説明

褥瘡治療用パッド

【課題】 使用前に水の添加や2剤の混合操作など炭酸ガスを発生させるための操作が不要であり、炭酸ガスの効果が持続的に得られる褥瘡治療用パッドを提供する。
【解決手段】 本発明の褥瘡治療用パッドは、吸水性を有する基底層1と、この基底層1を被覆するように設けられたガスバリア性を有する保護層2と、基底層1と保護層2の間に封入された炭酸ガス発生剤3を含んでなり、保護層2の周縁部分21で皮膚に貼着出来るようになっている。炭酸ガス発生剤は、酸と炭酸塩からなっており、基底層で吸収された水分と反応して炭酸ガス発生剤から炭酸ガスが発生するようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、褥瘡治療用パッドに関するもので、褥瘡から発生する水分を利用して炭酸ガスを発生させ、この炭酸ガスを経皮的に患部に吸収させて血行を改善し、褥瘡を治療する。
【背景技術】
【0002】
褥瘡は、長い間病床に伏している病人や、寝たきり老人などに見られる皮膚の壊死である。褥瘡は血行不良による酸欠が原因で生じると考えられており、従って、血行の改善により治療することが出来るものと思われる。
炭酸泉には皮膚血管拡張作用があることが知られており、炭酸泉を用いた温泉療法は特にヨーロッパにおいて高血圧症や末梢血管障害などを対象として古くから行われている。そして、炭酸泉の皮膚血管拡張作用により、皮膚血流量の増加や脈拍および拡張期血圧の減少などの効果が確認されている。
従来、このような炭酸泉の血行促進効果を局所的に得るための方法として種々の方法が提案されており、最も簡便な方法としては、高濃度炭酸水をガーゼ等に含浸させ皮膚に貼り付ける方法が知られている。しかしながら、この方法では高濃度炭酸水を製造するための装置や薬剤を必要とし、また炭酸ガスの漏出を考慮していないため持続的な効果は得られなかった。
【0003】
また、耐圧容器に密封した炭酸ガス配合の化粧料も提案されているが(特許文献1)、この炭酸ガスを配合した化粧料は、化粧料中に炭酸ガスを長時間留めておくことが困難であり、使用前に炭酸ガスが漏出してしまうため十分な血行促進効果が得られなかった。
さらに、炭酸塩と酸を同一の担体に担持させ、使用直前に水を含ませることにより炭酸ガスを発生させる方法も提案されている(特許文献2、特許文献3)。しかしながら、この方法は、使用直前に水を含ませる操作を必要とするため操作が煩雑であり、水を含ませずに褥瘡面に貼り付けた場合には、滲出液と反応して炭酸ガスを発生させることが予測されるが、炭酸ガス発生量が滲出液の量に左右されるという問題があった。特許文献2には、さらに、炭酸塩と酸を別々の担体に担持させ使用直前に2枚を貼り合わせることにより炭酸ガスを発生させる方法も提案されているが、このものは、使用直前に貼り合わせる操作が必要なうえ、2枚の担体の界面で反応するため炭酸ガスが効率よく皮膚面に供給されなかった。
また、炭酸塩を含む組成物と酸を含む組成物とを混合して炭酸ガス含有組成物を得るキットも提案されており、増粘剤を含有しジェル状とすることで炭酸ガスの効果が持続的に得られることを特徴とするが(特許文献4)、使用直前の混合操作が必要となり操作が煩雑であった。
【0004】
【特許文献1】特開昭59−141512号公報
【特許文献2】特開昭60−215606号公報
【特許文献3】特開昭62−286922号公報
【特許文献4】特開2000−319187号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、如上の事情に鑑みてなされたもので、使用前に水の添加や2剤の混合操作など炭酸ガスを発生させるための操作が不要であり、炭酸ガスの効果が持続的に得られる褥瘡治療用パッドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の褥瘡治療用パッドは、吸水性を有する基底層と、この基底層を被覆するように設けられたガスバリア性を有する保護層と、この保護層と前記基底層の間に封入された、水分と反応して炭酸ガスを発生する炭酸ガス発生剤を含んでなり、保護層の周縁部分で皮膚に貼着出来るようにされてなることを特徴とする。
ここで、炭酸ガス発生剤は、酸と炭酸塩を含有するものが好ましく、その形状は、粉末状であっても、ペレット状や板状であってもよい。また、基底層の炭酸ガス発生剤と接触する側は、透湿性フィルムで被覆されていてもよい。保護層は炭酸ガスバリア性フィルムからなるものが好ましい。
以上、一般的に本発明を記述したが、より一層の理解は、いくつかの特定の実施例を参照することによって得ることが出来る。これらの実施例は本明細書に例示の目的のためにのみ提供されるものであり、他の旨が特定されない限り、限定的なものではない。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下のような効果が期待できる。すなわち、本発明の褥瘡治療用パッドは患部に貼り付けるだけで褥瘡面を保護できるので、操作性に優れている。また、褥瘡面からの浸出液を基底層で吸収し、これを炭酸ガス発生剤と接触させることにより炭酸ガスを発生させ、発生した炭酸ガスが外部に漏れないようにしているので、炭酸ガスを持続的に長時間発生させることができる。また、透湿性フィルムを適当に選択することにより、炭酸ガスの持続的発生時間を調節できるので、褥瘡の状態に応じて効果的な治療を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
酸と炭酸塩からなる粉末状の炭酸ガス発生剤を、保護層と基底層の間に封入する。また、基底層の炭酸ガス発生剤と接触する側を透湿性フィルムで被覆し、保護層を炭酸ガスバリア性フィルムで形成する。
【実施例1】
【0009】
先ず、実施例1について、図1を用いて説明する。
図1は実施例1の概略説明図であり、断面形状を示す。
実施例1の褥瘡治療用パッドは、図1に示すように、吸水性を有する基底層1と、この基底層1を被覆するように設けられたガスバリア性を有する保護層2と、基底層1と保護層2の間に封入された炭酸ガス発生剤3を含んでなり、保護層2の周縁部分21で皮膚に貼着出来るようになっている。炭酸ガス発生剤は、酸と炭酸塩からなっており、基底層で吸収された水分と反応して炭酸ガス発生剤から炭酸ガスが発生するようになっている。
【0010】
基底層1は吸水性を有する材料によりシート状または層状に形成されており、褥層からの滲出液を吸収してこれを炭酸ガス発生剤3と接触させる機能を有している。また、保護層2の周縁部分21は、実質的に基底層1と同一平面上にあり、その基底層1側の面には粘着剤層4が設けられ、皮膚に貼着出来るようになっている。吸水性を有する材料としては、滲出液を吸収可能であれば特に限定されないが、織布、不織布、フォーム(発泡体)、ハイドロゲル、または、これらの2種以上の組み合わせが採用される。
織布、不織布としては、例えば標準的な創傷用ドレッシング材であるガーゼなどが採用可能である。また、フォームとしては、例えばポリアクリレートフォーム、ポリウレタンフォーム、ポリエステルフォームなどが採用可能であるが、親水性ポリウレタンフォームが好ましい。
ハイドロゲルは、天然ポリマーであっても、合成ポリマー、あるいはこれらの混合物であってもよく、天然ポリマーとしては、例えばセルロース系誘導体、アルギン酸塩、寒天、ゼラチンなどが採用可能である。合成ポリマーとしては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどが採用可能である。
【0011】
保護層2はガスバリア性材料により薄いシート状またはフィルム状に形成されており、基底層1と保護層2の間に封入された炭酸ガス発生剤3を保護すると共に、基底層1で吸収された褥層からの滲出液と反応して炭酸ガス発生剤3から発生した炭酸ガスを閉じこめ、外部に逃がさないようにする機能を有している。ガスバリア性材料としては、発生した炭酸ガスを通さないものであれば特に限定されないが、炭酸ガスバリア性を有する材料としては、エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリビニルアルコール、ナイロン系フィルム、シリカ蒸着フィルム、アルミナ蒸着フィルムなどが採用可能であり、これらの2種以上を組み合わせることも可能である。
【0012】
炭酸ガス発生剤3は酸と炭酸塩からなっており、基底層で吸収された水分と反応して炭酸ガスを発生する機能を有している。炭酸ガス発生剤3は粉末状の酸及び炭酸塩をそのまま混合した粉末状のものであっても、固めてペレット状や板状にしたものであっても構わない。炭酸ガスの発生を数日間にわたって持続させるためには、褥瘡からの滲出液が多い場合、ペレット状や板状にして、炭酸ガスの発生を抑制する必要がある。
酸としては、有機酸、無機酸を問わず採用することができ、これらの2種以上を組み合わせることも可能である。有機酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸等の直鎖脂肪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、サリチル酸、没食子酸、トロパ酸、アスコルビン酸、グルコン酸等のオキシ酸などが採用可能であり、無機酸としては、例えばリン酸、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム、酸性へキサメタリン酸ナトリウム、酸性ヘキサメタリン酸カリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、スルファミン酸などが採用可能である。
また、炭酸塩としては、酸と反応して二酸化炭素を発生するものであれば特に限定されないが、好ましくは例えば炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、セスキ炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、セスキ炭酸リチウム、炭酸セシウム、炭酸水素セシウム、セスキ炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水酸化マグネシウム、炭酸バリウムなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の炭酸塩、炭酸水素塩、セスキ炭酸塩、塩基性炭酸塩等が採用可能であり、これらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0013】
このものは、患部に貼り付けるだけで褥瘡面を保護できるので、操作性に優れている。 また、褥瘡面からの浸出液を基底層1で吸収し、これを炭酸ガス発生剤3と接触させることにより炭酸ガスを発生させ、発生した炭酸ガスが外部に漏れないようにしているので、炭酸ガスを持続的に長時間発生させることができる。
【実施例2】
【0014】
次に、実施例2について、図2を用いて説明する。
図2は実施例2の概略説明図であり、断面形状を示す。
実施例2の褥瘡治療用パッドは、図2に示すように、実施例1において、基底層1の炭酸ガス発生剤3と接触する側が、透湿性フィルム5で被覆されたものである。
このものは、透湿性フィルム5で水分の透過を抑制して炭酸ガスの発生を抑え、炭酸ガスの発生を長時間持続するようにできる。従って、透湿性フィルムを適当に選択することにより、炭酸ガスの持続的発生時間を調節できるので、褥瘡の状態に応じて効果的な治療を行うことができる。
【0015】
〔炭酸ガス発生試験〕 吸水性材料としてポリウレタンフォーム(φ92×1mm)を、炭酸ガス発生剤として粉末状サンプル:試験例1(形状:φ92×2mm、クエン酸8.10g、炭酸水素ナトリウム9.00g)と、板状サンプル:試験例2(形状:φ92×2mm、クエン酸8.10g、炭酸水素ナトリウム9.00g、バレイショデンプン6.00g)、ブランクサンプル(形状:φ92×2mm、塩化ナトリウム17.10g)を用意し、図6に示すような試験装置を用いて、ポリウレタンの上から、霧吹きで1時間おきに0.66gの水分を噴霧して、30分置きに装置の重量を測定し、重量の変化を求めたところ、図3に示すような結果が得られた。図4および図5は、それぞれ重量の変化から求められた炭酸ガスの総発生量と発生速度を示す。尚、重量の測定は、電子天秤(メトラー・トレド社、AJ180)を用いて行った。
図5から、炭酸ガスの発生速度は4時間前後でピークに達し、8時間以上持続することが判る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の1実施例に係る褥瘡治療用パッドの概略説明図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す概略説明図である。
【図3】サンプルおよびブランクの重量変化を示す図である。
【図4】炭酸ガスの総発生量を示す図である。
【図5】炭酸ガス発生速度を示す図である。
【図6】炭酸ガス発生試験装置の説明図である
【符号の説明】
【0017】
1 基底層
2 保護層
21 周縁部分
3 炭酸ガス発生剤
4 粘着剤層
5 透湿性フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性を有する基底層と、該基底層を被覆するように設けられたガスバリア性を有する保護層と、該保護層と前記基底層の間に封入された、水分と反応して炭酸ガスを発生する炭酸ガス発生剤を含んでなり、保護層の周縁部分で皮膚に貼着出来るようにされてなる褥瘡治療用パッド。
【請求項2】
炭酸ガス発生剤は、酸と炭酸塩を含有してなる請求項1に記載のパッド。
【請求項3】
炭酸ガス発生剤の形状が、粉末状、ペレット状、板状の中から選ばれる1つである請求項2に記載のパッド。
【請求項4】
基底層の炭酸ガス発生剤と接触する側が、透湿性フィルムで被覆されてなる請求項1〜3のいずれかに記載のパッド
【請求項5】
保護層が炭酸ガスバリア性フィルムからなる請求項1〜4のいずれかに記載のパッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−249025(P2006−249025A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70136(P2005−70136)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】