説明

視覚刺激呈示装置

【課題】等色関数の測定精度が高く、安価でコンパクトな視覚刺激呈示装置を提供する。
【解決手段】発光色の異なる複数の素光源を有する素光源アレイを内部に有し当該素光源アレイから発光された光が略均一に混合された光束を発する光源部1と、光源部1から放射された光束の少なくとも一部を被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示可能とする光路選択部2と、光源部1と光路選択部2を同期させて第1の領域に対して素光源アレイに含まれる素光源のうち予め定めた複数の素光源からなる第1の素光源群より発光された光束を呈示し、第2の領域に対して前記素光源アレイに含まれる素光源のうち予め定めた複数の素光源からなる第2の素光源群より発光された光束を呈示可能とする制御部3を有している。第2の素光源群には、第1の素光源群に含まれない1または複数の素光源と第1の素光源群に含まれる素光源とが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、等色関数を取得するために用いられる視覚刺激呈示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
色覚特性のひとつとして等色関数(人間の色覚の分光感度)がある。図9は、等色関数の測定原理の説明図である。図中、31はテスト光源、32は参照光源、33はコーナーミラー、34は開口板である。等色関数を測定するためには、例えば、赤、緑、青の三色(原刺激と呼ぶ)を任意の強度で混ぜわせ、呈示されたテスト光と同じ色になる三原色の強度の比率を測定する。図9に示す例では、テスト光をテスト光源31からコーナーミラー33の1面に照射し、その反射光を、開口板34を通じて被験者が参照する。一方、三原色の光源からなる参照光源32からの三色光(参照光)をコーナーミラー33の他方の面に照射し、その反射光を、開口板34を通じて被験者が参照する。被験者には図9(B)に示すように、テスト光と参照光とが、コーナーミラー33の2つの面が当接する稜線を境として隣接して見える。これにより二分視野刺激が被験者に呈示されたことになる。この隣接するテスト光の色と参照光の色とが同じに見えるように、被験者が参照光源32のそれぞれの色の光量を調節する。これによって、ある波長のテスト光における赤、緑、青の三色それぞれの強度が得られる。いくつかのテスト光について三色のそれぞれの強度を得ることにより、被験者の等色関数が得られる。
【0003】
図10は、従来の等色関数を測定するための構成例の説明図である。図中、41,51,61は光源、42,52,62はレンズ、43,63は光学くさび、53はスリット、44,64,55はミラー、54はハーフミラーである。図9に示した測定原理に基づき、従来より図10に示した構成により等色関数が測定されてきた。光源41は参照光となる光を出射し、その光は波長の違いによりレンズ42でスペクトル分解される。光学くさび43で赤、緑、青のそれぞれの波長の光の強度を調整して参照光とし、ミラー44を通じてミラー55でテスト光と合成される。一方、光源51はテスト光となる光を出射し、その光は波長の違いによりレンズ52でスペクトル分解される。スリット53で特定の波長の光を選択してテスト光とし、ミラー54を通じてミラー55で参照光と合成される。
【0004】
基本的には上記の2つの光路があればよいが、実際に測定を行うと、参照光を構成する1つの色の強度を0としても、被験者がテスト光と一致しないと感じる場合があることが知られている。例えば参照光に含まれる青の光の強度を0としても依然としてテスト光よりも青みがかった色として感じられる場合などである。このように、被験者が参照光を調整してもテスト光を再現できない場合には、テスト光に対して適宜の光を付加して補正することで、補正後のテスト光が、参照光が調整可能な範囲に含まれるようにすることによって等色関数の測定が行われる。つまり、上記の場合には、テスト光に予め適当な強度で青の光を追加しておき、参照光の青の光の強度が0以上の範囲で被験者が参照光とテスト光が同一と感じる状況を形成可能とすることで等色関数の測定が行われる。このようにテスト光の側に適宜の光を加える補正は、擬似的に参照光から当該光を差し引く操作に相当するため、テスト光に対する「負の補正」と呼ばれることがある。上記においては、補正に係る光が特に青の場合について説明したが、この操作は参照光を構成する他の色についても同様に行われるものであることは言うまでもない。
【0005】
光源61は、上述のようにテスト光に所望の色の光を追加するために設けられている。比較的広い波長分布を有する光源61から出射された光は波長の違いによりレンズ62で広角度に分散され、赤・緑・青の全ての色フィルタに照射される。そして、テスト光に加える色の光を光学くさび63の移動により選択するとともに、光学くさび63の開口幅を調整することでその色の光の強度を調整し、ミラー64を通じてハーフミラー54でテスト光に加えて被験者に呈示する。このように、テスト光の有する波長分布を調整する機構を設けることで、参照光のうちの1つの強度を0としてもテスト光と一致しない場合に、当該強度が0とされた色の光をテスト光側に適宜の強度で付加することで、被験者がテスト光と参照光の色合いを同一と感じる状況を形成することを可能にし、等色関数の測定が可能となる。
【0006】
別の装置として、テスト光を作成する際にデジタルミラーデバイス(DMD)を用いて反射させるスペクトル光を選択的に変化させたものがある。しかし、この構成においても,テスト光と参照光による二分視野刺激を呈示するためには,光源およびDMDを含む光学系を2光路分以上用意する必要がある。
【0007】
このように、従来の特色関数を測定するための装置では、二つあるいは三つの光源部および光学系が必要であり、構成が複雑であった。さらに、実際には光源の輝度を視野内で均一にするための積分球や拡散板をそれぞれの光源に対して用意する必要がある。そのため、装置は高価で大型であり、調整も困難であった。
【0008】
なお、等色関数を測定するための装置ではないが、二分視野刺激を呈示する装置として、色覚異常の検査をするアノマロスコープと呼ばれる医療器具がある。例えば特許文献1には、二分視野刺激のそれぞれについて2つずつ、合計4つの光源を用いたアノマロスコープが記載されている。また、例えば特許文献2には、白熱電球からの光を赤、緑、黄の光を透過するフィルタを通して3つの光路を作成し、赤色と緑色の光を混合して一方側とし、黄色の光を他方側として二分視野刺激を形成している。これらの技術では、光源は点滅制御されることはなく、光路の切り替えを行うことはない。
【0009】
また、本発明に関連する別の技術として、特許文献3に記載されている分光感度特性を測定する装置がある。この装置では、LEDを制御してテスト光と参照光を交互に発光させて同じ視野にテスト光と参照光が交互に呈示され、輝度が異なっている場合にちらつきとして感じるようにしておく。そして、テスト光の輝度を変化させてちらつきを感じなくなった際の輝度情報を取得するようにしている。この技術は二分視野刺激を呈示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平04−016171号公報
【特許文献2】特開昭55−122527号公報
【特許文献3】特開2008−237492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記図10に示した等色関数を測定するための構成例では、参照光とテスト光の光源が独立して存在する構成において、参照光の光源において色合いの調整が困難になった場合にテスト光に適宜の光を付加する負の補正により、被験者がテスト光と参照光が同じ色合いと感じるような二分視野刺激を与えることを可能としている。
【0012】
しかしながら、図10に示したような構成例においては、参照光とテスト光に付加する光の光源が独立して存在するために、参照光に含まれる各色の光の波長分布と、テスト光に適宜付加される各色の光の波長分布とを必ずしも同一にすることができない。このため、当該波長分布の相違に起因して、測定される等色関数に誤差を生じるという問題を有している。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、負の補正を行う場合にも等色関数に誤差を生じにくいとともに、安価でコンパクトな視覚刺激呈示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明は、発光色の異なる複数の素光源を有する素光源アレイを内部に有して、当該素光源アレイから発光された光が略均一に混合された光束を発する光源手段と、当該光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部を被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示可能とする光路選択手段と、前記光源手段と前記光路選択手段を同期させて前記第1の領域に対して前記素光源アレイに含まれる素光源のうちから予め定めた複数の素光源からなる第1の素光源群より発光された光からなる光束を呈示し、前記第2の領域に対して前記素光源アレイに含まれる素光源のうちから予め定めた複数の素光源からなる第2の素光源群より発光された光からなる光束を呈示可能とする制御手段を有することで被験者の視覚に刺激を呈示する視覚刺激呈示装置であって、前記第2の素光源群には、前記第1の素光源群に含まれない1または複数の素光源と前記第1の素光源群に含まれる素光源とが含まれることを特徴とする視覚刺激呈示装置を提供する。
【0015】
また、前記第1の素光源群には、3種以上の発光色の異なる複数の素光源が含まれる視覚刺激呈示装置を提供する。これによれば、原理的にほぼ全ての色合いのテスト光についての等色関数の測定を行うことが可能となる。
【0016】
また、前記第1の素光源群に含まれる各素光源は、前記光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部が被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示される際において、前記第1の領域への光束の呈示、または、前記第2の領域への光束の呈示のいずれか一方が行われる際のみ点灯される視覚刺激呈示装置を提供する。これによれば、テスト光の信号としての強度を低下させることなく、等色関数の測定を行うことが可能となる。
【0017】
また、前記第1の素光源群に含まれる各素光源は、被験者の操作によりそれぞれの点灯状態が変更可能である視覚刺激呈示装置を提供する。これによれば、被験者の操作に基づいて迅速に等色関数の測定を行うことが可能となる。
【0018】
また、前記光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部を被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示する際に、当該切替の頻度が20Hz以上である視覚刺激呈示装置を提供する。これによれば、被験者において比較を行う2つの光束が常に供給されているよう認識され、精度よく等色関数の測定を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、負の補正を用いて等色関数を測定する際にも測定誤差が小さいとともに、従来の構成に比べてシンプルな構成で小型かつ安価な視覚刺激呈示装置を提供することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す構成図である。
【図2】負の補正の一例の説明図である。
【図3】回転板の一例の説明図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における動作の一例の説明図である。
【図5】制御部3によって制御される光路選択部2と光源部1の動作タイミングの一例の説明図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態を示す構成図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態の変形例を示す構成図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態を示す構成図である。
【図9】等色関数の測定原理の説明図である。
【図10】従来の等色関数を測定するための構成例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、具体的な実施の形態を例にして本発明の説明を行うが、本発明はこれに限定されないことは言うまでもない。図1は、本発明の第1の実施の形態を示す構成図である。図中、1は光源部、2は光路選択部、3は制御部、4はハーフミラー、5,6,7はミラー、8はコーナーミラー、9は開口板、11は基本色光源、12は刺激色光源、13は積分球、21は駆動源、22は回転板、23は開口部、24は回転センサである。
【0022】
光源部1は、制御部3による光源制御に従い、二分視野刺激を作成するための参照光とテスト光を出射する。この例における光源部1には、参照光とテスト光を構成するために、それぞれ固有の波長分布を有する光を放射可能である複数の素光源を含む素光源アレイと、当該素光源アレイを内部に有する積分球13が設けられている。積分球13の内部に設けられた素光源アレイの各素光源から放射された光は、それぞれ積分球13の内部で多数回の不規則な反射を生じた後に積分球13の開口から出射するため、各素光源から放射された光が相互に混合され、一様な光が積分球13の開口から出射される。
【0023】
二分視野刺激を作成するための参照光とテスト光は、当該積分球13の内部に設けられた素光源アレイに含まれる複数の素光源を用いて、それぞれ異なる組み合わせの素光源を予め定めて使用することにより生成され、制御部3により適宜の時間ごとに交互に積分球13の開口から出射される。
【0024】
被験者の操作により主にその色合いなどが変化させられる参照光は、積分球13の内部に設けられた複数の素光源の中から、その組み合わせにより白色を形成可能なR(赤)、G(緑)、B(青)や、Y(黄)、M(マゼンタ)、C(シアン)に相当する組み合わせを選択して用いて形成されることが、等色関数を測定する際に一般的である。ただし、本発明はこれに限定されず、一般的に相互の波長分布の差異が大きな素光源の組み合わせであれば,参照光を提供するための素光源の組み合わせとして使用することができる。このように定められる参照光を生成するための素光源は、図1において基本色光源11として記載されている。
【0025】
一方、積分球13の内部に設けられた複数の素光源を用いてテスト光を生成する際には、当該複数の素光源のうちで、上記参照光の生成に使用される素光源以外の一つまたは複数の素光源が主に使用されることが望ましい。この素光源は、図1において刺激色光源12として記載されている。そして、本発明に係る視覚刺激呈示装置においては、刺激色光源12によりテスト光を生成する際に、必要に応じて参照光の生成に使用される基本色光源11に含まれる素光源を補助的に使用してテスト光に負の補正を行うことを特徴とする。
【0026】
上記光源部1を使用して負の補正が必要とされない通常の等色関数の測定を行う場合について以下に説明する。例えば、参照光を生成するための素光源として理想的なRGBの組み合わせを使用する場合を例にすれば、テスト光として当該RGB以外の色を使用して、RGBの混合光である参照光と当該RGB以外の色の光であるテスト光を被験者の視野のそれぞれ重複しない領域に呈示し、被験者がRGBの発光強度の割合を変化させて、参照光がテスト光と同一であると感じる状態のRGBの各発光強度から当該被験者の等色関数が決定される。
【0027】
一方、実際には、上記において例えばテスト光として黄色を使用した場合、参照光においてその補色である青の光源を消灯しても依然として参照光がテスト光に比べて青みを有するように観察される場合がある。このような場合にも、本発明によりテスト光に負の補正を行うことで正確な等色関数の測定が可能となる。
【0028】
つまり、本発明に係る視覚刺激呈示装置においては、参照光を構成する各素光源の発光強度の調節(特に、消灯)によって呈示されたテスト光を再現することが困難である場合などについて、必要に応じて参照光の生成に用いられる素光源の発光光を本来のテスト光に適宜混合することで、より正確な負の補正を行うことが可能である。上記の例においては、参照光の生成に使用する青の素光源をテスト光である黄の素光源と同時に適宜の強度で発光させることによりテスト光に青みを追加して、被験者が参照光と同一の色合いと感じる状態を形成することができる。そして、当該状態における参照光のRGBの各発光強度からテスト光における青(B)の発光強度を差し引いたものから、当該被験者の等色関数が算出される。
【0029】
このように、負の補正により、より広範囲のテスト光に関しての等色関数が測定可能となる理由について、図2を用いて説明する。図2に示すように、色度図の上で人間が色を認識できる範囲は概ね三角形の形状で示され、RGBはそれぞれその頂点付近に位置している。このRGBの3光源からの光を適宜の比率で混合することで、RGBを頂点とする三角形(△RGB)の内部の色を再現することが可能である。
【0030】
しかしながら、色度図の上で人間が色を認識できる範囲は、△RGBの外側にも広がりを有するため、例えば、図2におけるT光はRGBの加算によっては再現することができず、T光についての等色関数の測定が困難となる。このような場合に、T光にR光を適宜の強度で混合して補正することにより、当該補正後の光の色を△RGBの内部に位置するようにすることができる。当該補正後の光についてRGB光を使用して等色関数の測定を行い、上記補正に使用したR光の強度を差し引くことで、T光についての等色関数が算出される。この際に、典型的にはGB光の混合により再現されるM光と等色となるように、T光に対してR光を混合することで等色関数の測定が行われる。そして、このようにして算出されるT光についての等色関数においては、R光の係数が負の値となるため、このような負の等色関数を与えるテスト光への補正を、本願においては負の補正と称することとしている。
【0031】
また、上記のテスト光に対する負の補正は、異なった目的のために用いることも可能である。つまり、現実の等色関数の測定に用いられる参照光の光源は必ずしも理想的なRGB光ではなく、例えば赤色(R)光源は一定の緑色(G)成分、青色(B)成分を含むなど、図2において△RGBの内側に存在するものである。このため、参照光に現実的な光源を使用して再現可能な色の範囲は、図2において△RGBの範囲よりも縮小し、再現できない色の範囲が増大することとなる。このように現実的なRGB光源を用いた測定においても、テスト光に負の補正を行うことで、広い範囲のテスト光について等色関数の測定が可能となる。さらに、参照光としてYMC等を使用した場合でも、広い範囲のテスト光について等色関数の測定が可能となる。
【0032】
一方、図10に示すように、負の補正を行うために別途の光源(光学系)から所定の色の光をテスト光に付加する場合、当該テスト光に付加される光と、参照光に含まれる光とが同一でないため、等色関数の算出における誤差の発生を避けることが困難であった。これに対し、本発明に係る視覚刺激呈示装置においては、負の補正のためにテスト光に付加される光として参照光の生成に使用する素光源の発光光を使用するため、当該誤差の発生を防ぐことが可能である。
【0033】
参照光の生成に使用する素光源の発光光をテスト光に付加して負の補正を行う具体的方法としては、補正に関係する素光源をテスト光の発光時にのみ点灯して、その発光強度を負の値としたものを参照光の発光強度として扱うことが可能である。これは、図2においてR光源の点灯によりテスト光(T光)をGB直線上に補正する場合に相当する。また、当該素光源の発光強度を適宜に設定して、テスト光と参照光の両方にそれぞれ光を供給し、その発光強度を差し引いたものを参照光における発光強度として扱うことが可能である。いずれの方法を用いるかは、参照光の光源として使用する素光源の発光を制御する精度などに応じて測定誤差が小さくなるように選択することが好ましい。
【0034】
また、上記では、テスト光に負の補正を与えるために、参照光を構成する素光源の一つを使用する例について記載したが、例えば、現実に使用するR光源よりもR成分の強いテスト光についての等色関数を測定する場合には、二つ以上の素光源からの光をテスト光に付加することで、等色関数の測定を行うことが可能となる。
【0035】
以上のように、本発明によれば、本来はRGBの組み合わせによっては再現が困難なテスト光についての等色関数の測定が可能となるとともに、必ずしも理想的なRGB光源などを使用しない場合にも高い精度で広範囲のテスト光に対する等色関数を測定することが可能となる。特に、発光する光におけるRGB混合割合が既知の素光源であれば、当該素光源を3個以上組み合わせて用いることで、必ずしも参照光の光源としてRGBの組み合わせを用いる必要がなく、適宜の発光色の素光源を用いて参照光を形成することが可能である。
【0036】
上記のように使用される各素光源としては、例えばLEDやFED、SED、有機ELなど、種々の光源が利用可能であるが、その発光光の波長分布が変化しないものであることが望ましい。また、主に参照光の生成に用いられる光源は、その発光色のRGB成分が既知であるものが望ましいが、特にそれぞれが理想的なRGBの各成分に近いことが想定精度を高める点で望ましい。また、本発明においては、使用する複数の素光源が全体として一つの光源をなし、所定時間ごとにテスト光と参照光を交互に発光するように制御されるため、充分な応答速度を有するものが好ましい。さらに、LED等のように、印加電圧の変化などによる発光強度の調整が困難な素光源を用いる場合には、発光の時間割合(デューティー比)の調整により発光強度の調整を行う必要があるため、さらに高速の応答速度を有するものが好ましい。
【0037】
本発明による負の補正を用いて被験者の等色関数を測定する場合には、上記したように、参照光を生成するための素光源を用いてテスト光と参照光の両方にそれぞれの強度で光を供給し、その発光強度を差し引いたものを参照光における発光強度として扱うことが可能である。しかし、等色関数の測定精度を向上する観点からは、負の補正のためにテスト光に付加する光の強度が低いことが好ましいため、負の補正に用いる素光源から参照光に付加される光強度がより低い条件で測定を行うことが好ましい。
【0038】
図1においては、上記テスト光、および、参照光を生成するための複数の素光源からの放射光を混合するために積分球13を使用する例を示したが、本発明ではこれに限定されることなく、各素光源からの発光を透過や反射による拡散などにより略均一に混合して全体として一つの光源を形成できるものであれば使用することが可能である。
【0039】
上記説明した光源を用いて、被験者の等色関数を測定する装置の一例について、図1を用いて以下に説明する。
【0040】
図1に示した例では、積分球13から出射された光束はハーフミラー4に入射され、2つの光路に分けられる。一方の光路がテスト光光路として、テスト光を被験者の視野の一部に呈示するために使用される。他方の光路が参照光光路として、参照光を被験者の視野の一部に呈示するために使用される。通常は、被験者の視野において、テスト光が呈示されるテスト光領域と参照光が呈示される参照光領域が重複しないようにテスト光光路と参照光光路が設けられることが好ましい。また、テスト光光路と参照光光路は、光路選択部2のそれぞれ異なる位置を横切るように設置される。
【0041】
光路選択部2は、2つの光路のいずれか一方が被験者の視野に到達させるように制御部3により動作される。切り替えの際には、人間がちらつきを感じない周波数以上で光路の切り替えを行うことが被験者に負担を与えにくく、正確な測定を行う点で好ましい。具体的には、20Hz以上の周波数で切り替えを行うことで、連続してテスト光と参照光が呈示されているように被験者に認知させることができるが、理想的には25Hz以上の周波数で切り替えを行うことが望ましい。上述のように2つの光路はテスト光光路と参照光光路であるので、光路選択部2は結果的に被験者に呈示する二分視野刺激のテスト光を呈示するテスト光領域と参照光を呈示する参照光領域のいずれか一方の領域に光を導通させることになる。
【0042】
図1に示した例においては、光路選択部2は回転板22を駆動源21により回転させることにより光路の切り替えを行っている。回転板22には開口部23が設けられており、開口部23を通過した側の光が選択されて先へ進むことになる。図3は、回転板の一例の説明図である。この例では、回転板22に3つの開口を設けた例を示している。図3に示すような回転板22が回転することにより、いずれかの光路の光が選択され、光路選択部2を通過する。もちろん、回転板22に設ける開口部23の数や形状はこの例に限られるものでないことは言うまでもない。
【0043】
回転板22には、さらに、複数の孔が周囲に設けられている。この孔は回転センサ24によって回転板22の回転を検出するためのものであり、例えばフォトカプラなどを用いることによって回転板22の回転を検出し、いずれの光路の光を選択しているのかを知ることができる。穴を設ける位置は、制御部3の構成などに応じて設計すればよい。また、孔でなくても、例えば周囲に凹部を設けるなど、他の形態であってもよい。さらに、回転センサ24が他の方式で回転板22の回転を検出するものであれば、孔に代えて回転センサ24の検出方式に応じた構成を設けておいても良い。
【0044】
もちろん、光路選択部2の構成は図3に示したものに限られるものではなく、回転板22に代えてスライドするシャッタなどの他の機械的な構成を用いたり、あるいは液晶などの電子的なシャッタを用いるなど、種々の周知の構成を用いることができる。なお、電子的な切替手段を用いる場合には、後述する制御部3からの指示に従って切り替えを行うとよい。
【0045】
光路選択部2においてミラー5で反射された光が選択されて光路選択部2を通過した光は、さらにミラー6で反射されてコーナーミラー8の一方のミラーに入射し、被験者に向けて反射される。また、光路選択部2においてハーフミラー4を透過した光が選択されて光路選択部2を通過した光は、さらにミラー7で反射されてコーナーミラー8の他方のミラーに入射し、被験者に向けて反射される。被験者は、開口板9に設けられている開口からコーナーミラー8の方向を観察することになる。開口板9に設けられた開口からは、コーナーミラー8の2枚のミラーが当接する稜線を中心とした領域を観察することができる。従って、被験者にはコーナーミラー8の一方のミラーで反射した光と他方のミラーで反射した光とが稜線で隣接して観察されることになる。なお、図1においては、被験者の視野にテスト光領域と参照光領域を分割して設ける手段はこれに限られず、適宜の公知の手段を使用できることは言うまでもない。
【0046】
制御部3は、光路選択部2による光を導通させる領域の切り替えに同期して、光源部1の発光を制御する。例えば、光路選択部2がテスト光光路の光を通過させている際には、光源部1に設けられた積分球13の内部に設けた素光源を用いてテスト光用の光を発光させる。また、光路選択部2が参照光光路の光を通過させている際には、光源部1に設けられた積分球13の内部に設けた所定の素光源を用いて参照光を発光させる。この際に、光路の切り替えを被験者が認識できない周波数以上で行うことで、被験者に対してテスト光と参照光の両方が同時に呈示されているように認識させることができる。また、上記において、参照光を生成するための素光源として、通常は発光色の異なる3個以上の素光源が使用され、一般には光の三原色であるRGBに近い色の光を発光するものが好ましいことは上述の通りである。一方、テスト光に使用する素光源は、等色関数を測定しようとする色の光を発光するものであって、上記参照光の生成に用いられないものが主として使用される。なお、図1においては、参照光を生成するために使用する素光源群を基本色光源11として記載し、テスト光の生成にのみ使用する素光源群を刺激色光源12として記載している。
【0047】
被験者は、参照光とテスト光とが同一の色合いとなる様に、図示しない操作手段を操作して主に上記基本色光源11に含まれるそれぞれの素光源からの発光強度を変化させて、それぞれの素光源からの光が混合されて得られる参照光の色合いを制御し、被験者がテスト光と同色であると知覚する参照光を合成する。また、参照光の色合いを自由に設定するために、基本色光源11に含まれるそれぞれの基本色の光源として光量が制御できる場合には光量自体を制御すればよいが、例えばLEDを使用している場合などのように発光量を広い範囲で制御できない場合には発光の時間割合(デューティー比)を制御すればよい。
【0048】
図4は、本発明の第1の実施の形態における動作の一例の説明図である。上述の構成について、具体例を用いながら動作の一例を説明する。ここでは、ハーフミラー4により反射されてミラー5で反射される光路を通ってコーナーミラー8に到達した光が、被験者の視野に侵入する領域をテスト光領域とし、ハーフミラー4を透過してミラー7で反射される光路を通ってコーナーミラー8に到達した光が、被験者の視野に侵入する領域を参照光領域とする。もちろん、いずれの光路をテスト光光路、参照光光路とし、被験者の視野のいずれの部分をテスト光領域、参照光領域とするかは任意である。図1に記載の構成を用いた場合、上述のように、被験者には、コーナーミラー8の2枚のミラーが当接する稜線を境にしてテスト光領域と参照光領域が隣接して見えるので、被験者に対して二分視野刺激を呈示することができる。
【0049】
図4(A)に示した例では、光路選択部2に設けた開口部23がテスト光光路上に存在する場合を示している。この場合には、制御部3は主に光源部1の刺激色光源12を発光させ、必要に応じて基本色光源11を所定の状態で発光させる。発光された光は積分球13で混合されて一様なテスト光となりハーフミラー4に入射する。ハーフミラー4では、テスト光の一部が反射されてテスト光光路を進み、さらにミラー5で反射され、光路選択部2へ向かう。光路選択部2ではテスト光光路を含む位置に開口部23が位置することで、ミラー5で反射された光は光路選択部2を通過し、ミラー6で再度反射されてコーナーミラー8の一方のミラーにより反射される。この反射光を、開口板9に設けられている開口から観察すると図4(B)に示すように二分視野の一方であるテスト光領域のみテスト光が入射することになる。
【0050】
図4(C)に示した例では、光路選択部2に設けた開口部23が参照光光路上に存在する場合を示している。この場合には、制御部3は被験者からの操作に従って光源部1の基本色光源11に含まれる各素光源を所定の強度で発光させる。光は積分球13で混合されて一様な参照光となりハーフミラー4に入射する。参照光の一部はハーフミラー4を透過し、光路選択部2へ向かう。光路選択部2では開口部23が参照光光路を含む位置に存在することにより、ハーフミラー4を透過した光は光路選択部2を通過し、ミラー7で反射されてコーナーミラー8に入射する。参照光は、コーナーミラー8のテスト光を反射するミラーとは異なる側のミラーにより反射され、開口板9に設けられている開口から観察される。開口から被験者が観察すると図4(D)に示すように、二分視野のテスト光領域とは異なる参照光領域のみに参照光が入射することになる。
【0051】
図5は、制御部3によって制御される光路選択部2と光源部1の動作タイミングの一例の説明図である。上述のように、光路選択部2の開口部23がテスト光光路を含む位置に存在している場合には、光源部1からテスト光が放射される。一方、光路選択部2の開口部23が参照光光路を含む位置に存在している場合には、光源部1から参照光が放射される。なお、図5では、光路選択部2の動作として、「開」の場合に当該領域に対応する光路上に開口部23が存在して光を通過させ、「閉」の場合には当該領域に対応する光路上に開口部23が存在しないことで遮光することを示す。また、光源部1の動作として、「ON」のタイミングでそれぞれテスト光、または参照光を発光させることを示す。制御部3は、上記の光路選択部2の動作と光源部1の動作とを同期して行うことで、光路選択部2がテスト光光路を「開」としているタイミングで光源部1にテスト光を発光させ、光路選択部2が参照光光路を「開」としているタイミングで光源部1に参照光を発光させる。
【0052】
このように、制御部3が光路選択部2の動作と光源部1の動作とを同期して制御することにより、被験者の視野内のテスト光領域と参照光領域のいずれか一方のみにそれぞれテスト光、参照光が到達する。そして、制御部3が人間がちらつきを感じない周波数以上で当該同期制御を行うことによって、図4(E)に示すように被験者にはテスト光領域と参照光領域に常にテスト光、参照光が到達しているかのように見えることになり、被験者に二分視野刺激を呈示することができる。
【0053】
図1に示した視覚刺激呈示装置の典型的な使用形態について、以下に説明する。被験者の等色関数の測定の際に参照光を形成するために使用される素光源として、積分球13の中に設置された素光源の中から発光色の異なる複数の素光源が予め選択され、基本色光源11とされる。一般には、RGBに近似した組み合わせとなるように3種の素光源が選択されることが好ましいが、本発明はこれに限定されず発光色の異なる3種以上の素光源が選択されることにより被験者の等色関数を測定することが可能となる。次に、前記参照光の形成に使用される素光源以外の素光源から、テスト光を形成するために主に使用される1個、または複数の素光源を刺激色光源12として選択することで、被験者の等色関数を測定するためのテスト光の色を決定する。なお、刺激色光源12として複数の素光源を選択する場合には、以下でテスト光を被験者に呈示する間、当該複数の素光源の間の発光強度割合を一定にするなどして、テスト光の波長分布を一定に保持することが望ましい。
【0054】
上記で決定されたテスト光を、適宜の色の参照光とともに、図1に示した視覚刺激呈示装置により被験者の視野の異なる領域に呈示する。被験者においては、開口板9に設けられた開口からコーナーミラーを目視することで、被験者の視野内のテスト光領域と参照光領域にそれぞれテスト光と参照光が到達する。この状態で被験者は、呈示されたテスト光に対して、参照光の色が略同じと感じられるように図示しない操作手段により制御部3に対して参照光の色合いを変化させるための指示を行う。指示を受けた制御部3は、指示内容に従って参照光を発光する基本色光源11を構成する各素光源の発光強度を制御する。
【0055】
例えば、被験者がテスト光の色に対して参照光の色が青みがかっていると感じる場合には、被験者は青を減じる指示を行う。この指示に従い、制御部3は参照光を発光する際の青の光量を相対的に低下させる。このような動作を、被験者がテスト光と参照光の色が略同じと感じられるまで行った際の、基本色光源11と刺激色光源12の発光状態の関係が当該被験者における等色関数に相当することとなる。なお、被験者がテスト光に合わせるように参照光の色を変化させる過程において、被験者がテスト光と参照光の明るさが同一と感じるように、別途の手段により制御部3を通じて参照光全体の光の強度を調整することが好ましい。
【0056】
一方、例えば図2におけるT光のように、参照光として使用する基本色光源11の組み合わせによっては被験者に対して再現できないテスト光を用いる場合の制御方法について、以下に説明する。このようなテスト光を用いた場合、被験者の操作により基本色光源11に含まれる素光源の1つ、または複数が消灯された状態でも、被験者は当該消灯された素光源の発する光が参照光に含まれるように感じるため、参照光の色合いのみを変化させる通常の制御によってはテスト光と参照光の色を同一にすることができない。
【0057】
このような場合について、例えば、「参照光」を発光する際に赤色の素光源が消灯した後においても、被験者がテスト光の色に対して参照光の色が赤みを帯びていると感じて赤を減じる指示を行った場合には、制御部3は「テスト光」を発光する際に当該「参照光」の発光の際に消灯した赤色の素光源を点灯させ、その光量を増加させるように制御を行う。このような制御を行うことにより、参照光が可変可能な範囲内にテスト光を補正し、被験者においてテスト光と参照光が同一の色になったと認識させることができる。そして、等色関数を算出するに当たっては、基本色光源11からテスト光に付加した光の強度について、参照光においてマイナスの発光を行ったとして扱うことにより、使用したテスト光についての被験者の等色関数を求めることができる。
【0058】
上記においては、刺激色光源12により形成されるテスト光を補正するために、基本色光源11に含まれる素光源の一部をテスト光の形成時にのみ点灯させる例を記載したが、本発明はこれに限定されず、当該素光源をテスト光の形成と参照光の形成の両方に強度を変えて点灯させることによっても、本発明による負の補正が可能である。また、上記により負の補正を行う場合には、テスト光と参照光の強度が被験者において同等に感じられるように、制御部3において制御を行うことが好ましい。また、上記により負の補正を行う場合において、特に当該補正に係る素光源をテスト光と参照光とで択一的に使用する場合には、基本色光源11に含まれる素光源の数をn個(このとき、発光波長が同一の素光源が含まれる場合については、当該発光波長が同一の素光源の全体を1個とする)とした場合、最大(n−1)個の素光源をテスト光の補正に用いることができる。
【0059】
また、上記においては、参照光の色合いの調整などを被験者の操作により行う例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、制御部3が一般的な等色関数に基づいて使用するテスト光に相当する付近の参照光を適宜被験者に呈示し、被験者において両者が同一と感じた際に制御部3にその旨を入力することによっても、被験者の等色関数を測定することが可能である。
【0060】
図10に示したような従来の方法によっては、負の補正のためにテスト光に付加する光と参照光に含まれる光とが同一でないため、等色関数に誤差を生じることが避けられなかったのに対し、本発明によれば、負の補正と参照光の形成とを同一の素光源を用いて行うため、高精度で負の補正を行うことが可能となる。また、この結果、参照光の生成に使用する素光源の色についての自由度が高まり、色再現性や応答速度などを重視した素光源の選択が可能となるため、この点でも等色関数を求める際の精度を高めることが可能となる。
【0061】
光源部1に含まれる各素光源の光量の変化は、素光源自体が例えば電圧や電流などを変化させることで発光強度を変更できる場合には当該電圧や電流などにより制御を行えばよい。また、LEDのように、発光強度を広い範囲で変化させることが困難な素光源を用いる場合には、発光の時間割合(デューティー比)を制御し、被験者が点滅を認識できない周波数で点滅させることにより、見かけ上の光量を制御すればよい。
【0062】
このように、上述の本発明の第1の実施の形態として示した構成では、負の補正を高精度で行うことが可能であるとともに、使用する素光源の種類についての自由度が高まるため、例えば従来の図10に示した構成に比べて、高精度で等色関数の測定が可能となる。また、本発明においては、複数の光源部を有する従来の構成に対して、光源部分を実質的に一つにすることが可能となって、構成が簡素であり、装置の小型化とコストの低減が可能である。
【0063】
図6は、本発明の第2の実施の形態を示す構成図である。図中の符号は上述の第1の実施の形態と同様である。上述の第1の実施の形態と異なる部分について主に説明する。この例ではハーフミラー4やミラー5,6,7、コーナーミラー8を用いない簡易な構成例を示している。光路選択部2には、光源部1から出射される光を、被験者の視野内のテスト光領域、あるいは参照光領域のいずれか一方にのみ照射可能となるように開口部23が設けられている。この例では筒状の回転板22上に、その回転軸と垂直で光源部1の中心を通る中心面を中央にして、開口部23が左右に千鳥状に設けられている(図6(B))。回転板22がその回転軸の周りに回転することで、上記中心面上に位置させられる被験者の視野においては、これらの開口部23が左右交互に開口するように観察され、光源部1から出射される光を被験者の視野内において異なる2つの領域に対して交互に通過させる。
【0064】
制御部3は、光路選択部2に設けられた開口部23の位置に応じて、光源部1においてテスト光、参照光のいずれか一方を発光するように制御する。例えば、被験者の視野に対して光路選択部2上で前記中心面の右側の開口部23が開口している場合に光源部1にテスト光を発光させ、前記中心面の左側の開口部23が開口している場合に参照光を発光させる。図6(B)に回転板22の正面図を示すとおり、積分球13からの光束に対し、前記中心面の左右に設けられた開口部23が交互に設けられていることで、回転板22が回転することにより、光が遮蔽される側と光が通過する側が切り替わり、積分球13からの光束の半分ずつが被験者の視野に呈示される。
【0065】
制御部3が、光路選択部2の回転による左右の開口部23の切り替えと、光源部1のテスト光、参照光の発光の切り替えを、人間がちらつきを感じない周波数以上で行うことが望ましく、これにより被験者においてはテスト光と参照光とが別々の領域に連続点灯しているかのように知覚される。これにより、二分視野刺激を被験者に呈示することができる。
【0066】
図7は、本発明の第2の実施の形態の変形例を示す構成図である。図中、25は液晶シャッタ、26,27は液晶の作用により、それぞれ択一的に光束を透過可能とされた透過領域である。図6の構成では、光路選択部2は回転板22を回転させることによりテスト光領域と参照光領域とを切り替えたが、上述の第1の実施の形態でも説明したように、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、シャッタ板をスライドさせることにより光を通過する領域を切り替えるなどの機械的な構成や、液晶などの電子的なシャッタを用いるなど、種々の周知の構成を用いることができる。光路選択部2として液晶シャッタ25を用いた例を図7に示している。
【0067】
図7において、液晶シャッタ25は電気的に光の透過または遮光を切り替えることができる。この例では光源部1からの光束を含む位置に、透過領域26,27の両方が位置するように液晶シャッタ25を配置し、透過領域26と透過領域27を択一的に透過状態とすることにより、被験者の視野内の異なる位置に交互に光源部1からの光束の一部を入射させることができる。液晶シャッタ25の透過領域27を透過状態とした場合の正面図を図7(B)に示している。積分球13からの光束の中心付近に透過領域26,27の境界を配置することで、積分球13からの光束の半分について透過領域26が遮蔽し、残りの半分について透過領域27を通過して、当該光束上に配置される被験者の視野の一部に光が知覚される。透過領域26を透過状態とし、透過領域27を遮蔽状態とすれば、被験者は視野の異なる領域に光を知覚する。透過領域26,27のいずれかを透過状態とした際に光源部1からテスト光を発光させ、他方の透過領域を透過状態とした際に光源部1から参照光を発光させれば、テスト光と参照光を、被験者の視野内の別の領域に呈示することができる。このような液晶シャッタ25の制御と光源部1の発光制御は、いずれも制御部3によって行えばよく、その切替を人間がちらつきを感じない周波数以上で行うことが望ましい。これにより、被験者には連続光による二分視野刺激と同様の刺激を呈示することができる。
【0068】
この構成の場合には、制御部3が液晶シャッタ25の制御と光源部1の発光制御を同期して行うためのタイミング信号は、適宜の方法で作成するか、あるいは別途外部から供給することが望ましい。もちろん、液晶シャッタ25以外の電子的な切替手段や機械的な切替手段により、積分球13からの光束の一部遮断を行う場合でも、制御部3の制御によって光路選択部2が動作するように構成してもよいことは言うまでもない。
【0069】
なお、液晶シャッタ25として用いる素子によっては、遮光状態でも多少の光が漏れることにより測定される等色関数に誤差を生じる場合がある。そのような場合には液晶シャッタを複数枚重ねて用いることにより光の漏れを低減することができる。
【0070】
この第2の実施の形態として示した構成では、第1の実施の形態として示した構成よりもさらに構成が簡素であり、さらなる小型化、低コスト化が可能である。
【0071】
図8は、本発明の第3の実施の形態を示す構成図である。図中、10はスクリーン、28はガルバノミラーである。この第3の実施の形態では、光路選択部2として光路を変更するためのガルバノミラー28を用いることによりテスト光領域と参照光領域を分離して生成している。なお、上述の第1,第2の実施の形態と異なる点について主に説明する。
【0072】
この例においては、光路選択部2はガルバノミラー28を有している。図に示したガルバノミラー28は、軸を中心として揺動し、これによってガルバノミラー28に入射する光束の光路を変更して出射することができる。また制御部3は、光路選択部2が光路を変更するのに同期して、光源部1の発光を制御する。例えば光路選択部2が一方の側に光束を振っている場合に光源部1にテスト光を発光させ、他方に光束を振っている場合に光源部1に参照光を発光させる。これにより、光路の下流に設けたスクリーン10にはテスト光と参照光が別の領域に投影される。図8(B)に投影された映像を示しているが、一般には積分球13から放射される光束の形状に対応した2つの光の領域、すなわちテスト光領域と参照光領域が並んで投影されることになる。瞬間的にはいずれか一方の領域にのみ光束が供給されるが、制御部3による光路選択部2のガルバノミラー28の揺動と光源部1の発光の切り替えの同期を、人間がちらつきを感じない周波数以上で行うことにより、被験者にはテスト光領域と参照光領域とにそれぞれ連続で光束が供給されているかのように知覚される。これにより、2つの領域を並置した二分視野刺激を被験者に呈示することができる。
【0073】
この構成では、ガルバノミラー28の揺動の状態(位置)を検出するセンサを設け、そのセンサの検出結果に応じて制御部3が光源部1の発光を制御するほか、制御部3がガルバノミラー28の揺動を制御するとともに光源部1の発光を制御するように構成してもよい。なお、光路選択部2に用いたガルバノミラー28に代えて、光路を変更可能な他の素子を用いて構成してもよい。なお、図8においては積分球13から放射される光束の径が大きい場合に対応して、当該光束を投影するためのスクリーン10を使用する例を示したが、被験者の瞳孔径以下の光束を用いる場合にはスクリーン10は必ずしも必須でなく、ガルバノミラー28から出射する光束を被験者の瞳孔の異なる位置に入射させることによっても同様の二分視野刺激を被験者に呈示することができる。
【0074】
以上、本発明の3つの実施の形態について説明した。本発明はこれらの実施の形態に限らず、本発明の趣旨を変更しない限りにおいて様々な変形を行ってもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
1…光源部、2…光路選択部、3…制御部、4…ハーフミラー、5,6,7…ミラー、8…コーナーミラー、9…開口板、10はスクリーン、11…基本色光源、12…刺激色光源、13…積分球、21…駆動源、22…回転板、23…開口部、24…回転センサ、25…液晶シャッタ、26,27…透過領域、28はガルバノミラー、31…テスト光源、32…参照光源、33…コーナーミラー、34…開口板、41,51,61…光源、42,52,62…レンズ、43,63…光学くさび、53…スリット、44,64,55…ミラー、54…ハーフミラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光色の異なる複数の素光源を有する素光源アレイを内部に有して、当該素光源アレイから発光された光が略均一に混合された光束を発する光源手段と、当該光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部を被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示可能とする光路選択手段と、前記光源手段と前記光路選択手段を同期させて前記第1の領域に対して前記素光源アレイに含まれる素光源のうちから予め定めた複数の素光源からなる第1の素光源群より発光された光からなる光束を呈示し、前記第2の領域に対して前記素光源アレイに含まれる素光源のうちから予め定めた複数の素光源からなる第2の素光源群より発光された光からなる光束を呈示可能とする制御手段を有することで被験者の視覚に刺激を呈示する視覚刺激呈示装置であって、前記第2の素光源群には、前記第1の素光源群に含まれない1または複数の素光源と前記第1の素光源群に含まれる素光源とが含まれることを特徴とする視覚刺激呈示装置。
【請求項2】
前記第1の素光源群には、3種以上の発光色の異なる複数の素光源が含まれることを特徴とする請求項1に記載の視覚刺激呈示装置。
【請求項3】
前記第1の素光源群に含まれる各素光源は、前記光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部が被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示される際において、前記第1の領域への光束の呈示、または、前記第2の領域への光束の呈示のいずれか一方が行われる際のみ点灯されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の視覚刺激呈示装置。
【請求項4】
前記第1の素光源群に含まれる各素光源は、被験者の操作によりそれぞれの点灯状態が変更可能であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の視覚刺激呈示装置。
【請求項5】
前記光源手段から放射された光からなる光束の少なくとも一部を被験者の視野内の第1の領域と第2の領域に交互に切り替えて呈示する際に、当該切替の頻度が20Hz以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の視覚刺激呈示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−231830(P2012−231830A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100769(P2011−100769)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(304036754)国立大学法人山形大学 (59)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)