説明

複合酸化物の製造方法

【課題】 多孔質複合酸化物の細孔分布の制御性が良好であり、また収率を向上させて工業的実用性の高い製造方法を提供する。
【解決手段】 第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中に界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションとを混合し、この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、かつこの二次粒子を凝集させることを含み、上記逆ミセル内の水相における水素イオンを除く陽イオンの濃度を2mol/L以上とするとともに、その陽イオンの一部である金属イオンの濃度によって前記複合酸化物における細孔径を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の排ガスを浄化するための触媒などに使用可能な複合酸化物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合酸化物は2種以上の金属酸化物が化合物をつくった形の酸化物であり、構造の単位としてオキソ酸のイオンが存在しないものをいう。この複合酸化物の重要な用途の1つは触媒及び触媒担体であり、特に内燃機関の排気ガス浄化用触媒が知られている。その製造方法の一例が特許文献1に記載されている。
【0003】
この特許文献1に記載された方法は、いわゆるマイクロエマルション法と称することのできる方法であって、油中水滴型(W/O型)のマイクロエマルションを形成している水滴(逆ミセル)内の水相に触媒活性のある金属イオンを含有させておき、加水分解して水酸化物もしくは酸化物を生成する担持用の金属化合物を溶解させた溶液に、そのマイクロエマルションを混合して撹拌することにより、逆ミセルの界面で前記担持用金属化合物の加水分解を生じさせてその一次粒子を逆ミセル中で生じさせる。その一次粒子は、逆ミセル内の水相で互いに凝集して二次粒子を生成し、また逆ミセル同士が衝突・融合・分離を繰り返すので、二次粒子同士の凝集が次第に進行し、こうしてある程度の大きさに成長した二次粒子の凝集体(いわゆる三次粒子)を洗浄、乾燥の後、焼成して金属複合酸化物粉末とされる。
【特許文献1】特許第3466856号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
排ガス浄化触媒として使用される複合酸化物は、表面積を増大させ、また触媒活性を良好にするなどのために、多孔構造であることが好ましく、上述した特許文献1の方法では、一次粒子が凝集することによりそれらの一次粒子の間に空孔が形成され、またその空孔を有する二次粒子が凝集することにより二次粒子同士の間に空孔が形成されるので、多孔構造となる。
【0005】
しかしながら、凝集の形態によっては空孔径や空孔容積が必ずしも要求を満たさないものとなることがある。すなわち、二次粒子が充分に成長しない間に逆ミセルの衝突・融合が生じると、その際に各逆ミセルにおける二次粒子同士が凝集してしまい、二次粒子同士の凝集と言うよりも一次粒子の大きい凝集体となることがある。このようにして生成された多孔質体は、小さい径の空孔を多く含んでいるので、表面積が大きいものの、触媒として使用している間に高温に加熱されてシンタリングが早期に進行したり、いわゆる目詰まりが生じて排ガスの流動が阻害されるなどの事態が生じる。
【0006】
また、従来、マイクロエマルションを利用して酸化物の多孔体を合成する場合、その原料や油相の種類、沈殿を生じさせたり熟成させたりする時間や温度、さらにはマイクロエマルションを構成する水/油/界面活性剤の混合割合などの合成条件が細孔径やそのピークに影響を及ぼすことが知られている。しかしながら、それらの条件と細孔分布との具体的な相関関係は明らかになっておらず、ましてや工業的に多量生産を可能にする条件や方法については充分には検討されておらず、これらの点に技術的な開発の余地が多分にあった。
【0007】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、細孔径ピークあるいは細孔径の分布の制御を正確におこなうことができ、あるいはその制御が容易な複合酸化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、2種以上の金属元素を含む複合酸化物の一次粒子の凝集体である二次粒子を更に凝集させ、その二次粒子同士の凝集体を焼成する多孔構造の複合酸化物の製造方法において、加水分解することにより水酸化物もしくは酸化物を生成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中に界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションとを混合し、この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、この加水分解時に上記逆ミセル内の水相における水素イオンを除く陽イオンの濃度を2mol/L以上とするとともに、その陽イオンの一部である金属イオンの濃度によって前記複合酸化物における細孔径を制御することを特徴とする方法である。
【0009】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記加水分解時における前記逆ミセルの径が20nm以上であることを特徴とする方法である。
【0010】
さらに、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記加水分解時における油相と水相との体積比を40以下とすることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、前記溶液とエマルションとを混合して撹拌することにより、逆ミセルの界面において第1の金属化合物の加水分解が生じて、第2の金属元素を取り込んだ水酸化物あるいは酸化物の一次粒子が生じ、その一次粒子同士の凝集が逆ミセル内の水相で生じる。その場合、逆ミセルは互いに接近もしくは衝突しても、その内部の電荷による電気的な反発力で互いに融合(もしくは合一)することが防止もしくは抑制される。すなわち、二次粒子の生成および成長の場である逆ミセル内の水相が互いに隔絶された状態に維持され、その間に、一次粒子が生成されるとともに、その一次粒子の凝集による二次粒子の生成ならびにその成長がおこなわれる。そして、その一次粒子や二次粒子の量が金属イオンの量に応じて変化することにより、二次粒子の凝集によって生じる細孔径やそのピークが、結局は逆ミセル内の水相における全金属イオンの濃度に応じたものとなる。すなわち、逆ミセル内の水相における全金属イオンを調整することにより、複合酸化物の細孔径やそのピークもしくは細孔分布を適宜に制御することができる。
【0012】
特に請求項2の発明のように逆ミセルの径を20nm以上とすることにより、いわゆる反応場が大きくなって各逆ミセル内の水相における金属イオンの絶対量が多くなり、細孔径やそのピークもしくは細孔分布の制御性を向上させることができる。
【0013】
さらに、請求項3の発明によれば、油相と水相との体積比が40以下であって、逆ミセルの相対的な濃度が高くなり、その結果、マイクロエマルションの単位量当たりから得られる複合酸化物の量、すなわち収率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の方法で製造される多孔構造の複合酸化物は、一例として、図5に示すように、粒径5〜15nm程度の複合酸化物の一次粒子1の凝集体である、粒径約30nm程度の二次粒子2が凝集してなり、一次粒子1の間に細孔を有するのみならず、二次粒子2の間に直径5〜30nmのメゾ細孔3を有している複合酸化物である。一次粒子1が凝集して形成される二次粒子2は、一次粒子1同士の付着・凝集が不規則に生じるので、大まかに言って俵形状や弓形状などの複雑な形状を呈し、その二次粒子2同士が凝集することにより、主として、その二次粒子2同士の間にメゾ細孔3が形成される。したがって、得られる複合酸化物の細孔径やそのピーク値は、互いに凝集する二次粒子2の大きさに影響を受ける。
【0015】
この発明では、その二次粒子2を、マイクロエマルション(ME)を利用して生成する。具体的には、内部に水相を有するミセルを、界面活性剤によって有機溶媒中に分散させたマイクロエマルションを調整し、そのミセル(あるいは逆ミセル)の内部の水相で第1の金属元素の化合物の加水分解を生じさせ、同時に第2以降の金属元素を取り込む。こうして得られる一次粒子をその逆ミセルの内部で凝集させ、二次粒子2を形成する。したがって二次粒子2を形成する反応場が、逆ミセル内の水相であるから、二次粒子2を所望の大きさに成長させるために、逆ミセル同士の融合あるいは合一を抑制する処理を実施する。特に、この発明では、一次粒子の生成およびその凝集による二次粒子の生成・成長の反応場として、有機溶媒中に分散させた逆ミセル(好ましくは径が20nm以上の逆ミセル)を形成させ、その逆ミセルの融合(もしくは合一)を、それぞれの電荷に基づく電気的反発力によって抑制するように調整する。これは、具体的には、逆ミセルの内部の陽イオン(水素イオンを除く)濃度を、従来のいわゆるME法に比較して高い2mol/L以上に調整することによりおこなわれる。その陽イオンの一部が、逆ミセル内の全金属イオンであり、これには水相中に予め溶解させられている金属イオンと油相から水相に侵入した金属イオンとの両方が含まれる。
【0016】
またそのマイクロエマルションの油相と水相との体積比(O/W)は40以下に調整することが好ましい。その状態を図2に模式的に示してあり、有機溶媒4中に界面活性剤5によって分散させられている逆ミセル6は、その内部の水相7の陽イオンの吸着により帯電している。その結果、逆ミセル6同士の電気的反発が生じ、逆ミセル6同士が衝突するとしても融合が抑制され、その内部の水相7における二次粒子同士の凝集が回避される。
【0017】
この発明では、更に、二次粒子2の大きさを調整するために、逆ミセル内の水相における金属イオン濃度を調整する。二次粒子2の径および細孔径ピークと逆ミセル内の全金属イオンの濃度とはほぼ比例する。したがってこの発明では、狙いとする細孔径ピークもしくは二次粒子2の径に応じて、全金属イオン濃度を調整する。その場合、この発明の方法では、上述したように、逆ミセル内の水相での陽イオン濃度を調整していることにより、融合や合一などが抑制されて逆ミセル径が安定しているので、狙いとする細孔径ピークが小さい場合であっても、ほぼ狙いどおりの細孔径ピークの複合酸化物を得ることができる。
【0018】
これを、ME径(逆ミセルの径)を調整して細孔径ピークを制御する従来の方法と対比して説明すると、界面活性剤と水との比(W/S)を変えてもME径がなかなか変化しないので、従来の方法ではオイル(有機溶媒)と界面活性剤との比(O/S)を変化させてME径を制御している。その一例を表1に示してあり、狙いとする二次粒子2の径(予測粒子径)を14nm,12nm,10nm,9nm,8nm,5nmとした場合、オイル(有機溶媒)と界面活性剤との比(O/S)は、それぞれ、112,109,106,99,94,69とした。得られた複合酸化物の細孔径ピークの実測値は、図1に△印で示すとおりとなった。なお、細孔径ピークは、俵形状もしくは弓形状などの長円に類似する形状をなす二次粒子のいわゆる長径の2/5程度になることが経験的に知られているので、狙いとする細孔径ピークはその経験的に知られている関係に基づいて設定した。
【表1】

【0019】
これに対して、この発明による方法では、上記の予測粒子径に応じて、金属イオン濃度を順次低下させた。なお、各予測粒子径を得るための二次粒子を合成する際のpH調整用のアンモニアイオン濃度は同じにした。また、逆ミセル内での加水分解は水相で起こるため、金属イオン濃度として、水相および油相での合計値を水相の量で割ったものを採用した。その一例を表2に示してある。また、得られた複合酸化物の細孔径ピークの実測値は、図1に黒塗りの四角印で示すとおりとなった。
【表2】

【0020】
図1に示す結果から明らかなように、この発明の方法(図1の黒塗りの四角印)によれば、小さい細孔径ピークから大きい細孔径ピークに到る全体に亘って狙いどおりの細孔径ピークを得ることができる。すなわち、細孔径ピークの制御性が良好である。これは、二次粒子を形成する反応場である逆ミセルの径が安定しており、内部に存在する金属元素の量に応じて二次粒子が形成され、その後の凝集操作によって二次粒子同士が凝集し、その結果、二次粒子に見合った細孔径ピークが得られたものと考えられる。
【0021】
これに対して、逆ミセルの径を制御して細孔径ピークを制御する従来の方法(図1の△印)では、狙いとする細孔径ピークに対する実測値のバラツキが大きく、細孔径ピークを必ずしも良好には制御できない。特に、細孔径が小さい場合にはそのバラツキの傾向が顕著になり、図1に示す例では、6.5nm以下には小さくなっていない。すなわち、狙いとする細孔径ピークが大きい場合には、ME径が大きくなるので、逆ミセル同士の衝突や融合もしくは合一の確率が低下するので、細孔径ピークを比較的良好に制御できるが、狙いとする細孔径ピークが小さい場合にはME径が小さくなって、その衝突による融合や合一、あるいはその後の離散の確率が高くなり、その結果、逆ミセル内での二次粒子自体が大きく成長してしまい、それに伴って細孔径ピークが小さくなり、また合成できる二次粒子の形状が近似したものとなって細孔径ピークが所定値より小さくならないものと考えられる。
【0022】
つぎにこの発明の方法をより具体的に説明する。この発明における多孔質複合酸化物の種類は格別に限定されず、少なくとも第1の金属元素及び第2の金属元素を含む複合酸化物であればよい。複合酸化物の系は多くの教科書、ハンドブックなどに公知であり、アルミナ、ジルコニア、セリア、シリカ、酸化鉄、酸化マンガン、酸化クロム、酸化イットリウム、など金属酸化物を形成する多くの金属元素の酸化物は、ほとんどが第2以降の金属元素を添加して複合酸化物を形成することができる。どのような元素同士が複合酸化物を形成するかということ自体は知られている。この発明は、そのすべての複合酸化物に対して、加水分解性の原料又は無機金属塩原料が存在するかぎり適用できる。
【0023】
このような複合酸化物の例としては、セリウム−ジルコニウム複合酸化物が挙げられる。この複合酸化物は、酸化ジルコニウムZr2Oの結晶構造を有しており、この結晶構造中のジルコニウムの一部がセリウムにより置換されている。従来は酸化セリウムを触媒金属と共に担体上に担持させていたため、高温下で触媒を使用すると酸化セリウムの結晶成長により、酸化セリウムの酸素吸蔵放出能(OSC)が低下してしまうが、セリウムを複合酸化物として用いることにより高温下で使用してもOSCの低下を抑制することができる。さらに、この発明の複合酸化物では、高温での焼成後も十分な大きさの細孔を有しており、ディーゼル排気ガス中のHCのような分子量の大きなHCをも担体中に拡散させることができ、OSCを発揮することにより浄化することができる。
【0024】
また、他の例としては、ランタン等の希土類金属とジルコニウムの複合酸化物が挙げられる。酸化ジルコニウムの結晶構造中のジルコニウムの一部をランタンで置換すると、ジルコニウムは4価でありランタンは3価であるため、結晶格子中に酸素の存在しない酸素欠陥が形成される。この複合酸化物にアルカリ金属を添加すると、酸素欠陥に電子が供与される。電子の供与された酸素欠陥はきわめて強い塩基性を有し、従って電子の供与された酸素欠陥は強塩基点を構成する。このような強塩基点には、排気ガス中の一酸化窒素NOが捕獲され、結果として多量の一酸化窒素がこの複合酸化物中に吸着されることになる。すなわち、この複合酸化物はNOx吸蔵作用を有することとなり、NOx吸蔵還元触媒に利用することができる。そして、このランタン−ジルコニウム複合酸化物は高温での焼成後も十分な大きさの細孔を有しており、排気ガスをすばやく拡散することができ、排気ガス浄化を効率化することができる。
【0025】
この発明の方法では、複合酸化物の一次粒子を生成するとともに、その一次粒子を凝集させて二次粒子を生成し、さらにその二次粒子同士を凝集させるが、二次粒子同士の凝集は、二次粒子がある程度の大きさに成長するまで抑制する。そのために、逆ミセル内の水相における陽イオン(水素イオンを除く)濃度および金属イオン濃度を制御することは、前述したとおりである。
【0026】
この発明の多孔質複合酸化物の製造方法では、加水分解して水酸化物もしくは酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中において界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションとを混合し、この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成する。
【0027】
加水分解して水酸化物を形成する第1の金属元素の化合物を、仮に第1金属化合物と称すると、この第1金属化合物を構成する金属は狭い意味の金属ではなく、M−O−M結合を形成することができる元素M一般を意味する。
【0028】
この第1金属化合物としては、いわゆるゾルゲル法において一般に用いられる金属化合物を使用することができる。その例としては、金属アルコキシド、アセチルアセトン金属錯体、金属カルボキシレート、金属無機化合物(例えば硝酸塩、オキシ塩化塩、塩化物等)等を用いることができる。
【0029】
金属アルコキシドを形成する金属元素Mは、第1族から第14族までの元素、第16族ではイオウ、セレン、テルル、第15族ではリン、砒素、アンチモン、ビスマスが含まれるが、白金族元素や一部のランタノイド元素はアルコキシドを形成しないといわれている。例えば、ケイ素アルコキシドやゲルマニウムアルコキシドも金属アルコキシドと言われる。金属アルコキシドは各種の金属アルコキシドが市販されており、また製造方法も公知であるので、入手は容易である。
【0030】
金属アルコキシドM(OR)n(ただし、Mは金属、Rはメチル、エチル、プロピル、ブチルなどのアルキル基)の加水分解反応も知られており、形式的には、M(OR)n+nH2O→M(OH)n+nROH、次いで、M(OH)n→MOn/2+n/2H2Oで表される。
【0031】
アセチルアセトン金属錯体(CH3COCH2COCH3nM(ただし、Mは金属)の加水分解反応も知られており、(CH3COCH2COCH3nM+nROH→nCH3COCH2C(OH)CH3+M(OH)n、次いで、M(OH)n→MOn/2+n/2H2Oで表される。
【0032】
アセチルアセトン金属錯体は各種の金属錯体が市販されており、また製造方法も公知であるので、入手は容易である。代表的には、アルミニウムアセトナト、バリウムアセトナト、ランタンアセトナト、白金アセトナト等があり、アルコキシド以上に多種のものがある。
【0033】
金属アルコキシドやアセチルアセトン金属錯体などの有機金属化合物は、アルコール、極性有機溶媒、炭化水素溶媒などの中から適当な溶媒を選択すれば容易に溶解する。この発明の溶媒としては水相と二相分離されうる疎水性(油性)の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0034】
有機溶媒の例としては、シクロヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、アセトンなどのケトン類がある。有機溶媒の選択基準としては、界面活性剤の溶解度の他、マイクロエマルションを形成する領域の広さ(水/界面活性剤のモル比が大きい)等がある。
【0035】
このように加水分解して水酸化物もしくは酸化物を生成する第1の金属元素の化合物を溶解した有機相中に水を添加すると、有機金属化合物の加水分解反応が開始、進行することが知られている。一般的には、第1金属化合物を溶解した有機相に水を添加し、撹拌して金属水酸化物もしくは金属酸化物を得ることができる。
【0036】
この発明では、有機相中に水相を界面活性剤で微細に分散させた逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含む油中水滴型エマルションを形成しておいて、このエマルションに上記第1金属化合物の溶液を添加し、撹拌して混合することで、逆ミセル内の界面活性剤で取り囲まれた水相において、第2以降の金属元素のイオンと反応させ、加水分解を行う。この方法では多数の逆ミセルが、反応核となること、あるいは生成した水酸化物の微粒子を界面活性剤が安定化させることで、微細な生成物の粒子が得られると考えられている。
【0037】
上記のような加水分解反応において、複数の加水分解性金属化合物を有機相中に溶解しておくことで、水と接触させたとき、その複数の金属化合物が加水分解して、複数の金属の水酸化物が同時に生成することも知られている。
【0038】
この発明では、この加水分解性金属化合物のうちの1種類(第1の元素を含む化合物)を有機相に存在させ、その有機相と水相との接触の際に、第2の金属元素、さらには第3以降の金属元素を、逆ミセル内の水相中にイオンとして存在させておく。
【0039】
水相中にイオンとして存在させることは、水溶性金属塩、特に、硝酸塩、塩化物などの無機酸塩、さらに酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩を用いることができる。水相中に存在する第2の元素のイオンは金属の単体イオンのほか、第2の元素を含む錯イオンでもよい。第3以降の元素のイオンも同様である。
【0040】
この発明により得られる複合酸化物における第1の金属元素及び第2の金属元素の相対比は、有機相中の第1の金属元素の量と水相中の第2の金属元素の量の比により調整することができる。
【0041】
この発明では、反応系が油中水滴型のエマルション系又はマイクロエマルション系であることが好ましい。この場合、第一に逆ミセルの径が数nm〜数十nmと極めて小さく、有機相−水相界面が極めて広い(径が10nm場合で8000m2/リッター程度)ことによる加水分解速度の高速化、第二に水相が分殻化され、一個当たりでは極く少量の金属イオン(おおよそ100個程度)しか含まないことによる均質化の効果によると考えられる。
【0042】
一方、逆ミセル内の水相は、一次粒子の生成および一次粒子の凝集による二次粒子の生成ならびに二次粒子同士の凝集を生じさせるいわゆる反応場であるから、二次粒子同士が凝集する際に生じる空孔およびそれに起因する複合酸化物の空孔構造に逆ミセルの大きさが影響する。この発明では、この点を考慮して逆ミセルの水相の径は、20nm以上であることが好ましい。
【0043】
油中水滴型のエマルション系又はマイクロエマルション系を形成する方法は知られている。有機相媒体としては、シクロヘキサン、ベンゼンなどの炭化水素、ヘキサノールなどの直鎖アルコール、アセトンなどのケトン類など上記の有機溶媒と同様のものが使用できる。この発明で用いることができる界面活性剤は、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤など多種に亘り、用途に合わせて有機相成分との組合せで使用することができる。
【0044】
非イオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテルに代表されるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル系、ポリオキシエチレン(n=10)オクチルフェニルエーテルに代表されるポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル系、ポリオキシエチレン(n=7)セチルエーテルなどに代表されるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタントリオレートに代表されるポリオキシエチレンソルビタン系界面活性剤などを用いることができる。
【0045】
アニオン系界面活性剤としては、ジ−2−エチレンヘキシルスルフォ琥珀酸ナトリウムなどが用いることができ、カチオン系界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムクロライトやセチルトリメチルアンモニウムブロマイドなどを用いることができる。
【0046】
この発明では、3以上の元素の複合酸化物を製造する場合には、第3以降の元素は逆ミセル内の水相中に存在させる。有機相中に複数の加水分解性金属化合物を存在させると、有機相中では加水分解性金属化合物間で安定性に差があるため不均一な生成物になるからである。もっとも、第1の金属元素と第2の金属元素の間では均一である必要があるが、第1の金属元素と第3の金属元素の間では均一性が重要でなければ、第3の元素の金属化合物を有機相中に存在させてもよい。
【0047】
この第2の金属元素のイオンを含む逆ミセルは、上記の界面活性剤を上記の有機相媒体に溶解し、これに第2の金属元素のイオンを含む水溶液を添加し、撹拌するインジェクション法によって形成することができる。
【0048】
こうして、第1金属化合物の溶液と第2の金属元素のイオンを水相に含む逆ミセルを接触させ、加水分解によって第1の金属元素と第2の金属元素とを含む複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成した後、この一次粒子を含む系を所定温度(30℃〜80℃)において所定時間(2時間)放置して熟成させる。この熟成工程において一次粒子が凝集し、二次粒子を形成する。この際、すべての一次粒子が凝集して大きな二次粒子を形成するのではなく、一旦、比較的小さな二次粒子を形成し、次いで二次粒子間に十分な大きさの細孔を形成して二次粒子同士が凝集するように、逆ミセル相互の融合(合一)を防止もしくは抑制して加水分解を進行させ、また一次粒子や二次粒子の熟成を行う。
【0049】
具体的には、図2に示すように、親油基を外側に、親水基を内側に向けた界面活性剤5により形成された逆ミセル6を形成し、内部の水相7に第2の金属元素のイオンを含ませておく。ここで、水相7における水素イオン(H+)を除いた陽イオンの濃度は、2mol/L以上に調整する。これは、第2の金属元素のイオン濃度を高くしておくことによりおこなうことができ、あるいはアンモニア水などのアルカリ水と適宜の緩衝液とを添加することによりおこなうことができる。したがってその陽イオンには、予め水溶液として溶解している金属イオンの他にNH4+などの陽イオンおよび油相から逆ミセルに入り込んだ金属イオンが含まれるが、水素イオンを除くこれらの陽イオン全体での濃度が2mol/L以上となるように調整する。その結果、逆ミセル6が内部の陽イオンによって帯電し、逆ミセル6同士の電気的な反発が生じる。
【0050】
そして、特にそれぞれの逆ミセル内の水相における全金属イオンの量(濃度)を、目標とする細孔分布に応じて調整する。その一般的な傾向としては、細孔容積がピークとなる細孔径をメゾ領域で相対的に大きくする場合には、逆ミセル内の水相での全金属イオン量(濃度)を高くする。逆ミセル内で生成される一次粒子の径は金属イオン濃度によっては特に変化しないと思われるが、その一次粒子が凝集することにより生成される二次粒子の大きさや数が、逆ミセル内の水相における金属イオン濃度に応じて増大する。その後pH調整により、二次粒子同士が凝集することによって生じる細孔の径が大きくなるものと推定される。したがって、このような二次粒子同士の凝集による径の増大を可能にし、もしくは促進するために、逆ミセルの径(平均径)は、20nm以上とし、好ましくは30nm以上とする。
【0051】
なお、逆ミセル内の水相における全金属イオンの量(濃度)は、マイクロエマルションを形成している逆ミセル内の水相での金属イオン濃度と、有機溶媒に溶解させる金属イオンの濃度とを調整することにより、適宜に設定することができる。また、金属化合物の加水分解により一次粒子の生成している逆ミセルの径は、界面活性剤の濃度を調整することにより、上記の所望の径に設定することができる。
【0052】
また、油相(有機溶媒)と水相(逆ミセル)との体積比(O/W)は、マイクロエマルションが油中水滴型(W/O型)を維持する範囲で、40以下に設定する。
【0053】
なお、水相内部の陽イオン(水素イオンを除く)濃度を2mol/L以上としたのは、陽イオン(水素イオンを除く)濃度がこれより薄いと、逆ミセルの帯電が不充分となり、ブラウン運動による衝突によって逆ミセルの融合(合一)およびそれに伴う内部の二次粒子同士の凝集が生じる頻度が高くなるからである。また、油相(有機溶媒)と水相(逆ミセル)との体積比(O/W)は、マイクロエマルションが油中水滴型(W/O型)を維持する範囲で、40以下にしたのは、工業化する際には日当りの製造量を確保する必要があるためである。
【0054】
図3は、マイクロエマルションを構成している水および界面活性剤ならびにオイル(有機溶剤)の関係を示す三相マップであり、分散相を形成するためには所定量以上の界面活性剤を必要とするので、三相マップの下辺側に二相分離領域があり、またミセルもしくは逆ミセルの径をある程度以上に設定するためには界面活性剤の濃度をある程度薄くする必要があり、したがって図3に太線で囲った領域が、20nm以上の径のマイクロエマルション(水滴)の分散相となる領域である。また、この領域で水の体積比が大きい場合には、水中油滴型(O/W型)となり、反対にオイルの体積比が大きい場合には、油中水滴型(W/O型)となり、その中間に中間領域(図3に破線で囲った領域)が存在する。なお、この中間領域では、油相および水相のそれぞれが連続した両相連続型となる。
【0055】
前述したようにこの発明の方法では、油中水滴型(W/O型)の範囲で水相に対する油相の体積比(O/W)が40以下とされるから、これは、図3にハッチングを施して示す領域となる。すなわち水相の濃度が高いことにより、中間領域に隣接し、また一次粒子の生成および二次粒子の生成・成長の反応場である逆ミセルの径を可及的に大きくするために界面活性剤の濃度が可及的に低い領域である。
【0056】
実施例1
内容積5リットルのビーカーにシクロヘキサン3.0リットル、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル224gを入れ、硝酸セリウム6.65gと蒸留水120mLよりなる水溶液を加え撹拌した。室温下でマグネチックスターラーを用い撹拌して逆ミセル(油中水滴型マイクロエマルション、水滴実測直径30nm)を作成した。これとは別に、ジルコニウムブトキシド0.27モルをシクロヘキサン0.8リットルに溶解させたジルコニウムアルコキシド溶液を作成し、これを上記マイクロエマルションに加えた。この際のシクロヘキサン(有機相)に対する水(水相)の体積比(O/W)は18である。また、逆ミセル内の水相における陽イオン(水素イオンを除く)濃度は、3.5mol/Lであり、また逆ミセル内の水相における全金属イオン濃度は、2.5mol/Lである。室温下においてこの混合物をよく撹拌すると、ただちにビーカー内が白黄色に曇り、コロイド粒子(二次粒子、粒径20nm程度)が生成した。
【0057】
次に、コロイドの凝集を調節するためにアンモニア水でpHを8に調整した。さらに撹拌を約1時間続け熟成を行った。母液を炉別し、得られた沈殿をエタノールで3回洗浄し、80℃で一夜乾燥後、大気中600℃で2時間焼成して、セリウムとジルコニウムを含む複合酸化物(セリアジルコニア:Ce0.07Zr0.932)を得た。複合酸化物のCe/Zrモル比は7/93であった。また、複合酸化物の収量は、約1.6kg/容器100Lであった。
【0058】
実施例2
マイクロエマルションにおける硝酸セリウムの濃度、およびジルコニウムアルコキシド溶液中のジルコニウムの濃度を、上記の実施例1とは異ならせた以外は、実施例1と同様にしてセリアジルコニア複合酸化物を生成した。すなわち、シクロヘキサン3.0リットル、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル224g、硝酸セリウム0.8g、蒸留水120mLを混合してマイクロエマルション(油中水滴型マイクロエマルション、水滴実測直径30nm)を作成した。また、ジルコニウムブトキシド0.033モルをシクロヘキサン0.8リットルに溶解させたジルコニウムアルコキシド溶液を作成した。これらの溶液を混合して得られた溶液の有機相に対する水相の体積比(O/W)は18であり、また、逆ミセル内の水相における陽イオン(水素イオンを除く)濃度は、3.5mol/Lとし、また逆ミセル内の水相における全金属イオン濃度は、0.61mol/Lである。なお、複合酸化物の収量は、0.24kg/容器100Lであった。
【0059】
比較例1
内容積5リットルのビーカーにシクロヘキサン3.0リットル、ポリオキシエチレン(n=5)ノニルフェニルエーテル365gを入れ、硝酸セリウム6.65gと蒸留水120mLよりなる水溶液を加え撹拌した。室温下でマグネチックスターラーを用い撹拌して逆ミセル(油中水滴型マイクロエマルション、水滴実測直径15nm)を作成した。これとは別に、ジルコニウムブトキシド0.27モルをシクロヘキサン0.8リットルに溶解させたジルコニウムアルコキシド溶液を作成し、これを上記マイクロエマルションに加えた。この際のシクロヘキサン(有機相)に対する水(水相)の体積比(O/W)は18である。室温下においてこの混合物をよく撹拌すると、ただちにビーカー内が白黄色に曇り、コロイド粒子が生成した。
【0060】
評価
実施例1および実施例2で得られた多孔質複合酸化物について、600℃×2時間の焼成後の細孔容積を、液体窒素温度下、窒素吸着により測定した。その結果を図4に示す。図4に示す結果から明らかなように、実施例1および実施例2のいずれの多孔質複合酸化物における細孔分布はシャープなものとなったが、細孔容積がピークとなる細孔直径は、実施例1のものは10nm程度となり、これに対して実施例2のものとは7nm程度となった。すなわち、二次粒子が生成・成長する逆ミセル内の水相における全金属イオンの量(濃度)を多くすれば、細孔容積がピークとなる細孔直径が大きくなり、これとは反対に逆ミセル内の水相における全金属イオンの量(濃度)を少なくすれば、細孔容積がピークとなる細孔直径が小さくなることが認められ、逆ミセル内の水相における全金属イオンの量(濃度)によって細孔分布を制御できることが確認された。また、細孔分布がシャープなものとなることから知られるように、細孔径の制御を正確におこなえることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の方法による細孔径ピークの狙い値と実測値との関係と、従来の方法による細孔径ピークの狙い値と実測値との関係とを示す線図である。
【図2】この発明の方法により逆ミセルの融合(合一)が抑制される様子を模式的に示す図である。
【図3】この発明で使用するマイクロエマルションの領域を示す三相マップである。
【図4】この発明の実施例と比較例とで得られた複合酸化物の細孔分布の測定結果を示す図である。
【図5】二次粒子の生成および凝集の様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1…一次粒子、 2…二次粒子、 3…メゾ細孔、 4…有機溶媒、 5…界面活性剤、 6…逆ミセル、 7…水相。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の金属元素を含む複合酸化物の一次粒子の凝集体である二次粒子を更に凝集させ、その二次粒子同士の凝集体を焼成する多孔構造の複合酸化物の製造方法において、
加水分解することにより水酸化物もしくは酸化物を生成する第1の金属元素の化合物を有機溶媒に溶解した溶液と、有機溶媒中に界面活性剤が形成する逆ミセルの内部の水相に第2以降の金属元素のイオンを含むエマルションとを混合し、
この逆ミセルの界面において第1の金属元素の化合物を加水分解させるとともに第2以降の金属元素を取り込ませ、
重縮合させて複合酸化物の前駆体の一次粒子を形成し、
この一次粒子を含む系において一次粒子を凝集させて二次粒子を形成し、
さらにこの二次粒子を凝集させることを含み、
この加水分解時に上記逆ミセル内の水相における水素イオンを除く陽イオンの濃度を2mol/L以上とするとともに、その陽イオンの一部である金属イオンの濃度によって前記複合酸化物における細孔径を制御することを特徴とする複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記加水分解時における前記逆ミセルの径が20nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記加水分解時における油相と水相との体積比を40以下とすることを特徴とする請求項1または2に記載の複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−26485(P2006−26485A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−206528(P2004−206528)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】