説明

角形蛇篭

【課題】亜鉛のような有害物質の溶出のおそれがなく、耐食性および耐久性が優れ滑りにくい蛇篭を提供する。
【解決手段】底網2と、4つの側面網3,4,5,6と、蓋網7とを有する角形蛇篭1であって、底網、側面網および蓋網のすべてがステンレス線の菱形金網からなり、底網、側面網および蓋網のうちの少なくとも蓋網のステンレス線がブラスト加工によって凹凸処理されてJISB0601によるRzで表して50〜200μmの粗面表面を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は河川・海岸の護岸、道路、斜面形成等の土木工事において使用される、玉石、栗石、割石等を詰める金網製カゴ、特に角形蛇篭に関する。
【背景技術】
【0002】
これら篭は古くは竹材などが用いられ、時間経過と共に石の間に土が充満すると同時に竹材は腐食消減して自然な地形形成がなされていた。ところが近時竹材の入手困難化の問題があるとともに、形成地形の大規模化複雑化等の事情もあって、篭の大型化および寿命の長期化が要請されるようになった。このため耐食性の優れた、亜鉛または亜鉛アルミニウム合金でめっきされた鉄線の網を用いた蛇篭が、例えば特許文献1に記載されているように、使用されている。しかしながらこの蛇篭では時間経過とともに亜鉛が流出して、土壌、河川水環境への悪影響が懸念される。
【特許文献1】特開2004−204626号公報(段落番号0017)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、この金属線製蛇篭の問題点を除去して、亜鉛のような有害物質の溶出のおそれがなく、耐食性および耐久性の優れた蛇篭を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち本発明は、底網と、4つの側面網と、蓋網とを有する角形蛇篭において、底網、側面網および蓋網のすべてがステンレス線の菱形金網からなり、少なくとも蓋網のステンレス線がブラスト加工によって凹凸処理された粗面表面を有することを特徴とする角形蛇篭である。
【0005】
以下本発明について例をあげて詳しく説明する。
本発明の角形蛇篭は基本的にそれぞれ四角形の底網、4つの側面網、および蓋網から構成され、直方体の形状を有する。底網、側面網、および蓋網のそれぞれはステンレス線を用いて菱形金網に製網される。(このステンレス線を、以下、ステンレス網線ということがある。)菱形金網とはJIS G3552に規定されるように網目を菱形に編んだ金網である。このステンレス線の材質はJIS規格のステンレスが用いられ、特にSUS430(18 Cr)、SUS304(18 Cr-8 Ni)またはSUS305(18Cr-10Ni)が加工が容易なので好ましく用いられ、その中でも入手の容易性、コストの理由でSUS304(18 Cr-8 Ni)が特に好ましく用いられる。
【0006】
角形蛇篭の直方体の稜に該当するところに枠線が設けられていて、角形蛇篭の骨格を形成する。底網、側面網、および蓋網の境界に設ける枠線、篭を形成するために隣接する各網を結合する結合コイルのような結束線、ならびに篭を強化するために対向する2つの側面網の間に設けることがある梁線も同様に上記ステンレス線が使用される。
【0007】
蓋網を構成するステンレス網線の表面はブラスト加工によって凹凸処理された粗面を有する。蓋網のステンレス網線の表面を粗面にすることにより、玉石等を詰めた角形蛇篭を工事現場で据え付けた後に、その上を作業者または歩行者が歩くときに足を滑らせる危険が減少する。ステンレス線の表面の粗さが大きすぎると、ステンレス線の機械的強度、耐久性などが減少し、逆に表面の粗さが小さすぎると、足の滑り防止効果がなくなるので、この粗面表面はJISB0601によるRzで表して50〜200μmの粗さとすることが好ましく、75〜150μmの粗さとすることが更に好ましい。蓋網の枠線および結束線の表面も同様に粗面加工することが好ましい。蓋網以外の網(底網、側面網)のステンレス線も同様に粗面加工しても差し支えない。
【0008】
ブラスト加工としてはショットブラストまたはエアーブラストが用いられ、効率を考慮するとショットブラストが特に好ましく用いられる。得られる粗面の粗さは、研掃材の材料(砂、鋳鉄粒、鋳鋼粒など)、研掃材の粒径、投射速度(またはエアー風速)などを設定することにより制御することができる。ブラスト加工を行う時点は、(1)製網前の線材段階、(2)製網後で篭組み立て前、(3)篭を組み立てた後、のいずれでも差し支えないが、角形蛇篭の性能および作業効率を考慮すると、(1)製網前の線材段階でブラスト加工を行うことが好ましい。
【0009】
ステンレス線をその製網前の線材段階でショットブラスト加工を行うには、例えば特開平07−23447号公報に記載されているように、ステンレス線をその長さ方向に進行させながら、ステンレス線を囲む円周方向に研掃材投射用のインペラーを複数個、進行ライン方向で位置をずらせて配置して研掃材を投射することによって行われる。
【0010】
本発明において、底網、側面網、および蓋網はステンレス線を用いて菱形金網に製網されるが、これらの網は、直径が3.0〜5.0mmのステンレス線を使用して、網目の寸法(網目空間の一辺の距離)が40〜130mm目、好ましくは60〜100mm目になるように製網される。本発明の角形蛇篭が平張りで用いられる場合には、蓋網として機械的強度を高めるために、底網、側面網の網目寸法に比して、小さな網目寸法を有するものを使用することが好ましい。さらに蓋網のステンレス線として底網、側面網のステンレス線の直径よりも大きい直径のものを使用することが好ましい場合がある。本発明の角形蛇篭が多段積みで使用される場合には、蓋網だけでなく、法面の表面となる側面網(前直網)も底網に比して小さな網目寸法(およびさらに大きな線直径)を有させることが好ましい。
【0011】
このステンレス線は亜鉛アルミ合金めっき鉄線よりも引張り強度が大きく、例えば亜鉛アルミ合金めっき鉄線の有する約290N/mm 以上の引張り強度に対してSUS304のステンレス線は約710N/mm 以上の引張り強度を有する。従ってステンレス線として、従来の亜鉛アルミ合金めっき鉄線の直径よりも小さな直径のものが使用され、例えば従来の4.0mm(または5.0mm)の直径の亜鉛アルミ合金めっき鉄線に対して3.2mm(または4.0mm)の直径のステンレス線が使用される。
【0012】
ブラスト加工したステンレス線材はこの加工を行わないステンレス線材に比して硬度が高くなるので、製網の際には、製網機の部品(じらす、へら)としてそれに適した寸法に設定する必要がある。また篭を組み立てる段階でも、ブラスト加工したステンレス線材が非加工線および一般鉄線より遥かに硬いことに注意する必要がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明の角形蛇篭によれば、従来の蛇篭に比して有害な亜鉛の流出の心配がなく、自然に優しい環境保全を行うことができる。また本発明の角形蛇篭を用いて工事を行う際または工事後にその上を歩いても滑る危険が小さい。
さらに本発明の角形蛇篭は耐食性および耐久性に優れているので、従来のものに比して長期間にわたって性能を保持することができ、また従来は困難であった酸性河川、感潮河川、水衝部へも適用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に実施例をあげて本発明の実施の形態を具体的に説明する。
図1および図2は本発明の角形蛇篭の実施例1の斜視図および展開図である。直方体形状の蛇篭1は、底網2と、左右の側面網3,4と、前後の側面網5,6と、蓋網7とからなり、長さLおよび巾Wおよび高さDの寸法を有する。各網はステンレス線(SUS304)で編んだ菱形金網で形成されている。各網に分解して表示した図3に示すように、底網2、左右側面網3,4、前後側面網5,6および蓋網7の各網の隣接境界にはそれぞれステンレス線(SUS304)の枠線8〜21が設けられており、金網の線の端は枠線のところで折り返されるかまたはねじり止めされている。
【0015】
直径3.2mmのステンレス線(SUS304)を巻いて直径50mm、らせん間隔約50mm、長さ450mmのらせん棒状に形成した結合コイルを用いて、隣接する2つの網の各枠線を取り囲むように結合コイルを回転させて巻き付けることにより隣接する網を結合することができる。
【0016】
蛇篭の組み立ては 例えば次の順序で行う。図3に示すように、底網2と前後側面網5,6とは枠線15、16を介して結合されている。蓋網7の四周には枠線18,19,20,21が設けられており、前後側面網6と蓋網7とは枠線18により結合されている。また前後側面網5,6の四周にはそれぞれ枠線8,9,10、11および12,13,14、15が設けられている。各網の境界または網の縁部に設ける枠線はステンレス網線を枠線のところで折り返すかまたはねじり止めすることにより結合される。または製網の段階で製網の進行方向の両縁部のガイド線を枠線として使用することができ、製網の段階中または製網段階後に網の中央部に枠線を挿入することもできる。
【0017】
これらの網を工事現場に運んで所定の設置場所に載置し、左右側面網3,4と前後側面網5,6を底網2の面に対して垂直になるように立てて、前後側面網5,6の縁部23,24,25、26のステンレス網線を左右側面網3,4の枠線11,13,15,9のところでそれぞれ折り返すかまたはねじり止めすることにより、隣接する左右側面網3,4と前後側面網5,6とを蛇篭1を組み立てる。ついでその中に石を充填し、その後に蓋網7をその上にかぶせて、ついで蓋網7の枠線20と側面網4の枠線14の二つの枠線を取り囲むように結合コイルを回転させながら取り付け、同様にして、蓋網7の枠線21および側面網5の枠線18、ならびに蓋網7の枠線22および側面網3の枠線10とを結合コイルを用いて結合する。各枠線の各端部と隣接する枠線の各端部とは溶接または折り曲げにより連結される。
【0018】
以上は蛇篭を単独で設置する場合について説明したが、実際には蛇篭は通常、複数個並べて配置される。この場合には、隣接する蛇篭の左右側面網(または前後側面網)が重複するのでその一方を省略することができる。工事現場において、例えば隣接する底網2つと左右側面網(または前後側面網)1つとをその各縁部の合計3本の枠線を取り囲むように結合コイルを回転させることにより結合する。同様に、隣接する蓋網2つと左右側面網(または前後側面網)1つとをその各縁部の合計3本の枠線を取り囲むように結合コイルを回転させることにより結合する。
【0019】
蛇篭を多数平面的に並べる平張りに適した角形蛇篭の仕様を表1に示す。なお網目寸法(mm目)は菱形金網の菱形空間の一辺の距離で表している。
【0020】
表1
角形蛇篭の寸法 L=2000mm、W=1500mm、D=500mm
底網 左右側面網 前後側面網 蓋網
金網の線の直径 3.2mm 3.2mm 3.2mm 3.2mm
金網の網目 100mm目 100mm目 100mm目 65mm目
枠線の直径 4.0mm 4.0mm 4.0mm 4.0mm
【0021】
蓋網用のステンレス線材およびステンレス枠線は予め、粒径0.75mmの鋼球ショットを使用してショットブラスト加工を施して、線材および枠線の表面粗さRzは約80μmであった。この粗面加工ステンレス線の滑り難さは、面的摩擦試験装置を用いて摩擦係数値を測定した。面的摩擦試験装置は、1.5m×1.5mの大きさの水平な試験テーブルと、滑り片、及び滑り片と試験テーブルの間の相対的な運動を生ずる駆動機構からなる。滑り片は長辺30cm、短辺15cmの長方形の底面と約30kgの質量を有し、その底面にはJIS T 8101に規定されるゴムが覆われている。滑り片と駆動機構との間にロードセルを設けて引張り力を電気的データ処理装置で記録する。試験片である1.1m×1.1 mの大きさの蓋網を試験テーブルの上に固定し、滑り片を試験片の中央上面に置きロードセルに接続する。滑り片の運動を開始する直前に表面が濡れる程度に水を試験片蓋網に散布する。水散布後に駆動機構を作動させて滑り片を毎分約100mmで動かせて、記録をスタートさせる。最初に得られる最大応力(静摩擦力)を測定する。静摩擦係数μsは静摩擦力の値(N)を滑り片の質量によって生じる法線力の値(300N)で除した値として計算される。水散布時の静摩擦係数が0.8以上であれば足の滑り防止効果があると判断する。
【0022】
上記蓋網について測定、計算された静摩擦係数値μsは0.8であった。なお水散布を行わなかった場合の静摩擦係数値μsは1.15であった。また粗面加工を施さないステンレス蓋網についての水散布摩擦係数値は0.1であり、水散布なしの摩擦係数値は0.3であった。
【0023】
以上は蛇篭を平張りの場合の実施例について説明したが、蛇篭を多段積みする実施例2の場合には蛇篭の前後側面網の一方が外部に露出することになるので、例えば表2の仕様に示すように、前後側面網の網目を細かくすることが好ましい。蓋網の粗面加工は前記実施例1と同様に行った。ステンレス線の表面粗さRzおよび摩擦係数の値は実施例1と同じであった。
【0024】
表2
角形蛇篭の寸法 L=2000mm、W=1000mm、D=500mm
底網 左右側面網 前後側面網 蓋網
金網の線の直径 3.2mm 3.2mm 3.2mm 3.2mm
金網の網目 100mm目 100mm目 65mm目 65mm目
枠線の直径 4.0mm 4.0mm 4.0mm 4.0mm
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例を示す斜視図。
【図2】本発明の実施例を示す展開図。
【図3】本発明の実施例の分解図。
【符号の説明】
【0026】
1・・蛇篭
2・・底網
3、4・・左右側面網
5、6・・前後側面網
7・・蓋網
8,9,10,11,12,13,14,15・・左右側面網の枠線
16,17・・底網と前後側面網の間の枠線
19・・蓋網と前後側面網の間の枠線
20,21,22・・蓋網の枠線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底網と、4つの側面網と、蓋網とを有する角形蛇篭において、底網、側面網および蓋網のすべてがステンレス線の菱形金網からなり、少なくとも蓋網のステンレス線がブラスト加工によって凹凸処理された粗面表面を有することを特徴とする角形蛇篭。
【請求項2】
前記粗面表面はJISB0601によるRzで表して50〜200μmの粗さを有する請求項1記載の角形蛇篭。
【請求項3】
前記粗面表面はJISB0601によるRzで表して75〜150μmの粗さを有する請求項1記載の角形蛇篭。
【請求項4】
前記ステンレス線はSUS430、SUS304またはSUS305の組成を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の角形蛇篭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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