説明

触媒及びその製造方法

【課題】950℃以上の高温であっても、触媒浄化能力の低下を抑制することができる触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】γ−アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒において、アルミナ担体は、その表面が酸化珪素(SiO2)で被覆されて成り、当該酸化珪素被覆を介して貴金属としての白金(Pt)又はロジウム(Rh)が担持されたものであり、アルミナ担体の表面を酸化珪素で被覆する被覆工程と、抄紙法でシート状触媒構造体を得る過程で、被覆工程にて得られたアルミナ担体に酸化珪素を介して金属触媒を担持させつつ当該シート状触媒構造体に分散させる抄紙工程と、該抄紙工程で得られたシート状触媒構造体を焼成する焼成工程とを経て製造されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関から排出される排気ガスを処理または浄化するため、金属触媒の担体としてアルミナ(Al)を用いることが例えば特許文献1等で開示されている。かかる特許文献1によれば、貴金属触媒を担持した無機物をセラミックス繊維及び無機質結合剤とともに分散混合し、無機凝集剤及び凝集効果を併せ持つ有機質結合剤を加えフロック状にした後、抄紙法によりシート化したものを950℃以下の温度で焼成することにより、内部全体に貴金属触媒が略均一に分散された状態とすることができる。
【特許文献1】特開平6−134307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の触媒においては、焼成温度を950℃以上(例えば1100℃程度)の高温で焼成した場合、以下の理由により、触媒浄化能力が著しく低下してしまうという問題があった。
即ち、高温によって担体の有効な比表面積が減少することから、触媒の貴金属が移動して凝集及び焼結する(シンタリング現象)ため、触媒による浄化性能が低下することは一般に知られている。このシンタリング現象の発生を防止するには、金属触媒粒子が高温においても均一に分散した状態を維持し、凝集することなく粒子単独で存在していることが必要である。
【0004】
然るに、γアルミナ(γ−Al)は、その高い比表面積(100m/g以上)のため、触媒担体材料として広く用いられているのであるが、当該γアルミナは、加熱して高温にするとγ相(ガンマ相)からδ相(デルタ相)とθ相(シータ相)に変化し、約1100℃でα相(アルファ相)へと変化する。この変化に伴って、比表面積は、およそ5(m/g)まで急激に減少することとなり、従って触媒浄化能力が著しく低下することとなる。一方、近時においては、1000℃以上(例えば1200℃程度)の排気ガスを排出する内燃機関等が多く提供されるに至っていることから、従来の触媒を用いた場合、当該排気ガスの処理及び浄化を良好に行うことができないという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、950℃以上の高温であっても、触媒浄化能力の低下を抑制することができる触媒及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒において、前記アルミナ担体は、その表面が酸化珪素で被覆されて成り、当該酸化珪素被覆を介して前記金属触媒が担持されたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の触媒において、前記酸化珪素で被覆されたアルミナ担体は、抄紙法で得られるシート状触媒構造体に分散されたことを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の触媒において、前記金属触媒は、白金、パラジウム又はロジウムから成ることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒の製造方法において、アルミナ担体の表面を酸化珪素で被覆する被覆工程と、抄紙法でシート状触媒構造体を得る過程で、前記被覆工程にて得られたアルミナ担体に酸化珪素を介して金属触媒を担持させつつ当該シート状触媒構造体に分散させる抄紙工程と、該抄紙工程で得られたシート状触媒構造体を焼成する焼成工程とを有したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属触媒の担体であるアルミナ担体の表面を酸化珪素で被覆し、耐熱性を向上させているので、950℃以上の高温であっても、比表面積の減少を抑制し、シンタリング現象の発生を回避して触媒の浄化能力の低下を抑制することができる。また、酸化珪素を被覆することでアルミナ担体に熱が伝達され難くなることから、金属触媒がアルミナ担体中に入り込むのを防止することができ、触媒の浄化能力の低下を更に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施形態に係る触媒は、アルミナ担体(本実施形態においては、γアルミナ(γ−Al))と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有したものであり、アルミナ担体の表面にシリカ(酸化珪素(SiO))を被覆することで当該アルミナ担体の耐熱性を向上させたものである。
【0012】
然るに、酸化珪素(SiO)で被覆されたアルミナ担体は、金属触媒を担持しつつ、抄紙法(湿式抄紙法)で得られるシート状触媒構造体に分散されたものである。例えば、アルミナ担体の表面を酸化珪素で被覆する被覆工程と、抄紙法(湿式抄紙法)でシート状触媒構造体を得る過程で、被覆工程にて得られたアルミナ担体に酸化珪素を介して金属触媒を担持させつつ当該シート状触媒構造体に分散させる抄紙工程と、該抄紙工程で得られたシート状触媒構造体を焼成する焼成工程とを有した製造方法にて本触媒が得られる。尚、アルミナ担体に担持させるべき金属触媒は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)又はロジウム(Rh)から成るものが好ましい。
【0013】
更に具体的には、被覆工程にて酸化珪素で表面が被覆されたアルミナ担体を用意した後、そのシリカコートされたアルミナ担体に加え、耐熱性繊維、金属触媒、構造体の空隙率を調整する気孔調整剤、及び無機バインダを所定量の水に混入させてスラリーを生成し、得られたスラリーに凝集剤を添加してフロックを生成する。こうして得られたフロックを紙抄きの如く抄紙して(抄紙工程)、シート状触媒構造体を生成すれば、そのシート状触媒構造体内に酸化珪素で表面が被覆されたアルミナ担体を分散担持させることができる。
【0014】
上記耐熱性繊維は、シリカ及びアルミナを主成分とした非晶質セラミックスから成り、気孔調整剤は、天然珪藻土、炭素繊維又は黒鉛等から成るものが好ましい。また、凝集剤は、高分子凝集剤と金属カチオンとを含有するものが好ましく、高分子凝集剤は、絡み付いた繊維の間に入り込み、更に結合力を強化する働きがあり、金属カチオンはミョウバン、硫酸アルミニウム等の水溶液にAl3+カチオンを含むものが使用される。尚、これら材料に代えて同様の機能を果たす材料としてもよい。
【0015】
そして、上記の如く酸化珪素で表面が被覆されたアルミナ担体及び貴金属触媒を内在したシート状触媒構造体を、例えば1100℃で焼成することにより、可撓性を有したシート状の触媒構造体を得ることができる。1100℃と極めて高温で焼成する過程において、アルミナ担体はその表面がシリカ(酸化珪素:SiO)で被覆されコーティングされているので、耐熱性を有し、α相へ変化してしまうのが回避される。
【0016】
従って、アルミナ担体に対して略均一に貴金属触媒を分散させることができるとともに、触媒の焼成時及び使用時におけるアルミナの移動及び凝集(シンタリング現象)を抑制し、触媒の浄化能力の低下を抑制することができる。尚、抄紙法により得られたシート状の触媒構造体を用いているので、より簡易に製造することができるとともに、軽量で易成形性である故、要望に応じた形を作ることができる。更には、リサイクル性に優れ、高価な貴金属触媒の回収が容易であり環境に優しい材料となっている。
【0017】
また、表面がシリカで被覆されコーティングされていることにより、アルミナ担体に熱が伝達され難くなっており、1100℃と極めて高温で焼成する過程において金属触媒がアルミナ担体中に入り込むのを防止することができる。これにより、触媒の浄化能力の低下を更に抑制することができる。更に、1100℃と極めて高温で焼成することができるので、触媒の浄化能力の低下を抑制するとともに、シート状触媒構造体を構成する耐熱繊維同志が溶融して接着され、製品(シート状触媒構造体)としての強度を向上させることができる。
【0018】
次に、本発明に係る触媒における具体的特性等を示すための実験結果について、実施例を用いて説明する。
アルミナゾル(アルミナベーマイト)を室温で1時間撹拌した後、アルミナゾルの溶媒をロータリーエバポレーターを用いて加熱減圧下で除去することにより粉末を得た。この粉末を100℃のオーブンで一晩保持し、次いで空気存在下で600℃4時間焼成することにより、ガンマアルミナを調製した。
【0019】
上記の如く調製したガンマアルミナは、そのX線回析パターンがγ−アルミナであることを示すとともに、(B.E.T.方法で測定される)BET比表面積が178.98(m/g)、ポアボリュームが0.41(cm/g)であった。そして、テトラエトキシシラン(TEOS:和光純薬工業製)5.2(g)を200(ml)のエタノールに溶解し、50(g)のアルミナを加えた後、1時間70℃で撹拌した。
【0020】
その後、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下でエタノールを留去して固体を得た。この固体を100℃で一晩乾燥させ、次いで空気流通下で4時間600℃で焼成した。焼成により有機成分は酸化反応により除去され、シリカ(SiO)で被覆されたアルミナ(3wt%SiO/Al)(実施例1)を得た。同様に、空気流通下で60時間1000℃で焼成したもの(実施例2)、4時間1200℃で焼成したもの(実施例3)を得るとともに、それぞれのBET比表面積を測定し、以下の表1にまとめた。
【0021】
【表1】

【0022】
上記表1により、焼成時間を高めていくとBET比表面積は低下するものの触媒担体として必要な比表面積は維持されていることが分かる。また、細孔容積は、1200℃で4時間の焼成により0.40(cm/g)から0.14(cm/g)に減少したものの同様に微細孔が維持されていることが分かる。焼成温度が異なるSiO−アルミナ(酸化珪素にて被覆されたアルミナ)の細孔径分布は、図1に示す如きである。
【0023】
また、SiO−アルミナの焼成温度による結晶構造の変化(XRD測定)を図2に示す。かかる測定結果により、当初600℃焼成ではγ相であったのに対し、1000℃でδ相、更には1200℃でθ相に変化していることが分かった。しかしながら、比表面積を著しく低下させてしまうα相の生成は認められず、何れの焼成温度においても触媒担体として好適な構造を有していることが分かった。
【0024】
次に、以下の方法により、SiO−アルミナに貴金属触媒を担持させた。
SiO−アルミナ担体に対してプラチナ(Pt)1wt%及びロジウム(Rh)0.1wt%となるように含浸法にて担持させた。触媒前躯体としてはジニトロジアミンプラチナ(Pt(NO(NH)と硝酸ロジウム(Rh(NO)の水溶液を用いた。含浸後、100℃で一晩乾燥させ、600℃で4時間(実施例4)若しくは1000℃で60時間(実施例5)空気下で焼成を行った。一方、市販高耐熱アルミナに対し、上記と同様の方法でプラチナ及びロジウムを担持させたもの(600℃で4時間焼成したものを比較例1、1000℃で60時間焼成したものを比較例2とする)を用意した。
【0025】
然るに、NOxが1000(ppm)、Cが500(ppm)、COが0.8(%)、Oが0.7(%)から成る模擬排ガスを流通させながら反応温度を高めていき、排ガス組成の変化を測定することにより、触媒の排ガス浄化性能について実験した。特に、炭化水素(HC)の濃度が元の濃度の50%となる温度をHC=50として設定し、より低い温度であればあるほど高い触媒活性(排ガス浄化性能)を示すものとした。尚、かかる実験において、触媒容積0.5cmで空間速度(GHSV)120000h−1なる条件下で行った。
【0026】
実施例4と比較例1の浄化性能実験については、図3に示すような結果となった。尚、同図中(a)は実施例4の実験結果、(b)は比較例1の実験結果を示している。同図から分かるように、実施例4ではHC=50が312℃であったのに対し、比較例1では354℃であったので、明らかに実施例4(触媒担体をSiO−Alとしたもの)の方が温度が低く、高い耐熱性及び浄化性能を有していることが分かる。
【0027】
一方、実施例5と比較例2の浄化性能実験については、図4に示すような結果となった。尚、同図中(a)は実施例5の実験結果、(b)は比較例1の実験結果を示している。同図から分かるように、実施例5ではHC=50が469℃であったのに対し、比較例2では532℃であった。何れも1000℃で長時間焼成を行ったため、実施例4及び比較例1の場合と比較して温度の上昇が見られたが、実施例5(触媒担体をSiO−Alとしたもの)の方が温度が低く、高い耐熱性及び浄化性能を有していることが分かる。
【0028】
次に、既述の如き抄紙法(湿式抄紙法)で触媒(実施例4、5と同様のもの、及び比較例1、2と同様のもの)をシート状触媒構造体に分散させ、1000℃で60時間、大気下で焼成した。焼成して得られたものをそれぞれ実施例6、比較例3とする。そして、実施例6及び比較例3のものを50mm×15mmの大きさに切り取って試験片(評価サンプル)とし、それぞれ上記と同様、触媒の排ガス浄化性能について実験した。
【0029】
然るに、実験は、実施例6及び比較例3について3回ずつ行い、実施例6については図5(a)〜(c)、比較例3については図6(a)〜(c)にそれぞれ結果を示した。図5に示すように、実施例6のHC=50は、3回実験した結果、(a)466℃(b)465℃(c)460℃であり、その平均が463℃であった。一方、図6に示すように、比較例3のHC=50は、3回実験した結果、(a)542℃(b)537℃(c)564℃であり、その平均が547℃であった。従って、明らかに実施例6(触媒担体をSiO−Alとしたもの)の方がHC=50の値が低く、高い耐熱性及び浄化性能を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
アルミナ担体はその表面が酸化珪素で被覆されて成り、当該酸化珪素被覆を介して金属触媒が担持された触媒及びその製造方法であれば、種々工程を付加したもの等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の触媒に係る実施例1、3についての細孔径と細孔容積との関係を示すグラフ
【図2】本発明の触媒に係る実施例1〜3についての結晶構造の変化について示すグラフ
【図3】本発明の触媒に係る実施例4及び比較例1についての触媒性能の評価結果を示すグラフ
【図4】本発明の触媒に係る実施例5及び比較例2についての触媒性能の評価結果を示すグラフ
【図5】本発明の触媒に係る実施例6についての触媒性能の評価結果を示すグラフ
【図6】本発明の触媒に係る比較例3についての触媒性能の評価結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒において、
前記アルミナ担体は、その表面が酸化珪素で被覆されて成り、当該酸化珪素被覆を介して前記金属触媒が担持されたことを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記酸化珪素で被覆されたアルミナ担体は、抄紙法で得られるシート状触媒構造体に分散されたことを特徴とする請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記金属触媒は、白金、パラジウム又はロジウムから成ることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の触媒。
【請求項4】
アルミナ担体と、該アルミナ担体に担持された金属触媒とを有した触媒の製造方法において、
アルミナ担体の表面を酸化珪素で被覆する被覆工程と、
抄紙法でシート状触媒構造体を得る過程で、前記被覆工程にて得られたアルミナ担体に酸化珪素を介して金属触媒を担持させつつ当該シート状触媒構造体に分散させる抄紙工程と、
該抄紙工程で得られたシート状触媒構造体を焼成する焼成工程と、
を有したことを特徴とする触媒の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−172522(P2009−172522A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14195(P2008−14195)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人科学技術振興機構、「湿式抄紙製法による排ガス浄化装置」委託開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000128175)株式会社エフ・シー・シー (109)
【Fターム(参考)】