説明

複合電解質及びその製造方法

【課題】電解質の溶出や膨潤を抑制することが可能であり、電気伝導度が高く、化学的耐久性に優れた複合電解質及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】炭化水素系多孔質基材の表面にスルホンアミド基若しくはその誘導体、又は、スルホニルハライド基若しくはその誘導体からなる反応性官能基Aを導入する修飾工程と、前記炭化水素系多孔質基材に、前記反応性官能基Aと反応することによってスルホンイミド基を生成することが可能な反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを充填し、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bとを反応させる複合工程とを備えた複合電解質製造方法、及び、このような方法により得られる複合電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電解質及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、多孔質基材の空孔内に電解質ポリマーが充填された複合電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層内電解質)との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層内電解質には、耐酸化性に優れた炭化フッ素系電解質(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。また、炭化フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質の使用も検討されている。
【0004】
しかしながら、固体高分子型燃料電池を車載用動力源等として用いるためには、解決すべき課題が残されている。例えば、固体高分子型燃料電池において、高い性能を得るためには、電解質膜の電気伝導度を高くすることが重要である。電解質の電気伝導をを高くする最も一般的な方法は、電解質中の酸基量を多くすること(すなわち、EWを小さくすること)である。しかしながら、低EWの電解質は、一般に水溶性であり、電解質膜として使用するのは困難である。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、表面にカルボニルクロライド基が導入された多孔質PTFEにアミド化されたフッ素系アイオネン電解質(H2N−SO2−(CF2−CO−NH−SO2)n−CF2−CO−NH2)を充填し、カルボニルクロライド基とスルホンアミド基とを反応させることにより得られる複合電解質膜が開示されている。
同文献には、強度及び形状安定性に優れたフッ素系樹脂からなる多孔質基材の表面に、カルボニルスルホニルイミド基を介して、プロトン伝導性に優れたフッ素系電解質が結合しているので、電解質の溶出や膨潤を抑制することができる点が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2005−187629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されているように、フッ素系多孔質基材に電解質を充填し、カルボニルスルホニルイミド基を介してフッ素系多孔質基材と電解質とを結合させると、水溶性の低EW電解質であっても、電解質として使用することができる。しかしながら、燃料電池などの各種電気化学デバイスの性能を向上させるためには、電解質の溶出や膨潤をさらに抑制し、電気伝導度をさらに高め、あるいは、電解質の化学的耐久性をさらに向上させる必要がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、電解質の溶出や膨潤を抑制することが可能な複合電解質及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、電気伝導度の高い複合電解質及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、合成ステップが少なく、化学的耐久性に優れた複合電解質を低コストで製造することが可能な複合電解質の製造方法及びこのような方法により得られる複合電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係る複合電解質の製造方法は、
炭化水素系多孔質基材の表面にスルホンアミド基若しくはその誘導体、又は、スルホニルハライド基若しくはその誘導体からなる反応性官能基Aを導入する修飾工程と、
前記炭化水素系多孔質基材に、前記反応性官能基Aと反応することによってスルホンイミド基を生成することが可能な反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを充填し、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bとを反応させる複合工程と
を備えていることを要旨とする。
本発明に係る複合電解質は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
【発明の効果】
【0010】
炭化水素系多孔質基材の表面に反応性官能基Aを導入し、反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを多孔質基材の空孔内に充填し、これらを反応させると、炭化水素系多孔質基材の空孔内に、スルホンイミド基を介して電解質が結合している複合電解質が得られる。得られた複合電解質は、炭化水素系多孔質基材の空孔内に電解質が充填されているので、電解質の膨潤・乾燥に伴う寸法変化を抑制することができる。また、電解質は、スルホンイミド基を介して多孔質基材と結合しているので、電解質の溶出を抑制することができる。また、ある種の電解質モノマーを用いて、空孔内で重合及び複合化させると、電解質ポリマの充填及び複合化を行う場合に比べて、高い電気伝導度が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係る複合電解質の製造方法は、修飾工程と、複合工程とを備えている。また、本発明に係る複合電解質は、本実施の形態に係る製造方法により得られたものからなる。
【0012】
[1. 修飾工程]
修飾工程は、炭化水素系多孔質基材の表面にスルホンアミド基若しくはその誘導体、又は、スルホニルハライド基若しくはその誘導体からなる反応性官能基Aを導入する工程である。
「炭化水素系多孔質基材」とは、C−H結合を含み、C−F結合を含まない高分子化合物からなる多孔質材料をいう。多孔質基材を構成する炭化水素系高分子化合物としては、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリサルホン(PSF)、ポリフェニレンサルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、架橋ポリエチレン(CLPE)などがある。これらの重合度や分子量は、特に限定されるものではないが、強度及び形状安定性の観点から、重量平均分子量は、104〜107程度が好ましい。
「スルホンアミド基又はその誘導体(以下、「アミド系官能基」という)」とは、一般式:−SO2NZ12で表される官能基をいう。但し、Z1、Z2は、それぞれ、H、M、又は、SiMe3を表す。また、Mは、金属イオンを表す。特に、(Z、Z2)の組み合わせが、(H、H)、(H、M)、(SiMe3、M)、又は、(H、SiMe3)からなるものは、高い反応性を有しているので、アミド系官能基として好適である。
「スルホニルハライド基又はその誘導体(以下、「ハライド系官能基」という)」とは、一般式:−SO2Xで表される官能基をいう。但し、Xは、F、Cl、Br、I、又はOHを表す。特に、XがF、Cl、Br、又は、Iからなるものは、高い反応性を有しているのでハライド系官能基として好適である。
【0013】
多孔質基材は、その内部に電解質を充填するためのものである。従って、多孔質基材の厚さ、空孔率、及び気孔径は、複合電解質に要求される特性に応じて、最適なものを選択する。
一般に、多孔質基材の厚さが薄くなるほど、基材内部へのガスの拡散が容易化するので、内部まで均一に改質することができる。高い電気伝導度を有する電解質膜を得るためには、厚さは、200μm以下が好ましく、さらに好ましくは、100μm以下、さらに好ましくは、50μm以下、さらに好ましくは、20μm以下である。
一般に、多孔質基材の空孔率が大きくなるほど、電解質の充填量を多くすることができる。高い電気伝導度を有する電解質膜を得るためには、多孔質基材の空孔率は、60%以上が好ましい。空孔率は、さらに好ましくは、80%以上である。一方、空孔率が大きくなりすぎると、多孔質基材の強度が低下し、電解質の膨潤を抑制する効果が小さくなる。従って、多孔質基材の空孔率は、95%以下が好ましい。空孔率は、さらに好ましくは、90%以下である。
一般に、多孔質基材の気孔径が大きくなるほど、電解質の充填が容易化する。高い電気伝導度を有する電解質を得るためには、多孔質基材の平均気孔径は、0.1μm以上が好ましい。平均気孔径は、さらに好ましくは、0.3μm以上である。一方、気孔径が大きくなりすぎると、多孔質基材の強度が低下し、電解質の膨潤を抑制する効果が小さくなる。従って、多孔質基材の平均気孔径は、5μm以下が好ましい。平均気孔径は、さらに好ましくは、1μm以下である。
【0014】
多孔質基材にアミド系官能基又はハライド系官能基を導入する方法には、以下のような方法がある。
[1.1. ハライド系官能基の導入方法(1)]
ハライド系官能基を導入する第1の方法は、照射工程と、SO2ガス反応工程と、酸化工程とを備え、各工程を個別に行うことを特徴とする。
【0015】
[1.1.1. 照射工程]
照射工程は、炭化水素系多孔質基材に紫外線より高いエネルギーを有する放射線を照射する工程である。
本発明において、「放射線」とは、紫外線より短い波長を有する高エネルギーの粒子線又は電磁波をいう。特に、電子線又はγ線は、比較的取り扱いが容易であり、かつ、多孔質基材の内部まで改質するのが容易であるので、放射線として好適である。
放射線の照射条件は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、膜厚が薄くなるほど、放射線の強度が大きくなるほど、及び/又は、放射線の照射時間が長くなるほど、基材内部に多量のラジカルが生成するので、基材内部に相対的に多量のハライド系官能基を導入することができる。一方、放射線の強度が大きすぎる場合、及び/又は、照射時間が長すぎる場合、目的とする反応以外にも崩壊反応や架橋反応が生ずるおそれがある。
【0016】
最適な照射時間は、放射線の種類、基材の種類等により異なる。
例えば、放射線として電子線又はγ線を用いる場合、放射線の強度は、1〜1000kGyが好ましく、さらに好ましくは、50〜200kGyである。また、照射時間は、1〜100時間が好ましい。
また、酸化剤として後述するハロゲンガスを用いる場合には、放射線の強度は、0.1〜400kGyが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜100kGy、さらに好ましくは、0.1〜30kGyである。
【0017】
[1.1.2. SO2ガス反応工程]
SO2ガス反応工程は、放射線が照射された多孔質基材とSO2ガスとを反応させる工程である。
SO2ガスとの反応は、具体的には、多孔質基材を容器に入れ、容器内を排気した後、容器内に所定の圧力を有するSO2ガスを導入することにより行う。
多孔質基材とSO2ガスは、直接反応させても良く、あるいは、溶媒を介して反応させても良い。特に、SO2ガスを溶解させ、かつ、多孔質基材を膨潤させる作用がある溶媒を容器内に入れると、溶媒によって多孔質基材が膨潤し、溶媒に溶け込んだSO2ガスが基材内部に浸透するので、反応がより進みやすくなる。このような作用を有する溶媒としては、フッ素系溶媒(例えば、3M製フロリナート(登録商標)、旭硝子製アサヒクリン(登録商標)など)などがある。
【0018】
容器内のSO2ガスの圧力、反応時間及び反応温度は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、容器内のSO2ガスの圧力が高くなるほど、反応時間が長くなるほど、及び/又は、反応温度が高くなるほど、多孔質基材内部へのガス拡散が進むので、多孔質基材とSO2ガスとの反応が進行し易くなる。
最適なSO2ガス圧、反応時間及び反応温度は、多孔質基材の種類、多孔質基材への放射線の照射条件等により異なる。
例えば、多孔質基材の厚さが20〜50μmである場合、SO2ガス圧は、0.1〜2.0MPaが好ましく、さらに好ましくは、0.1〜0.5MPaである。また、反応時間は、1〜5日が好ましい。さらに、反応温度は、−100℃〜50℃が好ましい。
【0019】
[1.1.3. 酸化工程]
酸化工程は、SO2ガスと反応させた後、さらに多孔質基材を酸化剤と反応させる工程である。
酸化剤としては、具体的には、O2ガス、ハロゲンガス、H22水溶液、KMnO4水溶液などがある。特に、ハロゲンガス、H22水溶液、及び、KMnO4水溶液は、その理由の詳細は不明であるが、他の酸化剤を用いた場合に比べて、ハライド系官能基の導入が容易になるという利点がある。
【0020】
酸化剤と多孔質基材との反応方法は、酸化剤の種類により異なる。
例えば、酸化剤がO2ガス、ハロゲンガス等の酸化剤ガスである場合、酸化剤との反応は、SO2ガスと反応させた後の多孔質基材を入れた容器内に酸化剤ガスを導入することにより行う。
この場合、酸化剤ガスを導入する前に容器からSO2ガスを排気しても良く、あるいは、SO2ガスが残っている容器内に、さらに酸化剤ガスを導入しても良い。また、SO2ガスと反応させる際に溶媒を用いた場合、酸化剤ガスは、溶媒が容器内に入った状態のまま導入しても良く、あるいは、溶媒を取り除いた後に容器内に導入しても良い。特に、溶媒が酸化剤ガスを溶解させる作用があるときには、溶媒が容器内に入った状態のまま酸化剤ガスを導入することにより、反応がより進みやすくなる。
【0021】
容器内の酸化剤ガスの圧力、反応時間及び反応温度は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、容器内の酸化剤ガスの圧力が高くなるほど、反応時間が長くなるほど、及び/又は、反応温度が高くなるほど、多孔質基材と酸化剤ガスとの衝突確率が高くなるので、多孔質基材と酸化剤ガスとの反応が進行し易くなる。最適な酸化剤ガス圧、反応時間及び反応温度は、多孔質基材の種類、多孔質基材への放射線の照射条件等により異なる。
例えば、多孔質基材の膜厚が20〜50μmである場合、酸化剤ガス圧は、0.1〜0.5MPaが好ましい。また、反応時間は、1〜5日が好ましい。さらに、反応温度は、−100℃〜50℃が好ましい。
【0022】
また、酸化剤がH22水溶液、KMnO4水溶液のような液体である場合、酸化剤との反応は、SO2ガスと反応させた後の多孔質基材を酸化剤溶液中に浸漬することにより行う。
溶液中に含まれる酸化剤の濃度は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、酸化剤の濃度が低すぎると、多孔質基材と酸化剤との反応が不十分となる。一方、酸化剤の濃度が高すぎると、酸化剤の種類によっては、多孔質基材に導入されたハライド系官能基や基材そのものを分解させる場合がある。例えば、酸化剤としてH22水溶液を用いる場合、H22濃度は、0.1〜10wt%が好ましく、さらに好ましくは、3〜10wt%である。
反応温度及び反応時間は、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、反応温度が高くなるほど、及び/又は、反応時間が長くなるほど、多孔質基材と酸化剤との反応が進行し易い。一方、反応温度が高すぎる場合、及び/又は、反応時間が長すぎる場合には、酸化剤の種類によっては、多孔質基材に導入されたハライド系官能基や多孔質基材そのものを分解させるおそれがある。例えば、酸化剤としてH22水溶液を用いる場合、反応温度は、室温〜50℃が好ましく、反応時間は、1〜24時間が好ましい。
【0023】
多孔質基材に放射線を照射し、SO2ガス及び酸化剤をこの順で反応させると、多孔質基材にハライド系官能基を導入することができる。
例えば、酸化剤ガスとして、ハロゲンガスを用いた場合、多孔質基材には、スルホニルハライド基が導入される。
一方、酸化剤ガスとして、ハロゲンガス以外の酸化剤を用いた場合、多孔質基材には、スルホン酸基が導入される。なお、SO2ガスと酸化剤とを反応させただけでは、完全にスルホン酸基にならない場合があるので、このような場合には、酸化剤との反応後、多孔質基材を加水分解(例えば、硫酸水溶液などの酸水溶液への浸漬)するのが好ましい。
【0024】
[1.2. ハライド系官能基の導入方法(2)]
ハライド系官能基を導入する第2の方法は、照射工程と、SO2ガス反応工程と、酸化工程とを備え、照射工程及びSO2ガス反応工程を同時に行うことを特徴とする。
放射線の照射とSO2ガスとの反応を同時に行う場合、放射線を透過させる容器内に多孔質基材及びSO2ガスを密封し、容器の外側から多孔質基材に向かって放射線を照射すればよい。その他の点については、第1の方法と同様であるので、説明を省略する。
【0025】
[1.3. ハライド系官能基の導入方法(3)]
ハライド系官能基を導入する第3の方法は、照射工程と、SO2ガス反応工程と、酸化工程とを備え、照射工程の後に、SO2ガス反応工程及び酸化工程を同時に行うことを特徴とする。
第3の方法において、酸化剤には、酸化剤ガス(例えば、O2ガス、ハロゲンガスなど)を用いる。また、SO2ガスとの反応及び酸化剤ガスとの反応を同時に行う場合、容器内に、放射線を照射した後の多孔質基材、並びに所定量のSO2ガス及び酸化剤ガスを密封し、所定の温度で所定時間反応させればよい。その他の点については、第1の方法と同様であるので、説明を省略する。
【0026】
[1.4. ハライド系官能基の導入方法(4)]
ハライド系官能基を導入する第4の方法は、照射工程と、SO2ガス反応工程と、酸化工程とを備え、照射工程、SO2ガス反応工程及び酸化工程を同時に行うことを特徴とする。
第4の方法において、酸化剤には、酸化剤ガス(例えば、O2ガス、ハロゲンガスなど)を用いる。また、放射線の照射、SO2ガスとの反応及び酸化剤ガスとの反応を同時に行う場合、放射線を透過させる容器内に、多孔質基材、SO2ガス及び酸化剤ガスを密封し、容器の外側から多孔質基材に向かって放射線を照射すればよい。その他の点については、第1の方法と同様であるので、説明を省略する。
【0027】
[1.5. アミド系官能基の導入方法]
スルホンアミド(−SO2NH2)基は、上述した各種の方法により多孔質基材にハライド系官能基を導入した後、ハライド系官能基とアンモニアとを反応させることにより得られる。
また、アミド基のHが金属イオンに置換されたアミド系官能基は、多孔質基材にスルホンアミド基を導入した後、スルホンアミド基とMOH(M=Na、K)などの金属水酸化物とを反応させることにより得られる。
また、アミド基のHがSiMe3基に置換されたアミド系官能基は、多孔質基材にスルホンアミド基を導入した後、スルホンアミド基と、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサメチルジシラザンリチウム(LiHMDS)等とを反応させることにより得られる。
【0028】
[2. 複合工程]
複合工程は、炭化水素系多孔質基材に、反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを充填し、反応性官能基Aと反応性官能基Bとを反応させる工程である。
「反応性官能基B」とは、反応性官能基Aと反応することによってスルホンイミド(−SO2NHSO2−)基を生成することが可能な官能基をいう。例えば、反応性官能基Aがアミド系官能基である場合、反応性官能基Bは、ハライド系官能基が好ましい。また、例えば、反応性官能基Aがハライド系官能基である場合、反応性官能基Bは、アミド系官能基が好ましい。
多孔質基材には、電解質モノマ又は電解質ポリマーのいずれか一方を充填しても良く、あるいは、双方を導入しても良い。
【0029】
[2.1. 電解質モノマ]
「電解質モノマ」とは、少なくとも1つの反応性官能基Bを持ち、かつ、重合することによって電解質ポリマとなるものをいう。電解質モノマは、このような条件を満たす1種類のモノマを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
電解質モノマは、特に、少なくとも1つの反応性官能基Bに加えて、少なくとも1つの反応性官能基A又は反応性官能基Bをさらに持つものが好ましい。
【0030】
例えば、電解質モノマは、少なくとも1つの反応性官能基Bに加えて、少なくとも1つの反応性官能基Aを持つものでも良い。この場合、1つのモノマの反応性官能基Aと他の1つのモノマの反応性官能基Bとを反応させると、結合点には強酸基であるスルホンイミド基が形成される。従って、このような反応を繰り返すことにより、1種類の電解質モノマから電解質ポリマを合成することができる。また、電解質ポリマの末端にある反応性官能基Bと多孔質基材に導入された反応性官能基Aとが反応し、スルホンイミド基を介して電解質ポリマを多孔質基材に固定することができる。
【0031】
また、電解質モノマは、以下の条件(条件a)を満たす2種以上のモノマを組み合わせて用いても良い。
(1) 電解質モノマは、2個の反応性官能基A及び/又は反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の反応性官能基Aと、少なくとも2個の反応性官能基Bを含む。
【0032】
条件aは、2官能モノマを組み合わせて用いるケースである。条件aを満たす電解質モノマとしては、特に、以下の(1)式〜(4)式で表されるいずれか2種以上のモノマの混合物が好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
例えば、(3)式で表されるモノマは、2個のアミド系官能基を持つ2官能モノマ(以下、これを「AA」と略記する)であり、(4)式で表されるモノマは、2個のハライド系官能基を持つ2官能モノマ(以下、これを「BB」と略記する)である。従って、反応性官能基Aとしてアミド系官能基が導入された多孔質基材(以下、これを「RA」と略記する)と、これらのモノマとを反応させると、まず、多孔質基材RAと2官能モノマBBとが反応し、RA−BBが得られる。多孔質基材RAと2官能モノマBBの結合点には、強酸基であるスルホンイミド基(A−B)が形成される。
次いで、RA−BBと2官能モノマAAとが反応し、RA−BB−AAが得られ、2官能モノマAAとの結合点には、新たにスルホンイミド基(B−A)が形成される。
以下、このような反応を繰り返すことにより、2官能モノマAA及びBBが重合することにより得られる直鎖型の電解質ポリマがスルホンイミド基を介して多孔質基材に固定された複合電解質が得られる。
【0035】
また、電解質モノマは、以下の条件(条件b)を満たす2種以上のモノマを組み合わせて用いても良い。
(1) 電解質モノマは、2個以上の反応性官能基A及び/又は反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 電解質モノマは、3個以上の反応性官能基A及び/又は反応性官能基Bを持つ、少なくとも1種のモノマを含む。
(3) 電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の反応性官能基Aと、少なくとも2個の反応性官能基Bを含む。
【0036】
条件bは、電解質モノマの中に、3官能以上の多官能モノマが含まれるケースである。条件bを満たす電解質モノマとしては、特に、以下の(1)式〜(4)式で表されるいずれか1種以上のモノマと、(5)式で表されるいずれか1種以上のモノマとの混合物が好適である。
【0037】
【化2】

【0038】
例えば、(3)式で表されるモノマは、2個のアミド系官能基を持つ2官能モノマ(以下、これを「AA」と略記する)であり、(4)式で表されるモノマは、2個のハライド系官能基を持つ2官能モノマ(以下、これを「BB」と略記する)である。一方、(5)式で表されるモノマは、合計3個のアミド系官能基又はハライド系官能基をもつ3官能モノマである。
3官能モノマが3個のアミド系官能基を持つもの(以下、これを「AAA」と略記する)である場合において、反応性官能基Aとしてアミド系官能基が導入された多孔質基材(RA)と、2官能モノマBB(又は、これに加えて2官能モノマAA)並びに3官能モノマAAAを含む電解質モノマとを反応させると、まず、多孔質基材RAと2官能モノマBBとが反応し、RA−BBが得られる。多孔質基材RAと2官能モノマBBとの結合点には、強酸基であるスルホンイミド基(A−B)が形成される。
次いで、RA−BBの一部は、3官能モノマAAAと反応する。また、電解質モノマに2官能モノマAAがさらに含まれる場合には、RA−BBの他の一部は、2官能モノマAAと反応する。RA−BBと3官能モノマAAAとが反応した場合、RA−BB−AAAが得られ、3官能モノマAAAとの結合点には、新たにスルホンイミド基(B−A)が形成される。さらに、3官能モノマAAAに含まれる2個の未反応のアミド系官能基Aには、それぞれ、2官能モノマBBが新たに結合する。
以下、このような反応を順次繰り返すことにより、2官能モノマBB(及び2官能モノマAA)、並びに、3官能モノマAAAが重合することにより得られるデンドリマ型又は架橋ネットワーク型の電解質ポリマがスルホンイミド基を介して多孔質基材に固定された複合電解質が得られる。
【0039】
2種以上のモノマを組み合わせて用いる場合、モノマ中に含まれる反応性官能基Aのモル数と、反応性官能基Bのモル数とが同一となるように、2種以上のモノマを配合すると、理想的には、すべての反応性官能基Aと反応性官能基Bからスルホンイミド基を生成させることができる。
しかしながら、これらのモノマに含まれる反応性官能基Aと反応性官能基Bのモル数は、完全に同数である必要はなく、いずれか一方に過不足があっても良い。これは、いずれか一方に過不足があっても、電解質ポリマ中に未反応の反応性官能基A又は反応性官能基Bがそのまま残るか、あるいは、ネットワーク状に成長した電解質ポリマの周囲に直鎖状又は分岐状の高分子鎖が放射状に成長するだけと考えられるためである。
【0040】
但し、反応性官能基Aと反応性官能基Bの比率が理論値から大きく乖離すると、未反応のモノマ又は低分子量のオリゴマが多量に残留する。従って、電解質モノマの配合比は、使用する電解質モノマの種類に応じて、最適な比率を選択するのが好ましい。また、3官能以上の多官能モノマを用いる場合には、電解質モノマの配合比は、いわゆるゲル化理論に従うのが良い。
【0041】
枝分かれ単位が2官能モノマを経て、次の枝分かれモノマに結合する確率をαとすると、(1−α)は、分枝から出たある鎖がその先さらに分枝を通って伸びていない確率である。従って、枝分かれ点が3官能ならα>1/2、もし枝分かれ点がf官能ならα>1/(f−1)の場合、分子は無限に続く。ちょうど、無限網目ができはじめたゲル化点でのαをα0とすると、
α0=1/(f−1)
である。いま、一方がf官能モノマと2官能モノマの混合物、他方が2官能モノマのみとする。例えば、f=3なら、AAAや、AA、BBの反応により両端が枝分かれした下記のような鎖ができる。
【0042】
【化3】

【0043】
その生成確率と、モノマの反応率の関係を考えてみる。Aの初期濃度[A]0中のf官能モノマに属するものの分率をρとする。A及びBの官能基の反応率がpA、pBとなった段階では、上記のような両端がf官能モノマに結合した鎖のできる確率は、
A{pB(1−ρ)pA}nBρ (n=0〜∞)
になり、従ってnに無関係な任意の鎖の両端が枝分かれ点につながった確率、すなわちαは、次式の(a)式で表される。
【0044】
【数1】

【0045】
反応系のはじめのA及びBの官能基濃度比をγとすると、pB=γpAであるから、これを(a)式に入れて、
α=γpA2ρ/{1−γpA2(1−ρ)}=pB2ρ/{γ−pB2(1−ρ)}
が誘導される。従って、pA、pBを実測してαを求めることができる。また、ゲル化点では、α0=1/(f−1)であるから、γ、ρが既知であれば、ゲル化点のpA又はpBが予測できる(高分子学会編、「高分子化学の基礎」、p250〜251、東京化学同人(1978)参照)。
【0046】
例えば、2官能モノマのみの組み合わせの場合、1モルの反応性官能基Aに対する反応性官能基Bの比率(以下、単に「反応性官能基Bの比率」という)が0.95モル以上1.05モル以下となるように、モノマを配合するのが好ましい。反応性官能基Bの比率は、さらに好ましくは、0.99モル以上1.01モル以下である。
【0047】
また、例えば、3官能モノマと2官能モノマとの組み合わせの場合、反応率が1とすると、反応性官能基Bの比率が0.5モル以上2モル以下となるように、モノマを配合するのが好ましい。反応性官能基Bの比率は、さらに好ましくは、0.8モル以上1.2モル以下である。
【0048】
[2.2. 電解質ポリマ]
「電解質ポリマ」とは、少なくとも1つの反応性官能基Bと、酸基(又は、その誘導体)とを持つポリマをいう。電解質ポリマは、このような条件を満たす1種のポリマを用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
電解質ポリマは、特に、上述した少なくとも1つの反応性官能基Bに加えて、少なくとも1つの反応性官能基A又は反応性官能基Bをさらに持つ、1種又は2種以上の電解質モノマを重合させることにより得られるものが好ましい。
【0049】
例えば、電解質ポリマは、少なくとも1つの反応性官能基Bに加えて、少なくとも1つの反応性官能基Aを持つ電解質モノマを重合させることにより得られるものでも良い。この場合、1つのモノマの反応性官能基Aと他の1つのモノマの反応性官能基Bとを反応させると、結合点には強酸基であるスルホンイミド基が形成される。従って、このような反応を繰り返すことにより、1種類の電解質モノマから電解質ポリマを合成することができる。また、電解質ポリマを重合した後、これを多孔質基材の空孔内に充填し、電解質ポリマの末端にある反応性官能基Bと多孔質基材に導入された反応性官能基Aとを反応させると、スルホンイミド基を介して電解質ポリマを多孔質基材に固定することができる。
【0050】
また、電解質ポリマは、以下の条件(条件a)を満たす電解質モノマを重合させることにより得られるものでも良い。
(1) 電解質モノマは、2個の反応性官能基A及び/又は反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の反応性官能基Aと、少なくとも2個の反応性官能基Bを含む。
【0051】
条件aは、2官能モノマを組み合わせて用いるケースである。条件aを満たす電解質モノマとしては、特に、以下の(1)式〜(4)式で表されるいずれか2種以上のモノマの混合物が好ましい。
【0052】
【化4】

【0053】
(1)〜(4)式で表されるいずれか2種以上のモノマを重合することにより得られる電解質ポリマーは、溶媒可溶性であるので、多孔質基材の空孔内への充填が容易であるという利点がある。
なお、複数の電解質モノマを用いて電解質ポリマを合成する場合において、各種モノマの配合比は、電解質モノマを多孔質基材の空孔内に充填し、空孔内において重合させる場合と同様であるので、説明を省略する。
【0054】
[2.3. 反応方法]
まず、電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを適当な溶媒に溶解させる。溶媒の種類は、特に限定されるものではなく、電解質モノマ及び電解質ポリマの種類に応じて、最適なものを選択する。また、溶媒中における電解質モノマ及び電解質ポリマの濃度も特に限定されるものではなく、反応が均一かつ効率よく進行するように、電解質モノマ及び電解質ポリマの種類に応じて、最適な濃度を選択する。
次に、表面修飾を施した多孔質基材に溶液を含浸させ、これらを反応させる。一般に、多孔質基材に導入された反応性官能基Aと、電解質モノマ又は電解質ポリマに含まれる反応性官能基Bとは、反応性が高いので、単に両者を接触させるだけで反応が進行する。なお、必要に応じて、反応性官能基A及び/又は反応性官能基Bに対して、適当な官能基変換を行った後に、両者を反応させても良い。
【0055】
また、多孔質基材と電解質モノマ及び/又は電解質ポリマとを反応させる際、これらに対し、反応性官能基Aと反応性官能基Bとの反応速度を大きくする(すなわち、触媒作用を有する)試薬を加えても良い。このような試薬としては、具体的には、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、DBU(ジアザバイシクロウンデセン)等の塩基性化合物が好適である。触媒作用を有する試薬の量は、複合電解質の用途、要求特性等に応じて最適な量を選択する。試薬の量を最適化すると、混合液の粘度を調節することができる。
【0056】
多孔質基材と電解質モノマ及び/又は電解質ポリマとの反応は、電解質モノマ及び/又は電解質ポリマの加水分解等の変質を防ぐために、Ar、N2等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。また、反応温度、反応時間、及び反応時の圧力は、特に限定されるものではなく、電解質モノマ及び/又は電解質ポリマの種類、混合液の濃度、触媒作用を有する試薬の種類及び量等に応じて最適な値を選択する。
【0057】
反応が完了したところで、得られた複合電解質を取り出し、反応性官能基Aと反応性官能基Bの結合点、並びに、未反応の反応性官能基A及び反応性官能基Bを酸性基に変換する。酸性基に変換する方法には、種々の方法を用いることができる。具体的には、得られた複合電解質を硝酸等の酸で処理してプロトン化する方法、複合電解質をアルカリ溶液でケン化し、次いで酸で処理してプロトン化する方法等が好適である。
【0058】
次に、本発明に係る複合電解質の製造に用いる電解質モノマの製造方法について説明する。少なくとも1つの反応性官能基B及び/又は反応性官能基Aを持つ電解質モノマは、これらに類似の分子構造を有する市販のモノマを出発原料に用い、これに対して公知の方法を用いて所定の官能基変換を行うことにより合成することができる。
【0059】
例えば、3個のスルホニルクロライド基を備えた3官能モノマ「1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド」は、次の(A)式及び(B)式に示す手順により合成することができる。
【0060】
【化5】

【0061】
すなわち、まず、3Lの反応容器に、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩一水和物(C65SO3Na・H2O)495g(2.49mol)、濃硫酸(H2SO4)650g、硫酸ナトリウム(NaHSO4)370.5gを仕込み、300〜330℃で30分間反応させる。反応混合物を冷却後、水1.3L、水酸化ナトリウム(NaOH)310gを加え、アルカリ性とする。これを濃硫酸にてpH6に調整する。活性炭を加え、70℃で30分間攪拌し、熱時ろ過してろ液を5℃で一晩放置する。析出結晶をろ過し、ろ液を濃縮して結晶が析出し始めたところで止め、5℃で一晩放置する。析出した結晶をろ過、乾燥すると、1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウム塩(収量576g、収率60.2%)が得られる((A)式)。
【0062】
次に、5Lの反応容器に、1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウム550g(1.43mol)、塩化チオニル(SOCl2)2.5Lを仕込み、室温にてDMF330mLを30分かけて滴下する。滴下後、12時間加熱還流させる。反応混合物を冷却後、氷36kgに注加し、析出結晶をろ過し、水洗後乾燥する。得られた粗結晶を酢酸エチルにて再結晶させると、目的とするモノマ「1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド(収量208g、収率37.8%)」が得られる((B)式)。
【0063】
ハライド系官能基を有する他のモノマも同様であり、上述と同一又は類似の手順により合成することができる。また、アミド系官能基を備えたモノマは、まず、上述と同一又は類似の手順によりハライド系官能基を備えたモノマを合成し、次いで、これをアンモニア、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサメチルジシラザンリチウム(LiHMDS)等と反応させ、ハライド系官能基の全部又は一部をアミド系官能基に変換することにより得られる。
【0064】
次に、本発明に係る複合電解質及びその製造方法の作用について説明する。
放射線照射スルホン化反応は、放射線化学合成分野で周知の反応であり、この反応を用いた低分子量のアルキルスルホン酸の合成(R−H→R−SO3H)に関する論文や特許が数多く出願されている。その機構は、SO2/O2混合ガスの存在下、放射線により生成したアルキルラジカルがSO2と反応し(スルホン化)、次いでSO2基の酸化反応によりスルホン酸基が生成すると考えられている。
同様に、SO2/Cl2による放射線照射スルホクロロ化反応は、放射線化学合成分野では周知の反応であり、この反応を用いた低分子及び高分子のスルホクロロ化反応が知られている(R−H→R−SO2Cl)。さらに、放射線クロロスルホン化反応に続くNH3との反応によるスルホンアミド化反応も放射線化学合成分野では周知の反応であり、この反応を用いた低分子のスルホンアミド化反応が知られている(R−H→R−SO2Cl→R−SO2NH2)。しかしながら、これらの反応を高分子電解質の合成に応用した例は、従来にはない。
【0065】
これに対し、放射線照射スルホン化反応、放射線照射スルホクロロ化反応等を用いて、炭化水素系多孔質基材の表面に反応性官能基Aを導入し、反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを多孔質基材の空孔内に充填し、これらを反応させると、炭化水素系多孔質基材の空孔内に、スルホンイミド基を介して電解質ポリマが結合している複合電解質が得られる。得られた複合電解質は、炭化水素系多孔質基材の空孔内に電解質が充填されているので、電解質の膨潤・乾燥に伴う寸法変化を抑制することができる。また、電解質は、スルホンイミド基を介して多孔質基材と結合しているので、電解質単独では水溶性である場合であっても、電解質の溶出を抑制することができる。
【0066】
また、反応性官能基Aを導入する場合において、放射線照射スルホクロロ化反応を用いると、他の酸化剤を用いた場合に比べて、高い電気伝導度が得られる。その理由の詳細は不明であるが、ハロゲンガスの反応性が他の酸化剤に比べて高いために、多孔質基材に導入される反応性官能基Aの量が相対的に多くなるためと考えられる。
また、炭素系多孔質基材に反応性官能基Aを導入する場合において、γ線照射量を0.1〜400kGyとすると、高い電気伝導度を有する複合電解質が得られる。これは、過剰照射した場合、基材が崩壊するためと考えられる。
また、炭化水素系多孔質基材の空孔内に電解質ポリマを化学結合により固定する場合において、出発原料として電解質モノマを用いると、電解質ポリマを用いた場合に比べて、高い電気伝導度を有する複合電解質が得られる。これは、ポリマ末端官能基の反応性が低いためと考えられる。
さらに、炭化水素系多孔質基材の空孔内に電解質モノマを充填し、空孔内で重合させる固定する場合において、出発原料として、3個以上の反応性官能基を有する多官能モノマを含む電解質モノマを用いると、2官能モノマのみからなる電解質モノマを用いた場合に比べて、著しく高い電気伝導度を有する複合電解質が得られる。これは、架橋によりゲルが形成され、基材への電解質の充填量が多くなるためと考えられる。
【0067】
ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボンスルホン酸は、高い電気伝導度を有するが、合成時のステップ数が多く、高コストであるという問題がある。また、そのエーテル結合構造が耐久性低下の原因といわれている。
これに対し、放射線照射スルホクロロ化反応、又は、これに続くNH3との反応により多孔質基材の表面を修飾する方法は、安価な試薬(SO2、Cl2、NH3など)を用いており、また、スルホンアミド合成法は錆止めや乳化剤として応用されているので、簡便かつ低コストである。また、多孔質基材にラジカルを発生させ、そこにSO2を浸透させて反応させればよいので、基材の種類を問わず、様々な基材に直接、アミド系官能基又はハライド系官能基を導入することができ、合成ステップも少ない。
【0068】
また、得られた複合電解質は、多孔質基材と電解質とがスルホンイミド基を介して結合しているので、電解質自体が低EWであっても、水に溶けることはなく、自立膜として得られる。しかも、電解質は、多孔質基材の空孔内に存在するため、電解質が大きく膨潤することがない。すなわち、高伝導度を保ちながら、水への可溶化及び過度の膨潤を抑制することができる。
さらに、従来のフッ素系電解質と異なり、主鎖とスルホン酸基の間にエーテル結合を持たず、また、多孔質基材と電解質の界面に化学結合が存在しているために、化学的耐久性にも優れる。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
[1. PE多孔体のγ線照射スルホクロロ化及びSO2NH2膜の作製]
HDPE多孔体(超高分子量ポリエチレン(帝人ソルフィル製)、空孔率85%、平均孔径0.3μm、膜厚50μm)に、SO2/Cl2存在下でγ線を照射した。γ線照射量は、0.1〜100kGyまで変化させた。
次に、得られた膜を−100℃で液体NH3に浸漬し、3時間攪拌、反応させた。攪拌しながら一晩かけて室温まで除々に昇温した後、膜を取り出した。3N硫酸水溶液、続いて超純水で加熱洗浄(50℃×12時間を2回)することにより、SO2NH2膜を得た。
【0070】
[2. 多孔質基材膜の評価]
図1に、未処理膜、SO2(NH2)2、及び、0.1〜100kGyのγ線照射を行ったSO2NH2膜のIRスペクトルを示す。IRスペクトルにより、スルホンアミド基(〜1150、〜1350cm-1)のピークを確認した。また、吸収強度は、照射量依存性が見られた。いずれの膜とも、伝導度は、測定限界以下(<0.001S/cm)であった。
【0071】
(実施例2、3)
[1. 2官能モノマと修飾膜との反応による複合電解質膜の作製(実施例2)]
2官能モノマ:FO2S-(CF2)3−SO2F(パーフルオロプロパンジスルホニルフロリド、PPDSF)2.528g(8mmol)、H2NO2S−(CF2)3−SO2NH2(パーフルオロプロパンジスルホンアミド、PPDSA)2.48g(8mmol)、Et3N(トリエチルアミン、TEA)8.8ml(64mmol)、MeCN(アセトニトリル)10mlを混合し、攪拌して均一なモノマ溶液とした。これをバイアル中において、実施例1で作製したSO2Cl膜又はSO2NH2膜(γ線照射量:0.1kGy、1kGy、又は、5kGy)に含浸させ、80℃で10日間反応させた。揮発成分を除去し、1N NaOH水溶液を加えて、50℃で12時間浸漬した。膜を取り出して、3N H2SO4水溶液、超純水で加熱洗浄(50℃×12時間を2回)して複合電解質膜を得た。
【0072】
[2. 2官能ポリマと修飾膜との反応による複合電解質膜の作製(実施例3)]
PPDSFとPPDSAとを反応させることにより得られる2官能ポリマ(H2NO2S−[(CF2)3SO2NHSO2]20−(CF2)3SO2NH2)1.887g(3mmol)、2官能モノマPPDSF0.948g(3mmol)、TEA3.3ml(24mmol)、MeCN10mlの均一な混合溶液を調製した。これをバイアル中において、実施例1で作製したSO2Cl膜又はSO2NH2膜(γ線照射量:0.1kGy、1kGy、又は、5kGy)に含浸させ、80℃で20日間反応させた。以下、実施例2と同様に処理して、複合電解質膜を得た。
【0073】
[3. 複合膜の評価]
得られた複合電解質膜の水中伝導度、EW、含水率、及び、重量増を測定した。表2に、その結果を示す。また、図2及び図3に、電気伝導度のγ線照射量依存性を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
電解質モノマ又は電解質ポリマとの処理を行っていない未処理膜(SO2Cl膜、SO2NH2膜)では見られなかった電気伝導度が、複合電解質膜では確認された。得られるポリマは水溶性であること、及び、基材の重量増加が見られることから、多孔質基材への電解質ポリマの固定が確認された。
また、図2及び図3より、
(1) SO2NH2膜よりもSO2Cl膜の方が高い電気伝導度を示す、
(2) 電解質ポリマよりも電解質モノマを用いた方が高い電気伝導度を示す、
ことがわかる。これは、反応性の違いによるものと考えられる。
【0076】
図4に、ポリマのみ、修飾膜のみ、及び複合膜のIRスペクトルを示す。図4より、得られた複合膜には、スルホンイミド(SO2NHSO2)基やポリマ由来と推定される吸収が見られた。
【0077】
(比較例1)
MeCN量を30mlとした以外は、実施例2と同一の条件下で複合電解質膜を合成した。得られた膜の伝導度は、0.001S/cm以下であり、重量増加も見られなかった。これは、反応点の濃度が相対的に薄くなるので、反応確率が低下し、重合度の低い(分子量の低い)オリゴマーしか生成しないためと考えられる。
【0078】
(比較例2)
反応時間を1日とした以外は、実施例2と同一の条件下で複合電解質膜を合成した。得られた膜の伝導度は、0.001S/cm以下であり、重量増加も見られなかった。これは、反応時間が短いために、重合度の低い(分子量の低い)オリゴマーしか生成しないためと考えられる。
【0079】
(比較例3)
多孔質基材として未修飾膜を用いた以外は、実施例2と同一条件下で、複合電解質膜を合成した。得られた膜の伝導度は、0.001S/cm以下であり、重量増加も見られなかった。これは、PPDSFとPPDSAとを反応させることにより得られるポリマが水溶性であるため、後処理でポリマがすべて除かれるためと考えられる。
【0080】
(実施例4)
[1. 2成分(PPDSF:BTSA=1.5:1)反応による複合膜の作製]
2官能モノマPPDSF3.792g(12mmol)、3官能モノマ:C63(SO2NH2)3(ベンゼントリスルホンアミド、BTSA)2.52g(8mmol)、TEA7.34ml(53mmol)、MeCN10mlを混合し、攪拌して均一なモノマ溶液とした(PPDSF:BTSA=1.5:1)。これをバイアル中において、実施例1で作製したSO2NH2膜(γ線照射量:0.1kGy、1kGy、5kGy)に含浸させ、80℃で2日間反応させた。ゲル状になった。
揮発成分を除去し、15vol%H2SO4−EtOH溶液を加えて、50℃で6時間浸漬した。膜を取り出して、3N H2SO4水溶液、超純水で加熱洗浄(50℃×12時間を2回)して複合電解質膜を得た。
【0081】
[2. 複合膜の評価]
表2に、得られた複合電解質膜の物性を示す。表2より、γ線照射によって多孔質基材を修飾することに加えて、電解質モノマに3官能モノマを加えることによって、反応後の基材重量が大きく増加し、高伝導度と低含水率を達成できることがわかる。すなわち、γ線照射によって、少ない量で高伝導度が達成できた。また、電解質と基材が結合することで、含水率を低く抑えることができた。
【0082】
【表2】

【0083】
(実施例5)
[1. 3成分(PPDSF:PPDSA:BTSA=3:3:1)反応による複合膜の作製]
BTSA2.83g、PPDSA8.375g、MeCN27.9mlをAr雰囲気中で攪拌し、そこにTEA16.393gを加えてさらに攪拌して、均一な溶液とした。実施例1で作製したSO2NH2膜(γ線照射量:0.1kGy、5kGy)をAr雰囲気下で容器内に入れて、調製した溶液を注入し、5分間超音波照射した。PPDSF12.804gを加えて、さらに5分間超音波照射し、50℃で144hr反応させ、さらに90℃で24時間加熱した。
得られた膜を、10vol%硫酸+90vol%EtOHで12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。次に、10vol%硫酸+45vol%EtOH+45vol%超純水で12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。さらに、10vol%硫酸+90vol%超純水で12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。超純水で12hr攪拌(室温)して水洗し、風乾して複合膜を得た。
【0084】
[2. 複合膜の評価]
表3に、得られた膜の25℃、水中での伝導度と、重量増加を示す。表3より、電解質モノマに3官能モノマを加えることにより、反応後の基材重量、伝導度ともに大きく増加することがわかる。
【0085】
【表3】

【0086】
(実施例6)
[1. 3成分(PPDSF:PPDSA:BTSA=1.5:1.5:1)反応による複合膜の作製]
BTSA1.873g、PPDSA2.764g、MeCN5.6mlを加えて攪拌した。そこにTEA7.213g、PPDSF5.634gを加え、さらに攪拌して均一なモノマ溶液とした。実施例1で作製したSO2NH2修飾膜(γ線照射量:30kGy)を容器内に入れて、MeCNを25ml注入し、10分超音波を照射した。MeCN19mlを除去した後に、調製したモノマ溶液を注入し、10分超音波照射した。50℃で120hr反応させ、さらに90℃で24hr加熱した。
得られた膜を、10vol%硫酸+90vol%EtOHで12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。次に、10vol%硫酸+45vol%EtOH+45vol%超純水で12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。さらに、10vol%硫酸+90vol%超純水で12hr攪拌(室温)、12hr浸漬(室温)した。超純水で12hr攪拌(室温)して水洗し、風乾して複合膜を得た。
【0087】
[2. 複合膜の評価]
得られた膜の25℃、RH20%での伝導度は、0.0075S/cm、重量増加は400%であった。代表的な電解質膜であるナフィオン(登録商標)112の25℃、RH20%での伝導度は、0.0025S/cmであることから、本実施例で得られた複合膜は、低湿において高い性能を示すことが分かった。
図5に、複合電解質膜のSEM写真を示す。FIB−SEM分析により、空孔内電解質が確認された。
【0088】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係る複合電解質及びその製造方法は、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜及びその製造方法として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】未処理膜、SO2(NH2)2、及び、実施例1で得られた修飾膜(γ線照射量:0.1〜100kGy)のIRスペクトルである。
【図2】図2(a)は、SO2Cl膜から得られる複合電解質膜の電気伝導度のγ線照射量依存性を示す図である。図2(b)は、SO2NH2膜から得られる複合電解質膜の電気伝導度のγ線照射量依存性を示す図である。
【図3】図3(a)は、モノマ反応により得られる複合電解質膜の電気伝導度のγ線照射量依存性を示す図である。図3(b)は、ポリマ反応により得られる複合電解質膜の電気伝導度のγ線照射量依存性を示す図である。
【図4】図4(a)は、SO2Cl膜(γ線照射量:5kGy)を用いて複合電解質膜を合成した時のIR変化を示す図である。図4(b)は、SO2NH2膜(γ線照射量:5kGy)を用いて複合電解質膜を合成した時のIR変化を示す図である。
【図5】実施例6で得られた複合電解質膜のSEM写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系多孔質基材の表面にスルホンアミド基若しくはその誘導体、又は、スルホニルハライド基若しくはその誘導体からなる反応性官能基Aを導入する修飾工程と、
前記炭化水素系多孔質基材に、前記反応性官能基Aと反応することによってスルホンイミド基を生成することが可能な反応性官能基Bを持つ電解質モノマ及び/又は電解質ポリマを充填し、前記反応性官能基Aと前記反応性官能基Bとを反応させる複合工程と
を備えた複合電解質の製造方法。
【請求項2】
前記電解質モノマは、以下の条件を満たすものからなる請求項1に記載の複合電解質の製造方法。
(1) 前記電解質モノマは、2個の前記反応性官能基A及び/又は前記反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 前記電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性官能基Aと、少なくとも2個の前記反応性官能基Bを含む。
【請求項3】
前記電解質モノマは、(1)式〜(4)式で表されるいずれか2種以上のモノマの混合物である請求項2に記載の複合電解質の製造方法。
【化1】

【請求項4】
前記電解質モノマは、以下の条件を満たすものからなる請求項1に記載の複合電解質の製造方法。
(1) 前記電解質モノマは、2個以上の前記反応性官能基A及び/又は前記反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 前記電解質モノマは、3個以上の前記反応性官能基A及び/又は前記反応性官能基Bを持つ、少なくとも1種のモノマを含む。
(3) 前記電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性官能基Aと、少なくとも2個の前記反応性官能基Bを含む。
【請求項5】
前記電解質モノマは、(1)式〜(4)式で表されるいずれか1種以上のモノマと、(5)式で表されるいずれか1種以上のモノマとの混合物である請求項4に記載の複合電解質の製造方法。
【化2】

【請求項6】
前記電解質ポリマは、以下の条件を満たす電解質モノマを重合させることにより得られるものからなる請求項1から5までのいずれかに記載の複合電解質の製造方法。
(1) 前記電解質モノマは、2個の前記反応性官能基A及び/又は前記反応性官能基Bを持つ、2種以上のモノマの混合物からなる。
(2) 前記電解質モノマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性官能基Aと、少なくとも2個の前記反応性官能基Bを含む。
【請求項7】
前記電解質モノマは、(1)式〜(4)式で表されるいずれか2種以上のモノマの混合物である請求項6に記載の複合電解質の製造方法。
【化3】

【請求項8】
請求項1から7までのいずれかに記載の方法により得られる複合電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−243511(P2008−243511A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80720(P2007−80720)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】