説明

角落しゲート

【課題】ガイド溝の戸当たり部を補強する。
【解決手段】水路のコンクリート製の両側壁部1、1にそれぞれ対向して形成された上下方向のガイド溝2、2間に複数の堰板3を、その両端部をそれぞれ挿入して積み重ねる。この各堰板3には、あらかじめ突っ張り部材5が水路の両ガイド溝2の下流側の側壁部1の壁面間に複数の支持部材8でそれぞれ支持される。この各突っ張り部材5を伸長させて、両ガイド溝2、2の側壁部1の壁面間に突っ張らせると、両ガイド溝2の側壁部1のコンクリートに水路の幅方向への押し付け力が付与される。これにより、ガイド溝2の開口縁の側壁部のコンクリートの剛性が高くなり、ガイド溝2の戸当たり部9の強度が向上するので、このガイド溝2の戸当たり部9が補強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、水路の両側壁部に形成された対向するガイド溝間に堰板をその両端部をそれぞれ挿入して設け、この堰板で水路内の水を堰き止める角落としゲートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上下水道施設、農業灌漑用施設等の水路の必要とする箇所に、複数の堰板を所要高さに積み重ねて形成した角落しゲートが設置される。この角落しゲートにより、水路の水を堰止めて水路内の掃除を行ったり、水量調整をしたりしている。
【0003】
また、図4に示すダムに建設された発電所の放水路20に構築された放水口ゲート21の保守点検作業、および放水口ゲート21の戸当たり部22の補修作業を行うために、放水口ゲート21の下流側に角落しゲートが構築される。
【0004】
この角落しゲートは、当初より放水口ゲート21の補修等を考慮して、あらかじめ放水路20の下流側に形成されている対向するガイド溝23、23に、複数の堰板を挿入して所要高さに積み重ねて構築される。角落しゲートの構築後に、放水口ゲート21と角落しゲートとの間の水を抜いて放水口ゲート21の戸当たり部22の補修作業等を行うのである。
【0005】
上記の水路内に設置または構築される角落しゲートは、図5に示すように、水路30の幅方向両側に設けたコンクリート製の側壁部31、31に、それぞれ上下方向のガイド溝32を対向して形成する。この両ガイド溝32、32間に複数の堰板33を、その両端部を挿入して所要高さにまで積み重ねて構築し、これらの堰板33により水路内30の水を堰止める(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−3861号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の角落しゲートが水路内に構築されれば、その積み重ねられた各堰板33の上流側を向く面部(水圧に対向する側を向く面部)で受ける矢印の向きの水圧を、支圧板34を介してガイド溝32の上流側を向く(水圧に対向する側を向く)内壁部35(戸当たり部35)で支える。
【0007】
上記各堰板33を支えるガイド溝32の戸当たり部35には、この堰板33を介して水圧による押し付け力Pが作用する。しかし、水路30のガイド溝32の水路30の幅方向外向きの深さが浅い場合や、コンクリート製の側壁部31が老朽化している場合など、堰板33からの押し付け力Pに対してガイド溝32の戸当たり部35の強度が不足していれば、前記押し付け力Pによりガイド溝32の戸当たり部35の、水路30の幅方向外側端に応力が集中してクラックが発生するおそれがある(図6(a)参照)。一方、前記押し付け力Pにより、ガイド溝32の戸当たり部35にせん断応力が作用して、この場合も、クラックが発生するおそれがある(図6(b)参照)。
【0008】
このように、この水路30のガイド溝32の戸当たり部35にクラックが発生すると、堰板33の受ける水圧をガイド溝32の戸当たり部35で支えることが難しい。
【0009】
そこで、この発明は、角落しゲートのガイド溝の戸当たり部を補強することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、水路のガイド溝の下流側の対向する両側壁部の壁面の間に突っ張り部材を突っ張らせて、その突っ張り力により、壁面への押し付け力を付与するようにしたのである。
【0011】
このようにすれば、水圧と突っ張り力との合力が戸当たり部に作用し、この合力は、水路の幅方向外向きに作用する。このため、戸当たり部にクラックを生じにくくする。また、ガイド溝の下流側の対向する両側壁部のコンクリートに、押し付け力が付与されると、ガイド溝の戸当たり部は、その剛性が高まるとともに、その戸当たり部とその周囲の側壁部との一体性が高まるとも考えられる。これにより、水圧に対する戸当たり部の強度が向上し、クラックの発生を防止することができる。
【0012】
この発明の構成としては、水路の幅方向両側に設けたコンクリート製の側壁部に、それぞれ上下方向のガイド溝を対向して形成し、この両ガイド溝間に堰板をその両端部を前記ガイド溝にそれぞれ挿入して設け、前記堰板を前記ガイド溝の上流側を向く壁面で支え、前記堰板で水路内の水を堰き止める角落しゲートにおいて、前記ガイド溝下流側の対向する両側壁部の壁面の間に突っ張り部材を突っ張らせて、その突っ張り力により、前記壁面への押し付け力を付与して、前記ガイド溝の、上記水路内の水圧が前記堰板を介して作用する上流側を向く壁面にクラックを生じ難くした構成としたのである。
【0013】
この構成において、上記突っ張り部材としては、水路の両側壁部間の長さよりも少し長いものを両側壁部間に打ち込んでも良いが、突っ張り部材の長さが調節可能であれば、両側壁部間の所定位置で伸長して突っ張って、その突っ張り力を調節できるので好ましい。例えば、突っ張り部材は、上記各壁面をそれぞれ一端面で押し付ける一対の押し付けバーと、この両押し付けバーを同一軸上に連結するジャッキとからなり、このジャッキは、前記両押し付けバーの他端に連結され、このジャッキを操作することにより、この前記両押し付けバーの両一端面の間の長さを調節可能としたものを採用することができる。
【0014】
また、上記突っ張り部材を、上記堰板に支持部材を介して支持した構成を採用すれば、この支持部材に突っ張り部材を支えた状態で堰板を両ガイド溝に挿入すると、堰板と突っ張り部材を同時に設置できる。また、その突っ張り部材が支えられていれば、所定位置で伸長することができるので、その伸長作業が容易である。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、この発明は、ガイド溝下流側の対向する両側壁部の壁面の間に突っ張り部材を突っ張らせて、その突っ張り力により前記壁面への押し付け力を付与したので、ガイド溝の戸当たり部を補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。この実施形態の角落しゲートは、たとえば、上下水道施設、農業灌漑用施設等の水路内に水を堰き止めるために設けられ、または、ダムに建設された発電所の放水路に構築された放水口ゲートの保守点検作業行うために、放水口ゲートの下流側に構築される。ここで、上流側とは、水路内の水圧に対向する側をいい、下流側とは、水路の水圧が作用する側をいう。
【0017】
上記角落しゲートは、図1に示すように、水路Wの幅方向両側に設けたコンクリート製の側壁部1、1に、それぞれ上下方向のガイド溝2、2を対向して形成し、この両ガイド溝2、2内間に複数の堰板3をその両端部をそれぞれ挿入して、積み重ね、各堰板3の下流側面部と、ガイド溝2の下流側内壁との間に支圧板4を介在させ、両ガイド溝2の下流側の両側壁部の間に突っ張り部材5を突っ張らせて構築される。
【0018】
上記水路Wの幅方向両側に設けた側壁部1、1は、コンクリート製であり、この側壁部1、1には、それぞれ上下方向のガイド溝2、2が形成される、この両ガイド溝2、2は、水路Wの幅方向外向きにコの字状に凹んで形成される。
【0019】
上記両ガイド溝2内に挿入される堰板3は、水堰部6と、その支持端部7とが一体に形成されたものである。この水堰部6は、図2の示す矢印aの向きの水圧に耐えるように、支持端部7よりも厚肉に形成される。この堰板3の支持端部7には、ガイド溝2の下流側内壁9(以下、戸当たり部9という。)との間に支圧板4が配置される。この支圧板4は、水路内の水圧が作用する各堰板3の支持端部7にかかる荷重を受けるものである。
【0020】
上記堰板3の水堰部6の下流側面部には、図1(b)、(c)に示すように、一対の支持部材8が上下方向に複数対並んで設けられている。この各一対の支持部材8は、断面円弧状となる上向きの凹部を有し、後述する突っ張り部材5の押し付けバー10が嵌まるとともに、突っ張り部材5を水路Wの両側壁部1、1に突っ張る前の状態で所定位置に支えるものである。
【0021】
上記一対の支持部材8に突っ張り部材5を支えた堰板3を、その両端部を両ガイド溝2、2間にそれぞれ挿入して積み重ねれば、堰板3と一緒に突っ張り部材5をガイド溝2の下流側の両側壁部1、1間の所定位置に配置することができる。また、突っ張り部材5が支持部材8に支えられているので、突っ張り部材5を両側壁部1、1間に突っ張らせながら落下しないように保持することができる。
【0022】
また、上記各一対の支持部材8は、ガイド溝2に挿入され積み重ねられる堰板3のうち最下位のものに設けても有効である。一般に、水深が深くなればなるほど、堰板3の受ける水圧が大きくなるので最下位の堰板3の受ける水圧は、上方の堰板3の受ける水圧よりも大きくなる。このため、水路Wの水深に対応して突っ張り部材5の数を増減するとよい。このとき、突っ張り部材5の数に合わせて支持部材8の数も増減させればよい。
【0023】
上記一対の支持部材8に支えられる突っ張り部材5は、ガイド溝2の下流側の両側壁部1の壁面をそれぞれ一端面で押し付ける一対の円柱状の押し付けバー10、10と、この両押し付けバー10、10を同一軸上に連結するジャッキ11とから構成される。
【0024】
このジャッキ11は、両端にねじ部を有する棒状に形成され、そのねじ部を両押し付けバー10、10の他端にねじ込んで接続される。このジャッキ11を回転操作することにより、両押し付けバー10、10間の長さを調節して、両押し付けバー10、10のそれぞれの一端面の間の長さを調節することができる。なお、このジャッキ11は、前記のようにねじ式のものに限られず、両押し付けバー10、10の一端面の間の長さを調節することができるものであればよい。例えば、油圧により前記両押し付けバー10、10の一端面の間の長さを調節する油圧式のものなどを採用することができる。
【0025】
上記突っ張り部材5のジャッキ11を回転操作することで一対の押し付けバー10、10の一端面の間の間隔が広がり、それぞれの押し付けバー10、10が、ガイド溝2の下流側の側壁部1の壁面を水路Wの幅方向外向きに押し付ける。その側壁部1の壁面が押し付けられれば、支圧板4にかかる水圧による押し付け力Pに対して直角の押し付け力Fがガイド溝2の下流側の側壁部1のコンクリートに付与される。その結果、図3に示すように、ガイド溝2の戸当たり部9には合力Rが働く。
【0026】
このように、各突っ張り部材5を突っ張らせることで、図3に示すように、水圧による押し付け力Pと突っ張り部材5による押し付け力Fとの合力Rが作用して、この合力Rは、水路の幅方向外向きに作用して、ガイド溝2の下流側の対向する両側壁部のコンクリートに、押し付け力が付与され、ガイド溝2の戸当たり部9は、その剛性が高まる。これにより、水路内の水圧に対する戸当たり部9の強度が向上し、ガイド溝2の戸当たり部9を補強することができるので、水圧を受ける堰板3の荷重Pによるせん断応力によるクラックの発生を防止できる。
【0027】
なお、上記突っ張り部材5の各押し付けバー10と、ガイド溝2の下流側の側壁部1の壁面との間に当て板を設け、この当て板を側壁部1の上下方向の全長にわたって当てがうようにしてもよい。このようにすれば、突っ張り部材5を伸長することにより、ガイド溝2の両側壁部1のコンクリートに付与される押し付け力を、当て板によりガイド溝2の側壁部1の上下方向の全面にわたって付与することができる。これにより、ガイド溝2の側壁部1のコンクリートの全体を補強することができる。
【0028】
また、この実施形態の角落しゲートは、例えば、図4に示すような発電所の放水口ゲートの補修用角落しゲートとして構築することができる。補修用角落しゲートは、当初より放水口ゲートの補修等を考慮して、発電所の放水口ゲートの下流側(発電所から放水口ゲートに向かって水路内を流れる水の下流側)に対向して形成されたガイド溝間に、上述した堰板3を、その両端部をそれぞれ挿入して構築される。この堰板3は、一対の支持部材8に支えられた突っ張り部材5を放水口ゲート側に向けて挿入される。これにより、堰板3をその両端部を前記両ガイド溝間にそれぞれ挿入すれば、この堰板3とともに、突っ張り部材5をガイド溝の放水口ゲート側の両側壁部間の所定位置に配置することができる。
【0029】
上記支持部材8に支持された突っ張り部材5を伸長して、両ガイド溝の放水口ゲート側の側壁部間に突っ張ることにより、両ガイド溝の放水口ゲート側の側壁部の壁面が突っ張り部材5により押し付けられ、その壁面に放水路の幅方向への押し付け力が付与される。押し付け力によりガイド溝の側壁部のコンクリートの剛性が高くなり、ガイド溝の戸当たり部の強度を向上させることができる。これにより、発電所の放水路のガイド溝の戸当たり部の補強工事を別途施工することなく、補修用角落しゲートを発電所の放水口ゲートの下流側に構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)実施形態の角落しゲートを示す上面図、(b)同上の角落しゲートを示す下流側正面図、(c)同上の角落しゲートを示す側面図
【図2】同上の角落しゲートの作用図
【図3】同上の角落しゲートの端部を示す一部拡大図
【図4】同上の角落しゲートが採用されるダムの放水路を示す斜視図
【図5】従来の角落しゲートの作用図
【図6】(a)同上の角落しゲートの端部におけるクラックを示す一部拡大図、(b)同上の角落しゲートの端部における他のクラックを示す一部拡大図
【符号の説明】
【0031】
1 側壁部
2 ガイド溝
3 堰板
4 支圧板
5 突っ張り部材
6 水堰部
7 支持端部
8 支持部材
9 戸当たり部
10 押し付けバー
11 ジャッキ
20 放水路
21 放水口ゲート
22 戸当たり部
23 ガイド溝
30 水路
31 側壁部
32 ガイド溝
33 堰板
34 支圧板
35 戸当たり部
W 水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水路(W)の幅方向両側に設けたコンクリート製の側壁部(1、1)に、それぞれ上下方向のガイド溝(2、2)を対向して形成し、この両ガイド溝(2、2)間に堰板(3)をその両端部を前記両ガイド溝(2、2)にそれぞれ挿入して設け、前記堰板(3)を前記ガイド溝(2)の、水路の水圧に対向する側を向く壁面上流側を向く壁面(9)で支え、前記堰板(3)で水路内の水を堰き止める角落しゲートにおいて、
上記ガイド溝(2)の、水路内の水圧が作用する側の下流側の対向する両側壁部(1)の壁面の間に突っ張り部材(5)を突っ張らせて、その突っ張り力により、前記壁面への押し付け力を付与して、前記ガイド溝(2)の、上記水路(W)内の水圧が前記堰板(3)を介して作用する上流側を向く上記壁面(9)にクラックを生じ難くしたことを特徴とする角落しゲート。
【請求項2】
上記突っ張り部材(5)は、上記各壁面をそれぞれ一端面で押し付ける一対の押し付けバー(10、10)と、この両押し付けバー(10、10)を同一軸上に連結するジャッキ(11)とからなり、このジャッキ(11)は、前記両押し付けバー(10、10)の他端に連結され、このジャッキ(11)を操作することにより、この前記両押し付けバー(10、10)の両一端面の間の長さを調節可能としたことを特徴とする請求項1に記載の角落しゲート。
【請求項3】
上記突っ張り部材(5)を、上記堰板(3)に支持部材(8)を介して支持したことを特徴とする請求項1または2に記載の角落しゲート。
【請求項4】
発電所の放水口ゲートの下流側の放水路の幅方向両側に設けられたコンクリート製の側壁部(1、1)に、それぞれ上下方向のガイド溝(2、2)が対向して形成され、この両ガイド溝(2、2)間に堰板(3)をその両端部を前記ガイド溝(2、2)にそれぞれ挿入して設け、前記堰板(3)で水路内の水を堰き止めて、前記放水口ゲートの補修用角落しゲートを構築する際、
上記補修用角落しゲートを請求項1から3のいずれかに記載の角落しゲートとしたことを特徴とする発電所の放水口ゲートの補修用角落しゲート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−106498(P2008−106498A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289728(P2006−289728)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(591152791)株式会社JPハイテック (5)
【Fターム(参考)】