説明

親水性シリコーン含有試薬組成物および該組成物を担持してなる膜

【課題】血糖値の測定のような検体中の目的成分を測定するための溶血の少ない試薬組成物および該組成物を担持してなる膜を提供する。
【解決手段】血液成分を比色測定するために用いられる試薬組成物であって、(a)親水性シリコーンと、(b)該血液成分の量に応じて発色する発色試薬を含んでなる試薬組成物ならびに該試薬組成物を多孔質膜などの膜に担持させてなる比色測定用膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性シリコーン含有試薬組成物および該組成物を担持してなる膜に関するものである。詳しく述べると、例えば、血糖値の測定のような、検体中の目的成分の量を測定するための親水性シリコーン含有試薬組成物および該組成物を担持してなる膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から血糖値の測定を行なう血糖測定装置(血中成分測定装置)および該血糖測定装置と組合わせて用いる発色試薬を担持した試薬紙が知られている(特許文献1、特許文献2および特許文献3)。この血糖測定装置は、血中のグルコース量に応じて呈色する試験紙の呈色の度合いを光学的に測定(測色)して血糖値を定量化するものである。
【0003】
このような従来の血糖測定装置では、試験紙の測色は、発光素子および受光素子を備える測光部において、試験紙に光を照射してその反射光の強度を測定することにより行なわれている。
【0004】
この血糖測定装置では、試験紙に血液(検体)を供給・展開する操作を行なったのち、その試験紙を遮光状態が確保される空間へ挿入し、血糖値の測定を開始するが、操作性が劣るという欠点がある。そのため試験紙への血液の供給・展開から測定までの一連の操作を連続的、自動的に行なうことができる血糖自動測定装置に使用される試薬組成物および該組成物を担持してなる膜(試験片)の開発が望まれている。
【0005】
このような試薬組成物として、血液成分の量に応じて発色する発色試薬と界面活性剤とよりなる試薬組成物は知られている(特許文献3)。しかしながら、このような試薬組成物では、溶血を生じやすいという問題点があった。溶血を起こすと、血色素が試験紙の測定面にまで染み出し、測定波長に被って測定値を不正確にしてしまう。
【特許文献1】特開平11−183474号公報
【特許文献2】特開平2001−164030号公報
【特許文献3】WO 2004/086037 A1 パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、溶血の少ない試薬組成物および該組成物を担持してなる膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記諸目的は、下記(1)〜(12)により達成される。
【0008】
(1) 血液成分を比色測定するために用いる試薬組成物であって、(a)親水性シリコーンと、(b)該血液成分の量に応じて発色する発色試薬とを含むことを特徴とする親水性シリコーン含有試薬組成物。
【0009】
(2) 該親水性シリコーンがHLB7〜12の範囲内にある前記(1)に記載の試薬組成物。
【0010】
(3) 該親水性シリコーンがポリエーテル変性シリコーンオイルである前記(1)または(2)に記載の試薬組成物。
【0011】
(4) 該親水性シリコーン100質量部当り、前記発色試薬の量が20〜2000質量部である前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【0012】
(5) 該試薬組成物が少なくとも1種の前記親水性シリコーン以外の界面活性剤を含有してなる前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【0013】
(6) 該界面活性剤が非イオン界面活性剤である前記(5)に記載の試薬組成物。
【0014】
(7) 該非イオン界面活性剤がトライトンX−100である前記(6)に記載の試薬組成物。
【0015】
(8) 該親水性シリコーン100質量部に対する該界面活性剤の量が1〜90質量部である前記(5)〜(7)のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【0016】
(9) 前記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の試薬組成物を膜に担持させてなる血液成分を比色測定するための膜。
【0017】
(10) 該膜が多孔質膜である前記(9)に記載の膜。
【0018】
(11) 該多孔質膜がポリエーテルスルホンである前記(10)に記載の膜。
【0019】
(12) 該親水性シリコーンが、該膜に対して0.05〜15mg/cmの割合で担持されてなる前記(9)〜(11)のいずれか一つに記載の膜。
【発明の効果】
【0020】
本発明の試薬組成物は、以上述べたように、血液成分の量に応じて発色する発色試薬が親水性シリコーンとともに配合されてなるものであるから、該組成物中の親水性シリコーンの作用により使用時に血液と接触しても溶血の発生を抑えることができる。
【0021】
また、試薬組成物を多孔質膜に担持させた場合、多孔質膜自身が有する溶血作用を抑えることができる。膜への適用において溶血が抑えられれば、血色素の測定面への染み出しが抑えられ、測定値への影響を少なくすることができる。
【0022】
また、試薬組成物に親水化剤としての界面活性剤を添加すれば、親水性シリコーンの溶解性の悪さを改善することができ、測定値のバラツキを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に、ヘモグロビンの波長と、血糖計(メディセーフ:テルモ株式会社製、登録商標)に使用している発色色素(4−AA+TOOSの反応生成物)の発色波長を示すスペクトル図を示す。両スペクトルがほぼ重なっているためヘモグロビンが発生する溶血現象が問題となる。赤血球が溶血を起こすと、赤血球中に含まれる血色素ヘモグロビンが放出される。溶血が起きる要因として、化学的には界面活性剤(TritonX-100等)などによるもの、物理的には支持体である膜に染み込む際の物理的接触によるものがある。本発明で使用される親水性シリコーンは、このような溶血作用を抑える作用を有し、したがって、ヘモグロビン色の干渉を抑制し測定精度を向上させる効果を有するものであり、HLBが7〜12のものが好ましい。その構造式は、主としてつぎのとおりである。
【0024】
【化1】

【0025】
(ただし、Xは有機基であり、該有機基としては、例えば−R−(CO)(CO)R’である)。該親水性シリコーンは、25℃における粘度が、通常80〜1000程度であり、水溶性、水分散性および乳化性に優れている。
【0026】
具体的には、KF−351、KF−352、KF−353、KF−355A、KF−618、KF−6011(以上、いずれも信越シリコーン株式会社商品番号)等がある。このような親水性シリコーンを使用することにより後述するように、溶血防止効果が生じる。
【0027】
本発明で使用される発色試薬としては、グルコースオキシダーゼ(GOD)、ベルオキシダーゼ(POD)、アスコルビン酸オキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、フルクトースデヒドロゲナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、乳酸オキシダーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、ビリルビンオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼなどの酵素から選択される少なくとも1種よりなる第1の発色剤と、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMBZ)、4−アミノアンチピリン(4−AA)、3−メチル−2−ベンゾチアゾリノンヒドラゾン(MBTH)、8−アニリノ−1−ナフタレンスルホン酸(ANS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン(TOOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADPS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン(ALPS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3−メチルアニリン(TOPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メトキシアニリン(ADOS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(DAOS)、N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメトキシアニリン(HDAOS)、N−エチル−N−(3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAPS)、N−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3,5−ジメチルアニリン(MAOS)などの発色剤から選択される少なくとも1種よりなる第2の発色剤とを、適宜組合せたものが挙げられる。また、さらにリン酸緩衝液のような緩衝剤が含まれていてもよい。
【0028】
本発明の試薬組成物において、第1の発色剤と第2の発色剤との配合割合は、第1の発色剤3〜60質量%、好ましくは5〜30質量%に対して第2の発色剤3〜40質量%、好ましくは5〜20質量%である。
【0029】
該発色試薬の配合量は、親水性シリコーン100質量部当り20〜2000質量部、好ましくは200〜1000質量部であり、より好ましくは200〜500質量部である。
【0030】
また、前記のごとき試薬組成物には、親水化剤として、親水性シリコーン以外に新たに界面活性剤を配合することが好ましい。これは、界面活性剤を配合することにより、親水化が促進されるためである。これは、親水性シリコーンをポリエーテルスルホン等の膜にコートする場合、溶血現象は抑えられる反面、溶解速度の遅延により血液の浸込みが悪くなるが、親水性シリコーンに別の界面活性剤を添加することにより、その悪さを改善できるという効果があるからである(図7参照)。
【0031】
界面活性剤としては、水溶性の非イオン、カチオン、アニオンおよび両性活性剤のいずれも用いることができるか、特に非イオン界面活性剤が好ましい。
【0032】
非イオン界面活性剤としては、例えば、つぎのようなものがある。
【0033】
ポリオキシエチレン−メチルポリシロキサン共重合体、
ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体(ポリエーテル変性シリコーンオイル)、
ショ糖脂肪酸エステル、
ショ糖ステアリン酸エステル、
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、
ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(Triton X-100)、
ポリオキシエチレン(9)オクチルフェニルエーテル(NP-40)、
ポリオキシエチレン(8)オクチルフェニルエーテル(Triton X-114)、
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、
ポリオキシエチレンステアリルエーテル、
ポリオキシエチレンステアリン酸アミド、
ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル(Brij58)、
ポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(Brij35)、
ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体(Pluronic F-68)(Pluronic F-127)
ポリグリセリン脂肪酸エステル、
モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween 80)、
モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween 60)、
モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween 40)、
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween 20)、
モノステアリン酸エチレングリコール、
モノステアリン酸グリセリン、
モノステアリン酸ソルビタン、
モノステアリン酸プロピレングリコール、
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、
モノラウリン酸ポリエチレングリコール、
モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビット、
テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、
ラウリン酸ジエタノールアミド、
など。
【0034】
これらのうち、例えば、ポリオキシエチレンのアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンのソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が好ましい。
【0035】
前記界面活性剤の前記親水性シリコーンに対する配合量は、該親水性シリコーン100質量部当り1〜90質量部、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは5〜30質量部である。
【0036】
本発明による試薬組成物は、測定装置、例えば血糖自動測定装置に使用する場合には、膜に担持(含浸)させて使用することが好ましい。このような膜としては、多孔質膜が好ましい。
【0037】
このような多孔質膜の構成材料としては、例えば、ポリエステル類、ポリアミド類、ポリオレフィン類、ポリスルホン類、セルロース類、珪酸塩、フッ素系樹脂等が挙げられる。より具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ニトロセルロース、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン(例えば、登録商標「テフロン」)等が挙げられ、好ましくはポリエーテルスルホンである。
【0038】
また、上記多孔質膜の膜厚は、50〜200μm、好ましくは90〜180μm、より好ましくは110〜150μmである。上記多孔質の膜厚がこの範囲であれば、十分な膜強度が得られ、上記濾別物による影響も少なくなり、また上記検体のしみ出し時間(展開時間)が短縮され、必要な検体量も少なくて済む理由から好ましい。
【0039】
さらに、上記多孔質膜の空孔率は60〜95%、好ましくは70〜80%である。上記多孔質膜の空孔率がこの範囲であれば、上記検体および試薬を十分に担持させることができ、また十分な膜強度が得られる理由から好ましい。
【0040】
ここで、空孔率(%)は、下記式を用いて重量法により求められる。
【0041】
空孔率(%)={1−(乾燥膜重量/膜成分の比重)/膜体積}×100
式中、膜とは多孔質膜のことであり、膜成分の比重とは多孔質膜を構成するポリマーの比重である。
【0042】
このような多孔質膜の平均孔径は、0.1〜3μm、好ましくは0.5〜3.0μmである。すなわち、平均孔径がこの範囲であれば、検体の展開が速く、上記試薬を充分に担持させることができる理由から好ましい。また、赤血球の大きさは直径7.5μm、厚さ2μm程度であるが、変形能を有するための、孔径が3μmを超えると、通過してしまう可能性があるので、平均孔径の上限は3.0μmである。
【0043】
また、親水化処理として、使用する膜に対して、プラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等の処理方法を適用してもよい。
【0044】
さらに、上記多孔質膜は、上述した試薬および親水化剤以外に、所望により電解質(例えば、リン酸塩、フタル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩)、有機物(例えば、グリシン、トリスヒドロキシメチルアミノメタン)を担持していてもよい。
【0045】
このような多孔質膜からなる本発明の試験紙は、上述したように、検体の展開時間を短縮することができ、かつ、検体中の濾別物を層の表面(測定面)から離れた位置で濾別することから測定精度が高くなるため、成分測定用チップの試験紙に好適に用いることができるため有用である。
【0046】
また、本発明の試験紙の形状は、特に限定されず、円形、楕円形、正方形、長方形、菱形等の四角形、三角形、六角形、八角形等、必要に応じ選択して用いることができる。
【0047】
次に、本発明の多孔質膜について詳細に説明する。
【0048】
本発明の多孔質膜は、上述した本発明の試験紙を形成する多孔質膜に用いることができる多孔質膜である。
【0049】
本発明の試験紙を形成する多孔質膜の表面は、光沢度が11以下であることが好ましく、より好ましくは3〜10であり、さらに好ましくは3〜8である。この層の表面の光沢度が上記の範囲であれば、該層の表面が凸凹を有し、光沢および艶がない状態である。比色式の試験紙として利用した際の反射吸光度測定において、表面反射した直接光がノイズとなるので、第2の層の表面は、凸凹を有し光沢および艶がない状態であることが好ましい。
【0050】
次に、上記多孔質膜の製造方法について詳細に説明する。
【0051】
上記多孔質膜の製造方法としては、湿式製膜が好適に例示される。湿式製膜の他には、溶融製膜、乾式製膜等が知られているが、一方の表面の孔径が反対側の表面の孔径と異なる異方性膜を製造する場合、湿式製膜により製造することが好ましい。
【0052】
上記湿式製膜は、製膜原液を基材上に膜状に広げる製膜原液供給工程と、該製膜原液供給工程後の基材を凝固浴に浸漬させる凝固浴浸漬工程と、該凝固浴浸漬工程後の基材を水浴中で溶剤成分および/または水溶性添加剤成分を除去する洗浄工程と、該洗浄工程後の基材を乾燥させる乾燥工程とを具備する。
【0053】
上記製膜原液供給工程は、製膜原液を基材上に膜状に塗布する工程であり、具体的には、製膜原液を、基材の表面に、キャスト厚調整可能なアプリケータを用いて押し広げる、もしくは塗り広げる、もしくはT−ダイから吐出する工程である。
【0054】
上記製膜原液としては、膜成分となる非水溶性第1成分ポリマーと被抽出成分である水溶性第2成分とを含み、第1成分ポリマーの濃度が12〜15質量%のものが好ましい。非水溶性第1成分ポリマーと水溶性第2成分とを含んでいれば、ポリマーの凝集を抑制し、これらの成分を抽出除去したあとの空間に孔が形成され空孔率を向上させることができるため好ましい。
【0055】
上記非水溶性第1成分ポリマーとしては、具体的には、例えば、ニトロセルロース、ポリフッ化ビニリデン、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。これらのうち、ポリエーテルスルホンであることが、上述したように、血糖値測定に使用する試薬を担持する場合に試薬活性の経時的劣化が最も少ない理由から好ましい。
【0056】
上記水溶性第2成分としては、具体的には、例えば、後述する溶媒には溶解し、後述する凝固浴浸漬工程後に容易に抽出除去できるポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリアクロン酸、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース等が挙げられる。これらのうち、ポリビニルピロリドンは、ニトロセルロース、ポリビリルジフロライド、セルロースアセテート、ポリスルホン、ポリエチレン、ポリエーテルスルホンなどとは溶解せず、これらのポリマーを溶かす極性溶媒に溶解し、凝固後には水により抽出除去できるといった特性を有するため好ましい。
【0057】
第1成分ポリマーと水溶性第2成分との溶解を目的とする製膜原液の溶媒としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド等の有機極性溶媒が挙げられ、N−メチル―2−ピロリドンであることが好ましい。
【0058】
製膜原液において、上記第1成分ポリマーと上記水溶性第2成分との仕込み比は、1:1〜1:3であることが好ましい。仕込み比がこの範囲であると、小孔部からなる本発明による膜の層が、多孔質膜においうて膜厚の半分以上の部分を占め、空孔率を保ち、さらに検体のしみ出しを妨げない理由から好ましい。
【0059】
なお、上記製膜原液が基材上に塗布される時に調製されるキャスト厚は、70〜260nmであることが、得られる多孔質膜の膜厚が上述した好適範囲に収まる理由から好ましい。
【0060】
上記基材は、従来公知のものを用いることができ、上記製膜原液を塗布する面に凸凹の表面を有する基材であることが好ましい。このような基材としては、具体的には、光沢度が12以下である板ガラス、光沢度12以下のマットフィルム、ポリエチレンテレフタレート製の光沢度が12以下である艶消しフィルム(例えば、光沢度12以下のマットフィルム)をコートした板ガラス等が、得られる多孔質膜の表面に該基材の凸凹が転写されることになるため好適に例示される。ここで光沢度は、JIS Z8741に準拠する。
【0061】
上記凝固浴浸漬工程は、上記製膜原液供給工程後の基材を水を含有する凝固浴に浸漬させる工程であり、具体的には、上記製膜原液が塗布された基材を凝固浴に浸漬させて、上記第1成分ポリマーを該基材上に析出させる工程である。
【0062】
凝固浴としては、60〜85w/w%、好ましくは70〜80w/w%の上記製膜原液の溶媒を含有する水系凝固浴が好適に例示され、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンを60〜85w/w%を含有する水溶液であることが好ましい。溶媒の含有率がこの範囲であれば、上記第1成分の緩慢な凝固が実現し、多孔質構造の膜が形成される。
【0063】
また、凝固浴中の製膜原液の溶媒の濃度が60w/w%を下回ると、上述した製膜原液の溶媒の添加効果が得られず、85w/w%を越えると膜が凝固しない。
【0064】
また、上記凝固浴への基材の浸漬は、該凝固浴の温度が10〜50℃、好ましくは20〜40℃で、3〜20分間、好ましくは5〜10分間浸漬させることが好ましい。凝固浴の温度がこの範囲であれば、第1成分ポリマーの析出速度が適当となり多孔質構造の膜が形成される。また、浸漬させる時間が3分より短いと第1成分ポリマーが全て析出しないため膜が形成されず、時間が20分より長いと膜構造は変化せず生産効率が低下してしまう。
【0065】
上記洗浄工程は、上記凝固浸漬工程後の基材を水浴中で溶剤成分および/または水溶性添加剤成分を除去する工程であり、具体的には、第1成分ポリマーが析出されて形成される膜(以下、単に「第1成分ポリマーからなる膜」という)を水浴中に10〜1000分間、好ましくは15〜60分間浸漬させることで、上記溶剤成分および/または上記水溶性添加剤成分(例えば、上記溶媒、上記水溶性第2成分)等を抽出除去する工程である。
【0066】
上記乾燥工程は、上記洗浄工程後の第1成分ポリマーからなる膜を乾燥させる工程であり、具体的には、自然乾燥や電気オーブン等を用いて、30〜100℃、好ましくは40〜80℃で、1分〜24時間、好ましくは1分〜2時間乾燥させる方法が例示される。
【0067】
前記のごとき試薬組成物は、5〜50質量%、好ましくは10〜30質量%の溶液として、前記膜、特に多孔質膜の表面にスプレー法により、グラビアコート法により、あるいはドクターブレード等を用いる公知の方法により塗布される。その塗布量は、前記膜の1cm当り親水性シリコーンとして0.05〜15mg、好ましくは0.1〜10mg、より好ましくは0.5〜5mgである。
【0068】
このような溶液形成に使用される溶媒としては、水、メタノール、エタノール等がある。
【0069】
なお、1%親水性シリコーンと0.1%TritonX−100をポリエーテルスルホン膜に塗するときの試薬溶液の組成は、例えば、つぎの表のとおりである。
【0070】
【表1】

【0071】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例1
信越シリコーンから販売されている非反応性シリコーンオイル、ポリエーテル変性タイプの内、表2に示すKF−351、KF−352、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−6011の7種類について溶液系(透過光測定)、ドライ系(サンプル抽出後透過光測定)にて溶血に対する評価を行った。
【0073】
【表2】

【0074】
条件および評価方法
前記の親水性シリコーンおよび比較として界面活性剤2種(TritonX−100およびTween20)を使用し、(a)親水性シリコーンなし、(b)1%親水性シリコーン、(c)1%親水性シリコーン+1%界面活性剤、および(d)1%界面活性剤の4条件でサンプル溶液を準備し評価に用いた。
【0075】
ドライ系の溶血性試験には、各サンプル溶液をコートした膜を使用した。サンプルコート膜の作製方法は、サンプル液をポリエーテルスルホン(次下、PESという)膜にグラビア手コートした後、37℃の環境に18時間置いて乾燥させる。乾燥後のサンプルコート膜は、抽出による試験には13mm角に、反射スペクトル測定には10mm角にカットして使用した。
【0076】
(1)溶液系・透過光測定による溶血性試験試料作製手順
血液(Ht40%、血糖未調整)200μLと各サンプル溶液800μLとを合わせ、ラボミキサーにより約10秒間撹拌し、10分間インキュベートし、さらに4℃で15000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上澄液400μLに0.14Mリン酸緩衝液(pH6.2)9600μLを加え溶血性試験サンプルとした。
【0077】
(2)ドライ系抽出後透過光測定による溶血性試験サンプル作製手順
血液(Ht40%、血糖未調整)160μLを13mm角の各試薬コート膜に点着し、血液染み込み後、140mMリン酸緩衝液(pH6.2)9840μLにして洗浄し、10分間インキュベートし、さらに4℃で3000rpmの条件下で10分間遠心分離し、上澄液5mLに140mMリン酸緩衝液(pH6.2)5mLを加えて溶血性試験サンプルとした。
【0078】
溶液系・透過光測定およびドライ系抽出後透過光測定は、ヘモグロビンの最大吸収波長である542nmの吸光度を測定して行った。溶血率は、基準を同じサンプル作成法で調製した純水による吸光度を100%、140mMリン酸緩衝液(pH6.2)(溶血が起こらない)による吸光度を0%と設定して算出した。
【0079】
その結果を、図2〜5に示す。図2〜5のグラフの横軸は、各サンプル液の比水溶血率を示す。図2から明らかなように、溶液系透過光測定で、溶血性を示す物はなかった。ドライ系抽出透過光測定による溶血性試験を示す図3〜5からは、KF−351、352、353、355、615が強い溶血防止効果を持っていることが分かる。ただし、KF−354は自身に溶血性はないが、他の親水性シリコーンのような溶血防止効果は持っていなかった。溶血防止効果を有する親水性シリコーンは、表2の物性を参照すると親水親油バランス(HLB)が概ね7〜12の範囲にあり、好ましくはHLB10〜12である。
【0080】
図4は、TritonX−100を加えた場合であるが、TritonX−100が有する溶血作用も親水性シリコーンが抑制していることが分かる。また、図5では、弱い溶血防止作用を有するTween20と組合わせた場合、溶血防止作用は相加的に働いていることが分かる。
【0081】
実施例2
実施例1と同様な方法で作製したサンプルコート膜を使用して、ドライ系(反応光測定)での溶血性の評価を行なった。
【0082】
ドライ系反射光測定は、各サンプルコート膜(10mm角)にHt40%、血糖未調整血液2.0μLをピペットで点着して測定を行った。測定開始時間(0秒)は、542nmの反射光が大きく変動した時間とした。反射率は0秒以前の反射光の平均値を白レベルとし、この白レベルで測定毎の反射光を割って算出した。吸光率は1から反射率を引いたものである。
【0083】
反射率 = (任意時間でのA/D値)/(白レベル)
吸光率 = 1−(任意時間でのA/D値)/(白レベル)
図6で、親水性シリコーン7種、界面活性剤2種(TritonX−100,Tween20)を、それぞれ1%濃度の溶液で染み込ませたPES膜での溶血性を比較した結果を示す。ヘモグロビンの代表的なピークの一つである542nmでの点着から5秒後の吸光率を示しており、吸光率が小さいほどヘモグロビンの量が少ない。すなわち、溶血が起きていないことを表わしている。界面活性剤コート膜およびコートなし膜よりも親水性シリコンコート膜の方が吸光率は低く、特に、KF−351,353、355、6011の吸光率が低く、溶血現象を抑える効果があることが分かる。
【0084】
実施例3
実施例1と同様な方法で作製したサンプルコート膜を使用して、実施例2と同様な方法でドライ系(反射光測定)での溶血性評価を行ない、タイムコースを測定した。測定波長は、メディセーフ(テルモ株式会社製、登録商標)で使用されている610nmを用いた。
【0085】
使用したサンプル液は、親水性シリコーン4種(KF−351A、KF−353、KF−355、KF−6011)と、該親水性シリコーンに界面活性剤2種(TritonX−100、Tween20)を加えたもので、濃度や比率を変えている。
【0086】
図7のタイムコース図にから分かるように、5%KF−351Aをコートした膜では測定開始から立ち上がりが悪い。これは、コートされた試薬の溶解性の悪さが原因と考えられ、立ち上がりの悪さはバラツキ(CV悪化)の原因となり、測定精度を悪くする。しかしながら、0.5%TritonX−100を加えた膜で大幅に立ち上がりの悪さが解消されている。これは、TritonX−100が親水化剤として働き、コートされた試薬の溶解性が改善されたためと考えられる。
【0087】
TritonX−100とTween20との比較から、TritonX−100の方が立ち上がりの改善効果、すなわち試薬の溶解性を改善する作用が強いということが分かる。
【0088】
図8でも、親水性シリコーン3種にそれぞれTritonX−100を加えてコートした膜の方がタイムコースの立ち上がりがよく、溶解性がよくなっていることが分かる。
【0089】
実施例4
親水性シリコーン1種(KF−351A)と界面活性剤3種(TritonX−100、Tween20、PluronicF68)を様々な濃度および比率で含むサンプル液を用いて、実施例1と同様な方法で溶液系(透過光測定)およびドライ系(サンプル抽出後透過光測定)で溶血に対する評価を行なった。表3に各溶血試験におけるサンプル液組成を示す。
【0090】
【表3】

【0091】
図9に、溶液系での透過光測定における各サンプル液の比水溶血率を示す。TritonX−100は顕著な溶血性を示し、他の2つの界面活性剤(Tween20、PluronicF68)は溶血性を示さなかった。親水性シリコーン(KF−351A)は10%という高濃度でも溶血性を示さず、さらに、TritonX−100の溶血性を抑制する作用があることが分かる。親水性シリコーンとTritonX−100の比率が2:1〜5:1では若干溶血性を示しており、10:1〜20:1では全く溶血性を示していない。親水性シリコーンの量はTritonX−100の量の10倍以上が好ましいと考えられる。
【0092】
図10で、サンプルコート膜を用いたドライ系でのサンプル抽出後の透過光測定における比水溶血率を示す。親水性シリコーン単独あるいはTritonX−100の添加においても、サンプル未コート膜の溶血性を抑えていることが分かる。また、概ね親水性シリコーンの濃度が高くなるほど溶血抑制効果が強くなっていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】ヘモグロビンと発色色素の吸収波長比較のグラフである。
【図2】親水性シリコーンの溶液系での透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。
【図3】親水性シリコーンのドライ系での抽出後透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。
【図4】親水性シリコーン(TritonX−100添加)のドライ系での抽出後透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。
【図5】親水性シリコーン(Tween20添加)のドライ系での抽出後透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。
【図6】親水性シリコーンのドライ系での反射光測定における5秒後の吸光率の比較グラフである。
【図7】親水性シリコーンコート(界面活性剤添加)のドライ系での反射光測定における吸光率のタイムコース比較のグラフである。
【図8】親水性シリコーン(TritonX−100)のドライ系での反射光測定における吸光率タイムコースの比較グラフである。
【図9】親水性シリコーン(界面活性剤添加)の溶液系での透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。
【図10】親水性シリコーン(TritonX−100添加)のドライ系での抽出後透過光測定による溶血性試験結果のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液成分を比色測定するために用いる試薬組成物であって、(a)親水性シリコーンと、(b)該血液成分の量に応じて発色する発色試薬とを含むことを特徴とする親水性シリコーン含有試薬組成物。
【請求項2】
該親水性シリコーンがHLB7〜12の範囲内にある請求項1に記載の試薬組成物。
【請求項3】
該親水性シリコーンがポリエーテル変性シリコーンオイルである請求項1または2に記載の試薬組成物。
【請求項4】
該親水性シリコーン100質量部当り、前記発色試薬の量が20〜2000質量部である請求項1〜3のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【請求項5】
該試薬組成物が少なくとも1種の前記親水性シリコーン以外の界面活性剤を含有してなる請求項1〜4のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【請求項6】
該界面活性剤が非イオン界面活性剤である請求項5に記載の試薬組成物。
【請求項7】
該非イオン界面活性剤がトライトンX−100である請求項6に記載の試薬組成物。
【請求項8】
該親水性シリコーン100質量部に対する該界面活性剤の量が1〜90質量部である請求項5〜7のいずれか一つに記載の試薬組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一つに記載の試薬組成物を膜に担持させてなる血液成分を比色測定するための膜。
【請求項10】
該膜が多孔質膜である請求項9に記載の膜。
【請求項11】
該多孔質膜がポリエーテルスルホンである請求項10に記載の膜。
【請求項12】
該親水性シリコーンが、該膜に対して0.05〜15mg/cmの割合で担持されてなる請求項9〜11のいずれか一つに記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−93489(P2007−93489A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285541(P2005−285541)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】