複数の空洞を有するフランスパン類およびその製造方法
【課題】 従来のフランスパンにはない、濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類の提供。
【解決手段】 焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有する、あるいは最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とするフランスパン類。小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。発酵種を使用しない方法である。ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間は経過した段階でパンチを行う。
【解決手段】 焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有する、あるいは最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とするフランスパン類。小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。発酵種を使用しない方法である。ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間は経過した段階でパンチを行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に無い特有の複数の空洞を有するフランスパン類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類を内相の特徴でグループ分けすると、食パンに代表されるキメが細かく白い内相が良いとされるパン類と、フランスパンに代表される目が粗くやや飴色を呈する内相が良いとされるパン類に大別される。
フランスパンの内相は、大小の気泡が存在して目の粗い状態を形成しているが、職人による技術レベルの差異、製法による違いなどの要因で、目の粗さや色合いなどの内相状態に大きな影響を与えてしまうことが知られている。また成型機(例えば、バゲットモルダー)などの機械設備の利用については、品質の均一化には有用であるが、目の粗い内相を安定的に作り出すことは難しく、むしろ気泡が少なく目が詰まり、色も白い内相となり、フランスパンとしては劣った品質の製品になってしまうことが多かった。
【0003】
フランスパンの代表的な製法としては、ストレート法(ディレクト法)、ポーリッシュ法等の発酵種法などが知られている(非特許文献1)。
ストレート法は、アスコルビン酸や酵素剤、乳化剤などの製パン改良剤を添加することが多く、発酵時間も短く比較的には簡便な方法であるが、内相が、5ミリ以下のそろった気泡となりがちであり、色も白くフランスパン独特の内相を作ることができない。発酵種法は、事前に数時間から24時間かけて発酵種を作る必要がある、発酵時間が長くコントロールが難しいなどきわめて高い技術レベルを必要とする。
【0004】
また空洞を有するパンの検討も行われており、パン類の内部に空洞が散在し、各空洞の内表面及びその周囲に油脂浸潤部が形成されていることを特徴とするパン類(特許文献1)、アスコルビン酸またはその塩類若しくはその誘導体と、増粘剤とを含むパン原料を用いて製造したことを特徴とする空洞パン(特許文献2)、パン生地の内部に起泡させたクリームを内包せしめ焼成することを特徴とする空洞パンの製造法(特許文献3)が開示されている。
特許文献1における空洞はパン生地中に分散されていたチップ状油脂に由来するものであり、バターを塗ったような状態に製造することを目的としたものである。特許文献2は、所定の空洞を安定して成形する製造方法に関するものであり、具体的にはロゼッタの製造方法に関するものである。特許文献3における空洞は、フィリング材や調理具材を焼成後のパンに容易に注入できるようにすることを目的としたものである。
【0005】
【特許文献1】特開平6−233649号公報
【特許文献2】特開平6−78661号公報
【特許文献3】特開2004−329015号公報
【非特許文献1】江崎修「プロのためのわかりやすい製パン技術」第19〜23,38〜43頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製パン法では、イーストの発酵を阻害せずに、焼成前の最終発酵の段階で充分に発酵が進んだ状態、すなわちイーストの発酵により発生する炭酸ガスが充分に蓄積された状態、とすることにより、良質のパン類を製造できると考えられてきた。そのため、一般にパン作りは非常に時間と手間のかかる作業であり、良質なパンを作るには時間と手間をかけるのが当たり前であるとされてきた。
一方で、作業者の負担軽減などの目的で、如何に作業時間を短縮するかについて様々な検討も行われてきた。例えば、イースト添加量自体の増加、イーストの発酵を促進する各種の添加物の利用、発酵種の利用などが挙げられるが、何れもイーストの発酵をより促進させて、イーストの発酵が充分に進むまでに要する時間を短縮する手法であった。なお、発酵種は、発酵液とも呼ばれ、酵母、イーストフード、小麦粉、粉乳等を入れ酵母を増殖させてある。伝統的な方法であって、複数の酵母からなるものが多く、通常1日以上発酵する必要がある。
【0007】
また、ただ単純に時間を短縮しただけでは、ボリュームが無く、非常に目の詰まった内相を持つ品質の悪いパンとなってしまうことが広く知られていた。
このように、イーストによる生地の発酵を抑制することや、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことは、従来の製パン法では非常識とされており、良質なパン類を製造することは不可能であると考えられてきた。
また、複数の空洞と飴色を呈するパン類を製造する方法として、発酵種を使用する方法(ポーリッシュ法等)があるが、発酵状態の管理が難しい発酵種を事前に調製しなければならないなど長時間を要し煩雑で熟練を要するうえに、パンの味は淡白になりやすかった。
【0008】
そこで、本発明は、良質なフランスパン類を高度な熟練を要せずに短時間で安定して製造することを目的とし、さらには、従来のフランスパンにはない、濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(3)のフランスパン類を要旨とする。
(1)小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行う方法で製造されたフランスパン類。
(2)焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有することを特徴とする上記(1)のフランスパン類。
(3)焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする上記(1)のフランスパン類。
【0010】
また、本発明は、以下の(4)〜(6)のフランスパン類の製造方法を要旨とする。
(4)小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。
(5)発酵種を使用しない方法である上記(4)のフランスパン類の製造方法。
(6)ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階でパンチを行う上記(4)または(5)のフランスパン類の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発酵種を使用しないで濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供できる。
また、製パン改良剤を使用しないで、熟練を要せず、短時間で、安定してフランスパン類を製造する方法と提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のフランスパン類は、これまでの常識では考えられない着想、すなわち生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより、従来のフランスパンにはない、濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供しようというものである。
【0013】
本発明のフランスパン類は、焼成したパン類を中央で2分割したときの断面において、5×5cmの領域にかかる最小幅が7mm以上の空洞を5個以上有することを特徴とする。別の表現をすると、フランスパン類を中央で2分割したとき、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする。さらに、好適な条件においては、空洞断面が、概ハニカム状、あるいは、概多角形、あるいは円形率が低いこれまでにはないフランスパン類であることを特徴とする。
【0014】
本願明細書においては、内相の気泡のうち直径がおよそ5mm以上の大きいものを空洞と呼ぶこととする。空洞は概円形をしており、その最大の長さを最大長、最小の長さを最小幅と呼ぶこととする。
また、製パンにおいて一次発酵の時間をフロアタイムと呼ぶが、本発明では、発酵を目的としたものではないのでウエイティングタイム(待ち時間)とよび、その行為を待ち(ウエイティング)とよび従来の技術と区別する。
【0015】
本発明のフランスパン類は、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより製造した、複数の空洞を有するパン類である。詳細には、イーストの配合量を通常の製パン法より少ない量、あるいは、同量とし、通常の製パン法におけるミキシング後の一次発酵を行わず、生地の適切な熟成時間と生地の緊張を解くウエイティングを行なうとともに、成型後の最終発酵(ホイロ)もウエイティングと同様に生地の緊張を解く程度に留め、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより製造した、複数の空洞を有するパン類である。
【0016】
本発明でいう、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成するためには、使用するイースト量と生地の適切な熟成状態、更には生地の緊張状態の適切な緩和を管理することが必要となる。
【0017】
本発明のフランスパン類の複数の空洞に関し、中央で2分割する方法は、球状の場合は特に限定されないが、長円もしくは縦長のバゲットタイプの場合は、最大長の方向にほぼ左右対称になるように山の頂上、または、側面から2分割して計測する。断面中心部とは褐色に焼けた部分から6mmより内側の任意の領域をいう。断面中心部領域の空洞の大きさと数は、直接目視により定規で測定してもよいし、スキャナーで取り込んで紙上で透明な方眼紙や定規を用いて測定してもよい。コンピューターが利用できる場合は、画像処理により測定することができる。
ここで褐色に焼けた部分から6mm内側までの領域を計上しないのは、生地の表面に近い領域は、温度等の環境雰囲気の影響を受けやすく、膨張に対する抵抗が少ないために通常のフランスパンでも空洞を生じることが多いからである。このような空洞は、側面の方向に伸びた細長い空洞であり本発明で生ずる空洞と区別することができる。また、褐色に焼けた周辺領域の近傍は、色が濃いことが多くコンピューターで処理した場合に、空洞を区別することが難しいことも理由のひとつにあげられる。
【0018】
本発明のフランスパン類で複数の大きな空洞が生ずるのは、グルテンの網目構造を、機械的な混捏により形成させるのみで、発酵により発達させないことにより、全体が均一にふんわりと発酵されずに焼成することによるものと推察される。従来のフランスパンは発酵により気泡を生じるが、焼成により気泡が縮むことが観察される。これは気泡から気体が抜けだすものと推察する。また、熟練した職人によるルバン種等の発酵種法により作られたパンは、中央にも空洞が生じるが、全体に均一に点在する。それらに対して本発明のフランスパン類は、焼成において気体が抜けずに気泡が大きくなる。そして、さらに気泡が成長して、不均一なため弱い部分で破裂し、隣接する気泡と合一することを繰り返して大きな空洞を形成するものと推察する。
【0019】
濃厚で味わい深いのは、小麦粉中の、糖類やアミノ酸がイーストに資化されず適度なバランスで残っており、さらに、空洞と空洞の間に薄い膜状に凝縮されることが本発明のパン類が発酵を適度に抑制された味とコクを高めるものと推察する。
【0020】
本発明のフランスパン類は、原材料は、小麦粉、食塩、イースト、水である。さらにモルトを添加するのが好ましい。アスコルビン酸、アミラーゼ、オキシダーゼ等の酵素剤、乳化剤を添加することは好ましくない。小麦粉はパン用小麦粉であれば特に限定されない。食塩、水、モルトも通常のパンと同様の配合でよい。イーストは生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト、天然酵母など特に限定されない。チーズ、ベーコン、オニオン、コーンなどの食材も必要に応じて常法により添加することも可能である。
【0021】
イーストの配合量は、イーストの種類や、活性のほか、小麦粉、環境条件により異なるため、実際に使用する小麦粉、イースト生地のウエイティング条件と組み合わせて決定するのがよい。
【0022】
ミキシング条件は、通常のフランスパン生地のミキシングに比べ強く行うのがよい。発酵を抑制する本発明の生地は、ミキシングを強くすることでグルテンを形成させる必要があるからである。
【0023】
本発明のフランスパン類を製造するためのウエイティング装置は、一次発酵で使用する一般的な装置、環境条件でそのまま利用することができる。ここで、一般的な製パン方法として生地を低温下で長時間熟成させる方法が知られているが、本発明には適さない。ウエイティング終了後の生地の膨張度が10〜70%望ましくは20〜50%に制御しなければならない。なお、通常の方法における生地の膨張度はおおよそ300%である。
【0024】
またウエイティングの途中でパンチング(以下「パンチ」ということがある。)を行うのが良い。具体的にはウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階で行うのが好ましい。ここで、パンチングとは、製パン工程でパン生地中のガスを抜く操作のことであり、生地を場板に打ち付けるような操作をしたのでこのように呼ばれている(小麦英和用語集)。
本発明におけるパンチの目的は、グルテン組織を刺激してグルテンの強化を図り、生地の熟成を促進させることであり、通常の製パン法でいうパンチの役割(生地中の空気や炭酸ガスの気泡を細かくして均一なものとすること、新たに酸素を取り込みイーストの活性を高めて発酵を促進させること、グルテン組織を刺激してグルテンの強化を図ること)とは異なる。
【0025】
次いで、生地を分割しベンチタイムをとる。ベンチタイムは5〜20分が好適である。ホイロ条件はストレート法と比べて同等もしは短時間でおこなう。ウエイティング条件との組み合わせで実際に焼成して最適条件を決定する。
【0026】
成型は通常の方法が採用される。ホイロはウエイティング条件と組み合わせて適宜決定することができる。焼成方法は通常の方法であればよく特に限定されない。本発明のパン類の焼成方法は、焼成床に生地を直に置いて焼成する直焼きが最も適しているが、天板を利用した焼成方法であっても良い。
【0027】
以下本発明のパン類を製造するためのウエイティング条件を決める方法について詳細を述べる。ウエイティング条件は生地膨張度試験により決定することができる。
[生地膨張度試験]
ウエイティングタイムにおける生地膨張度の測定
ミキシング後の生地150gを1Lのメスシリンダー(径cm)に入れ、このときの目盛りを読み取り、設定条件に従いウエイティングタイムをとる。ウエイティングタイム終了後に再び目盛りを読み取り、ウエイティングタイム前後での目盛り読み取り値から生地膨張度を下記の式により計算する。
【0028】
【数1】
【0029】
[膨張度試験および製パン評価]
小麦粉(クードシャンス:昭和産業製)100重量部、食塩2.1重量部、モルト0.2重量部、水70重量部、インスタントドライイースト(赤イースト:フランスSUF社製)は表1記載の配合でミキシング後の生地を用いて28℃相対湿度85%の環境下で生地膨張度を測定した。参考のためストレート法、ポーリッシュ法についても記載した。なお、製パン試験では、ウエイティングタイムまたは発酵時間の1/3の時点でパンチを行った。ベンチタイム10分、ホイロ(28℃相対湿度85%)は15分、60分、90分、焼成温度は、220℃、35分とした。製パン評価は、バゲット型のパンを各々5個作成し最大長の方向に山の頂上から2分割し中心部5cm×5cm四方の中の最小幅が7mm以上(7φ以上)の空洞数を7φのスティックを用いて数えた。
【0030】
【表1】
【0031】
上記試験例から分かるように、本発明のフランスパン類は、ウエイティングタイム終了後の生地の膨張度を適度に抑えることで製造できることがわかる。ホイロ時間は、ウエイティングタイム終了後の生地の膨張度により決定することができることがわかる。
通常のインスタントドライイーストを使用した場合の、イーストの配合量と生地のウエイティングタイムとホイロ時間をまとめると次のようになる。イースト量は、ストレート法に比べて少ない添加量とするのが好ましく、小麦粉100重量部あたり0.1〜0.5重量部が好ましい添加量として例示される。
【0032】
ウエイティングタイムは、小麦粉100重量部あたりのイースト配合量が0.1〜0.2重量部の場合、ウエイティングタイム90〜180分、ホイロ時間30〜60分が例示される。
また、小麦粉100重量部あたりのイースト配合量が0.3〜0.5重量部の場合、ウエイティングタイム60〜120分、ホイロ時間5〜15分が例示される。後者の方が味わい深く、製造時間が短い点で優れている。
【0033】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。なお、以下の実施例、比較例、参考例で原材料並びに、ウエイティング、フロア、ホイロの環境条件は特に断らない限り前掲[膨張度試験および製パン評価]と同様とした。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
以下の配合、工程でフランスパン類(バタール型)を製造した。
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.15
モルト 0.2
水 70
〔工程〕
ミキシング 低速3分中速6分
捏上温度 22℃
ウエイティングタイム 90分P90分
分割 250g
ベンチタイム 10分
成型 バタール型
ホイロ時間 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
【0035】
製品の内相の気泡の状態および外観を図1に示す。画像解析ソフトウェア(IP−1000PC:旭化成エンジニアリング社製)によりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図2参照)について、内相(断面)を2値化し(図3参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品の内相について、パンの高さの半分位置で2分割して、内相の色合いを目視により評価し、さらに製品の外観及び食味について専門パネラー6名により評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0036】
[実施例2]
以下の配合、工程でフランスパン類(バタール型)を製造した。製品の内相の気泡の状態および外観を図4に示す。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図5参照)について、内相(断面)を2値化し(図6参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0037】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.4
モルト 0.2
水 75
〔工程〕
ミキシング 低速3分中速6分
捏上温度 22℃
ウエイティングタイム 30分P60分
分割 250g
ベンチタイム 10分
成型 バタール型
ホイロ時間 15分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
[比較例1]
【0038】
以下の配合、工程(ストレート法)でフランスパンを製造した。製品の内相の気泡の状態および外観を図7に示す。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図8参照)について、内相(断面)を2値化し(図9参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0039】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.8
改良剤(BBJ:日仏商事) 0.05
モルト 0.5
水 70
〔工程〕
ミキシング 低速12分
捏上温度 24℃
フロアタイム 90分P90分
分割 250g
ベンチタイム 30分
成型 バタール型
ホイロ 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
[参考例1]
【0040】
あらかじめ、ポーリッシュ種を準備した。ボールに小麦粉30重量部・水30重量部・インスタントドライイースト0.1重量部を入れ、温度24℃の条件下、ホイッパーで均一に混ぜ合わせた。容器に移し、5℃の温度帯で15時間低温熟成させ発酵種を作成した。つづいて、以下の配合と工程でポーリッシュ法によるフランスパンを製造した。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図10参照)について、内相(断面)を2値化し(図11参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0041】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 70
食塩 2
ポーリッシュ種 60.1
インスタントドライイースト 0.5
改良剤(BBJ:日仏商事) 0.1
モルト 0.2
水 38
〔工程〕
本捏
ミキシング 低速12分
捏上温度 24℃
フロアタイム 45分P45分
分割 250g
ベンチタイム 30分
成型 バタール型
ホイロ 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表2、3に示す通り、実施例1、2については内相が粗く色調が飴色になる効果が見られる。
また、味のバランスにすぐれ甘みがあり、皮の香り、皮の性状についても優れた評価が得られた。さらに、粒子の最小幅、面積についても比較例1、2と比べると数値が大きく、空洞の割合も平均40%を超えている。
【0045】
[実施例1′、2′、比較例1′、参考例1′]
実施例1、2、比較例1、参考例1において、分割後の成型をバケットモルダー(ボンガード社製)で、設定条件が上部間隔6mm、展圧30〜40mm、伸展約30cmとした以外は同様の方法で製造した。各例で20個のサンプルについて5×5cm中の最小幅が7mm以上の空洞数を計測し、その最大値と最小値を表4に示した。
この結果から、本発明のフランスパン類は、モルダーを使用しても製造が可能であることがわかる。
【0046】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0047】
従来のパン類にはない、複数の空洞を有するフランスパン類、または従来のパン類にはない、非常に粗く、良好な飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供することにより、新たなパン類のカテゴリーを創出し、食文化の発展に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のフランスパン類(バタール型)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図2】実施例1のフランスパン類(バタール型)のソフトウェア解析画像である。
【図3】実施例1のフランスパン類(バタール型)の二値化画像である。
【図4】実施例2のフランスパン類(バタール型)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図5】実施例2のフランスパン類(バタール型)のソフトウェア解析画像である。
【図6】実施例2のフランスパン類(バタール型)の二値化画像である。
【図7】比較例1のフランスパン類(ストレート法)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図8】比較例1のフランスパン類(ストレート法)のソフトウェア解析画像である。
【図9】比較例1のフランスパン類(ストレート法)の二値化画像である。
【図10】参考例1のフランスパン類(ポーリッシュ法)のソフトウェア解析画像である。
【図11】参考例1のフランスパン類(ポーリッシュ法)の二値化画像である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に無い特有の複数の空洞を有するフランスパン類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類を内相の特徴でグループ分けすると、食パンに代表されるキメが細かく白い内相が良いとされるパン類と、フランスパンに代表される目が粗くやや飴色を呈する内相が良いとされるパン類に大別される。
フランスパンの内相は、大小の気泡が存在して目の粗い状態を形成しているが、職人による技術レベルの差異、製法による違いなどの要因で、目の粗さや色合いなどの内相状態に大きな影響を与えてしまうことが知られている。また成型機(例えば、バゲットモルダー)などの機械設備の利用については、品質の均一化には有用であるが、目の粗い内相を安定的に作り出すことは難しく、むしろ気泡が少なく目が詰まり、色も白い内相となり、フランスパンとしては劣った品質の製品になってしまうことが多かった。
【0003】
フランスパンの代表的な製法としては、ストレート法(ディレクト法)、ポーリッシュ法等の発酵種法などが知られている(非特許文献1)。
ストレート法は、アスコルビン酸や酵素剤、乳化剤などの製パン改良剤を添加することが多く、発酵時間も短く比較的には簡便な方法であるが、内相が、5ミリ以下のそろった気泡となりがちであり、色も白くフランスパン独特の内相を作ることができない。発酵種法は、事前に数時間から24時間かけて発酵種を作る必要がある、発酵時間が長くコントロールが難しいなどきわめて高い技術レベルを必要とする。
【0004】
また空洞を有するパンの検討も行われており、パン類の内部に空洞が散在し、各空洞の内表面及びその周囲に油脂浸潤部が形成されていることを特徴とするパン類(特許文献1)、アスコルビン酸またはその塩類若しくはその誘導体と、増粘剤とを含むパン原料を用いて製造したことを特徴とする空洞パン(特許文献2)、パン生地の内部に起泡させたクリームを内包せしめ焼成することを特徴とする空洞パンの製造法(特許文献3)が開示されている。
特許文献1における空洞はパン生地中に分散されていたチップ状油脂に由来するものであり、バターを塗ったような状態に製造することを目的としたものである。特許文献2は、所定の空洞を安定して成形する製造方法に関するものであり、具体的にはロゼッタの製造方法に関するものである。特許文献3における空洞は、フィリング材や調理具材を焼成後のパンに容易に注入できるようにすることを目的としたものである。
【0005】
【特許文献1】特開平6−233649号公報
【特許文献2】特開平6−78661号公報
【特許文献3】特開2004−329015号公報
【非特許文献1】江崎修「プロのためのわかりやすい製パン技術」第19〜23,38〜43頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の製パン法では、イーストの発酵を阻害せずに、焼成前の最終発酵の段階で充分に発酵が進んだ状態、すなわちイーストの発酵により発生する炭酸ガスが充分に蓄積された状態、とすることにより、良質のパン類を製造できると考えられてきた。そのため、一般にパン作りは非常に時間と手間のかかる作業であり、良質なパンを作るには時間と手間をかけるのが当たり前であるとされてきた。
一方で、作業者の負担軽減などの目的で、如何に作業時間を短縮するかについて様々な検討も行われてきた。例えば、イースト添加量自体の増加、イーストの発酵を促進する各種の添加物の利用、発酵種の利用などが挙げられるが、何れもイーストの発酵をより促進させて、イーストの発酵が充分に進むまでに要する時間を短縮する手法であった。なお、発酵種は、発酵液とも呼ばれ、酵母、イーストフード、小麦粉、粉乳等を入れ酵母を増殖させてある。伝統的な方法であって、複数の酵母からなるものが多く、通常1日以上発酵する必要がある。
【0007】
また、ただ単純に時間を短縮しただけでは、ボリュームが無く、非常に目の詰まった内相を持つ品質の悪いパンとなってしまうことが広く知られていた。
このように、イーストによる生地の発酵を抑制することや、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことは、従来の製パン法では非常識とされており、良質なパン類を製造することは不可能であると考えられてきた。
また、複数の空洞と飴色を呈するパン類を製造する方法として、発酵種を使用する方法(ポーリッシュ法等)があるが、発酵状態の管理が難しい発酵種を事前に調製しなければならないなど長時間を要し煩雑で熟練を要するうえに、パンの味は淡白になりやすかった。
【0008】
そこで、本発明は、良質なフランスパン類を高度な熟練を要せずに短時間で安定して製造することを目的とし、さらには、従来のフランスパンにはない、濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の(1)〜(3)のフランスパン類を要旨とする。
(1)小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行う方法で製造されたフランスパン類。
(2)焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有することを特徴とする上記(1)のフランスパン類。
(3)焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする上記(1)のフランスパン類。
【0010】
また、本発明は、以下の(4)〜(6)のフランスパン類の製造方法を要旨とする。
(4)小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。
(5)発酵種を使用しない方法である上記(4)のフランスパン類の製造方法。
(6)ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階でパンチを行う上記(4)または(5)のフランスパン類の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発酵種を使用しないで濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供できる。
また、製パン改良剤を使用しないで、熟練を要せず、短時間で、安定してフランスパン類を製造する方法と提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のフランスパン類は、これまでの常識では考えられない着想、すなわち生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより、従来のフランスパンにはない、濃厚な味わいと、複数の空洞と、強い飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供しようというものである。
【0013】
本発明のフランスパン類は、焼成したパン類を中央で2分割したときの断面において、5×5cmの領域にかかる最小幅が7mm以上の空洞を5個以上有することを特徴とする。別の表現をすると、フランスパン類を中央で2分割したとき、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする。さらに、好適な条件においては、空洞断面が、概ハニカム状、あるいは、概多角形、あるいは円形率が低いこれまでにはないフランスパン類であることを特徴とする。
【0014】
本願明細書においては、内相の気泡のうち直径がおよそ5mm以上の大きいものを空洞と呼ぶこととする。空洞は概円形をしており、その最大の長さを最大長、最小の長さを最小幅と呼ぶこととする。
また、製パンにおいて一次発酵の時間をフロアタイムと呼ぶが、本発明では、発酵を目的としたものではないのでウエイティングタイム(待ち時間)とよび、その行為を待ち(ウエイティング)とよび従来の技術と区別する。
【0015】
本発明のフランスパン類は、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより製造した、複数の空洞を有するパン類である。詳細には、イーストの配合量を通常の製パン法より少ない量、あるいは、同量とし、通常の製パン法におけるミキシング後の一次発酵を行わず、生地の適切な熟成時間と生地の緊張を解くウエイティングを行なうとともに、成型後の最終発酵(ホイロ)もウエイティングと同様に生地の緊張を解く程度に留め、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行うことにより製造した、複数の空洞を有するパン類である。
【0016】
本発明でいう、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成するためには、使用するイースト量と生地の適切な熟成状態、更には生地の緊張状態の適切な緩和を管理することが必要となる。
【0017】
本発明のフランスパン類の複数の空洞に関し、中央で2分割する方法は、球状の場合は特に限定されないが、長円もしくは縦長のバゲットタイプの場合は、最大長の方向にほぼ左右対称になるように山の頂上、または、側面から2分割して計測する。断面中心部とは褐色に焼けた部分から6mmより内側の任意の領域をいう。断面中心部領域の空洞の大きさと数は、直接目視により定規で測定してもよいし、スキャナーで取り込んで紙上で透明な方眼紙や定規を用いて測定してもよい。コンピューターが利用できる場合は、画像処理により測定することができる。
ここで褐色に焼けた部分から6mm内側までの領域を計上しないのは、生地の表面に近い領域は、温度等の環境雰囲気の影響を受けやすく、膨張に対する抵抗が少ないために通常のフランスパンでも空洞を生じることが多いからである。このような空洞は、側面の方向に伸びた細長い空洞であり本発明で生ずる空洞と区別することができる。また、褐色に焼けた周辺領域の近傍は、色が濃いことが多くコンピューターで処理した場合に、空洞を区別することが難しいことも理由のひとつにあげられる。
【0018】
本発明のフランスパン類で複数の大きな空洞が生ずるのは、グルテンの網目構造を、機械的な混捏により形成させるのみで、発酵により発達させないことにより、全体が均一にふんわりと発酵されずに焼成することによるものと推察される。従来のフランスパンは発酵により気泡を生じるが、焼成により気泡が縮むことが観察される。これは気泡から気体が抜けだすものと推察する。また、熟練した職人によるルバン種等の発酵種法により作られたパンは、中央にも空洞が生じるが、全体に均一に点在する。それらに対して本発明のフランスパン類は、焼成において気体が抜けずに気泡が大きくなる。そして、さらに気泡が成長して、不均一なため弱い部分で破裂し、隣接する気泡と合一することを繰り返して大きな空洞を形成するものと推察する。
【0019】
濃厚で味わい深いのは、小麦粉中の、糖類やアミノ酸がイーストに資化されず適度なバランスで残っており、さらに、空洞と空洞の間に薄い膜状に凝縮されることが本発明のパン類が発酵を適度に抑制された味とコクを高めるものと推察する。
【0020】
本発明のフランスパン類は、原材料は、小麦粉、食塩、イースト、水である。さらにモルトを添加するのが好ましい。アスコルビン酸、アミラーゼ、オキシダーゼ等の酵素剤、乳化剤を添加することは好ましくない。小麦粉はパン用小麦粉であれば特に限定されない。食塩、水、モルトも通常のパンと同様の配合でよい。イーストは生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト、天然酵母など特に限定されない。チーズ、ベーコン、オニオン、コーンなどの食材も必要に応じて常法により添加することも可能である。
【0021】
イーストの配合量は、イーストの種類や、活性のほか、小麦粉、環境条件により異なるため、実際に使用する小麦粉、イースト生地のウエイティング条件と組み合わせて決定するのがよい。
【0022】
ミキシング条件は、通常のフランスパン生地のミキシングに比べ強く行うのがよい。発酵を抑制する本発明の生地は、ミキシングを強くすることでグルテンを形成させる必要があるからである。
【0023】
本発明のフランスパン類を製造するためのウエイティング装置は、一次発酵で使用する一般的な装置、環境条件でそのまま利用することができる。ここで、一般的な製パン方法として生地を低温下で長時間熟成させる方法が知られているが、本発明には適さない。ウエイティング終了後の生地の膨張度が10〜70%望ましくは20〜50%に制御しなければならない。なお、通常の方法における生地の膨張度はおおよそ300%である。
【0024】
またウエイティングの途中でパンチング(以下「パンチ」ということがある。)を行うのが良い。具体的にはウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階で行うのが好ましい。ここで、パンチングとは、製パン工程でパン生地中のガスを抜く操作のことであり、生地を場板に打ち付けるような操作をしたのでこのように呼ばれている(小麦英和用語集)。
本発明におけるパンチの目的は、グルテン組織を刺激してグルテンの強化を図り、生地の熟成を促進させることであり、通常の製パン法でいうパンチの役割(生地中の空気や炭酸ガスの気泡を細かくして均一なものとすること、新たに酸素を取り込みイーストの活性を高めて発酵を促進させること、グルテン組織を刺激してグルテンの強化を図ること)とは異なる。
【0025】
次いで、生地を分割しベンチタイムをとる。ベンチタイムは5〜20分が好適である。ホイロ条件はストレート法と比べて同等もしは短時間でおこなう。ウエイティング条件との組み合わせで実際に焼成して最適条件を決定する。
【0026】
成型は通常の方法が採用される。ホイロはウエイティング条件と組み合わせて適宜決定することができる。焼成方法は通常の方法であればよく特に限定されない。本発明のパン類の焼成方法は、焼成床に生地を直に置いて焼成する直焼きが最も適しているが、天板を利用した焼成方法であっても良い。
【0027】
以下本発明のパン類を製造するためのウエイティング条件を決める方法について詳細を述べる。ウエイティング条件は生地膨張度試験により決定することができる。
[生地膨張度試験]
ウエイティングタイムにおける生地膨張度の測定
ミキシング後の生地150gを1Lのメスシリンダー(径cm)に入れ、このときの目盛りを読み取り、設定条件に従いウエイティングタイムをとる。ウエイティングタイム終了後に再び目盛りを読み取り、ウエイティングタイム前後での目盛り読み取り値から生地膨張度を下記の式により計算する。
【0028】
【数1】
【0029】
[膨張度試験および製パン評価]
小麦粉(クードシャンス:昭和産業製)100重量部、食塩2.1重量部、モルト0.2重量部、水70重量部、インスタントドライイースト(赤イースト:フランスSUF社製)は表1記載の配合でミキシング後の生地を用いて28℃相対湿度85%の環境下で生地膨張度を測定した。参考のためストレート法、ポーリッシュ法についても記載した。なお、製パン試験では、ウエイティングタイムまたは発酵時間の1/3の時点でパンチを行った。ベンチタイム10分、ホイロ(28℃相対湿度85%)は15分、60分、90分、焼成温度は、220℃、35分とした。製パン評価は、バゲット型のパンを各々5個作成し最大長の方向に山の頂上から2分割し中心部5cm×5cm四方の中の最小幅が7mm以上(7φ以上)の空洞数を7φのスティックを用いて数えた。
【0030】
【表1】
【0031】
上記試験例から分かるように、本発明のフランスパン類は、ウエイティングタイム終了後の生地の膨張度を適度に抑えることで製造できることがわかる。ホイロ時間は、ウエイティングタイム終了後の生地の膨張度により決定することができることがわかる。
通常のインスタントドライイーストを使用した場合の、イーストの配合量と生地のウエイティングタイムとホイロ時間をまとめると次のようになる。イースト量は、ストレート法に比べて少ない添加量とするのが好ましく、小麦粉100重量部あたり0.1〜0.5重量部が好ましい添加量として例示される。
【0032】
ウエイティングタイムは、小麦粉100重量部あたりのイースト配合量が0.1〜0.2重量部の場合、ウエイティングタイム90〜180分、ホイロ時間30〜60分が例示される。
また、小麦粉100重量部あたりのイースト配合量が0.3〜0.5重量部の場合、ウエイティングタイム60〜120分、ホイロ時間5〜15分が例示される。後者の方が味わい深く、製造時間が短い点で優れている。
【0033】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。なお、以下の実施例、比較例、参考例で原材料並びに、ウエイティング、フロア、ホイロの環境条件は特に断らない限り前掲[膨張度試験および製パン評価]と同様とした。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
以下の配合、工程でフランスパン類(バタール型)を製造した。
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.15
モルト 0.2
水 70
〔工程〕
ミキシング 低速3分中速6分
捏上温度 22℃
ウエイティングタイム 90分P90分
分割 250g
ベンチタイム 10分
成型 バタール型
ホイロ時間 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
【0035】
製品の内相の気泡の状態および外観を図1に示す。画像解析ソフトウェア(IP−1000PC:旭化成エンジニアリング社製)によりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図2参照)について、内相(断面)を2値化し(図3参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品の内相について、パンの高さの半分位置で2分割して、内相の色合いを目視により評価し、さらに製品の外観及び食味について専門パネラー6名により評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0036】
[実施例2]
以下の配合、工程でフランスパン類(バタール型)を製造した。製品の内相の気泡の状態および外観を図4に示す。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図5参照)について、内相(断面)を2値化し(図6参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0037】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.4
モルト 0.2
水 75
〔工程〕
ミキシング 低速3分中速6分
捏上温度 22℃
ウエイティングタイム 30分P60分
分割 250g
ベンチタイム 10分
成型 バタール型
ホイロ時間 15分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
[比較例1]
【0038】
以下の配合、工程(ストレート法)でフランスパンを製造した。製品の内相の気泡の状態および外観を図7に示す。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図8参照)について、内相(断面)を2値化し(図9参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0039】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 100
食塩 2.1
インスタントドライイースト 0.8
改良剤(BBJ:日仏商事) 0.05
モルト 0.5
水 70
〔工程〕
ミキシング 低速12分
捏上温度 24℃
フロアタイム 90分P90分
分割 250g
ベンチタイム 30分
成型 バタール型
ホイロ 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
[参考例1]
【0040】
あらかじめ、ポーリッシュ種を準備した。ボールに小麦粉30重量部・水30重量部・インスタントドライイースト0.1重量部を入れ、温度24℃の条件下、ホイッパーで均一に混ぜ合わせた。容器に移し、5℃の温度帯で15時間低温熟成させ発酵種を作成した。つづいて、以下の配合と工程でポーリッシュ法によるフランスパンを製造した。前記画像解析ソフトウェアによりスライスしたパンの断面をスキャナーで取り込んだデータ(図10参照)について、内相(断面)を2値化し(図11参照)、粒子の面積、最大長、最小幅を測定した。また、製品について、実施例1と同様に評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0041】
〔配合〕(重量部)
小麦粉 70
食塩 2
ポーリッシュ種 60.1
インスタントドライイースト 0.5
改良剤(BBJ:日仏商事) 0.1
モルト 0.2
水 38
〔工程〕
本捏
ミキシング 低速12分
捏上温度 24℃
フロアタイム 45分P45分
分割 250g
ベンチタイム 30分
成型 バタール型
ホイロ 60分
焼成温度 220℃
(直焼き・蒸気有り)
焼成時間 35分
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
表2、3に示す通り、実施例1、2については内相が粗く色調が飴色になる効果が見られる。
また、味のバランスにすぐれ甘みがあり、皮の香り、皮の性状についても優れた評価が得られた。さらに、粒子の最小幅、面積についても比較例1、2と比べると数値が大きく、空洞の割合も平均40%を超えている。
【0045】
[実施例1′、2′、比較例1′、参考例1′]
実施例1、2、比較例1、参考例1において、分割後の成型をバケットモルダー(ボンガード社製)で、設定条件が上部間隔6mm、展圧30〜40mm、伸展約30cmとした以外は同様の方法で製造した。各例で20個のサンプルについて5×5cm中の最小幅が7mm以上の空洞数を計測し、その最大値と最小値を表4に示した。
この結果から、本発明のフランスパン類は、モルダーを使用しても製造が可能であることがわかる。
【0046】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0047】
従来のパン類にはない、複数の空洞を有するフランスパン類、または従来のパン類にはない、非常に粗く、良好な飴色を呈する内相を有するフランスパン類を提供することにより、新たなパン類のカテゴリーを創出し、食文化の発展に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1のフランスパン類(バタール型)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図2】実施例1のフランスパン類(バタール型)のソフトウェア解析画像である。
【図3】実施例1のフランスパン類(バタール型)の二値化画像である。
【図4】実施例2のフランスパン類(バタール型)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図5】実施例2のフランスパン類(バタール型)のソフトウェア解析画像である。
【図6】実施例2のフランスパン類(バタール型)の二値化画像である。
【図7】比較例1のフランスパン類(ストレート法)の内相の気泡の状態および外観の写真である。
【図8】比較例1のフランスパン類(ストレート法)のソフトウェア解析画像である。
【図9】比較例1のフランスパン類(ストレート法)の二値化画像である。
【図10】参考例1のフランスパン類(ポーリッシュ法)のソフトウェア解析画像である。
【図11】参考例1のフランスパン類(ポーリッシュ法)の二値化画像である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行う方法で製造されたフランスパン類。
【請求項2】
焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有することを特徴とする請求項1のフランスパン類。
【請求項3】
焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする請求項1のフランスパン類。
【請求項4】
小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。
【請求項5】
発酵種を使用しない方法である請求項4のフランスパン類の製造方法。
【請求項6】
ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階でパンチを行う請求項4または5のフランスパン類の製造方法。
【請求項1】
小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、実質的にイーストの発酵による生地膨張を生じない状態で焼成を行う方法で製造されたフランスパン類。
【請求項2】
焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞が5cm×5cm四方あたり5個以上有することを特徴とする請求項1のフランスパン類。
【請求項3】
焼成したパン類を中央で2分割したときの断面中心部領域において、最小幅が7mm以上の空洞の割合が40%〜50%であることを特徴とする請求項1のフランスパン類。
【請求項4】
小麦粉、食塩、イースト、水を原材料とし、生地の熟成は充分行うがイーストによる生地の発酵を抑制し、ウエイティングタイムにおける生地の膨張度を10〜70%に制御し、その状態で焼成を行うことを特徴とするフランスパン類の製造方法。
【請求項5】
発酵種を使用しない方法である請求項4のフランスパン類の製造方法。
【請求項6】
ウエイティングタイムの1/3〜1/2の時間が経過した段階でパンチを行う請求項4または5のフランスパン類の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−97445(P2007−97445A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289032(P2005−289032)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【特許番号】特許第3884756号(P3884756)
【特許公報発行日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【特許番号】特許第3884756号(P3884756)
【特許公報発行日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000187079)昭和産業株式会社 (64)
【Fターム(参考)】
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