説明

複素環系塩基触媒を用いた変性アクリル樹脂とその製造方法

【課題】透明性、耐熱性に優れ、さらには成形加工性に優れる熱可塑性樹脂を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは上記課題を鑑み鋭意検討した結果、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.05mmol/g未満であることを特徴とするイミド樹脂を提供した。これによれば、酸成分の量に由来する粘度を下げ、金属ロールとの剥離性の改善し、且つ成形の際に生じる発泡等の不具合も改善された成形体を得ることができることとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工性が改善されたイミド樹脂、またはこれを含有する光学用樹脂組成物、成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器はますます小型化し、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末に代表されるように、軽量・コンパクトという特長を生かし、多様な用途で用いられるようになってきている。一方、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイの分野では画面の大型化に伴う重量増を抑制することも要求されている。
【0003】
上述のような電子機器をはじめとする、透明性が要求される用途においては、従来ガラスが使用されていた部材を透明性が良好な樹脂へ置き換える流れが進んでいる。
【0004】
ポリメタクリル酸メチルを代表とする種々の透明樹脂は、ガラスと比較して成形性、加工性が良好で、割れにくい、さらに軽量、安価という特徴などから、液晶ディスプレイや光ディスク、ピックアップレンズなどへの展開が検討され、一部実用化されている。
【0005】
自動車用ヘッドランプカバーや液晶ディスプレイ用部材など、用途の拡大に従って、透明樹脂は透明性に加え、耐熱性も求められるようになっている。ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンは透明性が良好であり、価格も比較的安価である特徴を有しているものの、耐熱性が低いため、このような用途においては適用範囲が制限される。
【0006】
そのためポリメタクリル酸メチルの耐熱性を改善する方法として、ポリメチルメタクリレートを一級アミンで処理して、イミド化することで耐熱性を向上させるという技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。これらのポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は透明性や耐熱性が良好であり、各種用途、例えば光学用途などで有効に使用できる可能性がある。
【0007】
しかし、ポリメチルメタクリレート等に一級アミンを処理して得られるイミド樹脂は、イミド化反応時にカルボキシル基や酸無水物基が樹脂側鎖に生成されることが多く、これが起因して他のポリマーとの相溶性が悪化したり、粘度上昇に影響を及ぼして成型加工性の悪化に繋がったりすることがあった。そこで、イミド樹脂に含まれるカルボキシル基や酸無水物基をジメチルカーボネートなどの反応剤によりエステル基等に変換する技術が見出されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4246374号
【特許文献2】特開2006−273883
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献2のようにエステル化による酸成分の低減処置を施しても、成形加工時、発泡性を抑えることはできるが、溶融押出製膜の際の酸成分由来と考えられる金属ロールとの剥離性などには改善の余地があることは知られていなかった。
【0010】
従って、本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであって、成形性、具体的には、溶融製膜時の金属ロールとの剥離性が改善された、透明でポリメチルメタクリレートに比べ耐熱性が優れたイミド樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を鑑み鋭意検討した結果、エステル化時の条件検討によりトリエチルアミン等の臭気が改善され成型加工性にも優れた樹脂を提供する方法を見出した。
【0012】
即ち、本発明は、以下に関する。
(i)下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含有する樹脂に、エステル化剤及び複素環系塩基触媒を反応させることを特徴とするイミド樹脂の製造方法。
【0013】
【化1】

【0014】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0015】
【化2】

【0016】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
(ii) 複素環系塩基触媒が下記一般式(4)で表される構造であることを特徴とする(i)に記載の樹脂の製造方法。
【0017】
【化3】

【0018】
(ここで、m、nは1〜10の整数)
(iii) 樹脂中の酸価が0.05mmol/g未満であり、樹脂が上記一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とするイミド樹脂。
(iv) (iii)に記載のイミド樹脂を主成分とする光学用樹脂組成物。
【発明の効果】
【0019】
上記構成によれば、トリエチルアミン等の臭気も無く、製膜時発生する臭気が改善され、製膜時の金属ロールとの剥離性に優れたイミド樹脂およびその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】製膜性評価における製膜設備の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のイミド樹脂は、下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含有するイミド樹脂である。
【0022】
【化4】

【0023】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【0024】
【化5】

【0025】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
以下、本発明の好ましいイミド樹脂の分子構造、またはその製造方法について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第一の構成単位は、前記一般式(1)で表されるものであり、一般的にグルタルイミド単位と呼ばれる場合がある(以下、一般式(1)をグルタルイミド単位と省略して示すことがある。)。
【0026】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素またはメチル基であり、R3が水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0027】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0028】
尚、グルタルイミド単位は、以下に説明する第二の構成単位をイミド化することにより形成することが可能である。また、無水マレイン酸等の酸無水物またはそれらと炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸などもイミド化可能であり、グルタルイミド単位の形成に用いることができる。
【0029】
本発明の好ましいイミド樹脂を構成する第二の構成単位は、前記一般式(2)で表されるものであり、一般的には(メタ)アクリル酸エステル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(2)を(メタ)アクリル酸エステル単位と省略して示すことがある。)。
【0030】
本発明の好ましいイミド樹脂は必要に応じて第三の構成単位を含有していてもよい。第3の構成単位は、下記一般式(3)で表されるものであり、一般的には芳香族ビニル単位と呼ばれることが多い(以下、一般式(3)を芳香族ビニル単位と省略して示すことがある。)
【0031】
【化6】

【0032】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0033】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0034】
本発明のイミド樹脂中の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、例えばR3の構造にも依存し、求められる物性に応じて設定しても良いが、イミド樹脂の1重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の好ましい含有量は、2重量%から80重量%であり、より好ましくは3〜50重量%である。グルタルイミド単位の割合がこの範囲より小さい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性、溶融粘度が上がり、成形加工性が悪くなる他、得られる成形体の機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0035】
イミド樹脂が、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含有する場合は、イミド樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、10重量%から40重量%であり、より好ましくは15〜30重量%、さらに好ましくは、15〜25重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大きい場合、得られるイミド樹脂の耐熱性が不足する。
【0036】
一般式(1)、(2)の割合を調整することで、各種要求される物性に調整することが可能である。例えば、本発明のイミド樹脂を、先ずメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を重合した後にイミド化して形成する場合、例えば(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルの重合割合を調整することで一般式(3)の割合を決め(一般式(3)の割合を0とすることも可)、更に後イミド化時のイミド化剤の添加割合を調整することで、更に一般式(1)、(2)の割合を調整することができる。
【0037】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じ、更に、第四の構成単位が共重合されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を用いることができる。これらは熱可塑性樹脂中に、直接共重合してあっても良く、グラフト共重合してあってもかまわない。
【0038】
本発明のイミド樹脂は、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が0.05mmol/g未満であることが好ましい。更に好ましくは0.01mmol/g以下、より好ましくは0.00mmol/gとすることが好ましい。樹脂中に残存するカルボキシル基の割合が、0.05mmol/g以上であると、金属ロールとの剥離性が低下し好ましくない。樹脂中に残存するカルボキシル基の割合の下限値は特に制限されないが、コストなどを鑑みると、0.001mmol/g以上であることが好ましい。
【0039】
本発明のイミド樹脂は以下の方法により好適に製造することができる。
【0040】
先ず上記一般式(2)で示される繰り返し単位と、上記一般式(3)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル−スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体、又は一般式(2)で示される繰り返し単位からなるメタクリル酸メチル重合体等の(メタ)アクリル酸エステル重合体などを主原料とし、これにアンモニアまたは置換アミンなどのイミド化剤を処理した樹脂(以下、イミド樹脂中間体1と呼ぶことがある)を得ることができる。
【0041】
以下、上記で示した各処理に使用する各成分について説明する。
【0042】
本発明のイミド化剤は一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであれば特に制限はないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トル イジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンが挙げられる。これらのイミド化剤のうち、コスト、製品物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンが好ましく、中でも、メチルアミンが特に好ましい。
【0043】
イミド化剤の添加量は必要な物性を発現するためのイミド化率によって決定される。
【0044】
樹脂中の酸成分はイミド化の段階で副生成物として生成する。
上記製造方法で得られたイミド樹脂中間体は、上記イミド化段階の副生成物の影響で、通常、酸価が0.05mmol/g以上となる。そのため、このイミド樹脂中間体1は、エステル化剤および複素環系塩基触媒で処理し、必要により加熱処理等を行うことで、樹脂中に残存するカルボキシル基の割合を0.05mmol/g未満にする(イミド樹脂中間体2)ことができる。
【0045】
エステル化剤としては、例えば、炭酸ジメチル、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのエステル化剤のうち、コスト、製品物性の面から炭酸ジメチルが好ましい。
【0046】
本発明で言う複素環系塩基触媒は、下記一般式(4)で表される構造を有するものであり、具体的にはジアザビシクロウンデセンやジアザビシクロノネンなどが挙げられ、その中でもコスト、製品物性の面からジアザビシクロウンデセンが好ましい。
【0047】
【化7】

【0048】
(ここで、m、nは1〜10の整数)
エステル化剤の添加量はイミド樹脂中間体1のカルボキシル基を0.05mmol/g未満にすることができれば特に制限はないが、イミド樹脂中間体1に対して1重量部〜20重量部が好ましく、3重量部〜10重量部がより好ましい。エステル化剤がこの範囲より大きい場合、得られる樹脂中に多量のエステル化剤が残存したり、副反応が進行する可能性があり、一方、この範囲より小さい場合、カルボキシル基を0.05mmol/g未満にすることが困難である。
【0049】
複素環系塩基触媒の添加量はイミド樹脂中間体1のカルボキシル基を0.05mmol/g未満にすることができれば特に制限はないが、イミド樹脂中間体1に対して0.1重量部〜10重量部が好ましく、0.3重量部〜5重量部がより好ましく、0.5〜2重量部が最も好ましい。複素環系塩基触媒添加量がこの範囲より大きい場合、得られる樹脂中に多量の複素環系塩基触媒が残存したり、光学的な特性を失うほど着色したり、副反応が進行する可能性があり、一方、この範囲より小さい場合、カルボキシル基を0.05mmol/g未満にすることが困難である。
【0050】
本発明の製造方法において、エステル化剤及び複素環系塩基触媒の、添加順序及び添加方法は特に制限されないが、あらかじめエステル化剤と複素環系塩基触媒を混合したものを添加することが好ましい。
前述のような製造方法以外でも本発明のイミド樹脂が得られる方法であれば、特に製造方法に制限はない。
【0051】
本発明のイミド樹脂中間体1およびイミド樹脂中間体2およびイミド樹脂を得るには、押出機などを用いてもよく、バッチ式反応槽(圧力容器)などを用いてもよい。
【0052】
本発明のイミド樹脂の製造方法を押出機にて行う場合には、各種押出機が使用可能であるが、例えば単軸押出機、二軸押出機あるいは多軸押出機等が使用可能である。特に、原料ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できる押出機として二軸押出機が好ましい。二軸押出機には非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、噛合い型異方向回転式等があるが、二軸押出機の中では噛合い型同方向回転式が高速回転可能であり、原料ポリマーに対するイミド化剤あるいはエステル化剤の混合を促進できるので好ましい。これらの押出機は単独で用いても、直列につないでも構わない。
【0053】
また、押出機には未反応のイミド化剤あるいは一級アルコール類などの副生物やモノマー類を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。さらに、得られたイミド樹脂中に含まれるイミド化剤を1000ppm以下にするために、イミド樹脂を大気圧以下に減圧可能なベント口を装着した押出機などにより脱揮処理することが好ましい。
【0054】
本発明のイミド樹脂中間体1およびイミド樹脂中間体2を得るにはイミド化あるいはカルボキシル基低減を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、反応温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、さらには200〜280℃が好ましい。
【0055】
本発明のイミド樹脂を得るにはエステル化剤の除去を進行させ、かつ過剰な熱履歴による樹脂の分解、着色などを抑制するために、押出機バレルの温度は150〜400℃の範囲で行う。180〜320℃が好ましく、さらには200〜280℃が好ましい。
【0056】
押出機の代わりに、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に使用できる。
【0057】
本発明のイミド樹脂の製造方法をバッチ式反応槽(圧力容器)で行う際には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、攪拌でき、イミド化剤あるいはエステル化剤あるいは環状アミンを添加できる構造であれば特に制限ないが、反応の進行によりポリマー粘度が上昇することもあり、攪拌効率が良好なものがよい。例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンドなどを例示することができる。
【0058】
上記一般式(1)および(2)で示される繰り返し単位は、製造が容易なことから共重合体が好ましい。
【0059】
本発明のイミド樹脂中で、一般式(3)を含有するタイプは、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体中の各構成単位量およびグルタルイミド単位の含有量を調節することで実質的に配向複屈折を有さない特徴を付与することも可能である。配向複屈折とは所定の温度、所定の延伸倍率で延伸した場合に発現する複屈折のことをいう。本明細書中では、特にことわりのない限り、イミド樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度で、100%延伸した場合に発現する複屈折のことをいうものとする。
【0060】
ここで配向複屈折は、ポリマー構造由来の固有複屈折と分子配向状態に由来する配向分布関数の積であり、延伸軸方向の屈折率(nx)と、それと直行する軸方向の屈折率(ny)から、次式
△nor=nx−ny
で定義され、位相差計により測定される位相差Re(nm)を厚みd(μm)で割った値である。
配向複屈折△n
=Re/d
配向複屈折は上記したように、延伸軸方向の屈折率(nx)とそれと直行する軸方向の屈折率(ny)の差であるので、nxがnyより大きい場合は正の値を示し、逆にnxが nyより小さい場合は負の値を示す。
【0061】
配向複屈折の値としては、−0.1×10−3〜0.1×10−3であることが好ましく、−0.01×10−3〜0.01×10−3であることがより好ましい。配向複屈折が上記の範囲外の場合、環境の変化に対して、成形加工時に複屈折を生じやすく、安定した光学的特性を得ることが難しくなる。
【0062】
また、イミド樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が1×104を下回る場合には、成形品にした場合の機械的強度が不足し、5×105を上回る場合には、溶融時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下することがある。
【0063】
本発明のイミド樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記の値を下回ると、耐熱性が要求される用途においては適用範囲が制限される。
【0064】
本発明のイミド樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0065】
成形加工の際には、一般に用いられる酸化防止剤、熱安定剤、可塑剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、着色剤、収縮防止剤などを本発明の目的が損なわれない範囲で添加してもよい。
【0066】
イミド樹脂中間体2は特開2009−107180記載の方法にてフィルム化できる。
【0067】
製膜時には異物除去の目的として樹脂フィルターを使用する。
【0068】
本発明のイミド樹脂から得られる成形品は、例えば、カメラやVTR、プロジェクター用の撮影レンズやファインダー、フィルター、プリズム、フレネルレンズなどの映像分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用ピックアップレンズなどのレンズ分野、CDプレイヤーやDVDプレイヤー、MDプレイヤーなどの光ディスク用の光記録分野、液晶用導光板、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなどの液晶ディスプレイ用フィルム、表面保護フィルムなどの情報機器分野、光ファイバ、光スイッチ、光コネクターなどの光通信分野、自動車ヘッドライトやテールランプレンズ、インナーレンズ、計器カバー、サンルーフなどの車両分野、眼鏡やコンタクトレンズ、内視境用レンズ、滅菌処理の必要な医療用品などの医療機器分野、道路透光板、ペアガラス用レンズ、採光窓やカーポート、照明用レンズや照明カバー、建材用サイジングなどの建築・建材分野、電子レンジ調理容器(食器)、家電製品のハウジング、玩具、サングラス、文房具、などに使用可能である。
【実施例】
【0069】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法はつぎのとおりである。
【0070】
(1)イミド化率の測定
生成物のペレットをそのまま用いて、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm−1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm−1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比からイミド化率(Im%)を求めた。ここで、イミド化率とは全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
【0071】
(2)ガラス転移温度(Tg)
生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0072】
(3)樹脂中に残存する酸成分の割合(酸価)の測定
塩化メチレン37.5mlに生成物0.3gを溶解させ、メタノール37.5mlを添加した。この溶液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加し、0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Aml)を測定した。
【0073】
次に、塩化メチレン37.5mlとメタノール37.5mlの混合液に1wt%フェノールフタレインエタノール溶液を2滴添加した。これに0.1N水酸化ナトリウム水溶液5mlを添加し、1時間攪拌した。この溶液に0.1N塩酸を滴下して溶液の赤紫色が消失するまでの0.1N塩酸の滴下量(Bml)を測定した。
【0074】
樹脂中に残存するカルボキシル基の割合をCmmol/gとし、次式で求めた。
C=0.1×((B−A)/0.3)
(実施例)
原料の樹脂としてポリメタクリル酸メチル(Mw100,000)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、イミド化樹脂を製造した。
【0075】
使用した押出機は口径70mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の反応ゾーンの設定温度を230〜250℃、スクリュー回転数は55rpmとした。ホッパーから樹脂を150kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して2.0重量部のモノメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。(イミド樹脂中間体1)
次いで、口径46mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機の反応ゾーンの
設定温度を260℃、スクリュー回転数80rpmとした。ホッパーから得られたイミド樹脂を50kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して4.0重量部の炭酸ジメチルと1.0重量部のジアザビシクロウンデセンの混合液を注入し樹脂中の酸成分の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチル、ジアザビシクロウンデセンを、ベント口の圧力を−0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。(イミド樹脂中間体2)
得られたイミド樹脂の酸価と成形加工性を表1に示す。
【0076】
(比較例1)
エステル化剤に触媒を添加せず、炭酸ジメチルを6重量部使用していることを除けば、上記実施例と同様に行った。
得られたイミド樹脂の酸価と成形加工性を表1に示す。
【0077】
(比較例2)
エステル化剤に触媒としてジアザビシクロウンデセンではなくトリエチルアミンを添加し、また添加量が炭酸ジメチル4.8重量部/トリエチルアミン1.2重量部であることを除けば、上記実施例と同様に行った。
得られたイミド樹脂の酸価と成形加工性を表1に示す。
【0078】
(比較例3)
エステル化剤に触媒を添加せず、炭酸ジメチルを2.0重量部使用し、イミド化樹脂の供給量を20kg/hr、スクリュー回転数を150rpmにしたことを除けば、上記実施例と同様に行った。
【0079】
(製膜例)
樹脂製造例、比較樹脂製造例1〜3で得られた脱揮したイミド樹脂を100℃で5時間乾燥した後、口径40mm、単軸押出機と400mm幅のTダイとを用いて260℃で押出し挟み込み成形にて得られるシート状の溶融樹脂を冷却ロールで冷却して幅300mm、厚み150μmのフィルムを得た。製膜設備における、タッチロール、キャストロール、冷却ロールの関係は図1を参照。
得られたイミド樹脂の酸価と成形加工性を表1に示す。
成形加工性の判断は、製膜時の溶融樹脂のキャストロールへの剥離性を評価した。評価は○が良好、△が不良、×が極めて不良とした。
【0080】
【表1】

【符号の説明】
【0081】
1.タッチロール
2.キャストロール
3.冷却ロール1
4.冷却ロール2
5.冷却ロール3
6.Tダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)および(2)で表される繰り返し単位を含有する樹脂に、エステル化剤及び複素環系塩基触媒を反応させることを特徴とするイミド樹脂の製造方法。
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項2】
複素環系塩基触媒が下記一般式(4)で表される構造であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂の製造方法。
【化3】

(ここで、m、nは1〜10の整数)
【請求項3】
樹脂中の酸価が0.05mmol/g未満であり一般式(1)、(2)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とするイミド樹脂。
【化4】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【化5】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基を示す。)
【請求項4】
請求項3に記載のイミド樹脂を主成分とする光学用樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225699(P2011−225699A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96051(P2010−96051)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】