説明

襠を有する筒状編地の編成方法および編地

【課題】 前後にゆとりがあり、人体に沿うようなアウトラインを無縫製で得ることができる襠を有する筒状編地の編成を可能にする。
【解決手段】 襠部4の編地は、前側の襠編地4Fと後側の襠編地4Bとで形状を異ならせ、後側の襠編地4Bの方が前側の襠編地4Fよりも編成するコース数を多くする。襠部4の編成は、異なるS2〜S4の3つの区間に分けて行う。区間S1で、左右の脚部3L,3Rを、独立した筒状編地として編成する。区間S2,S3では、身頃と襠とを編成するコース数の比率を変えて、緩曲部5F,5Bと急曲部6F,6Bとを編成する。前身頃の編幅は、ダーツ部9Fを設けて、後身頃の編幅と同一になるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体に装着する衣服などを、無縫製の筒状の編地として編成し、筒状の編地を接合する関節などに対応する部分に襠を形成して、着用感を良好にするための襠を有する筒状編地の編成方法および編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体に装着する衣服では、前部と後部とがそれぞれ外部に膨らむような大略的に筒状の形状となっている。前後に少なくとも一対の対向する針床を備えて、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能な横編機では、筒状の編地を無縫製で製造することができる。前後の針床にそれぞれ編地がかかっている状態で、前後の編地を周回するように編糸を供給すれば、前後の編地が編幅の両端で連結しながら、全体として筒状の編地を無縫製で製造することができる(たとえば、特許文献1〜3参照。)。これらの特許文献1〜3には、セーターなど、人体の上半身に着用するニット製品で身頃の部分と袖との間に襠(マチ)を形成しながら、筒状の編地を無縫製で編成する技術が開示されている。パンツなどの人体の下半身に着用するニット製品を、両脚間に襠を形成しながら、筒状の編地で無縫製で形成することも可能である(たとえば、特許文献4参照。)。
【0003】
図10は、横編機で編成される編地の形状を、基本的な平編みの場合について示す。針床の長手方向にキャリッジが移動して編針の編成作用が行われると、Cで示すコースの方向に編目ループの連なりが形成される。各編目ループは、キャリッジの通過前に編針に係止されていた編目ループをノックオーバさせて、コース方向に直交し、Wで示すウェールの方向にも連なるようになる。このような編地の基本的な性質として、コース方向には伸びやすく、ウェール方向には伸び難いことが知られている。特許文献1〜4の先行技術で形成される襠は、筒状編地間の接合を前後方向に連続して行う過程で形成され、筒状編地同士の境界部分には、各筒状編地のコース方向に連なる伏目が編成される。特許文献2では、筒状編地間の連結部分に孔が明かず、伸びがあるとともに引張り強度も大きくなるように、渡り糸が生じるような編成が行われるようにしている。
【0004】
襠として編地を編成する技術も知られている(たとえば、特許文献5参照。)特許文献5の請求項1には、無縫製ニットパンツを胴部を先に形成し、中央部の股の部分では、「左右に編み目を割り込ませながら周回編成して略三角形状の割増部(17a)を形成」し、「左右外側から内側に向かって次第に編み目を止め保持しながら周回編成して逆三角形状の割増部(17b)を形成」し、「次いで股下部(15)を周回編成する際に、前記割増部(17b)の下端の編み目数を保ちながら股下部(15)の内側部分に割増部(17c)を形成」する旨が記載されている。
【0005】
なお、肌着などの縫製による衣服の製造では、立体裁断に基づいて生地を裁断する原形を作る技術が用いられている。このような立体裁断では、襠の部分に独立した生地が当てられる。パンティストッキングやタイツについて、筒状編地の接合部分にマチを縫着させる技術も知られている(たとえば、特許文献6参照。)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第01/088243号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2002/063085号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/031707号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2004/063447号パンフレット
【特許文献5】特許第3403720号公報
【特許文献6】特開平9−78309号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜4に開示されているような技術を使用すれば、セーターなどの袖と身頃との間やパンツなどの股のような接合部分に襠を持つ立体的なニット製品を無縫製で製造することができる。これらの襠を持つニット製品では、襠の部分が充分にとられていれば、着用者は充分なゆとりを感じることができる。しかしながら、編成が直線的なため、人体に沿うようなアウトラインにはならず、襠の部分を大きく形成することは外観上好ましくない。スポーツ等の用途における腕や脚の動作では、さらなるゆとりや伸びが要求されることもある。特許文献2の技術では、襠の部分に渡り糸を付加し、補強を行うことはできるけれども、延びは得られない。特許文献5の技術では、脚部の内側にも襠を延長させるので、襠となる部分が大きくなってしまう。
【0008】
また、特許文献1〜5の技術では、襠の形状が前側と後側とで同等となるけれども、人体は前後で大きさが異なる。たとえば上半身では、前側の胸部の方が後側よりも大きく、また腕の関節も胸部側に大きな角度範囲で動き得るように形成されている。下半身では、前側よりも後側の臀部の方が大きい。人体に着用する衣服などを形成するための襠の機能としては、人体の前後の形状の違いを吸収して、ゆとりをもたせることが期待される。しかしながら、横編機で襠を前側と後側とに分けて筒状に編成すると、前後の方向がウェール方向となる。編地はウェール方向には延びにくいので、前後方向へのゆとりがつきにくい。特許文献6の技術のように、別生地で襠を形成して筒状の編地に追加する場合は、立体裁断などに基づく適切な形状とすることは可能であるけれども、襠の部分を別生地として、縫着しなければならず、無縫製ではなく、手間がかかってしまう。
【0009】
本発明の目的は、前後にゆとりがあり、人体に沿うようなアウトラインを無縫製で得ることができる襠を有する筒状編地の編成方法および編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前後に少なくとも一対の対向する針床を備えて、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能な横編機で、前後の針床でそれぞれ編成する編地を両端で連結しながら、接合部分には襠編地を形成して、襠を有する筒状編地を無縫製で編成する方法であって、
接合する複数の筒状編地を、先端から接合部分近傍までそれぞれ編成し、
接合部分近傍では襠編地の編出しも開始し、
襠編地を、前側と後側とでそれぞれで形状が異なるように編成し、
筒状編地間を襠編地を介して接合するとともに、
襠編地は、前側と後側とで編成するコース数を異ならせ、
前側と後側との襠編地のうちでコース数が少ない側に接合される筒状編地の一方側は、幅方向の中間にダーツの成型を行って、編幅を前側と後側との襠編地のうちでコース数が多い側に接合される筒状編地の他方側に合わせることを特徴とする襠を有する筒状編地の編成方法である。
【0011】
また本発明で、前記前側と後側との襠編地のうちの一方は、編幅が減少する部分と編幅が一定となる部分とを含むように、
前側と後側との襠編地のうちの他方は、編幅が減少するように、
それぞれ編成することを特徴とする。
【0012】
また本発明では、前記前側と後側との襠編地のうちの少なくとも一方で編成するコース数と、該襠編地に接合する部分の筒状編地で編成するコース数との比率を、1:1よりも、該襠編地側が小さくなるようにすることを特徴とする。
【0013】
また本発明では、前記襠編地と前記筒状編地とを編成するコース数の比率を、襠編地の前側と後側とで異ならせるようにすることを特徴とする。
【0014】
また本発明で、前記筒状編地は人体の下半身に着用され、
前記襠編地は、筒状編地の両脚間の股下部分に形成し、襠編地の前側のコース数よりも後側のコース数を多くすることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明は、前述のいずれかの襠を有する筒状編地の編成方法で製造されることを特徴とする編地である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前後に少なくとも一対の対向する針床を備えて、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能である横編機を用いて、前後にゆとりがあり、人体に沿うようなアウトラインの襠を有する筒状編地を、無縫製で製造することができる。襠編地は、前側と後側とで編成するコース数を異ならせ、前側と後側との襠編地のうちでコース数が少ない側に接合される筒状編地の一方側は、幅方向の中間にダーツの成型を行って、編幅を前側と後側との襠編地のうちでコース数が多い側に接合される筒状編地の他方側に合わせるので、筒状編地としての前後の連結部分で編目の方向をそろえることができる。
【0017】
また本発明によれば、前側と後側との襠編地のうちの一方は、編幅が減少する部分と編幅が一定となる部分とを含むように編成するので、充分なゆとりを持たせることができる。
【0018】
また本発明によれば、前側と後側との襠編地のうちの少なくとも一方で編成するコース数と、襠編地に接合する部分の筒状編地で編成するコース数との比率を、1:1よりも、襠編地側が小さくなるようにするので、襠編地の内部がアーチ状に窪み、アウトラインが直線的ではない人体に沿う形状にすることができる。
【0019】
また本発明によれば、襠編地と筒状編地とを編成するコース数の比率を、襠編地の前側と後側とでそれぞれ異ならせるので、ゆとりの必要に応じてアーチ状の窪みに緩急をつけることができ、前後それぞれでも調整することができる。
【0020】
また本発明によれば、人体の下半身に着用されるパンツなどを無縫製で、しかも両脚間の股下部分に形成する襠編地の臀部側となる後側のコース数を前側より多くして、臀部側により大きなゆとりを持たせて製造することができる。
【0021】
さらに本発明によれば、人体に装着する衣服などの編地を、横編機を使用して、無縫製で襠を有する筒状編地として製造し、前後の形状を変えて充分なゆとりと良好なアウトラインとを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明の実施の一形態としての襠を有する筒状編地の編成方法で形成されるニット製品の一例であるパンツ1での編地のレイアウトを示す。パンツ1は、大略的に胴部2と脚部3とからなる。胴部2は一つの筒状編地として編成される。脚部3は、左右の脚部3L,3Rとして、それぞれ筒状に形成される。左右の脚部3L,3Rは、襠部4を挟んで胴部2に接合される。
【0023】
このようなパンツ1などの襠を有する筒状編地は、正面から見て歯口の前後に少なくとも一対の対向する針床を備え、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能な横編機で編成することができる。前後の針床でそれぞれ編成する編地を両端で連結すれば、筒状の編地を形成することができる。針床が前後で一対設けられる2枚ベッドの横編機を用いる場合には、各針床でたとえば1本おきの編針を使用してその針床では表目を編む編地を編成し、中間の編針を空針として使用して、対向する針床で表目を編成する編地に対する裏目やリブ編みの編成、目移し時の係止などに使用する。針床が前後で上下2段ずつ設けられる4枚ベッドの横編機を用いる場合には、前側編地を下部前針床と上部後針床の編針で編成し、同様に後側編地を下部後針床と上部前針床の編針を使用して編成することができるので、2枚ベッド横編機のように空針を設ける必要はなく、また、リンクス、ガーター、リブなどの表目と裏目とが混在した組織柄を編成したり、前後の編地について編目をコース方向に移動させて互いに接合したりすることができるようになっている。筒状の編地の接合部分に襠編地を形成するようにすれば、襠を有する筒状編地を無縫製で編成することができる。
【0024】
図1のパンツ1を製造する場合、たとえば人体に着用するときに前側となる編地は前針床で表目を編むように編成し、後側となる編地は後針床で表目を編むように編成する。図1(a)は前側の編地を示し、図1(b)は後側の編地を示す。襠部4の編地は、前側の襠編地4Fと後側の襠編地4Bとで形状を異ならせ、後側の襠編地4Bの方が前側の襠編地4Fよりも編成するコース数を多くする。すなわち、図1(a)に示す前側では、左右に分けて示されている前側の胴部2LF,2RFと、左右の脚部3L,3Rの前側3LF,3RFとからなる前身頃、および前側の襠編地4Fを編成する。図1(b)に示す後側では、左右に分けて示されている後側の胴部2LB,2RBと、左右の脚部3L,3Rの後側3LB,3RBとからなる後身頃、および後側の襠編地4Bを編成する。
【0025】
図1に示す部分の編成は、S1〜S5の5つの区間に分けて行うことができる。襠部4の編成は区間S2〜S4で行う。
【0026】
まず、区間S1では、接合する複数の筒状編地となる左右の脚部3L,3Rを、先端から接合部分近傍までそれぞれ独立した筒状編地として編成する。各脚部3L,3Rは、前側3LF,3RFと後側3LB,3RBとを幅の両側で連結しながら、それぞれ筒状に編成する。襠部4は編成されないけれども、後述するような捨て編みが行われることがある。
【0027】
区間S2では、脚部3L,3Rの接合部分近傍となり、襠部4となる襠編地の編出しも開始する。編成に使用する横編機に、編地を歯口下方に押し下げる機能を有する可動のシンカが備えられていたり、部分的な編地の引き下げが可能な機構が備えられていれば、脚部3L,3Rの編成の途中から襠編地を編出すことができる。脚部3L、3Rの編成とともに捨て編みを行っておけば、捨て編みされた編地を介して、襠部4を脚部3L,3Rとともに歯口下方へ引き下ろすことができる。
【0028】
区間S2の編成では、身頃3目襠1目と身頃1目襠1目との編成を組合わせると同時に、襠部4の成型も行い、緩曲部5F,5Bがそれぞれ形成される。後側の緩曲部5Bは、編幅一定のストレート部として編成する。胴部2および脚部3の身頃と襠部4との編成比率は、合算して身頃4目襠2目となる。身頃の成型では、前身頃と後身頃とで成型を行う位置を変化させ、後側の襠編地4Bの方が長くなるように成型を行う。
【0029】
次の区間S3の編成では、身頃3目襠1目の比率で編成を行うと同時に、襠部4の成型も行い、急曲部6F,6Bがそれぞれ形成される。前身頃および後身頃も、編幅全体から見て同角度となるような位置で成型を行う。ここで、前側の襠編地4Fの目減らしは完了する。
【0030】
次の区間S4の編成では、身頃1目襠1目の比率で編成を行うと同時に、後側の襠編地4Bの成型を行い目減らし部7Bを形成する。前側の襠編地4Fは、区間S3で目減らしが終了しているので、前身頃には、後側の目減らし部7Bに相当する、ダーツ部9Fを設ける。前身頃の編地の中間で目減らしのためのダーツの成型を行うことによって、後身頃での減らし目の数と一致し、前後身頃の編幅は同一に保たれる。ここで、後側の襠編地4Bの目減らしも完了する。
【0031】
次の区間S5では、中央の延長部8F,8Bを介して左右の胴部2L,2Rを接合し、全体として一つの筒状編地としての胴部2を形成する。
【0032】
図2は、図1の襠部4として編成する部分の形状を示す。図2(a)は前側の襠編地4F、図2(b)は後側の襠編地4Bの形状をそれぞれ示す。実際に編成する襠部4は、編み出し部での編目数で、たとえば株式会社島精機製作所の製品であるSWG−X型の4枚ベッド横編機で12ゲージのものを使用すると、40目で形成することができる。
【0033】
図1の区間S2に対応する緩曲部5F,5Bでは、身頃4目襠2目、すなわち左脚部3Lと襠部4と右脚部3Rとを4:2:4のコース数で編成することを8回繰り返す。前側の緩曲部5Fでは、1コース編成する毎に2目減らすように成型するので、8回の繰り返し後には、2×8=16目減少し、40−16=24目となる。後側の緩曲部5Bでは、目減らしは行わず、40目の編幅を保つ。
【0034】
図1の区間S3に対応する急曲部6F,6Bでは、身頃3目襠1目、すなわち左脚部3Lと襠部4と右脚部3Rとを3:1:3のコース数で編成することを11回繰り返す。各急曲部6F,6Bは、1コース編成する毎に2目減らすように成型するので、11回の繰り返し後には、2×11=22目減少し、前側の急曲部6Fでは24−22=2目となり、後側の急曲部6Bでは、40−22=18目となる。
【0035】
図1の区間S4に対応する襠部4は、前側は幅2目の延長部8Fとなり、後側は目減らし部7Bとなる。身頃1目襠1目、すなわち左脚部3Lと襠部4と右脚部3Rとを1:1:1のコース数で編成することを30回繰り返す。この間に、目減らし部7Bでは、両側で8目ずつ、合計16目の目減らしが行われ、2目残って延長部8Bに移行する。
【0036】
緩曲部5F,5Bおよび急曲部6F,6Bで襠部4は、表面がアーチ状に窪み、脚部3L,3R間を円滑に接合することができる。アーチ状に窪むのは、襠部4の編地の編成コース数と、襠部4に接合する脚部3L,3Rの部分の筒状編地の編成コース数との比率を、1:1よりも、襠部4側が小さくなるようにしているからである。さらに、襠編地4F,4Bと筒状編地とを編成するコース数の比率を、前側と後側との襠編地4F,4Bでそれぞれ異ならせるので、ゆとりが必要な側では比率を大きくすることができる。
【0037】
脚部3L,3Rの筒状編地と前後の襠部4F,4Bの編地との接合過程では、脚部3L,3R側に前後の襠部4F,4Bとは接合しないコースが生じ、前後の襠部4F,4B側は各コースがそれぞれ脚部3L,3Rに接合される。前後の襠部4F,4B側で接合される辺の部分は、脚部3L,3Rによってウェール方向に引き延ばされ、前後の襠部4F,4Bの内部が湾曲するように引張られ、曲面形状の襠を形成することができる。緩曲部5F,5Bよりも急曲部6F,6Bの方が襠部4の比率が小さいので、より顕著な窪みが形成される。このように、前側と後側との襠編地4F,4Bのうちの少なくとも一方で編成するコース数と、襠編地4F,4Bに接合する部分の筒状編地で編成するコース数との比率を、1:1よりも、襠編地4F,4B側が小さくなるようにするので、襠編地4F,4Bで筒状編地と接合される辺が引っ張られ、襠編地4F,4Bの内部がアーチ状に窪み、アウトラインを人体に沿う形状にすることができる。
【0038】
図3は、図1〜図2に従って製造されるパンツ1の形状を示す。図3(a)は上方から見た状態、図3(b)は正面から見た状態、図3(c)は背面から見た状態をそれぞれ示す。図4は、図3のパンツ1の脚部3を延長して形成されるタイツ10の形状を側面から見て示す。襠部4の前側および後側の襠編地4F,4Bは、緩曲部5F,5Bの前後の境界に編み出しが作られる。前側で編幅が減少する緩曲部5Fおよび急曲部6Fを形成する間に、後側で編幅が一定の緩曲部5Bと編幅が減少する急曲部6Bとを形成することで、後側のくりを大きくつけることができる。この間の目数は、襠部4が少なく、身頃部分が多いため、より立体的となる。さらに後側の目減らし部7Bを形成しながら前身頃の成型を行う。パンツ1のような筒状編地は人体の下半身に着用され、襠部4は、筒状編地の両脚部3L,3R間の股下部分に形成するので、臀部側となる後側の襠編地4Bのコース数を多くして、ゆとりを持たせることができる。
【0039】
図5は、図1のパンツ1を編成する際に、脚部3L,3Rの接合部分近傍で襠部4の編成を行いながら編地間の接合を行うための基本的な糸回しを示す。本図および図3以下に示す糸回しに関連する各図では、説明の便宜上、脚部3および襠部4は、前側の編地となる脚部3LF,3RFおよび襠部4Fを前針床で、後側の編地となる脚部3LB,3RBおよび襠部4Bを後針床で、それぞれ編成する状態で示しているけれども、各編地の編成は、前述のように、前後の針床を使用して行うことができる。また、針床の左右は横編機の正面から見た状態で示し、針床の左側部分で編成される編地の右側部分(脚部3R)が係止され、針床の右側部分に編成される編地の左側部分(脚部3L)が係止されるものとする。糸回しの説明で給糸する位置は、針床を基準に示す。
【0040】
まず、最初のコースA1では、右側の脚部3Rの後側3RBの編地を編成するために、編幅の外端側から内端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA2では、右後側の脚部3RBの編地を編成するために、編幅の内端側から外端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA3では、前側の針床に編糸を回し、右側の脚部3Rの前側3RFの編地を編成するために、編幅の外端側から内端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA4では、右前側の脚部3RFの編地を編成するために、編幅の内端側から外端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA5では、後側の針床に編糸を回し、右側の脚部3Rの後側3RB、後側の襠部4Bおよび左後側の脚部3LBの編地を連続して編成するために、編幅の左側の外端側から右側の外端側の方向へと編糸を給糸する。
【0041】
次のコースA6では、前側の針床に編糸を回し、左側の脚部3Lの前側3LFの編地を編成するために、編幅の外端側から内端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA7では、左前側の脚部3LFの編地を編成するために、編幅の内端側から外端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA8では、後側の針床に編糸を回し、左側の脚部3Lの後側3LBの編地を編成するために、編幅の外端側から内端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA9では、左後側の脚部3LBの編地を編成するために、編幅の内端側から外端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースA10では、前側の針床に編糸を回し、左側の脚部3Lの前側3LF、前側の襠部4Fおよび右前側の脚部3RFの編地を連続して編成するために、編幅の右側の外端側から左側の外端側の方向へと編糸を給糸する。
【0042】
以上で説明するような糸回しは、一筆書きでスタート位置に戻るように行えばよい。ただし、襠部4を編成するコース数と脚部3を編成するコース数との比は、1:3となり、1:1よりも襠部4のコース数の比率が低くなるようにしている。これによって、前述のように、編成された襠部4をアーチ型に窪む曲面とすることができる。
【0043】
図6は、図5に示す糸回しとともに、前後の針床間での目移しやラッキングを併用して、左右の脚部3L,3Rを襠部4を介して接合していく過程を示す。前針床は右下がりの斜線を施して示し、後針床は右上がりの斜線を施して示す。脚部3を3コース編成し、襠部4を1コース編成する間に、左右の脚部3L,3Rを合計2目ずつ、編幅の内側に寄せるように成型する。なお、脚部3および襠部4として示す編目の数は説明の便宜のための例を示す。また、襠部4を、たとえば1×1リブ編みなどで編成するようにすれば、延びやすくすることができる。
【0044】
図7は、図1のパンツ1を編成する際に、区間S2で、襠部4の編地の編成コース数と、襠部4に接合する脚部3L,3Rの部分の筒状編地の編成コース数との比率を、1:2とする糸回しの例を示す。左右の脚部3L,3Rと襠部4とを編成するコース数の比率は、4:2:4となる。この比率は、図5のような3:1:3のコース数での一筆書きの糸回しと、1:1:1のコース数で一周する糸回しとを組み合わせて実現することができる。すなわち、コースB1からB10までの各コースは、図5のコースA1からA10の各コースとそれぞれ同等に行う。次のコースB11では、後側の針床に編糸を回し、右側の脚部3Rの後側3RB、後側の襠部4Bおよび左側の脚部3Lの後側3LBの編地を連続して編成するために、編幅の左側の外端側から右側の外端側の方向へと編糸を給糸する。次のコースB12では、前側の針床に編糸を回し、左側の脚部3Lの前側3LF、前側の襠部4Fおよび右側の脚部3Rの前側3RFの編地を連続して編成するために、編幅の右側の外端側から左側の外端側の方向へと編糸を給糸する。
【0045】
図8は、本発明の実施の他の形態としての襠を有する筒状編地の編成方法で形成されるニット製品の一例であるセータ11の概略的な形状を示す。セータ11は、大略的に身頃12と袖部13とからなる。身頃12は一つの筒状編地として編成される。袖部13は、左右の袖部13L,13Rとして、それぞれ筒状に形成され、身頃12と接合し、1つの筒状編成となる。各袖部13L,13Rが身頃12に接合する部分には、襠部14が設けられる。左右の袖部13L,13R側から見れば、各袖部13L,13Rは、左右の襠部14L,14Rを挟んで身頃12にそれぞれ接合される。襠部14は、図1の襠部4と同様に、アーチ15が形成されるようにコース数を少なくし、袖部13L,13Rと身頃12とが曲面で円滑に接合されるようにしている。襠部14の前側と後側とでは、前側の襠編地14Fの方が後側の襠編地14Bよりもコース数が多くなるようにして、胸側にゆとりを持たせることができる。前後の身頃での目数の調整は、ダーツを形成して行えばよい。
【0046】
図9は、本発明の実施のさらに他の形態としての襠部24,34の形状の例を示す。図9(a)の襠部24では、前側または後側のうちの一方の襠編地24Aに一定幅部25と目減らし部26Aとを設け、他方の襠編地24Bには目減らし部26Bを設けて、コース数を一方の襠編地24A側の方が大きくなるようにしている。図9(b)の襠部34では、前側または後側のうちの一方の襠編地34Aに一定幅部35と目減らし部36Aとを設け、他方の襠編地34Bには目減らし部36Bを設けて、コース数を一方の襠編地34A側の方が大きくなるようにしているとともに、編幅も大きくしてくり違いを設けている。襠部24,34の長さや幅のくり違いは、形成する部位での必要に応じて設けるようにすればよい。
【0047】
また、前側と後側との襠編地のうちの一方は、編幅が減少する目減らし部26A,36Aと編幅が一定となる一定幅部25,35とを含むように編成するので、充分なゆとりを持たせることができる。前側と後側との襠編地のうちの他方は、目減らし部26B,36Bとして編幅が減少するように編成するので、分かれている筒状編地間を接合して、自然な感じで一体化するをことができる。
【0048】
以上で説明しているような、無縫製で襠を有する筒状編地を編成する横編機は、前後に少なくとも一対の対向する針床を備えて、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能であればよい。筒状の編地は、前側と後側とを両端で連結しながら、接合部分には襠部4,14,24,34の編地を形成する。接合する複数の筒状編地は、先端から接合部分近傍までそれぞれ編成される。接合部分近傍では襠部4,14,24,34の編出しが開始される。襠部4,14,24,34は、前側と後側とでそれぞれで形状が異なるように編成されるので、前後にゆとりがあり、人体に沿うようなアウトラインを無縫製で得ることができる。襠を有する筒状編地間は、襠部4,14,24,34を介して接合されるとともに、襠部4,14,24,34は、前側と後側とで編成するコース数を異ならせる。前側と後側との襠編地のうちでコース数が少ない側に接合される筒状編地の一方側は、幅方向の中間にダーツの成型を行って、編幅を前側と後側との襠編地のうちでコース数が多い側に接合される筒状編地の他方側に合わせるので、前後の編地の編幅を同一に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の一形態としての襠を有する筒状編地の編成方法で形成されるニット製品の一例であるパンツ1での編地のレイアウトを示す図である。
【図2】図1の襠部4として編成する部分の形状を示す図である。
【図3】図1〜図3に従って製造されるパンツ1の形状を示す平面図、正面図および背面図である。
【図4】図4のパンツ1の脚部3を延長して形成されるタイツ10の右側面図である。
【図5】図1のパンツ1の区間S3を編成する際に、脚部3L,3Rの接合部分近傍で襠部4の編成を行いながら編地間の接合を行うための基本的な糸回しを示す図である。
【図6】図5に示す糸回しとともに、前後の針床間での目移しやラッキングを併用して、左右の脚部3L,3Rを襠部4を介して接合していく過程を示す図である。
【図7】図1のパンツ1を編成する際に、区間S2で、襠部4の編地の編成コース数と、襠部4に接合する脚部3L,3Rの部分の筒状編地の編成コース数との比率を、1:2とする糸回しの例を示す図である。
【図8】本発明の実施の他の形態としての襠を有する筒状編地の編成方法で形成されるニット製品の一例であるセータ11の概略的な形状を示す正面図である。
【図9】本発明の実施のさらに他の形態としての襠部24,34の形状の例を示す図である。
【図10】横編機によって編成される編地のコース方向とウェール方向とを示す図である。
【符号の説明】
【0050】
1 パンツ
2 胴部
3 脚部
4,14,24,34 襠部
5B,5F 緩曲部
6B,6F 急曲部
7B,26A,26B,36A,36B 目減らし部
9F ダーツ部
10 タイツ
11 セータ
12 身頃
13 袖部
25,35 一定幅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に少なくとも一対の対向する針床を備えて、前後の針床間の目移しとラッキングとが可能な横編機で、前後の針床でそれぞれ編成する編地を両端で連結しながら、接合部分には襠編地を形成して、襠を有する筒状編地を無縫製で編成する方法であって、
接合する複数の筒状編地を、先端から接合部分近傍までそれぞれ編成し、
接合部分近傍では襠編地の編出しも開始し、
襠編地を、前側と後側とでそれぞれで形状が異なるように編成し、
筒状編地間を襠編地を介して接合するとともに、
襠編地は、前側と後側とで編成するコース数を異ならせ、
前側と後側との襠編地のうちでコース数が少ない側に接合される筒状編地の一方側は、幅方向の中間にダーツの成型を行って、編幅を前側と後側との襠編地のうちでコース数が多い側に接合される筒状編地の他方側に合わせることを特徴とする襠を有する筒状編地の編成方法。
【請求項2】
前記前側と後側との襠編地のうちの一方は、編幅が減少する部分と編幅が一定となる部分とを含むように、
前側と後側との襠編地のうちの他方は、編幅が減少するように、
それぞれ編成することを特徴とする請求項1記載の襠を有する筒状編地の編成方法。
【請求項3】
前記前側と後側との襠編地のうちの少なくとも一方で編成するコース数と、該襠編地に接合する部分の筒状編地で編成するコース数との比率を、1:1よりも、該襠編地側が小さくなるようにすることを特徴とする請求項1または2記載の襠を有する筒状編地の編成方法。
【請求項4】
前記襠編地と前記筒状編地とを編成するコース数の比率を、襠編地の前側と後側とで異ならせるようにすることを特徴とする請求項3記載の襠を有する筒状編地の編成方法。
【請求項5】
前記筒状編地は人体の下半身に着用され、
前記襠編地は、筒状編地の両脚間の股下部分に形成し、襠編地の前側のコース数よりも後側のコース数を多くすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の襠を有する筒状編地の編成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の襠を有する筒状編地の編成方法で製造されることを特徴とする編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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