説明

複圧式ラジアルタービンシステム

【課題】ランキンサイクルを用いたバイナリー発電システム等の高効率化及び低コスト化を可能にする複圧式ラジアルタービンシステムを提供する。
【解決手段】吸入した液相熱媒体を各々異なる圧力に昇圧させる高圧ポンプ21H及び低圧ポンプ21Lと、高圧ポンプ21H及び低圧ポンプ21Lから各々送出された液相熱媒体を高温熱源から吸熱して気化させる高圧蒸発器23H及び低圧蒸発器23Lと高圧蒸発器23H及び低圧蒸発器23Lから各々供給された圧力及び温度の異なる気相熱媒体を膨張させて出力を得る1台の複圧式ラジアルタービン25と、複圧式ラジアルタービン25で膨張した気相熱媒体を低圧熱源に放熱して凝縮させる凝縮器27とを備え、熱媒体が気液の状態変化を繰り返して循環するサイクル回路Cを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中低温・高温及び高圧の流体からエネルギーを回収して回転動力に変換する複圧式ラジアルタービンシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中低温・高温で高圧の流体からエネルギーを回収して回転動力に変換し、この回転動力により発電機を駆動して発電することが行われている。このような発電システムとしては、たとえばバイナリーサイクル発電システム(以下、「バイナリー発電」と呼ぶ)が知られている。このバイナリー発電は、たとえば地下の温度や圧力が低いため地熱発電を行うことが不可能で熱水しか得られない場合でも、たとえばアンモニアやペンタン、フロン等のように、水よりも低沸点の媒体(低沸点流体)を熱水で沸騰させ、低沸点流体の蒸気でタービンを回すものである。
【0003】
ここで、従来のバイナリー発電について、図7及び図8を参照して簡単に説明する。
図7は、バイナリー発電Baの構成例を示すブロック図である。図示のバーナリー発電Baにおいて、熱媒体が循環して状態変化を繰り返すサイクル回路は、熱媒体を昇圧するポンプ11と、高温熱源から熱を受け取って熱媒体を蒸気にする蒸発器13と、高圧及び高温の熱媒体蒸気を膨張させて熱エネルギーを回転動力に変換するタービン15と、膨張しエネルギーを放出した低温の熱媒体を再度液体に凝縮させる凝縮器17とを備え、各機器間が配管により接続された閉回路に構成されている。
この場合、凝縮器17で熱を吸収する側の低温熱源(温度レベルTC)には、たとえば大気、河川水、海水等のように、大気温度の空気や水が使用される。また、海洋温度差発電(OTEC)では、この低温熱源として海底の低温海水が使用される。
【0004】
一方、高温熱源(温度レベルTW)としては、たとえば各種の産業用プラントから排出される高温及び高圧の流体、船舶や車両用の動力源等から排出される排ガス等の流体、地熱発電や海洋温度差発電等の熱源流体がある。高温熱源の温度レベルTWが数十度から200℃程度である場合、熱媒体としては、臨界温度が概ね100℃〜200℃のフロンや代替フロン、次世代フロン、有機媒体が利用され、それ以上の高温になる場合は水が使用される。
【0005】
図8のT−S線図には、上述した熱媒体の飽和線が示されている。
図示のサイクルで得られるタービン15の出力は、発電機19を駆動する発電用の動力として使用される。すなわち、温度レベルTWの高温熱源及び温度レベルTCの低温熱源と熱交換して循環する熱媒体は、タービン15にて膨張(エキスパンジョン)して発電機19を駆動する仕事をし、この仕事が電力として利用されることとなる。
従って、中低温の高温熱源及び低温熱源が与えられた時、図示のバイナリーサイクルを利用して最大の電力を発生させるように工夫がなされており、その主要パラメータとなるのは、熱媒体の蒸発圧力P1及び凝縮圧力P2である。このような蒸発圧力P1及び凝縮圧力P2の圧力設定を適切に選定することは、工業上一般的に行われていることである。
【0006】
また、半径方向の流速成分を主要成分としてタービンホイールに流入する旋回流体が用いられ、流れの旋回エネルギーを回転動力に変換してエネルギーを放出した流れが軸方向に吐出されるラジアルタービンにおいては、タービン内部にて流体の圧力を複数の流路に分割し、流路毎にタービン動翼入口が形成されるとともに、タービン動翼の入口半径が異なるように構成されている。(特許文献1〜3を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63−302134号公報
【特許文献2】特表2008−503685号公報
【特許文献3】実開昭61−202601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した排熱、余剰熱及び地熱等の高温熱源は、一般に温度レベルTWが数十℃〜数百℃程度と低い。従って、たとえば海水、河川水または大気等のように、温度レベルTCが数℃〜数十℃程度の低温熱源を使用し、この低温熱源との間で熱媒体を利用した熱サイクル(バイナリーサイクル)を構成する場合には、高温熱源と低温熱源との温度差が小さいため、良好な効率を得ることは困難になる。
【0009】
具体的に説明すると、熱エネルギーを軸動力に変換して発電するバイナリー発電を行う場合には、高温熱源と低温熱源との温度差が小さいため、発電効率が低いという問題を有している。すなわち、たとえば排熱や地熱のように、熱源自体は利用されずに排出されるため燃料コストが不要であるにもかかわらず、このような低温の熱源を高温熱源としたバイナリー発電は、設備投資に対してコストメリットが低いという欠点がある。
【0010】
このような背景から、バイナリー発電システムの発電出力を増して高効率化すること、及び発電装置を低コスト化することが求められている。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、ランキンサイクルを用いたバイナリー発電システム等の高効率化及び低コスト化を可能にする複圧式ラジアルタービンシステムを提供することにある。すなわち、本発明は、熱媒体の蒸発温度を複数設定してタービンから高出力を得るランキンサイクル、そして、このランキンサイクルを簡易な構造で実現可能な複圧式ラジアルタービンシステムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る複圧式ラジアルタービンシステムは、吸入した液相熱媒体を各々異なる圧力に昇圧させる複数台のポンプと、該ポンプから各々送出された液相熱媒体を第1の熱源から吸熱して気化させる複数台の蒸発器と、該蒸発器から各々供給された圧力及び温度の異なる気相熱媒体を膨張させて出力を得る1台の複圧式ラジアルタービンと、該複圧式ラジアルタービンで膨張した気相熱媒体を前記第1の熱源より低温となる第2の熱源に放熱して凝縮させる凝縮器とを備え、熱媒体が気液の状態変化を繰り返して循環するサイクル回路を形成したことを特徴とするものである。
【0012】
このような複圧式ラジアルタービンシステムによれば、第1の熱源(1つの高温熱源)から熱を放出する過程を複数段階に分けて、複数の蒸発器で液相熱媒体に熱を放出する複圧式のランキンサイクルを形成することができ、単圧のランキンサイクルサイクルにおける高温熱源の出口温度と比較して、さらに低温まで温度を変化させることが可能になる。従って、複圧式のランキンサイクルは、単圧サイクルと比較して、高温熱源が有する熱エネルギーをより多くランキンサイクルに与えることができる。
【0013】
上記の発明において、前記第1の熱源の流路は、複数台設けられている前記蒸発器を直列に接続して、前記ポンプから送出される液相媒体の高圧側から低圧側に流すことが好ましく、これにより、第1の熱源が保有する熱を有効利用することができる。
【0014】
上記の発明において、前記複圧式ラジアルタービンがケーシング内で回転する1つのタービンホイールを備え、該タービンホイールは、気相媒体を半径方向から異なる圧力で導入する複圧式ラジアルタービンまたは斜流タービンであり、複数のタービン入口と、膨張した気相媒体を軸方向に吐出する1つのタービン出口とを備えていることが好ましい。
この場合、前記タービン入口は、複数の気相媒体導入入口圧力が前記タービン出口へ向けて順次低くなるように配置されているものでもよいし、あるいは、複数の気相媒体導入入口圧力が前記タービン出口へ向けて順次高くなるように配置されているものでもよい。
【0015】
上記の発明において、前記複圧式ラジアルタービンが発電機を駆動して発電するように構成すれば、ランキンサイクルを用いたバイナリー発電システムを高効率化及び低コスト化した複圧式ラジアルタービン発電システムとなる。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によれば、熱媒体の蒸発温度を複数設定したサイクル、そして、このサイクルを簡易な構造で実現可能となる複圧式ラジアルタービンシステムを提供することができる。このような複圧式ラジアルタービンシステムは、バイナリー発電システムの高効率化及び低コスト化を可能にするという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る複圧式ラジアルタービンシステムの一実施形態として、2圧式バイナリーサイクル発電システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】図1に示した2圧式バイナリーサイクル発電システムに係るT−S線図である。
【図3】2圧式バイナリーサイクル発電システムについて、単位高温熱源流量当たりの出力を単圧式と比較して示す図である。
【図4】2圧式バイナリーサイクル発電システムについて、高温熱源出口温度を単圧式と比較して示す図である。
【図5】複圧式ラジアルタービンの第1構成例として、1動翼2圧式ラジアルタービンの要部(子午面形状)構成例を示す断面図である。
【図6】複圧式ラジアルタービンの第2構成例として、1動翼2圧式ラジアルタービンの要部(子午面形状)構成例を示す断面図である。
【図7】バイナリーサイクル発電システムの従来例を示すブロック図である。
【図8】図7に示したバイナリーサイクル発電システムに係る熱媒体のT−S線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る複圧式ラジアルタービンシステムの一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、複圧式ラジアルタービンシステムの一例として2圧式バイナリーサイクル発電システム(以下、「2圧式バイナリー発電」と呼ぶ)の構成例を示すブロック図、図2は、2圧式バイナリー発電のT−S線図である。図示の2圧式バイナリー発電Bbは、熱媒体が異なる2種類の圧力及び温度で循環し、液体及び気体の状態変化を繰り返すように構成されたランキンサイクルのサイクル回路Cを備えている。
【0019】
サイクル回路Cは、液体の熱媒体(液相媒体)を昇圧する高圧ポンプ21H及び低圧ポンプ21Lと、高温熱源(第1の熱源)から熱を受け取って熱媒体を気体(気相媒体)にする高圧蒸発器23H及び低圧蒸発器23Lと、圧力及び温度が異なる2種類の高圧・高温気相媒体を膨張させて熱エネルギーを回転動力に変換する複圧式ラジアルタービン25と、複圧式ラジアルタービン25で膨張してエネルギーを放出した低温の熱媒体(気相媒体または気液2相媒体)を低温熱源(第2の熱源)に放熱して再度液体に凝縮させる凝縮器27とを備え、各機器間が配管により接続された閉回路に構成されている。
複圧式ラジアルタービン25の出力軸には発電機29が接続されており、従って、複圧式ラジアルタービン25の出力は発電機29を駆動する発電用の動力として使用される。
【0020】
凝縮器27で凝縮した液相媒体は、高圧ポンプ21H及び低圧ポンプ21Lに導入されて各々異なる圧力まで昇圧される。この場合、高圧ポンプ21Hは、導入した液相媒体を高圧BHに昇圧して高圧蒸発器23Hへ送出し、低圧ポンプ21Lは、導入した液相媒体を低圧BLに昇圧して低圧蒸発器23Lへ送出する。
【0021】
高圧蒸発器23Hは、高圧ポンプ21Hから圧送されてきた高圧BHの液相媒体と、高温熱源から供給されてきた熱源温度TW1の高温熱源流体との熱交換により、吸熱側の液相媒体を蒸発(気化)させて圧力PH、温度THの高圧気相媒体とする。
低圧蒸発器23Lは、低圧ポンプ21Lから圧送されてきた低圧BLの液相媒体と、高圧蒸発器23Hから供給されてきた熱源温度TW2の高温熱源流体との熱交換により、吸熱側の液相媒体を蒸発(気化)させて圧力PL、温度TLの低圧気相媒体とする。すなわち、高温熱源から供給される高温熱源流体の流路は、高温蒸発器23Hと低温蒸発器23Lとが直列に接続されており、低圧蒸発器23Lでは、高温蒸発器23Hにおける熱交換で熱源温度がTW1からTW2に低下した高温熱源流体を導入して熱交換に使用する。
【0022】
高圧蒸発器23Hから供給される高圧気相媒体及び低圧蒸発器23Lから供給される低圧気相媒体は、複圧式ラジアルタービン25内で膨張してエネルギーを放出する。複圧式ラジアルタービン25では、高圧気相媒体及び低圧気相媒体から放出されたエネルギーがタービンを回転駆動させて回転動力に変換される。なお、2圧式バイナリー発電Bbにおいて、複圧式ラジアルタービン25の回転動力は、発電機29を駆動して発電する駆動力となる。
【0023】
この複圧式25は、高圧気相媒体を膨張させてエネルギーを回転動力に変換させる高圧タービンと、低圧気相媒体を膨張させてエネルギーを回転動力に変換させる低圧タービンとを一体化した構成の2圧式ラジアルタービンで構成されるエキスパンジョンタービンである。
複圧式ラジアルタービン25内で膨張して仕事をした高圧気相媒体及び低圧気相媒体は、いずれも温度及び圧力が低下した気相媒体となり、タービン内部で合流してタービン出口から凝縮器27へ導かれる。
【0024】
凝縮器27に導入された気相媒体は、低温熱源との熱交換により吸熱されるので、凝縮して液相媒体となる。この液相媒体は、高圧ポンプ21H及び低圧ポンプ21Lに導入されて各々異なる圧力まで昇圧され、以下同様の状態変化を繰り返しながらサイクル回路Cを循環する。
【0025】
このような2圧式バイナリー発電Bbでは、たとえば第1のフロンまたは代替フロン、次世代フロン、有機媒体等の熱媒体が使用可能である。
一方、熱源流体を加熱する側の高温熱源(第1の熱源)には、たとえばプラント等の排熱、余剰熱及び地熱等から供給され、温度レベルTW1で略一定の比熱を有する熱源流体が使用される。
また、凝縮器27で熱を吸収する側の温度レベルTCの低温熱源(第2の熱源)には、たとえば大気、河川水、海水等のように、大気温度の空気や常温の水等が使用される。
なお、海洋温度差発電においては、高温熱源として海洋表層の温水を使用し、低温熱源として深海の冷水を使用する。
【0026】
ここで、複圧式ラジアルタービン25の構成例として、2つの気相媒体導入圧力がタービン出口へ向けて順次低くなるように配置されている第1構成例を図5に基づいて説明する。
図示の複圧式ラジアルタービン25は、高圧タービン25Hを構成する高圧タービン入口251と、低圧タービン25Lを構成する低圧タービン入口253とを有し、1つの回転軸255に設けられた1つのラジアルタービンホイール257で構成される。このラジアルタービンホイール257は、ケーシング内に回転可能に支持されている。
なお、ラジアルタービンホイール257としては、ラジアルタービンホイールまたは斜流タービンホイールのいずれであってもよい。
【0027】
ラジアルタービンホイール257は、2つのタービンホイール入口、すなわち高圧タービンホイール入口259及び低圧タービンホイール入口261と、1つのタービン出口263とを有している。
高圧タービンホイール入口259は、半径R1に設けられている。また、低圧タービンホイール入口261は、ラジアルタービンホイール257内の流路を構成するタービン翼のシュラウドの一部から流れが流入できるように、高圧タービンホイール入口半径R1の半径より小さい半径R2(R1>R2)に設けられている。
【0028】
高圧タービンホイール入口259の半径方向外周には、高圧タービン入口251の流れに対してタービンホイール回転方向に旋回速度を与える高圧ノズル265が設けられている。同様に、低圧タービンホイール入口261の半径方向外周には、低圧タービン入口253の流れに対してタービンホイール回転方向に旋回速度を与える低圧ノズル267が設けられている。
すなわち、高圧タービン25Hでは、高圧タービン入口251から流入した高圧気相媒体が、高圧ノズル265を通過することにより旋回速度を増し、高圧タービンホイール入口259からラジアルタービンホイール257のタービン翼に向けて流出し、低圧タービン25Lでは、低圧タービン入口253から流入した低圧気相媒体が、低圧ノズル267を通過することにより旋回速度を増し、低圧タービンホイール入口261からラジアルタービンホイール257のタービン翼に向けて流出する。
【0029】
ラジアルタービンホイール257に噴射された高圧気相熱媒体及び低圧気相媒体は、タービン内部において高圧タービン入口から流入した熱媒体流量と低圧タービン入口から流入した熱媒体流量とが合流した後、ラジアルタービンホイール257の出口から流出してタービン出口263に流れ込む。このようにして複圧式ラジアルタービン25を通過した高圧気相熱媒体及び低圧気相媒体は、タービン内部で膨張することにより、ラジアルタービンホイール257を回転させて仕事をする。
そして、タービン出口263の下流には、熱媒体の熱を低温熱源に放出(放熱)して凝縮させる熱交換器の機能を有する凝縮器27が配置されている。
凝縮器27の下流には、液化した熱媒体を第1の熱交に供給する圧力まで昇圧する高圧ポンプ21Hと、熱媒体を第2の熱交に供給する圧力まで昇圧する低圧ポンプ21Lとを有している。
【0030】
上述した構成の2圧式バイナリー発電Bbは、2つの受熱過程と1つのラジアルタービンホイール257で2つの圧力を有する熱媒体を膨張させ、熱エネルギーを回転動力に変換する複圧式ラジアルタービン25を備えており、ランキンサイクルが構成されることにより、複圧式ラジアルタービン25から出力された回転動力は発電機29の回転動力源等に利用される。しかし、複圧式ラジアルタービン25の出力は、発電機29の回転動力源等に限定されることはない。
【0031】
図2は、上述した2圧式バイナリー発電BbのT−S線図である。このT−S線図において、サイクル回路Cを循環する熱媒体は、高圧サイクル及び低圧サイクルよりなる2圧式のランキンサイクルを流れる。
一方の高圧サイクルでは、液相媒体が高圧ポンプ21Hで高圧BHまで昇圧され、高温熱源が温度TW1から温度TW2に低下する際の放熱によって加熱される。この結果、液相媒体は、高圧熱媒体の飽和温度THまで昇温され、一定温度THで蒸発して気相媒体の蒸気になる。この気相媒体は、高圧PH及び高温THの蒸気となって高圧タービン25Hに流入し、凝縮圧力であるタービン出口圧力Pdまで膨張し、その際に気相媒体の保有するエネルギーが回転動力に変換される。
【0032】
また、低圧サイクルでは、液相媒体が低圧ポンプ21Lで低圧BLまで昇圧され、高圧媒体を加熱した後の高温熱源が温度TW2から温度TW3に低下する際の放熱によって加熱される。この結果、液相媒体は、低圧熱媒体の飽和温度TLまで昇温され、一定温度TLで蒸発して気相媒体の蒸気になる。この気相媒体は、低圧PL及び低温TLの蒸気となって低圧タービン25Lに流入し、凝縮圧力であるタービン出口圧力Pdまで膨張し、その際に気相媒体の保有するエネルギーが回転動力に変換される。
このような2つのサイクルを構成する高圧タービン25Hと低圧タービン25Lには、1台の複圧式ラジアルタービン25が使用されているので、それぞれの出力は1つのラジアルタービンホイール257によって回転動力に変換され、1つの回転軸255に出力される。
【0033】
図3は、2圧式バイナリーサイクル発電システムのタービン出力値について、単位高温熱源流量当たりの出力値(L/G)を高圧タービン入口圧力PH(横軸)に対して示したものである。なお、図中には、単圧式バイナリーサイクル発電システムの値についても、一点鎖線で併記されている。
図3によれば、2圧式バイナリーサイクルの出力値(L/G)は、単圧式バイナリーサイクルと互いの最高値を比較した場合、1割〜2割程度高いことを示している。この出力値(L/G)が最高になる圧力で2圧式バイナリー発電Bbを設計することになるため、ある温度及び流量の高温熱源がある場合には、2圧式サイクルを採用することで単圧式サイクルに比べて1割〜2割程度出力を増すことが可能になる。
【0034】
図4は、2圧式バイナリーサイクル発電システムの高温熱源について、出口温度T3を高圧タービン入口圧力(横軸)に対して示したものである。なお、図中には、単圧式バイナリーサイクル発電システムの値についても、一点鎖線で併記されている。
図4によれば、2圧式バイナリーサイクルの場合、図2に示す高温熱源出口温度T3を低くすることができるので、高温熱源の放出熱量を大きく設定可能であることが分かる。タービン出力は、高温熱源の出入口における温度差の値に、熱源流量と、熱媒体のランキンサイクルのサイクル効率を掛け合わせたものであり、従って、これを単位熱源流量当たりの値にしたものが図3である。
【0035】
このように、1つの高温熱源から熱を放出する過程を2段階に分けて、高温の領域を高圧蒸発器23Hで高圧熱媒体に熱を放出し、低温の領域を低圧蒸発器23Lで低圧熱媒体に熱を放出する2圧式のランキンサイクルを採用することにより、単圧サイクルにおける高温熱源の出口温度と比較して、さらに低温まで温度を変化させることができる。すなわち、上述した2圧式のランキンサイクルは、単圧サイクルと比較して、高温熱源が有する熱エネルギーをより多くランキンサイクルに与えることができる。
また、複圧式ラジアルタービン25は、上述した2圧式のランキンサイクルにおいて、高圧気相媒体及び低圧気相媒体を1つのタービンホイールで膨張させ、1つの回転軸に回転エネルギーを出力できる。そして、複圧式ラジアルタービン25での膨張により仕事をした高圧気相媒体及び低圧気相媒体は互いに合流するので、タービンホイール出口263では、気相の熱媒体(蒸気)を1つの出口から下流の凝縮器27に導くことができる。
【0036】
このように、2圧式バイナリーサイクルは、従来の単圧サイクルと比較して、1つの高温熱源で入口/出口の温度差を大きくして放出熱力を増すことができるので、熱源の単位流量当たりの回転エネルギーに変換できる割合を1割から2割程度大きくすることが可能になる。従って、2圧式バイナリーサイクルは、高温熱源の温度や流量が同じであれば、従来の単圧サイクルと比較して1割から2割程度多くの回転動力や電力を取り出すことができる。
【0037】
また、2圧式バイナリーサイクルを従来のタービンで構成する場合には、高圧タービン及び低圧タービンタービンが必要となり、2つのタービン及び2つのタービン出口が不可欠である。しかし、複圧式ラジアルタービン25を採用した2圧サイクルは、1つの回転軸255に設けられた1つのラジアルタービンホイール257で2つの圧力を持つ熱媒体から回転動力を取り出すことができるので、1つの回転軸255及びラジアルタービンホイール257と1つのタービン出口263とにより構成できるため、簡単なシステム構造が可能となる。
【0038】
ところで、上述した複圧式ラジアルタービン25は、以下図6に基づいて説明する第2構成例の構造を採用してもよい。この第2構成例は、2つの気相媒体導入圧力がタービン出口へ向けて順次高くなるように配置されたものである。
図示の複圧式ラジアルタービン45は、高圧タービン45Hを構成する高圧タービン入口451と、低圧タービン45Lを構成する低圧タービン入口453とを有し、1つの回転軸455に設けられた1つのタービンホイール457で構成される。なお、ラジアルタービンホイール457としては、ラジアルタービンホイールまたは斜流タービンホイールのいずれであってもよい。
【0039】
この複圧式ラジアルタービン45は、高圧タービン45Hがタービン出口側(下流側)に配設されている構成が上述した複圧式ラジアルタービン25と異なっており、図中の符号459が高圧タービンホイール入口、461が低圧タービンホイール入口、463がタービン出口、465が高圧ノズル、467が低圧ノズルである。
この場合、低圧タービンホイール入口461は、高圧タービンホイール457Hの背板部を貫通する流路を経由して、高圧タービンホイール457Hの背板469をはさんでタービン出口463と反対側に設けられている。また、低圧タービンホイール入口461の半径R2は、高圧タービンホイール入口459の半径R1より小さい値(R2<R1)に設定されている。
【0040】
このような複圧式ラジアルタービン45でも、高圧タービン入口451から流入した高圧気相媒体の流量と、低圧タービン入口453から流入した低圧気相媒体の流量とが合流した後、ラジアルタービンホイール457のタービン出口463から流出し、下流に設置された凝縮器27に導かれて熱媒体の熱を低温熱源に放出する。
【0041】
従って、複圧式ラジアルタービン45を採用した構成のバイナリー発電においても、1つの高温熱源から熱を放出する過程を2段階に分けて、高温の領域を高圧蒸発器23Hで高圧熱媒体に熱を放出し、低温の領域を低圧蒸発器23Lで低圧熱媒体に熱を放出する2圧式のランキンサイクルを採用することにより、単圧サイクルにおける高温熱源の出口温度と比較して、さらに低温まで温度を変化させることができる。すなわち、上述した2圧式のランキンサイクルは、単圧サイクルと比較して、高温熱源が有する熱エネルギーをより多くランキンサイクルに与えることができる。
【0042】
また、複圧式ラジアルタービン45は、上述した2圧式のランキンサイクルにおいて、高圧気相媒体及び低圧気相媒体を1つのタービンホイールで膨張させ、1つの回転軸に回転エネルギーを出力でき、しかも、複圧式ラジアルタービン45での膨張により仕事をした高圧気相媒体及び低圧気相媒体は互いに合流するので、タービンホイール出口463では、気相の熱媒体(蒸気)を1つの出口から下流の凝縮器27に導くことができる。
【0043】
従って、複圧式ラジアルタービン45を用いた2圧式バイナリーサイクルは、従来の単圧サイクルと比較して、高温熱源の温度や流量が同じであれば多くの回転動力や電力を取り出すことができる。
また、複圧式ラジアルタービン45を採用した2圧式のランキンサイクルは、1つの回転軸455に設けられた1つのラジアルタービンホイール457で2つの圧力を持つ熱媒体から回転動力を取り出すことができるので、1つの回転軸455及びラジアルタービンホイール457と1つのタービン出口463とにより構成できるため、簡単なシステム構造が可能となる。
【0044】
このような複圧式ラジアルタービン発電システムは、各種産業用プラントから高温、高圧の流体で排出される排出エネルギーの動力回収、船舶や車両用の動力源等の熱サイクルを経由して動力を得るシステムの排熱回収、そして、地熱・海洋温度差発電(OTEC)等の中低温熱源を利用するバイナリーサイクル発電の動力回収等において、これらの有する中低温・高温、高圧の流体からエネルギーを回転動力に変換する発電システムに適用可能である。
また、上述した実施形態では、サイクル回路Cにおいて、熱媒体が異なる2種類の圧力及び温度で循環して液体及び気体の状態変化を繰り返すものとしたが、熱媒体が異なる複数(2種類以上)の温度や圧力で循環するように構成されてもよい。
【0045】
このように、上述した本実施形態の複圧式ラジアルタービン発電システムによれば、熱媒体の蒸発温度を複数(2以上)設定したバイナリーサイクルを容易な構造で実現可能になり、この結果、バイナリー発電システムの高効率化及び低コスト化を実現することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、たとえば複圧式ラジアルタービンの出力を発電機以外の駆動に使用するなど、その要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0046】
21H 高圧ポンプ
21L 低圧ポンプ
23H 高圧蒸発器
23L 低圧蒸発器
25,45 複圧式ラジアルタービン
25H,45H 高圧タービン
25L,45L 低圧タービン
27 凝縮器
29 発電機
251,451 高圧タービン入口
253,453 低圧タービン入口
255,455 回転軸
257,457 ラジアルタービンホイール
259,459 高圧タービンホイール入口
261,461 低圧タービンホイール入口
263,463 タービン出口
265,465 高圧ノズル
267,467 低圧ノズル
Bb 2圧式バイナリーサイクル発電システム(2圧式バイナリー発電)
C サイクル回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入した液相熱媒体を各々異なる圧力に昇圧させる複数台のポンプと、該ポンプから各々送出された液相熱媒体を第1の熱源から吸熱して気化させる複数台の蒸発器と、該蒸発器から各々供給された圧力及び温度の異なる気相熱媒体を膨張させて出力を得る1台の複圧式ラジアルタービンと、該複圧式ラジアルタービンで膨張した気相熱媒体を前記第1の熱源より低温となる第2の熱源に放熱して凝縮させる凝縮器とを備え、熱媒体が気液の状態変化を繰り返して循環するサイクル回路を形成したことを特徴とする複圧式ラジアルタービンシステム。
【請求項2】
前記第1の熱源の流路は、複数台設けられている前記蒸発器を直列に接続して、前記ポンプから送出される液相媒体の高圧側から低圧側に流すことを特徴とする請求項1に記載の複圧式ラジアルタービンシステム。
【請求項3】
前記複圧式ラジアルタービンがケーシング内で回転する1つのタービンホイールを備え、該タービンホイールは、気相媒体を半径方向から異なる圧力で導入する複圧式ラジアルタービンまたは斜流タービンであり、複数のタービン入口と、膨張した気相媒体を軸方向に吐出する1つのタービン出口とを備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の複圧式ラジアルタービンシステム。
【請求項4】
前記タービン入口は、複数の気相媒体導入圧力が前記タービン出口へ向けて順次低くなるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の複圧式ラジアルタービンシステム。
【請求項5】
前記タービン入口は、複数の気相媒体導入圧力が前記タービン出口へ向けて順次高くなるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の複圧式ラジアルタービンシステム。
【請求項6】
前記複圧式ラジアルタービンが発電機を駆動して発電することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の複圧式ラジアルタービンシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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