説明

複数の塩基多型の同定方法

【課題】本発明の目的は、明確にかつ再現性よく核酸配列中の複数の多型を検出することができる方法及びそのための試薬を提供することである。
【解決手段】標的核酸配列上の塩基部位(X)及び塩基部位(Y)の判定を、塩基部位(X)を含む少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー(A)とオリゴヌクレオチドプライマー(B)とを用いて増幅反応を行う第一工程と、判定したい塩基部位(Y)を含む塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物とプライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめる第二工程と、複合体(P)を検出する第三工程とを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー、および核酸の伸長反応が起こりうる形態のオリゴヌクレオチドプローブを用いた塩基多型の同定方法に関するものである。本発明は、遺伝病の診断、塩基多型解析等に際して特に有用である。
【背景技術】
【0002】
本発明において、塩基多型とは野生型とは異なる塩基配列を有することをいう。遺伝子の塩基多型は薬物代謝において副作用および治療失敗の発生において個体間変動の原因として重要な役割を果たし、体質として知られる基礎代謝等の個人差の原因としても知られている。その上、これらは多数の疾患の遺伝マーカーとしての働きもする。それゆえ、これら突然変異の解明は臨床的に重要であり、ルーチンの表現型分類が臨床研究における精神医学患者および自発志願者にとって特に推奨される(非特許文献1、非特許文献2)。また、原因となる変異型遺伝子の同定に続くそれぞれの遺伝子型の検出用の核酸配列分析法が所望される。
【0003】
従来の核酸配列分析技術としては、例えば核酸配列決定法(シークエンシング法)がある。核酸配列決定法は核酸配列中に含まれる塩基多型を検出、同定することができるが、鋳型核酸の調製、DNAポリメラーゼ反応、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、核酸配列の解析等を行うため多大な労力と時間が必要である。また近年の自動シークエンサーを用いることで省力化は行うことができるが、高価な装置が必要であるという問題がある。
【0004】
一方、遺伝子の点突然変異により引き起こされる遺伝病が種々知られており、それらの中には、遺伝子のどの部位がどのように点突然変異することにより遺伝病が引き起こされるかわかっているものも少なくない。
【0005】
このような予想される点突然変異を検出する方法として、従来より、PCR(polymerase chain reaction)法(例えば、特許文献1及び2参照)などの遺伝子増幅法を利用した遺伝子の点突然変異の検出方法が知られている。増幅された遺伝子断片に対し、特定の核酸配列を切断する制限酵素により処理し、生じるフラグメントの大きさで判断する方法(PCR−RFLP)法が用いられている。同じくPCR法を用いた検出方法としては、使用するプライマーの特異性を利用したAlelle specific amplification法が用いられる。この方法では、遺伝子増幅法に用いる一対のオリゴヌクレオチドのうちの一方のオリゴヌクレオチドとして、野生型遺伝子の増幅領域の端部領域に完全に相補的な野生型用オリゴヌクレオチドと、変異型遺伝子の増幅領域の端部領域に完全に相補的な変異型用オリゴヌクレオ チドとを用いる。変異型のオリゴヌクレオチドは、その3’末端が予想される点突然変異を起こしたヌクレオチドに相補的なヌクレオチドになっている。このような野生型及び変異型用オリゴヌクレオチドをそれぞれ別個に用いて試料遺伝子を遺伝子増幅法に供する。
【0006】
試料遺伝子が野生型であれば、野生型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には核酸の増幅が起きるが、変異型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には、オリゴヌクレオチドの3’末端が試料遺伝子の対応ヌクレオチドと相補的ではない(ミスマッチ)ので伸長反応が起きず、核酸の増幅は起きない。一方、試料遺伝子が変異型であれば、逆に、野生型用オリゴヌクレオチドを用いた場合には増幅が起きず、変異型用オリゴヌクレオチドを用いた場合に増幅が起きる。従って、各オリゴヌクレオチドを用いた場合に増幅が起きるか否かを調べることにより、試料遺伝子が野生型か変異型かを判別することができ、それによって試料遺伝子中の点突然変異を同定することができる。この時増幅が起きたか否かを調べる方法として、増幅産物をアガロースゲル電気泳動した後、エチジウムブロマイド等の核酸特異的結合蛍光試薬を用いて染色の後、UV照射して増幅核酸の有無を検出できる。
【0007】
上記のような方法により増幅核酸を検出し、容易に多型の同定が行えるように思われるが、実際には、非特異的な核酸増幅が起こり試料遺伝子が野生型か変異型かを明確に判別できない場合もある。また上記の塩基多型同定方法では1箇所の塩基多型を同定するために通常1回または2回の核酸増幅を行う必要があり、特に遺伝病の原因となる点突然変異が遺伝子の複数の部位で起こっている場合には上記一連の操作を複数回行わなければならいため、遺伝子の塩基多型を同定するためにより大きな労力が必要となる。
【0008】
試料中に存在する特定の核酸分子を検出するための他の代表的な技術としては、ハイブリダイゼーション法がある(例えば、非特許文献3参照)。核酸のハイブリダイゼーション分析は、多種類の核酸の中から非常に少数の標的核酸(DNAやRNA)をプローブで検出する技術であるが、ハイブリダイゼーション法では、高感度なレポーター(酵素、蛍光色素、ラジオアイソトープ等)を用いても、低コピー数(1〜1000個)の標的核酸分子を検出するのは困難である。さらに、ハイブリダイゼーション法には、非特異反応という大きな問題点が存在するため、特定の核酸分子を正確に検出する為には担体のブロッキング、非特異シグナルの除去等の操作が不可欠であり、多大な労力が必要となる。
【0009】
また、過去において非特異反応の問題を解決するための方法として、標的核酸より調製した標識DNAに、同様に調製した非標識DNAを添加して非特異反応を抑制するコンペティティブハイブリダイゼーション法(例えば、特許文献3、非特許文献4参照)が開発された。しかしコンペティティブハイブリダイゼーション法は操作が煩雑であり、また検出感度の面でも十分とはいえないため、特に遺伝病の診断、塩基多型解析等には適用できない。
【特許文献1】特公平4−67960号公報
【特許文献2】特公平4−67957号公報
【特許文献3】特許第2982304号公報
【非特許文献1】GramおよびBrsen, European Consensus Conference on Pharmacogenetics. Commission of the European Communities, Luxembourg, 第87〜96頁(1990年)
【非特許文献2】Balantら、Eur. J. Clin. Pharmacol. 第36巻、第551〜554頁、(1989年)
【非特許文献3】Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition、第10章、第10.1〜10.52頁(2001年)
【非特許文献4】Nicolasら、Anal. Biochem. 第205巻、第193頁、(1992年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決して、明確にかつ再現性よく核酸配列中の多型を検出することができる方法及びそのための試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記事情に鑑み、鋭意研究の結果、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
1.少なくとも以下の(1)〜(3)の工程を含む方法で、試料溶液中に含まれる標的核酸配列上の少なくとも1種類以上の塩基部位(X)及び少なくとも1種類以上の塩基部位(Y)の判定を行うことを特徴とする塩基判定方法。
(1)第一のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(X)を含む少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー(A)と、該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマー(B)と、を用いて標的核酸配列から増幅反応を行う第一工程、
(2)第一工程で得られうるプライマー(A)の伸長産物と、第二のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(Y)を含むオリゴヌクレオチドであって該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)とをハイブリダイズさせ、該プライマー(A)の伸長産物を鋳型として伸長反応を行い、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物と該プライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめる第二工程、
(3)第二工程で得られうる該複合体(P)中に、第一のリガンドと第二のリガンドが共存しているかどうかを検出する第三工程。
2.オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端から2番目以降の少なくとも一つのヌクレオチドがリガンドにより標識されていることを特徴とする1に記載の塩基判定方法。
3.オリゴヌクレオチドプローブ(D)の5’末端が第二のリガンドにより標識されていることを特徴とする1または2の塩基判定方法。
4.判定したい塩基部位(Y)の塩基の種類により、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の配列がそれぞれ異なることを特徴とする1〜3のいずれかの塩基判定方法。
5.オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端の塩基が判定したい塩基部位(Y)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする1〜4のいずれかの塩基判定方法。
6.オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端より2番目の塩基が判定したい塩基部位(Y)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする1〜4のいずれかの塩基判定方法。
7.オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端より3から5番目の少なくとも1つの塩基が鋳型となる核酸配列と相補的または相同的でない塩基に置換されていることを特徴とする5または6の塩基判定方法。
8.判定したい塩基部位(X)の塩基の種類により、プライマー(A)の配列がそれぞれ異なることを特徴とする1〜7のいずれかの塩基判定方法。
9.プライマー(A)の3’末端より2番目の塩基が判定したい塩基部位(X)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする1〜8のいずれかの塩基判定方法。
10.プライマー(A)の3’末端より3から5番目の少なくとも1つの塩基が鋳型となる核酸配列と相補的または相同的でない塩基に置換されていることを特徴とする9の塩基判定方法。
11.第一工程において、オリゴヌクレオチドプローブ(D)が存在していることを特徴とする1〜10のいずれかの塩基判定方法。
12.オリゴヌクレオチドプライマー(A)およびオリゴヌクレオチドプライマー(B)のTm値より、オリゴヌクレオチドプローブ(D)のTm値が低いことを特徴とする1〜11のいずれかの塩基判定方法。
13.第一のリガンドが抗原、抗体、蛍光物質、発光団および酵素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする1〜12のいずれかの塩基判定方法。
14.第二のリガンドが抗原、抗体、蛍光物質、発光団および酵素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする1〜12のいずれかの塩基判定方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、試料核酸中の複数の塩基多型を明確にまた簡便に、再現性よく検出できる方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において「試料溶液」とは、標的核酸配列すなわち解析の対象となる塩基多型部位を含む染色体又はその断片に相補的な配列を有する核酸を含む溶液を指し、例えば、バクテリア、動物または植物組織、個体細胞由来の溶解物などのあらゆる材料から調製することができる。該試料溶液の調製法は特に限定されないが、例えば、患者の血液、組織から、既知の方法により調製してもよい。代表的なものとして、フェノール/クロロホルム抽出法(Biochimica et Biophysica acta 第72巻、第619〜629頁、1963年)、アルカリSDS法(Nucleic Acid Research 第7巻、第1513〜1523頁、1979年)等の液相で行う方法がある。また、核酸の単離に核酸結合用担体を用いる系としては、ガラス粒子とヨウ化ナトリウム溶液を使用する方法(Proc. Natl. Acad. USA 第76−2巻、第615〜619頁、1979年)、ハイドロキシアパタイトを用いる方法(特開昭63−263093号公報)等がある。その他の方法としてはシリカ粒子とカオトロピックイオンを用いた方法(J. Clinical Microbiology 第28−3巻、第495〜503頁、1990年、特開平2−289596号公報)が挙げられる。
【0015】
本発明において「標的核酸配列」とは、標的核酸すなわち解析の対象となる塩基多型部位を含む核酸の配列を指す。該標的核酸の例としては、Alu配列、リボゾーム遺伝子、蛋白質をコードする遺伝子のエキソンやイントロン、プロモーターなどが例示できる。より具体的には、遺伝病を含む各種疾患、薬物代謝、生活習慣病(高血圧、糖尿病等)に関連する遺伝子が挙げられる。例えば、薬物代謝に関連する遺伝子としてCYP2C19 (Cytochrome P450 2C19)遺伝子が挙げられる。
【0016】
本発明において「塩基多型」とは、核酸が野生型とは異なる塩基配列を有することをいう。野生型の塩基配列を有する野生型核酸のうち少なくとも1つ、好ましくは1つのヌクレオチドが点突然変異して他のヌクレオチドに置換されているものや、該野生型核酸の一部に挿入、欠失配列等を含む核酸、すなわち変異型核酸について、どの部位のヌクレオチドが変異しているかが解明されてきている。また、このような塩基多型により体質等が異なっていることも解明されてきており、本発明の方法は試料中の核酸がこのような予想される変異を有しているか否かを検査する方法である。
【0017】
「塩基部位(X)」および「塩基部位(Y)」とは、それぞれ該塩基多型のうち検査の対象として判定しようとする塩基部位を示す。該塩基部位(X)および(Y)は同一の核酸上の異なる塩基部位であることが好ましく、同一の遺伝子上の異なる塩基部位であることがより好ましい。判定しようとする塩基部位の一例として、CYP2C19遺伝子では636番目の塩基(GからAへの変異)および681番目の塩基(GからAへの変異)の多型が薬物代謝に影響することが知られている。
【0018】
本発明において、第一のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(X)を含む少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー(A)、および、該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマー(B)とは、対象となる核酸配列を含む染色体又はその断片に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドであって、既知の増幅方法であるPCR、NASBA、LCR、SDA、RCA、TMA、LAMP、ICANおよびUCAN法に使用でき、増幅された核酸断片が判定したい塩基部位(Y)を含みうるものであれば特に限定されるものではなく、必要に応じて修飾されていても良い。一例として、該プライマー(A)が塩基部位(X)を含むセンスプライマーである場合は該プライマー(B)が該塩基部位(X)および(Y)の下流領域に相補的なアンチセンスプライマーであり、他の一例として、該プライマー(A)が該塩基部位(X)を含むアンチセンスプライマーである場合は該プライマー(B)が該塩基部位(X)および(Y)の上流領域に相同的なセンスプライマーであることが好ましい。プライマー鎖長は、9〜35塩基であればよく、好ましくは、11〜30塩基である。該プライマーは検出したい核酸配列に応じて、複数混在していても良い。例えば、判定したい塩基部位(X)が複数箇所存在する場合、所望により、プライマー(A)および/またはプライマー(B)を複数、混在させてもよい。複数のプライマーを使用し、一つの反応系で増幅反応を行うことができる。複数のプライマー(A)を混合して用いる場合、第一のリガンドの種類を変えても良い。
【0019】
本発明において、第一のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(X)を含む少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー(A)および第二のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(Y)を含むオリゴヌクレオチドであって該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長方法は、基本的には、従来の方法を用いて行うことができる。通常、一本鎖に変性させた特定の塩基多型部位を含む染色体又はその断片に、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)及びDNAポリメラーゼを共に、作用させることで、標的核酸を鋳型としてオリゴヌクレオチドが伸長する。
【0020】
該伸長反応は、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Third Edition (Sambrookら、第8章、第8.1〜8.126頁、2001年)に記載の方法に従って行うことができる。また、標的核酸が検出するのに十分な量が含まれていない場合、予め前記判定したい塩基部位(X)および(Y)を含む核酸断片を以下に示す増幅反応によって、増幅しておくことも可能である。
【0021】
本発明において、特定の塩基多型部位を含む染色体又は断片の増幅方法も、基本的には、従来の方法を用いて行うことができ、通常、一本鎖に変性させた特定の塩基多型部位を含む染色体又はその断片に、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)及びDNAポリメラーゼ及びオリゴヌクレオチドプライマー(A)および(B)を作用させることで、標的核酸を鋳型として用いたオリゴヌクレオチドプライマー間の配列が増幅される。
【0022】
核酸増幅方法としては、PCR、NASBA(Nucleic acid sequence-basedamplification method;Nature 第350巻、第91頁(1991年))、LCR(国際公開89/12696号公報、特開平2−2934号公報)、SDA(Strand Displacement Amplification:Nucleic acid research 第20巻、第1691頁(1992年))、RCA(国際公開90/1069号公報)、TMA(Transcription mediated amplification method;J.Clin.Microbiol. 第31巻、第3270頁(1993年))、LAMP(loop-mediated isothermal amplification method:J Clin Microbiol. 第42巻:第1,956頁(2004年))、ICAN(isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids:Kekkaku. 第78巻、第533頁(2003年))などが挙げられる。
【0023】
なかでもPCR法は、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、一対のオリゴヌクレオチド及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返すことにより、上記一対のオリゴヌクレオチドプライマーで挟まれる試料核酸の領域を指数関数的に増幅させる方法である。すなわち、変性工程で試料の核酸を変性し、続くアニーリング工程において各オリゴヌクレオチドプライマーと、それぞれに相補的な一本鎖試料核酸上の領域とをハイブリダイズさせ、続く伸長工程で、各オリゴヌクレオチドプライマーを起点としてDNAポリメラーゼの働きにより鋳型となる各一本鎖試料核酸に相補的なDNA鎖を伸長させ、二本鎖DNAとする。この1サイクルにより、1本の二本鎖DNAが2本の二本鎖DNAに増幅される。従って、このサイクルをn回繰り返せば、理論上、上記一対のオリゴヌクレオチドプライマーで挟まれた試料DNAの領域は2のn乗倍に増幅される。増幅されたDNA領域は大量に存在するので、電気泳動等の方法により容易に検出できる。よって、遺伝子増幅法を用いれば、従来では検出不可能であった、極めて微量(1分子でも可)の試料核酸をも検出することが可能であり、最近非常に広く用いられている技術である。
【0024】
本発明の重要な開示の別の一つは、オリゴヌクレオチドプライマー(A)の伸長産物に、判定したい塩基部位(Y)を含むオリゴヌクレオチドであって該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)をハイブリダイズさせる場合に、該プライマー(A)の伸長産物を鋳型とする伸長反応を行って該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物と該プライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめることによって、核酸配列中の複数の多型を明確にかつ再現性よく検出することができるような顕著な効果を見出したことにある。
【0025】
本発明に用いられる「第二のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(Y)を含むオリゴヌクレオチドであって該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)」は、好適には該プライマー(A)の伸長産物のうち該塩基部位(Y)を含む部分に相補的なオリゴヌクレオチドにリガンドが結合されたもの、より好適には、オリゴヌクレオチドプライマー(A)および(B)を用いて増幅した核酸断片のうちの該プライマー(A)の伸長産物のうち該塩基部位(Y)を含む部分に相補的なオリゴヌクレオチドにリガンドが結合されたものを用いることができ、上記プローブ(D)の伸長反応を阻害しない位置にリガンドを結合させることが好ましい。該リガンドを結合させる位置としては、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端から2番目以降の少なくとも一つのヌクレオチドにリガンドを結合させることが好ましく、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の5’末端にリガンドを結合させることがより好ましい。
【0026】
また、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)は、3’末端より1番目または2番目の塩基が、判定したい塩基部位(Y)の位置に相当するように設計するのがよい。好ましくは、2番目の塩基が、該塩基部位(Y)の位置に相当するように設計するのがよい。また、本発明の効果を損なわないように、3’末端より3番目や3番目以降の塩基を該塩基部位(Y)の位置に相当するように設計してもよい。さらに、3’末端より3から5番目の少なくとも1つの塩基が、鋳型となる核酸配列と相補的でない塩基に置換させることによって、該塩基部位(Y)が存在した場合、より選択的に該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長反応が起こりうるようにしてもよい。該オリゴヌクレオチドプローブの鎖長は、5〜25塩基であればよく、好ましくは、10〜20塩基である。
【0027】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)は判定したい塩基部位(Y)に応じて、複数混在していても良い。例えば、野生型を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(D)と、変異型を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(D)を混合して用いてもよい。オリゴヌクレオチドプローブ(D)を混合して用いる場合、第二のリガンドの種類を変えても良い。
【0028】
また、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)は、オリゴヌクレオチドプライマー(A)および(B)を用いた増幅反応を阻害しないように設計するのがよい。その一例として、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)のTm値を該プライマー(A,B)のTm値より低くなるように設計すればよい。
【0029】
オリゴヌクレオチドプライマーのTm値は、ハイブリッドを形成した2本鎖DNA分子の50%が乖離する温度のことであり、その計算方法としては、既知の方法であれば特に限定されないが、Nearest neighbor method、Wallace法、GC%法のいずれかにより求められたもので、本発明の特性を満たしていることが必要である。なお、特に好ましいTm値はNearest neighbor methodで計算されたものである。該オリゴヌクレオチドプローブ(D)および該プライマー(A,B)におけるTm値の差は1℃以上であれば特に限定されるものではないが、好ましくは5℃以上である。なお、Tm値の差は50℃以下であればよく、好ましくは40℃以下がよい。プローブ鎖長は、5〜30塩基であればよく、好ましくは、8〜25塩基である。
【0030】
本発明においては、第一のリガンドが結合した少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマー(A)と第二のリガンドが結合しておりかつ該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)は、別々、又は同時に作用させることが可能である。
【0031】
別々に作用させる場合には、一例として、上記オリゴヌクレオチドプライマー(A)および(B)を用いて増幅反応を行った後に該オリゴヌクレオチドプローブ(D)を加え、98℃、3分の熱変性を行ってから徐々に室温付近まで温度を下げることができる。
【0032】
同時に作用させる場合には、一例として、上記オリゴヌクレオチドプライマー(A)、(B)および該オリゴヌクレオチドプローブ(D)を混合した状態で増幅反応を行い、増幅反応に引き続いて98℃、3分の熱変性を行ってから徐々に室温付近まで温度を下げることができる。
【0033】
核酸増幅法から複合体(P)を形成せしめるまでは、ホモジニアスな系で実施しても良い。例えば、試料核酸、4種類のデオキシヌクレオシド三リン酸、プライマー(A)、プライマー(B)、検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)及び耐熱性DNAポリメラーゼの存在下で、変性、アニーリング、伸長の3工程からなるサイクルを繰り返し、核酸増幅反応を行う。その後、98℃、3分の熱変性を行ってから徐々に室温付近まで温度を下げ、検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)とプライマー(A)の伸長産物をハイブリダイズせしめる。その後、反応系に存在する耐熱性DNAポリメラーゼにより、プライマー(A)の伸長産物を鋳型として検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長反応を行い、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物とプライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめる。その後、複合体(P)の検出を行えばよい。
【0034】
使用される第一リガンドと第二のリガンドは核酸配列の検出を妨げるものでないのであれば、特に限定されるものではないが、好適には抗原、抗体、蛍光物質、発光団、および酵素、アビジン、ビオチン、ジゴケシゲニン、ジニトロフェニルからなる群から選ぶことができる。好ましくは、抗原、蛍光物質、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェニルなどが良く、特に好ましくは抗原、蛍光物質、ビオチン、ジゴキシゲニン、ジニトロフェニルが良い。本発明を実施するにあたって、第一リガンドと第二のリガンドが異なっていることが好ましい。一例として、第一リガンドにFITC、第二のリガンドにビオチンを用いてもよい。
【0035】
また、他の一例として、判定したい塩基部位(X)について、野生型を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー(A)の第一リガンドとしてFITC、変異型を検出するためのオリゴヌクレオチドプライマー(A)の第一リガンドとしてジゴキシゲニンを使用し、判定したい塩基部位(Y)について、野生型を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(D)の第二リガンドとしてビオチン、変異型を検出するためのオリゴヌクレオチドプローブ(D)の第二リガンドとしてジニトロフェニルを使用することにより、検出された第一および/または第二リガンドの組み合わせから塩基部位(X)および(Y)の多型を同時に同定することができる。
【0036】
本発明の重要な開示の一つは、第一工程で得られうるプライマー(A)の伸長産物に、オリゴヌクレオチドプローブ(D)をハイブリダイズさせる場合に、プライマー(A)の伸長産物を鋳型とする伸長反応を行ってオリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物とプライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめることによって、従来公知の伸長反応を行わないハイブリダイゼーション法と比較して複合体(P)の生成量が大幅に向上し、塩基多型を明確にまた簡便に同定できるような顕著な効果を見出したことにある。
【0037】
この原理は、オリゴヌクレオチドプローブ(D)と「プライマー(A)の伸長産物」の複合体を(p’)とすると、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物と「プライマー(A)の伸長産物」の複合体(P)の方が、複合体(p’)より、はるかに安定であることに由来する。一般に、「第一工程で得られうるプライマー(A)の伸長産物」を含む二本鎖核酸の方がオリゴヌクレオチドプローブ(D)よりはるかに長いため、該二本鎖核酸の変性により形成された一本鎖核酸同士がハイブリダイズして元の二本鎖核酸を形成する反応の方が、該一本鎖核酸の一方すなわち「プライマー(A)の伸長産物」に該オリゴヌクレオチドプローブ(D)がハイブリダイズして複合体(p’)を形成する反応よりはるかに優勢である。該オリゴヌクレオチドプローブ(D)を「プライマー(A)の伸長産物」にハイブリダイズさせ、該伸長産物を鋳型として伸長させることによって形成された該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物の方が、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)よりはるかに長いため、複合体(P)の方が複合体(p’)よりはるかに大量に存在しうる。また、伸長反応とは、換言すれば一本鎖核酸を鋳型とした相補鎖の合成によって合成二本鎖核酸を形成せしめる反応であり、該合成反応は、二本鎖核酸の変性により形成された一本鎖核酸同士がハイブリダイズして元の二本鎖核酸を形成する反応よりはるかに優勢であることからも、プライマー(A)の伸長産物を鋳型とするオリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長反応によって複合体(P)の生成量が大幅に向上し、該複合体(P)は複合体(p’)よりはるかに大量に存在しうる。
【0038】
従って標的核酸配列上の塩基部位(Y)の有無は、複合体の検出シグナルとなって反映される。塩基部位(Y)が存在すれば、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物がえられ、複合体(P)の生成量が増えるため高いシグナルが得られる。逆に、塩基部位(Y)が存在しなければ、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物が得られないため、複合体(P)が生成されず、シグナルが得られないか、若しくはごく少数の複合体(p’)に起因する極度に低いシグナルとなる。ごく少数の複合体(p’)に起因する極度に低いシグナルが観察される場合には、カットオフ値を設定してもよい。カットオフ値は対象とする塩基部位(Y)毎に設定してもよい。カットオフ値の設定は、当業者であれば、容易に設定できる。
【0039】
本発明では、形成された複合体(P)中に、第一のリガンドと第二のリガンドが共存することを確認できればよい。例えば、第一および第二のいずれか一方のリガンドを該複合体(P)を固相上に捕捉するための捕捉用リガンドとして用い、他方のリガンドを該固相上に捕捉された複合体(P)を検出するための検出用リガンドとして用いることができる。一例として、検出用リガンドとして蛍光物質を使用し、捕捉用リガンドの捕捉剤が結合した固相上に捕捉された複合体(P)に含まれる蛍光物質が発する蛍光を検出しても良い。また、他の一例として、検出用リガンドに結合できかつ標識されてなる少なくとも1種類の生理活性物質を、複合体(P)を介して、捕捉用リガンドの捕捉剤が結合した固相上に捕捉し、その複合体(P)を介して固相上に捕捉された該生理活性物質の標識を検出しても良い。
【0040】
すなわち、第一および第二のいずれか一方のリガンドを複合体(P)を固相上に捕捉するための捕捉用リガンドとして用い、他方のリガンドを該固相上に捕捉された複合体(P)を検出するための検出用リガンドとして用いてもよい。
そして、第三工程が、少なくとも以下の(i)及び(ii)の工程を含んでいてもよい。
(i)検出用リガンドに結合できかつ標識されてなる少なくとも1種類の生理活性物質を、複合体(P)を介して、捕捉用リガンドの捕捉剤が結合した固相上に捕捉する工程、
(ii)該複合体(P)を介して固相上に捕捉された該生理活性物質の標識を検出する工程。
さらに、捕捉用リガンドの捕捉剤が抗体、オリゴヌクレオチド、レセプター、核酸特異的結合物質及びアビジンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上であってもよい。
さらに、生理活性物質が抗体、オリゴヌクレオチド、レセプター、核酸特異的結合物質およびアビジンからなる群より選ばれた少なくとも1種以上であってもよい。
さらに、生理活性物質に結合される標識が、蛍光化学物質、発光団、酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、磁性体および導電性物質からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であってもよい。
【0041】
固相としては金属板、木片、プラスチック板、ガラス板、ゴム板、発泡スチロール、フィルム、膜、通液性フィルター、ゲルなど、あらゆるものが使用できるが、膜、通液性フィルターが好ましい。必要に応じて、固相の表面および/または内部がリガンドの捕捉剤を補足可能な形態に修飾されていても良い。
【0042】
リガンドの捕捉剤としては、抗体、オリゴヌクレオチド、レセプター、核酸特異的結合物質、アビジン、ビオチン、ジゴケシゲニンより適宜選択することが可能である。好ましくは抗体、アビジンがよく、特に好ましくはアビジンがよい。例えば、リガンドがビオチンの場合、リガンドの捕捉剤はアビジンであれば良い。
【0043】
用いられる生理活性物質は検出用リガンドに親和性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、好適には抗体、オリゴヌクレオチド、レセプター、核酸特異的結合物質、アビジン、ビオチン、ジゴケシゲニンよりなる群より選ぶことができる。好ましくは抗体、アビジンがよく、特に好ましくは抗体がよい。例えば、検出用リガンドがFITCの場合、生理活性物質は抗FITC抗体であればよい。
【0044】
検出用リガンド、捕捉用リガンド、捕捉用リガンドの捕捉剤及び検出用リガンドに結合する生理活性物質を選択する場合、検出用リガンドと検出用リガンドに結合する生理活性物質は結合でき、検出用リガンドと捕捉用リガンドの捕捉剤は結合できないように選択するのがよい。また、捕捉用リガンドと捕捉用リガンドの捕捉剤は結合でき、捕捉用リガンドと検出用リガンドに結合する生理活性物質は結合できないように選択するのがよい。
【0045】
生理活性物質に結合される標識としては、蛍光化学物質、発光団、酵素、蛍光蛋白質、発光蛋白質、磁性体、導電性物質よりなる群より選ぶことができる。好ましくは蛍光化学物質、蛍光蛋白質、発光団、酵素、導電性物質がよく、さらに好ましくは蛍光化学物質、蛍光蛋白質、酵素がよく、特に好ましくは酵素がよい。この標識は、検出用リガンド、捕捉用リガンド、捕捉用リガンドの捕捉剤及び検出用リガンドに結合する生理活性物質のいずれとも結合しない物質が好ましい。
【0046】
標識の検出は既知の方法であれば特に限定されるものではないが、標識が蛍光化学物質または蛍光蛋白質の場合、特定波長の光を照射し蛍光化学物質または蛍光蛋白質を励起させ、基底状態に変換される際に生じる特定波長の蛍光量を測定することが可能である。これらに用いられる蛍光化学物質としては、FITC、FAM、TAMRA、TexasRed、VIC、Cy3、Cy5、HEX等が挙げられ、蛍光蛋白質としては、GFP、YFP、RFP等を挙げることができる。標識が酵素である場合、酵素の基質を添加することによって生成される反応生成物を検出することによって測定が可能である。これらに用いられる酵素と基質の組み合わせとしては、アルカリフォスファターゼとパラニトロフェニルリン酸、CDP−star、AMPPD、DDAOphospate、BCIP−NBT等の組み合わせ、パーオキシダーゼとTMB、Lumi−Light(ロッシュ・ダイアグノスティックス)、SAT−1(同仁化学)等の組み合わせ、ジアホラーゼとNTB等の組み合わせ、各種オキシダーゼと基質、各種デヒドロゲナーゼと基質の組み合わせ等、反応性生物が検出されるものであれば、これらに限定されることはなく用いることが可能である。標識が磁性体の場合、磁気を検出することによって測定が可能である。標識が導電性物質、電流値を検出することによって測定が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
Cytochrome P450 2C19(CYP2C19)遺伝子の塩基多型(636G→Aおよび681G→A)の検出
(1)CYP2C19遺伝子の636番目および681番目の多型を検出するオリゴヌクレオチドの合成
パーキンエルマー社製DNAシンセサイザー392型を用いて、ホスホアミダイト法にて、配列番号1〜5に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、オリゴ1〜5と示す)を合成した。合成はマニュアルに従い、各種オリゴヌクレオチドの脱保護はアンモニア水で55℃、一夜実施した。オリゴヌクレオチドの精製はパーキンエルマー社OPCカラムにて実施した。もしくはDNA合成受託会社((株)日本バイオサービス、シグマアルドリッチジャパン(株)、オペロンバイオテクノロジー(株)等)に依頼した。
オリゴ1がセンスプライマー(B)である。オリゴ2は野生型増幅用オリゴヌクレオチドプライマー(A)、オリゴ3は変異型増幅用オリゴヌクレオチドプライマー(A)である。また、オリゴ4野生型検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)であり、オリゴ5は変異型検出用オリゴヌクレオチドプローブ(D)である。オリゴ2および3は5’末端をFITCにより標識され、オリゴ4および5は5’末端をビオチンにより標識されている。オリゴ4および5の5’末端をビオチンにより標識することで、オリゴ4および5からの伸長反応を可能にしている。
【0049】
(2)PCR法によるCYP2C19遺伝子多型の解析
PCR法による増幅反応ヒト白血球からフェノール・クロロフォルム法により抽出したDNA溶液をサンプルとして使用して、下記試薬を添加して、下記条件によりヒトCYP2C19遺伝子の塩基多型(636G→Aおよび681G→A)を解析した。
【0050】
試薬
以下の試薬を含む25μl溶液を調製した。
KOD plus DNAポリメラーゼ反応液
オリゴ1 5pmol、
オリゴ2またはオリゴ3(5’末端をFITCにより標識) 5pmol、
オリゴ4またはオリゴ5(5’末端をビオチンにより標識) 5pmol、
×10緩衝液 2.5μl、
2mM dNTP 2.5μl、
25mM MgCl 1.0μl、
KOD plus DNAポリメラーゼ 0.4U、
抽出DNA溶液 20ng
【0051】
増幅条件
94℃・2分
94℃・15秒、
60℃・30秒、
68℃・30秒(35サイクル)
98℃・3分、
65℃・1分、
55℃・1分、
45℃・1分、
35℃・1分、
25℃・15分。
【0052】
(3)通液性フィルターを用いた検出
増幅反応液15μlをPOD標識抗FITC抗体(DAKO Cytomation製)の溶液30μlに加えて、室温にて5分間反応させた。これによって、増幅されたCYP2C19遺伝子断片にPOD標識抗FITC抗体が結合する。この反応液をアビジンの結合した通液性フィルターに添加するとフィルター上に増幅されたCYP2C19遺伝子断片に結合したビオチン標識オリゴヌクレオチドであるオリゴ4または5が捕捉される。次に、上部より洗浄液およびPOD基質液を順次添加後、フィルター表面の発色を目視によって確認した。表1に、試料No.1〜6で示すサンプルおよび試料なしの場合について、オリゴ2またはオリゴ3、および、オリゴ4またはオリゴ5をそれぞれ組み合わせて使用した場合に明らかに発色を確認できたものを「+」、明らかに発色が見られなかったものを「−」として示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1において、例えば試料1では681番目の塩基がGであることを示すオリゴ2、および636番目の塩基がGであることを示すオリゴ4を使用した場合にのみ明らかな発色を確認できる。したがって、試料1には681番目の塩基がGかつ636番目の塩基がGであるCYP2C19遺伝子のみが存在する。また試料2では、同様に、オリゴ2およびオリゴ4、オリゴ2およびオリゴ5を使用した場合にそれぞれ明らかな発色を確認できるため、試料2には681番目の塩基がGかつ636番目の塩基がGであるCYP2C19遺伝子と、681番目の塩基がGかつ636番目の塩基がAであるCYP2C19遺伝子の両方が存在する。
【0055】
上記のように、容易にかつ迅速に遺伝子型を明確に判定することができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明により、試料核酸中の複数の塩基多型を明確にまた簡便に検出が可能となり、これまでの方法のように煩雑な操作を必要とせず、迅速で容易に再現性の良い結果が得られることからも、産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の(1)〜(3)の工程を含む方法で、試料溶液中に含まれる標的核酸配列上の少なくとも1種類以上の塩基部位(X)及び少なくとも1種類以上の塩基部位(Y)の判定を行うことを特徴とする塩基判定方法。
(1)第一のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(X)を含む少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプライマー(A)と、該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類のオリゴヌクレオチドプライマー(B)と、を用いて標的核酸配列から増幅反応を行う第一工程、
(2)第一工程で得られうるプライマー(A)の伸長産物と、第二のリガンドが結合しておりかつ判定したい塩基部位(Y)を含むオリゴヌクレオチドであって該プライマー(A)の伸長産物の一部と相補的な少なくとも1種類の塩基判定用オリゴヌクレオチドプローブ(D)とをハイブリダイズさせ、該プライマー(A)の伸長産物を鋳型として伸長反応を行い、該オリゴヌクレオチドプローブ(D)の伸長産物と該プライマー(A)の伸長産物の複合体(P)を形成せしめる第二工程、
(3)第二工程で得られうる該複合体(P)中に、第一のリガンドと第二のリガンドが共存しているかどうかを検出する第三工程。
【請求項2】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端から2番目以降の少なくとも一つのヌクレオチドがリガンドにより標識されていることを特徴とする請求項1に記載の塩基判定方法。
【請求項3】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)の5’末端が第二のリガンドにより標識されていることを特徴とする請求項1または2に記載の塩基判定方法。
【請求項4】
判定したい塩基部位(Y)の塩基の種類により、オリゴヌクレオチドプローブ(D)の配列がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項5】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端の塩基が判定したい塩基部位(Y)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項6】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端より2番目の塩基が判定したい塩基部位(Y)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項7】
オリゴヌクレオチドプローブ(D)の3’末端より3から5番目の少なくとも1つの塩基が鋳型となる核酸配列と相補的または相同的でない塩基に置換されていることを特徴とする請求項5または6に記載の塩基判定方法。
【請求項8】
判定したい塩基部位(X)の塩基の種類により、プライマー(A)の配列がそれぞれ異なることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項9】
プライマー(A)の3’末端より2番目の塩基が判定したい塩基部位(X)の予想される塩基と同じ、または相補的な塩基であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項10】
プライマー(A)の3’末端より3から5番目の少なくとも1つの塩基が鋳型となる核酸配列と相補的または相同的でない塩基に置換されていることを特徴とする請求項9に記載の塩基判定方法。
【請求項11】
第一工程において、オリゴヌクレオチドプローブ(D)が存在していることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項12】
オリゴヌクレオチドプライマー(A)およびオリゴヌクレオチドプライマー(B)のTm値より、オリゴヌクレオチドプローブ(D)のTm値が低いことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項13】
第一のリガンドが抗原、抗体、蛍光物質、発光団および酵素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の塩基判定方法。
【請求項14】
第二のリガンドが抗原、抗体、蛍光物質、発光団および酵素からなる群より選ばれた少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の塩基判定方法。


【公開番号】特開2007−330138(P2007−330138A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164883(P2006−164883)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】