説明

触媒インクおよび膜電極ガス拡散層接合体の製造方法

【課題】MEAとガス拡散層との接着強度の向上及びMEAの耐久性の向上。
【解決手段】触媒層となる触媒インクを作製する(ステップS10)。触媒インクに含まれるアイオノマーは、一部が、触媒インクに含まれる触媒担持粒子の表面に吸着し(吸着アイオノマー)、残りのアイオノマーは、触媒担持粒子に吸着せず(未吸着アイオノマー)、触媒インク内に存在する。触媒インク中の未吸着アイオノマーの量は分散に要する時間によって変化する。触媒インクにおける未吸着アイオノマーの重量WFIは、0.45×WC ≦ WFI ≦0.60×WCの範囲内に含まれる。WCは触媒インク中の導電性粒子の重量を表す。上記範囲を満たす触媒インクを用いて、各触媒層を作製し、(ステップS12)、触媒層を電解質膜に転写し(ステップS14)、電解質膜に転写された触媒層に、MPLを圧着する(ステップS16)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の電極触媒層を形成するための触媒インク、および、触媒インクを用いて膜電極ガス拡散層接合体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解質膜上に電極触媒層が形成された膜電極接合体(MEA)を、ガス拡散層によって狭持した膜電極ガス拡散層接合体(MEGA)を用いた燃料電池が利用されている。このようなMEGAは、MEAとガス拡散層との接着強度の向上を図るために、MEAとガス拡散層の間に、導電性カーボンと高分子電解質からなる接着層を備えるものがある。接着層は、乾燥した電極触媒層上にカーボンインクを塗工することにより形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−214045号公報
【特許文献2】特開2003−282079号公報
【特許文献3】特開2006−294267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、MEAとガス拡散層との接合において、接着層を介在させなくてはならず、接着層となるカーボンインクをMEAの電極触媒層上へ塗工する際に、電解質膜や電極触媒層に吸水されやすいアルコールなどの、カーボンインクに含まれる溶媒が再溶解することがある。再溶解した溶媒によって電解質膜の膨潤や電極触媒層の膨潤収縮が生じ、電極触媒層に亀裂が生じるおそれがある。この結果、MEGAの耐久性の低下、ひいては、MEGAを備える燃料電池の耐久性の低下を招くおそれがある。
【0005】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、MEGAにおけるMEAとガス拡散層との接着強度の向上を図るとともに、MEGAの耐久性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池の電極を作製するために用いられる触媒インクであって、導電性粒子に触媒が担持されている触媒担持粒子と、アイオノマーを含み、前記アイオノマーは、前記触媒担持粒子に吸着した吸着アイオノマーと、前記触媒担持粒子に吸着していない未吸着アイオノマーと、を含み、前記触媒インクにおける前記未吸着アイオノマーWFIの重量は、WCを触媒インク中の導電性粒子の重量としたとき、
FI ≧0.45×WC (式1)
によって記載される範囲内に含まれることを特徴とする、触媒インク。
【0008】
適用例1の触媒インクによれば、触媒インクを用いて作製された触媒層シートの端面に、未吸着アイオノマーが多数存在する。従って、適用例1の触媒インクを用いて作製された触媒層シートと他の部材、例えば、ガス拡散層とを、接着層を介在させずに接合できる。よって、触媒層シートの損傷を抑制しつつ、触媒層シートと他の部材との接合強度を向上できる。
【0009】
[適用例2]
適用例1の触媒インクであって、前記触媒インクにおける前記未吸着アイオノマーの重量は、更に、
FI ≦ 0.60×WC (式2)
によって規定される範囲内に含まれることを特徴とする、触媒インク。
【0010】
適用例2の触媒インクによれば、触媒インクを用いて作製された触媒層シートの端面に、未吸着アイオノマーが過度に存在することを抑制できる。従って、触媒層シートの耐久性、および、触媒層シートと他の部材との接合強度を向上しつつ、他の部材(例えばガス拡散層)に形成されている細孔が未吸着アイオノマーによって閉塞されることによる発電性能の低下を抑制できる。
【0011】
[適用例3]
適用例1または適用例2の触媒インクであって、前記導電性粒子と前記アイオノマーは、重量比が1.0であることを特徴とする、触媒インク。
【0012】
適用例3の触媒インクによれば、導電性粒子とアイオノマーの重量比は1.0となるように混合されている。従って、触媒インクの作製工程において、溶媒と混合されたアイオノマーのうち、未吸着アイオノマーと導電性粒子との重量比を簡易に計算できる。
【0013】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3いずれかに記載の触媒インクであって、前記導電性粒子は、炭素系材料を含む、触媒インク。
【0014】
適用例4の触媒インクによれば、従来から触媒として使用されている炭素系材料を利用して、耐久性、接着性の高い触媒層シートを作製するための触媒インクを提供できる。
【0015】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4いずれかに記載の触媒インクであって、前記アイオノマーは、フッ素系樹脂材料である、触媒インク。
【0016】
適用例5の触媒インクによれば、従来からアイオノマーとして利用されているフッ素系樹脂材料を利用して、耐久性、接着性の高い触媒層シートを作製するための触媒インクを提供できる。
【0017】
[適用例6]
適用例1ないし適用例5いずれかに記載の触媒インクを用いて膜電極ガス拡散層接合体を製造する製造方法であって、前記触媒インクを撥水性シートに塗布し、前記撥水性シートに塗布された前記触媒インクを乾燥させて触媒層シートを作成し、前記触媒層シートの第1の面側を電解質膜に対向させて、前記触媒層シートを前記電解質膜に転写し、前記触媒層シートにおいて、前記第1の面側とは異なる第2の面側に、導電性撥水層を圧着する、製造方法。
【0018】
適用例6の製造方法によれば、適用例1ないし適用例5のいずれかの触媒インクを用いて膜電極ガス拡散層接合体が作製される。すなわち、導電性撥水層との接着面に、未吸着アイオノマーが多量に存在する電極触媒層を備える膜電極ガス拡散接合体を製造できる。アイオノマーは、金属に対して高接着性を有しているので、接着層を介在させずに、電極触媒層と導電性撥水層を圧着接合できる。従って、電極触媒層を損傷することなく、電極触媒層と導電性撥水層とが高い接着強度で接着された膜電極ガス拡散層接合体を製造できる。ひいては、適用例6の製造方法によって製造された膜電極ガス拡散層接合体を搭載する燃料電池の耐久性向上を図ることができる。
【0019】
本発明において、上述した種々の態様は、適宜、組み合わせたり、一部を省略したりして適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例の燃料電池100の概略構成を示す説明図。
【図2】アノード側触媒層12近傍を拡大して示す説明図。
【図3】実施例におけるMEGA10の製造工程を説明するフローチャート。
【図4】実施例における分散過程における触媒インクについて説明する説明図。
【図5】実施例におけるアノード側触媒層12の形成について説明する説明図。
【図6】実施例におけるアノード側触媒層12の電解質膜11への転写について説明する説明図。
【図7】実施例におけるアノード側触媒層12とアノード側MPL15bとの圧着について説明する説明図。
【図8】実施例の製造方法によって製造されたMEGAに対して行った剥離強度試験の結果を示すグラフ。
【図9】実施例における未吸着アイオノマー重量の測定方法を概略的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施例:
A1.MEGAの概略構成:
図1は、実施例の燃料電池100の概略構成を示す説明図である。燃料電池100は、膜電極ガス拡散層接合体(MEGA:Membrane-Electrode&Gas. Diffusion Layer Assembly)10と、アノード側セパレータ20と、カソード側セパレータ30と、を備えている。MEGA10は、膜電極接合体(MEA)14と、MEA14のアノード側の面に形成されたアノード側ガス拡散層15と、カソード側の面に形成されたカソード側ガス拡散層16と、を備えている。MEA14は、電解質膜11と、電解質膜11のアノード側の面に形成されたアノード側触媒層12と、カソード側の面に形成されたカソード側触媒層13と、を備えている。アノード側ガス拡散層15は、アノード側拡散基材層15aと、アノード側拡散基材層15aのアノード側触媒層12側の面に形成されたアノード側微細多孔質層(MPL:Micro Porous Layer)15bと、を備えている。アノード側ガス拡散層15は、アノード側MPL15bがアノード側触媒層12に接するように形成されている。カソード側ガス拡散層16は、カソード側拡散基材層16aと、カソード側拡散基材層16aのカソード側触媒層13側の面に形成されたカソード側微細多孔質層(MPL)16bと、を備えている。カソード側ガス拡散層16は、カソード側MPL16bがカソード側触媒層13に接するように形成されている。
【0022】
電解質膜11は、スルホン酸基を含むフッ素樹脂系イオン交換膜であり、デュポン社のナフィオン(登録商標)や、旭化成(株)のアシプレックス(登録商標)や、旭硝子(株)のフレミオン(登録商標)等を用いることができる。なお、電解質膜11としては、スルホン酸基に限らず、リン酸基やカルボン酸基など、他のイオン交換基(電解質成分)を含む膜を用いることができる。
【0023】
アノード側触媒層12およびカソード側触媒層13は、触媒として機能する白金等の白金族金属や白金族元素の合金が、導電性物質として機能する炭素系材料に触媒が担持された触媒担持粒子と、電解質膜11と同様の電解質成分であるアイオノマーとを含む。アイオノマーは、一部は触媒担持粒子を被覆するように触媒担持粒子に吸着し、残りは触媒担持粒子に吸着せずにアノード側触媒層12に存在する。以降、本明細書では、触媒担持粒子に吸着したアイオノマーを吸着アイオノマーとよび、触媒担持粒子に吸着していないアイオノマーを未吸着アイオノマーと呼ぶ。
【0024】
導電性物質として機能する炭素系材料としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒としては、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を使用することができる。また、白金合金としては、例えば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を用いることができる。
【0025】
アイオノマーとして、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂材料(例えばナフィオン)や、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質等を用いることができる。
【0026】
図2は、アノード側触媒層12近傍を拡大して示す説明図である。アノード側触媒層12の第1の面115側には電解質膜11が接合されており、アノード側触媒層12の第2の面116側には、アノード側MPL15bが接合されている。実施例におけるアノード側触媒層12は、後述する方法により作成された触媒インクを撥水性シートに塗布することによって形成される。
【0027】
アノード側触媒層12の第2の面116側(アノード側MPL15b側)(図2)には、アイオノマー層112が形成されている。アイオノマー層112は、吸着アイオノマーと、未吸着アイオノマーとを含む。アイオノマーは、金属との接着性に優れているので、アイオノマー層112に存在する未吸着アイオノマーの接着力によって、アノード側触媒層12とアノード側MPL15bとが接着される。なお、図2では、アノード側触媒層12近傍について説明しているが、カソード側触媒層13はアノード側触媒層12と同様に作製されるので、カソード側触媒層13における、カソード側MPL16bとの境界面側にも、アノード側触媒層12と同様にアイオノマー層112が形成されており、アイオノマーの接着力により、カソード側触媒層13とカソード側MPL16bとが接着される。
【0028】
アノード側ガス拡散層15のアノード側拡散基材層15aおよびカソード側ガス拡散層16のカソード側拡散基材層16aは、例えば、カーボンペーパーやカーボンクロスやガラス状カーボン等のカーボン多孔質体や、金属メッシュや発泡金属等の金属多孔質体を用いることができる。また、撥水性を得るために、拡散層用基材を、撥水ペーストでコーティング(撥水処理)したものを用いることができる。なお、撥水ペーストとしては、例えば、カーボン粉末と撥水性樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)との混合溶液を用いることができる。アノード側ガス拡散層15のアノード側MPL15bおよびカソード側ガス拡散層16のカソード側MPL16bは、アノード側拡散基材層15aおよびカソード側拡散基材層16aよりも微細な気孔を有しており、導電性部材としてのカーボンブラックと、撥水性部材としてのPTFEと、から構成される。
【0029】
アノード側セパレータ20およびカソード側セパレータ30は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、プレス成型した金属板によって構成することができる。アノード側セパレータ20の表面は凸凹形状となっており、アノード側ガス拡散層15のアノード側拡散基材層15aとの間には、燃料ガスが流れる燃料ガス流路20aが形成されている。同様にして、カソード側セパレータ30とカソード側ガス拡散層16のカソード側拡散基材層16aとの間には、酸化ガスが流れる酸化ガス流路30aが形成されている。
【0030】
図1に示した燃料電池100は、MEGA10をアノード側セパレータ20とカソード側セパレータ30でMEGA10の両側から挟み込むことにより作製することができる。そして、MEGA10は、以下で説明するように作製することができる。
【0031】
A2.MEGAの製造方法:
実施例のMEGA10の製造方法について、図3〜図7を参照して説明する。図3は、実施例におけるMEGA10の製造工程を説明するフローチャートである。
【0032】
アノード側触媒層12、カソード側触媒層13となる触媒インクを作製する(ステップS10)。図4は、実施例における触媒インクの作製工程について説明する説明図である。図4(a)に示すように、実施例では、触媒インク200は、導電性粒子に触媒が担持された触媒担持粒子212、アイオノマー214としてのパーフルオロスルホン酸ポリマー、純水、エタノール、プロピレングリコールからなる溶媒210を混合して、遊星型ボールミル(レッチェ製のPM200)を用いて所定時間(例えば30分間)、分散を行うことにより生成される。なお、触媒インク200に用いられるアイオノマー214と導電性粒子としてのカーボンは、I/C=1.0(ただし、I:アイオノマー重量、C:カーボン重量)となるように秤量されている。触媒インク200は、例えば、触媒担持粒子212を10wt%、アイオノマー214としてのパーフルオロスルホン酸ポリマーを10wt%、純水、エタノール、プロピレングリコールからなる混合溶媒210を80wt%の割合で混合して作製される。
【0033】
図4(b)に示すように、分散過程において、触媒インク200に含まれるアイオノマー214は、一部が触媒担持粒子212の表面に吸着し(吸着アイオノマー216)、残りのアイオノマーは、触媒担持粒子212に吸着せず(未吸着アイオノマー218)、溶媒210内に存在する。なお、分散に要する時間によって、未吸着アイオノマーの量が変化する。すなわち、分散時間が長ければ触媒担持粒子212に吸着する吸着アイオノマー216の量が増加して、未吸着アイオノマー218の量が減少する。
【0034】
実施例では、触媒インク200における未吸着アイオノマー218の重量WFIは、下記の式1の範囲内に含まれることを特徴とする。ただし、式1において、WCは触媒インク中の導電性粒子としてのカーボンの重量を表す。
0.45×WC ≦ WFI ≦0.60×WC(式1)
【0035】
上記式1の条件を満たす触媒インク200を用いて、各触媒層12、13を作製する(ステップS12)。触媒層12、13の作製について、図5を参照してアノード側触媒層12を例に説明する。なお、カソード側触媒層13は、アノード側触媒層12と同様に作製される。
【0036】
図5は、実施例におけるアノード側触媒層12の形成について説明する説明図である。図5(a)は、触媒インク200が撥水性シートに塗布された概観を示す。図5(b)は、撥水性シートに塗布された触媒インク200における、未吸着アイオノマーの移動過程を示す。図5(c)は、撥水性シートに塗布された触媒インク200の乾燥後の概観を示す。アノード側触媒層12は、以下の2ステップによって形成される。図5(a)に示すように、撥水性シート250に触媒インク200を塗布し(ステップS12a)、80℃で5分間乾燥する(ステップS12b)。撥水性シート250上に塗布された触媒インク200は、塗布から乾燥までの過程において、図5(b)に示すように未吸着アイオノマー218が撥水性シート250との接触界面へ移動する。これは、未吸着アイオノマー218が界面活性剤として作用し、触媒インク200に含まれる水と撥水性シート250との界面(撥水性シート250の表面)に移動するためである。触媒インク200が乾燥すると、図5(c)に示すように、撥水性シート250との表面を被覆するように未吸着アイオノマー218が存在するアノード側触媒層12が形成される。撥水性シート250として、例えば、テフロン(登録商標)シートを利用してもよい。
【0037】
触媒層12に含まれるアイオノマーの接着力を利用してアノード側触媒層12とアノード側MPL15bとを直接接着する場合、触媒担持粒子212に吸着している吸着アイオノマー216だけでは、接着強度を十分に確保できない可能性がある。そのため、実施例では、未吸着アイオノマー218を有する触媒インク200を用いてアノード側触媒層12を作製することにより、アノード側触媒層12の端面に未吸着アイオノマー218を集約し、触媒担持粒子212を被覆する吸着アイオノマー216と未吸着アイオノマー218との接着力を利用して、アノード側触媒層12と他の部材との接着強度の向上を図っている。なお、図5〜図7では、触媒担持粒子212やアイオノマー216,218を拡大して模式的に示しているためシート状に示されていないが、実際は、第1の面115、第2の面116を有する薄膜シート(例えば、厚みが10μm)状に形成されている。なお、カソード側触媒層13の形成工程も、アノード側触媒層12の形成工程と同様に行われる。第2の面116側には、未吸着アイオノマー218と、触媒担持粒子212の表面に吸着している吸着アイオノマー216とを含むアイオノマー層112が形成されている。
【0038】
次に、アノード側触媒層12を電解質膜11に転写する(ステップS14)。図6は、実施例における電解質膜11へのアノード側触媒層12の転写について説明する説明図である。図6に示すように、アノード側触媒層12の第1の面115と電解質膜11とが接合されるように、アノード側触媒層12を電解質膜11に転写する。こうすることにより、未吸着アイオノマー218が多数存在するアノード側触媒層12の第2の面116が露出する。
【0039】
電解質膜11に転写されたアノード側触媒層12に、アノード側MPL15bを圧着する(ステップS16)。図7は、実施例におけるアノード側触媒層12とアノード側MPL15bとの圧着について説明する説明図である。図7に示すように、アノード側触媒層12の第2の面116側にアノード側MPL15bを配置し、例えば、100℃で4分間、矢印に示すように、1MPaの圧力をかける。アイオノマー層112に含まれるアイオノマー216、218が接着機能を発揮し、アノード側触媒層12とアノード側MPL15bとが強固に接着される。なお、カソード側触媒層13とカソード側MPL16bとの接着工程も、アノード側触媒層12とアノード側MPL15bとの接着工程と同様に行われる。以上説明したように、MEGA10が作製される。
【0040】
A3.実験結果:
上述した方法で作製されたMEGAを用いた各種試験の結果を、表1および図8を参照して説明する。表1は、実施例の製造方法によって製造されたMEGAに対して行った種々の試験結果を示す表である。図8は、実施例の製造方法によって製造されたMEGAに対して行った剥離強度試験の結果を示すグラフである。
【0041】
【表1】

【0042】
表1および図8に示す試験で用いた実験例1〜6の触媒インクは、図3のステップS10において説明した触媒インクの作製工程に従って作製された。ただし、実験例1〜6の触媒インクは、それぞれ、遊星型ボールミルでの分散時間が異なる。実験例1の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を5分とした。実験例2の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を30分とした。実験例3の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を60分とした。実験例4の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を120分とした。実験例5の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を180分とした。実験例6の触媒インクは、遊星型ボールミルの分散時間を240分とした。
【0043】
表1における各項目は、次の通りである。
D50(μm):触媒インクの粒度分布積算分率50%の値を示す。
FI:未吸着アイオノマー重量を示す。(Wc:カーボン重量)
剥離強度(N/m):GDL側、電解質膜側をそれぞれテープで固定し、剥離試験器により電解質膜側を剥離した90度剥離強度の測定結果を示す。なお、MEGA10において、実験的に、触媒層とMPLとの剥離強度(N/m)が15N/m以上であれば、十分な接着強度を有する。
乾湿サイクル:乾湿サイクル試験によるMEGAの耐久性の測定結果を示す。具体的には、一方の面にガス拡散層を熱圧着したMEGAを60℃の温水に5分間、その後60℃のドライ温風雰囲気下に5分間曝す工程を1サイクルとした乾湿サイクルを、200回繰り返した後にはがれが生じたか否かを示す。OKは、はがれが生じなかったことを示す。
発電性能:各実験例の触媒インクを用いて作製された触媒層を備えるMEGAをセパレータで狭持してセルを製造し、セル温度を50℃とし、カソードに空気、アノードに水素ガスを供給し、両電極を50℃露点加湿に調整し、電流値が1.2A/cm2のときのセル電圧の測定結果を示す。
【0044】
また、図8において、縦軸は剥離強度を示し、横軸は未吸着アイオノマー重量(表1のWFI)を示す。
【0045】
表1に示すように、触媒インクの分散時間の増大に伴い、触媒担持粒子212に吸着するアイオノマーの量が増加し(吸着アイオノマーが増加し)、未吸着アイオノマーWFIの量が減少する。実験例1〜4の触媒インクを用いた場合、剥離強度=15N/m以上となるため、十分な剥離強度を有し、かつ、乾湿サイクル試験においてもはがれが生じない。一方、実験例5、6の触媒インクを用いた場合、剥離強度は15N/m未満となるため十分な剥離強度を有さず、また、乾湿サイクル試験においてもはがれが生じる。
【0046】
よって、実施例では、触媒インクに含まれる未吸着アイオノマー重量の下限値を、式2に示すように、実験例4における触媒インクの未吸着アイオノマー重量WFI(0.45×Wc)以上とした。
FI ≧0.45×WC(式2)
【0047】
一方、表1に示すように、実験例1の触媒インクでは、発電性能が低下している。この発電性能の低下は、各触媒層12、13のアイオノマー層112に未吸着アイオノマーが多量に存在するために、触媒層12、13とアノード側MPL15b、カソード側MPL16bとの圧着工程において、未吸着アイオノマーによってアノード側MPL15b、カソード側MPL16bの細孔が閉塞され、ガス供給が阻害されるためと考えられる。よって、各触媒層12、13の、MLP15b、16bとの接合面であるアイオノマー層112に、未吸着アイオノマーが過度に存在しないようにするために、触媒インクに含まれる未吸着アイオノマー重量WFIは、
FI ≦ 0.60×Wc(式3)
の範囲内に含まれることが、より好ましい。
【0048】
すなわち、実施例の触媒インクは、未吸着アイオノマー重量WFIが、
0.45×Wc ≦ WFI ≦ 0.60×Wc(式1)
の範囲内に含まれるように、分散時間を制御することにより製造される。
【0049】
ここで、触媒インクにおける未吸着アイオノマー218の重量の測定方法について、図9を参照して説明する。図9は、実施例における未吸着アイオノマー重量の測定方法を概略的に示す説明図である。ろ過装置300は、漏斗310と、濾紙320と、回収容器330とから構成される。濾紙320は、50μmの厚みを有する多孔質紙である。濾紙320は、漏斗310上に載せられている。
【0050】
図3のステップS10に説明する方法で作製した触媒インク200を、図9に示すように、漏斗310に入れ、濾紙320によって濾過を行う。濾紙320上に残る残留物(濾物)200bを乾燥させて回収する。残留物200bには、アイオノマーが吸着した被覆触媒担持粒子が含まれる。濾紙320を通過し、回収容器330に回収された濾液200aには、未吸着アイオノマー218が含まれる。残留物200bをTG測定し、残留物200bの組成比を特定する。具体的には、触媒担持粒子と触媒担持粒子を被覆する吸着アイオノマーの重量比を特定する。この特定結果に基づいて、触媒インク200における未吸着アイオノマーの重量WFIを算出する。
【0051】
以上説明した実施例の触媒インク200によれば、触媒インク200に含まれる未吸着アイオノマーの重量WFIは、WFI ≧0.45×WC の範囲内とされる。よって、端面(第2の面116)に、未吸着アイオノマーが多量に存在するアイオノマー層112が形成された触媒層12,13を作製できる。従って、接着層を介在させずに、触媒層12、13と他の部材、例えば、アノード側MPL15b、カソード側MPL16bとを接合できる。よって、触媒層12,13の損傷を抑制しつつ、触媒層12,13と他の部材との接合強度を向上できる。
【0052】
また、実施例の触媒インク200によれば、触媒インク200に含まれる未吸着アイオノマーの重量WFIは、更に、WFI ≦ 0.60×WC の範囲内とされる。触媒インク200を用いて作製された触媒層12、13の端面側(アイオノマー層112)に、未吸着アイオノマー218が過度に存在することを抑制できる。従って、触媒層12,13と他の部材との接合強度を向上しつつ、他の部材(例えばMPL)に形成されている細孔が未吸着アイオノマー218によって閉塞されることによる、燃料電池の発電性能の低下を抑制できる。
【0053】
実施例のMEGA10の製造方法によれば、作製された触媒層12、13の、撥水性シート250側の面である第2の面116側には、未吸着アイオノマー218が集約されたアイオノマー層112が形成される。アイオノマーは、金属に対して高接着性を有しているので、接着層を介在させずに、触媒層12,13とMPL15b、16bを圧着接合できる。従って、触媒層12、13を損傷することなく、触媒層12,13とMPL15b、16bとが高い接着強度で接着されたMEGA10を製造できる。ひいては、実施例の製造方法によって製造されたMEGAを搭載する燃料電池100の耐久性向上を図ることができる。
【0054】
B.変形例:
B1.変形例1:
実施例では、触媒インクの未吸着アイオノマー重量WFIを、WFI ≧0.45×WC(式3)としたが、剥離強度=15N/m以上であれば、十分な剥離強度を有し、かつ、乾湿サイクル試験においてもはがれが生じないから、触媒インクに含まれる未吸着アイオノマー重量の下限値は、剥離強度=15N/mのときの未吸着アイオノマー重量A(図7)としてもよい。
【0055】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成をとることができる。
【符号の説明】
【0056】
10…MEGA
11…電解質膜
12…アノード側触媒層
13…カソード側触媒層
14…MEA
15…アノード側ガス拡散層
15a…アノード側拡散基材層
16…カソード側ガス拡散層
16a…カソード側拡散基材層
20…アノード側セパレータ
20a…燃料ガス流路
30…カソード側セパレータ
30a…酸化ガス流路
100…燃料電池
112…アイオノマー層
115…第1の面
116…第2の面
200…触媒インク
210…溶媒
212…触媒担持粒子
214…アイオノマー
216…未吸着アイオノマー
218…吸着アイオノマー
250…撥水性シート
300…ろ過装置
310…漏斗
320…濾紙
330…回収容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池の電極を作製するために用いられる触媒インクであって、
導電性粒子に触媒が担持されている触媒担持粒子と、
アイオノマーを含み、
前記アイオノマーは、
前記触媒担持粒子に吸着した吸着アイオノマーと、
前記触媒担持粒子に吸着していない未吸着アイオノマーと、を含み、
前記触媒インクにおける前記未吸着アイオノマーの重量WFIは、WCを触媒インク中の導電性粒子の重量としたとき、
FI ≧0.45×WC (式1)
によって記載される範囲内に含まれることを特徴とする、触媒インク。
【請求項2】
請求項1記載の触媒インクであって、
前記触媒インクにおける前記未吸着アイオノマーの重量WFIは、更に、
FI ≦ 0.60×WC (式2)
によって規定される範囲内に含まれることを特徴とする、触媒インク。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の触媒インクであって、
前記導電性粒子と前記アイオノマーは、重量比が1.0であることを特徴とする、
触媒インク。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3いずれかに記載の触媒インクであって、
前記導電性粒子は、炭素系材料を含む、触媒インク。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4いずれかに記載の触媒インクであって、
前記アイオノマーは、フッ素系樹脂材料である、触媒インク。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5いずれかに記載の触媒インクを用いて膜電極ガス拡散層接合体を製造する製造方法であって、
前記触媒インクを撥水性シートに塗布し、
前記撥水性シートに塗布された前記触媒インクを乾燥させて触媒層シートを作成し、
前記触媒層シートの第1の面側を電解質膜に対向させて、前記触媒層シートを前記電解質膜に転写し、
前記触媒層シートにおいて、前記第1の面側とは異なる第2の面側に、導電性撥水層を圧着する、
製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−93166(P2013−93166A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233847(P2011−233847)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】