説明

褐変防止剤

【課題】飲料、特にポリフェノールを含有する飲料において、褐変による水色の経時変化を従来よりもさらに抑制する褐変防止剤を提供すること。
【解決手段】本発明の褐変防止剤は、フラクトース分子がβ−2,1結合で環状に結合して構成される環状イヌロオリゴ糖であるシクロフラクタンを有効成分とした新しい褐変防止剤であり、飲料、特に、褐変による水色の変化が目立ちやすい緑茶飲料などのポリフェノール含有飲料の褐変を有効に阻止することができる。したがって本発明の褐変防止剤は、従来のように容器を選ぶ必要がなく、幅広く応用できる汎用性が高いものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロフラクタンを有効成分とする褐変防止剤、褐変防止方法、および褐変が防止された飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
緑茶、紅茶およびウーロン茶などの茶、さらにはブドウ、リンゴ、カカオなどに含まれているポリフェノールは、抗酸化効果、抗アレルギー効果、癌細胞の増殖抑制効果、血圧上昇抑制効果などのヒトの健康維持・増進に役立つ様々な機能を有すること明らかにされている。しかしながらポリフェノールを含有する飲料を保存すると、経時的にその液色が褐色に変化してしまう(以下「褐変 」と略称する)。特に緑茶飲料は室温で放置すると抽出液の水色が薄緑色もしくは黄色から次第に赤褐色に変化するため、他の飲料と比べて色調の変化が目立ちやすく、問題とされている。こういった飲料の褐変現象は室温下においてもみられるが、飲料の製造において抽出液を高温殺菌する際にも褐変が著しく進行する。また、製造後の貯蔵期間中においてもさらに褐変が進行する。
また最近では飲料の容器として透明のペットボトルが多く使用されるようになってきた。しかしながらこれを使用した飲料は中身が外から見えるため、外観を損ねてしまい商品価値の低下を招いている。
【0003】
そこで、飲料の製造過程中や製造後の褐変を防止するため、茶飲料へアスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムを添加したり、容器に充填する際のヘッドスペースの空気を窒素ガスと置換する方法が提案され、実施されてきた(下記の特許文献1および非特許文献1を参照)。さらに、天然物由来のフラボノイドを緑茶飲料に添加する褐変防止方法(下記の特許文献2を参照)、茶飲料の褐変防止剤としてトレハロースを添加する方法(下記の特許文献3を参照)などが考案されている。
【0004】
【特許文献1】特公平1−48737号公報
【非特許文献1】茶業研究報告、64巻、p.35−38(1986)
【特許文献2】特開平1−289446号公報
【特許文献3】特許3550072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、飲料の褐変を防止する方法はこれまでに種々検討されているが、現在知られている上記の方法等では必ずしも満足な効果は得られていない。従って、従来のペットボトル入り飲料では、出荷後の褐変が目立たないように、ペットボトル全面をラベルで覆う例も見られる。本発明は、これら従来の問題点を解消し、飲料、特にポリフェノールを含有する飲料において、褐変による水色の経時変化を従来よりもさらに抑制することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、飲料へシクロフラクタンを添加することにより、褐変が顕著に抑制できることを突き止め、この知見をもとに本発明を完成した。
【0007】
請求項1に係る本発明は、シクロフラクタンを有効成分とする褐変防止剤である。
請求項2に係る本発明は、シクロフラクタンが環状イヌロヘキサオース、環状イヌロヘプタオースおよび環状イヌロオクタオースから選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の褐変防止剤である。
請求項3記載の本発明は、請求項1または2記載の褐変防止剤を飲料へ有効量添加することを特徴とする飲料の褐変防止方法である。
請求項4記載の本発明は、飲料がポリフェノール含有飲料である請求項3記載の褐変防止方法である。
請求項5記載の本発明は、ポリフェノール含有飲料が茶飲料である請求項4記載の褐変防止方法である。
請求項6記載の本発明は、茶飲料が緑茶飲料である請求項5記載の褐変防止方法である。
請求項7記載の本発明は、請求項1記載の褐変防止剤を有効量添加することを特徴とする褐変が防止された飲料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、飲料、特に緑茶飲料などのポリフェノール含有飲料にシクロフラクタンを添加することによって、飲料の褐変を有効に防止することができる。したがって本発明の褐変防止剤は、従来のように容器を選ぶ必要がなく、幅広く応用できる汎用性が高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明において褐変防止剤の有効成分として機能するシクロフラクタン(CF)とは、フラクトース分子がβ−2,1結合で環状に結合して構成される環状イヌロオリゴ糖を意味し、6個のフルクトース分子からなる環状イヌロヘキサオース(以下「CF6」と略称する)、7個のフルクトース分子からなる環状イヌロヘプタオース(以下「CF7」と略称する)、8個のフルクトース分子からなる環状イヌロオクタオース(以下「CF8」と略称する)などが知られている。これらは全て白色粉末であり、水に対する溶解性が極めて高く、含水有機溶媒などにも若干は溶解する。CFは、例えば、キクイモ、チコリ、ゴボウ、ダリアなどのキク科、ユリ科、アヤメ科、ラン科などの植物の根、根茎から得られる炭水化物の主成分であるイヌリンに、環状イヌロオリゴ糖生成酵素であるシクロイヌロオリゴサッカライド フラクタノトランスフェラーゼ(以下「CFTase」と略称する)を作用させることにより取得することができる。
【0010】
以下にCFの取得方法および精製方法について詳しく記載する。CFの取得に必要なCFTaseは、バチルス マセランス(Bacillus macerans)に属するCFC1(KIM HWA−Young and YONG−JIN CHOI, J.Microbiol.Biotechnol., vl.8, no.3, p.251−257, 1998)、バチルス サーキュランス(Bacillus circulans)に属するOKUMZ 31B(Mishio Kawamura and Takao Uchiyama, Carbohydr.Res., vl.260, p.297−304, 1994)、バチルス サーキュランスに属するMCI−2554(Sachiko Kushibe and Kaori Mitsui, Biosci.Biotech.Biochem., vl.59, no.1, p.31−34, 1995、特開平7−41500号公報)、パエニバチルス ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)に属するMG−CF6(FERM P−19158)などのCFTase生産微生物を用いて生産させることができる。CFは、このようなCFTase生産微生物を、イヌリンを含む培地で培養した後、遠心分離などを用いて除菌し、その培養上清液から取得することができる。また、CFは、CFTase生産微生物の培養上清液から単離した粗製のCFTaseや精製したCFTaseを別途イヌリンに作用させることで取得することもできる。このような方法で得られるCFは、CF6やCF7やCF8などからなる混合物であるが、これらは活性炭カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過(川村三志夫、内山喬夫、澱粉科学、第39巻、p.109−116, 1992、KIM HWA−Young et al., J.Microbiol.Biotechnol., vl.6, no.6, p.397−401,1996)などにより、分離・精製することができる。
【0011】
本発明の褐変防止剤は、上記のような方法にて取得したCF混合物をそのまま有効成分として用いてもよいし、分離・精製した単一のCF化合物を用いてもよいし、2種類以上の単一CF化合物を所望する混合比で混合して用いてもよく、いずれの用い方であっても褐変防止効果を十分発揮することができる。
【0012】
本発明の褐変防止剤の飲料への添加量は、原料の種類や使用量、抽出方法、及び最終製品の形態等によって適宜調節するが、飲用時もしくは食用時の重量換算で0.01〜0.5重量%とすることが好ましく、0.05〜0.5重量%の範囲とすることがより好ましく、0.1〜0.5重量%の範囲とすることがさらに好ましい。0.01重量%未満の添加量では、目的とする効果が得られにくい。また、0.5重量%を超えた添加量では、目的とする効果は得られるものの経済的に不利となる。
【0013】
本発明の褐変防止剤を飲料へ添加する時期は、飲料の調製段階で添加することもできるし、あるいは飲料の調製後に添加することもできる。本発明の褐変防止剤を飲料へ添加する方法は特に制限されるものではなく、例えば、本発明の褐変防止剤をそのまま添加して均一化する方法や、一度水に溶解させた水溶液として飲料へ添加して均一化する方法、あるいは、アルコール水などの含水有機溶媒やエタノールなどの有機溶媒などに分散させた分散液として飲料へ添加し十分に攪拌して分散させる方法などがある。なお、このようにして得られた調製物を噴霧乾燥機や凍結乾燥機などを用いて乾燥することで、粉末などの固形状形態としてもよい。
【0014】
本発明の褐変防止剤は、有効成分としてCFを含むものであればどのような形態であってもよく、例えば、粉末状であってもよいし液状であってもよい。また、本発明の褐変防止剤は、他の褐変防止剤、例えばアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸ナトリウムを単独又は併用して用いても、ヘッドスペース中の空気を窒素ガスと置換することによる褐変防止方法と併用して用いても、あるいはトレハロースを併用して用いても何ら問題は生じない。他の褐変防止剤または褐変防止方法と併用した場合には、より透明容器に適した飲料を提供することができる。また、本発明の褐変防止剤は、必要に応じて、増量剤、酸化防止剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、糖類、甘味料、酸味料、ビタミン類などの公知の各種添加剤と適宜組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンEなどが挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン系非界面活性剤などが挙げられる。糖類としては、グルコース、フラクトースなどの単糖類のほか、マルトース、シュクロースなどの二糖類、ポリデキストロース、ペクチン、キサンタンガム、アラビアガム、アルギン酸などの多糖類、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、シクロデキストリンなどのオリゴ糖、キシリトール、エリスリトール、ソルビトールなどの糖アルコールなどを例示することができる。甘味料としては、天然甘味料(ソーマチン、ステビア抽出物、グリチルリチンなど)、合成甘味料(サッカリン、アスパルテームなど)などを利用できる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類のほか、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、リン酸が挙げられる。ビタミン類としては、ビタミンB類、ビタミンC、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、メソイノシトール、葉酸、コリン、ビタミンU、ビタミンPなどの水溶性およびビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどの脂溶性ビタミン類が挙げられる。その他の添加剤としては、グレープフルーツ、リンゴ、オレンジ、レモン、パイナップル、バナナ、ナシなどの各種果汁(濃縮果汁);グルタミン酸、グリシン、アラニン、アスパラギン酸などのアミノ酸;イノシン酸、グアニル酸などの呈味成分;カルシウム、リン、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、イオウ、塩素、鉄、亜鉛、マンガン、銅、ヨウ素などのミネラルないし微量元素などが挙げられる。
【0015】
本発明の褐変防止剤の添加対象となる飲料は、例えば、炭酸飲料、ブドウ、リンゴ、ミカンなどの果汁や果汁飲料や果汁入り清涼飲料、果肉飲料や果粒入り果実飲料、トマト、ピーマン、セロリ、ニンジン、ジャガイモ、アスパラガスなどの野菜を含む野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、緑茶飲料・烏龍茶飲料・紅茶飲料などの茶系飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、ドリンク剤などの栄養飲料、アルコール飲料などが挙げられる。なかでも本発明の飲料は、褐変による水色の変化が目立ちやすい飲料が好ましく、例えば、ポリフェノールを含有する飲料、特に緑茶飲料などの茶飲料を好適に挙げることができる。
【0016】
本発明におけるポリフェノールとは、植物もしくはその加工物由来のポリフェノールを意味する。ここで、ポリフェノールは、一般に多価フェノールとも呼ばれ、広義には同一ベンゼン環上に2個以上の水酸基を持つ化合物の総称(化学大辞典、(株)東京化学同人発行)と定義されている。上記ポリフェノールを構成する代表的な化合物群としては、フラボン、イソフラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノノール、フラバン−3,4−ジオール、フラバン−3−オール、アントシアニジン、オーロン、カルコン、ジヒドロカルコンなどのフラボノイドおよびそれらの関連化合物を挙げることができる。
【0017】
ポリフェノールを含有する植物もしくはその加工物の例としては、茶(ツバキ科)、その加工物として緑茶、紅茶、ウーロン茶、ほうじ茶、プアール茶等;ブドウ(ブドウ科)、その加工物としてワイン;カカオ(アオギリ科)、その加工物としてチョコレート、ココア;黄杞(クルミ科)、その加工物として黄杞茶;その他にコーヒー(アカネ科)、リンゴ(バラ科)、ホップ(クワ科)、カンキツ(ミカン科)、ローズマリー(シソ科)、ダイズ(マメ科)、ブルーベリー(ツツジ科)等の植物あるいはそれらの加工物を挙げることができ、なかでも茶およびその加工物であることが好ましい。本発明の褐変防止剤の添加対象となるポリフェノール含有飲料は、前記ポリフェノールを含有する植物もしくはその加工物を使用することもできるが、好ましくはこれらの抽出物や乾留物、さらに好ましくは該抽出物や乾留物からポリフェノールを所望の程度に精製したものを使用する。
【0018】
茶およびその加工物に含まれているポリフェノールの具体例としては、フラバン−3−オール類およびその関連化合物としてエピカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート、ガロカテキン、ガロカテキンガレート、カテキン、カテキンガレート、テアフラビン、テアフラビンガレートA、テアフラビンガレートB、テアフラビンジガレートなどを挙げることができる。これらは、精製品の他、粗製品であってもよく、またこれらを含有する市販品も使用できる。
【0019】
本発明の褐変防止剤の添加対象となる茶飲料は、茶樹(学名:Camellia sinensis)の主に葉や茎を用いて製造された紅茶、烏龍茶、プアール茶、緑茶等の茶、或いはこれら茶にさらに玄米、麦類、その他各種植物原料をブレンドしたものを、熱水、温水、冷水、エタノール、含水エタノール等で抽出して得ることができる。抽出液の褐変は、上記いずれの茶飲料においても起こるが、本発明は特に褐変による水色の変化が目立ちやすい緑茶飲料に有用である。緑茶の緑色呈色化は、茶葉中に含まれるクロロフィルに起因するものであるが、かかるクロロフィルは光や熱に弱く、非常に変色しやすい性状を有するものである。本発明の褐変防止剤は、褐変の進行を防止するとともに、クロロフィルに由来する緑茶本来の緑色を安定的に保持する作用をも有するものである。
【0020】
ここで、一般的な茶飲料の製造方法を説明すると、以下の通りである。
まず原料を温水又は熱水で抽出した後、濾過等により茶殻や微粒子を取り除く。次いで、抽出液にアスコルビン酸やアスコルビン酸ナトリウムを添加したり、抽出液を適当な濃度に希釈する。この作業を調合と称する。容器としてペットボトル等を使用する場合には、容器に充填する前に調合液の加熱殺菌を行う。一方、缶等に充填する場合には、充填後の容器ごと加熱殺菌を行う。また、充填の際には、ヘッドスペース中の空気を窒素ガスで置換することもできる。本発明においては、CFを抽出用水に添加することもできるが、上記工程中の調合時にCFを添加するのが、作業効率上好ましい。
【0021】
茶抽出液を濃縮して茶エキスとする場合には、濃縮前の抽出液にCFを添加しても良いし、濃縮後に添加しても良い。また、これらエキスをスプレードライヤー等で粉末化することもできる。抽出液にCFを添加しておけば、茶エキスや粉末の褐変進行をも防止することができる。上記茶エキスや粉末は、水等で希釈することにより飲料として使用する他、キャンディー、ガム、ゼリー等食品の原料としても使用される。本発明は、これら食品に使用された場合にも、褐変防止効果が持続される。
【0022】
本発明の飲料は、稀釈せずにそのまま飲用できるもの以外にも、飲料販売時には粉末の形態で飲用時に適宜の濃度に水などで溶解して提供されるようないわゆる粉末清涼飲料や、濃縮タイプの飲料にも適用することができる。また本発明の飲料の形態は、水溶液や混濁物や乳化物などの液状形態のほか、ゲル状やペースト状の半固形状形態であってもよい。また本発明の飲料はホット飲料にも好適に使用することができる。
【0023】
本発明の飲料は容器詰飲料であることが好ましい。本発明の容器詰飲料に使用される容器は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるペットボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などが挙げられる。本発明の褐変防止効果を期待するには、特にペットボトルやガラス瓶など透明な容器を使用した容器詰飲料に有用である。
【実施例】
【0024】
次に、本発明を実施例等により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
製造例1:シクロフラクタン(CF)混合物の製造方法
イヌリン4%、イーストエキストラクト0.2%、硝酸ナトリウム0.5%、硫酸マグネシウム0.05%、塩化カリウム0.05%、リン酸1カリウム0.05%、塩化第二鉄0.001%を含んだ培地200mlをpH7.5に調整して、120℃で15分間蒸気滅菌した。この滅菌した培地にパエニバチルス ポリミキサMG−CF6(FERM P−19158)を1白金耳接種し、200rpm、35℃で48時間振とう培養した。培養終了後遠心分離により菌体を除去し、培養上清液を得た。上記の操作を繰り返して得られた培養上清4000mlを減圧濃縮して粗CF含有液糖(約500ml、固形分として72g)とした。
この粗CF含有糖液のpHを1Mクエン酸で4.5に調整後、エキソ型およびエンド型イヌリナーゼ混合酵素(商品名Fructozyme L、 Novo Nordisk社製)を0.5ml(約1000単位)加え、60℃で1時間作用させた。これを100℃で10分間加熱して酵素を失活させ、遠心分離により変成蛋白を除いた。得られた反応溶液(CF含有酵素処理液)を高速液体クロマトグラフィーで分析したところ、糖分としてはCF、フルクトース、グルコースのみであった。
このCF含有酵素処理溶液をそのまま水で平衡化した活性炭カラム(40×900mm)に供した。カラムを6000mlの水で洗浄後、同量の30%(v/v)エタノール水溶液で溶出した。エタノール水溶液画分を減圧濃縮し、凍結乾燥してCF混合物約30g(組成比はCF6:61.7%、CF7:30.7%、その他:7.6%)を得た。
【0026】
製造例2:シクロフラクタン(CF)精製物の製造方法
製造例1で得られたCF混合物30gを、少量の70%エタノール水溶液に溶解した。この溶液を同濃度のエタノール水溶液で平衡化したQAE−トーヨーパールカラム(40×900mm)に供し、CF6とCF7を分離した。これらを凍結乾燥して、15gのCF6と7gのCF7それぞれの純品の粉末を得た。
【0027】
実施例1:緑茶飲料
液体飲料用にブレンドした緑茶50gを、65℃のイオン交換水1500gで5分間抽出し、続いて濾紙(NO.26、アドバンテック(株)製)で濾過することにより茶葉を除去して、1320gの緑茶抽出液(pH6.0、タンニン量290mg%)を得た。この緑茶抽出液を飲用濃度(タンニン量60mg%)となるようにイオン交換水で希釈し、L−アスコルビン酸を300ppmとなるように添加した後、炭酸水素ナトリウムでpH6.3に調整し、調合液を得た。この調合液に、重量換算でそれぞれ0.005、0.01、0.05、0.1、0.2、0.5重量%となるように製造例1で得られたCF混合物を添加した。これらの調合液を耐熱性透明ガラス容器に300gずつ充填・密封し、レトルト殺菌処理(121℃、7分間)を行って緑茶飲料とした。
得られた緑茶飲料を40℃で2週間保存した後、これらの緑茶飲料の褐変状況を目視により評価した。また、水色については、色差計(分光式色差計SE−2000、日本電色(株)製)により、a値を測定し、分光光度計により波長460nmでの吸光度を測定した。結果を第1表に示した。なお、褐変の評価基準は、次の通りである。○:褐変は認められる。△:若干の褐変が認められる。×:著しい褐変が認められる。
【0028】
【表1】

【0029】
この結果、緑茶飲料にCFを重量換算で0.01重量%以上添加することによって、緑茶飲料の褐変が有効に防止されることが明らかとなった。色差計による測定では、CFを添加することにより、a値の増加は抑えられていた。なお、色調のa値はマイナス値が大きいほど、緑色が強いことを示している。また分光光度計による波長460nmの吸光度の測定では、CFを添加することによって吸光度の増加は抑えられていた。なお、波長460nmの吸光度の値が大きいほど、褐変の度合いが強いことを示している。従って、色差計による測定、分光光度計による測定からも、CFを添加することにより、緑茶飲料の褐変が抑制され、クロロフィルに由来する緑色が安定に保持されていることが確認された。
なお、製造例2で得られたCF6およびCF7の各々についても、上記と同様の効果を確認した。
【0030】
実施例2:紅茶飲料
液体飲料用にブレンドした紅茶50gを、80℃のイオン交換水1500gで4分間抽出し、続いて濾紙(NO.26、アドバンテック(株)製)で濾過することにより茶葉を除去して、1380gの紅茶抽出液(pH4.9、タンニン量280mg%)を得た。この紅茶抽出液を飲用濃度(タンニン量50mg%)となるようにイオン交換水で希釈し、L−アスコルビン酸を300ppmとなるように添加した後、炭酸水素ナトリウムでpH6.0に調整し、調合液を得た。この調合液に、重量換算で0.1重量%となるように製造例1で得られたCF混合物を添加した。この調合液を耐熱性透明ガラス容器に300gずつ充填・密封し、レトルト殺菌処理(121℃、7分間)を行って紅茶飲料とした。
得られた紅茶飲料を40℃で2週間保存した後、この紅茶飲料の褐変状況および水色の評価は実施例1と同様に実施した。結果を第2表に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
この結果、紅茶飲料においてもCFを添加することにより褐変が抑制されていることが確認された。
【0033】
実施例3:烏龍茶飲料
液体飲料用にブレンドした烏龍茶50gを、80℃のイオン交換水1500gで4分間抽出し、続いて濾紙(NO.26、アドバンテック(株)製)で濾過することにより茶葉を除去して、1400gの烏龍茶抽出液(pH5.5、タンニン量180mg%)を得た。この烏龍茶抽出液を飲用濃度(タンニン量40mg%)となるようにイオン交換水で希釈し、L−アスコルビン酸を300ppmとなるように添加した後、炭酸水素ナトリウムでpH6.3に調整し、調合液を得た。この調合液に、重量換算で0.1重量%となるように製造例2で得られたCF7を添加した。この調合液を耐熱性透明ガラス容器に300gずつ充填・密封し、レトルト殺菌処理(121℃、7分間)を行って烏龍茶飲料とした。
得られた烏龍茶飲料を40℃で2週間保存した後、この烏龍茶飲料の褐変状況および水色の評価は実施例1と同様に実施した。結果を第3表に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
この結果、烏龍茶飲料においてもCFを添加することにより褐変が抑制されていることが確認された。
【0036】
実施例4:濃縮タイプの緑茶飲料
液体飲料用にブレンドした緑茶300gを、70℃のイオン交換水1800gで20分間抽出した。濾過により茶葉残渣を除去した後、抽出液に製造例1で得られたCF混合物15gを添加し、これを固形分が約25%になるまで減圧下で濃縮することにより、緑茶濃縮液を得た。これに9gのL−アスコルビン酸ナトリウムを溶解した後、上記の濃縮の際に得られた蒸発水を用いて固形分が約20%になるように調整することにより、緑茶エキスを得た。
この緑茶エキスを室温で3ヶ月保存した後、飲用濃度に希釈して褐変状況および水色の評価を行った。評価方法は実施例1と同様に実施した。結果を第4表に示した。
【0037】
【表4】

【0038】
この結果、濃縮緑茶飲料においてもCFを添加することにより褐変が抑制されていることが確認された。
【0039】
実施例5:アップルジュース
果糖ブドウ糖液糖 7g
1/5アップル濃縮果汁 6g
クエン酸 0.1g
クエン酸ナトリウム 0.1g
製造例2で得られたCF6 0.05g
アップルフレーバー 0.1g
上記成分をイオン交換水で溶解し、全量を100gとした。これを80℃で容器に充填し、本発明の褐変防止剤を含有するアップルジュースを得た。得られたアップルジュースを室温で3ヶ月保存した後、このアップルジュースの褐変状況および水色の評価は実施例1と同様に実施した。結果を第5表に示した。
【0040】
【表5】

【0041】
この結果、アップルジュースにおいてもCFを添加することにより褐変が抑制されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の褐変防止剤は、前記の通り、各種飲料などに添加することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロフラクタンを有効成分とする褐変防止剤。
【請求項2】
シクロフラクタンが環状イヌロヘキサオース、環状イヌロヘプタオースおよび環状イヌロオクタオースから選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の褐変防止剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の褐変防止剤を飲料へ有効量添加することを特徴とする飲料の褐変防止方法。
【請求項4】
飲料がポリフェノール含有飲料である請求項3記載の褐変が防止された飲料の褐変防止方法。
【請求項5】
ポリフェノール含有飲料が茶飲料である請求項4記載の褐変が防止された飲料の褐変防止方法。
【請求項6】
茶飲料が緑茶飲料である請求項5記載の褐変が防止された飲料の褐変防止方法。
【請求項7】
請求項1または2記載の褐変防止剤を有効量添加することを特徴とする褐変が防止された飲料。