説明

触媒担持担体の製造方法および製造装置

【課題】貴金属の粗大粒子化を抑止でき、かつこの貴金属が含有された薬液が莫大な量となることもない触媒担持担体の製造方法と製造装置を提供する。
【解決手段】触媒金属Pbを修飾する貴金属Qを含有する薬液S”を希釈槽の溶媒S’内に投入して希釈液S2を生成すること、および、触媒金属Pbが導電性担体Paに担持された触媒担持担体の中間体Pが含有された懸濁液S1を反応槽に収容すること、からなる第1のステップ、希釈液S2を反応槽内の懸濁液S1に投入し、触媒金属Pbの表面に貴金属Qを修飾させて触媒担持担体Rを生成するとともに、反応槽から溶媒を分離して希釈槽に戻してその再利用を図る第2のステップからなる触媒担持担体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極触媒を形成する触媒担持担体の製造方法と、この製造方法に適用される製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の各電極触媒層(電極触媒)と、から膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を成し、各電極触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて燃料電池セルが形成されている。実際には、これらの燃料電池セルが発電性能に応じた基数だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
【0003】
上記する従来の電極触媒層の形成方法は、たとえば、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、触媒を担持した触媒担持担体、高分子電解質(アイオノマ)、分散溶媒を含んだ触媒溶液(触媒インク)を塗工し、次いで該触媒溶液表面をホットプレート等で乾燥させること(湿式塗工法)で電極触媒層が形成されている。なお、この塗工作業においては、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。
【0004】
ところで、燃料電池の電極触媒を構成するカーボン担体の表面に担持された白金触媒は燃料電池供用中の酸化性雰囲気で溶解し易く、この金属触媒の溶解によって電極触媒の耐久性が低下することが分かっており、この金属触媒の溶解を如何に抑制できるかが当該分野における解決課題の一つとなっている。
【0005】
そこで、カーボン担体表面に担持された白金触媒に別途の金属ナノ粒子を修飾することで、白金触媒の溶解を抑制しようとする試みがおこなわれている。
【0006】
このようにカーボン担体の触媒金属の表面に金属ナノ粒子を修飾させる場合に、この金属ナノ粒子が凝集等して粗大粒子が生成され、このことに起因して触媒金属の活性が低下することから、金属ナノ粒子を含有する薬液を低濃度に調製しておき、この低濃度の金属ナノ粒子をカーボン担体表面の触媒金属に提供するのが好ましい。しかしながら、触媒金属を修飾する金属ナノ粒子の量は設定された一定量であることから、薬液中の金属ナノ粒子を低濃度化することによって逆に薬液量は莫大な量となってしまい、触媒製造において現実的とは言い難いものとなり得る。
【0007】
ここで、従来の公開技術に目を転じるに、特許文献1には、白金を金の外殻で被覆してなる触媒担持担体を製作するに当たり、白金を銅の外殻で被覆してなる中間体を製作し、これを1mM(ミリモラー)の金塩に浸漬することによって銅を金と置換させる方法が開示されている。
【0008】
貴金属の中でも特に金は凝集し易く、ナノ粒子を形成し難い金属であることから、特許文献1で開示される方法のように1mMもの高濃度の金塩を使用してここに中間体を浸漬させた場合には、銅と置換された金は粗大粒子となってしまうことは必至であり、上記するように白金の活性を低下させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−510705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、触媒担持担体を構成する触媒金属に貴金属を修飾して触媒担持担体を製造する方法と装置に関し、貴金属の粗大粒子化を抑止でき、かつこの貴金属が含有された薬液が莫大な量となることもない触媒担持担体の製造方法と製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成すべく、本発明による触媒担持担体の製造方法は、触媒金属を修飾する貴金属を含有する薬液を希釈槽の溶媒内に投入して希釈液を生成すること、および、触媒金属が導電性担体に担持された触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液を反応槽に収容すること、からなる第1のステップ、前記希釈液を反応槽内の懸濁液に投入し、前記触媒金属の表面に前記貴金属を修飾させて触媒担持担体を生成するとともに、反応槽から溶媒を分離して前記希釈槽に戻してその再利用を図る第2のステップからなるものである。
【0012】
本発明の触媒担持担体の製造方法は、触媒担持担体を構成する触媒金属の表面を修飾してその触媒金属の溶解を抑制するための貴金属を希釈槽内で希釈し、この希釈液を触媒担持担体の中間体が含有された反応槽に提供する方法であり、さらに、反応槽から溶媒を分離して希釈槽に戻してその再利用を図ることにより、貴金属が含有された薬液の貴金属濃度を低濃度としながら、この薬液の量が莫大な量となることを解消することのできる製造方法である。
【0013】
ここで、「修飾」とは、たとえばカーボン担体の表面に担持された白金触媒の表面に金等の貴金属が化学結合もしくは付着していることを意味している。
【0014】
貴金属の濃度が希釈液にて低濃度とされることから、触媒金属の表面で貴金属が粗大粒子となって修飾することが抑制され、触媒金属の活性低減が回避できる。
【0015】
貴金属を含有する薬液の濃度を低くするために希釈液としながらも、希釈液を構成する溶媒のみを分離して再利用を図るようにしたことで希釈液が莫大な量となることもなく、したがって製造に供される装置の規模が大型化することもない。
【0016】
触媒金属も貴金属からなるが、本明細書では、導電性担体に直接担持される貴金属を触媒金属とし、この触媒金属の表面に修飾される金属を貴金属として区別するものとする。ここで、触媒金属や貴金属としては、白金、金、パラジウム、ロジウム、イリジウムなどを挙げることができ、一般的な実施の形態として、触媒金属に白金やその合金を、これを修飾する貴金属に金を適用する形態を挙げることができる。
【0017】
そして、この実施の形態において、白金表面に金を修飾するに当たり、懸濁液においては白金がカーボン担体に担持されてなる白金担持カーボンの白金の表面に銅を析出させておき、懸濁液と希釈液を混合して攪拌することによって銅と金を置換し、カーボン担体に担持された白金を金が修飾してなる触媒担持担体を製造することができる。
【0018】
本発明の製造方法を適用することで、白金の表面をナノサイズの金粒子で修飾することができ、白金触媒の活性低減を抑制しながら、その耐久性を高めることが可能となる。
【0019】
上記方法で得られた触媒担持担体を使用し、触媒担持担体と、高分子電解質(アイオノマ)を分散溶媒に投入し、攪拌して触媒溶液(触媒インク)が生成される。生成された触媒溶液は、電解質膜やガス拡散層等の基材にたとえば塗工ブレードにて層状に引き伸ばされて塗膜が形成され、温風乾燥炉等で乾燥することで、アノード側およびカソード側の触媒層(触媒電極)が形成される。
【0020】
また、本発明は触媒担持担体の製造装置にも及ぶものであり、この製造装置は、触媒金属を修飾する貴金属を含有する薬液を希釈して希釈液を生成する希釈槽と、触媒金属が導電性担体に担持された触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液が投入される反応槽と、希釈液が反応槽に投入されて、前記触媒金属の表面に前記貴金属を修飾させて触媒担持担体を生成した後に反応槽から溶媒を分離するとともに分離された該溶媒を希釈槽に戻す溶媒分離機構と、を少なくとも具備するものである。
【0021】
この製造装置は、既述する製造方法で適用されるものであり、希釈槽で貴金属を低濃度に希釈し、反応槽では、収容される懸濁液中の中間体を構成する触媒金属に提供された希釈槽中の貴金属が修飾して触媒担持担体を製造し、溶媒分離機構を介して分離された溶媒が希釈槽に戻されてその再利用が図られることにより、装置の規模を可及的に小規模なものとできる。
【0022】
ここで、製造装置のより具体的な一実施の形態として、前記溶媒分離機構は、フィルター材、隙間を有する2枚の板材のいずれか一方からなり、一つの容器の下方に反応槽が配設され、上方に希釈槽が配設され、反応槽と希釈槽の間に溶媒分離機構が配設され、さらに希釈槽と溶媒分離機構を貫通して反応槽に通じる導入管が配設されており、貴金属を含有する薬液の希釈液が希釈槽に提供され、触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液が導入管を介してポンプにて反応槽へ提供され、希釈液や懸濁液を構成する溶媒が溶媒分離機構を介して上方の希釈槽へ戻される形態を挙げることができる。
【0023】
フィルター材の目の大きさや2枚の板材の間の隙間の大きさは、触媒担持担体の中間体や触媒担持担体を通し難い大きさであり、より好ましくは貴金属を通し難い大きさであるのがよい。
【0024】
ポンプにて希釈槽から希釈液が導入管へ提供され、これが導入管を介して反応槽へ提供されることにより、ポンプによる希釈液の吸込み力によって反応槽内の懸濁液が溶媒分離機構を介して上方の希釈槽へ吸い上げられる。
【0025】
そして、この懸濁液中の中間体を構成する触媒金属には提供された希釈液中の貴金属が修飾され、希釈液中の貴金属の量は減少する。
【0026】
そして、貴金属の量が減少した希釈液や懸濁液のうち、溶媒が溶媒分離機構を通過する過程で含有する貴金属や製造された触媒担持担体は溶媒分離機構を通過することができず、ここで固液分離が図られながら、主として溶媒が希釈槽へ戻されることになる。
【0027】
なお、この際に、貴金属が完全に分離されずに溶媒とともに希釈槽へ提供されることも十分にあるが、この操作をさらに複数繰り返して溶媒の循環を図ることで、貴金属は触媒金属の修飾に完全に消費されることになる。
【0028】
反応槽や希釈槽には、それぞれに固有の攪拌装置(たとえば、マグネットの力で攪拌子を回転させるマグネチックスターラーなど)を装備しておいてもよい。
【0029】
本発明の製造装置を適用することにより、装置規模を大型化することなく、微小粒子径の貴金属を触媒担持担体の中間体を構成する触媒金属の表面に修飾することができ、もって、触媒活性に優れ、耐久性の高い触媒金属からなる電極触媒を備えた燃料電池に供することができる。このように本発明の製造装置や製造方法で製造された触媒担持担体を使用してなる高性能な電極触媒を有する燃料電池は、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能と高耐久を要求している電気自動車やハイブリッド車用の燃料電池に好適である。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から理解できるように、本発明の触媒担持担体の製造方法と製造装置によれば、触媒担持担体を構成する触媒金属の表面を微小サイズの貴金属で修飾することができ、しかも、この貴金属の修飾に際して貴金属を含有する薬液の貴金属濃度を低濃度としながらも、溶媒のみを再利用しながら貴金属の修飾をおこなうことによって薬液量を可及的に少ない量とすることができる。したがって、比較的小規模な製造装置を適用しながら、触媒金属の溶解を抑制してその耐久を高め、触媒金属の活性にも優れた触媒担持担体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の触媒担持担体の製造装置を説明した模式図である。
【図2】製造装置の希釈槽へ投入される希釈液を生成する工程を説明した図である。
【図3】(a)は製造装置の反応槽へ投入される懸濁液中の触媒担持担体の中間体を説明した図であり、(b)は反応槽で生成された触媒担持担体を説明した図である。
【図4】本発明の製造装置(製造方法)を使用して生成された触媒担持担体のSEM画像図であって、(a)は2次電子像図であり、(b)は反射電子像図である。
【図5】従来の製造方法で生成された触媒担持担体のSEM画像図であって、(a)は2次電子像図であり、(b)は反射電子像図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の触媒担持担体の製造装置と製造方法を説明する。
図1は本発明の触媒担持担体の製造装置を説明した模式図であり、図2は製造装置の希釈槽へ投入される希釈液を生成する工程を説明した図である。
【0033】
図1で示す触媒担持担体の製造装置10は、容器1の途中位置に溶媒分離機構を構成するフィルター材3が配され、その上方には希釈槽4が、その下方には反応槽5がそれぞれ画成され、希釈槽4とフィルター材3を貫通して反応槽5に通じる導入管2がさらに配設されており、触媒担持担体の中間体Pが含有される懸濁液S1を収容する懸濁液収容容器8aと、貴金属Qが含有される薬液が希釈された希釈液S2を収容する希釈液収容容器8bとから大略構成されている。
【0034】
懸濁液収容容器8aと希釈液収容容器8bはそれぞれ、ポンプP1,P2を介して導入管2と希釈槽4に流体連通しており、ポンプ1でポンプアップされた懸濁液S1は導入管2を介して反応槽5に提供される(X1方向)。一方、ポンプ2でポンプアップされた希釈液S2は希釈槽4に提供され(X2方向)、希釈槽4内の希釈液S2は、ポンプP3を介して導入管2に提供され、導入管2を介して希釈液S2が反応槽5に提供されるようになっている(X3方向)。
【0035】
希釈液収容容器8bに収容される希釈液S2は、図2で示す方法によって生成される。すなわち、同図の左図で示すように、貴金属Qが薬液S”内に高濃度状態で含有されているものを中央図で示す希釈溶媒S’内に投入することにより、右図で示すように、低濃度の貴金属Qを含有する希釈液Sが生成される。
【0036】
一方で、図3aの模式図で示すように、触媒金属である白金Pbが導電性担体であるカーボン担体Paに担持され、この白金Pbに銅Pcが析出してなる触媒担持担体の中間体Pが含有された懸濁液S1を用意する。
【0037】
ここで、導電性担体Paの素材を例示すると、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、触媒金属Pbも白金以外に、白金合金やパラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。
【0038】
また、最終的に触媒金属の表面を修飾する貴金属としては、金やパラジウム、ロジウム、イリジウムなどを使用できる。
【0039】
さらに、希釈溶媒S’や懸濁液S1を構成する溶媒としては、過塩素酸や硫酸、それらを混合した酸などを使用できる。
希釈液S2の生成と懸濁液S1を用意することが製造方法の第1のステップである。
【0040】
図1に戻り、容器1のうち、希釈槽4の周囲にはマグネチックスターラー7aが配設されており、これによって希釈槽4内を攪拌子7bが回転駆動されるようになっており(Y2方向)、この攪拌子7bの回転駆動によって希釈槽4内で希釈液S2が攪拌される。
【0041】
一方、容器1のうち、反応槽5の底面にはマグネチックスターラー6aが配設されており、これによって反応槽5内を攪拌子6bが回転駆動されるようになっており(Y1方向)、この攪拌子6bの回転駆動によって反応層5内で懸濁液S1と希釈液S2が攪拌される。
【0042】
製造装置10の構成要素である希釈槽4と反応槽5を画成するフィルター材3は、その目の大きさが触媒担持担体の中間体Pや触媒担持担体Rを通し難い大きさであり、より好ましくは貴金属Qを通し難い大きさとなっている。なお、溶媒分離機構は文字通り、中間体Pや貴金属Qと溶媒を固液分離できるものであればフィルター材以外の形態であってもよく、たとえば、中間体Pや貴金属Qを通し難い寸法の隙間を有する2枚の板材などから構成してもよい。
【0043】
希釈槽4内の希釈液S2がポンプP3を介して導入管2に提供され、導入管2を介して希釈液S2が反応槽5に提供され、反応槽5内にある懸濁液S1と混ざり合い、攪拌子6bによる混合攪拌によって白金Pb表面に析出した銅Pcと貴金属である金Qが置換され、図3bで示すように、カーボン担体Pa表面に触媒金属である白金Pbが担持され、白金Pbの表面を金Qが修飾してなる触媒担持担体Rが製造される。
【0044】
ここで、この触媒担持担体Rの製造過程において、凝集し易く、ナノ粒子を形成し難い金Qは希釈液S2内で低濃度状態とされて懸濁液S1に提供されることから、金の凝集も抑制され、触媒担持担体Rを構成する修飾貴金属である金Qはナノサイズの微粒子として存在し、白金Pbの触媒活性を阻害しない。
【0045】
そして、白金Pbの表面を微小粒子の金Qが修飾することによって、これが燃料電池の触媒層を形成してなる当該燃料電池の供用中の酸化性雰囲気での溶解を抑制でき、触媒金属の耐久性を高め、もって燃料電池の耐久性を高めることに繋がる。
【0046】
また、希釈槽4内の希釈液S2がポンプP3の吸込み力によって導入管2に提供されることにより、反応槽5内の懸濁液S1がフィルター材3を介して上方の希釈槽4へ引き上げられる(X4方向)。
【0047】
この懸濁液S1中の中間体Pを構成する白金Pbには、提供された希釈液中の金Qが修飾され、希釈液中の金Qの量は減少する。
【0048】
金Qの量が減少した希釈液S2や懸濁液S1のうち、溶媒がフィルター材3を通過する過程で(X4方向)、この溶媒に含有される触媒担持担体Rはフィルター材3を通過することができず、フィルター材3の目の大きさによっては金Qも通過できない。したがって、このフィルター材3で固液分離が図られながら、溶媒が希釈槽4へ戻されることになる。
【0049】
なお、この際に、金Qが完全に分離されずに溶媒とともに希釈槽4へ提供される場合には、この溶媒を循環させる操作をさらに複数繰り返すことにより、金Qは白金Pbの修飾に完全に消費されることになる。
【0050】
このように、製造装置10内で溶媒を循環させ、フィルター材3を介して希釈槽4へ溶媒を戻すことによって溶媒の再利用を図ることができる。
【0051】
そして、このことは、貴金属濃度を低濃度としながらも、希釈液やこれを構成する薬液の量が莫大な量になることを抑制することに繋がり、装置が大規模なものとなるのを抑制できる。
【0052】
溶媒の再利用を図りながら反応槽5内で触媒担持担体Rを製造するのが製造方法の第2のステップである。
【0053】
製造された触媒担持担体Rを、エタノール、プロピレングリコール、イソプロパノールなどの分散溶媒内に投入し、さらに、高分子電解質を投入し、超音波ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミルなどを使用して攪拌等することにより、触媒溶液(触媒インク)が生成される。ここで、触媒溶液を形成する高分子電解質は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、水のほか、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
【0054】
生成された触媒溶液は、基材である電解質膜、ガス拡散層、支持フィルムのいずれか一種に塗工等され、温風乾燥、ホットプレス等されることによって基材表面に触媒層(電極触媒)が形成される。ここで、この電解質膜は、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成されるものである。また、ガス拡散層は、ポリアクリロニトリルからの焼成体、ピッチからの焼成体、黒鉛及び膨張黒鉛等の炭素材やこれらのナノカーボン材料、ステンレススチール、モリブデン、チタン等から形成されるものである。さらに、支持フィルムは、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体フィルム、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体フィルム、ポリフッ化ビニリデンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを挙げることができ、これらの素材からなるシートを2層以上積層して基材としてもよい。なお、市販素材としては、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)などから形成されるものである。
【0055】
[本発明の製造装置(製造方法)と従来の製造方法の双方で製造された触媒担持担体を観察した実験とその結果]
本発明者等は、本発明の製造装置を用いて実施例にかかる触媒担持担体を製造するとともに、従来の製造方法を適用して比較例にかかる触媒担持担体を製造し、双方のSEM画像を撮像して特に触媒金属を修飾する貴金属の状態を観察する実験をおこなった。
【0056】
(実施例)
実施例の触媒担持担体の製造に際しては図1で示す製造装置のうち、フィルター材に代えて隙間を有する2枚の板材からなる溶媒分離機構を備えた装置を使用している。まず、10mMのHAuCl4(テトラクロロ金酸)溶液0.25mlを希釈槽(500ml)に投入し、希釈槽を10分間攪拌してHAuCl4を5μMに希釈した。
【0057】
次に、白金担持カーボン(30mass%Pt/C)のPtに1原子層Cuを析出させたCu-Pt/C懸濁液(1gのCu-Pt/Cに対して溶媒200ml)を0.5ml反応槽(500ml)に投入し、反応槽を攪拌した。
【0058】
次に、ポンプを使用して希釈槽体積分の薬液を循環させ、HAuCl4溶液を反応槽に投入した。この際、溶媒は反応槽で固液分離されて希釈槽へ循環され、反応槽では、CuとAuの置換反応がおこっている。
【0059】
置換が完全におこなわれるまで上記循環をおこない、得られた触媒担持担体であるAu-Pt/Cの懸濁液をろ過し、乾燥して組織の撮像をおこなった。
【0060】
(比較例)
Cu-Pt/C懸濁液(Cu-Pt/Cに対して溶媒100ml)と1mMのHAuCl4溶液500ml準備し、HAuCl4溶液にCu-Pt/C懸濁液を投入し、攪拌して、得られたAu-Pt/Cの懸濁液をろ過し、乾燥して組織の撮像をおこなった。
【0061】
実施例のSEM画像図として、図4aにはその2次電子像図を、図4bにはその反射電子像図を示しており、図5a,5bには比較例の2次電子像図と反射電子像図をそれぞれ示している。
【0062】
図4、5より、比較例の触媒担持担体では、金の粗大粒子の存在が明らかである一方、実施例の触媒担持担体では、金のナノ粒子が触媒金属の表面を修飾しており、粗大粒子が形成されていないことが実証されている。
【0063】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0064】
1…容器、2…導入管、3…フィルター材(溶媒分離機構)、4…希釈槽、5…反応槽、6a、7a…マグネチックスターラー、6b、7b…攪拌子、8a…懸濁液収容容器、8b…希釈液収容容器、10…製造装置、P…中間体、Pa…カーボン担体(導電性担体)、Pb…白金(触媒金属)、Pc…銅、Q…金(貴金属)、R…触媒担持担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒金属を修飾する貴金属を含有する薬液を希釈槽の溶媒内に投入して希釈液を生成すること、および、触媒金属が導電性担体に担持された触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液を反応槽に収容すること、からなる第1のステップ、
前記希釈液を反応槽内の懸濁液に投入し、前記触媒金属の表面に前記貴金属を修飾させて触媒担持担体を生成するとともに、反応槽から溶媒を分離して前記希釈槽に戻してその再利用を図る第2のステップからなる触媒担持担体の製造方法。
【請求項2】
前記貴金属が金であり、前記触媒金属は白金であって、前記懸濁液では白金がカーボン担体に担持されてなる白金担持カーボンの白金に銅が析出されており、白金担持カーボンに析出した銅と金が置換されることにより、カーボンに担持された白金を金が修飾してなる触媒担持担体が製造される請求項1に記載の触媒担持担体の製造方法。
【請求項3】
触媒金属を修飾する貴金属を含有する薬液を希釈して希釈液を生成する希釈槽と、
触媒金属が導電性担体に担持された触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液が投入される反応槽と、
希釈液が反応槽に投入されて、前記触媒金属の表面に前記貴金属を修飾させて触媒担持担体を生成した後に反応槽から溶媒を分離するとともに分離された該溶媒を希釈槽に戻す溶媒分離機構と、を少なくとも具備する触媒担持担体の製造装置。
【請求項4】
前記溶媒分離機構は、フィルター材、隙間を有する2枚の板材のいずれか一方からなり、一つの容器の下方に反応槽が配設され、上方に希釈槽が配設され、反応槽と希釈槽の間に溶媒分離機構が配設され、さらに希釈槽と溶媒分離機構を貫通して反応槽に通じる導入管が配設されており、
貴金属を含有する希釈液が希釈槽に提供され、触媒担持担体の中間体が含有された懸濁液が導入管を介してポンプにて反応槽へ提供され、希釈液や懸濁液を構成する溶媒が溶媒分離機構を介して上方の希釈槽へ戻される請求項3に記載の触媒担持担体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−240028(P2012−240028A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115790(P2011−115790)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】