説明

親水性シリコーン樹脂組成物及び塗装品

【課題】優れた耐候性を有し、更に汚染物質が付着しにくいとともに汚染物質が付着したとしても水により容易に洗浄され、屋外で使用される部材を塗装するために好適な親水性シリコーン樹脂組成物を提供する。
【解決手段】親水性シリコーン樹脂組成物は、重量平均分子量が200〜800の範囲にあるシリコーン樹脂と、フルオロアルキル基からなる撥水性基及びエチレンオキサイド単位で構成される親水性基を有するフッ素系オリゴマーとを含有する。前記シリコーン樹脂100質量部に対する前記フッ素系オリゴマーの含有量は1〜20質量部の範囲とする。この親水性シリコーン樹脂組成物から形成される被膜はシリコーン樹脂による高い耐候性を発揮する。被膜の表面には撥水性基と親水性基とが分布し、撥水性基によって被膜が撥油性を発揮して汚れが付着しにくくなるとともに、親水性基によって汚れを浮き上がらせて容易に除去することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に建築用外装材などの屋外で使用される部材を塗装するために好適に使用される親水性シリコーン樹脂組成物及び塗装品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築用外装材などの屋外で使用される部材の外観を長期に亘って良好な状態に維持するため、種々の手法により前記部材の耐候性や防汚性の向上が図られている。これにより建築用外装材などのメンテナンスフリー化を図っている。
【0003】
例えば特許文献1,2には、部材をフッ素系樹脂を含む被覆用組成物で被覆することで部材の表面に撥水性を付与し、汚れ物質の付着を防止することが開示されている。また特許文献3,4には、部材を親水性の被膜で被覆することで、この部材に付着した汚れ物質を雨などの流水で除去することが開示されている。
【0004】
しかし、このような上記の撥水塗装や親水塗装には、それぞれ長所と短所があり、充分な防汚性と耐候性を発揮することができない場合がある。
【0005】
例えばフッ素樹脂を用いた撥水塗装は、高い結合エネルギーによって優れた耐候性を示し、優れた非粘着性と低付着性も有し、汚染物質が付着しにくい。しかし、一旦付着した汚染物質は自然に除去されることはなく、汚れが生じた場合は外観の低下を招くことになる。また、親水性塗装の場合は水による易洗浄性に優れ、汚染物質も降雨等により除去しやすいが、樹脂組成としてはアクリル樹脂が一般的であり、耐候性に劣る。また、アクリル樹脂被膜の場合は、アクリル樹脂上に更に親水性コーティングを施すことで部材表面に親水性を付与する手法が多いが、処理工程が増加するためにトータルコストが増加するという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−268245号公報
【特許文献2】特開平06−002444号公報
【特許文献3】特開2002−234105号公報
【特許文献4】特開2000−336336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、優れた耐候性を有し、更に汚染物質が付着しにくいとともに汚染物質が付着したとしても水により容易に洗浄され、屋外で使用される部材を塗装するために好適な親水性シリコーン樹脂組成物、及びこの親水性シリコーン樹脂組成物による塗装が施された塗装品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る親水性シリコーン樹脂組成物は、重量平均分子量が200〜800の範囲にあるシリコーン樹脂と、フルオロアルキル基からなる撥水性基及びエチレンオキサイド単位で構成される親水性基を有するフッ素系オリゴマーとを含有する。前記シリコーン樹脂100質量部に対する前記フッ素系オリゴマーの含有量は1〜20質量部の範囲とする。
【0009】
本発明における重量平均分子量は、東ソー株式会社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(型番HLC8020)を用い、標準ポリスチレンで検量線を作成して、測定することができる。
【0010】
本発明では、上記親水性シリコーン樹脂組成物から形成される被膜はシリコーン樹脂による高い耐候性を発揮する。更にこの被膜の表面には撥水性基と親水性基とが分布し、撥水性基によって被膜が撥油性を発揮して汚れが付着しにくくなるとともに、親水性基によって被膜に汚れが付着した場合に被膜と汚れとの間に水が浸入しやすくなり、汚れを浮き上がらせて容易に除去することが可能となる。
【0011】
本発明に係る親水性シリコーン樹脂組成物においては、上記フッ素系オリゴマーと上記シリコーン樹脂の両方に対する反応性を有するとともに分子量が150〜800の範囲にある反応性金属化合物を、上記シリコーン樹脂100質量部に対して1〜12質量部の範囲で含有することが好ましい。
【0012】
この場合、被膜中で反応性金属化合物を介してフッ素系オリゴマーとシリコーン樹脂とが結合してフッ素系オリゴマーが被膜を構成する樹脂マトリクス中に固定され、フッ素系オリゴマーの被膜からの流出が抑制されて、フッ素系オリゴマーによる被膜表面の親水性と撥油性が長期に亘って維持される。
【0013】
上記反応性金属化合物は、下記構造式(2)に示す構造を有することが好ましい。
【0014】
Si(OR34 …(2)
(R3は一価の炭化水素基を示す)
この場合、反応性金属化合物とフッ素系オリゴマーの親水性基とが高い反応性で反応して結合するとともに、この反応性金属化合物とシリコーン樹脂のアルコキシ基とも高い反応性で反応して結合し、フッ素系オリゴマーの被膜からの流出が著しく抑制されるようになる。また、このような反応性金属化合物を用いても組成物の高い安定性が維持される。
【0015】
また、本発明に係る親水性シリコーン樹脂組成物においては、上記フッ素系オリゴマー中における親水性基と撥水性基との前者対後者のモル比が50:50〜95:5の範囲であることが好ましい。
【0016】
この場合、被膜表面の親水性基の量が充分に確保されて被膜表面が水による易洗浄性を充分に発揮するとともに、被膜表面の撥水性基の量が充分に確保されてフッ素系オリゴマーの被膜中への沈み込みが抑制されることで被膜の表面近傍におけるフッ素系オリゴマーの分布量が充分に確保され、被膜表面が親水性及び撥油性を充分に発揮するようになる。
【0017】
本発明に係る塗装品は、上記親水性シリコーン樹脂組成物から形成された塗装被膜を備えることを特徴とする。
【0018】
このため、この親水性シリコーン樹脂組成物から形成される被膜はシリコーン樹脂硬化物による高い耐候性を発揮する。更にこの被膜の表面には撥水性基と親水性基とが分布し、撥水性基によって被膜が撥油性を発揮して汚れが付着しにくくなるとともに、親水性基によって被膜に汚れが付着した場合に被膜と汚れとの間に水が浸入しやすくなり、汚れを浮き上がらせて容易に除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、親水性シリコーン樹脂組成物から形成される被膜は優れた耐候性を有し、更に汚染物質が付着しにくいとともに汚染物質が付着したとしても水により容易に洗浄され、特に屋外で使用される部材を塗装するために好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施形態に係る親水性シリコーン樹脂組成物(以下、組成物ともいう)は、シリコーン樹脂とフッ素系オリゴマーとを必須成分として含有する。
【0021】
上記シリコーン樹脂は、例えば下記構造式(1)で示されるオルガノアルコキシシラン及びその加水分解縮合物(オリゴマー)から選択される少なくとも一種で構成される。
【0022】
Si(OR1n(R24-n …(1)
構造式(1)中のR1は一価の炭化水素基を示し、R1が複数ある場合は互いに同一であっても異種であってもよい。構造式(1)中のR2も一価の炭化水素基を示し、R2が複数ある場合は互いに同一であっても異種であってもよい。この一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。上記アルキル基のうち、炭素数3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。特にR1はメチル基、エチル基又はフェニル基であることが好ましく、R2は炭素数1〜8のアルキル基が好ましい。また構造式(1)中のnは1〜3の整数を示す。このシリコーン樹脂は一種のみを使用しても、複数種を併用してもよい。
【0023】
このシリコーン樹脂は、重量平均分子量が200〜800の範囲にある必要がある。シリコーン樹脂の重量平均分子量がこの範囲にあることで、親水性シリコーン樹脂組成物が低温成膜性を発揮するようにし、常温でも被膜を形成することができるようになる。
【0024】
オルガノアルコキシシランやその加水分解縮重合物を加水分解縮重合することでシリコーン樹脂を調製する場合に必要とされる水の量は、シリコーン樹脂の組成に応じて適宜調整され、特に限定はされない。また、加水分解縮合反応時には、反応を促進するための酸性触媒等の触媒を使用することも好ましい。この酸性触媒としては特に限定はされないが、例えば、酢酸、クロロ酢酸、クエン酸、安息香酸、ジメチルマロン酸、蟻酸、プロピオン酸、グルタール酸、グリコール酸、マレイン酸、マロン酸、トルエンスルホン酸、シュウ酸などの有機酸、塩酸、硝酸、ハロゲン化シラン等の無機酸、酸性コロイダルシリカ、酸性チタンゾル等の酸性ゾル状フィラー等が挙げられる。これらの酸性触媒は一種のみを用いても、二種以上を併用してもよい。
【0025】
なかでも、上記構造式(1)で示されるオルガノアルコキシシラン及びその加水分解縮合物(オリゴマー)を、有機溶媒を分散媒とするコロイダルシリカ中で部分加水分解して得られるオルガノシランのシリカ分散オリゴマー溶液に硬化触媒を加えて調製されるA液に対して、分子中にシラノール基を有するポリオルガノシランを含有するB液を配合して得られるシリコーン樹脂を用いることが好ましい。このようにコロイダルシリカを含むと、シリコーン樹脂硬化時にコロイダルシリカが架橋点として作用し構成成分の一部となる。B液中の「シラノール基を有するポリオルガノシラン」は平均組成式R4dSi(OH)e(4-d-e)/2(R4は置換若しくは非置換の炭素数1〜8の1価の炭化水素基。d及びeはそれぞれ0.2≦d≦2.0、0.0001≦e≦3、d+e=4を満たす数。)で表される。
【0026】
また、加水分解縮合反応時には、適宜の溶媒を使用してもよい。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール等の低級脂肪族アルコール類、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコール誘導体等の親水性有機溶媒が挙げられ、また、これら親水性有機溶媒と併用して、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトオキシム等が使用できる。
【0027】
フッ素系オリゴマーは、その分子構造中に、フルオロアルキル基からなる撥水性基と、エチレンオキサイド単位で構成される親水性基とを有する。
【0028】
フルオロアルキル基からなる撥水性基としては、下記式(a)で表される撥水性基が挙げられる。
【0029】
CF3−(CF2n− …(a)
この式(a)中のnは1〜20の範囲の整数が好ましい。この場合、フッ素系オリゴマーにより被膜に充分な撥水性を付与するとともにフッ素系オリゴマーと他の成分との良好な相溶性を確保してフッ素系オリゴマーの組成物中での良好な分散性を確保することができる。
【0030】
また、エチレンオキサイド単位で構成される親水性基としては、下記式(b)で表される親水性基が挙げられる。
【0031】
R−(O−CH2−CH2m− …(b)
この式(b)中のRはCH3又はHを示す。特に式(b)中のRがHであれば、CH3の場合よりも親水性に優れ、水による易洗浄性が更に高くなる。また、式(b)中のmの値は1〜100の範囲の整数が好ましい。この場合、フッ素系オリゴマーにより被膜に充分な親水性を付与するとともに組成物中でのフッ素系オリゴマーのゲル化を抑制することができる。
【0032】
また、このフッ素系オリゴマーは、アクリロイル基、アルコキシシリル基等の結合性ユニットや、ジメチルシロキサン鎖等の滑り性付与ユニットを有していてもよい。
【0033】
このようなフッ素系オリゴマーとしては、適宜の構造のものを使用することができるが、例えば下記式(A)で示される構成単位と、下記式(B)で示される構成単位とで構成される共重合体が挙げられる。
【0034】
【化1】

ここで、式(A)中のRfは撥水性基を示し、R1はH又はCH3を示す。また、式(B)中のEOは親水性基を示し、R2はH又はCH3を示す。
【0035】
このようなフッ素系オリゴマーは適宜の単量体を共重合して定法により合成することができる。
【0036】
例えば式(B)で示される構成単位を得るための単量体としてはHO(C24O)4(C36O)8(C24O)4COCH=CH2、HO(C24O)4(C36O)8(C24O)4COC(CH3)=CH2、HO(C24O)10(C36O)20(C24O)10COCH=CH2、HO(C24O)10(C36O)20(C24O)10COC(CH3)=CH2、HO(C24O)20(C36O)40(C24O)20COCH=CH2、HO(C24O)20(C36O)40(C24O)20COC(CH3)=CH2、CH2=CHCOO(C24O)4(C36O)8(C24O)4COCH=CH2、CH2=C(CH3)COO(C24O)4(C36O)8(C24O)4COC(CH3)=CH2、CH2=CHCOO(C24O)10(C36O)20(C24O)10COCH=CH2、CH2=C(CH3)COO(C24O)10(C36O)20(C24O)10COC(CH3)=CH2、CH2=CHCOO(C24O)20(C36O)40(C24O)20COCH=CH2、CH2=C(CH3)COO(C24O)20(C36O)40(C24O)20COC(CH3)=CH2等が挙げられる。
【0037】
また、式(A)で示される構成単位を得るための単量体としてはC817CH2CH2OCOCH=CH2、C817CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C1021CH2CH2OCOCH=CH2、C1021CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C1225CH2CH2OCOCH=CH2、C1225CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C613CH2CH2OCOCH=CH2、C613CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C817CH2CH2CH2OCOCH=CH2、C817CH2CH2CH2OCOC(CH3)=CH2、C817CH2CH2CH(CH3)OCOCH=CH2、C817CH2CH2CH(CH3)OCOC(CH3)=CH2、C49CH2CH2OCOCH=CH2、C49CH2CH2OCOC(CH3)=CH2等が挙げられる。
【0038】
また、このフッ素系オリゴマーの、ポリメチルメタクリレート換算の重量平均分子量Mwは、1000〜100000の範囲が好ましく、3000〜100000の範囲であれば更に好ましい。この場合、フッ素系オリゴマーによって組成物の表面張力を充分に低下させ、組成物を均一に成膜することが容易になるとともに、組成物中のフッ素系オリゴマーと他の成分との充分な相溶性を確保することができる。
【0039】
また、このようなフッ素系オリゴマーにおける撥水性基と親水性基との、前者対後者のモル比(Rf:EO)は、50:50〜5:95の範囲であることが好ましい。この場合、被膜表面の親水性基の量が充分に確保されて被膜表面が水による易洗浄性を充分に発揮するようになる。また、被膜表面の撥水性基の量も充分に確保されることで、フッ素系オリゴマーの被膜中への沈み込みが抑制され、これにより被膜の表面近傍におけるフッ素系オリゴマーの分布量が充分に確保されて、被膜表面が親水性及び撥油性を充分に発揮するようになる。このことから、被膜における汚れの低付着性や易洗浄性が更に向上する。また、Rf:EOが30:70〜10:90の範囲であれば、前記汚れの低付着性や易洗浄性が特に向上するようになる。
【0040】
このフッ素系オリゴマーの組成物中の含有量は、組成物中のシリコーン樹脂100質量部に対して、1〜20質量部の範囲である必要がある。この範囲において、被膜に充分な強度が付与されるとともに、被膜が高い易洗浄性を発揮するようになる。具体的には、前記含有量が1質量部に満たないと被膜が充分な易洗浄性を発揮せず、過剰に親水成分が膜中にあると屋外使用の場合に雨水などによって白化する可能性がある。またこの含有量が20質量部を超えると被膜に充分な強度が付与されなくなる。
【0041】
また、組成物中には反応性金属化合物が含有されていることが好ましい。この反応性金属化合物は、シリコーン樹脂との反応性を有するとともに、フッ素系オリゴマーとも反応性を有する。この場合、被膜形成時に反応性金属化合物がフッ素系オリゴマーと反応して結合するとともにシリコーン樹脂とも反応して結合することで、被膜中で反応性金属化合物を介してフッ素系オリゴマーとシリコーン樹脂とが結合し、フッ素系オリゴマーが被膜を構成する樹脂マトリクス中に固定されるようになる。このため、フッ素系オリゴマーの被膜からの流出が抑制されて、フッ素系オリゴマーによる被膜表面の親水性と撥油性が長期に亘って維持される。
【0042】
この反応性金属化合物の重量平均分子量は150〜800の範囲にあることが好ましい。重量平均分子量があまりにも大きくなると反応性金属化合物の官能基などが嵩高くなってしまって、反応性金属化合物の反応性が低下し、結合に関与しなくなる分子が生じるおそれがある。またその結果、親水性シリコーン樹脂組成物から形成される被膜中における未反応物の残存量が多くなってしまい、未反応物の乾燥による除去がより困難になってしまう。このように未反応のアルコキシシラン等が被膜中に多量に残存していると、被膜の耐水白化や耐薬品性の低下の原因になる。また組成物中の反応性金属化合物の含有量はシリコーン樹脂100質量部に対して1〜12質量部の範囲であることが好ましい。反応性金属化合物の含有量があまりにも多い場合は、親水性シリコーン樹脂組成物のコーティング時に被膜にヨリが発生してしまって、フラットな被膜を形成することが容易ではなくなってしまう。また、反応性金属化合物の含有量があまりにも少ない場合は、反応性金属化合物が前述のようなフッ素系オリゴマーとシリコーン樹脂とを結合させる作用を充分に発揮することが困難になる。
【0043】
反応性金属化合物としては適宜の化合物を使用し得るが、特に下記構造式(2)に示す構造を有するテトラアルコキシシランを使用することが好ましい。
【0044】
Si(OR34 …(2)
構造式(2)中のR3は一価の炭化水素基を示し、四つのR3は互いに同一であっても異種であってもよい。この一価の炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等のアルキル基が挙げられる。上記アルキル基のうち、炭素数3以上のものについては、n−プロピル基、n−ブチル基のように直鎖状のものであってもよいし、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基等のように分岐を有するものであってもよい。また、R3は特にエチル基であることが好ましい。この構造式(2)で示されるテトラアルコキシシランは一種のみを使用しても、複数種を併用してもよい。
【0045】
このようなテトラアルコキシシランはフッ素系オリゴマーの親水性基と高い反応性で反応して結合するとともに、シリコーン樹脂のアルコキシ基とも高い反応性で反応して結合し、フッ素系オリゴマーの被膜からの流出が著しく抑制されるようになる。また、このような反応性金属化合物を用いても組成物の高い安定性が維持されるようになる。
【0046】
このような組成物をカーテンコータ、ロールコータ等の適宜の手法により適宜の部材、好適には建築用外装材などの屋外で使用される部材の表面に塗布した後、硬化成膜して、被膜を形成することができる。組成物は加熱処理により硬化成膜することができ、このときの加熱条件は適宜設定されるが、常温(1週間)〜130℃(1時間)の範囲であることが好ましい。組成物を常温よりも低温で硬化すると硬化に時間がかかってしまい、また130℃よりも高温で硬化すると特に親水性基がOH基の場合、被膜から親水性が消失するおそれがある。尚、加熱温度が130℃でも、長時間乾燥させると被膜から親水性が消失するおそれがあるため、加熱温度が130℃の場合の加熱時間は短時間とすることが好ましい。
【0047】
このように部材の表面に形成された被膜では、この被膜の表面に撥水性基と親水性基とが分布する。この被膜は撥水性基の表面エネルギーが低いため撥油性を発揮し、汚れが付着しにくくなる。また、親水性基が存在するため、被膜に汚れが付着した場合には被膜と汚れとの間に水が浸入しやすくなり、汚れを浮き上がらせて容易に除去することが可能となる。このように撥水性基と親水性基との作用によって、汚れの低付着性と水による易洗浄性とを実現することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の具体的な実施例を示すことで本発明を更に詳述する。
【0049】
(実施例1)
パナソニック電工株式会社製の品番N−A100のA液100gとB液240gとを混合して反応させるとともにその反応時間を調整して、固形分35質量%、重量平均分子量600のシリコーン樹脂を調製した。
【0050】
上記A液及びB液は、次のようにして調製した。
【0051】
攪拌機、加温ジャケット、コンデンサーおよび温度計を取付けたフラスコ中に、メタノール分散コロイダルシリカゾルMT−ST(粒子径10〜20mμ、固形分30%、水分0.5%、日産化学工業社製)100質量部、メチルトリメトキシシラン(100モル%)68質量部および水10.8質量部(加水分解性基1モルに対する水のモル数0.4)を投入し、攪拌しながら65℃の温度で約5時間かけて部分加水分解反応を行った後、冷却することにより、(A)成分を得た。この(A)成分は、室温で48時間放置したときの固形分が36質量%、シリカ分含有量は47.3質量%である。
【0052】
この(A)成分に硬化触媒(ジブチル錫ジラウレート、N−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン)を加えて、A液を調製した。
【0053】
また、攪拌機、加温ジャケット、コンデンサー、滴下ロートおよび温度計を取付けたフラスコに水1000質量部、アセトン50質量部を計り取り、その混合溶液中に、メチルトリクロロシラン59.7質量部(0.4モル)、ジメチルジクロロシラン51.6質量部(0.4モル)、フェニルトリクロロシラン42.3質量部(0.2モル)をトルエン200質量部に溶解したものを攪拌下で滴下しながら加水分解した。滴下終了から40分後に攪拌を止め、反応液を分液ロートに移し入れて静置した。すると、二層に分離した。これらの層のうちの、下層の塩酸水を分液除去し、後に残った上層のポリオルガノシロキサンのトルエン溶液を減圧ストリッピングにかけ、この溶液中に残存している水と塩酸を過剰のトルエンとともに留去して除去することにより、B液(シラノール基含有ポリオルガノシロキサンのトルエン60%溶液)を得た。
【0054】
このシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)59gとを攪拌混合し、組成物を調製した。
【0055】
この組成物を、平面視10cm×15cmの寸法のガラス板の表面にバーコータを用いて塗布した後、室温の大気雰囲気下で30分間セッティングし、更に120℃で30分間温風乾燥をおこない、厚み5μmの被膜を形成した。
【0056】
(実施例2)
実施例1と同一のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)59gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同一のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが37:63であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−383」、固形分100%)11.9gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gとを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0058】
(実施例4)
実施例1と同一のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが67:33であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンKH−40」、固形分100%)11.9gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0059】
(実施例5)
実施例1と同一のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)178gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0060】
(実施例6)
実施例1におけるA液の調製時に加水分解時間を短くすることによって得られた溶液100gと、実施例1におけるB液240gとを混合し、固形分35質量%、重量平均分子量260のシリコーン樹脂を調製した以外は実施例1と同様に被膜を形成した。
【0061】
(実施例7)
実施例1におけるA液の調製時に加水分解時間を長くし、反応温度を上げることによって得られた溶液100gと、実施例1におけるB液240gとを混合し、固形分35質量%、重量平均分子量750のシリコーン樹脂を調製した。
【0062】
(比較例1)
フッ素系オリゴマーを配合せず、実施例1と同一のシリコーン樹脂と、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0063】
(比較例2)
実施例1と同一のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基を有さず、上記式(b)で示される親水性基を分子中に有するビス(2−ヒドロキシエチル)アルキルアミン(ライオン株式会社製、エソミンC/12)11.9gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0064】
(比較例3)
メチルトリメトキシシラン30gと、実施例1におけるB液240gのみとを混合し、分子量が200未満のシリコーン樹脂を調製した。
【0065】
このシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)59.5gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9とを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0066】
(比較例4)
実施例1におけるB液280gのみからなる分子量2000のシリコーン樹脂と、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)59gと、反応性金属化合物としてテトラエトキシシラン11.9gを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0067】
(比較例5)
アクリル樹脂(三井化学株式会社製、「アルマテックスL1043」、固形分40%)200gと、上記式(a)で示される撥水性基と上記式(b)で示される親水性基とを分子中に複数有し、式(b)中のRがHであり、且つRf:EOが15:85であるフッ素系オリゴマー(AGCセイミケミカル株式会社製「サーフロンS−385」、固形分20%)40gとを攪拌混合することで、組成物を調製した。この組成物を用い、実施例1と同じ手法で厚み5μmの被膜を形成した。
【0068】
(評価試験)
各実施例及び比較例について下記の評価試験をおこなった。その結果は下記表1に示す。
【0069】
・成膜性
各実施例及び比較例で調製された組成物を#20のバーコータを用いてガラス基材上に塗布、乾燥して被膜を形成し、この被膜を外観を目視で観察し、以下のように評価した。
○:外観異常なし。
×:ヨリ等の発生。
【0070】
・塗膜硬度
各実施例及び比較例で形成された被膜の塗膜硬度(鉛筆硬度)をJIS K 5600−5−4に従って測定した。
【0071】
・親水性試験
接触角測定装置(協和界面科学株式会社製、型式CW−A)を用い、各実施例及び比較例で形成された被膜表面での蒸留水の接触角を測定した。
【0072】
・水濡れ性試験
各実施例及び比較例で形成された被膜の表面にイオン交換水をエアスプレーにて3秒間吹きつけ、10秒間静置した後、被膜の表面におけるイオン交換水の付着した様子を目視で観察し、下記のように評価した。
○:被膜の全面が濡れている。
△:被膜の表面にクレータ状のハジキが生じている。
×:濡れが広がらず、水滴が形成されている。
【0073】
・耐候性試験
各実施例及び比較例で形成された被膜について、岩崎電気株式会社製の「アイ スーパーUVテスター」を用いた耐候性試験をおこなった。試験時間は1500時間とした。試験後に目視にて被膜の変色、割れ、剥がれを確認し、下記のように評価した。
○:被膜に外観変化なし。
×:被膜に変色、割れ、剥がれが確認される。
【0074】
【表1】

上記結果によれば、実施例1〜8では組成物の成膜性がよく、塗膜硬度が高く、また被膜が一定以上の親水性を有し、更に水濡性、耐候性も良好であった。また、反応性金属化合物であるテトラエトキシシランの配合の有無以外は同一組成を有する実施例1と実施例2とを較べると、テトラエトキシシランが配合された実施例2の方が、水の接触角が低くなり、親水性がより向上した。
【0075】
これに対して、比較例1,2は水濡性が悪く、比較例5では塗膜硬度が低い上に、耐候性が低かった。また比較例3では被膜の成膜不良が生じ、比較例4では低温成膜条件では十分に成膜されず、いずれも成膜性が悪かったため、被膜の評価をすることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が200〜800の範囲にあるシリコーン樹脂と、
フルオロアルキル基からなる撥水性基及びエチレンオキサイド単位で構成される親水性基を有するフッ素系オリゴマーとを含有し、
前記シリコーン樹脂100質量部に対する前記フッ素系オリゴマーの含有量が1〜20質量部の範囲であることを特徴とする親水性シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
上記フッ素系オリゴマーと上記シリコーン樹脂の両方に対する反応性を有するとともに重量平均分子量が150〜800の範囲にある反応性金属化合物を、上記シリコーン樹脂100質量部に対して1〜12質量部の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載の親水性シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
上記反応性金属化合物が下記構造式(2)に示す構造を有することを特徴とする請求項2に記載の親水性シリコーン樹脂組成物。
Si(OR34 …(2)
(R3は一価の炭化水素基を示す)
【請求項4】
上記フッ素系オリゴマー中における親水性基と撥水性基との前者対後者のモル比が50:50〜95:5の範囲であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の親水性シリコーン樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の親水性シリコーン樹脂組成物から形成された塗装被膜を備えることを特徴とする塗装品。

【公開番号】特開2010−229270(P2010−229270A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77702(P2009−77702)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】