角層の評価方法
【課題】本発明は、角層の細胞間脂質の秩序度や流動性の測定精度及び解析精度を向上させることが可能な角層の評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】角層の評価方法は、接着剤3を付着させた支持体1を用いて、皮膚0から角層2を剥離する工程、角層2が接着した支持体1を所定の条件下で所定時間放置する工程、支持体1上に接着した角層2をスピンプローブ剤で処理する工程及びスピンプローブ剤で処理した角層2が接着した支持体1を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、スピンプローブ剤で処理する際に、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする。
【解決手段】角層の評価方法は、接着剤3を付着させた支持体1を用いて、皮膚0から角層2を剥離する工程、角層2が接着した支持体1を所定の条件下で所定時間放置する工程、支持体1上に接着した角層2をスピンプローブ剤で処理する工程及びスピンプローブ剤で処理した角層2が接着した支持体1を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、スピンプローブ剤で処理する際に、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さが約10〜20μmであって、皮膚最外層の組織である角層は、生体内に必須な水を保持し、生体外から有害物質の侵入を防ぐ皮膚のバリアー機能の主体である。中でも、セラミド、コレステロール、脂肪酸から形成される細胞間脂質は、バリアー機構に重要な働きをしていると考えられている。細胞間脂質の構造を解析する方法としては、熱量測定(DSC)法、X線回折法、赤外吸収法等が知られている。これらの方法を用いると、細胞間脂質の状態をおおよそ把握することができるものの、バリアー性と関連付けて解析することができない。
【0003】
そこで、角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理することによって、角層の細胞間脂質の構造を評価することが可能な電子スピン共鳴(ESR)が注目されている。ESRを用いて測定される角層の細胞間脂質の流動性は、秩序度Sとして表される(非特許文献1参照)。しかしながら、ex vivoのESRスペクトルから幾何学的手法を用いて得られる秩序度Sは、角層を界面活性剤で処理した場合でも変化量が微小であり、データのバラツキも大きい。
【0004】
これに対して、皮膚角層のESRスペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析することにより得られる秩序度S0は、細胞間脂質の流動性の微妙な変化を検出することが可能であることが報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、角層の細胞間脂質の秩序度S及びS0の測定精度の更なる向上が求められている。
【0005】
一方、皮膚刺激性試験、経皮吸収試験、皮膚基礎科学研究等で用いられるウサギ、モルモット等の試験動物を代替する評価キットとして、培養皮膚(表皮)モデルが知られている(非特許文献3参照)。このような培養皮膚(表皮)モデルの皮膚(表皮)組織の構造を評価する方法としては、H&E染色や免疫染色を用いる光学顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡観察等が知られている(非特許文献4参照)。しかしながら、皮膚(表皮)組織の角層の細胞間脂質の状態をバリアー性と関連付けて解析することができない。
【非特許文献1】Int.J.Pharm.,197:193−202,2000
【非特許文献2】SPECTROCHIMICA ACTA PART A 63 816−820,2006
【非特許文献3】FRAGRANCE JOURNAL,56−60,2006−1
【非特許文献4】Arch Dermatol Res 285:466−474,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、角層の細胞間脂質の秩序度や流動性の測定精度及び解析精度を向上させることが可能な角層の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、角層の評価方法において、支持体に角層を付着させる工程と、該支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、該スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、該スピンプローブ剤で処理する際に、該スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の角層の評価方法において、前記支持体に角層を付着させる工程は、接着剤を付着させた前記支持体を用いて、角層を剥離する工程と、該剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の角層の評価方法において、前記接着剤は、シアノアクリレートを含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記スピンプローブ剤は、炭素数が8以上25以下の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記水溶性溶媒は、炭素数が1以上4以下であり、水酸基数が1以上3以下であるアルコール類を含有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層の細胞間脂質の秩序度を求める工程をさらに有することを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析する工程をさらに有することを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層中の皮脂を検出する工程をさらに有することを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記角層は、培養により形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の角層の評価方法において、前記培養時に薬剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、角層の細胞間脂質の秩序度や流動性の測定精度及び解析精度を向上させることが可能な角層の評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0020】
本発明の角層の評価方法は、支持体に角層を付着させる工程と、支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いて、支持体に付着した角層を処理する。
【0021】
スピンプローブ剤は、角層の細胞間脂質又は角層と共存する脂質中に導入してその状態を判定するために、脂質と類似した構造を有することが好ましく、例えば、細胞間脂質、皮脂に含まれる脂質、化粧品あるいは外用剤として用いられる成分としての脂質に類似した構造を有するスピンプローブ剤が挙げられる。中でも、炭素数が8〜25の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体が好ましい。さらに好ましくは、炭素数が10〜18、特に炭素数が18の長鎖脂肪酸が適している。具体的には、1−ドキシルステアリン酸、2−ドキシルステアリン酸、3−ドキシルステアリン酸、4−ドキシルステアリン酸、5−ドキシルステアリン酸、6−ドキシルステアリン酸、7−ドキシルステアリン酸、8−ドキシルステアリン酸、9−ドキシルステアリン酸、10−ドキシルステアリン酸、11−ドキシルステアリン酸、12−ドキシルステアリン酸、13−ドキシルステアリン酸、14−ドキシルステアリン酸、15−ドキシルステアリン酸、16−ドキシルステアリン酸、17−ドキシルステアリン酸、18−ドキシルステアリン酸等が挙げられ、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることが好ましい。中でも、ESRを測定する際に、不純物からのバックグラウンド信号が発生しないように、石英ガラス等の高純度の非磁性材料を用いることが特に好ましい。また、支持体の形状は、角層を接着することができる形状であれば、特に限定されないが、平板状であることが好ましい。これにより、角層の細胞間脂質のESRを測定する際に、角層の方向が揃いやすくなり、測定精度を向上させることができる。また、支持体の大きさは、ESR測定装置の空洞共振器内に挿入することができれば、特に限定されない。
【0023】
本発明において、支持体に角層を付着させる工程は、接着剤を付着させた支持体を用いて、角層を剥離する工程と、剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程から構成することができる。
【0024】
接着剤は、ESRを測定する際に、バックグラウンド信号が発生しないことが好ましい。また、支持体上に付着した角層の量が少ないと、ESRの測定精度が低下することがあるため、接着剤は、接着力が大きいことが好ましい。このような接着剤の具体例としては、シアノアクリレート系接着剤、ベンゾールガム系接着剤、エポキシ系接着剤、エマルジョン系接着剤等が挙げられる。中でも、ESRの測定精度を向上させることができることから、シアノアクリレート系接着剤が好ましい。
【0025】
シアノアクリレートは、一般式
CH2=C(CN)COOR
で示され、一般に、瞬間接着剤として、用いられているが、水を触媒として重合するため、角層を皮膚から剥離するために用いることができる。なお、上記一般式における官能基Rの具体例としては、メチル基、エチル基、2−メトキシエチル基、n−ブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0026】
図1に、皮膚から角層を剥離する方法を示す。図1に示す方法では、支持体1に接着剤3を付着させた後に、支持体1の接着剤3を付着させた面をヒトの皮膚0に接触させる(図1(a)参照)ことにより、角層2を非破壊的(非侵襲的)に支持体1上に固定することができる(図1(b)参照)。また、ESRを測定する際に、磁場に対する角層の設置方向を所定の方向に設定することができる。
【0027】
本発明において、角層が付着した支持体を放置することにより、接着剤が硬化し、接着剤由来のバックグラウンド信号の発生を抑制することができ、ESRの測定精度を向上させることができる。放置条件及び放置時間は、特に限定されないが、常温常湿で10〜14日間であることが好ましい。常温常湿とは一般の実験室における条件であり通常10〜30℃、10〜80%RHであり、好ましくは、15〜27℃、30〜60%RHである。40℃を超えた高温で長期に放置すると、脂質の酸化、蛋白質の変性等が起きるために、正しい評価ができなくなることがある。
【0028】
図2に、5−ドキシルステアリン酸を添加したシアノアクリレートのESRスペクトルの経時変化を示す。なお、図2(a)〜(g)は、それぞれ常温常湿で30分、1時間、3時間、5時間、3日間、7日間及び10日間で放置したことを表す。図2から、放置時間が短いと、硬化が不十分であるため、シアノアクリレート由来のピークが検出されるが、10日間放置すると、このピークがほぼ消失することがわかる。
【0029】
本発明においては、支持体上に付着した角層をスピンプローブ剤で処理する際に、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を角層に添加することにより、図3(a)に示すESRスペクトルが得られ、図3(b)に示すスピンプローブ剤を直接水に溶解させて用いる場合と比較して、ESRの測定精度を向上させることができる。なお、水溶性溶媒に対するスピンプローブ剤の重量比は、0.0001〜1であることが好ましい。この重量比が1を超えると、支持体上に接着した角層の状態の変化が大きくなることがあり、0.0001未満では、ESRの測定精度を向上させる効果が得られなくなることがある。また、スピンプローブ剤溶液中のスピンプローブ剤の濃度は、0.00001〜0.1重量%であることが好ましい。この濃度が0.1重量%を超えると、スピンプローブ剤の添加量が多くなるため、支持体上に接着した角層の状態の変化が大きくなることがあり、0.00001重量%未満であると、スピンプローブ剤の添加量が少なくなるため、角層をスピンプローブ剤で均一に処理することが難しくなることがある。
【0030】
水溶性溶媒としては、炭素数が1〜4である1〜3価のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、炭素数が1〜4である1〜3価のアルコール類が好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0031】
スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、ESRを測定する際には、特に限定されないが、以下に示す試料ホルダを用いることが好ましい。
【0032】
図4に、本発明で用いられる試料ホルダの一例を示す。なお、図4(a)及び(b)は、それぞれ正面図及び側面図を表す。図4に示す試料ホルダは、支持体1上に角層2が接着剤3を用いて接着されており、支持体1は、押さえ金具4により、支持体固定部材5に着脱自在に固定されている。
【0033】
押さえ金具4は、支持体1を支持体固定部材5に着脱自在に固定することができるものであれば、形状、材質等は、特に限定されない。なお、図4では、押さえ金具4は、ネジ6を用いて、支持体固定部材5に固定されているが、他の手段を用いても構わない。
【0034】
支持体固定部材5の形状は、ESR測定装置の空洞共振器内に固定することができる構造であれば、特に限定されない。また、支持体固定部材5の材質は、特に限定されないが、テフロン(登録商標)等の樹脂が挙げられる。
【0035】
図4においては、支持体1を支持体固定部材5に着脱自在に固定する手段として、押さえ金具4を使用しているが、他の手段を用いてもよく、例えば、図5に示すように、押さえネジ7が挙げられる。押さえネジ7の材質は、特に限定されないが、テフロン(登録商標)、アクリル樹脂、硬質プラスチック、金属(非磁性体)等が挙げられる。また、支持体1と押さえネジ7の間に、ゴム等の部材を設けて固定しても構わない。
【0036】
なお、図5に示すように、試料ホルダには、ESR測定装置の空洞共振器内で、支持体1の位置がわかるように、目印8を設けても構わない。
【0037】
本発明においては、角層の細胞間脂質のESRスペクトルから細胞間脂質の秩序度Sを求めることができる。細胞間脂質の秩序度Sは、以下の式から求められる。
【0038】
S=[A(parallel)−A(perpendicular)]/[Azz−1/2(Axx+Ayy)]・(a0’/a0)
a0’=(Axx+Ayy+Azz)/3
(Axx,Ayy,Azz)=(6.1,6.1,32.4)Gauss
a0=[A(parallel)+2A(perpendicular)]/3
なお、A(parallel)及びA(perpendicular)は、図6に示すように、ESRスペクトルから求められる。このとき、細胞間脂質の秩序度Sは、0〜1であるが、図7に示すように、細胞間脂質の秩序度Sが大きい程、細胞間脂質の構造の規則性が高い。また、図8に、秩序度Sが異なる細胞間脂質のESRスペクトルを示す。なお、図8(a)、(b)及び(c)は、それぞれSが0.6、0.57及び0.19であることを表す。
【0039】
本発明においては、細胞間脂質のESRスペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析することが好ましい。これにより、細胞間脂質の秩序度Sの精度をさらに向上させることができる。コンピューターシミュレーション法としては、NLLS(Non−linear least−squares)フィッティングプログラムを用いる方法が挙げられる。このようにして求められる細胞間脂質の秩序度S0は、式
【0040】
【数1】
で表され、スピンプローブ剤として、5−ドキシルステアリン酸を用いた場合、図9に示すように、ニトロキシドの回転拡散の角度の広がりが求められる。なお、γは、回転拡散対称軸とz軸のなす角であり、Ωは、状態数、Uは、内部エネルギー、kは、ボルツマン定数、Tは、絶対温度を表す。
【0041】
本発明において、角層としては、所定の条件下で所定時間培養することにより形成されているものを用いることができる。角層を培養により形成する際には、特に限定されないが、表皮層のみを有する表皮組織及び表皮層と、セラミド、コラーゲン等の擬似真皮層を有する皮膚組織を用いることができる。なお、培養する際には、必要に応じて、FBS(増殖因子)を添加してもよい。また、細胞間脂質の秩序度を向上させるためには、SK−Influx、SymRepair等の薬剤を添加することが好ましい。このとき、薬剤は、培地に添加してもよいが、角層に直接添加することが好ましい。表皮組織を用いて培養する培養表皮モデルとしては、LABCYTE EPI−MODEL(J−TEC社製)等が挙げられ、皮膚組織を用いて培養する培養皮膚モデルとしては、TESTSKIN(東洋紡社製)、Neoderm−ED(TEGO Science社製)等が挙げられる。例えば、LABCYTE EPI−MODELで用いられる表皮組織は、ヒトの正常皮膚細胞を用いて培養し、重層化したものであり、形態的にヒトの皮膚と類似した構造を有しており、基底層、有棘層、顆粒層及び角層が順次積層されている。
【0042】
図15に、支持体に培養した皮膚(表皮)組織を付着させる方法を示す。図15に示す方法では、培養した皮膚(表皮)組織11をピンセット12で取り出し(図15(a)参照)、支持体1上に載せることにより、皮膚(表皮)組織11を支持体1上に固定することができる(図15(b)参照)。このように、皮膚(表皮)組織11は、接着剤を使用しなくても固定することができるため、接着剤を硬化させるために放置する必要がない。なお、ESRスペクトルを測定する際には、特に限定されないが、角層2及び接着剤3の代わりに、皮膚(表皮)組織11を用いた以外は、図4又は図5と同様の試料ホルダを用いることが好ましい。また、秩序度S及びS0は、前述と同様に、求めることができる。このとき、皮膚(表皮)組織11と、皮膚(表皮)組織11から剥離した角層の秩序度Sは、実験誤差範囲内で同一である。
【0043】
本発明の角層の評価方法は、化粧料を付与した前後の角層に適用することにより、化粧料の効果、紫外線等の光照射や温度変化による角層の変化を評価することができる。
【実施例1】
【0044】
70mm×8mm×0.5mmの石英ガラスからなる平板(支持体1)に、シアノアクリレート系の接着剤3として、アロンアルファA三共(三共製薬社製)を付着させたものを5枚用いて、図1に示すように、男性Aの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から5層採取した。次に、各角層2が接着した支持体1を常温常湿で10日間放置した後、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液を用いて、37℃で1時間浸漬処理した。さらに、蒸留水で洗浄して過剰な5−ドキシルステアリン酸を除去し、押さえ金具4、支持体固定部材5及びネジ6を用いて、図4に示すような試料ホルダを作製した。このとき、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液は、1mgの5−ドキシルステアリン酸を100μlのエタノールに溶解させた後に、蒸留水で希釈することにより調製した。
【0045】
得られた試料ホルダを、X−バンドESR測定装置JES−REIX型(日本電子社製)の空洞共振器内に挿入し、中心磁場336mT、掃引幅15mT、掃引時間8分、磁場変調幅0.2mT、時定数1秒、倍率1.25×1000、マイクロ波周波数9GHz、マイクロ波出力10mWの条件で、室温において、ESR測定した。得られたESRスペクトルを図10に点線で示す。なお、図10(a)〜(e)は、それぞれ剥離した角層の表層(1層目)〜5層目であることを表す。さらに、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。この結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
次に、NLLSフィッティングプログラムを用いて、コンピューターシミュレーション法により、ESRスペクトルを解析した。その結果を図10に実線で示す。さらに、細胞間脂質の秩序度S0を求めた。この結果を表1に示す。
【0047】
また、各角層の表層2を採取する前後に水分蒸散計(Vapometer Delfin社製)で経皮水分蒸散量(TEWL)の測定を実施した。図11に、S0とTEWLの関係を示す。
【0048】
図10の点線で示すESRスペクトルにおいて、(a)は、(b)〜(e)と比較して、矢印で示すピークが特徴的であることがわかる。そこで、男性Bの前腕内側部及び洗顔前後の額部から角層2の表層を採取した以外は、上記と同様にして、ESR測定したところ、図12に示すようなESRスペクトルが得られた。なお、図12(a)〜(c)は、それぞれ前腕内側部、洗顔前の額部及び洗顔後の額部を表す。図12においても、図10と同様に、矢印で示すピークが見られることから、このピークは、皮脂由来のものであると考えられる。この理由として、皮脂の多い洗顔前の額部(b)において、強いピークが観察されること及び洗顔後の額部(c)において、このピークが減少することが挙げられる。このため、角層の細胞間脂質の構造を評価する際には、皮脂由来のピークを有するESRスペクトルを除いて解析することが好ましい。
【0049】
また、図10において、(a)では、点線で示すESRスペクトルと実線で示すコンピューターシミュレーション法により解析したESRスペクトルの間に、皮脂由来のピークに起因すると考えられる差異が見られるが、(b)〜(e)では、このような差異は見られない。これは、5−ドキシルステアリン酸が細胞間脂質に良好に取り込まれているためと考えられる。
【0050】
さらに、表1から、(a)は、(b)〜(e)と比較して、S0が小さいことがわかり、図11から、S0が高い値で一定になる角層の中層から下層でTEWLが上昇(バリア破壊)することがわかる。なお、電子顕微鏡により、角層の表層において、脂質二重層が消失することが報告されているため(Proc 17th IFSCC,2:865−880,1992参照)、上記の結果を支持するものである。
【0051】
次に、男性Bの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から6層採取した以外は、上記と同様にして、S0及びTEWLを求めたところ、図13に示す結果が得られた。一般に、角化外膜(コーニファイドエンベロープ;CE)は、角層細胞を包む蛋白性の袋であるが、これが角層中で親水性から疎水性に成熟して変化し、この疎水性のCEを土台として、細胞間脂質が固定されるものと考えられている。この変化は、下層からゆっくりと始まり、中層で疎水性への変化が完了することがわかっているので、中層でS0が上昇するのは、角層の細胞間脂質が疎水性に変化したCEの表面に固定され、下層と比較して運動性が低下するためであると考えられる。中層から下層においては、細胞間脂質の規則性が高くなってS0が上昇するが、CEの表面が未熟であるために、CEとの接合が不十分な細胞間脂質の運動性が高くなって、S0が低下すると考えられる。このため、角層の中層で成熟したCEの上に固定された細胞間脂質が皮膚のバリアー機能に寄与している可能性があると考えられる。
【0052】
なお、S0を規定する要因は二つあると考えられる。一つ目は、脂質鎖の規則性であり、規則性が上昇すると、S0が上昇する。二つ目は、運動性であり、乾燥によって運動性が減少すると、S0が上昇する。以下に、具体例を説明する。男性Cの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から3層採取した以外は、上記と同様にして、S0を求めたところ、図14の乾燥前に示す結果が得られた。さらに、6時間凍結乾燥した後にS0を求めたところ、図14の乾燥後に示す結果が得られた。なお、角層が乾燥した状態では、角層の細胞間脂質の構造が乱れているにも関わらず、運動性の低下により、S0が上昇することが報告されている(J.Japanese Cosmetic Science Society,25:130−135,2001参照)ため、上記の結果を支持するものである。実際に、角層中では下層から上層に向かって水分は、徐々に減少すると考えられているため、水分の影響、すなわち運動性だけを考慮すれば、S0が上昇してもおかしくはない。しかしながら、角層は、最終的に剥離するために、デスモソームや細胞間脂質が酵素による分解を受け、上層に向かうに従って、細胞間脂質の構造が壊れていくと考えられる。表1に示す結果で、(c)と比較して、(b)のS0がやや低くなる傾向が認められるのは、角層中の水分量の減少による運動性の低下を、規則性の低下が上回ったためであると考えられる。
【実施例2】
【0053】
培養表皮モデルLABCYTE EPI−MODEL(J−TEC社製)を用いて、下記の操作をクリーンベンチ内で無菌的に行った。
(1)培地を37℃のウォーターバスで温める。
(2)12ウェルプレートの各ウェルに、温めた培地を1mlずつ分注する。
(3)ヒトの表皮組織が入った培養カップを滅菌済みピンセットで取り出し、12ウェルプレートの各ウェルに移す。
(4)12ウェルプレートに蓋をして、CO2インキュベーターに入れ、翌日取り出す。
(5)各ウェルの培養カップの外側の培地を吸引除去する。
(6)各ウェルの培養カップの外側に、温めた培地を1mlずつ分注して培地交換を行う。
(7)以後、(4)〜(6)の操作を繰り返す。
【0054】
上記の操作において、7〜13日目に、毎日、表2に示す薬剤0.1ml(無添加とは、薬剤を含まない水0.1mlを意味する)を表皮組織上に添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(a)参照)。また、上記の操作において、7〜13日目に、毎日、表2に示す薬剤0.1mlを温めた培地1mlに添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(b)参照)。さらに、上記の操作において、13日目に、表2に示す薬剤0.1mlを表皮組織上に添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(c)参照)。
【0055】
秩序度Sを測定する際には、まず、70mm×8mm×0.5mmの石英ガラスからなる平板(支持体1)に、図15に示すように、培養した表皮組織を付着させた。次に、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液を用いて、37℃で1時間浸漬処理した。さらに、蒸留水で洗浄して過剰な5−ドキシルステアリン酸を除去し、押さえ金具4、支持体固定部材5及びネジ6を用いて、図4と同様の試料ホルダを作製した。このとき、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液は、1mgの5−ドキシルステアリン酸を100μlのエタノールに溶解させた後に、蒸留水で希釈することにより調製した。
【0056】
得られた試料ホルダを、X−バンドESR測定装置JES−REIX型(日本電子社製)の空洞共振器内に挿入し、中心磁場336mT、掃引幅15mT、掃引時間8分、磁場変調幅0.2mT、時定数1秒、倍率1.25×1000、マイクロ波周波数9GHz、マイクロ波出力10mWの条件で、室温において、ESR測定した。さらに、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。
【0057】
【表2】
なお、SK−Influx(Degussa社製)の組成は、脂質成分6.0%、水q.s.100%、乳酸エステル10%、カーボマー0.3%、キサンタンガム0.3%、メチルパラベン0.3%及びプロピルパラベン0.2%からなる。また、脂質成分6.0%は、セラミド複合体1.5%、コレステロール0.5%、遊離脂肪酸3.5%及びフィトスフィンゴシン0.5%からなり、セラミド複合体1.5%は、0.001%のセラミドI、0.5%のセラミドIII、0.5%のセラミドIIIB及び0.5%のセラミドVIからなる。
【実施例3】
【0058】
7〜13日目に、毎日、表3に示す薬剤0.1mlを温めた培地1mlに添加し、14日目に秩序度Sを測定した以外は、実施例2と同様に、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。なお、各薬剤につき、3個の試料を作製した。
【0059】
【表3】
また、図16に、表3の無添加(1)(図16(a)参照)及び1%SK−Influx水溶液(1)(図16(b)参照)のESRスペクトルを示す。表3より、SK−Influx及びSymRepair(Symprise社製)は、細胞間脂質の秩序度Sを向上させる効果を有することがわかる。なお、SymRepairは、ヘキシルデカノール、ビサボロール、セチルヒドロキシプロリンパルミタミド、ステアリン酸及びアブラナ種子ステロールからなる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】皮膚から角層を剥離する方法を示す図である。
【図2】5−ドキシルステアリン酸を添加したシアノアクリレートのESRスペクトル(中心磁場336mT)の経時変化を示す図である。
【図3】スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させることによる効果を説明するESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図4】本発明で用いられる試料ホルダの一例を示す断面図であり、(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
【図5】本発明で用いられる試料ホルダの他の例を示す断面図であり、(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
【図6】A(parallel)及びA(perpendicular)を求める方法を説明する図である。
【図7】細胞間脂質の秩序度Sと細胞間脂質の構造の規則性の関係を説明する図である。
【図8】秩序度Sが異なる細胞間脂質のESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図9】細胞間脂質の秩序度S0を説明する図である。
【図10】実施例1で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図11】S0とTEWLの関係を示す図である。
【図12】実施例1で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図13】S0とTEWLの関係を示す図である。
【図14】乾燥前後のS0を示す図である。
【図15】支持体に培養した皮膚(表皮)組織を付着させる方法を示す図である。
【図16】実施例3で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
0 皮膚
1 支持体
2 角層
3 接着剤
4 押さえ金具
5 ホルダ
6 ネジ
7 押さえネジ
8 目印
9 細胞間脂質
10 スピンプローブ剤
11 皮膚(表皮)組織
12 ピンセット
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚さが約10〜20μmであって、皮膚最外層の組織である角層は、生体内に必須な水を保持し、生体外から有害物質の侵入を防ぐ皮膚のバリアー機能の主体である。中でも、セラミド、コレステロール、脂肪酸から形成される細胞間脂質は、バリアー機構に重要な働きをしていると考えられている。細胞間脂質の構造を解析する方法としては、熱量測定(DSC)法、X線回折法、赤外吸収法等が知られている。これらの方法を用いると、細胞間脂質の状態をおおよそ把握することができるものの、バリアー性と関連付けて解析することができない。
【0003】
そこで、角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理することによって、角層の細胞間脂質の構造を評価することが可能な電子スピン共鳴(ESR)が注目されている。ESRを用いて測定される角層の細胞間脂質の流動性は、秩序度Sとして表される(非特許文献1参照)。しかしながら、ex vivoのESRスペクトルから幾何学的手法を用いて得られる秩序度Sは、角層を界面活性剤で処理した場合でも変化量が微小であり、データのバラツキも大きい。
【0004】
これに対して、皮膚角層のESRスペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析することにより得られる秩序度S0は、細胞間脂質の流動性の微妙な変化を検出することが可能であることが報告されている(非特許文献2参照)。しかしながら、角層の細胞間脂質の秩序度S及びS0の測定精度の更なる向上が求められている。
【0005】
一方、皮膚刺激性試験、経皮吸収試験、皮膚基礎科学研究等で用いられるウサギ、モルモット等の試験動物を代替する評価キットとして、培養皮膚(表皮)モデルが知られている(非特許文献3参照)。このような培養皮膚(表皮)モデルの皮膚(表皮)組織の構造を評価する方法としては、H&E染色や免疫染色を用いる光学顕微鏡観察、透過型電子顕微鏡観察等が知られている(非特許文献4参照)。しかしながら、皮膚(表皮)組織の角層の細胞間脂質の状態をバリアー性と関連付けて解析することができない。
【非特許文献1】Int.J.Pharm.,197:193−202,2000
【非特許文献2】SPECTROCHIMICA ACTA PART A 63 816−820,2006
【非特許文献3】FRAGRANCE JOURNAL,56−60,2006−1
【非特許文献4】Arch Dermatol Res 285:466−474,1993
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、角層の細胞間脂質の秩序度や流動性の測定精度及び解析精度を向上させることが可能な角層の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、角層の評価方法において、支持体に角層を付着させる工程と、該支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、該スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、該スピンプローブ剤で処理する際に、該スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の角層の評価方法において、前記支持体に角層を付着させる工程は、接着剤を付着させた前記支持体を用いて、角層を剥離する工程と、該剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の角層の評価方法において、前記接着剤は、シアノアクリレートを含有することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記スピンプローブ剤は、炭素数が8以上25以下の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体であることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記水溶性溶媒は、炭素数が1以上4以下であり、水酸基数が1以上3以下であるアルコール類を含有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層の細胞間脂質の秩序度を求める工程をさらに有することを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析する工程をさらに有することを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層中の皮脂を検出する工程をさらに有することを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法において、前記角層は、培養により形成されていることを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の角層の評価方法において、前記培養時に薬剤を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、角層の細胞間脂質の秩序度や流動性の測定精度及び解析精度を向上させることが可能な角層の評価方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0020】
本発明の角層の評価方法は、支持体に角層を付着させる工程と、支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いて、支持体に付着した角層を処理する。
【0021】
スピンプローブ剤は、角層の細胞間脂質又は角層と共存する脂質中に導入してその状態を判定するために、脂質と類似した構造を有することが好ましく、例えば、細胞間脂質、皮脂に含まれる脂質、化粧品あるいは外用剤として用いられる成分としての脂質に類似した構造を有するスピンプローブ剤が挙げられる。中でも、炭素数が8〜25の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体が好ましい。さらに好ましくは、炭素数が10〜18、特に炭素数が18の長鎖脂肪酸が適している。具体的には、1−ドキシルステアリン酸、2−ドキシルステアリン酸、3−ドキシルステアリン酸、4−ドキシルステアリン酸、5−ドキシルステアリン酸、6−ドキシルステアリン酸、7−ドキシルステアリン酸、8−ドキシルステアリン酸、9−ドキシルステアリン酸、10−ドキシルステアリン酸、11−ドキシルステアリン酸、12−ドキシルステアリン酸、13−ドキシルステアリン酸、14−ドキシルステアリン酸、15−ドキシルステアリン酸、16−ドキシルステアリン酸、17−ドキシルステアリン酸、18−ドキシルステアリン酸等が挙げられ、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0022】
支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることが好ましい。中でも、ESRを測定する際に、不純物からのバックグラウンド信号が発生しないように、石英ガラス等の高純度の非磁性材料を用いることが特に好ましい。また、支持体の形状は、角層を接着することができる形状であれば、特に限定されないが、平板状であることが好ましい。これにより、角層の細胞間脂質のESRを測定する際に、角層の方向が揃いやすくなり、測定精度を向上させることができる。また、支持体の大きさは、ESR測定装置の空洞共振器内に挿入することができれば、特に限定されない。
【0023】
本発明において、支持体に角層を付着させる工程は、接着剤を付着させた支持体を用いて、角層を剥離する工程と、剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程から構成することができる。
【0024】
接着剤は、ESRを測定する際に、バックグラウンド信号が発生しないことが好ましい。また、支持体上に付着した角層の量が少ないと、ESRの測定精度が低下することがあるため、接着剤は、接着力が大きいことが好ましい。このような接着剤の具体例としては、シアノアクリレート系接着剤、ベンゾールガム系接着剤、エポキシ系接着剤、エマルジョン系接着剤等が挙げられる。中でも、ESRの測定精度を向上させることができることから、シアノアクリレート系接着剤が好ましい。
【0025】
シアノアクリレートは、一般式
CH2=C(CN)COOR
で示され、一般に、瞬間接着剤として、用いられているが、水を触媒として重合するため、角層を皮膚から剥離するために用いることができる。なお、上記一般式における官能基Rの具体例としては、メチル基、エチル基、2−メトキシエチル基、n−ブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0026】
図1に、皮膚から角層を剥離する方法を示す。図1に示す方法では、支持体1に接着剤3を付着させた後に、支持体1の接着剤3を付着させた面をヒトの皮膚0に接触させる(図1(a)参照)ことにより、角層2を非破壊的(非侵襲的)に支持体1上に固定することができる(図1(b)参照)。また、ESRを測定する際に、磁場に対する角層の設置方向を所定の方向に設定することができる。
【0027】
本発明において、角層が付着した支持体を放置することにより、接着剤が硬化し、接着剤由来のバックグラウンド信号の発生を抑制することができ、ESRの測定精度を向上させることができる。放置条件及び放置時間は、特に限定されないが、常温常湿で10〜14日間であることが好ましい。常温常湿とは一般の実験室における条件であり通常10〜30℃、10〜80%RHであり、好ましくは、15〜27℃、30〜60%RHである。40℃を超えた高温で長期に放置すると、脂質の酸化、蛋白質の変性等が起きるために、正しい評価ができなくなることがある。
【0028】
図2に、5−ドキシルステアリン酸を添加したシアノアクリレートのESRスペクトルの経時変化を示す。なお、図2(a)〜(g)は、それぞれ常温常湿で30分、1時間、3時間、5時間、3日間、7日間及び10日間で放置したことを表す。図2から、放置時間が短いと、硬化が不十分であるため、シアノアクリレート由来のピークが検出されるが、10日間放置すると、このピークがほぼ消失することがわかる。
【0029】
本発明においては、支持体上に付着した角層をスピンプローブ剤で処理する際に、スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を角層に添加することにより、図3(a)に示すESRスペクトルが得られ、図3(b)に示すスピンプローブ剤を直接水に溶解させて用いる場合と比較して、ESRの測定精度を向上させることができる。なお、水溶性溶媒に対するスピンプローブ剤の重量比は、0.0001〜1であることが好ましい。この重量比が1を超えると、支持体上に接着した角層の状態の変化が大きくなることがあり、0.0001未満では、ESRの測定精度を向上させる効果が得られなくなることがある。また、スピンプローブ剤溶液中のスピンプローブ剤の濃度は、0.00001〜0.1重量%であることが好ましい。この濃度が0.1重量%を超えると、スピンプローブ剤の添加量が多くなるため、支持体上に接着した角層の状態の変化が大きくなることがあり、0.00001重量%未満であると、スピンプローブ剤の添加量が少なくなるため、角層をスピンプローブ剤で均一に処理することが難しくなることがある。
【0030】
水溶性溶媒としては、炭素数が1〜4である1〜3価のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられ、二種以上併用してもよい。中でも、炭素数が1〜4である1〜3価のアルコール類が好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0031】
スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、ESRを測定する際には、特に限定されないが、以下に示す試料ホルダを用いることが好ましい。
【0032】
図4に、本発明で用いられる試料ホルダの一例を示す。なお、図4(a)及び(b)は、それぞれ正面図及び側面図を表す。図4に示す試料ホルダは、支持体1上に角層2が接着剤3を用いて接着されており、支持体1は、押さえ金具4により、支持体固定部材5に着脱自在に固定されている。
【0033】
押さえ金具4は、支持体1を支持体固定部材5に着脱自在に固定することができるものであれば、形状、材質等は、特に限定されない。なお、図4では、押さえ金具4は、ネジ6を用いて、支持体固定部材5に固定されているが、他の手段を用いても構わない。
【0034】
支持体固定部材5の形状は、ESR測定装置の空洞共振器内に固定することができる構造であれば、特に限定されない。また、支持体固定部材5の材質は、特に限定されないが、テフロン(登録商標)等の樹脂が挙げられる。
【0035】
図4においては、支持体1を支持体固定部材5に着脱自在に固定する手段として、押さえ金具4を使用しているが、他の手段を用いてもよく、例えば、図5に示すように、押さえネジ7が挙げられる。押さえネジ7の材質は、特に限定されないが、テフロン(登録商標)、アクリル樹脂、硬質プラスチック、金属(非磁性体)等が挙げられる。また、支持体1と押さえネジ7の間に、ゴム等の部材を設けて固定しても構わない。
【0036】
なお、図5に示すように、試料ホルダには、ESR測定装置の空洞共振器内で、支持体1の位置がわかるように、目印8を設けても構わない。
【0037】
本発明においては、角層の細胞間脂質のESRスペクトルから細胞間脂質の秩序度Sを求めることができる。細胞間脂質の秩序度Sは、以下の式から求められる。
【0038】
S=[A(parallel)−A(perpendicular)]/[Azz−1/2(Axx+Ayy)]・(a0’/a0)
a0’=(Axx+Ayy+Azz)/3
(Axx,Ayy,Azz)=(6.1,6.1,32.4)Gauss
a0=[A(parallel)+2A(perpendicular)]/3
なお、A(parallel)及びA(perpendicular)は、図6に示すように、ESRスペクトルから求められる。このとき、細胞間脂質の秩序度Sは、0〜1であるが、図7に示すように、細胞間脂質の秩序度Sが大きい程、細胞間脂質の構造の規則性が高い。また、図8に、秩序度Sが異なる細胞間脂質のESRスペクトルを示す。なお、図8(a)、(b)及び(c)は、それぞれSが0.6、0.57及び0.19であることを表す。
【0039】
本発明においては、細胞間脂質のESRスペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析することが好ましい。これにより、細胞間脂質の秩序度Sの精度をさらに向上させることができる。コンピューターシミュレーション法としては、NLLS(Non−linear least−squares)フィッティングプログラムを用いる方法が挙げられる。このようにして求められる細胞間脂質の秩序度S0は、式
【0040】
【数1】
で表され、スピンプローブ剤として、5−ドキシルステアリン酸を用いた場合、図9に示すように、ニトロキシドの回転拡散の角度の広がりが求められる。なお、γは、回転拡散対称軸とz軸のなす角であり、Ωは、状態数、Uは、内部エネルギー、kは、ボルツマン定数、Tは、絶対温度を表す。
【0041】
本発明において、角層としては、所定の条件下で所定時間培養することにより形成されているものを用いることができる。角層を培養により形成する際には、特に限定されないが、表皮層のみを有する表皮組織及び表皮層と、セラミド、コラーゲン等の擬似真皮層を有する皮膚組織を用いることができる。なお、培養する際には、必要に応じて、FBS(増殖因子)を添加してもよい。また、細胞間脂質の秩序度を向上させるためには、SK−Influx、SymRepair等の薬剤を添加することが好ましい。このとき、薬剤は、培地に添加してもよいが、角層に直接添加することが好ましい。表皮組織を用いて培養する培養表皮モデルとしては、LABCYTE EPI−MODEL(J−TEC社製)等が挙げられ、皮膚組織を用いて培養する培養皮膚モデルとしては、TESTSKIN(東洋紡社製)、Neoderm−ED(TEGO Science社製)等が挙げられる。例えば、LABCYTE EPI−MODELで用いられる表皮組織は、ヒトの正常皮膚細胞を用いて培養し、重層化したものであり、形態的にヒトの皮膚と類似した構造を有しており、基底層、有棘層、顆粒層及び角層が順次積層されている。
【0042】
図15に、支持体に培養した皮膚(表皮)組織を付着させる方法を示す。図15に示す方法では、培養した皮膚(表皮)組織11をピンセット12で取り出し(図15(a)参照)、支持体1上に載せることにより、皮膚(表皮)組織11を支持体1上に固定することができる(図15(b)参照)。このように、皮膚(表皮)組織11は、接着剤を使用しなくても固定することができるため、接着剤を硬化させるために放置する必要がない。なお、ESRスペクトルを測定する際には、特に限定されないが、角層2及び接着剤3の代わりに、皮膚(表皮)組織11を用いた以外は、図4又は図5と同様の試料ホルダを用いることが好ましい。また、秩序度S及びS0は、前述と同様に、求めることができる。このとき、皮膚(表皮)組織11と、皮膚(表皮)組織11から剥離した角層の秩序度Sは、実験誤差範囲内で同一である。
【0043】
本発明の角層の評価方法は、化粧料を付与した前後の角層に適用することにより、化粧料の効果、紫外線等の光照射や温度変化による角層の変化を評価することができる。
【実施例1】
【0044】
70mm×8mm×0.5mmの石英ガラスからなる平板(支持体1)に、シアノアクリレート系の接着剤3として、アロンアルファA三共(三共製薬社製)を付着させたものを5枚用いて、図1に示すように、男性Aの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から5層採取した。次に、各角層2が接着した支持体1を常温常湿で10日間放置した後、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液を用いて、37℃で1時間浸漬処理した。さらに、蒸留水で洗浄して過剰な5−ドキシルステアリン酸を除去し、押さえ金具4、支持体固定部材5及びネジ6を用いて、図4に示すような試料ホルダを作製した。このとき、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液は、1mgの5−ドキシルステアリン酸を100μlのエタノールに溶解させた後に、蒸留水で希釈することにより調製した。
【0045】
得られた試料ホルダを、X−バンドESR測定装置JES−REIX型(日本電子社製)の空洞共振器内に挿入し、中心磁場336mT、掃引幅15mT、掃引時間8分、磁場変調幅0.2mT、時定数1秒、倍率1.25×1000、マイクロ波周波数9GHz、マイクロ波出力10mWの条件で、室温において、ESR測定した。得られたESRスペクトルを図10に点線で示す。なお、図10(a)〜(e)は、それぞれ剥離した角層の表層(1層目)〜5層目であることを表す。さらに、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。この結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
次に、NLLSフィッティングプログラムを用いて、コンピューターシミュレーション法により、ESRスペクトルを解析した。その結果を図10に実線で示す。さらに、細胞間脂質の秩序度S0を求めた。この結果を表1に示す。
【0047】
また、各角層の表層2を採取する前後に水分蒸散計(Vapometer Delfin社製)で経皮水分蒸散量(TEWL)の測定を実施した。図11に、S0とTEWLの関係を示す。
【0048】
図10の点線で示すESRスペクトルにおいて、(a)は、(b)〜(e)と比較して、矢印で示すピークが特徴的であることがわかる。そこで、男性Bの前腕内側部及び洗顔前後の額部から角層2の表層を採取した以外は、上記と同様にして、ESR測定したところ、図12に示すようなESRスペクトルが得られた。なお、図12(a)〜(c)は、それぞれ前腕内側部、洗顔前の額部及び洗顔後の額部を表す。図12においても、図10と同様に、矢印で示すピークが見られることから、このピークは、皮脂由来のものであると考えられる。この理由として、皮脂の多い洗顔前の額部(b)において、強いピークが観察されること及び洗顔後の額部(c)において、このピークが減少することが挙げられる。このため、角層の細胞間脂質の構造を評価する際には、皮脂由来のピークを有するESRスペクトルを除いて解析することが好ましい。
【0049】
また、図10において、(a)では、点線で示すESRスペクトルと実線で示すコンピューターシミュレーション法により解析したESRスペクトルの間に、皮脂由来のピークに起因すると考えられる差異が見られるが、(b)〜(e)では、このような差異は見られない。これは、5−ドキシルステアリン酸が細胞間脂質に良好に取り込まれているためと考えられる。
【0050】
さらに、表1から、(a)は、(b)〜(e)と比較して、S0が小さいことがわかり、図11から、S0が高い値で一定になる角層の中層から下層でTEWLが上昇(バリア破壊)することがわかる。なお、電子顕微鏡により、角層の表層において、脂質二重層が消失することが報告されているため(Proc 17th IFSCC,2:865−880,1992参照)、上記の結果を支持するものである。
【0051】
次に、男性Bの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から6層採取した以外は、上記と同様にして、S0及びTEWLを求めたところ、図13に示す結果が得られた。一般に、角化外膜(コーニファイドエンベロープ;CE)は、角層細胞を包む蛋白性の袋であるが、これが角層中で親水性から疎水性に成熟して変化し、この疎水性のCEを土台として、細胞間脂質が固定されるものと考えられている。この変化は、下層からゆっくりと始まり、中層で疎水性への変化が完了することがわかっているので、中層でS0が上昇するのは、角層の細胞間脂質が疎水性に変化したCEの表面に固定され、下層と比較して運動性が低下するためであると考えられる。中層から下層においては、細胞間脂質の規則性が高くなってS0が上昇するが、CEの表面が未熟であるために、CEとの接合が不十分な細胞間脂質の運動性が高くなって、S0が低下すると考えられる。このため、角層の中層で成熟したCEの上に固定された細胞間脂質が皮膚のバリアー機能に寄与している可能性があると考えられる。
【0052】
なお、S0を規定する要因は二つあると考えられる。一つ目は、脂質鎖の規則性であり、規則性が上昇すると、S0が上昇する。二つ目は、運動性であり、乾燥によって運動性が減少すると、S0が上昇する。以下に、具体例を説明する。男性Cの前腕内側部の皮膚から角層2を表層から3層採取した以外は、上記と同様にして、S0を求めたところ、図14の乾燥前に示す結果が得られた。さらに、6時間凍結乾燥した後にS0を求めたところ、図14の乾燥後に示す結果が得られた。なお、角層が乾燥した状態では、角層の細胞間脂質の構造が乱れているにも関わらず、運動性の低下により、S0が上昇することが報告されている(J.Japanese Cosmetic Science Society,25:130−135,2001参照)ため、上記の結果を支持するものである。実際に、角層中では下層から上層に向かって水分は、徐々に減少すると考えられているため、水分の影響、すなわち運動性だけを考慮すれば、S0が上昇してもおかしくはない。しかしながら、角層は、最終的に剥離するために、デスモソームや細胞間脂質が酵素による分解を受け、上層に向かうに従って、細胞間脂質の構造が壊れていくと考えられる。表1に示す結果で、(c)と比較して、(b)のS0がやや低くなる傾向が認められるのは、角層中の水分量の減少による運動性の低下を、規則性の低下が上回ったためであると考えられる。
【実施例2】
【0053】
培養表皮モデルLABCYTE EPI−MODEL(J−TEC社製)を用いて、下記の操作をクリーンベンチ内で無菌的に行った。
(1)培地を37℃のウォーターバスで温める。
(2)12ウェルプレートの各ウェルに、温めた培地を1mlずつ分注する。
(3)ヒトの表皮組織が入った培養カップを滅菌済みピンセットで取り出し、12ウェルプレートの各ウェルに移す。
(4)12ウェルプレートに蓋をして、CO2インキュベーターに入れ、翌日取り出す。
(5)各ウェルの培養カップの外側の培地を吸引除去する。
(6)各ウェルの培養カップの外側に、温めた培地を1mlずつ分注して培地交換を行う。
(7)以後、(4)〜(6)の操作を繰り返す。
【0054】
上記の操作において、7〜13日目に、毎日、表2に示す薬剤0.1ml(無添加とは、薬剤を含まない水0.1mlを意味する)を表皮組織上に添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(a)参照)。また、上記の操作において、7〜13日目に、毎日、表2に示す薬剤0.1mlを温めた培地1mlに添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(b)参照)。さらに、上記の操作において、13日目に、表2に示す薬剤0.1mlを表皮組織上に添加し、14日目に秩序度Sを測定した(表2(c)参照)。
【0055】
秩序度Sを測定する際には、まず、70mm×8mm×0.5mmの石英ガラスからなる平板(支持体1)に、図15に示すように、培養した表皮組織を付着させた。次に、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液を用いて、37℃で1時間浸漬処理した。さらに、蒸留水で洗浄して過剰な5−ドキシルステアリン酸を除去し、押さえ金具4、支持体固定部材5及びネジ6を用いて、図4と同様の試料ホルダを作製した。このとき、1mg/dlの5−ドキシルステアリン酸溶液は、1mgの5−ドキシルステアリン酸を100μlのエタノールに溶解させた後に、蒸留水で希釈することにより調製した。
【0056】
得られた試料ホルダを、X−バンドESR測定装置JES−REIX型(日本電子社製)の空洞共振器内に挿入し、中心磁場336mT、掃引幅15mT、掃引時間8分、磁場変調幅0.2mT、時定数1秒、倍率1.25×1000、マイクロ波周波数9GHz、マイクロ波出力10mWの条件で、室温において、ESR測定した。さらに、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。
【0057】
【表2】
なお、SK−Influx(Degussa社製)の組成は、脂質成分6.0%、水q.s.100%、乳酸エステル10%、カーボマー0.3%、キサンタンガム0.3%、メチルパラベン0.3%及びプロピルパラベン0.2%からなる。また、脂質成分6.0%は、セラミド複合体1.5%、コレステロール0.5%、遊離脂肪酸3.5%及びフィトスフィンゴシン0.5%からなり、セラミド複合体1.5%は、0.001%のセラミドI、0.5%のセラミドIII、0.5%のセラミドIIIB及び0.5%のセラミドVIからなる。
【実施例3】
【0058】
7〜13日目に、毎日、表3に示す薬剤0.1mlを温めた培地1mlに添加し、14日目に秩序度Sを測定した以外は、実施例2と同様に、細胞間脂質の秩序度Sを求めた。なお、各薬剤につき、3個の試料を作製した。
【0059】
【表3】
また、図16に、表3の無添加(1)(図16(a)参照)及び1%SK−Influx水溶液(1)(図16(b)参照)のESRスペクトルを示す。表3より、SK−Influx及びSymRepair(Symprise社製)は、細胞間脂質の秩序度Sを向上させる効果を有することがわかる。なお、SymRepairは、ヘキシルデカノール、ビサボロール、セチルヒドロキシプロリンパルミタミド、ステアリン酸及びアブラナ種子ステロールからなる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】皮膚から角層を剥離する方法を示す図である。
【図2】5−ドキシルステアリン酸を添加したシアノアクリレートのESRスペクトル(中心磁場336mT)の経時変化を示す図である。
【図3】スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させることによる効果を説明するESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図4】本発明で用いられる試料ホルダの一例を示す断面図であり、(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
【図5】本発明で用いられる試料ホルダの他の例を示す断面図であり、(a)は、正面図、(b)は、側面図である。
【図6】A(parallel)及びA(perpendicular)を求める方法を説明する図である。
【図7】細胞間脂質の秩序度Sと細胞間脂質の構造の規則性の関係を説明する図である。
【図8】秩序度Sが異なる細胞間脂質のESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図9】細胞間脂質の秩序度S0を説明する図である。
【図10】実施例1で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図11】S0とTEWLの関係を示す図である。
【図12】実施例1で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【図13】S0とTEWLの関係を示す図である。
【図14】乾燥前後のS0を示す図である。
【図15】支持体に培養した皮膚(表皮)組織を付着させる方法を示す図である。
【図16】実施例3で得られたESRスペクトル(中心磁場336mT)を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
0 皮膚
1 支持体
2 角層
3 接着剤
4 押さえ金具
5 ホルダ
6 ネジ
7 押さえネジ
8 目印
9 細胞間脂質
10 スピンプローブ剤
11 皮膚(表皮)組織
12 ピンセット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に、角層を付着させる工程と、
該支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、
該スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、
該スピンプローブ剤で処理する際に、該スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする角層の評価方法。
【請求項2】
前記支持体に、角層を付着させる工程は、
接着剤を付着させた前記支持体を用いて、角層を剥離する工程と、
該剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の角層の評価方法。
【請求項3】
前記接着剤は、シアノアクリレートを含有することを特徴とする請求項2に記載の角層の評価方法。
【請求項4】
前記スピンプローブ剤は、炭素数が8以上25以下の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項5】
前記支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項6】
前記水溶性溶媒は、炭素数が1以上4以下であり、水酸基数が1以上3以下であるアルコール類を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項7】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層の細胞間脂質の秩序度(流動性)を求める工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項8】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項9】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから皮脂を検出する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項10】
前記角層は、培養により形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項11】
前記培養時に薬剤を添加することを特徴とする請求項10に記載の角層の評価方法。
【請求項1】
支持体に、角層を付着させる工程と、
該支持体に付着した角層をスピンプローブ剤(スピンラベル剤)で処理する工程と、
該スピンプローブ剤で処理した角層が付着した支持体を用いて、電子スピン共鳴スペクトルを測定する工程を少なくとも有し、
該スピンプローブ剤で処理する際に、該スピンプローブ剤を水溶性溶媒に溶解させた後に水で希釈することにより得られる溶液を用いることを特徴とする角層の評価方法。
【請求項2】
前記支持体に、角層を付着させる工程は、
接着剤を付着させた前記支持体を用いて、角層を剥離する工程と、
該剥離された角層が付着した支持体を所定の条件下で所定時間放置する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の角層の評価方法。
【請求項3】
前記接着剤は、シアノアクリレートを含有することを特徴とする請求項2に記載の角層の評価方法。
【請求項4】
前記スピンプローブ剤は、炭素数が8以上25以下の長鎖脂肪酸のドキシル誘導体であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項5】
前記支持体は、石英ガラス、ガラス、アクリル樹脂及び硬質樹脂からなる群より選択される非磁性材料からなることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項6】
前記水溶性溶媒は、炭素数が1以上4以下であり、水酸基数が1以上3以下であるアルコール類を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項7】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから前記角層の細胞間脂質の秩序度(流動性)を求める工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項8】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルを、コンピューターシミュレーション法を用いて解析する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項9】
前記測定された電子スピン共鳴スペクトルから皮脂を検出する工程をさらに有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項10】
前記角層は、培養により形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の角層の評価方法。
【請求項11】
前記培養時に薬剤を添加することを特徴とする請求項10に記載の角層の評価方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2008−39761(P2008−39761A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−89743(P2007−89743)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年11月14日 SEST2006実行委員会発行の「第45回電子スピンサイエンス学会年会(SEST2006)講演要旨集」に発表
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年11月14日 SEST2006実行委員会発行の「第45回電子スピンサイエンス学会年会(SEST2006)講演要旨集」に発表
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
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