説明

親水化ポリエーテルスルホン分離膜及びその製造方法

【課題】芳香族ポリエーテルセグメントの両末端にポリエーテルセグメントがブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンを含有する、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を併せ有する親水化ポリエーテルスルホン分離膜とその製造方法を提供すること。
【解決手段】数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホンセグメントとポリエーテルセグメントからなるブロック共重合体である親水化ポリエーテルスルホンを含有する分離膜において、芳香族ポリエーテルスルホンセグメントの両末端にポリエーテルセグメントが共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の20モル%以上の親水化ポリエーテルスルホン分離膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の方法では製造困難であった耐ファウリング性と耐熱性を併せ有する親水化ポリエーテルスルホン分離膜とその製造方法に関する。より詳しくは、耐熱性を示す数平均分子量が少なくとも25,000の芳香族ポリエーテルセグメントの両末端に、耐ファウリング性を示すポリエーテルセグメントがブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンを用いた親水化ポリエーテルスルホン分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分離膜は、飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野、食品工業分野等様々な方面で利用されている。飲料水製造、浄水処理、排水処理などの水処理分野においては、分離膜が従来の砂ろ過、凝集沈殿過程の代替として水中の不純物を除去するために用いられるようになってきている。また、食品工業分野においては、発酵に用いた酵母の分離除去や牛乳等液体の濃縮を目的として、分離膜が用いられている。
【0003】
1年〜10年という長時間にわたって分離膜を繰り返し使用する浄水処理分野や食品工業分野では、膜のバイオファウリング防止の目的で次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤の添加が適宜行われ、酸・アルカリ・塩素・界面活性剤などによる膜の薬品洗浄も頻繁に実施される。このため、分離膜にはこれらの薬品に対する高い耐薬品性も求められる。さらに、分離膜には、使用中に破断が起こらないように高い物理的強度が要求される。
【0004】
また、浄水処理分野や食品工業分野では、経済的な観点から優れた耐ファウリング性が求められる。優れた耐ファウリング性とは、(1)長時間安定して分離操作が可能なこと、(2)洗浄操作による透過性能等の回復率が高いことを意味し、優れた耐ファウリング性を備えた分離膜を用いると運転コストが低減される。
【0005】
上記に加えて、雑菌の繁殖を防止するために熱水による殺菌が頻繁に実施される場合には、分離膜に60〜100℃の高温下で繰り返し使用できる程度の耐熱性も要求される。
【0006】
このように、特に食品工業分野で使用される分離膜には、分離に必要な分離性能と透過性能、基本的な物性である化学的強度(耐薬品性)と物理的強度だけでなく、耐ファウリング性及び耐熱性も求められる。そこで、化学的強度(耐薬品性)と物理的強度を併せ有するポリエーテルスルホンを用いた分離膜が使用されるようになってきた。
【0007】
しかしながら、ポリエーテルスルホンは疎水性が高いために、ポリエーテルスルホン膜の表面に疎水性物質が吸着し易く、長時間安定して分離操作が継続し難いと言う問題点があった。さらに、ポリエーテルスルホンは疎水性が高いために、膜表面に吸着した疎水性物質を酸・アルカリ・塩素・界面活性剤などを含有する水を用いて洗浄しても、洗浄水がポリエーテルスルホンと疎水性物質との吸着面にまで浸透し難く、洗浄操作による透過性能等の回復率が低いために、耐ファウリング性に劣ると言う問題点があった。
【0008】
このような問題点を克服するために、ポリエーテルスルホン膜を親水化する方法が種々提案されている。また、ポリエーテルスルホンに類似した構造を有するポリスルホンについても親水化する方法が種々提案されており、これらはポリエーテルスルホン膜の親水化にも転用できる。
【0009】
例えば、ポリスルホン自体に親水基を導入して親水化ポリスルホン膜を得る方法は、特許文献1、2に開示され、ポリスルホンの主鎖にスルホン酸基を導入している。しかしながら、ポリスルホンの主鎖にスルホン酸基のような極性の高い親水基を導入した場合、ポリスルホンが有する耐熱性を損なうだけでなく、対荷電を有する物質を強く吸着してしまうために長期間安定して分離操作を継続し難い。
【0010】
また、親水性ポリマーをポリスルホンにブレンドして親水化ポリスルホン膜を得る方法としては、例えば、特許文献3では、セルロース誘導体を、特許文献4では、エチレン−ビニルアルコール共重合体を、それぞれポリスルホンにブレンドして分離膜を得る方法が開示されている。ここで、親水性を付与するためには、ある程度の量の親水性ポリマーをブレンドする必要があるが、親水性ポリマーは本質的に疎水性ポリマーであるポリスルホンやポリエーテルスルホンと混和し難いために、均一なブレンドを行うことが困難であった。このため、得られる分離膜には不均質な構造が現れ易く、この傾向は親水性ポリマーのブレンド率を高める程顕著になる問題がある。
【0011】
このような親水性ポリマーのポリスルホンやポリエーテルスルホンへのブレンドにおける問題点を解決するために、特許文献5には、ポリスルホン系ポリマー、親水性ポリマー、ポリスルホン系ポリマーと親水性ポリマーの共重合体の3者をブレンドし、該共重合体をポリスルホン系ポリマーと親水性ポリマーとの相容化剤として作用させる方法が開示されている。この方法によって、ブレンドの均一性は高められるため、常温下での使用や短期間の使用には有効である。しかしながら、親水性ポリマーとポリスルホン系ポリマーとの間には共有結合が存在しないため、60〜100℃の高温下では徐々に親水性ポリマーとポリスルホン系ポリマーとの絡み合いが解け始めるため、徐々に親水性ポリマーが溶出してしまうという問題がある。
【0012】
上記問題点を解決するために、ポリスルホンの主鎖に直接親水性ポリマーを共有結合により導入する方法が提案され、例えば、特許文献6では、ポリエーテルスルホンの末端にポリエーテル類を導入している。ここでは、ポリエーテルスルホンの末端にあるヒドロキシフェニル基を利用してポリエーテル類を導入している。通常、ポリエーテルスルホンは、特許文献7、8、9に記載されているように、有機極性溶媒中、アルカリ金属化合物の存在下、ジハロゲノジフェニルスルホン化合物と二価フェノール化合物との重縮合反応、あるいは、二価フェノール化合物のアルカリ金属二塩をあらかじめ合成しておいて、ジハロゲノジフェニル化合物との重縮合反応によって得られるものである。
【0013】
この重縮合反応は、高分子量化するために、二価フェノール化合物に対し、ジハロゲノジフェニル化合物は、通常等モル使用され、この時、理論上ポリマー末端の一方はヒドロキシフェニル末端基、もう片一方がハロゲノフェニル末端基となる。従って、従来得られているポリエーテルスルホンでは、両末端にポリエーテル類を導入することができず、片末端にしかポリエーテル類を導入することができない。このため、分離膜の十分な親水化が図れず、その耐ファウリング性は未だ十分ではなかった。
【0014】
なお、ポリエーテル類を導入するためのヒドロキシフェニル末端基量を増やすために、二価フェノール化合物をジハロゲノフェニルスルホンよりも過剰に用いて重合することや、あるいは重合終了時にハロゲノフェニル末端に対して、当量以上の二価フェノール化合物を添加することにより、ハロゲノフェニル末端基よりも、反応活性なヒドロキシフェニル末端基を当量以上導入することが可能となる(理論上、ジハロゲノジフェニルスルホンと二価フェノール化合物の仕込み比が1:1と、当量の場合に、最も高分子量化が可能となり、その時の末端基組成は、ハロゲノフェニル末端基:ヒドロキシフェニル末端基=50:50(モル%)となる)。
【0015】
しかしながら、仕込み比を1:1と、当量仕込んだ場合でも、重合条件によっては、重合途中の成長末端となるアルカリ金属のフェノキシドや二価フェノール化合物のアルカリ金属塩などは、重合時に容易に酸化され、重合時に着色するという課題や、重合時の酸化反応により、仕込みモルバランス、成長末端基バランスが崩れ、高分子量化が困難になるという課題、ハロゲノフェニル末端基量がヒドロキシフェニル末端基量よりも多くなるという課題など、酸化反応により理想的な重縮合反応が妨げられ、分子量制御やヒドロキシ末端基量制御は容易なものではない。
【0016】
このため、ヒドロキシフェニル末端基量を高めるために、積極的に過剰の二価フェノール化合物を使用した場合では、重合反応の制御が非常に困難となり、重縮合理論で知られているように2成分のモノマーのモルバランスをずらすことによって末端基量を微増加することが可能とはなるものの、同時にポリマー分子量が著しく低下するという課題があった。すなわち、ヒドロキシフェニル末端基量の増加とポリマー分子量の減少が同時に進行するという重縮合反応における本質的な問題を解決するには至らなかった。
【0017】
また、特許文献10に開示されている方法を参考に、重合終了時に二価フェノール化合物を添加し、二価フェノール化合物により末端を封鎖する方法を検討したが、この場合は、ポリマー中のクロロフェニル末端と二価フェノール化合物の重合が進行し、目的とする高ヒドロキシフェニル末端化が進行せず、むしろ二価フェノールの後添加による酸化反応による分解や着色が進行するという問題があった。
【0018】
さらに、前記のごとく、積極的に過剰の二価のフェノール化合物を重合開始前、重合終了時に使用した場合、得られたポリエーテルスルホン中に、過剰に加えた酸性の二価フェノール化合物や二価フェノール化合物のアルカリ金属塩、およびアルカリ金属塩そのもののが、ポリマー中に残存し、ポリマーの熱安定性、滞留安定性を低下させるという問題、ヒドロキシフェニル末端基との相互作用により、精製・除去がより困難になるという問題があった。
【0019】
通常、ポリエーテルスルホンは、重合反応後、重合反応溶液中のポリエーテルスルホンを析出させる貧溶媒中に投下することにより、白色固体を析出させ、洗浄・濾過等のクリーン化を実施して、あるいは濾過等を実施することなく、ポリマー粉末を回収するが、ヒドロキシルフェニル末端基量を増加させることにより、同時にポリマー分子量を低分子量化させると、高分子量ポリエーテルスルホンのように粉体状態として回収することが困難になり、場合によっては貧溶媒中で軟化し、塊の状態でポリマーが回収されるという課題があった。
【0020】
このようにポリマーを貧溶媒に析出させる段階において、粉体状態として回収することが困難なため、ヒドロキシフェニル末端基を増加させるために、過剰に加えた酸性の二価フェノール化合物や二価フェノール化合物のアルカリ金属塩、あるいはアルカリ金属塩そのものの再沈殿精製・未反応モノマーの除去工程において生産性が顕著に低下するという問題のほか、ヒドロキシフェニル末端基を有するポリエーテルスルホン中にアルカリ金属塩が残存するという課題があった。
【0021】
このように、ポリエーテルスルホンの両末端にポリエーテル類を導入するため、ヒドロキシフェニル末端基量を高めるようにポリエーテルスルホンを調製した場合には、ポリエーテルスルホンの分子量低下を惹起し、分離膜に適した化学的強度(耐薬品性)と物理的強度を示すものは得られず、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を併せ有する親水化ポリエーテルスルホンを含有する分離膜は得られていなかった。
【特許文献1】特開昭53−13679号公報
【特許文献2】特開昭59−196322号公報
【特許文献3】特開昭57−50507号公報
【特許文献4】特開昭60−206404号公報
【特許文献5】特開平2−160026号公報
【特許文献6】米国特許第5,911,880号明細書
【特許文献7】特公昭42−7799号公報
【特許文献8】特公昭45−21318号公報
【特許文献9】特開昭48−19700号公報
【特許文献10】特開平5−163352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、従来の技術の上述した問題点に鑑み、芳香族ポリエーテルセグメントの両末端にポリエーテルセグメントがブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンを含有する、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を併せ有する親水化ポリエーテルスルホン分離膜とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するための本発明は、下記1)〜3)の構成によって達成される。
【0024】
1)数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)と、一般式(1)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b1)及び/または一般式(2)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b2)からなるブロック共重合体である親水化ポリエーテルスルホンを含有する分離膜において、aからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、aからなるセグメントの両末端にb2からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、及びaからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントとb2からなるセグメントが1つずつ共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の20モル%以上であることを特徴とする親水化ポリエーテルスルホン分離膜。
【0025】
【化1】

【0026】
(R、R1、R2は、互いに独立なHまたはアルキル基を表す。)
【0027】
【化2】

【0028】
(X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3、Y4は、互いに独立な自然数である。)
2)60〜100モル%のヒドロキシフェニル末端を有し、数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホン(A)に、一般式(3)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B1)及び/または一般式(4)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B2)をブロック共重合させて親水化ポリエーテルスルホンを得ることを特徴とする親水化ポリエーテルスルホン分離膜の製造方法。
【0029】
【化3】

【0030】
(R1、R2、R3は、互いに独立なHまたはアルキル基を表す。X、Yは、互いに独立なH、アルキル基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、メシルエステル、トシルエステルを表す。m、nは、互いに独立な自然数である。)
【0031】
【化4】

【0032】
(A、B、C、Dは、H、アルキル基、メシル基、トシル基を表す。X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3、Y4は、互いに独立な自然数である。)
3)一般式(3)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B1)が、ポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキサイドである2)記載の親水化ポリエーテルスルホン分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、芳香族ポリエーテルセグメントの両末端にポリエーテルセグメントがブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンを含有し、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を併せ有する親水化ポリエーテルスルホン分離膜とその製造方法が提供される。本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、特に耐ファウリング性と耐熱性が要求される用途、例えば浄水処理分野や食品工業分野において好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)と、一般式(1)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b1)及び/または一般式(2)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b2)からなるブロック共重合体である親水化ポリエーテルスルホンを含有する。
【0035】
ここで、本発明の芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)とは、一般式(a−1)および/または一般式(a−2)で表される構造を有し、式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Yは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、もしくはC(CHを表す。
【0036】
【化5】

【0037】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Xは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、CHを表す。)
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜が耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を有するためには、芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)の数平均分子量が少なくとも25,000であることが必要であり、30,000以上が好ましく、さらには35,000以上が好ましい。芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)の数平均分子量が大きいほど、親水化ポリエーテルスルホン分離膜の耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度が大きくなる傾向がある。
【0038】
本発明における数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンで換算した値である。GPC測定は、例えば、検出器に株式会社島津製作所示差屈折計RID−10Aを用い、ポンプにLC−10ADvpを用い、カラムは昭和電工株式会社製GPC用カラム、Shodex KD−806Mを2本接続して行うことができる。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶離液にジメチルホルムアミド(DMF)を用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入する方法が挙げられる。
【0039】
本発明のポリエーテルセグメント(b1)及びポリエーテルセグメント(b2)とは、それぞれ一般式(1)及び一般式(2)で表される構造を有するものである。
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜の耐ファウリング性は、ポリエーテルセグメント(b1)及びポリエーテルセグメント(b2)の数平均分子量が大きくなるほど向上する傾向にあるが、数平均分子量が大きすぎると耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度が小さくなる傾向がある。このため、ポリエーテルセグメント(b1)及びポリエーテルセグメント(b2)の数平均分子量は、100〜20,000であることが好ましく、500〜10,000がより好ましく、さらには1,000〜5,000が好ましい。
【0040】
ここで、芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)の数平均分子量に比べて、ポリエーテルセグメント(b1)及びポリエーテルセグメント(b2)の数平均分子量が大きすぎると、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度が小さくなる傾向がある。このため、親水化ポリエーテルスルホン分離膜の耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度と耐ファウリング性のバランスを取るためには、芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)の数平均分子量とポリエーテルセグメント(b1)及びポリエーテルセグメント(b2)の数平均分子量との比は、2:1〜50:1にするのが好ましく、より好ましくは3:1〜30:1、さらには5:1〜15:1とするのがよい。
【0041】
特に、ポリエーテルセグメント(b1)の中でも、R1、R2のいずれもがHである場合、すなわち一般にポリエチレングリコールあるいはポリエチレンオキサイド型と呼ばれるポリエーテルセグメントの場合、耐熱性及びアルカリに対する化学的強度(耐薬品性)が高いため、比較的大きな数平均分子量とすることが可能であり、親水化ポリエーテルスルホン分離膜の耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度と耐ファウリング性を高いレベルでバランスさせることができるため好ましい。
【0042】
そして、本発明の親水化ポリエーテルスルホンは、aからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、aからなるセグメントの両末端にb2からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、及びaからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントとb2からなるセグメントが1つずつ共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の20モル%以上であることを特徴とする。
【0043】
上述した3種類の親水化ポリエーテルスルホン以外に、aからなるセグメントの片末端にb1からなるセグメントが共重合した親水化ポリエーテルスルホン、aからなるセグメントの片末端にb2からなるセグメントが共重合した親水化ポリエーテルスルホンの2種類があり、親水化ポリエーテルスルホン全体としては合計5種類存在することになる。ここで、aからなるセグメントの片末端にb1またはb2からなるセグメントが共重合した親水化ポリエーテルスルホンは、特許文献6で既に得られているが、片末端のみしかポリエーテルセグメントが結合していないために、これらを用いた分離膜では十分な耐ファウリング性を有していなかった。
【0044】
そこで、本発明者らは、数平均分子量が少なくとも25,000のaからなるセグメントの両末端にb1及び/またはb2からなるセグメントが共重合した親水化ポリエーテルスルホンを用いて分離膜を作製することを着想し、これらの両末端にポリエーテルセグメントが結合した親水化ポリエーテルスルホンを親水化ポリエーテルスルホン全体の20モル%以上とすることにより、得られる分離膜が十分な耐ファウリング性を有するようにできることを見出した。すなわち、本発明の親水化ポリエーテルスルホンは、『親水化ポリエーテルスルホン全体の少なくとも20モル%が両末端にポリエーテルセグメントを有するものであるだけでなく、芳香族ポリエーテルスルホンセグメントの数平均分子量が少なくとも25,000と高分子量である』という従来得られている親水化ポリエーテルスルホンとは異なる特徴を有するため、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を併せ有する親水化ポリエーテルスルホン分離膜が得られる。
【0045】
ここで、得られる親水化ポリエーテルスルホン分離膜の耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を高いレベルでバランスさせるためには、aからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、aからなるセグメントの両末端にb2からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、及びaからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントとb2からなるセグメントが1つずつ共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の40モル%以上であることが好ましく、より好ましくは60モル%以上であり、さらには、80モル%以上であり、実質的に100モル%であることが最上である。
【0046】
親水化ポリエーテルスルホン分離膜の膜厚は、分離特性、透水性能、化学的強度(耐薬品性)、物理的強度、耐ファウリング性の各性能が要求される条件を満足するように自由に調整できるが、膜厚が薄いと分離特性や物理的強度が低く、厚いと透水性能が低くなる。従って、上述した各性能のバランスや運転コストを考慮すると、膜厚は100μm以上500μm以下、より好ましくは200μm以上300μm以下が良い。
【0047】
なお、親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、例えば多孔質基材などの支持体層を含んでいても良い。多孔質基材としては、有機材料、無機材料等、特に限定されないが、軽量化しやすい点から有機繊維が好ましい。さらに好ましくは、セルロース系繊維、酢酸セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維などの有機繊維からなる織布や不織布である。
【0048】
本発明のポリエーテルスルホン分離膜は、精密ろ過膜(MF膜)としても限外ろ過膜(UF膜)としても使用することができる。親水化ポリエーテルスルホン分離膜の表面の平均孔径は、分離特性に影響を及ぼすため、用途によって制御されるべきである。ここで、親水化ポリエーテルスルホン分離膜をMF膜として使用する場合には、その表面の平均孔径は電子顕微鏡で計測できるが、UF膜のように孔径が小さすぎて計測が困難な場合については、平均孔径の代わりに分画分子量という値を指標とすることになっている。分画分子量とは、日本膜学会編 膜学実験シリーズ 第III巻 人工膜編 編集委員/木村尚史・中尾真一・大矢晴彦・仲川勤 (1993 共立出版) P92に、『溶質の分子量を横軸に、阻止率を縦軸にとってデータをプロットしたものを分画分子量曲線とよんでいる。そして阻止率が90%となる分子量を膜の分画分子量とよんでいる。』とあるように限外ろ過膜の膜性能を表す指標として当業者には周知である。
【0049】
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜をMF膜として使用する場合には、その表面の平均孔径の好ましい値は、分離対象物質によっても異なるが、高い阻止性能と高い透水性能を両立するためには、0.01μm以上1μm以下が好ましく、より好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。一方、UF膜として使用する場合には、分画分子量が1,000Da以上300,000Da以下が好ましく、より好ましくは5,000Da以上200,000Da以下である。
【0050】
特に、浄水処理用途において親水化ポリエーテルスルホン分離膜をMF膜として使用する場合には、表面の平均孔径は、0.01〜0.5μmの範囲が好ましく、0.05〜0.2μmの範囲がより好ましい。表面の平均孔径がこの範囲にあると、水中の汚れ物質が細孔に詰まりにくく、透水性能の低下が起こりにくいため、分離膜をより長期間連続して使用することができる。また、詰まった場合でも、いわゆる逆洗や空洗によって汚れを除去することができる。ここで、汚れ物質とは、水源によって異なるが、例えば、河川や湖沼などでは、土や泥に由来する無機物やコロイド、微生物やその死骸、植物に由来するフミン質などを挙げることができる。逆洗とは、通常のろ過と逆方向に透過水などを通す操作であり、空洗とは、中空糸膜の場合に空気を送って中空糸膜を揺らし膜表面に堆積した汚れ物質を除去する操作である。
【0051】
一方、食品工業用途においては、一般に浄水処理用途よりも無機物、蛋白質や糖類等の有機物、コロイド成分、不溶性成分を多量に含有するため、親水化ポリエーテルスルホン分離膜をUF膜として使用する方が好ましい。この場合の親水化ポリエーテルスルホン分離膜の分画分子量は、分離対象物質や濃縮対象物質によっても異なるが、1,000Da以上100,000Da以下が好ましく、より好ましくは3,000Da以上30,000Da以下である。
【0052】
ここで、親水化ポリエーテルスルホン分離膜の表面の平均孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて60,000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求める。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求められる。また、親水化ポリエーテルスルホン分離膜の分画分子量は、6種類の分子量の異なるデキストラン(FULKA製 No.31394;分子量 約1,200、No.31388;分子量 約6,000、No.31387;分子量15,000〜20,000、No.31389;分子量 約40,000、No.31397;分子量56,000、No.31398;分子量222,000)の5,000ppm水溶液をろ過し、原水と透過水のデキストラン濃度を示差屈折率計で測定し、デキストランの分子量を横軸に、阻止率を縦軸にとってデータをプロットし、阻止率が90%となるデキストランの分子量を分画分子量とすることにより求められる。ここで、阻止率(%)=[1−(透過水中のデキストラン濃度)/(原水中のデキストラン濃度)]×100で求められる。
【0053】
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜をMF膜として使用する場合には、100kPa、25℃における純水透過性能が0.1m/m・hr以上10m/m・hr以下であることが好ましく、より好ましくは0.5m/m・hr以上5m/m・hr以下である。一方、UF膜として使用する場合には、100kPa、25℃における純水透過性能が0.01m/m・hr以上1m/m・hr以下であることが好ましく、より好ましくは0.05m/m・hr以上0.5m/m・hr以下である。このような純水透過性能を有するように分離膜を設計すると、浄水処理用途や食品工業用途において好適に使用できるようになる。
【0054】
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、中空糸膜形状、平膜形状いずれの形態でも好ましく用いることができるが、中空糸膜は効率良く充填することが可能であり、単位体積当たりの有効膜面積を増大させることができる特徴を有する。一方、平膜は、製膜が中空糸膜に比べて容易であり、上述した多孔質基材などの支持体層との複合化による物理的強度の補強も容易であるという特徴を有する。
【0055】
親水化ポリエーテルスルホン分離膜を中空糸膜形状とする場合、破断強度が3MPa以上、かつ、破断伸度が30%以上であることが好ましく、より好ましくは破断強度が6MPa以上、かつ、破断伸度が50%以上である。このような純水透過性能を有するように分離膜を設計すると、浄水処理用途や食品工業用途において好適に使用できるようになる。一方、平膜形状とする場合、必要に応じて上述した多孔質基材などの支持体層との複合化による物理的強度の補強を行えばよい。
【0056】
親水化ポリエーテルスルホン分離膜を中空糸膜形状とする場合、破断強度と破断伸度の測定方法は、特に限定されるものではないが、例えば、引っ張り試験機を用い、測定長さ50mmの試料を引っ張り速度50mm/分で引っ張り、試料を変えて5回以上行って、破断強度の平均値と破断伸度の平均値を求めることで測定することができる。破断強度3MPa未満、または破断伸度30%未満の場合には、高分子分離膜を扱う際のハンドリング性が悪くなり、かつ、ろ過時における膜の破断、糸切れおよび圧壊が生じやすくなるので好ましくない。
【0057】
本発明の親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、上述した親水化ポリエーテルスルホンを含有することが必須であるが、分離膜の表面の平均孔径や分画分子量、純水透過性能等の膜性能を制御するために、発明の目的を阻害しない範囲で他の有機物、無機物、高分子が含有されていてもよく、例えば、親水化されていないポリエーテルスルホンが含有されていてもよい。
【0058】
上述の親水化ポリエーテルスルホン分離膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、膜が中空糸膜形状である場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにし、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。膜が平膜形状である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液を回収できるようにし、集液管の両面に平膜を配置して周囲を密に固定し、透過液を回収できるようにする。
【0059】
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、水などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
【0060】
ここで、本発明の親水化ポリエーテルスルホンを得るために好適な方法を以下に説明する。
【0061】
一般に、本発明の親水化ポリエーテルスルホンのような、芳香族ポリエーテルスルホンセグメントとポリエーテルセグメントとのブロック共重合体を得るためには、芳香族ポリエーテルスルホンの末端基がヒドロキシフェニル基に代表されるような反応性官能基とし、この反応性官能基と、適当な脱離基を有するポリエーテル化合物との求核置換反応を起こさせる等により化学的に合成される。
【0062】
しかしながら、通常の芳香族ポリエーテルスルホンは、上述したように、高分子量化した場合には、ポリマー末端の一方はヒドロキシフェニル末端基、もう片一方がハロゲノフェニル末端基となり、ヒドロキシフェニル末端基量を高めるために、モノマーのモルバランスをずらした場合には、ポリマー分子量が著しく低下することが知られている。なお、ハロゲノフェニル末端基は安定な官能基であり、上記反応などによるポリエーテル化合物との反応は見込めない。
【0063】
このため、両末端にヒドロキシフェニル基を有し、かつ、数平均分子量が少なくとも25,000程度と高分子量の芳香族ポリエーテルスルホンは得られていなかった。従って、両末端にポリエーテル化合物をブロック共重合させることができないか、または、ポリマー分子量が著しく小さいために、分離膜に用いた場合に耐ファウリング性と耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度を両立することができていなかった。
【0064】
従って、本発明の親水化ポリエーテルスルホンを得るために、高分子量を維持しつつ、かつ、ヒドロキシフェニル末端基含有率を高めることによって両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを高含有率で得る方法を見出し、ここに通常の方法でポリエーテル化合物をブロック共重合させる方法が考えられる。
【0065】
そこで、本発明者らは、高分子量を維持しつつ、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの存在割合を高める方法を鋭意検討し、芳香族ポリエーテルスルホンに60〜100モル%のヒドロキシフェニル末端を導入するという後述する方法を見出した。この方法によって、数平均分子量が少なくとも25,000程度の高分子量を有し、かつ、少なくとも20モル%が両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを得ることができるため、ここに通常の方法でポリエーテル化合物をブロック共重合させ、本発明の親水化ポリエーテルスルホンを得ることができた。
【0066】
まずは、本発明の親水化ポリエーテルスルホンを得るために好適な、高分子量を維持しつつ、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを高含有率で得る方法について説明する。
【0067】
両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを高含有率で得るには、通常公知の方法、すなわち二価フェノール化合物に対し、ジハロゲノジフェニル化合物の重縮合により直接製造する方法、重縮合の後半で末端封鎖剤を添加して製造する方法とは異なり、高分子量の芳香族ポリエーテルスルホン(A)と、二価フェノール化合物を非プロトン性極性溶媒中で加熱することにより製造する。従来の製造方法では、二価フェノール化合物とジハロゲノジフェニル化合物を原料モノマーとするのに対し、ジハロゲノジフェニル化合物を反応に使用しない点で大きく異なる。
【0068】
ここで、芳香族ポリエーテルスルホン(A)とは、一般式(a−1)および/または一般式(a−2)で表される構造を繰り返し単位として有し、式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Yは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、もしくはC(CHを表す。
【0069】
【化6】

【0070】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Xは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、CHを表す)
このような芳香族ポリエーテルスルホン(A)は、通常公知の方法により製造することができる。
【0071】
例えば、アルカリ金属化合物の存在下、有機溶媒中、一般式(I)で表されるジハロゲノフェニル化合物と一般式(II−1)および/または(II−2)で表される二価フェノール化合物とを重縮合させ、あるいはジハロゲノフェニル化合物と、あらかじめ調製した一般式(II−1)および/または(II−2)で表される二価フェノール化合物とアルカリ金属化合物とを重縮合させることにより製造することができる。
【0072】
【化7】

【0073】
(式中のXは、Cl、Fを表し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Yは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、CHを表す。)
二価フェノール化合物に対し、ジハロゲノジフェニル化合物は、通常等モル使用される。分子量や末端基組成を微調整するために、二価フェノール化合物を等モルからわずかに過剰量あるいは過小量で使用することもできるが、モルバランスが大きく崩れると分子量の低下を招く恐れがある。また分子量や末端基組成を調整するために、少量のモノハロゲノジフェニル化合物あるいは一価フェノール化合物を重合溶液中に添加することもできる。
【0074】
重縮合の反応温度は、使用する溶媒の特性に依存するが、通常140〜340℃で実施するのが好ましい。340℃以上より高温で重縮合すると、生成ポリマーの分解反応が進行するため、高分子量体や高純度の芳香族ポリエーテルスルホン(A)が得られなくなる傾向があり、140℃より低い温度で重縮合すると、高分子量体が得られない傾向にある。
【0075】
反応時間は、反応原料成分の種類、重合反応の形式、反応温度により大幅に変化するが、通常は10分〜100時間の範囲であり、好ましくは30分〜24時間の範囲で実施される。反応雰囲気としては、酸素が存在しないことが好ましく、窒素もしくはその他の不活性ガス中で行うことが好ましい。二価フェノール化合物のアルカリ金属塩は酸素の存在下で加熱すると酸化されやすく、目的とする重合反応が妨げられ、高分子量化が困難になるほか、重合体の着色原因ともなる。
【0076】
また重縮合反応は、重合終了時に、適当な末端停止剤、例えば、メチルクロライド、t−ブチルクロライド、4,4’−ジクロロジフェニルスルホンのような単官能クロライド、多官能クロライドを、反応溶液に重合体の末端停止剤として添加し、例えば90〜150℃で反応させることによって末端封鎖することができる。
【0077】
ここで、使用される有機溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピペリドンなどのピペリドン系溶媒、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの2−イミダゾリノン系溶媒、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルホンなどのジフェニル化合物、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、スルホランなどのスルホラン系溶媒、これら2種以上の混合物などが挙げられる。
【0078】
また、重合時に発生する水を分離する目的で、水共沸溶媒としてベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系溶媒を使用することもできる。
【0079】
また、アルカリ金属化合物としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属水素化物、アルカリ金属アルコキシドなどが挙げられる。なかでも炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属炭酸塩が好ましく、とりわけ無水炭酸カリウム、無水炭酸ナトリウムなどの無水アルカリ金属塩が好ましい。
【0080】
重縮合により得られた粗芳香族ポリエーテルスルホン(A)は、反応溶液中に含まれているアルカリ金属化合物を濾過あるいは遠心分離によって分離した後、あるいは濾過や遠心分離をせずに、反応溶液に芳香族ポリエーテルスルホン(A)の貧溶媒を加えて、あるいは貧溶媒に反応溶液を加えて、析出固体として分離することができる。芳香族ポリエーテルスルホン(A)の貧溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトニトリルなどのニトリル類、水などを挙げることができる。またこれらの貧溶媒を2種以上混合して用いることができる。また上記の貧溶媒には、ポリマーが析出可能な範囲で、前記の重合反応溶媒などのポリマーの良溶媒が含有されていてもよい。
【0081】
析出固体は貧溶媒で洗浄後、乾燥させることによって、芳香族ポリエーテルスルホン(A)の粉末を得ることができる。
【0082】
本発明で使用される芳香族ポリエーテルスルホン(A)は、前記の方法により製造することが可能であるが、最終的に得られる両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを効率良く、高純度で製造するためには、芳香族ポリエーテルスルホン(A)のDMF中、25℃、1g/dlで測定した還元粘度(JIS K7367−1(2002)に記載の方法)が0.35以上が好ましく、さらに好ましくは0.4以上、より好ましくは0.45以上のものである。
【0083】
本還元粘度をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、溶媒としてDMF、標準ポリスチレンより換算した数平均分子量(Mn)に置き換えると、その数平均分子量としては、47,000以上のものが好ましく、さらに好ましくは54,000以上、より好ましくは61,000以上である。
【0084】
芳香族ポリエーテルスルホン(A)の還元粘度が低い(数平均分子量が低い)と、最終的に得られる両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの分子量が極めて小さくなり、低分子量側のポリマーやオリゴマーが貧溶媒に溶解、あるいは膨潤したりし、その結果、ポリマーの回収率や洗浄効率が低下する傾向が認められる。さらに洗浄効率の低下により、ポリマー中にアルカリ金属化合物などの不純物量が増加するという傾向が認められる。
【0085】
また、低分子量化に伴いガラス転移温度が低下し、芳香族ポリエーテルスルホンの本来の特徴である耐熱性が低下する場合がある。
【0086】
また、使用する芳香族ポリエーテルスルホン(A)の末端基組成は、芳香族ポリエーテルスルホン(A)の製造性や、反応性の両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを、効率良く製造するためには、ヒドロキシフェニル末端基よりもクロロフェニル末端が相対的に多い芳香族ポリエーテルスルホン(A)を使用することが好ましい。より具体的には、芳香族ポリエーテルスルホン(A)を原料とし、二価のフェノール化合物との反応により、ヒドロキシフェニル末端を導入する本発明の方法においては、ヒドロキシフェニル末端導入効率の面、反応後の後処理効率の面から、芳香族ポリエーテルスルホン(A)中のヒドロキシフェニル末端基組成は、0〜50モル%が好ましく、より好ましくは0〜30モル%、さらに好ましくは0〜10モル%である。
【0087】
このような芳香族ポリエーテルスルホン(A)としては、前記のごとく公知の方法により製造することが可能であるが、前記の方法により製造されている市販品の芳香族ポリエーテルスルホン(例えばBASF社製 “ULTRASON(登録商標) E”シリーズ、住友化学社製 “スミカエクセル(登録商標)”シリーズ)を使用することができる。これらの中で、好ましくはスミカエクセル(登録商標)3600P、4100P、4800P、5003P、5200P、より好ましくはスミカエクセル(登録商標)3600P、4100P、4800P相当品である。
【0088】
次に、芳香族ポリエーテルスルホン(A)から、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを高含有率で得る方法を明確にするため、反応スキームを下記式に示した。まず目的とする両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンよりも、相対的に分子量の高い芳香族ポリエーテルスルホン(A)を上述のような方法であらかじめ重合して製造する。ここでは、ジハロゲノジフェニル化合物(I)と二価フェノール化合物(II)(ここではII−1を例示)より、従来公知の方法により重合した後、回収し、その後必要に応じて、洗浄、乾燥したものを使用することができる。重合後の反応溶液には、残存モノマー、溶媒、アルカリ類が残存していることから、本発明で使用する芳香族ポリエーテルスルホン(A)は、回収後、洗浄・乾燥したものが特に好ましい。
【0089】
【化8】

【0090】
(式中のXは、Cl、Fを表し、Rは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Yは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、CHを表し、nは1以上の整数を表す。)
芳香族ポリエーテルスルホン(A)を中間原料として、二価フェノール化合物(ここではb−1を例示)と非プロトン性極性溶媒中で加熱することにより、二価フェニール化合物による芳香族ポリエーテルスルホン(A)のポリマー主鎖への求核置換反応により(式中矢印αの位置)、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを誘導するものである。
【0091】
また、本発明の反応では、前記ポリマー主鎖への求核置換反応のほかに、ハロゲノフェニル末端と二価フェノール化合物の求核置換反応によっても(式中βの位置)、ヒドロキシフェニル末端基が生成する。ポリマー主鎖モル数に対し、ハロゲノフェニル末端は、ポリマー末端にのみ極わずかに存在するため、ポリマー主鎖への求核置換反応が確率的に優勢となるが、二価フェノール化合物の添加量や、アルカリ金属塩の添加量、反応温度、反応時間を調整することにより、ポリマー主鎖への求核置換反応だけでなく(αの反応)、ハロゲノフェニル末端への求核置換反応(βの反応)も同時に進行させることが可能となり、ヒドロキシフェニル末端基量の高い芳香族ポリエーテルスルホンを誘導することができる。
【0092】
一方、公知の重縮合の場合、二価のフェノール化合物とジハロゲノフェニルスルホンの仕込みモル比(r)、その時得られるポリマー分子量、ポリマー末端基組成は、高分子化学序論(第2版)(化学同人発行、p206)などに記載されているように、
r=ジハロゲノフェニルスルホンの仕込みモル数(a)/二価のフェノール化合物の仕込みモル数(b)(ここで過剰成分を分母とし、a/b=rと置く)、反応率をpと置くと、その時得られるポリマーの数平均重合度(Pn)は、
Pn=(1+r)/[2r(1−p)+(1−r)]と表される。
【0093】
反応率が100%と仮定すると(p=1)、
Pn=(1+r)/(1−r)
この式から、二価のフェノール化合物が1%過剰に存在する場合、その数平均重合度は201となる。また末端基比率は、各モノマー成分の仕込みモル比に準じ、[ジハロゲノフェニル末端]/[ヒドロキシフェニル末端]=r=1.0/1.01となり、ヒドロキシフェニル末端基組成は50.2%程度となる(なお反応率が100%以下の場合は、さらに低い値になる)。
【0094】
一方、得られるポリマー中のヒドロキシフェニル末端を過剰に生成させるために、二価のフェノール化合物を10%過剰に仕込む場合(r=1.0/1.1)、その数平均重合度は23.1、ヒドロキシフェニル末端基組成は52.4%程度、さらに二価のフェノール化合物を50%過剰に仕込んだ場合(r=1.0/1.5)、数平均重合度はわずかに5、生成するヒドロキシフェニル末端基組成は60モル%程度であり、その時の理論分子量はきわめて低分子量となってしまい、分子量が高く、高ヒドロキシフェニル末端基組成のポリマーを得ることは、理論的にも不可能であった。
【0095】
本発明者らは、上記式の反応により効率良く、かつ定量的にヒドロキシフェニル末端を導入できることを見出し、さらに本反応によれば、高収率で目的の両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンが得られ、さらに好ましいことに、本反応により高ヒドロキシフェニル末端基を有し、従来の方法に比べ高分子量であり、さらに後処理工程が極めて単純化でき、かつ純度の高い芳香族ポリエーテルスルホンが得られることを見出した。
【0096】
本発明で使用される二価フェノール化合物は、下記一般式(b−1)、および/または(b−2)で表されるものである。
【0097】
【化9】

【0098】
(式中のRは、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜8のアリール基を表し、mは0〜3の整数を表す。Xは直接結合、酸素、硫黄、SO、CO、C(CH2、CH(CH)、CHを表す)。
【0099】
このような二価フェノール化合物としては、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどのジヒドロキシジフェニルスルホン類、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルなどのジヒドロキシフェニルエーテル類、およびこれらの構造異性体が挙げられるが、これらの中で、入手性や実用性、価格面から、ハイドロキノン、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノール−S)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)(ビスフェノール−A)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノール−F)、4,4’−エチリデンビスフェノール(ビスフェノール−E)、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンが好ましく、またこれら二価フェノールの化合物(B)の構造異性体を使用することもできるが、より好ましくは4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノール−S)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)(ビスフェノール−A)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノール−F)、4,4’−エチリデンビスフェノール(ビスフェノール−E)であり、特に好ましくは、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノール−S)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニルプロパン)(ビスフェノール−A)である。
【0100】
本反応で使用する二価フェノール化合物の添加量は、最終的に得ようとする両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの目標とする末端基量や目標とする分子量によるが、むしろ、これらは、二価フェノール化合物の添加量により制御することが可能となる。本反応を定量的に進行させるためには、芳香族ポリエーテルスルホン(A)1モルに対し、0.001〜2.0倍モルが好ましく、より好ましくは0.01〜1.5、さらに好ましくは0.01〜1.0倍モル、特に好ましくは0.01〜0.5倍モルである。なおここで芳香族ポリエーテルスルホン(A)のモル数は、前記式(a−1)、(a−2)で表される1つの繰り返し単位の分子量を基準に算出されるものである。
【0101】
なお、ここで、芳香族ポリエーテルスルホン(A)のモル数とは、本発明の反応で使用する芳香族ポリエーテルスルホン(A)の添加量/芳香族ポリエーテルスルホン(A)の繰り返し単位の分子量(式(a−1)、(a−2)で表される繰り返し単位の分子量)より算出されるモル数を意味する。
【0102】
二価フェノール化合物の添加量が2.0モル以上になると、得られる両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの分子量が小さくなりすぎ、ポリマーの回収・洗浄が困難となるだけでなく、酸性を示す未反応の二価フェノール化合物や二価フェノール化合物のアルカリ金属塩、あるいはアルカリ金属塩そのものがポリマー中に残存する傾向、ポリマーが着色する傾向がある。特にヒドロキシフェニル末端基導入量の増加に伴い、ポリマーの溶解性や、アルカリ金属塩との相互作用が増加するため、洗浄・回収・分離が困難となる傾向がある。一方、0.001以下では、ヒドロキシフェニル末端基を定量的に導入することが困難となる。
【0103】
本発明の反応を定量的に進行させるため、本反応の有機溶媒として、非プロトン性極性溶媒を使用する。具体的には、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N−メチル−2−ピペリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、およびこれら2種以上の混合物などが挙げられるが、特に好ましくは、ジメチルスルホキシド、DMF、NMPが挙げられる。
【0104】
なお本発明では非プロトン性極性溶媒中で本反応を実施することが重要であるが、場合によっては、非プロトン性極性溶媒以外の有機溶媒を併用することもできる。特に、原料中に含まれる微量の水分、反応中に外部から入ってくる水分、使用するアルカリ金属塩の結合水、アルカリ金属塩水溶液中、アルカリ金属塩調製時の水分などは、本発明の目的の反応、すなわち中間原料である芳香族ポリエーテルスルホン(A)と二価フェノール化合物の求核置換反応以外に、水による加水分解が進行することがある。反応系内の水分は、本発明の反応を阻害することがあることから、反応系内の水分を除去する目的で、水と共沸する溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレンから選ばれる1種または2種以上の混合物などの水共沸系溶媒を使用することもできる。
【0105】
本反応に使用される溶媒量は、芳香族ポリエーテルスルホン(A)、二価フェノール化合物を溶解させる量であれば、特に制限はないが、全モノマーの重量に対して、0.5〜20倍重量の範囲が好ましい。さらに好ましくは2〜10倍量である。
【0106】
0.5倍未満では原料となる芳香族ポリエーテルスルホン(A)、二価フェノール化合物が溶解せず、また反応時の攪拌等の操作が困難となり、均一な反応が困難となる。また溶媒量が20倍量を超えると、ポリマー濃度や二価フェノール化合物の濃度が下がり、反応速度が遅くなり、再沈殿生成、洗浄、回収が困難になる傾向が認められ、何よりも溶媒量の増加により、生産量の低下、溶媒回収コストに影響する。
【0107】
水共沸溶媒の使用量は、系内の水分を除去可能な量であれば特に制限はないが、全モノマーの重量に対して、0.01〜10倍重量の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.02〜5倍量である。
【0108】
また本発明の反応では、反応系にアルカリ金属塩を添加すると、さらに反応速度を向上させることができる。
【0109】
本発明で使用するアルカリ金属塩の金属塩の種類としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムなどが挙げられるが、特に好ましいのはカリウム、ナトリウムである。
使用されるアルカリ金属塩としては、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられ、特に水酸化物、炭酸塩がこのましい。具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、無水炭酸カリウム、無水炭酸ナトリウムなどを使用することができ、なかでも無水炭酸カリウム、無水炭酸ナトリウムなどを好ましく使用することができる。
【0110】
アルカリ金属塩の添加量は、使用する二価フェノール化合物1モルに対し、0.1〜3倍モルの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜1倍モルである。
【0111】
アルカリ金属塩の添加量が二価フェノール化合物1モルに対し、3倍モル以上では、得られるヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの分子量が小さくなりすぎ、ポリマーの回収・洗浄が困難となるだけでなく、酸性の二価フェノール化合物や二価フェノール化合物の金属塩、さらにはアルカリ金属塩自身がポリマー中に残存し、ポリマーが着色する傾向がある。また芳香族ポリエーテルスルホンの分子量が小さすぎると、芳香族ポリエーテルスルホン本来の耐熱性、機械特性などが損なわれ、アロイ用改質剤として使用した場合に、芳香族ポリエーテルスルホン本来の効果が付与できない傾向がある。一方、0.5以下では、反応性のヒドロキシフェニル末端基を導入することが困難となる。
【0112】
加熱温度は、使用する溶媒種、溶媒の沸点、反応溶液の濃度、二価フェノール化合物の添加量、アルカリ金属塩の添加量に依存するが、通常100〜250℃で実施するのが好ましく、さらに好ましくは100〜200℃である。250℃以上より高温で反応すると、二価フェノール化合物のアルカリ金属塩の熱分解、反応系内で生成したヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンそのものの熱分解が進行するため、分子量の制御やヒドロキシフェニル末端基導入量の制御が困難となり、最終的に得られる両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの熱安定性・滞留安定性の低下や、着色といった傾向が認められるようになる。一方、100℃より低い温度で本反応を行うと、反応が非常に遅くなるという問題がある。
【0113】
反応に要する時間は、二価フェノール化合物の種類・添加量、アルカリ金属塩の種類・添加量、反応濃度、反応温度により大幅に変化するが、通常は10分〜10時間の範囲であり、好ましくは30分〜5時間の範囲で実施される。反応雰囲気としては、酸素が存在しないことが好ましく、窒素もしくはその他の不活性ガス中で行うとよい結果が得られる。二価フェノール化合物のアルカリ金属塩は酸素の存在下で加熱すると酸化されやすく、目的とする反応が妨げられ、その結果、分子量制御、ヒドロキシフェニル末端基導入量の制御が困難となるほか、重合体の着色原因ともなる。
【0114】
本発明の方法により得られた粗ヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンは、反応溶液中に含まれているアルカリ金属塩を濾過あるいは遠心分離によって分離した後、あるいは濾過や遠心分離をせずに、反応溶液に貧溶媒を加えて、あるいは貧溶媒に反応溶液を加えて、析出固体として分離することができる。ヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの貧溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、アセトニトリルなどのニトリル類、水などを挙げることができる。またこれらの貧溶媒を2種以上混合して用いることができる。また上記の貧溶媒には、ポリマーが析出可能な範囲で、前記の重合反応溶媒などのポリマーの良溶媒が含有されていてもよい。析出固体を貧溶媒で洗浄後、乾燥させることによって、ヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの粉末を得ることができる。
【0115】
本発明の親水化ポリエーテルスルホンを得るためには、すなわち、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンを高含有率で得るためには、60〜100モル%のヒドロキシフェニル末端を有するように上記反応を制御すれば良く、より好ましくは70〜100モル%であり、さらには80〜100モル%が好ましく、100モル%とすることが最上である。例えば、60モル%のヒドロキシフェニル末端を有するようにした場合、両末端にヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホンが、ヒドロキシフェニル末端基を有する芳香族ポリエーテルスルホン全体の少なくとも20モル%以上を占めることになる。
【0116】
次に、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンに、ポリエーテル化合物をブロック共重合させる方法について説明する。両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンさえ得られれば、周知の反応を利用することが可能であり、例えば特許文献6に記載されているような、求核置換反応を利用することによって高収率でブロック共重合体を得ることができる。具体的には、まず、上述のようにして得た両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンに、無水炭酸カリウム、無水炭酸ナトリウムなどの適当なアルカリを作用させてヒドロキシフェニル基を活性化させる。次に、これを、予めトシル基やメシル基などの良好な脱離基を結合させたポリエーテル化合物と反応させると、求核置換反応により、芳香族ポリエーテルスルホンとポリエーテル化合物のブロック共重合体をほぼ等量的に得ることができる。ここで、60モル%のヒドロキシフェニル末端を有する芳香族ポリエーテルスルホンを用いた場合には、両末端にポリエーテル化合物をブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の少なくとも20モル%以上を占めることになる。
【0117】
ここで、本発明のヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの末端基組成は、例えば、重水素化DMF溶媒中、400MHz H−NMRを用い、積算回数100回により、7.8ppmにクロル置換された芳香族炭素に隣接する2つのプロトン(1HCl)と、6.9ppmにヒドロキシル基で置換された芳香族炭素に隣接する2つのプロトン(1HOH)が高分解能で観測できること、1H−NMRの面積比は周知の通り、そのモル数を反映していることから、ヒドロキシフェニル末端基、クロロフェニル末端基組成(モル%)は、下記式により算出することができる。
【0118】
[ヒドロキシフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HOHのピーク面積]/([1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積])×100
[クロロフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HClのピーク面積]/([1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積])×100
すなわち、ヒドロキシフェニル末端基とクロロフェニル末端基が1:1存在する場合は、ヒドロキシフェニル末端基/クロロフェニル末端基組成は、50/50モル%で表すことができる。
【0119】
そして、本発明の末端にポリエーテル化合物をブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンの末端基組成も上記と同様にH−NMRを用いて求めることができる。例えば、ポリエーテル化合物がポリエチレンオキサイドである場合には、重水素化DMF溶媒中、400MHz H−NMRを用い、積算回数100回により、7.8ppmにクロル置換された芳香族炭素に隣接する2つのプロトン(1HCl)と、6.9ppmにヒドロキシル基で置換された芳香族炭素に隣接する2つのプロトン(1HOH)と、3.6ppmにポリエチレンオキサイドのメチレン中の4つのプロトン(1HCH2)が高分解能で観測できること、1H−NMRの面積比は周知の通り、そのモル数を反映していることから、ヒドロキシフェニル末端基、クロロフェニル末端基、ポリエチレンオキサイド末端組成(モル%)は、ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数を用いて、下記式により算出することができる。
【0120】
[ヒドロキシフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HOHのピーク面積]/{[1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
[クロロフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HClのピーク面積]/{[1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
[ポリエチレンオキサイド末端組成(モル%)]=
{[1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数])}/([1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
なお、上記ポリエチレンオキサイドをブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンの末端基組成から、両末端にポリエチレンオキサイドをブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンが少なくともどの程度含まれているかを次式で求めることができる。
【0121】
[両末端にポリエチレンオキサイドをブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホン(モル%)]≧
([ポリエチレンオキサイド末端組成(モル%)]−[ヒドロキシフェニル末端基組成(モル%)]−[クロロフェニル末端基組成(モル%)])/([ヒドロキシフェニル末端基組成(モル%)]+[クロロフェニル末端基組成(モル%)]+[ポリエチレンオキサイド末端組成(モル%)])×100
すなわち、ヒドロキシフェニル末端基とクロロフェニル末端基とポリエチレンオキサイド末端が1:1:3で存在する場合は、両末端にポリエチレンオキサイドをブロック共重合した親水化ポリエーテルスルホンは、親水化ポリエーテルスルホン全体の少なくとも20モル%以上であることになる。
【0122】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0123】
実施例および比較例における測定は、次のとおり行った。また、実施例及び比較例の原料となる芳香族ポリエーテルスルホン(A)は下記のとおり作製した。
【0124】
(1)還元粘度(ηsp/c)
還元粘度は、JIS K7367−1(2002)に記載の方法で、毛細管粘度計を用い、DMF中、25℃、1g/dlの条件で測定した。
【0125】
なお還元粘度(ηsp/c)は、下記し記に基づき計算し、5回の測定値を平均化した値を使用した。
ηsp/c=(t−t)/t/c
t;重合体溶液の粘度計における標線間の通過時間(秒)
;純溶媒の粘度計の標線間の通過時間(秒)
c;重合体溶液の濃度(g/dl)
(2)数平均分子量測定
ポリマーの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。GPC測定は、検出器に株式会社島津製作所示差屈折計RID−10Aを用い、ポンプにLC−10ADvpを用い、カラムは昭和電工株式会社製GPC用カラム、Shodex KD−806Mを2本接続して行った。測定条件は、流速0.5mL/minとし、溶離液にジメチルホルムアミド(DMF)を用い、試料濃度1mg/mLの溶液を0.1mL注入した。
【0126】
(3)末端基組成の分析
400MHz H−NMR(核磁気共鳴)装置(日本電子株式会社製 AL−400)を用い、試料濃度1mg/mLの重水素化DMF溶液中、積算回数100回で測定した。
7.8ppmにクロロ基に隣接する2つのプロトン(1HCl)、6.9ppmにヒドロキシル基に隣接する2つプロトン(1HOH)、3.6ppmにポリエチレンオキサイドのメチレン中の4つのプロトン(1HCH2)が観察される。これらのピーク面積比を用い、末端基組成を下記関係式より算出した。
【0127】
[ヒドロキシフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HOHのピーク面積]/{[1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
[クロロフェニル末端基組成(モル%)]=
[1HClのピーク面積]/{[1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
[ポリエチレンオキサイド末端組成(モル%)]=
{[1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数])}/([1HOHのピーク面積]+[1HClのピーク面積]+([1HCH2のピーク面積]/(2×[ポリエチレンオキサイドの繰り返し単位の数]))}×100
(4)表面の平均孔径
分離膜や湿式不織布の表面の平均孔径は、走査型電子顕微鏡を用いて5,000及び60,000倍で写真撮影し、10個以上、好ましくは20個以上の任意の細孔の直径を測定し、数平均して求めた。細孔が円状でない場合、画像処理装置等によって、細孔が有する面積と等しい面積を有する円(等価円)を求め、等価円直径を細孔の直径とする方法により求めた。
【0128】
(5)分画分子量
分離膜の分画分子量は、6種類の分子量の異なるデキストラン(FULKA製 No.31394;分子量 約1,200、No.31388;分子量 約6,000、No.31387;分子量15,000〜20,000、No.31389;分子量 約40,000、No.31397;分子量56,000、No.31398;分子量222,000)の5,000ppm水溶液をろ過し、原水と透過水のデキストラン濃度を示差屈折率計で測定し、デキストランの分子量を横軸に、阻止率を縦軸にとってデータをプロットし、阻止率が90%となるデキストランの分子量を分画分子量とすることにより求めた。なお、阻止率は以下の式で求めた。
【0129】
阻止率(%)=[1−(透過水中のデキストラン濃度)/(原水中のデキストラン濃度)]×100
(6)初期の水透過性能
各分離膜(直径45mm)に、温度25℃で、蒸留水を操作圧力100kPaで供給し、全量ろ過を行った。このときの、単位時間(d)及び単位面積(m)当たりの透過水量(m)を測定し、初期の水透過性能(m/md)を算出した。
【0130】
(7)耐ファウリング性
耐ファウリング性は、乳製品の分離・濃縮工程を模倣するために、スキムミルクを用いて下記の方法で評価した。
【0131】
まず、スキムミルク(森永乳業製 森永スキムミルク 250g入り)を蒸留水に溶かして10wt%スキムミルク水溶液を調製した。各分離膜(直径45mm)に、温度50℃で前記10wt%スキムミルク水溶液50mLを操作圧力100kPaで供給し、全量ろ過を行った。
【0132】
次に、各分離膜を0.01N塩酸20mL中に1時間浸漬して洗浄を行った。洗浄後、(6)と同様の方法でスキムミルクろ過後の水透過性能を測定した。
【0133】
耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100(%)で表現され、数値の大きな膜ほど耐ファウリング性が高い膜となる。
【0134】
(8)耐熱安定性
まず、蒸留水を90℃に加熱・保温し、90℃熱水を調製した。各分離膜(直径45mm)を、90℃熱水1L中にそれぞれ1時間浸漬した。
【0135】
90℃熱水に浸漬後、(6)と同様の方法で90℃熱水に浸漬後の水透過性能を測定した。
耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100(%)で表現され、数値が100%に近い膜ほど90℃熱水による影響が小さい膜であり、耐熱安定性が高い膜となる。
【0136】
[参考例]芳香族ポリエーテルスルホン(A)の作製
特許文献11(特開平5−86186)に記載の本文、実施例を参考に、攪拌器、温度計、冷却器、留出物分液器および窒素導入管を備えた1Lの四口フラスコに、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(以下DHDPSと略す)(50.06g、0.20モル)、トルエン100ml、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(250.8g)、40%水酸化カリウム水溶液(56.0g、0.39モル)を秤量し、攪拌しながら窒素ガスを通じ、反応系をすべて窒素置換した。窒素ガスを通じながら130℃まで加熱した。反応系の温度が上昇するとともにトルエンの環流が開始され、反応系内の水をトルエンとの共沸で除去し、トルエンを反応系に戻しながら共沸脱水を130℃で4時間行った。
【0137】
この後、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(以下DCDPSと略す)(57.40g、0.20モル)をトルエン40gとともに反応系に加え、反応系を150℃に加熱した。トルエンを留出させながら4時間反応させ、高粘度の茶褐色の溶液を得た。反応液の温度を室温まで冷却し、反応溶液をメタノール1kgに投下し、ポリマー粉を析出させた。濾過によりポリマー粉を回収し、これに水1kgを加え、さらに1Nの塩酸を加え、スラリー溶液をpH3〜4になるまで加え、酸性にした。濾過によりポリマー粉を回収した後、ポリマー粉を水1kgで2回洗浄した。さらにメタノール1kgに洗浄し、150℃で12時間真空乾燥した。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は88.3g(収率95.0%:収率=(88.3/464.53(芳香族ポリエーテルスルホン(A)の分子量)/0.2×100より算出)、ガラス転移温度(Tg)=234℃、還元粘度は0.58、数平均分子量は78,000であった。400MHz H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=50/50(モル%)であった。
【0138】
<実施例1>
攪拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を取り付けた300mLの四口フラスコに、参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)(5g、10.7mmol(5/464.53×1000で計算))に対し、DHDPS(1.25g、4.35mmol)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 200ml、無水炭酸カリウム(0.7g、5.06mmol)を秤量し、NMP反応溶液を攪拌しながら反応温度を150℃にまで上昇させ、反応時間5時間で反応を終了し、反応溶液を500mlのメタノールに投下し、析出固体を粉砕、500mlの水で2回洗浄し、130℃で真空乾燥した。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は7.2g、収率96%(収率は回収した芳香族ポリエーテルスルホン重量/(仕込みの参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)重量+仕込みDHDPS)×100により算出)、ガラス転移温度=190℃、還元粘度(ηsp/c)は0.25、数平均分子量は35,000であった。H−NMRではクロロフェニル末端基は確認されず、ヒドロキシフェニル末端基組成が100モル%の芳香族ポリエーテルスルホンが得られた。
【0139】
攪拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を取り付けた300mLの四口フラスコに、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が100モル%の芳香族ポリエーテルスルホン(5g、10.7mmol)に対し、NMP150ml、トルエン50ml、無水炭酸カリウム(1.4g、10.1mmol)を加え、攪拌しながら窒素ガスを通じ、反応系をすべて窒素置換した。窒素ガスを通じながら120℃で4時間加熱し、反応系内の水とトルエンを共沸で除去した。反応系を90℃まで冷却し、ここにポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート(数平均分子量2、000、4.4g、22mmol)を50mLのNMPに溶解した溶液を添加し、90℃で4時間反応させた。反応溶液を、500mlのメタノールに投下し、析出固体を粉砕、500mlの水で2回洗浄し、130℃で真空乾燥した。得られたポリマー粉は微黄色粉末状で収量は7.0gであった。H−NMRから、クロロフェニル末端基やヒドロキシフェニル末端基は確認されず、ポリエチレンオキサイド末端が100モル%の親水性ポリエーテルスルホンが得られた。
【0140】
親水性ポリエーテルスルホン分離膜は、次の手法により製造した。まず、上記操作を繰り返して得られたポリエチレンオキサイド末端が100モル%の親水性ポリエーテルスルホン20gを、NMP80gに60℃で溶解してキャスト液を調製した。次に、単糸繊度0.5および1.5デシテックスのポリエステル繊維の混繊で、通気度0.7cm/cm・秒、平均孔径7μm以下の、縦30cm、横20cmの大きさの湿式不織布をガラス板上に固定し、その上に、上記キャスト液を総厚み200μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積して分離膜とした。
【0141】
得られた分離膜の性能を評価した結果、分画分子量が30,000、初期の水透過性能が0.95m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.88m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.89m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=93%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=94%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0142】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0143】
<実施例2>
DHDPS(0.5g、2.00mmol)、無水炭酸カリウム(0.28g、2.02mmol)とした以外は実施例1と同様にして、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの合成反応を行った。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は7.3g、収率97%(収率は回収した芳香族ポリエーテルスルホン重量/(仕込みの参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)重量+仕込みDHDPS)×100により算出)、ガラス転移温度=204℃、還元粘度(ηsp/c)は0.30、数平均分子量は42,000であった。H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=8/92(モル%)の芳香族ポリエーテルスルホンが得られた。
【0144】
次に、実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が92モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は微黄色粉末状で収量は7.0gであり、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=8/92モル%の組成を有する親水性ポリエーテルスルホンであった。
【0145】
そして、実施例1と同様にして親水性ポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が28,000、初期の水透過性能が0.92m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.80m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.91m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=87%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=99%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0146】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0147】
<実施例3>
DHDPS(0.27g、1.08mmol)、無水炭酸カリウム(0.15g、1.09mmol)とした以外は実施例1と同様にして、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの合成反応を行った。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は7.3g、収率97%(収率は回収した芳香族ポリエーテルスルホン重量/(仕込みの参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)重量+仕込みDHDPS)×100により算出)、ガラス転移温度=214℃、還元粘度(ηsp/c)は0.36、数平均分子量は50,000であった。H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=21/79(モル%)の芳香族ポリエーテルスルホンが得られた。
【0148】
次に、実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が79モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は微黄色粉末状で収量は6.9gであり、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=21/79モル%の組成を有する親水性ポリエーテルスルホンであった。
【0149】
そして、実施例1と同様にして親水性ポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が27,000、初期の水透過性能が0.91m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.75m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.90m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=82%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=99%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0150】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0151】
<実施例4>
DHDPS(0.1g、0.40mmol)、無水炭酸カリウム(0.06g、0.43mmol)とした以外は実施例1と同様にして、両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの合成反応を行った。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は7.3g、収率97%(収率は回収した芳香族ポリエーテルスルホン重量/(仕込みの参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)重量+仕込みDHDPS)×100により算出)、ガラス転移温度=210℃、還元粘度(ηsp/c)は0.40、数平均分子量は55,000であった。H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=48/62(モル%)の芳香族ポリエーテルスルホンが得られた。
【0152】
次に、実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が62モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は微黄色粉末状で収量は7.0gであり、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=48/62モル%の組成を有する親水性ポリエーテルスルホンであった。
【0153】
そして、実施例1と同様にして親水性ポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が25,000、初期の水透過性能が0.85m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.61m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.85m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=72%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=100%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0154】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0155】
<比較例1>
住友化学社製スミカエクセル(登録商標)3600P20gを、NMP80gに60℃で溶解してキャスト液を調製した。次に、単糸繊度0.5および1.5デシテックスのポリエステル繊維の混繊で、通気度0.7cm/cm・秒、平均孔径7μm以下の、縦30cm、横20cmの大きさの湿式不織布をガラス板上に固定し、その上に、上記キャスト液を総厚み200μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積して分離膜とした。
実施例1と同様にして性能を評価した結果、分画分子量が65,000、初期の水透過性能が0.72m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.15m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.70m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=21%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=97%であり、耐熱安定性を有するが、耐ファウリング性が低いために長期間使用することが困難な分離膜であることが分かった。
【0156】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0157】
<比較例2>
特許文献12(特開平5−163352)の方法を参考に、攪拌機、窒素導入管、温度計、冷却管を取り付けた1Lの三口フラスコに、ジフェニルスルホン(611.6g)、DCDPS(57.44g、0.20モル)、DHDPS(48.04g、0.19モル)、無水炭酸カリウム(30.40g、0.22モル)を秤量し、窒素雰囲気下、油浴上で加熱した。ジフェニルスルホンが溶解した後、反応溶液を攪拌しながら反応温度を300℃にまで上昇させ、重合を開始した。反応時間2時間で重合反応を終了し、末端封鎖剤としてDHDPS(4.00g、0.016mol)を添加した。反応溶液を1kgのアセトン/メタノール1:1混合溶媒に投下し、析出固体を粉砕、1kgの水で2回洗浄し、130℃で真空乾燥した。ガラス転移温度=210℃、還元粘度(ηsp/c)は0.33、数平均分子量は46,000であった。H−NMRから、クロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=50/50(モル%)であった。
【0158】
次に、実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が50モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=50/50モル%の組成を有するポリエーテルスルホンであった。
【0159】
そして、実施例1と同様にしてポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が24,000、初期の水透過性能が0.81m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.32m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.80m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=40%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=99%であり、耐熱安定性を有するが、耐ファウリング性が低いために長期間使用することが困難な分離膜であることが分かった。
【0160】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0161】
<比較例3>
DHDPSとDCDPSの仕込み量を変更し、DHDPS(60.06g、0.24モル)、DCDPS(57.40g、0.20モル)と、DHDPSをDCDPSに対し、1.2倍モル過剰に使用した以外は、参考例と同様にして実施した。
【0162】
得られたポリマー粉は白色粉末状であり、ガラス転移温度(Tg)=156℃、還元粘度は0.13、数平均分子量は20,000であった。400MHz H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=30/70(モル%)であった。DCDPSとDHDPの仕込みモル比をずらして直接重縮合したために、ヒドロキシフェニル末端基が増加するものの、数平均分子量の低下が顕著となり、ガラス転移温度も低い値となった。
【0163】
次に、実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が70モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=30/70モル%の組成を有するポリエーテルスルホンであった。
【0164】
そして、実施例1と同様にしてポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が90,000、初期の水透過性能が0.90m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.81m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が1.83m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=90%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=203%であり、耐ファウリング性を有するが、耐熱安定性が低いために長期間使用することが困難な分離膜であることが分かった。
【0165】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0166】
<実施例5>
まず、実施例3と同様にして両末端にヒドロキシフェニル基を有する芳香族ポリエーテルスルホンの合成反応を行った。得られたポリマー粉は白色粉末状で収量は7.3g、収率97%(収率は回収した芳香族ポリエーテルスルホン重量/(仕込みの参考例で得た芳香族ポリエーテルスルホン(A)重量+仕込みDHDPS)×100により算出)、ガラス転移温度=214℃、還元粘度(ηsp/c)は0.36、数平均分子量は50,000であった。H−NMRにより測定したクロロフェニル末端基/ヒドロキシフェニル末端基=21/79(モル%)の芳香族ポリエーテルスルホンが得られた。
【0167】
次に、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメシレート(数平均分子量5、000、4.4g、22mmol)とした以外は実施例1と同様にしてポリエチレンオキサイドと、得られたヒドロキシフェニル末端基組成が79モル%の芳香族ポリエーテルスルホンを反応させた。得られたポリマー粉は微黄色粉末状で収量は6.7gであり、H−NMRから、ヒドロキシフェニル末端基は確認されず、クロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=21/79モル%の組成を有する親水性ポリエーテルスルホンであった。
【0168】
そして、実施例1と同様にして親水性ポリエーテルスルホン分離膜を作製し、性能を評価した。その結果、分画分子量が25,000、初期の水透過性能が0.98m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.92m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.96m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=94%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=98%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0169】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0170】
<実施例6>
実施例5で得たクロロフェニル末端基/ポリエチレンオキサイド末端=21/79モル%の組成を有する親水性ポリエーテルスルホンを用いて、下記の方法で分離膜を作製した。すなわち、実施例5で得た親水性ポリエーテルスルホン5gと、比較例1で使用した住友化学社製スミカエクセル3600P15gを、NMP80gに60℃で溶解してキャスト液を調製した。次に、単糸繊度0.5および1.5デシテックスのポリエステル繊維の混繊で、通気度0.7cm/cm・秒、平均孔径7μm以下の、縦30cm、横20cmの大きさの湿式不織布をガラス板上に固定し、その上に、上記キャスト液を総厚み200μmになるようにキャストし、直ちに水に浸積して分離膜とした。
【0171】
得られた分離膜の性能を評価した結果、分画分子量が35,000、初期の水透過性能が0.775m/md、スキムミルクろ過後の水透過性能が0.67m/md、90℃熱水浸漬後の水透過性能が0.77m/mdであった。従って、耐ファウリング性は、(スキムミルクろ過後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=87%、耐熱安定性は、(90℃熱水に浸漬後の水透過性能)/(初期の水透過性能)×100=100%であり、耐ファウリング性と耐熱安定性を併せ有する分離膜であることが分かった。
【0172】
なお、結果を表1にまとめて示す。
【0173】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明の親水性ポリエーテルスルホン分離膜は、耐ファウリング性、耐熱性、化学的強度(耐薬品性)及び物理的強度が要求される用途に好適に使用され、特に耐ファウリング性と耐熱性の要求が強く要求される用途、例えば浄水処理分野や食品工業分野において好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホンセグメント(a)と、一般式(1)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b1)及び/または一般式(2)で表される構造を有するポリエーテルセグメント(b2)からなるブロック共重合体である親水化ポリエーテルスルホンを含有する分離膜において、aからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、aからなるセグメントの両末端にb2からなるセグメントが各々共重合した親水化ポリエーテルスルホン、及びaからなるセグメントの両末端にb1からなるセグメントとb2からなるセグメントが1つずつ共重合した親水化ポリエーテルスルホンが、親水化ポリエーテルスルホン全体の20モル%以上であることを特徴とする親水化ポリエーテルスルホン分離膜。
【化1】

(R1、R2は、互いに独立なHまたはアルキル基を表す。)
【化2】

(X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3、Y4は、互いに独立な自然数である。)
【請求項2】
60〜100モル%のヒドロキシフェニル末端を有し、数平均分子量が少なくとも25,000である芳香族ポリエーテルスルホン(A)に、一般式(3)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B1)及び/または一般式(4)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B2)をブロック共重合させて親水化ポリエーテルスルホンを得ることを特徴とする親水化ポリエーテルスルホン分離膜の製造方法。
【化3】

(R1、R2、R3は、互いに独立なHまたはアルキル基を表す。X、Yは、互いに独立なH、アルキル基、アミノ基、水酸基、カルボキシ基、メシルエステル、トシルエステルを表す。m、nは、互いに独立な自然数である。)
【化4】

(A、B、C、Dは、H、アルキル基、メシル基、トシル基を表す。X1、X2、X3、X4、Y1、Y2、Y3、Y4は、互いに独立な自然数である。)
【請求項3】
一般式(3)で表される構造を有するポリエーテル化合物(B1)が、ポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキサイドである請求項2記載の親水化ポリエーテルスルホン分離膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−58096(P2010−58096A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−229427(P2008−229427)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】