015】
上述した洗浄工程の後に、前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材の表面を研磨する工程を含むことが好ましい。(請求項2)。
このようにすれば、金属被覆超電導テープ線材の表面上に付着していたセラミックスのうち超音波洗浄でも除去しきれなかったセラミックスがさらに除去されると共に、当該テープ線材の表面が平滑化されるために、半田を付着する濡れ性をさらに向上させることができる。このため、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成させることができる。
【0016】
本発明に係る複合超電導線材は、上述した複合超電導線材の製造方法により製造される。(請求項3)。
このようにすれば、金属被覆超電導テープ線材の表面上に付着していたセラミックスが、超音波洗浄や研磨により除去され、または研磨により当該テープ線材の表面が平滑化され、当該テープ線材の表面に半田を付着する濡れ性が向上する。このため、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を供給することができる。
【0017】
上述した第一、第二の金属被覆超電導テープ線材の表面のうち、前記半田を介して、他方の金属被覆超電導テープ線材または補強テープ材と、対向する面において、前記対向する面の全面積に対する、セラミックスが付着している面の面積の割合が、25%以下であることが好ましい。(請求項4)。
このようにすれば、金属被覆超電導テープ線材の表面に半田を付着する濡れ性がさらに向上する。このため、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を供給することができる。
【0018】
本発明に係る金属被覆超電導テープ線材は、上述した複合超電導線材に使用され、金属被覆超電導テープ線材を超音波洗浄する洗浄工程と、金属被覆超電導テープ線材の表面を研磨する工程とのうち、少なくとも一つの工程を含む製造方法により製造される。(請求項5)。
上述した複合超電導線材に使用される金属被覆超電導テープ線材は、超音波洗浄や研磨によって、その表面に半田を付着する濡れ性が良いため、別の金属被覆超電導テープ線材や補強テープ材を半田で接合することによって複合超電導線材を形成する場合、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を供給することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属被覆超電導テープ線材の表面に半田を付着する濡れ性を向上させることができ、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を供給することでができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】金属被覆超電導テープ線材の概略斜視図である。
【図2】補強テープ材の概略斜視図である。
【図3】超音波洗浄設備の構成を示す概略断面図である。
【図4】研磨設備の構成を示す概略断面図である。
【図5】半田接合設備の構成を示す概略断面図である。
【図6】複合超電導線材の概略断面図の一例である。
【図7】複合超電導線材の概略断面図の一例である。
【図8】複合超電導線材の概略断面図の一例である。
【図9】金属被覆超電導テープ線材の表面の部分を拡大したイメージ図である。
【図10】超音波洗浄した金属被覆超電導テープ線材の表面の部分を拡大したイメージ図である。
【図11】超音波洗浄した後に研磨した金属被覆超電導テープ線材の表面の部分を拡大したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0022】
金属被覆超電導テープ線材13の概略斜視図を図1に示す。金属被覆超電導テープ線材13としてはたとえばBi2212やBi2223などの酸化物超電導体2が銀製のチューブ3の内部に充填されたものを焼結することにより形成されたものであることが好ましい。
補強テープ材11の概略斜視図を図2に示す。補強テープ材11としては機械的強度の高い材質で構成される長尺形状の構造体であることが好ましい。具体的には、たとえばステンレス製の長尺形状や、銅合金からなる長尺形状であることが好ましい。
【0023】
次に図3に示すような超音波洗浄設備400によって金属被覆超電導テープ線材13を超音波洗浄する。超音波洗浄設備400は、金属被覆超電導テープ線材13を超音波洗浄する超音波洗浄装置40と、金属被覆超電導テープ線材13を超音波洗浄装置40に供給する供給用ローラ41と、超音波洗浄装置40によって超音波洗浄された金属被覆超電導テープ線材13を回収する回収用ローラ45とから構成される。超音波洗浄装置40は、洗浄水供給部43と、超音波振動部46と、容器48とから構成されている。洗浄水供給部43から供給される洗浄水を、超音波振動部46で超音波振動させて、容器48の中で金属被覆超電導テープ線材13の表面に噴射させる。図3では、金属被覆超電導テープ線材13の上部から超音波洗浄水47を噴射しているが、上部および下部の両側から噴射するのが好ましい。また超音波洗浄の方法としては、上記の通り超音波振動させた水を金属被覆超電導テープ線材13の表面に噴射させる構成のものでも良いし、容器に満たされた水を超音波振動させ、その水の中に金属被覆超電導テープ線材13を通過させる構成のものでも良い。
【0024】
次に図4に示すような研磨設備600によって金属被覆超電導テープ線材13の表面を研磨する。研磨設備600は、金属被覆超電導テープ線材13を研磨する研磨装置60と、金属被覆超電導テープ線材13を研磨装置60に供給する供給用ローラ61と、研磨装置60によって研磨された金属被覆超電導テープ線材13を回収する回収用ローラ65とから構成される。研磨装置60は、その内部に金属被覆超電導テープ線材13を通過させ、金属被覆超電導テープ線材13の上部および下部の両側から研磨部63を押し当てることによって、金属被覆超電導テープ線材13の表面を研磨する。
【0025】
なお超音波洗浄する工程と研磨する工程とは、上記の通り図3および図4に示すような別々の設備で処置されても良いし、例えば供給用ローラから供給される金属被覆超電導テープ線材13が、超音波洗浄装置40で超音波洗浄されてから、研磨装置60で研磨され、回収用ローラで回収されるといったように、超音波洗浄工程と研磨工程が一連の設備で処置されても良い。さらには、金属被覆超電導テープ線材13を準備する工程(例えば金属被覆超電導テープ線材を焼結する際に重ねて巻いていたセパレータに含まれるセラミックス成分を除去するための解体工程)と、超音波洗浄工程や研磨工程とを、一連の設備で処置しても良い。
【0026】
また金属被覆超電導テープ線材を焼結する際に重ねて巻いていたセパレータに含まれるセラミックス成分を除去するための解体工程を複数回行う場合は、それぞれの解体工程の度に超音波洗浄や研磨を行うことが好ましい。
【0027】
次に図5に示す半田接合設備100によって金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とを半田で接合する。半田接合設備100は、金属被覆超電導テープ線材13や補強テープ材11の表面上に半田を付着させて、金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とを接合する半田接合装置10と、接合しようとする金属被覆超電導テープ線材13や補強テープ材11を半田接合装置10へ供給するための供給部20と、金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とが接合された複合超電導線材15を回収する回収部30とから構成される。
【0028】
半田接合設備100の供給部20は、金属被覆超電導テープ線材13を半田接合装置10へ供給する金属被覆超電導テープ線材用ローラ23と、補強テープ材11を半田接合装置10へ供給する補強テープ材用ローラ21とを備えている。たとえば1本の金属被覆超電導テープ線材13と2本の補強テープ材11とを半田を用いて接合して、断面が図6に示す構成となる複合超電導線材15を形成する場合は、図5に示すように、半田接合設備100の供給部20には、金属被覆超電導テープ線材用ローラ23が1台と、補強テープ材用ローラ21が2台配置される。ただし複合超電導線材15を構成する金属被覆超電導テープ線材13や補強テープ材11の本数は、これらの数に限られる必要はなく、任意の本数とすることができる。したがって金属被覆超電導テープ線材用ローラ23および補強テープ材用ローラ21は、形成しようとする複合超電導線材15の構成に応じた任意の台数とすることができる。
【0029】
たとえば図6に示す構成の他に、1本の補強テープ材11と、その両側に2本の金属被覆超電導テープ線材13とを、半田を用いて接合して、断面が図7に示す構成の複合超電導線材16を形成することもできるし、また2本の金属被覆超電導テープ線材13を重ねて、さらにその両側に2本の金属被覆超電導テープ線材13とを、半田を用いて接合して、断面が図8に示す構成の複合超電導線材17を形成することもできる。
【0030】
半田接合設備100の半田接合装置10は、図5に示すように、金属被覆超電導テープ線材13や補強テープ材11の表面上に付着させる半田1と、当該半田1を内部に保持する半田槽5とを備えている。半田槽5の内部には、半田1を液体の状態(溶融半田)で保持するために加熱溶解するための加熱手段(図5には図示されない)を含んでいる。半田1としては、たとえば鉛とスズとの合金や、亜鉛とスズとの合金からなる共晶半田を用いてもよいし、鉛を含まない鉛フリー半田を用いてもよい。
【0031】
また半田接合設備100の回収部30は、ダイス7と、複合超電導線材15を回収する回収用ローラ25とを備えている。ダイス7は、図5に示すようにくびれた領域において、半田1が付着された金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とが集合することにより、両者を接合させる部材である。ダイス7は図5に示すような形状である他、たとえば長尺方向に関する一部の領域に貫通穴が設けてあり、当該貫通穴を金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とが貫通することにより両者を集合させて接合させる構成であってもよい。ダイス7を通過し、金属被覆超電導テープ線材13と補強テープ材11とが接合されて一体の複合超電導線材15となったものを、回収用ローラ25に例えばパンケーキ巻きして回収する。
【0032】
以下に、金属被覆超電導テープ線材の表面を、超音波洗浄したり研磨したりすることで、半田の濡れ性が良くなることについて、図9〜図11を用いて説明する。図9は、金属被覆超電導テープ線材13の表面の部分を拡大したイメージ図である。金属被覆超電導テープ線材13の外枠を構成する銀3の表面は完全に平坦になっている訳ではなく(図9は強調して図示している)、また上述の通り、表面の大部分にセラミックス6が付着している。
次にこの金属被覆超電導テープ線材13を超音波洗浄することによって、図10に示すように表面に付着していたセラミックス6が除去され、金属被覆超電導テープ線材13の表面の銀3の大部分が露出される。金属である銀はセラミックスに比べて半田の濡れ性が良いため、金属被覆超電導テープ線材の表面を超音波洗浄することによって半田の濡れ性が良くなる。
次に超音波洗浄した金属被覆超電導テープ線材13の表面を研磨することによって、図11に示すように表面に付着していたセラミックス6がさらに除去されて金属被覆超電導テープ線材13の表面の銀3の大部分がさらに露出されると共に、金属被覆超電導テープ線材13の表面が平滑化される。一般的に半田の濡れ性は表面が平坦な方が良く、またセラミックスに比べて半田の濡れ性が良い銀がさらに表面に露出されることから、超音波洗浄した金属被覆超電導テープ線材の表面を研磨することによって半田の濡れ性が良くなる。
【0033】
以上より、金属被覆超電導テープ線材の表面を、超音波洗浄したり研磨したりすることで、半田の濡れ性が向上し、補強テープ材や金属被覆超電導テープ線材との密着性が良くなり、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成させることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0035】
(実施例1)
実施例として、1本の金属被覆超電導テープ線材13と、2本の補強テープ材11とを準備した。金属被覆超電導テープ線材13は、パウダーインチューブ法を用いて形成した。具体的には原料粉末を銀で形成された長尺形状のチューブの内部に充填し、充填したチューブを複数本束ねたものを、長尺形状の別のチューブの内部に挿入した。さらに伸線加工、圧延加工を施した後、熱処理(焼結)と解体の工程を2回繰り返して、金属被覆超電導テープ線材13を形成した。金属被覆超電導テープ線材13のサイズは幅4mm、厚さ0.23mm、長さ1000mである。また2本の補強テープ材11は、銅合金からなり、それぞれのサイズが幅4.5mm、厚さ0.05mm、長さ1000mである。
【0036】
金属被覆超電導テープ線材13は、超音波振動させた水を表面に噴射させることによって超音波洗浄をした後、金属被覆超電導テープ線材13の上部および下部の両側から研磨部を押し当てることによって研磨した。これらの超音波洗浄工程と研磨工程とは、金属被覆超電導テープ線材13を焼結する際に重ねて巻いていたセパレータに含まれるセラミックス成分を除去するための解体工程に引き続いて、一連の設備で処置した。また上記の通り解体は2回実施しており、両方の解体工程の後に、それぞれ超音波洗浄と研磨を行った。
【0037】
上記の通り超音波洗浄および研磨を施した金属被覆超電導テープ線材13の、長手方向の一部を切り取って、その表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察した全表面積に対する、セラミックスが付着している面の面積の割合は20%だった。
【0038】
次に上記の1本の金属被覆超電導テープ線材13と、2本の補強テープ材11とを、半田接合し、断面が図6に示す構成となる複合超電導線材15を製造した。このときの半田温度は260℃、半田への浸漬時間は6秒とした。
【0039】
上記の通り製造された複合超電導線材15の曲げ試験を実施した。曲げ試験とは、曲げる前に臨界電流を測定した後、複合超電導線材をある直径に曲げ、直状に戻した後再度同じ直径で逆側に曲げてから臨界電流を測定するサイクルを、臨界電流が低下するまで曲げ直径を小さくして繰り返し行うものである。このとき、臨界電流値が曲げる前の値に対して95%まで低下したときの曲げ直径を許容曲げ直径と定義している。つまり許容曲げ直径が小さいほど高い機械的強度を有する。本実施例の複合超電導線材15の曲げ試験の結果、許容曲げ直径は53mmだった。
【0040】
(比較例1)
比較例として、超音波洗浄と研磨とを行わず、それ以外の条件は実施例1と同様として、複合超電導線材15を製造した。
半田接合をする前の金属被覆超電導テープ線材13の、長手方向の一部を切り取って、その表面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、観察した全表面積に対する、セラミックスが付着している面の面積の割合は90%だった。
また比較例1の複合超電導線材15の曲げ試験の結果、許容曲げ直径は60mmだった。
【0041】
上記実施例1および比較例1の結果を表1に示す。これらの結果から、実施例1では、表面に付着しているセラミックスの量が少なく、さらに許容曲げ直径が小さいことが示され、本発明にかかる複合超電導線材は、高い機械的強度を有することが確認できた。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、高い機械的強度を持つ複合超電導線材を形成する技術として特に優れているので、超電導コイルや超電導ケーブルなどの超電導応用機器に用いられる複合超電導線材として好適である。
【符号の説明】
【0044】
1 半田、2 酸化物超電導体、3 銀、5 半田槽、6 セラミックス、7 ダイス、10 半田接合装置、11補強テープ材、13 金属被覆超電導テープ線材、15、16、17 複合超電導線材、20 供給部、21 補強テープ材用ローラ、23 金属被覆超電導テープ線材用ローラ、25,45,65 回収用ローラ、30 回収部、40 超音波洗浄装置、41,61 供給用ローラ、43 洗浄水供給部、46 超音波振動部、47 超音波洗浄水、48 容器、60 研磨装置、63 研磨部、100 半田接合設備、400 超音波洗浄設、600 研磨設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属被覆超電導テープ線材と、第二の金属被覆超電導テープ線材及び/または補強テープ材を準備する工程と、
前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材を超音波洗浄する洗浄工程と、
前記第一の金属被覆超電導テープ線材と、第二の金属被覆超電導テープ線材及び/または補強テープ材とを半田で接合する接合工程
とを含む複合超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記洗浄工程の後に、前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材の表面を研磨する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の複合超電導線材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の複合超電導線材の製造方法により製造されていることを特徴とする複合超電導線材。
【請求項4】
前記第一、第二の金属被覆超電導テープ線材の表面のうち、前記半田を介して、他方の金属被覆超電導テープ線材または補強テープ材と、対向する面において、
前記対向する面の全面積に対する、セラミックスが付着している面の面積の割合が、25%以下であることを特徴とする、請求項3に記載の複合超電導線材。
【請求項5】
請求項3もしくは請求項4に記載の複合超電導線材に使用される金属被覆超電導テープ線材であって、
前記金属被覆超電導テープ線材を超音波洗浄する洗浄工程と、
前記金属被覆超電導テープ線材の表面を研磨する工程とのうち、
少なくとも一つの工程を含む製造方法により製造されていることを特徴とする金属被覆超電導テープ線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−181192(P2011−181192A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41349(P2010−41349)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】