複同調スクロールコイル
【課題】分光法に好ましい、スクロール形状を示すサンプルコイルを提供する。
【解決手段】サンプルプローブおよび装置は磁気共鳴実験のために提供される。このプローブは少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。多重共振回路は、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。この装置は、スクロール構成を有するコイルを備えている。RF送信回路は、2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。RF受信回路は、励起に応答するRF信号を受信する。コイルは、RF周波数でサンプルと磁気的に結合される。
【解決手段】サンプルプローブおよび装置は磁気共鳴実験のために提供される。このプローブは少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。多重共振回路は、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。この装置は、スクロール構成を有するコイルを備えている。RF送信回路は、2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。RF受信回路は、励起に応答するRF信号を受信する。コイルは、RF周波数でサンプルと磁気的に結合される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法および顕微鏡法などの磁気共鳴に基づく技術による検体の研究に関する。より詳細には、本発明は、かかる技術における、検体を含むサンプルにRFエネルギーを伝達し、該サンプルからRFエネルギーを受け取るスクロールコイルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)に基づく研究は、サンプルがB1場よりはるかに強い(典型的に2桁以上)外部の静磁場B0にさらされる一方で、サンプルに対して無線周波数(RF)範囲(すなわち、約4〜900MHz)内で振動する磁場B1の適用を伴う。共鳴条件が満たされると、B1場によって引き起こされた比較的小さな周期的摂動が、電磁エネルギー伝達によりサンプル内のある特定の種類の核の正味磁化の配向に大きな変化を生じることがある。こうした現象が起きるのは、NMR活性原子核、すなわち、NMRに反応する核の種類にはスピンの基本特性があり、磁気双極子として動作することができるからである。スピンして電荷を有する原子核が、そのスピン軸に沿って配向される磁気モーメントを発生する。一般的に研究されるNMR活性原子核としては、1H(プロトン)、および13C(炭素13)、19F(フッ素19)、および31P(リン31)の同位元素があるが、これらに限定されない。このような原子核は、所与の瞬間に、2つの磁気量子状態、m=+1/2(低い方のエネルギー状態)、m=−1/2(高い方のエネルギー状態)、のうちの1つに存在することが観測され、したがって、スピンが半分の原子核(非ゼロ原子核スピンを備えた他の原子核であるが、ここでは、m≠±1/2であり、研究することも可能である。典型例として、2H、23Na、および14Nが挙げられる)と称される。この種類の原子核がB0場にさらされると、その磁気モーメントは、その磁気量子状態によってB0場の方向に対して2方向のうちの片方に配向されるようになる。正のγについて、m=+1/2に相当する低い方のエネルギー状態では、磁気モーメントはB0場に整列するのに対し、m=−1/2に相当する高い方のエネルギー状態では、磁気モーメントはB0場に逆らう。式ν0=(γB0)/2πによると、印加されたRFエネルギーの周波数がラーモア(または共鳴)周波数ν0またはこれに近い値であれば、B1場を適用することによって、エネルギー状態間で遷移が起こる。共鳴周波数またはこれに近い値で交番していて、サンプルを取り囲む送信器コイルを通って流れている電流によって、B1場を誘導することができる。したがって、共鳴周波数は、原子核の磁気回転比として知られる比例定数γに表されるように原子核の固有特性や偏向磁場B0の強度に依存する。異なる種類の原子核は、異なる磁気回転比を有するため、励起するには所定のB0場に対して異なる共鳴周波数が必要である。低いエネルギー状態から高いエネルギー状態への遷移は、原子核による電磁エネルギー、すなわち、エネルギーE=hν=hγB/2π(hはプランク定数)が、両状態間のエネルギー差と一致する光子の吸収に相当する。高いエネルギー状態から低いエネルギー状態への遷移は、原子核による電磁エネルギーの放射に相当する。
【0003】
適用されたB0場の存在下では、サンプル内のNMR活性原子核が低いエネルギー状態が優勢となるように配向されるため、電磁エネルギーが正味吸収される。正のγについては、原子核の磁気モーメント、すなわち、サンプルのバルク磁化による正味磁場は、適用されたB0場の方向に向いている。低いエネルギー状態における相対的に過剰な原子核はppm(百万分率)オーダーであり、ボルツマン統計から決定することができる。低いエネルギー状態から高いエネルギー状態へ遷移する原子核によって吸収されるエネルギーと、高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ同時に遷移する原子核によって放出されるエネルギーとの差は、NMR応答信号で表される。すなわち、NMR応答信号は2つのエネルギー状態間の分布差に比例する。事実、B1場は、磁化ベクトルがB0場の向けられる軸(通常、z軸とされる)から傾いて、軸の周りを歳差運動するような方法において適用される。この歳差運動は、サンプルを取り囲んでいる受信器コイル内に電流を誘導するものであり、パルスNMR技術においては、同様のコイルを受信器コイルにも送信器コイルにも用いることができる。コイルによって検出された電流、すなわちNMR応答信号は、増幅・処理されて、その周波数領域にNMRスペクトルを得ることができる。このスペクトルは1つ以上のピークから成り、そのピークの強度は、存在する各周波数成分の割合を表わす。低いエネルギー状態における過剰な数の原子核は、温度の低下と共に増加し、B0磁場強度が高まると共に、ボルツマン定数(e−ΔE/ΚΤ)の関数として増加する。したがって、所定の温度では、B0磁場強度が高まるにつれて、その過剰であることによって得られたNMR応答信号の強度が直線的に高まる。原子核がRFエネルギーを吸収できる周波数は、その局所的な化学的環境(例えば、電子および原子核の近傍)に影響される。通常研究される環境の影響として、原子核の周りにある電子の循環によって発生した付随的な磁場から発生する化学シフト、および近傍の原子核間の結合から発生するスピン−スピン分裂が挙げられる。したがって、NMRスペクトルは、対象となる化学種、生化学種、および生物学種における分子構造、位置および量を表す有益情報を提供することができる。
【0004】
今日のNMRシステムの多くは、B1場を提供するフーリエ変換(FT)NMRスペクトロメーター(分光器)およびB0場を提供する磁石を利用している。従来、電磁石および永久磁石を使用していたが、より強力(典型的に数テスラオーダー)であり、均一で、再生可能なB0場を発生させることができることから、超伝導電磁石が好適である。超伝導磁石は、典型的に、磁石ボアの周りに巻回されたソレノイドワイヤーと、超伝導に必要な臨界温度でこのワイヤーを維持するために液体ヘリウムヒートシンクおよび液体窒素ヒートシンクを使用するクライオスタット(低温保持装置)としての冷却システムとを含む。必要であれば、このシステムは、磁石によって発生したB0場におけるドリフトおよび不均一性を補償する部品を含むことができる。そのような部品は、ドリフト補償用の基準信号を生成するために重水素などの基準原子核を照射する場/周波数ロックシステムと、B0場における空間の不均一性を相殺するためのシムコイルとを含んでいてもよい。研究対象のNMR活性原子核を含むサンプルをサンプル容器内に保持し、このサンプルをB0場に浸漬できる磁石ボア内のサンプルプローブに取り付ける。スペクトロメーターのRF電子機器回路が、サンプルプローブに配置された送信器コイルへRFエネルギーを供給する。このRFエネルギーは、パルスの形態、すなわち、サンプルの種類および実験で選択したパラメータによって規定されるパルスが正確に制御されたシーケンスの形態で供給され、それによって、送信器コイルを誘導して適当なB1場を備えたサンプルを照射する。典型的には、印加されたRFパルスの方向は主要な磁場B0の方向に直交する。共鳴条件が所与の種類の原子核に対して満たされる場合、RFパルスは検出に十分な程度までその原子核を励起する。原子核は、パルス間の遅れ時間中に、自由誘導減衰(FID)信号として知られる、RF時間領域信号を発する。この信号は、励起された原子核が平衡状態に緩和されるように、その時間中に減衰する。別のコイルを用いてこのFID信号を検出することができるが、異なる時間間隔中に励起パルスおよびFIDが生じるため、サンプルプローブ内に含まれる単一コイルが、前述のように送信器としても受信器としても機能することができる。そして、フーリエ変換によって、研究者が解釈可能なNMRスペクトルを生じる周波数領域信号に時間領域信号を変換する。
【0005】
このサンプルコイルは、サンプルとNMRシステムとの間のパルス化したRF励起および検出信号の結合に対する直接のインタフェースとして機能するので、サンプルコイルの設計および性能は極めて重要であることが理解できる。これは、2つ以上の異なる原子核を別々に励起する2つ以上の共鳴周波数を伝達するように同調され得る、複同調(複数のチューニングが)可能な(または多重共鳴する)コイルの場合に特に当てはまる。すなわち、観測、減結合、偏極移行などの目的のために、異なる種類(例えば、1Hおよび13C)の原子核および/または化学的に同種の非等価な原子核が励起される、多重パルス技術、多核技術、および多次元技術に当てはまる。
【0006】
従来設計のコイルには、ソレノイドコイル、サドルコイル、ループ−ギャップ共振器、ヘルムホルツコイル、バードケージコイル、スロット付チューブ(例えば、オルダーマン−グラント型共振器)、およびこれらのコイルを2種類以上組み合わせたものが挙げられる。各種類の単一コイルおよび多重コイルの設計には長所および短所がある。したがって、性能に関連する様々な要因の兼ね合い(妥協点)は避けられないことが多かった。特定のコイル設計の利点および欠点の中には、下記非特許文献1で要約されているものもある。
【0007】
ソレノイドコイルは、望ましくない大量の熱エネルギーをそのコアに取り付けられたサンプルへ伝達しやすく、実際に、研究者が実施可能な実験、特に高い周波数で行う実験の範囲を制限している。サンプル加熱は、少なくとも部分的には、ソレノイドの構造がその縦方向の軸長に沿って、したがってサンプルの長手方向の軸長にも沿って電位差を印加することによって起こり得る。したがって、エネルギーを供給されたソレノイドコイルは、そのコア内にかなりの強度で非保存性の電界を生じる。コア内に挿入されたサンプルが、この電界にさらされる。サンプル加熱によって、熱に不安定なサンプルを破壊または少なくとも劣化させてしまう。さらに、ソレノイドコイルは、異なる原子核に対してB1場分布の整合を最適化するために、いわゆる「バラン(平衡不平衡変成器)」技術(例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る下記特許文献1参照)を必要としてきたにもかかわらず、波長の影響によって、高周波動作(典型的に1H)に対してB1場が小さくなってしまう。さらに、所与の大きさの従来設計のサンプルコイルはすべて、均一な領域が最良とは言い難いRF場を示す。これは、サンプルコイルによって照射されるサンプルの大きさが制限されることを意味することが多い。所与のコイルの大きさについては、大量のサンプルが場の均一な部分にさらされることがあれば、達成すべきものより感度が低い結果となる。さらに、多くの従来のサンプルコイルは、電界結合を最小限にするため、固有のインダクタンスが低くなるように設計されてきた。例として、ループ−ギャップ共振器およびオルダーマン−グラント型共振器がある。これらのコイルは、基本的に1重巻きに限定され、その結果、固定された、典型的に極めて低いインダクタンスとなっている。あいにく、この低いインダクタンスは、低周波の原子核にとって性能が不十分である。
【0008】
多重コイル(典型的に、2重コイルおよび3重コイル)の設計は、従来の単一コイル設計に伴う問題の多くに対処するために開発されたが、さらなる問題がある。明白な問題の一つは、サンプルプローブが2つ以上のサンプルコイルを収容しなければならないことに関するものであり、ゆえに、機械的および電気的問題を生じている。例えば、特に、角速度および/または回転角度が高精度でなければならない場合、サンプルを回転させる能力が必要なサンプルプローブの設計には機械的問題があり、また、振動による偽信号の発生および信頼性の問題も内在する。電気的問題には、様々なコイルまたはRF回路の他の部分の間の不要な結合を改善するという課題が含まれる。
【0009】
したがって、そうした欠点を無くす、または少なくとも減らすと共に、単一コイルおよび多重コイルの設計の利点を兼ね備えたサンプルコイルを提供することが望ましい。例えば、単一コイル設計のように比較的技術が単純であることに加え、比較的複雑な2重コイル設計でしか通常得られない電界結合が実質的に減少したサンプルコイルを提供することが望ましい。さらに、所与の物理的なコイルの大きさに対して、実質的により大きな均一な磁場を発生させ、また、極めて高い周波数であっても異なる原子核に対してB1場分布をよりよく整合させるサンプルコイルを提供することは有利であるのに対して、従来のソレノイド設計は、例えば、波長の影響によって制限され、2重コイル設計は、両コイルのそれぞれの大きさと形状寸法との間の根本的な違いによって制限される。さらに、本質的にサンプル加熱があまり発生しないサンプルコイルを提供することは有利であり、それによって、分析できるサンプルの種類の範囲が広がる。
【0010】
前述の問題のすべてもしくは一部、および/または当業者によって観察された他の問題に対処するため、以下に示す例示的な実施形態として記載されるように、本開示はスクロール形状を示すサンプルコイルを提供する。
【特許文献1】米国特許第6,380,742号明細書
【特許文献2】米国特許第5,170,120号明細書
【非特許文献1】Koskinen et al., “The Concentric Loop-Gap Resonator - A Compact, Broadly Tunable Design for NMR Applications,” J. Magnetic Resonance, 98, 576-588 (1992)
【非特許文献2】Gimi et al., “Investigation of NMR Signal-to-Noise Ratio for RF Scroll Microcoils”, 1st Annual International IEEE-EMBS Special Topic Conference on Microtechnologies in Medicine & Biology (October 12-14, 2000)
【非特許文献3】Wiltshire et al., “Microstructured Magnetic Materials for Radio Frequency Operation in Magnetic Resonance Imaging (MRI)”, Science (December 10, 2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
RF適用に対するスクロール形状の有用性は、限られた範囲内で、予備的に研究されてきた。上記非特許文献2の著者らは、500MHzで共鳴させるために同調および整合された手動巻回したスクロールコイルと、磁場強度が11.75TのNMR磁石と、90度パルスとを利用して、脱イオン水においてNMR分光法実験を行なった。これらの試験パラメータから、著者らが基本的な、単一共鳴プロトンNMR分光法の実験を行なったようである。さらに、著者らは、生じたスペクトル中に線の広がりが起きたことを報告しており、そのことから、スペクトル分解の考察がそれほど限定的でない映像法とは反照的に、現在のスクロールコイルは分光法には望ましくないという結論に至った。上記非特許文献3は、MRI実験におけるフラックスを誘導する媒体として「スイスロール」の束を用いて報告した。21.3MHzに同調したソレノイド検出コイルを、水ファントム直下に載置し、「スイスロール」の束をこの水ファントム上に載置し、画像化される対象物をこのスイスロールの束上に載置した。このようにして、「スイスロール」を用いて、ソレノイド検出コイルに対象物を結合した。送信コイルまたは受信コイルとして「スイスロール」構造それ自体が使用できるかもしれないという提案はなされなかった。
【0012】
したがって、磁気共鳴関連工程においてRF信号を送信および/または受信する改良されたコイル設計、特に、上述した1つ以上の欠点または当該技術における他の欠点を克服する設計が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一局面において、サンプルプローブが磁気共鳴実験に提供される。一実施形態によれば、このプローブは少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。多重共鳴回路は、コイルと通信して、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でRFエネルギーをコイルに伝達する。
【0014】
他の局面において、磁気共鳴装置が提供される。一実施形態によれば、この装置は少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。RF送信回路は、コイルと通信して、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。RF受信回路は、コイルと通信して、励起に応答するRF信号を受信する。
【0015】
他の局面において、RF周波数でサンプルと磁気的に結合するコイルが提供される。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。このスクロール構成を有する断面は、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる導電性材料からなる層を備えている。一実施形態において、この層は、中央部領域よりも両端部領域の方がより厚い。他の実施形態において、この層は両端部領域において折り重ねられてより厚くなっている。
【0016】
他の局面によれば、両端部領域がより厚くなっている層を備えたコイルが多重共鳴回路の一部となっている。
他の局面によれば、端部領域の少なくとも1つがより厚くなっている層を備えたコイルが、サンプルプローブ内に設けられている。
他の局面によれば、端部領域の少なくとも1つがより厚くなっている層を備えたコイルが、磁気共鳴装置内に設けられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
一般的に、「通信する(伝える)」(例えば、第1の部品が第2の部品と「通信する(伝える)」または「通信状態にある」)という用語は、本明細書において、2つ以上の部品または要素間の構造的、機能的、機械的、電気的、光学的、磁気的、または流体的関係を示すために用いられる。したがって、一つの部品が第2の部品と通信しているという事実は、さらなる部品が第1の部品と第2の部品との間に存在してもよく、かつ/または第1の部品と第2の部品との間に作用的に連動または係合されてもよい可能性を排除することを意図するものではない。
【0018】
本明細書に開示の主題は、一般的に、従来のソレノイド(すなわち、螺旋状)または他の形状に対して、コイル形状、より詳細には、スクロール形状を有する誘導共鳴器に関する。適当なRF回路と協働して、以下に記載のようにスクロールコイルが、NMRスペクトル中に分解され得る対象の検体を含んでいることが分かっている、または含んでいると疑われるサンプルに対してRF発振信号を送受信するために使用することができる。このスクロールコイルは、磁気共鳴技術に基づく機器内の従来のコイルと直接交換してもよく、従来のコイルよりも性能が向上する。実用においては、広範囲の多重パルス技術、多重共鳴技術、および多次元技術に適合する。スクロールコイルは、B1場発生装置として、低い周波数を含むRF周波数の広帯域に有効である。したがって、同スクロールコイルは、固体の実験を含むプロトンNMRおよび炭素13NMRのどちらの応用にも十分適している。スクロールコイルは、従来のコイルに比べて、サンプル加熱が実質的に減少し、さらに広範囲の分析材料、特に、タンパク質、酵素、およびペプチドなどの、熱に不安定な生体化合物についての磁気共鳴に基づく研究を可能にしている。スクロールコイルの実施形態と、関連機器、関連装置、および関連方法の例として、図1A〜図11を参照して以下により詳細に説明する。
【0019】
図1A〜図1Dは、1つの例示的な実施形態のスクロールコイル100の様々な図を示している。図1Cの軸方向端面図に最もよく示されるように、スクロールコイル100には、いくつか(1回以上)の回転部または巻き部Nによってスクロールコイル100の中央の縦軸106に巻回した導電性材料の少なくとも1つの平面体104(すなわち、シート、箔、層など)によって画成された、コイル状またはスクロール構成のセクション102が含まれる。その結果、スクロールセクション102は、コイル軸106を中心に周方向に延び、かつ、スクロールコイル100の軸方向両端部の間を縦方向に延びる、導電性材料からなる巻き部Nを含む。図1A〜図1Dに示す例には、6回転または6回巻きのスクロールコイル100が含まれるが、本開示は、一般的に、巻き数または部分的な巻き部Nによって制限されない。しかし、実際には、特定用途または動作パラメータに応じて巻き部Nの数の好ましい範囲を特定可能である。図示の例において、導電性材料は連続していて、コイル軸106を中心に同軸方向に延びる螺旋を形成している。コイル状の領域102の最内側の直径108が、スクロールコイル100による照射および/または検出のためにサンプルとこのサンプルを保持する任意のサンプル容器とを挿入できる、スクロールコイル100の開口したコア110を画成する。導電性材料の組成は、電流を導通し、コイルコア110に挿入されるサンプルへ分布するためのRF磁場を誘導するのに適した任意の材料でよい。適当な導電性材料として、銅を含んでいてもよいが、これに限定されるものではない。スクロールコイル100の隣接した巻き部Nの間にギャップ(間隙)または環状の間隔112が画成される。これらの環状の間隔112は、空隙でもよく、または固形誘電材料によって部分的または全体的に充填されていてもよい。図1Dに最もよく示されるように、スクロールコイル100は、最内側の巻き部116に隣接した導電性のリード要素114と、最外側の巻き部122に隣接した導電性のリード要素118とをさらに含んでもよい。導電性のリード要素114および118は、サンプルへのRF信号の送信および/またはサンプルからのRF信号の受信のために、スクロールコイル100と関連するRF回路との間の通信を提供する。導電性のリード要素114および118は、コイル状の領域102を作成するのに使用される材料からなる連続した層から形成されてもよい。
【0020】
現在のところ、スクロールコイル100は特定の組立方法によっては限定されておらず、したがって、当業者が適当であると見出した任意の組立方法を実施してもよい。コイルコア110は、例えば、巻枠の周りに導電性材料を巻回することにより画成してもよい。さらに、スクロールコイル100の巻き部Nの同心性、すなわち、隣接した巻き部N間の環状の間隔112を、各巻き部Nが他の巻き部Nと接触しないように維持することが望ましい。このために、製造時のコイル軸106に導電性材料を巻回する工程中に、少なくとも導電性材料用の支持材として機能する充填材を巻き部N間に含めることによって、環状の間隔Nを維持するのに役立てるのがよいと思われる。しかし、その充填材が保持されて誘電層として機能することが望ましくない場合、スクロールコイル100を形成した後に除去してもよい。スクロールコイル100の所望の大きさに応じて、周知の微細加工技術を用いてもよい。
【0021】
図2A〜図2Cは、コイル構成またはスクロール構成のセクション202における、また、主として、第1軸方向端部または縁部領域204および第2軸方向端部または縁部領域206での、図1A〜図1Dのスクロールコイル100とは異なるスクロールコイル200の一実施形態の他の例を示している。端部領域204および206では、端部領域204と端部領域206との間の中央部領域208における厚さと比較して、(コイル軸106に対する半径方向における)導電性材料の厚さは増加している。対称性を維持するために、スクロール形状の各巻き部Nに沿って厚さが増加された部分が存在するようにするのが有利である。端部領域204および206の材料の厚さを増加させるために、任意の適当な方法を用いてもよい。1つの非限定的な例として、片方または両方の端部領域204および206で厚さをほぼ2倍にするために、導電性材料の層がそれ自体の上に折り返されてもよい。これは、中央部の領域と比較して、厚さの増加した領域でコイル容積を減少させる効果がある。したがって、RF磁場は、コイル容積が減少する領域において増大する。図9に関連して後述されるように、スクロールコイル200の構成を利用して、スクロールコイル100の「平坦な」構成の一端または両端で観察される可能性のある、より低いRF磁界強度を補償してもよい。換言すれば、1巻き以上の巻き部Nの両端部を折り重ねることによって、全体的に、端から端までのRF場の均一性を向上できる。一実施形態において、折り重ねた後、材料の折り重なった部分と残り部分との間に空隙が存在してもよい。他の実施形態において、空隙は存在していない。
【0022】
図1A〜図2Cに関連した上述のスクロールコイル100および200などのスクロールコイルの実施形態が、従来設計のコイルよりも優れた効果を発揮する。ソレノイドコイルとは異なり、スクロールコイル100および200の構造は、サンプル内の非保存性の電界を実質的に減縮させる。スクロールコイル100および200では、コイルコア110内の電界強度は、0または0に近い。したがって、スクロールコイル100および200では、サンプル破壊の固有のリスクによって、ソレノイドコイル利用時に従来は利用できなかった分野の実験が、特に高い周波数で行うことができる。一例として、スクロールコイル100および200は、バイオソリッドを含む多種多様な生物学的サンプルに関する実験、例えば、極めて高いB0場での水和された高塩濃度(>200mM)下のタンパク質サンプルに関する研究に使用できる。さらに、アクティブなサンプル体積を充填する場合、スクロールコイル100および200の構造は、0.5%以下の共鳴周波数のシフトに役立っている。その上、RF回路Qは相対的に変化せず、偏位しても0.5%未満である。したがって、スクロールコイル100および200は、異なる種類のサンプル間の一定のRF回路性能を維持することができる。
【0023】
小型のスクロールコイル100および200は、小さな回転モジュール内に取り付けやすい。その上、例えば図4に示すように、スクロールコイル100および200によって誘導されたRF磁界B1は、ソレノイドコイルの場合のように縦方向のコイル軸106に沿って配向される。したがって、スクロールコイル100または200は、所与のサンプルプローブ内のソレノイドコイルと直接取り替えることができる。例えば、長さ6mm、線径1mmの標準サイズ3.2mmのソレノイドコイルは、ローターとコイルとの間のクリアランスを考慮して、外径が5mm〜6mmである。5回転スクロールコイルは、厚さ0.01mmの銅および厚さ0.011の誘電体(空気または固体)を考慮して、この長さ6mm、外径5mm〜6mmのソレノイドと直接取り替えることができる。
【0024】
さらに、スクロールコイル100および200の性能は、ソレノイドコイルの場合のように基本波長に影響されない。例えば、スクロールコイル100または200を用いると、例えば、交差分極(CP)実験において極めて重要なように、基本波長の影響によって、より高いB0磁場強度でのB1場の整合が損なわれることはない。これに対して、ソレノイドコイルは、場の整合を最適化するために、バラン技術(例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献1参照)を必要としてきたにもかかわらず、波長の影響によって、高周波動作(典型的に1H)に対してB1場が小さくなってしまう。
【0025】
さらに、スクロールコイル100および200は、本質的により大きな均一のRF場によって、所与の物理的なコイルの大きさに対してより大きいアクティブなサンプル体積に関する実験を可能にする。より大量のサンプルがアクティブなRF場に存在することができるので、より高い感度が得られる。さらに、MASプローブなど、サンプルを回転させることのできるサンプルプローブに対して、プローブのステーターのベアリング間の距離を減らすことができ、それによって所与のローターの直径に対する回転速度をより速くすることができる。
【0026】
さらに、スクロールコイル100および200の周波数効率は、従来のサンプルコイルに競合し得る程度に低い。スクロールコイル100および200は、インダクタンスが本質的に小さくはないため、そうした状態によって性能が制限されることはない。例えば、スクロールコイル100および200の効率は、1つまたは複数の低周波数チャネルによって駆動されると低下しない。したがって、スクロールコイル100および200は、コイルインダクタンスを最適化して、高周波数チャネルと低周波数チャネルとの間の性能バランスを達成できる。この局面において、スクロールコイル100および200の性能はソレノイドコイル構造と同等であるが、ソレノイドコイル設計に関連した欠点(その中には上述しているものもあるが)を伴わない。スクロールコイル100および200の低周波インダクタンスは、ソレノイドコイルの標準公式を用いることにより算出することができることに注意されたい。
L(inμH)=(R2*N2)/(9R+10*Le)
ここで、Rはコイルの半径、Nはスクロールコイルの巻き数(ソレノイドコイルの回転ではなく)、Leはコイルの長さである。
【0027】
さらに、スクロールコイル100および200を利用することで、多重コイル構成に伴う機械的および電気的問題を緩和または解消する。スクロールコイル100および200を利用すると、特に、MASの応用に極めて重要であるが、限られた空間をより効率よく使用でき、また、回路の様々な部分、(もしあれば)勾配コイルなどの間の結合が減少する。この結合の減少は、少なくとも部分的には、スクロールコイル100および200によって生ずる電界強度が本質的に低くなっていることによるものである。また、スクロールコイル100および200を利用すると、機械的信頼性が向上し、振動による偽信号が減少する。
【0028】
図1A〜図2Cに示すスクロールコイルによって構成されたスクロールコイルに関する実験結果は、図7〜図11に関連して後述する。
図3は、スクロールコイルおよび関連するサンプルプローブが動作し得るNMR装置またはシステム300などの磁気共鳴現象において動作する装置またはシステムの一例を示す簡略化した模式図である。このため、図1A〜図1Dに示すスクロールコイル100または図2A〜図2Cに示すスクロールコイル200に類似したスクロール形状を示すコイルを表すために、サンプルコイル310が図3〜図6に模式的に示されている。したがって、サンプルコイル310は、スクロールコイル100またはスクロールコイル200のいずれかを表わすものである。
【0029】
図3に示す例において、NMR装置300には、偏向磁場B0(図4)を維持するために磁石320が含まれている。研究対象のサンプル410(図4)は、このサンプル410をB0場にさらすことができるように磁石320のボア342内に位置したサンプルプローブ330に載置されている。サンプル410は、液相(粘性または非粘性)、半固相(例えばゲル)、固相(パウダーを含む)、または多相のサンプルでもよい。サンプルコイル310は液体NMRにも固体NMRにも使用できる。シムコイル344も、B0場における軽微な空間の不均一性を補償するために磁石ボア342内またはその近傍に載置されてもよい。
【0030】
サンプルプローブ330は、サンプルコイル310を支持する他、サンプル410を特定の配向に支持するなど(適用可能であれば、チューブまたはローターのようなサンプル410を保持する容器を含む)、いくつかの機能を実行するように構成されてもよい。サンプルコイル310は、RF磁場B1の励起場(図4)をサンプル410に送信し、RF検出信号をサンプル410から受信する。RF入力パルスまたはパルス列からB1場を生じ、入力パルス間の(遅れ)時間中にRF検出信号を受信する、フーリエ変換に基づいた実施形態において、単一サンプルコイル310を用いて送信機能および検出機能の両方を実行することは有利である。交差型コイルの構成として知られる他の態様において、送信機能および検出機能は、それぞれ独立したコイルによって実行することができる。しかし、多くの場合、より複雑な構成から生じる問題、および独立したコイル間における不要な結合または他の相互作用を抑制する必要から生じる問題によって、交差型コイル構成はあまり好まれない。いずれの場合も、少なくとも1つのサンプルコイル310は、上記のようなスクロール形状によって特徴づけられる。いくつかの実施形態において、サンプルプローブ330は、典型的に、RF入力信号をサンプルコイル310に供給し、応答のRF出力信号を受信して、サンプルコイル310に運ばせる電子機器回路の一部を含んでいる。この開示においては、サンプルプローブ330に組み込まれたRF回路部分は、同調可能な回路332として表される。さらに、スクロール形状を備えたサンプルコイル310は、複同調可能なまたは多重共鳴する、同調可能な回路332に適合する。
【0031】
NMR装置300はさらにRF送信回路350を含む。このRF送信回路350は、観測、減結合、反転分布、制御または基準信号の提供、または特定の実験のために指定される任意の他の機能のための所望のパラメータ(例えば、周波数、振幅、位相、パルス幅など)に応じて、RFエネルギーを生成して、RF励起信号をサンプルコイル310に供給するのに必要な部品、装置、および回路の任意の組み合わせを備えていてもよい。さらに、NMR装置300は、RF受信回路360を含む。このRF受信回路360は、研究下のサンプル410の1つ以上の属性を示す解釈しやすいスペクトルを生成するために、サンプルコイル310によって検出されたRF信号を受信し、これらの信号を処理するのに必要な部品、装置、および回路の任意の組み合わせを備えていてもよい。マルチプレクサー、ダイプレクサー、スイッチなどのような適当な能動または受動設計の送信器/受信器絶縁部品372が、一方の側のサンプルプローブ330ともう一方の側のRF送信回路350およびRF受信回路360との間に接続されてもよい。特に単一の送受信サンプルコイル310の場合、典型的に、送信器/受信器絶縁部品372を用いて、RF受信部品をRF送信部品と絶縁し、特に、RF受信回路360のより感度のよい検出要素をRF送信部品から供給される相対的により強度の大きい電源から保護する。NMR装置300は、ハードウェア部品(例えば、マイクロプロセッサ、メモリなど)および/またはソフトウェア部品を備える適当な形態であって、RF送信回路350、RF受信回路360、送信器/受信器絶縁部品372、および/またはサンプルプローブ330の内の1つ以上の部品と通信して、これら部品の様々な動作を制御する電子制御装置374を含んでいてもよい。電子制御装置374全体または一部が、NMR装置300のオペレータとのインターフェースとなるように、入出力周辺装置を備えたコンピューター(例えば、ワークステーション、コンソールなど)において具体化されてもよい。例えば、電子制御装置374は、実験から生じるNMRスペクトルの他に、同調および整合といった準備情報、スクリーン上のメニュー、およびオペレータにとって有用な他の情報を(例えば、表示画面、プリントアウトなどを介して)表す読み出しまたはディスプレイ装置376の動作を駆動してもよい。電子制御装置374は、キーボード、マウス、ライトペンなどの入力装置378からユーザー入力を受け付けてもよい。電子制御装置374は、研究者がスペクトルを解釈しやすくなる、メモリ内のデータ解析ソフトウェア、データベースなどを含んでいてもよい。
【0032】
上述のように、RF送信回路350は、RFエネルギーを生成し、サンプルコイル310へRF励起信号を供給するのに必要な部品、装置、および回路の任意の適当な組み合わせを含んでもよい。図3に示す例において、RF発生装置または周波数合成装置などのRFソース380が、その後必要に応じて変調することができるRF周波数の安定したソースを提供する。ソース信号は、一般的に382で図示され、RFソース380または電子制御装置374内部の水晶発振器から発せられてもよい。このソース信号は、必要に応じて、パルシング(脈動;例えば、ゲートまたはスイッチ)、減衰、移相などの機能の組み合わせを表すことができる変調回路384に供給されて、386に示すように、所望の振幅、遅れ、形状、位相などを有するRFパルスを生ずる。信号シーケンスは、例えば、変調器384が表す機能を制御するパルスプログラマ388によってプログラムされてもよい。パルスプログラマ388は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアにおいて具体化されてもよく、また、電子制御装置374の一部を構成するまたは独立した部品であってもよい。例えば、電子制御装置374のメモリに存在するパルスプログラムは、パルスプログラマ388にロードされ、次いでパルスプログラマ388によって実行されてもよい。パルスプログラマ388または電子制御装置374は、送信器/受信器絶縁部品372を制御して、送信器/受信器絶縁部品372のスイッチング機能を用いてパルスシーケンスを調整してもよい。増幅器390を用いて、RF送信回路350の信号出力を増強して、B1磁界強度を適切に設定することができる。得られたRF信号は、サンプルプローブ330に供給され、サンプル410の照射のためサンプルコイル310によって分配される(図4)。
【0033】
また、上述のように、RF受信回路360は、サンプルコイル310によって検出されたRF信号を受信し、これらの信号を有益情報に変換するのに必要な部品、装置、および回路の任意の適当な組み合わせも含むことができる。したがって、RF受信回路360は、例えば、RF受信器392、位相検波器394、およびフーリエ変換解析部品396を含むことができる。パルス間のサンプル410によって生ずるFID信号は、原子核が摂動後に平衡に向かう傾向がある周知の緩和機構の結果として、サンプルコイル310によって受信され、通常増幅されるか、またはRF受信器392によって処理され、位相検波器394に受け渡される。RF受信回路360の第1段階は、実際にサンプルプローブ330の回路332の一部である前置増幅器(図示しないが、好ましくは、低雑音増幅器、すなわちLNA)であってもよいことが分かる。当業者によって十分に理解されるように、位相検波器394は、RF信号を正確に処理するために、典型的に、二重平衡変調器(DBM)、フィルタ、増幅器、および90度移相器(フェーズシフタ)を含む直角位相構造など、感度および信号識別を向上させる高度な設計を有していてもよい。このために、RFソース380は、局部発振器として機能して、公知の方法で位相検波器394によって利用されるキャリア信号を提供してもよい。処理されたFID信号は、一般的に398で図示する、減衰する時間領域形状を有する。FID信号はデジタル化され、フーリエ変換解析部品396に入力されるが、このフーリエ変換解析部品396は、電子制御装置374において実行されるソフトウェアで具体化されてもよく、または独立した部品であってもよい。フーリエ変換解析部品396は、図3に読み出し/ディスプレイ部品376で示すスペクトル399によって表わされるように、時間領域FID信号を周波数領域信号に変換する。
【0034】
図4は、磁石320のコア342内のサンプルプローブ330内に保持されるサンプル410を模式的に図示する。サンプルプローブ330は、不均一性を均一化してスペクトルの線幅を狭めるために、その軸(本実施形態において、サンプル軸はコイル軸106と重なる)を中心にサンプル410を回転させる部品を含んでいてもよい。特に、固体サンプルについて、サンプルプローブ330は、マジック角度回転(MAS)を実行して、化学シフト異方性によるスペクトルの線の広がりを抑制するようにしてもよい。その場合には、サンプル410は、B0場の方向から(すなわち、Z軸に沿った方向から)マジック角θ54.7°(または54°44’)で軸106を中心に回転される。当業者によって十分に理解されるように、そのような回転部品はローター412を含んでおり、マジック角でサンプル410を保持する同じ構造であってもよく、または独立した部品であってもよい。他の回転関連部品は、図4に駆動装置414としてまとめて示され、ステーター、ステーターとローター412間の機械軸受または空気軸受、ローター412駆動用ガス駆動タービン、タコメーターまたはエンコーダー、および他の適当な関連する駆動および制御部品を含んでいてもよい。また、サンプルプローブ330は、勾配増強NMR分光法、拡散測定、またはNMR顕微鏡法などの目的のために、X軸、Y軸、およびZ軸に沿ってB0場において制御された勾配を生じる勾配コイル(図示せず)を含んでいてもよい。さらに、サンプルプローブ330は、実験中にサンプル410の温度を制御する部品(図示せず)を含んでいてもよく、この部品は可変温度(VT)技術に役立つ。
【0035】
サンプルプローブ330は、RF電力伝達を最大にするために、1つ以上の所望の共鳴条件にサンプルコイル310を同調させて、サンプルコイル310をRF回路の他のインピーダンスと整合させる電子機器回路と通信するサンプルコイル310を備える、同調可能な回路332を含んでいてもよい。簡略化された等価回路を描くことが可能であり、この回路では、サンプルコイル310をインダクタで表し、同調調整用可変コンデンサをこのインダクタと並列に接続し、整合調整用の別の可変コンデンサを、このインダクタとNMR装置300のRF送信回路350およびRF受信回路360と通信するノードとの間に直列に接続する(図3)。同調可能な回路332は、サンプルプローブ330の筐体内に組み込まれてもよく、また、サンプルに物理的に隣接していてもよいが、サンプルプローブ330内に含まれる任意の回転部品の性能を損なわない程度に十分遠く離れて位置させることが好ましい。スクロール構造を有するサンプルコイル310は、多重共鳴(例えば、2重共鳴、3重共鳴、4重共鳴、またはより一般的に、n重共鳴)実験用に構成された回路を支持するために複同調可能であってもよい。したがって、同調可能な回路332は、独立したチャネルH、F、X、Y...nで具体化されてもよく、各チャネルは、サンプルの特定の原子核を励起するのに必要な周波数でRFエネルギーを適切に転送するために、本質的に独立して整合および同調される。慣例により、Hは1H原子核(プロトン)を励起する高周波チャネルを、Fは19F原子核を励起するより低周波の(相対的にはまだ高周波であるが)チャネルを、XおよびYはより低い磁気回転比(例えば、13Cおよび31P)を有する原子核を励起するより低周波のチャネルを表す。
【0036】
2重共鳴(例えば、HX)回路500および3重共鳴(例えば、HXY)回路600の簡略化された模式図を、それぞれ図5および図6に示す。図5において、サンプルコイル310は、高周波(H)チャネルおよび低周波(X)チャネルと通信する。Hチャネルは、調整性を示す、大略的に矢印502で表される同調および整合(マッチング)回路と、高周波入力HFを受信するポート504とを含んでいる。一例として、ポート504は、50Ω同軸ケーブルなどのRF送信線と結合するコネクターであってもよい。Xチャネルは、大略的に矢印506で表わされる同調および整合回路と、低周波入力LFを受信するポート508とを含んでいる。図6において、サンプルコイル310は、同調/整合回路602、606と、LFポートおよびHFポート604、608とをそれぞれ含む高周波(H)チャネルおよび低周波(X)チャネルと通信する。サンプルコイル310は、さらに、同調および整合回路612と、中周波入力MFを受信するポート614とを含む中周波(Y)チャネルと通信する。3重共鳴回路600などの多重共鳴回路の構成に応じて、1つのチャネルを他のチャネルと分離するために1つ以上のトラップ回路、タンク回路などを要してもよい。図6の例に示すように、トラップ回路620は単に並列のLC回路として図示される。
【0037】
図5の2重共鳴回路500および図6の3重共鳴回路600は、さらなるチャネルを増やすためのプラットフォームを提供できることが理解されよう。さらに、図4〜図6に図示するRFチャネルの機能を実行するために、回路素子の様々な配置および組み合わせを提供できることが理解されよう。したがって、2重共鳴回路500、3重共鳴回路600、または他の多重共鳴回路に関するさらなる詳細は、当業者によく知られており、本開示において特定する必要はない。本開示のためには、図1A〜図1Dのスクロールコイル100または図2A〜図2Cのスクロールコイル200に対して図示するようなスクロール構成を有し、複同調して多重共鳴回路の動作を支持することができるサンプルコイル310を提供する能力に、より重要性があると考える。複同調性について、液体サンプルと固体サンプルとの両方にサンプルコイル310を使用して、多種多様な磁気共鳴に基づく公知の手順を実施することができる。スクロール形状を用いることで、サンプル加熱の減少および本開示の別の箇所にも記載した他の利点によって、より大きな分類のサンプルの種類を研究することが可能となる。
【0038】
多重共鳴回路と連携して、その複同調スクロール構成内のサンプルコイル310を駆動して、異なる種類のNMR活性原子核を、多核実験のように並行して励起するか、または異なる時間中に励起するかどちらでも可能である。異なる種類の原子核は、異なる共鳴周波数を有する任意の原子核をも包含し、異種核のスピン種(例えば1Hおよび13C)だけでなく、異なる局所的な化学的環境によって化学的に非等価であり、したがって異なる周波数で共鳴する同種核のスピン種をも含む。所与の実験において、チャネルを、応答信号を得るために核種を励起する観測チャネルとして機能させてもよい。すなわち、このチャネルを、様々な周知の技術にしたがって、同種核のスピン減結合、異種核のスピン減結合、または双極子減結合などにおいて選択された原子核を飽和または減結合するために用いてもよい。周波数の広帯域同調または選択同調(例えば、1H周波数と19F周波数との間での切替可能)用にチャネルを構成してもよい。
【0039】
したがって、スクロール形状で構成されたサンプルコイル310は、多種多様な多重パルス技術、多重共鳴技術、および多次元磁気共鳴技術に対応することが分かる。以下にサンプルコイル310の応用例を、これらの例がサンプルコイル310の潜在的な応用例を網羅するリストというわけではないという了解の下、いくつか簡単に要約する。
【0040】
上記のようなサンプルコイル310を備えた上記のようなサンプルプローブ330(例えば、図1A〜図1Dのスクロールコイル100および図2A〜図2Cのスクロールコイル200)が、ある原子核(例えば、13C)のスピン−格子緩和時間が(特に、固体サンプルにおいて)不必要に長い場合など、周知の交差分極技術に関連して用いられてもよい。典型的な交差分極実験の1つの非制限的な例において、パルスシーケンスを印加して、プロトンなどの高い磁気回転比γSの感度のよい(またはソースの)原子核(S)から13Cなどの相対的に低い磁気回転比γIの感度のない原子核(I)に磁化を移動させる。事実、ハルトマン=ハーン条件γSB1(S)=γIB1(I)によれば、原子核SおよびIのそれぞれのラーモア周波数は同一になる。固体NMR実験では、交差分極技術を、MAS技術(CP−MAS)、さらに双極子減結合とともに有利に用いることができる。さらに、例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献2に開示されるように、ローター同期CP−MAS技術を実行することにより、サンプルコイル310を備えたサンプルプローブ330を用いるCP−MAS実験を高度化してもよい。このような場合、サンプルプローブには、そのローターの位置をコード化するためにタコメーター(図示せず)が含まれる。タコメーターは、ローターの回転の測定速度を表すパルスタイミング信号を生じる。このタイミング信号は、交差分極を適用するのに用いられているサンプルプローブ330の1つ以上のチャネルに供給される。その結果、交差分極の効果に用いられた信号は、ローターの角速度と同期する繰り返し速度で振動(脈動)する。交差分極技術は、多次元NMR実験と関連して有用である。
【0041】
上記のような(図3)適当なNMR装置300内のサンプルプローブ330において、サンプルコイル310を用いて、様々な多次元実験(例えば、2次元および3次元)を実行することができる。2次元NMR実験では、例えば、ピークの強度を2つの周波数(例えば、F1およびF2)または2つの化学シフトパラメータ(例えば、δ1およびδ2)の関数としてプロットする等高線プロットであるスペクトルが典型的に得られる。検出された信号は、2つの時間変数t1およびt2の関数として記録され、その後、フーリエ変換を2回行い、2つの周波数変数の関数であるスペクトルを得る。特に、固体NMRの場合、通常、一般的なパルスシーケンスは、準備期、次いで展開期の時間の長さt1、次いで混合期、次いで検出期の時間の長さt2を含んでいると説明される。準備期間中に、サンプル内の所与の種類(例えば、1H)の原子核を、1つ以上のRFパルスによって非平衡状態に励起する。展開期間中に、生じた磁化を第1期t1中に展開させることができる。混合期間中に、1つ以上のRFパルスの別のセットを印加して、通常、励起した原子核から別の種類の原子核(例えば、13C)へコヒーレンスまたは分極を移動させる。検出期間中に、第2の種類の原子核からFID信号などの信号を、第2期間t2の関数として記録する。検出期間中に、RFエネルギーの減結合を第1の種類の原子核に適用して、同種核および/または異種核の相互作用を抑制する。その後、核スピンが平衡状態に戻り、t1を異なる値に設定し、シーケンスを繰り返し、その結果得られたデータを第1シーケンスのデータと別々に保存する。そのシーケンスを、展開時間間隔t1の値を増加させるために、十分なデータが記録されるまで繰り返す。サンプルコイル310を用いて実行が可能な周知の多次元NMR技術の例として、同種核J−分解法、異種核J−分解法、EXSY(交換分光法)またはNOESY(核オーバーハウザー効果、またはエンハンスメント、分光法)、COSY(同種核相関分光法)およびその変形(例えば、DQF COSY、すなわち2量子フィルタによる相関分光法、およびTQF COSY、すなわち、3量子フィルタによる相関分光法)、HETCOR(異種核相関分光法)、HMQC(異種核多重量子相関)、HSQC(異種核単一量子相関)、INEPT(感度の鈍い原子核を向上させる偏極移行)の2次元対等物、DEPT(無ひずみを向上させる偏極移行)、およびINADEQUATE(極端な天然存在度2量子移動実験)、ならびにこれらの方法の変形および組み合わせがあるが、これらに限定されない。また、サンプルコイル310を用いて、1Hおよび15N原子核上で動作する固体2次元、3次元、4次元、5次元PISEMA(マジック角での分極反転スピン交換)実験を実施して、PISA(極性指数傾斜角度)ホイールとして公知の特殊なホイール状のパターンを含む2次元スペクトルを得ることによって、膜輸送タンパク質を研究することができる。
実験結果
図1A〜図1Dのスクロールコイル100および図2A〜図2Cのスクロールコイル200に対して図示されるような形状を有するスクロールコイルを試験し、標準ソレノイドコイルと比較した。これらの試験結果から、スクロールコイルによって印加されたRF磁場の均一性は、ソレノイドコイルの均一性よりも高周波(例えば、1H)および低周波(例えば、X)の両方においてはるかに優れていることが分かる。後述のように、RF場プロットから、スクロールコイルがコイルの端から端まで軸方向に85%均一であるのに対して、ソレノイドはわずか60%均一であることが分かる。ソレノイドのRF磁場強度は、中央部で強く、端部で低くなっているのに対し、スクロールコイルは、アクティブなサンプル領域全体にわたって磁場が一致している。スクロールコイルは、低い方の周波数を高い方の周波数の約10%に設定して、二重共鳴モードで試験し、1HおよびXの周波数間に優れた(ほぼ100%)場の重なりを示した。さらに、スクロールコイルの両縁部を折り重ねることで、コイル巻き部間の間隔を広げてコイルの体積を増加させることによってRF場を調節し、それによって、コイルの中央部で磁場強度を減少させることが分かった。一方、縁部を折り重ねることは、コイルの端部の磁場強度に影響を与えないため、折り重ねることで、アクティブなサンプル領域の全体的な軸方向の均一性を向上させることができる。さらに、異なる共鳴周波数でのRF場の重なりおよびその均一性は、コイルの半径を変化させても変化しない。例えば、コイル長さを6mmに維持し、直径を2.5mm〜5mmで変動させると、1H−Xの重なりはほぼ100%で、試験したコイルすべての軸方向のRF均一性は80%であった。
【0042】
図7は、様々な比較試験をしたコイルの軸に沿う位置の関数として、標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。試験したソレノイドコイルは6回巻き構成で、試験したスクロールコイルは4.5巻き構成であった。場プロットと共に含まれる凡例が示すように、試験は、低周波(70MHz)および高周波(600MHz)に同調させたソレノイドコイル、および低周波(90MHz)および高周波(560MHz)に同調させたスクロールコイルに関して行なわれた。コイルのプロファイル/体積を示すカーブ、特に、コイル容積の軸方向端部を、理解しやすいように場プロットに重ね合わせている。図7は、スクロールコイルのRF均一性が、高周波数および低周波数の両方においてソレノイドコイルよりもはるかに優れていることを示している。具体的には、図7は、スクロールコイルでは、コイルの端から端まで85%均一であるのに対して、ソレノイドではわずか60%であることを示している。
【0043】
図8は、試験したコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。凡例が示すように、図8は、ソレノイド形状およびスクロール形状のコイルの、高周波数および低周波数の両方での比較データを示している。図8は、ソレノイドコイルのRF磁場強度が、その容積の中央部領域において17%高く、その容積の両端部において20%低いのに対して、スクロールコイルの磁場強度は、軸方向全長にわたって、はるかに一致していることを示している。
【0044】
図9および図10は、スクロールコイルの端部を折り重ねた効果を示す。図9は、様々な構成のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数として、標準化されたRF磁界強度をプロットしたものであり、図10は、コイル軸に沿った位置の関数として、絶対RF磁界強度をプロットしたものである。具体的には、平坦な導体構成、折り重なった導体構成、および折り重なり間隔の空いた導体構成(折り重なった部分と材料の残り部分との間に空隙が存在する前記実施形態を参照)を有するスクロールコイルを試験したものである。図9は、スクロールコイルの両端部を折り重ねることで、軸方向のRF均一性が約5%増加していることを示している。折り重なった両縁部は、コイルの両端部で局所的にRF場を増加させ、それによって、コイル内部の場プロファイルが平坦になり、RF場均一性が向上する。一方、図10は、スクロールコイルの両端部を折り重ねることで、実際にFR磁場強度が約10%減少しており、これは、中央部で巻き部間の間隔を広げることによってコイルの中央部の容積が大幅に縮小されるとともにコイル容積は増加するためであることを示している。両端部を折り重ねると、スクロールコイルの外径は、0.24インチ〜0.28インチ増加する。内部径は0.165インチのままであった。
【0045】
図11は、コイルの直径対コイル長さの比を変化させることによってRF均一性に対する影響を示すため、異なる直径のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。各コイルの長さは0.215インチである。2.5mmのコイルを低周波数(107MHz)および高周波数(670MHz)で試験し、3.2mmのコイルを低周波数(96MHz)および高周波数(520MHz)で試験した。当業界では一般的であるように、2.5mmおよび3.2mmの値は、実際にはサンプルホルダ(例えば、サンプルチューブ、またはこの場合、サンプルを回転させるローター)の外径である。コイル自体の内径は、サンプルホルダの外径より約0.5mm大きい。コイル直径対コイルの長さの比を変化させることに対する影響は小さく、両方のコイル直径の標準化された電界強度は、コイルの両端部で最大85%である。標準化されたプロットは、コイル長さ対直径の比を2.2〜1.7まで変化させても、RF均一性プロファイルは事実上変化しないことを示している。
【0046】
本開示の装置、機器、および方法は、一般的に前述されるようにNMR装置またはシステムにおいて実行することができ、図3に非限定的な例を示していることが理解されよう。図3に大略的に示す部品は、典型的にNMRスペクトロメーターに関する。しかし、本主題はNMR分光法に限定されるものではなく、むしろ前述したスクロールコイルおよび関連するサンプルプローブによって提供される利点を享受する可能性のある任意の装置またはシステムに及んでもよい。他の応用例として、NMR顕微鏡法(例えば、マイクロイメージング)およびより大規模な映像法(例えば、MRI)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、例示的な実施形態として、主にフーリエ変換(FT)NMRスペクトロメーターを用いた応用例に照らして前述したが、本主題は、連続波(CW)NMRスペクトロメーターなど他の種類のNMRスペクトロメーターに及んでもよい。更に、例示的な実施形態として、主に高分解能NMRスペクトロメーターを用いた応用例に照らして前述したが、本主題は、より典型的には、広幅NMRスペクトロメーターなどのより低分解能NMRスペクトロメーターと見なされる、他のNMRスペクトロメーターに及んでもよい。典型的には、そのようなより低分解能NMRスペクトロメーターは、1テスラの数十分の1オーダーの強度を有する偏向磁場B0で動作する。
【0047】
本発明の様々な局面または詳細は、本発明の範囲を逸脱することなく変更されてもよいことがさらに理解されよう。さらに、前述の記載は、単に説明のためのものであり、限定を目的とするものではなく、本発明は特許請求の範囲によって定義されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】本明細書に開示された実施形態によるスクロールコイルの斜視図である。
【図1B】図1Aに示すスクロールコイルの別の斜視図である。
【図1C】図1Aおよび図1Bに示すスクロールコイルの端面図である。
【図1D】図1A〜図1Cに示すスクロールコイルの側面図である。
【図2A】縁部または端部が折り重ねられた別の実施形態によるスクロールコイルの斜視図である。
【図2B】図2Aに示すスクロールコイルの別の斜視図である。
【図2C】スクロールコイルのコア内部の位置から見た図2Aおよび図2Bに示すスクロールコイルを破断して示す図である。
【図3】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが動作できる、磁気共鳴に基づく装置またはシステムの一例を表す模式図である。
【図4】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが動作できるサンプルプローブの特徴を表す模式図である。
【図5】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが一部を形成することができる、2重共鳴RF回路の一例を表す模式図である。
【図6】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが一部を形成することができる、3重共鳴RF回路の一例を表す模式図である。
【図7】様々な比較試験をしたコイルの軸に沿う位置の関数として標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。
【図8】試験したコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。
【図9】様々な構成のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数として標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。
【図10】コイル軸に沿う位置の関数として絶対RF磁界強度をプロットしたものである。
【図11】様々なスクロールコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法および顕微鏡法などの磁気共鳴に基づく技術による検体の研究に関する。より詳細には、本発明は、かかる技術における、検体を含むサンプルにRFエネルギーを伝達し、該サンプルからRFエネルギーを受け取るスクロールコイルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴(NMR)に基づく研究は、サンプルがB1場よりはるかに強い(典型的に2桁以上)外部の静磁場B0にさらされる一方で、サンプルに対して無線周波数(RF)範囲(すなわち、約4〜900MHz)内で振動する磁場B1の適用を伴う。共鳴条件が満たされると、B1場によって引き起こされた比較的小さな周期的摂動が、電磁エネルギー伝達によりサンプル内のある特定の種類の核の正味磁化の配向に大きな変化を生じることがある。こうした現象が起きるのは、NMR活性原子核、すなわち、NMRに反応する核の種類にはスピンの基本特性があり、磁気双極子として動作することができるからである。スピンして電荷を有する原子核が、そのスピン軸に沿って配向される磁気モーメントを発生する。一般的に研究されるNMR活性原子核としては、1H(プロトン)、および13C(炭素13)、19F(フッ素19)、および31P(リン31)の同位元素があるが、これらに限定されない。このような原子核は、所与の瞬間に、2つの磁気量子状態、m=+1/2(低い方のエネルギー状態)、m=−1/2(高い方のエネルギー状態)、のうちの1つに存在することが観測され、したがって、スピンが半分の原子核(非ゼロ原子核スピンを備えた他の原子核であるが、ここでは、m≠±1/2であり、研究することも可能である。典型例として、2H、23Na、および14Nが挙げられる)と称される。この種類の原子核がB0場にさらされると、その磁気モーメントは、その磁気量子状態によってB0場の方向に対して2方向のうちの片方に配向されるようになる。正のγについて、m=+1/2に相当する低い方のエネルギー状態では、磁気モーメントはB0場に整列するのに対し、m=−1/2に相当する高い方のエネルギー状態では、磁気モーメントはB0場に逆らう。式ν0=(γB0)/2πによると、印加されたRFエネルギーの周波数がラーモア(または共鳴)周波数ν0またはこれに近い値であれば、B1場を適用することによって、エネルギー状態間で遷移が起こる。共鳴周波数またはこれに近い値で交番していて、サンプルを取り囲む送信器コイルを通って流れている電流によって、B1場を誘導することができる。したがって、共鳴周波数は、原子核の磁気回転比として知られる比例定数γに表されるように原子核の固有特性や偏向磁場B0の強度に依存する。異なる種類の原子核は、異なる磁気回転比を有するため、励起するには所定のB0場に対して異なる共鳴周波数が必要である。低いエネルギー状態から高いエネルギー状態への遷移は、原子核による電磁エネルギー、すなわち、エネルギーE=hν=hγB/2π(hはプランク定数)が、両状態間のエネルギー差と一致する光子の吸収に相当する。高いエネルギー状態から低いエネルギー状態への遷移は、原子核による電磁エネルギーの放射に相当する。
【0003】
適用されたB0場の存在下では、サンプル内のNMR活性原子核が低いエネルギー状態が優勢となるように配向されるため、電磁エネルギーが正味吸収される。正のγについては、原子核の磁気モーメント、すなわち、サンプルのバルク磁化による正味磁場は、適用されたB0場の方向に向いている。低いエネルギー状態における相対的に過剰な原子核はppm(百万分率)オーダーであり、ボルツマン統計から決定することができる。低いエネルギー状態から高いエネルギー状態へ遷移する原子核によって吸収されるエネルギーと、高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へ同時に遷移する原子核によって放出されるエネルギーとの差は、NMR応答信号で表される。すなわち、NMR応答信号は2つのエネルギー状態間の分布差に比例する。事実、B1場は、磁化ベクトルがB0場の向けられる軸(通常、z軸とされる)から傾いて、軸の周りを歳差運動するような方法において適用される。この歳差運動は、サンプルを取り囲んでいる受信器コイル内に電流を誘導するものであり、パルスNMR技術においては、同様のコイルを受信器コイルにも送信器コイルにも用いることができる。コイルによって検出された電流、すなわちNMR応答信号は、増幅・処理されて、その周波数領域にNMRスペクトルを得ることができる。このスペクトルは1つ以上のピークから成り、そのピークの強度は、存在する各周波数成分の割合を表わす。低いエネルギー状態における過剰な数の原子核は、温度の低下と共に増加し、B0磁場強度が高まると共に、ボルツマン定数(e−ΔE/ΚΤ)の関数として増加する。したがって、所定の温度では、B0磁場強度が高まるにつれて、その過剰であることによって得られたNMR応答信号の強度が直線的に高まる。原子核がRFエネルギーを吸収できる周波数は、その局所的な化学的環境(例えば、電子および原子核の近傍)に影響される。通常研究される環境の影響として、原子核の周りにある電子の循環によって発生した付随的な磁場から発生する化学シフト、および近傍の原子核間の結合から発生するスピン−スピン分裂が挙げられる。したがって、NMRスペクトルは、対象となる化学種、生化学種、および生物学種における分子構造、位置および量を表す有益情報を提供することができる。
【0004】
今日のNMRシステムの多くは、B1場を提供するフーリエ変換(FT)NMRスペクトロメーター(分光器)およびB0場を提供する磁石を利用している。従来、電磁石および永久磁石を使用していたが、より強力(典型的に数テスラオーダー)であり、均一で、再生可能なB0場を発生させることができることから、超伝導電磁石が好適である。超伝導磁石は、典型的に、磁石ボアの周りに巻回されたソレノイドワイヤーと、超伝導に必要な臨界温度でこのワイヤーを維持するために液体ヘリウムヒートシンクおよび液体窒素ヒートシンクを使用するクライオスタット(低温保持装置)としての冷却システムとを含む。必要であれば、このシステムは、磁石によって発生したB0場におけるドリフトおよび不均一性を補償する部品を含むことができる。そのような部品は、ドリフト補償用の基準信号を生成するために重水素などの基準原子核を照射する場/周波数ロックシステムと、B0場における空間の不均一性を相殺するためのシムコイルとを含んでいてもよい。研究対象のNMR活性原子核を含むサンプルをサンプル容器内に保持し、このサンプルをB0場に浸漬できる磁石ボア内のサンプルプローブに取り付ける。スペクトロメーターのRF電子機器回路が、サンプルプローブに配置された送信器コイルへRFエネルギーを供給する。このRFエネルギーは、パルスの形態、すなわち、サンプルの種類および実験で選択したパラメータによって規定されるパルスが正確に制御されたシーケンスの形態で供給され、それによって、送信器コイルを誘導して適当なB1場を備えたサンプルを照射する。典型的には、印加されたRFパルスの方向は主要な磁場B0の方向に直交する。共鳴条件が所与の種類の原子核に対して満たされる場合、RFパルスは検出に十分な程度までその原子核を励起する。原子核は、パルス間の遅れ時間中に、自由誘導減衰(FID)信号として知られる、RF時間領域信号を発する。この信号は、励起された原子核が平衡状態に緩和されるように、その時間中に減衰する。別のコイルを用いてこのFID信号を検出することができるが、異なる時間間隔中に励起パルスおよびFIDが生じるため、サンプルプローブ内に含まれる単一コイルが、前述のように送信器としても受信器としても機能することができる。そして、フーリエ変換によって、研究者が解釈可能なNMRスペクトルを生じる周波数領域信号に時間領域信号を変換する。
【0005】
このサンプルコイルは、サンプルとNMRシステムとの間のパルス化したRF励起および検出信号の結合に対する直接のインタフェースとして機能するので、サンプルコイルの設計および性能は極めて重要であることが理解できる。これは、2つ以上の異なる原子核を別々に励起する2つ以上の共鳴周波数を伝達するように同調され得る、複同調(複数のチューニングが)可能な(または多重共鳴する)コイルの場合に特に当てはまる。すなわち、観測、減結合、偏極移行などの目的のために、異なる種類(例えば、1Hおよび13C)の原子核および/または化学的に同種の非等価な原子核が励起される、多重パルス技術、多核技術、および多次元技術に当てはまる。
【0006】
従来設計のコイルには、ソレノイドコイル、サドルコイル、ループ−ギャップ共振器、ヘルムホルツコイル、バードケージコイル、スロット付チューブ(例えば、オルダーマン−グラント型共振器)、およびこれらのコイルを2種類以上組み合わせたものが挙げられる。各種類の単一コイルおよび多重コイルの設計には長所および短所がある。したがって、性能に関連する様々な要因の兼ね合い(妥協点)は避けられないことが多かった。特定のコイル設計の利点および欠点の中には、下記非特許文献1で要約されているものもある。
【0007】
ソレノイドコイルは、望ましくない大量の熱エネルギーをそのコアに取り付けられたサンプルへ伝達しやすく、実際に、研究者が実施可能な実験、特に高い周波数で行う実験の範囲を制限している。サンプル加熱は、少なくとも部分的には、ソレノイドの構造がその縦方向の軸長に沿って、したがってサンプルの長手方向の軸長にも沿って電位差を印加することによって起こり得る。したがって、エネルギーを供給されたソレノイドコイルは、そのコア内にかなりの強度で非保存性の電界を生じる。コア内に挿入されたサンプルが、この電界にさらされる。サンプル加熱によって、熱に不安定なサンプルを破壊または少なくとも劣化させてしまう。さらに、ソレノイドコイルは、異なる原子核に対してB1場分布の整合を最適化するために、いわゆる「バラン(平衡不平衡変成器)」技術(例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る下記特許文献1参照)を必要としてきたにもかかわらず、波長の影響によって、高周波動作(典型的に1H)に対してB1場が小さくなってしまう。さらに、所与の大きさの従来設計のサンプルコイルはすべて、均一な領域が最良とは言い難いRF場を示す。これは、サンプルコイルによって照射されるサンプルの大きさが制限されることを意味することが多い。所与のコイルの大きさについては、大量のサンプルが場の均一な部分にさらされることがあれば、達成すべきものより感度が低い結果となる。さらに、多くの従来のサンプルコイルは、電界結合を最小限にするため、固有のインダクタンスが低くなるように設計されてきた。例として、ループ−ギャップ共振器およびオルダーマン−グラント型共振器がある。これらのコイルは、基本的に1重巻きに限定され、その結果、固定された、典型的に極めて低いインダクタンスとなっている。あいにく、この低いインダクタンスは、低周波の原子核にとって性能が不十分である。
【0008】
多重コイル(典型的に、2重コイルおよび3重コイル)の設計は、従来の単一コイル設計に伴う問題の多くに対処するために開発されたが、さらなる問題がある。明白な問題の一つは、サンプルプローブが2つ以上のサンプルコイルを収容しなければならないことに関するものであり、ゆえに、機械的および電気的問題を生じている。例えば、特に、角速度および/または回転角度が高精度でなければならない場合、サンプルを回転させる能力が必要なサンプルプローブの設計には機械的問題があり、また、振動による偽信号の発生および信頼性の問題も内在する。電気的問題には、様々なコイルまたはRF回路の他の部分の間の不要な結合を改善するという課題が含まれる。
【0009】
したがって、そうした欠点を無くす、または少なくとも減らすと共に、単一コイルおよび多重コイルの設計の利点を兼ね備えたサンプルコイルを提供することが望ましい。例えば、単一コイル設計のように比較的技術が単純であることに加え、比較的複雑な2重コイル設計でしか通常得られない電界結合が実質的に減少したサンプルコイルを提供することが望ましい。さらに、所与の物理的なコイルの大きさに対して、実質的により大きな均一な磁場を発生させ、また、極めて高い周波数であっても異なる原子核に対してB1場分布をよりよく整合させるサンプルコイルを提供することは有利であるのに対して、従来のソレノイド設計は、例えば、波長の影響によって制限され、2重コイル設計は、両コイルのそれぞれの大きさと形状寸法との間の根本的な違いによって制限される。さらに、本質的にサンプル加熱があまり発生しないサンプルコイルを提供することは有利であり、それによって、分析できるサンプルの種類の範囲が広がる。
【0010】
前述の問題のすべてもしくは一部、および/または当業者によって観察された他の問題に対処するため、以下に示す例示的な実施形態として記載されるように、本開示はスクロール形状を示すサンプルコイルを提供する。
【特許文献1】米国特許第6,380,742号明細書
【特許文献2】米国特許第5,170,120号明細書
【非特許文献1】Koskinen et al., “The Concentric Loop-Gap Resonator - A Compact, Broadly Tunable Design for NMR Applications,” J. Magnetic Resonance, 98, 576-588 (1992)
【非特許文献2】Gimi et al., “Investigation of NMR Signal-to-Noise Ratio for RF Scroll Microcoils”, 1st Annual International IEEE-EMBS Special Topic Conference on Microtechnologies in Medicine & Biology (October 12-14, 2000)
【非特許文献3】Wiltshire et al., “Microstructured Magnetic Materials for Radio Frequency Operation in Magnetic Resonance Imaging (MRI)”, Science (December 10, 2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
RF適用に対するスクロール形状の有用性は、限られた範囲内で、予備的に研究されてきた。上記非特許文献2の著者らは、500MHzで共鳴させるために同調および整合された手動巻回したスクロールコイルと、磁場強度が11.75TのNMR磁石と、90度パルスとを利用して、脱イオン水においてNMR分光法実験を行なった。これらの試験パラメータから、著者らが基本的な、単一共鳴プロトンNMR分光法の実験を行なったようである。さらに、著者らは、生じたスペクトル中に線の広がりが起きたことを報告しており、そのことから、スペクトル分解の考察がそれほど限定的でない映像法とは反照的に、現在のスクロールコイルは分光法には望ましくないという結論に至った。上記非特許文献3は、MRI実験におけるフラックスを誘導する媒体として「スイスロール」の束を用いて報告した。21.3MHzに同調したソレノイド検出コイルを、水ファントム直下に載置し、「スイスロール」の束をこの水ファントム上に載置し、画像化される対象物をこのスイスロールの束上に載置した。このようにして、「スイスロール」を用いて、ソレノイド検出コイルに対象物を結合した。送信コイルまたは受信コイルとして「スイスロール」構造それ自体が使用できるかもしれないという提案はなされなかった。
【0012】
したがって、磁気共鳴関連工程においてRF信号を送信および/または受信する改良されたコイル設計、特に、上述した1つ以上の欠点または当該技術における他の欠点を克服する設計が引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の一局面において、サンプルプローブが磁気共鳴実験に提供される。一実施形態によれば、このプローブは少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。多重共鳴回路は、コイルと通信して、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でRFエネルギーをコイルに伝達する。
【0014】
他の局面において、磁気共鳴装置が提供される。一実施形態によれば、この装置は少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルを備えている。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。RF送信回路は、コイルと通信して、サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でコイルにRFエネルギーを伝達する。RF受信回路は、コイルと通信して、励起に応答するRF信号を受信する。
【0015】
他の局面において、RF周波数でサンプルと磁気的に結合するコイルが提供される。このコイルは、スクロール構成を有する断面を備え、サンプルを挿入できるコアを画成している。このスクロール構成を有する断面は、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる導電性材料からなる層を備えている。一実施形態において、この層は、中央部領域よりも両端部領域の方がより厚い。他の実施形態において、この層は両端部領域において折り重ねられてより厚くなっている。
【0016】
他の局面によれば、両端部領域がより厚くなっている層を備えたコイルが多重共鳴回路の一部となっている。
他の局面によれば、端部領域の少なくとも1つがより厚くなっている層を備えたコイルが、サンプルプローブ内に設けられている。
他の局面によれば、端部領域の少なくとも1つがより厚くなっている層を備えたコイルが、磁気共鳴装置内に設けられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
一般的に、「通信する(伝える)」(例えば、第1の部品が第2の部品と「通信する(伝える)」または「通信状態にある」)という用語は、本明細書において、2つ以上の部品または要素間の構造的、機能的、機械的、電気的、光学的、磁気的、または流体的関係を示すために用いられる。したがって、一つの部品が第2の部品と通信しているという事実は、さらなる部品が第1の部品と第2の部品との間に存在してもよく、かつ/または第1の部品と第2の部品との間に作用的に連動または係合されてもよい可能性を排除することを意図するものではない。
【0018】
本明細書に開示の主題は、一般的に、従来のソレノイド(すなわち、螺旋状)または他の形状に対して、コイル形状、より詳細には、スクロール形状を有する誘導共鳴器に関する。適当なRF回路と協働して、以下に記載のようにスクロールコイルが、NMRスペクトル中に分解され得る対象の検体を含んでいることが分かっている、または含んでいると疑われるサンプルに対してRF発振信号を送受信するために使用することができる。このスクロールコイルは、磁気共鳴技術に基づく機器内の従来のコイルと直接交換してもよく、従来のコイルよりも性能が向上する。実用においては、広範囲の多重パルス技術、多重共鳴技術、および多次元技術に適合する。スクロールコイルは、B1場発生装置として、低い周波数を含むRF周波数の広帯域に有効である。したがって、同スクロールコイルは、固体の実験を含むプロトンNMRおよび炭素13NMRのどちらの応用にも十分適している。スクロールコイルは、従来のコイルに比べて、サンプル加熱が実質的に減少し、さらに広範囲の分析材料、特に、タンパク質、酵素、およびペプチドなどの、熱に不安定な生体化合物についての磁気共鳴に基づく研究を可能にしている。スクロールコイルの実施形態と、関連機器、関連装置、および関連方法の例として、図1A〜図11を参照して以下により詳細に説明する。
【0019】
図1A〜図1Dは、1つの例示的な実施形態のスクロールコイル100の様々な図を示している。図1Cの軸方向端面図に最もよく示されるように、スクロールコイル100には、いくつか(1回以上)の回転部または巻き部Nによってスクロールコイル100の中央の縦軸106に巻回した導電性材料の少なくとも1つの平面体104(すなわち、シート、箔、層など)によって画成された、コイル状またはスクロール構成のセクション102が含まれる。その結果、スクロールセクション102は、コイル軸106を中心に周方向に延び、かつ、スクロールコイル100の軸方向両端部の間を縦方向に延びる、導電性材料からなる巻き部Nを含む。図1A〜図1Dに示す例には、6回転または6回巻きのスクロールコイル100が含まれるが、本開示は、一般的に、巻き数または部分的な巻き部Nによって制限されない。しかし、実際には、特定用途または動作パラメータに応じて巻き部Nの数の好ましい範囲を特定可能である。図示の例において、導電性材料は連続していて、コイル軸106を中心に同軸方向に延びる螺旋を形成している。コイル状の領域102の最内側の直径108が、スクロールコイル100による照射および/または検出のためにサンプルとこのサンプルを保持する任意のサンプル容器とを挿入できる、スクロールコイル100の開口したコア110を画成する。導電性材料の組成は、電流を導通し、コイルコア110に挿入されるサンプルへ分布するためのRF磁場を誘導するのに適した任意の材料でよい。適当な導電性材料として、銅を含んでいてもよいが、これに限定されるものではない。スクロールコイル100の隣接した巻き部Nの間にギャップ(間隙)または環状の間隔112が画成される。これらの環状の間隔112は、空隙でもよく、または固形誘電材料によって部分的または全体的に充填されていてもよい。図1Dに最もよく示されるように、スクロールコイル100は、最内側の巻き部116に隣接した導電性のリード要素114と、最外側の巻き部122に隣接した導電性のリード要素118とをさらに含んでもよい。導電性のリード要素114および118は、サンプルへのRF信号の送信および/またはサンプルからのRF信号の受信のために、スクロールコイル100と関連するRF回路との間の通信を提供する。導電性のリード要素114および118は、コイル状の領域102を作成するのに使用される材料からなる連続した層から形成されてもよい。
【0020】
現在のところ、スクロールコイル100は特定の組立方法によっては限定されておらず、したがって、当業者が適当であると見出した任意の組立方法を実施してもよい。コイルコア110は、例えば、巻枠の周りに導電性材料を巻回することにより画成してもよい。さらに、スクロールコイル100の巻き部Nの同心性、すなわち、隣接した巻き部N間の環状の間隔112を、各巻き部Nが他の巻き部Nと接触しないように維持することが望ましい。このために、製造時のコイル軸106に導電性材料を巻回する工程中に、少なくとも導電性材料用の支持材として機能する充填材を巻き部N間に含めることによって、環状の間隔Nを維持するのに役立てるのがよいと思われる。しかし、その充填材が保持されて誘電層として機能することが望ましくない場合、スクロールコイル100を形成した後に除去してもよい。スクロールコイル100の所望の大きさに応じて、周知の微細加工技術を用いてもよい。
【0021】
図2A〜図2Cは、コイル構成またはスクロール構成のセクション202における、また、主として、第1軸方向端部または縁部領域204および第2軸方向端部または縁部領域206での、図1A〜図1Dのスクロールコイル100とは異なるスクロールコイル200の一実施形態の他の例を示している。端部領域204および206では、端部領域204と端部領域206との間の中央部領域208における厚さと比較して、(コイル軸106に対する半径方向における)導電性材料の厚さは増加している。対称性を維持するために、スクロール形状の各巻き部Nに沿って厚さが増加された部分が存在するようにするのが有利である。端部領域204および206の材料の厚さを増加させるために、任意の適当な方法を用いてもよい。1つの非限定的な例として、片方または両方の端部領域204および206で厚さをほぼ2倍にするために、導電性材料の層がそれ自体の上に折り返されてもよい。これは、中央部の領域と比較して、厚さの増加した領域でコイル容積を減少させる効果がある。したがって、RF磁場は、コイル容積が減少する領域において増大する。図9に関連して後述されるように、スクロールコイル200の構成を利用して、スクロールコイル100の「平坦な」構成の一端または両端で観察される可能性のある、より低いRF磁界強度を補償してもよい。換言すれば、1巻き以上の巻き部Nの両端部を折り重ねることによって、全体的に、端から端までのRF場の均一性を向上できる。一実施形態において、折り重ねた後、材料の折り重なった部分と残り部分との間に空隙が存在してもよい。他の実施形態において、空隙は存在していない。
【0022】
図1A〜図2Cに関連した上述のスクロールコイル100および200などのスクロールコイルの実施形態が、従来設計のコイルよりも優れた効果を発揮する。ソレノイドコイルとは異なり、スクロールコイル100および200の構造は、サンプル内の非保存性の電界を実質的に減縮させる。スクロールコイル100および200では、コイルコア110内の電界強度は、0または0に近い。したがって、スクロールコイル100および200では、サンプル破壊の固有のリスクによって、ソレノイドコイル利用時に従来は利用できなかった分野の実験が、特に高い周波数で行うことができる。一例として、スクロールコイル100および200は、バイオソリッドを含む多種多様な生物学的サンプルに関する実験、例えば、極めて高いB0場での水和された高塩濃度(>200mM)下のタンパク質サンプルに関する研究に使用できる。さらに、アクティブなサンプル体積を充填する場合、スクロールコイル100および200の構造は、0.5%以下の共鳴周波数のシフトに役立っている。その上、RF回路Qは相対的に変化せず、偏位しても0.5%未満である。したがって、スクロールコイル100および200は、異なる種類のサンプル間の一定のRF回路性能を維持することができる。
【0023】
小型のスクロールコイル100および200は、小さな回転モジュール内に取り付けやすい。その上、例えば図4に示すように、スクロールコイル100および200によって誘導されたRF磁界B1は、ソレノイドコイルの場合のように縦方向のコイル軸106に沿って配向される。したがって、スクロールコイル100または200は、所与のサンプルプローブ内のソレノイドコイルと直接取り替えることができる。例えば、長さ6mm、線径1mmの標準サイズ3.2mmのソレノイドコイルは、ローターとコイルとの間のクリアランスを考慮して、外径が5mm〜6mmである。5回転スクロールコイルは、厚さ0.01mmの銅および厚さ0.011の誘電体(空気または固体)を考慮して、この長さ6mm、外径5mm〜6mmのソレノイドと直接取り替えることができる。
【0024】
さらに、スクロールコイル100および200の性能は、ソレノイドコイルの場合のように基本波長に影響されない。例えば、スクロールコイル100または200を用いると、例えば、交差分極(CP)実験において極めて重要なように、基本波長の影響によって、より高いB0磁場強度でのB1場の整合が損なわれることはない。これに対して、ソレノイドコイルは、場の整合を最適化するために、バラン技術(例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献1参照)を必要としてきたにもかかわらず、波長の影響によって、高周波動作(典型的に1H)に対してB1場が小さくなってしまう。
【0025】
さらに、スクロールコイル100および200は、本質的により大きな均一のRF場によって、所与の物理的なコイルの大きさに対してより大きいアクティブなサンプル体積に関する実験を可能にする。より大量のサンプルがアクティブなRF場に存在することができるので、より高い感度が得られる。さらに、MASプローブなど、サンプルを回転させることのできるサンプルプローブに対して、プローブのステーターのベアリング間の距離を減らすことができ、それによって所与のローターの直径に対する回転速度をより速くすることができる。
【0026】
さらに、スクロールコイル100および200の周波数効率は、従来のサンプルコイルに競合し得る程度に低い。スクロールコイル100および200は、インダクタンスが本質的に小さくはないため、そうした状態によって性能が制限されることはない。例えば、スクロールコイル100および200の効率は、1つまたは複数の低周波数チャネルによって駆動されると低下しない。したがって、スクロールコイル100および200は、コイルインダクタンスを最適化して、高周波数チャネルと低周波数チャネルとの間の性能バランスを達成できる。この局面において、スクロールコイル100および200の性能はソレノイドコイル構造と同等であるが、ソレノイドコイル設計に関連した欠点(その中には上述しているものもあるが)を伴わない。スクロールコイル100および200の低周波インダクタンスは、ソレノイドコイルの標準公式を用いることにより算出することができることに注意されたい。
L(inμH)=(R2*N2)/(9R+10*Le)
ここで、Rはコイルの半径、Nはスクロールコイルの巻き数(ソレノイドコイルの回転ではなく)、Leはコイルの長さである。
【0027】
さらに、スクロールコイル100および200を利用することで、多重コイル構成に伴う機械的および電気的問題を緩和または解消する。スクロールコイル100および200を利用すると、特に、MASの応用に極めて重要であるが、限られた空間をより効率よく使用でき、また、回路の様々な部分、(もしあれば)勾配コイルなどの間の結合が減少する。この結合の減少は、少なくとも部分的には、スクロールコイル100および200によって生ずる電界強度が本質的に低くなっていることによるものである。また、スクロールコイル100および200を利用すると、機械的信頼性が向上し、振動による偽信号が減少する。
【0028】
図1A〜図2Cに示すスクロールコイルによって構成されたスクロールコイルに関する実験結果は、図7〜図11に関連して後述する。
図3は、スクロールコイルおよび関連するサンプルプローブが動作し得るNMR装置またはシステム300などの磁気共鳴現象において動作する装置またはシステムの一例を示す簡略化した模式図である。このため、図1A〜図1Dに示すスクロールコイル100または図2A〜図2Cに示すスクロールコイル200に類似したスクロール形状を示すコイルを表すために、サンプルコイル310が図3〜図6に模式的に示されている。したがって、サンプルコイル310は、スクロールコイル100またはスクロールコイル200のいずれかを表わすものである。
【0029】
図3に示す例において、NMR装置300には、偏向磁場B0(図4)を維持するために磁石320が含まれている。研究対象のサンプル410(図4)は、このサンプル410をB0場にさらすことができるように磁石320のボア342内に位置したサンプルプローブ330に載置されている。サンプル410は、液相(粘性または非粘性)、半固相(例えばゲル)、固相(パウダーを含む)、または多相のサンプルでもよい。サンプルコイル310は液体NMRにも固体NMRにも使用できる。シムコイル344も、B0場における軽微な空間の不均一性を補償するために磁石ボア342内またはその近傍に載置されてもよい。
【0030】
サンプルプローブ330は、サンプルコイル310を支持する他、サンプル410を特定の配向に支持するなど(適用可能であれば、チューブまたはローターのようなサンプル410を保持する容器を含む)、いくつかの機能を実行するように構成されてもよい。サンプルコイル310は、RF磁場B1の励起場(図4)をサンプル410に送信し、RF検出信号をサンプル410から受信する。RF入力パルスまたはパルス列からB1場を生じ、入力パルス間の(遅れ)時間中にRF検出信号を受信する、フーリエ変換に基づいた実施形態において、単一サンプルコイル310を用いて送信機能および検出機能の両方を実行することは有利である。交差型コイルの構成として知られる他の態様において、送信機能および検出機能は、それぞれ独立したコイルによって実行することができる。しかし、多くの場合、より複雑な構成から生じる問題、および独立したコイル間における不要な結合または他の相互作用を抑制する必要から生じる問題によって、交差型コイル構成はあまり好まれない。いずれの場合も、少なくとも1つのサンプルコイル310は、上記のようなスクロール形状によって特徴づけられる。いくつかの実施形態において、サンプルプローブ330は、典型的に、RF入力信号をサンプルコイル310に供給し、応答のRF出力信号を受信して、サンプルコイル310に運ばせる電子機器回路の一部を含んでいる。この開示においては、サンプルプローブ330に組み込まれたRF回路部分は、同調可能な回路332として表される。さらに、スクロール形状を備えたサンプルコイル310は、複同調可能なまたは多重共鳴する、同調可能な回路332に適合する。
【0031】
NMR装置300はさらにRF送信回路350を含む。このRF送信回路350は、観測、減結合、反転分布、制御または基準信号の提供、または特定の実験のために指定される任意の他の機能のための所望のパラメータ(例えば、周波数、振幅、位相、パルス幅など)に応じて、RFエネルギーを生成して、RF励起信号をサンプルコイル310に供給するのに必要な部品、装置、および回路の任意の組み合わせを備えていてもよい。さらに、NMR装置300は、RF受信回路360を含む。このRF受信回路360は、研究下のサンプル410の1つ以上の属性を示す解釈しやすいスペクトルを生成するために、サンプルコイル310によって検出されたRF信号を受信し、これらの信号を処理するのに必要な部品、装置、および回路の任意の組み合わせを備えていてもよい。マルチプレクサー、ダイプレクサー、スイッチなどのような適当な能動または受動設計の送信器/受信器絶縁部品372が、一方の側のサンプルプローブ330ともう一方の側のRF送信回路350およびRF受信回路360との間に接続されてもよい。特に単一の送受信サンプルコイル310の場合、典型的に、送信器/受信器絶縁部品372を用いて、RF受信部品をRF送信部品と絶縁し、特に、RF受信回路360のより感度のよい検出要素をRF送信部品から供給される相対的により強度の大きい電源から保護する。NMR装置300は、ハードウェア部品(例えば、マイクロプロセッサ、メモリなど)および/またはソフトウェア部品を備える適当な形態であって、RF送信回路350、RF受信回路360、送信器/受信器絶縁部品372、および/またはサンプルプローブ330の内の1つ以上の部品と通信して、これら部品の様々な動作を制御する電子制御装置374を含んでいてもよい。電子制御装置374全体または一部が、NMR装置300のオペレータとのインターフェースとなるように、入出力周辺装置を備えたコンピューター(例えば、ワークステーション、コンソールなど)において具体化されてもよい。例えば、電子制御装置374は、実験から生じるNMRスペクトルの他に、同調および整合といった準備情報、スクリーン上のメニュー、およびオペレータにとって有用な他の情報を(例えば、表示画面、プリントアウトなどを介して)表す読み出しまたはディスプレイ装置376の動作を駆動してもよい。電子制御装置374は、キーボード、マウス、ライトペンなどの入力装置378からユーザー入力を受け付けてもよい。電子制御装置374は、研究者がスペクトルを解釈しやすくなる、メモリ内のデータ解析ソフトウェア、データベースなどを含んでいてもよい。
【0032】
上述のように、RF送信回路350は、RFエネルギーを生成し、サンプルコイル310へRF励起信号を供給するのに必要な部品、装置、および回路の任意の適当な組み合わせを含んでもよい。図3に示す例において、RF発生装置または周波数合成装置などのRFソース380が、その後必要に応じて変調することができるRF周波数の安定したソースを提供する。ソース信号は、一般的に382で図示され、RFソース380または電子制御装置374内部の水晶発振器から発せられてもよい。このソース信号は、必要に応じて、パルシング(脈動;例えば、ゲートまたはスイッチ)、減衰、移相などの機能の組み合わせを表すことができる変調回路384に供給されて、386に示すように、所望の振幅、遅れ、形状、位相などを有するRFパルスを生ずる。信号シーケンスは、例えば、変調器384が表す機能を制御するパルスプログラマ388によってプログラムされてもよい。パルスプログラマ388は、ハードウェアおよび/またはソフトウェアにおいて具体化されてもよく、また、電子制御装置374の一部を構成するまたは独立した部品であってもよい。例えば、電子制御装置374のメモリに存在するパルスプログラムは、パルスプログラマ388にロードされ、次いでパルスプログラマ388によって実行されてもよい。パルスプログラマ388または電子制御装置374は、送信器/受信器絶縁部品372を制御して、送信器/受信器絶縁部品372のスイッチング機能を用いてパルスシーケンスを調整してもよい。増幅器390を用いて、RF送信回路350の信号出力を増強して、B1磁界強度を適切に設定することができる。得られたRF信号は、サンプルプローブ330に供給され、サンプル410の照射のためサンプルコイル310によって分配される(図4)。
【0033】
また、上述のように、RF受信回路360は、サンプルコイル310によって検出されたRF信号を受信し、これらの信号を有益情報に変換するのに必要な部品、装置、および回路の任意の適当な組み合わせも含むことができる。したがって、RF受信回路360は、例えば、RF受信器392、位相検波器394、およびフーリエ変換解析部品396を含むことができる。パルス間のサンプル410によって生ずるFID信号は、原子核が摂動後に平衡に向かう傾向がある周知の緩和機構の結果として、サンプルコイル310によって受信され、通常増幅されるか、またはRF受信器392によって処理され、位相検波器394に受け渡される。RF受信回路360の第1段階は、実際にサンプルプローブ330の回路332の一部である前置増幅器(図示しないが、好ましくは、低雑音増幅器、すなわちLNA)であってもよいことが分かる。当業者によって十分に理解されるように、位相検波器394は、RF信号を正確に処理するために、典型的に、二重平衡変調器(DBM)、フィルタ、増幅器、および90度移相器(フェーズシフタ)を含む直角位相構造など、感度および信号識別を向上させる高度な設計を有していてもよい。このために、RFソース380は、局部発振器として機能して、公知の方法で位相検波器394によって利用されるキャリア信号を提供してもよい。処理されたFID信号は、一般的に398で図示する、減衰する時間領域形状を有する。FID信号はデジタル化され、フーリエ変換解析部品396に入力されるが、このフーリエ変換解析部品396は、電子制御装置374において実行されるソフトウェアで具体化されてもよく、または独立した部品であってもよい。フーリエ変換解析部品396は、図3に読み出し/ディスプレイ部品376で示すスペクトル399によって表わされるように、時間領域FID信号を周波数領域信号に変換する。
【0034】
図4は、磁石320のコア342内のサンプルプローブ330内に保持されるサンプル410を模式的に図示する。サンプルプローブ330は、不均一性を均一化してスペクトルの線幅を狭めるために、その軸(本実施形態において、サンプル軸はコイル軸106と重なる)を中心にサンプル410を回転させる部品を含んでいてもよい。特に、固体サンプルについて、サンプルプローブ330は、マジック角度回転(MAS)を実行して、化学シフト異方性によるスペクトルの線の広がりを抑制するようにしてもよい。その場合には、サンプル410は、B0場の方向から(すなわち、Z軸に沿った方向から)マジック角θ54.7°(または54°44’)で軸106を中心に回転される。当業者によって十分に理解されるように、そのような回転部品はローター412を含んでおり、マジック角でサンプル410を保持する同じ構造であってもよく、または独立した部品であってもよい。他の回転関連部品は、図4に駆動装置414としてまとめて示され、ステーター、ステーターとローター412間の機械軸受または空気軸受、ローター412駆動用ガス駆動タービン、タコメーターまたはエンコーダー、および他の適当な関連する駆動および制御部品を含んでいてもよい。また、サンプルプローブ330は、勾配増強NMR分光法、拡散測定、またはNMR顕微鏡法などの目的のために、X軸、Y軸、およびZ軸に沿ってB0場において制御された勾配を生じる勾配コイル(図示せず)を含んでいてもよい。さらに、サンプルプローブ330は、実験中にサンプル410の温度を制御する部品(図示せず)を含んでいてもよく、この部品は可変温度(VT)技術に役立つ。
【0035】
サンプルプローブ330は、RF電力伝達を最大にするために、1つ以上の所望の共鳴条件にサンプルコイル310を同調させて、サンプルコイル310をRF回路の他のインピーダンスと整合させる電子機器回路と通信するサンプルコイル310を備える、同調可能な回路332を含んでいてもよい。簡略化された等価回路を描くことが可能であり、この回路では、サンプルコイル310をインダクタで表し、同調調整用可変コンデンサをこのインダクタと並列に接続し、整合調整用の別の可変コンデンサを、このインダクタとNMR装置300のRF送信回路350およびRF受信回路360と通信するノードとの間に直列に接続する(図3)。同調可能な回路332は、サンプルプローブ330の筐体内に組み込まれてもよく、また、サンプルに物理的に隣接していてもよいが、サンプルプローブ330内に含まれる任意の回転部品の性能を損なわない程度に十分遠く離れて位置させることが好ましい。スクロール構造を有するサンプルコイル310は、多重共鳴(例えば、2重共鳴、3重共鳴、4重共鳴、またはより一般的に、n重共鳴)実験用に構成された回路を支持するために複同調可能であってもよい。したがって、同調可能な回路332は、独立したチャネルH、F、X、Y...nで具体化されてもよく、各チャネルは、サンプルの特定の原子核を励起するのに必要な周波数でRFエネルギーを適切に転送するために、本質的に独立して整合および同調される。慣例により、Hは1H原子核(プロトン)を励起する高周波チャネルを、Fは19F原子核を励起するより低周波の(相対的にはまだ高周波であるが)チャネルを、XおよびYはより低い磁気回転比(例えば、13Cおよび31P)を有する原子核を励起するより低周波のチャネルを表す。
【0036】
2重共鳴(例えば、HX)回路500および3重共鳴(例えば、HXY)回路600の簡略化された模式図を、それぞれ図5および図6に示す。図5において、サンプルコイル310は、高周波(H)チャネルおよび低周波(X)チャネルと通信する。Hチャネルは、調整性を示す、大略的に矢印502で表される同調および整合(マッチング)回路と、高周波入力HFを受信するポート504とを含んでいる。一例として、ポート504は、50Ω同軸ケーブルなどのRF送信線と結合するコネクターであってもよい。Xチャネルは、大略的に矢印506で表わされる同調および整合回路と、低周波入力LFを受信するポート508とを含んでいる。図6において、サンプルコイル310は、同調/整合回路602、606と、LFポートおよびHFポート604、608とをそれぞれ含む高周波(H)チャネルおよび低周波(X)チャネルと通信する。サンプルコイル310は、さらに、同調および整合回路612と、中周波入力MFを受信するポート614とを含む中周波(Y)チャネルと通信する。3重共鳴回路600などの多重共鳴回路の構成に応じて、1つのチャネルを他のチャネルと分離するために1つ以上のトラップ回路、タンク回路などを要してもよい。図6の例に示すように、トラップ回路620は単に並列のLC回路として図示される。
【0037】
図5の2重共鳴回路500および図6の3重共鳴回路600は、さらなるチャネルを増やすためのプラットフォームを提供できることが理解されよう。さらに、図4〜図6に図示するRFチャネルの機能を実行するために、回路素子の様々な配置および組み合わせを提供できることが理解されよう。したがって、2重共鳴回路500、3重共鳴回路600、または他の多重共鳴回路に関するさらなる詳細は、当業者によく知られており、本開示において特定する必要はない。本開示のためには、図1A〜図1Dのスクロールコイル100または図2A〜図2Cのスクロールコイル200に対して図示するようなスクロール構成を有し、複同調して多重共鳴回路の動作を支持することができるサンプルコイル310を提供する能力に、より重要性があると考える。複同調性について、液体サンプルと固体サンプルとの両方にサンプルコイル310を使用して、多種多様な磁気共鳴に基づく公知の手順を実施することができる。スクロール形状を用いることで、サンプル加熱の減少および本開示の別の箇所にも記載した他の利点によって、より大きな分類のサンプルの種類を研究することが可能となる。
【0038】
多重共鳴回路と連携して、その複同調スクロール構成内のサンプルコイル310を駆動して、異なる種類のNMR活性原子核を、多核実験のように並行して励起するか、または異なる時間中に励起するかどちらでも可能である。異なる種類の原子核は、異なる共鳴周波数を有する任意の原子核をも包含し、異種核のスピン種(例えば1Hおよび13C)だけでなく、異なる局所的な化学的環境によって化学的に非等価であり、したがって異なる周波数で共鳴する同種核のスピン種をも含む。所与の実験において、チャネルを、応答信号を得るために核種を励起する観測チャネルとして機能させてもよい。すなわち、このチャネルを、様々な周知の技術にしたがって、同種核のスピン減結合、異種核のスピン減結合、または双極子減結合などにおいて選択された原子核を飽和または減結合するために用いてもよい。周波数の広帯域同調または選択同調(例えば、1H周波数と19F周波数との間での切替可能)用にチャネルを構成してもよい。
【0039】
したがって、スクロール形状で構成されたサンプルコイル310は、多種多様な多重パルス技術、多重共鳴技術、および多次元磁気共鳴技術に対応することが分かる。以下にサンプルコイル310の応用例を、これらの例がサンプルコイル310の潜在的な応用例を網羅するリストというわけではないという了解の下、いくつか簡単に要約する。
【0040】
上記のようなサンプルコイル310を備えた上記のようなサンプルプローブ330(例えば、図1A〜図1Dのスクロールコイル100および図2A〜図2Cのスクロールコイル200)が、ある原子核(例えば、13C)のスピン−格子緩和時間が(特に、固体サンプルにおいて)不必要に長い場合など、周知の交差分極技術に関連して用いられてもよい。典型的な交差分極実験の1つの非制限的な例において、パルスシーケンスを印加して、プロトンなどの高い磁気回転比γSの感度のよい(またはソースの)原子核(S)から13Cなどの相対的に低い磁気回転比γIの感度のない原子核(I)に磁化を移動させる。事実、ハルトマン=ハーン条件γSB1(S)=γIB1(I)によれば、原子核SおよびIのそれぞれのラーモア周波数は同一になる。固体NMR実験では、交差分極技術を、MAS技術(CP−MAS)、さらに双極子減結合とともに有利に用いることができる。さらに、例えば、本開示の譲受人に譲渡された特許に係る上記特許文献2に開示されるように、ローター同期CP−MAS技術を実行することにより、サンプルコイル310を備えたサンプルプローブ330を用いるCP−MAS実験を高度化してもよい。このような場合、サンプルプローブには、そのローターの位置をコード化するためにタコメーター(図示せず)が含まれる。タコメーターは、ローターの回転の測定速度を表すパルスタイミング信号を生じる。このタイミング信号は、交差分極を適用するのに用いられているサンプルプローブ330の1つ以上のチャネルに供給される。その結果、交差分極の効果に用いられた信号は、ローターの角速度と同期する繰り返し速度で振動(脈動)する。交差分極技術は、多次元NMR実験と関連して有用である。
【0041】
上記のような(図3)適当なNMR装置300内のサンプルプローブ330において、サンプルコイル310を用いて、様々な多次元実験(例えば、2次元および3次元)を実行することができる。2次元NMR実験では、例えば、ピークの強度を2つの周波数(例えば、F1およびF2)または2つの化学シフトパラメータ(例えば、δ1およびδ2)の関数としてプロットする等高線プロットであるスペクトルが典型的に得られる。検出された信号は、2つの時間変数t1およびt2の関数として記録され、その後、フーリエ変換を2回行い、2つの周波数変数の関数であるスペクトルを得る。特に、固体NMRの場合、通常、一般的なパルスシーケンスは、準備期、次いで展開期の時間の長さt1、次いで混合期、次いで検出期の時間の長さt2を含んでいると説明される。準備期間中に、サンプル内の所与の種類(例えば、1H)の原子核を、1つ以上のRFパルスによって非平衡状態に励起する。展開期間中に、生じた磁化を第1期t1中に展開させることができる。混合期間中に、1つ以上のRFパルスの別のセットを印加して、通常、励起した原子核から別の種類の原子核(例えば、13C)へコヒーレンスまたは分極を移動させる。検出期間中に、第2の種類の原子核からFID信号などの信号を、第2期間t2の関数として記録する。検出期間中に、RFエネルギーの減結合を第1の種類の原子核に適用して、同種核および/または異種核の相互作用を抑制する。その後、核スピンが平衡状態に戻り、t1を異なる値に設定し、シーケンスを繰り返し、その結果得られたデータを第1シーケンスのデータと別々に保存する。そのシーケンスを、展開時間間隔t1の値を増加させるために、十分なデータが記録されるまで繰り返す。サンプルコイル310を用いて実行が可能な周知の多次元NMR技術の例として、同種核J−分解法、異種核J−分解法、EXSY(交換分光法)またはNOESY(核オーバーハウザー効果、またはエンハンスメント、分光法)、COSY(同種核相関分光法)およびその変形(例えば、DQF COSY、すなわち2量子フィルタによる相関分光法、およびTQF COSY、すなわち、3量子フィルタによる相関分光法)、HETCOR(異種核相関分光法)、HMQC(異種核多重量子相関)、HSQC(異種核単一量子相関)、INEPT(感度の鈍い原子核を向上させる偏極移行)の2次元対等物、DEPT(無ひずみを向上させる偏極移行)、およびINADEQUATE(極端な天然存在度2量子移動実験)、ならびにこれらの方法の変形および組み合わせがあるが、これらに限定されない。また、サンプルコイル310を用いて、1Hおよび15N原子核上で動作する固体2次元、3次元、4次元、5次元PISEMA(マジック角での分極反転スピン交換)実験を実施して、PISA(極性指数傾斜角度)ホイールとして公知の特殊なホイール状のパターンを含む2次元スペクトルを得ることによって、膜輸送タンパク質を研究することができる。
実験結果
図1A〜図1Dのスクロールコイル100および図2A〜図2Cのスクロールコイル200に対して図示されるような形状を有するスクロールコイルを試験し、標準ソレノイドコイルと比較した。これらの試験結果から、スクロールコイルによって印加されたRF磁場の均一性は、ソレノイドコイルの均一性よりも高周波(例えば、1H)および低周波(例えば、X)の両方においてはるかに優れていることが分かる。後述のように、RF場プロットから、スクロールコイルがコイルの端から端まで軸方向に85%均一であるのに対して、ソレノイドはわずか60%均一であることが分かる。ソレノイドのRF磁場強度は、中央部で強く、端部で低くなっているのに対し、スクロールコイルは、アクティブなサンプル領域全体にわたって磁場が一致している。スクロールコイルは、低い方の周波数を高い方の周波数の約10%に設定して、二重共鳴モードで試験し、1HおよびXの周波数間に優れた(ほぼ100%)場の重なりを示した。さらに、スクロールコイルの両縁部を折り重ねることで、コイル巻き部間の間隔を広げてコイルの体積を増加させることによってRF場を調節し、それによって、コイルの中央部で磁場強度を減少させることが分かった。一方、縁部を折り重ねることは、コイルの端部の磁場強度に影響を与えないため、折り重ねることで、アクティブなサンプル領域の全体的な軸方向の均一性を向上させることができる。さらに、異なる共鳴周波数でのRF場の重なりおよびその均一性は、コイルの半径を変化させても変化しない。例えば、コイル長さを6mmに維持し、直径を2.5mm〜5mmで変動させると、1H−Xの重なりはほぼ100%で、試験したコイルすべての軸方向のRF均一性は80%であった。
【0042】
図7は、様々な比較試験をしたコイルの軸に沿う位置の関数として、標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。試験したソレノイドコイルは6回巻き構成で、試験したスクロールコイルは4.5巻き構成であった。場プロットと共に含まれる凡例が示すように、試験は、低周波(70MHz)および高周波(600MHz)に同調させたソレノイドコイル、および低周波(90MHz)および高周波(560MHz)に同調させたスクロールコイルに関して行なわれた。コイルのプロファイル/体積を示すカーブ、特に、コイル容積の軸方向端部を、理解しやすいように場プロットに重ね合わせている。図7は、スクロールコイルのRF均一性が、高周波数および低周波数の両方においてソレノイドコイルよりもはるかに優れていることを示している。具体的には、図7は、スクロールコイルでは、コイルの端から端まで85%均一であるのに対して、ソレノイドではわずか60%であることを示している。
【0043】
図8は、試験したコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。凡例が示すように、図8は、ソレノイド形状およびスクロール形状のコイルの、高周波数および低周波数の両方での比較データを示している。図8は、ソレノイドコイルのRF磁場強度が、その容積の中央部領域において17%高く、その容積の両端部において20%低いのに対して、スクロールコイルの磁場強度は、軸方向全長にわたって、はるかに一致していることを示している。
【0044】
図9および図10は、スクロールコイルの端部を折り重ねた効果を示す。図9は、様々な構成のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数として、標準化されたRF磁界強度をプロットしたものであり、図10は、コイル軸に沿った位置の関数として、絶対RF磁界強度をプロットしたものである。具体的には、平坦な導体構成、折り重なった導体構成、および折り重なり間隔の空いた導体構成(折り重なった部分と材料の残り部分との間に空隙が存在する前記実施形態を参照)を有するスクロールコイルを試験したものである。図9は、スクロールコイルの両端部を折り重ねることで、軸方向のRF均一性が約5%増加していることを示している。折り重なった両縁部は、コイルの両端部で局所的にRF場を増加させ、それによって、コイル内部の場プロファイルが平坦になり、RF場均一性が向上する。一方、図10は、スクロールコイルの両端部を折り重ねることで、実際にFR磁場強度が約10%減少しており、これは、中央部で巻き部間の間隔を広げることによってコイルの中央部の容積が大幅に縮小されるとともにコイル容積は増加するためであることを示している。両端部を折り重ねると、スクロールコイルの外径は、0.24インチ〜0.28インチ増加する。内部径は0.165インチのままであった。
【0045】
図11は、コイルの直径対コイル長さの比を変化させることによってRF均一性に対する影響を示すため、異なる直径のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。各コイルの長さは0.215インチである。2.5mmのコイルを低周波数(107MHz)および高周波数(670MHz)で試験し、3.2mmのコイルを低周波数(96MHz)および高周波数(520MHz)で試験した。当業界では一般的であるように、2.5mmおよび3.2mmの値は、実際にはサンプルホルダ(例えば、サンプルチューブ、またはこの場合、サンプルを回転させるローター)の外径である。コイル自体の内径は、サンプルホルダの外径より約0.5mm大きい。コイル直径対コイルの長さの比を変化させることに対する影響は小さく、両方のコイル直径の標準化された電界強度は、コイルの両端部で最大85%である。標準化されたプロットは、コイル長さ対直径の比を2.2〜1.7まで変化させても、RF均一性プロファイルは事実上変化しないことを示している。
【0046】
本開示の装置、機器、および方法は、一般的に前述されるようにNMR装置またはシステムにおいて実行することができ、図3に非限定的な例を示していることが理解されよう。図3に大略的に示す部品は、典型的にNMRスペクトロメーターに関する。しかし、本主題はNMR分光法に限定されるものではなく、むしろ前述したスクロールコイルおよび関連するサンプルプローブによって提供される利点を享受する可能性のある任意の装置またはシステムに及んでもよい。他の応用例として、NMR顕微鏡法(例えば、マイクロイメージング)およびより大規模な映像法(例えば、MRI)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、例示的な実施形態として、主にフーリエ変換(FT)NMRスペクトロメーターを用いた応用例に照らして前述したが、本主題は、連続波(CW)NMRスペクトロメーターなど他の種類のNMRスペクトロメーターに及んでもよい。更に、例示的な実施形態として、主に高分解能NMRスペクトロメーターを用いた応用例に照らして前述したが、本主題は、より典型的には、広幅NMRスペクトロメーターなどのより低分解能NMRスペクトロメーターと見なされる、他のNMRスペクトロメーターに及んでもよい。典型的には、そのようなより低分解能NMRスペクトロメーターは、1テスラの数十分の1オーダーの強度を有する偏向磁場B0で動作する。
【0047】
本発明の様々な局面または詳細は、本発明の範囲を逸脱することなく変更されてもよいことがさらに理解されよう。さらに、前述の記載は、単に説明のためのものであり、限定を目的とするものではなく、本発明は特許請求の範囲によって定義されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1A】本明細書に開示された実施形態によるスクロールコイルの斜視図である。
【図1B】図1Aに示すスクロールコイルの別の斜視図である。
【図1C】図1Aおよび図1Bに示すスクロールコイルの端面図である。
【図1D】図1A〜図1Cに示すスクロールコイルの側面図である。
【図2A】縁部または端部が折り重ねられた別の実施形態によるスクロールコイルの斜視図である。
【図2B】図2Aに示すスクロールコイルの別の斜視図である。
【図2C】スクロールコイルのコア内部の位置から見た図2Aおよび図2Bに示すスクロールコイルを破断して示す図である。
【図3】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが動作できる、磁気共鳴に基づく装置またはシステムの一例を表す模式図である。
【図4】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが動作できるサンプルプローブの特徴を表す模式図である。
【図5】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが一部を形成することができる、2重共鳴RF回路の一例を表す模式図である。
【図6】図1A〜図1Dまたは図2に示すようなスクロールコイルが一部を形成することができる、3重共鳴RF回路の一例を表す模式図である。
【図7】様々な比較試験をしたコイルの軸に沿う位置の関数として標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。
【図8】試験したコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。
【図9】様々な構成のスクロールコイルの軸に沿う位置の関数として標準化されたRF磁界強度をプロットしたものである。
【図10】コイル軸に沿う位置の関数として絶対RF磁界強度をプロットしたものである。
【図11】様々なスクロールコイルの軸に沿う位置の関数としてRF磁界強度をプロットしたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルであって、
2つの軸端部と、
縦中心軸のまわり1回以上巻回し、前記コイルの軸を中心として周方向に延びるとともに、前記2つの軸端部の間を縦に延びる導電性材料からなる少なくとも1つの平面体と、
前記導電性材料の最内部の回転部または巻き部に隣接する第1の導電性のリード要素と、
前記導電性材料の最外部の回転部または巻き部に隣接する第2の導電性のリード要素と、
から画成され、サンプルを挿入できるコアを画成するスクロール構成を備えた断面を有するコイルと、
(b)前記スクロール構成の前記導電性リード要素と通信して、前記サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でRFエネルギーを前記コイルに伝達する多重共鳴回路と、
を備えた磁気共鳴実験用のサンプルプローブ。
【請求項2】
前記サンプルの軸を中心に前記サンプルを回転させる装置を備えた、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記サンプルの軸が、印加された静磁場の方向と角度をなすように向けられて前記サンプルを保持するための構造を備えた、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記サンプルが角度をなして保持されている間に前記サンプルの軸を中心に前記サンプルを回転させる装置を備えた、請求項3に記載のプローブ。
【請求項5】
前記角度がマジック角である、請求項3に記載のプローブ。
【請求項6】
前記多重共鳴回路が、前記サンプルの少なくとも2つの原子核間の交差分極を誘導する働きをする1つ以上の信号のシーケンスを送信するようにされている、請求項1に記載のプローブ。
【請求項7】
前記2つ以上の異なる周波数が、プロトンを励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
前記2つ以上の異なる周波数が、13C原子核を励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
前記2つ以上の異なる周波数が、磁気回転比がプロトンの磁気回転比と13C原子核の磁気回転比との間にある原子核を励起する少なくとも第3の周波数を含む、請求項8に記載のプローブ。
【請求項10】
前記2つ以上の異なる周波数が、磁気回転比がプロトンの磁気回転比と13C原子核の磁気回転比との間にある原子核を励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項7に記載のプローブ。
【請求項11】
前記スクロール構成を有する前記コイルの前記断面が、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる材料からなる層を備え、前記層は前記中央部領域よりも前記両端部領域の方がより厚い、請求項1に記載のプローブ。
【請求項12】
(a)少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルであって、
2つの軸端部と、
縦中心軸のまわりに1回以上巻回し、前記コイルの軸を中心として周方向に延びるとともに、前記2つの軸端部の間を縦に延びる導電性材料からなる少なくとも1つの平面体と、
前記導電性材料の最内部の回転部または巻き部に隣接する第1の導電性のリード要素と、
前記導電性材料の最外部の回転部または巻き部に隣接する第2の導電性のリード要素と、
から画成され、サンプルを挿入できるコアを画成するスクロール構成を備えた断面を有するコイルと、
(b)前記コイルの前記導電性のリード要素と通信して、RFエネルギーを2つ以上の異なる周波数で同時に前記コイルに伝達して、前記サンプルの原子核に前記2つ以上の異なる周波数の励起をもたらすRF送信回路と、
(c)前記コイルの前記導電性のリード要素と通信して、当該励起に応答するRF信号を受信するRF受信回路と、
を備えた磁気共鳴装置。
【請求項13】
前記サンプルを収容するためのサンプルプローブを備え、前記コイルが前記サンプルプローブ内に収容されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記サンプルプローブが、前記2つ以上の異なる周波数に同調可能な多重共鳴回路であって、前記RF送信回路と通信する多重共鳴回路を備えた、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記受信されたRF信号に基づいた周波数領域スペクトルを生成する回路を備えた、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記スクロール断面の前記巻回した電導性材料が、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる導電性材料からなる層を備え、前記層は厚みを増すために前記両端部領域において折り重ねられていることにより、前記層の前記中央部領域よりも該両端部領域の方がより厚くなっている、請求項12記載のコイル。
【請求項17】
前記層が、前記コアを中心に周方向に延びて複数の巻き部または回転部を画成するために、複数回前記コアに連続して巻回し、前記層が各巻き部に沿って前記両端部領域においてより厚くなっている、請求項16記載のコイル。
【請求項18】
前記スクロールコイルが、RFエネルギー吸収のために異なる共鳴条件を必要とする前記サンプルの原子核を励起するために構成された少なくとも1つのRFエネルギーの入力を伴う多重共鳴回路であって、この少なくとも1つのRFエネルギーの入力が、当該励起の際に供給される前記RFエネルギーを吸収するために構成されてもいる多重共鳴回路を形成している、請求項12記載のコイル。
【請求項19】
前記第1および第2の導電性のリード要素が、前記コイルの前記スクロール構成断面を作るために用いられる材料からなる前記連続した巻き層から形成されている、請求項17記載のコイル。
【請求項1】
(a)少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルであって、
2つの軸端部と、
縦中心軸のまわり1回以上巻回し、前記コイルの軸を中心として周方向に延びるとともに、前記2つの軸端部の間を縦に延びる導電性材料からなる少なくとも1つの平面体と、
前記導電性材料の最内部の回転部または巻き部に隣接する第1の導電性のリード要素と、
前記導電性材料の最外部の回転部または巻き部に隣接する第2の導電性のリード要素と、
から画成され、サンプルを挿入できるコアを画成するスクロール構成を備えた断面を有するコイルと、
(b)前記スクロール構成の前記導電性リード要素と通信して、前記サンプルの原子核を励起する2つ以上の異なる周波数でRFエネルギーを前記コイルに伝達する多重共鳴回路と、
を備えた磁気共鳴実験用のサンプルプローブ。
【請求項2】
前記サンプルの軸を中心に前記サンプルを回転させる装置を備えた、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記サンプルの軸が、印加された静磁場の方向と角度をなすように向けられて前記サンプルを保持するための構造を備えた、請求項1に記載のプローブ。
【請求項4】
前記サンプルが角度をなして保持されている間に前記サンプルの軸を中心に前記サンプルを回転させる装置を備えた、請求項3に記載のプローブ。
【請求項5】
前記角度がマジック角である、請求項3に記載のプローブ。
【請求項6】
前記多重共鳴回路が、前記サンプルの少なくとも2つの原子核間の交差分極を誘導する働きをする1つ以上の信号のシーケンスを送信するようにされている、請求項1に記載のプローブ。
【請求項7】
前記2つ以上の異なる周波数が、プロトンを励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項1に記載のプローブ。
【請求項8】
前記2つ以上の異なる周波数が、13C原子核を励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
前記2つ以上の異なる周波数が、磁気回転比がプロトンの磁気回転比と13C原子核の磁気回転比との間にある原子核を励起する少なくとも第3の周波数を含む、請求項8に記載のプローブ。
【請求項10】
前記2つ以上の異なる周波数が、磁気回転比がプロトンの磁気回転比と13C原子核の磁気回転比との間にある原子核を励起する少なくとも1つの周波数を含む、請求項7に記載のプローブ。
【請求項11】
前記スクロール構成を有する前記コイルの前記断面が、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる材料からなる層を備え、前記層は前記中央部領域よりも前記両端部領域の方がより厚い、請求項1に記載のプローブ。
【請求項12】
(a)少なくとも2つの異なる周波数に同時に同調可能なコイルであって、
2つの軸端部と、
縦中心軸のまわりに1回以上巻回し、前記コイルの軸を中心として周方向に延びるとともに、前記2つの軸端部の間を縦に延びる導電性材料からなる少なくとも1つの平面体と、
前記導電性材料の最内部の回転部または巻き部に隣接する第1の導電性のリード要素と、
前記導電性材料の最外部の回転部または巻き部に隣接する第2の導電性のリード要素と、
から画成され、サンプルを挿入できるコアを画成するスクロール構成を備えた断面を有するコイルと、
(b)前記コイルの前記導電性のリード要素と通信して、RFエネルギーを2つ以上の異なる周波数で同時に前記コイルに伝達して、前記サンプルの原子核に前記2つ以上の異なる周波数の励起をもたらすRF送信回路と、
(c)前記コイルの前記導電性のリード要素と通信して、当該励起に応答するRF信号を受信するRF受信回路と、
を備えた磁気共鳴装置。
【請求項13】
前記サンプルを収容するためのサンプルプローブを備え、前記コイルが前記サンプルプローブ内に収容されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記サンプルプローブが、前記2つ以上の異なる周波数に同調可能な多重共鳴回路であって、前記RF送信回路と通信する多重共鳴回路を備えた、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記受信されたRF信号に基づいた周波数領域スペクトルを生成する回路を備えた、請求項12に記載の装置。
【請求項16】
前記スクロール断面の前記巻回した電導性材料が、第1端部領域から、中央部領域を通って、第2端部領域へと軸方向に延びる導電性材料からなる層を備え、前記層は厚みを増すために前記両端部領域において折り重ねられていることにより、前記層の前記中央部領域よりも該両端部領域の方がより厚くなっている、請求項12記載のコイル。
【請求項17】
前記層が、前記コアを中心に周方向に延びて複数の巻き部または回転部を画成するために、複数回前記コアに連続して巻回し、前記層が各巻き部に沿って前記両端部領域においてより厚くなっている、請求項16記載のコイル。
【請求項18】
前記スクロールコイルが、RFエネルギー吸収のために異なる共鳴条件を必要とする前記サンプルの原子核を励起するために構成された少なくとも1つのRFエネルギーの入力を伴う多重共鳴回路であって、この少なくとも1つのRFエネルギーの入力が、当該励起の際に供給される前記RFエネルギーを吸収するために構成されてもいる多重共鳴回路を形成している、請求項12記載のコイル。
【請求項19】
前記第1および第2の導電性のリード要素が、前記コイルの前記スクロール構成断面を作るために用いられる材料からなる前記連続した巻き層から形成されている、請求項17記載のコイル。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−507715(P2008−507715A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−523698(P2007−523698)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/026344
【国際公開番号】WO2006/012619
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/026344
【国際公開番号】WO2006/012619
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
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