説明

覚醒度の評価方法

【課題】歯磨き剤等による覚醒度の変化を精度良く客観的に評価することができる覚醒度の評価方法を提供する。
【解決手段】覚醒度の評価方法においては、試験参加者に精神的な負荷を与えた後に歯磨きを行わせ、該歯磨きの前後の事象関連電位の変化から、該歯磨きによる覚醒度の向上効果を評価する。事象関連電位としては、事象関連電位P300の頂点潜時の差を見ることが好ましい。精神的な負荷を与える方法としては、認知課題、計算作業課題、情報処理課題等を課す方法等がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覚醒度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の食べ物や飲料の摂取等により、人の覚醒度や疲労度にどのような変化が生じるかを調べる方法として、被検者に対してアンケートを行い、それらの結果から覚醒度の向上効果等を調べるアンケート方式が知られている。しかし、アンケート方式は、試験参加者の気分尺度になるので客観性に欠ける。より客観性の高い結果を得る方法として、疲労の指標であるフリッカー値を用いる方法がある。しかし、フリッカー値の上昇は、視覚中枢を中心とした大脳皮質の賦活を意味し、視覚感覚器に左右される傾向がある。
【0003】
試験参加者の覚醒度を客観的に評価できる方法として、事象関連電位を用いる方法が知られている。例えば、非特許文献1には、昼に短時間の仮眠することにより日中(14時頃)の眠気を防止する方法が記載されており、その仮眠前にカフェインを取っておくことが仮眠後の覚醒に良い効果を与えることが、事象関連電位(P300振幅)を用いた評価によって示されている。事象関連電位は、試験参加者が関心を持つ情報を含む刺激が与えられたときに誘発される電位である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】井上昌次郎著者/訳者、「短時間仮眠法による日中の眠気の予防」、快眠の科学、朝倉書店、2002年、p.54〜61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、個人差があるものの歯磨きを行うと口腔内がすっきりする等の感覚が高まることが知られている。また、歯磨きを行う際に、メントール等の香料や清涼剤入りの歯磨き剤(歯磨き用組成物)を用いると、清涼感や爽快感が向上することが知られている。しかしながら、これらの清涼剤等が、清涼感や爽快感のような感覚度の向上効果にどのように関係するかははっきりしていない。
覚醒度の向上効果やその持続性に優れた歯磨き剤の開発には、歯磨き剤の成分による覚醒度の向上効果の微小な差を精度良く検出できる評価方法の開発が望まれる。本発明者らは、清涼感の向上効果について検討したところ、歯磨き行為により覚醒効果があることを見出した。しかしながら、歯磨き行為による覚醒効果が高いため、歯磨き剤の成分により効果の差を検出し難い場合がある。
そこで、本発明者らは、歯磨きの前と後に試験参加者の事象関連電位を測定し、それらから、歯磨き剤の覚醒度の向上効果を評価することを試みたが、試験参加者の初期の疲労度に個人差があることによって、歯磨き剤の覚醒度の向上効果の差が結果に現れにくいことが判明した。
【0006】
本発明の目的は、歯磨き剤等による覚醒度の変化を精度良く客観的に評価することができる覚醒度の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、試験参加者に精神的な負荷を与えた後に歯磨きを行わせ、該歯磨きの前後の事象関連電位の変化から、該歯磨きによる覚醒度の向上効果を評価する、覚醒度の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の覚醒度の評価方法によれば、歯磨きや歯磨き剤による覚醒度の向上効果を精度良く客観的に評価することができる。
本発明の覚醒度の評価方法を用いることで、覚醒度の向上効果の高い歯磨き用組成物を効率的に開発し製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一実施例における覚醒度評価試験のタイムスケジュールを示す図である。
【図2】図2は、計算課題を課す場合に使用する問題の一例を示す図であり、(a)は第一の画面、(b)は(a)の解答欄入力後の第二の画面を示す。
【図3】聴覚オドボール課題の実施方法の説明図である。
【図4】事象関連電位を測定する際の電極の取り付け位置の説明図である。
【図5】図5は、試験製剤及び対照製剤使用前後における標的刺激(低頻度刺激)に対する事象関連電位(ERP)の平均波形を示す図である。
【図6】図6は、試験製剤及び対照製剤使用時におけるP300潜時の変化量を示すグラフである。
【図7】図7は、覚醒度の主観的評価方法に使用する質問紙の一例を示す図である。
【図8】図8は、覚醒度の主観的評価方法の結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づいて説明する。
本発明においては、試験参加者に歯磨きを行わせ、該歯磨きの前後の事象関連電位を測定する。
事象関連電位(Event−Related potentials:ERP)は、精神活動によって人の脳波上に誘発される電位変動であり、精神作業という刺激を与えた上での電位変動であるため、脳波以上に人間の精神機能を反映し、その客観的な評価に役立つものである。
事象関連電位としては、事象関連電位P300を用いることが好ましい。事象関連電位P300は、2種類の刺激のなかから低頻度で不規則に出現する感覚刺激に対して、試験参加者に注意を向けさせるようなオッドボール(oddball)課題により、刺激後約300ミリ秒(ms)前後に陽性方向に頂点を持つ電位として出現する事象関連電位である。事象関連電位P300の評価指標は、刺激からその頂点までの時間(頂点潜時間;latency)や、脳波の基線から頂点までの振幅(amplitude)があるが、歯磨きの前後における頂点潜時の差から、歯磨き剤の覚醒度の評価を行うことが好ましい。頂点潜時が短くなることは、脳内処理速度が速くなり、覚醒度や集中力が高まったことを意味する。
【0011】
事象関連電位P300を誘発させる感覚刺激としては、聴覚、視覚等があるが、聴覚刺激であることが、視覚感覚器の影響を排して、評価の精度を高められる観点から好ましい。
【0012】
本発明においては、試験参加者に精神的な負荷を与えた後に歯磨きを行わせる。安静状態にある試験参加者に歯磨きをさせ、その前後で事象関連電位を測定した場合には、試験参加者の初期の疲労度に個人差があることによって、歯磨き剤による覚醒度の向上効果の差が結果に現れにくい。
本発明においては、試験参加者に精神的に疲労させる課題を課し、疲労度合いを揃えた上で歯磨き剤等の評価をすることで、歯磨き剤等による覚醒度の向上効果等が見やすくなる。
【0013】
精神的な負荷を課す方法としては、試験参加者に、認知課題、計算作業課題、情報処理課題、これらの2以上を組み合わせた課題等を課す方法が挙げられる。
試験参加者に与える負荷の程度は、例えば、デスクワークをしているときと同程度の負荷である。
認知課題は、同一刺激の中に互いに干渉する2つの属性のある刺激を用いて反応を求める課題であるストループテスト(Stroop Test;ST)やランダムに配置された数系列とアルファベット系列を交互に順に結ぶ課題であるTrail Making Test(TMT)等が挙げられる。
計算課題としては、計算問題の呈示及びそれに対する回答を繰り返させたり、条件付の演算、例えば、100から0まで7の連続減算(100―7=93、93−7=86と順々に7を引き、それ以上引けなくなるまで続ける)をし、引けなくなったときの数字を答えさせる連続7減算させたりすること等が挙げられる。
情報処理課題としては、カード分類による概念学習課題を用いて、構えの転換に関係する高度な注意機能の制御性を評価するWisconsin Card Sorting Test(WCST)や英文もしくは邦文を呈示し、呈示した内容と同じように入力していくVisual Display Terminal(VDT)課題等が挙げられる。
【0014】
認知課題、計算課題及び情報処理課題等の課題を課す時間の長さは、15〜45分、特に25〜30分であることが、疲労度の個人差の影響を低減する観点から好まし。また、評価試験に参加させる試験参加者は、複数人であることが好ましく、より好ましくは6〜20人、更に好ましくは10〜15人で行うことが好ましい。また、試験参加者には、同じ量の課題を課すことが好ましい。
試験参加者は、自主的な判断により試験に協力してもらう。
【0015】
歯磨き後に更に精神的な負荷を課し、その負荷の前後の事象関連電位を測定しても良い。その場合の精神的な負荷のかけ方についても初回の精神的な負荷と同様とすることができる。この場合、一回目と2回目で精神的な負荷のかけ方や程度が異なっても良い。
【0016】
歯磨きの後、精神的な負荷(2回目の計算課題)の前後でP300測定を行っているが、歯磨き直後のP300測定(後述の手順F)では、主として歯磨き剤の使用による疲労の回復度や覚醒度を評価することができる。それに対し、2回目の精神的負荷(計算課題)を課した後のP300測定(後述の手順H)は、歯磨きにより向上ないし回復した覚醒度や疲労度を、なにもしない場合に対し、疲労の付加、すなわち更に精神的負荷を課した後に事象関連電位P300を測定することで、覚醒度の向上効果や疲労度の回復効果だけでなく、その持続性の差を、より明瞭に評価することができる。
【0017】
また、本発明の覚醒度の評価方法により、覚醒度の向上効果の高い成分をスクリーニングすることができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら制限されるものではない。
【0019】
〔実施例〕
13名の試験参加者(以下、単に「参加者」ともいう)に試験に協力してもらい、図1に示すタイムスケジュールで、A〜Hの手順に従い歯磨き剤の覚醒度向上効果の評価試験を行った。
なお、A〜Hの手順毎の時間のうち、手順B、手順D、手順Fおよび手順Hの各「P300測定」の10分間は、実際の測定時間と、質問用紙への回答記入時間を含む総時間であり、手順A「安静時間」、手順C及び手順G「計算課題」、手順E「歯磨き」のそれぞれは、実際に行った動作・作業の時間である。
評価試験は、歯磨き剤として試験製剤を用いる試験製剤条件、及び歯磨き剤として対照製剤を用いる対照製剤条件の2条件で行った。試験は、各条件1日1回のみの試行で、条件の順序は参加者ごとにカウンターバランスをとった。
評価試験は、室内を、温度25℃、湿度50%Rhに維持し、参加者にとって快適な状態を保って行った。
【0020】
各条件での評価試験は、図1に示すように、参加者を約10分間安静にさせることから開始した(手順A)。具体的には、参加者を、リクライニングチェアに座らせ、10分間静かに休憩してもらった。
そして、手順A(10分間の安静)後、参加者に聴覚オドボール課題を行わせ、安静状態の事象関連電位P300を測定した(手順B)。
【0021】
手順B(安静時P300測定)に次いで、参加者に一定量の計算課題を課して精神的な負荷を与えた(手順C)。計算課題としては、内田・クレペリン試験を模した課題を与えた。具体的には、図2に示すようにパソコンのモニタ上に、それぞれ0〜9から選択される数字と、加算すべきことを示す記号「+」又は乗算すべきことを示す記号「×」とをランダムに表示して行った。まず、計算課題を開始すると、図2(a)に示す第一の画面を表示させた。第一の画面には、0〜9の数字のなかからランダムに選択させた一桁の数字を、4個横に並べて且つ左から2つの数字上に問題1、問題2との表示をこの順に付加して、表示させると共に、加算記号「+」及び乗算記号「×」のうちからランダムに選択させた演算記号を、問題1及び問題2の数字の下に表示させた。
参加者には、表示される問題1と問題2の2つの数字を演算記号に従って加算又は乗算してもらい、その結果得られる数字における1の位の数字のみを、数字キーを押すことにより解答欄に入力してもらった。
図2(a)に示した第一の画面の解答欄への入力がおわると、画面上の数字は1つ左へスライドして、図2(a)の二番目と三番目の数字が、図2(b)に示すように次画面ではそれぞれ問題1と問題2となる。このような問題を25分間に亘って順次出題し、回答入力を繰り返してもらった。なお、参加者には、計算課題の回答入力を、できるだけ早く、且つ正確に回答を入力するように求めた。
また、図2(a)には、第一の画面の解答欄に正解の数字が入力された状態が示されており、図2(b)には、第二の画面の解答欄に不正解の数字が入力された状態が示されている。本実施例においては、入力された数字が正解であるか否かを問わずに、解答が入力されたら次画面に移行するようにした。
【0022】
手順C(計算課題25分間)に次いで、該手順Cの計算課題により精神的に疲労した状態の参加者に対し、聴覚オドボール課題を行わせ、事象関連電位P300の測定を行った(手順D)。
【0023】
手順D(疲労負荷直後のP300測定)に次いで、参加者に、歯ブラシに試験製剤もしくは対照製剤のいずれかの歯磨き剤を付けて1分間歯磨きをしてもらった(手順E)。試験製剤条件で使用した歯磨き剤(試験製剤)及び対照製剤条件で使用した歯磨き剤(対照製剤)の組成を表1に示した。歯ブラシに付ける歯磨き剤の量は、何れの条件も1.0gとし、歯ブラシも両条件で同じものを用いた。
【0024】
【表1】

【0025】
手順E(歯磨き動作)に次いで、歯磨き後の参加者に、再び、聴覚オドボール課題を行わせ、事象関連電位P300の測定を行った(手順F)。
【0026】
手順F(ケア直後のP300測定)に次いで、再び、参加者に、先に与えた計算課題と同一形式の計算課題を課した(手順G)。そして、計算課題の終了後再び、聴覚オドボール課題を行わせて事象関連電位P300の測定を行った(手順H)。
【0027】
上記の評価試験における、聴覚オドボール課題及び事象関連電位P300の測定(図1中の手順B,D,F及びHにおけるP300の測定)は次のように行った。
〔聴覚オドボール課題〕
図3に示すように、低音(1kHz)と高音(2kHz)の音刺激を用いた聴覚オドボール課題を行わせた。音刺激は、参加者の後方に設置された左右一対のスピーカー31から、基本条件を持続時間100ms、立ち上がり/下がり各10ms、刺激インターバル1500msとし、刺激の頻度は一方の音刺激を低頻度(ρ=0.20)、他方を高頻度(ρ=0.80)、刺激間間隔はランダム率25%し、低頻度刺激と高頻度刺激を呈示した。また、低頻度刺激と高頻度刺激の合計呈示回数は250回とした。参加者には、低頻度の刺激時にできるだけ早く正確にボタン32を押させた。なお、参加者には、音刺激が提示されている間、瞬目や眼球運動を抑制するように指示した。
【0028】
〔電極及びデータ解析〕
事象関連電位(Event−Related potentials:ERP)P300測定に使用した電極、その配置及びデータ解析方法等は下記の通りである。
脳波は、国際10−20法に基づいたFz、Cz、Pzの3部位から、右乳様突起部(A1)を基準として導出した(図4参照)。
図4に示すように、電極は国際10−20法に基づいたFz、Cz、Pzに装着し、基準電極は右乳様突起部に装着し、接地電極は前額部に装着した。また、電極には、皿型の銀−塩化銀電極を用いた。
生体信号は、携帯型多用途生体アンプ〔(株)デジテックス研究所製「Polymate AP1000」〕により時定数1.0s、高域遮断周波数30Hz(バンドパスフィルタ0.16−30Hz)をかけて増幅し、ノートパソコン(NEC VersaPro VY16E/R−1)にサンプリング周波数1kHzで記録した。
【0029】
聴覚刺激提示前200msから刺激提示後800msまでの1000ms間を加算平均してERP波形を求めた。ここでいう、加算平均は、各参加者毎に、また、図1中の手順B,D,F及びHの測定毎に、得られたデータを平均したものである。なお、加算平均するにあたり、記録された実測値の中で、瞬きなどのアーティファクトを視認できた試行は、加算平均処理から除外した。ベースラインは、刺激提示前200ms間の平均電位にそろえた。得られた波形をMatlab6.0ソフトを用いて31データ数づつによる移動平均処理を行った。Fz、Cz、Pzの3部位から得られたデータのうち、頭頂部(Pz)のP300波形の振幅がFzやCzにおけるP300波形の振幅よりも大きく頭頂部で優勢であったため、加算処理結果として、Pzを使用した。また、波形の加算平均は、音が鳴った時点をトリガーとしてそろえた波形を加算平均した。
【0030】
図5は、試験製剤及び対照製剤の使用前後における標的刺激(低頻度刺激)に対する事象関連電位(ERP)の平均波形を示す図である。図5中、(a)は、最初の計算課題の負荷後(図中「負荷後1」と表記)の測定(図1中の手順Dにおける測定)で得られた平均波形、(b)は、歯磨き直後(図中「ケア直後」と表記)の測定(図1中の手順Fにおける測定)で得られた平均波形、(c)は、2回目の計算課題の負荷後(図中「負荷後2」と表記)の測定(図1中の手順Hにおける測定)で得られた平均波形を示す。
【0031】
図6は、試験製剤及び対照製剤使用時におけるP300潜時の変化量を示すグラフであり、負荷後1における事象関連電位P300の頂点潜時(latency,刺激開始時点からP300波形の頂点までの時間)を基準として、試験製剤及び対照製剤条件のそれぞれにおいて、ケア直後及び負荷後2におけるP300の頂点潜時がどのように変化したかが示されている。
【0032】
図6中の負荷後1とケア直後の結果を対比すると、試験製剤及び対照製剤条件のいずれについても、歯磨きによりP300潜時が短くなっており、歯磨きを行うことで覚醒度が高まったことが判る。特に、試験製剤条件の方が、対照製剤条件に比してケア直後の低下の度合いが大きくなっている。これは、対照製剤を使用して歯磨きするよりも、試験製剤を使用して歯磨きした方が、覚醒度の向上効果が高かったことを意味している。
【0033】
このように、本発明においては、試験参加者に精神的な負荷を課した上で歯磨きを行わせることで、歯磨き剤の差により生じる事象関連電位の潜時の微小な変化を有意な差として顕在化させることができ、従って、例えば、歯磨き剤の覚醒度の向上効果の有無やその程度を精度良く客観的に評価することができる。覚醒度の向上には、集中力の向上、すっきり感の向上、爽快感の向上も含まれる。
【0034】
さらに、図6中の負荷後2の結果を対比すると、対照製剤条件については、ケア直後に比して負荷後2のP300潜時が急激に遅延しており(p<0.05)、歯磨きによる覚醒度の向上効果が持続しないことが判る。これに対して、試験製剤条件については、負荷後2のP300潜時が、ケア直後と同等又はより短くなっており、歯磨きによる覚醒度の向上効果が長時間持続することが判る。
【0035】
このように、歯磨き後に更に精神的な負荷を課し、その負荷の前後の事象関連電位を測定することで、歯磨き剤による覚醒度の向上効果の持続性等を効率よく客観的に評価することができる。
【0036】
なお、本実施例においては、負荷後1、ケア直後及び負荷後2の各聴覚オドボール課題の直前に、参加者にアンケートをし、主観的な状態の変化も調べた。
具体的には、図7に示すような、ビジュアルアナログスケール(Visual Analogue Scale:VAS)として、全体的疲労感、頭のすっきり感、集中力及び爽快感の4項目のそれぞれについて記載された質問用紙を配り、参加者に、そのときの状態を各スケール上に一箇所だけ縦線を引くことにより回答させた。なお、参加者には熟考せずに直感で記入するように予め指導しておいた。
各参加者が記入した回答は、各スケールを「1mmを1点」と換算し、スケール全体(10cm)を100点満点として、縦線記入位置の得点を算出した。なお、図7の10cmのスケール(線分)中、右側の端を100点、左側の端を0点とした。その各参加者の得点を図1中の手順B,D,F及びHの各測定毎の平均値として計算した。
【0037】
図8は、VAS結果を示すグラフである。4項目のうち、全体的疲労感について試験製剤条件と対照製剤条件のケア直後の得点を比較すると、試験製剤条件の得点が対照製剤条件の得点より低くなっており(試験製剤得点<対照製剤得点、歯磨き剤主効果でp<0.05)、対照製剤より試験製剤の方が疲労回復効果が高いことが判る。また、頭のすっきり感、集中力及び爽快感は、試験製剤条件と対照製剤条件のケア直後の得点を比較すると、何れの項目についても試験製剤条件の得点が対照製剤得点より高くなっており(試験製剤得点>対照製剤得点、頭のすっきり感および歯磨き剤主効果はp<0.05、爽快感はp<0.01)、試験製剤の方が、頭をすっきりさせる効果、集中力を高める効果、爽快感を高める効果が高いことが判る。
これらVAS結果は、事象関連電位を用いた上記の評価結果と整合している。
【0038】
なお、上述した実施例においては、手順Cの前に手順A及び手順Bを行ったが、手順A及びBを省略することもできる。また、手順Gや手順Hのように、歯磨き後の精神的な負荷の付与やその後の事象関連電位の測定も省略することができる。
【符号の説明】
【0039】
31 スピーカー
32 押しボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験参加者に精神的な負荷を与えた後に歯磨きを行わせ、該歯磨きの前後の事象関連電位の変化から、該歯磨きによる覚醒度の向上効果を評価する、覚醒度の評価方法。
【請求項2】
事象関連電位P300の頂点潜時を測定し、前記歯磨きの前後のP300頂点潜時の差から、歯磨きによる覚醒度の向上効果を評価する、請求項1記載の覚醒度の評価方法。
【請求項3】
精神的な負荷として、試験参加者に認知課題、計算課題、情報処理課題又はこれらの2以上を組み合わせた課題を課す、請求項1又は2記載の覚醒度の評価方法。
【請求項4】
事象関連電位を、聴覚刺激により生じさせる請求項1〜3の何れかに記載の覚醒度の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−5056(P2011−5056A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153037(P2009−153037)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】