説明

視感度フィルタ、受光装置、及び視感度フィルタの製造方法

【課題】光学多層膜を備えた視感度フィルタを受光部の入射側に配置して使用した場合に、視感度に対応した光の検出を精度よく行える視感度フィルタを提供する。
【解決手段】受光部13の入射側に配置され、透過特性分布を有する光学多層膜23が光学基材21に積層されて構成され、光学多層膜23を経由して透過した透過光が受光部13で検出されるように使用される視感度フィルタ15であり、受光部13で反射されて戻り、視感度フィルタ15で再度受光部13に向けて反射される光の波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、光学多層膜23の透過特性分布が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、所定の透過特性分布を有する光学多層膜を備えた構成を有し、受光部の入射側に配置されて使用される視感度フィルタ及び受光装置と、その視感度フィルタの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色測定装置等の光測定装置や撮像装置などの受光装置には、透過特性分布を有する光学フィルタを受光部の入射側に配置したものが多数知られている。例えば、目の視感度に対応する透過率分布を有する視感度フィルタは種々の受光装置で使用されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【0003】
視感度フィルタには、例えば、1枚又は複数枚の色ガラスにより構成されたガラスフィルタや、光学基材の表面に光学多層膜を積層して構成された多層膜フィルタなどがある。
【0004】
ガラスフィルタでは、色ガラスそのもののばらつきがあり、また色ガラスの厚さを精密に制御して作製することが容易でなく、製造ロット間のばらつきが大きい。これに対し、多層膜フィルタでは、多層膜を1層毎に精密に制御して積層することができるため、所望の透過率分布を正確に再現し易い。
【0005】
このような光学フィルタを用いた受光装置では、外部から入射した光が光学フィルタを経由して透過され、光学フィルタの透過率分布に従って透過された透過光が受光部で受光され、受光部の感度に応じて検出された光量に対応する電流等の電気信号が受光部から出力される。
【特許文献1】特開2002−310800号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、透過率分布を有する多層膜フィルタを用いた受光装置では、受光部の出力に誤差が含まれ易いことが明らかになった。
【0007】
即ち、図6に示すように、光学基材41の一方の表面に所定の透過率分布を有する多層膜43を積層し、他方の表面に反射防止膜45を積層して多層膜フィルタ40を構成し、この多層膜フィルタ40を受光部13の入射側に配置して受光装置を構成した場合、まず、多層膜43の透過率が略100%となる波長λ0の光が入射側から入射すると、多層膜43を略100%透過して受光部13に到達し、受光部13から信号が出力されると共に、受光部13で一部が反射されて多層膜フィルタ40に戻る。多層膜フィルタ40では、受光部13側からの光が略100%透過して入射側に放射される。
【0008】
次に、多層膜43の透過率が0%となる波長λ2の光が入射側から入射すると、多層膜43で全て反射され、受光部13側には光が進入しない。
【0009】
そして、多層膜43の透過率が0%より大きく100%より小さい範囲となる波長λ1の光が入射側から多層膜フィルタ40に入射すると、多層膜43では、入射した各波長の光が多層膜43の透過率分布に応じて透過し、透過しない分は全て反射される。
【0010】
多層膜フィルタ40を透過した透過光が受光部13に到達すると、受光部13で一部が反射されて多層膜43に戻る。多層膜43では、受光部13側からの光も透過率分布に応じて一部が透過し、残部が再度受光部13に向けて反射され、再度、受光部13に到達する。これが繰り返されることで、多層膜フィルタ40を透過した透過光が、多層膜43と受光部13との間で繰り返し反射され、多重反射が起こる。
【0011】
この多重反射では、外部から多層膜フィルタ40に入射される光の光量をA、多層膜43の透過率をT、反射率をR、受光部13の反射率をRdとすると、受光部13に到達する一次光の光量はT・Aとなる。一次光が受光部13で反射されて多層膜43に戻る光の光量はT・Rd・Aとなる。そして、受光部13に到達する二次光の光量はT・Rd・R・Aとなる。受光部13に到達する三次光以上の光量も同様に計算できる。受光部13に到達して受光部13で検出される光量は、これらの各次光の総和となり、多重反射の分だけ増加することになる。
【0012】
入射側からの光が同一光量Aとして、各波長の光の二次光の光量を比較した場合、例えば、多層膜43の透過率が1%となる波長の光では、吸収などの損失が無ければ多層膜43の反射率は99%となるため、二次光の光量は0.0099・Rd・Aとなる。また、多層膜43の透過率が99%となる波長の光では、多層膜43の反射率は1%となるため、二次光の光量は0.0099・Rd・Aとなる。一方、多層膜43の透過率が50%となる波長の光では、多層膜43の反射率は50%となるため、二次光の光量は0.25・Rd・Aとなる。つまり、二次光の光量は、多層膜43の透過率が1%や99%となる波長の光に比べて、透過率が50%となる波長の光の方が大きくなる。更に、三次光以上であっても同様である。
【0013】
そのため、分光透過率は、図7に示すように、多重反射がないとして設計した場合の曲線A(鎖線)に対し、曲線B(実線)で示すようなものとなる。この図では、受光部13で検出される光量を多層膜フィルタ40の入射側から入射する光に対する透過率として示している。ここでは、透過率が0%近傍や100%近傍の波長領域の光の場合、多重反射により増加する割合が小さいのに対し、中間の波長領域の光では増加する割合が大きくなっている。つまり、多重反射による光量の増加は、各波長の光に対して受光部13で検出される光量が一様に同じ割合で増加するのではなく、透過率に応じて増加する割合が異なることになる。
【0014】
従って、視感度フィルタのように、波長に対する所定の透過率分布を有する多層膜43を備えた多層膜フィルタ40を、受光部13の入射側に配置して使用する場合、受光部13で検出される光に系統的な誤差が含まれ、視感度に対応した光の検出を受光部13で精度よく行えていなかった。
【0015】
そこで、この発明では、光学多層膜を備えた視感度フィルタを受光部の入射側に配置して使用した場合に、視感度に対応した光の検出を精度よく行い易い視感度フィルタを提供すると共に、そのような視感度フィルタを備えた受光装置を提供することを課題とする。更に、そのような視感度フィルタを製造することが可能な視感度フィルタの製造方法を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するこの発明の視感度フィルタは、受光部の入射側に配置され、所定の透過特性分布を有する光学多層膜が光学基材に積層されて構成され、前記光学多層膜を経由して透過した透過光が受光部で検出されるように使用される視感度フィルタであり、前記受光部で反射されて戻り、前記視感度フィルタで再度前記受光部に向けて反射される光の波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、前記光学多層膜の透過特性分布が形成されていることを特徴とする。
【0017】
また、この発明の受光装置は、そのような視感度フィルタと、前記受光部とを備えたことを特徴とする。
【0018】
更に、この発明の視感度フィルタの製造方法は、受光部の入射側に配置され、所定の透過特性分布を有する光学多層膜が光学基材に積層されて構成され、前記光学多層膜を経由して透過した透過光が受光部で検出されるように使用される視感度フィルタの製造方法であり、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域を求め、該波長領域における各波長の光の目標透過率を、前記基準透過率と、前記受光部の反射率と、前記光学多層膜の前記受光部側からの反射率とに基づき、前記基準透過率より小さくなるように演算し、該演算結果に基づいて目標透過特性分布を設定し、該目標透過特性分布が得られるように複数の光学薄膜を積層することにより、前記光学多層膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この発明の視感度フィルタによれば、受光部で反射されて戻り、視感度フィルタで再度受光部に向けて反射される光の波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、光学多層膜の透過特性分布が形成されているので、視感度フィルタを透過して多重反射して受光部で受光される光を抑制でき、視感度に対応する感度特性で検出し易い。そのため、光学多層膜を備えた視感度フィルタを受光部の入射側に配置して使用しても、視感度に対応した光の検出を精度よく行い易い。
【0020】
また、この発明の受光装置によれば、そのような視感度フィルタと受光部とを備えているので、受光部から得られる出力に多重反射による誤差が含まれにくく、出力の精度を向上し易い。
【0021】
更に、この発明の視感度フィルタの製造方法によれば、多重反射が生じる波長領域において、基準透過率と、受光部の反射率と、光学多層膜の受光部側からの反射率とに基づき、各波長の光の透過率を基準透過率より小さくなるように演算し、この演算結果に基づいて目標透過特性分布を設定し、この目標透過特性分布が得られるように光学多層膜を形成するので、得られた視感度フィルタを受光部の入射側に配置して使用しても、多重反射して受光部で受光される光を抑制でき、視感度に対応する光の検出を精度よく行い易い視感度フィルタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について説明する。
[第1の実施の形態]
【0023】
図1乃至図5は、この第1の実施の形態を示す。
【0024】
この受光装置10は、外部からの光を受光して、予め設定された感度特性で光に応じた出力を得る装置であり、例えば、光を測定するための各種の測定装置や被写体を撮像するための撮像装置等である。この実施の形態は、プロジェクタ等の光源11の明るさを測定する測定装置である。
【0025】
図1に示すように、受光装置10は、受光した光の光量に対応する信号を出力する受光部13と、受光部13の入射側となるように、光源11と受光部13との間に配置される視感度フィルタ15とを備える。
【0026】
ここで、視感度フィルタとは、透過した光を、光の波長に対する目の感度比、応答比等の視感度で受光部で検出させることができるフィルタである。視感度には個人差があるため、視感度として、例えば、CIEにより定められた分光視感効率(比視感度)や分光応答感度(等色関数)等を採用してもよい。
【0027】
この受光装置10の受光部13は、受光面で光を受光して、受光面で検出された光量に対応するように電流からなる電気信号を出力する光電変換素子からなる。受光部13では、波長に対する受光感度特性分布が存在し、その特性に応じて光量が検出されて電気信号が出力されるようになっている。また、受光面では、受光した光の一部を反射しつつ光量が検出されるようになっている。
【0028】
視感度フィルタ15は、光学基材21と、光学基材21の受光部13側の表面に積層された光学多層膜23と、光学基材21の受光部13側とは反対の光源11側の表面に積層された反射防止膜25とを備える。
【0029】
光学基材21は、可視光領域の波長の光を透過可能な光学材料からなる。この光学基材21の可視光領域の波長の光の透過率は全領域に渡り一定に略100%となっている。
【0030】
光学多層膜23は、光学薄膜が複数の積層された多層膜からなる。光学薄膜としては、誘電体薄膜からなる層や金属層など、光学薄膜として公知のものを用いることができる。ここでは、光学多層膜23は、誘電体薄膜からなる高屈折率層及び低屈折率層が交互に積層されて構成されている。各高屈折率層及び低屈折率層の材料、膜厚、積層数等が適宜設定されることで、可視光の波長領域において、波長に対する所定の透過特性分布が形成されている。
【0031】
ここで、透過特性とは、透過率、反射率等であり、透過特性分布とは、この透過特性の波長に対する変化である。この光学多層膜23では、透過する光の波長領域において透過特性が一定ではなく、変化している。
【0032】
この光学多層膜23では、高屈折率層と低屈折率層との積層構造中に、可視光領域の波長の光を吸収可能な金属層等からなる光吸収層を積層していてもよい。これにより、光源11側からの光の反射率より、受光部13側からの光の反射率を小さくでき、多重反射を抑制し易くできる。
【0033】
なお、この光学フィルタ15の反射防止膜25は、光源11側から入射する可視光領域の波長の光の反射を防止するために設けられており、例えば、光学多層膜23と同様の誘電体薄膜から選択される高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層することで形成されていてもよい。
【0034】
このような視感度フィルタ15では、光学多層膜23の透過特性分布を所定のものとすることで、受光部13により光を視感度で検出できるようにされている。
【0035】
ここでは、受光部13に受光感度特性分布が存在する場合、受光部13の受光感度特性分布と視感度フィルタ15の透過特性分布とを組み合わせた上で、視感度が得られる分布が形成されるようにしていてもよい。
【0036】
そして、この光学多層膜23では、視感度フィルタ15と受光部13との間で生じる多重反射による誤差を考慮して所定の透過特性分布が形成されている。
【0037】
即ち、光源11から光学多層膜23を経由して透過した透過光が、受光部13で反射されて戻り、視感度フィルタ15で再度受光部13に向けて反射される光の波長領域、即ち多重反射が生じる波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、透過特性分布が形成されている。
【0038】
ここで、視感度に対応する透過特性分布とは、各波長の光に対する視感度の値を、視感度の最大値と最小値との差で除して変換した値を透過率として扱うことで得られる分布であり、基準透過率とは、このように得られた透過特性分布における各波長の光に対する透過率である。
【0039】
また、多重反射が生じる波長領域は、光学多層膜15における光の吸収がない場合には、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域としてもよい。
【0040】
このような光学多層膜23の透過特性分布は、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率を基準にして、以下のように算出することができる。
【0041】
まず、多重反射が生じる波長領域の光が視感度フィルタ15に入射した場合、図2に示すように、光は光学多層膜23の透過特性分布に応じて光学多層膜23を透過して受光部13に到達する。透過しない光は反射されて光源11側に放射される。受光部13では、視感度フィルタ15の透過光が受光されると共に反射されて戻る。視感度フィルタ15の光学多層膜23に到達すると、光学多層膜23で透過特性分布に応じて透過して放射されると共に、透過しない光は反射されて、再度受光部13に向けて反射される。その後、光が減衰するまで、このような反射が繰り返され、多重反射が生じる。そして、多重反射により繰り返し受光部13に到達した光の総光量が受光部13で検出され、総光量に対応した信号が出力される。
【0042】
そこで、このような多重反射が生じる波長領域の波長λ1の光について、受光部13で検出される総光量は、視感度フィルタの透過率、即ち、光学多層膜23の透過率Tと、受光部13の反射率Rdと、光学多層膜23の受光部13側からの反射率Rとすると、次のように表せる。ここでは、光源11から視感度フィルタ15へ入射する光の光量をAとし、その際の見かけの透過率をTaとする。また、光学多層膜23は光の吸収がないため、R=1−Tとする。
(式2)
Ta・A=(T+T・Rd・R+T・Rd・R+・・・)・A
Ta=T+T・Rd・R(1+(Rd・R)+(Rd・R)+(Rd・R)+・・・
【0043】
=T+T・Rd・R/(1−Rd・R)
【0044】
=(T−T・Rd・R+T・Rd・R)/(1−Rd・R)
【0045】
=T/(1−Rd・R)
【0046】
=T/(1−Rd・(1−T))
【0047】
=T/(1−Rd+T・Rd)
【0048】
そのため、透過率Tは次のようになる。
(式3)
【0049】
T=Ta(1−Rd)/{1−Ta・Rd}
【0050】
従って、見かけの透過率Taを視感度に対応する基準透過率とすることで、波長λ1の光について、光学多層膜23に要求される目標透過率Tを算出することができる。
【0051】
更に、このような目標透過率Tを各波長について算出することで、目標透過特性分布を設定することができる。
【0052】
次に、このような視感度フィルタ15の製造方法について説明する。ここでは、視感度に基づいて設定された図3の曲線A(鎖線)に示すような透過率分布を有するy感度フィルタからなる視感度フィルタ15を作製する。
【0053】
まず、y感度フィルタの基準透過特性分布と、受光部13の受光感度特性及び反射率とに基づいて、適宜光学基材21を選択して、光学多層膜23及び反射防止膜25の膜構成を設計する。ここでは、光学多層膜23及び反射防止膜25は、何れも誘電体薄膜の積層体から構成して、光の吸収がないものとする。
【0054】
光学多層膜23を設計するには、まず、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域を求める。この波長領域の各波長λ1の光に対する光学多層膜23の目標透過率を上述のような演算により算出し、この演算結果に基づいて、図3の曲線C(実線)のように、視感度に対応する透過率分布より細い光学多層膜23の目標透過特性分布を設定する。
【0055】
そして、この目標透過特性分布が得られるように、各層の材料、膜厚、積層数等の膜構成を設定し、光学多層膜23を演算処理等により設計する。
【0056】
また、反射防止膜25も、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域の光について、演算処理等により設計する。
【0057】
その後、各設計値に基づいて複数の光学薄膜を積層することにより、光学多層膜23を作製する。
【0058】
この光学多層膜23の作製では、設計値に基づいて、各層をスパッタリング装置を用いて順次積層するなどで行うことができる。積層工程では、積層途中の膜の分光特性を分光器により測定し、その結果に基づきフィッティング計算により膜厚を測定し、精度を満たさない場合、積層途中で精度を満たすように設計変更しながら、各層を積層することにより、精密に透過率分布を再現した光学多層膜23を作製する。これにより、目標透過特性を精密に実現した光学多層膜23が得られる。
【0059】
また、同様にして、反射防止膜25を作製する。
【0060】
そして、必要に応じて後処理等を施すことで、視感度フィルタ15の製造が完了する。
【0061】
以上のような視感度フィルタ15によれば、受光部13で反射されて戻り、視感度フィルタ15で再度受光部に向けて反射される光の波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、光学多層膜23の透過特性分布が形成されているので、視感度フィルタ15を透過して多重反射して受光部13で検出される光を抑制でき、受光部13で視感度に対応する感度特性で検出することができる。そのため、光学多層膜23を備えた視感度フィルタ15を受光部13の光源11側に配置して使用しても、視感度に対応した光の検出を精度よく行うことができる。
【0062】
特に、光学多層膜23の各波長の光の透過率が、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率に対し、所定の相関を有するものとしたので、確実に視感度に対応した光の検出を精度よく行うことができる。
【0063】
そして、このような視感度フィルタ15を受光部の入射側に備えた受光装置では、受光部13から得られる出力に多重反射による誤差が含まれにくく、出力の精度を確保することができる。
【0064】
なお、上記実施の形態は、この発明の範囲内において適宜変更可能である。
【0065】
例えば、上記実施の形態では、視感度フィルタ15として、光学基材21の光源11側の表面に反射防止膜25が設けられ、受光部13側の表面に光学多層膜23が設けられた例について説明したが、特に限定されるものではない。例えば、図4に示すように、視感度フィルタ15に光源11側から光が入射される側の光学基材21の表面に光学多層膜23が設けられ、受光部13側の表面に反射防止膜25が設けられていてもよい。更に、反射防止膜25を設けることなく視感度フィルタ15を構成することも可能である。
【0066】
また、上記実施の形態では、視感度フィルタ15を受光部13の表面から離間して設けた例について説明したが、特に限定されるものではなく、例えば図5に示すように、受光部13の表面に視感度フィルタ15を密着して設けることも可能である。
【実施例】
【0067】
図3の曲線A(鎖線)に示すような基準透過率分布を有するy感度フィルタからなる視感度フィルタ15を作製した。ここでは、予め、y感度フィルタの基準透過特性分布と、使用する受光部13の受光感度特性及び反射率に基づいて、図3の曲線C(実線)に示すような目標透過率分布を、上記式3を用いた演算結果に基づいて設定した。
【0068】
光学基材21としてBK7、光学多層膜23を構成する高屈折率層及び低屈折率層としてSiO及びNbをそれぞれ用い、高屈折率層及び低屈折率層の膜厚、積層数等を設計し、各層をスパッタリング装置を用いて積層することで光学多層膜23を作製した。なお、積層工程では、積層途中の膜厚等を測定しつつ、精密に透過率分布を再現するように調整して光学多層膜23を作製した。
【0069】
得られたy感度フィルタの光学多層膜23の層構成を表1に示す。
(表1)

【0070】
このような光学多層膜23を備えた視感度フィルタを用いることで、y視感度に対応した光の検出を精度よく行えることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施の形態の視感度フィルタを備えた受光装置を示す概略図である。
【図2】この発明の実施の形態の受光装置の受光状態を説明する図である。
【図3】この発明の実施の形態の視感度フィルタの透過特性分布と視感度に対応した透過特性分布との比較を示すグラフである。
【図4】この発明の実施の形態の受光装置の変形例を示す概略図である。
【図5】この発明の実施の形態の受光装置の変形例を示す概略図である。
【図6】従来の受光装置の受光状態を説明する図である。
【図7】従来の多層膜フィルタの透過率分布と比視感度に対応した透過率分布との比較を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
10 受光装置
11 光源
13 受光部
15 視感度フィルタ
21 光学基材
23 光学多層膜
25 反射防止膜
31 光吸収層
35a 高屈折率層
35b 低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光部の入射側に配置され、所定の透過特性分布を有する光学多層膜が光学基材に積層されて構成され、前記光学多層膜を経由して透過した透過光が受光部で検出されるように使用される視感度フィルタであり、
前記受光部で反射されて戻り、前記視感度フィルタで再度前記受光部に向けて反射される光の波長領域において、各波長の光の透過率が視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率より小さくなるように、前記光学多層膜の透過特性分布が形成されていることを特徴とする視感度フィルタ。
【請求項2】
前記受光部で反射されて戻り、前記視感度フィルタで再度前記受光部に向けて反射される光の波長領域は、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域であることを特徴とする請求項1に記載の視感度フィルタ。
【請求項3】
前記光学多層膜の各波長の光の透過率は、視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率に対して一定の相関を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の視感度フィルタ。
【請求項4】
前記光学多層膜の各波長の光の透過率は、前記基準透過率と、前記受光部の反射率と、前記光学多層膜の前記受光部側からの反射率とに基づいて算出されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一つに記載の視感度フィルタ。
【請求項5】
前記光学多層膜の各波長の光の透過率(T)は、下記式(1)に基づいて算出されていることを特徴とする請求項4に記載の視感度フィルタ。
(式1)
T=Ta(1−Rd)/{1−Ta・Rd} ・・・(1)
(式中、Taは基準透過率、Rdは受光部の反射率を示す。)
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一つに記載の視感度フィルタと、前記受光部とを備えたことを特徴とする受光装置。
【請求項7】
前記受光部は、受光した光に対応する電流を出力する光電変換素子であることを特徴とする請求項6に記載の受光装置。
【請求項8】
受光部の入射側に配置され、所定の透過特性分布を有する光学多層膜が光学基材に積層されて構成され、前記光学多層膜を経由して透過した透過光が受光部で検出されるように使用される視感度フィルタの製造方法であり、
視感度に対応する透過特性分布に基づく基準透過率が0%より大きく100%より小さい波長領域を求め、
該波長領域における各波長の光の目標透過率を、前記基準透過率と、前記受光部の反射率と、前記光学多層膜の前記受光部側からの反射率とに基づき、前記基準透過率より小さくなるように演算し、
該演算結果に基づいて目標透過特性分布を設定し、
該目標透過特性分布が得られるように複数の光学薄膜を積層することにより、前記光学多層膜を形成することを特徴とする視感度フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−151752(P2010−151752A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332875(P2008−332875)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】