説明

触媒構造体

【課題】通風損失が小さく、コンパクトで高性能、なおかつダストの詰まりを防止できる触媒構造体を提供すること。
【解決手段】表面に触媒活性を有する成分を担持した板状触媒を複数枚積層し、該板状触媒間で形成される流路を有する触媒構造体において、ガス流れ方向に対して複数段に分割し、各段の板状触媒の積層向きを交互に90°回転させたことを特徴とする触媒構造体であり、排ガス浄化機能を最大限に発揮するためには、板状触媒の長さLが積層ピッチ幅dに対してL/d<100であり、各層間の隙間sがs/d<5であればよい。
通風損失が小さく、コンパクトで高性能、なおかつダストの詰まりを防止できる効果を発現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ排ガス中の窒素酸化物を除去するための脱硝装置等に用いられる板状触媒を積層した触媒構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電所、各種工場、自動車などから排出される排煙中の窒素酸化物(NOx)は、光化学スモッグや酸性雨の原因物質であり、その効果的な除去方法として、アンモニア(NH3)を還元剤とした選択的接触還元による排煙脱硝法が火力発電所を中心に幅広く用いられている。触媒には、活性や耐久性を考慮して、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)あるいはタングステン(W)を活性成分にした酸化チタン(TiO2)系触媒が主に使用されている。
【0003】
前記脱硝触媒は通常ハニカム状や板状に成形されて用いられ、各種製造法が発明、考案されてきた。中でも図1に示すような金属薄板をメタルラス加工し、前記触媒成分をペースト化した後、ガスの流れ方向に同一形状断面で、複数の帯状突起からなる突条部2を平坦部3の間に平行に、かつ互いに等間隔に有する形状に成形して得られる一枚の板状触媒(以下、触媒エレメントということがある)1を積層した触媒ユニット4を図3に示すように触媒エレメント1の突条部2の長手方向がガス流れ方向に沿うようにユニット枠(ケーシング)6内に組み込んで積層して触媒構造体4とすることで、通風圧力損失が小さく、煤塵や石炭の燃焼灰で閉塞されにくいなどの優れた特徴があり、現在火力発電用ボイラ排ガスの脱硝装置に多数用いられている。
【0004】
一方、触媒の充填方法にも多くの発明・考案がなされており、特に図1に示す触媒エレメント1をガス流路内のガス流が乱れるように、隣接配置する触媒エレメント1,1の突条部2,2を交互に直角方向にユニット枠(ケーシング)6内に組み込んで得られる触媒構造体4を、図4に示すようにユニット枠(ケーシング)6の一側面から一つの触媒エレメント1の突条部2に直交する方向からガスを導入して使用する方法(特開昭55−152552号公報)は、ガス流れに直交する触媒エレメント1の突条部2で流路内のガス流が乱れて高脱硝率が得られる優れた方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭55−152552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図3及び図4に示した触媒構造体は、高効率・コンパクトな装置を達成する上で以下に示す二つの問題を有していた。
第一の問題点は、触媒エレメント1を長尺化した場合において、単位面積あたりの触媒の活性が低下することである。このメカニズムは次の通りである。
【0007】
すなわち、触媒の性能である総括物質移動係数kは、触媒表面における真の脱硝性能である触媒面反応速度係数kwと、反応するガスが触媒表面まで物質移動する物質移動係数kfによって決まることが知られており、次の式で示される。
【0008】
k=1/(1/kf+1/kw) (1)
ここで、k:総括物質移動係数(m/h)
kf:物質移動係数(m/h)
kw:触媒面反応速度係数(m/h)
上の式(1)で、触媒エレメント1のガス流れ方向の長さが長くなると触媒面反応速度定数kwは一定であるが、触媒表面における流れによる境界層が発達し、下流側に行くに従って境界層が厚くなり、物質移動の面からは抵抗体となり、物質移動係数kfが小さくなる。したがって、局所の総括物質移動係数kは脱硝反応速度は下流側に行くに従って低下する。これにより、流れ方向に平均化した平均総括物質移動係数は、触媒が長いより短いほうが大きくなる。
【0009】
第二の問題点は、図3の充填方法では触媒エレメント1,1の間のピッチを大きくすることと触媒構造体4内のガス流路方向の長さを最適化して通風損失と触媒性能を自由に設定できるのに対し、図4の触媒構造体4では通風損失と性能を変化させる自由度が小さいことである。すなわち同一形状の触媒エレメント1の突条部2が隣接する触媒エレメント1の突条部2と交互に直交するように積層する図4の触媒構造体4では触媒エレメント1,1の間のピッチを変更しても触媒構造体4のガス流れ方向の開口率は変化しないため、通風損失はあまり低下しない上に触媒構造体4の長さは該構造体6の間口と同一寸法に固定され、自由に変更し難いことがある。
【0010】
もちろん、形状の異なる触媒エレメント1を二種類用意し、これらを交互に用いてガス流れ方向の触媒長さを変化させることもできるが、製造工程が煩雑になり製造コストの増大をまねくことになる。また、図4に示す触媒構造体4はダスト等を含まないクリーンガスには大きな効果を発揮するが、ダストの多い場合はダスト詰まりの原因になることがある。
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の有する問題点をなくし、通風損失が小さく、コンパクトで高性能、なおかつダストの詰まりを防止できる触媒構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記課題は次の構成によって達成される。
すなわち、請求項1記載の発明は、表面に触媒活性を有する成分を担持し、平坦部と該平坦部を間隔を隔てて仕切る互いに平行であり、かつ該平坦部の互いに反対側の平面に配置される帯状突起からなる突条部とが交互に繰り返して配置される同一形状の板状触媒を互いに間隔をあけて複数枚積層し、隣接する板状触媒間にガス流路を形成した触媒構造体を一単位とし、ガス流れ方向に対して前記一単位の触媒構造体の複数段を、各段の触媒構造体の板状触媒の積層方向を交互に90°回転させて配置した触媒構造体である。
【0013】
請求項2記載の発明は、前記板状触媒はガス流れ方向に沿って形成された帯状の突起からなる互いに平行な等間隔で設けられる複数の突条部と隣接する突条部の間の平坦部とからなる請求項1記載の触媒構造体である。
【0014】
請求項3記載の発明は、一単位の触媒構造体の板状触媒のガス流れ方向の長さLが、該板状触媒の積層ピッチ幅dに対してL/d<100であり、各触媒構造体のガス流れ方向の各段の隙間sが、前記板状触媒の積層ピッチ幅dに対してs/d<5である請求項2記載の触媒構造体である。
【0015】
本発明の触媒構造体の基本構成である触媒エレメント間に形成されるガス流路は、ガス流れに直交する方向の断面形状はどの位置においても同一である。例えば図1のように板状触媒エレメントのガス流れ方向に平坦部3と帯状突起2を等間隔に有する形状とすることで所望のガス流路を形成することができる。
【0016】
さらに本発明の機能を最大限に発揮するためには、板状触媒のガス流れ方向の長さLが積層ピッチ幅dに対して
L/d<100
であり、各段の板状触媒構造体間の隙間sが
s/d<5
であればよい。
これらの発明により、通風損失が小さく、コンパクトで高性能、なおかつダストの詰まりを防止できる効果を発現することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通風損失を小さく維持したまま、コンパクト、高性能で、なおかつダストの詰まりを防止できる触媒構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の突条部と平坦部を設けた触媒エレメントの斜視図である。
【図2】本発明の触媒構造体をガス流れ方向に4段配置した例を示す斜視図である。
【図3】一般的な触媒構造体を示す図である。
【図4】従来技術である触媒エレメントの突条部を相互に直角方向に組み込んだ触媒構造体を示す図である。
【図5】触媒活性比と触媒エレメント長さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例を図面と共に説明する。
【実施例1】
【0020】
メタチタン酸スラリ(TiO2含有量:30wt%、SO4含有量:8wt%)67kgにパラモリブデン酸アンモン(NH46・Mo724・4H2O)を2.4kg、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を1.28kg加え、加熱ニーダを用いて水を蒸発させながら混練し、水分約36%のペーストを得た。これを3¢の柱状に押し出し、造粒後流動層乾燥機で乾燥し、次に大気中250℃で24時間焼成した。得られた顆粒をハンマーミルで平均粒径5μmの粒径に粉砕して第一成分とした。このときの組成はV/Mo/Ti=4/5/91(原子比)である。
【0021】
以上の方法で得られた粉末20kg、Al23・SiO2系無機繊維3kgおよび水10kgをニーダを用いて1時間混練して粘土状にした。この触媒ペーストを幅500mm、厚さ0.2mmのSUS304製メタルラス基板にアルミニウム溶射を施して粗面化したものにローラを用いてラス目間およびラス目表面に塗布して厚さ約1.0mm、長さ500mmの平板状触媒を得た。この触媒をプレス成形することにより図1に示すような平板状触媒の両側に断面波形の突条部2を所定間隔で複数形成して突条部2と平坦部3からなる触媒エレメント1を得た。平坦部3の間に風乾後大気中で550℃−2時間焼成して触媒エレメント1とした。
【0022】
また、パラモリブデン酸アンモンに代えて所定量のパラタングステン酸アンモニウム(NH410H10W12746・6H2O)を用いてもよい。なお、各触媒エレメント1のガス流れ方向の長さを200mmとするように切断した。
得られた触媒エレメント1を交互に反転させて81枚積層して触媒ユニット4とし、これを積層バンド5により束ねて触媒積層エレメント(板状触媒構造体)7を得た。
【0023】
さらに、ユニット枠6内に該触媒積層エレメント7をガス流路方向に4段配置した。前記触媒積層エレメント7のユニット枠6内への充填に際しては、各段の触媒積層エレメント7の積層方向を交互に90°ずつ回転させ、図2にように固定した。このユニット枠6内の触媒積層エレメント7を風乾した後、焼成し、各触媒積層エレメント7内の触媒エレメント1の積層ピッチd=5.7mm、長さL=200mmとし、触媒積層エレメント7をガス流方向に隙間s=0mmで4段配置した。
【0024】
(比較例1)
実施例1と同一触媒組成と同製法にて得られたガス流れ方向の長さL=800mmの寸法を有する触媒エレメント1を積層ピッチd=5.7mmで積層して一体型の触媒構造体を得た。
【0025】
上記実施例1と前記比較例の各触媒体をガス流れに直交する方向の断面150mm角とし、表1に示す条件にて脱硝性能を評価し、得られた結果を表2に示す。
【表1】

【0026】
【表2】

表2から明らかなように、触媒構造体800mmを流れ方向に4分割することにより、通風圧損はほぼ同等で、反応速度で約40%向上させることができた。
【0027】
図1及び図2に示す実施例を用いて効果のメカニズムについて説明する。
排ガスは触媒ユニット4に流入し、該触媒ユニット4を構成する複数触媒エレメント1に沿って流れることになる。このとき排ガス中に含まれるNOxは、該触媒表面上において、上流側で注入されたNH3ガスによってN2とH2Oに還元される。ここでの触媒の性能は、前述したように、触媒面反応速度と物質移動速度によって決まることが知られている。この場合、触媒エレメント1のガス流れ方向の長さが長くなると触媒自体の触媒面反応速度は不変であるが、触媒表面における流れによる境界層が発達し、下流側に行くに従って境界層が厚くなり、物質移動速度の面からは抵抗体となる。すなわち、境界層の発達により、触媒表面近傍において未反応のNH3とNOxが主流ガスから供給されにくくなり、単位面積当たりの活性が低下することになる。
【0028】
触媒反応の性能を上げる方法として、(a)境界層を発達させないように流れを乱す方法、(b)境界層が発達する前の触媒がガスに最初に接触する触媒エレメント1の前縁部を活用する方法が考えられる。
(a)に関しては、従来技術で述べたように特開昭55−152552号公報に示されたように、単位面積当たりの活性は向上するものの、通風圧損が上昇するといった問題が避けられない。それに加えて、ダストを含んだガスに適用した場合、ダストの詰まりや、局所的に流速の早い領域が発生し、粉体摩耗が生じることもある。それに対して、(b)に関しては、流路長さをできるだけ短くすることで達成される。
【0029】
図5は、触媒の総括反応速度に対する長さの影響を調べたものである。
実施例1の触媒エレメント1(積層ピッチd=5.7mm、長さL=200mm)と、長さLを550mm、800mmにそれぞれ変えた触媒エレメント1を比較している。この図から明らかなように、触媒エレメント1のガス流れ方向の長さが短い(これを短尺化という)ほど単位面積当たりの活性が高くなることが分かる。ここで重要なことは、短尺化した触媒エレメント1の積層隙間である。触媒エレメント1の下流端から発達した境界層が完全に整流させるまでには、一般にはL/d>5必要になる。この隙間を大きくとることにより、触媒エレメント1の単位面積当たりの活性は向上するが、触媒エレメント1の充填されない空間が多くなるため、単位体積当たりの活性はかえって低下することになり、触媒構造体をコンパクト化する上で障害となる。
【0030】
そこで、本発明では種々検討を加えた結果、ガス流れ方向に4段設けた触媒積層エレメント7の各段において積層方向を90°回転させることにより、整流空間を設けず、境界層を解消できることを見出した。すなわち、触媒エレメント1の積層方向に速度分布や濃度分布が生じていた短尺ユニットを出て積層方向が90°回転した触媒積層エレメント7に導入することにより、各段の触媒積層エレメント7の入口近傍で短期間に整流されることになる。このことにより、触媒エレメント1の単位面積当たりの活性と単位体積当たりの活性を両立することができる。
【0031】
触媒エレメント1のガス流れ方向の長さはできるだけ短いものが望ましく、L/d<100が望ましい。逆にあまり短くし過ぎると生産性の低下に繋がることになり、生産性が確保できる5<L/d<100の領域を推奨する。また、触媒積層エレメント7間の隙間sに関しては、空間効率や構造強度の面でs/d<5が許容できるが、触媒エレメント1を積層した一単位の触媒構造体4同士が接触しているものが最も望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の触媒構造体を用いると、触媒体積や触媒量が確実に低減でき、原材料の使用量低減や製品重量低減の可能性がある。
【符号の説明】
【0033】
1 触媒エレメント 2 突条部
3 平坦部 4 触媒ユニット
5 積層バンド 6 ユニット枠
7 触媒積層エレメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に触媒活性を有する成分を担持し、平坦部と該平坦部を間隔を隔てて仕切る互いに平行であり、かつ該平坦部の互いに反対側の平面に配置される帯状突起からなる突条部とが交互に繰り返して配置される同一形状の板状触媒を互いに間隔をあけて複数枚積層し、隣接する板状触媒間にガス流路を形成した触媒構造体を一単位とし、ガス流れ方向に対して前記一単位の触媒構造体の複数段を、各段の触媒構造体の板状触媒の積層方向を交互に90°回転させて配置したことを特徴とする触媒構造体。
【請求項2】
前記板状触媒はガス流れ方向に沿って形成された帯状の突起からなる互いに平行な等間隔で設けられる複数の突条部と隣接する突条部の間の平坦部とからなることを特徴とする請求項1記載の触媒構造体。
【請求項3】
一単位の触媒構造体の板状触媒のガス流れ方向の長さLが、該板状触媒の積層ピッチ幅dに対してL/d<100であり、各触媒構造体のガス流れ方向の各段の隙間sが、前記板状触媒の積層ピッチ幅dに対してs/d<5であることを特徴とする請求項2記載の触媒構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253366(P2010−253366A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105283(P2009−105283)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】