説明

複合電線およびコイル

【課題】直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路等において損失を低減する。
【解決手段】絶縁被覆磁性めっき銅線(40)の撚線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線(20)の素線を撚るか又は撚らずに集合させ、絶縁被覆(30)で被覆する。
【効果】中心部に絶縁被覆磁性めっき銅線(40)が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。周辺の絶縁被覆銅線(20)の作り出す磁界は絶縁被覆磁性めっき銅線(40)の磁性めっき層で遮断されて銅線まで入り難くなり、絶縁被覆磁性めっき銅線(40)の作り出す磁界も磁性めっき層で遮断されて絶縁被覆銅線(20)まで入り難くなるため、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制でき従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路等での損失を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電線およびコイルに関し、さらに詳しくは、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る複合電線およびコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁体からなる線材を芯線とし、該芯線の周りに複数の絶縁被覆銅線の素線を撚った複合電線が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2005−108654号公報
【特許文献2】特開平7−153328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の複合電線は、近接効果による高周波抵抗を低減したものである。すなわち、通常のリッツ線では、素線の作り出す磁界がリッツ線の中心部に入り、中心部の素線での銅損を増加させるため、リッツ線の中心部に素線を配さない構造としたものである。
しかし、リッツ線の中心部に素線を配さないため、直流または低周波における抵抗が増える問題点がある。すなわち、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路でコイルとして用いた場合には損失が増える問題点があった。
そこで、本発明の目的は、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る複合電線およびコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、単線の磁性めっき銅線または絶縁被覆磁性めっき銅線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線を提供する。
上記第1の観点による複合電線では、複合電線の中心部に磁性めっき銅線または絶縁被覆磁性めっき銅線が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、芯線の周りの素線の作り出す磁界は磁性めっき銅線または絶縁被覆磁性めっき銅線の磁性めっき層で遮断されて中心部の銅部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、芯線の作り出す磁界も磁性めっき層で遮断されて芯線の周りの絶縁被覆銅線まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0005】
第2の観点では、本発明は、複数の絶縁被覆磁性めっき銅線の撚線または複数の絶縁被覆磁性めっき銅線を撚らずに束ねた集合線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線を提供する。
上記第2の観点による複合電線では、複合電線の中心部に絶縁被覆磁性めっき銅線が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、芯線の周りの素線の作り出す磁界は絶縁被覆磁性めっき銅線の磁性層で遮断されて中心部の銅部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、芯線の作り出す磁界も磁性めっき層で遮断されて芯線の周りの絶縁被覆銅線まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。さらに、複数の絶縁被覆磁性めっき銅線の撚線または撚らずに束ねた集合線を芯線とするため、柔軟性に優れた電線となる。
【0006】
第3の観点では、本発明は、複数の絶縁被覆銅線の撚線または複数の絶縁被覆銅線を撚らずに束ねた集合線の周りを磁性層で包んだ線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線を提供する。
上記第3の観点による複合電線では、複合電線の中心部に絶縁被覆銅線が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、芯線の周りの素線の作り出す磁界は磁性層で遮断されて中心部の絶縁被覆銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、芯線の作り出す磁界も磁性めっき層で遮断されて芯線の周りの絶縁被覆銅線まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。さらに、複数の絶縁被覆銅線の撚線または複数の絶縁被覆銅線を撚らずに束ねた集合線を芯線とするため、柔軟性に優れた電線となる。
【0007】
第4の観点では、本発明は、前記第3の観点による複合電線において、前記磁性層が磁性テープからなる複合電線を提供する。
上記第4の観点による複合電線では、複数の絶縁被覆銅線の撚線または複数の絶縁被覆銅線を撚らずに束ねた集合線の周りに磁性テープを巻回して磁性層とすることが出来る。
【0008】
第5の観点では、本発明は、前記第3の観点による複合電線において、前記磁性層が磁性樹脂からなる複合電線を提供する。
上記第5の観点による複合電線では、複数の絶縁被覆銅線の撚線または複数の絶縁被覆銅線を撚らずに束ねた集合線の周りに磁性樹脂を押し出して包んで磁性層とすることが出来る。
【0009】
第6の観点では、本発明は、前記第1から第5のいずれかの観点による複合電線を巻回してなるコイルを提供する。
上記第6の観点によるコイルでは、前記第1から第5の観点による複合電線を用いているため、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複合電線によれば、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0012】
図1は、実施例1に係る複合電線100を示す断面図である。
この複合電線100は、単線の磁性めっき銅線10を芯線とし、該磁性めっき銅線10の周りに絶縁被覆銅線20の素線を撚るか又は撚らずに集合させ、絶縁被覆30で被覆した構造である。
【0013】
図2に示すように、磁性めっき銅線10は、銅線1の周囲に鉄めっき層やニッケルめっき層のような磁性めっき層2を形成したものである。
【0014】
図3に示すように、絶縁被覆銅線20は、銅線3の周囲にエナメル絶縁被覆4を形成したものである。
【0015】
実施例1の複合電線100によれば、中心部に磁性めっき銅線10が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、周辺の絶縁被覆銅線20の作り出す磁界は磁性めっき銅線10の磁性めっき層2で遮断されて銅線1まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、磁性めっき銅線10の作り出す磁界も磁性めっき層2で遮断されて絶縁被覆銅線20まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【実施例2】
【0016】
図4は、実施例2に係る複合電線100’を示す断面図である。
この複合電線100’は、単線の絶縁被覆磁性めっき銅線40を芯線とし、該絶縁被覆磁性めっき銅線40の周りに絶縁被覆銅線20の素線を撚るか又は撚らずに集合させ、絶縁被覆30で被覆した構造である。
【0017】
図5に示すように、絶縁被覆磁性めっき銅線40は、銅線1の周囲に鉄めっき層やニッケルめっき層のような磁性めっき層2を形成し、さらに絶縁被覆5で被覆したものである。
【0018】
実施例2の複合電線100’によれば、中心部に絶縁被覆磁性めっき銅線40が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、周辺の絶縁被覆銅線20の作り出す磁界は絶縁被覆磁性めっき銅線40の磁性めっき層2で遮断されて銅線1まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、絶縁被覆磁性めっき銅線40の作り出す磁界も磁性めっき層2で遮断されて絶縁被覆銅線20まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減できる。
【実施例3】
【0019】
図6は、実施例3に係る複合電線200を示す断面図である。
この複合電線200は、複数の絶縁被覆磁性めっき銅線40の撚線または複数の絶縁被覆磁性めっき銅線40を撚らずに束ねた集合線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線20の素線を撚るか又は撚らずに集合させ、絶縁被覆30で被覆した構造である。
【0020】
実施例3の複合電線200によれば、中心部に絶縁被覆磁性めっき銅線40が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、周辺の絶縁被覆銅線20の作り出す磁界は絶縁被覆磁性めっき銅線40の磁性めっき層2で遮断されて銅線1まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、絶縁被覆磁性めっき銅線40の作り出す磁界も磁性めっき層2で遮断されて絶縁被覆銅線20まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減できる。さらに、複数の絶縁被覆磁性めっき銅線40の撚線または撚らずに束ねた集合線を芯線とするため、柔軟性に優れた電線となる。
【実施例4】
【0021】
図7は、実施例4に係る複合電線300を示す断面図である。
この複合電線300は、複数の絶縁被覆銅線20の撚線または複数の絶縁被覆銅線20を撚らずに束ねた集合線の周りを磁性層60で包んだ線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線20の素線を撚るか又は撚らずに集合させ、絶縁被覆30で被覆した構造である。
【0022】
磁性層60は、複数の絶縁被覆銅線20の撚線または複数の絶縁被覆銅線20を撚らずに束ねた集合線の周りに、磁性テープを巻回してもよいし、磁性樹脂を押し出して被覆してもよい。
【0023】
実施例4の複合電線300によれば、中心部に絶縁被覆銅線20が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、周辺の絶縁被覆銅線20の作り出す磁界は磁性層60で遮断されて芯線の絶縁被覆銅線20まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、また、芯線の絶縁被覆銅線20の作り出す磁界も磁性層60で遮断されて周辺の絶縁被覆銅線20まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減できる。さらに、複数の絶縁被覆銅線20の撚線または撚らずに束ねた集合線を芯線とするため、柔軟性に優れた電線となる。
【実施例5】
【0024】
芯線の周りに絶縁被覆銅線(20)の素線を撚った場合、その撚りにより芯線と素線が一体化するため、絶縁被覆(30)が無くてもよい。
【実施例6】
【0025】
図8は、実施例3に係る複合電線200を用いたソレノイドコイル(白四角)と実施例3に係る複合電線200から芯線を除いた中空リッツ線を用いたソレノイドコイル(黒菱形)の周波数特性図である。
複合電線200は、7本の直径0.14mmの絶縁被覆磁性めっき銅線40を撚ったリッツ線を芯線とし、その芯線の周囲に51本の直径0.14mmの絶縁被覆銅線20を撚ったものである。
ソレノイドコイルは、内径20mm,1層21ターンのものである。
図8の縦軸は、ソレノイドコイルの抵抗値Rを、58本の直径0.14mmの絶縁被覆銅線20を撚ったリッツ線(通常リッツ線)を用いて作成した同構造のソレノイドコイルの抵抗値Rnに対する相対値R/Rnで示している。従って、縦軸の値が「1」より小さい周波数領域が、通常リッツ線を用いた同構造のソレノイドコイルより損失が小さい領域である。
図8から判るように、本発明に係るコイルは、通常リッツ線を用いた同構造のコイルに比べると、直流とその付近の低周波でほぼ同等の損失であり、それよりも高い周波数では損失が小さくなる。また、約1000kHzより低い周波数では、中空リッツ線を用いた同構造のコイルより損失が小さくなる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の複合電線およびコイルは、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において好適に使用できる。具体例としては、チョークコイル,トランス,インダクター,TV用偏向ヨークなどの電磁誘導利用装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1に係る複合電線を示す断面図である。
【図2】実施例1に係る磁性めっき銅線を示す断面図である。
【図3】実施例1に係る絶縁被覆銅線を示す断面図である。
【図4】実施例2に係る複合電線を示す断面図である。
【図5】実施例2に係る絶縁被覆磁性めっき銅線を示す断面図である。
【図6】実施例3に係る複合電線を示す断面図である。
【図7】実施例4に係る複合電線を示す断面図である。
【図8】実施例6に係るソレノイドコイルの周波数特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0028】
1,3 銅線
2 磁性めっき層
4 エナメル絶縁被覆
5,30 絶縁被覆
10 磁性めっき銅線
20 絶縁被覆銅線
40 絶縁被覆磁性めっき銅線
60 磁性層
100,100’,200,300 複合電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単線の磁性めっき銅線または絶縁被覆磁性めっき銅線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線。
【請求項2】
複数の絶縁被覆磁性めっき銅線の撚線または複数の絶縁被覆磁性めっき銅線を撚らずに束ねた集合線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線。
【請求項3】
複数の絶縁被覆銅線の撚線または複数の絶縁被覆銅線を撚らずに束ねた集合線の周りを磁性層で包んだ線を芯線とし、該芯線の周りに絶縁被覆銅線の素線を撚るか又は撚らずに集合させた複合電線。
【請求項4】
請求項3に記載の複合電線において、前記磁性層が磁性テープからなる複合電線。
【請求項5】
請求項3に記載の複合電線において、前記磁性層が磁性樹脂からなる複合電線。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の複合電線を巻回してなるコイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate