説明

触媒の保存方法及びアリル化合物の異性化方法

【課題】遷移金属を含有する触媒を長期的に保存する際、該触媒の経時劣化を抑える触媒の保存方法を提供する。
【解決手段】単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、遷移金属及びP−O結合を有する二座以上の配位子を含有する触媒を保存することを特徴とする触媒の保存方法、および前記触媒の保存に先立ち、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、前記触媒を調製する工程を更に有することを特徴とする触媒の保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の保存方法に関する。より詳細には、遷移金属及び二座以上のP−O結合を有する配位子からなる触媒を、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下に保存する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属を用いた液相均一系の触媒反応はその反応性の高さ、制御の容易さ等から重要な有機合成反応の一つであり、非常に多くの反応が開発されてきた。遷移金属を含有する触媒を反応系に供給する方法には大きく2通りの手法が考えられ、(1)各触媒成分を原料形態のまま供給する方法、(2)各触媒成分を溶媒に溶解させ、加熱、撹拌等により触媒溶液を調製した後に反応系に供給する方法のいずれかが選択される。高度に設計された液相均一系触媒では、最適な触媒組成を予め調製するために(2)の手法を用いる場合が多い。しかしながら、一般に、溶解状態にある遷移金属を含有する触媒は固体状態にあるものに比べ不安定な場合が多い。特に、酸素をはじめとする酸化物に対しては、遷移金属触媒が酸化され、その能力が劣化することもしばしば見受けられる。遷移金属と有機ホスファイトからなる錯体触媒を含む溶液を窒素雰囲気下で保存する場合、窒素中の酸素濃度管理を行うなどの対策が講じられてきた(特許文献1)。
【0003】
一方、遷移金属触媒を用いた最も重要な有機合成反応の1つとして、アリル化合物の変換反応が知られている。下記化1に示すように、脱離基Xを有する原料アリル化合物が、遷移金属触媒と反応してπ−アリル中間体を形成し、更にこのπ−アリル中間体と求核剤が反応して新たな化合物を生成する。本反応(下記化1)は脱離基と求核剤が同一の置換基でも進行し、この場合には異性化反応となる。
【0004】
【化1】

【0005】
アリル化合物の異性化反応により得られる化合物の一つである1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、ポリエステルやテトラヒドロフランの原料として需要の高い1,4−ブタンジオールの中間体である。この1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、例えばパラジウム触媒を用いたブタジエンのジアセトキシ化反応により製造することが可能である。このジアセトキシ化反応後、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化、加水分解し、1,4−ブタンジオールへと変換する技術が確立されている。しかしながら、このような共役ジエン類のジアセトキシ化反応は、アセトキシ基が付加する位置の選択率を完全に制御することが困難であり、1,4−ブタンジオールへと変換できない3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが副生する。この副生する3,4−ジアセトキシ−2−ブテンのような需要の少ないアリル化合物を異性化して1,4−ジアセトキシ−2−ブテンなど需要の多い化合物を生成することができれば、より効率の高い1,4−ブタンジオールの製造方法を確立することができる。そのため、既に様々な方法が開発されてきた。その一つとして、ホスファイト配位子を有するパラジウム錯体触媒を用いて、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンから1,4−ジアセトキシ−2−ブテンへの異性化反応に成功している(特許
文献2)。
【0006】
しかしながら、このような遷移金属を含有する触媒は、遷移金属にしばしば見受けられるように、酸素や酸化物に対する耐性が弱く、短時間の保存は可能であるものの、長期にわたる保存により触媒の活性が低下することから、工業的に実施する場合には困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−202487号公報
【特許文献2】特開2002−105025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、遷移金属を含有する触媒を長期的に保存する際、該触媒の経時劣化を抑える触媒の保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、遷移金属及びP−O結合を有する二座以上の配位子からなる触媒を、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの共存下に保存することにより、触媒の活性を低下させることなく、長期的に触媒を保存することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[7]に存する。
[1]単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、遷移金属及びP−O結合を有する二座以上の配位子を含有する触媒を保存することを特徴とする触媒の保存方法。
[2] 前記触媒の保存に先立ち、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、前記触媒を調製する工程を更に有することを特徴とする[1]に記載の触媒の保存方法。
[3]遷移金属に対するP−O結合を有する二座以上の配位子の比率が、遷移金属原子:リン原子の比で1:2〜1:40の範囲である[1]又は[2]に記載の触媒の保存方法。
[4]下記一般式(a)で表される化合物を存在させることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の触媒の保存方法。
【0011】
【化2】

【0012】
(上記式(a)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれ、Xは電子吸引基を表す。)[5]前記触媒を保存する際の温度が60℃〜130℃の範囲であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の触媒の保存方法。
[6]前記遷移金属が第8族〜第10族の遷移金属であることを特徴とする[1]〜[5
]のいずれかに記載の触媒の保存方法。
[7][1]〜[6]のいずれかに記載の方法により保存した触媒を用いてアリル化合物を異性化する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、触媒の経時劣化を抑制し、触媒の活性を維持したままで長期にわたり触媒を保存することが可能となり、従来と比較して煩雑な操作を必要とせず、安定して触媒を供給でき、しかも触媒反応プロセスのコストを削減できる工業的に有利な触媒の保存方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されない。以下、その詳細について説明する。
本発明は、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、遷移金属及び二座以上のP−O結合を有する配位子を含有する触媒を保存することを特徴とする。これにより、触媒の経時劣化を抑制し、触媒の活性を維持したままで長期にわたり触媒を保存することが可能となる。この理由は必ずしも明確ではないが、以下のような理由が考えられる。即ち、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンが、触媒に含まれる配位子よりも酸化されやすく、犠牲試薬の役割を果たし、触媒に含まれる遷移金属の空配位座への触媒劣化要因物質の配位を防止する。これにより、本発明の遷移金属及び二座以上のP−O結合を有する配位子からなる触媒に、適当な配位能を持つリン化合物が配位し、触媒の安定性が向上し、更に触媒自体の耐酸化性が強化されるからである、と推測される。本発明で使用する遷移金属は、特に限定されないが、第8族〜第10族の遷移金属(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による分類)が好ましい。具体的には、鉄、ルテニウム、オスミウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、ニッケル、パラジウム、及び白金が挙げられ、反応活性が高いという理由から、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、及び白金が好ましく、更に好ましくはパラジウムである。遷移金属は一種類で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0015】
これらの金属を、本発明における触媒として用いる際、通常、金属を含む化合物として用いるが、具体的な金属化合物としては、鉄化合物、ルテニウム化合物、オスミウム化合物、コバルト化合物、ロジウム化合物、イリジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物の群から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。その中でも、反応活性が高いという理由から、ルテニウム化合物、ロジウム化合物、ニッケル化合物、パラジウム化合物及び白金化合物が好ましく、更に好ましくはパラジウム化合物である。
【0016】
該遷移金属を含有する化合物の供給形態としては、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハライド塩、有機塩、無機塩、アセチルアセトナト化合物、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられる。ここでは、パラジウム化合物を例にして、金属化合物の具体的な供給形態としては、パラジウム金属、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロシクロオクダジエンパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリアセトン)パラジウム、カリウムテトラクロロパラダト、ナトリウムテトラクロロパラダト、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロリド二量体等が挙げられ、価格及び取り扱いにおいて酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが特に好ましい。
【0017】
本発明において、上述の遷移金属を含有する化合物の形態は特に制限されず、単量体、二量体及び/又は多量体であってもかまわない。また、これらの金属化合物の使用に際しては、ある一種類の特定の金属化合物を用いても、同一金属種であって複数の化合物を併用しても、また、異なる二種以上の金属種の化合物を共存させて用いても構わない。
これらの金属化合物の使用量は、特に制限されないが、通常、調製溶媒に対して1wtppm〜10wt%であり、好ましくは1wtppm〜1wt%、特に好ましくは10〜5000wtppmの範囲である。金属濃度が高すぎると、金属や助触媒成分の析出が問題となり、金属濃度が低すぎると長大な触媒調製槽が必要となってしまう。
【0018】
次に、本発明における触媒に含有される「P−O結合を有する二座以上の配位子」について説明する。本発明に使用可能な配位子としては、少なくとも一つのP−O結合を有するリン化合物であれば、特に制限されないが、二座又は三座のP−O結合を少なくとも一つ有するリン化合物が好ましく、具体的には、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(6−1)〜(6−7)で示される化合物が挙げられる。本発明においては、一種又は複数種の配位子を用いてもよい。
【0019】
【化3】

【0020】
式(1)〜(3)において、X〜X’’は(X1)〜(X5)から選ばれ、Y〜Y’’は(Y1)〜(Y5)から任意に選ぶことができる。(X1)〜(X5)、(Y1)〜(Y5)及び(6−1)〜(6−7)において、R、R’、R〜R54は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R、R’、R〜R54としてアルキル基を用いる場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)を用いる場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0021】
また、R、R’、R〜R54としてアリール基を用いる場合又はアリール骨格を有する置換基を用いる場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。R、R’、R〜R54がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0022】
【化4】

【0023】
A〜A’’、A〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。T〜Tは炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表
す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR5556−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R55及びR56は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、それぞれ置換基を有していても良い。
【0024】
またA〜A’’、A〜Aがアルキレン基の場合、例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられ、置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。またA〜A’’、A〜Aが置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0025】
更に、A〜A’’、A〜AがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、その炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0026】
またA〜A’’、A〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH
、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び下記の(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
本発明のP−O結合を有する二座以上の配位子を表す式(1)〜(5)及び(6−1)〜(6−7)の化合物の好ましい具体例として、下記の多座配位子(L−1)〜(L−28)を例示することができ、特に好ましい具体例として、触媒の安定性と反応活性の高さを発現できる二座の配位子であり、リン原子上の電子密度の低い配位子である(L−1)〜(L−20)を例示することができる。
【0032】
【化9】

【0033】
【化10】

【0034】
【化11】

【0035】
【化12】

【0036】
【化13】

【0037】
本発明の触媒において、遷移金属に対するP−O結合を有する二座以上の配位子の比率が、遷移金属原子:リン原子のモル比率で、1:0.1〜1:1000が好ましく、より好ましくは1:1〜1:100であり、特に好ましくは1:2〜1:40である。
本発明において、触媒が保存された状態とは、調整された触媒が、次の工程へ移されずに、ある一箇所に触媒が5分以上留まっている状態のことをいう。例えば、触媒を容器内に保存する場合は、調整された触媒が容器内に溜まっている状態のことであり、容器としては、触媒を溜めておくものであれば、特に限定されないが、例えば、貯槽タンク、ガラス容器、蒸留塔の底部などが挙げられる。また、容器に溜められた触媒を配管等を用いて反応器へ供給する場合は、その配管内に触媒を溜めておいてもよい。更に、触媒の保存中
は、触媒を攪拌槽や外部強制循環により攪拌していてもよく、本発明の効果に影響が出ない範囲で、他の化合物と混合してもよい。
【0038】
本発明において、触媒を保存する温度範囲については、特に限定されないが、25℃〜200℃が好ましく、更に好ましくは40℃〜160℃であり、特に好ましくは60℃〜130℃である。温度が高すぎると、錯体触媒のメタル化による劣化が進行し、活性の消失が起こり、また温度が低すぎた場合には、固形物の析出が懸念される。また、この触媒を保存する温度範囲については、保存中は常時この温度範囲である必要はなく、これらの温度範囲に制御されていればよい。すなわち、触媒を保存する箇所に別の工程からの影響などにより、触媒の保存温度が変動し、一時的にこの温度範囲を逸脱しても、温度を監視して、冷却・加熱などの操作により、この温度範囲内に収まるように、制御していればよい。
【0039】
また、触媒を保存する形態は特に限定されないが、触媒調製槽と同一の貯槽を用いると経済的に好ましい。貯槽内の気相部は、添加した溶媒、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、空気が漏れ込まないようにその量を極力低減させることが望ましい。本発明は、遷移金属を含有する化合物及びP−O結合を有する二座以上の配位子からなる触媒を単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの共存下で調製することにより、その効果が発揮される。そのため、触媒の調製段階で単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する複座のホスフィンを共存させておくことが望ましい。
【0040】
触媒調製を実施する温度としては、特に制限されないが、通常は、25℃〜200℃であり、好ましくは40℃〜160℃、特に好ましくは60℃〜130℃である。温度が高すぎると、錯体触媒のメタル化による劣化が進行し、活性の消失が起こり、また温度が低すぎた場合には、固形物の析出が懸念される。
触媒調製を実施する圧力は、通常1気圧であるが、減圧下又は加圧下であっても構わない。圧力が低すぎると温度の低下に伴い固形物が析出する可能性があり、圧力が高すぎると触媒調製槽のコストが増大してしまう。
【0041】
触媒を調製する際の混合方式として、円筒型又は角型の攪拌槽を用いることが好ましいが、触媒の構成要素を混合できれば特に限定されない。触媒調製槽内の気相部は、添加した溶媒、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、その量を極力低減させることが望ましい。
【0042】
本発明で使用可能な単座のホスフィンは1つのリン原子に3つの置換基が結合した化合物であれば特に限定されるものではない。通常使用可能なホスフィン類は、式(4):PZ1Z2Z3(式中Z1〜Z3は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(環状アルキル基も包含)、アリール基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよい)で表されるホスフィン類である。これらホスフィン類は単一で用いても、数種類の混合物で用いてもよい。
【0043】
単座のホスフィンの好ましい例として、Z1〜Z3がそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜50のアルキル基、炭素数6〜50のアリール基を挙げることができる。具体例を示すと、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(4-トリフルオロ
メチルフェニル)ホスフィン、トリ(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン、ジメチルフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフ
ィン、トリオクチルホスフィン、ジシクロヘキシルフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、特に好ましくはトリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(4-トリフルオロメチルフェニル)ホスフィン、トリ(4-メトキシフェニル)ホスフィン、トリ(2-フリル)ホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルイソプロピルホスフィン等である。
【0044】
本発明で使用可能なアリール基を有する二座以上のホスフィンはリン原子に3つの置換基が結合し、そのうち1つ以上の置換基で別のリン原子と結合している化合物であり、且つ1つ以上のアリール基を有する化合物であれば特に限定されるものではない。通常使用可能な少なくとも1つのアリール基を有する複座のリン化合物は、次の(a)〜(d)、(a’)〜(e’)で表される。
【0045】
(a)Z4−B−Z4 (a′)Z4−C−Z4
(b)Z4−B−Z5 (b′)Z4−C−Z5
(c)Z5−B−Z5 (c′)Z5−C−Z5
(d)Z5−B−Z6 (d′)Z5−C−Z6
(e′)Z6−C−Z6
式(a)〜(d)、(a’)〜(e’)において、Z4は、−PZ7Z8(式中Z7、Z8は、それぞれ独立して、アリール基、アリールアミノ基、アリールチオ基を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよい)で表される化合物であり、Z5は、−PZ9Z10(式中Z9は、アリール基、アリールアミノ基、アリールチオ基を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよく、Z10は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(環状アルキル基も包含)、アミノ基、アルキルチオ基、を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよい)で表される化合物であり、Z6は、−PZ11Z12(式中Z11、Z12は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基(環状アルキル基も包含)、アミノ基、アルキルチオ基、を表し、更に置換基を有する多座配位子でもよい)で表される化合物である。Bは、独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基を表し、例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられ、置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。Cは、独立して置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。更に、CがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、その炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。尚、Qは−CR5556−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R55及びR56は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。
【0046】
これら、アリール基を有する二座以上のホスフィンは単一で用いても、数種類の混合物で用いてもよい。
アリール基を有する二座以上のホスフィンの好ましい例として、二座トリアリールホスフィン、二座ジアリールホスフィン、二座モノアリールホスフィンが挙げられる。更に好ましい化合物の具体例としては、二座トリアリールホスフィンとして、9,9−ジメチル
−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン、二座ジアリールホスフィンとして、ジフェニルホスフィノエタン、ジフェニルホスフィノプロパン、二座モノアリールホスフィンとして、メチルフェニルホスフィノエタンが挙げられる。特に好ましくはジフェニルホスフィノエタン、9,9−ジメチル−4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)ザンテン等である。
【0047】
単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの使用量は、触媒に用いる遷移金属化合物に対する比率(モル比)として、0.1〜1000の値を採用することができ、好ましい量として1〜500であり、より好ましい量として1〜100である。使用量が低すぎた場合には、触媒の安定化効果が得られず、また多すぎた場合には触媒コスト増大のため、プロセスの競争力が低下する。また、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンは、遷移金属化合物及びP−O結合を有する二座以上の配位子を含有する触媒を調製時に存在させておき、調製した後、そのまま保存することが好ましい。
【0048】
触媒を保存する時間としては、特に制限されないが、熱履歴や微量の空気の影響を極力さけるために2週間以内、好ましくは1週間以内に使用することが好ましい。本発明にて、触媒を調製し、そして触媒を保存する際には、溶媒を存在させていてもよい。本発明の触媒成分と混合するものであれば使用可能であり、特に限定はされない。具体例としては、共役ジエン類のジアセトキシ化反応で得られるジアセトキシアリル化合物、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(
THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン
類、酢酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸等のカルボン酸類、本発明の触媒を用いる反応で生成する副生物そのもの、または本発明の触媒を用いて反応させる原料化合物そのもの、反応生成物そのもの等が挙げられる。特に好ましい溶媒として、本発明の触媒を用いて反応させる原料化合物そのもの、生成物そのもの等が挙げられる。
【0049】
本発明の触媒を用いて実施可能な反応としては、種々の有機反応が実施可能であり、特にアリル化合物の異性化反応に有効である。具体的には、ブタジエンを、酢酸及び酸素の存在下に触媒によってジアセトキシ化反応させて得られた目的物の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンと副生成物の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む反応生成物から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分として含有する液を蒸留分離し、続いて本発明の触媒により3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを異性化することで1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを得るプロセスに特に有効である。すなわち、該異性化反応により1,4−ブタンジオール製造プロセスにおける中間体である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの選択率を改善することで、1,4−ブタンジオールの一貫収率を向上させることができる。
【0050】
また、本発明の触媒を、反応器に供給する際は、保存の際に用いた、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンを共に反応器に供給してもよい。反応器から予め、反応器に供給する前に、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンを分離する場合は、反応器の前工程で蒸留塔などを用いて、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンを分離した後に、反応器に供給する。 また、反応により得られた生成物と触媒の分離は、慣用の液体触媒再循環プロセスで用いられるあらゆる分離操作を採用することができ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション
)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の分離操作が挙げられる。各分離操作は、各々独立の工程で行ってもよく、2つ以上の成分の分離を同時に行ってもよい。原料化合物やリン化合物は、同様の分離方法で回収し、再び反応器にリサイクルすることも可能である。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。その際、内部標準としてn−ドデカンを使用した。
<調製例1>
酢酸パラジウム10.1mg及びトリフェニルホスフィン48.6mg を50ccの
シュレンク管に入れ、二座ホスファイト配位子(L−4)97.1mgを加えて窒素置換後、トルエン20ccを加えた後、80℃で1時間加熱して触媒液を調製した。
【0052】
<参考例1>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、1.5gの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1.5gの酢酸を入れ、調製例1で調製した直後の触媒液を11μl加え、オイルバスで130℃に昇温し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を行った。3時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は32:68であった。
【0053】
<実施例1>
調製例1で得られた触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、温度を80℃に維持し、24時間保存した。そして、この触媒液を用いて参考例1と同様の異性化反応を行った。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は32:68であった。
【0054】
参考例1と実施例1を比べても、調製した触媒液の保存前後において触媒液の劣化は見られなかった。結果を表1に示す。
<調製例2>
酢酸パラジウム16.0mg及びジフェニルホスフィノエタン57.6mg を50c
cのシュレンク管に入れ、二座ホスファイト配位子(L−4)153.1mgを加えて窒素置換後、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン30gを加えた後、80℃で1時間加熱して触媒液を調製した。
<参考例2>
参考例1において、調製例1で得られた触媒液を用いる代わりに、調製例2で得られた触媒液を14μl用いた以外は、参考例1と同様に異性化反応を実施した。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は40:60であった。
【0055】
<実施例2>
調製例2で得られた触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、温度を60℃に維持し、24時間保存した。そして、この触媒液を用いて参考例2と同様に異性化反応を実施した。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は40:60であった。参考例2と実施例2を比べても、調製した触媒液の
保存前後において触媒液の劣化は見られなかった。結果を表1に示す。
<調製例3>
調製例1のトリフェニルホスフィンの代わりにジメチルホスフィノエタン(26mg)を用いた以外は、調製例1と同様に触媒液を調整した。
<比較例1>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、1.5gの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1.5gの酢酸を入れ、調製例3で得られた触媒液を11μl加え、オイルバスで130℃に昇温し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を行った。3時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は14:86であった。
【0056】
更に、上記触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、80℃に維持し、24時間保存した。保存後の触媒溶液を用いて再び上記と同様の異性化反応を行った。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は4:96であった。調製した触媒液の保存前後において触媒の劣化が見られた。結果を表1に示す。
<調製例4>
酢酸パラジウム16.0mg及びトリフェニルホスフィン38.3mg を50ccの
シュレンク管に入れ、二座ホスファイト配位子(L−4)153.8mgを加えて窒素置換後、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン30gを加えた後、80℃で1時間加熱して触媒液を調製した。
【0057】
<参考例3>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、1.5gの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1.5gの酢酸を入れ、調製例1で調製した直後の触媒液を14μl加え、オイルバスで130℃に昇温し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を行った。3時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は42:58であった。
<実施例3>
調製例4で得られた触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、温度を60℃に維持し、1週間保存した。そして、この触媒液を用いて参考例3と同様の異性化反応を行った。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は42:58であった。
【0058】
参考例3と実施例3を比べても、調製した触媒液の保存前後において触媒液の劣化は見られなかった。結果を表1に示す。
<調製例5>
調製例4のトリフェニルホスフィンを添加しないこと以外は、調整例4と同様に触媒液を調整した。
<比較例2>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、1.5gの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1.5gの酢酸を入れ、調製例5で得られた触媒液を14μl加え、オイルバスで130℃に昇温し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を行った。3時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は35:65であった。
【0059】
更に、上記触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、60℃に維持し、5日間保存した。保存後の触媒溶液を用いて再び上記と同様の異性化反応を行った。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は30:70であった。調製した触媒液の保存前後において触媒の劣化が見られた。結果を表1に示す。
<調製例6>
酢酸パラジウム4.2mg及びトリフェニルホスフィン49.0mg を50ccのシ
ュレンク管に入れ、二座ホスフォラアミダイト配位子(L−12)38.2mgを加えて窒素置換後1,4−ジアセトキシ−2−ブテン13.39gを加えた後、90℃で1時間加熱して触媒液を調製した。
【0060】
<参考例4>
窒素ガス雰囲気下、30ccのガラス製シュレンク管内に、4.4gの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、90mgの酢酸を入れ、調製例6で得られた触媒液を36μl加え、オイルバスで155℃に昇温し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの異性化反応を行った。3時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は53:47であった。
<実施例4>
調製例6で得られた触媒液を調製に用いたシュレンク管内に入れたまま、温度を80℃に維持し、24時間保存した。そして、この触媒液を用いて参考例4と同様の異性化反応を行った。反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの重量比率は53:47であった。
【0061】
【表1】

【0062】
参考例4と実施例4を比べても、調製した触媒液の保存前後において触媒液の劣化は見られなかった。結果を表1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、遷移金属及びP−O結合を有する二座以上の配位子を含有する触媒を保存することを特徴とする触媒の保存方法。
【請求項2】
前記触媒の保存に先立ち、単座のホスフィン及び/又はアリール基を有する二座以上のホスフィンの存在下で、前記触媒を調製する工程を更に有することを特徴とする請求項1に記載の触媒の保存方法。
【請求項3】
遷移金属に対するP−O結合を有する二座以上の配位子の比率が、遷移金属原子:リン原子の比で1:2〜1:40の範囲である請求項1又は2に記載の触媒の保存方法。
【請求項4】
下記一般式(a)で表される化合物を存在させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の触媒の保存方法。
【化1】

(上記式(a)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれ、Xは電子吸引基を表す。)

【請求項5】
前記触媒を保存する際の温度が60℃〜130℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の触媒の保存方法。
【請求項6】
前記遷移金属が第8族〜第10族の遷移金属であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の触媒の保存方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により保存した触媒を用いてアリル化合物を異性化する方法。

【公開番号】特開2009−233659(P2009−233659A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46757(P2009−46757)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】