説明

複合金属酸化物およびその製造方法、並びにそれを用いた電極材料、電極および固体酸化物形燃料電池

【課題】界面導電率が高く、長期熱安定性に優れた電極およびそれを備える固体酸化物形燃料電池、並びにそれらを形成するための複合金属酸化物を提供すること。
【解決手段】希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有する複合金属酸化物、この複合金属酸化物を含む電極材料から得られた電極、およびこの電極を空気極として備える固体酸化物形燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物およびその製造方法に関し、より詳しくは、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有する複合金属酸化物およびその製造方法に関する。また、本発明は、この複合金属酸化物を用いた電極材料、電極および固体酸化物形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池(SOFC)は、空気極、固体電解質および燃料極を備えるものであり、空気極としてはペロブスカイト型ランタン−ストロンチウム−コバルト複合金属酸化物〔(La,Sr)CoO3−δ〕からなるものが知られている〔特開2003−123773号公報(特許文献1)〕。
【0003】
しかしながら、この(La,Sr)CoO3−δからなる空気極は、ペロブスカイト型ランタン−ストロンチウム−マンガン複合金属酸化物〔(La,Sr)MnO3−δ〕からなる空気極などに比べて導電率は高いものの、SOFCの実用化の面では未だ不十分であり、特に、800℃以下の低温度域で作動するSOFCに適用するには、さらに導電率を向上させる必要があった。
【0004】
また、ECS Trans.、2007年、第7巻、第1号、p.1287(非特許文献1)には、ペロブスカイト型のLa0.6Sr0.4CoO3−δ層と、その上に形成されたKNiF型のLaSrCoO4−δ層とを備える2層構造の多孔質電極が開示されている。この2層構造の多孔質電極は、La0.6Sr0.4CoO3−δ単相またはLaSrCoO4−δ単相の多孔質電極に比べて高い界面導電率を示したが、燃料電池の発電効率をより高めるためには、さらに界面導電率が高い電極を開発する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−123773号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K.Yashiro et al.、ECS Trans.、2007年、第7巻、第1号、p.1287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、界面導電率が高く、長期熱安定性に優れた電極およびそれを備える固体酸化物形燃料電池、並びにそれらを形成するための複合金属酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、希土類金属とアルカリ土塁金属と遷移金属とを含有する複合金属酸化物においてペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を形成させることによって、このような複合金属酸化物を含む電極の界面導電率が増大することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の複合金属酸化物は、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有することを特徴とするものである。
【0010】
本発明の複合金属酸化物においては、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属のモル数が、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
(式中、Mは希土類金属のモル数を表し、Mはアルカリ土類金属のモル数を表し、Mは遷移金属のモル数を表す。)
で表される条件を満たすことが好ましい。
【0011】
前記希土類金属としてはランタンが好ましく、前記アルカリ土類金属としてはストロンチウムが好ましく、前記遷移金属としてはコバルト、鉄およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0012】
このような複合金属酸化物の製造方法としては、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属のモル数が、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
(式中、Mは希土類金属のモル数を表し、Mはアルカリ土類金属のモル数を表し、Mは遷移金属のモル数を表す。)
で表される条件を満たす酸素酸塩溶液を調製して、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有するゲル状のアモルファス体を含む酸素酸塩溶液を得る工程、および
前記ゲル状のアモルファス体を含む酸素酸塩溶液を液滴の状態で加熱して急速に固化させ、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有する複合金属酸化物を得る工程
を含むことを特徴とする方法が挙げられる。この製造方法において、前記酸素酸塩溶液の液滴の加熱温度は500〜1000℃であることが好ましい。
【0013】
本発明の電極材料はこのような複合金属酸化物を含むものであり、本発明の電極はこの電極材料から得られたものである。また、本発明の固体酸化物形燃料電池は、本発明の電極を空気極として備えるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、界面導電率が高く、長期熱安定性に優れた電極およびそれを備える固体酸化物形燃料電池、並びにそれらを形成するための複合金属酸化物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1〜2および比較例1で使用した滴下熱分解装置の概略を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られた粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【図3】比較例1で得られた粉末のX線回折結果を示すグラフである。
【図4】実施例2で得られた電極(LSC113/214)の界面導電率測定前の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2で得られた電極(LSC113)の界面導電率測定前の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例2で得られた電極(LSC113/214)の界面導電率を示すグラフである。
【図7】比較例2で得られた電極(LSC113)の界面導電率を示すグラフである。
【図8】実施例2で得られた電極(LSC113/214)、ならびに比較例3で得られた電極(LSC113、LSC214、LSC214 on LSC113)の界面導電率を示すグラフである。
【図9】実施例2で得られた電極(LSC113/214)の界面導電率測定後(800℃、2時間)の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【図10】比較例2で得られた電極(LSC113)の界面導電率測定後(800℃、2時間)の表面状態を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
<複合金属酸化物>
先ず、本発明の複合金属酸化物について説明する。本発明の複合金属酸化物は、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有するものである。前記希土類金属としては、酸化物イオンと同程度のイオン半径をもつランタン(La)、サマリウム(Sm)、プラセロジウム(Pr)が好ましい。前記アルカリ土類金属としては、酸素欠陥を導入する観点から、前記希土類金属と価数の異なるストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)が好ましく、触媒活性や材料安定性がよいためSrがより好ましい。前記遷移金属としては、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)が好ましく、Co、Fe、Niがより好ましい。また、これらの希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属はそれぞれ1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0018】
このような複合金属酸化物のうち、La−Sr−Co複合金属酸化物、La−Sr−Fe複合金属酸化物、La−Sr−Co−Fe複合金属酸化物、La−Sr−Ni複合金属酸化物、La−Sr−Mn複合金属酸化物、Sm−Sr−Co複合金属酸化物が好ましい。
【0019】
また、本発明の複合金属酸化物は、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有するものである。ここで、「混合相」とは、ペロブスカイト型の結晶構造を有する複合金属酸化物とKNiF型の結晶構造を有する複合金属酸化物が均一に交じり合った状態、すなわち、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相が均一に交じり合っている状態にあるものをいう。従って、前記混合相には、ペロブスカイト型の結晶構造を有する複合金属酸化物層とKNiF型の結晶構造を有する複合金属酸化物層が積層した2層構造のものは含まれない。また、このような混合相は、X線回折分析において、各結晶相に相当するXRDピークが全て含まれていることによって確認することができる。
【0020】
本発明の複合金属酸化物において、希土類金属のモル数M、アルカリ土類金属のモル数Mおよび遷移金属のモル数のモル数Mは、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
で表される条件を満たすことが好ましく、下記式(1a):
1.1<(M+M)/M<1.8 (1a)
で表される条件を満たすことがより好ましい。(M+M)/Mが前記範囲内にあるとペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相が形成されやすく、電極触媒活性が高くなり、界面導電率が上昇する傾向にあるが、前記下限未満になるとペロブスカイト型の結晶相のみが形成されやすく、十分な電極触媒活性や界面導電率が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えるとKNiF型の結晶相のみが形成されやすく、電極触媒活性が低下し、界面導電率が減少する傾向にある。
【0021】
また、本発明の複合金属酸化物において、希土類金属とアルカリ土類金属のモル比としては特に制限はないが、希土類金属:アルカリ土類金属(モル比)が2:8〜8:2であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましく、4:6〜6:4であることが特に好ましい。
【0022】
本発明の複合金属酸化物において、前記混合相中のペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相の比率としては特に制限はないが、電極触媒活性が高くなり、界面導電率が上昇するという観点から、KNiF型結晶相:ペロブスカイト型結晶相がX線回折ピーク強度比で9:1〜2:1であることが好ましく、9:1〜4:1であることがより好ましい。なお、KNiF型結晶相とペロブスカイト型結晶相の比率は(M+M)/Mを調整することによって制御することができる。すなわち、(M+M)/Mを増大させるとKNiF型結晶相の割合が多くなる。
【0023】
<複合金属酸化物の製造方法>
次に、本発明の複合金属酸化物の製造方法について説明する。本発明の複合金属酸化物は、先ず、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有する酸素酸塩溶液を調製する。前記酸素酸塩溶液としては硝酸塩水溶液などが挙げられる。このような酸素酸塩溶液は、例えば、各種金属の酸化物、炭酸塩を、硝酸などに溶解することによって調製することができる。
【0024】
前記酸素酸塩溶液を調製する場合、希土類金属のモル数M、アルカリ土類金属のモル数Mおよび遷移金属のモル数のモル数Mが、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
で表される条件を満たすことが好ましく、下記式(1a):
1.1<(M+M)/M<1.8 (1a)
で表される条件を満たすように調製する必要がある。(M+M)/Mが前記範囲内にあるとペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相が形成されやすい傾向にあるが、前記下限未満になるとペロブスカイト型の結晶相のみが形成される傾向にあり、他方、前記上限を超えるとKNiF型の結晶相のみが形成される傾向にある。
【0025】
また、前記酸素酸塩溶液を調製する場合、希土類金属とアルカリ土類金属を、希土類金属:アルカリ土類金属(モル比)が2:8〜8:2となるように調製することが好ましく、3:7〜7:3となるように調製することがより好ましく、4:6〜6:4となるように調製することが特に好ましい。
【0026】
このようにして調製された酸素酸塩溶液は、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有するゲル状のアモルファス体を含むものである。
【0027】
次に、前記ゲル状のアモルファス体を含む酸素酸塩溶液を液滴の状態で加熱する。これにより、前記アモルファス体は瞬時に固化するとともに酸化され、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有する複合金属酸化物となる。
【0028】
前記酸素酸塩溶液を液滴の状態で加熱する方法としては、所定の温度に加熱した固体(平板、容器の底面、側面など)上に前記酸素酸塩溶液を滴下する方法、所定の温度に加熱した溶液中に前記酸素酸塩溶液を滴下する方法、所定の温度に加熱した気流(蒸気など)中に前記酸素酸塩溶液を噴霧する方法などが挙げられる。
【0029】
前記液滴の直径としては0.1mm以下が好ましく、0.01mm以下がより好ましい。液滴の直径が前記上限を超えると中間生成物および不純物ができる可能性が高くなる。また、液滴の直径は、瞬時に固化されるという観点から小さい方が好ましく、その下限は特に制限されない。
【0030】
加熱温度としては500〜1000℃が好ましく、600〜800℃がより好ましい。加熱温度が前記下限未満になると中間生成物および不純物ができる可能性が高くなる。
【0031】
<電極材料、電極およびその製造方法>
本発明の複合金属酸化物は、固体酸化物形燃料電池、センサー、水素ポンプなどの電極材料として使用することができる。その使用形態は特に制限されず、電極の製造方法に応じて適宜選択することができる。例えば、電極をパルスレーザーアブレーション法(PLD法)により製造する場合には、本発明の複合金属酸化物を焼結させて焼結体を形成し、これをPLD法のターゲットとして使用する。また、スクリーン印刷法やスラリーコーティング法により製造する場合には、本発明の複合金属酸化物を溶媒に懸濁し、複合金属酸化物スラリーとして使用する。
【0032】
本発明の電極は、本発明の複合金属酸化物を含む電極材料から製造することができる。その製造方法としては、固体電解質や基板の表面に、本発明の複合金属酸化物を含むスラリー(電極材料)をスクリーン印刷法やスラリーコーティング法などによって塗布し、得られた塗膜を所定の温度で加熱して焼結させる湿式焼結法、予め本発明の複合金属酸化物の焼結体を作製し、これをターゲットとしてスパッタリング法やPLD法などによって固体電解質や基板の表面に薄膜を形成させる乾式法が挙げられる。
【0033】
前記湿式焼結法における焼結温度および前記乾式法における固体電解質や基板の加熱温度としては600〜1400℃が好ましく、800〜1000℃がより好ましい。焼成(加熱)温度が前記下限未満になると本発明の複合金属酸化物が十分に焼結せず、機械的強度が低下したり、固体電解質などから剥がれ落ちたりする傾向にあり、他方、前記上限を超えると複合金属酸化物の粒成長が発生して電極触媒活性や界面導電率が低下するおそれがある。
【0034】
このようにして得られた本発明の電極は、電極触媒活性が高く、高い界面導電率を示し、さらに長期熱安定性にも優れているため、固体酸化物形燃料電池、センサー、水素ポンプなどの電極として有用である。
【0035】
<固体酸化物形燃料電池>
本発明の固体酸化物形燃料電池は、空気極として本発明の電極を備えるものであり、例えば、固体電解質の一方の面に本発明の電極(空気極)を備えており、他方の面には燃料極を備えているものが挙げられる。このような固体酸化物形燃料電池は、高い界面導電率を有する電極(空気極)を備えているため、発電効率に優れている。
【0036】
前記固体電解質としては、公知の固体酸化物形燃料電池の固体電解質として用いることが可能なものを使用することができる。例えば、イットリウム安定化ジルコニア、スカンジウム安定化ジルコニア、ネオジウム安定化ジルコニア、ガドリニウム安定化ジルコニア、カルシウム安定化ジルコニア、ランタン−ストロンチウム−ガリウム−マグネシウム複合金属酸化物、ランタン−ストロンチウム−ガリウム−マグネシウム−コバルト複合金属酸化物、サマリウム−セリウム複合金属酸化物、ガドリニウム−セリウム複合金属酸化物、カルシウム−セリウム複合金属酸化物などが挙げられる。
【0037】
前記燃料極としては、公知の固体酸化物形燃料電池の燃料極として用いることが可能なものを使用することができる。例えば、ニッケル−ジルコニアサーメット、ニッケル−イットリウム安定化ジルコニアなどが挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例においては、ランタン−ストロンチウム−コバルト複合金属酸化物を「LSC複合酸化物」と略す。また、LSC複合酸化物のペロブスカイト型の結晶相を「LSC113結晶相」と略し、KNiF型の結晶相を「LSC214結晶相」と略し、LSC113結晶相とLSC214結晶相の混合相を「LSC113/214混合相」と略す。さらに、LSC113結晶相を有するLSC複合酸化物を「LSC113複合酸化物」と略し、LSC214結晶相を有するLSC複合酸化物を「LSC214複合酸化物」と略し、LSC113/214混合相を有するLSC複合酸化物を「LSC113/214複合酸化物」と略す。
【0039】
(実施例1)
酸化ランタン(La)、炭酸ストロンチウム(SrCO)および酸化コバルト(Co)をそれぞれ硝酸に溶解し、La濃度が1mol/Lの硝酸ランタン水溶液、Sr濃度が1mol/Lの硝酸ストロンチウム水溶液、Co濃度が1mol/Lの硝酸コバルト水溶液を調製した。なお、各金属濃度はキレート滴定により測定した。
【0040】
次に、これらの水溶液を、La:Sr=1:1(モル比)、(La+Sr):Co=6:5(モル比)となるように混合して、LaとSrとCoを備えるゲル状のアモルファス体を含有する硝酸塩水溶液を得た。
【0041】
図1に示す装置を用い、このゲル状のアモルファス体を含有する硝酸塩水溶液1を、マイクロチューブポンプ2により、電気炉3で650〜700℃に加熱された石英管4に滴下した。このとき、石英管4には0.01mmL/分の流量で空気を供給した。石英管4に滴下された前記硝酸塩水溶液は液滴5の状態で空気中で加熱されたため、前記ゲル状のアモルファス体は瞬時に固化し、粉末6が形成された。
【0042】
得られた粉末を800℃で2時間、次いで1000℃で2時間加熱して焼成した後、X線回折測定を実施した。その結果を図2に示す。なお、図2には、(社)化学情報協会(JAICI)の無機結晶構造データベース(ICSD)により提供されているLa0.5Sr0.5CoO3−δおよびLaSrCoO4−δのX線回折スペクトルデータも示した。
【0043】
(比較例1)
各金属の硝酸塩水溶液を、La:Sr=0.5:0.5(モル比)、(La+Sr):Co=1:1(モル比)となるように混合した以外は実施例1と同様にして粉末を得た。得られた粉末を800℃で2時間、次いで1000℃で2時間加熱して焼成した後、X線回折測定を実施した。その結果を図3に示す。なお、図3には、(社)化学情報協会(JAICI)の無機結晶構造データベース(ICSD)により提供されているLa0.5Sr0.5CoO3−δおよびCoのX線回折スペクトルデータも示した。
【0044】
(実施例2および比較例2)
作用極として白金電極を備え、共沈法により調製したセリウム−ガドリニウム複合酸化物(Ce0.9Gd0.11.95)からなる固体電解質(直径15mm、厚さ1mm)の一方の面に実施例1で得られたLSC113/214複合酸化物を、他方の面に比較例1で得られたLSC113複合酸化物を、それぞれスクリーン印刷法により塗布した。形成された塗膜を800℃で3時間加熱して焼き付け、固体電解質の一方の面にLSC113/214複合酸化物からなる電極(直径6mm、厚さ27μm)、他方の面にLSC113複合酸化物からなる電極(直径6mm、厚さ22μm)を備える多孔質電極セルを作製した。
【0045】
LSC113/214複合酸化物からなる電極(実施例2)およびLSC113複合酸化物からなる電極(比較例2)のそれぞれの表面状態を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果を図4〜5に示す。
【0046】
次に、この多孔質電極セルを使用して、前記LSC113/214複合酸化物からなる電極(実施例2)および前記LSC113複合酸化物からなる電極(比較例2)の界面導電率σを三端子法により測定した。なお、界面導電率σは、温度T=500〜800℃の範囲、酸素分圧P(O)=10−4〜1atmの範囲について、各条件で2時間保持した後に測定した。その結果を図6〜8に示す。また、800℃での測定終了後のLSC113/214複合酸化物からなる電極(実施例2)およびLSC113複合酸化物からなる電極(比較例2)のそれぞれの表面状態を走査型電子顕微鏡により観察した。その結果を図9〜10に示す。
【0047】
(比較例3)
前記非特許文献1(ECS Trans.、2007年、第7巻、第1号、p.1287)に記載の方法に従って、LSC113複合酸化物およびLSC214複合酸化物を調製した。次いで、前記非特許文献1に記載の方法に従って、これらの複合酸化物をターゲットとして用いてパルスレーザーアブレーション法(PLD法)により、LSC113複合酸化物からなる単相の多孔質電極、LSC214複合酸化物からなる単相の多孔質電極、LSC113複合酸化物からなる層の上にLSC214複合酸化物からなる層を積層した2層構造の多孔質電極を作製し、これらの界面導電率を実施例4と同様にして測定した。その結果を図8に示す。
【0048】
図4〜5に示した結果から明らかなように、LSC113/214複合酸化物の粒子径はLSC113複合酸化物に比べて小さいことが確認された。また、図4に示したように、LSC113/214複合酸化物においてはLSC113結晶相とLSC214結晶相は明確な違いは確認できなかった。
【0049】
図6〜7に示した結果から明らかなように、同一条件下においては、LSC113/214複合酸化物からなる電極はLSC113複合酸化物からなる電極に比べて1桁大きい界面導電率を示すことが確認された。図9〜10に示した結果から明らかなように、LSC113/214複合酸化物からなる電極においては界面導電率の測定後においても細かな粒子が分散しているのに対して、LSC113複合酸化物からなる電極においては界面導電率の測定時に粒成長が発生していた。このことから、LSC113/214複合酸化物はLSC113複合酸化物に比べて熱的に安定であることが確認された。また、LSC113/214複合酸化物からなる電極においては、LSC113/214複合酸化物が熱的に安定であるために高い界面導電率が維持されたのに対して、LSC113複合酸化物からなる電極においては、粒成長が発生したために界面導電率が低下したものと推察される。
【0050】
また、図8に示した結果から明らかなように、LSC113/214複合酸化物からなる電極は、同一条件下において他の電極に比べて高い界面導電率を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上説明したように、本発明によれば、希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有する複合金属酸化物を得ることができる。
【0052】
この複合金属酸化物から得られた電極は、界面導電率が高く、長期熱安定性に優れているため、固体酸化物形燃料電池、センサーおよび水素ポンプなどの電極などとして有用である。
【符号の説明】
【0053】
1:硝酸塩水溶液、2:マイクロチューブポンプ、3:電気炉、4:石英管、5:液滴、6:粉末。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有することを特徴とする複合金属酸化物。
【請求項2】
前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属のモル数が、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
(式中、Mは希土類金属のモル数を表し、Mはアルカリ土類金属のモル数を表し、Mは遷移金属のモル数を表す。)
で表される条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の複合金属酸化物。
【請求項3】
前記希土類金属がランタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の複合金属酸化物。
【請求項4】
前記アルカリ土類金属がストロンチウムであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の複合金属酸化物。
【請求項5】
前記遷移金属がコバルト、鉄およびニッケルからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の複合金属酸化物。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の複合金属酸化物を含むことを特徴とする電極材料。
【請求項7】
請求項6に記載の電極材料から得られたものであることを特徴とする電極。
【請求項8】
請求項7に記載の電極を空気極として備えることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。
【請求項9】
希土類金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含有し、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属のモル数が、下記式(1):
1<(M+M)/M<2 (1)
(式中、Mは希土類金属のモル数を表し、Mはアルカリ土類金属のモル数を表し、Mは遷移金属のモル数を表す。)
で表される条件を満たす酸素酸塩溶液を調製して、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有するゲル状のアモルファス体を含む酸素酸塩溶液を得る工程、および
前記ゲル状のアモルファス体を含む酸素酸塩溶液を液滴の状態で加熱して固化させ、前記希土類金属と前記アルカリ土類金属と前記遷移金属を含有し、ペロブスカイト型の結晶相とKNiF型の結晶相との混合相を有する複合金属酸化物を得る工程
を含むことを特徴とする複合金属酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記酸素酸塩溶液の液滴の加熱温度が500〜1000℃であることを特徴とする請求項9に記載の複合金属酸化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−51809(P2011−51809A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199934(P2009−199934)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】